(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の内部応力または温度の計測方法
(51)【国際特許分類】
G01L 1/24 20060101AFI20220519BHJP
E04G 23/00 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
G01L1/24 A
E04G23/00 ESW
(21)【出願番号】P 2020078910
(22)【出願日】2020-04-28
【審査請求日】2020-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】509200613
【氏名又は名称】株式会社横河NSエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】前島 稔
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05748312(US,A)
【文献】特開2000-186944(JP,A)
【文献】特開2020-056768(JP,A)
【文献】特開2011-214962(JP,A)
【文献】米国特許第05649035(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00
G01L 1/24
G01L 5/00
E04G 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端部に光源としてのパルス光を入射してできる後方散乱光を、受光器としての計測機で受けて、空間分解能に応じて設定される複数の測定位置におけるひずみまたは温度を得る光ファイバーセンサーを用いたコンクリート構造物の内部応力または温度をモニタリングするための計測
方法であって、
前記コンクリート構造物内部に、前記光ファイバーセンサーを、前記コンクリート構造物に生ずる内部応力の作用方向に、位置決め材に固定した状態で、繰り返し往復させて配設し、
繰り返し往復させて配設された前記光ファイバーセンサーの複数個所について、予め前記コンクリート構造物内における位置を測定して確認しておき、
空間分解能に応じて設定される前記複数の測定位置のひずみまたは温度を、測定する際に入射されるパルス光による後方散乱光を前記計測機で測定し、前記後方散乱光の周波数変化値
から前記コンクリート構造物内の内部応力または温度の分布を求めるようにしたことを特徴とするコンクリート構造物の内部
応力または温度の計測
方法。
【請求項2】
請求項1記載のコンクリート構造物の内部応力または温度の計測方法において、
光ファイバーセンサーの前記複数個所についての、前記コンクリート構造物内における位置の確認は、前記コンクリート構造物内の前記複数個所に強制的にひずみを発生させて、前記光ファイバーセンサーの一端からパルス光を入射させ、後方散乱光を計測することによって行うことを特徴とするコンクリート構造物の内部応力または温度の計測方法。
【請求項3】
一方の端部に光源としてのパルス光を入射してできる後方散乱光を、受光器としての計測機で受けて、空間分解能に応じて設定される複数の測定位置におけるひずみまたは温度を得る光ファイバーセンサーを用いてコンクリート構造物の内部応力または温度をモニタリングするための計測
方法であって、
前記光ファイバーセンサーを、内部応力の作用方向に繰り返し往復させて、位置決め材に固定した状態で、コンクリートを充填したブロック状の計測ユニットを作成し、
繰り返し往復させて配設された前記光ファイバーセンサーの複数個所について、予め前記計測ユニットのコンクリート内における位置を測定して確認しておき、
前記コンクリート構造物に前記計測ユニットを設置することで、
前記計測ユニットに内蔵された前記光ファイバーセンサーが前記コンクリート構造物の内部応力の作用方向に配置され、
前記光ファイバーセンサーの端部に計測機を繋いで、
前記光ファイバーセンサーに入射されるパルス光による後方散乱光を前記計測機で測定し、後方散乱光の周波数変化値から前記コンクリート構造物内の内部応力または温度の分布を
求めるようにしたことを特徴とするコンクリート構造物の内部
応力または温度の計測
方法。
【請求項4】
請求項3記載のコンクリート構造物の
内部応力または温度の計測
方法において、
前記計測ユニットを並設して、隣り合う前記計測ユニットの光ファイバーセンサーどうしを連結させて、前記コンクリート構造物を構成することで、
前記計測ユニットに内蔵された前記光ファイバーセンサーが前記コンクリート構造物内部の応力作用方向に配置され、
前記光ファイバーセンサーの終端部に計測機を繋ぐことによって、
前記コンクリート構造物内の内部応力または温度の分布を
求めるようにした
ことを特徴とするコンクリート構造物の
内部応力または温度の計測
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバーセンサーを用いて、コンクリート構造物内部の周波数変化値からひずみ変化や温度変化などを計測し、その分布などを測定することのできるコンクリート構造物の内部計測システムに関するものである。
【0002】
コンクリート構造物の内部応力状態を把握する場合、従来ではモールドひずみゲージを用いることが主流であった。モールドひずみゲージは、埋め込み型ひずみゲージとも呼ばれあらかじめ把握したい内部応力箇所にひずみゲージを埋設して、そのゲージの標点距離に相当するフランジ間に発生する平均歪値に材料固有の静弾性係数を乗じて内部応力を把握することができる。しかしながらその値は局所的に計測しているにすぎず、構造物内部の応力分布を把握したい場合には、その領域全てにモールドゲージを埋設しなければならなかった。また、コンクリート構造物内部の部材厚さ方向について応力分布を把握したい場合には何層にも渡りモールドひずみゲージを固定して設置する必要があった。
【0003】
一方、近年では通信用に開発された光ファイバーセンサーを用いて、光源としてパルス光を入射してできる後方散乱光を受光器に取り込み処理をすることで、ひずみや温度などの変化を把握することができ、構造物の維持管理、メンテナンスに利用できることがわかってきた。その利点は、リアルタイムに且つ長期に渡り変化を捉えることが可能となったという点にある。光ファイバーセンサーを用いて、構造物のひずみや損傷を測定する方法としては、例えば特許文献1~4、非特許文献1、2に記載された発明がある。
【0004】
特許文献1には、コンクリート構造物内部の応力をモニタリングする応力モニタリングセンサであって、1つ以上の光ファイバセンサと、各光ファイバセンサを保持する棒鋼と、各光ファイバセンサおよび棒鋼を被覆する被覆部とを備え、被覆部を構成する材料は、コンクリート構造物に用いられるコンクリートと同程度以上の強度を有するセメント系材料または樹脂であることを特徴とする応力モニタリングセンサが記載されている。
【0005】
特許文献2には、光ファイバの長手方向がコンクリート構造物の表面と直交するように光ファイバセンサを配設し、光ファイバセンサによって計測されたひずみが増大している場合にコンクリート内部にせん断ひび割れが発生したと判断することを特徴とするコンクリート構造物の診断方法が記載されている。
【0006】
特許文献3には、コンクリートのひび割れを検出するひび割れ検出方法であって、コンクリート中の鋼材の表面に光ファイバセンサを固定させる工程と、光ファイバセンサ中を伝搬する光波の特性変化に基づいて、鋼材のひずみを測定する工程と、測定したひずみの経時的変化の特性に基づいて、コンクリートのひび割れを検出するひび割れ検出方法が記載されている。
【0007】
特許文献4には、合成樹脂製の保護管内に光ファイバを挿入し、一定の測定間隔毎に光ファイバと保護管との間を固着して光ファイバに初期歪みを与えてなる信号ケーブルを作成し、信号ケーブルをトンネル内壁面にトンネル軸方向と直交する方向に所定の間隔で形成された複数の溝内に配設して接着剤により固着すると共に、信号ケーブルの光ファイバと保護管との固着部分を固定具によりトンネル内壁に固定することを特徴とする光ファイバの敷設方法が記載されている。
【0008】
非特許文献1には、ブリルアン散乱式光ファイバセンサの特長を生かしたモニタリング手法として、橋梁の支承機能の評価法が記載されている。また、非特許文献2には、コンクリート舗装に光ファイバセンサを埋め込んだ実験についての記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2019-109164号公報
【文献】特開2019-066388号公報
【文献】特開2016-188850号公報
【文献】特開2001-059797号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】西尾真由子、水野圭太、勝地弘、山田均「分布型光ファイバセンサを用いた橋梁支承モニタリングに関する基礎検討」、構造工学論文集、2014年3月、p.484-492
【文献】曽我 健一、「センサー化 インフラに“神経”を張り巡らす」、日経コンストラクション、2019年9月23日、p.46-47
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
モールドひずみゲージは、通常のひずみゲージと同じく、その抵抗線がひずみによって伸縮し抵抗値の変化として現れることを利用した応力センサーのひとつであり、電気抵抗が正常な範囲での計測手法であるが、長期間に渡る計測については不向きとなる。また、フランジ間に生じるひずみの平均値となることから、その確からしさを追求する場合には複数の設置が必要となるし、大型構造物については、モールドゲージのフランジ間を長くする方法や、深さ方向に複数個、離散配置する等の対応が必要となってくると考えられる。
【0012】
そもそも計測技術として構造物内部の圧力を計測すること自体が非常に難しくその方法がこれまで無かったに等しいと言える。
【0013】
特許文献1記載の発明は、光ファイバセンサを棒鋼に保持させて、セメント系材料または樹脂で棒鋼を被覆した応力モニタリングセンサをコンクリート構造物内に設置するが、この構成だと光ファイバセンサは棒鋼と被覆部の応力および損傷状況をモニタリングすることになり、コンクリート構造物内部の応力として正確なデータは得られない。
【0014】
特許文献2記載の発明では、光ファイバセンサをせん断補強筋として配筋される鉄筋に密着するように取り付けられ、コンクリート構造物の表面と直交するように配設されるものであり、ひずみの増大によりコンクリート構造物内部のせん断ひび割れを判断するものであり、コンクリート構造物の支圧応力や応力分布を得られるものではない。
【0015】
特許文献3記載の発明は、光ファイバセンサを用いて鋼材のひずみを測定し、コンクリートのひび割れを検出するものであり、特許文献2と同様に、コンクリート構造物の支圧応力や応力分布を得られるものではない。
【0016】
また、従来は山岳トンネルなど長手方向に長い構造物に光ファイバを設けて、長手方向のひずみを計測する方法や、特許文献4に記載されているように保護管内に光ファイバを挿入したものをトンネル内壁に固定した光ファイバの敷設方法が示されているが、平面的に使用されており、構造物内部のひずみデータを収集するものではない。
【0017】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、コンクリート構造物内部に光ファイバーセンサーをメッシュパネルにループを描くように這わせてから埋設することで、コンクリート構造物内部の応力分布、あるいは温度分布などを継続的に計測することのできるコンクリート構造物の内部計測システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、光ファイバーセンサーを用いたコンクリート構造物の内部応力または温度をモニタリングするための計測システムであって、予め1または複数箇所のひずみ計測点または温度計測点を認識させた前記光ファイバーセンサーを前記コンクリート構造物内部に配置して固定し、前記光ファイバーセンサーの端部に計測機を繋ぐことによって、前記各ひずみ計測点または温度計測点での周波数変化値から、その分布を求めるようにしたことを特徴とするものである。
【0019】
計測機に繋がれた分布型光ファイバーセンサーは、一方の端部に光源としてパルス光を入射しもう一方の端部までの空間分解能に応じた位置とひずみ差分の分布を得る事ができ、この空間分解能は、従来のひずみゲージのゲージ長に相当するもので、空間分解能が短いほど、より詳細なひずみ差分分布を得る事ができる。
【0020】
また、コンクリート構造物内部に光ファイバーセンサーを配置することで、温度分布を把握することができる。特にマスコンクリートでは温度ひび割れが発生しやすいため、構造物の維持管理に有効活用することができる。
【0021】
これらの応力分布や温度分布はいずれか一方を計測するだけでなく、両者を同時に測定することも可能であり、さらに応力および温度以外の分布型光ファイバーセンサーで計測可能な計測対象を同時に計測することもできる。
【0022】
なお、光ファイバーセンサーは、どこか一カ所でも断線してしまうと散乱光の取り込みが不能になってしまうため、注意が必要である。例えば、予備用の光ファイバーセンサーとして複数本のセンサーを使用する事やそれらをワイヤーで補強し、エンボス加工でコーティングする等の対策を講じてから使用するとよい。
【0023】
本発明のコンクリート構造物の内部計測システムにおいて、前記コンクリート構造物内部の上部から下部にかけて前記光ファイバーセンサーを支圧応力作用方向に繰り返し往復させて配設させるようにするとよい。
【0024】
また本発明は、光ファイバーセンサーを用いてコンクリート構造物の内部応力または温度をモニタリングするための計測システムであって、予め1または複数箇所のひずみ計測点または温度計測点を認識させた前記光ファイバーセンサーを配設し、コンクリートを充填したブロック状の計測ユニットを作成し、前記コンクリート構造物に前記計測ユニットを設置することで、前記計測ユニットに内蔵された前記光ファイバーセンサーが前記コンクリート構造物の内部応力の作用方向に配置され、前記光ファイバーセンサーの端部に計測機を繋いで、前記計測ユニット内の前記各ひずみ計測点または温度計測点での周波数変化値からその分布を計測できるようにしたことを特徴とするものである。
【0025】
あらかじめ光ファイバーセンサーを配設したブロック状の計測ユニットを作成しておけば、光ファイバーセンサーを現場で配設する作業が不要となり、構造物内部に計測ユニットを配置するだけでよく、現場での施工が容易で、施工時間も短縮することができる。また、ひずみや温度を計測したい部分にだけ計測ユニットを配置しておいてもよい。
【0026】
本発明のコンクリート構造物の計測システムにおいて、前記計測ユニットを並設して、隣り合う前記計測ユニットの光ファイバーセンサーどうしを連結させて、前記コンクリート構造物を構成することで、前記計測ユニットに内蔵された前記光ファイバーセンサーが前記コンクリート構造物内部の支圧応力作用方向に配置され、前記光ファイバーセンサーの終端部に計測機を繋ぐことによって、前記各ひずみ計測点または温度計測点での分布を計測できるようにすることもできる。
【0027】
隣り合う計測ユニットの光ファイバーセンサー同士を連結させることで大型コンクリート構造物においても広範囲に渡り構造物内部の応力状態や温度の把握が可能となる。
【0028】
プレキャストコンクリート製品については、同様にあらかじめ計測ユニットを埋設しておき、各製品から出ている光ファイバの端子同士を現場で連結すれば、簡単に構造物内部の応力状況や温度が把握できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のコンクリート構造物の計測システムは、光ファイバーセンサーを構造物内部の把握したい応力方向に配置して、そのひずみ分布の差分により内部応力の把握が可能となり、一度そのシステムを構築すれば、従来のひずみゲージとは異なり、継続的かつ半永久的にコンクリート構造物の内部モニタリングをすることができる。また、構造物内部の温度分布などを把握することもできる。
【0030】
現地で光ファイバーセンサーを設置するのではなく、予めプレキャスト製品としてユニット化することにより、現場での施工は光ファイバーセンサーの接続やユニットの交換となり、作業が容易に行える。また、構造物において、データを計測したい部分に光ファイバーセンサーを設けたユニットを配置すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明に係るコンクリート構造物の計測システムを合成鋼管柱に用いた実施例の載荷実験状況図を示し、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【
図2】(a)は
図1の載荷実験の基礎コンクリート内部に、光ファイバーセンサーをメッシュパネルに繰り返しのループを描くように這わせた状態を示した鉛直断面図、(b)は基礎コンクリート打設前のメッシュパネルの配置状況を示した平面図である。
【
図3】
図1の実施形態において、基礎コンクリート内部のひずみ分布の結果を示したものであり、(a)はひずみ計測点とひずみモールドゲージの位置を示した平面図、(b)~(d)は中心からの距離と発生歪との関係を示したグラフで、(b)はひずみモールドゲージM5、M6と光ファイバーセンサーのひずみ計測点、(c)はひずみモールドゲージM1~4と光ファイバーセンサーのひずみ計測点、(d)はひずみモールドゲージM7、M8と光ファイバーセンサーのひずみ計測点の結果である。
【
図4】
図1の実施形態における基礎コンクリート内部の発生歪を深さ分布で示したグラフである。
【
図5】本発明に係るコンクリート構造物の計測システムにおいて、基礎コンクリート内部の任意断面の支圧応力分布を示したグラフであり、(a)は支圧応力作用方向(深さ)が-200mm、(b)は-300mm、(c)は-400mmである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を添付した図面に基づいて説明する。なお、本発明は以下に示される実施形態に限定されるものではない。
【0033】
図1は、本発明に係るコンクリート構造物の計測システムを合成鋼管柱11の載荷実験において基礎コンクリート13内部に光ファイバーセンサー1を配設した実施形態を示したものであり、(a)は正面図、(b)は平面図である。基礎コンクリート13の上に設けた鋼管柱11は直径500mmとし、鋼管柱11内部にはアンカー筋12を設けた。
【0034】
光ファイバーセンサー1にパルス光を入射し、後方散乱光としてレーリー波を空間分解能20mmで収集する。基礎コンクリート13の内部には光ファイバーセンサー1をあらかじめメッシュ筋にループ状に這わせてから配置して、基礎コンクリート13を打設した。光ファイバーセンサー1の端部に計測機を繋げて、各ひずみ計測点でのデータを集計する。
【0035】
図2に、
図1の載荷実験において、光ファイバーセンサー1をメッシュパネル2に繰り返し往復させたループを描くように這わせた状態を示した。コンクリート構造物内部で光ファイバーセンサー1を位置決めする方法として、
図2(a)に示したように、例えばメッシュパネル3を使用して、固定したメッシュパネル3に光ファイバーセンサー1を這わせる。光ファイバーセンサー1をメッシュパネル3に這わせたものを光ファイバーセンサーユニットとして作成しておくとよい。その他、コンクリートを打設する際に、光ファイバーセンサー1の位置がずれることがない方法であればよい。
【0036】
網状のものに光ファイバーセンサー1を折らないように気を付けながら這わせて接着剤などで取り付けた後、光ファイバーセンサー1に位置情報を認識させて、光ファイバーセンサー1上にひずみ計測点または温度計測点を設定する。その方法として、例えば着目位置を冷やしたり温めたりすることで強制的にひずみを発生させ、位置情報を確認する。
【0037】
また、
図2~3に示したように、光ファイバーセンサー1上に設定したひずみ計測点1bの歪計測値の整合性を確認するために、モールドひずみゲージM1~M8も設置して、光ファイバーセンサー1でひずみを計測するとともに、モールドひずみゲージによってもひずみを計測した。
【0038】
図2(b)には、
図1の載荷実験において、基礎コンクリート13内部に埋設した光ファイバーセンサー1の配置状況を示した平面図を示した。メッシュパネル2に固定した光ファイバーセンサー1が左右に往復してループを描いている。基礎コンクリート13の内部には、光ファイバーセンサー1を固定したメッシュパネル2を支圧応力作用方向(深さ方向)に複数層設けて、支圧応力作用方向の応力分布または温度分布を求められるようにする。
【0039】
図3、4は、本発明の計測システムの妥当性を確認するために実施した合成鋼管柱の載荷実験において、基礎コンクリート13内部のひずみ分布の結果を示したものである。
図3(a)は、ひずみ計測点1bとひずみモールドゲージM1~8の位置を示している。
図3(b)~(d)には、ひずみ計測点1bとひずみモールドゲージM1~8において、中心からの距離と発生歪の関係を示したグラフであり、(b)はひずみモールドゲージM5、M6と光ファイバーセンサーの各計測点、(c)はひずみモールドゲージM1~4と光ファイバーセンサーの各計測点、(d)はひずみモールドゲージM7、M8と光ファイバーセンサーの各計測点の結果である。
【0040】
図3(b)のグラフより、ひずみモールドゲージM5、M6における発生歪とひずみ計測点の発生歪の値がほぼ一致している。同様に
図3(c)、(d)のグラフでは、ひずみモールドゲージM1~4、M7、M8における発生歪とひずみ計測点の発生歪の値もほぼ一致していることがわかる。以上より、本発明の計測システムの妥当性を確認することができた。
【0041】
図4には、
図1の実施形態における基礎コンクリート13内部の発生歪を深さ分布で示した。また、このグラフでも本発明の計測システムの妥当性を確認するため、モールドひずみゲージM1~4の値も示している。
図4のように各ひずみ計測点での発生歪をプロットすると、支圧応力作用方向(深さ方向)でのひずみ分布を把握することができる。
【0042】
図5は、本発明に係るコンクリート構造物の計測システムにおいて、基礎コンクリート13内部の任意断面の支圧応力分布を示したグラフであり、(a)は支圧応力作用方向(深さ)が-200mm、(b)は-300mm、(c)は-400mmである。
【0043】
すなわち、各ひずみ計測点での発生歪から支圧応力を算出し、支圧応力作用方向の応力分布を求めることができ、
図6では深さ方向ごとの水平断面における特定方向についての支圧応力分布をグラフとしたものである。
【0044】
以上より、
図2に示した計測着目領域内において任意断面の支圧
応力分布の長期的な把握が可能であることが確認できた。
【0045】
図1で説明した基礎コンクリート13は、計測ユニットとしても使用できる。あらかじめプレキャストコンクリート製品として、光ファイバーセンサー1を配置して内蔵したブロック状の計測ユニットを作成しておけば、構造物内部の計測したい部分に現場で計測ユニットを設置するだけで、光ファイバーセンサー1を配置することができる。計測ユニットのサイズとしては、例えば1.3m角以下であれば4t程度であり運搬上の問題もなく現場施工は容易であると考えられる。
【0046】
計測ユニットをプレキャストコンクリート製品として作成すれば、計測ユニット同士の連結のみで本発明の計測システムの構築は可能であり、着脱は損傷を受けたところだけで良く、維持管理の省力化が期待される。
【0047】
ダムや原子力施設など大型構造物の場合は、プレパックドコンクリートの骨材と一緒に予め要所に光ファイバーセンサーを埋め込んだブロックを設置しておけば、施工後、人が容易に立ち入れない施設でも半永久的にコンクリート内部応力や温度を測定することができる。その場合、無線式センサーシステムを用いてもよい。
【0048】
また、
図1の実施形態では、
図3、
図4に示した各計測点での発生歪からの値から
図5に示した支圧応力の分布を示したが、各計測点で温度を計測することも可能であり、コンクリート構造物内部の温度分布を示すことも可能である。
【符号の説明】
【0049】
1:光ファイバーセンサー
1a:光ファイバーセンサーユニット端部
1b:光ファイバーセンサーのひずみ計測点(温度計測点)
2:メッシュパネル
3:モールドひずみゲージ
11:合成鋼管柱
12:アンカー筋
13:基礎コンクリート
14:荷重計
15:載荷板
M1~8:モールドひずみゲージ