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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン二次電池用正極活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20220519BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20220519BHJP
   C01B 35/14 20060101ALI20220519BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220519BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220519BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20220519BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220519BHJP
【FI】
H01M4/58
C01B25/45 Z
C01B35/14
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/054
H01M10/0562
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017547760
(86)(22)【出願日】2016-10-20
(86)【国際出願番号】 JP2016081131
(87)【国際公開番号】W WO2017073457
(87)【国際公開日】2017-05-04
【審査請求日】2019-09-02
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-09
(31)【優先権主張番号】P 2015211740
(32)【優先日】2015-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山内 英郎
【合議体】
【審判長】平塚 政宏
【審判官】市川 篤
【審判官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/133369(WO,A1)
【文献】特表2006-523930(JP,A)
【文献】特開2015-26483(JP,A)
【文献】国際公開第2013/031331(WO,A1)
【文献】特開2014-207157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13- 4/62
H01M10/054
C01B25/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算のモル%で、NaO 8~55%、NiO 10~70%、CrO+FeO+MnO+CoO 0~60%、P+SiO+B 15~70%を含有し、かつ、非晶質相を含有することを特徴とするナトリウムイオン二次電池用正極活物質であって、
一般式Na(Ni1-a)A(MはFe、Cr、Mn及びCoからなる群より選ばれた少なくとも一種、AはP、Si及びBからなる群より選ばれた少なくとも一種、0.2≦x≦1.67、0.65≦y≦1.83、2.5≦z≦6.42、0≦a≦0.9)からなる結晶を含有する二次電池用正極活物質。
【請求項2】
結晶が、単斜晶、三斜晶及び斜方晶から選択される少なくとも一種の結晶構造を有することを特徴とする請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
請求項1または2に記載のナトリウムイオン二次電池用正極活物質を含有することを特徴とするナトリウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項4】
さらに、導電助剤を含むことを特徴とする請求項3に記載のナトリウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項5】
さらに、ナトリウムイオン伝導性固体電解質を含むことを特徴とする請求項3または4に記載のナトリウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項6】
ナトリウムイオン伝導性固体電解質がベータアルミナまたはNASICON結晶であることを特徴とする請求項5に記載のナトリウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項7】
質量%で、請求項1または2に記載のナトリウムイオン二次電池用正極活物質30~100%、導電助剤0~20%、ナトリウムイオン伝導性固体電解質0~70%を含有することを特徴とするナトリウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項8】
請求項3~7のいずれか一項に記載のナトリウムイオン二次電池用正極材料を用いたことを特徴とするナトリウムイオン二次電池用正極。
【請求項9】
請求項8に記載のナトリウムイオン二次電池用正極を備えたことを特徴とするナトリウムイオン二次電池。
【請求項10】
請求項1または2に記載のナトリウムイオン二次電池用正極活物質を製造するための方法であって、
原料バッチを溶融して溶融物を得る工程、及び、
溶融物を冷却することによりガラス体を得る工程
を含むことを特徴とするナトリウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
さらに、ガラス体を焼成することにより結晶化させる工程を含むことを特徴とする請求項10に記載のナトリウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電子機器や電気自動車等に用いられるナトリウムイオン電池用正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電子端末や電気自動車等に不可欠な、高容量で軽量な電源としての地位を確立しており、その正極活物質として、一般式LiFePOで表されるオリビン型結晶を含む活物質が注目されている(例えば特許文献1参照)。しかし、リチウムは世界的な原材料の高騰などの問題が懸念されているため、その代替としてナトリウムを使用した、ナトリウムイオン二次電池の研究が近年行われている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-205741号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Journal of the Ceramic Society of Japan 120 [8] 344-346 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のNaFePで表される結晶を含むナトリウムイオン二次電池用正極活物質は放電容量が低いという課題を有している。
【0006】
以上に鑑み、本発明は、放電容量に優れた新規なナトリウムイオン二次電電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が鋭意検討した結果、Ni成分を含有する特定組成の正極活物質により上記の課題を解決できることを見出し、本発明として提案するものである。
【0008】
即ち、本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、酸化物換算のモル%で、NaO 8~55%、NiO 10~70%、CrO+FeO+MnO+CoO 0~60%、P+SiO+B 15~70%を含有し、かつ、非晶質相を含有することを特徴とする。なお、本明細書において、「○+○+・・・」は各成分の合量を意味する。
【0009】
NiOは、充放電の際にNiイオンの価数が変化してレドックス反応を起こすことにより、ナトリウムイオンの吸蔵及び放出の駆動力として作用する。よって、NiOを上記の通り必須成分として所定量含有することにより、放電容量を向上させることが可能となる。
【0010】
なお、本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は非晶質相を含有することを特徴とし、それによりナトリウムイオンの拡散パスが3次元的に広がるため、充放電に伴うナトリウムイオンの挿入脱離が容易になり高容量化が可能となる。また、急速充放電特性やサイクル特性が向上しやすくなる。さらに、固体型ナトリウムイオン二次電池用正極活物質として用いた際に、非晶質相が焼成時に軟化流動して正極活物質とナトリウムイオン伝導性固体電解質とを融着するため、緻密な焼結体となりやすい。そのため、正極活物質とナトリウムイオン伝導性固体電解質の界面においてイオン伝導パスが形成されやすくなる。なお、正極活物質が非晶質を含有していると、正極活物質による電解質の分解が抑制されやすくなるという利点もある。
【0011】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、一般式Na(Ni1-a)A(MはFe、Cr、Mn及びCoからなる群より選ばれた少なくとも一種、AはP、Si及びBからなる群より選ばれた少なくとも一種、0.2≦x≦4.2、0.65≦y≦6.5、2.5≦z≦20、0≦a≦0.9)からなる結晶を含有してもよい。このようにすれば、充放電に伴う酸化還元電位が高電位で一定になりやすく、エネルギー密度が向上しやすくなる。
【0012】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質において、結晶が、単斜晶、三斜晶及び斜方晶から選択される少なくとも一種の結晶構造を有することが好ましい。
【0013】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極材料は、上記のナトリウムイオン二次電池用正極活物質を含有することが好ましい。
【0014】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極材料は、さらに、導電助剤を含むことが好ましい。
【0015】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極材料は、さらに、ナトリウムイオン伝導性固体電解質を含んでいてもよい。
【0016】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極材料において、ナトリウムイオン伝導性固体電解質がベータアルミナまたはNASICON結晶であることが好ましい。
【0017】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極材料は、質量%で、ナトリウムイオン二次電池用正極活物質 30~100%、導電助剤 0~20%、ナトリウムイオン伝導性固体電解質 0~70を含有することが好ましい。
【0018】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極は、上記のナトリウムイオン二次電池用正極材料を用いたことを特徴とする。
【0019】
本発明のナトリウムイオン二次電池は、上記のナトリウムイオン二次電池用正極を備えたことを特徴とする。
【0020】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、上記のナトリウムイオン二次電池用正極活物質を製造するための方法であって、原料バッチを溶融して溶融物を得る工程、及び、溶融物を成形することによりガラス体を得る工程を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、さらに、ガラス体を焼成することにより結晶化させる工程を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、放電容量に優れた新規なナトリウムイオン二次電電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例であるNo.1、13の試料のXRD(X線回折)パターンを示すチャートである。
図2】実施例であるNo.2、14の試料のXRDパターンを示すチャートである。
図3】実施例であるNo.4、15の試料のXRDパターンを示すチャートである。
図4】実施例であるNo.5の試料のXRDパターンを示すチャートである。
図5】実施例であるNo.12の試料のXRDパターンを示すチャートである。
図6】実施例であるNo.1の試料を用いたナトリウムイオン二次電池用試験電池の初回充放電曲線を示すグラフである。
図7】実施例であるNo.2の試料を用いたナトリウムイオン二次電池用試験電池の初回充放電曲線を示すグラフである。
図8】実施例であるNo.4の試料を用いたナトリウムイオン二次電池用試験電池の初回充放電曲線を示すグラフである。
図9】実施例であるNo.5の試料を用いたナトリウムイオン二次電池用試験電池の初回充放電曲線を示すグラフである。
図10】実施例であるNo.12の試料を用いたナトリウムイオン二次電池用試験電池の初回充放電曲線を示すグラフである。
図11】実施例であるNo.22の試料を用いたナトリウムイオン二次電池用試験電池の初回充放電曲線を示すグラフである。
図12】実施例であるNo.23の試料を用いたナトリウムイオン二次電池用試験電池の初回充放電曲線を示すグラフである。
図13】実施例であるNo.25の試料を用いたナトリウムイオン二次電池用試験電池の初回充放電曲線を示すグラフである。
図14】実施例であるNo.26の試料を用いたナトリウムイオン二次電池用試験電池の初回充放電曲線を示すグラフである。
図15】実施例であるNo.27の試料を用いたナトリウムイオン二次電池用試験電池の初回充放電曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(ナトリウムイオン二次電池用正極活物質)
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、酸化物換算のモル%で、NaO 8~55%、NiO 10~70%、CrO+FeO+MnO+CoO 0~60%、P+SiO+B 15~70%を含有し、かつ、非晶質相を含有することを特徴とする。各成分をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。
【0025】
NaOは、充放電の際に正極活物質と負極活物質との間を移動するナトリウムイオンの供給源となる。NaOの含有量は8~55%であり、15~45%、特に25~35%であることが好ましい。NaOが少なすぎると、吸蔵及び放出に寄与するナトリウムイオンが少なくなるため、放電容量が低下する傾向にある。一方、NaOが多すぎると、NaPO等の充放電に寄与しない異種結晶が析出しやすくなるため、放電容量が低下する傾向にある。
【0026】
NiOは、充放電の際にNiイオンの価数が変化してレドックス反応を起こすことにより、ナトリウムイオンの吸蔵及び放出の駆動力として作用する。NiOの含有量は10~70%であり、15~60%、20~55%、23~50%、25~40%、特に26~36%であることが好ましい。NiOが少なすぎると、充放電に伴うレドックス反応が起こりにくくなり、吸蔵及び放出されるナトリウムイオンが少なくなるため放電容量が低下する傾向にある。一方、NiOが多すぎると、異種結晶が析出して放電容量が低下する傾向にある。
【0027】
CrO、FeO、MnO及びCoOは、NiOと同様に、充放電の際にこれら遷移金属元素イオンの価数が変化してレドックス反応を起こすことにより、ナトリウムイオンの吸蔵及び放出の駆動力として作用する。MnOは特に高い酸化還元電位を示すことから好ましい。また、FeOは充放電において高い構造安定化を有し、サイクル特性が向上しやすくなるため好ましい。CrO+FeO+MnO+CoOの含有量は0~60%であり、0.1~50%、0.5~45%、1~40%、3~30%、特に5~20%であることが好ましい。CrO+FeO+MnO+CoOが多すぎると、FeO、MnO、NiO等の充放電に寄与しない異種結晶が析出しやすくなるため、放電容量が低下する傾向にある。なお、酸化還元電位を高めることを優先する場合は、CrO+FeO+MnO+CoOの含有量はなるべく少なくし、NiOの含有量を多くすることが好ましい。
【0028】
なお、CrO、FeO、MnO及びCoOにおける遷移金属元素は、ガラス中で低価数のイオン、特に2価のイオンであることが好ましい。この場合、充放電に伴って発生する酸化還元電位が高く、放電容量及び放電電圧が高くなりやすい。
【0029】
、SiO及びBは3次元網目構造を形成するため、正極活物質の構造を安定化させる効果を有する。また、これらの成分を含有することにより、非晶質相の含有量を高めることができる。特に、P、SiOがイオン伝導性に優れるために好ましく、Pが最も好ましい。P+SiO+Bの含有量は15~70%であり、20~60%、特に25~45%であることが好ましい。P+SiO+Bが少なすぎると、繰り返し充放電した際に放電容量が低下しやすくなる傾向にある。一方、P+SiO+Bが多すぎると、P等の充放電に寄与しない異種結晶が析出する傾向にある。なお、P、SiO及びBの各成分の含有量は各々0~70%、15~70%、20~60%、25~45%、特に29~35%であることが好ましい。
【0030】
なお、NaO/NiOは0.2~5、0.3~4、特に0.4~3であることが好ましい。NaO/NiOが小さすぎるまたは大きすぎると、放電容量が低下する傾向にある。また、NiO/(P+SiO+B)は0.2~4、0.3~3、特に0.4~2であることが好ましい。NiO/(P+SiO+B)が小さすぎるまたは大きすぎると、放電容量が低下する傾向にある。ここで、「NaO/NiO」はNaOとNiOの各含有量のモル比を意味する。また、「NiO/(P+SiO+B)」はNiOとP+SiO+Bの各含有量のモル比を意味する。
【0031】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分に加えて種々の成分を含有させることでガラス化を容易にすることができる。このような成分としては、酸化物表記でMgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、CuO、Al、GeO、Nb、ZrO、V、Sbが挙げられ、特に網目形成酸化物として働くAlや活物質成分となるVが好ましい。上記成分の含有量は、合量で0~30%、0.1~20%、特に0.5~10%であることが好ましい。
【0032】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は非晶質相を含有することを特徴とする。それにより、既述の通り、高容量化、急速充放電特性やサイクル特性の向上等の効果を享受することができる。
【0033】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、一般式Na(Ni1-a)A(MはFe、Cr、Mn及びCoからなる群より選ばれた少なくとも一種、AはP、Si及びBからなる群より選ばれた少なくとも一種、0.2≦x≦4.2、0.65≦y≦6.5、2.5≦z≦20、0≦a≦0.9)で表される結晶を含有してもよい。このようにすれば、充放電に伴う酸化還元電位が高電位で一定になりやすく、エネルギー密度が向上しやすくなる。
【0034】
xは0.2≦x≦4.2、0.5≦x≦3.5、0.6≦x≦2.5、特に1.35≦x≦2.1の範囲にあることが好ましい。xが小さすぎると、吸蔵及び放出に寄与するナトリウムイオンが少なくなるため、放電容量が低下する傾向にある。一方、xが大きすぎると、NaPO等の充放電に寄与しない異種結晶が析出して放電容量が低下する傾向にある。
【0035】
yは0.65≦y≦6.5、0.95≦y≦4、特に1.2≦y≦3の範囲にあることが好ましい。yが小さすぎると、レドックス反応するための遷移金属元素が少なることにより、吸蔵及び放出に寄与するナトリウムイオンが少なくなるため、放電容量が低下する傾向にある。一方、yが大きすぎると、充放電に寄与しないFeO、MnO、NiO等の異種結晶が析出して放電容量が低下する傾向にある。
【0036】
zは2.5≦z≦20、3.5≦z≦15、特に4≦z≦10の範囲にあることが好ましい。zが小さすぎると、遷移金属元素の価数が2価より小さくなって、充放電に伴い金属として析出しやすくなる。析出した金属は電解液中に溶出し、負極側で金属デンドライトとして析出するため、内部短絡の原因となるおそれがある。また、zが小さすぎると、ナトリウムイオンの放出が少なくなったり、遷移金属によるレドックス反応が生じにくくなるため、放電容量が低下する傾向がある。一方、zが大きすぎると、遷移金属元素が2価より大きくなって、充放電に伴うレドックス反応が生じにくくなり、吸蔵及び放出されるナトリウムイオンが少なくなるため、放電容量が低下しやすくなる。
【0037】
遷移金属元素であるMは、Cr、Fe、Mn及びCoからなる群より選ばれる少なくとも一種であればよいが、Mnであれは特に高い酸化還元電位を示すことから好ましい。また、Feであれば充放電において高い構造安定化を有し、サイクル特性が向上しやすくなるため好ましい。
【0038】
Aは網目形成成分として結晶構造の骨格を形成する元素としての役割を有し、P、Si及びBからなる群より選ばれた少なくとも一種であればよいが、P、Siが構造安定性に優れるため好ましく、特にPがイオン伝導性に優れるために好ましい。
【0039】
aは0≦a≦0.9、0≦a≦0.5、0≦a≦0.3、特にa=0であることが好ましい。aが小さいほど酸化還元電位が高くなり、蓄電デバイス用正極活物質として用いた場合、高い充放電電圧を示しやすくなる。
【0040】
一般式Na(Ni1-a)Aで表される結晶(作動電圧4~6V(vs.Na/Na))は、単斜晶、三斜晶、斜方晶のいずれかの結晶構造を有することが好ましい。結晶の具体例としては、NaNi(PO(=NaNiP18 理論容量42.9mAh/g 三斜晶)、NaNiP10(理論容量70.4mAh/g)、NaNi(Si10)(=NaNiSi10 理論容量71.1mAh/g 三斜晶)、NaNi(PO(=NaNiP 理論容量78.7mAh/g)、NaNi(PO(=NaNiP 理論容量84.1mAh/g 単斜晶)、NaNi1221(=NaNiB10.5 理論容量85.2mAh/g 単斜晶)、NaNi16(=Na1.5NiP2.5 理論容量89.8mAh/g)、NaNiP(理論容量96.2mAh/g)、Na3.64Ni2.18(P(=Na1.67NiP1.836.42 理論容量104.4mAh/g 三斜晶)、NaNi22(=Na1.5NiP1.55.5 理論容量117.7mAh/g)、NaNi15(=Na1.33NiP1.33 理論容量127.2mAh/g 斜方晶)、NaNi(PO(P(=Na0.8NiP1.24.4 理論容量116.1mAh/g 単斜晶)、NaNiPO(理論容量151.7mAh/g 斜方晶)、NaNi(PO(=Na0.67NiP0.893.56 理論容量112.8mAh/g)、NaNi(PO(=Na0.57NiP0.863.43 理論容量99.9mAh/g 単斜晶)、NaNi(PO(=Na0.25NiP0.75 理論容量49.4mAh/g 斜方晶)等が挙げられる。なお、上記結晶の各表記は示性式であり、括弧内に記載した式は示性式におけるNiの係数を1に規格化した一般式を示す。一般式が示性式と同じ表記である場合は記載を省略している。
【0041】
結晶の結晶子サイズが小さいほど、正極活物質粒子の平均粒子径を小さくすることが可能となり、電気伝導性を向上させることができる。具体的には、結晶子サイズは100nm以下、特に80nm以下であることが好ましい。結晶子サイズの下限については特に限定されないが、現実的には1nm以上、さらには10nm以上である。結晶子サイズは、粉末X線回折の解析結果からシェラーの式に従って求められる。
【0042】
正極活物質における非晶質相及び結晶の含有量は、目的とする特性に応じて適宜選択することが好ましい。例えば、正極活物質における非晶質相の含有量は、質量%で0.1%以上、1%以上、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、50%以上、70%以上、特に90%以上(結晶の含有量が質量%で99.9%以下、99%以下、95%以下、90%以下、80%以下、70%以下、50%以下、30%以下、特に10%以下)であることが好ましい。非晶質相の含有量が少なすぎると、既述の効果が得られにくくなる。なお、正極活物質における非晶質の割合が多くなると、結晶からなる正極活物質と比較して組成設計の自由度が高くなるため、組成を適宜調整する(例えば遷移金属成分の含有量を多くする)ことにより、高電圧化や高容量化を達成しやすいという利点がある。非晶質相の含有量の上限は特に限定されず100%(結晶の含有量が0%)であってもよいが、結晶を積極的に析出させる場合は、99.9%以下、99%以下、95%以下、90%以下、80%以下、70%以下、50%以下、30%以下、特に10%以下(結晶の含有量が質量%で0.1%以上、1%以上、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、50%以上、70%以上、特に90%以上)としてもよい。このようにすれば、結晶を含有することにより得られる既述の効果も同時に享受することができる。
【0043】
正極活物質における非晶質相及び結晶の含有量は、CuKα線を用いた粉末X線回折測定によって得られる、2θ値で10~60°の回折線プロファイルにおいて、結晶性回折線と非晶質ハローにピーク分離することで求められる。具体的には、回折線プロファイルからバックグラウンドを差し引いて得られた全散乱曲線から、10~45°におけるブロードな回折線(非晶質ハロー)をピーク分離して求めた積分強度をIa、10~60°において検出される既述の一般式で表される結晶相の結晶性回折線をピーク分離して求めた積分強度の総和をIc、その他の結晶に由来する結晶性回折線から求めた積分強度の総和をIoとした場合、非晶質相の含有量及びXg結晶の含有量Xcは次式から求められる。
【0044】
Xg=[Ia/(Ic+Ia+Io)]×100(質量%)
Xc=[Ic/(Ic+Ia+Io)]×100(質量%)
【0045】
本発明の蓄電デバイス用正極活物質は、導電性炭素により被覆、あるいは導電性炭素と複合化されていてもよい。このようにすれば、電子伝導度性が高くなり、高速充放電特性が向上しやすくなる。導電性炭素としては、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の高導電性カーボンブラック、グラファイト等のカーボン粉末、炭素繊維等を用いることができる。なかでも、電子伝導性が高いアセチレンブラックが好ましい。
【0046】
正極活物質を導電性炭素で被覆する方法として、正極活物質と、導電性炭素源である有機化合物と混合した後、不活性または還元雰囲気で焼成し、有機化合物を炭化させる方法が挙げられる。有機化合物としては、熱処理の過程で炭素として残留する有機化合物であればどのような原料を用いても構わないが、グルコース、クエン酸、アスコルビン酸、フェノール樹脂、界面活性剤等の使用が好ましく、特に正極活物質表面に吸着しやすい界面活性剤が好ましい。界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤のいずれでもよいが、特に、正極活物質表面への吸着性に優れた非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0047】
正極活物質と導電性炭素の混合割合は、質量比で80~99.5:0.5~20であることが好ましく、85~98:2~15であることがより好ましい。導電性炭素の含有量が少なすぎると、電子伝導性に劣る傾向がある。一方、導電性炭素の含有量が多すぎると、相対的に正極活物質の含有量が少なくなるため、放電容量が低下する傾向がある。
【0048】
なお、正極活物質表面が導電性炭素により被覆されている場合、導電性炭素被膜の厚さは1~100nm、特に5~80nmであることが好ましい。導電性炭素被膜の厚さが小さすぎると、充放電の過程で導電性炭素被膜が消滅して電池特性が低下しやすくなる。一方、導電性炭素被膜の厚さが大きすぎると、放電容量の低下や電圧降下等が生じやすくなる。
【0049】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、ラマン分光法における1550~1650cm-1のピーク強度Gに対する1300~1400cm-1のピーク強度Dの比(D/G)が1以下、特に0.8以下であり、かつ、ピーク強度Gに対する800~1100cm-1のピーク強度Fの比(F/G)が0.5以下、特に0.1以下であることが好ましい。これらのピーク強度比が上記範囲を満たすことにより、正極活物質の電子伝導性が高くなる傾向がある。
【0050】
蓄電デバイス用正極活物質の形状は特に限定されないが、粉末状であるとナトリウムイオンの吸蔵及び放出のサイトが多くなるため好ましい。その場合、平均粒子径は0.1~20μm、0.3~15μm、0.5~10μm、特に0.6~5μmであることが好ましい。また、最大粒子径は150μm以下、100μm以下、75μm以下、特に55μm以下であることが好ましい。平均粒子径または最大粒子径が大きすぎると、充放電時においてナトリウムイオンの吸蔵及び放出のサイトが少なくなるため、放電容量が低下する傾向にある。一方、平均粒子径が小さすぎると、ペースト化した際に粉末の分散状態が悪化して、均一な電極を製造することが困難になる傾向がある。
【0051】
ここで、平均粒子径と最大粒子径は、それぞれ一次粒子のメジアン径でD50(50%体積累積径)とD99(99%体積累積径)を示し、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定された値をいう。
【0052】
(ナトリウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法)
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、以下に説明するような溶融急冷法により製造することができる。まず所望の組成となるように原料粉末を調製して原料バッチを得る。次に、得られた原料バッチを溶融する。溶融温度は原料バッチが均質になるよう適宜調整すればよい。具体的には、溶融温度は800℃以上、900℃以上、特に1000℃以上であることが好ましい。上限は特に限定されないが、溶融温度が高すぎるとナトリウム成分が蒸発したり、エネルギーロスにつながるため、1500℃以下、特に1400℃以下であることが好ましい。
【0053】
ところで、正極活物質にFe成分を含有する場合は、初回充電に伴いナトリウムイオンが放出されると、電荷補償としてFe2+→Fe3+の酸化反応が進行する。そのため、正極活物質内で2価イオンの割合を多くすることにより、上記の電荷補償の酸化反応が生じやすくなり、初回充放電効率が向上しやすくなる。しかしながら、2価のFeイオン(FeO)を含むガラスは、溶融条件によってFe原子の酸化状態が変化しやすく、大気中で溶融した場合は3価のFeイオン(Fe)に酸化されやすい。そこで、還元雰囲気または不活性雰囲気中で溶融を行うことで、ガラス中のFeイオンの価数の増加を抑制し、初回充放電効率に優れた蓄電デバイスを得ることが可能となる。
【0054】
還元雰囲気で溶融するには、溶融槽中へ還元性ガスを供給することが好ましい。還元性ガスとしてHガスを使用する場合、溶融中における爆発等の危険性を低減するため、N等の不活性ガスを添加した混合ガスを使用することが好ましい。具体的には、混合ガスは、体積%で、N 90~99.5%、及びH 0.5~10%を含有することが好ましく、N 92~99%、及びH 1~8%を含有することがより好ましい。不活性雰囲気で溶融する場合は、溶融槽中へ不活性ガスを供給することが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムのいずれかを用いることが好ましい。還元性ガスまたは不活性ガスは、溶融槽において溶融ガラスの上部雰囲気に供給してもよいし、バブリングノズルから溶融ガラス中に直接供給してもよく、両手法を同時に行ってもよい。
【0055】
正極活物質がPを含有する場合は、出発原料粉末にメタリン酸ナトリウム(NaPO)や第三リン酸ナトリウム(NaPO)等のリン酸塩を使用することにより、失透異物が少なく均質性に優れた正極活物質が得られやすくなる。当該正極活物質を正極材料として用いれば、放電容量が安定した二次電池が得られやすくなる。
【0056】
得られた溶融物を冷却して成形することによりガラス体を得る。成形方法としては特に限定されず、例えば、溶融物を一対の冷却ロール間に流し込み、急冷しながらフィルム状に成形してもよいし、あるいは、溶融物を鋳型に流し出し、インゴット状に成形しても構わない。ガラス体は非晶質体であることが均質性の点から好ましいが、一部結晶相を含有していてもよい。
【0057】
なお、ガラス体が3価のFeイオンを含む場合、例えば還元雰囲気で焼成することにより、2価のFeイオンに還元することが好ましい。還元雰囲気としては、H、NH、CO、HS及びSiHから選ばれる少なくとも一種の還元性ガスを含む雰囲気が挙げられる。ガラス体におけるFeイオンを3価から2価に効率的に還元する観点からは、H、NHまたはCOが好ましく、Hが特に好ましい。なお、Hを使用する場合は、焼成中における爆発等の危険性を低減するため、NとHの混合ガスを使用することが好ましい。混合ガスとしては、体積%で、N 90~99.9%、及びH 0.1~10%を含有することが好ましく、N 90~99.5%、及びH 0.5~10%を含有することがより好ましく、N 92~99%、及びH 1~4%を含有することがさらに好ましい。
【0058】
焼成温度(最高温度)はガラス体のガラス転移点以上であることが好ましく、具体的には350~900℃、400~850℃、425~800℃、特に450~750℃であることが好ましい。焼成温度が低すぎると、Feイオンの還元が不十分になる傾向がある。一方、焼成温度が高すぎると、ガラス体同士が融着し、比表面積が低下するため、正極活物質の放電容量が低下する傾向にある。
【0059】
焼成における最高温度の保持時間は10~600分、特に30~120分であることが好ましい。保持時間が短すぎると、付与される熱エネルギーが少ないため、Feイオンの還元が不十分になる傾向がある。一方、保持時間が長すぎると、ガラス同士が融着し、比表面積が低下するため、正極活物質の放電容量が低下する傾向にある。
【0060】
なお、上記で得られたガラス体を焼成することで、結晶化させてもよい。これにより非晶質相と結晶相の両方を有する正極活物質を得ることができる。
【0061】
結晶化のための焼成温度は、ガラス転移温度以上であることが好ましく、結晶化温度以上であることがさらに好ましい。ガラス転移温度、結晶化温度はDSC(示差走査熱量測定)やDTA(示差熱分析)から求めることができる。焼成温度が低すぎると、結晶相の析出が不十分となる傾向がある。一方、焼成温度が高すぎると、ガラス体同士が融着し、比表面積が低下するため、正極活物質の放電容量が低下する傾向にある。よって、焼成温度は900℃以下、850℃以下、800℃以下、特に750℃以下であることが好ましい。
【0062】
焼成時間は、ガラス体の結晶化が十分に進行するよう適宜調整される。具体的には、20~300分間であることが好ましく、30~240分間であることがより好ましい。
【0063】
上記の焼成には、電気加熱炉、ロータリーキルン、マイクロ波加熱炉、高周波加熱炉等を用いることができる。なお、ガラス体におけるFeイオンの還元と結晶化を同時に行ってもよい。
【0064】
さらに、必要に応じて、ガラス体と導電性炭素とを粉砕しながら混合することで導電性を付与してもよい。粉砕しながら混合する方法としては、乳鉢、らいかい機、ボールミル、アトライター、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、ビーズミル等の一般的な粉砕機を用いる方法が挙げられる。なかでも、遊星型ボールミルを使用することが好ましい。遊星型ボールミルは、ポットが自転回転しながら台盤が公転回転し、非常に高い衝撃エネルギーを効率良く発生させることができる。よって、ガラス体中に導電性炭素を均質に分散させ電子伝導性を向上させることが可能となる。
【0065】
また、既述の通り、ガラス体と、導電性炭素源である有機化合物と混合した後、不活性または還元雰囲気で焼成し、有機化合物を炭化させることにより、ガラス体を導電性炭素で被覆してもよい。なお、この焼成は、Feイオンを還元する熱処理工程、あるいはガラス体を結晶化させる熱処理工程と同時に行っても良い。
【0066】
なお、一般的な固相反応法により正極活物質を作製した場合は、不所望に充放電電位が高くなりすぎる場合がある。そのため、電解質として非水系電解液を用いたナトリウムイオン二次電池に適用した場合には、充放電電位が電解液の分解電位に達するおそれがある。その結果、繰り返し充放電するに伴い、電解液が分解されることに起因する放電容量や充放電効率の低下が生じやすくなる。また、固相反応法により得られた正極活物質は、通常、非晶質を含有していないため、非晶質を含有することにより得られる、既述の本発明の効果を享受しにくい。
【0067】
(ナトリウムイオン二次電池用正極材料)
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質に対し、導電助剤や結着剤等を混合することにより、ナトリウムイオン二次電池用正極材料が得られる。
【0068】
導電助剤としては、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の高導電性カーボンブラック、グラファイト等の粉末状または繊維状の導電性炭素等が挙げられる。なかでも、少量の添加で導電性を向上できるアセチレンブラックが好ましい。
【0069】
結着剤は、正極材料を構成する材料同士を結着させ、充放電に伴う体積変化によって正極活物質が正極から脱離するのを防止するために添加される成分である。結着剤の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素系ゴム、スチレン-ブタンジエンゴム(SBR)等の熱可塑性直鎖状高分子;熱硬化性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;カルボキシメチルセルロース(カルボキシメチルセルロースナトリウム等のカルボキシメチルセルロース塩も含む。以下同様。)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース及びヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン及びその共重合体等の水溶性高分子が挙げられる。なかでも、結着性に優れる点から、熱硬化性樹脂、セルロース誘導体、水溶性溶性高分子が好ましく、工業的に広範囲に用いられる熱硬化性ポリイミドまたはカルボキシメチルセルロースがより好ましい。特に、安価であり、かつ、電極形成用ペースト作製時に有機溶媒を必要としない低環境負荷のカルボキメチルセルロースが最も好ましい。これらの結着剤は一種のみを使用してもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0070】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質を固体型ナトリウムイオン二次電池として使用する場合は、ナトリウムイオン二次電池用正極材料の構成成分としてナトリウムイオン伝導性固体電解質を添加することが好ましい。ナトリウムイオン伝導性固体電解質は、全固体型の蓄電デバイスにおいて、正極と負極との間のナトリウムイオン伝導を担う成分である。ナトリウムイオン伝導性固体電解質はベータアルミナまたはNASICON結晶であることが、ナトリウムイオン伝導性に優れるため好ましい。ベータアルミナは、βアルミナ(理論組成式:NaO・11Al)とβ’’アルミナ(理論組成式:NaO・5.3Al)の2種類の結晶型が存在する。β’’アルミナは準安定物質であるため、通常、LiOやMgOを安定化剤として添加したものが用いられる。βアルミナよりもβ’’アルミナの方がナトリウムイオン伝導度が高いため、β’’アルミナ単独、またはβ’’アルミナとβアルミナの混合物を用いることが好ましく、LiO安定化β’’アルミナ(Na1.6Li0.34Al10.6617)またはMgO安定化β’’アルミナ((Al10.32Mg0.6816)(Na1.68O))を用いることがより好ましい。
【0071】
NASICON結晶としては、NaZrSiPO12、Na3.2Zr1.3Si2.20.810.5、NaZr1.6Ti0.4SiPO12、NaHfSiPO12、Na3.4Zr0.9Hf1.4Al0.6Si1.21.812、NaZr1.7Nb0.24SiPO12、Na3.6Ti0.20.8Si2.8、NaZr1.880.12SiPO12、Na3.12Zr1.880.12SiPO12、Na3.6Zr0.13Yb1.67Si0.112.912等が好ましく、特にNa3.12Zr1.880.12SiPO12がナトリウムイオン伝導性に優れるため好ましい。
【0072】
ナトリウムイオン伝導性固体電解質の平均粒子径D50は0.3~25μm、0.5~20μm、特に1.2~15μmであることが好ましい。ナトリウムイオン伝導性固体電解質の平均粒子径D50が小さすぎると、正極活物質と均一に混合することが困難となるだけでなく、吸湿したり炭酸塩化するためイオン伝導が低下しやすくなる。結果的に、内部抵抗が高くなり、充放電電圧及び放電容量が低下する傾向にある。一方、ナトリウムイオン伝導性固体電解質の平均粒子径D50が大きすぎると、正極層形成のための焼結時において正極活物質の軟化流動を著しく阻害するため、得られる正極層の平滑性に劣って機械的強度が低下したり、内部抵抗が大きくなる傾向がある。
【0073】
正極材料の構成は、用いる電解質の種類に応じて適宜選択することが好ましい。例えば、水系や非水系の液系電解質を用いたナトリウムイオン二次電池においては、質量%で、正極活物質 70~95%、導電助剤 1~15%、結着剤 3~15%を含有することが好ましく、正極活物質 80~95%、導電助剤 2~10%、結着剤 3~10%を含有することが好ましい。正極活物質の含有量が少なすぎるとナトリウムイオン二次電池の放電容量が低下しやすくなり、多すぎると、導電助剤や結着剤の含有量が相対的に少なくなることから、電子伝導性やサイクル特性が低下しやすくなる。導電助剤の含有量が少なすぎると電子伝導性に劣り、多すぎると正極材料の構成成分同士の結着性が低下して内部抵抗が高くなるため、充放電電圧や放電容量が低下する傾向にある。結着剤の含有量が少なすぎると正極材料の構成材料同士の結着性が低下し、サイクル特性が低下しやすくなり、多すぎると電子伝導性が低下するため急速充放電特性が低下しやすくなる。
【0074】
電解質にナトリウムイオン伝導性固体電解質を用いた固体型ナトリウムイオン二次電池である場合、質量%で、正極活物質 30~100%、導電助剤 0~20%、固体電解質 0~70%を含有することが好ましく、正極活物質 34.5~94.5%、導電助剤0.5~15%、固体電解質5~65%を含有することがより好ましく、正極活物質 40~92%、導電助剤 1~10%、固体電解質 7~50%を含有することがさらに好ましい。正極活物質の含有量が少なすぎるとナトリウムイオン二次電池の放電容量が低下しやすくなる。導電助剤または固体電解質の含有量が多すぎると、正極材料の構成成分同士の結着性が低下して内部抵抗が高くなるため、充放電電圧や放電容量が低下する傾向にある。
【0075】
正極材料の構成成分の混合は、自転公転ミキサー、タンブラー混合機等の混合器や、乳鉢、らいかい機、ボールミル、アトライター、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、ビーズミル等の一般的な粉砕機を用いることができる。特に、遊星型ボールミルを使用することで構成材料同士を均質に分散することが可能となる。
【0076】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極材料は、アルミニウム、銅、金等の金属箔からなる集電体上に塗布し、乾燥させることによりナトリウムイオン二次電池用正極として使用される。あるいは、本発明のナトリウムイオン二次電池用正極材料をシート状に成形した後、スパッタやメッキ等により金属被膜からなる集電体を形成してもよい。
【0077】
(ナトリウムイオン二次電池)
本発明のナトリウムイオン二次電池は、上記のナトリウムイオン二次電池用正極の他に、対極である負極と電解質を備えている。
【0078】
負極は、充放電に伴いナトリウムイオンを吸蔵及び放出できる負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば金属Na、金属Sn、金属Bi、金属Zn、Sn-Cu合金、Bi-Cu合金等の金属系材料、ハードカーボン等のカーボン材料、元素としてTi及び/またはNbを含有する酸化物材料等を用いることができる。なかでも、元素としてTi及び/またはNbを含有する酸化物材料が高い安全性を有しており、また資源的に豊富であることから好ましい。特に、充放電に伴う酸化還元電位が1.5V(vs.Na/Na)以下であるNaTiO(PO、NaTi(POで表される結晶相を含有する酸化物材料を用いることが好ましい。この場合、ナトリウムイオン二次電池の作動電圧が高くなり、繰り返し充放電した際における金属Naデンドライトの析出を抑制することができる。
【0079】
電解質としては、水系電解質、非水系電解質、固体電解質等を用いることができる。非水系電解質または固体電解質は電位窓が広いため、充放電時における電解質の分解に伴うガスの発生がほとんど生じることがなく、ナトリウムイオン二次電池の安全性を高めることが可能である。なかでも、不燃性である固体電解質が好ましい。
【0080】
水系電解質は、水に可溶な電解質塩を含む。電解質塩としては、例えばNaNO、NaSO、NaOH、NaCl、CHCOONa等が挙げられる。これらの電解質塩は単独で使用してもよいし二種類以上を混合して用いてもよい。電解質塩濃度は、一般的には0.1M~飽和濃度の範囲内で適宜調整される。
【0081】
なお、水系電解質を用いる場合、本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質のレドックス電位は、水の電位窓の範囲内に限り使用することができる。
【0082】
非水系電解質は、非水系溶媒である有機溶媒及び/またはイオン液体と、当該非水系溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水系溶媒としての有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、γ-ブチロラクトン(GBL)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeHF)、1,3-ジオキソラン、スルホラン、アセトニトリル(AN)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等が挙げられる。これらの非水系溶媒は単独で使用してもよいし、二種類以上を混合して用いてもよい。なかでも、低温特性に優れるプロピレンカーボネートが好ましい。
【0083】
イオン液体もまた、使用する電解質塩を溶解することができれば特に限定されず、具体的には、N,N,N-トリメチル-N-プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[略称:TMPA-TFSI]、N-メチル-N-プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[略称:PP13-TFSI]、N-メチル-N-プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[略称:P13-TFSI]、N-メチル-N-ブチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[略称:P14-TFSI]、等の脂肪族4級アンモニウム塩;1-メチル-3-エチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート[略称:EMIBF4]、1-メチル-3-エチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[略称:EMITFSI]、1-アリル-3-エチルイミダゾリウムブロマイド[略称:AEImBr]、1-アリル-3-エチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート[略称:AEImBF4]、1-アリル-3-エチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[略称:AEImTFSI]、1,3-ジアリルイミダゾリウムブロマイド[略称:AAImBr]、1,3-ジアリルイミダゾリウムテトラフルオロボラート[略称:AAImBF4]、1,3-ジアリルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[略称:AAImTFSI]等のアルキルイミダゾリウム4級塩等が挙げられる。
【0084】
電解質塩としては、PF 、BF 、(CFSO(ビストリフルオロメタンスルホニルアミド;通称TFSI)、CFSO (通称TFS)、(CSO(ビスペンタフルオロエタンスルホニルアミド;通称BETI)、ClO 、AsF 、SbF 、ビスオキサラトホウ酸(B(C ;通称BOB)、ジフルオロ(トリフルオロ-2-オキシド-2-トリフルオロ-メチルプロピオナト(2-)-0,0)ホウ酸(BFOCOOC(CF 、通称B(HHIB))等のナトリウム塩が挙げられる。これらの電解質塩は単独で使用してもよいし二種類以上を混合して用いてもよい。特に、安価であるPF 、BF のナトリウム塩が好ましい。電解質塩濃度は、一般的には0.5~3Mの範囲内で適宜調整される。
【0085】
なお、非水系電解質は、ビニレンカーボネート(VC)、ビニレンアセテート(VA)、ビニレンブチレート、ビニレンヘキサネート、ビニレンクロトネート、カテコールカーボネート等の添加剤を含有していてもよい。これらの添加剤は、活物質表面に保護膜を形成する役割を有する。添加剤の濃度は、非水系電解質100質量部に対して0.1~3質量部、特に0.5~1質量部であることが好ましい。
【0086】
固体電解質としては既述のものを使用することができる。固体電解質は、水系電解質や非水系電解質に比べ電位窓が広いため、分解に伴うガスの発生がほとんどなく、ナトリウムイオン二次電池の安全性を高めることができる。
【0087】
水系電解質または非水系電解質を用いた電解液系のナトリウムイオン二次電池の場合は、電極間にセパレータを設けることが好ましい。セパレータは絶縁性を有する材質からなり、具体的にはポリオレフィン、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ビニロン等のポリマーから得られる多孔質フィルムまたは不織布、繊維状ガラスを含んだガラス不織布、繊維状ガラスを編んだガラスクロス、フィルム状ガラス等を用いることができる。
【実施例
【0088】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0089】
非水系電解質を用いたナトリウムイオン二次電池
表1~4は本発明の実施例(No.1~15)及び比較例(No.16~18)を示す。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
【表4】
【0094】
(1)正極活物質の作製
(1-1)溶融急冷法による作製
表1~3に示す各組成となるように、原料として各種酸化物、炭酸塩原料等を用いて原料粉末を調製した。原料粉末を白金ルツボに投入し、電気炉を用いて大気中にて1200~1500℃で90分間の溶融を行った。次いで、溶融ガラスを一対の回転ローラー間に流し出し、急冷しながら成形し、厚み0.1~2mmのフィルム状のガラス体を得た。フィルム状ガラス体をボールミルで粉砕した後、空気分級することで、平均粒子径2μmのガラス粉末を得た。
【0095】
No.1~12については、上記で得られたガラス粉末100質量部に対して、カーボン源として非イオン性界面活性剤であるポリエチレンオキシドノニルフェニルエーテル(HLB値:13.3、質量平均分子量:660)を21.4質量部(炭素換算12質量部に相当)及びエタノール10質量部とを十分に混合した後、100℃で約1時間乾燥させた。その後、窒素雰囲気下で600℃(実施例12については700℃)、1時間焼成を行うことにより、非イオン性界面活性剤の炭化と粉末の結晶化を同時に行い、表面が炭素で被覆された正極活物質粉末を得た。
【0096】
No.13~15については、上記で得られたガラス粉末89.5質量部に対して、導電助剤としてアセチレンブラック(デンカブラック)10.5質量部を添加し、Fritsch社製遊星ボールミルP6を用いて300rpm-150分間(15分毎に15分間休止)混合して、炭素を含む正極活物質粉末を得た。
【0097】
(1-2)固相反応法による作製
表4のNo.16~18に記載の組成となるように、炭酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、酸化ニッケル、オルトリン酸を秤量し、原料バッチを調整した。遊星ボールミルを用いて原料バッチをエタノール中で混合した後、100℃で乾燥させた。乾燥後の原料バッチを電気炉中にて900℃で6時間仮焼成することで脱ガスした。仮焼成した原料バッチを500kgf/cmで加圧成形後、大気雰囲気中、800℃で12時間焼成した。得られた焼結体に対し、φ20mmのZrO玉石を使用したボールミル粉砕を12時間行い、空気分級することで平均粒子径D50が2μmの粉末状固相反応体を得た。
【0098】
上記で得られた粉末状固相反応体100質量部に対して、カーボン源として非イオン性界面活性剤であるポリエチレンオキシドノニルフェニルエーテル(HLB値:13.3、質量平均分子量:660)を21.4質量部(炭素換算12質量部に相当)及びエタノール10質量部とを十分に混合した後、100℃で約1時間乾燥させた。その後、窒素雰囲気下で600℃、1時間焼成を行うことにより、非イオン性界面活性剤の炭化を行い、表面が炭素で被覆された正極活物質粉末を得た。
【0099】
(1-3)結晶及び非晶質の含有量の測定
得られた正極活物質粉末について粉末X線回折測定を行うことにより結晶構造の同定を行い、さらに、既述の方法で結晶及び非晶質の含有量を求めた。結果を表1~4に示す。また、図1~5にNo.1、2、4、5、12~15の試料のXRDパターンを示す。なお、各図の下段には帰属される結晶相のXRDパターンも併せて示す。
【0100】
(2)正極の作製
上記で得られた正極活物質粉末に対し、導電助剤としてアセチレンブラック(Timcal社製Super C65)、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを、正極活物質粉末:導電助剤:結着剤=90:5:5(質量比)となるように秤量し、N-メチルピロリドン(NMP)に分散した後、自転・公転ミキサーで十分に撹拌してスラリー化し、正極材料を得た。
【0101】
次に、得られた正極材料を、隙間125μmのドクターブレードを用いて、正極集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔上にコートし、70℃の乾燥機で真空乾燥後、一対の回転ローラー間に通してプレスすることにより電極シートを得た。この電極シートを電極打ち抜き機で直径11mmに打ち抜き、温度150℃にて8時間、減圧下で乾燥させて円形の正極を得た。
【0102】
(3)試験電池の作製
ナトリウムイオン二次電池用試験電池は以下のようにして作製した。上記で得られた正極を、アルミニウム箔面を下に向けてコインセルの下蓋の上に載置し、その上に70℃で8時間減圧乾燥した直径16mmのポリプロピレン多孔質膜からなるセパレータ、対極である金属ナトリウム、さらにコインセルの上蓋を積層し、試験電池を作製した。電解液としては、1M NaPF溶液/EC:DEC=1:1(EC=エチレンカーボネート、DEC=ジエチルカーボネート)を用いた。なお試験電池の組み立ては露点温度-70℃以下の環境で行った。
【0103】
(4)充放電試験
30℃で開回路電圧から5.1VまでCC(定電流)充電を行い、単位質量当たりの正極活物質へ充電された電気量(初回充電容量)を求めた。次に、5.1Vから2VまでCC放電を行い、単位質量当たりの正極活物質から放電された電気量(初回放電容量)を求めた。なお、Cレートは0.1Cとした。
【0104】
充放電特性の結果を表1~4に示す。また、No.1、2、4、5、12の試料を用いたナトリウムイオン二次電池用試験電池の初回充放電曲線を図6~10に示す。表において、「放電容量」は初回放電容量、「放電容量維持率」は初回放電容量に対する50サイクル目の放電容量の割合をそれぞれ意味する。
【0105】
表1~4、図6~10から明らかなように、実施例であるNo.1~15は放電容量が32~73mAh/gで放電容量維持率が65~82%であり、各特性に優れていた。一方、比較例であるNo.16~18は放電容量が21mAh/g以下であり、実施例と比較して劣っていた。
【0106】
固体電解質を用いたナトリウムイオン二次電池
表5~7は本発明の実施例(No.19~30)を示す。
【0107】
【表5】
【0108】
【表6】
【0109】
【表7】
【0110】
(1)正極活物質前駆体粉末の作製
メタリン酸ソーダ(NaPO)、酸化ニッケル(NiO)、炭酸ソーダ(NaCO)、オルトリン酸(HPO)、二酸化マンガン(MnO)、酸化第二鉄(FeO)、酸化コバルト(CoO)またはホウ酸(B)を原料とし、No.19~21については、モル%で、NaO 33.3%、NiO 33.3%、及びP 33.3%の組成となるように、No.22~30については表6、7に記載の組成となるように原料粉末を調合し、1250℃にて45分間、大気雰囲気中にて溶融を行った。その後、溶融ガラスを一対の回転ローラー間に流し出し、急冷しながら成形し、厚み0.1~1mmのフィルム状のガラス体を得た。このフィルム状ガラス体に対し、φ20mmのZrO玉石を使用したボールミル粉砕を10時間行い、目開き120μmの樹脂製篩に通過させ、平均粒子径7μmのガラス粗粉末を得た。さらに、このガラス粗粉末に対し、粉砕助剤としてエタノールを用い、φ3mmのZrO玉石を使用したボールミル粉砕を80時間行うことで、平均粒子径0.6μmのガラス粉末(正極活物質前駆体粉末)を得た。XRD測定の結果、ガラス粉末は非晶質であることが確認された。
【0111】
(2)ナトリウムイオン伝導性固体電解質の作製
(LiO安定化β’’アルミナ)
組成式Na1.6Li0.34Al10.6617のLiO安定化β’’アルミナ(Ionotec社製)を乾式研磨して、厚み0.2mmに加工することにより固体電解質シートを得た。また、得られた固体電解質シートを遊星ボールミルを用いて粉砕し、目開き10μmの篩に通過させることで、別途、固体電解質粉末(平均粒子径2μm)を作製した(No.19で使用)。また、得られた固体電解質シートを遊星ボールミルを用いて粉砕し、空気分級することで、別途、固体電解質粉末(平均粒子径1.5μm)を作製した(No.22~30で使用)。
【0112】
(MgO安定化β’’アルミナ)
炭酸ナトリウム(NaCO)、酸化アルミニウム(Al)及び酸化マグネシウム(MgO)を原料とし、モル%で、NaO 13.0%、Al 80.2%、及びMgO 6.8%となるように原料粉末を調合し、エタノール中でφ5mmのAl玉石を使用したボールミルで粉砕及び混合を10時間行った。得られた混合粉末を、厚み0.2mmのシート状に成形後、40MPaの圧力で等方加圧成形した後、大気雰囲気中1640℃にて1時間熱処理を行うことにより、MgO安定化β’’アルミナからなる固体電解質シートを得た。
【0113】
また、得られた固体電解質シートを遊星ボールミルを用いて粉砕し、目開き10μmの篩に通過させることで、別途、固体電解質粉末(平均粒子径2.5μm)を得た。得られた固体電解質粉末について粉末X線回折パターンを確認したところ、空間群R-3mに属する三方晶系結晶である((Al10.32Mg0.6816)(Na1.68O))由来の回折線が確認された。
【0114】
(NASICON結晶)
メタリン酸ナトリウム(NaPO)、イットリア安定ジルコニア((ZrO0.97(Y0.03)、炭酸ナトリウム(NaCO)及び二酸化ケイ素(SiO)を原料とし、モル%で、NaO 25.3%、ZrO 31.6%、Y 1.0%、P 8.4%、SiO 33.7%となるように原料粉末を調合し、エタノール中でφ5mmのAl玉石を使用したボールミルで粉砕及び混合を10時間行った。得られた粉末を、厚み0.2mmのシート状に成形後、40MPaの圧力で等方加圧成形した後、大気雰囲気中1250℃にて2時間熱処理を行うことにより、NASICON結晶からなる固体電解質シートを得た。
【0115】
また、得られた固体電解質シートを遊星ボールミルを用いて粉砕し、目開き10μmの篩に通過させることで、別途、固体電解質粉末(平均粒子径2.3μm)を得た。固体電解質結晶について粉末X線回折パターンを確認したところ、空間群R-3cに属する三方晶系結晶(Na3.05ZrSi2.050.9512)由来の回折線が確認された。
【0116】
(3)固体型ナトリウムイオン二次電池の作製
上記で得られた正極活物質前駆体粉末、固体電解質粉末、導電助剤としてアセチレンブラック(Timcal社製Super C65)をそれぞれ表5~7に記載の割合で秤量し、遊星ボールミルを用いて、300rpmで30分間混合した。得られた混合粉末100質量部に対し10質量部のポリプロピレンカーボネート(住友精化株式会社製)を添加し、さらにN-メチルピロリドンを30質量部添加して、自転・公転ミキサーを用いて十分に撹拌し、スラリー化した。
【0117】
得られたスラリーを、表5~7に記載の固体電解質シートの一方の表面に、面積1cm、厚さ70μmで塗布し、70℃で3時間乾燥させた。次に、カーボン容器に入れて、表5~7に記載の焼成条件で焼成することにより、正極活物質前駆体粉末を結晶化させ、正極層を形成した。なお、上記の操作はすべて露点-50℃以下の環境で行った。
【0118】
正極層を構成する材料について粉末X線回折パターンを確認したところ、表5~7に記載の結晶由来の回折線が確認された。なお、いずれの正極においても、使用した各固体電解質粉末に由来する結晶性回折線が確認された。
【0119】
次に、正極層の表面にスパッタ装置(サンユー電子株式会社製 SC-701AT)を用いて厚さ300nmの金電極からなる集電体を形成した。さらに、露点-70℃以下のアルゴン雰囲気中にて、対極となる金属ナトリウムを、固体電解質層における正極層が形成された表面と反対側の表面に圧着した。得られた積層体をコインセルの下蓋の上に載置した後、上蓋を被せてCR2032型試験電池を作製した。
【0120】
(4)充放電試験
作製した試験電池について、60℃で開回路電圧から5.2VまでのCC(定電流)充電を行い、単位質量当たりの正極活物質へ充電された電気量(初回充電容量)を求めた。次に、5.2Vから2VまでCC放電を行い、単位質量当たりの正極活物質から放電された電気量(初回放電容量)を求めた。なお本試験では、Cレートは0.01Cとし、「放電容量維持率」は初回放電容量に対する10サイクル目の放電容量の割合で評価した。結果を表5~7及び図11~15に示す。
【0121】
表5~7及び図11~15から明らかなように、No.19~30では、放電容量が32~60mAh/g、放電容量維持率が89~98%と優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、携帯型電子機器、電気自動車、電気工具、バックアップ用非常電源等に使用されるナトリウムイオン二次電池に好適である。
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8
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図10
図11
図12
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図15