(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】アンモニア合成用触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 37/02 20060101AFI20220519BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20220519BHJP
C01C 1/04 20060101ALI20220519BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
B01J37/02 101C
B01J23/63 M
C01C1/04 E
B01J37/02 101E
B01J37/08
(21)【出願番号】P 2018053494
(22)【出願日】2018-03-20
【審査請求日】2021-02-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 信輔
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 さと子
(72)【発明者】
【氏名】酒井 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】足立 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】本田 一規
(72)【発明者】
【氏名】沖田 充司
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-079177(JP,A)
【文献】特開2006-231229(JP,A)
【文献】特開2013-111562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01C 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セリウムを含む担体及びルテニウムを含み、酸化セリウムを含む担体の表面にルテニウムが
、触媒の断面が視野角にすべて入る倍率で触媒の中心を通るように電子線マイクロアナライザーでルテニウムの線分析を行い、触媒の表面から中心までの距離をrとして、その表面から距離rの強度をI
1
、その両表面からの距離0.1rの強度をそれぞれI
2
、I
3
としたときに2I
1
≦I
2
かつ2I
1
≦I
3
となるように偏在したアンモニア合成用触媒の製造方法であって、
ルテニウム化合物を含む含浸液を、前記担体の吸水量に対して10~70体積%の範囲で前記担体に含浸させて含浸担体を調整した後、乾燥開始から5分後までの乾燥速度である初期乾燥速度が0.05~0.3ml/g-含浸担体・Hrの範囲となるように前記含浸担体から溶媒が除去されるよう減圧乾燥させることで、前記酸化セリウムを含む担体にルテニウム化合物を担持して触媒前駆体を調製する工程と、
酸素濃度が10~3000ppmの範囲にある雰囲気下で前記触媒前駆体を焼成する工程と、
を含むアンモニア合成用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記触媒前駆体を調製する工程において、前記酸化セリウムを含む担体に前記ルテニウム化合物を含む
前記含浸液を噴霧担持して
前記含浸担体を調製
する、請求項1に記載のアンモニア合成用触媒の製造方法。
【請求項3】
前記触媒前駆体を調製する工程において、原料としてルテニウムの硝酸塩を用い、前記触媒前駆体に含まれる窒素の含有量が原料として使用したルテニウムの硝酸塩に含まれる窒素の含有量に対して60%以上である、請求項1または2に記載のアンモニア合成用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンモニア合成用触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアの合成方法は、20世紀初頭に開発されたハーバー・ボッシュ法が有名であり、現在もこの方法がアンモニア合成プラントにおいて工業的に使用されている。アンモニア合成用触媒は、プラントの運転条件や製造効率等に影響を与える重要な因子となるため、その性能向上は極めて重要である。アンモニア合成用触媒として、Mittaschにより見出された鉄系触媒が一般的に用いられているが、近年ではルテニウム系触媒も注目されている(非特許文献1参照)。
【0003】
例えば、特許文献1には、遷移元素を含む半導体からなる担体と、金属と、を混合する工程と、前記混合する工程で得られた混合物を空気存在下で焼成し、アンモニア合成触媒を得る工程と、を含むことを特徴とするアンモニア合成触媒の製造方法が開示されており、実施例においてはチタン酸バリウムにルテニウムが担持されたルテニウム系触媒も開示されている。
【0004】
特許文献2には、(1)ルテニウム、ルテニウムを含む合金又はルテニウムを含む化合物、(2)ランタノイドを含む化合物、並びに、(3)塩基性助触媒及び/又は多孔性金属錯体を配合した組成物が開示されており、実施例においては酸化セリウムにルテニウムが担持されたルテニウム系触媒も開示されている。
【0005】
これらの触媒をアンモニア合成プラントにおいて工業的に使用するためには、触媒の活性が高いことのほかにも、過酷な運転条件で長期間使用できるよう機械的な強度が高いことも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-148810号
【文献】特開2013-111562号
【非特許文献】
【0007】
【文献】「触媒活用大辞典」編集委員会編、初版、株式会社鉱業調査会、2004年12月20日、p.534~535
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の特許文献1、2のように、ルテニウム系アンモニア合成用の触媒は種々研究されているが、実用レベルで満足できる活性及び機械的強度を示すものはこれまで得られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、ルテニウム及び酸化セリウムを含む触媒について、鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、酸化セリウムが酸素吸蔵放出能力を備えていること、酸素の吸蔵または放出に伴うセリウムイオンの価数変化によって酸化セリウムの結晶格子が膨張収縮することに着目し、この膨張収縮を最小にして前記触媒を製造することで、機械的強度が高い触媒が得られることを見出した。
【0010】
具体的には、酸化セリウムを含む担体及びルテニウムを含み、酸化セリウムを含む担体の表面にルテニウムが偏在したアンモニア合成用触媒の製造方法であって、酸化セリウムを含む担体にルテニウム化合物を担持して触媒前駆体を調製する工程と、酸素濃度が10~3000ppmの範囲にある雰囲気下で前記触媒前駆体を焼成する工程、を経て得られた触媒は、その機械的強度が高くなることを見出した。更に、前述の工程を経て得られた触媒をアンモニア合成用触媒として用いると、高い活性を示すことも見出し、本発明者は発明を完成させた。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法を用いて得られた触媒は、機械的強度が高く、アンモニア合成触媒として用いると、高い活性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】触媒中のルテニウムの分布を説明するための図である。
【
図3】触媒中のルテニウムの分布を測定したSEM-EDS線分析(ライン分析ともいう)の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の製造方法は、酸化セリウムを含む担体及びルテニウムを含み、酸化セリウムを含む担体の表面にルテニウムが偏在したアンモニア合成用触媒の製造方法であって、酸化セリウムを含む担体にルテニウム化合物を担持して触媒前駆体を調製する工程(以下、前駆体調製工程ともいう。)と、酸素濃度が10~3000ppmの範囲において前記触媒前駆体を焼成する工程(以下、焼成工程ともいう。)とを含む。本発明の製造方法について、以下に詳述する。
【0014】
[原料]
本発明の製造方法で用いるルテニウム化合物は、ルテニウムを含む化合物であれば従来公知の化合物を用いることができる。例えば、硝酸ルテニウム、ニトロシル硝酸ルテニウム、塩化ルテニウム等を用いることができる。本発明の製造方法においては、硝酸ルテニウムまたはニトロシル硝酸ルテニウムといったルテニウムの硝酸塩を用いることが好ましい。
【0015】
本発明の製造方法で用いる酸化セリウムを含む担体は、サイズが1~10mmの成型体を用いることが好ましい。なお、本発明において、成型体のサイズは成型体の短径を指すものとする。また、その形状は、球状または柱状であることが好ましい。なお、その形状は、球状または柱状に準ずるものも含むものとする。例えば、蓮根状の円柱であっても柱状に含まれ、多少ゆがんだ球状であっても球状に含まれるものとする。
【0016】
本発明の製造方法における酸化セリウムを含む担体は、成型助剤を含んでいてもよい。例えば、成型助剤として有機バインダー、無機バインダーまたはその両方を含んでいてもよい。ただし、このような酸化セリウム以外の成分は、10質量%以下であることが好ましい。酸化セリウム以外の成分が増えると、最終的に得られる触媒の活性が低下することがある。
【0017】
酸化セリウムを含む担体は、例えば、粉状の酸化セリウムと成型助剤とを混錬し、球状、柱状またはその他の形状に成型した後、大気中で550℃程度の温度で焼成することで得ることができる。
【0018】
[前駆体調製工程]
本発明の前駆体調製工程は、酸化セリウムを含む担体にルテニウム化合物を担持して触媒前駆体を調製する工程である。本発明の製造方法においては、酸化セリウムを含む担体にルテニウム化合物を担持する方法として、例えば、含浸法を用いることができる。具体的には、ルテニウム化合物が溶媒に溶解または分散した含浸液を担体に浸漬する方法や、含浸液を担体に噴霧する方法等を用いることができる。本発明においては、より担体の表面にルテニウム化合物を担持できる後者の方法を用いることが好ましい。この方法を用いると、酸化セリウムを含む担体の表面にルテニウムが偏在した触媒を調製しやすい。なお、本発明において、酸化セリウムを含む担体の表面にルテニウムが偏在しているか否かは、触媒の断面を電子顕微鏡で観察して判断することができる。例えば、
図1のような触媒について、酸化セリウムを含む担体の表面にルテニウムが偏在しているか否か判断する場合は、まず、触媒の断面を電子顕微鏡で観察する。次に、触媒の断面が視野角にすべて入るような倍率で、触媒の中心を通るように電子線マイクロアナライザーでルテニウムの線分析を行う。このとき、触媒の表面から中心までの距離をrとして、その表面から距離rの強度(すなわち中心の強度)をI
1、その両表面からの距離0.1rの強度をそれぞれI
2,I
3とし、2I
1≦I
2かつ2I
1≦I
3であれば、酸化セリウムを含む担体の表面にルテニウムが偏在していると判断できる(
図2)。なお、この判断基準では、触媒の表面から0.1r以下の範囲にのみルテニウムが存在する場合、ルテニウムが偏在しないことになってしまう。しかし、このように極端に触媒の表面側にのみルテニウムが存在している触媒は、その触媒活性が低下する傾向があるので、本発明の技術的範囲から除外されるものとする(例えば、比較例4)。具体的な測定方法は、実施例で後述する。
【0019】
この工程において担持するルテニウム化合物の担持量は、最終的に得られる触媒の総重量に対してルテニウムの含有量が1~10質量%の範囲となるような担持量とすることが好ましく、1~5質量%の範囲となるような担持量とすることがより好ましい。最終的に得られる触媒の総重量に対してルテニウムの含有量が少なすぎると、アンモニア合成用触媒として使用する際に活性が低下することがある。また、ルテニウムは高価な貴金属であることから、最終的に得られる触媒の総重量に対してルテニウムの含有量が多すぎても、触媒のコストが高くなるので好ましくない。
【0020】
ルテニウム化合物を担持する方法として含浸法を用いる場合、ルテニウム化合物を含む含浸液を、担体の吸水量に対して10~70体積%の範囲で担体に含浸させることが好ましく、20~60体積%の範囲で担体に含浸させることがより好ましい。本発明において、担体の吸水量とは、単位重量当たりの担体が吸収できる水の体積を表すものであり、後述の実施例の方法によって求めることができる。このように担体の吸水量より低い範囲で含浸液を担体に含浸することで、担体の表面にルテニウム化合物を担持しやすくなる。このとき、含浸液に含まれるルテニウム化合物の濃度は、ルテニウム化合物の目標担持量によって、適宜調整してよい。
【0021】
ルテニウム化合物を担持する方法として含浸法を用いる場合、ルテニウム化合物を含む含浸液を担体に含浸して含浸担体を調製した後、初期乾燥速度(乾燥開始から5分後までの乾燥速度)が0.05~0.3ml/g-含侵担体・Hrの範囲となるように含浸担体から溶媒が除去されるよう減圧乾燥することが好ましく、0.05~0.15ml/g-含侵担体・Hr範囲となるように減圧乾燥されることがより好ましい。特に、初期乾燥速度が速すぎると、ルテニウム化合物が凝集してしまい、最終的に得られる触媒のルテニウム分散度が低下することがあるので好ましくない。なお、初期乾燥速度をコントロールすることでルテニウム化合物の分布状態をある程度コントロールすることもできる。例えば、初期乾燥速度を速くすることで、含浸担体内部のルテニウム化合物をその表面近くに移動させることができる。なお、初期乾燥速度は、実施例のように乾燥温度と圧力でコントロールすることができる。
【0022】
原料のルテニウム化合物として硝酸ルテニウムやニトロシル硝酸ルテニウムといった硝酸塩を使用する場合、減圧乾燥を行う際の乾燥温度は、100℃以下であることが好ましい。100℃以下の乾燥温度であれば、触媒前駆体中に硝酸塩由来の窒素を多く残すことができる。このような触媒前駆体を後述の焼成工程で焼成すると、最終的に得られる触媒中のルテニウムの分散度が高くなり、その触媒活性も向上する。触媒前駆体中に含まれる硝酸塩由来の窒素量は、原料のルテニウム化合物に含まれる硝酸塩の量に対して60%以上残存していることが好ましい。
【0023】
[焼成工程]
本発明の焼成工程は、酸素濃度が10~3000ppm(体積基準。すなわち、ppmv)の範囲にある雰囲気下において前記前駆体調製工程で調製された触媒前駆体を焼成する工程である。この工程では、触媒前駆体を焼成して、触媒前駆体中に含まれるルテニウム化合物を酸化ルテニウムに分解(酸化)することを目的としている。
【0024】
ルテニウム化合物を焼成する際の雰囲気は、例えば、特許文献1のように空気雰囲気であったり、特許文献2のようにHe等の不活性雰囲気であることが一般的である。これに対して、本発明の製造方法は、酸化セリウムを含む担体にルテニウム化合物を担持した触媒前駆体を調製した後で、これを酸素濃度が10~3000ppmの範囲にある雰囲気下において焼成する。これは、前述の目的に加え、担体に含まれる酸化セリウムの膨張収縮を最小にすることを目的としたものである。
【0025】
一般的に、酸化セリウムは、Ce3+とCe4+の酸化還元電位の差が1.61Vと比較的小さく、その酸化還元反応が容易かつ可逆的に起こるため、酸化雰囲気下では酸素を吸蔵し、酸素のない不活性雰囲気下では酸素を放出する酸素吸蔵放出能力を示すことが知られている(下記(1)式)。
CeO2 ⇔ CeO(2-x)+x/2O2・・・(1)
つまり、酸化セリウムは、酸素のない不活性雰囲気においてCe4+→Ce3+の価数変化を伴って酸素を放出し、酸素のある酸化雰囲気下においてCe3+→Ce4+の価数変化を伴って酸素を吸蔵する。ここで、酸化セリウムの結晶格子は、前述のセリウムイオンの価数変化に伴って膨張収縮するものと考えられる。Shannonの報告(Shannon et al.,Acta A,32(1976)751)によると、Ce4+のイオン半径(8配位)が0.97Åであるのに対して、Ce3+のイオン半径(8配位)は1.143Åであり、Ce3+とCe4+で約18%異なる。これを体積に換算して比較すると、Ce3+とCe4+で約28%も異なることになる。このようなセリウムイオンの価数変化に由来して酸化セリウムの結晶構造が膨張収縮すると、担体に含まれる酸化セリウムも同じように膨張収縮するので、そのストレスによって担体中に間隙が生じ、最終的に得られる触媒の機械的強度が低下するものと考えられる。例えば、不活性雰囲気中で酸化セリウムを含む担体を焼成すると、担体に含まれる酸化セリウムは、酸素を放出してセリウムイオンがCe4+からCe3+に変化し、膨張する。これを焼成が終わった後で急に酸素リッチな雰囲気に曝してしまうと、担体に含まれる酸化セリウムは、酸素を吸蔵してCe3+がCe4+に変化し、急激に収縮する。このような酸化セリウムの膨張収縮により最終的に得られる触媒にストレスがかかり、機械的強度が低下するものと考えられる。酸化セリウムから酸素を脱離させずに焼成する方法としては、例えば空気中で焼成する等の酸素リッチな雰囲気で焼成することが有効であるが、本発明の製造方法のような、酸化セリウムのほかにルテニウム化合物を含むものを酸素リッチな状態で焼成すると、ルテニウム化合物の一部がRuO4(沸点:40℃)になって揮発してしまう等の問題が生じる。そこで、本発明の製造方法では、酸素が低濃度で存在する雰囲気、即ち酸素濃度が10~3000ppmの範囲にある雰囲気下において酸化セリウム及びルテニウム化合物を含む触媒前駆体を焼成することが重要である。
【0026】
更に、このような条件で酸化セリウム及びルテニウム化合物を含む触媒前駆体を焼成すると、最終的に得られる触媒に含まれるルテニウムの分散度が高くなることも判明した。これは、酸素が低濃度で存在する雰囲気においてルテニウム化合物から配位子が外れる際に、酸化セリウムから放出される酸素を介してルテニウムと酸化セリウムが結合して酸化セリウムの表面にルテニウムが固定されることで、ルテニウムが凝集しにくくなったためと考えられる。このような結合状態を作るためには酸化セリウムの表面に酸素が適度に存在している必要があるので、本発明ではルテニウム化合物を酸素の拡散が良好な担体の表層に偏析させている。
【0027】
この工程の雰囲気は、酸素濃度が200~3000ppmの範囲にあることが好ましく、500~3000ppmの範囲にあることがより好ましい。酸素濃度がこのような範囲にある場合、最終的に得られる触媒の機械的強度がより高くなる傾向がある。なお、本発明において、酸素濃度はジルコニア式酸素濃度計を用いて分析するものとする。この工程では、このような雰囲気を維持するため、酸素濃度が前述の範囲にあるガスを流通しながら焼成することが好ましく、その流量は、SV換算で1000~10000Hr-1となるように調節することが好ましい。このように、酸素濃度(酸素分圧)が一定のガスを流通しながら焼成することで、酸化セリウムからの過度な酸素の脱離が抑制される。
【0028】
この工程では、焼成温度が200~500℃の範囲にあることが好ましく、250~350℃の範囲にあることがより好ましい。このような焼成温度の範囲であれば、酸化セリウムから酸素が脱離しても雰囲気中の酸素を吸蔵するので、実質的に酸化セリウムから酸素が脱離しなくなる。これに対し、焼成温度が高すぎると、雰囲気中の酸素濃度にもよるが、酸化セリウムから脱離する酸素のほうが雰囲気中から吸蔵される酸素に比べて多くなることがあるので、好ましくない。また、焼成温度が低すぎても、ルテニウム化合物を酸化ルテニウムに分解できないことがあるので、好ましくない。
【0029】
焼成時間は、触媒前駆体の仕込量にもよるが、おおむね1~24時間の範囲にあることが好ましい。更に、前記焼成温度に達するまでの昇温速度は、50~200℃/Hrの範囲にあることが好ましい。昇温速度が速すぎると、ルテニウム化合物が急激に分解してガスが発生し、その内圧で触媒が破損することがある。また、昇温速度が低すぎても生産性が低くなるので、前述の昇温速度の範囲で昇温することが好ましい。
【0030】
[アンモニア合成用触媒]
最終的に得られるアンモニア合成用の触媒は、酸化セリウムを含む担体に酸化ルテニウムが担持された状態である。しかし、酸化ルテニウムの状態ではアンモニア合成用触媒として機能しないので、これを100~500℃の範囲の温度で水素還元してからアンモニア合成用触媒として用いる。ただし、アンモニア合成は水素雰囲気下において高温で行われるので、このような水素還元処理を省略してもよい。なお、酸化ルテニウムが還元される際に、酸化セリウムに含まれるCe4+の一部が還元されてCe3+が生成して触媒が膨張するが、アンモニア合成反応中にCe3+がCe4+に酸化されて収縮することはほとんどないので、前記反応中の触媒の機械的強度は低下しないものと考えられる。
【0031】
アンモニア合成は、例えば、窒素ガス及び水素ガスを含む原料ガスを前述のアンモニア合成用触媒に接触させることで進行する。また、その反応条件は、200~500℃の範囲の温度、1~50MPaの範囲の圧力であることが好ましい。更に、原料ガスにおける窒素と水素の比率(体積比率)は、1:10~10:1の範囲にあることが好ましい。このような条件下であれば、前述のアンモニア合成用触媒を用いて効率的にアンモニアを合成することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0033】
本発明の実施例にて行った測定及び評価条件を次に示す。
(担体の吸水量)
約20gの担体を100mlの純水に1時間浸漬した。その後、担体を取り出して表面の濡れをふき取り、浸漬後の担体の重量を測定した。この値を用いて、下記(1)式から担体の吸水量を算出した。なお、純水の単位体積当たりの重量は1g/mlとした。
担体の吸水量 [ml/g-担体]=(浸漬後の担体重量-浸漬前の担体重量)/浸漬前の担体重量・・・(1)
【0034】
(初期乾燥速度)
減圧乾燥前の含浸担体の重量と減圧乾燥を開始してから5分後の含浸担体の重量を測定し、下記(2)式から初期乾燥速度を算出した。
初期乾燥速度[ml/g-含浸担体・Hr]=(減圧乾燥前の含浸担体の重量-5分後の含浸担体の重量)/減圧乾燥前の含浸担体重量/(5/60)・・・(2)
【0035】
(触媒前駆体に含まれる窒素の含有量)
触媒前駆体をイオン交換水とデバルダ合金に懸濁してスラリーを得た。このとき、触媒前駆体に含まれる窒素分は、デバルダ合金によって還元され、アンモニアとなってスラリー中に存在している。このスラリーに含まれるアンモニアを蒸留装置で蒸留し、分離されたアンモニアを蒸留水でトラップした。この蒸留水を適切な濃度に希釈して、濃度既知の塩酸を用いて、中和滴定した。使用した触媒前駆体重量、及び中和滴定値から、触媒前駆体に含まれる窒素の含有量を算出した。
【0036】
(触媒中のルテニウムの分布状態)
円柱状の触媒を輪切りにした後、その断面を電子顕微鏡(HITACHI社製、S-5500)を用いて観察し、EDSにより線分析した。この分析は、触媒の中心を通過する少なくとも12以上の線上にて行った。触媒の表面から中心までの距離をrとして、その表面から距離rの強度I1、その両表面からの距離0.1rの強度I2,I3を算出した。
【0037】
(ルテニウム含有量)
乳鉢で粉砕された触媒、過酸化ナトリウム及び水酸化ナトリウムをるつぼ内で混合し、これを溶融した。その後、るつぼ内の溶融物を塩酸で溶解し、適切な濃度に希釈後、ICP発光分光分析装置にてルテニウム濃度を測定した。使用した触媒の重量、測定されたルテニウム濃度から、触媒のルテニウム含有量を算出した。
【0038】
(ルテニウム分散度)
T.Takeguchi,W.Ueda,,Applied Catalysis A:General,293(2005),91を参考に測定を実施した。
具体的には、触媒を約0.2g精秤し、これを反応管に充填した。ついで、以下の手順で前処理を実施した。
1st:O2/He(O2:5vol%)流通下において、300℃で30分間保持した。
2nd:He流通下において、50℃で10分間保持した。
3rd:H2/Ar(H2:15vol%)流通下において、400℃で10分間保持した。
4th:He流通下において、50℃で10分間保持した。
5th:O2/He(O2:5vol%)流通下において、50℃で10分間保持した。
6th:CO2/He(He:10vol%)流通下において、50℃で60分間保持した。
7th:He流通下において、50℃で5分間保持した。
8th:H2/Ar(H2:15vol%)流通下において、50℃で10分間保持した。
9th:He流通下において、50℃で20分間保持した。
その後、CO濃度が15vol%のガスをパルスで反応管に導入し、出口のCO濃度をTPD-Mass(日本ベル社、BEL―CAT)で測定した。入口と出口のCO濃度に変化がなくなった時点でパルスの導入を終了した。パルス1回ごとに反応管入口のCO濃度と出口のCO濃度の差分から触媒に吸着されたCO量を算出し、これをパルスの導入が終了するまで積算して触媒に吸着したCO量を算出した。使用した触媒の重量、ルテニウム含有量、ルテニウム原子量、触媒に吸着したCO量を用い、下記(4)式からルテニウム分散度を算出した。
ルテニウム分散度=(VCHEM×SF/22414×MW)/c×100・・・(4)
VCHEM :CO吸着量 [cm3]
MW :金属原子量 [g/mol] (Ru=101.07)
m :試料重量 [g]
SF :1 (Ru1原子に対してCOが1分子吸着すると仮定)
c :金属重量(試料に担持された金属の重量) [g]
c=m×p/100
p :担持金属含有率 [wt%]
【0039】
(機械的強度)
触媒全体からランダムに20粒サンプリングした。次に、この触媒1粒について、ロードセル方式圧壊強度計(インストロン社製 型式3365)を用いて、触媒の径に対して垂直方向の破壊強度を測定した。これを20粒分繰り返し、その強度の平均値を機械的強度とした。
【0040】
(活性試験)
触媒5.86mlを反応管に充填し、高圧反応試験装置にセットした。この反応管内を窒素で置換した後、水素で置換し、GHSV=6000(1/Hr)相当で水素を流通させたまま460℃に昇温し、60Hrの前処理還元を実施した。前処理還元終了後、400℃まで冷却し、H2:N2=3:1のガスをGHSV=3000(1/Hr)相当で流通させながら3MPaまで昇圧した。温度及び圧力が安定した時点において、反応管入口のガスのH2濃度、反応管出口のガスのH2濃度をガスクロマトグラフ(GL Sciences社製 GC3200)で測定した。この濃度と流量から、入口水素流量(InletH2)、出口水素流量(OutletH2)を算出した。この値を用いて、下記(5)式から水素転化率を算出し、これを活性の指標とした。
水素転化率[%]=(InletH2[mmol/Hr]-OutletH2[mmol/Hr])/(InletH2[mmol/Hr]) ×100 ・・・(5)
【0041】
[実施例1]
酸化セリウム(第一稀元素化学工業社製、品番:Z-3117)の粉末と有機バインダーを混合した後、これを3.2mmφ-3.2mmHの円柱状に打錠成型した。これを、大気中で550℃の温度で焼成して、酸化セリウムを含む担体を調製した。この担体の吸水量は、0.2ml/g-担体であった。転動した状態の担体に、ニトロシル硝酸ルテニウム溶液(フルヤ金属社製)を純水で希釈して得られた含浸液を、最終的に得られる触媒の総重量に対してルテニウムの含有量が3質量%となるように、噴霧含浸して含浸担体を得た。このとき、この担体に噴霧含浸した含浸液の体積は、担体の吸水量に対して50%であった。この含浸担体を、ロータリーエバポレーターを用いて、初期乾燥速度が0.1ml/g-含浸担体・Hrとなるように圧力(真空度)と乾燥温度を調節しながら、減圧乾燥した。このとき、乾燥温度は、50℃を超えないように調節し、真空度は、5kPa以下となるように調節した。最終的に、含浸担体の重量減少がなくなった時点で減圧乾燥を終了した。減圧乾燥によって得られた触媒前駆体に含まれる窒素(ニトロシル硝酸ルテニウム由来)の含有量は、原料として仕込んだニトロシル硝酸ルテニウムに含まれる窒素の割合に対して、81%であった。ここで、原料として仕込んだニトロシル硝酸ルテニウムに含まれる窒素の量は、ニトロシル硝酸ルテニウムの純度と化学式から計算した。この触媒前駆体を管状炉に仕込み、酸素濃度が10ppmとなるように酸素と窒素を混合したガスを流通しながら、300℃で5時間焼成した。このとき、昇温速度は100℃/Hrとした。最終的に得られた触媒について、ルテニウム含有量、ルテニウム分散度及び活性試験を行った。また、触媒中のルテニウムの分布状態を測定した。結果を第1表に示す。また、ルテニウムの分布状態を測定した際の電子顕微鏡写真及びEDSによるルテニウムの線分析結果を
図3に示す。
【0042】
[実施例2]
初期の乾燥速度が0.08ml/g-含浸担体・Hrとなるように真空度と乾燥温度を調節しながら、減圧乾燥したこと以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
【0043】
[実施例3]
初期の乾燥速度が0.13ml/g-含浸担体・Hrとなるように真空度と乾燥温度を調節しながら、減圧乾燥したこと以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
【0044】
[実施例4]
触媒前駆体の焼成時に酸素濃度が3000ppmとなるように酸素と窒素を混合したガスを流通した以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
【0045】
[実施例5]
ルテニウム化合物として硝酸ルテニウム(フルヤ金属社製)を原料として用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
【0046】
[実施例6]
ルテニウム化合物として塩化ルテニウム(フルヤ金属社製)を原料として用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
【0047】
[実施例7]
触媒前駆体の焼成時に酸素濃度が1000ppmとなるように酸素と窒素を混合したガスを流通した以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
【0048】
[実施例8]
送風式の乾燥機を用いて、常圧下、120℃において、初期乾燥速度が0.17ml/g-含浸担体・Hrとなるように含浸担体を乾燥した以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
【0049】
[比較例1]
触媒前駆体の焼成時に酸素濃度が1%(10000ppm)となるように酸素と窒素を混合したガスを流通した以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
【0050】
[比較例2]
触媒前駆体の焼成時に大気を流通した以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
【0051】
[比較例3]
触媒前駆体の焼成時に酸素濃度が5ppmとなるように酸素と窒素を混合したガスを流通した以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
【0052】
[比較例4]
初期の乾燥速度が0.4ml/g-含浸担体・Hrとなるように真空度と乾燥温度を調節しながら、減圧乾燥したこと以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。なお、この触媒は、触媒の表面にルテニウムが極端に偏在していた。
【0053】
[比較例5]
担体に噴霧含浸した含浸液の体積が、担体の吸水量に対して100%であったこと以外は、実施例1と同様の方法で触媒を調製した。得られた触媒についても、実施例1と同様の方法で評価した。
【0054】