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特許7075894虚血を有する患者の診断およびリスク層別化のための方法およびキット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】虚血を有する患者の診断およびリスク層別化のための方法およびキット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20220519BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 W
【請求項の数】 34
(21)【出願番号】P 2018554391
(86)(22)【出願日】2017-04-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-20
(86)【国際出願番号】 EP2017058768
(87)【国際公開番号】W WO2017178521
(87)【国際公開日】2017-10-19
【審査請求日】2020-04-09
(31)【優先権主張番号】16382167.1
(32)【優先日】2016-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518360014
【氏名又は名称】フンダシオ インスティトゥト デ レセルカ デ ロスピタル デ ラ サンタ クレウ イ サン パウ
【氏名又は名称原語表記】FUNDACIO INSTITUT DE RECERCA DE L’HOSPITAL DE LA SANTA CREU I SANT PAU
(73)【特許権者】
【識別番号】508157886
【氏名又は名称】コンセジョ スペリオール デ インベスティガショネス シエンティフィカス
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】バディモン マエストロ、リナ
(72)【発明者】
【氏名】クベド ラフォルス、フディト
(72)【発明者】
【氏名】パドロ カプマニ、テレサ
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/098645(WO,A1)
【文献】特開2012-107932(JP,A)
【文献】Judit Cubedo et al.,Proteomic Signature of Apolipoprotein J in the Early Phase of New-Onset Myocardial Infarction,Journal of Proteome Research,2011年,Vol.10, No.1,pp.211-220
【文献】Mary Ann Comunale et al.,Novel Changes in Glycosylation of Serum Napo-J in Patients with Hepatocellular Carcinoma,Cancer Epidemiology, Biomarkers and Prevention,2011年,Vol.20, No.6,pp.1222-1229
【文献】Atsushi Matsuda et al., Lectin Microarray-Based Sero-Biomarker Verification Targeting Aberrant OLinked Glycosylation on Mucin 1,Analytical Chemistry,2015年,Vol.87,pp.7274-7281
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の虚血または虚血性組織障害を判定するインビトロ方法であって、前記被験体のサンプル中で、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むグリコシル化アポJのレベルまたはN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJのレベルを測定することを含み、ここで、参照値に対するN-アセチルグルコサミン残基を含むアポJのレベルの低下または参照値に対するN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むアポJのレベルの低下が、被験体が虚血または虚血性組織障害に罹患していることの指標となることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記虚血が、心筋虚血または脳虚血である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記心筋虚血が、急性心筋虚血または微小血管性狭心症である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記脳虚血が、脳卒中である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記被験体が、虚血性イベントに罹患した疑いがある、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記測定を、疑わしい虚血性イベントの発症後最初の6時間以内に、少なくとも1つの壊死マーカーのレベルが上昇する前に、または前記疑わしい虚血性イベントに対して任意の処置を被験体が受け入れる前に実施する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
血性イベントに罹患した被験体の虚血の進行を予測するインビトロ方法または虚血性イベントに罹患した被験体の予後を判定するインビトロ方法であって、前記被験体のサンプル中で、グリコシル化アポJのレベルを測定することを含み、ここで、参照値に対するグリコシル化アポJのレベルの低下が、前記虚血が進行中であるか、または前記被験体の予後不良の指標となることを特徴とする、方法
【請求項8】
前記グリコシル化アポJが、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むグリコシル化アポJまたはN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記虚血性イベントが、心筋虚血性イベントである、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記心筋虚血性イベントが、ST上昇心筋梗塞である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記被験体の予後が、6ヶ月の再発のリスク、院内死亡のリスクまたは6ヶ月の死亡のリスクとして判定される、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
安定冠動脈疾患に罹患している被験体が再発虚血性イベントに罹患するリスクを判定するインビトロ方法であって、前記被験体のサンプル中で、グリコシル化アポJのレベルを測定することを含み、ここで、参照値に対するグリコシル化アポJのレベルの低下が、前記被験体が再発虚血性イベントに罹患するリスクが高いことを示す指標となることを特徴とする、方法。
【請求項13】
前記グリコシル化アポJが、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むグリコシル化アポJまたはN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記安定冠動脈疾患に罹患している被験体が、該安定冠動脈疾患の前に急性冠動脈症候群に罹患していた、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記再発虚血性イベントが、急性冠動脈症候群、脳卒中または一過性脳虚血性イベントである、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むグリコシル化アポJのレベルが、Datura stramoniumレクチンに特異的に結合することができるアポJのレベルに対応するか、または前記N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJのレベルが、Triticum vulgarisレクチンに特異的に結合することができるアポJのレベルに対応する、請求項1~6、8、13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記サンプルが、生物流体である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記生物流体が、血漿または血清である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
虚血性イベントに罹患した被験体の虚血の進行を判定するための、虚血性イベントに罹患した被験体の予後のための、または安定冠動脈疾患に罹患している被験体が再発虚血性イベントに罹患するリスクを判定するための、前記被験体の虚血または虚血性組織障害の診断のための、
a.N-アセチルグルコサミンおよびシアル酸から選択されるグリカン残基に特異的に結合するレクチンである第1の試薬と、
b.アポJポリペプチドに特異的に結合することができる第2の試薬と
を含み、前記第1の試薬が固定化されている、キット。
【請求項20】
前記レクチンが、Triticum vulgaris由来のレクチンまたはDatura stramonium由来のレクチンまたはそれらの組み合わせ物である、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
前記第2の試薬が、その抗原結合領域を含む抗体またはその断片である、請求項19または20に記載のキット。
【請求項22】
前記第2の試薬が、標識を含む、請求項19~21のいずれか一項に記載のキット。
【請求項23】
前記標識が、その化学的、電気的または磁気的特性の少なくとも1つの変化によって検出され得る、請求項22に記載のキット。
【請求項24】
前記第2の試薬に特異的に結合することができる第3の試薬をさらに含む、請求項19~21のいずれか一項に記載のキット。
【請求項25】
前記第3の試薬が、その抗原結合領域を含む抗体またはその断片である、請求項24に記載のキット。
【請求項26】
前記N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むグリコシル化アポJのレベルまたは前記N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJのレベルを、請求項19~25のいずれか一項に定義されるキットを用いて測定する、請求項1~6、8、13、16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むグリコシル化アポJのレベルまたは前記N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJのレベルを、
サンプル中のグリコシル化アポJを測定する方法を用いて測定する、請求項1~6、8、13、16のいずれか一項に記載の方法であって、
前記サンプル中のグリコシル化アポJを測定する方法が、
(i)前記サンプルを、グリコシル化アポJ中に存在するグリカン残基に特異的に結合するレクチンと、前記サンプル中のグリコシル化アポJとレクチンとの間の複合体の形成に適した条件下で接触させるステップと、
(ii)前記レクチンおよび前記グリコシル化アポJを含む複合体の量を検出するステップと
を含み、前記グリカン残基に特異的に結合するレクチンが、固定化されていることを特徴とし、
前記ステップ(i)で用いられるレクチンが、N-アセチルグルコサミンに特異的に結合するレクチン、またはN-アセチルグルコサミンおよびシアル酸に特異的に結合するレクチンである、方法。
【請求項28】
前記N-アセチルグルコサミンに特異的に結合するレクチンが、Datura stramonium由来のレクチンであり、または前記N-アセチルグルコサミンおよびシアル酸に特異的に結合するレクチンがTriticum vulgaris由来のレクチンである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記ステップ(ii)における複合体が、アポJポリペプチドに特異的に結合する試薬を用いて検出される、請求項27~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記アポJポリペプチドに特異的に結合する試薬が、その抗原結合領域を含む抗体またはその断片である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記抗体が、検出可能な標識に結合される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記標識が、その化学的、電気的または磁気的特性の少なくとも1つの変化によって検出され得る、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記検出が、前記アポJポリペプチドに特異的に結合する試薬に特異的に結合することができる試薬を用いて実施される、請求項27~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記アポJポリペプチドに特異的に結合する試薬に特異的に結合することができる前記第3の試薬が、その抗原結合領域を含む抗体またはその断片である、請求項33に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心筋虚血または脳虚血またはそれに関連する組織虚血性障害を有する個体の予後、診断およびリスク層別化のための、ならびに安定冠動脈疾患(CAD)を有する個体における再発虚血性イベントを提示するためのバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
急性冠動脈症候群(ACS)および脳血管イベントは、アテローム血栓症の最も頻繁な臨床症状であり、世界中の死亡および障害の主要な原因である。早期の血管再生の重要性から、ならびに死亡および/または生活の質低下のリスクが高いため、早期診断が不可欠である。このような状況において、バイオマーカーは、ACSの疑いのある患者の診断、トリアージ、リスク層別化、および管理のための臨床評価を補完し、虚血性対出血性脳卒中を区別するための重要なツールとなる。これらのバイオマーカーは、病理学的プロセスに関する情報を提供し、より複雑で高価な診断技術(特に磁気共鳴など)に取って代わるものとなるべきである。
【0003】
実際に、心臓虚血性イベント(呼吸器または筋肉病変による痛み)と同様の症状の苦しい、非心臓性の問題から、救急救命室に運ばれる率が高い。脳血管疾患の場合、出血性対虚血性脳卒中の判別指標を有することが緊急に必要であり、それにより患者管理が適切かつ迅速に開始され得る。
【0004】
したがって、虚血の早期に特異的かつ高感度に検出するための新しいバイオマーカーを同定することへの未解決の希求が存在する。これまでは、炎症、心機能および壊死のマーカーが研究されてきた。しかしながら、それらの測定が虚血性症候群の診断および予後に有用かどうかは明らかではない。虚血性臓器障害は、通常、組織壊死に先立ち、時機を得て検出された場合、逆転する可能性がある。虚血の正確で早期の検出のための既存のマーカーのこの欠如は、世界中の不必要な経済コストの上昇を招く。
【0005】
現在、急性冠動脈症候群(ACS)の診断および管理は、臨床評価、心電図所見およびトロポニン値(受け入れられたバイオマーカーの唯一の群)に基づいている。このプロトコルの適用にはいくつかの制限が伴うことから、心筋虚血を有する患者を管理するための新しいバイオマーカーの調査が不可欠である。第1の欠点は、心筋トロポニン(cTn)が、心筋病変の進行段階である不可逆的な壊死(細胞死)のマーカーであることである。さらに、高感度cTnアッセイ(hs-cTn)は、ある種の非特異性を明かしている。加えて、現行のガイドラインでは、急性胸痛を有する患者の適切なトリアージを行うために連続的なhs-cTn測定を行う必要性が強調されている。
【0006】
アポリポタンパク質J(アポJ)のアイソフォームの分布プロファイルのシフトに基づいて虚血性組織障害を検出する方法は、WO2011098645号およびCubedo、J.,et al.,(J.Proteome Res.,2011,10:211-220)に記載されている。これらの研究では、アポJアイソフォームの2つの異なる群であるアポJ-15およびアポJ-29が、二次元電気泳動とその後の質量分析によって同定されていた。これらのアポJ形態は、組織傷害、特にAMIによる心臓障害と関連していた。虚血性障害では、虚血性イベントの適時かつ正確な検出が、組織の不可逆的傷害を引き起こし得るその進行を防止するために重要である。このシナリオでは、アポJ分布プロファイルの変化を測定するための二次元電気泳動とその後の質量分析に基づく方法論は、それらがあまりにも複雑で、時間がかかり、虚血の診断に使用するのに費用がかかるため、臨床診療において使用することができなかった。
【0007】
したがって、特に、血管障害およびAMIの検出のための改良された方法が当技術分野で必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
第1の態様において、被験体の虚血もしくは虚血性組織障害を診断する方法であって、前記被験体のサンプル中で、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むグリコシル化アポJのレベルまたはN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJのレベルを測定することを含む方法、または被験体の虚血または虚血性組織障害を診断する方法であって、前記被験体のサンプル中で、Datura stramonium(シロバナヨウシュチョウセンアサガオ)レクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJのレベルまたはTriticum vulgaris(小麦胚芽)レクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJのレベルを測定することを含む方法に関する。
【0009】
第2の態様において、本発明は、虚血性イベントに罹患した患者の虚血の進行を予測する方法または虚血性イベントに罹患した患者の予後を判定する方法であって、前記患者のサンプル中で、グリコシル化アポJのレベルを測定することを含み、ここで、参照値に対するグリコシル化アポJのレベルの低下が、虚血が進行中であるか、または患者の予後不良の指標となる方法に関する
【0010】
別の態様において、本発明は、安定冠動脈疾患に罹患している患者が再発虚血性イベントに罹患するリスクを判定する方法であって、前記患者のサンプル中で、グリコシル化アポJのレベルを測定することを含み、ここで、参照値に対するグリコシル化アポJのレベルの低下が、患者が再発虚血性イベントに罹患するリスクが高いことを示す指標となる方法に関する。
【0011】
別の態様において、本発明は、
a.N-アセチルグルコサミンおよびシアル酸から選択されるグリカン残基に特異的に結合するレクチンである第1の試薬と、
b.アポJポリペプチドに特異的に結合することができる第2の試薬と
を含むキットに関する。
【0012】
別の態様において、本発明は、虚血性イベントに罹患した患者の虚血の進行を判定するための、虚血性イベントに罹患した患者の予後のための、または安定冠動脈疾患に罹患している患者が再発虚血性イベントに罹患するリスクを判定するための、患者の虚血または虚血性組織障害の診断のための本発明によるキットに関する。
【0013】
さらに別の態様において、本発明は、サンプル中のグリコシル化アポJを測定する方法であって、
(i)サンプルをグリコシル化アポJ中に存在するグリカン残基に特異的に結合するレクチンと、サンプル中のグリコシル化アポJとレクチンとの間の複合体の形成に適した条件下で接触させるステップと、
(ii)レクチンおよびグリコシル化アポJを含む複合体の量を検出するステップと
を含む、方法に関する
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】アポJ 2-DEプロファイル。対照およびAMI前の虚血(Ischemia pre-AMI)血清サンプル由来の2-DEゲル中のアポJクラスターの代表的パターンを示す図である。血清中のアポJは、pI範囲4.5~5.0および分子量37.1~47.3kDaの13個のスポットのクラスターとして検出された。アポJと同定されたスポットは、酸性pHから塩基性pHまでナンバリングした。スポット2は、AMI前の虚血患者においてのみ明らかであった。1、3、7、8、10、11、13とマークされたスポットは、AMI前の虚血において検出レベルが向上したが、スポット6および9は、対照群と比較して、AMI前の虚血ゲルにおいて強度の減少を示した。スポット3、7、8および11は、アポJ-29であり、スポット6および9は、アポJ-15である。
図2】グリコシル化アポJ形態。(A)健常ドナーおよび(B)AMI前の虚血患者由来のグリコシル化血清画分(コンカバリンAとTriticum vulgarisレクチンの混合物へのその結合により単離された)中のアポJクラスターの代表的な2-DE画像を示す図である。pIおよびMWについて全血清のそれらに対応する6つのスポット(1、2、4、5、8および11)が検出された。図1と同様に、スポットは、酸性pHから塩基性pHまでナンバリングした。アポJスポットの強度は、対照においてよりもAMI前の虚血患者において低かった。この減少は、スポット4および8においてより明白であった。
図3】O-グリコシル化アポJ形態。O-グリコシル化血清画分(Artocarpus integrifolia(パラミツ)レクチンへのその結合により単離された)中のアポJクラスターの代表的な2-DE画像を示す図である。pIおよびMWについて全血清のそれらに対応する9つのスポット(1、3、4、6、7、8、9、11および12)が検出された。図1および図2と同様に、スポットは、酸性pHから塩基性pHまでナンバリングした。
図4】アポJグリコシル化形態の存在度。新規および元のイムノアフィニティー酵素-グリコシル化アッセイまたはEGAを用いた特異的測定による、ヒト血漿サンプル中の異なるアポJグリコシル化形態の存在度を示す棒グラフを示す図である。
図5】診断値。(A)虚血の初期段階(N=38)および健常被験体(N=144)のアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルを示すボックスプロットを示す図である。(B)曲線下面積(AUC)0.934(P<0.0001)およびカットオフ値332μg/mL(感度97%および特異度71%)でアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルの心筋虚血の存在についての診断値を示す受信者動作曲線(ROC)を示す図である。
図6】STEMI患者の診断値。(A)入院時のSTEMI患者(N=212)および健常被験体(N=144)のアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルを示すボックスプロットを示す図である。(B)曲線下面積(AUC)0.713(P<0.0001)およびカットオフ値409μg/mL(感度80%および特異度53%)でアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルの虚血の存在についての判別値を示す受信者動作曲線(ROC)を示す図である。(C)入院時のSTEMI患者(N=340)および健常被験体(N=139)のアポJ-GlcNAcレベルを示すボックスプロットを示す図である。(D)曲線下面積(AUC)0.830(P<0.0001)およびカットオフ値393μg/mL(感度81%および特異度72%)でアポJ-GlcNAcレベルの虚血の存在についての判別値を示す受信者動作曲線(ROC)を示す図である。
図7】虚血の進行。(A)入院時および虚血時間におけるアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベル間の逆相関および有意相関を示す回帰プロットを示す図である。(B)入院3日後(t=72時間)の82人のSTEMI患者のアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルの進行性低下を示すボックスプロットを示す図である。(C)入院時および虚血時間におけるアポJ-GlcNAcレベル間の逆相関および有意相関を示す回帰プロットを示す図である。
図8】予後診断値。入院時のアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルの有意差を示すBox-Plotを、(A)院内死亡率および6ヶ月の死亡率に直接関係することが知られている最終的なTIMIフローグレードに対してと、(B)STEMIに罹患した後の予後不良に関連する心原性ショック(心原性ショックを有する65人の患者および無しの患者147人)の存在に対する、入院時のアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルの有意差を示すボックスプロットを示す図である。
図9】リスク層別化。(A)入院時のアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルとGRACEリスクスコアとの間の逆相関および有意相関を示す回帰プロットを示す図である。(B)GRACEリスクスコア最高値とSTEMI患者の入院3日後のアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルの減少との間の関連性を示すボックスプロットを示す図である。(C)入院時のアポJ-GlcNAcレベルとGRACEリスクスコアとの間の逆相関および有意相関を示す回帰プロットを示す図である。
図10】STEMI患者の6カ月間の追跡調査における再発イベントおよび死亡率。6ヶ月の追跡調査後の再発虚血性イベントの存在または死亡率に及ぼす入院時のアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAc(A)レベルおよびT トロポニン(B)レベル;ならびに入院時および死亡時のアポJ-GlcNAcレベル(C)または6ヶ月間の追跡調査後の再発虚血性イベントと死亡率(D)の組み合わせの影響を示すKaplan-Meier曲線を示す図である。
図11】アポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAc血漿レベルの予測値。(A)安定CAD患者のサンプル採取および追跡調査のタイミングを示すスキームを示す図である:患者は、サンプル採取の平均0.6±0.04年前に急性冠動脈症候群(ACS)に罹患し、2.3±0.3年後に追跡調査した。(B)再発イベントがなかった患者(N=18)と比較して、追跡調査時に虚血性再発イベントに罹患した慢性CAD患者(N=16)におけるアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルを示すボックスプロットを示す図である。(C)安定CAD患者の再発虚血性イベントを提示するためのアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルの予測値を示す受信者動作曲線(ROC)を示す図である。
図12】脳虚血におけるアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcの診断値。脳卒中患者(N=174)および健常被験体(N=164)におけるアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAc血漿レベルを示すボックスプロットを示す図である。
【発明の詳細な説明】
【0015】
虚血組織障害の診断方法
本発明者らは、虚血の初期段階におけるGlcNAc残基を含むアポJのレベル、またはGlcNAcおよびシアル酸(Neu5Ac)を含むアポJのレベルが、対照被験体において観察されたレベルに対して減少することを観察した。グリコシル化アポJのレベルと心臓虚血患者との間の相関関係は、既に記載されているが、この研究は、α-マンノース、α-グルコース(GlcNAc)およびNeu5Ac残基を含むグリカンに結合することができるレクチンの混合物を用いてグリコシル化アポJのレベルを測定することによって実施された。この方法は、対照被験体からの患者の判別に優先的に寄与するグリコシル化アポJの形態の同定を可能にしなかった。本発明者らは、対照サンプルからの虚血に罹患している患者からのサンプルの判別に優先的に寄与するアポJのグリコシル化形態を同定することができた。実際に、これまでの研究で本発明者らは、アポJ-29が、GlcNAc残基を含むアポJまたはGlcNAcおよびシアル酸(Neu5Ac)を含むアポJで起こることに反して、AMI前の虚血において増大したことを報告した。さらに、AMI前の虚血患者は、α-マンノース、α-グルコース、(GlcNAc)およびNeu5Ac残基を有する検出されたアポJの25%の減少を示したが、GlcNAc残基を含むアポJまたはGlcNAcおよびシアル酸(Neu5Ac)を含むアポJの特異的検出は、AMI前の虚血患者において45~50%の減少をもたらした。したがって、これらのグリコシル化形態のアポJの測定は、先行技術に記載された方法を用いて測定されたグリコシル化アポJ形態を用いて実施される診断に対して感度および特異度が増大した虚血の診断を可能にする。
【0016】
したがって、第1の態様において、本発明は、被験体の虚血または虚血性組織障害を診断する方法(以後、本発明の診断方法)であって、前記被験体のサンプル中で、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むグリコシル化アポJのレベルまたはN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJのレベルを測定することを含み、ここで、参照値に対するN-アセチルグルコサミン残基を含むアポJのレベルの低下または参照値に対するN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むアポJのレベルの低下は、患者が虚血または虚血性組織障害に罹患していることの指標となる、方法に関する。本発明はまた、被験体の虚血もしくは虚血性組織障害を診断する第2の方法であって、前記被験体のサンプル中で、Datura stramoniumレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJのレベルまたはTriticum vulgarisレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJのレベルを測定することを含み、ここで、参照値に対するDatura stramoniumレクチンに特異的に結合することができるアポJのレベルの低下またはTriticum vulgarisレクチンに特異的に結合することができるアポJのレベルの低下は、患者が虚血または虚血性組織障害に罹患していることの指標となる、方法に関する。
【0017】
本発明の診断方法は、関連する臓器または組織の不可逆的な壊死障害の前に(ACSの場合はトロポニンレベルとは無関係に)急性虚血性イベントの検出を可能にすることから、特に有利である。これは、イベントの発症後最初の6時間以内でさえ、虚血の存在についての診断値を提供する。
【0018】
本発明の文脈において、「診断」という用語は、本明細書に開示される方法を適用した場合に、心筋虚血または脳虚血またはそれに関連する虚血組織障害を有する患者からのサンプルと、この傷害および/または障害に罹患していない個体のサンプルとを判別する能力に関する。この検出は、当業者に理解されるように、全てのサンプルについて100%正確であることを意図するものではない。しかしながら、分析された統計的に有意な数のサンプルが正しく分類される必要がある。統計的に有意な量は、限定されるものではないが、例えば、信頼区間、p値測定、スチューデントのt検定およびフィッシャー判別関数の測定などの異なる統計ツールを用いることによって、現場の専門家によって設定され得る。好ましくは、信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または99%未満である。好ましくは、p値は、0.05、0.01、0.005または0.0001未満である。好ましくは、本発明は、試験された特定の群または母集団の被験体の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%において虚血または虚血性障害を正確に検出することができる。
【0019】
「虚血」という用語は、本明細書では「虚血性イベント」と同義的に用いられ、組織の器官への血流の減少または中断の結果生じる任意の状況を指す。虚血は、一時的または永続的であり得る。
【0020】
「虚血性組織障害」、「虚血性組織傷害」、「虚血による組織障害」、「虚血に関連する組織障害」および「虚血の結果としての組織障害」、「虚血に起因する組織障害」および「虚血性障害組織」という表現は、虚血期間の結果としての器官または組織または細胞に対する形態学的、生理学的および/または分子的障害を指す。
【0021】
1つの実施形態において、虚血に起因する障害は、心臓組織の障害である。さらにより好ましい実施形態において、心臓組織に対する障害は、心筋虚血に起因する。
【0022】
「心筋虚血」という用語は、冠動脈アテローム性動脈硬化症および/または心筋への酸素供給不足に起因する循環障害を指す。例えば、急性心筋梗塞は、心筋組織への不可逆的な虚血性傷害を表す。この傷害は、冠循環における閉塞(例えば血栓性または塞栓性)イベントをもたらし、心筋代謝要求が心筋組織への酸素の供給を超過する環境を作り出す。
【0023】
さらに別の実施形態において、障害は、微小血管性狭心症に起因する。本明細書で使用される「微小血管性狭心症」という用語は、小さな心臓血管を通る血流が不十分なことから生じる状態を指す。
【0024】
1つの実施形態において、虚血に起因する障害は、脳組織の障害である。別の実施形態において、脳組織への障害は、虚血性脳卒中に起因する。「虚血性脳卒中」という用語は、脳への閉塞または血管(その結果、脳への酸素が不足することになる)に起因する脳機能の突然の喪失を指し、これは、筋肉制御の喪失、感覚もしくは意識の低下もしくは消失、目眩、不明瞭な発話、または脳障害もしくは脳血管障害とも呼ばれる、脳への障害の程度および重症度によって変化する他の症状を特徴とする。「脳虚血」(または「脳卒中」)という用語はまた、脳への血液供給の欠乏を指し、しばしば脳への酸素不足をもたらす。
【0025】
「被験体」または「個体」または「動物」または「患者」という用語には、治療が望まれる任意の被験体、特に哺乳類被験体が含まれる。哺乳類被験体には、ヒト、家畜、農用動物、および動物園またはペット用の動物、例えばイヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、畜牛、ウシなどが含まれる。本発明の好ましい実施形態において、被験体は哺乳類である。本発明のより好ましい実施形態において、被験体はヒトである。
【0026】
本明細書で使用される「サンプル」または「生物学的サンプル」という用語は、被験体から単離された生物学的物質を指す。生物学的サンプルは、所与のタンパク質、例えばアポJのグリコシル化形態のレベルを検出するのに適した任意の生物学的物質を含む。サンプルは、例えば、血液、唾液、血漿、血清、尿、脳脊髄液(CSF)または糞便などの任意の適切な組織または生体液から単離することができる。本発明の特定の実施形態において、サンプルは、組織サンプルまたは生物流体である。本発明のより特定の実施形態において、生物流体は、血液、血清または血漿からなる群から選択される。
【0027】
好ましくは、アポJの異なるグリコシル化形態のレベルを測定するために使用されるサンプルは、測定が相対的に行われる場合の参照値の測定に使用されるのと同じタイプのサンプルである。一例として、GlcNAc残基を含むアポJまたはGlcNAcおよびシアル酸残基を含むアポJの測定が血漿サンプル中で実施される場合、血漿サンプルも参照値を測定するために使用される。サンプルが生物流体である場合、参照サンプルも同じタイプの生物流体液、例えば血清、血漿、脳脊髄液中で測定される。
【0028】
本明細書で使用される「アポJ」という用語は、「クラステリン」、「テストステロン抑制前立腺メッセージ」、「アポリポタンパク質J」、「補体関連タンパク質SP-40,40」、「補体細胞溶解阻害剤」、「補体溶菌阻害剤」、「硫酸化糖タンパク質」、「Ku70結合タンパク質」、「NA1/NA2」、「TRPM-2」、「KUB1」、「CLI」としても知られているポリペプチドを指す。ヒトアポJは、UniProtKB/Swiss-Protデータベース(エントリーバージョン187、2016年3月16日)の受託番号P10909で提供されるポリペプチドである。
【0029】
本明細書中で使用される「GlcNAc残基を含むアポJ」という用語は、少なくとも1つのグリカン鎖中に少なくとも1つのGlcNAc反復を含む任意のアポJ分子を指すが、アポJは、典型的には、少なくとも1つのN-アセチルグルコサミンを各グリカン鎖中に含む。「GlcNAc残基を含むアポJ」には、高マンノースN-グリカン、複合型N-グリカン、ハイブリッド型オリゴ糖N-グリカンまたはO-グリカン中に少なくとも1つのGlcNAc残基を含むアポJ分子が含まれる。N-グリカンのタイプに依存して、GlcNAcは、ポリペプチド鎖に直接的にまたはN-グリカンの末端位置に結合して見出され得る。
【0030】
「GlcNAc」または「N-アセチルグルコサミン」という用語は、酢酸によるグルコサミンのアミド化から得られ、下記の一般構造を有するグルコースの誘導体を指す:
【0031】
【化1】
【0032】
1つの実施形態において、GlcNAc残基を含むアポJは、GlcNAcの2つの残基を含み、本明細書では(GlcNAc)と称される。(GlcNAc)残基を含むアポJ分子には、(GlcNAc)が高マンノースN-グリカン、複合型N-グリカン、ハイブリッド型オリゴ糖N-グリカンまたはO-グリカン中に見出される分子が含まれる。N-グリカンのタイプに依存して、(GlcNAc)は、ポリペプチド鎖に直接的にまたはN-グリカンの末端位置に結合して見出され得る。
【0033】
好ましい実施形態において、GlcNAcまたは(GlcNac)残基を含むグリコシル化アポJのレベルは、Datura stramoniumreレクチンに特異的に結合することができるアポJのレベルとして定義される。
【0034】
「特異的結合」という用語は、レクチンがアポJのグリコシル化形態に結合することを指すために本発明において使用される場合、レクチンが、非特異的結合に対する実質的により高い親和性を有する2つの分子の3次元構造間の相補性の存在によりアポJのグリコシル化形態に特異的に結合する能力として理解され、ここで、前記レクチンとアポJのグリコシル化形態との間の結合は、反応混合物中に存在する他の分子に対する前記分子の任意の結合前に好ましくは行われる。この結果、レクチンがアポJ分子中に存在していても存在していなくてもよい他のグリカンと交差反応しない。調査の対象となっているレクチンの交差反応性は、例えば、従来の条件下で前記レクチンの対象とされるグリカンならびに多かれ少なかれ(構造的および/または機能的に)密接に関連する多数のグリカンへの結合を評価することによって試験することができる。レクチンが対象とされるグリカンに結合するものの、他のグリカンのいずれにも結合しないか、または本質的に結合しない場合にのみ、対象とされるグリカンに特異的であると考えられる。例えば、レクチンとグリコシル化アポJとの間の結合親和性が、10-6M未満、10-7M未満、10-8M未満、10-9M未満、10-10M未満、10-11M未満、10-12M未満、10-13M未満、10―14M未満または10-15M未満の解離定数(Kd)を有する場合に、結合は特異的であるとみなすことができる。
【0035】
好ましい実施形態において、「GlcNAc残基を含むアポJ」は、他のタイプのN-結合型またはO-結合型の炭水化物を実質的に含まない。1つの実施形態において、「GlcNAc残基を含むアポJ」は、N-結合型またはO-結合型のα-マンノース残基を含まない。別の実施形態において、「GlcNAc残基を含むアポJ」は、N結合型またはO結合型のα-グルコース残基を含まない。さらに別の実施形態において、「GlcNAc残基を含むアポJ」は、N-結合型もしくはO-結合型のα-マンノース残基またはN-結合型もしくはO-結合型のα-グルコース残基を含まない。
【0036】
本明細書で使用される「GlcNAcおよびシアル酸残基を含むアポJ」という用語は、そのグリカン鎖中に少なくとも1つのN-アセチルグルコース反復および少なくとも1つのシアル酸残基反復を含む任意のアポJ分子を指す。
【0037】
本明細書で使用される「シアル酸」という用語は、N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)として知られ、下記の一般構造を有する単糖類を指す:
【0038】
【化2】
【0039】
1つの実施形態において、アポJは、GlcNAcの2つの残基および1つのシアル酸残基を含む(以下、(GlcNAc)-Neu5Acと称される)。別の実施形態において、GlcNAcおよびシアル酸残基は、1つ以上の単糖類によって結合される。
【0040】
1つの実施形態において、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJのレベルは、Triticum vulgarisレクチンに特異的に結合することができるアポJのレベルに対応する。
【0041】
好ましい実施形態において、「GlcNAcおよびシアル酸残基を含むアポJ」は、他のタイプのN-結合型またはO-結合型炭水化物を実質的に含まない。1つの実施形態において、「GlcNAcおよびシアル酸残基を含むアポJ」は、N-結合型またはO-結合型のα-マンノース残基を含まない。別の実施形態において、「GlcNAcおよびシアル酸残基を含むアポJ」は、N-結合型またはO-結合型のα-グルコース残基を含まない。さらに別の実施形態において、「GlcNAcおよびシアル酸残基を含むアポJ」は、N-結合型もしくはO-結合型のα-マンノース残基またはN-結合型もしくはO-結合型のα-グルコース残基を含まない。
【0042】
好ましい実施形態において、「T.vulgarisレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJ」は、少なくとも1つのシアル酸残基または少なくとも1つのGlcNAc残基を含むアポJの任意のグリコシル化形態に対応し、これには、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むが、シアル酸残基を含まないアポJ、(GlcNAc)残基を含むが、シアル酸残基を含まないアポJ、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むアポJ、(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むアポJならびにシアル酸残基を含むが、(GlcNAc)または(GlcNAc)残基を含まないアポJが含まれる。(GlcNAc)残基および(GlcNAc)残基は、シアル酸残基と同じグリカン鎖中に見出され得ることが理解されよう。あるいは、シアル酸残基は、(GlcNAc)残基または(GlcNAc)残基を含まないグリカン鎖に見出され得る。
【0043】
好ましい実施形態において、「D.stramoniumレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJ」は、少なくとも1つのGlcNAc残基を含むアポJの任意のグリコシル化形態に対応し、これには、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むアポJおよび(GlcNAc)残基を含むアポJが含まれる。
【0044】
N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むグリコシル化アポJのレベルに関連した「減少したレベル」または「低レベル」という用語は、参照値よりも低いサンプル中のN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むアポJの任意の発現レベルに関する。したがって、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むアポJの発現レベルは、それが参照値よりも少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、またはそれよりも低い場合に、その参照値よりも減少しているかもしくは低いと見なされる。
【0045】
N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJのレベルに関連した「レベルの低下」または「低レベル」という用語は、参照値よりも低いサンプル中のN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むアポJの任意の発現レベルに関する。したがって、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むアポJの発現レベルは、それが参照値よりも少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、またはそれよりも低い場合に、その参照値よりも減少しているかもしくは低いと見なされる。
【0046】
T.vulgarisレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJのレベルに関連した「レベルの低下」または「低レベル」という用語は、参照値よりも低いサンプル中のT.vulgarisレクチンに特異的に結合することができるアポJの任意の発現レベルに関する。したがって、T.vulgarisレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJの発現レベルは、それが参照値よりも少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、またはそれよりも低い場合に、その参照値よりも減少しているかもしくは低いと見なされる。
【0047】
D.stramoniumレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJのレベルに関連した「レベルの低下」または「低レベル」という用語は、参照値よりも低いサンプル中のD.stramoniumレクチンに特異的に結合することができるアポJの任意の発現レベルに関する。したがって、D.stramoniumレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJの発現レベルは、それが参照値よりも少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、またはそれよりも低い場合に、その参照値よりも減少しているかもしくは低いと見なされる。
【0048】
本発明の診断方法は、研究の対象となっている被験体において得られたレベルを参照値と比較することを含み、それによって、参照値に対するN-アセチルグルコサミン残基を含むアポJのレベルの低下、または参照値に対するN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むアポJのレベルの低下は、患者が虚血または虚血性組織障害に罹患していることの指標となる。あるいは、本発明の診断方法は、研究の対象となっている被験体において得られたレベルを参照値と比較することを含み、それによって、参照値に対するD.stramoniumレクチンに結合することができるアポJのレベルの低下、または参照値に対するT.vulgarisレクチンに結合することができるアポJのレベルの低下は、患者が虚血または虚血性組織障害に罹患していることの指標となる。
【0049】
本明細書で使用される「参照値」という用語は、被験体から採取されたサンプルから得られた値またはデータを評価するための参照として使用される所定の基準に関する。参照値または参照レベルは、絶対値;相対値;上限値または下限値を持つ値;値の範囲;平均値;中央値;算術平均値;または特定の対照値またはベースライン値と比較した値であってよい。参照値は、例えば、試験されている被験体からのサンプルから得られた値などの個々のサンプル値に基づくことができるが、より早い時点で得られた値であってもよい。参照値は、実年齢にマッチさせた群の被験体の母集団などの多数のサンプルに基づくか、または試験されるサンプルを含むもしくは除外するサンプルのプールに基づくことができる。1つの実施形態において、参照値は、健常被験体において測定されたGlcNAc残基を含むアポJのレベル、GlcNAcおよびシアル酸(Neu5Ac)を含むアポJのレベル、T.vulgarisレクチンに特異的に結合することができるアポJのレベルまたはD.stramoniumレクチンに特異的に結合することができるアポJのレベルに対応し、健常被験体とは、GlcNAc残基を含むアポJのレベル、GlcNAcおよびシアル酸(Neu5Ac)を含むアポJのレベル、T.vulgarisレクチンに特異的に結合することができるアポJのレベルまたはD.stramoniumレクチンに特異的に結合することができるアポJのレベルの測定時に虚血性組織障害を示さず、好ましくは虚血性障害の病歴を示さない被験体のことを意味する。
【0050】
別の実施形態において、参照値は、臨床的な観点から十分に文書で証明されており、病気を示さず、虚血性組織障害に罹患していない、特に虚血性心筋障害または虚血性脳障害に罹患していない患者の群から得られたサンプルのプールから測定された、対応するバイオマーカーの平均レベルまたは算術平均レベルに対応する。前記サンプル中で、発現レベルの測定は、例えば、参照母集団における平均発現レベルの測定によって行うことができる。参照値の測定には、患者の年齢、性別、身体状態または他の特徴などの、サンプルのタイプのいくつかの特徴を考慮する必要がある。例えば、参照サンプルは、母集団が統計的に有意であるように、少なくとも2、少なくとも10、少なくとも100~1000を超える個体の同一量の群から得ることができる。
【0051】
本発明の診断方法による患者の診断のために使用される参照値は、診断において考慮されるマーカーと同じタイプのサンプルおよび同じバイオマーカーから得られた値であると理解されよう。したがって、診断方法が、GlcNAcまたは(GlcNAc)を含むグリコシル化アポJのレベルを測定することによって実施される場合、診断に使用される参照値は、場合によっては健常被験体または上記で定義されるサンプルのプールから得られたGlcNAc残基または(GlcNAc)を含むグリコシル化アポJの発現レベルでもある。別の実施形態において、診断方法が、GlcNAcおよびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJのレベルを測定することによって実施される場合、診断に使用される参照値は、上述のようにして得られるN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJの発現レベルでもある。別の実施形態において、D.stramoniumレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJのレベルを測定することによって診断方法が実施される場合、診断に使用される参照値は、上述のようにして得られるD.stramoniumレクチンに特異的に結合するグリコシル化アポJの発現レベルでもある。別の実施形態において、T.vulgarisレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJのレベルを測定することによって診断方法が実施される場合、診断に使用される参照値は、上述のようにして得られるT.vulgarisレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJの発現レベルでもある。
【0052】
別の実施形態において、心筋組織障害を診断するためにバイオマーカーが測定される場合、参照値は、心筋組織障害を示さず、好ましくは心筋組織障害に罹患している記録を持たない健常被験体からの同じバイオマーカーのレベルになるであろう。参照値が、被験体からのサンプルのプールから得られたのと同じバイオマーカーの平均レベルである場合、サンプルのプールを準備する元となる被験体は、心筋組織障害を示さず、好ましくは心筋組織障害に罹患している記録を持たない被験体である。
【0053】
別の実施形態において、脳組織障害を診断するためにバイオマーカーが測定される場合、参照値は、脳組織障害を示さず、好ましくは脳組織障害に罹患している記録を持たない健常被験体からの同じバイオマーカーのレベルになるであろう。参照値が、被験体からのサンプルのプールから得られたのと同じバイオマーカーの平均レベルである場合、サンプルプーを得る元となる被験体は、脳組織障害を示さず、好ましくは脳組織障害に罹患している記録がない被験体である。
【0054】
本発明の診断方法において使用される参照値は、所望の特異度および感度を得るために最適化することができる。
【0055】
1つの実施形態において、心筋虚血の診断に使用される参照値は、97%の感度および71%の特異度が所望される場合、332μg/mlのアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcもしくは393μg/mLのアポJ-GlcNAcであり、81%の感度および72%の特異度が所望される場合、393μg/mlのアポJ-GlcNAcである(すなわち、本発明による診断方法は、患者が332μg/ml未満のアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcを示す場合、97%の感度および71%の特異度で、または患者が393μg/ml未満のアポJ-GlcNAcを示す場合、81%の感度および72%の特異度で心筋虚血の診断を可能にする)。
【0056】
別の実施形態において、脳虚血の診断に使用される参照値は、66%の感度および51%の特異度が所望される場合、424μg/mLのアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcである(すなわち、本発明による診断方法は、患者が424μg/mL未満のアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcを示す場合、66%の感度および51%の特異度で脳虚血の診断を可能にする)。
【0057】
1つの実施形態において、心筋虚血の診断に使用される参照値は、97%の感度および71%の特異度が所望される場合、T.vulgarisレクチンに結合することができる332μg/mlのアポJであるか、または81%の感度および72%の特異度が所望される場合、D.stramoniumレクチンに結合することができる393μg/mlのアポJである(すなわち、本発明による診断方法は、患者がT.vulgarisレクチンに結合することができる332μg/ml未満のアポJを示す場合、97%の感度および71%の特異度で、または患者がD.stramoniumレクチンに結合することができる393μg/ml未満のアポJを示す場合、81%の感度および72%の特異度で心筋虚血の診断を可能にする)。
【0058】
別の実施形態において、脳虚血の診断に使用される参照値は、66%の感度および51%の特異度が所望される場合、T.vulgarisレクチンに結合することができる424μg/mLのアポJである(すなわち、本発明による診断方法は、患者がT.vulgarisレクチンに結合することができる424μg/mL未満のアポJを示す場合、66%の感度および51%の特異度で脳虚血の診断を可能にする)。
【0059】
好ましい実施形態において、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を含むグリコシル化アポJのレベル、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJのレベル、D.stramoniumレクチンに特異的に結合することができるアポJのレベルまたはT.vulgarisレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJのレベルは、壊死マーカーの検出可能な増大がサンプル中で検出される前に実施される。好ましい実施形態において、壊死マーカーは、T-トロポニンまたはCKのいずれかである。さらに別の実施形態において、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を含むグリコシル化アポJのレベル、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJのレベル、D.stramoniumレクチンに特異的に結合することができるアポJのレベルまたはT.vulgarisレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJのレベルの測定は、虚血障害の症状発症から1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、12時間、14時間、16時間、18時間、20時間、30時間、40時間、50時間またはそれ以上の時間内に得られたサンプル中で実施される。好ましい実施形態において、心筋虚血性障害の場合、症状は、通常、胸痛、息切れ、発汗、衰弱、立ち眩み、軽症、悪心、嘔吐および動悸である。1つの実施形態において、患者はAMI前の患者である。
【0060】
別の好ましい実施形態において、脳虚血性障害の場合、虚血性障害の症状は、限定されるものではないが、嗅覚、味覚、聴覚もしくは視覚の変化、眼瞼下垂または眼筋の衰弱、反射の低下:催吐、嚥下、光に対する瞳孔反応性、感覚の低下および顔の筋力低下、バランス問題および眼振、失語症、失行症(随意運動の変化)、視野欠損、口先弁別症、記憶障害、顔面紅潮、混乱した思考、混乱、口先弁別症、記憶障害、顔面紅潮、思考の混乱、錯乱、性欲亢進行動(前頭葉の関与を伴う)、通常は脳卒中に関連した洞察力の欠如、能力障害、歩行運動の変化、運動協調性の変化、眩暈または平衡感覚異常である。
【0061】
別の実施形態において、本発明の診断方法によるアポJのグリコシル化形態のレベルの測定は、虚血を軽減することまたは虚血性組織障害を軽減することを目的とする任意の薬剤が患者に投与される前に得られた患者のサンプル中で実施される。1つの実施形態において、心筋組織障害の場合、アポJのグリコシル化形態のレベルの測定は、患者がスタチン、抗血小板剤および/または抗凝固剤で治療される前に得られた患者のサンプル中で実施される。
【0062】
1つの実施形態において、脳組織障害の場合、アポJのグリコシル化形態のレベルの測定は、患者が組織プラスミノーゲンアクチベーター、抗血小板剤および/または抗凝固剤で治療される前に得られた患者のサンプル中で実施される。
【0063】
虚血性障害に罹患した患者の予後方法
本発明者らは、意外にも、グリコシル化アポJのレベルは、進行中の虚血性イベントの検出のためだけでなく、虚血性イベントに罹患した患者の予後についても有用であることも見出した。
【0064】
したがって、別の態様において、本発明は、虚血性イベントに罹患した患者の虚血の進行を予測する方法(以下、本発明の予後診断方法)または虚血性イベントに罹患した患者の予後を判定するための方法であって、前記患者のサンプル中で、グリコシル化アポJのレベルを測定することを含み、ここで、参照値に対するグリコシル化アポJのレベルの低下は、虚血が進行中であるか、または患者の予後不良の指標となる、方法に関する。
【0065】
本発明の文脈において、「進行を予測する」という用語は、本明細書に開示される方法を適用した場合に、虚血またはそれに関連する虚血組織障害に罹患した後の疾患の経過を予測する能力に関する。この検出は、当業者に理解されるように、全てのサンプルについて100%正確であることを意図するものではない。しかしながら、分析された統計的に有意な数のサンプルが正しく分類される必要がある。統計的に有意な量は、以下のものに限定されるものではないが、例えば、信頼区間、p値測定、スチューデントのt検定およびフィッシャー判別関数の測定などの異なる統計ツールを用いることによって、現場の専門家によって設定され得る。好ましくは、信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または99%未満である。好ましくは、p値は、0.05、0.01、0.005または0.0001未満である。好ましくは、本発明は、試験された特定の群または母集団の被験体の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%において虚血または虚血性障害を正確に検出することができる。
【0066】
本発明の文脈において、「予後を判定する」という用語は、「予後」と同義的に用いられ、本明細書に開示される方法を適用した場合に、心筋虚血もしくは脳虚血またはそれに関連する虚血組織障害に罹患した後の患者の結果を予測する能力に関する。この検出は、当業者に理解されるように、全てのサンプルに対して100%正確であることを意図するものではない。しかしながら、分析された統計的に有意な数のサンプルが正しく分類される必要がある。統計的に有意な量は、以下のものに限定されるものではないが、例えば、信頼区間、p値測定、スチューデントのt検定およびフィッシャー判別関数の測定などの異なる統計ツールを用いることによって、現場の専門家によって設定され得る。好ましくは、信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または99%未満である。好ましくは、p値は、0.05、0.01、0.005または0.0001未満である。好ましくは、本発明は、試験された特定の群または母集団の被験体の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%において虚血または虚血性障害を正確に検出することができる。
【0067】
好ましい実施形態において、患者の予後は、6ヶ月の再発のリスクとして判定される。6ヶ月の再発のリスクを判定する場合、再発は、最初の虚血性イベント後の最初の6ヶ月以内に起こる2回目の虚血性イベントを指すと理解されよう。1つの実施形態において、2回目の虚血性イベントは、最初の虚血性イベントと同じタイプであり、すなわち、最初の虚血性イベントは心筋虚血であり、予後は、患者が2回目の心筋虚血性イベントに罹患するリスクとして判定される。別の実施形態において、2回目の虚血性イベントは、最初の虚血性イベントと異なるタイプのものであり、すなわち、最初の虚血性イベントが心筋虚血である場合、予後は、患者が脳虚血性イベントに罹患するリスクとして判定され、逆もまた同様であり、最初の虚血性イベントが脳虚血性イベントである場合、予後は、患者が心筋虚血性イベントに罹患するリスクとして判定される。
【0068】
別の実施形態において、患者の予後は、院内死亡率のリスクとして判定される。
【0069】
好ましい実施形態において、患者の予後は、6ヶ月の死亡率のリスクとして判定される。
【0070】
「アポJ」、「患者」、「虚血性イベント」および「サンプル」という用語は、本発明の診断方法の文脈において詳細に記載されており、本方法にも等しく適用可能である。
【0071】
1つの実施形態において、サンプルは、生物流体である。別の実施形態において、生物流体は、血漿または血清である。
【0072】
1つの実施形態において、虚血性イベントは、心筋虚血性イベントである。さらに別の実施形態において、心筋虚血性イベントは、ST上昇心筋梗塞(STEMI)である。別の実施形態において、虚血性イベントは、脳虚血性イベントである。
【0073】
本明細書で使用される「グリコシル化アポJ」という用語は、ポリペプチド鎖に結合した少なくとも1つのN-結合型またはO-結合型オリゴ糖鎖を含むアポJの任意の形態を指す。「グリコシル化アポJ」という用語は、N-結合型およびO-結合型のオリゴ糖を含む変異体の両方を含む。この用語はまた、N結合型複合型オリゴ糖、高マンノース型オリゴ糖またはハイブリッド型オリゴ糖を含むアポJを含む。
【0074】
1つの実施形態において、本発明の予後診断方法で判定されるグリコシル化アポJは、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むグリコシル化アポJである。さらにより好ましい実施形態において、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むグリコシル化アポJのレベルは、Datura stramoniumレクチンに特異的に結合することができるアポJのレベルに対応する。1つの実施形態において、本発明の予後診断方法で判定されるグリコシル化アポJは、Datura stramoniumレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJである。
【0075】
別の実施形態において、本発明の予後診断方法において判定されるグリコシル化アポJは、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJである。さらにより好ましい実施形態において、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJのレベルは、Triticum vulgarisレクチンに特異的に結合することができるアポJのレベルに対応する。1つの実施形態において、本発明の予後診断方法において判定されるグリコシル化アポJは、Triticum vulgarisレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJである。
【0076】
グリコシル化アポJのレベルに関連した「減少したレベル」または「低レベル」という用語は、参照値よりも低いサンプル中のグリコシル化アポJの任意の発現レベルに関する。したがって、グリコシル化アポJのレベルは、それが参照値よりも少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、またはそれよりも低い場合に、その参照値よりも減少しているかもしくは低いと見なされる。好ましい実施形態において、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むグリコシル化アポJのレベルは、参照サンプル中に見出されるレベルよりも低い。別の実施形態において、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むグリコシル化アポJのレベルは、参照サンプル中に見出されるレベルよりも低い。別の実施形態において、T.vulgarisレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJのレベルは、参照サンプル中のレベルよりも低い。別の実施形態において、D.stramoniumレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJのレベルは、参照サンプル中のレベルよりも低い。
【0077】
本発明の予後診断方法に言及する場合の「参照値」という用語は、被験体から採取されたサンプルから得られた値またはデータを評価するための参照として使用される所定の基準に関する。参照値または参照レベルは、絶対値;相対値;上限値または下限値を持つ値;値の範囲;平均値;中央値;算術平均値;または特定の対照値またはベースライン値と比較した値であってよい。参照値は、例えば、試験されている被験体からのサンプルから得られた値などの個々のサンプル値に基づくことができるが、より早い時点で得られた値であってもよい。参照値は、実年齢にマッチさせた群の被験体の母集団などの多数のサンプルに基づくか、または試験されるサンプルを含むもしくは除外するサンプルのプールに基づくことができる。1つの実施形態において、参照値は、虚血性イベントに罹患しており、虚血が進行していないか、または良好な進行を有する被験体において測定されたグリコシル化アポJのレベルに対応する。6カ月の再発のリスクとして判定された進行の場合、参照値は、虚血性イベント時に採取された患者からのサンプル中のグリコシル化アポJレベルとみなすことができるが、ここで、患者は、最初の虚血性イベントから少なくとも6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月、18ヶ月、24ヶ月、36ヶ月、48ヶ月またはそれ以上経過した後に更なる任意の虚血性イベントに罹患していない。別の実施形態において、進行が院内死亡率のリスクとして判定される場合、参照値は、虚血性イベント時の患者のグリコシル化アポJのレベルとみなすことができるが、ここで、患者は病院から退院している。6ヶ月の死亡率のリスクとして判定される進行の場合、参照値は、虚血性イベント時に採取された患者のサンプル中のグリコシル化アポJレベルとみなすことができるが、ここで、患者は、虚血性イベントから少なくとも6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月、18ヶ月、24ヶ月、36ヶ月、48ヶ月後にまだ生存している。
【0078】
別の実施形態において、参照値は、臨床的な観点から十分に文書で証明されており、虚血性イベントに罹患した後に、前のパラグラフで定義される良好な予後を示す患者の群から得られたサンプルのプールから測定された、対応するバイオマーカーの平均レベルまたは算術平均レベルに対応する。前記サンプル中で、発現レベルの測定は、例えば、参照母集団における平均発現レベルの測定によって行うことができる。参照値の測定には、患者の年齢、性別、身体状態または他の特徴などの、サンプルのタイプのいくつかの特徴を考慮する必要がある。例えば、参照サンプルは、母集団が統計的に有意であるように、少なくとも2、少なくとも10、少なくとも100~1000を超える個体の同一量の群から得ることができる。
【0079】
本発明の予後診断方法による患者の予後のために使用される参照値は、診断において考慮されるマーカーと同じタイプのサンプルおよび同じバイオマーカーから得られた値であると理解されよう。したがって、予後診断方法が、GlcNAcまたは(GlcNAc)を含むグリコシル化アポJのレベルを測定することによって実施される場合、診断に使用される参照値は、場合によっては健常被験体または上記で定義されるサンプルのプールから得られたGlcNAc残基または(GlcNAc)を含むグリコシル化アポJの発現レベルでもある。別の実施形態において、予後方法が、GlcNAcおよびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJのレベルを測定することによって実施される場合、診断に使用される参照値は、上述のようにして得られるN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJの発現レベルでもある。
【0080】
D.stramoniumレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJのレベルを測定することによって予後診断方法が実施される場合、診断に使用される参照値は、上述のようにして得られる健常被験体またはサンプルプールから得られたD.stramoniumレクチンに特異的に結合するグリコシル化アポJの発現レベルでもある。別の実施形態において、T.vulgarisレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJのレベルを測定することによって予後方法が実施される場合、予後に使用される参照値は、上述のようにして得られるT.vulgarisレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJの発現レベルでもある。
【0081】
別の実施形態において、心筋組織障害に罹患した患者の予後を判定するためにバイオマーカーが測定される場合、参照値は、心筋虚血性イベントに罹患した後に、上記で定義される基準(6ヶ月後の虚血性イベントの再発がないこと、6ヶ月後の院内死亡率または死亡率なし)のいずれかに従った良好な予後を示す被験体からの同じバイオマーカーのレベルであろう。参照値が、被験体からのサンプルのプールから得られたのと同じバイオマーカーの平均レベルである場合、サンプルのプールを準備する元となる被験体は、心筋虚血性イベントに罹患した後に、上記で定義される基準(6ヶ月後の虚血性イベントの再発がないこと、6ヶ月後の院内死亡率または死亡率なし)のいずれかに従った良好な予後を示す被験体である。
【0082】
別の実施形態において、脳組織障害を診断するためにバイオマーカーが測定される場合、参照値は、脳虚血性イベントに罹患した後に、上記で定義される基準(6ヶ月後の虚血性イベントの再発がないこと、6ヶ月後の院内死亡率または死亡率なし)のいずれかに従った良好な予後を示す被験体からの同じバイオマーカーであろう。参照値が、被験体からのサンプルのプールから得られたのと同じバイオマーカーの平均レベルである場合、サンプルのプールを準備する元となる被験体は、脳虚血性イベントに罹患した後に、上記で定義される基準(6ヶ月後の虚血性イベントの再発がないこと、6ヶ月後の院内死亡率または死亡率なし)のいずれかに従った良好な予後を示す被験体である。
【0083】
本発明の予後診断方法において使用される参照値は、所望の特異度および感度を得るために最適化することができる。
【0084】
特定の実施形態において、死亡率および再発イベントの予後に使用される参照値は、58%の感度および51%の特異度が所望される場合、287μg/mLのアポJ-GlcNAcである(すなわち、本発明による予後診断方法は、患者が287μg/mL未満のアポJ-GlcNAcを示す場合、58%の感度および61%の特異度で死亡率および再発イベントの予後を可能にする)。
【0085】
特定の実施形態において、死亡率および再発イベントの予後に使用される参照値は、55%の感度および65%の特異度が所望される場合、398μg/mLのアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcである(すなわち、本発明による予後診断方法は、患者が398μg/mL未満のアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcを示す場合、55%の感度および65%の特異度で死亡率および再発イベントの予後を可能にする)。
【0086】
特定の実施形態において、死亡率および再発イベントの予後に使用される参照値は、55%の感度および65%の特異度が所望される場合、T.vulgarisレクチンに結合することができる398μg/mLのアポJである(すなわち、本発明による予後診断方法は、患者がT.vulgarisレクチンに結合することができる398μg/mL未満のアポJを示す場合、55%の感度および65%の特異度で死亡率および再発イベントの予後を可能にする)
【0087】
特定の実施形態において、死亡率および再発イベントの予後に使用される参照値は、死亡率および再発イベントの予後のために58%の感度および51%の特異度が所望される場合、D.stramoniumレクチンに結合することができる287μg/mlのアポJであり、死亡率の予後のために64%の感度および50%の特異度が所望される場合、D.stramoniumレクチンに結合することができる273μg/mlのアポJである(すなわち、本発明による予後診断方法は、患者がD.stramoniumレクチンに結合することができる287μg/ml未満のアポJを示す場合、58%の感度および51%の特異度で死亡率および再発イベントの予後を、または患者がD.stramoniumレクチンに結合することができる273μg/ml未満のアポJを示す場合、64%の感度および50%の特異度で死亡率の予後の診断を可能にする)。
【0088】
本発明のリスク層別化方法
本発明者らはまた、グリコシル化アポJのレベル、特にGlcNAcおよびNeu5Acを含むグリコシル化アポJのレベルが、安定冠動脈疾患(CAD)に罹患した患者が再発虚血性イベントに罹患するリスクを判定するのに有用なバイオマーカーでもあることを示した。この方法は、患者が虚血性イベントに罹患するリスクに従って患者を層別化することを可能にし、したがって、リスクに応じて患者に特定の予防療法を割り当てるのに有用である。
【0089】
したがって、別の態様において、本発明は、安定冠動脈疾患に罹患している患者が再発虚血性イベントに罹患するリスクを測定する方法(以下、本発明のリスク層別化方法)であって、前記方法は、前記患者のサンプル中で、グリコシル化アポJのレベルを測定することを含み、ここで、参照値に対するグリコシル化アポJのレベルの低下が、患者が再発虚血性イベントに罹患する罹患するリスクが高いことを示す指標となる方法に関する。
【0090】
本発明の文脈において、「リスクを測定する」または「リスク層別化」という用語は、a)心筋虚血もしくは脳虚血またはそれに関連する虚血性組織障害に罹患した後の患者の更なる臨床合併症の罹患、および/またはb)本明細書中に開示される方法を適用した場合に、心筋虚血もしくは脳虚血またはそれに関連する虚血性組織障害に対する特定の治療からの恩恵のリスクまたは蓋然性を測定する能力に関する。この検出は、当業者に理解されるように、全てのサンプルに対して100%正確であることを意図するものではない。しかしながら、分析された統計的に有意な数のサンプルが正しく分類される必要がある。統計的に有意な量は、以下のものに限定されるものではないが、例えば、信頼区間、p値測定、スチューデントのt検定およびフィッシャー判別関数の測定などの異なる統計ツールを用いることによって、現場の専門家によって設定され得る。好ましくは、信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または99%未満である。好ましくは、p値は、0.05、0.01、0.005または0.0001未満である。好ましくは、本発明は、試験された特定の群または母集団の被験体の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%において虚血または虚血性障害を正確に検出することができる。
【0091】
患者、虚血性イベント、サンプル、アポJおよびグリコシル化アポJという用語は、本発明の診断方法および予後診断方法の文脈において詳細に記載されており、本発明のリスク層別化方法にも等しく適用可能である。
【0092】
1つの実施形態において、再発虚血性イベントは、急性冠動脈症候群、脳卒中または一過性虚血性イベントである。
【0093】
1つの実施形態において、サンプルは、生物流体である。別の実施形態において、生物流体は、血漿または血清である。
【0094】
1つの実施形態において、虚血性イベントは、心筋虚血性イベントである。さらに別の実施形態において、心筋虚血性イベントは、ST上昇心筋梗塞(STEMI)である。別の実施形態において、虚血性イベントは、脳虚血性イベントである。
【0095】
1つの実施形態において、本発明の予後診断方法で測定されるグリコシル化アポJは、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むグリコシル化アポJである。別の実施形態において、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むグリコシル化アポJのレベルは、Datura stramoniumレクチンに特異的に結合することができるアポJのレベルに対応する。
【0096】
別の実施形態において、本発明の予後診断方法において測定されるグリコシル化アポJは、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJである。別の実施形態において、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJのレベルは、Triticum vulgarisレクチンに特異的に結合することができるアポJのレベルに対応する
【0097】
「安定冠動脈疾患」および「安定冠動脈心疾患」という用語は、同じ意味を持ち、同義的に用いられる。両方の用語には、病状安定冠動脈疾患(SCAD)が含まれる。「安定心血管疾患」、「安定冠動脈疾患」または「安定冠動脈心疾患」という用語の文脈における「安定」は、急性心血管イベントがない場合の診断された心血管疾患の任意の状態として定義される。したがって、例えば、安定冠動脈疾患は、冠動脈血栓症が臨床的提示(急性冠動脈症候群)を特色づける状況を除いて、冠動脈疾患の異なる進行段階を定義する。SCADに罹患している患者は、以下の状態の1つ以上によって定義される:抗血小板剤、抗凝固剤および/またはスタチンによる治療下で少なくとも3ヶ月間の安定した投与における、陽性ECGストレス検査または陽性心筋シンチグラフィーによる安定狭心症または冠動脈の50%超の狭窄、急性冠動脈症候群の病歴、冠動脈血管再生術再建術の病歴。
【0098】
好ましい実施形態において、安定冠動脈疾患に罹患している患者は、安定冠動脈疾患の前に急性冠動脈症候群に罹患していた。好ましい実施形態において、安定冠動脈疾患に罹患している患者は、安定冠動脈疾患の前に少なくとも1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月、18ヶ月、24ヶ月、36ヶ月、48ヶ月、60ヶ月またはそれ以上、急性冠動脈症候群に罹患していた。
【0099】
本発明の予後診断法におけるグリコシル化アポJのレベルに関連した「レベルの低下」または「低レベル」という用語は、参照値よりも低いサンプル中のグリコシル化アポJの任意の発現レベルに関する。したがって、グリコシル化アポJのレベルは、それが参照値よりも少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、またはそれよりも低い場合に、その参照値よりも減少しているかもしくは低いと見なされる。好ましい実施形態において、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むグリコシル化アポJのレベルは、参照サンプル中に見出されるレベルよりも低い。別の実施形態において、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を含むグリコシル化アポJのレベルは、参照サンプル中に見出されるレベルよりも低い。別の実施形態において、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸基残基を含むグリコシル化アポJのレベルは、参照サンプル中のレベルよりも低い。別の実施形態において、T.vulgarisレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJのレベルは、参照サンプル中に見出されるレベルよりも低い。別の実施形態において、D.stramoniumレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJのレベルは、参照サンプル中のレベルよりも低い。
【0100】
本発明のリスク層別化方法に言及する場合の「参照値」という用語は、被験体から採取されたサンプルから得られた値またはデータを評価するための参照として使用される所定の基準に関する。参照値または参照レベルは、絶対値;相対値;上限値または下限値を持つ値;値の範囲;平均値;中央値;算術平均値;または特定の対照値またはベースライン値と比較した値であってよい。参照値は、例えば、試験されている被験体からのサンプルから得られた値などの個々のサンプル値に基づくことができるが、より早い時点で得られた値であってもよい。参照値は、実年齢にマッチさせた群の被験体の母集団などの多数のサンプルに基づくか、または試験されるサンプルを含むもしくは除外するサンプルのプールに基づくことができる。1つの実施形態において、参照値は、安定冠動脈疾患に罹患しているが、任意の再発虚血性イベントに罹患していない被験体において測定されたグリコシル化アポJのレベルに対応する。参照値を測定することができる適切な患者は、安定冠動脈疾患に罹患しており、安定冠動脈疾患の発症後、少なくとも6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月、18ヶ月、24ヶ月、36ヶ月、48ヶ月またはそれ以上の期間にわたって虚血性再発イベントに罹患していない患者である。
【0101】
別の実施形態において、参照値は、臨床的な観点から十分に文書で証明されており、安定冠動脈疾患に罹患しているが、安定冠動脈疾患の発症後、少なくとも6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月、18ヶ月、24ヶ月、36ヶ月、48ヶ月またはそれ以上の期間にわたって再発虚血性イベントに罹患していない患者の群から得られたサンプルのプールから測定された、対応するバイオマーカーの平均レベルまたは算術平均レベルに対応する。前記サンプル中で、発現レベルの測定は、例えば、参照母集団における平均発現レベルの測定によって行うことができる。参照値の測定には、患者の年齢、性別、身体状態または他の特徴などの、サンプルのタイプのいくつかの特徴を考慮する必要がある。例えば、参照サンプルは、母集団が統計的に有意であるように、少なくとも2、少なくとも10、少なくとも100~1000を超える個体の同一量の群から得ることができる。
【0102】
本発明のリスク層別化による患者のリスク層別化診断のために使用される参照値は、診断において考慮されるマーカーと同じタイプのサンプルおよび同じバイオマーカーから得られた値であると理解されよう。したがって、リスク層別化方法が、GlcNAcまたは(GlcNAc)を含むグリコシル化アポJのレベルを測定することによって実施される場合、リスク層別化に使用される参照値は、場合によっては健常被験体または上記で定義されるサンプルのプールから得られたGlcNAc残基または(GlcNAc)を含むグリコシル化アポJの発現レベルでもある。別の実施形態において、リスク層別化方法が、GlcNAcおよびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJのレベルを測定することによって実施される場合、リスク層別化に使用される参照値は、上述のようにして得られるN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびシアル酸残基を含むグリコシル化アポJの発現レベルでもある。
【0103】
別の実施形態において、T.vulgarisレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJのレベルを測定することによってリスク層別化方法が実施される場合、リスク層別化に使用される参照値は、上述のようにして得られるT.vulgarisレクチンに特異的に結合するグリコシル化アポJの発現レベルでもある。別の実施形態において、Datura stramoniumレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJのレベルを測定することによってリスク層別化方法が実施される場合、リスク層別化に使用される参照値は、上述のようにして得られるDatura stramoniumレクチンに特異的に結合することができるグリコシル化アポJの発現レベルでもある。
【0104】
本発明のリスク層別化において使用される参照値は、所望の特異度および感度を得るために最適化することができる。特定の実施形態において、リスク層別化に使用される参照値は、94%の感度および64%の特異度が所望される場合、485μg/mlのアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcである(すなわち、本発明によるリスク層別化方法は、患者が485μg/ml未満のアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcを示す場合、94%の感度および64%の特異度でCADに罹患している患者の再発イベントの予測を可能にする)。
【0105】
別の実施形態において、リスク層別化に使用される参照値は、94%の感度および64%の特異度が所望される場合、T.vulgarisレクチンに結合することができる485μg/mlのアポJである(すなわち、本発明によるリスク層別化方法は、患者がT.vulgarisレクチンに結合することができる485μg/ml未満のアポJを示す場合、94%の感度および64%の特異度でCADに罹患している患者のイベントの予測を可能にする)。
【0106】
本発明によるバイオマーカーの測定のためのキット
本発明者らはまた、本明細書に記載される疾患のほかに、グリコシル化アポJが関与する他の疾患の診断にも適したグリコシル化アポJの検出を可能にするキットを得た。
【0107】
したがって、別の態様において、本発明は、
a.N-アセチルグルコサミンおよびシアル酸から選択されるグリカン残基に特異的に結合するレクチンである第1の試薬と、
b.アポJポリペプチドに特異的に結合することができる第2の試薬と
を含むキットに関する。
【0108】
本発明で用いられる「N-アセチルグルコサミンおよびシアル酸から選択されるグリカン残基に特異的に結合するレクチン」という用語は、任意の生物に由来する糖に結合する能力を有する抗体とは異なる任意のタンパク質のほかに、組換え方法で得られた、糖タンパク質中の糖残基への結合能力を維持するそれらの変異体を指す。本発明における使用に適したレクチンの例には、以下のものに限定されるものではないが、Conavalia ensiformis、Anguilla anguilla、Tritium vulgaris、Datura stramonium、Galanthus nivalis、Maackia amurensis、Arachis hypogaea、Sambucus nigra、Erythtina cristagalli、Lens culinaris、 Glycine max、Phaseolus vulgaris、Allomyrina dichotoma、Dolichos biflorus、Lotus tetragonolobus、Ulex europaeusおよびRicinus communisから単離されたレクチンが含まれる。
【0109】
本発明における使用に適したレクチンの例には、表1に示されるレクチン(この表は、レクチンの一般的な名称、それが由来する生物、および前記レクチンに特異的に結合する糖を示す)が含まれるが、これらに限定されない。
【0110】
【表1】
【0111】
好ましい実施形態において、レクチンは、Triticum vulgaris由来のレクチン、Datura stramonium由来のレクチンまたはそれらの組み合わせである。
【0112】
好ましい実施形態において、第2の試薬は、抗アポJ抗体またはその抗原結合領域を含むその断片である。
【0113】
本発明の文脈において、「アポJ抗体」という用語は、免疫グロブリン分子およびその免疫学的に活性な部分、すなわち、本明細書で定義されグリコシル化アポJに特異的に結合する抗原結合部位を含む分子を指す。本発明による使用に適した抗体には、結合がN-結合型またはO-結合型の炭水化物の存在によって影響されない限り、グリコシル化アポJのポリペプチド部分に位置する1つ以上のエピトープを認識する抗体が含まれる。これらの抗体は、アポJのグリコシル化形態およびその非グリコシル化形態の両方に結合することができる。
【0114】
免疫学的に活性な免疫グロブリン分子の部分の例には、抗体をペプシンなどの酵素で処理することによって生成することができるF(ab)およびF(ab‘)が含まれる。抗体は、ポリクローナル(典型的には、異なる決定基またはエピトープに対して指向される異なる抗体を含む)またはモノクローナル抗体(抗原上の単一の決定基に対して指向される)であり得る。抗体はまた、組換え、キメラ、ヒト化、合成または上記のいずれかの組み合わせ物であってもよい。
【0115】
1つの実施形態において、レクチンは固定化されている。固定化は、通常、支持体への結合によって達成される。本発明において使用される「支持体」という用語は、本発明の成分が物理的に結合され、したがって固定化される任意の固体材料を指す。本発明におけるそれらの使用に適した固体支持体には、以下のものに限定されるものではないが、シリコーン、ガラス、石英、ポリイミド、アクリレート、ポリメチルメタクリレート、セラミック、ニトロセルロース、金属、アモルファスシリコンカーバイド、ポリスチレンのほかに、マイクロ製造またはマイクロリソグラフィーに適した任意の他の材料が含まれる。
【0116】
レクチンは、共有結合または水素結合、疎水性相互作用もしくはイオン結合などの非共有結合によって支持体に固定化されることができる。適切なマイクロアレイおよび支持体の一般的な概説は、Shalon et al.(Genome Research 6:639-645(1996))、LeGendre(BioTechniques 9:788-805(1990))、米国特許第6197599号明細書および米国特許第6140045明細書に記載されている。あるいは、エポキシ基、ビニルスルホン酸基、活性エステル基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、イソチオシアネート基などによって活性化された支持体を使用することもできる。支持体がエポキシ基によって活性化されている場合、これらの基には、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GTMS)、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどが含まれる。
【0117】
1つの実施形態において、本発明によるキットの成分は、標識を含む。原則的に、本発明は、キットの成分bへの共有結合が可能であり、それが前記成分のその後の検出を可能にする限り、任意の標識の使用を意図する。好ましい実施形態において、標識は、その化学的、電気的または磁気的特性の少なくとも1つの変化によって検出することができる
【0118】
したがって、本発明は、H、11C、14C、18F、32P、35S、64Cu、68Ga、86Y、99Tc、111In、123I、124I、125I、131I、133Xe、177Lu、211Atまたは213Bのタイプの放射性同位体でタンパク質を修飾する可能性を意図する。放射性同位体を用いた標識化は、典型的には、DOTA、DOTP、DOTMA、DTPAおよびTETA(Macrocyclics、Dallas、TX)などの金属イオンを錯化することができるキレートリガンドを用いて実施される。
【0119】
それにもかかわらず、好ましい実施形態において、成分aは、蛍光基で標識される。本発明において使用するための適切な蛍光化合物には、以下のものに限定されるものではないが、SYBR Green、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオール(TRIT)、5-カルボキシフルオレセイン、6-カルボキシフルオレセイン、フルオレセイン、HEX(6-カルボキシ-4-2’,4,4’,5’,7,7’-ヘキサクロロフルオロセイン)、Oregon Green 488、Oregon Green 500、Oregon Green 514、JOE、(6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ-2’,7’-ジメトキシフルオロセイン)、5-カルボキシ-2’,4’,5’,7’-テトラクロロフルオロセイン、5-カルボキシローダミン、ローダミン、テトラメチルローダミン(Tamra)、Rox(カルボキシ-X-ローダミン)、R6G(ローダミン6G)、フタロシアニン、アゾメチン、シアニン(Cy2、Cy3およびCy5)、Texas Red、Princeston Red、BODIPY FL-Br2、BODIPY 530/550、BODIPY TMR、BODIPY 558/568、BODIPY 564/570、BODIPY 576/589、BODIPY 581/591、BODIPY TR、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665、DABCYL、エオシン、エリスロシン、臭化エチジウム、緑色蛍光タンパク質(GFP)およびその類縁体、半導体ナノ結晶をベースとする無機蛍光標識(量子ドット)、Eu3+およびSm3+などのランタニドをベースとする蛍光標識が含まれる。
【0120】
さらに別の実施形態において、キットは、成分bに特異的に結合することができる第3の成分(成分c)を含む。この場合、レクチンによる支持体に捕捉されたアポJの検出は、成分bを直接検出することによって実施されるのではなく、成分aに結合された後に成分cを検出することによって実施される。
【0121】
成分bに特異的に結合することができる限り、任意の分子をキットの第3の成分として使用することができる。1つの実施形態において、成分bは、結合対の第1のメンバーで修飾され、成分cは、結合対の第2のメンバーで修飾される。
【0122】
「結合対」という用語は、以下のものに限定されるものではないが、生化学的、生理学的および/または化学的な相互作用を含む任意のタイプの分子間相互作用によって特異的に結合する能力を有する一対の分子(結合対の第1および第2のメンバーを指す)を指す。結合対には、抗原/抗体、抗原/抗体断片、ハプテン/抗ハプテンなどの免疫型の相互作用のほかに、アビジン/ビオチン、アビジン/ビオチン化分子、葉酸/葉酸結合タンパク質、ホルモン/ホルモン受容体、レクチン炭水化物、レクチン/炭水化物で修飾された分子、酵素/酵素基質、酵素/酵素阻害剤、タンパク質A/抗体、タンパク質G/抗体、相補的核酸(DNA、RNAおよびペプチド核酸(PNA)の配列を含む)、ポリヌクレオチド/ポリヌクレオチド結合タンパク質などの相互作用の任意のタイプが含まれる。
【0123】
結合対の「第1」および「第2」のメンバーという用語は、相対的なものであり、前述のメンバーのそれぞれは、結合対の第1または第2のメンバーとなり得ることが理解されよう。
【0124】
本発明によるキットの成分bが抗体である、さらに好ましい実施形態において、第3の成分は、前記成分bに特異的に結合することができる抗体である。この場合、第2の抗体は、標識を含む。キットの第3成分のための適切な標識は、キットの成分bのための上記のものと同じである。キットの第3成分のための適切な標識は、キットの成分bのための上記のものと同じである。キットの第3の成分の標識は、蛍光基、発光基または酵素であり得る。検出可能な化合物が酵素である場合、この酵素は、例えば活性化剤、基質、増幅剤などを添加した後に検出可能なシグナルを生成することができなければならない。
【0125】
本発明の検出可能なタグとして適切な酵素および対応する基質には、以下のものが含まれる:
・ アルカリホスファターゼ:
・ 発色基質:p-ニトロフェニルホスフェート(p-NPP)、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスフェート/ニトロブルーテトラゾリウム(BCIP/NBT)、ファーストレッド/ナフトールホスフェート-AS-TSをベースとする基質
・ 蛍光基質:4-メチルウンベリフェリルホスフェート(4-MUP)、2-(5’-クロロ-2’-ホスホリルオキシフェニル)-6-クロロ-4-(3H)-キナゾリノン(CPPCQ)、3,6-フルオレセインジホスフェート(3,6-FDP)、Fast Blue BB、Fast Red TR、またはFast Red Violet LBのジアゾニウム塩が挙げられる。
・ペルオキシダーゼ:
・ 2,2-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)、o-フェニレンジアミン(OPT)、3,3’、5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)、o-ジアニシジン、5-アミノサリチル酸、3-ジメチルアミノ安息香酸(DMAB)および3-メチル-2-ベンゾチアジンヒドラゾン(MBTH)、3-アミノ-9-エチルカルバゾール(AEC)、3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)テトラヒドロクロライドをベースとする発色基質
・ 蛍光基質:4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル酢酸、還元フェノキサジン、還元ベンゾチアジン(Amplex(登録商標)Red試薬、Amplex UltraRed試薬および還元ジヒドロキサンテンを含む)
・ グリコシダーゼ:
・ 発色基質:β-D-ガラクトシダーゼのためのo-ニトロフェニル-β-D-ガラクトシド(O-NPG)、p-ニトロフェニル-β-D-ガラクトシドおよび4-メチルウンベリフェニル-β-D-ガラクトシド(MUG)
・ 蛍光基質:レゾルフィンβ-D-ガラクトピラノシド、フルオレセインジガラクトシド(FDG)、フルオレセインジグルクロニド、4-メチルウンベリフェニル-β-D-ガラクトピラノシド、カルボキシウンベリフェリル-β-D-ガラクトピラノシドおよびフッ素化クマリンβ-D-ガラクトピラノシド。
・ オキシドレダクターゼ(ルシフェラーゼ):
・ 発光基質:ルシフェリン。
【0126】
酵素標識の場合、キットは、追加の成分として酵素の1つ以上の基質を含有してもよい。
【0127】
さらにより好ましい実施形態において、結合対の第2のメンバーに結合される検出可能な化合物は、蛍光化合物である。本発明で使用される「蛍光化合物」という用語は、測定された波長または波長範囲で光を吸収し、異なる波長または波長範囲で光を放出する全ての化合物を指す。本発明において使用するための適切な蛍光化合物には、以下のものに限定されるものではないが、SYBR Green、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオール(TRIT)、5-カルボキシフルオレセイン、6-カルボキシフルオレセイン、フルオレセイン、HEX(6-カルボキシ-4-2’,4,4’,5’,7,7’-ヘキサクロロフルオロセイン)、Oregon Green 488、Oregon Green 500、Oregon Green 514、JOE、(6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ-2’,7’-ジメトキシフルオロセイン)、5-カルボキシ-2’,4’,5’,7’-テトラクロロフルオロセイン、5-カルボキシローダミン、ローダミン、テトラメチルローダミン(Tamra)、Rox(カルボキシ-X-ローダミン)、R6G(ローダミン6G)、フタロシアニン、アゾメチン、シアニン(Cy2、Cy3およびCy5)、Texas Red、Princeston Red、BODIPY FL-Br2、BODIPY 530/550、BODIPY TMR、BODIPY 558/568、BODIPY 564/570、BODIPY 576/589、BODIPY 581/591、BODIPY TR、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665、DABCYL、エオシン、エリスロシン、臭化エチジウム、緑色蛍光タンパク質(GFP)およびその類縁体、半導体ナノ結晶をベースとする無機蛍光標識(量子ドット)、Eu3+およびSm3+などのランタニドをベースとする蛍光標識が含まれる。
【0128】
任意に、更なる実施形態において、キットは、異なる濃度のグリコシル化アポJを含むバックグラウンド対照および/または標準曲線としてのブランクをさらに含む。
【0129】
更なる態様において、本発明は、虚血性イベントに罹患した患者の虚血の進行を判定するための、虚血性イベントに罹患した患者の予後のための、または安定冠動脈疾患に罹患している患者が再発虚血性イベントに罹患するリスクを判定するための、被験体の虚血または虚血性組織障害の診断方法において上記で定義される本発明によるキットの使用に関する。
【0130】
サンプル中のグリコシル化アポJを測定する方法
別の態様において、本発明は、サンプル中のグリコシル化アポJを測定する方法であって、
(i)サンプルを、グリコシル化アポJ中に存在するグリカン残基に特異的に結合するレクチンと、サンプル中のグリコシル化アポJとレクチンとの間の複合体の形成に適した条件下で接触させるステップと、
(ii)レクチンおよびN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を含むグリコシル化アポJを含む複合体の量を検出するステップと
を含む、方法。
【0131】
「グリコシル化アポJ」、「サンプル」および「グリコシル化アポJ中に存在するグリカン残基に特異的に結合するレクチン」という用語は、本発明の診断方法および予後診断方法の文脈のほかに本発明によるキットの文脈において詳細に記載されており、本発明によるグリコシル化アポJの測定方法にも等しく適用可能である。
【0132】
ステップ(i)において、グリコシル化アポJの測定方法は、サンプルを、グリコシル化アポJ中に存在するグリカン残基に特異的に結合するレクチンと、サンプル中のグリコシル化アポJとレクチンとの間の複合体の形成に適した条件下で接触させるステップを含む。
【0133】
前記複合体の形成に適した条件は、当業者によって測定されることができ、適切な温度、インキュベーション時間、およびpHを含む。特定の実施形態において、温度は、4~40℃、特に10~35℃、より具体的には15~30℃、好ましくは20~25℃(室温)の範囲である。特定の実施形態において、pHは、pH2~pH10、好ましくはpH4~pH10の範囲である。特定の実施形態において、ステップ(i)は、少なくとも1分間、好ましくは少なくとも5分間、より好ましくは少なくとも30分間、さらにより好ましくは少なくとも60分間にわたって行うことが可能である。
【0134】
いくつかの実施形態において、サンプルは、レクチンとの接触前に希釈される。サンプルの適切な希釈の範囲は、1:10~1:100000、好ましくは1:100~1:1000であり、より好ましくは、血漿サンプルの希釈は、1:200または1:1500である
【0135】
1つの実施形態において、ステップ(i)で使用されるレクチンは、N-アセチルグルコサミンに特異的に結合するレクチンまたはN-アセチルグルコサミンおよびシアル酸に特異的に結合するレクチンである。より好ましい実施形態において、N-アセチルグルコサミンに特異的に結合するレクチンは、Datura stramonium由来のレクチンであるか、またはN-アセチルグルコサミンおよびシアル酸またはシアル酸に特異的に結合するレクチンは、Triticum vulgaris由来のレクチンである。
【0136】
さらに別の実施形態において、グリカン残基に特異的に結合するレクチンは固定化される。適切な支持体は、本発明のキットに記載されたものと同じである。
【0137】
ステップ(i)が、レクチンとサンプル中に存在するグリコシル化アポJとの間の複合体の形成を可能にするのに十分な時間にわたって行われた後に、ステップ(ii)が実施される。ステップ(ii)において、グリコシル化アポJの測定方法は、レクチンおよびグリコシル化アポJを含む複合体の量を検出するステップを含む。
【0138】
1つの実施形態において、ステップ(i)で得られた複合体は、非特異的結合を介して支持体に結合したであろう任意のアポJを除去するために、ステップ(ii)の開始前に洗浄される。ステップ(i)後の洗浄は、洗浄液を用いて実施される。特定の実施形態において、洗浄溶液は、1種以上の塩を含有する。好ましくは、洗浄溶液に含まれる塩は、トリス緩衝液(TBS)またはリン酸緩衝液(PBS)に含まれるNaClである。それに加えるかまたは代えて、洗浄液は、少なくとも1種の界面活性剤を含有する。好ましくは、界面活性剤は、ポリソルベート20(Tween 20)およびTriton X-100からなる群から選択される。
【0139】
レクチンおよびグリコシル化アポJを含む複合体の量の検出は、通常、アポJポリペプチドに特異的に結合する試薬を用いて実施される。好ましい実施形態において、アポJポリペプチドに特異的に結合する試薬は、抗体またはその抗原結合領域を含むその断片である。
【0140】
グリコシル化アポJを検出するための方法のステップ(ii)での使用に適した抗体は、本発明によるキットの文脈において定義されており、本明細書においても同様に適用可能である。1つの実施形態において、抗体は、検出可能な標識にカップリングされる。抗アポJ抗体のための適切な標識は、本発明のキットの文脈において上記で定義されている。好ましい実施形態において、その化学的、電気的または磁気的特性の少なくとも1つの変化によって標識を検出することができる。
【0141】
別の実施形態において、レクチンおよびグリコシル化アポJを含む複合体の量の検出は、アポJポリペプチドに特異的に結合する試薬に特異的に結合することができる試薬を用いて実施される。別の実施形態において、アポJポリペプチドに特異的に結合する試薬に特異的に結合することができる第3の試薬は、抗体またはその抗原結合領域を含むその断片であり、この場合、複合体の検出は、アポJに特異的に結合する試薬に結合した抗体の検出によって行われる。これは、検出可能な標識を含む抗体を用いて行われる。抗体における使用のための適切な標識は、本発明によるキットの文脈において上記で定義される。標識は、蛍光標識または酵素標識であり得る。
【実施例
【0142】
本発明を、以下の実施例によって説明するが、これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0143】
実施例1
心臓虚血におけるアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcおよびアポJ-GlcNAcの診断値
心臓虚血患者におけるアポJプロテオミックプロファイルは、二次元電気泳動(2-DE)とその後の質量分析同定を用いて以前に特徴付けられていた(Cubedo,J.et.al.,2011、Journal of proteome research 10:211-220)。その研究では、イベント発症後最初の6時間以内に特定のアポJ型が増大(アポJ-29)または減少(アポJ-15)したことが示されていた(図1)。これらの基準を適用することにより、特定のアポJ型(アポJ-15およびアポJ-29)が急性心筋梗塞(AMI)によって誘導される組織障害のマーカーとすることが提案されていた。同じ研究において、アポJ-15およびアポJ-29において検出された変化が、アポJのグリコシル化プロファイルの変化によるものであり得るのかを分析した。具体的には、Concavalin AとTriticum vulgarisのレクチンの混合物(α-マンノース、α-グルコース、(GlcNAc)およびNeu5Ac残基とのタンパク質に結合する)で血清糖タンパク質を単離した。単離されたタンパク質は、2-DE分析とその後の質量分析同定によって分析した。この分析(図2)では、スポット1、2、4、5、8および11のみがα-マンノース、α-グルコース、(GlcNAc)およびNeu5Ac残基を含み、スポット3、6、7、9、10、12および13はこれらの残基を有していないことが判明した。α-マンノース、α-グルコース、(GlcNAc)およびNeu5Ac残基によるグリコシル化アポJスポットの強度は、対照よりもAMI前の虚血患者において低かった。この減少は、形態4および8でより明白であった。虚血の初期段階でα-マンノース、α-グルコース、(GlcNAc)およびNeu5Acグリコシル化アポJ強度が計25%減少した。対照的に、虚血の初期段階では、これらの残基(3、6、7、10、12および13)がないアポJ型が増大した。
【0144】
しかしながら、上記のアッセイで使用されたレクチンの多重特異性に基づき、これらのアッセイは、アポJの異なるグリコシル化形態(α-マンノースを含む形態、α-グルコースを含む形態、(GlcNAc)および/またはNeu5Ac残基を含む形態)のいずれが、実際に、虚血性障害に関連するバイオマーカーであるのかを判別することはできなかった。さらに、タンパク質をα-ガラクトースおよびO-グリカン中にのみ見出されるGalNAc残基と結合するArtocarpus integrifoliaアレクチンを用いることにより、スポット1、3、4、6、7、8、9、11および12のみがα-ガラクトースおよびGalNAc残基を含み、スポット2、5、10および13はこれらの残基を有していないことが判明した。したがって、以前に報告されたスポット1,2、4、5、8および11の減少は、α-マンノース、α-グルコース、(GlcNAc)およびNeu5Ac残基を含む形態の減少を示す指標になるだけではない。なぜなら、これらのスポットのいくつかも、O-グリコシル化残基、より具体的にはα-ガラクトースおよびGalNAc残基を含むからである。
【0145】
アポJ中の異なるタイプの残基の存在を判別するために、別個の方法論が使用されている。この方法論(以下、イムノアフィニティー酵素-グリコシル化アッセイまたはEGAとして知られる)は、異なるグリコシル化アポJ型の特異的検出および定量化を可能にする。このEGAは、1)タンパク質が特定のグリコシル化残基(表1)への結合によって固定化される第1のステップ、2)アポJがアポJタンパク質配列に対するモノクローナルまたはポリクローナル抗体で検出される第2のステップ、および3)特異的に固定化されたグリコシル化アポJ形態の量が、レポーターシステムまたは分子によってさらに検出および定量化される最終ステップに基づいている。このレポーターシステムは、a)ビオチン-ストレプトアビジン-HRPなどのレポーターシステムと一緒の二次抗体などの比色系;またはb)該システムにおける物理化学的変化(すなわち、化学的、電気的または磁気的変化)で構成され得る。
【0146】
【表2】
【0147】
異なるレクチンを用いたこの方法論を使用して、グリコシル化アポJは、以下のグリカン残基を有することができると判明した:a)(GlcNAc)+Neu5Ac;b)αNeu5Ac(2→6)gal+GalNAc;c)α-L-フコース;d)GalNAcのみ;およびe)(GlcNAc)単独(図4)。
【0148】
38人のAMI前の虚血患者および144人の健常対照の血漿サンプル中の(GlcNAc)+Neu5Ac残基(アポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAc)でアポJを特異的に測定するためにEGAを適用した。AMI前の虚血患者は、対照と比較した場合、虚血の初期段階でアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+ApuJ-GlcNAcレベルについて45%の減少を示すことが判明した(AMI前の虚血:264±18対C:473±6μg/mL;P<0.0001;図5A)。AMI前の虚血患者のサンプルを、胸痛の発症後および壊死マーカー(T-トロポニンおよびCK)の上昇前の最初の6時間以内に入院時(t=0)に採取した。この時点で、患者は、イベント発症のために治療を一切受けていなかった。C-統計分析から明らかになったことは、EGAによるアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルの測定が、曲線下面積(AUC)0.934(P<0.0001)およびカットオフ値332μg/mL(感度97%および特異度71%)で心筋虚血の存在についての高い判別値を示すことである(図5Bおよび表2)。したがって、アポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルの測定は、虚血の診断のためのバイオマーカーとして使用することができた。
【0149】
EGA方法論による212人のSTEMI患者におけるアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルをさらに分析した。入院時のT-トロポニン陽性患者(壊死を有する患者の群)を含む虚血性疼痛の進行の異なる時間(1時間~60時間)を有するSTEMI患者(新生および二次イベントを含む)から入院時にサンプルを採取した。STEMI患者は、対照群(STEMI:402±8対C:473±6μg/mL;P<0.0001;図6A)と比較した場合、入院時のアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAc血漿レベルについて15%の減少を示した。C-統計分析から明らかになったことは、EGAによるアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルの測定が、曲線下面積(AUC)0.713(P<0.0001)およびカットオフ値409μg/mL(感度80%および特異度53%)で心筋虚血の存在についての高い判別値を示すことである(図6B)。
【0150】
次いで、EGAを、340人のSTEMI患者および139人の健常対照においてレクチンDatura stramoniumを用いて(GlcNAc)残基を有するアポJ(アポJ-GlcNAc)を特異的に測定するために適用すると、アポJ-GlcNAc血漿レベルついて35%の減少が入院時のSTEMI患者において見出された(STEMI:328±7対C:506±12μg/mL;P<0.0001;図6C)。C-統計分析から明らかになったことは、アポJ-GlcNAcレベルの測定が、曲線下面積(AUC)0.830(P<0.0001)およびカットオフ値393μg/mL(感度81%および特異度72%)で心筋虚血の存在についてのより高い判別値を示すことである(図6D)。
【0151】
【表3】
【0152】
実施例2
アポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcおよびアポJ-GlcNAcの予後診断値
第2段階で、特定の定量グリコシル化アポJ型が予後診断値を有し得るのかを評価した。アポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルは、虚血時間(症状の発症と入院との間の経過時間;R=-0.259 P=0.0003;図7A)と有意相関および逆相関した。さらに、入院3日後の82人のSTEMI患者におけるアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルの測定からは、入院時(t=72時間:331±10対t=0:402±8μg/mL;P<0.0001;図7B)と比較した場合、漸進的な減少が明らかになった。アポJ-GlcNAcレベルのみを分析した場合、虚血時間との有意相関および逆相関もあった(R=-0.113 P=0.048;図7C)。これらの結果は、アポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcおよびアポJ-GlcNAcが虚血進行の新規のバイオマーカーであることを強調している。
【0153】
さらに、院内死亡率および6ヶ月の死亡率の増大による予後の悪化に関連する、最終的なTIMIフローグレードが0または1であるSTEMI患者は、最終的なTIMIフローが2以上であるSTEMI患者と比較した場合(図8A)、アポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAc血漿レベルが有意に低いことを示した。さらに、STEMIに罹患した後の予後不良と関連する、心原性ショックに罹患した患者は、心原性ショックを有していない患者と比較した場合(図8B)、入院時にアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAc血漿レベルが12%低いことを示した。
【0154】
さらに、死亡率に関連する(R=-0.257 P=0.0002;図9A)、アポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルとGRACEリスクスコアとの間に逆相関および有意相関があった。さらに、82人のSTEMI患者の追跡調査におけるアポJ-GlcNAc+Neu5Acレベルの変化を見ると、アポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルが入院時よりもイベント3日後でさえもより一層低い患者がより高いGRACEリスクスコアを示すことが観察された(P=0.002;図9B)。同様に、アポJ-GlcNAcレベルも、GRACEリスクスコアと逆相関および有意相関していた(R=-0.184 P=0.0006;図9C)。これらの全ての結果は、虚血性イベントの関わりにおけるリスク層別化マーカーとしてアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcおよびアポJ-GlcNAcが予想外の役割を果たすことを指摘している。
【0155】
さらに、Kaplan-Meier生存分析により明らかになったことは、入院時のSTEMI群の中央値よりもアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAc値が低い患者が、6ヵ月の追跡調査後に再発虚血性イベントの出現および死亡率について有意差を示すことである(P=0.008;図10A)。この効果は、同じ分析をT-トロポニンを用いて行った場合には見られなかった(P=0.363;図10B)。Kaplan-Meier生存分析により、アポJ-GlcNAcレベルが入院時の最低四分位内にあるSTEMI患者(<236.8μg/mL)が6カ月の追跡調査で生存率の有意な低下を示すことが明らかになったように(P=0.015;図10C)、アポJ-GlcNAcレベルも予後診断値を有する。6ヶ月の追跡調査後の再発虚血性イベントおよび死亡率の両方の出現を、アポJ-GlcNAcレベルが入院時の最低四分位内にあるSTEMI患者と、入院時により高いアポJ-GlcNAcレベルを示すSTEMI患者(P=0.031;図10D)との間のKaplan-Meier分析におけるエンドポイントとした場合、有意差も観察された。したがって、結果は、虚血提示後の予後診断マーカーとしてのアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcおよびアポJ-GlcNAc血漿レベルの役割を指摘する。
【0156】
実施例3
安定冠動脈疾患(CAD)の関わりにおける再発虚血性イベント(心臓または脳のいずれか)を提示するための予測値アポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAc
本研究は、安定冠動脈疾患(CAD)の関わりおける再発虚血性イベント(心臓または脳)を提示するための予測値である、アポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAc測定の別の予想外の特性を示した。サンプル採取から平均0.6±0.04年前に急性冠動脈症候群(ACS)に罹患しており、その後2.3±0.3年にわたって追跡調査した慢性CAD患者(N=34)の群におけるアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルを分析した(図11A)。2つの患者群から血漿サンプルを得た:追跡調査時に急性虚血性イベント(任意の急性冠動脈症候群(ACS)、脳卒中または一過性脳虚血性イベント(TIA))に罹患した患者(N=16)と、追跡期間中に急性虚血性イベント(N=18)を有さなかった患者。両群の間で、年齢、糖尿病および高血圧の発生、ならびにコレステロールパラメータついて有意差はなかった。含まれた患者のいずれも喫煙者ではなく、患者の全てがサンプル採取時に抗血小板療法の下にあった。再発イベントに罹患した患者は、追跡調査時に何らのイベントもなかった患者よりも、イベントに罹患する前にアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルが28%低いことを示した(図11B)。実際、受信者動作曲線(ROC)は、安定CAD患者における再発虚血性イベントを提示するためのアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルの予測値を示した(図11C)。具体的に、本研究では、485μg/mL未満のアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルは、安定CAD患者において感度94%および特異度64%で再発虚血性イベントの提示を予測することができた(表2)。したがって、アポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcは、安定CADを有する患者における再発急性虚血性イベントの提示に先立つ「隠れた」虚血プロセスのマーカーとしての追加の価値を示す。
【0157】
実施例4
脳虚血におけるバイオマーカーとしてのアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcの役割
さらに、174人の脳卒中患者におけるアポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcレベルの測定により、164人の健常対照(脳卒中:418±7対C:453±7μg/mL;P=0.0008;図12)と比較した場合、8%の減少を明らかとなり、アポJ-GlcNAc+Neu5Ac+アポJ-GlcNAcも脳虚血のバイオマーカーであることが強調される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6AB
図6CD
図7AB
図7C
図8
図9AB
図9C
図10AB
図10CD
図11
図12