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特許7075708グリコピロニウム・サリチル酸塩を含む医薬
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  • 特許-グリコピロニウム・サリチル酸塩を含む医薬 図1
  • 特許-グリコピロニウム・サリチル酸塩を含む医薬 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】グリコピロニウム・サリチル酸塩を含む医薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/60 20060101AFI20220519BHJP
   A61K 31/40 20060101ALI20220519BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20220519BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
A61K31/60
A61K31/40
A61P1/02
A61K9/70 401
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022508543
(86)(22)【出願日】2022-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2022004426
【審査請求日】2022-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2021017091
(32)【優先日】2021-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000144577
【氏名又は名称】株式会社三和化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】上地 一広
(72)【発明者】
【氏名】坂入 将夫
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 創
(72)【発明者】
【氏名】守本 亘孝
(72)【発明者】
【氏名】高田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 健彦
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/020879(WO,A1)
【文献】特表2010-530902(JP,A)
【文献】Electrophoresis,2015年,Vol.36,p.2805-2810
【文献】Clinical Therapeutics,2012年,Vol.34, No.4,p.735-742
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコピロニウム・サリチル酸塩又はその溶媒和物を含む医薬であって、流涎症を治療又は予防するために、貼付されるように用いられることを特徴とする医薬。
【請求項2】
前記医薬が、1日1回貼付されるように用いられることを特徴とする、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
グリコピロニウム・サリチル酸塩又はその溶媒和物を含む医薬であって、流涎症を治療又は予防するために1日1回貼付され、24時間ごとに張り替えられるように用いられることを特徴とする医薬。
【請求項4】
前記医薬が経皮吸収型製剤である、請求項1~3に記載の医薬。
【請求項5】
支持体上に膏体層と剥離ライナーを有する経皮吸収型製剤であって、当該膏体層が有効成分を含み、当該有効成分がグリコピロニウム・サリチル酸塩又はその溶媒和物である、経皮吸収型製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコピロニウム・サリチル酸塩を含む医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
グリコピロニウムは、3-(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセトキシ)-1,1-ジメチルピロリジウムの一般名である。グリコピロニウムは第四級アンモニウムカチオンであるため、遊離の状態ではなく塩として存在している。例えば、グリコピロニウム塩としての臭化物塩及びトシル酸塩は、医療用医薬品の有効成分として知られている。この他のグリコピロニウム塩として、ヨウ化物塩、酢酸塩、硫酸塩(以上、特許文献1)、塩化物塩、安息香酸塩、エジシル酸塩、シュウ酸塩(以上、特許文献2)、及び脂肪酸塩(特許文献3)が知られている。
【0003】
グリコピロニウムは、ムスカリン性アセチルコリン受容体拮抗(抗コリン)作用を有しており、慢性閉塞性肺疾患の吸入剤(臭化物塩:シーブリ(登録商標))、原発性多汗症の塗布剤(トシル酸塩:QBREXZA(登録商標))、及び流涎症の内服液(臭化物塩:CUVPOSA(登録商標))が、本邦及び/又は海外で医療用医薬品として承認されている。
【0004】
流涎症は唾液分泌過多症とも呼ばれ、口腔外へ唾液が垂れることを症状とする疾患である。流涎症は、単に唾液が垂れるだけではなく、社交性の問題や口周囲の皮膚炎、誤嚥性肺炎のリスク上昇等に繋がるとされている。治療が必要な重度の流涎症には、薬物治療が試みられる。
【0005】
流涎症は、神経筋疾患(パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症等)に伴って発症することが多い。これらの患者は嚥下障害を併発していることが多いため、薬物治療には内服薬ではなく、外用薬(貼付剤)が望ましい。貼付剤(特に経皮吸収型製剤)の利点は、嚥下困難な患者に投与しやすいこと、薬物の暴露量低減による副作用軽減が期待できること、投与が簡便であること、服薬管理がしやすいこと、及び投与中止が容易であることが挙げられる。
【0006】
尚、医薬品の投与経路による分類は、「内服薬」、「注射薬」及び「外用薬」に分けられ、外用薬とは、内服薬と注射薬以外の皮膚や粘膜から薬物を吸収させる医薬のことである。皮膚から薬物を吸収させる具体的な外用薬は、貼付剤、軟膏剤及び塗布剤等を含む。また、作用部位で貼付剤を分類すると、経皮吸収型製剤と局所作用型製剤に分けられる。経皮吸収型製剤とは、皮膚から吸収された薬物が全身血流を循環することにより薬効を発現する製剤と定義される。一方、局所作用型製剤とは、皮膚から吸収された薬物の血中濃度を著しく上昇させることなく、貼付部位近傍の標的組織の薬物濃度を高めて薬効を発現する製剤と定義される。
【0007】
グリコピロニウムの外用薬として、グリコピロニウム・臭化物塩を含有する流涎症治療用の経皮薬物送達システム(特許文献4)及びグリコピロニウム・トシル酸塩を含有する局所用組成物(特許文献2)が知られている。特許文献4に実施例の記載はなく、さらに動物或いはヒトでの薬効についても記載がないため、経皮薬物送達システムの実現性には疑問が残る上、経皮吸収型製剤と言えるかどうかも定かではない。特許文献2には、局所用組成物の具体例として塗布剤の記載がある。こちらは、外用薬ではあるが経皮吸収型製剤ではなく、塗付して使用されるため投与量の厳密なコントロールや一定の薬物吸収の維持は期待できず、持続的に安定した薬物の血中暴露量を得ることは難しい。
【0008】
薬物を経皮吸収型製剤とするためには、皮膚透過性が高い必要がある。一般的に、経皮投与時の薬物吸収量は、投与面積と薬物の皮膚透過性で決まる。皮膚への安全性を考慮して繰り返し同じ部位への投与を避ける必要があることから、投与面積を拡大することで十分な薬物吸収量を得るには限界がある。持続的に安定した薬物の血中暴露量を得ることを目的としたグリコピロニウムの臭化物塩やトシル酸塩の経皮吸収型製剤は、本邦だけでなく海外でも市販されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2008-534480
【文献】特開2017-128593
【文献】特表2018-519289
【文献】特表2010-530902
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
流涎症の治療又は予防には、内服薬よりも外用薬、特に経皮吸収型製剤が好ましいが、グリコピロニウム・臭化物塩では内服薬、外用薬(吸入剤)及び注射剤が、グリコピロニウム・トシル酸塩では外用薬(塗布剤)が市販されているが、いずれの塩も、経皮吸収型製剤は市販されていない。このような背景から、本発明は、貼付による流涎症の治療又は予防を可能にする医薬(経皮吸収型製剤)を提供すること、さらには経皮吸収型製剤とするのに適したグリコピロニウムの新規塩を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、貼付による流涎症の治療又は予防のための医薬、すなわち経皮吸収型製剤が提供されていないのは、有効成分であるグリコピロニウム・臭化物塩やトシル酸塩に原因があると考えた。本発明者らは、鋭意研究した結果、貼付による流涎症の治療又は予防を可能にする医薬を提供するためには、グリコピロニウム・サリチル酸塩を有効成分として選択することが必要であることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明の主な構成は次のとおりである。
[1]グリコピロニウム・サリチル酸塩又はその溶媒和物を含む医薬であって、流涎症を治療又は予防するために用いられる医薬。
[2]前記医薬が、貼付するように用いられることを特徴とする、[1]に記載の医薬。
[3]前記医薬が、1日1回貼付するように用いられることを特徴とする、[2]に記載の医薬。
[4]グリコピロニウム・サリチル酸塩又はその溶媒和物を含む医薬であって、流涎症を治療又は予防するために1日1回貼付し、24時間ごとに貼り替えるように用いられることを特徴とする医薬。
[5]前記医薬が経皮吸収型製剤である、[1]~[4]に記載の医薬。
[6]グリコピロニウム・サリチル酸塩又はその溶媒和物。
[7]グリコピロニウム・サリチル酸塩又はその溶媒和物を含む医薬。
[8]支持体上に膏体層と剥離ライナーを有する経皮吸収型製剤であって、当該膏体層が有効成分を含み、当該有効成分がグリコピロニウム・サリチル酸塩である、経皮吸収型製剤。
【0013】
[9]流涎症を治療又は予防するためのグリコピロニウム・サリチル酸塩又はその溶媒和物。
[10]流涎症を治療又は予防するための医薬の製造のための、グリコピロニウム・サリチル酸塩又はその溶媒和物の使用。
[11]それを必要とする患者にグリコピロニウム・サリチル酸塩又はその溶媒和物を投与することによる、流涎症を治療又は予防する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、グリコピロニウム・サリチル酸塩を有効成分として含み、流涎症に対し、貼付により優れた治療又は予防効果を示す医薬、すなわち経皮吸収型製剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ラットピロカルピン誘発唾液分泌モデルにおける、各種グリコピロニウム塩を含む経皮吸収型製剤(0.5cm)の唾液分泌に対する効果を示す図である。
図2】ラットピロカルピン誘発唾液分泌モデルにおける、各種グリコピロニウム塩を含む経皮吸収型製剤(0.25cm)の唾液分泌に対する効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の流涎症の治療又は予防のための医薬について説明する。
本発明の流涎症の治療又は予防のための医薬は、通常、流涎症の治療又は予防のための医薬組成物である。
本発明の流涎症の治療又は予防のための医薬に用いる有効成分は、下記式(1)で示される3-(2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセトキシ)-1,1-ジメチルピロリジウム・サリチル酸塩(以下、「グリコピロニウム・サリチル酸塩」という)である。本明細書中では特に断らない限り、本発明には、グリコピロニウム・サリチル酸塩の溶媒和物も含まれる。なお、本明細書において、グリコピロニウム・サリチル酸塩の用語には、その溶媒和物が含まれることがある。また、グリコピロニウムには、その構造から、(3R,2R)、(3R,2S)、(3S,2R)、及び(3S,2S)の4種類の立体異性体が存在する。本発明の有効成分であるグリコピロニウム・サリチル酸塩は、数種類の立体異性体を含む混合物であってもよいが、(3R,2S)及び(3S,2R)の組み合わせの混合物が好ましく、(3S,2R)の立体異性体単独であることが好ましい。
【0017】
【化1】
【0018】
本発明の化合物は、以下の反応工程式1及び2に示す方法、又は公知の方法を組み合わせた方法で製造することができる。
【0019】
[反応工程式1]
【0020】
【化2】
(式中Rは、水素原子又はアルカリ金属原子を表す。)
【0021】
[工程1-1]
サリチル酸(2)を、適当な溶媒(例えば、蒸留水、アセトン、アセトニトリル等又はこれらの混合溶媒)中、銀塩(例えば、酸化銀又は硝酸銀等)を用いて、通常、0℃から溶媒の沸点の温度で、遮光下10分間から3日間反応させることによって、サリチル酸銀(3)を得ることができる。
【0022】
[工程1-2]
グリコピロニウム・臭化物塩(4)を、適当な溶媒(例えば、蒸留水、アセトン、アセトニトリル等又はこれらの混合溶媒)中、前記工程1-1で製造したサリチル酸銀を用いて、通常、0℃から溶媒の沸点の温度で、遮光下1時間から3日間反応させ、析出した臭化銀をろ過することによって、グリコピロニウム・サリチル酸塩(1)を得ることができる。
【0023】
[反応工程式2]
【0024】
【化3】
【0025】
[工程2-1]
グリコピロニウム・臭化物塩(4)を、適当な溶媒(例えば、蒸留水、アセトン、アセトニトリル等又はこれらの混合溶媒)中、酢酸銀を用いて、通常、0℃から溶媒の沸点の温度で、遮光下1時間から3日間反応させ、析出した臭化銀をろ過することによって、グリコピロニウム・酢酸塩(5)を得ることができる。
【0026】
[工程2-2]
前記工程2-1で製造したグリコピロニウム・酢酸塩(5)を、適当な溶媒(例えば、蒸留水、アセトン、アセトニトリル等又はこれらの混合溶媒)中、サリチル酸を用いて、通常、0℃から溶媒の沸点の温度で、1時間から3日間反応させることによって、グリコピロニウム・サリチル酸塩(1)を得ることができる。
【0027】
本発明の流涎症の治療又は予防のための医薬は、限定されるものではないが、通常、支持体、膏体層及び剥離シートを備える貼付剤であり、好ましくは経皮吸収型製剤である。膏体層は、粘着剤及びグリコピロニウム・サリチル酸塩を含有し、通常、支持体又は剥離シート上に積層される。
【0028】
粘着剤については、貼付剤として使用可能な粘着剤であれば特に制限はない。粘着剤の種類により、その粘着力には差があるが、所望の貼付時間にあわせて種類と配合量は適宜選択することが可能である。前記粘着剤として、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、及びシリコン系粘着剤等が挙げられる。
【0029】
前記アクリル系粘着剤としては、具体的に、アクリル酸・アクリル酸オクチルエステル共重合体、アクリル酸エステル・酢酸ビニルコポリマー、アクリル酸エチル・アクリル酸オクチル・ビニルピロリドン共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシル・ヒドロキシエチル・酢酸ビニル・メタクリル酸グリシジル共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシル・ビニルピロリドン共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシル・アクリル酸メチル・アクリル酸・メタクリル酸グリシジル共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシル・酢酸ビニル・アクリル酸ヒドロキシエチル・メタクリル酸グリシジル共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシル・酢酸ビニル・アクリル酸ブチル・アクリル酸共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシル・酢酸ビニル・アクリル酸共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシル・ジアセトンアクリルアミド・メタクリル酸アセトアセトキシエチル・メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシル・メタクリル酸2-エチルヘキシル・メタクリル酸ドデシル共重合体、及びアミノアルキルメタクリレートコポリマーE等が挙げられる。
【0030】
前記ゴム系粘着剤としては、具体的に、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、イソプレンゴム、ポリイソブチレン、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、及びスチレン-ブタジエンゴム等が挙げられる。
【0031】
前記シリコン系粘着剤としては、具体的に、ジメチルポリシロキサン及びジメチルポリシロキサン・シリケートレジン縮合反応物等が挙げられる。
【0032】
本発明の流涎症の治療又は予防のための医薬は、膏体層へ種々の目的に応じた添加剤をさらに加えることができる。かかる添加剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、吸収促進剤、安定化剤、可溶化剤、緩衝剤、抗酸化剤、香料、清涼化剤、着香剤、着色剤、粘着増強剤、pH調節剤、賦形剤、増量剤、防腐剤、溶解剤、溶解補助剤、及びその他医学的に許容される添加剤が挙げられる。
【0033】
本発明の流涎症の治療又は予防のための医薬は、皮膚から薬物を持続的かつ安定的に吸収させることを目的としており、安定した薬物の血中暴露量を得られる点や継続して貼付する点において、局所作用型の医薬とは異なる。
【0034】
本発明の流涎症の治療又は予防のための医薬を製造する方法は、例えば、(I)グリコピロニウム・サリチル酸塩、粘着剤及びその他の添加剤を、酢酸エチル、エタノール、メタノール、ヘキサン、トルエン等の有機溶媒、又はそれらの混合溶媒に溶解させ、剥離シート又は支持体の一方の上に塗工し溶媒を蒸発させ、薬物含有層を形成させた後、剥離シート又は支持体のもう一方(薬物含有層を形成させなかった方)を貼り合わせることによって製造する方法、(II)グリコピロニウム・サリチル酸塩、粘着剤及びその他の添加剤を加熱溶融させ、溶融物を剥離シート又は支持体の一方の上に塗工し薬物含有層を形成させた後、剥離シート又は支持体のもう一方(薬物含有層を形成させなかった方)を貼り合わせることによって製造する方法、等が挙げられる。尚、製造方法(I)の薬物混合物及び製造方法(II)の溶融物を支持体又は剥離シートへ塗工する順番に制限はない。先に膏体を支持体に塗工した後に剥離シートを貼り合わせても、先に膏体を剥離シートに塗工した後に支持体を貼り合わせてもよい。
【0035】
支持体としては、膏体層を支持できるものであれば特に限定されず、伸縮性又は非伸縮性の支持体が使用できる。具体的には、織布、不織布、塩化ビニルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリウレタンフィルム、及びこれらの複合素材からなるもの等が挙げられる。尚、前記支持体の厚みは特に限定されず、適宜決定することができる。
また、使用できる剥離シートとしては、膏体層を覆うものであれば特に限定されず、塩化ビニルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、又はポリウレタンフィルム等を使用することができる。また、剥離シートの剥離を容易とする目的で、シリコン処理を施したシートやエンボス加工したシートを用いることもできる。
【実施例
【0036】
以下に本発明の内容を、実施例を挙げて、さらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、その記載内容に限定されるものではない。
【0037】
核磁気共鳴スペクトル及び融点の測定は、以下の測定条件で行った。
[核磁気共鳴スペクトル]
以下の塩製造例及び塩比較製造例における核磁気共鳴(H-NMR)スペクトル測定は、VARIAN製(MR1008W041)を使用して行った。スペクトルは、テトラメチルシランを標準物質としてケミカルシフト値をδ値(ppm)で記載した。分裂パターンは、一重線を「s」、二重線を「d」、三重線を「t」、多重線を「m」で示した。
[融点]
以下の塩製造例及び塩比較製造例における融点測定は、Rigaku製(Thermo plus TG 8120)を使用して行った。測定条件は、測定温度は室温~200℃、加熱速度は5℃/分、測定間隔は0.2秒ごととした。
【0038】
≪グリコピロニウム塩の調製≫
医薬品に適した6種類のカウンターアニオン(カルボン酸)を選択し、グリコピロニウム塩の合成を試みた。選択したカルボン酸を表1に示す。原料には、市販の(3RS,2SR)-グリコピロニウム・臭化物塩を用いた。
【0039】
【表1】
【0040】
グリコピロニウム・サリチル酸塩の調製
[塩製造例1]
褐色ナスフラスコに蒸留水13mL及び(3RS,2SR)-グリコピロニウム・臭化物塩500.0mg(1.26mmol)を入れ溶解させた。遮光下、40℃で酢酸銀209.5mg(1.26mmol)を加え、24時間撹拌した。反応液をセライトろ過し、蒸留水で洗浄後、ろ液を減圧濃縮した。得られた粗体のグリコピロニウム・酢酸塩にアセトニトリル10mLとサリチル酸173.5mg(1.26mmol)を加え、室温で18時間撹拌した。反応液を減圧濃縮、トルエン共沸し、グリコピロニウム・サリチル酸塩の粗体を得た。トルエン10mLを加え、室温で5時間撹拌した。結晶が析出した懸濁液を-20℃で9日間静置した後、結晶をろ取した。40℃で減圧乾燥し、(3RS,2SR)-グリコピロニウム・サリチル酸塩517.8mg(収率91%)を得た。
[1H-NMR] (400 MHz, DMSO-d6) δ 7.63 (ddd, 1H), 7.58 (d, 2H), 7.35 (t, 2H), 7.27 (t, 1H), 7.10 (ddd, 1H), 6.59-6.53 (m, 2H), 5.85 (s, 1H), 5.39-5.35 (m, 1H), 3.83 (dd, 1H), 3.72-3.65 (m, 1H), 3.60 (d, 1H), 3.54-3.47 (m, 1H), 3.15 (s, 3H), 3.08 (s, 3H), 2.95-2.87 (m, 1H), 2.68-2.59 (m, 1H), 2.11-2.03 (m, 1H), 1.65-1.13 (m, 8H).
mp 141℃.
【0041】
[塩製造例2]
褐色ナスフラスコに硝酸銀5.30g(31.2mmol)及び蒸留水6.3mLを入れ懸濁させ、サリチル酸ナトリウム5.00g(31.2mmol)の水溶液6.3mLを加え、遮光下室温で15分間撹拌した。析出している固体を桐山ロートでろ取し、蒸留水、エタノールの順で洗浄した後に減圧乾燥し、サリチル酸銀6.50g(収率85%)を得た。
褐色ナスフラスコに(3RS,2SR)-グリコピロニウム・臭化物塩1.50g(3.77mmol)、サリチル酸銀923mg(3.77mmol)、及び蒸留水35mLを入れ、遮光下40℃で20時間撹拌した。反応液をセライトろ過し、蒸留水で洗浄後、ろ液を減圧濃縮、トルエン共沸し、グリコピロニウム・サリチル酸塩の粗体を得た。トルエン10mLを加え、超音波を当てて少量の固体を析出させた後に、トルエン20mLを加え室温で一晩撹拌した。析出した結晶をろ取し、トルエンで洗浄後、50℃で減圧乾燥し、(3RS,2SR)-グリコピロニウム・サリチル酸塩1.70g(収率99%)を得た。
【0042】
他のグリコピロニウム塩の調製
[塩比較製造例1]
褐色ナスフラスコに馬尿酸20.0g(111mmol)、酸化銀12.9g(111mmol)、アセトン440mL、及び蒸留水220mLを入れ懸濁させ、遮光下室温で15時間撹拌した。析出している固体を桐山ロートでろ取し、蒸留水で洗浄後に減圧乾燥し、馬尿酸銀29.2g(収率91%)を得た。
褐色ナスフラスコに(3RS,2SR)-グリコピロニウム・臭化物塩5.00g(12.6mmol)、馬尿酸銀3.61g(12.6mmol)、及び蒸留水100mLを入れ、遮光下40℃で12時間撹拌した。反応液をセライトろ過し、蒸留水で洗浄後、ろ液を減圧濃縮、トルエン共沸し、グリコピロニウム・馬尿酸塩の粗体を得た。酢酸エチル100mLを加え、超音波を当てて少量の固体を析出させた後に、懸濁液を-20℃で3日間静置した後、結晶をろ取し、酢酸エチルで洗浄後、室温で減圧乾燥し、(3RS,2SR)-グリコピロニウム・馬尿酸塩5.10g(収率81%)を得た。
[1H-NMR] (400 MHz, DMSO-d6) δ 7.81-7.76 (m, 2H), 7.73-7.67 (m, 1H), 7.58 (d, 2H), 7.53-7.42 (m, 3H), 7.35 (t, 2H), 7.27 (t, 1H), 5.92 (s, 1H), 5.41-5.34 (m, 1H), 3.83 (dd, 1H), 3.72-3.65 (m, 1H), 3.60 (d, 1H), 3.54-3.46 (m, 1H), 3.41 (d, 2H), 3.15 (s, 3H), 3.08 (s, 3H), 2.95-2.85 (m, 1H), 2.69-2.59 (m, 1H), 2.12-2.03 (m, 1H), 1.65-1.13 (m, 8H).
mp 135℃.
【0043】
[塩比較製造例2、3]
塩製造例1と同様の手法を用いて、(3RS,2SR)-グリコピロニウム・臭化物塩から、表2に示すグリコピロニウム塩を合成した。結晶生成の可否も合わせて記載した。×は結晶が得られなかったことを表す。得られた塩の機器分析データを表3に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
[塩比較製造例4、5]
グリコピロニウム・酢酸塩及びグリコピロニウム・安息香酸塩を合成した。酢酸塩は特表2008-534480公報の実施例2を参考にして、安息香酸塩は特表2016-510037公報の実施例2を参考にして、(3RS,2SR)-グリコピロニウム・臭化物塩からそれぞれを製造した。これらはいずれも、立体が(3RS,2SR)の結晶を獲得することができた。分析データは省略する。
【0047】
[塩比較例1]
グリコピロニウム・臭化物塩は、立体が(3RS,2SR)に特定されて市販されているものを購入し使用した。こちらは、結晶である。
【0048】
以上、種々のグリコピロニウム塩を合成した。グリコピロニウムのコハク酸塩及びフマル酸塩は結晶を獲得できなかったが、グリコピロニウムのサリチル酸塩、馬尿酸塩、酢酸塩、及び安息香酸塩は結晶を獲得することができた。医薬品の有効成分とする場合、グリコピロニウム塩が固体(特に結晶)である方が取扱いに優れているため好ましい。結晶を獲得できた、グリコピロニウムのサリチル酸塩、馬尿酸塩、酢酸塩、及び安息香酸塩について、前記塩製造例又は塩比較製造例(グリコピロニウム・サリチル酸塩は塩製造例1)の製造物を使用して、小型の経皮吸収型製剤を作製し、試験例1でin vitro皮膚透過性試験を行った。
【0049】
前記4種類のグリコピロニウム塩について、経皮吸収型製剤の製造で用いるエタノール中に溶解させ、24時間後の安定性を評価した結果、酢酸塩と安息香酸塩はそれぞれ20%、10%の分解が認められ、馬尿酸塩とサリチル酸塩は分解がどちらも1%以下であった。エタノール中で安定であったグリコピロニウムの馬尿酸塩及びサリチル酸塩、並びに先行技術として存在するグリコピロニウム・臭化物塩について、小型の経皮吸収型製剤を製造し、前記3種類のグリコピロニウム塩の有効性を唾液分泌モデル動物で評価した(試験例2及び3)。
【0050】
≪グリコピロニウム塩を含む経皮吸収型製剤の調製≫
[製剤製造例1]
グリコピロニウム・サリチル酸塩(グリコピロニウムとして6.5%)を含有する経皮吸収型製剤
グリコピロニウム・サリチル酸塩及びアクリル酸2-エチルヘキシル・酢酸ビニル・アクリル酸ヒドロキシエチル・メタクリル酸グリシジル共重合体の酢酸エチル・エタノール・ヘプタン・メタノールの混合溶液を表4に示す配合割合にてエタノールに溶解させた。得られた溶液を乾燥後の膏体が15mg/cm(グリコピロニウムとして0.98mg/cm)となるように、PET製の支持体上に塗工した後、乾燥することによりエタノール及び粘着剤中に含まれる有機溶媒を除去して膏体を得た。次にPET製の剥離シートを膏体上に貼り合わせた後、所望の大きさに裁断して経皮吸収型製剤を得た。
【0051】
[製剤比較製造例1]
グリコピロニウム・安息香酸塩(グリコピロニウムとして6.5%)を含有する経皮吸収型製剤
製剤製造例1と同様にして、表4に示す配合割合でグリコピロニウム・安息香酸塩を含有する経皮吸収型製剤を製造した。
【0052】
[製剤比較製造例2]
グリコピロニウム・馬尿酸塩(グリコピロニウムとして6.5%)を含有する経皮吸収型製剤
製剤製造例1と同様にして、表4に示す配合割合でグリコピロニウム・馬尿酸塩を含有する経皮吸収型製剤を製造した。
【0053】
[製剤比較製造例3]
グリコピロニウム・酢酸塩(グリコピロニウムとして6.5%)を含有する経皮吸収型製剤
製剤製造例1と同様にして、表4に示す配合割合でグリコピロニウム・酢酸塩を含有する経皮吸収型製剤を製造した。
【0054】
[製剤比較製造例4]
グリコピロニウム・臭化物塩(グリコピロニウムとして6.5%)を含有する経皮吸収型製剤
製剤製造例1と同様にして、表4に示す配合割合でグリコピロニウム・臭化物塩を含有する経皮吸収型製剤を製造した。
【0055】
[製剤参考製造例1]
プラセボ貼付薬
アクリル酸2-エチルヘキシル・酢酸ビニル・アクリル酸ヒドロキシエチル・メタクリル酸グリシジル共重合体の酢酸エチル・エタノール・ヘプタン・メタノール混合溶液をエタノールに溶解させた。得られた溶液を乾燥後の膏体が15mg/cmとなるようにPET製の支持体上に塗工した後、乾燥することによりエタノール及び粘着剤中に含まれる有機溶媒を除去して膏体を得た。次にPET製の剥離シートを膏体上に貼り合わせた後、所望の大きさに裁断して貼付薬を得た。
【0056】
【表4】
【0057】
≪皮膚透過性試験≫
[試験例1]
各種グリコピロニウム塩を含む経皮吸収型製剤(グリコピロニウムとして6.5%)のin vitro皮膚透過性試験
試験方法
ヌードマウス(BALB/cSlc-nu/nu、雄性、8~12週齢、日本エスエルシー株式会社)皮膚を用いて、製剤製造例1及び製剤比較製造例1~3に従い製造した以下の経皮吸収型製剤のin vitroでのグリコピロニウムの皮膚透過性を評価した。
・グリコピロニウム・サリチル酸塩群(n=3)
・グリコピロニウム・安息香酸塩群(n=3)
・グリコピロニウム・馬尿酸塩群(n=3)
・グリコピロニウム・酢酸塩群(n=3)
採取したヌードマウス皮膚に経皮吸収型製剤を貼布し、縦型拡散セル(開口部内径15mm、面積:1.767cm、レセプター容量9.5mL、セル温度32℃設定)を用いて、レセプター溶液へのグリコピロニウム透過量を評価した。経皮吸収型製剤は開口部を満たす十分な大きさのものを使用した。レセプター溶液はPBSを用い、透過試験中はマグネチックスターラーで攪拌した。
一定時間後にレセプター溶液を採材し、LC-MS/MSを用いてグリコピロニウム濃度を測定した。レセプター溶液中グリコピロニウム濃度、レセプター容量及び開口部面積から単位面積当たりのグリコピロニウム透過量を算出した。
【0058】
結果
各経皮吸収型製剤の透過開始10時間後の単位面積当たりのグリコピロニウム透過量の結果を表5に示す。
グリコピロニウム・サリチル酸塩の皮膚透過量は、グリコピロニウムの安息香酸塩及び馬尿酸塩の約3倍、グリコピロニウム・酢酸塩の約8倍であり、4群のうちグリコピロニウム・サリチル酸塩群が最も高いin vitroでの皮膚透過性を示した。グリコピロニウム塩の種類により、皮膚透過量に大きな差があることが明らかとなった。
【0059】
【表5】
Mean±SD
【0060】
≪薬効試験≫
[試験例2]
ピロカルピン誘発唾液分泌に対する各種グリコピロニウム塩を含む経皮吸収型製剤(グリコピロニウムとして6.5%)の0.5cm 貼付による影響
試験方法
ヘアレスラット(HWY/Slc、雄性、8週齢、日本エスエルシー株式会社)を以下のように4群に分けて実験を実施した。
・プラセボ群(n=5)
・グリコピロニウム・臭化物塩群(n=5)
・グリコピロニウム・馬尿酸塩群(n=5)
・グリコピロニウム・サリチル酸塩群(n=5)
イソフルラン麻酔下においてラットの頸部に製剤製造例1、製剤比較製造例2及び4、並びに製剤参考製造例1に従い製造した各種グリコピロニウム塩を含む経皮吸収型製剤(プラセボ製剤含む)0.5cmを1日1回24時間ごとに2日間貼付した。
貼付1日目及び2日目(初回貼付23及び47時間後)のラットに、3種混合麻酔下で塩酸ピロカルピン0.5mg/kgを尾静脈内投与した。口腔内に綿球を挿入して、唾液を60分間採取した。唾液採取前後における綿球の重量差から唾液分泌量を算出し、プラセボ群の唾液分泌量の平均値を100%として、各個体の唾液分泌割合を以下の(式)により算出した。
(式)
唾液分泌割合(%)=(各個体の唾液分泌量/プラセボ群の平均唾液分泌量)×100
【0061】
結果
貼付1日目及び2日目の各グリコピロニウム塩を含む経皮吸収型製剤の唾液分泌割合の結果を図1に示す。
貼付1日目において、グリコピロニウム・馬尿酸塩群及びグリコピロニウム・サリチル酸塩群でプラセボ群と比して有意な唾液分泌抑制作用が認められたが、グリコピロニウム・臭化物塩群では有意な作用は認められなかった。貼付2日目においてはいずれのグリコピロニウム塩群もプラセボ群と比して有意な唾液分泌抑制作用が認められたが、グリコピロニウム・サリチル酸塩群が最も強い唾液分泌抑制作用を示した。
【0062】
[試験例3]
ピロカルピン誘発唾液分泌に対する各種グリコピロニウム塩を含む経皮吸収型製剤(グリコピロニウムとして6.5%)の0.25cm 貼付による影響
試験方法
貼付薬の面積を0.25cmに変更した以外は、試験例2と同様の方法にて行った。
【0063】
結果
貼付1日目及び2日目の各グリコピロニウム塩を含む経皮吸収型製剤の唾液分泌割合の結果を図2に示す。
貼付1日目及び2日目において、いずれのグリコピロニウム塩群もプラセボ群に比して唾液分泌抑制傾向がみられたが、グリコピロニウム・臭化物塩群ではいずれも有意な作用を示さなかった。グリコピロニウム・馬尿酸塩群では、貼付1日目のみ有意な作用を示した。グリコピロニウム・サリチル酸塩群はいずれの評価日においても最も強く、かつ有意な唾液分泌抑制作用を示した。
【0064】
[考察]
各種グリコピロニウム塩を含む経皮吸収型製剤による唾液分泌抑制作用を確認した結果、グリコピロニウム・サリチル酸塩を含む経皮吸収型製剤が最も作用が強いことが確認された。これらの結果は、グリコピロニウム・サリチル酸塩を有効成分に用いることで、流涎症に高い効果を示すグリコピロニウム塩を含む経皮吸収型製剤を提供できることを示している。
【要約】
本発明は、グリコピロニウム・サリチル酸塩又はその溶媒和物を含む医薬であって、流涎症を治療又は予防するために用いられる医薬等に関する。本発明によって、貼付による流涎症の治療を可能にする治療薬が提供され、経皮吸収型製剤に適したグリコピロニウムの新規塩が提供される。
図1
図2