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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】液中物測定装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/04 20060101AFI20220519BHJP
【FI】
G01B11/04 H
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018010258
(22)【出願日】2018-01-25
(65)【公開番号】P2019128264
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】390008338
【氏名又は名称】広和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上村 宇之
(72)【発明者】
【氏名】増田 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋裕
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-18921(JP,A)
【文献】特開2007-232684(JP,A)
【文献】特開平10-289300(JP,A)
【文献】特開2015-230209(JP,A)
【文献】特開2016-109556(JP,A)
【文献】特開2007-071756(JP,A)
【文献】特開平10-162119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00 - 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液中の対象物を撮像する撮像装置と、
該撮像装置の撮像範囲に対し、該撮像範囲内における対象物への照射位置が前記対象物と前記撮像装置との距離と対応するよう、指向性の標識光を照射する照射装置と
を備え
前記対象物は水中の魚介類であり、
前記撮像装置によって対象物の撮像画像を取得し、
該撮像画像における対象物に照射された標識光の照射部の位置に基づいて得られる目的の対象物と前記撮像装置との距離に応じて決まる撮像画像内における単位実長あたりの寸法と、撮像画像内における前記対象物の寸法から、前記対象物の実寸を求め得るよう構成されること
を特徴とする液中物測定装置。
【請求項2】
前記標識光は面をなして前記撮像範囲に照射されることを特徴とする請求項1に記載の液中物測定装置。
【請求項3】
前記標識光のなす面は、前記照射装置の照射口と前記撮像装置の光軸を含む面に直交することを特徴とする請求項2に記載の液中物測定装置。
【請求項4】
前記撮像装置と前記照射装置とが互いに離間して支持部に配置されることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の液中物測定装置。
【請求項5】
前記撮像装置と前記照射装置を前記支持部によって支持した装置の全体を、浮具により液に対して保持することを特徴とする請求項4に記載の液中物測定装置。
【請求項6】
液中の対象物を撮像する撮像装置と、該撮像装置の撮像範囲に対し指向性の標識光を照射する照射装置とを備えた液中物測定装置を用い、
水中の魚介類を前記対象物とし、
前記撮像範囲に対し、該撮像範囲内における対象物への照射位置が前記対象物と前記撮像装置との距離と対応するよう標識光を照射すると共に、前記撮像装置によって対象物の撮像画像を取得し、
該撮像画像における対象物に照射された標識光の照射部の位置に基づいて得られる目的の対象物と前記撮像装置との距離に応じて決まる撮像画像内における単位実長あたりの寸法と、撮像画像内における前記対象物の寸法から、前記対象物の実寸を求めること
を特徴とする液中物測定方法。
【請求項7】
前記撮像画像を二値化した二値化画像を取得し、該二値化画像における対象物の外形から寸法を測定することを特徴とする請求項に記載の液中物測定方法。
【請求項8】
前記撮像画像を二値化するにあたり、撮像画像の標識光の照射部近傍における明度と、前記照射部から離れ、且つ該照射部の近傍とは大きく異なる明度を示す位置の明度の間の値を閾値とすることを特徴とする請求項に記載の液中物測定方法。
【請求項9】
前記撮像範囲内に、前記撮像装置からの距離が互いに異なる複数箇所において寸法を把握し得るようスケールを設置して前記撮像装置によりスケール画像を取得し、
該スケール画像における前記スケールの寸法に基づき、撮像画像内における前記撮像装置からの距離に応じた単位実長あたりの寸法を把握すること
を特徴とする請求項に記載の液中物測定方法。
【請求項10】
前記スケールは帯状の面を有し、該帯状の面が前記標識光に沿うように設置されることを特徴とする請求項に記載の液中物測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液中に存在する生物等の距離や寸法を測定する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば魚類の養殖にあたり、対象物である魚群を構成する個体のサイズを把握することは非常に重要である。魚の成長や肥育の度合に応じて適切な量の餌を与えたり、出荷の時季を見極める必要があるからである。従来、こうしたサイズの把握は、古典的なサンプリング法によって行われていた。すなわち、養殖対象から定期的に一部(例えば、数十個体程度)を抜き取り、各個体の体長や体幅、体高、体重等を測定するのである。
【0003】
サンプリング法に代わる方法としては、例えば二眼カメラを用いて魚群の画像を取得し、取得した画像内における個体の寸法から、対象とカメラとの距離を考慮して実寸を割り出す方法が考えられる。
【0004】
尚、水中の対象物の寸法等を測定し得る技術を記載した文献としては、例えば、下記の特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-083342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の方法のうちサンプリング法は、サンプルの捕獲回収や測定といった作業に非常に手間がかかるばかりか、場合によってはサンプルとして採取した個体を傷つけて商品価値を下げてしまうリスクもあった。
【0007】
また、二眼カメラを用いた測定方法では、測定対象を傷つけずに測定することが可能ではあるものの、対象とカメラとの距離を割り出す工程が複雑で処理に長い時間を要したり、取得した画像から寸法を測定・算出する作業を手動で行わなくてはならず手間がかかるといった弱点を抱えていた。また、二眼カメラの画像から距離を割り出すためには、測定したい点を二眼のそれぞれで捉えた画像を取得する必要があるが、各画像から同一の点の位置を自動的に割り出すことが難しいという技術的な問題もある。さらに、複数のカメラを互いに離間して配置するために装置全体が大型になり、取扱いに不便であるほか、測定対象が魚類等である場合には該魚類等が装置を警戒して近づかず、撮像が困難になるという欠点もあった。
【0008】
本発明は、斯かる実情に鑑み、対象物に極力影響を与えることなく、簡便に対象物の距離や寸法を測定し得る液中物測定装置および方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、液中の対象物を撮像する撮像装置と、該撮像装置の撮像範囲に対し、該撮像範囲内における対象物への照射位置が前記対象物と前記撮像装置との距離と対応するよう、指向性の標識光を照射する照射装置とを備え、前記対象物は水中の魚介類であり、前記撮像装置によって対象物の撮像画像を取得し、該撮像画像における対象物に照射された標識光の照射部の位置に基づいて得られる目的の対象物と前記撮像装置との距離に応じて決まる撮像画像内における単位実長あたりの寸法と、撮像画像内における前記対象物の寸法から、前記対象物の実寸を求め得るよう構成されることを特徴とする液中物測定装置にかかるものである。
【0010】
本発明の液中物測定装置において、前記標識光は面をなして前記撮像範囲に照射されることが好ましい。
【0011】
本発明の液中物測定装置において、前記標識光のなす面は、前記照射装置の照射口と前記撮像装置の光軸を含む面に直交することが好ましい。
【0012】
本発明の液中物測定装置は、前記撮像装置と前記照射装置とを互いに離間して支持部に配置した構成とすることができる。
【0013】
本発明の液中物測定装置は、前記撮像装置と前記照射装置を前記支持部によって支持した装置の全体を、浮具により液に対して保持する構成とすることができる。
【0015】
また、本発明は、液中の対象物を撮像する撮像装置と、該撮像装置の撮像範囲に対し指向性の標識光を照射する照射装置とを備えた液中物測定装置を用い、水中の魚介類を前記対象物とし、前記撮像範囲に対し、該撮像範囲内における対象物への照射位置が前記対象物と前記撮像装置との距離と対応するよう標識光を照射すると共に、前記撮像装置によって対象物の撮像画像を取得し、該撮像画像における対象物に照射された標識光の照射部の位置に基づいて得られる目的の対象物と前記撮像装置との距離に応じて決まる撮像画像内における単位実長あたりの寸法と、撮像画像内における前記対象物の寸法から、前記対象物の実寸を求めることを特徴とする液中物測定方法にかかるものである。
【0016】
本発明の液中物測定方法においては、前記撮像画像を二値化した二値化画像を取得し、該二値化画像における対象物の外形から寸法を測定することができる。
【0017】
本発明の液中物測定方法においては、前記撮像画像を二値化するにあたり、撮像画像の標識光の照射部近傍における明度と、前記照射部から離れ、且つ該照射部の近傍とは大きく異なる明度を示す位置の明度の間の値を閾値とすることができる。
【0018】
本発明の液中物測定方法においては、前記撮像範囲内に、前記撮像装置からの距離が互いに異なる複数箇所において寸法を把握し得るようスケールを設置して前記撮像装置によりスケール画像を取得し、該スケール画像における前記スケールの寸法に基づき、撮像画像内における前記撮像装置からの距離に応じた単位実長あたりの寸法を把握することができる。
【0019】
本発明の液中物測定方法において、前記スケールは帯状の面を有する構成とし、該帯状の面が前記標識光に沿うように設置することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の液中物測定装置および方法によれば、対象物に極力影響を与えることなく、簡便に対象物の距離や寸法を測定し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施による液中物測定装置の形態の一例を示す斜視図である。
図2】本発明の実施による液中物測定装置の使用状態の一例を示す正面図である。
図3】本発明の実施による液中物測定装置において、撮像装置により対象物を撮像して得られる画像の一例である。
図4】本発明の実施による液中物測定装置において、画像内における対象物の位置と、撮像装置からの対象物の距離の関係を説明する概略図であり、(A)は装置と対象物の位置関係を示す図、(B)は撮像装置によって取得された画像を示す図である。
図5】本発明の実施による液中物測定装置において、対象物を撮像して得た画像を二値化して得られる画像の一例である。
図6】本発明の実施におけるスケールの使用例を説明する概略図であり、(A)はスケールの設置状態を示す図、(B)は画像内におけるスケールの像を示す図である。
図7】本発明の実施におけるスケールの別の使用例を説明する概略図であり、(A)はスケールの設置状態を示す図、(B)は画像内におけるスケールの像を示す図である。
図8】本発明の実施による液中物測定装置を用いた測定方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0024】
図1は本発明の実施による液中物測定装置の形態の一例を示している。本実施例の液中物測定装置1は、撮像装置2と、該撮像装置2の撮像範囲A内に標識光3を照射する照射装置4とを備えている。撮像装置2と照射装置4は棒状の支持部5に互いに離間して取り付けられており、撮像装置2は光軸が支持部5の軸線に対して略直角となるように固定されると共に、照射装置4は標識光3が撮像装置2の撮像範囲A内に照射されるよう、支持部の軸線に対して斜めに取り付けられる。撮像装置2と照射装置4からはそれぞれ外部へケーブル2a,4aが延びており、該ケーブル2a,4aは制御装置6や、図示しない電源装置に接続されている。撮像装置2、照射装置4に対しては、ケーブル2a,4aを通じて図示しない前記電源装置から電力が供給されるほか、制御装置6から入力される操作信号2b,4bによって動作が制御されるようになっている。また、撮像装置2からは、取得した画像データがデータ信号2cとして制御装置6へ送信されるようになっている。
【0025】
撮像装置2は、例えば防水機能を備えた水中カメラである。照射装置4は、例えばラインレーザ装置であり、先端の照射口4cを中心として標識光3を扇状に放射するようになっている。標識光3は、撮像装置2の画角の頂点から離れた位置から撮像範囲Aへ、撮像装置2の光軸方向に対して斜めの面をなして照射される。この際、標識光3は、扇状の標識光3のなす面が、撮像装置2の光軸と、照射装置4の照射口4cとを含む平面(以下、面B1と称する。尚、図示は省略する)に直交するよう照射することが好ましい。照射装置4は、支持部5に対し決まった角度で据え付けても良いし、標識光3の照射角を調整できるよう、支持部5に対し首振り可能に取り付けても良い。
【0026】
尚、撮像装置2と照射装置4とは、支持部5を介さず、例えばワイヤや骨組み等により別々に支持することも可能であるが、撮像装置2と照射装置4とを互いに適切な位置関係で支持するには、上述の如く棒状あるいはパイプ状の支持部5を用いるのが最も簡便であり、構成面でも簡単である。
【0027】
液中物測定装置1を使用する際には、例えば図2に示す如く、支持部5の適宜箇所に浮具7を取り付ける(尚、図2では説明の便宜上、ケーブル2a,4aや制御装置6の図示を省略している。図6図7も同様である)。液8に浮具7を浮かべると、撮像装置2と照射装置4を支持部5によって支持した装置の全体が、浮力によって液8に対し保持される。浮具7による支持部5の支持点を適宜位置(撮像装置2に加わる重力と浮力の合力によるモーメントと、照射装置4に加わる重力と浮力の合力によるモーメントが釣り合う位置)に設定しておけば、支持部5は液8中に略水平に支持される。そして、撮像装置2は下方の液8中を撮像範囲Aに収めるよう、下向きに配置されると共に、照射装置4は撮像範囲Aに対して標識光3を照射するように斜めに配置される。尚、支持部5の角度や、撮像装置2と照射装置4との位置関係は必ずしも特に水平を保つ必要はなく、撮像装置2により適当な空間を撮像範囲Aに収め、且つ該撮像範囲A内に照射装置4から標識光3を照射できるような配置となっていれば足りる。
【0028】
液中物測定装置1の適宜位置(ここに示した例では浮具7)には索9を取り付け、該索9を介して液中物測定装置1を移動できるようにすると好適である。
【0029】
以上の如く設置した液中物測定装置1を用い、液8中の対象物10を撮像装置2により撮像し、対象物10の撮像装置2からの距離、および寸法を測定する。対象物10は、例えば水や海水である液8中を遊泳する魚介類等の生物であり、ここでは魚を想定している。この対象物10を、液面付近に位置する撮像装置2により上方から撮像すると共に、撮像範囲Aに対し照射装置4から標識光3を照射する。撮像範囲A内、且つ標識光3の光路上に対象物10があれば、標識光3が照射された対象物10を撮像装置2により撮像することができる。取得した画像データは、データ信号2cとして制御装置6(図1参照)へ送られる。
【0030】
撮像装置2により取得される画像の一例を図3に示す。ここに示した例では、画像外の左手前の位置から右奥に向かって標識光3を照射しており、撮像範囲Aないし画像内における標識光3の照射位置は、対象物10と撮像装置2との距離に対応している。すなわち、標識光3の照射された対象物10が画像内の左寄りの位置にあれば撮像装置2に近く、右寄りの位置にあれば撮像装置2から遠いと判断できる。
【0031】
画像内における対象物10の位置に基づき、対象物10の撮像装置2からの距離を判定する具体的な手順を、図4を参照しながら説明する。図4(A)に示す如く、標識光3の照射された対象物10と、撮像装置2との光軸方向の距離(より詳しくは、撮像装置2における画角の頂点から対象物10までの光軸方向における距離)をL、面B1(照射装置4の照射口4cとを含む平面)に沿い且つ光軸と直交する方向(以下、左右方向とする。また、光軸方向および左右方向に直交する方向を前後方向とする)の距離をMとする。また、撮像装置2の光軸と直交し且つ撮像装置2における画角の頂点が位置する面(面B2とする。図示は省略する)において、面B2と標識光3のなす面との交線と、撮像装置2との距離をPとする。尚、ここでは照射装置4の照射口4cが撮像装置2の画角の頂点と共に面B2に位置しているので、照射口4cと撮像装置2との間の距離が距離Pである。さらに、撮像装置2の光軸と直交し、標識光3の照射された対象物10のある平面において、撮像範囲Aの幅(すなわち、左右方向の寸法)をWとし、また、撮像範囲Aの光軸に関して照射装置4とは反対側の端部から、対象物10における標識光3の照射点までの左右方向の距離をXとする。撮像装置2の左右方向における画角をθ、標識光3のなす面が撮像装置2の光軸に対してなす角度をαとする。
【0032】
撮像装置2においては、実空間における左右方向と前後方向をそれぞれ幅方向および高さ方向とする画像が取得される(図4(B)参照)。この画像の幅方向の画素数をWpix、高さ方向の画素数をHpixとする。また、撮像装置2の光軸に関して照射装置4の設置位置とは反対側の端部(図の右端)から、画像内の対象物10における標識光3の照射点までの画素数をXpixとする。
【0033】
このとき、以下の式が成り立つ。
[式1]
tanα=(P-M)/L
tan(θ/2)=W/2L
M=X-W/2
X/W=Xpix/Wpix
【0034】
これを整理すると、以下の式が得られる。
[式2]
L=P/{tanα+(2Xpix/Wpix-1)tan(θ/2)}
【0035】
P、tan(θ/2)、tanα、Wpixは撮像装置2や照射装置4の配置や仕様により決まる定数であり、Xpixは画像から読み取れるので、上記式2より、画像から撮像装置2と対象物10との光軸方向における距離Lを求めることができる。このように、本実施例の液中物測定装置1によれば、上述の如き簡単な構成(図1図2参照)と単純な計算(上記式2参照)によって簡便に対象物10の距離Lを割り出すことができる。手動によっても簡単な数式で距離Lを導出でき、自動で計算する場合も処理に要する時間は最小限で済む。
【0036】
一方、図3に示す画像において、目的の対象物10の実寸あたりの寸法、すなわち、対象物10における単位実長あたりの画素数は、撮像装置2と対象物10との光軸方向における距離Lによって決まり、且つ距離Lと対象物10における単位長さあたりの画素数との関係は、撮像装置2の仕様や設定によって決まる。したがって、上述の如き計算式により距離Lを求めることで、標識光3の照射された対象物10の寸法を画像から把握することができる。すなわち、ここに示した例の場合、魚等である対象物10の体長と体幅を測定することが可能である。体高や体重に関しては、対象物10が魚等である場合には体長や体幅と相関するので、例えば体長や体幅の値、あるはその積に魚種等に応じた係数を乗じることで概算することができる。
【0037】
ここで、本実施例では上述の如く、標識光3のなす面が面B1(照射装置4の照射口4cとを含む平面)に直交するように標識光3を照射している。このため、例えば図3に示す如き画像が得られた場合において、標識光3の照射された部分(以下、「照射部」とする)の撮像装置2に対する光軸方向における距離Lは、画像内における幅方向の位置(Xpix)によって決まり、高さ方向の位置を考慮する必要はない。つまり、画像の左右端から一定の距離にある照射部に関し、高さ方向の位置にかかわらず距離Lが決定されることになり、距離Lを算出するにあたって計算が簡便である。標識光3のなす面が面B1に直交しない場合でも距離Lを求めることは可能であるが、その場合、標識光3の照射部の高さ方向の位置等も加味して距離Lを計算する必要があり、計算式はより複雑となる。
【0038】
尚、上に説明した計算式はあくまで一例である。例えば、画像内における距離を表す値として画素数(WpixやXpix)を用いているが、これらの代わりに例えば図3の如き画像を写した画像における寸法や、印刷した紙面における寸法を採用しても良い。上記の如き算出方法では、画像に対する対象物10の位置、言い換えれば画像における寸法比(ここではXpix/Wpix)が問題なのであり、画像内における距離の絶対値は重要ではない。
【0039】
また、ここでは標識光3を撮像装置2の光軸に対し、角度αをなす向きで斜めに照射する場合を例示したが、この角度α自体は本発明の原理上、さほど重要ではなく、例えば標識光3のなす面を光軸に対して平行としても、上と同様の手順で距離Lを割り出すことができる(このとき、P=M、tanα=0となる)。原理的には、標識光3は光路が撮像装置2の画角の頂点を通らず、且つ撮像範囲A内に照射されていれば足りるのである。ただし、対象物10の測定を効率良く行うためには、標識光3は被照射点が撮像装置2から離れすぎない範囲で(標識光3の照射された対象物10が撮像装置2から離れていると、その分だけ前記対象物10と撮像装置2との間に別の対象物10やその他の障害物等が入ったり、目的の対象物10の写りが不鮮明になるなどし、目的の対象物10の外形を把握することが困難になる可能性がある)、撮像範囲A内のなるべく広範囲に照射されることが好ましい。よって、撮像装置2に対する照射装置4の位置(図4(A)における距離P)や、照射装置4から照射する標識光3の角度(図4(A)における角度α)といった条件は、実際の使用において得られる画像の内容等に鑑みてその都度調整しながら設定すると良い。
【0040】
また例えば、撮像装置2や照射装置4を液面より上に設置し、液8中の対象物10に標識光3を照射しつつ撮像を行うことも考えられるが、その場合は標識光3の屈折をも考慮に入れて距離Lを算出する必要がある。その他、距離Lを求める際に用いる計算式の具体的な内容は、各機器の配置やその他の条件によって種々変動し得る。
【0041】
図3に示す如き画像から、対象物10の外形や、画像内における寸法等を取得するにあたっては、種々の方法を用い得る。例えば画像を印刷もしくは画面に映し、定規等の測定器具を用いて手動で測定することができる。あるいは、画像内における任意の点同士の距離等を測定することができるアプリケーションソフトを立ち上げて画像を読み込み、標識光3の照射された目的の対象物10を目視しながら前記アプリケーションソフトの補助により寸法を測定することもできる。
【0042】
あるいは、取得した画像から対象物10の寸法測定までの工程の全体、もしくは多くを自動で行うことも可能である。その場合、例えば、まず図3に示す如き画像の二値化を行うと、その後の寸法測定を自動で行うにあたって便利である。あるいは、目視で測定を行う場合も、二値化された画像からであればより対象物10の外形を把握しやすい場合がある。画像の二値化にあたっては、少なくとも標識光3の照射されている目的の対象物10の形状をバックグラウンドから識別する必要があり、そのためには、目的の対象物10にあたる部分における明度と、バックグラウンドの明度の間の値を二値化の際の閾値とする必要がある。
【0043】
ここで、本実施例の場合、標識光3が照射された対象物10を目的の対象物10としているので、まず画像において特に明度の高い部分を標識光3が照射された照射部として特定し、次に該照射部の近傍の明度を取得すれば、その値を目的の対象物10の写った部分の明度として扱うことができる。また、照射部から離れ、且つ該照射部の近傍とは大きく異なる明度を示す位置の明度を取得すれば、その値をバックグラウンドの明度として扱うことができる。
【0044】
このような閾値の設定方法は、以下の点で有利である。通常、二値化によって画像内の対象物の外形を把握しようとする場合、画像内においてどの部分が対象物で、どの部分がバックグラウンドであるかを自動的に判別するのは困難である。しかしながら、本実施例の場合、対象物10に標識光3を照射した画像を取得しており、画像内に明度の特に高い部分があれば、そこがすなわち照射部であり、その部分に必ず対象物10が位置していると特定することができる。したがって、照射部の近傍で照射部より明度の低い部分は目的の対象物10が存在し且つ標識光3の照射されていない部分であり、また、照射部から離れ且つ照射部の近傍とは大きく異なる明度を示す部分はバックグラウンドであると判断できる。こうして、それぞれの明度を簡便に特定することができるので、両者の間を閾値とし、目的の対象物10の外形を把握するのに適した二値化画像を取得することができるのである。
【0045】
尚、「照射部の近傍」とは、目的とする対象物10の種類や大きさ、画像の解像度等の条件に鑑み、標識光3が照射された対象物10がそこに位置していると通常考えられる画像内の範囲を指す。ここで、「照射部から離れた部分」とは、前記「照射部の近傍」を超えた範囲であり、標識光3が照射された目的の対象物10はそこに位置していないと通常考えられる画像内の範囲を指す。また、「照射部の近傍とは大きく異なる明度」とは、例えば「照射部から離れた部分」のある点における明度が、「照射部の近傍」の複数点における明度の平均値と比較して有意に異なる値を示した場合、その値を「照射部の近傍とは大きく異なる明度」と判断することができる。
【0046】
そして、対象物10の写った部分の明度と、バックグラウンドの明度との間の値を閾値として設定すれば、図5に示す如く、対象物10の外形をバックグラウンドから判別し得る二値化画像を得ることができる。
【0047】
さらに、二値化画像から目的の対象物10を抽出する。二値化を施した段階では、目的とする対象物10の他にも、対象物10と認識し得る複数の図形が重なり合っている場合がある。そこで、想定される対象物10の形状に基づき、パターン認識により目的の対象物10の外形を割り出す。ここに示した例のように、魚である対象物10を上方から撮像する場合、対象物10は楕円形ないし紡錘形に近い形状を示すので、そういった形状を画像内からパターン認識により抽出し、照射部の周囲に該当するパターンが検出された場合にこれを目的の対象物10と認識する。
【0048】
上述した標識光3の照射は、ここでも有利に働く。つまり、二値化画像から対象物10の外形を把握するにあたり、目的の対象物10のおよその位置は、二値化前の画像における標識光3の照射部として把握できる。したがって、パターン認識により目的の対象物10を特定するにあたっては、照射部の近傍に範囲を絞ることができ、高効率且つ精度の良い特定が可能である。
【0049】
パターン認識により割り出した外形から、長径と短径をそれぞれ体長と体幅に相当する値とする。そして、画像内における体長と体幅から、目的とする対象物10の光軸方向における距離L(上記式2および図4参照)に基づき、実際の対象物10の体長と体幅を算出する。
【0050】
一枚の画像中に、標識光3の照射された対象物10が複数写り込んでいる場合、こうした処理は各対象物10に対してそれぞれ行い、個体毎に距離Lや実寸を取得することができる。この際、二値化を行う場合には、画像内の位置によって対象物10にあたる部分の明度が異なる場合があるので、目的とする対象物10毎に閾値を設定し、同一の画像から対象物10毎に異なる二値化画像を取得して個別に寸法の算出を行うようにしても良い。
【0051】
そして、図3に示す如き画像を撮像の場所や時間を変えて複数取得し、同様の処理により対象物10の測定を繰り返せば、必要な数の対象物10に関して求めるデータを収集することができる。対象物10が養殖された魚介類等である場合には、対象物10に損傷等を与えることなく、且つ簡便に必要な測定を行うことができ、便利である。
【0052】
撮像装置2からの距離Lと、撮像した画像内における単位実寸あたりの寸法との関係は、上述の如く撮像装置2の仕様や設定によって決まるが、この関係が明らかでない場合は、例えば図6に示す如きスケール11を用いたキャリブレーションにより求めることができる。
【0053】
図6(A)中に示す如く、撮像装置2の撮像範囲A内に、所定の寸法を有する複数のスケール11を配置する。ここに示した例では、一辺の長さが所定の寸法(例えば、10cm)である2つのスケール11を、撮像装置2からの距離が互いに異なるように設置する。例えば、一方のスケール11aは撮像装置2から1m離れた位置に配置し、他方のスケール11aは、撮像装置2から2m離れた位置に配置する。
【0054】
この状態で、撮像装置2により画像を取得する。スケール11は、画像中に図6(B)に示す如く写り込むので、画像内におけるこれらのスケール11の寸法を測定すれば、撮像装置2からの距離が互いに異なる複数箇所(ここでは2箇所)について、画像内における単位実長あたりの寸法を把握することができる。すなわち、撮像装置2から1m離れた場所における単位実寸(10cm)あたりの画像内の画素数、および、撮像装置2から2m離れた場所における単位実寸あたりの画像内での寸法(画素数)が、画像内における各スケール11a,11bの一辺の長さとして把握できる。こうして、互いに撮像装置2からの光軸方向における距離が異なる2箇所以上において対応付けられた距離と、画像内における単位実寸あたりの寸法のデータに基づき、以下に説明する原理により、撮像装置2からの距離と、画像内における寸法(画素数)あたりの実寸を求めることができる。
【0055】
所定の寸法(10cm)を有する2つのスケール11a,11bを図6(A)中に示す如く撮像範囲A内に配置した場合、各スケール11a,11bの撮像装置2からの光軸方向における距離がそれぞれl,lであるとする。そして、図6(B)中に示す如く、画像中に写り込んだ各スケール11a,11bの長さ方向の画素数がそれぞれs,sであるとする。この場合、実空間における撮像装置2からの距離(撮像装置2の画角の頂点からの光軸方向における距離)がLである地点において、10cmの実寸に対応する画像内の画素数をSpixとすると、Spixは距離Lに応じて以下の式に従い決定される。
[式3]
pix=a/(L-b)
ただし、
a=s×(l-l)/(s-s
b=(l-l)/(s-s
【0056】
すなわち、LとSpixはaを係数とする双曲線をなし、bは画角の頂点と焦点との距離に相当する。焦点の位置(L=b)ではSpix=∞、無限遠(L=∞)ではSpix=0となる。
【0057】
こうして、標識光3の照射された対象物10の画像内における位置(図3図4参照)から、上記式2により撮像装置2からの距離Lを求め、さらに上記式3を用いて距離Lに応じた単位実長あたりの画像内における寸法(ここでは、実長10cmあたりの画素数Spix)を求める。目的の対象物10の画像内における寸法(画素数)に10/Spixを乗じれば、対象物10の実寸をcm単位にて求めることができる。
【0058】
尚、上述の如き計算はあくまで原理に基づくものであって、実際上、距離Lと実寸あたりの画像内における寸法との関係を求めるにあたっては別の方法を採用しても良い。例えば、撮像装置2からの距離がlmの地点と、lmの地点において、それぞれ単位実寸(10cm)あたりの画像内における画素数がs、sであったとした場合、撮像装置2からlm~lmの距離に位置する対象物10については、単位実寸あたりの画像内における画素数が、s~sの間で直線的に変化すると見なす。具体的な数値に基づいて述べれば、例えば撮像装置2からの距離が1mの地点に設置されたスケール11の一辺(10cm)あたりの画素数が1000pix、2mの地点に設置されたスケール11の一辺あたりの画素数が400pixであったとした場合(図6(A)中の一点鎖線参照)、撮像装置2からの距離が1m~2mの間では、単位実寸(10cm)あたりの画素数が、撮像装置2からの距離が1cm増す毎に(1000-40)/200-100=6pixずつ減少すると見なすのである。この場合、例えば撮像装置2からの距離が1.3mの位置にある対象物10では、単位実寸(10cm)あたりの画素数は820pixと見なし、寸法を決定することができる。勿論、こうした方法は厳密に正確ではないが、魚介類である対象物10の寸法を測定するような用途においては実用に十分耐え得る近似値を得ることができる。また、例えばスケール11の設置数を増やして撮像装置2からの距離に対する単位実寸あたりの画像内における寸法(画素数)を多く(3点以上)の測定点で取得し、該3点以上の測定点同士の間で上述の如き近似を行うようにすれば、精度を向上させることもできる。
【0059】
このようなキャリブレーションを最低一度実行しておけば、撮像装置2に関し、撮像装置2からの対象物10の距離Lと、単位実寸あたりの画像内における寸法(画素数)の関係を求めることができ、上述の如き画像(図3図5参照)から対象物10の寸法を求める際に利用することができる。無論、スケール11によるキャリブレーションは、撮像の条件や用途等が異なる条件下で液中物測定装置1を使用する場合等には、その都度やり直しても良い。
【0060】
また、ここでは複数(2つ)のスケール11を一度に撮像する場合を例示したが、例えば1つのスケールをある位置に設置して撮像した後、撮像装置2からの距離Lが異なる別の位置に設置して撮像しても良い。撮像装置2からの対象物10の距離Lと、単位実寸あたりの画像内における寸法(画素数)の関係を求めることができる限りにおいて、スケール11の撮像に際し手順等は問わない。
【0061】
あるいは、上記式3の如き計算を経ず、画像内において対象物10をスケール11と比較することにより直接寸法を求めることも可能である。例えばスケール11として、図7(A)に示す如く、所定の幅(例えば10cm)の帯状の面を有するスケール11cを撮像範囲A内に設置し、撮像装置2で撮像する。スケール11cは、照射装置4から照射される標識光3のなす面に沿って配置する。
【0062】
このようにすると、図7(B)の画像内に示す如く、スケール11cの幅(画像における高さ方向の寸法)は画像外の照射装置4(図7(A)参照)から離れるほど狭く写る。画像内の各所におけるスケール11cの幅は無論、撮像装置2からの光軸方向の距離に応じた実長10cm分の画素数を表す。一方、上記式2に説明したように、本実施例では、画像内の幅方向における標識光3の照射位置(Xpix)が、該標識光3の照射された対象物10の撮像装置2からの距離Lに対応している(図3図4参照)。そして、スケール11cは帯状の面が標識光3の照射される面に沿うように配置されるので、標識光3が照射されたある地点の撮像装置2からの距離(図4(A)における距離L)は、スケール11cのうち、前記地点と撮像範囲Aないし画像内における左右方向(幅方向)の位置(図4および図7におけるX,Xpix)が同じである部分の距離(図7(A)における距離L)に合致する。距離Lが合致すれば、単位実長あたりの画像内における寸法(画素数)も一致するので、その部分におけるスケール11cの幅を、所定の実長(ここでは10cm)に相当するとして扱うことができる。
【0063】
つまり、図3に示す如く、ある対象物10に標識光3が照射されている場合、この対象物10における標識光3の照射部が画像の右端からXpixの距離にあるとすると(図4(B)参照)、図7(B)に示す画像において、画像の右端からXpixの距離にあたるスケール11cの幅(Spixとする)を取得すれば、このSpixの値を、図3内に写った目的の対象物10における単位実長(10cm)あたりの画素数と扱うことができる。よって、図3に示す画像内における対象物10の寸法に10/Spixを乗じれば、対象物10の実寸を得ることができる。このように、図7に示す如きスケール11cの配置によれば、距離Lを算出する手順を踏むことなく、画像内におけるスケール11cの寸法から対象物10の寸法を直接把握することができ、より簡便である。
【0064】
図6(B)や図7(B)に示す如きスケール11を写した画像を取得するにあたっては、図6(A)や図7(A)に示す如くスケール11を配置した液中物測定装置1を液8中等に設置し、スケール11と共に対象物10を撮像することができる。ただし、スケール11と対象物10が互いに視界の妨げになったり、対象物10が魚類等である場合にはスケール11のような構造物を警戒して液中物測定装置1に近寄らない可能性もある。よって、スケール11の撮像は対象物10の撮像とは別に行い、後から対象物10を写した画像(図3図5参照)とスケール11を写した画像を適宜並べ、もしくは重ねるようにして寸法を取得する方式がより好適である。
【0065】
尚、スケール11の形状や配置はここに示した例に限定されない。例えば図6図7に示す如きスケール11a,11b,11cの代わりに、多段の梯子型のスケール11を用いることもできるし、その他、画像内において単位実長あたりの寸法を把握できる限り、スケール11としては種々の形状の物体を採用し得る。あるいは、スケール11に実寸を示す目盛りを付しても良い。また、図7に示す帯状のスケール11cは、標識光3に沿って配置するのが好適であると上に説明したが、ここでいう「標識光3に沿って配置」とは、必ずしもスケール11cのなす面が標識光3のなす面と一致している必要はない。測定精度の面からは、スケール11cのなす面が標識光3のなす面と一致し、且つ帯状の面をなすスケール11cの中心線が、面B1(撮像装置2の光軸と照射装置4の照射口4cを含む面)と標識光3のなす面との交線と一致するのが理想であるが、実際的には、スケール11cのなす面が標識光3のなす面に対して多少傾いていたり、スケール11cの中心線が前記交線からずれていたとしても十分な測定精度を得ることができる。
【0066】
尚、図6図7に示す如き方法はあくまで一例であって、撮像装置2からの距離Lと、撮像した画像内における単位実寸あたりの寸法との関係が初めから特定できている場合には不要である。
【0067】
また、ここでは液8中の対象物10を上方から撮像し、対象物10に関する測定を行う場合を例示したが、本発明の実施態様はこれに限定されない。例えば、液8中の対象物10に対して下側や横に液中物測定装置1を設置し、上方あるいは横に位置する対象物10に向かって標識光3を照射して撮像するようにすることもできる。この場合、液中物測定装置1には図2に示す如き浮具7は取り付けられず、液中物測定装置1は例えば液8を満たした空間の底部に設置したり、あるいは液8中に渡したワイヤや骨組み等に支持すると良い。魚類等である対象物10を下方から撮像・測定する場合には体長や体幅が測定でき、横方向から撮像・測定する場合には体長や体高が測定できる。
【0068】
対象物10を下方から撮像・測定する場合、自然光等、液面より上から照射される光を撮像に利用すると逆光の状態となり、図3に示す場合とは逆に、バックグラウンドにおける明度(照射部から離れた部分における明度)が対象物10における明度(照射部の近傍における明度)より高くなるが、これらの明度の間を閾値として画像の二値化を行うことは可能である。二値化して得られる画像は、図5とは逆に、白い背景色の中に対象物10が黒色の影として表示され、且つ照射部は黒色の対象物10を横切る白色の線として表れることになる。そして、黒色の影として表示された対象物10の形状をパターン認識等により抽出し、求める寸法を得ることができる。
【0069】
このように対象物10の下方に設置した液中物測定装置1によって撮像・測定を行う場合、上方に設置する場合と比較してバックグラウンドの明度の均一性が得られやすく、二値化した際に対象物10の外形を把握し得る画像を安定して取得しやすいという利点がある。ただし、液8中に設置した液中物測定装置1の設置や移動、移設に手間がかかるというデメリットもある(対象物10を上方から撮像する場合には、浮具7により液中物測定装置1を簡便に液面付近に設置することができ、また、浮具7を介して液中物測定装置1を容易に移動あるいは移設することができる)。
【0070】
また、上では一台の液中物測定装置1に対し、撮像装置2と照射装置4をそれぞれ一台ずつ設置した場合を説明したが、これは最小限の構成であって、一台の液中物測定装置1に二台以上の撮像装置2や照射装置4を搭載することも可能である。例えば、一台の照射装置4から標識光3を照射する場合、標識光3の照射部が撮像装置2から遠ざかるほど、前記照射部における単位実長あたりの画素数は落ちて測定精度が下がることは避けられない。また、照射部と撮像装置2との間に障害物が入り込む可能性も高くなるし、液8の透明度によっては照射部や対象物10の像自体が不鮮明になる。そこで、例えば撮像装置2の左右両側にそれぞれ設置した照射装置4から標識光3を照射し、各標識光3の照射された対象物10について測定を行うようにしても良い。ただし、このように機器の数を増やすと、液中物測定装置1のサイズや重量が増し、扱いにくくなってしまうという不都合はある。本発明の利点の一つは、各一台の撮像装置2と照射装置4を最小限の構成とし、コンパクトな液中物測定装置1により対象物10の測定を簡便に実行できる点であり、この点からは本実施例の如く、一台の液中物測定装置1につき撮像装置2と照射装置4を各一台備えた構成とすることが最も好ましい。
【0071】
照射装置4は、標識光3としてレーザを面状に照射するラインレーザ装置とすることが標識光3の到達距離を長く確保でき、また標識光3の照射された複数の対象物10を一枚の画像によって測定できるといった点から最も簡便であるが、必ずしもこれに限定されない。光源としては、標識光3の被照射位置(照射部)を特定できる程度に指向性を有する光を照射可能な装置であれば足り、レーザ以外に例えばLEDを用いることもできる。また、例えばレーザポインタのように、標識光3を面状ではなく線状に照射する装置を照射装置4として用いても良い。ただしこの場合、一度の照射につきおおむね一つの対象物10にしか標識光3を照射できず、複数の対象物10の測定を行う場合には標識光3を何度も照射しては画像を取得する必要がある。ラインレーザのように面状の標識光3を照射する装置を利用すれば、一度の照射で複数の対象物10に対し標識光3が照射された画像を取得することができるので、手間の軽減の点で適している。標識光3を面状に照射すれば、対象物10の撮像装置2との距離Lの基準となる標識光3の照射部を一枚の画像内に複数検出し、各照射部について対象物10の距離や寸法を測定することができるので、測定の効率を高めることができるのである。
【0072】
このように、本実施例の液中物測定装置1によれば、照射装置4から撮像範囲A内へ標識光3を照射し、あるいはスケール11を設置しつつ画像を取得するという簡単な操作により、対象物10の測定を行うことができ、上述の操作の他には取得した画像の二値化処理や簡単な計算を行うだけで済む。こうして、対象物10の寸法や、撮像装置2からの距離を精度良く簡便に求めることができる。対象物10に対し、捕獲あるいは採集して寸法を測定するといった直接的な操作を行う必要がないので、対象物10に損傷を与えるような心配もない。
【0073】
また、二眼カメラで撮像した画像に基づいて対象物の距離を求めるような方法とは異なり、同一の対象物10について撮像する画像は原則的に一視野で良い。対応する二枚の画像から同一の点の位置を自動的に割り出すような工程が不要であり、距離や実寸を求める手順をより簡便に行うことが可能である。
【0074】
以上の如き液中物測定装置1を用いた対象物10の測定方法は、例えば図8のフローチャートに沿って以下の如くまとめることができる。
【0075】
まず、ステップS1として、液中物測定装置1に対してスケール11(図6図7参照)を適宜位置に配置し、撮像装置2により撮像する(以下、このステップS1において取得される画像を「スケール画像」と称する)。このスケール画像に基づき、撮像装置2からの距離と、画像内における単位実寸あたりの寸法(画素数)との関係を求めるキャリブレーションを行うことができる。次に、ステップS2として、照射装置4から標識光3を照射しつつ撮像装置2により液8中の対象物10を撮像し(図2参照)、図3に示す如き画像を取得する(これを「撮像画像」と称する)。
【0076】
ステップS3として、撮像画像内において対象物10に標識光3の照射された部分(照射部)を識別し、これらの照射部のうち、以下のステップS4~S9の処理が実行されていない照射部が存在するか否かを判定する。未処理の照射部が撮像画像内に存在していれば、次のステップS4へ進む。
【0077】
ステップS4では、ステップS2で取得した撮像画像から未処理の照射部を選び、照射部の近傍の明度と、該照射部から離れた部分の明度との間を閾値として、図5に示す如く画像を二値化する(これを「二値化画像」と称する)。次にステップS5に移り、二値化画像内に寸法を測定可能で、且つ以下のステップS6~S9による測定が実行されていない対象物10が存在するか否かを判定する。尚、ここでいう「測定可能」とは、撮像画像内において標識光3が照射されていることが確認され、且つ画像内における寸法を測定可能な程度に、二値化画像内において形状を明瞭に把握できることを指す。
【0078】
寸法を測定可能で、且つ測定が実行されていない対象物10が存在した場合には、ステップS6~S9の測定工程に移る。ステップS6では、撮像画像における照射部の位置から、目的の対象物10の撮像装置2からの距離Lを算出する(上記式2、図4参照)。ステップS7では、距離Lに応じた単位実長あたりの画像内の距離(画素数Spix)を算出する(上記式3、図6および図7参照)。ステップS8では、画像内における対象物10の寸法を測定する。ステップS9として、ステップS7,S8で得た数値から、目的の対象物10における実際の寸法を算出する。
【0079】
一個の対象物10に関してステップS6~S9の測定が終了したら、ステップS5に戻り、再度判定を繰り返す。同じ二値化画像内に、寸法を測定可能且つステップS6~S9による測定が実行されていない対象物10が未だ存在していた場合は、未測定の対象物10に対して同様にステップS6~S9を実行し、測定可能な全対象物10に関して測定を終えるまでこれを繰り返す。
【0080】
同一の二値化画像内において、測定可能な全対象物10に関して測定を終えたら、次のステップS5において測定が可能且つ未実行の対象物10は存在しないと判断される。この場合はステップS3に戻り、再度撮像画像についての判定を行う。
【0081】
例えば、図3に示す撮像画像内には、ステップS3において、標識光3の照射された対象物10が10a~10eの5個体を認めることができる。このうち、まず1個の対象物10aを目的の対象物としてステップS4を実行する。対象物10aにおける照射部の近傍の明度と、バックグラウンドの明度の間を閾値として二値化を行い、図5に示す如き二値化画像を得る。この二値化画像から、目的の対象物10aについてステップS6~S9の工程を実行し、測定を行う。測定後、ステップS5に戻ると、測定の済んだ対象物10aのほか、同じ二値化画像内に測定可能な対象物10b,10cが認められる(対象物10d,10eについては、この二値化画像から外形を自動的に把握することは困難である)。そこで、例えば次に対象物10bについてステップS6~S9を実行し、さらにその次に対象物10cについてもステップS6~S9を実行する。図5の二値化画像内においては、対象物10a~10cの他に測定可能な対象物10は認められないので、対象物10cについての測定が終了した段階でステップS5からステップS3へ戻る。
【0082】
ステップS3では、撮像画像中に未処理の照射部があるかを再度判定する。ここに示した例の場合、撮像画像内に認められる標識光3の照射された対象物10のうち、10a~10cについて二値化画像による測定が終了しており、残る対象物10d,10eが未処理である。そこで、対象物10dにおける照射部の近傍の明度と、バックグラウンドの明度との間の値を閾値として二値化画像を新たに取得し(ステップS4)、ステップS5の判定を経てステップS6~S9の測定を行う。続いて、同一の二値化画像内で対象物10eについても測定が可能であればそのまま同じ二値化画像によりステップS6~S9の測定を行い、不可能であれば再度ステップS3に戻って新たに二値化画像を取得し(ステップS4)、測定を行う(ステップS6~S9)。
【0083】
こうして、一枚の撮像画像に基づいて二値化(ステップS4)および測定(ステップS6~S9)の工程を繰り返し、撮像画像内に未処理の照射部がなくなった段階で(図3の例では、対象物10a~10eに関して測定が終了した段階で)、ステップS3からステップS10に移行する。ステップS10では、これまでに測定を行った対象物10の数(サンプル数)が目標の数に達したか否かを判定する。サンプル数が十分であれば測定を終了し、不十分であればステップS2に戻ってさらに対象物10の撮像を行う。
【0084】
尚、上に説明した手順はあくまで一例であって、本発明の液中物測定装置を用いた測定方法を実行するにあたり、実際の手順は種々変更し得る。例えば、上では一枚の撮像画像について測定を終了してから次の撮像を行う場合を説明したが、時間的な効率を重視し、まずある程度の数の撮像画像を取得してからそれぞれの撮像画像についてステップS3~S9を繰り返しても良い。この場合は、例えば図8に一点鎖線で示す如く、一枚の撮像画像の処理が終わった段階で、サンプル数が目標に達しない場合にステップS10からステップS3に移り、次の撮像画像について以下の手順を実行する。あるいは破線で示す如く、一枚の撮像画像について測定が完了したら、ステップS3から未測定の撮像画像の存在を判定するステップS11に移り、全ての撮像画像について測定が終了するまで測定を繰り返すようにすれば良い。
【0085】
また、各ステップについては、適宜省略したり、順序を入れ替えたりすることもできる。例えば、複数枚の撮像画像について二値化画像を得る手順(ステップS4)をまとめて行っておき、その後、複数枚の二値化画像において次々に対象物10の距離の算出(ステップS6)や寸法測定(ステップS8)を行い、実寸を算出する(ステップS9)ようにしても良い。この場合、スケール画像の取得(ステップS1)は対象物10の撮像(ステップS2)の後でも良い。
【0086】
また、例えば撮像画像内における対象物10の寸法を目視により測定することも可能であるが、その場合、画像の二値化(ステップS4)は必ずしも必要ではない。また、図7に示す如きスケール11cにより、距離Lを算出することなく照射部の位置(Xpix)から単位実長あたりの画像内の距離(Spix)を算出する場合には、ステップS6は不要である。
【0087】
一方、撮像装置2の仕様から距離Lに応じた単位実長あたりの画像内の距離を初めから特定できる場合や、既に撮像装置2に関し、スケール11を用いたキャリブレーションが済んでいる場合には、スケール画像を取得するステップS1は必ずしも必要ではない。この場合、照射部の位置(Xpix)から距離Lを算出すれば(ステップS6)、これに応じてスケール11と比較することなく単位実長あたりの画像内の距離(Spix)を算出できる(ステップS7)。
【0088】
また、対象物10の種類や調査内容によっては、例えば対象物10の寸法ではなく空間内における位置を把握したい場合も想定し得る。そのような場合、例えばステップS7~S9を省略し、画像内における位置から対象物10と撮像装置2との距離Lのみを求めるようにしても良い。その他、本発明の液中物測定方法を実施するにあたり、具体的な手順は目的や条件等に応じて適宜変更することができる。
【0089】
以上のように、上記本実施例の液中物測定装置1は、液8中の対象物10を撮像する撮像装置2と、該撮像装置2の撮像範囲Aに対し、該撮像範囲A内における対象物10への照射位置が対象物10と撮像装置2との距離と対応するよう、指向性の標識光3を照射する照射装置4とを備えているので、照射装置4から標識光3を照射しながら撮像装置2により画像を取得する簡単な操作により、対象物10の距離を測定することができる。
【0090】
また、本実施例の液中物測定装置1において、標識光3は面をなして撮像範囲Aに照射されるので、撮像範囲A内に横断的に標識光3を照射することができ、一度の照射で、複数の対象物10に対し標識光3が照射された画像を取得することができる。対象物10の撮像装置2との距離の基準となる標識光3の照射部を一枚の画像内に複数検出し、各照射部について対象物10の距離や寸法を測定することができるので、測定の効率を高めることができる。
【0091】
また、本実施例の液中物測定装置1において、標識光3のなす面は、照射装置4の照射口4cと撮像装置2の光軸を含む面に直交するので、画像内における照射部の高さ方向(画像内において、照射装置4の照射口4cと撮像装置2の光軸を含む面に直交する向きに対応する方向)の位置にかかわらず、幅方向(画像内において、高さ方向に直交する方向)の位置により対象物10の撮像装置2からの距離を求めることができ、距離の算出を簡便にすることができる。
【0092】
また、本実施例の液中物測定装置1は、撮像装置2と照射装置4とを互いに離間して支持部5に配置した構成としているので、簡単な構成で撮像装置2と照射装置4とを適切な位置関係に配置することができる。
【0093】
また、本実施例の液中物測定装置1は、撮像装置2と照射装置4を支持部5によって支持した装置の全体を、浮具7により液8に対して保持する構成としているので、撮像装置2や照射装置4を含む液中物測定装置1を液8に対して設置し、また移動や移設を行うにあたって簡便である。
【0094】
また、本実施例の液中物測定方法においては、液8中の対象物10を撮像する撮像装置2と、該撮像装置2の撮像範囲Aに対し指向性の標識光3を照射する照射装置4とを備えた液中物測定装置1を用い、撮像範囲Aに対し、該撮像範囲A内における対象物10への照射位置が対象物10と撮像装置2との距離と対応するよう標識光3を照射すると共に、撮像装置2によって対象物10の撮像画像を取得し、該撮像画像における対象物10に照射された標識光3の照射部の位置から、対象物10と撮像装置2との距離または対象物10の実寸の少なくとも一方を求めるようにしているので、照射装置4から標識光3を照射しながら撮像装置2により画像を取得する簡単な操作により、対象物10の距離を測定することができる。
【0095】
また、本実施例の液中物測定方法においては、前記撮像画像を二値化した二値化画像を取得し、該二値化画像における対象物10の外形から寸法を測定するようにしているので、目的とする対象物10の外形を把握するにあたって好適である。
【0096】
また、本実施例の液中物測定方法においては、前記撮像画像を二値化するにあたり、撮像画像の標識光3の照射部近傍における明度と、前記照射部から離れ、且つ該照射部の近傍とは大きく異なる明度を示す位置の明度の間の値を閾値とするので、撮像画像において対象物10にあたる部分の明度とバックグラウンドにあたる部分の明度を簡便に特定し、目的の対象物10の外形を好適に把握可能な二値化画像を取得することができる。
【0097】
また、本実施例の液中物測定方法においては、撮像範囲A内に、撮像装置2からの距離が互いに異なる複数箇所において寸法を把握し得るようスケール11を設置して撮像装置2によりスケール画像を取得し、該スケール画像におけるスケール11の寸法に基づき、撮像画像内における撮像装置2からの距離に応じた単位実長あたりの寸法を把握することができる。
【0098】
また、本実施例の液中物測定方法において、スケール11は帯状の面を有した構成とし、該帯状の面が標識光3に沿うように設置することができ、このようにすれば、スケール11を撮像した画像内におけるスケール11の寸法から対象物10の寸法を求めるにあたり、撮像装置2と対象物10との距離の算出を不要とすることができる。
【0099】
また、本実施例の液中物測定装置1およびこれを用いた液中物測定方法においては、対象物10を水中の魚介類としている。本実施例の液中物測定装置および方法によれば、水中の魚介類の距離や寸法を好適に測定することができる。
【0100】
したがって、上記本実施例によれば、対象物に極力影響を与えることなく、簡便に対象物の距離や寸法を測定し得る。
【0101】
尚、本発明の液中物測定装置および方法は、上述の実施例にのみ限定されるものではない。例えば、上では対象物として水中の魚を例示したが、対象物は魚類以外の生物であっても良く、あるいは無生物であっても良い。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0102】
1 液中物測定装置
2 撮像装置
3 標識光
4 照射装置
4c 照射口
5 支持部
7 浮具
8 液
10 対象物
11 スケール
A 撮像範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8