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特許7075955ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルとアルキロイル乳酸塩とセラミド類を含有する組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルとアルキロイル乳酸塩とセラミド類を含有する組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/37 20060101AFI20220519BHJP
   A61K 8/55 20060101ALI20220519BHJP
   A61K 8/68 20060101ALI20220519BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220519BHJP
   A61K 31/164 20060101ALI20220519BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220519BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20220519BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
A61K8/37
A61K8/55
A61K8/68
A61Q19/00
A61K31/164
A61P17/00
A61K47/24
A61K47/14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020024133
(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公開番号】P2021127327
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】592042750
【氏名又は名称】株式会社アルビオン
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100136696
【弁理士】
【氏名又は名称】時岡 恭平
(72)【発明者】
【氏名】乾 沙王里
(72)【発明者】
【氏名】中村 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】上部 雄一郎
【審査官】松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-093840(JP,A)
【文献】特開2001-199872(JP,A)
【文献】特開2000-256188(JP,A)
【文献】特開2011-213602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/37
A61K 8/55
A61K 8/68
A61Q 19/00
A61K 31/164
A61P 17/00
A61K 47/24
A61K 47/14
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリル、アルキロイル乳酸塩、およびセラミド類を含有し、ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルの含有量と、アルキロイル乳酸塩の含有量との比が、重量比で、2:1~1:1.5である、皮膚化粧料用の組成物。
【請求項2】
さらに、水を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
さらに、コレステロールまたはコレステロールエステルから選ばれる1種以上の化合物を含有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
セラミド類が、ヒト型セラミドである、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
セラミド類が、セラミドNP、セラミドNG、セラミドNS、セラミドEOP、セラミドAS、セラミドAP、セラミドEOS、セラミドNDS、セラミドNH、セラミドADS、セラミドAH、およびセラミドEOHら選ばれる1種以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
セラミド類の含有量と、ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルおよびアルキロイル乳酸塩を合わせた合計含有量との比が、重量比で、0.3以下:1である、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
セラミド類の皮膚への浸透を増大または促進させるための、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリル、およびアルキロイル乳酸塩を用いた、セラミド類の皮膚への浸透を増大または促進させるための方法であって、ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルの配合量と、アルキロイル乳酸塩の配合量との比が、重量比で、2:1~1:1.5である、方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料に使用可能な、ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルとアルキロイル乳酸塩とセラミド類を含有する組成物に関する。本発明はまた、ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルとアルキロイル乳酸塩を用いた、セラミド類の皮膚への浸透を増大または促進させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧料などに配合する有用な成分として、セラミドが知られている。セラミドは、皮膚の角層における細胞間脂質の主要な成分の一つである。セラミド類とは、皮膚由来のセラミドや、セラミドの擬似物質または誘導体を含む物質としての総称である。セラミド類は、細胞膜の裏打ちタンパク質であるコーニファイドエンベロープと結合することによって皮膚の水分を蒸散させないバリア機能としての役割を果たし得ることが知られる。また、セラミド類は、毛髪にハリやコシを付与する機能も有することが知られる。皮膚のバリア機能の低下は、皮膚の水分量を低下させて皮膚老化の初期症状とも言える小皺を発生させたり、アレルゲンなどの外的因子からの抵抗力を低下させたりするなど、様々な皮膚トラブルを引き起こす。そのため、セラミド類の前記有用な機能に着目し、セラミド類を配合した化粧料や外用剤の検討がなされている。
【0003】
セラミド類は結晶性が高いため、化粧料を保存した場合に、結晶化が進行して、固体成分が析出することが問題となる。そのため、これまでセラミド類を安定に配合する試みがなされている。また、セラミド類が、皮膚組織などの生体内で効能を発揮する場合、セラミド類の機能を十分に発揮させるためには、有効量のセラミド類を速やかに生体内に浸透させることが求められる。しかしながら、外部から皮膚や毛髪の表面を通してセラミド類を生体内に入れたり留めたりすることは容易ではなく、有効にセラミド類を生体に浸透させ得る組成物を得ることは容易ではない。そこで、これまで、種々の成分と組み合わせたり、製造方法を工夫したりするなどして、セラミド類を安定に配合し、機能性を高める技術が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、セラミド類、デキストリン脂肪酸エステル、リン脂質、非イオン性界面活性剤、および高級アルコールまたはエステルを組み合わせた水中油型乳化組成物が開示されている。この文献では、セラミド類を安定に配合させる技術が開示されている。しかしながら、セラミド類を安定に配合し、セラミド類を皮膚にさらに有効に浸透させる技術が開発されることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-206971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、セラミド類を製剤中で安定化させるとともに、セラミド類を皮膚組織などの生体内に浸透させることができる化粧料等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記に挙げられる実施態様を含むが、これらに限定されるものではない。
[項1] ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリル、アルキロイル乳酸塩、およびセラミド類を含有する組成物(以下「本組成物」という)。
[項2] さらに、水を含有する、項1に記載の組成物。
[項3] さらに、コレステロールまたはコレステロールエステルから選ばれる1種以上の化合物を含有する、項1または2に記載の組成物。
[項4] 化粧料用である、項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
[項5] 皮膚化粧料用である、項4に記載の組成物。
[項6] セラミド類が、ヒト型セラミドである、項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
[項6-1] セラミド類が、ヒト型セラミドまたは天然セラミドである、項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
[項7] セラミド類が、セラミドNP、セラミドNG、セラミドNS、セラミドEOP、セラミドAS、セラミドAP、セラミドEOS、セラミドNDS、セラミドNH、セラミドADS、セラミドAH、セラミドEOH、セラミド2、およびセラミド3から選ばれる1種以上である、項1~6および6-1のいずれか1項に記載の組成物。
[項8] ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルの含有量と、アルキロイル乳酸塩の含有量との比が、重量比で、2:1~1:1.5である、項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
[項9] セラミド類の含有量と、ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルおよびアルキロイル乳酸塩を合わせた合計含有量との比が、重量比で、0.3以下:1である、項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
[項10] セラミド類の皮膚への浸透を増大または促進させるための、項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
[項11] ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリル、およびアルキロイル乳酸塩を用いた、セラミド類の皮膚への浸透を増大または促進させるための方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、セラミド類を製剤中で安定化させるとともに、セラミド類を皮膚組織などの生体内に有効に浸透させることができる、ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルとアルキロイル乳酸塩とセラミド類を含有する組成物(例えば、化粧料用組成物)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】セラミド混合物のDSC測定(DSC測定例1)の結果を示すグラフである。
図2】セラミド混合物のDSC測定(DSC測定例2)の結果を示すグラフである。
図3】セラミド混合物のDSC測定(DSC測定例3)の結果を示すグラフである。
図4】皮膚浸透性試験における蛍光観察の画像であり、図4A図4Hは試験サンプル1(実施例)の結果、図4I図4Pは試験サンプル2(比較例)の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る組成物は、必須成分として、
(A)ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリル、
(B)アルキロイル乳酸塩、および、
(C)セラミド類、
を含有する。
なお、本明細書中、(A)~(C)は成分の標識記号であり、以下、成分(A)などともいう。
【0011】
成分(A)のベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルは、分子内にホスホコリンの構造(-N(CH(CH-O-PO -)を有する化合物である。ホスホコリンの部分(ホスホコリン基ともいう)は、リン脂質の極性基であり、親水基として機能する。また、ホスホコリン基の両側にはそれぞれ、アルキル基(C22とC18の飽和アルキル)が結合しており、このアルキル基が疎水基として機能する。そのため、ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルは、界面活性剤として機能し得る。より詳しくは、ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルは、カチオン性部分とアニオン性部分との両方を含むため、両性界面活性剤として分類される。ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルは、セラミド類と類似の化学構造を有する。そのため、セラミド類との親和性が高い。したがって、本組成物は、ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルを含むことで、セラミド類の結晶化を高く抑制し、さらには、セラミド類を生体に浸透させやすくすることができる。ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルは、市販のものを用いることができる。
【0012】
本組成物の好ましい一形態(例えば化粧料などのヒトに直接適用する製剤)においては、組成物全量100重量%に対する、成分(A)であるベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルの含有率が、0.001~30重量%であることが好ましい。成分(A)がこの含有率となることで、セラミド類の結晶化を高く抑制するとともに、皮膚への浸透性を増大させることができる。ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルの含有率は、0.01~20重量%であることより好ましく、0.01~10重量%であることがさらに好ましい。
【0013】
成分(B)のアルキロイル乳酸塩は、本明細書において、乳酸または乳酸の多量体(縮合物)の水酸基と、脂肪酸のカルボキシル基とが縮合してできたエステルの塩を意味する。長鎖(例えば炭素数10以上または12以上)のアルキル基が導入された乳酸エステルの塩といってもよい。アルキロイル乳酸塩は、アルキル基の部分が疎水基となり、乳酸塩の部分が親水基となるため、界面活性剤として機能し得る。より詳しくは、アルキロイル乳酸塩は、アニオン性界面活性剤に分類される。本明細書において、アルキロイルとは、脂肪族カルボン酸(脂肪酸)のアルカノイル基(アシル基ともいう)の部分を意味し得る。
【0014】
アルキロイル乳酸塩を構成する脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸などが挙げられる。例えば、イソステアリン酸と乳酸の縮合物は、イソステアロイル乳酸と呼ばれる。アルキロイル乳酸塩を構成する脂肪酸としては、飽和脂肪酸であることが好ましい。乳酸の多量体(脱水縮合したもの)から構成される場合、例えば、2量体、3量体、4量体、および5量体などが挙げられるが、好ましくは、2量体または3量体であり、より好ましくは、2量体である。塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、およびアンモニウム塩などの無機塩、および有機アンモニウム塩などの有機塩が挙げられるが、無機塩が好ましく、アルカリ金属塩がより好ましい。
【0015】
アルキロイル乳酸塩としては、限定されるものではないが、具体的には、例えば、ステアロイル乳酸ナトリウム、イソステアロイル乳酸ナトリウム、ラウロイル乳酸ナトリウム、ミリストイル乳酸ナトリウム、パルミトイル乳酸ナトリウムなどが挙げられる。アルキロイル乳酸塩としては、ステアロイル乳酸ナトリウムおよびイソステアロイル乳酸ナトリウムが好ましい。これらは、市販されており、容易に入手できる。また、他のアルキロイル乳酸塩は、これらからエステル交換反応や、対となるイオンの交換などをすることにより得ることが可能であり、あるいは、合成により得ることも可能である。
【0016】
本組成物の好ましい一形態(例えば化粧料などのヒトに直接適用する製剤)においては、組成物全量100重量%に対する、成分(B)であるアルキロイル乳酸塩の含有率が、0.001~30重量%であることが好ましい。成分(B)がこの含有率となることで、セラミド類の結晶化を高く抑制するとともに、皮膚への浸透性を増大させることができる。アルキロイル乳酸塩の含有率は、0.01~20重量%であることより好ましく、0.01~10重量%であることがさらに好ましい。
【0017】
成分(C)はセラミド類である。セラミド類は、スフィンゴ脂質の一種であり、スフィンゴシンと脂肪酸がアミド結合した化合物群を含む。また、セラミド類は、分子中に1個以上の長鎖の直鎖および/もしくは分岐アルキルまたはアルケニル基、さらに、少なくとも2個以上の水酸基、1個以上のアミド基(および/またはアミノ基)を有する非イオン系両親媒性物質であってもよい。また、セラミド類は、前記非イオン系両親媒性物質の水酸基にフォスファチジルコリン残基、または糖残基が結合した物質(いわゆるセラミド誘導体の一種)であってもよい。本組成物に使用されるセラミド類は、市販のものであってよく、あるいは、一般的に知られる合成法を用いて製造してもよい。
【0018】
本明細書中、用語「セラミド」および「セラミド類」とは同義を有する用語であり、相互に交換可能に使用することができる。セラミド類には、セラミド類およびその誘導体が含まれる。また、セラミド類には、天然物由来のセラミド(例えば、動物由来のセラミド(ヒト型セラミド、ヒト以外の動物(例えば、ウマ)由来の天然セラミド)、および植物由来のセラミド)、および合成手法によって製造されるセラミド(例えば、合成セラミド、プソイドセラミド(合成擬似セラミド)、およびそれらの誘導体)などが含まれるが、これらに限定されない。例えば、好ましい一実施態様において、セラミド類としては、ヒト型セラミドおよび天然セラミドが挙げられる。セラミド類は、天然抽出物であっても、合成物であってもよい。また、セラミド類は、化粧料用組成物中での通常の使用形態であれば、本組成物中に適宜に使用し得る。
【0019】
セラミド類の例としては、通常、化粧料または皮膚外用剤に用いられるセラミド類であれば、特に限定されるものではないが、例えば、スフィンゴシン、フィトスフィンゴシンおよびそれらの長鎖脂肪酸アミドが挙げられる。セラミド類の具体例としては、セラミド1、セラミド2、セラミド3、セラミド3B、セラミド4、セラミド5、セラミド6、セラミド6I、およびセラミド6IIが挙げられる。これらは、天然セラミドに分類される。セラミドの後の数字は、セラミドのタイプを表している。また、セラミド類として、セラミドNP、セラミドNG、セラミドNSなどが挙げられる。セラミドの後のアルファベット表記は、脂肪酸とスフィンゴイドとの組み合わせを表している。これらは、化粧品等の原料であってよい。また、セラミド類は、スフィンゴシン、フィトスフィンゴシンのリン脂質誘導体、つまりスフィンゴリン脂質が挙げられる。スフィンゴリン脂質の具体例としては、スフィンゴミエリン、フィトスフィンゴミエリンが挙げられる。また、セラミド類には、上記したセラミド類の配糖体であるグルコシルセラミドやセレブロシドが含まれる。また、セラミド類は、ガングリオシドなどのスフィンゴ糖脂質およびフィトスフィンゴ糖脂質が含まれる。また、セラミド類は、適宜、それぞれのセラミド類がとり得る異性体の任意の混合比率の混合物の形態であってもよく、また、特定の異性体の形態であってもよい。これらのセラミド類は、前記の具体例の一種として、または二種以上の任意の混合比の組み合わせとして用いることができる。
【0020】
セラミド類としては、ヒト型セラミドが好ましい。セラミド類はこれに限定されるものではないが、このようなセラミド類を使用した場合には、セラミドが本来有する効能(例えば、保湿効果)の増大が得やすくなる。また、ここでいうヒト型セラミドとは、角層の細胞間脂質を構成する成分のことを指している。ヒト型セラミドは、たとえば、セラミドNP、セラミドNG、セラミドNS、セラミドEOP、セラミドAS、セラミドAP、セラミドEOS、セラミドNDS、セラミドNH、セラミドADS、セラミドAH、セラミドEOH、セラミド2、およびセラミド3などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、これらを使用した場合には、セラミドが本来有する効能(例えば、保湿効果)の増大がさらに得やすくなる。ところで、セラミド類は、上記のように、機能や由来による分類による表記(例えば、セラミド2)や、構造による分類の表記(例えば、セラミドNS)など、複数の表記方法が存在しており、一部について複数の表記方法による重複した成分があるかもしれないが、本組成物で使用するセラミド類は、その表記によって限定されるものではない。
【0021】
セラミド類は、皮膚の水分を蒸散させないバリア機能、および毛髪にハリやコシを付与する機能を果たし得る。そのため、セラミド類は、製剤に使用され、皮膚や毛髪に適用された場合に、保湿効果を発揮し得る。また、セラミド類は、本組成物において、アトピー改善効果(アトピー性皮膚炎改善効果ともいう)を発揮し得る。また、セラミド類は、外部から生体内に浸透すると、生体内でセラミドの合成を促進させる場合がある。そのため、セラミド類は、セラミド産生促進効果を発揮し得る。このように、セラミド類は種々の機能を有するが、本組成物中におけるセラミド類の機能はこれら前記機能のうちの1つもしくは2つ以上に限定されるものではなく、これら前記機能以外の機能を有していてもよい。
【0022】
セラミド類は、結晶性が高いため、これを含有する化粧料を保存した場合に、セラミド類の結晶化が進行して、固体成分が析出することが問題となるが、本組成物においては、成分(A)および(B)と組み合わせることにより、セラミド類の結晶化および固体の析出が高く抑制され得る。また、セラミド類の機能を発揮させるためには、セラミド類を皮膚に浸透させることが求められるが、成分(A)および(B)を組み合わせることにより、セラミド類の皮膚への浸透性が向上する。特に、成分(A)であるベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルは、セラミドに構造が類似しており、セラミド類との親和性が高く、成分(A)によって、セラミド類の安定性や皮膚への浸透性が向上し得る。さらに、成分(B)を成分(A)と組み合わせることにより、成分(A)単独のときよりも、セラミド類の安定性や皮膚への浸透性をさらに向上することができる。
【0023】
本組成物の好ましい一形態(例えば化粧料などのヒトに直接適用する製剤)においては、組成物全量100重量%に対する、成分(C)であるセラミド類の含有率が、0.0001~50重量%であることが好ましい。セラミド類の含有率がこの範囲になることで、セラミド類が製剤中で安定化しやすくなるとともに、セラミド類による上記の効果(例えば、保湿効果)が得られやすくなる。また、本組成物を化粧料や皮膚外用剤などの最終製品に利用しやすくすることができる。本組成物中のセラミド類の含有率は、好ましくは、組成物全量100重量%に対して、0.0005~50重量%である。セラミド類の含有率は、0.0007~20重量%であることがより好ましく、0.001~10重量%であることがさらに好ましい。さらに、セラミド類の含有率は、0.01重量%以上であってもよく、0.05重量%以上であってもよく、または0.1重量%以上であってもよい。また、セラミド類の含有率は、5重量%以下であってもよく、2重量%以下であってもよく、または1重量%以下であってもよい。
【0024】
セラミド類含有の本組成物は、さらにコレステロールまたはコレステロールエステルから選ばれる1種以上の化合物を含有することが好ましい。それにより、セラミド類をさらに安定化させるとともに、皮膚に浸透させやすくすることができる。
【0025】
コレステロールは、角層細胞間脂質の主要成分の一つであり、ステロールに分類される有機化合物である。コレステロールエステルは、コレステロールの水酸基とカルボン酸のカルボキシル基とが脱水縮合して、エステル化した化合物である。コレステロールエステルも、角層細胞間脂質の主要成分の一つである。すなわち、コレステロールは、それ自体の形態だけでなく、エステルの形態で、角層中に存在する。コレステロールエステルを形成するカルボン酸は、脂肪酸が好ましい。すなわち、コレステロールと脂肪酸とのエステルが好ましい。その場合、脂肪酸は角層細胞間脂質の成分であるため、皮膚との親和性を高めることができる。コレステロールエステルを形成する脂肪酸の具体例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、などが挙げられ、好ましくは、ステアリン酸、オレイン酸が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0026】
コレステロールおよびコレステロールエステルは、セラミド類と同様に、角層細胞間脂質成分であるため、セラミド類との相性がよい。そのため、セラミド類の安定性および皮膚浸透性を高めることが可能となる。さらに、本組成物がコレステロールまたはコレステロールエステルを含有した場合、コレステロールによる効能(例えば保湿効果等)を増強することができ、化粧料等の機能を高めることができる。また、コレステロールおよびコレステロールエステルは、結晶性の物質であるが、本組成物では、成分(A)および(B)によって、コレステロールおよびコレステロールエステルの結晶化も抑制され、固体の析出などが抑制された安定な製剤を得ることができる。
【0027】
本組成物の好ましい一形態(化粧料など)においては、組成物全量100重量%に対する、コレステロールおよびコレステロールエステルの含有率が、0.0001~30重量%であることが好ましい。その場合、セラミド類の皮膚への浸透性を向上することができるとともに、コレステロールの効能を発揮することも可能になる。コレステロールおよびコレステロールエステルの含有率は、0.001~20重量%であることより好ましく、0.01~10重量%であることがさらに好ましい。
【0028】
セラミド類含有の本組成物は、さらに水を含有することが好ましい。水の含有により、本組成物が製剤としてより利用しやすくなる。例えば、水の存在により、本組成物に求められる種々の配合成分を容易に配合することができる。また、水の含有により、本組成物の使用感を向上させることもできる。上記本組成物では、水を含有した系において、セラミド類が安定化すると共に、セラミド類の生体内への浸透性が高まる。水は、精製水、蒸留水、水道水、地下水、温泉水、海洋深層水などを利用することができるが、特に限定されるものではない。
【0029】
本組成物における水の含有率は、特に限定されるものではなく、各種の製剤によって変わり得るものであるが、例えば、組成物全量100重量%に対する、水の含有量は、1~99重量%、5~90重量%、または、10~80重量%にすることができる。
【0030】
本組成物は、乳化物の形態であることが好ましい。本組成物が、乳化物の形態であると、製剤としてより利用しやすくなる。上記本組成物では、乳化した系において、セラミド類が安定化すると共に、セラミド類の生体内への浸透性が高まる。もちろん、本組成物は、非乳化形態の製剤であってもよい。乳化系は、O/W型(水中油型)、W/O型(油中水型)、W/O/W型など、種々の乳化形態であってよい。特に、O/W型の乳化形態が好ましい。
【0031】
セラミド類含有の本組成物においては、成分(A)のベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルの含有量と、成分(B)のアルキロイル乳酸塩の含有量との比((A):(B))が、重量比で、2:1~1:1.5であることが好ましい。成分(A)および成分(B)が、このような比率で含有されることによって、セラミド類が製剤中でより安定になるとともに、セラミド類が皮膚に浸透しやすくなる。成分(A)と成分(B)との含有量の比は、重量比で、1.5:1~1:1.5であることがより好ましい。
【0032】
セラミド類含有の本組成物においては、成分(C)のセラミド類の含有量と、成分(A)のベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリルおよび成分(B)のアルキロイル乳酸塩を合わせた合計含有量との比((C):(A)+(B))が、重量比で、0.3以下:1であることが好ましい。成分(C)のセラミド類が、成分(A)および成分(B)に対してこのような比率で含有されることによって、セラミド類が製剤中でより安定になるとともに、セラミド類が皮膚に浸透しやすくなる。セラミド類の機能をより発揮させるために、上記の含有量の比は、0.0001以上:1であってよい。すなわち、上記の比((C):(A)+(B))は、0.0001:1~0.3:1が好ましい。セラミド類の機能と安定性の観点から、上記比((C):(A)+(B))は、0.001:1~0.25:1であることがより好ましく、0.01:1~0.25:1であることがさらに好ましい。
【0033】
本組成物は、その態様の一つとして、最終製品に配合するための材料としての形態が挙げられる。この材料は、原料、半製品または仕掛かり品として利用され得る。この材料は、成分(A)~(C)のみからなるものであってもよいし、それ以外の成分が含まれていてもよい。成分(A)~(C)のみの場合、本組成物は、通常、固体である。また、成分(A)~(C)以外の他の成分が液体(例えば、水)を含む場合、本組成物は、液体となり得る。成分(A)~(C)は、加熱して混合されてもよい。その場合、成分(A)~(C)の親和性を高めることができる。本組成物が、最終製品に配合するための材料である場合における他の成分は、界面活性剤および油剤などが例示されるが、それ以外の後述する成分であってもよい。
【0034】
本組成物は、化粧料用であることが好ましい一態様である。その場合、製剤的に安定で、セラミド類の作用(例えば保湿性)の優れた化粧料を得ることができる。セラミド類含有の本組成物は、そのままで、化粧料となり得る。本組成物では、特に、化粧料として、皮膚化粧料(皮膚用の化粧料)であることが好ましい。皮膚化粧料の場合、セラミド類の皮膚への浸透性を高くすることができ、セラミド類の作用(例えば保湿性)の優れた化粧料を得ることができる。また、本組成物は、毛髪化粧料(毛髪用の化粧料)であってもよい。毛髪化粧料の場合、セラミド類の毛髪への浸透性を高くすることができ、毛髪にハリおよびコシを付与する化粧料を得ることができる。
【0035】
皮膚化粧料としては、特に限定されるものではなく、種々の用途の化粧料として利用することができる。例えば、乳液、クリーム、美容液、ローション、マッサージ化粧料、パック化粧料、ハンドクリーム、アイクリーム、ボディローション、ボディクリーム、メーキャップ化粧料、化粧用下地化粧料などの化粧料が例示される。皮膚化粧料の使用方法としては、手や指、コットンで使用する方法、不織布などに含浸させて使用する方法、スプレーやミストで吹きつける方法などが挙げられる。
【0036】
毛髪化粧料としては、特に限定されるものではなく、種々の用途の化粧料として利用することができる。例えば、ヘアクリーム、ヘアローション、ヘアワックス、ヘアスプレー、ヘアリンス、ヘアマスク、ヘアトリートメントなどの化粧料が例示される。毛髪化粧料の使用方法としては、手や指で使用する方法、スプレーやミストで吹きつける方法などが挙げられる。
【0037】
本組成物は、皮膚外用剤であることも好ましい一態様である。その場合、製剤的に安定な皮膚外用剤を得ることができる。皮膚外用剤としては、特に限定されるものではなく、種々の用途の皮膚外用剤として利用することができる。例えば、外用液剤、外用ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、リニメント剤、ローション剤、ハップ剤、硬膏剤、噴霧剤、エアゾール剤などが挙げられる。皮膚外用剤は、医薬品であってもよいし、医薬部外品であってもよい。皮膚外用剤の使用方法としては、手や指、コットンで使用する方法、不織布などに含浸させて使用する方法、スプレーやミストで吹きつける方法などが挙げられる。
【0038】
セラミド類含有の本組成物は、適宜さらに、成分(A)および(B)以外の界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤の含有により、本組成物が製剤としてより利用しやすくなる。例えば、界面活性剤の存在により、本組成物に求められる種々の配合成分を容易に配合することができる。本組成物に用いる界面活性剤としては、化粧料または皮膚外用剤において一般に用いられている界面活性剤であればいずれのものも使用することができる。例えば、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤により、製剤がより安定化し、セラミド類の機能がより発揮されやすくなる。本組成物の好ましい一形態(化粧料など)においては、成分(A)および(B)を含む界面活性剤の総含有率は、組成物の総重量100重量%に対して、0.001~60重量%であることが好ましい。界面活性剤の含有率は、0.01~50重量%であることがより好ましく、0.1~40重量%であることがさらに好ましい。
【0039】
界面活性剤は、具体的には、アニオン性界面活性剤として、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ベヘン酸、イソステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸とナトリウム、カリウム、トリエタノールアミンなどのアルカリ物質により形成される脂肪酸石鹸類、アシルグルタミン酸塩類、アルキルリン酸塩、ポリオキシアルキレン付加アルキルリン酸塩などが挙げられる。また、カチオン性界面活性剤として、アルキルアミン塩、ポリアミンおよびアルカノールアミン脂肪酸誘導体、アルキル四級アンモニウム塩などが挙げられる。また、両性界面活性剤として、N-アルキルN,N-ジメチルアミノ酢酸、レシチン、リン脂質などが挙げられる。また、非イオン性界面活性剤として、ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン、ポリオキシアルキルおよびアルキル共変性オルガノポリシロキサン、グリセリン変性オルガノポリシロキサン、ポリグリセリン変性オルガノポリシロキサン、グリセリン脂肪酸エステルおよびそのアルキレングリコール付加物、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびそのアルキレングリコール付加物、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよびそのアルキレングリコール付加物、ソルビタン脂肪酸エステルおよびそのアルキレングリコール付加物、ソルビトールの脂肪酸エステルおよびそのアルキレングリコール付加物、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、グリセリンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ラノリンのアルキレングリコール付加物などが挙げられる。上記の界面活性剤は、一種または二種以上で用いることができる。
【0040】
本組成物は、化粧料または皮膚外用剤として配合され得る種々の成分を含有してもよい。そのような成分として、例えば、水溶性成分、油溶性成分、油剤、水溶性高分子、保湿剤、増粘剤、粉体、色素、紫外線吸収剤、被膜形成性剤、pH調整剤、褪色防止剤、酸化防止剤、消泡剤、美容成分、防腐剤、香料などが挙げられる。
【0041】
油剤は、動物油、植物油、合成油などの由来や、固形油、半固形油、液体油、揮発性油などの性状を問わない。油剤としては、炭化水素類、油脂類、ロウ類、硬化油類、エステル油類、脂肪酸類、高級アルコール類、シリコーン油類、フッ素系油類、ラノリン誘導体類、油性ゲル化剤類などが挙げられる。具体的には、炭化水素類として、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン、ポリイソブチレン、ポリブテンなどが例示される。天然性の油脂類として、モクロウ、オリーブ油、ヒマシ油、ミンク油、マカデミアンナッツ油などが例示される。また、ロウ類として、ミツロウ、ゲイロウなどが例示される。エステル油類として、ロジン酸ペンタエリトリットエステル、フィトステロール脂肪酸エステル、ジペンタエリトリット脂肪酸エステルなどが例示される。脂肪酸類として、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ベヘニン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノール酸、リノレン酸などが例示される。高級アルコール類として、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、2-デシルテトラデカノール、セチルアルコール、ラウリルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、セテアリルアルコール、セトステアリルアルコール、セタノール、オクチルドデカノールなどが例示される。シリコーン油類として、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、トリメチルシロキシケイ酸、高重合度メチルフェニルポリシロキサン、メタクリル変性オルガノポリシロキサン、ステアリル変性オルガノポリシロキサン、オレイル変性オルガノポリシロキサン、ベヘニル変性オルガノポリシロキサン、高重合度ジメチルポリシロキサン、アルコキシ変性オルガノポリシロキサン、フッ素変性オルガノポリシロキサンなどが例示される。また、油剤として、トリエチルヘキサノインが用いられてもよい。油剤は、一種または二種以上で用いることができる。
【0042】
油剤として、エステル油類を使用することも好ましい一態様である。エステル油類としては、脂肪酸エステルが例示される。脂肪酸エステルの具体例は、上記で述べたもののほか、ミリスチン酸イソプロピル、イソノナン酸イソノニル、エチルヘキサン酸セチル、ジ2-エチルヘキサン酸ネオペンチレングリコール、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸プロピル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸イソブチルなどが挙げられる。
【0043】
ここで、油性成分、すなわち、油剤と油剤に溶解し得る成分との合計重量は、本組成物の総重量100重量%に対して、1~80重量%であることが好ましい一態様である。油性成分の含有量がこの範囲であると、製剤が安定化するとともに、好ましい使用感を得ることができる。油性成分の含有量の範囲は、2~60重量%であってもよいし、5~50重量%であってもよい。
【0044】
本組成物は、低級アルコール類を含有することもできる。そのようなアルコール類としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコールが例示される。アルコール類の使用により、製剤が利用しやくなる。例えば、前記種々の成分の溶解性が高まる。
【0045】
本組成物は、多価アルコールを含有することもできる。多価アルコールとしては、ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコールが例示される。多価アルコールの使用により、製剤が利用しやくなる。例えば、製剤の安定性が高まる。また、本組成物は、これら多価アルコールと脂肪酸とのエステルを含有することもできる。
【0046】
本組成物は、上記した成分を混合することにより製造することができる。例えば、乳化系の組成物を得る場合は、加熱条件下で構成成分を適宜に混合した後、冷却することにより、乳化型の組成物を得ることができる。製造の際は、たとえば、予め加熱および混合した水性成分と、予め加熱および混合した油性成分とを混合する方法を利用することもできる。もちろん、本組成物を製造する方法は、これに限られるものではない。
【0047】
本明細書においては、また、ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリル、およびアルキロイル乳酸塩を用いた、セラミド類の皮膚への浸透を増大または促進させるための方法が開示される。上記したように、ベヘンジモニウムエチルリン酸ステアリル、およびアルキロイル乳酸塩の存在下では、セラミド類は皮膚に浸透しやすくなる。その適用方法や適用手段などは、特に限定されるものではないが、好ましくは、上述のとおりである。
【実施例
【0048】
以下、本発明に係る組成物を実施例(試験例および製剤例を含む)により説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0049】
試験例1:セラミド混合物のDSC測定
DSC測定例1
DSC(示差走査熱量計)の測定により、成分(A)~(C)を含む組成物について、親和性(相溶性または混和性といってもよい)を調べた。セラミド類としては、セラミド2(高砂香料工業(株)製)を使用した。
【0050】
表1に示す重量比(配合割合)の測定サンプル(セラミドを含有する混合物(以下「セラミド混合物」と称する)を、次のように調製した。まず、表1にしたがって、セラミド混合物のための各成分を計量した後、混合し、その混合物をクロロホルムとメタノールの混合溶媒(体積比2:1)に溶かした。その後、エバポレーターで溶媒を除去し、さらに、室温で24時間放置し、溶媒を完全に除去した。得られた固体(セラミド混合物)を測定サンプルとし、DSC測定を行った。なお、測定サンプルE1およびE2が、成分(A)~(C)を含んでいる本発明の混合物であり、実施例である。一方、測定サンプルC1~C6(比較測定サンプルC1~C6)は、成分(A)または(B)を含んでおらず、その代わりに、それ以外の界面活性剤(成分(X))を含んでいる比較例である。
【0051】
【表1】
【0052】
DSCの測定は、測定機器として電気冷却ユニットが取り付けられたDSC7000(株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用い、5℃/minの速度で加熱スキャンすることにより行った。測定にあたっては、測定サンプル10mg程度をアルミパンに置き、これを密閉した。リファレンスは、空気とした。DSC測定により、融点が吸熱ピークとして検出された。
【0053】
図1は、DSC測定の結果を示すグラフである。このグラフより、表1の各セラミド混合物は、セラミド単体よりも吸熱ピークが低温になっていることが分かる。具体的には、セラミド単体のピークトップが約107℃であるのに対し、セラミド混合物のピークトップは、いずれも、その温度よりも低かった。そして、本発明の測定サンプルE1およびE2のピークトップは、それぞれ約72℃、約67℃で、それ以外の比較測定サンプルC1~C6よりも小さく、さらには80℃(一般的に乳化加熱時に最低限付与される温度)よりも小さかった。すなわち、成分(A)~(C)を含む本発明のセラミド混合物は、セラミド単体よりも著しく融点が低下しているといえる。融点の低下は、成分(A)および(B)が、セラミドと混和していることが示唆される。そのため、セラミドは、成分(A)および成分(B)と混合することにより、結晶化しにくくなり、製剤が安定化されることが示される。
【0054】
DSC測定例2
次に、表2に示す重量比(配合割合)の測定サンプル(セラミド混合物)を、上記と同様に調製し、上記と同様の方法で、DSC測定を行った。なお、測定サンプルE1およびE3~E8が、成分(A)~(C)を含んでいる本発明の混合物であり、測定サンプルC7(比較測定サンプルC7)は成分(B)を含んでいない。
【0055】
【表2】
【0056】
図2は、DSC測定の結果を示すグラフである。上記と同様、測定サンプルE1およびE3~E8はセラミド単体および比較測定サンプルC7よりも吸熱ピークが低温になっていることが分かる。特に、成分(A)と成分(B)の比率が、2:1~1:1.5において(測定サンプルE5およびE6参照)、吸熱ピークが低温になっており、セラミドとの親和性が高くなっていることが示唆される。なお、図2のDSC測定では、成分(A)単体の結果も合わせて記載しているが、成分(A)単体では、吸熱ピークの温度は高かった(約113℃)。
【0057】
DSC測定例3
次に、表3に示す重量比(配合割合)の測定サンプル(セラミド混合物)を、上記と同様に調製し、上記と同様の方法で、DSC測定を行った。
【0058】
【表3】
【0059】
図3は、DSC測定の結果を示すグラフである。上記と同様、測定サンプルE1、E9~E12はセラミド単体よりも吸熱ピークが低温になっていることが分かる。特に、セラミドと、成分(A)および成分(B)の合計との比率が、0.3以下:1の場合において(測定サンプルE1、E9およびE12参照)、吸熱ピークが低温になっており、セラミドとの親和性が高くなっていることが示唆される。また、コレステロールを添加することにより、吸熱ピークのさらなる低下が見られた。なお、図3のDSC測定では、コレステロール、パルミチン酸の結果も合わせて示した。
【0060】
試験例2:皮膚浸透性試験
蛍光セラミドを用いた皮膚浸透性試験を実施し、セラミドの皮膚への浸透性向上効果を確認した。
【0061】
試料サンプルとして、表4に記載のセラミド混合物(乳化物)を調製した。なお、試料サンプル1は、本組成物の実施例であり、試料サンプル2は、比較例である。
【0062】
【表4】
【0063】
ここで、上記のセラミド2として、全セラミドのうちの1重量%が蛍光セラミドになったものを使用した。蛍光セラミドは、セラミド2に蛍光性の置換基(例えば、4-ニトロベンゾ-2-オキサ-1,3-ジアゾール(NBD)基が挙げられるが、これに限定されない)を導入したものであり、ここでは、C6-NBD-ceramideと呼ばれるもの(市販品)を使用した。蛍光セラミドは緑色蛍光を生じる。
【0064】
上記試料サンプルの調製にあたっては、まず、成分を混合し、加熱して溶解した。次に、超音波処理機(MICROTEC製)で超音波処理することにより、この混合物を撹拌した。混合物を冷却することにより、乳化物を得た。この乳化物が試料サンプルである。乳化物について、BECKMAN COULTER製のLS13320レーザーコールターカウンターにより、ミセル粒子の粒子径を測定したところ、いずれも、粒子径700nm程度であった。このように、安定な乳化物が得られた。
【0065】
皮膚浸透性試験では、ヒトより摘出された摘出皮膚を皮膚サンプルとして使用した。この皮膚サンプルを外科用ナイフにより縦15mm×横15mmのサイズに切り取って皮膚片を作製し、この皮膚片に直径11mmの円を描き、この円を試料サンプルの適用エリアとした。
【0066】
上記皮膚片の適用エリアに、それぞれ、サンプル試料5μLを塗布した。そして、温度32~35℃の条件下、4.5時間、試料サンプルが塗布された皮膚片をインキュベートした。その後、PBS緩衝液で湿らせた紙ワイパーにより皮膚片の表面に残存する試料サンプルを軽く拭き取り、皮膚片を液体樹脂に埋め込み、-100℃で凍結固定した。固定処理された皮膚片をクリオスタット(CM3050S、Leica Microsystems)で厚さ20μmにスライスし、皮膚薄片を作製した。この皮膚薄片について、角層中の蛍光セラミド(緑色蛍光)の分布を共焦点レーザー顕微鏡(CLSM;FLUOVIEW FV-1000、OLYMPUS製)を用いて蛍光観察した。
【0067】
図4に、蛍光観察の画像を示す。図4A図4Hは試料サンプル1、図4I図4Pは試料サンプル2についての結果である。なお、図4の各画像は、スプリット画像の処理(通常画像と蛍光画像の重ね合わせ)により得られた。
【0068】
図4の画像から、試料サンプル1の蛍光発色が試料サンプル2の発色よりも強かった。ここで、蛍光観察画像の結果を数値化し、平均したところ、全面積に対する蛍光を示した面積の百分率(%)が、試料サンプル1では53.58%、試料サンプル2では39.13%であった。このことからも、成分(A)および(B)によるセラミドの浸透性の程度が大きいことが理解できる。
【0069】
図4の画像結果に示すように、成分(A)および(B)を組み合わせて用いた試料サンプルでは、蛍光を強く発しており、セラミドが皮膚の表面層に多く残存していることが確認された。すなわち、成分(A)および(B)を組み合わせて含有する試料サンプル1では、成分(A)を含まない試料サンプル2と比べて、セラミドが皮膚に保持されており、セラミドが皮膚に浸透および滞留しやすくなっていることが示唆される。
【0070】
(製剤例)
化粧料として使用可能な、以下の製剤を製造した。なお、以下の製剤例において、配合量(重量%)で「残量」とあるのは、製剤の合計量が100重量%となる量であることを意味する。
【0071】
製剤例1:ローション
(成分) (重量%)
1.ステアロイル乳酸Na 0.5
2.ベヘンシモニウムエチルリン酸ステアリル 0.5
3.グリセリン 5.0
4.BG 7.0
5.セラミドNP 0.02
6.トリエチルヘキサノイン 0.5
7.キサンタンガム 0.05
8.ソルビトール 0.1
9.アセチルヒアルロン酸 0.05
10.精製水 残量
11.PPG-6デシルデトラデセスー20 0.5
12.エタノール 10.0
13.香料 0.5
【0072】
(製造方法)
A:成分No.1~6を均一に加熱混合溶解した。
B:成分No.7~10を均一に混合溶解した。
C:上記Aに上記Bを添加して混合し、乳化した。
D:上記Cを冷却し、成分No.11~13を混合し、ローションを得た。
【0073】
製剤例1のローションは、製剤が安定で、保湿性が高く、使用感もよいことが確認された。
【0074】
製剤例2:乳液
(成分) (重量%)
1.ベヘンジモニウムエチルリン酸エステル 0.5
2.ステアロイル乳酸Na 0.5
3.ジプロピレングリコール 10.0
4.セラミドNP 0.25
5.ステアリン酸グリセリル 0.5
6.トリエチルヘキサノイン 6.0
7.ベヘニルアルコール 1.5
8.スクワラン 5.0
9.イソステアリン酸 0.5
10.ステアリン酸水添ヒマシ油 1.5
11.ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/
オクチルドデシル) 1.5
12.トコフェロール 0.05
13.コレステロール 0.5
14.グリセリン 5.0
15.BG 8.0
16.(アクリル酸/アクリル酸アルキル(C10-30))
コポリマー 0.1
17.水酸化ナトリウム 0.03
18.精製水 残量
19.香料 0.3
【0075】
(製造方法)
A:成分No.1~13を均一に加熱混合溶解した。
B:成分No.14~18を均一に加熱混合溶解した。
C:上記Aに上記Bを添加して混合し、乳化した。
D:上記Cを冷却し、成分No.19を添加し、乳液を得た。
【0076】
製剤例2の乳液は、製剤が安定で、保湿性が高く、使用感もよいことが確認された。
【0077】
製剤例3:ハンドクリーム
(成分) (重量%)
1.モノステアリン酸ポリエチレングリコール 2.5
2.ベヘンジモニウムエチルリン酸エステル 0.5
3.グリセリン 5.0
4.1,3-ブチレングリコール 15.0
5.ステアロイル乳酸Na 0.5
6.キサンタンガム 0.05
7.DPG 3.0
8.マカデミアナッツ油 3.0
9.ミネラルオイル 3.0
10.トコフェロール 0.05
11.セラミドNP 0.05
12.コレステロール 0.5
13.セトステアリルアルコール 2.0
14.オレイン酸イソブチル 0.5
15.α-オレフィンオレゴマー 5.0
16.ジペンタエリトリット脂肪酸エステル 3.0
17.ワセリン 3.0
18.ベヘニルアルコール 2.0
19.モノステアリン酸グリセリル 2.0
20.リン酸アスコルビルMg 0.05
21.香料 0.3
22.精製水 残量
【0078】
(製造方法)
A:成分No.1~7を均一に加熱混合溶解した。
B:成分No.8~21を均一に加熱混合溶解した。
C:上記Aを上記Bに添加して混合した後、加熱した成分No.22を添加し、乳化した。
D:上記Cを冷却し、ハンドクリームを得た。
【0079】
製剤例3のハンドクリームは、製剤が安定で、保湿性が高く、使用感もよいことが確認された。
図1
図2
図3
図4