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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】サファイア単結晶リボンとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/20 20060101AFI20220519BHJP
   C30B 15/34 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
C30B29/20
C30B15/34
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2015226197
(22)【出願日】2015-11-19
(65)【公開番号】P2017095288
(43)【公開日】2017-06-01
【審査請求日】2018-10-03
【審判番号】
【審判請求日】2020-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】アダマンド並木精密宝石株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古滝 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 次男
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正幸
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】河本 充雄
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-540390(JP,A)
【文献】特開昭63-069797(JP,A)
【文献】特開昭55-109295(JP,A)
【文献】特開2014-070016(JP,A)
【文献】特開昭60-46995(JP,A)
【文献】特開昭59-121191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B29/20
C30B15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔TSのスリットを有すると共に、幅方向が平行に配置されたダイを坩堝に収容し、
坩堝に酸化アルミニウム原料を投入して加熱し、酸化アルミニウム原料を坩堝内で溶融して酸化アルミニウム融液を用意し、
スリットを介してスリット上部に酸化アルミニウム融液溜まりを形成し、
そのスリット上部の酸化アルミニウム融液に種結晶を接触させて種結晶を引き上げることで、所望の主面と幅10mm、厚さT0.1mm、長手方向の寸法である長さ1000mmの寸法を有し、前記間隔TSと前記厚さをTS=0.5Tの関係を満たして成長させることを特徴とするサファイア単結晶リボンの製造方法。
【請求項2】
前記サファイア単結晶リボンが可撓性を有することを特徴とする請求項1に記載のサファイア単結晶リボンの製造方法。
【請求項3】
成長させた前記サファイア単結晶リボンが、表面上にマイクロクラックを有さないことを特徴とする請求項1又は2に記載のサファイア単結晶リボンの製造方法。
【請求項4】
成長させた前記サファイア単結晶リボンが、As-grown単結晶であることを特徴とする請求項1~3の何れか一つに記載のサファイア単結晶リボンの製造方法。
【請求項5】
成長させた前記サファイア単結晶リボンを、直径300mm以下の曲線状に曲げることを特徴とする請求項1~4の何れか一つに記載のサファイア単結晶リボンの製造方法。
【請求項6】
主面を有すると共に、その主面がr面、c面、又はオフ角度を有するr面またはc面であることを特徴とする請求項1~5の何れか一つに記載のサファイア単結晶リボンの製造方法。
【請求項7】
前記種結晶を引き上げて前記サファイア単結晶リボンを成長させている間又は前記サファイア単結晶リボンの成長後に、前記坩堝内の前記酸化アルミニウム融液に前記酸化アルミニウム原料を更に投入し、前記酸化アルミニウム融液を補充することを特徴とする請求項1~6の何れか一つに記載のサファイア単結晶リボンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サファイア単結晶リボンと、そのサファイア単結晶リボンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導体は、臨界温度以下の温度に保持されることにより電気抵抗が零の状態になり、この特性を利用して、例えば高磁界の発生や大容量電流の高密度伝送等が試みられている。超電導体としては従来から、金属系、化合物系、酸化物系の物が知られており、それら超電導体の中でも酸化物系が超電導状態を示す臨界温度を高くできる。
【0003】
このような超電導体を、例えば長手方向の寸法を有する長尺の帯状体(リボン)に形成することで、送配電、各種機器、又は素子間の電気的接続、交流用巻線等の用途に用いることができる。酸化物超電導体を帯状体に形成する方法として、長手方向の寸法を有する下地基材の面上に、酸化物超電導層を積層形成する方法が知られている。
【0004】
前記下地基材のリボンとしては、サファイア単結晶が求められる。その理由は、サファイア単結晶でリボンを作製することで、高い電気抵抗と熱伝導性及び電気絶縁性がリボンに備えられるためである。積層された超電導体が超電導状態であれば電気抵抗が零となり、下地基材及び超電導体層から成る超電導体に電流を流すことが可能となる。更にそのサファイア単結晶のリボンを含めて超電導体を曲げることで、コイル状に巻回する構成が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5233011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1では、サファイア単結晶リボンを備える超電導体を巻回する構成が開示されているものの、サファイア単結晶は引っ張り応力に対して耐性が弱いため、サファイア単結晶のリボンを曲げて巻回することは困難であった。実際に本出願人がサファイア単結晶リボンを備える超電導体を作製して巻回したところ、サファイア単結晶リボンに割れ、破壊が生じることが判明した。
【0007】
サファイア単結晶リボンが引っ張り応力に弱い理由を本出願人が検証したところ、サファイア単結晶リボン表面のマイクロクラックが、割れや破壊を誘発していることが判明した。マイクロクラックは、サファイア単結晶をリボン状に結晶成長させた後に、研削や研磨等の表面加工を施す際、砥粒や研削盤等によってサファイア単結晶の表面上に無数に形成される。そのマイクロクラックからサファイア単結晶の内部にクラックが進行することで、割れ、破壊が生じることを本出願人は見出した。また、リボン状のサファイア単結晶では厚さ方向の寸法における変動が大きいと巻回時に応力が集中して破損してしまうことを本出願人は見出した。
【0008】
従って、厚さ方向の変動を抑制し、引っ張り応力に対して耐性を備えさせることにより、マイクロクラックの進行を抑えることが重要であることを本出願人は検証により見出した。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、均一な厚さで厚さ方向の変動を抑制し、引っ張り応力に対し耐性を有し、割れや破壊が防止されて、可撓性を備えるサファイア単結晶リボンとその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、以下の本発明により解決される。即ち、本発明のサファイア単結晶リボンの製造方法は、間隔TSのスリットを有すると共に、幅方向が平行に配置されたダイを坩堝に収容し、坩堝に酸化アルミニウム原料を投入して加熱し、酸化アルミニウム原料を坩堝内で溶融して酸化アルミニウム融液を用意し、スリットを介してスリット上部に酸化アルミニウム融液溜まりを形成し、そのスリット上部の酸化アルミニウム融液に種結晶を接触させて種結晶を引き上げることで、所望の主面と幅10mm、厚さT0.1mm、長手方向の寸法である長さ1000mmの寸法を有し、前記間隔TSと前記厚さをTS=0.5Tの関係を満たしてサファイア単結晶リボンを成長させることを特徴とする。
【0012】
サファイア単結晶リボンのリボン形状とは、平面方向の形状が長方形であり、具体的な寸法としては幅が100mm以下、厚さが0.5mm以下、長手方向の寸法である長さが1000mm以上のサイズのサファイア単結晶を指す。
【0013】
なお、共通の種結晶から同時に複数のサファイア単結晶リボンを成長させることが、一枚当たりのサファイア単結晶リボンの製造コストを下げることが可能となる点で好ましい。同時に複数のサファイア単結晶リボンを製造する際は、複数のダイを坩堝に収容すると共に、各ダイの各々の幅方向を平行に配置する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、厚さ方向の寸法Tとダイのスリット間隔TSとが、TS≦Tの関係を満たす条件でサファイア単結晶リボンを結晶成長させ、厚さ方向の寸法Tにおける変動幅ΔTが0.05mm以内であるサファイア単結晶リボンとすることで、厚さTを均一化し、厚さ変動ΔTを小さくすることができ、特性ばらつきや巻回時の応力集中(特に、最小厚さ部分への応力集中)による破損を抑制できる。
【0015】
更に、研削または研磨などの表面加工を施さないことで、サファイア単結晶表面上へのマイクロクラック形成が防止される。表面上にマイクロクラックを有さないことでマイクロクラックの進行が防止され、サファイア単結晶リボンに引っ張り応力に対する耐性と可撓性が備えられ、割れや破壊が防止される。
【0016】
更に長手方向の寸法を有するように結晶成長させたサファイア単結晶リボンのAs-grown単結晶に研削または研磨等の表面加工を施すこと無く、更に表面上にマイクロクラックが形成されていないAs-grown単結晶を選択することにより、サファイア単結晶リボンに可撓性を付与することが可能となり、表面加工の工程削減もできる。
【0017】
更に、研削または研磨等の表面加工を施さず、表面上にマイクロクラックが形成されていないAs-grown単結晶を選択することにより、マイクロクラックの進行が防止され、引っ張り応力に対する耐性が備えられて、割れや破壊が防止される。
【0018】
以上により、本発明のサファイア単結晶リボンに外力を加えて曲げたり、巻回することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態及び実施例に係るサファイア単結晶リボンを模式的に示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態及び実施例に係るサファイア単結晶リボンの厚さTと厚さの変動幅ΔTを示す模式概念図である。
図3】本発明の実施形態及び実施例に係るサファイア単結晶リボンを備える超電導体を示す側面図である。
図4図3の超電導体を曲げて形成した超電導コイルを、部分的に示す模式図である。
図5】EFG法によるサファイア単結晶リボンの製造装置を概略して模式的に示す構成図である。
図6】(a)本発明の実施形態に係るダイの一例を模式的に示す平面図である。(b)同図(a)の正面図である。(c)同図(a)の側面図である。
図7】(a)本発明の実施形態に係る種結晶の一例を示す説明図である。(b)本発明の実施形態に係る種結晶の他の例を示す説明図である。(c)本発明の実施形態に係る種結晶の更に他の例を示す説明図である。
図8】本発明の実施形態における種結晶と仕切り板との位置関係を模式的に示す斜視図である。
図9】(a)本発明の実施形態における種結晶と仕切り板との位置関係を模式的に示す正面図である。(b)本発明の実施形態における、種結晶の一部を溶融する様子を示す正面図である。
図10】本発明の実施形態におけるサファイア単結晶リボンが成長する様子を模式的に示す斜視図である。
図11】本発明の実施形態におけるスリット間隔TSとサファイア単結晶リボンの厚さTとの関係を示す模式図である。
図12】EFG法により得られる、本発明の実施形態に係る複数のサファイア単結晶リボンを部分的且つ模式的に示す斜視図である。
図13】(a)本発明の実施形態の変更例に係る種結晶の正面図である。(b)同図(a)の平面図である。(c)同図(a)の側面図である。
図14】(a)図13の種結晶を用いて育成されたサファイア単結晶リボンの底面図である。(b)同図(a)の正面図である。(c)同図(a)の側面図である。
図15】(a)本発明の他の変更例に係る種結晶の正面図である。(b)同図(a)の平面図である。(c)同図(a)の側面図である。
図16図15に示す種結晶と、仕切り板との位置関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本実施の形態の第一の特徴は、間隔TSのスリットを有すると共に、幅方向が平行に配置されたダイを坩堝に収容し、坩堝に酸化アルミニウム原料を投入して加熱し、酸化アルミニウム原料を坩堝内で溶融して酸化アルミニウム融液を用意し、スリットを介してスリット上部に酸化アルミニウム融液溜まりを形成し、そのスリット上部の酸化アルミニウム融液に種結晶を接触させて種結晶を引き上げることで、所望の主面と幅10mm、厚さT0.1mm、長手方向の寸法である長さ1000mmの寸法を有し、前記間隔TSと前記厚さをTS=0.5Tの関係を満たして成長させるサファイア単結晶リボンの製造方法としたことである。
【0027】
の特徴は、前記サファイア単結晶リボンが、可撓性を有するサファイア単結晶リボンの製造方法としたことである。
【0028】
の特徴は、成長させた前記サファイア単結晶リボンが、表面上にマイクロクラックを有さないサファイア単結晶リボンの製造方法としたことである。
【0029】
の特徴は、成長させた前記サファイア単結晶リボンが、As-grown単結晶であるサファイア単結晶リボンの製造方法としたことである。
【0030】
本発明において、マイクロクラックとは、例えば熱したリン酸、リン酸・硫酸混液、水酸化カリウム等の強アルカリ融液等のエッチング溶液をサファイア単結晶の表面上に塗布した時に、目視又は顕微鏡で以て観察可能なクラックを指すものとする。
【0031】
なお本発明において、As-grown単結晶とは、結晶成長された状態のままで研削または研磨などの表面加工が施されていない単結晶を指す。また、厚さTとは、サファイア単結晶リボンの平均厚さ又は製造上予め設定される厚さ方向の寸法を指すものとする。
【0032】
これらの構成によれば、厚さ方向の寸法Tとダイのスリット間隔TSとが、TS≦Tの関係を満たす条件でサファイア単結晶リボンを結晶成長させ、厚さ方向の寸法Tにおける変動幅ΔTが0.05mm以内であるサファイア単結晶リボンとすることで、厚さTを均一化し、厚さ変動ΔTを小さくすることができ、特性ばらつきや巻回時の応力集中(特に、最小厚さ部分への応力集中)による破損を抑制できる。
【0033】
またこれらの構成によれば、厚さ方向の寸法Tと長手方向の寸法を有するようにサファイア単結晶リボンを結晶成長させ、更に、研削または研磨などの表面加工を施さず、表面上にマイクロクラックが形成されていないAs-grown単結晶を選択することにより、サファイア単結晶表面上へのマイクロクラック形成が防止される。表面上にマイクロクラックを有さないことでマイクロクラックの進行が防止され、サファイア単結晶リボンに引っ張り応力に対する耐性と可撓性が備えられ、割れや破壊が防止される。更に、サファイア単結晶リボンの表面加工の工程削減もできる。
【0034】
以上により、本発明のサファイア単結晶リボンに外力を加えて曲げたり、巻回することが可能となる。
【0040】
これらの構成によれば、超電導コイル用として最も汎用性が高く、望ましい寸法のサファイア単結晶リボンとすることができる。
【0041】
なお本発明において、サファイア単結晶リボンのリボン形状とは、平面方向の形状が長方形であり、具体的な寸法としては幅が100mm以下、厚さが0.5mm以下、長手方向の寸法である長さが1000mm以上のサイズのサファイア単結晶を指す。
【0044】
これらの構成によれば、安定して可撓性をサファイア単結晶リボンに付与可能となり、引っ張り応力に対する耐性と割れや破壊の防止に対する信頼性をより強固にすることができる。
【0045】
更に第の特徴は、直径300mm以下の曲線状に曲げられているサファイア単結晶リボンの製造方法としたことである。
【0046】
の特徴は、成長させたサファイア単結晶リボンを、直径300mm以下の曲線状に曲げるサファイア単結晶リボンの製造方法としたことである。
【0047】
これらの構成によれば、可撓性が付与されることでサファイア単結晶リボンに外力を加えて曲げたり巻回することが可能となり、直径300mm以下の曲線状に曲げることもできて、超電導コイル用途として巻き取りベースに巻回可能となり好適に使用することができる。
【0048】
更に第の特徴は、主面を有すると共に、その主面がr面(10-12)、c面(0001)、又はオフ角度を有するr面またはc面であるサファイア単結晶リボンの製造方法としたことである。
【0049】
の特徴は、主面を有すると共に、その主面がr面(10-12)、c面(0001)、又はオフ角度を有するr面またはc面であるサファイア単結晶リボンの製造方法としたことである。
【0050】
これらの構成によれば、超電導層の形成面として最適な面方位を主面として設定することが可能となる。
【0051】
更に第の特徴は、前記種結晶を引き上げて前記サファイア単結晶リボンを成長させている間又は前記サファイア単結晶リボンの成長後に、前記坩堝内の前記酸化アルミニウム融液に前記酸化アルミニウム原料を更に投入し、前記酸化アルミニウム融液を補充するサファイア単結晶リボンの製造方法としたことである。
【0052】
この構成によれば、連続的にサファイア単結晶リボンの結晶育成を行うことが可能となり、量産性を向上させることができる。
【0053】
以下、図1図4を参照して、超電導コイルの超電導層の形成に用いられる、本実施形態に係る下地基材用のサファイア単結晶リボンを説明する。
【0054】
超電導体37は図3図4に示すように、超電導物質で構成される超電導層35を、リボン形状の細い又は薄い可撓性を有する下地基材2の表面上に備えて形成される。下地基材2には、高い電気抵抗と熱伝導性及び電気絶縁性が要求されるため、サファイア単結晶で作製されることが好ましい(以下、必要に応じて、「サファイア単結晶リボン2)と記載)。
【0055】
本発明におけるサファイア単結晶リボン2のリボン形状とは、図1に示すように長手方向の寸法を有し、平面方向の形状が長方形であり、具体的な寸法としては幅Wが100mm以下、厚さTが0.5mm以下、前記長手方向の寸法である長さLが1000mm以上のサイズのサファイア単結晶を指す。幅W100mm以下、厚さT0.5mm以下、長さL1000mm以上のサイズのサファイア単結晶が、超電導コイル用として汎用性が高く、望ましい。なお、長さLの上限値は特に無く、任意に設定可能であるが、用途上の目安としては10km以下が挙げられる。
【0056】
更に、幅W10mm、厚さT0.1mm、長さL1000mmのサイズのサファイア単結晶リボンが、超電導コイル用として最も汎用性が高く、望ましい。なお、厚さTとは、サファイア単結晶リボン2の平均厚さ又は製造上予め設定される厚さ方向の寸法を指すものとする。
【0057】
図2はサファイア単結晶リボン2の平均厚さTと厚さの変動幅ΔTを模式的に概念図で示したものである。図中では厚さ方向の寸法変動を強調して表現している。サファイア単結晶リボン2の厚さ方向の平均寸法をTとするように結晶成長させても、厚さ方向の寸法に変化が生じる。このとき、結晶成長させたサファイア単結晶リボン2の最大厚さをTmaxとし、最小厚さをTminとすると、その差ΔT=Tmax-Tminが厚さ方向の寸法Tにおける変動幅である。
【0058】
本発明ではサファイア単結晶リボン2の厚さ方向の変動幅ΔTを0.05mm以内とすることで、サファイア単結晶リボン2の特性ばらつきや巻回時の応力集中(特に、最小厚さ部分であるTmin部分への応力集中)、さらに巻回時の応力集中による破損を抑制できる。
【0059】
サファイア単結晶は高熱伝導率を有するため、耐熱温度は200℃以上となり、下地基材2自身の膨張又は収縮が抑制されて超電導層35に歪みが生じるおそれが低減され、臨界電流密度Jcの低下防止を図ることができると共に、巻回後に熱処理する場合にその熱処理温度に耐えることが可能となる。更に、超電導層35が酸化物超電導で構成される場合、酸化物超電導層の形成に必要な熱処理温度に耐えることもできる。
【0060】
本発明に係るサファイア単結晶リボン2は、As-grown単結晶である。As-grown単結晶とは、結晶成長された状態のままで研削または研磨などの表面加工が施されていない単結晶を指す。即ち、研削または研磨等の表面加工を施す際の砥粒や研削盤等による単結晶表面上へのマイクロクラック形成が防止される。表面上にマイクロクラックを有さないことでマイクロクラックの進行が防止され、サファイア単結晶リボン2に引っ張り応力に対する耐性と可撓性が備えられ、外力を加えて曲げたり巻回を行った時にマイクロクラックに起因した割れ、破壊が防止される。
【0061】
サファイア単結晶を長手方向の寸法を有するように結晶成長させ、更に、研削または研磨などの表面加工を施さないことで、サファイア単結晶表面上へのマイクロクラック形成が防止される。表面上にマイクロクラックを有さないことでマイクロクラックの進行が防止され、サファイア単結晶リボン2に引っ張り応力に対する耐性と可撓性が備えられ、割れや破壊が防止される。
【0062】
更に長手方向の寸法を有するように結晶成長させたサファイア単結晶リボン2のAs-grown単結晶に研削または研磨等の表面加工を施すこと無く、更に表面上にマイクロクラックが形成されていないAs-grown単結晶を選択することにより、サファイア単結晶リボン2に可撓性を付与することが可能となり、表面加工の工程削減もできる。
【0063】
更に、研削または研磨等の表面加工を施さず、表面上にマイクロクラックが形成されていないAs-grown単結晶を選択することにより、マイクロクラックの進行が防止され、引っ張り応力に対する耐性が備えられて、割れや破壊が防止される。
【0064】
可撓性が付与されることで、本発明のサファイア単結晶リボン2に外力を加えて曲げたり巻回することが可能となり、直径300mm以下の曲線状に曲げることもできて、超電導コイル36用途として巻き取りベースに巻回可能となり好適に使用することができる。サファイア単結晶リボン2の直径は、更に200mm以下又は100mm以下といったより小径の巻回や、500mm以下といったより大径に巻回しても良く、用いられる用途に応じて適宜選択可能である。
【0065】
また、引っ張り応力に対する耐性と可撓性を有するサファイア単結晶リボン2を備えることで、超電導体37は巻回することが可能になると共に、超電導体37を巻回してもサファイア単結晶リボン2に割れ、破壊の発生が防止される。従って、超電導マグネットや核磁気共鳴診断装置用マグネットといった各種マグネット、ケーブル、送配電、交流用巻線、発電機、変圧器、超電導限流器等に使用することができる。
【0066】
本発明において、マイクロクラックとは、例えば熱したリン酸、リン酸・硫酸混液、水酸化カリウム等の強アルカリ融液等のエッチング溶液をサファイア単結晶の表面上に塗布した時に、目視又は顕微鏡で以て観察可能なクラックを指すものとする。
【0067】
更に、サファイア単結晶リボン2は主面2aを有すると共に、その主面2aはr面(10-12)、c面(0001)、又はオフ角度を有するr面またはc面とする。オフ角度とはr面又はc面に対する角度であり、5°以内に設定する。このような面方位に主面2aを設定することにより、超電導層35の形成面として最適な面方位を設定することが可能となる。また、主面2aの別の面方位として、a面(1120)又はm面(1010)、またはこれらa面又はm面から5°以内に設定されたオフ角度を有する面も選択可能である。
【0068】
更に、幅Wと厚さTの比(幅W/厚さT)の数値範囲を、20以上1000以下と設定することにより、安定して可撓性をサファイア単結晶リボン2に付与可能となり、引っ張り応力に対する耐性と割れや破壊の防止に対する信頼性をより強固にすることができる。
【0069】
前記の通り超電導体37または超電導コイル36は、少なくともサファイア単結晶リボン2と、超電導層35を含んで構成される。更により好ましい構成として、緩衝層34を備えた超電導体37または超電導コイル36を図示している(図3又は図4参照)。
【0070】
緩衝層34は、酸化セリウム(CeO)、SrTiO、Nb-ドープSrTiO、RE(REは希土類元素)、MgO、LaMnO、YSZ、Y、LaAlO、LaCrO、NdGaO、LaNiO、ジルコニウム酸ランタン(LZO)、NbTiO、TiN、TZN、TiB、Pd、Ag、PT、およびAuから選択される1つまたは複数のエピタキシャル層等の、好適な材料から形成することができる。また、緩衝層34の厚さは20nm~300nmとする。
【0071】
更に主面2a上又は緩衝層34上に、超電導層35を形成する。超電導層35としては、酸化物超電導体である、YBaCu、Y1BaCu7-δ、GdBaCu等のREBaCu(REは希土類元素である)、BiSrCu、Bi-Sr-Ca-Cu-O系、Bi-Pb-Sr-Ca-Cu-O系、Tl-Ba-Ca-Cu-O系(TlBaCan-1Cu2n+3(nは1~4の間の整数)、TlBaCan-1Cu2n+4(nは1~4の間の整数))、Tl-Pb-Ba-Ca-Cu-O系、HgBaCan-1Cu2n+2(nは1~4の間の整数)から選択することができる。また、超電導層35の厚さは410nm~2μmとする。
【0072】
次に、本発明の実施形態に係るサファイア単結晶リボンの製造方法について、図5から図12を参照しながら説明する。なお、前記サファイアリボン2の説明と重複する箇所や内容に関しては、説明を簡略化又は省略する。
【0073】
図5に示すように、サファイア単結晶リボンの製造装置1は、サファイア単結晶リボン2を育成する育成容器3と、育成したサファイア単結晶リボン2を引き上げる引き上げ容器4とから構成され、EFG(Edge-defined Film-fed. GrowTh)法によりサファイア単結晶リボン2を育成成長する。
【0074】
育成容器3は、坩堝5、坩堝駆動部6、ヒータ7、電極8、ダイ9、及び断熱材10を備える。坩堝5はモリブデン製であり、酸化アルミニウム原料を溶融する。坩堝駆動部6は、坩堝5をその鉛直方向を軸として回転させる。ヒータ7は坩堝5を加熱する。また、電極8はヒータ7を通電する。ダイ9は坩堝5内に設置され、サファイア単結晶リボン2を引き上げる際の酸化アルミニウム融液(以下、必要に応じて単に「融液」と表記)21の液面形状を決定する。また断熱材10は、坩堝5とヒータ7とダイ9を取り囲んでいる。
【0075】
更に育成容器3は、雰囲気ガス導入口11と排気口12を備える。雰囲気ガス導入口11は、雰囲気ガスとして例えばアルゴンガスを育成容器3内に導入するための導入口であり、坩堝5やヒータ7、及びダイ9の酸化消耗を防止する。一方、排気口12は育成容器3内を排気するために備えられる。
【0076】
引き上げ容器4は、シャフト13、シャフト駆動部14、ゲートバルブ15、及び基板出入口16を備え、種結晶17から育成成長した複数の平板形状のサファイア単結晶リボン2を引き上げる。シャフト13は種結晶17を保持する。またシャフト駆動部14は、シャフト13を坩堝5に向けて昇降させると共に、その昇降方向を軸としてシャフト13を回転させる。ゲートバルブ15は育成容器3と引き上げ容器4とを仕切る。また基板出入口16は、種結晶17を出し入れする。
【0077】
なお製造装置1は図示されない制御部も有しており、この制御部により坩堝駆動部6及びシャフト駆動部14の回転を制御する。
【0078】
次に、ダイ9について説明する。ダイ9はモリブデン製であり、図6に示すように多数の仕切り板18を有する。図6ではダイの一例として、仕切り板18が30枚であり、ダイ9が15個形成されている場合を示している。仕切り板18は同一の平板形状を有し、微小間隙(スリット)19を形成するように互いに平行に配置されて、1つのダイ9を形成している。スリット19は、ダイ9のほぼ全幅に亘って設けられる。また複数のダイ9は同一形状を有すると共に、その幅方向が互いに平行となるように所定の間隔で並列に配置されているため、複数のスリット19が設けられることとなる。各仕切り板18の上部は斜面30が形成されており、互いの斜面30が外側に向くように配置されることで開口部20が形成されている。またスリット19は融液21を毛細管現象によって、各ダイ9の下端から開口部20に上昇させる役割を有している。
【0079】
図8に示すようにダイ9の幅WDは、前記サファイア単結晶リボン2の幅Wに合わせて設定される。従って、ダイの幅WDは100mm以下、より好ましくは10mmに設定することが、所望の幅Wのサファイア単結晶リボン2が結晶成長で得られるため望ましい。
【0080】
坩堝5内に投入される酸化アルミニウム原料は、坩堝5の温度上昇に基づいて溶融(原料メルト)し、融液21となる。この融液21の一部は、ダイ9のスリット19に浸入し、前記のように毛細管現象に基づいてスリット19内を上昇し開口部20から露出して、開口部20で酸化アルミニウム融液溜まり22(図9(b)参照)が形成される。EFG法では、酸化アルミニウム融液溜まり(以下、必要に応じて「融液溜まり」と表記)22で形成される融液面の形状に従って、サファイア単結晶リボン2が成長する。図6に示したダイ9では、融液面の形状は細長い長方形となるので、平板形状のサファイア単結晶リボン2が製造される。
【0081】
次に、種結晶17について説明する。図7図8、及び図9に示すように本実施形態では、種結晶17として平板形状の基板を用い、更にc軸が主面(結晶面28と直交する面)の面方向に沿って水平なサファイア単結晶製の基板を用いる。更に、種結晶17の平面方向とダイ9の幅方向は、互いに90°の角度で以て直交するように、種結晶17が配置される。従って、種結晶17のc軸は、仕切り板18と垂直になる。また、種結晶17とサファイア単結晶リボン2も90°の角度で以て直交するので、図5ではサファイア単結晶リボン2の側面を示している。種結晶17の平面方向と仕切り板18の幅方向との位置関係を垂直にする(種結晶17を仕切り板18と交叉させる)ことにより、融液21と種結晶17との接触面積を最小にすることが可能となる。従って、種結晶17の接触部分が融液21と馴染み易くなり、サファイア単結晶リボン2での結晶欠陥の発生が低減又は解消される。
【0082】
種結晶17は、シャフト13の下部の基板保持具(図示せず)との接触面積が大きいと、熱膨張率の差による応力のため変形し、場合によっては破損してしまう。反対に熱膨張率の差により種結晶17の固定が緩む場合もある。従って、種結晶17と基板保持具との接触面積は小さい方が好ましい。また、種結晶17は基板保持具に確実に固定できる基板形状の必要がある。
【0083】
図7は種結晶17の基板形状の一例を示した図である。このうち、同図(a)及び(b)は、種結晶17の上部に切り欠き部23を設けたものである。この切り欠き部23を利用して、例えば2カ所の切り欠き部23の下側からU字形の基板保持具を差し込んで、接触面積を小さくしつつ確実に種結晶17を保持することが可能となる。
【0084】
また、図7(c)に示したように、種結晶17内側に切り欠き穴24を設けても良い。この切り欠き穴24を利用して、例えば2カ所の切り欠き穴24に係止爪を差し込んで、基板保持具と種結晶17との接触面積を小さくしつつ、確実に種結晶17を保持することが可能となる。
【0085】
次に、前記製造装置1を使用したサファイア単結晶リボン2の製造方法を説明する。最初にサファイア原料である、造粒された酸化アルミニウム原料粉末(99.99%酸化アルミニウム)をダイ9が収納された坩堝5に所定量投入して充填する。酸化アルミニウム原料粉末には、製造しようとするサファイア単結晶リボンの純度又は組成に応じて、酸化アルミニウム以外の化合物や元素が含まれていても良い。
【0086】
続いて、坩堝5やヒータ7若しくはダイ9を酸化消耗させないために、育成容器3内をアルゴンガスで置換し、酸素濃度を所定値以下とする。
【0087】
次に、ヒータ7で加熱して坩堝5を所定の温度とし、酸化アルミニウム原料粉末を溶融する。酸化アルミニウムの融点は2050℃~2072℃程度なので、坩堝5の加熱温度はその融点以上の温度(例えば2100℃)に設定する。加熱後しばらくすると原料粉末が溶融して、酸化アルミニウム融液21が用意される。更に融液21の一部はダイ9のスリット19を毛細管現象により上昇してダイ9の表面に達し、スリット19上部に融液溜まり22が形成される。
【0088】
次に図8及び図9に示すように、スリット19上部の融液溜まり22の幅方向に対して垂直な角度に種結晶17を保持しつつ降下させ、種結晶17を融液溜まり22の融液面に接触させる。なお、種結晶17は、予め基板出入口16から引き上げ容器4内に導入しておく。図8ではスリット19や開口部20の見易さを優先するため、融液21と融液溜まり22の図示を省略している。
【0089】
図8は、種結晶17と仕切り板18との位置関係を示した図である。前記の通り、種結晶17の平面方向を仕切り板18の幅方向と直交させることにより、種結晶17と融液21との接触面積を小さくすることが可能となる。従って、種結晶17の接触部分が融液21となじみ、育成成長されるサファイア単結晶リボン2に結晶欠陥が生じにくくなる。従って、サファイア単結晶リボン2の歩留まりを向上させることができる。
【0090】
種結晶17を融液面に接触させる際に、種結晶17の下部を仕切り板18の上部に接触させて溶融しても良い。図9(b)は、種結晶17の一部を溶融する様子を示した図である。このように種結晶17の一部を溶融することで、種結晶17と融液21との温度差を速やかに解消することができ、サファイア単結晶リボン2での結晶欠陥の発生を更に低減することが可能となる。
【0091】
続いてシャフト13により基板保持具を所定の上昇速度で引き上げて、種結晶17の引き上げを開始し、図10に示すようにサファイア単結晶リボン2を形成する。図10はサファイア単結晶リボン2が成長する様子を示した説明図である。図11は、スリット間隔TSとサファイア単結晶リボン2の厚さTとの関係を示す模式図である。本実施形態では、種結晶17を引き上げる速度などの成長条件を調整することで、サファイア単結晶リボン2の厚さTを制御し、スリット19の間隔TSとの関係をTS≦Tとする。これによりサファイア単結晶リボン2は、スリット19の間隔TSから広がりながら成長形成され、前記厚みTで以て引き上げ成長されていく。
【0092】
本実施形態の成長方法では、スリット19の間隔TSとサファイア単結晶リボン2の厚さTとの関係がTS≦Tとなるように成長させることで厚さTを均一化でき、図2に示した厚さ変動ΔTを小さくすることができる。これにより、厚さ変動ΔTを抑制して特性ばらつきや巻回時の応力集中による破損を抑制できる。より好ましくはTS≦0.5Tの関係を満たすように成長させることで、さらに厚さTを均一化し、厚さ変動ΔTを抑制して特性ばらつきや巻回時の応力集中による破損を抑制できる。
【0093】
また、ダイ9の幅WDと同程度の幅Wを有する、平板形状のサファイア単結晶リボン2が育成される。
【0094】
ダイ9の幅WD(即ち、サファイア単結晶リボン2の幅W)で以てサファイア単結晶リボン2を成長させ、サファイア単結晶リボン2を所定の速度で所定の長さ(長さL)まで引き上げて、平板形状のサファイア単結晶リボン2を得る。
【0095】
この後、得られたサファイア単結晶リボン2を冷却し、ゲートバルブ15を空け、引き上げ容器4側に移動して、基板出入口16から取り出す。得られた平板形状のサファイア単結晶リボン2の外観を図12に示す。
【0096】
なお、サファイア単結晶リボン2は、図5図8図12に示すように共通の種結晶17から同時に複数結晶成長させることが、一枚当たりのサファイア単結晶リボン2の製造コストを下げることが可能となり好ましい。同時に複数のサファイア単結晶リボン2を製造する際は、複数のダイを坩堝に収容すると共に、各ダイの各々の幅方向を平行に配置する。種結晶17を引き上げることで、所望の主面2aと長手方向の寸法Lを有し、可撓性を有する複数のサファイア単結晶リボン2をAs-grown単結晶として作製することが可能となる。
【0097】
またEFG法では、サファイア単結晶リボン2の主面2aの面方向が、種結晶17の結晶面28と同じ結晶方向を取りながら、サファイア単結晶リボン2が育成成長される。一例として、種結晶17がサファイア単結晶製で結晶面28がc面の場合、得られる平板形状のサファイア単結晶リボン2の全ての主面2aを、c面とすることができる。従って、複数のサファイア単結晶リボン2を結晶方向の観点から見てばらつきの無い状態で得ることができる。
【0098】
従って、種結晶17、及び仕切り板18を含めたダイ9は、精密に位置決めする必要がある。よって図5に示したように製造装置1は、ダイ9を設置する坩堝5を回転する坩堝駆動部6、及びその回転を制御する制御部(図示せず)が設けられている。またシャフト13に関しても、シャフト13を回転するシャフト駆動部14、及びその回転を制御する制御部(図示せず)が設けられている。即ち、ダイ9に対する種結晶17の位置決めは、制御部によりシャフト13又は坩堝5を回転させて調整する。
【0099】
尚、種結晶17の結晶面28はc面に限定されず、例えばr面、a面、m面等、所望の結晶面に設定することが可能である。このように結晶面28を任意に設定することで、サファイア単結晶リボン2の主面2aの面方向も任意に変更することが可能となる。
【0100】
引き上げ速度は、種結晶17の引き上げ開始による結晶成長開示時から、所望の長さLで以て結晶成長が終了するまでの間、一定に設定することが幅W/厚さTの変動比を抑えて、20以上1000以下の範囲内に納められるので好ましい。また、引き上げ速度を一定に設定することで厚さ変動ΔTを抑えて0.05mm以内および0.025mm以内の範囲に納められるので好ましい。
【実施例
【0101】
スリット19の間隔TSをそれぞれ0.25mm/0.1mm/0.075mm/0.05mm/0.025mmに設定し、厚さTが0.5mm/0.2mm/0.15mm/0.1mm/0.05mmとなる条件で種結晶17を引き上げてサファイア単結晶リボン2を成長させた。いずれのサファイア単結晶リボン2でも、厚さ変動ΔTは0.05mm以内であり、直径300mmの曲線状に曲げても破損が生じなかった。
【0102】
一方、スリット19の間隔TSよりも厚さTが薄くなるような条件で種結晶17を引き上げてサファイア単結晶リボン2を成長させた場合には、厚さ変動ΔTは0.05mmを超えるものが発生し、直径300mmの曲線状に曲げたところ破損が発生した。
【0103】
したがって、厚さTとスリット19の間隔TSとの関係をTS≦Tとし、より好ましくはTS≦0.5Tとすることで、サファイア単結晶リボン2の厚さ変動ΔTを0.05mm以内、より好ましくは0.025mm以内に納めることができ、厚さTを均一化して厚さ変動ΔTを抑制し、特性ばらつきや巻回時の応力集中による破損を抑制できることがわかった。
【0104】
なお本発明は、前述の実施形態に限定するものでは無く、その技術的思想の範囲から逸脱しない範囲の構成による変更が可能である。
【0105】
例えば本発明は、主面にステップ構造を有し、r面、c面、a面、m面から5°以内に設定されたオフ角度を有するサファイア単結晶リボンの育成にも適用することが可能である。サファイア単結晶リボン2の主面2aを例えばc面とする、EFG法によるサファイア単結晶リボンの製造方法において、種結晶のm軸をサファイア単結晶リボンの引き上げ方向に合わせる。更に、引き上げ方向に対して垂直方向に位置する種結晶のc軸を、引き上げ方向を回転軸としてサファイア単結晶リボンの主面の法線に対してa軸方向に所定角度(例えば、0.05°以上)に傾斜させて育成しても良い。なお、前記実施形態と重複する説明は省略又は簡略化する。
【0106】
ここで、c軸が傾斜した種結晶について図13を参照して説明する。図13に示す種結晶31の平面の法線をZ軸、種結晶31の側面(結晶面)の法線をY軸、及び種結晶31の正面の法線をX軸とする直交座標系を用いて説明する。Z軸はサファイア単結晶リボンの引き上げ方向に対して平行に配置されている。
【0107】
種結晶31のc軸は、図13(a)に示すように、Z軸(引き上げ方向の軸)とのなす角αが所定の範囲内(例えば、90°±0.5°)に調整されており、また、図13(b)に示すように、c軸は、X軸方向(a軸方向)に所定角度β(例えば、0.05°以上1.0°以下の範囲)に傾斜している。一方、引き上げ軸方向(Z軸方向)のm軸は、図13(a)に示すように、c軸に対して垂直であり、また、 このm軸は、図13(c)に示すように、引き上げ軸方向(Z軸)とのずれ角γが、Z軸に対してX軸方向に所定角度の範囲内(例えば、0.5°以下)に調整されている。
【0108】
このように種結晶31のc軸をX軸方向に所定角度βだけ傾斜させることにより、この種結晶31を用いて育成成長されたサファイア単結晶リボン32は、図14(a)に示すようにc軸がZ軸(引き上げ方向)を回転軸として主面の法線nv方向に対して所定角度β(前記の通り、0.05°以上1.0°以下の範囲)で傾斜している。即ち所定角度βに対応した、主面におけるc軸の傾斜角度を有するサファイア単結晶リボンを得ることができる。これにより、得られるサファイア単結晶リボンの主面におけるステップ構造が全て同一方向になり、結晶欠陥の無いサファイア単結晶リボンを得ることができる。またm軸とZ軸とのずれ角は前記γ(0.5°)以内に形成され、図14(c)に示すようにc軸とZ軸とは前記α(90°±0.5°)以内に形成される。
【0109】
なお、図13及び図14に示す変更例では、予めc軸がa軸方向に所定角度βだけ傾斜した種結晶31を用いて、c軸がnv方向に対して所定角度β傾斜したサファイア単結晶リボン32を育成する場合を説明したが、これに限定されず図15に示す種結晶33を用いてサファイア単結晶リボンを育成しても良い。
【0110】
種結晶33のc軸は図15(a)に示すように、Z軸とのなす角αが所定の範囲内(例えば、90°±0.5°)に調整されており、また図15(b)に示すようにc軸はY軸方向に平行に調整されている。一方、引き上げ方向(Z軸)のm軸は、図15(a)に示すようにc軸に対して垂直であり、図15(c)に示すようにZ軸とのずれ角γがZ軸に対してX軸方向(a軸方向)に所定の範囲内(0.5°以下)に調整されている。
【0111】
図15に示す種結晶33を用いた場合には、図16に示すように種結晶33の側面(端面)の法線を仕切り板18の法線に対して所定角度βずらして位置決めする。
【0112】
従って、前記制御部によりシャフト13又は坩堝5を回転させて、種結晶33の側面(端面)の法線が仕切り板18の法線に対して所定角度βの範囲内となるように精度良く位置決めする。これにより、c軸が所定方向に所定角度βだけ傾斜したサファイア単結晶リボンを得ることができる。
【0113】
また、種結晶17を引き上げてサファイア単結晶リボン2を成長させている間、又はサファイア単結晶リボン2の成長後に、成長サイクル毎に坩堝5内に残存している酸化アルミニウム融液21に図示しない酸化アルミニウム原料を更に投入し、酸化アルミニウム融液21を補充して、連続的にサファイア単結晶リボン2の結晶育成を行っても良い。このように成長サイクル毎に坩堝5内に酸化アルミニウム原料を投入し、酸化アルミニウム融液21を補充することにより、連続的にサファイア単結晶リボン2の結晶育成を行うことが可能となり、量産性を向上させることができる。連続的にサファイア単結晶リボン2を結晶育成する場合、サファイア単結晶リボン2を長さL以上で結晶成長させても良い。
【0114】
連続的にサファイア単結晶リボン2を結晶育成する場合は、ゲートバルブ15を用いることで、育成容器3内の雰囲気ガス(例えば不活性ガス)の漏洩や、熱の漏洩を最小限に抑えて、成長効率の低下を防止すれば良い。その上で雰囲気ガスも連続投入すれば良い。
【0115】
また、引き上げ容器4の引き上げ方向の寸法を、サファイア単結晶リボン2の長さLよりも大きく設定するものとする。
【0116】
酸化アルミニウム原料は、サファイア単結晶リボン2の結晶成長速度に対応する速度で坩堝5内へ送給して、酸化アルミニウム融液21を補充する。酸化アルミニウム原料は、坩堝5の中へ固体の状態で送給されていても良い。
【0117】
その後、結晶成長されたサファイア単結晶リボン2の主面2a上に超電導層35が、直接またはより好ましくは緩衝層34を介して堆積形成される。緩衝層34は、物理蒸着法や化学蒸着法(CVD又はMOCVDを含む)、スパッタリング法、パルスレーザ蒸着法、塗布熱分解法、塗布光分解法、ゾルゲル法、電着、化学溶液堆積法等により堆積形成する。
【0118】
更に超電導層35の形成には、種々の方法が適用可能であり、物理蒸着法や化学蒸着法(CVD又はMOCVDを含む)、パルスレーザ蒸着法、化学溶液堆積法、溶液分解法(原料となる金属の有機化合物溶液に紫外光(レーザまたはランプ光)を照射する方法)、スパッタリング法、パルスレーザアブレーション法、塗布熱分解法等を使用することができる。このようにして、超電導体37または超電導コイル36が作製される。
【符号の説明】
【0119】
1 サファイア単結晶リボンの製造装置
2、32 サファイア単結晶リボン又は下地基材
2a 主面
3 育成容器
4 引き上げ容器
5 坩堝
6 坩堝駆動部
7 ヒータ
8 電極
9 ダイ
10 断熱材
11 雰囲気ガス導入口
12 排気口
13 シャフト
14 シャフト駆動部
15 ゲートバルブ
16 基板出入口
17、31、33 種結晶
18 仕切り板
19 スリット
20 開口部
21 酸化アルミニウム融液
22 酸化アルミニウム融液溜まり
23 種結晶の切り欠き部
24 種結晶の切り欠き穴
28 結晶面
30 斜面
34 緩衝層
35 超電導層
36 超電導コイル
37 超電導体
L サファイア単結晶リボンの長さ
W サファイア単結晶リボンの幅
T サファイア単結晶リボンの厚さ
ΔT サファイア単結晶リボンの厚さ方向の変動幅
TS スリットの幅
WD ダイの幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16