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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 119/02 20060101AFI20220519BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20220519BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20220519BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20220519BHJP
【FI】
C10M119/02
C10N20:02
C10N30:00 Z
C10N50:10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018245121
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020105350
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000108546
【氏名又は名称】株式会社イチネンケミカルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 中道
(72)【発明者】
【氏名】落合 哲也
【審査官】越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/017227(WO,A1)
【文献】特開2002-327188(JP,A)
【文献】特開平07-011276(JP,A)
【文献】特開平04-146996(JP,A)
【文献】特開2016-141763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 10/00- 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油と増ちょう剤とを含み、
上記増ちょう剤が、下記構造式で表されるブロック共重合体のみから成り、
上記ブロック共重合体のスチレン含有量が35~36質量%であり、平均分子量が9万~12万であることを特徴とするグリース組成物。
【化1】
但し、上記構造式中l、mは、繰り返し数を表わす整数を表わす。
【請求項2】
上記増ちょう剤を10~30質量%含有することを特徴とする請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
上記潤滑油基油の粘度指数(VI)が10~140であることを特徴とする請求項1又は2に記載のグリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物に係り、更に詳細には、密封潤滑部などに好適なグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械等に用いられるグリース組成物は、増ちょう剤と呼ばれる微細な固体を潤滑油基油に分散し、半固体状にした潤滑剤であり、上記増ちょう剤としては、リチウム塩やカルシウム塩などのアルカリ金属石鹸、尿素樹脂、フッ素樹脂やメラミン樹脂などの樹脂の他、シリカゲルやベントンのような無機質物質が知られている。
【0003】
潤滑油基油に添加する増ちょう剤は、グリース組成物の用途や使用環境等に応じて使い分けされている。
【0004】
例えば、特許文献1の特開2014-194276号公報にはポリアルファオレフィン油にリチウム石鹸及びスチレンイソプレン樹脂を添加した樹脂用グリース組成物が記載され、特許文献2の特開2007-297422号公報には、基油及び増ちょう剤を含有するグリース組成物にフッ素系界面活性剤及びスチレン系ブロック共重合体を含有させることで耐摩耗特性・耐疲労特性が向上する旨が記載されている。
【0005】
また、特許文献3の特開平7-11276号公報には、潤滑油にシックナー及び水素化スチレン-イソプレンブロック共重合体を添加したグリース組成物は、良好な耐水性と付着性を有し、低温度における良好なポンプ作動性を有する旨が記載されている。
【0006】
さらに、特許文献4の特開2002-327188号公報には、アルカジエンとしてイソプレンブロックを有するスチレン系ブロック共重合体を増ちょう剤に用いることでグリース組成物の潤滑油成分の分離を防止できる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-194276号公報
【文献】特開2007-297422号公報
【文献】特開平7-11276号公報
【文献】特開2002-327188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献4に記載の潤滑剤組成物にあっては、耐候性、耐熱老化性が低く、ちょう度が変化し易いため、使用により軟化し密封潤滑部などへの適用が困難である。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、潤滑油成分の分離がなく、長期に亘りちょう度変化が少ないグリース組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、増ちょう剤として、金属石鹸などを使用せずに化学的に安定な水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体のみを用いることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、上記課題は、本発明の下記(1)~(3)により解決される。
(1)潤滑油基油と増ちょう剤とを含み、
上記増ちょう剤が、下記構造式で表されるブロック共重合体のみから成り、
上記ブロック共重合体のスチレン含有量が35~36質量%であり、平均分子量が9万~12万であることを特徴とするグリース組成物。
【0012】
【化1】
但し、上記構造式中l、mは、繰り返し数を表わす整数を表わす。
(2)上記増ちょう剤を10~30質量%含有することを特徴とする(1)に記載のグリース組成物。
(3)上記潤滑油基油の粘度指数(VI)が10~140であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のグリース組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、増ちょう剤として、水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体のみを用いることとしたため、長期に亘りちょう度変化が小さなグリース組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のグリース組成物について詳細に説明する。
上記グリース組成物は、潤滑油基油と増ちょう剤とを含み、該増ちょう剤が、下記構造式で表される水素添加スチレン‐イソプレンブロック共重合体のみから成る。
【0015】
【化2】
但し、上記構造式中、l、mは、繰り返し数を表わす整数を表わす。
【0016】
増ちょう剤とは、液体の潤滑油基油を立体的な網目構造中に保持し、潤滑油基油を半固体のゲル状にするものである。
【0017】
本発明は、増ちょう剤として、ハードセグメントのポリスチレンブロックとソフトセグメントの水素添加ポリイソプレンブロックとを有し、スチレン含有量が35~36質量%である水素添加スチレン‐イソプレンブロック共重合体を用いる。
【0018】
上記ポリスチレンブロックは、剛直でガラス転移温度(Tg)が高く、Tg以下において分子鎖が絡み合う物理架橋点として作用し、増ちょう剤全体の構造を3次元網目構造の様な構造にして潤滑油基油を保持する。
【0019】
また、ソフトセグメントの水素添加ポリイソプレンは、増ちょう剤全体の絡み合い点間の分子量を大きくして潤滑油基油の吸油性を向上させると共に、側鎖のメチル基によりソフトセグメント自体の分子運動が抑制され、上記ポリスチレンブロックと相俟って増ちょう剤に適度な柔軟性を発現させ、せん断安定性を向上させる。
【0020】
さらに、上記ソフトセグメントは、不飽和結合を全く含まない非常に安定な構造であるため、耐候性、耐熱老化性に優れ、長期に亘り、グリース組成物のちょう度変化を極めて小さくすることができる。
【0021】
上記増ちょう剤のスチレン含有量が35質量%未満では、潤滑油基油の保持力が低下し、潤滑油基油を吸収できずに分離し易くなり、36質量%を超えると、グリース組成物の流動性が低下する。
【0022】
上記増ちょう剤は、質量平均分子量が9万~12万であり、9万~11万が好ましく、9万~10万であることがより好ましい。質量平均分子量が9万未満では、含有量を増やしても半固体のゲル状態にならずチキソ性を発現しない。また、質量平均分子量が12万を超えると、潤滑油基油を吸収し難くなり、加熱して潤滑油基油を吸収させたとしても、グリース組成物の流動を起こすために必要なせん断応力、すなわち降伏応力が大きくなって流動性が低下する。
【0023】
水素添加スチレン‐イソプレンブロック共重合体の質量平均分子量が9万~10万であると、加熱せずに潤滑油基油と混合し撹拌することでグリース化することができ、加熱による潤滑油基油の劣化を防止できるため好ましい。また、水素添加スチレン‐イソプレンブロック共重合体がパウダー状であると、さらにグリース化が容易になる。
【0024】
上記増ちょう剤として使用できる水素添加スチレン‐イソプレンブロック共重合体としては、例えば、セプトン1001、セプトン1020(いずれもクラレ社製)を挙げることができる。
【0025】
本発明のグリース組成物は、上記増ちょう剤を10~30質量%含有することが好ましく、15質量%~25質量%含有することがより好ましい。
上記増ちょう剤の含有量が10質量%未満では、グリース増ちょう剤として求められる
増ちょう性が得られず、潤滑油基油の粘度増ちょうに留まり十分機能を満たさない。30質量%を超えると、グリース組成物が硬くなりすぎて潤滑性及び製品化に問題を生じる。
【0026】
上記潤滑油基油としては、グリース組成物として用いられている従来公知の合成油、鉱物油の他、植物油などを使用することができる。
【0027】
上記合成油としては、例えば、ポリαオレフィン、エチレンαオレフィンオリゴマー、ジエステル、ポリオールエステル、アルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、流動パラフィンなどを挙げることができ、また、上記植物油としては、ひまし油、菜種油などを挙げることができる。
【0028】
上記潤滑油基油は、粘度指数(VI)が10~140であることが好ましい。具体的には、潤滑油基油が鉱物油である場合は40℃の動粘度が5cst~500cst、100℃の動粘度が2cst~40cst、また、合成油である場合は、40℃の動粘度が30cst~1300cst、100℃の動粘度が5cst~130cstである。
【0029】
上記グリース組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、防錆剤、極圧剤、摩耗防止剤、消泡材、清浄分散剤、粘度指数向上剤、乳化剤、流動点降下剤、腐食防止剤等を含有してもよい。
【0030】
上記グリース組成物は、従来公知の方法で作製することができる。具体的には、潤滑油基油と増ちょう剤を混合し、必要に応じて、増ちょう剤のガラス転移温度以上に加熱し撹拌することで作製できる。
【0031】
上記グリース組成物は、自動車産業、鉄鋼産業、電気産業、ロボット産業、航空産業、医療、食品産業など、あらゆる産業機械の駆動部や軸受け部などの潤滑部に使用できるが、潤滑油基油の分離がなく、長期に亘りちょう度変化が小さいため、メンテナンスが困難な密封潤滑部などに、特に好適に使用できる。
【実施例
【0032】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
増ちょう剤として、パウダー状の下記構造式SEPで表される水素添加スチレン‐イソプレンブロック共重合体(セプトン1020、クラレ社製:スチレン含有量36質量%、平均分子量95000、JIS A硬度70)が15質量%になるように、鉱物油、ポリαオレフィン、エステル油の3種類の潤滑油基油にそれぞれ混合し、室温で撹拌分散後、ロール処理して3種類のグリース組成物を得た。
表1に、鉱物油、ポリαオレフィン、エステル油の粘度及び粘度指数を示す。
【0034】
【化3】
但し、上記構造式SEP中、l、mは、繰り返し数を表わす整数を表わす。
【0035】
【表1】
【0036】
[実施例2]
増ちょう剤として、ペレット状の上記構造式SEPで表される水素添加スチレン‐イソプレンブロック共重合体(セプトン1001、クラレ社製:スチレン含有量35質量%、平均分子量114000、JIS A硬度80)が15質量%になるように、鉱物油、ポリαオレフィン、エステル油の3種類の潤滑油基油にそれぞれ混合し、80℃に加熱し撹拌分散後、ロール処理して3種類のグリース組成物を得た。
【0037】
[参考例1]
ペレット状の下記構造式SEPSで表される水素添加スチレン‐イソプレン-スチレンブロック共重合体(セプトン2004、クラレ社製:スチレン含有量18質量%、平均分子量8万、JIS A硬度67)が15質量%になるように、鉱物油、ポリαオレフィン、エステル油の3種類の潤滑油基油にそれぞれ混合し、50℃に加熱し撹拌したが、水素添加スチレン‐イソプレン‐スチレンブロック共重合体と潤滑油基油とが分離し、ロール処理できず、3種類の潤滑油基油いずれもグリース化できなかった。
【0038】
【化4】
但し、上記構造式SEPS中、l、m、nは、繰り返し数を表わす整数を表わす。
【0039】
[参考例2]
ペレット状の上記構造式SEPSで表される水素添加スチレン‐イソプレン‐スチレンブロック共重合体(セプトン2104、クラレ社製:スチレン含有量65質量%、平均分子量7万、JIS A硬度98)が15質量%になるように、鉱物油、ポリαオレフィン、エステル油の3種類の潤滑油基油にそれぞれ混合し、50℃に加熱し撹拌したが、水素添加スチレン‐イソプレン‐スチレンブロック共重合体と潤滑油基油とが分離し、ロール処理できず、3種類の潤滑油基油いずれもグリース化できなかった。
【0040】
[参考例3]
パウダー状の下記構造式SEEPSで表される水素添加スチレン‐ポリ(エチレンイソプレン)ブロック‐スチレンブロック共重合体(セプトン4033、クラレ社製:スチレン含有量30質量%、平均分子量7万、JIS A硬度76)が15質量%になるように、鉱物油、ポリαオレフィン、エステル油の3種類の潤滑油基油にそれぞれ混合し、50℃に加熱し撹拌したが、水素添加スチレン‐ポリ(エチレンイソプレン)ブロック‐スチレンブロック共重合体と潤滑油基油とが分離し、ロール処理できず3種類の潤滑油基油いずれもグリース化できなかった。
【0041】
【化5】
但し、上記構造式SEEPS中、i、k、l、m、nは、繰り返し数を表わす整数を表わす。
【0042】
[参考例4]
パウダー状の下記構造式SEBSで表される水素添加スチレン-ポリ(エチレンブチレン)ブロック‐スチレンブロック共重合体(セプトン8004、クラレ社製:スチレン含有量31質量%、平均分子量9万、JIS A硬度80)が15質量%になるように、鉱物油、ポリαオレフィン、エステル油の3種類の潤滑油基油にそれぞれ混合し、50℃に加熱し撹拌したが、水素添加スチレン-ポリ(エチレンブチレン)ブロック‐スチレンブロック共重合体と潤滑油基油とが分離し、ロール処理できず3種類の潤滑油基油いずれもグリース化できなかった。
【0043】
【化6】
但し、上記構造式SEBS中、i、k、l、m、nは、繰り返し数を表わす整数を表わす。
【0044】
[比較例1]
増ちょう剤として、リチウム石鹸が15質量%になるように、鉱物油、ポリαオレフィン、エステル油の3種類の潤滑油基油にそれぞれ混合し、200℃に加熱撹拌し、冷却した後、ロール処理して3種類のグリース組成物を得た。
【0045】
[比較例2]
ウレア系増ちょう剤が15質量%になるように、鉱物油、ポリαオレフィン、エステル油の3種類の潤滑油基油にて、それぞれ一級アミンとジイソシアネートとを反応させ、加熱分散し冷却した後、ロール処理して3種類のグリース組成物を得た。
【0046】
<評価>
ASTM D 1831規格のシェルロール法により、実施例1、2、比較例1、2のグリース組成物の室温(25℃)での不混和ちょう度の変化を測定した。
実施例1については、水を30%混入させたときのちょう度変化についても測定した。
評価結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
本発明のグリース組成物は、100時間後においても付着性、粘りを示していた。
また、表1から、本発明のグリース組成物は、増ちょう剤として金属石鹸などを用いたグリース組成物に比して長期に亘りちょう度変化が小さく高耐久であることから、密封潤滑部などに好適に使用できることがわかる。