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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】スクリュー圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/16 20060101AFI20220519BHJP
   F04C 29/12 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
F04C18/16 L
F04C29/12 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017077538
(22)【出願日】2017-04-10
(65)【公開番号】P2018178815
(43)【公開日】2018-11-15
【審査請求日】2020-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】316011466
【氏名又は名称】日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 英太
(72)【発明者】
【氏名】岩井 聡
(72)【発明者】
【氏名】米本 龍一郎
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-053280(JP,A)
【文献】特開平08-322169(JP,A)
【文献】特開2016-144356(JP,A)
【文献】特開昭58-032990(JP,A)
【文献】特開2015-001220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/16
F04C 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、
前記電動機により駆動されるスクリューロータと、
前記電動機およびスクリューロータを収納し、前記電動機の外周を保持する保持部を備え、電動機を経たガスを前記スクリューロータへ導く吸入ポートが形成されたケーシングと、を備え、
前記保持部の円周方向の両端には、前記電動機の外壁面と前記ケーシングの内壁面とによってガスが流れるガス通路が形成され、
前記保持部は、ガスの流れの下流側に位置する下流側端部を有し、前記下流側端部は、下流側に行くにつれて円周方向の幅が減少するように構成されており、
前記ケーシングの内壁面であって前記下流側端部に対向し且つ当該下流側端部の下流側で前記ガス通路とは円周方向に異なる位置には、前記内壁面から突出するガイドが設けられており、
前記ガイドは、前記保持部の円周方向の一側面から他側面に亘る範囲にのみ位置する、スクリュー圧縮機。
【請求項2】
前記ガイドは、円周方向に沿って並ぶ複数のガイドにより構成され、隣り合うガイド間には空間が形成されている、請求項1に記載のスクリュー圧縮機。
【請求項3】
前記ガイドの前記内壁面からの高さは、前記ガス通路を形成する前記電動機の前記外壁面と前記ケーシングの前記内壁面との間の距離よりも高く設定されている、請求項1または請求項に記載のスクリュー圧縮機。
【請求項4】
前記電動機は、
前記外壁面を形成する固定子と、
前記固定子から下流側へ突出するコイルエンドと、を有し、
前記ガイドの上流側の端面は、前記コイルエンドの下流側の端面より、上流側に位置する、請求項1から請求項のいずれか一項に記載のスクリュー圧縮機。
【請求項5】
前記保持部は、前記電動機を保持する他の保持部よりも、円周方向の幅が広く構成されている、請求項1から請求項のいずれか一項に記載のスクリュー圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリュー圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
密閉形スクリュー圧縮機は、スクリューロータ、スクリューロータを支持する低圧側軸受及び高圧側軸受、スクリューロータを駆動する電動機、並びに、これらを収納するケーシングにより構成される。電動機は低圧側と高圧側のいずれにも配置可能であるが、低圧側に配置すると低温、低圧の冷媒ガスで発熱した電動機を冷却できるため、低圧側に配置されるケースが多い。
【0003】
低圧側に配置された電動機は、ケーシング内周面と電動機固定子外周面との間で構成されるガス通路断面積(以下「電動機外周通路断面積」という。)と、電動機固定子内周面と電動機回転子外周面との間で構成されるガス通路断面積(以下「エアギャップ断面積」という。)により構成され、低圧側の冷媒ガスにより電動機を効果的に冷却するには、電動機外周通路断面積とエアギャップ断面積との割合を最適化する必要があるが、実際には電動機コイルエンド周囲のガス通路形状も電動機を冷却する上で重要な役割を果たすことが分かっており、電動機の冷却効率を高める手段として、電動機外周通路断面積を調整して、冷媒ガスのガス流速を増加させる技術(特許文献1および特許文献2参照)やガス衝突部材を電動機コイルエンド直後に設けガスを衝突させることで電動機のコイルエンドの上部から下部へ冷媒ガスを流す技術(特許文献3参照)記載のものなどが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭58-032990号公報
【文献】特開平01-237389号公報
【文献】特開2013-167211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
吸入冷媒ガスのみで電動機を効果的に冷却するには、構成部材として耐熱温度が低い樹脂材が含まれる電動機巻線部へ均一に低温、低圧の冷媒ガスを直接当てることが望ましいが、必要以上にガス流速を増加させると流れの圧力損失の増大により冷媒ガスの比体積が増加し冷凍能力が低下してしまう問題がある。
【0006】
そのため、使用範囲内において、電動機巻線温度が耐熱温度以下となるように冷媒ガスの流れを調整し、電動機の冷却に必要な冷媒ガスを当てることで、電動機巻線温度と圧力損失の両立を図ることが望ましい。
【0007】
特許文献1及び特許文献2に記載の技術では、大半の冷媒ガスが抵抗の少ない、つまりガス通路断面積が大きいところに流れるため、電動機の巻線に均一に冷媒ガスを流すことが困難であり、電動機巻線部根元で冷媒ガスの滞留が生じて巻線の局部的な温度上昇の要因となる。
【0008】
特許文献3に記載の技術では、スクリューロータへの吸入ポートが電動機軸中心より下側にあり、且つ、電動機軸中心より上側に電動機外周通路がある場合、スクリューロータ側の電動機巻線部において、電動機軸中心より下側の巻線部が温度上昇する。
【0009】
これは、電動機軸中心より下側は外周通路や冷媒ガスの流れの向きを調整するガイドが無く吸入ポートが開口しているため、外周通路から流出し電動機巻線部外周面に沿って流れる冷媒ガスの多くが、巻線外周面下端まで到達することなく、吸入ポートへ吸い込まれてしまう。このため、巻線外周面下端近傍で冷媒ガスが滞留し、巻線温度が局部的に上昇するため、運転範囲を制限する必要がある。
【0010】
また、巻線外周面下端を冷却するため、電動機軸中心より下側に電動機外周通路を設けた場合、電動機軸中心より下側のガス通路を流れる冷媒ガスは、吸入ポート方向(電動機軸方向)に流れるため、電動機巻線に接触し熱交換する距離が短く、巻線全体を効果的に冷却することが出来ない。更に、温度分布調整のため下側ガス通路面積を小さくした場合、圧損が増加し性能が低下する。
【0011】
そこで、本発明は、巻線の局所的な温度上昇を防ぎ、性能および信頼性向上、運転範囲を拡大可能なスクリュー圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の一態様であるスクリュー圧縮機は、電動機と、前記電動機により駆動されるスクリューロータと、前記電動機およびスクリューロータを収納し、前記電動機の外周を保持する保持部を備え、電動機を経たガスを前記スクリューロータへ導く吸入ポートが形成されたケーシングと、を備え、前記保持部の円周方向の両端には、前記電動機の外壁面と前記ケーシングの内壁面とによってガスが流れるガス通路が形成され、前記保持部は、ガスの流れの下流側に位置する下流側端部を有し、前記下流側端部は、下流側に行くにつれて円周方向の幅が減少するように構成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、巻線の局所的な温度上昇を防ぎ、性能および信頼性向上、運転範囲を拡大可能なスクリュー圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るスクリュー圧縮機の全体構成を示す縦断面図である。
図2図1のA-A矢視断面図である。
図3】保持部にスロープが形成されいない場合の、図2のB-B線に沿ってモータケーシングおよびメインケーシングを切断した状態の斜視図であり、吸入ポート前の保持部および冷媒ガスの流れの詳細図である。
図4】保持部にスロープが形成されている場合の、図2のB-B線に沿ってモータケーシングおよびメインケーシングを切断した状態の斜視図であり、吸入ポート前の保持部および冷媒ガスの流れの詳細図である。
図5】保持部にスロープが形成され、モータケーシングの内壁面にガイドが設けられている場合の、図2のB-B線に沿ってモータケーシングおよびメインケーシングを切断した状態の斜視図であり、吸入ポート前の保持部1bおよび冷媒ガスの流れの詳細図である。
図6図6は、図5のC-C矢視方向から見た図である。
図7】ガイドを複数のガイドにより構成した場合の、図2のB-B線に沿ってモータケーシングおよびメインケーシングを切断した状態の斜視図であり、吸入ポート前の保持部および冷媒ガスの流れの詳細図である。
図8】変形例に係るスロープの形状の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係るスクリュー圧縮機110を図面を用いて説明する。なお、各図において、同一符号を付した部分は同一或いは相当する部分を示している。
【0016】
以下、本発明の実施形態に係るスクリュー圧縮機110の全体構成を説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係るスクリュー圧縮機110の全体構成を示す縦断面図である。
【0018】
本実施形態に係るスクリュー圧縮機110は、密閉形のツインスクリュー圧縮機である。
【0019】
スクリュー圧縮機110において、モータケーシング1、メインケーシング2および吐出ケーシング3は、互いに密封関係に接続され、ケーシングを構成している。なお、ケーシングは鋳物で形成されている。
【0020】
モータケーシング1には、圧縮機構部を駆動させるための駆動用電動機4(以下、単に電動機4とする)が収納されている。この電動機4は、モータケーシング1内に固定された固定子20と、この固定子20の内側に回転自在に設けられた回転子21とを備えている。
【0021】
固定子20から上流側には、巻線のうち第1巻線部20a(コイルエンド)が突出している。固定子20から下流側には、巻線のうち第2巻線部20b(コイルエンド)が突出している。本実施例において、第1巻線部20aの径及び第2巻線部20bの径の夫々は、固定子20の径より小さい。第1巻線部20a及び第2巻線部20bの夫々は、固定子20に接する部分である頸部を有する。頸部の径は、第1巻線部20a及び第2巻線部20bの他の部分の径より小さい。
【0022】
モータケーシング1の端部には、吸入口18が形成されている。この吸入口18には、異物を捕集するストレーナ19が取り付けられている。このストレーナ19は、固定フランジ65とモータケーシング1に挟まれて固定されている。また、固定フランジ65には、冷凍サイクルを循環する冷媒を吸入するための吸入配管が接続されている。
【0023】
メインケーシング2には、円筒状ボア5と、この円筒状ボア5に冷媒ガスを導入するための吸入ポート6とが形成されている。また、雄ロータ11の吸込側軸部は、モータケーシング1に配設されたころ軸受7(低圧側軸受)で支持される。雄ロータ11の吐出側軸部は、吐出ケーシング3に配設されたころ軸受8及び玉軸受9(高圧側軸受)で支持される。また、雄ロータ11に平行に配置された雌ロータ12(図3参照)の吸込側軸部は、モータケーシング1に配設されたころ軸受(図示せず)で支持される。雌ロータ12の軸は、雄ロータ11の軸に対し、この図の断面の垂直方向に位置する。雌ロータ12の吐出側軸部は、吐出ケーシング3に配設されたころ軸受及び玉軸受(図示せず)で支持される。雄ロータ11と雌ロータ12は、互いに噛み合い、メインケーシング2により回転可能に支持され収納される。雄ロータ11と雌ロータ12により、互いに噛み合う雄・雌一対のスクリューロータが構成されている。このスクリューロータと、メインケーシング2に形成された円筒状ボア5などにより、圧縮機構部が構成されている。スクリューロータに対して冷媒ガスの上流側を低圧側と呼び、下流側を高圧側と呼ぶ。
【0024】
雄ロータ11の軸は、低圧側で電動機4の回転子21に直結されている。また、メインケーシング2の側面には、油分離器13が一体に形成されている。圧縮機構部で圧縮された冷媒ガスと油は、油分離器12に入って分離される。分離された油は、油分離器13下部に形成された油溜め14に溜められる。吐出ケーシング3には、ころ軸受8及び玉軸受9が収納される。また吐出ケーシング3には、油分離器13に連通する冷媒ガスの吐出通路(図示せず)が形成されている。この吐出ケーシング3は、ボルトによってメインケーシング2に固定されている。また、吐出ケーシング3内には、ころ軸受8及び玉軸受9を収納する軸受室16が形成されている。更に軸受室16を閉止する遮蔽板17が吐出ケーシング3の終端部に取り付けられている。
【0025】
スクリュー圧縮機110には、スライド弁26、ロッド27、油圧ピストン28及びコイルばね29などにより構成される容量制御機構部が設けられている。スライド弁26は、メインケーシング2内に形成された凹部2a内に、軸方向に往復動自在に収納されている。このスライド弁26の位置を移動させることにより、雄ロータ11と雌ロータ12との噛合い部に吸込まれた冷媒ガスの一部を吸入口側へバイパスして、スクリュー圧縮機110の容量を制御可能にしている。
【0026】
ロッド27、油圧ピストン28及びコイルばね29は、吐出ケーシング3に収納されている。このうち、油圧ピストン28及びコイルばね29は、吐出ケーシング3内に形成されたシリンダ室Q内に収納されている。コイルばね29は、シリンダ室Qに支持され油圧ピストン28よりもスライド弁26側に配置されることで、油圧ピストン28に対し、常にスライド弁26の反対方向に押圧する力を付与している。
【0027】
油圧ピストン28は、シリンダ室Q内に軸方向に摺動可能に収納されている。シリンダ室Q内に油を給排して、油量を調整することにより、油圧ピストン28を移動させる。この油圧ピストン28の動作がロッド27を介してスライド弁26に伝達されることにより、スライド弁26の位置が軸方向に移動し、スクリュー圧縮機110を所定の容量で運転することが可能となる。
【0028】
なお、図1では、シリンダ室Q内に油を給排して油量を調整するための油圧系統や油圧系統を開閉する電磁弁などの図示を省略している。
【0029】
次に、スクリュー圧縮機110における冷媒ガスの流れについて説明する。
【0030】
吸入口18からモータケーシング1内に吸入された低温、低圧の冷媒ガスの流れは、ストレーナ19で異物が捕集された後、電動機4とモータケーシング1の間に設けられた上側ガス通路4a、横側ガス通路4b(図2参照)、及び電動機4の固定子20と回転子21間のエアギャップ4cの流路に分かれる。
【0031】
ストレーナ19から電動機4の下方へ向かい、その後流れの向きを変え上方へ向かう冷媒ガスは、第1巻線部20aを冷却し、電動機4とモータケーシング1の間に設けられた上側ガス通路4aを通過した後、第2巻線部20b直後に設けられた壁に衝突し、第2巻線部20bを冷却しつつ第2巻線部20bの上部から下部に向けて流れ、その後、吸入ポート6に流れる。また、ストレーナ19から電動機4の下方へ向かう冷媒ガスの一部は、第1巻線部20aを冷却し、電動機4とモータケーシング1の間に設けられた横側ガス通路4bを通過した後、第2巻線部20bの下部を冷却し、その後、吸入ポート6に流れる。
【0032】
また、冷媒ガスは、エアギャップ4cを通過することで第1巻線部20a及び第2巻線部20b内側を冷却する。
【0033】
図2は、図1のA-A矢視断面図である。
【0034】
この図は、上側ガス通路4aおよび横側ガス通路4bと、エアギャップ4c、および電動機保持部1a、1bの位置関係を示している。この図に示されるように、上側ガス通路4aおよび横側ガス通路4bが複数の通路であってもよい。ここで、固定子20の外周を外壁面20cと呼ぶ。モータケーシング1には、電動機4を収納し保持する保持部1a、1bが設けられている。また、保持部1a、1bが設けられた内壁面1dにより形成された凹部1cと、固定子20の外壁面20cとで、上側ガス通路4aおよび横側ガス通路4bを形成する。また、保持部1bは、固定子20の下側を保持するように構成され、これにより固定子20の下側は塞がれ、ガス通路は形成されていない。そして、保持部1bの円周方向の両端に横側ガス通路4bが形成されている。
【0035】
吸入ポート6が電動機4の軸中心より下側にある場合、電動機4の軸中心より上側の巻線の温度が上昇しやすい。そのため、複数の上側ガス通路4aの夫々の少なくとも一部を上側に設け、電動機4の全体を冷却しやすくしている。なお、吸入ポート6が電動機4の軸中心に対して下側に設けられていることは、雄ロータ11と雌ロータ12が電動機4の軸中心に対して下側から冷媒ガスを吸い込むことを示す。
【0036】
次に、図1を参照してスクリュー圧縮機110における油の流れについて説明する。
【0037】
雄ロータ11と雌ロータ12の噛み合い歯面と、メインケーシング2とは、圧縮室(圧縮作動室)を形成する。電動機4を冷却後の冷媒ガスは、メインケーシング2に形成された吸入ポート6から、圧縮室に吸入される。その後、電動機4と直結された雄ロータ11の回転と共に、冷媒ガスは、圧縮室に密閉され、圧縮室の縮小により徐々に圧縮され、高温、高圧の冷媒ガスとなって、油分離器13内へ吐出される。
【0038】
上記圧縮時に雄ロータ11及び雌ロータに作用する圧縮反力の内、ラジアル荷重についてはころ軸受7、8により支持され、スラスト荷重については玉軸受9により支持される。
【0039】
これらころ軸受7、8、及び玉軸受9の潤滑用の油の供給について説明する。
【0040】
まず、メインケーシング2の高圧側である油分離器12の油溜め14の油は、低圧側との差圧により、低圧側軸受(吸入側軸受;ころ軸受7)を潤滑及び冷却し、吸入ポート6側へ排出される。また、油溜め14の油は、高圧側軸受(吐出側軸受;ころ軸受8、玉軸受9)を潤滑及び冷却し、吸入ポート6側或いは吸込完了直後の圧縮室などへ排出される。
【0041】
各軸受潤滑後に排出された油は、圧縮冷媒ガスと共に圧縮室を潤滑しながら流れて、圧縮冷媒ガスと共に吐出され、油分離器13内へ流入する。この油分離器13により、油は油分離器12下部に設けた油溜め14に再び溜められ、圧縮冷媒ガスは吐出口22から冷凍サイクルへと送られる。
【0042】
次に、吸入ポート6前の冷媒ガスの流れと、スロープ30及びガイド31の効果を詳細に説明する。
【0043】
図3は、保持部1bにスロープ30が形成されいない場合の、図2のB-B線に沿ってモータケーシング1およびメインケーシング2を切断した状態の斜視図であり、吸入ポート6前の保持部1bおよび冷媒ガスの流れの詳細図である。
【0044】
この図において、図中の矢印Aは冷媒ガスの流れの方向を示す。以下では、矢印A方向に沿って流れる冷媒ガスを冷媒ガスAともいう。ガス通路4bを流れる冷媒ガスは、保持部1bの下流側端部1b2の形状が、円周方向の幅が変化しない角(エッジ)1b1形状であるため、ガス通路4bから矢印A方向に流出し、吸入ポート6方向へ直接吸込まれる。これにより、保持部1bの下流側で冷媒ガスの流れが淀み、第2巻線部20bの下端部の近傍が十分に冷却されず温度上昇する。特に、第2巻線部20bの頸部の下部が温度上昇する。
【0045】
図4は、保持部1bにスロープ30が形成されている場合の、図2のB-B線に沿ってモータケーシング1およびメインケーシング2を切断した状態の斜視図であり、吸入ポート6前の保持部1bおよび冷媒ガスの流れの詳細図である。
【0046】
図4において、保持部1bは、冷媒ガスAの流れの下流側に位置する下流側端部1b2を有し、下流側端部1b2の端面1b3の円周方向両端には、電動機軸に直交する面に対して傾くスロープ30が形成されている。スロープ30により、保持部1bの下流側端部1b2は、下流側に行くにつれて円周方向の幅が減少するように構成されている。
【0047】
これにより、ガス通路4bを流れる冷媒ガスAの一部は、コアンダ効果によりスロープ30に沿って流れるので、流れを乱すことなく冷媒ガスAの流れの一部をスムーズに分岐することができる。分岐した冷媒ガスBは、保持部1bの下流側に流れ込むため、第2巻線部20bの下方まで流れが到達し、第2巻線部20bの外周面の下端を冷却することができる。よって、巻線の局所的な温度上昇を防ぎ、性能および信頼性向上、運転範囲を拡大可能なスクリュー圧縮機110を提供することができる。
【0048】
次に、保持部1bにスロープ30を形成したのに加え、ガイド31を設けた場合について説明する。
【0049】
図5は、保持部1bにスロープ30が形成され、モータケーシング1の内壁面1dにガイド31が設けられている場合の、図2のB-B線に沿ってモータケーシング1およびメインケーシング2を切断した状態の斜視図であり、吸入ポート6前の保持部1bおよび冷媒ガスの流れの詳細図である。
【0050】
図5に示すように、モータケーシング1の内壁面1dであって保持部1bの下流側の位置には、下流側端部1b2に対向するように内壁面1dから突出するガイド31が設けられている。ガイド31の内壁面1dからの高さは、ガス通路4bを形成する電動機4の外壁面20cとモータケーシング1の内壁面1dとの間の距離よりも高く設定されている。また、ガイド31は、電動機4の軸の円周方向に沿って設けられ、モータケーシング1の内壁面1d上のうち、第2巻線部20bに対向する位置に設けられている。
【0051】
このようにすることで、スロープ30から流出した流れをガイド31に直接当てることなく、スロープ30で流れの向きを円周方向に変えた冷媒ガスをガイド31に沿って流すことができるため、圧力損失の増加を抑制し、且つ、流れがガイド31を乗り越え吸入ポート6側に流出することなく第2巻線部20bの下端部まで冷媒ガスを流すことができる。よって、巻線の局所的な温度上昇を防ぎ、性能および信頼性向上、運転範囲を拡大可能なスクリュー圧縮機110を提供することができる。
【0052】
図6は、図5のC-C矢視方向から見た図である。
【0053】
図6において、保持部1bの出口側の両端にスロープ30を設けており、冷媒ガスBは互いに対向して流れ込むため、冷媒ガスBは衝突し上向き方向に流れ、第2巻線部20bの下部表面および、頸部に直接流れを当てることができ、冷却の効果を大きくすることができる。
【0054】
また、ガイド31の側面100は、ガス通路4bの円周方向の側面101の内側に設けるとよい。この様に配置することで、ガス通路4bを流れる冷媒ガスAがガイド31に当たることなくスムーズに吸入ポート側に流れるため、流れの圧力損失が増加することなく性能低下を抑制できる。
【0055】
次に、ガイド31を複数のガイド31により構成した場合について説明する。
【0056】
図7は、ガイド31を複数のガイド31により構成した場合の、図2のB-B線に沿ってモータケーシング1およびメインケーシング2を切断した状態の斜視図であり、吸入ポート6前の保持部1bおよび冷媒ガスの流れの詳細図である。
【0057】
図7において、ガイド31は、円周方向に沿って並ぶ2つガイド31により構成され、ガイド31の間に空間32が形成されいている。これにより、スロープ30により保持部1bの下流側に流れ込む冷媒ガスBの一部を、スムーズに吸入ポート6へ流すことができ、流れの抵抗を抑制することが出来る。さらに、ガイド31の円周方向の長さを調整し、空間32の位置を、第2巻線部20bの発熱部に対し、その径方向近傍に設けることで、保持部1bの両側から流れ込む冷媒ガスBは、空間32の位置の近傍で衝突し、発熱部の表面および顎部に、冷媒ガスを直接流すことができ、より冷却の効果が大きくなる。
【0058】
ここで、スロープ30は、傾斜面を深くする(冷媒ガスAの方向とスロープ30とが形成する角度を小さくする)ことで、巻線下部に入り込む冷媒ガス流量を増加させることができ、冷却効果をより大きくできる。すなわち、発熱部の温度によって、スロープ30の深さを調整し、冷却に必要な冷媒ガスの流量を確保することができる。
【0059】
ガイド31の上流側の端面31aは第2巻線部20bの下流側の端面20dより上流側に位置する。これにより、第2巻線部20b下方に、冷媒ガスを流すことが出来る。
【0060】
ガイド31の径方向高さは、第2巻線部20bとの絶縁距離が確保できる範囲で冷媒ガスの流れに応じて変更可能である。ガイド31の径方向高さは、ガス通路4bの高さ以上であれば、冷媒ガスが、ガイド31を乗り越えて吸入ポート6に流出せず、第2巻線部20b下方に流す流量確保することが出来る。よって、ガイド31の径方向高さは、第2巻線部20bとの絶縁が確保でき、ガス通路4bの高さ以上であることが望ましい。
【0061】
図8は、変形例に係るスロープ30の形状の要部拡大図である。
【0062】
スロープ30は、図8(a)のように、スロープ30の傾斜面を円弧部(円弧面)30aのみとしている。また、図8(b)は、スロープ30の傾斜面を円弧部(円弧面)30aおよびテーパ部(平面)30bを組み合わせた形状としている。いずれの変形例においても、保持部1bの下流側端部1b2の形状が、下流側に行くにつれて円周方向の幅が減少するように構成される。なお、保持部1bの下流側端部1b2の形状は、下流側に行くにつれて円周方向の幅が減少するように構成されていればどのような形状であってもよい。
【0063】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、巻線の局所的な温度上昇を防ぎ、巻線全体の温度を均一化することができる。更に、圧力損失の増加を抑制することができるので、スクリュー圧縮機110の性能および信頼性向上、運転範囲を拡大させることができる。
【0064】
上記の実施形態では、吸入ポート6と、スロープ30およびガイド31は、雄ロータ11の軸と雌ロータ12の軸を含む仮想平面に対して同じ側に設けられているが、スロープ30、ガイド31は吸入ポート6の位置に関わらず、特定の保持部1bが他保持部1aよりも、円周方向の幅が広く構成されている場合、その下流側で流れが淀みやすくなるため、スロープ30、ガイド31は、当該特定の保持部1bに対して設けられる。これにより、保持部1bの下流側における淀みを抑制し、巻線の局所的な温度上昇を防止することができる。
【0065】
本発明の実施形態は、密閉型のツインスクリュー圧縮機に限定されるものではなく、半密閉型のものにも適用可能である。また、シングルスクリュー圧縮機等、他のスクリュー圧縮機であっても、冷媒ガスの流路において電動機の下流にスクリューロータが設けられ、冷媒ガスが電動機の軸に対して特定の方向からスクリューロータに吸入されるものであれば、本発明を適用可能である。このようなスクリュー圧縮機は、空気調和機、チラーユニット、冷凍機などに使用されることができる。
【0066】
また、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。更に、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0067】
1:モータケーシング、1a、1b:保持部、1b2:下流側端部、1b3:端面、1d:内壁面、2:メインケーシング、4:駆動用電動機、4a、4b:ガス通路、6:吸入ポート、11:雄ロータ、12:雌ロータ、20:固定子、20a:第1巻線部、20b:第2巻線部、20c:外壁面、20d:端面、21:回転子、30:スロープ、30a:円弧部、30b:テーパ部、31:ガイド、31a:端面、32:空間、100:側面、101:ガス通路側面、110:スクリュー圧縮機

図1
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図5
図6
図7
図8