(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 10/36 20100101AFI20220519BHJP
H01M 10/38 20060101ALI20220519BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20220519BHJP
H01M 4/52 20100101ALI20220519BHJP
【FI】
H01M10/36 Z
H01M10/38
H01M4/48
H01M4/52
(21)【出願番号】P 2017049544
(22)【出願日】2017-03-15
【審査請求日】2020-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000153018
【氏名又は名称】株式会社日本マイクロニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】殿川 孝司
(72)【発明者】
【氏名】津國 和之
(72)【発明者】
【氏名】工藤 拓夫
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-059524(JP,A)
【文献】特開2016-127166(JP,A)
【文献】特開2016-082125(JP,A)
【文献】国際公開第2016/208116(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/199618(WO,A1)
【文献】特開2018-022719(JP,A)
【文献】特開2017-182969(JP,A)
【文献】特開2017-195283(JP,A)
【文献】特開2018-037261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/36-10/39
H01M 4/00-4/62
H01L 49/00-49/02
H01G 4/12,4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型の第1酸化物半導体を有する第1酸化物半導体層と、
前記第1酸化物半導体層上に配置され、第1絶縁物とn型の第2酸化物半導体とからなり、充電時に発生した水素を蓄積する第1充電層と、
前記第1充電層上に配置された第3酸化物半導体層と、
前記第1充電層と前記第3酸化物半導体層との間に配置された、水素イオンおよび電子の移動を調整する第2充電層と
を備え、
前記第3酸化物半導体層は、水素、及びp型の第3酸化物半導体を有し、前記第3酸化物半導体を構成する金属に対する前記水素の割合が
組成比で35%以上であることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項2】
前記第2充電層は、第2絶縁物を備えることを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記第3酸化物半導体は、NiOを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
前記第2充電層は、第2絶縁物と、導電率調整材とを備えることを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項5】
前記第2酸化物半導体は、Ti、Sn、Zn、若しくはMgの酸化物からなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を備えることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項6】
前記導電率調整材は、n型の半導体、若しくは金属の酸化物を備えることを特徴とする請求項4に記載の蓄電デバイス。
【請求項7】
前記導電率調整材は、Sn、Zn、Ti、若しくはNbの酸化物からなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を備えることを特徴とする請求項4または6に記載の蓄電デバイス。
【請求項8】
前記第2絶縁物は、酸化シリコンを備え、前記導電率調整材は、酸化スズを備えることを特徴とする請求項4に記載の蓄電デバイス。
【請求項9】
前記第2絶縁物は、シリコーンオイルから成膜した酸化シリコンを備えることを特徴とする請求項4に記載の蓄電デバイス。
【請求項10】
前記第1絶縁物は酸化シリコンを備え、前記第2酸化物半導体は酸化チタンを備えることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項11】
前記第3酸化物半導体層は、前記第3酸化物半導体とは異なる金属を備えることを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項12】
前記金属は、リチウム、又はコバルトを備えることを特徴とする請求項11に記載の蓄電デバイス。
【請求項13】
n型の第1酸化物半導体層と、
前記第1酸化物半導体層上に配置され、第1絶縁物とn型の第2酸化物半導体とからなり、充電時に発生した水素を蓄積する第1充電層と、
前記第1充電層上に配置されたp型の第3酸化物半導体層と、
前記第1充電層と前記第3酸化物半導体層との間に配置された、水素イオンおよび電子の移動を調整する第2充電層と、
を備え、
前記第3酸化物半導体層は、水素を含有する酸化ニッケル(NiO
yH
x)を備え、水素組成比xの値は0.35以上、酸素組成比yの値は任意であることを特徴とする蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施の形態は、蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の蓄電デバイスとして、電解液・希少元素を用いないこと、及び薄膜化可能であるため、第1電極/絶縁物・n型酸化物半導体層/p型酸化物半導体層/第2電極が積層された二次電池が提案されている。
【0003】
また、この二次電池に類似した構造として、酸化ニッケルなどを正極活物質として含む正極活物質膜を備える正極と、含水多孔質構造を有する固体電解質と、酸化チタンなどを負極活物質として含む負極活物質膜を備える負極とを備える二次電池が提案されている。
【0004】
また、n型半導体層、充電層、絶縁層、p型半導体層を積層し、上下に電極を形成した構造の蓄電デバイスも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5508542号公報
【文献】特許第5297809号公報
【文献】特開2015-82445号公報
【文献】特開2016-82125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本実施の形態は、単位体積(重さ)当たりの蓄電容量を増大可能な蓄電デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施の形態の一態様によれば、n型の第1酸化物半導体を有する第1酸化物半導体層と、前記第1酸化物半導体層上に配置され、第1絶縁物とn型の第2酸化物半導体とからなり、充電時に発生した水素を蓄積する第1充電層と、前記第1充電層上に配置された第3酸化物半導体層と、前記第1充電層と前記第3酸化物半導体層との間に配置された、水素イオンおよび電子の移動を調整する第2充電層とを備え、前記第3酸化物半導体層は、水素、及びp型の第3酸化物半導体を有し、前記第3酸化物半導体を構成する金属に対する前記水素の割合が組成比で35%以上である蓄電デバイスが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本実施の形態によれば、単位体積(重さ)当たりの蓄電容量を増大可能な蓄電デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係る蓄電デバイスの模式的断面構造図。
【
図2】実施の形態に係る蓄電デバイスにおいて、(a)水素を含有する第3酸化物半導体層の模式的構成図、(b)水素を含有する第3酸化物半導体層の別の模式的構成図。
【
図3】実施の形態に係る蓄電デバイスにおいて、放電電荷量Q
Dとp型酸化物半導体層中の水素量C
Hとの関係。
【
図4】実施の形態に係る蓄電デバイスにおいて、放電電荷量Q
Dとp型酸化物半導体層の厚さt
pとの関係。
【
図5】実施の形態に係る蓄電デバイスにおいて、p型酸化物半導体層のX線散乱(XRD:X-ray diffraction)測定結果。
【
図6】実施の形態に係る蓄電デバイスにおいて、スパッタデポジションにおけるp型酸化物半導体層の水素量C
Hと圧力ΔPとの関係を説明する模式図。
【
図7】実施の形態に係る蓄電デバイスにおいて、放電時間T
Dとp型酸化物半導体層の厚さt
pとの関係を説明する模式図。
【
図8】実施の形態に係る蓄電デバイスにおいて、放電時間T
Dと第1充電層の厚さt
chとの関係を説明する模式図。
【
図9】実施の形態に係る蓄電デバイスにおいて、スパッタデポジション装置の模式的構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照して、本実施の形態について説明する。以下に説明する図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各構成部品の厚みと平面寸法との関係などは現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0011】
また、以下に示す実施の形態は、技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、各構成部品の材質、形状、構造、配置などを特定するものではない。この実施の形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
以下の実施の形態の説明において、第1導電型とは、例えば、n型、第2導電型とは、第1導電型と反対導電型のp型であることを示す。また、第1導電型の第1酸化物半導体層14とは、第1導電型の第1酸化物半導体を有する酸化物半導体層であることを表す。第2導電型の第3酸化物半導体層24とは、第2導電型の第3酸化物半導体を有する酸化物半導体層であることを表す。以下同様である。
【0013】
[実施の形態]
実施の形態に係る蓄電デバイス30は、
図1に示すように、第1導電型の第1酸化物半導体を有する第1酸化物半導体層14と、第1酸化物半導体層上に配置され、第1絶縁物と第1導電型の第2酸化物半導体とからなる第1充電層16と、第1充電層16上に配置された第3酸化物半導体層24とを備える。ここで、第3酸化物半導体層24は、水素、及び第2導電型の第3酸化物半導体を有し、第3酸化物半導体を構成する金属に対する水素の割合が40%以上であっても良い。
【0014】
また、実施の形態に係る蓄電デバイス30において、第3酸化物半導体層24は、水素を含有する酸化ニッケル(NiOyHx)を備え、水素組成比xの値は0.35以上、酸素組成比yの値は任意であっても良い。
【0015】
また、第1充電層16と第3酸化物半導体層24との間に配置された第2充電層18を備えていても良い。
【0016】
また、第2充電層18は、第2絶縁物を備えていても良い。
【0017】
また、第3酸化物半導体は、NiOを備えていても良い。
【0018】
また、第2充電層18は、第2絶縁物と、導電率調整材とを備えていても良い。
【0019】
また、第2酸化物半導体は、Ti、Sn、Zn、若しくはMgの酸化物からなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を備えていても良い。
【0020】
また、導電率調整材は、第1導電型の半導体、若しくは金属の酸化物を備えていても良い。
【0021】
また、導電率調整材は、Sn、Zn、Ti、若しくはNbの酸化物からなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を備えていても良い。
【0022】
また、第2絶縁物は、SiOxを備え、導電率調整材は、SnOxを備えていても良い。
【0023】
また、第2絶縁物は、シリコーンオイルから成膜したSiOxを備えていても良い。
【0024】
また、第1絶縁物はSiOxを備え、第2酸化物半導体はTiOxを備えていても良い。
【0025】
更に、第3酸化物半導体層は、第3酸化物半導体とは異なる金属を備えていても良い。ここで、この金属は、リチウム、又はコバルトを備えていても良い。
【0026】
また、実施の形態に係る蓄電デバイス30においては、第3酸化物半導体層24の厚さを増大させても良い。第3酸化物半導体層24の厚さを増大させることによって、第3酸化物半導体層24の水素蓄積量を増加させ、第1充電層16への水素蓄積量を増大することができる。
【0027】
また、実施の形態に係る蓄電デバイス30においては、第1充電層16の厚さを増大させても良い。第1充電層16の厚さを増大させることによって、第1充電層16への水素蓄積量を増大することができる。
【0028】
また、実施の形態に係る蓄電デバイス30においては、十分な蓄電容量を得るために、第3酸化物半導体層24の水素濃度を増加させ、更に第1充電層16を厚く形成しても良い。
【0029】
また、第1充電層16は、組成が互いに相違し、少なくとも2層構造を備えていても良い。第1充電層16は、例えば、酸化シリコン(SiOx)/酸化チタン(TiOx)によって形成されていても良い。具体的には、SiOx/TiOxの層構造によって形成されていても良く、あるいは、粒子形状のTiOxの周囲をSiOxによって被覆した粒子接合構造によって形成されていても良い。また、第1充電層16は、TiOxがSiOxと混在あるいはTiOxが酸化シリコンに包まれる構造を備えていても良い。また、上記において、酸化チタン及び酸化シリコンの組成は、TiOx及びSiOxに限定されるものではなく、TiOxあるいはSiOxなどの組成比xが変化した構成を備えていても良い。
【0030】
また、n型の酸化物半導体が、チタン(Ti)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)の酸化物であっても良いため、SiOxとTi、Sn、Zn、Mgの酸化物の層構造であっても良く、あるいは、粒子形状のTi、Sn、Zn、Mgの酸化物の周囲をSiOxによって被覆した粒子接合構造によって形成されていても良い。また、SiOxとTi、Sn、Zn、Mgの酸化物の分子あるいは分子群がSiOx(非晶質)に囲まれた構成を備えていても良い。
【0031】
また、第1充電層16は、多孔質構造を備えていても良い。
【0032】
(第1充電層)
第1充電層16は、充電時に発生した水素を蓄積する層である。第1充電層16は、充電時は、M+H2O+e-→MH+OH-の反応が進行し、放電時は、MH+OH-→M+H2O+e-の反応が進行する。多孔質化することで、水素蓄積の効率を増大可能である。また、複数層とすることで、水素蓄積と導電性を最適化できる。第2酸化物半導体を、Ti、Sn、Zn若しくはMgの酸化物とすることで、最適化可能である。
【0033】
(第2充電層)
第2充電層18は、H+及び電子(e-)の移動を調整するためのバッファ層である。
【0034】
(p型酸化物半導体層)
酸化物半導体層24は、第1充電層16のn型半導体(第2酸化物半導体)に対してpn接合を構成し、充電時の電荷リークを抑制可能である。p型酸化物半導体層24は、水素を含有する酸化ニッケル(NiOyHx)とすることで、第1充電層16への水素供給量を増大可能になる。
【0035】
(n型酸化物半導体層)
実施の形態に係る蓄電デバイス30は、
図1に示すように、第1電極12と、第2電極26とを備え、第1酸化物半導体層14はn型酸化物半導体層を備え、かつ第1電極12に接続され、第2酸化物半導体はn型第2酸化物半導体を備え、第3酸化物半導体層24はp型第3酸化物半導体層を備え、かつ第2電極26に接続されていても良い。
【0036】
(製造方法)
実施の形態に係る蓄電デバイス30の製造方法は、第1導電型の第1酸化物半導体層14を形成する工程と、第1酸化物半導体層14上に、第1絶縁物と第1導電型の第2酸化物半導体とからなる第1充電層16を形成する工程と、第1充電層16上に第2充電層18を形成する工程と、第2充電層18上にスパッタデポジション法により第3酸化物半導体層24を形成する工程とを有する。
【0037】
ここで、第3酸化物半導体層24を形成する工程は、スパッタリング時のターゲット材料として、金属ニッケルNiを使用し、水蒸気や水をチャンバー内に供給し、かつスパッタ流量を増加しても良い。
【0038】
また、第3酸化物半導体層24を形成する工程は、アルゴンイオンAr+によるイオン衝撃によって、ターゲットからNi原子が励起されると共に、励起されたNi原子は、チャンバー内の水素、酸素と反応しつつスパッタデポジション反応により、水素を含有する第3酸化物半導体層24を堆積しても良い。
【0039】
―n型酸化物半導体層14―
下部電極を構成する第1電極12上にTiOx膜を例えば、スパッタデポジション法で成膜することによって形成する。ここで、TiまたはTiOxをターゲットとして使用可能である。n型酸化物半導体層14の膜厚は、例えば、約50nm-200nm程度である。なお、第1電極12は、例えば、タングステン(W)電極などを適用可能である。
【0040】
―第1充電層16―
薬液は脂肪酸チタンとシリコーンオイルを溶媒と共に攪拌して形成する。この薬液を、スピン塗布装置を用いて、n型酸化物半導体層14上に塗布する。回転数は例えば、約500-3000rpmである。塗布後、ホットプレート上で乾燥させる。ホットプレート上の乾燥温度は、例えば、約30℃-200℃程度、乾燥時間は、例えば約5分-30分程度である。乾燥後焼成する。乾燥後焼成には、焼成炉を用い、大気中で焼成する。焼成温度は例えば、約300℃-600℃程度、焼成時間は例えば、約10分-60分程度である。
【0041】
これにより、脂肪族酸塩が分解してシリコーンの絶縁膜に覆われた二酸化チタンの微粒子層が形成される。シリコーンの絶縁膜で覆われた二酸化チタンを層形成した上記製造(作製)方法は、塗布熱分解法である。この層は、具体的にはシリコーンが被膜された二酸化チタンの金属塩がシリコーン層中に埋められている構造である。焼成後、低圧水銀ランプによるUV照射を実施する。UV照射時間は、例えば、約10分-100分程度である。第1充電層16の膜厚は、例えば、約200nm-2000nm程度である。
【0042】
―第2充電層(バッファ層)18―
薬液はシリコーンオイルを溶媒と共に攪拌して形成する。この薬液を、スピン塗布装置を用いて、第1充電層16上に塗布する。回転数は例えば、約500-3000rpmである。塗布後、ホットプレート上で乾燥させる。ホットプレート上の乾燥温度は例えば、約50℃-200℃程度、乾燥時間は例えば、約5分-30分程度である。さらに、乾燥後焼成する。乾燥後焼成には、焼成炉を用い、大気中で焼成する。焼成温度は例えば、約300℃-600℃程度、焼成時間は例えば、約10分-60分程度である。焼成後、低圧水銀ランプによるUV照射を実施する。UV照射時間は例えば、約10分-60分程度である。UV照射後の第2充電層(バッファ層)18の膜厚は、例えば、約10nm-100nm程度である。
【0043】
―p型第3酸化物半導体層24―
第2充電層18上に水素を含有する酸化ニッケル(NiOyHx)膜を例えば、スパッタデポジション法で成膜することによって形成する。ここで、NiまたはNiOをターゲットとして使用可能である。また、水は、スパッタデポジション装置のチャンバー内の水蒸気若しくは水分から取り込まれる。p型酸化物半導体層(水素を含有する酸化ニッケル(NiOyHx))24の膜厚は、例えば、約200nm-1000nm程度である。
【0044】
―第2電極26―
上部電極としての第2電極26は、例えばAlをスパッタデポジション法若しくは真空蒸着法で成膜することによって形成する。p型酸化物半導体層(水素を含有する酸化ニッケル(NiOyHx))24上にAlターゲットを使用して成膜可能である。第2電極26は、例えば、ステンレスマスクを用い、指定領域のみ成膜しても良い。
【0045】
(水素を含有するp型酸化物半導体層の構成)
実施の形態に係る蓄電デバイス30において、p型酸化物半導体層24の模式的構成例は、
図2(a)に示すように表される。また、p型酸化物半導体層24の別の模式的構成例は、
図2(b)に示すように表される。
【0046】
実施の形態に係る蓄電デバイス30において、p型酸化物半導体層24は、例えば、
図2(a)に示すように、酸化ニッケルNiOと水酸化ニッケルNi(OH)
2の混在層として表される。結果として、p型酸化物半導体層24は、水素を含有する酸化ニッケル(NiO
yH
x)として表される。
【0047】
或いは、実施の形態に係る蓄電デバイス30において、p型酸化物半導体層24は、例えば、
図2(b)に示すように、酸化ニッケルNiOと水酸化ニッケルNi(OH)
2とオキシ水酸化ニッケルNiOOHの混在層として表される。結果として、p型酸化物半導体層24は、水素を含有する酸化ニッケル(NiO
yH
x)として表される。
【0048】
(放電電荷量QDと水素量CHとの関係)
二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)の分析結果より、p型酸化物半導体層24中の総水素量CHと蓄電デバイス30の放電時間TDに比例する放電電荷量QDの関係を測定した。
【0049】
実施の形態に係る蓄電デバイス30に対して、所定の時間だけ充電電圧を印加し、その後、第1電極E1・第2電極E2間を開放状態にして、放電時間TDを測定した。
【0050】
p型酸化物半導体層24の成膜条件(膜厚を含む)を変えることで、蓄電デバイス30の放電時間TDが変化する。スパッタ流量条件、膜厚を変えることで、放電時間TDが増加可能であることが判明した。
【0051】
p型酸化物半導体層24の膜厚を増加することで、蓄電デバイス30の放電時間TDを増加可能である。
【0052】
スパッタ流量(圧力)を増加することで、放電時間TDが増加可能である。例えば、具体的には、スパッタリングにおけるチャンバー内のAr/O2の流量をそれぞれ増加することで、放電時間TDが増加可能であることも判明した。
【0053】
実施の形態に係る蓄電デバイス30において、第1充電層16の膜厚tchを増加することで、放電時間TDが増加可能であることも判明した。
【0054】
実施の形態に係る蓄電デバイスにおいて、放電電荷量Q
Dとp型酸化物半導体層24中の水素量C
Hとの関係は、
図3に示すように表される。放電電荷量Q
Dと水素を含有する酸化ニッケル(NiO
yH
x)24中の水素量C
Hとの関係は、
図3に示すように、比例関係にあり、水素量C
Hを増加すると共に、放電電荷量Q
Dが増大し、蓄電性能が向上している。
【0055】
(放電電荷量QDとp型酸化物半導体層の厚さtpとの関係)
SIMSの分析結果より、p型酸化物半導体層(水素を含有する酸化ニッケル(NiOyHx))24中の水素Hの添加量は膜深さ方向にほぼ一定であった。このため、p型酸化物半導体層24の厚さtpに比例して、p型酸化物半導体層24中の総水素量は、増加している。そこで、同成膜条件でp型酸化物半導体層24の厚さtpを変更したときの、膜厚と放電時間との関係を測定し、放電電荷量QDとp型酸化物半導体層24の厚さtpとの関係を求めた。
【0056】
すなわち、実施の形態に係る蓄電デバイスにおいて、放電電荷量Q
Dとp型酸化物半導体層24の厚さt
pとの関係は、
図4に示すように表される。スパッタリング時のターゲット材料としては、金属ニッケルNiを使用した。尚、
図4において、NiOとあるのは、スパッタリング時のターゲット材料として酸化ニッケルを使用した場合(参照例)である。
【0057】
放電電荷量Q
Dとp型酸化物半導体層24の厚さt
pとの関係は、
図4に示すように、比例関係にあり、厚さt
pを増加すると共に、放電電荷量Q
Dが増大し、蓄電性能が向上している。
【0058】
(X線散乱測定結果)
実施の形態に係る蓄電デバイスにおいて、p型酸化物半導体層24のX線散乱(XRD:X-ray diffraction)測定結果は、
図5に示すように表される。XRDの測定結果、2θ=37度および43度の結果より、NiOの(111)面37度と、(200)面43度が観測されている。
【0059】
(水素量C
Hと圧力ΔPとの関係)
実施の形態に係る蓄電デバイス30において、スパッタデポジションにおけるp型酸化物半導体層24中の水素量C
Hと圧力ΔPとの関係は、
図6に示すように模式的に表される。ここで、圧力ΔP=P
1、P
2、P
3はリニアに増大しており、それぞれに対応する水素量C
H=C
P1、C
P2、C
P3もリニアに増大している。圧力ΔPは、スパッタリングにおけるチャンバー内のAr/O
2の流量をそれぞれ増加することで、変更可能である。
【0060】
p型酸化物半導体層24中の水素量C
Hと圧力ΔPとの関係は、
図6に示すように、比例関係にあり、圧力ΔPを増加することで、水素量C
Hを増加することができ、結果として放電時間T
Dが増加可能である。
【0061】
(放電時間T
Dとp型酸化物半導体層の厚さt
pとの関係)
実施の形態に係る蓄電デバイス30において、放電時間T
Dとp型酸化物半導体層24の厚さt
pとの関係は、
図7に示すように模式的に表される。ここで、厚さt
p=t
p1、t
p2、t
p3はリニアに増大しており、それぞれに対応する放電時間T
D=T
P1、T
P2、T
P3もリニアに増大している。p型酸化物半導体層24の厚さt
pは、SIMSの分析結果より、水素添加量に比例するため、厚さt
pを増大することで、p型酸化物半導体層24中の水素添加量を増大可能である。
【0062】
実施の形態に係る蓄電デバイス30において、放電時間T
Dとp型酸化物半導体層24の厚さt
pとの関係は、
図7に示すように、比例関係にあり、厚さt
pを増加することで、水素量C
Hを増加することができ、結果として放電時間T
Dが増加可能である。
【0063】
(放電時間T
Dと第1充電層の厚さt
chとの関係)
実施の形態に係る蓄電デバイス30において、放電時間T
Dと第1充電層16の厚さt
chとの関係は、
図8に示すように模式的に表される。ここで、第1充電層16の厚さt
ch=t
ch1、t
ch2、t
ch3は増大しており、それぞれに対応する放電時間T
D=T
c1、T
c2、T
c3も増大している。
【0064】
実施の形態に係る蓄電デバイス30において、放電時間T
Dと第1充電層16の厚さt
chとの関係は、
図8に示すように、比例関係にあり、厚さt
chを増加することで、第1充電層16への水素蓄積量を増大することができ、結果として放電時間T
Dが増加可能である。
【0065】
(スパッタデポジション装置)
実施の形態に係る蓄電デバイス30の製造方法において適用されるスパッタデポジション装置600の模式的構成は、
図9に示すように表される。尚、
図9の装置構成を拡張した複数枚処理可能なバッチ式装置を用いても良い。
【0066】
実施の形態に係る蓄電デバイス30の製造方法において適用されるスパッタデポジション装置600は、
図9に示すように、ガス導入口100と、ガス排出口200と、シリンダ形状の上部電極80と、ターゲット400とを備えるチャンバー500を備える。
【0067】
上部電極80上にはヒータ60およびこのヒータ60で加熱可能なサンプル基板50が配置されている。
【0068】
また、ターゲット400には磁石90が接続されており、
図9に示すように、ターゲット400上には、磁力線70が発生可能である。
【0069】
ガス導入口100からは、アルゴン(Ar)ガスおよび酸素(O2)ガスが所定の流量でチャンバー500内に供給可能である。
【0070】
ガス排出口200からは、スパッタデポジション反応後の排気ガスが排出される。ガス排出口200は、チャンバー500の外部に配置された例えば、クライオポンプ、又はターボ分子ポンプに接続されている。
【0071】
ターゲット400としては、金属Ni、若しくはNiOなどを適用可能である。
【0072】
また、サンプル基板50としては、実施の形態に係る蓄電デバイス30における第1充電層16/第1酸化物半導体層14からなる層構造、若しくは第1充電層16/第1酸化物半導体層14/第1電極(E1)からなる層構造であって、第1充電層16を露出表面とする基板サンプルが適用可能である。
【0073】
チャンバー500に対して電気的に接続された上部電極80と、チャンバー500に対して電気的に絶縁されたターゲット400間には所定の周波数で励振可能な高周波電源300が接続されている。その結果、チャンバー500内の上部電極80とターゲット400間にはアルゴンイオンAr+と電子e-からなる所定量のプラズマが発生し、アルゴンイオンAr+によるイオン衝撃によって、ターゲット400からNi原子が励起される。この励起されたNi原子は、チャンバー内の水素、酸素と反応しつつサンプル基板50表面上において、スパッタデポジション反応により、水素を含有するp型酸化物半導体層24を堆積する。結果として、p型酸化物半導体層24は、水素を含有する酸化ニッケル(NiOyHx)として表される。
【0074】
p型酸化物半導体層24の単位膜厚(体積)当たりで変換しても、水素(H)濃度を高くすることで、放電時間が増加可能である。このため、例えば、スパッタリング時、水蒸気やH2Oをチャンバー内に供給しても良い。
【0075】
(RBS)
SIMSでは、相互比較はできるが、絶対量が測定できないため、ラザフォード後方散乱分光法(RBS:Rutherford Backscattering Spectroscopy)での定量化も実施した。RBSにおいては、試料に高速イオン(He+、H+等)を照射すると、入射イオンのうち一部は試料中の原子核により弾性(ラザフォード)散乱を受ける。散乱イオンのエネルギーは、対象原子の質量及び位置(深さ)により異なる。この散乱イオンのエネルギーと収量から、深さ方向の試料の元素組成を得ることができる。この結果、一例として、Ni含有量35.20%、O含有量35.60%、H含有量29.00%の結果が得られ、原子量比で約30%の水素(H)が含まれていることが判明した。
【0076】
実施の形態に係る蓄電デバイス30においては、原子量比で15%以上の水素(H)を含む酸化ニッケル(NiOyHx)が放電するためには必要と推測される。または、化学式で、水素(H)を含む酸化ニッケル(NiOyHx)の水素量について、y=任意、x=0.35以上であることが望ましい。
【0077】
酸化ニッケル(NiO)に純粋にHが含まれている場合は、NiOHx x=0.35程度で良い。しかしながら、酸化ニッケル(NiO)にNiOOHやNi(OH)2が含まれている場合も有り得るため、水素を含む酸化ニッケル(NiOyHx)では、y=任意、x=0.35以上であることが望ましい。
【0078】
XRDでは、NiOしか検出されないが、RBSの測定で酸素がNiに対して1を超えるケースが確認されており、水素の量をNiをベースにして定義して、水素の量が充放電に寄与しているためである。RBS測定の結果、例えば、あるサンプルでは、NiOyHx:y=1、x=0.8が得られ、別のサンプルでは、NiOyHx:y=1.5、x=0.4が得られている。
【0079】
実施の形態によれば、単位体積(重さ)当たりの蓄電容量を増大可能な蓄電デバイスおよびその製造方法を提供することができる。
【0080】
[その他の実施の形態]
上記のように、実施の形態について記載したが、開示の一部をなす論述及び図面は例示的なものであり、限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0081】
例えば、ステンレス箔を基板として、実施の形態に係る蓄電デバイス30の構造をシート状に作製する。その後、このシートを積層し、必要な容量の蓄電デバイス30を作製しても良い。
【0082】
例えば、2枚のシートの第2電極(上部電極)を対向し、間に電極(薄い金属箔)を挿入し、2枚のシートを多層に重ねることで、必要な容量の蓄電デバイスを作製しても良い。後はラミネートなどで封止しても良い。
【0083】
このように、本実施の形態は、ここでは記載していない様々な実施の形態などを含む。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本実施の形態の蓄電デバイスは、様々な民生用機器、産業機器に利用することができ、通信端末、無線センサネットワーク向けの蓄電デバイスなど、各種センサ情報を低消費電力伝送可能なシステム応用向けの蓄電デバイスなど、幅広い応用分野に適用可能である。
【符号の説明】
【0085】
12…第1電極(E1)
14…第1酸化物半導体層
16…第1充電層
18…第2充電層
24…第3酸化物半導体層
26…第2電極(E2)
30…蓄電デバイス
50…サンプル基板
60…ヒータ
70…磁力線
80…上部電極
90…磁石
100…ガス導入口
200…ガス排出口
300…高周波電源
400…ターゲット
500…チャンバー
600…スパッタデポジション装置