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特許7075758活性pH範囲が広い酵素の消化促進用薬物としての使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】活性pH範囲が広い酵素の消化促進用薬物としての使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/55 20060101AFI20220519BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20220519BHJP
   C12N 9/20 20060101ALI20220519BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220519BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20220519BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20220519BHJP
   A61K 35/68 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
C12N15/55 ZNA
A61K38/46
C12N9/20
A61P43/00 121
A61P1/00
A61P1/18
A61K35/68
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017538595
(86)(22)【出願日】2016-01-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2016051341
(87)【国際公開番号】W WO2016116600
(87)【国際公開日】2016-07-28
【審査請求日】2018-12-20
(31)【優先権主張番号】1501081.2
(32)【優先日】2015-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502210459
【氏名又は名称】シリアン アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ハートマン マルクス ヴォルフ ヴィリアム
(72)【発明者】
【氏名】アルダグ インゴ
【審査官】新留 豊
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-512375(JP,A)
【文献】特表2010-519217(JP,A)
【文献】特表平08-504580(JP,A)
【文献】国際公開第2007/053619(WO,A2)
【文献】特表2003-524421(JP,A)
【文献】特表2004-519231(JP,A)
【文献】FIEKER, A. et al.,Clin. Exp. Gastroenterol.,2011年,Vol.4,pp.55-73
【文献】LENOIR, G.R. et al.,Pediatr. Plumonol.,2006年,Vol.41, No.S29,p.293
【文献】CARRIERE, F. et al.,Eur. J. Biochem.,1991年,Vol.202,pp.75-83
【文献】消化酵素剤 日本薬局方 パンクレアチン パンクレアチン「ホエイ」,医薬品インタビューフォーム,第5版,2013年,表題頁-目次頁, pp.1-13及び最終頁
【文献】AKOH, C.C. et al.,Lipids,2004年,Vol.39, No.6,pp.513-526
【文献】EVAGOROU, A. et al.,Eur. J. Protistol.,2010年,Vol.46,pp.289-297
【文献】FLORIN-CHRISTENSEN, J. et al.,Comp. Biochem. Physiol.,1986年,Vol.85B, No.1,pp.149-155
【文献】LEE, G.-C.,Biochem. J.,2002年,Vol.366,pp.603-611
【文献】LOTTI, M. et al.,Gene,1993年,Vol.124,pp.45-55
【文献】GRUBER, V. et al.,Mol. Breed.,2001年,Vol.7,pp.329-340
【文献】VAKHLU, J. and KOUR, A.,Electron. J. Biotechn.,2006年,Vol.9, No.1,pp.69-85
【文献】岩波 理化学辞典,第5版,2003年,第43、171、543、及び848頁
【文献】FALLINGBORG, J.,Dan. Med. Bull.,1999年,Vol.46, No.3,pp.183-196
【文献】CANTOR M D; VAN DEN TEMPEL T; HANSEN T K; ARDO Y,BLUE CHEESE,CHEESE: CHEMISTRY, PHYSICS AND MICROBIOLOGY / MAJOR CHEESE GROUPS,ELSEVIER,2004年,V.2,PAGE(S):176-198,https://www.elsevier.com/books/cheese-chemistry-physics-and-microbiology/fox/978-0-12-263653-0
【文献】TAMIO MASE; YUKO MATSUMIYA; AKIRA MATSUURA,PURIFICATION AND CHARACTERIZATION OF PENICILLIUM ROQUEFORTI IAM 7268 LIPASE,BIOSCIENCE BIOTECHNOLOGY BIOCHEMISTRY,日本,JAPAN SOCIETY FOR BIOSCIENCE, BIOTECHNOLOGY, AND A,1995年,VOL:59, NR:2,PAGE(S):329 - 330,http://dx.doi.org/10.1271/bbb.59.329
【文献】LAMBERET, G. and MENASSA, A.,J. Dairy Res.,1983年,Vol.50,pp.459-468
【文献】LENOIR, G. et al.,Pediatr. Plumonol.,2008年,Vol.43, No.S31,p.306
【文献】LEE, L.-C. et al.,J. Agric. Food Chem.,2007年,Vol.55,pp.5103-5108
【文献】LOWE, M.E. and WHITCOMB, D.C,Gastroenterology,2015年10月23日,Vol.149, No.7,pp.1678-1681
【文献】NIXON, M. and CHAN, S.H.P.,Anal. Biochem.,1979年,Vol.97,pp.403-409
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上のリパーゼ酵素を含む、脂質消化不全および/または消化器疾患の治療のための医薬組成物であって、前記2種以上のリパーゼ酵素が繊毛虫門の生物に由来し、かつ前記2種以上のリパーゼ酵素のうち少なくとも1種のリパーゼ酵素が配列番号4と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む酵素、および配列番号6と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む酵素からなる群から選択され、少なくとも1種の他のリパーゼ酵素が配列番号5と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む酵素である、医薬組成物。
【請求項2】
胃から下部小腸にかけての脂肪分解を助けるために使用される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種のリパーゼ酵素が配列番号4または6に記載のアミノ酸配列を含み、および/または前記少なくとも1種の他のリパーゼ酵素が配列番号5に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記消化器疾患が膵外分泌機能不全である、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物の製造方法あって、
a)1つ以上の好適な産生系において前記2種以上のリパーゼ酵素を発現させる工程、および
b)工程(a)で発現した2種以上のリパーゼ酵素を精製する工程、
を含む、製造方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種のリパーゼ酵素または前記少なくとも1種の他のリパーゼ酵素が繊毛虫門の生物に由来しかつ当該生物おける発現である相同発現によって産生される、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種のリパーゼ酵素または前記少なくとも1種の他のリパーゼ酵素が繊毛虫門の生物に由来し、かつ過剰発現によって、または当該生物における過剰発現である相同過剰発現によって産生される、請求項5または6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種のリパーゼ酵素が配列番号1または3に示すヌクレオチド配列によってコードされ、かつ前記少なくとも1種の他のリパーゼ酵素が配列番号2に示すヌクレオチド配列によってコードされる、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化器疾患を治療するための繊毛虫由来の相同発現酵素を含有する薬物に関する。
【0002】
消化器疾患の存在は、医療全般において、および内科の分野においてどんどん大きくなっている。このような消化器疾患は、程度の差はあるが、多くの場合、いわゆる膵臓酵素の著しい欠損の結果である。健康な状態では、これらの酵素は高度に特殊化された細胞、いわゆる腺房細胞によって膵臓で合成され、腺房腔と主膵管を介したエキソサイトーシスによって十二指腸へと分泌される。膵臓からの分泌量は1日当たり約2リットルである。膵臓分泌物は、脂肪を消化するリパーゼに加えて、タンパク質(トリプシン、キモトリプシンおよびカルボキシペプチダーゼ)および炭水化物(α-アミラーゼ)を消化するための酵素も含んでいる。膵臓からの酵素分泌は、ガストリン、セクレチンおよびパンクレオザイムのようなホルモンを介した内因性制御機構によって正確に制御されている。この制御系は、多くの要因によって妨害され、その結果、膵臓からの酵素分泌の減少または膵臓の外分泌機能の完全な低下が生じる場合がある。そうなると次に、粥状液が小腸で消化されず、消化器障害が引き起こされる。膵外分泌不全(EPI)とも呼ばれる消化管のこの疾患は、異なる原因によって引き起こされる場合もある。薬物によって引き起こされる胃腸障害に加えて、アルコールの摂取によって起こることが多い慢性萎縮性胃炎や慢性膵炎、手術によって生じる障害(例えば、ビルロートIおよびII、迷走神経切除術、膵臓切除)および嚢胞性線維症が、膵機能不全の病因である。いずれにしても、慢性の消化器疾患は、症状が顕在化しない場合が多く、余命が短くなるため、社会医学的にも経済的にも憂慮すべき問題である。
【0003】
膵臓の消化器疾患、特にEPIは、下痢、便秘、枯渇感、上腹部愁訴、体重減少などの多くの問題を患者に引き起こす。
【0004】
栄養失調に関連した普及と死亡を回避するため、膵臓消化障害またはEPIの原因および症状とは無関係に、EPIだと診断されたら直ちに酵素補充療法が開始される。これは、不足している酵素、主にリパーゼ、プロテアーゼおよびアミラーゼ、および他の酵素を外部から供給しなければならないことを意味している。治療では、患者は主に、食事中に口から酵素を取り入れ、酵素は胃を通過して小腸に到達する。小腸では粥状液の消化が行われ、これにより、不足している内在性膵臓酵素の機能が補われる。使用される調製物は、十分な量の酵素を含有していなければならない。酵素は、さらに、腸溶性製剤として提供されなければならず、粒径が小さく、消化管で完全に生体利用可能でなければならない。
【0005】
膵臓酵素不足に由来する消化器疾患を治療するには、主要な酵素であるリパーゼとプロテアーゼの補充/置換に基づく膵臓酵素補充療法(PERT)が用いられることが多い。PERTに関しては、多種多様な酵素調製物が既に市販されている。これらの一部は、ブタ由来の膵臓酵素をベースにしたもので、例えば調製物の、コンビズム(Combizym)(登録商標)、フェスタル(Festal)(登録商標)、パンクレオン(Pankreon)(登録商標)、クレオン(Kreon)(登録商標)、パンジトラット(Panzytrat)(登録商標)、メテオジム(Meteozym)または、エンジム・リファックスN(Enzym-Lefax N)(登録商標)調製物があり、これらは膵臓酵素を含有している調製物で(いわゆる膵臓酵素製品つまりPEP)、主に、屠殺された豚、例えば豚の膵臓から得られる。調製プロセスの最終生成物はパンクレアチンである。PEPはブタのリパーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼで構成されており、嚢胞性線維症、慢性膵炎および膵切除症に続発するEPI患者に使用されている。1938年、PEPは1938年の食品医薬品化粧法から除外され、正式な食品医薬品局(FDA)の審査を経ずに済むようになった(ギウリアノ(Giuliano)CA1、デホーン・スミス(Dehoorne-Smith)ML、ケール・プラドハン(Kale-Pradhan)PB(2011)膵臓酵素製品(Pancreatic enzyme products):変化を消化する(digesting the changes)薬物療法学雑誌(Ann Pharmacother) 45(5):658-66)。
【0006】
ブタ由来のPEPは、ブタタンパク質アレルギーを有する消化器疾患を患っている患者には使用できない。さらに、ブタはヒト病原性インフルエンザウイルスおよびブタ由来の膨大な数のウイルスの、天然の保菌者であると考えられており、そのようなウイルスによるパンクレアチンの混入を排除することができない。言い換えれば、屠殺廃棄物を提示する膵臓組織は、それ以上処理されなければ、高度のウイルス汚染を示す可能性がある。その天然起源に基づく結果として、膵臓組織、パンクレアチンおよびPEPもまた、ブタ由来のウイルスで汚染されている可能性がある。日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)は、ガイドラインICHトピックQ5A(R1)において非常に高い基準を設定しており、製品にウイルス汚染がないことを最大限に保証することを求めている点を強調しておきたい。米国FDAの医薬品評価研究センター(CDER)は、すでにクレオン(Creon)のようなPEPを含むリパーゼの積極的なリスク軽減戦略を要求してきた。
【0007】
これは、ブタパルボウイルスおよびブタサーコウイルスによるPEP汚染のリスクがあるだけでなく、ヒトにとって病原体であることが既に知られている多くのブタウイルスによるリスクがあるためである。
【0008】
残念なことに、これまでメーカーは、膵臓酵素、特にリパーゼを容認できないレベルまで分解または低下させることなく、許容できるレベルでPEPからウイルスを首尾よく排除するためのウイルス不活性化方法を見いだしていない。さらに、パンクレアチンのような複雑な生物学的物質の分析試験に伴う制限のために、任意のウイルス排除工程の結果、どのような分解物が製品に混入され得るかを決定することは困難である。結論として、ウイルスに対して効果的な工程によってPEPの性質が変わる可能性が高いため、そのような工程は、薬剤の品質、安全性、有効性に重大な影響を及ぼす可能性がある。しかし市場には、リパーゼに替わる製品がPEP以外にほとんどないため、今でもなお、PEPがEPIの治療のために唯一容認されている医薬組成物である。
【0009】
さらに、特定の群の患者については、PEPがブタ由来であることが短所となる。通常、ブタの膵臓が使用されており、宗教的な規則のためにユダヤ人やイスラム教の患者はその使用を容認することができないためである。さらに、パンクレアチンは、(通常はブタ由来の)膵臓組織の細胞由来のホモジネートである。多数の腺房細胞を破裂するため、ホモジネートは、膵臓の酵素に加えて、多くの他の酵素やタンパク質、さらには高分子量のおよび低分子量の化合物を含む。パンクレアチンの組成は、その工業的調製プロセスによるものである。パンクレアチンを得るために、ブタの膵臓は、屠殺後できるだけ早く凍結され、収集されて、機械的に破砕される。酵素の安定と活性のために、種々の添加剤をホモジネートに添加する。これに続いて、アセトンなどの有機溶媒による脱脂、繊維状物質の除去、および脱水、そして凍結乾燥による乾燥が続く。したがって、有機溶媒の管理およびそのコストに関連する問題を考慮して、有機溶媒の使用を最小限に抑え、または有機溶媒を使用せずに作業する酵素の生成方法が必要とされている。特定の剤形に調製するために、マイクロペレット、錠剤、カプセル剤、ペースト剤、クリーム剤、ゲル剤、油剤または他の製剤に、さらに製剤処理を施してもよい。パンクレアチンベースのPEPは、様々な支持物質および緩衝剤と混合されることが多い。さらに、顆粒化したパンクレアチンを、pH値の低いヒトの胃液から保護するために、酸安定性フィルムまたは塗料でコーティングする。後半の2つの処理工程によって、酸不安定性のPEPが標的部位である十二指腸(小腸)で消化機能を果たすことができ、かつ、膵炎患者に多く見られる酸性上部十二指腸内で酵素が活性化されないようにする。
【0010】
リパーゼを含む新しいPEPが、ゼンペップ(Zenpep)(登録商標)である。ゼンペップ(登録商標)は、嚢胞性線維症または他の状態に起因するEPIの治療を適応とする、屠殺用ブタ由来のブタ由来リパーゼ、プロテアーゼおよびアミラーゼの組み合わせである。EPI用として一般的に市販されているPEPとは対照的に、ゼンペップ(登録商標)は、各カプセルに含まれる酵素の量に大きなばらつきがない。一般的なPEPのばらつきは、部分的に、製品の保存期間中に起こる酵素の分解を考慮してカプセルに過剰量の酵素を充填するという、製造業者の慣行によるものである。製品の酵素含量のばらつきは、提供される酵素量が多すぎるかまたは少なすぎることによって治療効果に一貫性がなくなり、患者のEPIにとって、最適ではない治療につながる可能性がある。さらに、過剰充填された製品は、一部の報告では高用量PERTに対する長期曝露と関連付けられている線維化性結腸症のリスクを高める恐れがある。これらの問題は、ゼンペップ(登録商標)の使用によって回避することができる。しかし、ゼンペップ(登録商標)には、一般的なPEPと同様にブタの膵リパーゼが含まれている。その結果、ゼンペップ(登録商標)に含まれているブタの膵リパーゼは、十二指腸中にブタのコリパーゼが存在する場合にのみ有効になる。従って、ゼンペップ(登録商標)もまた、屠殺用ブタ由来の精製されていないタンパク質混合物にほぼ似ている。なぜなら、製造工程における精製は、コリパーゼの損失を招く恐れがあるためである。加えて、ゼンペップ(登録商標)にはウィルスが混入している可能性があり、また、必要とされる沈殿および脱脂工程に起因して、PEPに関して説明した残留有機溶媒を含んでいる可能性がある。結果的に、PERTのための一般的なPEPに関しては、この組成物中のブタの膵リパーゼは、ウイルスおよび/または有機溶媒で汚染されている可能性がある。
【0011】
リパーゼおよびプロテアーゼの供給源としてのブタ膵臓組織の使用を回避するために、一部の研究者は、フランス特許第FR1015566号に基本的に記載されているように、魚または他の海産動物由来の酵素の使用、ならびにオキアミ(オキアミ目(Euphausiaceae)の甲殻類)の胃腸管由来の酵素およびカラフトシシャモ(capelin fish)(米国特許第4,695,457号)の使用を提案している。しかし、これらの天然資源は取り扱いが難しく、工業規模で特徴付けられた酵素調製物を処理することが困難であり、結果として、これらに由来するリパーゼを含有する酵素調製物は市場に送り出されていない。
【0012】
ブタの膵臓組織に由来する従来の酵素調製物に特徴的なウイルスおよび有機溶媒による汚染の問題のため、ブタ由来のPEPの代替物としての微生物由来の酵素の使用が提案されている。例えば、米国特許第6,051,220号では、1種以上の酸安定性リパーゼと1種以上の酸安定性アミラーゼ(両方とも好ましくは真菌由来)を含む組成物が記載されている。米国特許出願第2004/0057944号は、リゾプス・デレマル(Rhizopus delemar)のリパーゼ、アスペルギルス・メレウス(Aspergillus melleus)のプロテアーゼおよびアスペルギルス・オリザ(ニホンコウジカビ、Aspergillus oryzae)のアミラーゼを含む組成物が記載されている。
【0013】
したがって、ノルターゼ(Nortase)(登録商標)およびコンビズム(Combizym)(登録商標)などの一部の酵素調製物は、カビ抽出物由来の微生物酵素も含む。これらは酸に対する耐性をもち、コリパーゼに依存しないにもかかわらず、その臨床的有効性は、胆汁酸塩およびプロテアーゼによって管腔内で急速に不活性化されるために低い。
【0014】
開発中の組換え酵素調製物は、胆汁酸塩安定性リパーゼを含有し、Kiobrina(キオブリナ)という商品名の、組換えヒト胆汁塩刺激性リパーゼ(rhBSSL)である。このrhBSSLは、長鎖ポリ不飽和脂肪酸のような必須脂肪酸の消化および吸収を改善するが、ヒトの腸内のコレステロールエステルも改善する。rhBSSLは、哺乳動物細胞において発現・産生され、低温殺菌された母乳および/または調製乳を与えられている早産児の成長と発達を改善するための酵素療法用にソビ社(Sobi)によって開発されたものである。低温殺菌した母乳または乳児用調製乳をrhBSSLで補充する根拠は、母乳を低温殺菌したことで失われた、または調製乳中に全く存在しない天然のリパーゼ活性レベルを回復させることである。欠点は、酵素が一次胆汁塩の存在下でのみ活性であり、酵素は不溶性のことが多く、そのため、十二指腸では、特に泌膵外分機能不全の条件では利用できないということである。さらに開発企業であるソビ社は、rBSSLが主要評価項目に達していないことを臨床データが示し、rhBSSLがヒト胃腸管における酵素補充療法の機能を果たさないことを発表した。
【0015】
膵臓の外分泌不全治療用の、別の組換えリパーゼとしては、結晶化され、精製された架橋シュードモナス(Pseudomonas)/バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)のリパーゼがある。このリパーゼの分子量は30kDaで、アンセラ・ファーマシューティカルズ(Anthera Pharmaceuticals)によって開発されたALTU-135/セラクレック(TheraCLEC)(登録商標)/トリジテック(Trizytek)(登録商標)/リプロタマーゼ(Liprotamase)(登録商標)/ソルピュラ(Sollpura)(登録商標)(現在は商品名ソルピュラ(Sollpura)(登録商標))と名付けられた酵素組成物の一部を構成しており、米国特許第7718169号にも開示されている。
【0016】
この、米国特許出願第2001/0046493号に記載されている微生物リパーゼは細菌由来であり、組換えDNA技術によって産生することができる。酵素は培地中に分泌され、ヒト胃腸系への投与に合わせて酵素を安定化させるため、複雑な精製および結晶化の製造プロセスが必要となる。結晶化後のリパーゼ結晶は、十分な酸安定性に達するように、化学的におよび共有的に架橋しなければならない。インビトロ試験から、架橋酵素結晶(CLEC)法と呼ばれるこのような改変はリパーゼの安定性を高め、架橋されたリパーゼは胃の特徴である酸性領域のpHで不溶性であることが示唆されている。しかしながら、結晶化した酵素の実際の使用にとって、拡散効果が重大な問題であることが示されている(アルター(Alter)G.M.、ルイシング(Leussing)D.L.、ネウラス(Neurath)H.、バート(Bert)L.、バリー(Vallee)B.L.、1977)溶液中および結晶中のカルボキシペプチダーゼBの動力学的性質。生物科学雑誌(Biochemistry)16(16):3663-3668)。さらに、CLECリパーゼは、可溶性酵素と比較して特定の基質に対して有意に低い酵素活性しか示さないことが分かっている(マルゴリン(Margolin)A.L.(1995)トレンズインバイオテクノロジー(Trends in Biotechnology)14(7):223-230)。
【0017】
さらに、シュードモナス/バークホルデリア・セパシアのリパーゼは、至適pH値がpH4~8と広く、pH値が8より大きい場合には活性が大きく低下する。しかも、シュードモナス/バークホルデリア・セパシアのリパーゼは、pH8よりもかなり高いpH条件では活性がなく、その結果、この酵素は、強いアルカリ条件(pH8.5以上)では、脂質の消化を助けることができない。シュードモナス/バークホルデリア・セパシアのリパーゼのもう1つの問題は、酵素が病原性細菌由来のタンパク質であることである。シュードモナス/バークホルデリア・セパシア(注:以前はシュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)として知られていたが、現在はバークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)として知られている)は、嚢胞性線維症や慢性肉芽腫などの肺疾患を基礎にもつ免疫不全患者で肺炎を引き起こす、重要なヒトの病原体である。
【0018】
嚢胞性線維症の患者は、よく知られている「バークホルデリア・セパシア症候群」を発症する危険性があり、つまり、いわゆる「バークホルデリア・セパシア症候群」は、常に治療によく反応するのではない嚢胞性線維症の患者にとって、重篤な症状である。
【0019】
このようなシュードモナス/バークホルデリア・セパシア感染の場合、B細胞およびT細胞の活性化によって感染後に長期活性記憶が得られ、その後代の一部は寿命の長い記憶細胞となる。ヒトの生涯を通して、これらの記憶細胞は「適応免疫系」の一部として、遭遇する特定の病原体を覚えており、病原体が再び検出されれば強い反応を示すことができる。
【0020】
シュードモナス/バークホルデリア・セパシアのリパーゼを使った経口治療を行っている条件では、酵素補充療法(嚢胞性線維症の場合)の一部としてシュードモナス/バークホルデリア・セパシア由来酵素を経口摂取することは、外因性抗原を取り込むことを意味している。抗原は適応免疫系によって病原体として検出され、1.免疫系の活性化(いわゆる免疫学的記憶)、2.酵素に対する抗体の生成、および、3.腸粘膜における免疫応答悪化のリスク(潜在的なアレルギー性反応および自己免疫反応および敗血症を含む)生じる可能性がある。
【0021】
シュードモナス/バークホルデリア・セパシア酵素を嚢胞性線維症の患者に投与した場合に生じるこのような免疫応答悪化のリスクは、患者の治療にとって逆効果であり、患者の健康状態を悪化させる恐れがある。
【0022】
効果が不十分であることと前述した有害な副作用が生じるリスクが重なっていることから、すでに、規制当局は深刻な懸念を示している。2011年、米国保健福祉省食品医薬品局(FDA)の胃腸薬諮問委員会は、ソルピュラ(登録商標)(シュードモナス/バークホルデリア・セパシアのリパーゼを用いた酵素製剤)の効果がリスクを上回っているという発見を拒絶し、患者において、既存のブタ由来膵臓酵素製品よりも優れていると結論づける前に、追加の有効性データが必要であると主張した。
【0023】
最終的に、ソルピュラ(登録商標)がブタ由来PEPよりも有効性が低く、EPI患者をより大きなリスクに曝すようであるという実質的な証拠が示されている(カロム(Carome)M.、ウォルフ(Wolfe)S.、リプロタマーゼ(liprotamase)に関するFDA胃腸薬諮問委員会、リスク:便益評価、さらなる臨床試験に関する倫理(risk:benefit assessment;ethics of further clinical trials)。ワシントンDC:公共市民研究グループ2011年1月12日)。
【0024】
さらに、米国特許第5998189号は、大腸菌(E.coli)で産生される組換え酸安定性イヌ胃リパーゼを開示し、大腸菌ならびに他の原核および真核発現系で発現する酸安定性イヌ胃リパーゼの特許権を主張している。さらに、この酸安定性イヌ胃リパーゼのトランスジェニックトウモロコシにおける発現およびその抽出が検証されている(チョン(Zhong)、Q.、グー(Gu)、グー(Gu)、Z.およびグラッツ(Glatz)、トランスジェニックトウモロコシ種子からの組換えイヌ胃リパーゼの抽出(Extraction of recombinant dog gastric lipase from transgenic corn seed)農業食品化学雑誌(J. Agric. Food Chem.)54:8086-8092)。
【0025】
しかしながら、犬の胃リパーゼのpHプロファイルはpH3~pH5と非常に狭く、至適pHはpH4と非常に低い(カリエレ(Carriere)F.、モロー(Moreau)H.、ラファエル(Raphel)V.、ロージエ(Laugier)R.、ベニコート(Benicourt)C.、ジュニエン(Junien)J.L.およびバーガー(Verger)R.、1991)犬の胃リパーゼの精製および生化学的特徴付け(Purification and biochemical characterization of dog gastriclipase)。欧州生化学雑誌(Eur. J. Biochem.)202:75~83)。
【0026】
最少用量で最高の効果を示し、明確な安全性プロファイルを特徴とするリパーゼ含有酵素調製物という目標は、嚢胞性線維症のコミュニティを含む、全ての膵機能不全患者に特に関心をもたれている。
【表1】
【発明の目的】
【0027】
現在の標準療法では、脂質消化は、ほとんどの患者で完全に健全化することはできない。さらに、ヒトに投与するためのリパーゼの産生は複雑で高価である。本発明は、これらの問題に対処するものである。
【発明の概要】
【0028】
本発明の好ましい態様によれば、2種以上のリパーゼ酵素の組み合わせが提供され、ここで、少なくとも1種のリパーゼ酵素の至適pHは酸性pH値であり、他の少なくとも1種のリパーゼ酵素の至適pH値はアルカリ性である。
【0029】
至適pHを定義する好ましい方法の1つは、例えばニクソンテストまたは滴定試験(以下を参照)を用いて決定されるように、リパーゼの活性がピーク活性の50%超になるpH範囲である。「至適pH(pH optimum)」という用語は、「最大脂肪分解活性(maximum lipolytic activity)」という用語と同じ意味で用いられる。
【0030】
「酸性pH値」という用語は、0以上7以下のpHを意味し、「アルカリ性pH値」という用語は、7を超えて14以下のpHを意味する。
【0031】
本明細書で使用される「リパーゼ酵素」という用語は、脂肪(脂質)の加水分解を触媒する酵素を指す。リパーゼは、エステラーゼのサブクラスであり、すべてではないにしてもほとんどの生物において、食物脂質(例えば、トリグリセリド、脂肪、油)の消化、輸送およびプロセシングにおいて不可欠な役割を果たす。リパーゼという用語には、胆汁酸依存性リパーゼ、膵リパーゼ、リソソームリパーゼ、肝リパーゼ、リポタンパク質リパーゼ、ホルモン感受性リパーゼ、胃リパーゼ、内皮リパーゼ、膵リパーゼ関連タンパク質2、膵リパーゼ関連タンパク質1および舌リパーゼなどのサブクラスが包含される。
【0032】
本発明者らは、驚くべきことに、一方の至適pHが酸性pH値で、少なくとも一方の至適pHがアルカリ性pH値である、これら2種以上のリパーゼ酵素の組み合わせが、リパーゼ補充療法の効果を有意に高めることを発見した。
【0033】
好ましい態様によれば、少なくとも1種のリパーゼ酵素の脂肪分解活性は、ニクソン試験または滴定試験によって決定される。
【0034】
ニクソン試験は、ニクソン(Nixon)およびチャン(Chang)1979に開示されており、その内容は本明細書に組み込まれる。この試験の詳細は、本明細書の他の箇所に開示されている。滴定試験は、米国薬局方23、NF18 1095、1150-1151頁に開示されており、その内容は本明細書に組み込まれる。
【0035】
少なくとも1つのリパーゼ酵素は、繊毛虫門の生物によってコードされ、発現され、かつ/または産生されるリパーゼ酵素であることが好ましい。
【0036】
好ましくは、前記繊毛虫は、テトラヒメナ科(Tetrahymenidae)科のものである。より好ましくは、前記繊毛虫はテトラヒメナ(Tetrahymena)属に由来する。最も好ましくは、前記繊毛虫はテトラヒメナ・サーモフィラ(Tetrahymena thermophile)由来である。
【0037】
繊毛虫を使ったリパーゼ産生システムは、利用可能な競合物質と比較して大幅に高い活性を有し、したがって非常に増強された治療可能性を有するリパーゼの産生のための、経済的でシンプルで信頼できる方法を提供する。
【0038】
哺乳動物と繊毛虫との間の進化距離が大きく、かつ、テトラヒメナにはウイルスが見つかっていないことから、生産プロセスがより安定的でウイルス感染による不具合のリスクも抑えられると同時に、製品の安全性も非常に高くなると期待される。
【0039】
少なくとも1種のリパーゼ酵素は、部位特異的突然変異生成またはランダム突然変異生成によって改変され、その後選択された、請求項3に記載のリパーゼ酵素であることが好ましい。
【0040】
特に好ましい態様では、1つのリパーゼ酵素は、その至適pHが哺乳動物の胃のpH値の範囲にあり、少なくとも1つの他のリパーゼ酵素は、その至適pHが哺乳動物の下部小腸のpH値の範囲にある。
【0041】
胃を含む哺乳類の胃腸管の管腔内pHは、フォーリンボルグ(Fallingborg)J、デンマーク薬学会誌(Dan Med Bull)1999、1月号;46(3):183-96に記載されている。ヒト胃腸管pHの典型的な値をいくつか、以下の表に示す。
【表2】
【0042】
このように胃腸管のpHスペクトルは広いため、産生物は胃腸管全体にわたって脂肪分解を促進する。
【0043】
好ましい一態様では、組み合わせに含まれる1種のリパーゼ酵素の至適pHは、1以上6以下の範囲である。
【0044】
好ましい一態様では、組み合わせに含まれる1種のリパーゼ酵素の至適pHは、8以上11以下の範囲である。
【0045】
特に好ましい態様では、少なくとも2種のリパーゼは、
a)配列番号4~6、および/またはそれらの一部、変異体、相同体、もしくは誘導体
b)配列番号4~6のいずれかと少なくとも70%、好ましくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0046】
これらの配列は、以下に示す3種の好ましいリパーゼに関する。
【表3】
【0047】
本発明の別の態様では、前述した2種以上のリパーゼ酵素の組み合わせを含む医薬製剤を提供する。
【0048】
本発明のさらに別の態様では、
・脂質消化不全および/または消化器疾患の治療のための、または
・脂質消化不全および/または消化器疾患の治療のための医薬品を製造するための、前述した2種以上のリパーゼ酵素の組み合わせの使用、または後者を含む医薬調製物の使用を提供する。
【0049】
前記使用において、消化器疾患は膵外分泌機能不全(EPI)であることが好ましい。治療することができる他の消化器疾患には、脂肪便、セリアック病または消化不良が含まれる。
【0050】
EPIは、膵臓によって作られる消化酵素が不足しているために食物を適切に消化することができない状態である。EPIは、嚢胞性線維症およびシュワックマン・ダイアモンド症候群に罹患したヒトにおいて見られ、消化酵素を産生する膵臓細胞の進行性消失によって引き起こされる。消化酵素の消失は、消化不良や、正常な消化過程での栄養素の吸収不良を引き起こす。ヒトにおけるEPIの最も一般的な原因は慢性膵炎である。
【0051】
脂肪便とは、糞便中に過剰量の脂肪が含まれている状態である。大便は余分な脂質のために浮遊し、油っぽい外観を有し、特に悪臭を放つことがある。肛門からの脂肪の漏出やある程度の大便漏れが起こることがある。脂肪の漏出が高く、これは、糞便の脂肪レベルを決定することによって測定することができる。糞便中にどの程度の脂肪が含まれていたら脂肪便と呼ぶのかの定義は標準化されていない。
【0052】
セリアック病は、グルテン(穀物中に見出されるタンパク質)によって腸管が損傷を受けている状態である。症状としては、腹痛、鼓脹、体重減少、疲労などがある。セリアック病の患者は、グルテンを含まない制限のある食事を摂らなければならない。リパーゼは、セリアック病治療の一部として研究されており、それを用いた治療は体重やや増加させる。
【0053】
消化不良は、高脂肪食を摂取したことに伴い、肥満、ガス、満腹感が生じる状態である。これらの症状は一般に過敏性腸症候群(IBS)に関連しているため、膵臓酵素がIBSの症状を治療するのに役立つと推測する研究者もいる。しかしながら、研究は行われていない。
【0054】
前記使用における脂質消化欠損が、リポタンパク質リパーゼをコードしている遺伝子の突然変異によって引き起こされる状態である、リポタンパク質リパーゼ欠損であることが好ましい。
【0055】
本発明のさらに別の態様では、嚢胞性線維症の治療のための、前述した2種以上のリパーゼ酵素の組み合わせ、または後者を含む医薬調製物の使用を提供する。
【0056】
嚢胞性線維症は、体が、異常に厚く粘着性の粘液を産生する遺伝性の状態である。粘液は膵臓酵素が腸に到達するのを妨げるので、患者はしばしば栄養欠乏症を伴う。これらの患者では、食物からの栄養摂取の改善に、リパーゼの摂取が役立つ。
【0057】
一層さらに別の態様では、前述した2種以上のリパーゼ酵素の組み合わせを製造する方法であって、
a)1つ以上の好適な産生系において2種以上のリパーゼ酵素を発現させる工程、および
b)工程(a)で発現した2種以上のリパーゼ酵素を精製する工程、
を含む製造方法を提供する。
【0058】
前記方法において少なくとも1種のリパーゼ酵素は、繊毛虫門の生体内での相同発現によって産生されることが好ましい。
【0059】
「相同タンパク質発現」という用語は、遺伝子またはタンパク質の、その由来生物における前記遺伝子またはタンパク質の発現に関する。
【0060】
好ましくは、前記繊毛虫は、テトラヒメナ科(Tetrahymenidae)のものである。より好ましくは、前記繊毛虫はテトラヒメナ(Tetrahymena)属に由来する。最も好ましくは、前記繊毛虫は、テトラヒメナ・サーモフィラ(Tetrahymena thermophile)由来である。
【0061】
繊毛虫を使ったリパーゼ産生システムは、利用可能な競合物質と比較して大幅に高い非活性を有し、したがって非常に増強された治療可能性を有するリパーゼの産生のための、経済的でシンプルで信頼できる方法を提供する。
【0062】
哺乳動物と繊毛虫との間の進化距離が大きく、かつ、テトラヒメナにはウイルスが見つかっていないことから、生産プロセスがより安定的でウイルス感染による不具合のリスクも抑えられると同時に、製品の安全性も非常に高くなると期待される。
【0063】
さらに、繊毛虫を使ったリパーゼ産生系は、以下の表に示すように、繊毛虫が他の真核生物とは異なるコドン使用頻度を有するため、繊毛リパーゼを産生する場合に特に有用である。
【表4】
【0064】
前記方法において、少なくとも1種のリパーゼ酵素が過剰発現によって産生されることが好ましく、相同過剰発現によって産生されることが好ましい。
【0065】
「相同的過剰発現」という用語は、遺伝子またはタンパク質の、その由来生物における前記遺伝子またはタンパク質の過剰発現に関する。
【0066】
この目的のために、外因性因子を使って、内因性遺伝子の発現を高めることができる。例えば、プロモータをゲノムに直接クローニングし、内因性遺伝子をその制御下に置くか、またはそれぞれの細胞または生物に転写因子を付加する。あるいは、好適なプラスミドを用いて細胞または生物に導入された、前記内因性遺伝子のコピーの発現を提供することができる。このようなプラスミドの例を図6Aおよび6Bに示す。
【0067】
本発明のさらに別の態様では、
a)配列番号1~3に示すヌクレオチド配列を含む、少なくとも1つの核酸分子、
b)配列番号4~6に示すアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、少なくとも1つの核酸分子、
c)a)~b)の核酸分子の一部、変異体、相同体または誘導体である、少なくとも1つの核酸分子、
d)a)~c)いずれかの核酸分子の相補体であるか、またはストリンジェントな条件下でこれらとハイブリダイズすることができる、少なくとも1つの核酸分子、
e)a)~d)いずれかの核酸分子と比較して、少なくとも1つのサイレントな一塩基置換を含んでいる、少なくとも1つの核酸分子;原生動物発現宿主での発現用にコード最適化されたa)およびc)~e)の少なくとも1つの核酸分子、および/または、
f)a)~f)の核酸分子のいずれかと、少なくとも70%、好ましくは95%の配列同一性を有する、少なくとも1つの核酸分子、
からなる群より選択される、2つ以上の核酸分子を提供する。
さらなる説明
【0068】
本発明者らは、テトラヒメナのゲノムから、脂肪分解活性を有すると推定されるタンパク質の37個のオープンリーディングフレームを明らかにした。我々の実験の過程で、スクリーニング実験から、3つの酵素を好ましい特性を有するとして選抜した。
【0069】
テトラヒメナは非病原性で単細胞の真核微生物である。発現宿主として少数の研究室で確立されており、相同タンパク質発現に適した多くの利点を特徴とする。テトラヒメナは広く調査されたモデル生物であり、50年以上にわたる基礎研究でウイルスや内寄生虫は観察されなかった。指示細胞株を用いた試験では、高等動物に感染する可能性のあるウイルスまたはマイコプラズマのような内因性の感染性因子は認められなかった。このことは、繊毛虫に共通する核の二型性のためである可能性がある。またその他の原因として、繊毛虫の一般的でないコドン使用頻度およびATに富むゲノムも考えられる。そのため本発明者らは、高等生物の病原性ウイルスは、繊毛虫の大部分では増幅することができないと仮定している。これまでに知られているように、繊毛虫がウイルスに対して感受性でないという事実も、驚くべき利点を生じるものであり、繊毛虫を使用した製造プロセスでは、不定型ウイルスの増幅または増殖が起こらないことを意味している。さらに、動物を含まない培地で繊毛虫を成長させることも可能である。これは、タンパク質を治療用に製造する場合、ヒトおよび動物の細胞培養を伴う工業プロセスにおいて必要で、経済的な負担の多いウイルス枯渇手順を省略することができることを意味している。
【0070】
まず第一に、前述した、繊毛虫のコドン使用頻度に関する考察はテトラヒメナにも当てはまる。さらに、高コピー数プラスミドは、ミニ染色体rDNA由来の複製起点(ori)を含むテトラヒメナで利用可能である。このミニ染色体rDNAは、1細胞当たり最大9,000コピー存在する。その上、安定した組込みは、全ての遺伝子のコピー数が45倍の、巨核DNA中で起こり得る。遺伝子の量が多いことは、効率的なタンパク質生合成のための、したがって、高い生産性のための理想的な前提条件である。細菌とは対照的に、テトラヒメナ属の繊毛虫は、生物学的なタンパク質を非常に効率的に上清に分泌する。
【0071】
細胞2×107個/mlまでの細胞密度および80g/Lまでの乾燥重量を有するテトラヒメナの回分発酵、流加培養および連続発酵が確立されており、1000Lまでの生産拡大(アップスケール)が何ら問題なく実証され得る。レポータータンパク質を用いた可能性試験では、1日に50~90pg/細胞の空時収量がすでに達成されている可能性がある。相同発現を用いた最初の実験では、1日当たり200mg/Lを超える収量の分泌タンパク質が得られた。テトラヒメナは微生物発現系(細菌または酵母)用の従来の生産施設で発酵させることができる。これは、費用をかけて既存の生産プラントを変更したり、新しい生産施設を建設したりする必要がないことを意味している。
【0072】
しかしながら、繊毛虫系は、分泌酵素の発現に関して、他にもいくつかの利点を有する。これらについては以下で説明する。
【0073】
前述したような利点にもかかわらず、繊毛虫の発現系は依然として未知の部分が多く、当業者は、潜在的な異種/相同発現系について尋ねられた場合、大腸菌、酵母、昆虫細胞系(バキュロウイルス)および哺乳類細胞株を思い浮かべることが多い。
【0074】
本発明において使用することができる繊毛虫の形質転換法としては、特に、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションおよび微粒子銃が上げられ、これらは例えば、トンドラビ(Tondravi)およびヤオ(Yao)(1986)、ゲルティグ(Gaertig)およびゴロフスキー(Gorovsky)(1992)およびカシディ・ヘンリー(Cassidy-Hanley)ら(1997)に記載されている。
【0075】
いくつかの原生生物については、形質転換および異種タンパク質発現のための方法の記述がある(国際公開第00/58483号および同第00/46381号)。体細胞の巨核または核小体核のいずれかのマイクロインジェクション、エレクトロポレーションおよび微粒子銃による形質転換によって、有糸分裂的に安定な繊毛虫テトラヒメナ・サーモフィラ(Tetrahymena thermophila)の形質転換体を生成することができる。
【0076】
形質転換体の選択は、ネオマイシン耐性(ワイデ(Weide)ら、2006、BMC)のような異なる選択マーカーおよび相同DNA組換えによる異種遺伝子の組み込みを用いて行うことができ、その結果、安定なチミジン栄養要求性テトラヒメナ細胞が得られる(ワイデら、2006、BMC)。さらに、ブラストサイジンS(ワイデら、2007年、BMC)またはパクリタクセル(国際公開第00/46381号)耐性の使用も想定される。
【0077】
繊毛虫におけるリパーゼ発現に適したプロモーターは、例えば、本発明の出願人も登録されている国際公開第2007006812号A1に開示されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。その中に、熱誘導性プロモーターおよびメタロチオネインプロモーターが開示されており、これも本発明の目的のために使用することができる。
【0078】
さらに、リパーゼをコードする少なくとも1つの核酸分子を含む、繊毛虫宿主細胞に遺伝子を導入するためのベクターを提供する。
【0079】
驚くべきことに、本明細書中で以後「調製物」と呼ばれる、テトラヒメナのリパーゼとプロテアーゼの組み合わせは、市場にあるいずれの製品よりも、または現在開発中のいずれの製品よりも、膵機能不全の治療の優れた要件を満たすことができる。第一に、pH値が2から11までという広いpH条件で脂質を消化できるという比類ない性質により、この調製物は、酸性の消化管から、膵機能不全に起因する酸性の上部十二指腸、およびより中性から塩基性の小腸で脂質を消化ことが可能である。第二に、調製物の比活性は、驚くべきことに、中性から塩基性条件下でさえも、パンクレアチンの比活性より少なくとも1桁大きいことが見出された。これは、毎日の服用量を減らして患者の服薬遵守を促進するのに役立つ。第三に、所定の酵素の混合物は、特定の形態の病的な消化不良については禁忌である。
【0080】
本発明の好ましい態様では、2種以上のテトラヒメナリパーゼによって、胃腸管の生理学的pH範囲が広くカバーされ、胃から下部小腸にかけての脂肪分解が可能になる。別の好ましい態様では、十二指腸のアルカリ性環境中で脂質を消化するために、アルカリ性テトラヒメナリパーゼが使用される。
【0081】
リパーゼ、プロテアーゼおよびアミラーゼ活性をモジュールとして組み合わせることによって、調製物を様々な患者に適応させる、つまり、異なる処方を必要とする患者に適応させることができる。例えば、嚢胞性線維症の小児にとって、アミラーゼ含量が高いことは望ましくない。急性膵炎または活動的なエピソードを有する慢性膵炎の患者にはプロテアーゼが禁忌である。そして第四に、調製物は、真菌由来のリパーゼとは対照的に、生理学的濃度の胆汁酸によって活性化される。
定義
【0082】
本明細書で使用する場合「繊毛虫」という用語は、分類学の繊毛虫門に属する生物を指す。繊毛虫は、単細胞の真核生物(「原生動物」または「原生生物」)で、比較的サイズが大きい(種によっては最大2mmまでにもなる)こと、繊毛性の細胞表面、および2つの異なる種類の核、すなわち小さな二倍体小核と大型の倍数体巨核(タンパク質発現に使用される)を特徴とする。後者は、ゲノムの増幅および様々な編集によって小核から生成される。
【0083】
本明細書で使用する場合「cDNA」という用語は、発現されるタンパク質をコードし、イントロンのような非コード部分を欠いているDNA分子を指すものとする。多くの場合、cDNAは、逆転写酵素およびオリゴdTプライマーを用いて、mRNA鋳型から直接合成される。しかしながら、この用語は、合成遺伝子およびそうでなければ得られたコードDNAを含むものとする。
【0084】
本明細書で使用する場合「プロモーター」という用語は、一般的に、遺伝子またはcDNAの上流(センス鎖の5’領域に向かって)に位置し、遺伝子またはcDNAの転写を可能にする、またはさらに促進するDNAの調節領域を指すものとする。
【0085】
本明細書で使用する場合「断片」という用語は、天然または野生型タンパク質のいくつかの部分またはドメインを欠いているが、酵素活性、免疫原性、標的結合性などの点で活性を保持しているタンパク質の一部を指す。
【0086】
本明細書で使用する場合「シグナル配列」という用語は、細胞質ゾルで合成されたタンパク質を、核、ミトコンドリアマトリックス、小胞体、葉緑体、アポプラストおよびペルオキシソームなどの特定の細胞小器官に指向させるオリゴペプチド(「シグナルペプチド」)をコードする核酸配列を指す。シグナルペプチドのいくつかは、タンパク質が輸送された後にシグナルペプチダーゼによってタンパク質から切断される。より厳密な意味では、シグナル配列、つまりシグナルペプチドは、該タンパク質の外部媒体への分泌を担う。このプロセスは、粗面小胞体、ゴルジ体およびその後のエキソサイトーシスを介して行われる。多くの場合、シグナル配列は、分泌されるタンパク質のN末端に位置する。
【0087】
本明細書で使用する場合「作動可能に連結された」という用語は、遺伝子産物をコードし得るヌクレオチド配列がプロモーターに連結され、プロモーターが適切な条件下で遺伝子産物の発現を調節することを意味する。作動可能に連結された2つのヌクレオチド配列は、例えばTATAボックスなどの転写に必須のエレメントを含む。
【0088】
「核酸分子」という用語は、DNA(cDNAおよび/またはゲノムDNA)、RNA(好ましくはmRNA)、PNA、LNAおよび/またはモルホリノ(Morpholino)を含む、一本鎖または二本鎖の全ての核酸分子を示すものとする。
【0089】
「ストリンジェントな条件」という用語は、その条件では、好ましくは、プローブがその標的部分配列にはハイブリダイズするが、他の配列には殆どハイブリダイズしない条件に関する。ストリンジェントな条件は配列によって変わり、状況が異なっても変化する。配列の長さが長くなればなるほど、特異的にハイブリダイズする温度は高くなる。ストリンジェントな条件は一般に、特定のイオン強度およびpHにおける特定の配列の熱融点(Tm)より約5℃低いように選択される。Tmとは、(特定のイオン強度、pHおよび核酸濃度で)標的配列に相補的なプローブの50%が平衡状態で標的配列にハイブリダイズする温度である(通常、標的配列が過剰に存在するので、Tmでは、プローブの50%が平衡状態で占有される)。典型的には、ストリンジェントな条件は、pHが7.0~8.3で塩濃度がNaイオンとして約1.0M未満、典型的にはNaイオン(または他の塩)が約0.01~1.0Mであり、温度が、短いプローブ(例えば、10~50ヌクレオチド)に関しては少なくとも約30℃、より長いプローブについては少なくとも約60℃の条件である。ストリンジェントな条件は、ホルムアミドなどの不安定化剤の添加によっても達成することができる。
【0090】
「核酸分子の断片」という用語は、特許請求した配列のうちの1つによる核酸分子のサブセットを含む核酸を示すことが意図される。同じことが、「核酸分子の部分」という用語にも当てはまる。
【0091】
「核酸分子の変異体」という用語は、本明細書では、特許請求した配列のうちの1つによる核酸分子と、構造および生物学的活性が実質的に類似している核酸分子を指す。
【0092】
「核酸分子のホモログ」という用語は、その配列が、特許請求した配列のうちの1つによる核酸分子と比較して、付加、欠失、置換、または化学的に修飾された1つ以上のヌクレオチドを有する核酸分子をいう。ただしホモログは、後者と実質的に同じ結合特性を保持することが常に示される。
【0093】
本明細書中で使用する場合、「少なくともX%の配列同一性」という用語は、NCBIによって提供されているそれぞれのインターネットドメイン上でアクセス可能な一連のBLASTアルゴリズム(特にメガブラスト(megablast)、不連続メガブラスト(discontiguous megablast)、blastn、blastp、PSI-BLAST、PHI-BLAST、blastx、tblastnおよびtblastx)を使って実施される配列アライメント後に決定される配列同一性をいう。
【0094】
本明細書中で使用する場合、「ベクター」という用語は、外来遺伝物質を別の細胞に移入するために使用される媒介分子を指す。ベクター自体は一般に、挿入物(目的の遺伝子)およびベクターの「骨格」として働くより大きな配列からなるDNA配列である。遺伝情報を別の細胞に移入するためのベクターの目的は、典型的には、標的細胞中の挿入物を単離し、増殖させ、または発現させることである。発現ベクター(発現構築物)と呼ばれるベクターは、標的細胞に導入した導入遺伝子を発現させるためのものであり、一般に、導入遺伝子の発現を促進するプロモーター配列を有する。転写ベクターと呼ばれるより単純なベクターは転写のみが可能であるが、翻訳されず、発現ベクターとは異なり、標的細胞で複製され得るが発現されない。転写ベクターは、それらの挿入物を増幅するために使用される。
【0095】
本明細書で使用する場合、「プラスミド」という用語は、プラスミドベクター、すなわち宿主細胞中で自動的に複製され得る環状DNA配列を指す。プラスミドベクターは、宿主細胞におけるプラスミドの半独立した複製を可能にする複製起点(「ORI」)を含む。さらに、プラスミドは、ヌクレオチドの突出(挿入物を挿入するため)、および複数の制限酵素共通部位(挿入断片のいずれかの側に)を含むマルチクローニングサイト、プラスミドの導入された遺伝子の転写を促すプロモーター、場合により、プラスミドが宿主ゲノムに組み込まれたことを確認するための少なくとも1つの遺伝子マーカー、必要に応じて、どの細胞に遺伝子がうまく導入されたかを同定するためのレポーター、を含む場合がある。
【0096】
本明細書で使用する場合、「宿主細胞」という用語は、それぞれの状況に従って理解され得る2つの異なる意味を有する。相同タンパク質発現の文脈において、「宿主細胞」という用語は、発現宿主として使用される細胞を指す。したがって、前記細胞またはその前駆細胞は、発現するタンパク質のcDNAを含む適切なベクターで形質転換されている。
【0097】
本明細書中で使用する場合、「繊毛虫宿主細胞」という用語は、繊毛虫門(旧有毛類(Ciliata))由来の細胞、例えば繊毛と呼ばれる毛様細胞小器官の存在および核の二形性を特徴とする原生動物を指す。
【0098】
本明細書中で使用する場合、「組み込まれる(incorporated)」という用語は、前記核酸がタンパク質を発現できるように宿主細胞に入ったという事実を指すものとする。繊毛虫では、そのような組み込みにはいくつかの種類があり、例としては、「エピソーム組み込み(episomal incorporation)」(例えば、プラスミドなどの核酸分子が細胞核中には入っていないが、細胞質において複製し、翻訳される)、および「統合的組み込み(integrative incorporation)」(例えば、核酸分子が細胞ゲノム中に組み込まれている)が挙げられる。
免責条項
【0099】
明細書を過度に長くすることなく包括的な開示を提供するために、出願人は、上で参照した特許および特許出願のそれぞれを、参考することにより本明細書に組み入れる。
【0100】
前段で詳述した態様の構成要素および特徴の特定の組み合わせは例示的なものに過ぎず、これらの教示を本明細書や参考として組み入れた特許/特許出願における他の教示と入れ替えたり、置き換えたりすることも明らかに想定される。当業者には理解されるように、特許請求の範囲に記載された本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載されているものの変異形態、修正形態および他の実施方法が当業者には思い浮かぶであろう。したがって、前述の説明は単なる例示に過ぎず、それらに限定することを意図するものではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される。さらに、明細書および特許請求の範囲で使用される参照符号は、特許請求する本発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0101】
図1】TTHERM_00320120の遺伝子産物(繊毛虫リパーゼ10)のpHスペクトル
図2】TTHERM_00320130の遺伝子産物(繊毛虫リパーゼ11)のpHスペクトル
図3】TTHERM_00320230の遺伝子産物(繊毛虫リパーゼ14)のpHスペクトル
図4】リパーゼ10および14の胃液中での安定性
図5】胆汁酸によるリパーゼ11の活性化
図6A】プラスミドの例
図6B】プラスミドの例
図7】種々のリパーゼ
【発明を実施するための形態】
【0102】
本発明の目的に関するその他の詳細、特徴、特徴および利点は従属請求項で開示されており、それぞれの図および実施例についての以下の記載は、例示的な様式で、本発明の好ましい態様を示すものである。しかしながら、これらの図面は決して本発明の範囲を限定するものではない。
実施例および図面
1.発現ベクターの構築
種々のリパーゼ(配列番号1、配列番号2および配列番号3)の遺伝子をドナーベクターにクローニングした(図7参照)。すべてのドナーベクター由来の発現カセットをCre依存性リコンビナーゼ系を用いてアクセプターベクター(図8参照)に移した。配列は以下に示す。
【0103】
2.野生型テトラヒメナの培養と発現プラスミドの形質転換(遺伝子銃を使ったボンバードメント)
テトラヒメナ・サーモフィル(Tetrahymena thermophila)B1868/4、B1868/7およびSB1969株を、SPPR(2.5% プロテオースペプトン、1% ペプトン酸加水分解物、0.5% 酵母抽出物、0.1% 硫酸第一鉄キレート溶液および0.2% グルコース)中で培養した。本発明者らは、T.サーモフィラ株を接合することを利用した。T.サーモフィラ細胞の形質転換は、カシディ・ヘンリー(Cassidy-Hanley)ら(1997)に既に記載のあるとおりに実施した。
【0104】
3.リパーゼ活性の決定
形質転換したテトラヒメナのクローンを、500mlのマルチフェルメンター(Multifermenter)に400μg/mlのパロモマイシンを添加したSPPR培地を入れたものを使い、30℃で培養した。標的遺伝子発現は、培養開始時または、培養に初期もしくは途中の対数増殖期に0.55μMのCd2+(MTT1)を添加することで誘導した。
【0105】
細胞を含んでいないSPPR上清の部分量を、培養誘導後、約20時間~25時間目に回収した。上清のリパーゼ活性は、ニクソンおよびチャン(1979)に記載の遊離脂肪酸の比色定量、または滴定(米国薬局方23、NF18 1095、1150-1151頁)により決定した。脂肪分解活性クローンのスクリーニングは、ローダミン蛍光試験(ジェット(Jette)およびジオメク(Ziomek)、1994)によって行った。
【0106】
4.テトラヒメナの種々のリパーゼのpHスペクトル(図1~3)
過剰発現させた3つの異なるテトラヒメナリパーゼの脂肪分解活性を、ニクソン試験により、様々なpH値で試験した。基質としては、胃の通過をシミュレートするために、ペプシンを使い、低pH値で予め消化しておいた、アリエブロック社(Arie Blok)(ウールデン、オランダ)の高脂肪ブタ食餌を使用した。リパーゼの10と14(それぞれ配列番号4および6)は低pH値で活性を示したが、リパーゼ11は、パンクレアチンに匹敵する、中性から高いpH値までの広いpH活性スペクトルを示した。これらのリパーゼを組み合わせることで、2~11のpH値をカバーすることができる。結果を図1~3に示した。
【0107】
5.胃液中での安定性(図4
ヒト胃液中で0.5時間および3時間インキュベートした後、pH活性を測定した(図4)。パンクレアチン由来の製品とは対照的に、リパーゼ10および14は、ヒト胃液中で3時間インキュベーションした後でさえ、それぞれ38%および30%の活性を保持する。結果を図4に示す。
【0108】
6.胆汁酸による活性化(図5
種々の量の胆汁酸の生理学的混合物の存在下でリパーゼ11(配列番号5)の脂肪分解活性を試験した(ガルゴウリ(Gargouri)ら、1986)。ヒト膵リパーゼと同様に、リパーゼ11は、高濃度の胆汁酸によって活性化される。結果を図5に示す。
【0109】
配列

配列番号1:リパーゼ10のヌクレオチド

1 atgaaattgt aattgcttct attggtttgc ttgtcatttg ctgcctgcta atcatttact
61 tatacttaat cacttgctta agacttagct ggtttctctc ttgcttctta ctgtaatcct
121 aaatctatag aacaatggaa ttgtggatgt gcttgtgata aaaaccctta aggacttcga
181 aatgttacta tcttatttaa ctctactcta taagctagtg gatatttagg ctactccact
241 catcatgatg caattgttgt tgtattcaga ggaacagtac cttggttaat cgaaaattgg
301 attgctgact taaacacctt caagacttag tacccactct gccaaaactg ttatgtccat
361 taaggctttt ataaccagtt caaataattg aaatctcagc ttgttactag ctttacttca
421 cttcgttaac tatatcctaa tgcaaaagta tttgttacag gacattctct tggtgctgca
481 atgagtgctc actcaatacc agtaatttac taattaaatg gaaataaacc tattgatgct
541 ttttacaatt atggttgtcc tagagtaggt gactaaactt atgcaaactg gtttaacagt
601 taaaattttg ccttagaata tggtagaatt aataatgctg ctgatccagt tcctcattta
661 cctcctcttc tttacccatt ttcatttttc cactacaacc atgaaatatt ctatccttct
721 tttgttcttt ttggaaacta acataactaa tgttaaaacg cggaaacaat atttggtgca
781 gatggagtaa taatagcagc taatgttcta gaccatctaa cttattttgg atgggattgg
841 tctggttcta tattaacttg ctaatga

配列番号4:リパーゼ10のアミノ酸配列

MKLQLLLLVCLSFAACQSFTYTQSLAQDLAGFSLASYCNPKSIE
QWNCGCACDKNPQGLRNVTILFNSTLQASGYLGYSTHHDAIVVVFRGTVPWLIENWIA
DLNTFKTQYPLCQNCYVHQGFYNQFKQLKSQLVTSFTSLRQLYPNAKVFVTGHSLGAA
MSAHSIPVIYQLNGNKPIDAFYNYGCPRVGDQTYANWFNSQNFALEYGRINNAADPVP
HLPPLLYPFSFFHYNHEIFYPSFVLFGNQHNQCQNAETIFGADGVIIAANVLDHLTYF
GWDWSGSILTCQ

配列番号2:リパーゼ11のヌクレオチド

1 atgaaatcaa tttttttatt aattatttcc ttgcttttag cttcttgctc atagttttaa
61 tataatgaaa cacttgccta agacttagct ggattttctc ttgcttctta ctgtaatcct
121 aaatatttat aataatggaa ttgtggctct gcttgtaaaa aaaacccaaa tggtcttaca
181 gatttctctt atttgtataa caagacttta aaggcaagtg gatatatagg ctattctgct
241 catcatgatg ctattatagt tgtctttaga ggaactgtcc cttggttgat ctaaaattgg
301 attgcagatt taaacactat caaaatttaa tatcctttct gtgaaaattg ttatgttcat
361 aaaggtttct ataaatagtt caattaatta aaatcttaac ttatttaaag ctttacagaa
421 attcgttaaa aatatccttc atcaaaaata tttgtcactg gacattctct tggtgcagct
481 atgagttttc attcaatgcc tattattttt gaattaaatg gaaataagcc tattgatgct
541 ttctataatt atggttcccc aagagttggt aacgaagcat atgcaacttg gtttaattta
601 caaaattttg ctttataata tggcagaata aataatgcag cagatcctgt tcctcattta
661 cctcctattc ttttcccttt ctaattttat catactaatc atgaaatatt ttatacttca
721 tttattgaag atggtaacaa atatgagtaa tgcttagatg cagaacacaa attatgtgca
781 aatagtaaga ttattgctgc aagcgttcgt gaccatctta gttattttgg ctggaattgg
841 gctacttcta ttttaacttg ccaatgaatt aaaaaattaa tttatcaaac aaaaacatta
901 actaaaatta tttttatctg tttaaatttg ttttaaaaca tttatatttt attttaatat
961 ttactacttt ttagaataaa atatct

配列番号5:リパーゼ11のアミノ酸配列

MKSIFLLIISLLLASCSQFQYNETLAQDLAGFSLASYCNPKYLQ
QWNCGSACKKNPNGLTDFSYLYNKTLKASGYIGYSAHHDAIIVVFRGTVPWLIQNWIA
DLNTIKIQYPFCENCYVHKGFYKQFNQLKSQLIQSFTEIRQKYPSSKIFVTGHSLGAA
MSFHSMPIIFELNGNKPIDAFYNYGSPRVGNEAYATWFNLQNFALQYGRINNAADPVP
HLPPILFPFQFYHTNHEIFYTSFIEDGNKYEQCLDAEHKLCANSKIIAASVRDHLSYF
GWNWATSILTCQ

配列番号3:リパーゼ14の核酸配列

1 ATGAACAAAT TGCAAGTTCT TTTCATTGCA GCTATAGTTT GCACAATTGG ATCCACTGTT
61 TATTTACTCA ATAAGAGCTC TTCAGATGTC CAAGAGTCTT AACTGACTTT CCCCTATGAT
121 GAAAATTTAG CTGAAAATTT AGCTGGATTT TCTATGGCTT CTTATTGTAA AGCTTCTAAA
181 ATTGAAAACT GGAATTGCGG TGCTTCTTGC AAAAAAAATC CCGAAGGACT TTAAGATGTC
241 TACATTATGA AAAATAAAAC TATGAACGCT GCTGGTTTCT TAGCATATTC TCCTGCTCAT
301 GATGCTATAG TAGTTGTATT TAGAGGAACT GTCCCCTGGT TGATCAAGAA TTGGATTAGT
361 GACATTAACA CTGTCAAAAC AAAATACTCT AGATGCGAAA AATGCTATGT TCATTTGGGC
421 TTCTTCAATG CCTTCAAGGA ATTGTAAGAT TAAATTCTTA CTGAGTTCCC TAAACTTAAG
481 GCCAAATATC CTTATTCAAA GGTAATTTAA CACAAAATAT ACATATATCT CTTTATAAAT
541 AATTCATGCT ATCATATGTT TTTCTTTAGA TTATTGTGTA TTTCAAAAGC ATCACCTTAG
601 CCTTTAAATA TTGATTAAGG AAATATTAAA TGATTTGTAA AATCAATTGC AAGAATATAA
661 ATTACTCTAA ATTAAATCGA CGTATGAATC GAATACCCAA CTAATTATAG GCATTAATAA
721 ATTTTGGAAA ATTATTTGTT TTCTCAATTT TCAATATGAA AATTTAGCTT AACTTATTTG
781 GCTTTTAATA TTTATTCCAC TTTTTACATC TTATTCATCA ATTATATTTA TTTTAAACTC
841 ATTTAAAAAT AAATAGGTTT TTGTTACAGG TCATTCCCTT GGTGCTGCAA TGAGTACTCA
901 CGCTGTTCCT GTCATTTATG AACTCAATGG AAATAAGCCT ATCGATGCAT TCTATAATTT
961 TGGTTCCCCT AGGGTTGGTG ATGAAAATTA CCACTAATGG TTCGATAGCT AAAATTTTAC
1021 TCTTTAATAT GGTAGAATTA ACCACAGAGC TGATCCAGTT CCTCATTTAC CCCCTAATTA
1081 CTCTCCTTTC ACTTTTACTC ATATTGATCA TGAAGTTTTC TATTAAACAT TTAAGAAACC
1141 TTATACATAA TGTATTGAAA CTGAAAGTCT TGAATGTGCT GATGGTATAA AAATTCCCTT
1201 AGATATTCCT GACCATCTTT CTTACTTTGG TTGGGATTGG GCCACTGACA TCTTAGCTTG
1261 CTAATGA

配列番号6:リパーゼ14のアミノ酸配列

MNKLQVLFIAAIVCTIGSTVYLLNKSSSDVQESQLTFPYDENLAE
NLAGFSMASYCKASKIENWNCGASCKKNPEGLQDVYIMKNKTMNAAGFLAYSPAHDAIV
VVFRGTVPWLIKNWISDINTVKTKYSRCEKCYVHLGFFNAFKELQDQILTEFPKLKAKY
PYSKVFVTGHSLGAAMSTHAVPVIYELNGNKPIDAFYNFGSPRVGDENYHQWFDSQNFT
LQYGRINHRADPVPHLPPNYSPFTFTHIDHEVFYQTFKKPYTQCIETESLECADGIKIP
LDIPDHLSYFGWDWATDILACQ
【0110】
参考文献
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図1
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