(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】車両用シートの調整方法及び車両用シート装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/22 20060101AFI20220519BHJP
B60N 2/64 20060101ALI20220519BHJP
A47C 1/024 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
B60N2/22
B60N2/64
A47C1/024
(21)【出願番号】P 2017218493
(22)【出願日】2017-11-13
【審査請求日】2020-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】13-15 Quai Alphonse Le Gallo 92100 Boulogne-Billancourt,France
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】三浦 宏明
(72)【発明者】
【氏名】高松 敦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 良隆
(72)【発明者】
【氏名】勝部 健一
(72)【発明者】
【氏名】中村 武
(72)【発明者】
【氏名】田中 大助
(72)【発明者】
【氏名】本間 昭
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-181244(JP,U)
【文献】実開昭64-054844(JP,U)
【文献】特開2006-160217(JP,A)
【文献】特開2017-178162(JP,A)
【文献】特開2017-136874(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0175841(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/22
B60N 2/64
A47C 1/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションと、前記シートクッションに着座する乗員の背中を支持するバックレストの傾斜角を調整するアクチュエータとを備える車両用シートの調整方法であって、
リクライニング時における乗員の基準回転中心より下方、且つ、前記バックレストの前記シートクッション側の端部より前方に定義された回転中心であり、且つ前記車両用シートが搭載された車両に対して相対的に固定された前記回転中心の回りに、前記バックレストを回転させ
、
前記バックレストの傾斜角に応じて前記バックレストの位置を調整する位置調整アクチュエータにより、前記シートクッションの後端部と前記バックレストの前記シートクッション側の端部との間の距離を調整することを特徴とする車両用シートの調整方法。
【請求項2】
シートクッションと、前記シートクッションに着座する乗員の背中を支持するバックレストの傾斜角を調整するアクチュエータとを備える車両用シートの調整方法であって、
リクライニング時における乗員の基準回転中心より下方、且つ、前記バックレストの前記シートクッション側の端部より前方に定義された回転中心の回りに、前記バックレストを回転させ、
前記バックレストの傾斜角に連動して、前記バックレストを有するシートバックのフレームに沿って前記バックレストをスライドすることにより、前記シートクッションの後端部と前記バックレストの前記シートクッション側の端部との間の距離を調整することを特徴とする車両用シートの調整方法。
【請求項3】
前記基準回転中心を通る前記シートクッションの法線に平行な方向において、前記基準回転中心より前記シートクッション側に、前記回転中心を定義することを特徴とする請求項1
又は2に記載の車両用シートの調整方法。
【請求項4】
前記バックレストの傾斜角が大きくなると、前記シートクッションの後端部と前記バックレストの前記シートクッション側の端部との間の距離を短くすることを特徴とする請求項
1~3のいずれか1項に記載の車両用シートの調整方法。
【請求項5】
前記バックレストの傾斜角が小さくなると、前記シートクッションの後端部と前記バックレストの前記シートクッション側の端部との間の距離を長くすることを特徴とする請求項
1~3のいずれか1項に記載の車両用シートの調整方法。
【請求項6】
前記シートクッションに対して固定されたリンク機構により、前記バックレストを回転させることを特徴とする請求項
1に記載の車両用シートの調整方法。
【請求項7】
前記リンク機構を前記シートクッションの後方に設けることを特徴とする請求項6に記載の車両用シートの調整方法。
【請求項8】
前記バックレストの傾斜角に応じて前記バックレストの位置を調整する位置調整アクチュエータにより、前記シートクッションの後端部と前記バックレストの前記シートクッション側の端部との間の距離を調整することを特徴とする請求項
2に記載の車両用シートの調整方法。
【請求項9】
シートクッションと、前記シートクッションに着座する乗員の背中を支持するバックレストの傾斜角を調整するアクチュエータとを備える車両用シート装置であって、
前記バックレストは、リクライニング時における乗員の基準回転中心より下方、且つ、前記バックレストの前記シートクッション側の端部より前方に定義された回転中心であり、且つ前記車両用シートが搭載された車両に対して相対的に固定された前記回転中心の回りを回転
し、
前記バックレストの傾斜角に応じて前記バックレストの位置を調整する位置調整アクチュエータにより、前記シートクッションの後端部と前記バックレストの前記シートクッション側の端部との間の距離を調整することを特徴とする車両用シート装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートの調整方法及び車両用シート装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、シートバックを着座姿勢に保ち、また、角度調整乃至はシートクッション側まで前倒しするリクライニングロック機構と、シートクッションをシートバック側まで跳ね上げるチップアップロック機構とを備えるリクライニングシートを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、リクライニング時の乗員の背中の支持位置変化を何ら考慮していない。
【0005】
本発明は、上記問題点を鑑み、リクライニング時の乗員の背中の支持位置変化を低減することができる車両用シートの調整方法及び車両用シート装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る車両用シートの調整方法は、シートクッションに着座する乗員の背中を支持するバックレストの傾斜角を調整する際に、リクライニング時における乗員の基準回転中心より下方、且つ、バックレストのシートクッション側の端部より前方に定義された回転中心の回りを、バックレストが回転することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、リクライニング時の乗員の背中の支持位置変化を低減することができる車両用シートの調整方法及び車両用シート装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る車両用シート装置の構成をリクライニングシートの側面図と共に説明するブロック図である。
【
図2】シートバックを後方に倒した場合のリクライニングシートの側面図である。
【
図3】バックレストの回転中心の位置を説明するための模式的な図である。
【
図4】第1実施形態に係る車両用シートの調整方法の一例を説明するフローチャートである。
【
図5】第2実施形態に係る車両用シート装置の構成をリクライニングシートの側面図と共に説明するブロック図である。
【
図6】シートバックを後方に倒した場合のリクライニングシートの側面図である。
【
図7】第3実施形態に係る車両用シート装置の構成をリクライニングシートの側面図と共に説明するブロック図である。
【
図9】シートバックを後方に倒した場合のリクライニングシートの側面図である。
【
図10】シートバックを後方に倒した場合のリクライニングシートの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる場合が含まれる。以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、下記の実施形態に例示した装置や方法に特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る車両用シート装置は、
図1に示すように、リクライニングシート1と、角度センサ51と、角度調整アクチュエータ52と、位置調整アクチュエータ53と、コントローラ54と、入力インターフェース(I/F)55とを備える。
リクライニングシート1は、車両に搭載され、車両の乗員に着座されるシートである。
【0011】
リクライニングシート1は、乗員の背中(背面)を支持するバックレスト11を有するシートバック10と、乗員が着座するシートクッション20及び補助部21と、ロアレール31と、アッパーレール32と、ロアフレーム33と、リフタ機構40とを備える。
【0012】
バックレスト11は、シートバック10の前面のうち、乗員の背中を直接的に支持する領域に相当する。補助部21は、乗員が着座する座面をシートクッション20と共有する部材であり、シートクッション20とシートバック10との間を連結する部材である。補助部21は、
図1に示すように側方から見てL字状である。補助部21は、シートバック10の下端部(シートクッション20側の端部)に固定され、シートバック10と一体に運動する。
【0013】
補助部21は、シートクッション20の後端部(
図1における右側の端部)に配置された回転軸100の回りを回転可能にシートクッション20に連結される。回転軸100は、車両の幅方向(
図1の奥行方向)に平行である。シートクッション20及びシートバック10は、回転軸100の回りを相対的に回転する。
図1に示すように、シートバック10(バックレスト11)の傾斜角θが基準角(例えば21°)の場合、シートクッション20及び補助部21の一部は、乗員の尻部を支持する座面を構成する。
【0014】
シートバック10は、図示を省略したシートバックフレームを内部に有する。シートバックフレームは、シートバック10の骨格を構成し、シートバック10の傾斜角(バックアングル)θを定義する。傾斜角θは、鉛直方向D1と後方に傾斜するシートバックフレームに沿う方向D2とのなす角である。シートバックフレームは、例えばバックレスト11に平行である。方向D2は、例えばJISD0024又はISO6549に規定されるトルソラインに平行な方向である。
【0015】
ロアレール31は、車両の前後方向(
図1の左右方向)に沿うように、車両の床面にブラケットを介して設置される。アッパーレール32は、ロアレール31上をスライド可能なように配置される。これにより、リクライニングシート1は、車両の前後方向においてスライド可能となる。ロアフレーム33は、アッパーレール32上に配置され、リフタ機構40を介してシートクッション20を支持する。
【0016】
図2に示すように、シートバック10及び補助部21が回転軸100の回りを回転することにより、シートバック10の傾斜角θが変化する。このとき、リフタ機構40は、シートバック10の傾斜角θに連動して、シートクッション20を変位させる。リフタ機構40は、例えばリンク機構により構成される。具体的には、傾斜角θが所定の範囲内(例えば21°~55°)のとき、シートクッション20は、傾斜角θが大きくなる程、リフタ機構40により上昇され、傾斜角θが小さくなる程、リフタ機構40により下降される。
【0017】
シートクッション20が上昇することにより、シートクッション20の後端部に配置された回転軸100も上昇する。シートクッション20は、シートクッション20の後端部の上昇する割合が前端部より大きくなるように、リフタ機構40により上昇される。これにより、
図1及び
図2に示すように、シートバック10及び補助部21の回転中心Rが定義される。
【0018】
回転中心Rは、車両に対して相対的に固定され、又は所定の範囲内に収まるように定義される。回転中心Rは、リクライニング時の乗員の回転中心H(基準回転中心)より下方、且つ、シートバック10の下端端部より前方(
図1における左方)に定義される。「リクライニング時の乗員の回転中心」とは、例えばJISD0024又はISO6549に規定されるH点であり、胴部と大腿部の回転中心点であり得る。
【0019】
図3は、実際に人間がシートに着座した状態を説明する模式図である。
図3において、点Aは、シートバック10の下端部に対応し、一般的なシートバックの回転中心に対応する。点Cは、乗員の基準回転中心Hに対応する。点Cが、例えば成人男子の50パーセンタイル人体模型における大転子に対応するとき、点Bは、概ね坐骨結節に対応する。点Dは、点Cを通る座面の法線と座面との交点に対応する。
【0020】
発明者らは、バックレストの回転中心Rを、
図3における点A~点Dのそれぞれに設定し、シートバック10の傾斜角θを21°から55°まで変化させた場合の乗員の背中及び尻部の支持位置変化を測定した。その結果、最も背中の支持位置変化が少ない回転中心Rの位置は、点Cであった。次に背中の支持位置変化が少ない回転中心Rの位置は、点Dであった。一方、最も尻部の支持位置変化が少ない回転中心Rの位置は、点A及び点Dであった。
【0021】
シートバック10、即ちバックレスト11の回転中心Rは、乗員の基準回転中心Hより下方、且つ、シートバック10の下端部より前方に定義される。よって、
図3では、回転中心Rは、点Cより下方且つ点Aより前方(
図3において左方)に定義されることを意味する。これにより、バックレスト11の回転中心Rは、乗員の基準回転中心Hに近接するため、リクライニング時の乗員の背中の支持位置変化を低減することができる。
【0022】
更に、回転中心Rは、乗員の基準回転中心Hを通るシートクッション20の法線に平行な方向において、基準回転中心Hよりシートクッション20側に定義されてもよい。即ち、
図3では、回転中心Rは、点Cを通り座面に平行な面より下方に定義されることを意味する。また、回転中心Rは、点Cと点Dとの間に定義されてもよい。これにより、リクライニング時の乗員の背中及び尻部の支持位置変化を低減することができる。その他、回転中心Rは、基準回転中心Hから所定の距離範囲に定義されてもよい。回転中心Rは、所定の範囲内(例えば21°~55°)における任意の傾斜角θのときのバックレスト11により求まる回転中心である。
【0023】
角度センサ51は、シートバック10の傾斜角θを検出する。角度センサ51は、シートクッション20に対するシートバック10の角度とシートクッション20の変位量とに基づいて、傾斜角θを検出するようにしてもよい。角度センサ51は、傾斜角θを示す信号をコントローラ54に出力する。
【0024】
角度調整アクチュエータ52は、シートバック10及び補助部21を回転軸100の回りに回転させることにより、シートバック10の傾斜角θを調整するアクチュエータである。角度調整アクチュエータ52は、例えば、回転軸100に配置されたモータであり、シートクッション20に対するシートバック10の角度を調整する。位置調整アクチュエータ53は、シートクッション20を変位させて回転軸100を変位させることにより、バックレスト11(シートバック10)の回転中心Rの位置を所定の位置に調整するアクチュエータである。位置調整アクチュエータ53は、例えば、リフタ機構40に配置されたモータである。
【0025】
コントローラ54は、例えば、第1実施形態に係る車両用シート装置が行う動作に必要な処理の算術論理演算を行う電子制御ユニット(ECU)等の処理回路であり、例えば、プロセッサ、記憶装置及び入出力インターフェースを備えてもよい。プロセッサには、算術論理演算装置(ALU)、各種レジスタ等を含む中央演算処理装置(CPU)等に等価なマイクロプロセッサ等を対応させることができる。記憶装置は、複数のレジスタ、複数のキャッシュメモリ、主記憶装置、補助記憶装置の他、半導体メモリやディスクメディア等を含む一群の内から適宜選択された任意の組み合わせにより構成され得る。プロセッサは、記憶装置に予め記憶された、第1実施形態に係る車両用シート装置の動作に必要な一連の処理を示すプログラム(車両用シート調整プログラム)を実行する。
【0026】
コントローラ54は、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)等で物理的に構成されてもよく、汎用の半導体集積回路中にソフトウェアによる処理で等価的に設定される機能的な論理回路等でも構わない。コントローラ54は、単一のハードウェアから構成されてもよく、別個のハードウェアから構成されてもよい。角度センサ51、角度調整アクチュエータ52、位置調整アクチュエータ53、コントローラ54及び入力I/F55は、例えば、コントローラエリアネットワーク(CAN)バス等の通信ネットワークで互いに接続されている。
【0027】
入力I/F55は、例えば乗員の操作に応じた信号をコントローラ54に出力する入力インターフェースである。入力I/F55としては、タッチパネル等のポインティングデバイス、マイク、各種スイッチ、キーボード等の他、カメラ、脳波計等を採用することも可能である。入力I/F55は、シートバック10の傾斜角θの増減を示す指示信号や、所定の傾斜角θを示す指示信号をコントローラ54に出力する。
【0028】
コントローラ54は、入力I/F55から入力された指示信号に応じて、角度調整アクチュエータ52を駆動することにより、シートバック10の傾斜角θを調整する。コントローラ54は、車両の運転モードに応じて傾斜角θを調整するようにしてもよい。運転モードは、例えば、先行車追従制御、車間距離制御、車線逸脱防止制御のうち、少なくともいずれかを実行する自動運転モードと、いずれも実行しない手動運転モードとに大別される。
【0029】
コントローラ54は、例えば、角度センサ51から入力された傾斜角θを示す信号に応じて、位置調整アクチュエータ53を駆動する。位置調整アクチュエータ53は、シートバック10の傾斜角θに連動してシートクッション20を変位させる。これにより、バックレスト11は、シートバック10の傾斜角θに連動して回転中心Rの回りを回転する。
【0030】
或いは、角度調整アクチュエータ52及び位置調整アクチュエータ53は、一体のアクチュエータにより構成されてもよい。即ち、乗員の基準回転中心Hより下方、且つ、シートバック10の下端部より前方に定義された回転中心Rの回りをバックレスト11が回転するように構成されたリンク機構等の機構を、一体のアクチュエータにより駆動するようにしてもよい。この場合、角度センサ51は不要である。
【0031】
次に、
図4のフローチャートを用いて、第1実施形態に係る車両用シート装置による車両用シートの調整方法の一例を説明する。
図4に示す一連の処理は、所定の周期で繰り返し実行される。
【0032】
先ず、ステップS1において、コントローラ54は、角度センサ51により入力された傾斜角θを示す信号に基づいて、シートバック10の傾斜角θが変化したか否かを判定する。傾斜角θが変化した場合、ステップS2に処理を進め、傾斜角θが変化しない場合、処理を終了する。
【0033】
ステップS2において、コントローラ54は、角度センサ51により入力された傾斜角θを示す信号に応じて、位置調整アクチュエータ53を駆動することにより、シートクッション20及び回転軸100を変位させる。これにより、コントローラ54は、回転中心Rが車両に対して相対的に固定され、又は所定の範囲内に収まるように、シートバック10の位置を調整する。
【0034】
第1実施形態に係る車両用シート装置によれば、バックレスト11が、リクライニング時における乗員の基準回転中心Hより下方、且つ、シートバック10の下端部より前方に定義された回転中心Rの回りを回転する。これにより、リクライニング時の乗員の背中とバックレスト11との相対位置変化が低減され、乗員の背中の支持位置変化を低減することができる。
【0035】
また、回転中心Rは、乗員の基準回転中心Hを通るシートクッション20の法線に平行な方向において、基準回転中心Hより下方に定義されてもよい。これにより、リクライニング時の乗員の尻部とシートクッション20との相対位置変化が低減され、乗員の背中の支持位置変化のみならず、尻部の支持位置変化をも低減することができる。
【0036】
また、第1実施形態に係る車両シート調整装置によれば、シートバック10がシートクッション20の後端部に配置された回転軸100の回りを回転し、シートクッション20がシートバック10の傾斜角θに連動して変位する。これにより、シートバック10の回転中心Rを定義するための機構を、シートバック10の前方に配置することができるため、リクライニングシート1が後方に張り出すことを抑制し、リクライニングシート1の後方のスペースを確保することができる。
【0037】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る車両用シート装置は、
図5に示すように、リクライニングシート1Aが、シートクッション20の後方に設けられたリンク機構40Aを備える点等で第1実施形態と異なる。第2実施形態において説明しない構成、作用及び効果は、第1実施形態と実質的に同様であり、重複するため省略する。
【0038】
リクライニングシート1Aのシートバック10Aは、例えば、バックレスト11、シートバックフレーム12A及びヘッドレストフレーム15を有する。シートバックフレーム12Aは、シートバック10Aの内部に配置され、シートバック10Aの骨格を構成する。ヘッドレストフレーム15は、シートバックフレーム12Aの上部に配置され、図示を省略したヘッドレストの骨格を構成する。リクライニングシート1Aのシートクッション20Aは、シートクッション20Aの骨格を構成するシートクッションフレーム25を有する。
【0039】
リンク機構40Aは、シートクッションフレーム25に対して相対的に固定される固定リンク41と、第1ジョイント42及び第2ジョイント43と、第1可動リンク44及び第2可動リンク45とを備える。第1ジョイント42及び第2ジョイント43のそれぞれは、固定リンク41に配置される。第1可動リンク44は、第1ジョイント42により固定リンク41に連結される。第2可動リンク45は、第2ジョイント43により固定リンク41に連結される。
【0040】
第1可動リンク44の第1ジョイント42と反対側の端部には、シートバック10Aの回転軸100が配置される。回転軸100は、シートバック10Aにおいて下端部に位置する。シートバック10Aは、回転軸100の回りを回転する。第2可動リンク45の第2ジョイント43と反対側の端部には、図示を省略した第3ジョイントが配置され、回転軸100と第3ジョイントとの間には、図示を省略した第3可動リンクが配置される。
【0041】
シートバック10Aは、コントローラ54の制御によって角度調整アクチュエータ52が駆動することにより、回転軸100の回りを回転する。これにより、シートバック10Aの傾斜角θが変化する。傾斜角θは、角度センサ51により検出され、コントローラ54に入力される。コントローラ54は、傾斜角θに応じて、位置調整アクチュエータ53を駆動することにより、リンク機構40Aが動作する。
【0042】
図5及び
図6に示すように、リンク機構40Aは、傾斜角θに連動して動作することにより、回転軸100を変位させる。具体的には、傾斜角θが所定の範囲内(例えば21°~55°)のとき、回転軸100は、傾斜角θが大きくなる程、リンク機構40Aにより下降され、傾斜角θが小さくなる程、リンク機構40Aにより上昇される。更に詳細には、傾斜角θが大きくなるとシートクッション20Aとバックレスト11との間の距離が短くなり、傾斜角θが小さくなるとシートクッション20Aとバックレスト11との間の距離が長くなる。このように、シートクッション20Aとバックレスト11との間の距離は、シートバック10Aの傾斜角θに連動してリンク機構40Aにより調整される。これにより、バックレスト11の回転中心Rが定義される。
【0043】
コントローラ54は、例えば、角度センサ51から入力された傾斜角θを示す信号に応じて、位置調整アクチュエータ53を駆動する。位置調整アクチュエータ53は、シートバック10Aの傾斜角θに連動してリンク機構40Aを動作させる。これにより、バックレスト11は、シートバック10Aの傾斜角θに連動して回転中心Rの回りを回転する。
【0044】
なお、回転軸100は、必ずしも位置調整アクチュエータ53により変位される必要はない。例えば、シートバック10Aは、一体のアクチュエータにより傾斜角θが調整され、リンク機構40Aとして、傾斜角θに連動してバックレスト11が回転中心Rの回りを回転するように構成された機構を採用してもよい。
【0045】
図5及び
図6に示す例において、回転中心Rは、乗員の基準回転中心Hの下方に位置する。より正確には、回転中心Rは、概略として、基準回転中心Hを通るシートクッション20Aの座面の法線とシートクッション20Aの座面との交点に対応する位置に定義される。これにより、第2実施形態に係る車両用シート装置によれば、乗員の背中の支持位置変化のみならず、尻部の支持位置変化をも低減することができる。
【0046】
第2実施形態に係る車両用シート装置によれば、バックレスト11の回転中心Rを定義するリンク機構40Aが、シートクッション20Aの後方に配置されるため、シートクッション20Aの下方のスペースを確保することができる。特に、大容量のバッテリーや受電装置を搭載する必要がある電動車両では、一般的にシート下方のスペースが求められるため、リンク機構40Aを採用することにより、スペースを有効に利用することができる。
【0047】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態に係る車両用シート装置は、
図7及び
図8に示すように、リクライニングシート1Bのシートバック10Bが、シートバックフレーム12Bに沿ってスライドするバックレスト11Bを有する点等で第1実施形態と異なる。第3実施形態において説明しない構成、作用及び効果は、第1及び第2実施形態と実質的に同様であり、重複するため省略する。
【0048】
シートバックフレーム12Bの下端部は、回転軸100を介してシートクッションフレーム25の後端部に連結される。これにより、シートバック10Bは、シートクッション20Bに対して固定された回転軸100の回りを回転する。シートバック10Bは、概略としてシートバックフレーム12Bに平行に配置されるバックレストフレーム13を備える。バックレスト11B及びヘッドレストフレーム15は、バックレストフレーム13に対して相対的に固定される。バックレスト11B、ヘッドレストフレーム15及びバックレストフレーム13は、シートバックフレーム12Bに沿ってスライド可能にシートバック10Bに配置される。
【0049】
シートバック10Bは、コントローラ54の制御によって角度調整アクチュエータ52が駆動することにより回転軸100の回りを回転する。これにより、シートバック10Bの傾斜角θが変化する。角度センサ51は、傾斜角θを検出し、傾斜角θを示す信号をコントローラ54に出力する。コントローラ54は、傾斜角θに応じて、位置調整アクチュエータ53の駆動を制御する。
【0050】
図9及び
図10に示すように、位置調整アクチュエータ53は、バックレスト11Bをシートバックフレーム12Bに沿ってスライドさせることにより、シートクッション20Bとバックレスト11Bとの間の距離を調整する。このように、コントローラ54は、位置調整アクチュエータ53を介して、傾斜角θに連動してバックレスト11Bをスライドさせることにより、バックレスト11Bが、回転中心Rの回りを回転するように運動させる。
【0051】
具体的には、傾斜角θが所定の範囲内(例えば21°~55°)のとき、傾斜角θが大きくなるとシートクッション20Bとバックレスト11Bとの間の距離が短くなり、傾斜角θが小さくなるとシートクッション20Bとバックレスト11Bとの間の距離が長くなる。このように、シートクッション20Aとバックレスト11との間の距離は、傾斜角θに応じてコントローラ54により調整される。これにより、バックレスト11の回転中心Rが定義される。
【0052】
なお、バックレスト11Bは、必ずしも角度調整アクチュエータ52と別個の位置調整アクチュエータ53によりスライドされる必要はない。例えば、シートバック10Bは、一体のアクチュエータにより傾斜角θが調整され、傾斜角θに連動してバックレストフレーム13をシートバックフレーム12Bに沿ってスライドするように構成されたリンク機構40B等により、回転中心Rの回りを回転するようにしてもよい。リンク機構40Bは、バックレスト11Bの下方において、シートクッションフレーム25の内側に配置されることが好ましい。
【0053】
また、第3実施形態に係る車両用シート装置では、シートバック10Bのカバーとして、シートバックフレーム12Bを覆う第1カバーと、バックレスト11Bを覆い、バックレスト11Bと共にスライドする第2カバーとを使用する必要がある。
【0054】
図7及び
図9に示す例において、回転中心Rは、乗員の基準回転中心Hにほぼ一致する。このように、本発明において、基準回転中心Hより下方とは、基準回転中心Hから所定の範囲内の任意の点より下方である場合を含み得る。これにより、第3実施形態に係る車両用シート装置によれば、乗員の背中の支持位置変化を著しく低減することができる。
【0055】
第3実施形態に係る車両用シート装置によれば、シートバックフレーム12Bに沿ってバックレスト11Bをスライドさせることにより、シートクッション20Bとバックレスト11Bとの間の距離を調整する。このため、シートクッション20Bの下方や後方のスペースを確保することができる。特に、大容量のバッテリーや受電装置を搭載する必要がある電動車両では、一般的にシート下方のスペースが求められるため、スペースを有効に利用することができる。
【0056】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0057】
例えば、既に述べた実施の形態において、ロアレール31又はアッパーレール32に配置されたアクチュエータを用いて、傾斜角θに連動してリクライニングシートの前後位置を調整するようにしてもよい。
【0058】
その他、上記の実施形態において説明される各構成を任意に応用した構成等、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0059】
1,1A,1B リクライニングシート
10,10A,10B シートバック
11,11B バックレスト
12A,12B シートバックフレーム
20,20A,20B シートクッション
25 シートクッションフレーム
40A,40B リンク機構
52 角度調整アクチュエータ
53 位置調整アクチュエータ
100 回転軸
H 乗員の回転中心(基準回転中心)
R バックレストの回転中心
θ 傾斜角(バックアングル)