(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20220519BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/36
(21)【出願番号】P 2019548229
(86)(22)【出願日】2018-10-11
(86)【国際出願番号】 JP2018037875
(87)【国際公開番号】W WO2019074042
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2017199098
(32)【優先日】2017-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【氏名又は名称】永岡 重幸
(74)【代理人】
【識別番号】100125335
【氏名又は名称】矢代 仁
(72)【発明者】
【氏名】宮野 裕史
(72)【発明者】
【氏名】秋元 健人
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-036241(JP,A)
【文献】特開2002-147478(JP,A)
【文献】特開2009-264416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78
F16C 19/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の相対的に回転する内側部材と外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置であって、
前記内側部材に固定される環状の内側シール部材と、
前記外側部材の孔の内面に固定され、前記内側シール部材が摺動可能に接触する環状の外側シール部材とを備え、
前記内側シール部材は、
前記内側部材に固定されるスリーブと、
前記スリーブの大気側の端部に一体に連結されて前記スリーブの外側に放射状に広がるフランジとを有しており、
前記外側シール部材は、
剛性材料から形成された剛性部と、
前記剛性部に固定された弾性材料から形成された弾性部とを備え、
前記弾性部には、前記内側シール部材の前記スリーブに摺動可能に接触するシールリップが形成され、
前記弾性部には、前記内側シール部材の前記フランジに摺動可能に接触するダストリップが形成され、
前記剛性部は、
前記外側部材の孔の内面に嵌め込まれる円筒部分と、
前記円筒部分の大気側の端部に一体に連結されて前記円筒部分の径方向内側に向けて延びる円環部分と、
前記円環部分から大気側に向けて前記外側シール部材の軸線方向に突出する複数の軸線方向突出部分と、
手または治具で前記外側シール部材が引っ張られることを案内する少なくとも1つの案内部とを備える
ことを特徴とする密封装置。
【請求項2】
各軸線方向突出部分の径方向外側の面には、前記案内部として、径方向内側に向けて延びる凹部または径方向外側に突出する突起が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
各軸線方向突出部分の径方向外側の面には、前記案内部として、径方向内側に向けて延びる凹部が形成されており、
前記弾性部は、前記凹部を塞いで、各軸線方向突出部分の径方向外側の面を覆っており、
前記弾性部の各軸線方向突出部分の径方向外側の面を覆う部分において、前記弾性部の前記凹部を塞ぐ部分は凹んでいる
ことを特徴とする請求項2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記円環部分に、前記案内部として、少なくとも1つの貫通孔が形成されており、前記貫通孔は、いずれかの前記軸線方向突出部分の径方向外側に配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項5】
前記円環部分に、前記案内部として、少なくとも1つのネジ孔が形成されており、前記ネジ孔は、いずれかの前記軸線方向突出部分の径方向外側に配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項6】
前記複数の軸線方向突出部分は、前記円環部分のうち周方向に角間隔をおいて離れた複数の箇所が折り曲げられた形状を有し、
前記円環部分のうち前記複数の軸線方向突出部分が形成されていない複数の箇所は、前記円環部分から径方向内側に向けて延びた複数の内側延長部分に連続しており、
前記軸線方向突出部分および前記内側延長部分には、前記弾性部が固定されている
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項7】
前記弾性部は、前記内側シール部材の前記フランジに向けて延びる円筒状の筒壁部分を備え、前記複数の軸線方向突出部分は前記筒壁部分に埋設されており、前記筒壁部分と前記フランジとの間には間隙が設けられている
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項8】
前記内側シール部材は、前記フランジの外端縁から軸受内部側に向けて前記内側シール部材の軸線方向に延びる外側スリーブをさらに備え、
前記外側スリーブは、前記筒壁部分の外側に配置され、
前記筒壁部分と前記外側スリーブとの間には間隙が設けられている
ことを特徴とする請求項7に記載の密封装置。
【請求項9】
前記外側シール部材の前記弾性部は、前記複数の軸線方向突出部分の径方向内側に配置され、前記剛性部に支持された環状の基部を備え、
前記ダストリップは、前記基部から大気側かつ径方向内側に向けて延びる基端部分と、前記基端部分から大気側かつ径方向外側に向けて延びる先端部分とを備え、
前記先端部分が前記内側シール部材の前記フランジに摺動可能に接触する
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項10】
前記シールリップは、前記基部から大気側かつ径方向内側に向けて延びる基端部分と、前記基端部分から軸受内部側かつ径方向内側に向けて延びる先端部分とを備え、
前記シールリップの前記先端部分が前記内側シール部材の前記スリーブの外周面に摺動可能に接触する
ことを特徴とする請求項9に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受の内部を密封する密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鉄道車両での使用に適した転がり軸受の内部を密封する密封装置が開示されている。この密封装置は、回転式の機械要素に支持される内部リングと、密封されるべき筐体に支持されるエラストマー材製のシール本体を備える外部リングとを備える。シール本体には、内部リングに向けて延びる複数のリップが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄道車両またはトラック、バスなどの大型自動車の転がり軸受は、大きな荷重を受け、多量のダストにさらされ、大幅な温度変化の影響を受ける。特に鉄道車両の周囲には、鉄道の摩耗により発生した多量の鉄粉が存在する。転がり軸受の補修に伴って、密封装置を交換する必要性がある。したがって、容易に取り外すことが可能な密封装置が望まれている。
【0007】
そこで、本発明は、容易に取り外すことができる密封装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様に係る密封装置は、転がり軸受の相対的に回転する内側部材と外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置であって、前記内側部材に固定される環状の内側シール部材と、前記外側部材の孔の内面に固定され、前記内側シール部材が摺動可能に接触する環状の外側シール部材とを備える。前記内側シール部材は、前記内側部材に固定されるスリーブと、前記スリーブの大気側の端部に一体に連結されて前記スリーブの外側に放射状に広がるフランジとを有する。前記外側シール部材は、剛性材料から形成された剛性部と、前記剛性部に固定された弾性材料から形成された弾性部とを備え、前記弾性部には、前記内側シール部材の前記スリーブに摺動可能に接触するシールリップが形成され、前記弾性部には、前記内側シール部材の前記フランジに摺動可能に接触するダストリップが形成されている。前記剛性部は、前記外側部材の孔の内面に嵌め込まれる円筒部分と、前記円筒部分の大気側の端部に一体に連結されて前記円筒部分の径方向内側に向けて延びる円環部分と、前記円環部分から大気側に向けて前記外側シール部材の軸線方向に突出する複数の軸線方向突出部分と、手または治具で前記外側シール部材が引っ張られることを案内する少なくとも1つの案内部とを備える。
【0009】
この態様においては、外側シール部材の剛性部の円筒部分が孔の内面に嵌め込まれることによって、外側シール部材は孔に固定される。外側シール部材の剛性部は、手または治具で外側シール部材が引っ張られることを案内する少なくとも1つの案内部を有しており、案内部を用いて外側シール部材を軸線方向に沿って引っ張ることにより、外側シール部材を、好ましくは内側シール部材と一緒に、転がり軸受の外側部材の孔から抜き出すことができる。外側シール部材の剛性部は、複数の軸線方向突出部分を有しており、軸線方向突出部分によって剛性部は外側シール部材の軸線方向に補強されているため、軸線方向に沿って引っ張る際、剛性部は破損しにくい。したがって、密封装置を容易に取り外すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る密封装置の断面図である。
【
図2】
図1の密封装置の剛体部分を示す斜視図である。
【
図3】転がり軸受から取り外される第1実施形態に係る密封装置の断面図である。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る密封装置の断面図である。
【
図5】転がり軸受から取り外される本発明の第3実施形態に係る密封装置の断面図である。
【
図6】
図5の密封装置の剛体部分を示す斜視図である。
【
図7】本発明の第4実施形態に係る密封装置の断面図である。
【
図8】
図7の密封装置の剛体部分を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る複数の実施の形態を説明する。
【0016】
第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る密封装置1が使用される転がり軸受2の一例である鉄道車両の車軸の軸受を示す。但し、本発明の用途は、鉄道車両の軸受には限定されず、トラック、バスなどの大型自動車の車軸の軸受にも本発明は適用可能である。また、図示の転がり軸受2は、RCT(Rotating End Cap Tapered Roller)軸受であるが、本発明の用途は、RCT軸受には限定されず、他の種類の転動体を有する、RCC(Rotating End Cap Cylindrical Roller)軸受、玉軸受、針軸受などの他の転がり軸受にも本発明は適用可能である。
【0017】
図1に示すように、転がり軸受2は、車軸4が内部に挿入される内輪(内側部材)6と、内輪6の外側に配置された外輪(外側部材)8と、内輪6と外輪8の間に1列に配置された複数のローラー10と、ローラー10を定位置に保持する保持器14とを有する。外輪8が固定されている一方で、内輪6は、車軸4の回転に伴って回転する。保持器14は外輪8に固定されている。
【0018】
密封装置1は、相対的に回転する内輪6と外輪8との間に配置され、内輪6と外輪8との間の間隙を封止する。密封装置1の作用により、転がり軸受2の内部からのグリース、すなわち潤滑剤の流出が防止または低減されるとともに、外部から転がり軸受2の内部への異物(水(泥水または塩水を含む)および/またはダスト(鉄粉を含む))の流入が防止または低減される。
図1において、矢印Dは、外部からの異物の流れの方向の例を示す。
【0019】
図1においては、車軸4に対する左側部分のみが示されているが、密封装置1および転がり軸受2は回転対称な形状を有する。
図1の上側は、軸受内部側Bであり、下側は大気側Aである。但し、転がり軸受2を挟んで、密封装置1の反対側にも密封装置1と類似の密封装置が設けられる。
【0020】
密封装置1は、環状の内側シール部材20と、環状の外側シール部材30とを備える。内側シール部材20は、内輪6に固定される。外側シール部材30は、外輪8の孔8Aの内面に固定され、外側シール部材30には内側シール部材20が摺動可能に接触する。
【0021】
内側シール部材20は、剛性材料、例えば金属から形成されている。内側シール部材20は、スリーブ22と、フランジ24と、外側スリーブ26とを備える。スリーブ22は内輪6に固定される。固定の方式は、例えば締まり嵌めであってよい。フランジ24は、スリーブ22の大気側の端部に一体に連結されてスリーブ22の外側に放射状に広がる。外側スリーブ26は、フランジ24の外端縁から軸受内部側Bに向けて内側シール部材20の軸線方向に延びる。
【0022】
外側シール部材30は、剛性材料、例えば金属から形成された剛性部32と、弾性材料、例えばエラストマーから形成された弾性部34とを備える二重構造を有する。剛性部32は、弾性部34を補強する。
【0023】
剛性部32は、外輪8の孔8Aの内面に固定される円筒部分36と、円環部分38と、複数の軸線方向突出部分40と、複数の内側延長部分42とを有する。
【0024】
円筒部分36は、外輪8の孔8Aの内面に締まり嵌めによって嵌め込まれる。円筒部分36の軸受内部側Bの端部36aは、径方向外側に広がったフックとして形成されている。孔8Aには周溝すなわち凹部8Bが形成されており、円筒部分36の端部36aは、凹部8Bに嵌め込まれる。
【0025】
円環部分38は、円筒部分36の大気側Aの端部に一体に連結されて円筒部分36の径方向内側に向けて延びる。円環部分38は、外側シール部材30の軸線方向に垂直な平面内に延びている。
【0026】
複数の軸線方向突出部分40は、円環部分38から大気側Aに向けて外側シール部材30の軸線方向に突出する。
図2に示すように、複数の軸線方向突出部分40は、円環部分38のうち周方向に角間隔をおいて離れた複数の箇所が折り曲げられた形状を有する。また、円環部分38のうち複数の軸線方向突出部分40が形成されていない複数の箇所は、円環部分38から径方向内側に向けて延びた複数の内側延長部分42に連続している。好ましくは、軸線方向突出部分40は等角間隔をおいて配置され、内側延長部分42も等角間隔をおいて配置されるが、これらの角間隔が等しくなくてもよい。この実施形態では、8つの軸線方向突出部分40および8つの内側延長部分42が設けられているが、軸線方向突出部分40の個数および内側延長部分42の個数は、2以上の限定されない数であってよい。
【0027】
図1に戻り、各軸線方向突出部分40の径方向外側の面には、径方向内側に向けて延びる凹部(案内部)44が形成されている。この実施形態では、凹部44は貫通孔であるが、凹部44は軸線方向突出部分40を貫通していなくてもよい。
【0028】
弾性部34は、剛性部32に支持された環状の基部50と、シールリップ52と、ダストリップ54と、径方向突起56と、筒壁部分60とを有する。
【0029】
弾性部34の基部50は、剛性部32の複数の軸線方向突出部分40の径方向内側に配置された円環状の部分であり、剛性部32の複数の内側延長部分42に固定されている。周方向に連続する円環状の基部50には、周方向に間欠的に配置された複数の内側延長部分42の全体が埋設されており、内側延長部分42は基部50を補強する。
【0030】
シールリップ52は、基部50から延びて、内側シール部材20のスリーブ22の外周面に摺動可能に接触する板状の環である。シールリップ52は、主に軸受内部側Bから大気側Aへのグリースの漏れを防止または低減する機能を有する。シールリップ52は、基部50から大気側Aかつ径方向内側に向けて延びる基端部分52aと、基端部分52aから軸受内部側Bかつ径方向内側に向けて延びる先端部分52bとを有しており、先端部分52bが内側シール部材20のスリーブ22の外周面に全周にわたって摺動可能に接触する。基端部分52aの厚さは、先端部分52bの厚さよりも大きい。
【0031】
ダストリップ54は、基部50から延びて、内側シール部材20のフランジ24の軸受内部側B側の側面に摺動可能に接触する板状の環である。ダストリップ54は、主に大気側Aから軸受内部側Bへの異物の侵入を防止または低減する機能を有する。ダストリップ54は、基部50から大気側Aかつ径方向内側に向けて延びる基端部分54aと、基端部分54aから大気側Aかつ径方向外側に向けて延びる先端部分54bとを有しており、先端部分54bが内側シール部材20のフランジ24の軸受内部側B側の側面に全周にわたって摺動可能に接触する。基端部分54aの厚さは、先端部分54bの厚さよりも大きい。
【0032】
径方向突起56は、基部50の内端縁から径方向内側に向けて突出する。径方向突起56は、径方向外側が広く、内側が狭い台形の断面を有する。径方向突起56は、内側シール部材20とは接触せず、径方向突起56と内側シール部材20のスリーブ22との間には、円環状の小さい間隙58が設けられる。間隙58は、軸受内部側Bから大気側Aへのグリースの流れを阻害し、シールリップ52に到達するグリースの量を低減することによって、シールリップ52の封止性能を補助する。
【0033】
筒壁部分60は、基部50の外端縁から内側シール部材20のフランジ24に向けて延びる円筒状の部分であり、剛性部32の複数の軸線方向突出部分40に固定されている。周方向に連続する円筒状の筒壁部分60には、周方向に間欠的に配置された複数の軸線方向突出部分40の全体が埋設されており、軸線方向突出部分40は筒壁部分60を補強する。
【0034】
弾性部34には、剛性部32の内側延長部分42だけでなく、円環部分38の一部および複数の軸線方向突出部分40の全体も埋設されている。具体的には、円環部分38の大気側Aの面の一部は、弾性部34の一部分62で覆われ、円環部分38の軸受内部側Bの面の一部は、弾性部34の一部分64で覆われ、軸線方向突出部分40は、弾性部34の筒壁部分60で覆われている。但し、円環部分38は、弾性材料で覆われていなくてもよい。
【0035】
外側シール部材30の剛性部32に間欠的に設けられた複数の軸線方向突出部分40および弾性部34の筒壁部分60は、内側シール部材20のフランジ24に向けて延びている。筒壁部分60は、フランジ24には接触せず、筒壁部分60とフランジ24との間には間隙68が設けられている。
【0036】
内側シール部材20の外側スリーブ26は、筒壁部分60の外側に配置されている。筒壁部分60は、外側スリーブ26には接触せず、筒壁部分60と外側スリーブ26との間には間隙70が設けられている。
【0037】
この実施形態では、軸線方向突出部分40が弾性部34の筒壁部分60で覆われていることにより、弾性部34は、軸線方向突出部分40に形成された凹部44を塞いでいる。弾性部34の筒壁部分60の各軸線方向突出部分40の径方向外側の面を覆う部分において、弾性部34の凹部44を塞ぐ部分72は凹んでいる。密封装置1の製造において、弾性部34の材料が凹部44の付近で大きく収縮することにより、部分72を凹ませることができる。あるいは、密封装置1の製造後に、部分72を凹ませる作業を行ってもよい。
【0038】
転がり軸受2の補修に伴って、密封装置1を交換する必要性がある。
図3を参照して、密封装置1の取り外し作業を説明する。
【0039】
まず、複数の治具74を準備する。治具74は、長尺なハンドル部74aと、ハンドル部74aに対して屈曲した先端部74bとを有する。作業者はハンドル部74aを握る。
【0040】
そして、各治具74の先端部74bを、密封装置1の外側シール部材30の剛性部32の軸線方向突出部分40に形成された凹部44に挿入することにより、治具74で凹部44を捕捉する。この実施形態のように、凹部44が弾性部34の部分で塞がれている場合には、その部分を先端部74bで大きく圧縮する。その部分が破損してもよい。
【0041】
この状態で、治具74により、外側シール部材30に対して径方向内側に向かう力Fを与えて、外側シール部材30の弾性部34ひいては剛性部32を径方向に圧縮することによって、外輪8の孔8Aの内面から外側シール部材30の剛性部32の円筒部分36を部分的に離す。
【0042】
次に、凹部44に先端部74bが挿入された治具74を力Sで引くことにより、外側シール部材30を軸線方向に移動させて、外側シール部材30を転がり軸受2の外輪8の孔8Aから抜き出すことができる。一旦、外輪8の孔8Aの内面から外側シール部材30の剛性部32の円筒部分36を部分的に離せば、外側シール部材30の弾性変形を利用して、外側シール部材30を転がり軸受2の外輪8の孔8Aから抜き出すのは容易である。外側シール部材30を抜き出すことに伴い、外側シール部材30の筒壁部分60にフランジ24が押されて、内輪6に固定された内側シール部材20も外側シール部材30と一緒に抜き出すことができる。このようにして、密封装置1を容易に取り外すことが可能である。但し、外側シール部材30と内側シール部材20を同時に取り外すことは必須ではなく、内側シール部材20を内輪6から引き抜いた後に、外側シール部材30を外輪8から引き抜いてもよい。
【0043】
この取り外し作業は、複数の治具74を用いるが、治具74の代わりに、作業者の手を用いてもよい。また、複数の治具74を用いる場合であっても、治具74は、外側シール部材30に力Sを与えて外側シール部材30を外輪8の孔8Aから抜き出すことだけに使用してもよい。すなわち、作業者の手または他の治具を用いて、外側シール部材30に径方向内側に向かう力Fを与えて外側シール部材30を径方向に圧縮してもよい。
【0044】
この実施形態においては、剛性部32には、転がり軸受2の外輪8の孔8Aの内面に嵌め込まれる円筒部分36が設けられており、さらに円筒部分36の端部36aは孔8Aの凹部8Bに嵌め込まれている。しかし、複数の軸線方向突出部分40を利用して外側シール部材30に対して径方向内側に向かう力を与えて、外側シール部材30の弾性部34ひいては剛性部32を径方向に圧縮することによって、外輪8の孔8Aの内面から外側シール部材30の剛性部32の円筒部分36を部分的に離すことができる。各軸線方向突出部分40の径方向外側の面には、径方向内側に向けて延びる凹部44が形成されている。凹部44を手または治具74で捕捉することにより、外側シール部材30に対して径方向内側に向かう力を与えるのが容易である。また、外輪8の孔8Aの内面から外側シール部材30の剛性部32の円筒部分36を離した後、凹部44を捕捉した手または治具74を引くことにより、外側シール部材30を軸線方向に移動させて、外側シール部材30を転がり軸受2の外輪8の孔8Aから抜き出すことができる。一旦、外輪8の孔8Aの内面から外側シール部材30の剛性部32の円筒部分36を部分的に離せば、外側シール部材30の弾性変形を利用して、外側シール部材30を転がり軸受2の外輪8の孔8Aから抜き出すのは容易である。外側シール部材30の剛性部32は、複数の軸線方向突出部分40を有しており、軸線方向突出部分40によって剛性部32は外側シール部材30の軸線方向に補強されているため、軸線方向に沿って引っ張る際、剛性部32は破損しにくい。したがって、密封装置1を容易に取り外すことが可能である。
【0045】
この実施形態では、軸線方向突出部分40に形成された凹部44が弾性部34の部分で塞がれている。しかし、弾性部34の各軸線方向突出部分40の径方向外側の面を覆う部分において、弾性部34の凹部44を塞ぐ部分72は凹んでいる。このため、軸線方向突出部分40の径方向外側の面が弾性部34で覆われていても、凹部44の位置を目視で容易に認識することができる。
【0046】
この実施形態では、複数の軸線方向突出部分40は、剛性部32の円環部分38のうち周方向に角間隔をおいて離れた複数の箇所が折り曲げられた形状を有し、円環部分38のうち複数の軸線方向突出部分40が形成されていない複数の箇所は、円環部分38から径方向内側に向けて延びた複数の内側延長部分42に連続している。このように、剛性部32に複数の軸線方向突出部分40が設けられるだけでなく、周方向に角間隔をおいて離れた複数の内側延長部分42が剛性部32に設けられている。これらの軸線方向突出部分40および内側延長部分42は弾性部34を補強する。したがって、シールリップ52およびダストリップ54が設けられた弾性部34の強度が高められる。
【0047】
この実施形態では、弾性部34は、内側シール部材20のフランジ24に向けて延びる円筒状の筒壁部分60を備え、複数の軸線方向突出部分40は筒壁部分60に埋設されており、筒壁部分60とフランジ24との間には間隙68が設けられている。内側シール部材20の外側スリーブ26は、筒壁部分60の外側に配置され、筒壁部分60と外側スリーブ26との間には間隙70が設けられている。外部からの異物が密封装置1に侵入しようとしても、多くの異物が、外側シール部材30の筒壁部分60、内側シール部材20の外側スリーブ26、または内側シール部材20のフランジ24によって跳ね返される。筒壁部分60と外側スリーブ26との間の間隙70、および筒壁部分60とフランジ24との間の間隙68を通過した異物がダストリップ54に到達するが、これらの間隙68,70を小さく設定することによって、ダストリップ54に到達する異物の量を削減することができる。筒壁部分60は、これに埋設された複数の軸線方向突出部分40で補強されているので、異物から受ける力が強くても、力に耐えることができる。
【0048】
この実施形態では、ダストリップ54は、径方向内側に向けて延びる基端部分54aと径方向外側に向けて延びる先端部分54bとを備え、先端部分54bが内側シール部材20のフランジ24に摺動可能に接触する。したがって、転がり軸受2に挿入される車軸4または転がり軸受2の内輪6が偏心していたり、低い真円度を有していたりしても、ダストリップ54はフランジ24に対して全周にわたってほぼ均等な力で接触する。このようにして、ダストリップ54の封止性能が全周にわたって確保される。また、ダストリップ54の先端部分54bは、フランジ24に対して、径方向ではなく軸線方向に力を及ぼすので、軸に与えるトルクが増大することを抑制することができる。
【0049】
この実施形態では、シールリップ52は、大気側Aに向けて延びる基端部分52aと軸受内部側Bに向けて延びる先端部分52bとを備える屈曲した形状を有し、先端部分52bが内側シール部材20のスリーブ22の外周面に摺動可能に接触する。シールリップ52が屈曲した形状を有するので、シールリップ52は変形しやすい。したがって、転がり軸受2に挿入される車軸4または転がり軸受2の内輪6が偏心していたり、低い真円度を有していたりしても、シールリップ52はフランジ24に対して全周にわたってほぼ均等な力で接触する。このようにして、シールリップ52の封止性能が全周にわたって確保される。
【0050】
第2実施形態
図4は、本発明の第2実施形態に係る密封装置の断面図である。
図4以降の図面において、第1実施形態と共通する構成要素を示すため、同一の符号が使用され、それらの構成要素については詳細には説明しない。
【0051】
この実施形態では、各軸線方向突出部分40の径方向外側の面には、凹部44の代わりに、径方向外側に突出する突起(案内部)78が形成されている。他の特徴は第1実施形態と同じである。
【0052】
密封装置1の取り外し作業では、第1実施形態と同様に、複数の治具74を用いることができる。作業者はハンドル部74aを握る。
【0053】
そして、各治具74の先端部74bを、密封装置1の外側シール部材30の剛性部32の軸線方向突出部分40に形成された突起78に引っかけることにより、治具74で突起78を捕捉する。
【0054】
この状態で、治具74により、外側シール部材30に対して径方向内側に向かう力Fを与えて、外側シール部材30の弾性部34および剛性部32を径方向に圧縮することによって、外輪8の孔8Aの内面から外側シール部材30の剛性部32の円筒部分36を部分的に離す。
【0055】
次に、突起78に先端部74bが引っかけられた治具74を力Sで引くことにより、外側シール部材30を軸線方向に移動させて、外側シール部材30を転がり軸受2の外輪8の孔8Aから抜き出すことができる。一旦、外輪8の孔8Aの内面から外側シール部材30の剛性部32の円筒部分36を部分的に離せば、外側シール部材30の弾性変形を利用して、外側シール部材30を転がり軸受2の外輪8の孔8Aから抜き出すのは容易である。外側シール部材30を抜き出すことに伴い、外側シール部材30にフランジ24が押されて、内輪6に固定された内側シール部材20も外側シール部材30と一緒に抜き出すことができる。このようにして、密封装置1を容易に取り外すことが可能である。但し、外側シール部材30と内側シール部材20を同時に取り外すことは必須ではなく、内側シール部材20を内輪6から引き抜いた後に、外側シール部材30を外輪8から引き抜いてもよい。
【0056】
この取り外し作業は、治具74を用いるが、治具74の代わりに、作業者の手を用いてもよい。
【0057】
この実施形態においては、剛性部32には、転がり軸受2の外輪8の孔8Aの内面に嵌め込まれる円筒部分36が設けられており、さらに円筒部分36の端部36aは孔8Aの凹部8Bに嵌め込まれている。しかし、複数の軸線方向突出部分40を利用して外側シール部材30に対して径方向内側に向かう力を与えて、外側シール部材30の弾性部34ひいては剛性部32を径方向に圧縮することによって、外輪8の孔8Aの内面から外側シール部材30の剛性部32の円筒部分36を部分的に離すことができる。各軸線方向突出部分40の径方向外側の面には、径方向外側に向けて突出する突起78が形成されている。突起78を手または治具74で捕捉することにより、外側シール部材30に対して径方向内側に向かう力を与えるのが容易である。また、外輪8の孔8Aの内面から外側シール部材30の剛性部32の円筒部分36を離した後、突起78を捕捉した手または治具74を引くことにより、外側シール部材30を軸線方向に移動させて、外側シール部材30を転がり軸受2の外輪8の孔8Aから抜き出すことができる。一旦、外輪8の孔8Aの内面から外側シール部材30の剛性部32の円筒部分36を部分的に離せば、外側シール部材30の弾性変形を利用して、外側シール部材30を転がり軸受2の外輪8の孔8Aから抜き出すのは容易である。外側シール部材30の剛性部32は、複数の軸線方向突出部分40を有しており、軸線方向突出部分40によって剛性部32は外側シール部材30の軸線方向に補強されているため、軸線方向に沿って引っ張る際、剛性部32は破損しにくい。したがって、密封装置1を容易に取り外すことが可能である。
【0058】
この実施形態では、複数の軸線方向突出部分40に形成された突起78を利用して、外側シール部材30を外輪8の孔8Aから取り外す。突起78の位置は目視で容易に認識することができる。
【0059】
第3実施形態
図5は、転がり軸受2から取り外される本発明の第3実施形態に係る密封装置1の断面図であり、
図6は密封装置1の剛体部分32を示す斜視図である。
【0060】
この実施形態では、外側シール部材30の剛性部32の円環部分38に、少なくとも1つの貫通孔(案内部)80が形成されている。好ましくは、
図6に示すように、円環部分38には、複数の貫通孔80が形成されている。好ましくは、貫通孔80は等角間隔をおいて配置されるが、角間隔が等しくなくてもよい。この実施形態では、8つの軸線方向突出部分40に対応する8つの貫通孔80が設けられているが、貫通孔80の個数は、1以上の限定されない数であってよい。この実施形態では、貫通孔80は細長い開口であるが、貫通孔80の形状は後述するように治具84の先端部84bが挿入可能な形状である限り、任意である。
【0061】
各貫通孔80は、いずれかの軸線方向突出部分40の径方向外側に配置されている。この実施形態では、各貫通孔80は、軸線方向突出部分40の周方向中央部の径方向外側に配置されているが、他の位置に配置されていてもよい。この実施形態では、剛性部32の円環部分38が弾性部34で覆われていることにより、弾性部34は、円環部分38に形成された貫通孔80を塞いでいる。他の特徴は第1実施形態と同じである。
【0062】
密封装置1の取り外し作業では、少なくとも1つの治具84を用いることができる。治具84は、長尺なハンドル部84aと、ハンドル部84aに対して屈曲した先端部84bとを有する。作業者はハンドル部84aを握る。
【0063】
そして、各治具84の先端部84bを、密封装置1の外側シール部材30の剛性部32の円環部分38に形成された貫通孔80に挿入し、先端部84bを円環部分38に引っかけることにより、治具84で外側シール部材30を捕捉する。この実施形態のように、貫通孔80が弾性部34の部分で塞がれている場合には、その部分を先端部84bで突き破ってよい。
【0064】
次に、円環部分38に先端部84bが引っかけられた治具84を力Sで引くことにより、外側シール部材30を軸線方向に移動させて、外側シール部材30を転がり軸受2の外輪8の孔8Aから抜き出すことができる。外側シール部材30を抜き出すことに伴い、外側シール部材30にフランジ24が押されて、内輪6に固定された内側シール部材20も外側シール部材30と一緒に抜き出すことができる。このようにして、密封装置1を容易に取り外すことが可能である。但し、外側シール部材30と内側シール部材20を同時に取り外すことは必須ではなく、内側シール部材20を内輪6から引き抜いた後に、外側シール部材30を外輪8から引き抜いてもよい。
【0065】
軸線方向突出部分40によって剛性部32は外側シール部材30の軸線方向に補強されており、貫通孔80は、いずれかの軸線方向突出部分40の径方向外側に配置されているため、円環部分38を軸線方向に沿って引っ張る際、剛性部32の貫通孔80の周囲の部分は破損しにくい。
【0066】
弾性部34の貫通孔80を塞ぐ部分は凹んでいるのが好ましい。この実施形態では、剛性部32の円環部分38が弾性部34で覆われていることにより、弾性部34は、円環部分38に形成された貫通孔80を塞いでいるが、この部分が凹んでいれば、貫通孔80の位置を目視で容易に認識することができる。密封装置1の製造において、弾性部34の材料が貫通孔80の付近で大きく収縮することにより、貫通孔80を塞ぐ部分を凹ませることができる。あるいは、密封装置1の製造後に、この部分を凹ませる作業を行ってもよい。
【0067】
第4実施形態
図7は、本発明の第4実施形態に係る密封装置1の断面図であり、
図8は密封装置1の剛体部分32を示す斜視図である。
【0068】
この実施形態では、外側シール部材30の剛性部32の円環部分38に、少なくとも1つのネジ孔(案内部)90が形成されている。好ましくは、
図8に示すように、円環部分38には、複数のネジ孔90が形成されている。好ましくは、ネジ孔90は等角間隔をおいて配置されるが、角間隔が等しくなくてもよい。この実施形態では、8つの軸線方向突出部分40に対応する8つのネジ孔90が設けられているが、ネジ孔90の個数は、1以上の限定されない数であってよい。この実施形態では、ネジ孔90は、円環部分38の下面(大気側Aの面)に形成された貫通しない孔であるが、ネジ孔90は貫通孔であってもよい。
【0069】
各ネジ孔90は、いずれかの軸線方向突出部分40の径方向外側に配置されている。この実施形態では、各ネジ孔90は、軸線方向突出部分40の周方向中央部の径方向外側に配置されているが、他の位置に配置されていてもよい。この実施形態では、剛性部32の円環部分38が弾性部34で覆われていることにより、弾性部34は、円環部分38に形成されたネジ孔90を塞いでいる。他の特徴は第1実施形態と同じである。
【0070】
密封装置1の取り外し作業では、少なくとも1つの治具94を用いることができる。治具94は、ハンドル部94aと、ハンドル部94aに同軸の軸部94bとを有する。軸部94bの先端にはオネジ94cが形成されている。作業者はハンドル部94aを握る。
【0071】
そして、各治具94の軸部94bのオネジ94cを、密封装置1の外側シール部材30の剛性部32の円環部分38に形成されたネジ孔90に噛み合わせることにより、治具94で外側シール部材30を捕捉する。この実施形態のように、ネジ孔90が弾性部34の部分で塞がれている場合には、その部分を軸部94bで突き破ってよい。
【0072】
次に、円環部分38を軸部94bで捕捉した治具94を引っ張ることにより、外側シール部材30を軸線方向に移動させて、外側シール部材30を転がり軸受2の外輪8の孔8Aから抜き出すことができる。外側シール部材30を抜き出すことに伴い、外側シール部材30にフランジ24が押されて、内輪6に固定された内側シール部材20も外側シール部材30と一緒に抜き出すことができる。このようにして、密封装置1を容易に取り外すことが可能である。但し、外側シール部材30と内側シール部材20を同時に取り外すことは必須ではなく、内側シール部材20を内輪6から引き抜いた後に、外側シール部材30を外輪8から引き抜いてもよい。
【0073】
軸線方向突出部分40によって剛性部32は外側シール部材30の軸線方向に補強されており、ネジ孔90は、いずれかの軸線方向突出部分40の径方向外側に配置されているため、円環部分38を軸線方向に沿って引っ張る際、剛性部32のネジ孔90の周囲の部分は破損しにくい。
【0074】
弾性部34のネジ孔90を塞ぐ部分92は凹んでいるのが好ましい。この実施形態では、剛性部32の円環部分38が弾性部34で覆われていることにより、弾性部34は、円環部分38に形成されたネジ孔90を塞いでいるが、この部分92が凹んでいれば、ネジ孔90の位置を目視で容易に認識することができる。密封装置1の製造において、弾性部34の材料がネジ孔90の付近で大きく収縮することにより、ネジ孔90を塞ぐ部分92を凹ませることができる。あるいは、密封装置1の製造後に、この部分92を凹ませる作業を行ってもよい。
【0075】
他の変形例
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記の説明は本発明を限定するものではなく、本発明の技術的範囲において、構成要素の削除、追加、置換を含む様々な変形例が考えられる。
【0076】
例えば、密封装置のリップの形状および数は、上記のものに限定されない。
【0077】
上記の実施形態では、内側部材である内輪6が回転部材であり、外側部材である外輪8が静止部材である。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、互いに相対回転する複数の部材の密封に適用されうる。例えば、内側部材が静止し、外側部材が回転してもよいし、これらの部材のすべてが回転してもよい。
【0078】
本発明の態様は、下記の番号付けされた条項にも記載される。
【0079】
条項1. 転がり軸受の相対的に回転する内側部材と外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置であって、
前記内側部材に固定される環状の内側シール部材と、
前記外側部材の孔の内面に固定され、前記内側シール部材が摺動可能に接触する環状の外側シール部材とを備え、
前記内側シール部材は、
前記内側部材に固定されるスリーブと、
前記スリーブの大気側の端部に一体に連結されて前記スリーブの外側に放射状に広がるフランジとを有しており、
前記外側シール部材は、
剛性材料から形成された剛性部と、
前記剛性部に固定された弾性材料から形成された弾性部とを備え、
前記弾性部には、前記内側シール部材の前記スリーブに摺動可能に接触するシールリップが形成され、
前記弾性部には、前記内側シール部材の前記フランジに摺動可能に接触するダストリップが形成され、
前記剛性部は、
前記外側部材の孔の内面に嵌め込まれる円筒部分と、
前記円筒部分の大気側の端部に一体に連結されて前記円筒部分の径方向内側に向けて延びる円環部分と、
前記円環部分から大気側に向けて前記外側シール部材の軸線方向に突出する複数の軸線方向突出部分と、
手または治具で前記外側シール部材が引っ張られることを案内する少なくとも1つの案内部とを備える
ことを特徴とする密封装置。
【0080】
条項2. 各軸線方向突出部分の径方向外側の面には、前記案内部として、径方向内側に向けて延びる凹部または径方向外側に突出する突起が形成されている
ことを特徴とする条項1に記載の密封装置。
【0081】
この場合には、複数の軸線方向突出部分を利用して外側シール部材に径方向内側に向かう力を与えて、外側シール部材の弾性部ひいては剛性部を径方向に圧縮することによって、外側部材の孔の内面から外側シール部材の剛性部の円筒部分を部分的に離すことができる。各軸線方向突出部分の径方向外側の面には、案内部として、径方向内側に向けて延びる凹部または径方向外側に突出する突起が形成されている。凹部または突起を手または治具で捕捉することにより、外側シール部材に対して径方向内側に向かう力を与えるのが容易である。また、外側部材の孔の内面から外側シール部材の剛性部の円筒部分を離した後、凹部または突起を捕捉した手または治具を引くことにより、外側シール部材を、好ましくは内側シール部材と一緒に、軸線方向に移動させて、外側シール部材を転がり軸受の外側部材の孔から抜き出すことができる。一旦、外側部材の孔の内面から外側シール部材の剛性部の円筒部分を部分的に離せば、外側シール部材の弾性変形を利用して、外側シール部材を転がり軸受の外側部材の孔から抜き出すのは容易である。
【0082】
条項3. 各軸線方向突出部分の径方向外側の面には、前記案内部として、径方向内側に向けて延びる凹部が形成されており、
前記弾性部は、前記凹部を塞いで、各軸線方向突出部分の径方向外側の面を覆っており、
前記弾性部の各軸線方向突出部分の径方向外側の面を覆う部分において、前記弾性部の前記凹部を塞ぐ部分は凹んでいる
ことを特徴とする条項2に記載の密封装置。
【0083】
この場合には、案内部である凹部を塞ぐ弾性部の部分が凹んでいるため、軸線方向突出部分の径方向外側の面が弾性部で覆われていても、凹部の位置を目視で容易に認識することができる。
【0084】
条項4. 前記円環部分に、前記案内部として、少なくとも1つの貫通孔が形成されており、前記貫通孔は、いずれかの前記軸線方向突出部分の径方向外側に配置されている
ことを特徴とする条項1に記載の密封装置。
【0085】
この場合には、円環部分に形成された案内部である貫通孔に手の指または治具を挿入し、手の指または治具で円環部分を外側シール部材の軸線方向に沿って引っ張ることにより、外側シール部材を、好ましくは内側シール部材と一緒に、転がり軸受の外側部材の孔から抜き出すことができる。軸線方向突出部分によって剛性部は外側シール部材の軸線方向に補強されており、貫通孔は、いずれかの軸線方向突出部分の径方向外側に配置されているため、円環部分を軸線方向に沿って引っ張る際、剛性部の貫通孔の周囲の部分は破損しにくい。
【0086】
条項5. 前記円環部分に、前記案内部として、少なくとも1つのネジ孔が形成されており、前記ネジ孔は、いずれかの前記軸線方向突出部分の径方向外側に配置されている
ことを特徴とする条項1に記載の密封装置。
【0087】
この場合には、円環部分に形成された案内部であるネジ孔に治具のオネジを噛み合わせ、治具で円環部分を外側シール部材の軸線方向に沿って引っ張ることにより、外側シール部材を、好ましくは内側シール部材と一緒に、転がり軸受の外側部材の孔から抜き出すことができる。軸線方向突出部分によって剛性部は外側シール部材の軸線方向に補強されており、ネジ孔は、いずれかの軸線方向突出部分の径方向外側に配置されているため、軸線方向に沿って引っ張る際、剛性部のネジ孔の周囲の部分は破損しにくい。
【0088】
条項6. 前記複数の軸線方向突出部分は、前記円環部分のうち周方向に角間隔をおいて離れた複数の箇所が折り曲げられた形状を有し、
前記円環部分のうち前記複数の軸線方向突出部分が形成されていない複数の箇所は、前記円環部分から径方向内側に向けて延びた複数の内側延長部分に連続しており、
前記軸線方向突出部分および前記内側延長部分には、前記弾性部が固定されている
ことを特徴とする条項1から5のいずれか1項に記載の密封装置。
【0089】
この場合には、剛性部に複数の軸線方向突出部分が設けられるだけでなく、周方向に角間隔をおいて離れた複数の内側延長部分が剛性部に設けられ、これらの軸線方向突出部分および内側延長部分は弾性部を補強する。したがって、シールリップおよびダストリップが設けられた弾性部の強度が高められる。
【0090】
条項7. 前記弾性部は、前記内側シール部材の前記フランジに向けて延びる円筒状の筒壁部分を備え、前記複数の軸線方向突出部分は前記筒壁部分に埋設されており、前記筒壁部分と前記フランジとの間には間隙が設けられている
ことを特徴とする条項1から6のいずれか1項に記載の密封装置。
【0091】
この場合には、外部からの異物が密封装置に侵入しようとしても、多くの異物が、外側シール部材の筒壁部分、または内側シール部材のフランジによって跳ね返される。筒壁部分とフランジとの間の間隙を通過した異物がダストリップに到達するが、この間隙を小さく設定することによって、ダストリップに到達する異物の量を削減することができる。筒壁部分は、これに埋設された複数の軸線方向突出部分で補強されているので、異物から受ける力が強くても、力に耐えることができる。
【0092】
条項8. 前記内側シール部材は、前記フランジの外端縁から軸受内部側に向けて前記内側シール部材の軸線方向に延びる外側スリーブをさらに備え、
前記外側スリーブは、前記筒壁部分の外側に配置され、
前記筒壁部分と前記外側スリーブとの間には間隙が設けられている
ことを特徴とする条項7に記載の密封装置。
【0093】
この場合には、外部からの異物が密封装置に侵入しようとしても、多くの異物が、外側シール部材の筒壁部分、内側シール部材の外側スリーブ、または内側シール部材のフランジによって跳ね返される。筒壁部分と外側スリーブとの間の間隙、および筒壁部分とフランジとの間の間隙を通過した異物がダストリップに到達するが、これらの間隙を小さく設定することによって、ダストリップに到達する異物の量を削減することができる。
【0094】
条項9. 前記外側シール部材の前記弾性部は、前記複数の軸線方向突出部分の径方向内側に配置され、前記剛性部に支持された環状の基部を備え、
前記ダストリップは、前記基部から大気側かつ径方向内側に向けて延びる基端部分と、前記基端部分から大気側かつ径方向外側に向けて延びる先端部分とを備え、
前記先端部分が前記内側シール部材の前記フランジに摺動可能に接触する
ことを特徴とする条項1から8のいずれか1項に記載の密封装置。
【0095】
この場合には、ダストリップは、径方向内側に向けて延びる基端部分と径方向外側に向けて延びる先端部分とを備え、先端部分が内側シール部材のフランジに摺動可能に接触する。したがって、転がり軸受に挿入される軸または転がり軸受の内側部材が偏心していたり、低い真円度を有していたりしても、ダストリップはフランジに対して全周にわたってほぼ均等な力で接触する。このようにして、ダストリップの封止性能が全周にわたって確保される。また、ダストリップの先端部分は、フランジに対して、径方向ではなく軸線方向に力を及ぼすので、軸に与えるトルクが増大することを抑制することができる。
【0096】
条項10. 前記シールリップは、前記基部から大気側かつ径方向内側に向けて延びる基端部分と、前記基端部分から軸受内部側かつ径方向内側に向けて延びる先端部分とを備え、
前記シールリップの前記先端部分が前記内側シール部材の前記スリーブの外周面に摺動可能に接触する
ことを特徴とする条項9に記載の密封装置。
【0097】
この場合には、シールリップは、大気側に向けて延びる基端部分と軸受内部側に向けて延びる先端部分とを備える屈曲した形状を有し、先端部分が内側シール部材のスリーブの外周面に摺動可能に接触する。シールリップが屈曲した形状を有するので、シールリップは変形しやすい。したがって、転がり軸受に挿入される軸または転がり軸受の内側部材が偏心していたり、低い真円度を有していたりしても、シールリップはフランジに対して全周にわたってほぼ均等な力で接触する。このようにして、シールリップの封止性能が全周にわたって確保される。
【0098】
条項11. 転がり軸受の相対的に回転する内側部材と外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置であって、
前記内側部材に固定される環状の内側シール部材と、
前記外側部材の孔の内面に固定され、前記内側シール部材が摺動可能に接触する環状の外側シール部材とを備え、
前記内側シール部材は、
前記内側部材に固定されるスリーブと、
前記スリーブの大気側の端部に一体に連結されて前記スリーブの外側に放射状に広がるフランジとを有しており、
前記外側シール部材は、
剛性材料から形成された剛性部と、
前記剛性部に固定された弾性材料から形成された弾性部とを備え、
前記弾性部は、
前記剛性部に支持された環状の基部と、
前記基部から延びており、前記内側シール部材の前記フランジに摺動可能に接触するダストリップと、
前記基部から延びており、前記内側シール部材の前記スリーブの外周面に摺動可能に接触するシールリップと、
前記基部から前記内側シール部材の前記フランジに向けて延びる円筒状の筒壁部分とを備え、
前記筒壁部分と前記フランジとの間には間隙が設けられている
ことを特徴とする密封装置。
【0099】
条項12. 前記筒壁部分には、前記剛性部の部分が埋設されている
ことを特徴とする条項11に記載の密封装置。
【0100】
この場合には、筒壁部分は、これに埋設された剛性部の部分で補強されているので、異物から受ける力が強くても、力に耐えることができる。
【0101】
条項13. 前記内側シール部材は、前記フランジの外端縁から軸受内部側に向けて前記内側シール部材の軸線方向に延びる外側スリーブをさらに備え、
前記外側スリーブは、前記筒壁部分の外側に配置され、
前記筒壁部分と前記外側スリーブとの間には間隙が設けられている
ことを特徴とする条項11または12に記載の密封装置。
【0102】
この場合には、外部からの異物が密封装置に侵入しようとしても、多くの異物が、外側シール部材の筒壁部分、内側シール部材の外側スリーブ、または内側シール部材のフランジによって跳ね返される。筒壁部分と外側スリーブとの間の間隙、および筒壁部分とフランジとの間の間隙を通過した異物がダストリップに到達するが、これらの間隙を小さく設定することによって、ダストリップに到達する異物の量を削減することができる。
【0103】
条項14. 転がり軸受の相対的に回転する内側部材と外側部材との間に配置され、前記内側部材と前記外側部材との間の間隙を封止する密封装置であって、
前記内側部材に固定される環状の内側シール部材と、
前記外側部材の孔の内面に固定され、前記内側シール部材が摺動可能に接触する環状の外側シール部材とを備え、
前記内側シール部材は、
前記内側部材に固定されるスリーブと、
前記スリーブの大気側の端部に一体に連結されて前記スリーブの外側に放射状に広がるフランジとを有しており、
前記外側シール部材は、
剛性材料から形成された剛性部と、
前記剛性部に固定された弾性材料から形成された弾性部とを備え、
前記弾性部は、
前記剛性部に支持された環状の基部と、
前記基部から大気側かつ径方向内側に向けて延びる基端部分と、前記基端部分から大気側かつ径方向外側に向けて延びる先端部分とを有しており、前記先端部分が前記内側シール部材の前記フランジに摺動可能に接触するダストリップと、
前記基部から大気側かつ径方向内側に向けて延びる基端部分と、当該基端部分から軸受内部側かつ径方向内側に向けて延びる先端部分とを有しており、当該先端部分が前記内側シール部材の前記スリーブの外周面に摺動可能に接触するシールリップとを備える
ことを特徴とする密封装置。
【0104】
条項15. 前記弾性部は、前記内側シール部材の前記フランジに向けて延びる円筒状の筒壁部分を備え、前記筒壁部分には前記剛性部の部分が埋設されており、前記筒壁部分と前記フランジとの間には間隙が設けられている
ことを特徴とする条項14に記載の密封装置。
【0105】
この場合には、外部からの異物が密封装置に侵入しようとしても、多くの異物が、外側シール部材の筒壁部分、または内側シール部材のフランジによって跳ね返される。筒壁部分とフランジとの間の間隙を通過した異物がダストリップに到達するが、この間隙を小さく設定することによって、ダストリップに到達する異物の量を削減することができる。筒壁部分は、これに埋設された剛性部の部分で補強されているので、異物から受ける力が強くても、力に耐えることができる。
【0106】
条項16. 前記内側シール部材は、前記フランジの外端縁から軸受内部側に向けて前記内側シール部材の軸線方向に延びる外側スリーブをさらに備え、
前記外側スリーブは、前記筒壁部分の外側に配置され、
前記筒壁部分と前記外側スリーブとの間には間隙が設けられている
ことを特徴とする条項15に記載の密封装置。
この場合には、外部からの異物が密封装置に侵入しようとしても、多くの異物が、外側シール部材の筒壁部分、内側シール部材の外側スリーブ、または内側シール部材のフランジによって跳ね返される。筒壁部分と外側スリーブとの間の間隙、および筒壁部分とフランジとの間の間隙を通過した異物がダストリップに到達するが、これらの間隙を小さく設定することによって、ダストリップに到達する異物の量を削減することができる。
【符号の説明】
【0107】
1 密封装置
2 転がり軸受
4 車軸
6 内輪(内側部材)
8 外輪(外側部材)
8A 孔
10 ローラー
20 内側シール部材
30 外側シール部材
22 スリーブ
24 フランジ
26 外側スリーブ
32 剛性部
34 弾性部
36 円筒部分
38 円環部分
40 軸線方向突出部分
42 内側延長部分
44 凹部(案内部)
50 基部
52 シールリップ
52a 基端部分
52b 先端部分
54 ダストリップ
54a 基端部分
54b 先端部分
60 筒壁部分
68 間隙
70 間隙
72 弾性部の部分
78 突起(案内部)
80 貫通孔(案内部)
90 ネジ孔(案内部)