(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】ダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 9/14 20060101AFI20220519BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
F16F9/14 A
F16J15/10 C
(21)【出願番号】P 2021056144
(22)【出願日】2021-03-29
(62)【分割の表示】P 2016119417の分割
【原出願日】2016-06-15
【審査請求日】2021-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 裕史
(72)【発明者】
【氏名】金子 亮平
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-090037(JP,A)
【文献】特開2003-287072(JP,A)
【文献】特開2000-161412(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0139558(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00- 9/58
F16J 15/00- 15/14
F16J 15/16- 15/32
F16J 15/324- 15/3296
F16J 15/46- 15/53
F16J 15/3204-15/3236
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性流体の移動を制限することにより、回転力に対して制動力を発生させるダンパであって、
開口部を有し、前記粘性流体を保持する流体保持室と、
端部が前記流体保持室の前記開口部に挿入されて前記流体保持室内に収容され、前記回転力により前記流体保持室に対して相対的に回転移動する抵抗力発生部材と、
前記流体保持室内を仕切るとともに、前記流体保持室に対する前記抵抗力発生部材の相対的な回転移動に伴い、仕切られた前記流体保持室内の一方の領域を圧縮し、かつ他方の領域を伸張する容量変更手段と、
前記容量変更手段によって仕切られた前記流体保持室内の領域間を連結する流路と、
前記流体保持室の前記開口部と前記抵抗力発生部材の前記端部との間に配置された円環状の弾性部材と、を備え、
前記流体保持室は、
一端が開口した円筒状のケースと、
前記ケースの開口側の端部に取り付けられて前記粘性流体を前記ケース内に封じ込む蓋と、
前記ケースと前記蓋との間に配置されたOリングと、を有し、
前記流体保持室の前記開口部は、
前記ケースの他端および前記蓋に形成され、
前記弾性部材の軸方向外方への移動を規制する第1の段差面を有し、
前記抵抗力発生部材は、
前記端部に形成され、前記弾性部材の軸方向内方への移動を規制する第2の段差面を有し、
前記弾性部材は、
前記流体保持室の前記開口部に形成された前記第1の段差面と前記抵抗力発生部材の前記端部に形成された前記第2の段差面との間に配置され、
前記流体保持室の中心線方向に幅を有する平坦面であって、前記抵抗力発生部材に圧接する内周面を含む断面矩形状の内周側円環部と、
前記流体保持室の中心線方向に幅を有する平坦面であって、前記流体保持室に圧接する外周面を含む断面矩形状の外周側円環部と、
前記内周側円環部と前記外周側円環部とを連結する連結部と、を有し、
前記流体保持室の中心線方向において、前記連結部は、前記内周側円環部および前記外周側円環部各々より狭い幅を有し、
前記流体保持室の中心線方向において、前記内周側円環部の、前記抵抗力発生部材に圧接する前記内周面は、前記外周側円環部の、前記流体保持室に圧接する外周面より狭い幅を有し、
前記内周側円環部の径方向の厚みは、前記外周側円環部の径方向の厚みより大きい
ことを特徴とするダンパ。
【請求項2】
請求項1に記載のダンパであって、
前記弾性部材は、
円周方向に沿って前記内周側円環部の前記内周面に形成され、グリースを保持する溝をさらに有する
ことを特徴とするダンパ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のダンパであって、
前記抵抗力発生部材が前記流体保持室に対して相対的に第一回転方向に回転移動した場合に、前記流路を閉門し、前記抵抗力発生部材が前記流体保持室に対して相対的に前記第一回転方向の逆回転方向である第二回転方向に回転移動した場合に、前記流路を開門する逆止弁をさらに備える
ことを特徴とするダンパ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のダンパであって、
前記抵抗力発生部材は、
前記流体保持室に挿入され、
外力として加えられた回転力により、前記流体保持室に対して相対的に回転するように当該流体保持室に収容されたロータ本体であり、
前記容量変更手段は、
前記流体保持室の中心線に沿って当該流体保持室の内周面から径方向内方に突出し、当該流体保持室を仕切る仕切り部と、
前記流体保持室の中心線に沿って前記ロータ本体の外周面から径方向外方に突出し、先端面が前記流体保持室の内周面と近接して、当該流体保持室内を仕切るベーンと、を有する
ことを特徴とするダンパ。
【請求項5】
請求項4に記載のダンパであって、
前記流路は、
前記容量変更手段の前記仕切り部あるいは前記ベーンに設けられ、当該仕切り部あるいは当該ベーンによって仕切られる前記流体保持室内の領域間を連結する
ことを特徴とするダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性流体の移動を制限することにより、外力に対して制動力を付与するダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
粘性流体の移動を制限することにより、外力に対して制動力を付与するダンパが知られている。この種のダンパは、開口部を有し、粘性流体を保持する流体保持室と、流体保持室内を仕切るとともに、流体保持室の開口部に挿入され、外力により流体保持室に対して相対的に移動あるいは回転する抵抗力発生部材と、流体保持室内を仕切るとともに、流体保持室に対する抵抗力発生部材の相対的な移動あるいは回転に伴い、仕切られた流体保持室内の一方の領域を圧縮し、かつ他方の領域を伸張する容量変更手段と、容量変更手段によって仕切られた流体保持室内の領域間を連結する流路と、を備えている。
【0003】
例えば、特許文献1には、粘性流体の移動を制限することにより、加えられた回転力に対して制動トルクを発生させるロータリダンパが開示されている。このロータリダンパは、一端が開口した内室を備えたハウジングと、ハウジングの内室に収容されたロータと、ハウジングの内室に充填された粘性流体(流動体)と、ハウジングの開口側端部に取り付けられてハウジングの内室に充填された粘性流体を封じ込めるプラグと、を備える。ハウジングおよびプラグは、流体保持室を構成する。
【0004】
ロータは、円筒形状のロータ本体と、ハウジングの内室の内周面に向けてロータ本体の外周面から径方向外方に突出した可動ベーンと、を有する。ロータ本体は、抵抗力発生部材に相当する。
【0005】
ハウジングの内室の内周面には、ロータ本体の外周面に向けて径方向内方に突出し、ハウジングの内室を仕切る固定ベーンが形成されている。固定ベーンは、ロータの可動ベーンとともに容量変更手段を構成する。
【0006】
ハウジングの固定ベーンには、この固定ベーンによって仕切られるハウジングの内室の領域間を繋ぐ流路(オリフィス)が形成されている。
【0007】
ハウジングの内室の底面およびプラグには、それぞれロータ本体の端部が回転可能に挿入される貫通孔が形成されている。これらの貫通孔は、流体保持室の開口部に相当する。ロータ本体の一方の端部がハウジングの内室の底面に形成された貫通孔に挿入され、かつロータ本体の他方の端部がプラグに形成された貫通孔に挿入されることにより、ロータは、ハウジングの内室に、この内室に対して相対的に回転可能に収容される。
【0008】
以上のような構成において、ロータリダンパは、ロータに回転力が加えられて、ロータがハウジングの内室に対して相対的に回転すると、内室の固定ベーンに対してロータ回転方向の上流側に位置する領域が可動ベーンにより圧縮され、この領域の粘性流体に対する圧力が高まる。このため、この領域の粘性流体が、固定ベーンに形成された流路を介して、内室の固定ベーンに対してロータ回転方向の下流側に位置する領域へ移動する。この際、粘性流体の移動抵抗(流路を介した粘性流体の移動の困難性)に応じた制動トルクが発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般に、粘性流体の移動を制限することにより、外力に対して制動力を付与するダンパにおいて、流体保持室の開口部とこの開口部に挿入された抵抗力発生部材との間には、流体保持室に保持された粘性流体がこの隙間から漏れるのを防止するために、ゴム等の弾性体からなるOリングが配置されている。このため、つぎの問題が生じる。
【0011】
すなわち、抵抗力発生部材に加ええられた外力によりOリングが弾性変形して、抵抗力発生部材の中心線が流体保持室の中心線から偏心し、軸ずれを引き起こす可能性がある。ここで、Oリングは、断面円形状であるため、径方向に弾性変形すると、抵抗力発生部材および流体保持室の開口部各々との接触面積が変化する。このため、流体保持室の開口部とこの開口部に挿入された抵抗力発生部材との間のシール性が不安定となり、流体保持室に保持された粘性流体がこの隙間から漏れる可能性がある。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、流体保持室に保持された粘性流体の漏れをより確実に防止することができるダンパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のダンパでは、流体保持室とこの流体保持室に挿入される抵抗力発生部材との間に、流体保持室の中心線方向に幅を有し、流体保持室に圧接する外周面と、流体保持室の中心線方向に幅を有し、抵抗力発生部材に圧接する内周面と、を備える円環状の弾性部材を配置している。
【0014】
例えば、本発明は、粘性流体の移動を制限することにより、回転力に対して制動力を発生させるダンパであって、
開口部を有し、前記粘性流体を保持する流体保持室と、
端部が前記流体保持室の前記開口部に挿入されて前記流体保持室内に収容され、前記回転力により前記流体保持室に対して相対的に回転移動する抵抗力発生部材と、
前記流体保持室内を仕切るとともに、前記流体保持室に対する前記抵抗力発生部材の相対的な回転移動に伴い、仕切られた前記流体保持室内の一方の領域を圧縮し、かつ他方の領域を伸張する容量変更手段と、
前記容量変更手段によって仕切られた前記流体保持室内の領域間を連結する流路と、
前記流体保持室の前記開口部と前記抵抗力発生部材の前記端部との間に配置された円環状の弾性部材と、を備え、
前記流体保持室は、
一端が開口した円筒状のケースと、
前記ケースの開口側の端部に取り付けられて前記粘性流体を前記ケース内に封じ込む蓋と、
前記ケースと前記蓋との間に配置されたOリングと、を有し、
前記流体保持室の前記開口部は、
前記ケースの他端および前記蓋に形成され、
前記弾性部材の軸方向外方への移動を規制する第1の段差面を有し、
前記抵抗力発生部材は、
前記端部に形成され、前記弾性部材の軸方向内方への移動を規制する第2の段差面を有し、
前記弾性部材は、
前記流体保持室の前記開口部に形成された前記第1の段差面と前記抵抗力発生部材の前記端部に形成された前記第2の段差面との間に配置され、
前記流体保持室の中心線方向に幅を有する平坦面であって、前記抵抗力発生部材に圧接する内周面を含む断面矩形状の内周側円環部と、
前記流体保持室の中心線方向に幅を有する平坦面であって、前記流体保持室に圧接する外周面を含む断面矩形状の外周側円環部と、
前記内周側円環部と前記外周側円環部とを連結する連結部と、を有し、
前記流体保持室の中心線方向において、前記連結部は、前記内周側円環部および前記外周側円環部各々より狭い幅を有し、
前記流体保持室の中心線方向において、前記内周側円環部の、前記抵抗力発生部材に圧接する前記内周面は、前記外周側円環部の、前記流体保持室に圧接する外周面より狭い幅を有し、
前記内周側円環部の径方向の厚みは、前記外周側円環部の径方向の厚みより大きい。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、流体保持室とこの流体保持室に挿入される抵抗力発生部材との間に、流体保持室の中心線方向に幅を有する内周面および外周面を備えた円環状の弾性部材を配置している。このため、抵抗力発生部材が軸ずれを起こして、弾性部材が径方向に弾性変形した場合でも、流体保持室および抵抗力発生部材各々と弾性部材との接触面積の変化を小さくすることができる。このため、流体保持室と抵抗力発生材との間のシール性が安定し、流体保持室に保持された粘性流体がこの隙間から漏れる可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1(A)~
図1(C)は、本発明の一実施の形態に係るロータリダンパ1の正面図、側面図、および背面図である。
【
図2】
図2(A)は、
図1(A)に示すロータリダンパ1のA-A断面図であり、
図2(B)は、
図1(B)に示すロータリダンパ1のB-B断面図である。
【
図3】
図3(A)および
図3(B)は、
図2(A)に示すロータリダンパ1のA部拡大図およびB部拡大図である。
【
図4】
図4(A)は、
図2(A)に示すロータリダンパ1のC部拡大図であり、
図4(B)は、
図2(B)に示すロータリダンパ1のD部拡大図である。
【
図5】
図5(A)は、ケース2の正面図であり、
図5(B)は、
図5(A)に示すケース2のC-C断面図であり、
図5(C)は、ケース2の背面図である。
【
図6】
図6(A)および
図6(B)は、ロータ3の正面図および側面図であり、
図6(C)は、
図6(A)に示すロータ3のD-D断面図である。
【
図7】
図7(A)および
図7(B)は、第一シール材4の正面図および背面図であり、
図7(C)は、
図7(A)に示す第一シール材4のE-E断面図である。
【
図8】
図8(A)および
図8(B)は、第二シール材5の正面図および側面図であり、
図8(C)は、
図8(A)に示す第二シール材5のF-F断面図である。
【
図9】
図9(A)~
図9(C)は、蓋6の正面図、側面図、および背面図であり、
図9(D)は、
図9(A)に示す蓋6のG-G断面図である。
【
図10】
図10(A)は、第一、第二シールリング8a、8bの正面図であり、
図10(B)は、
図10(A)に示す第一、第二シールリング8a、8bのH-H断面図であり、
図10(C)は、
図10(A)に示す第一、第二シールリング8a、8bのE部拡大図であり、
図10(D)は、
図10(B)に示す第一、第二シールリング8a、8bのF部拡大図である。
【
図11】
図11(A)は、第一、第二シールリング8a、8bの変形例8’a、8’bの正面図であり、
図11(B)は、
図11(A)に示す変形例8’a、8’bのI-I断面図であり、
図11(C)は、
図11(B)に示す変形例8’a、8’bのG部拡大図である。
【
図12】
図12(A)は、本発明の他の実施の形態に係る直動式ダンパ9の側面図であり、
図12(B)は、
図12(A)に示す直動式ダンパ9のJ-J断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態を説明する。
【0018】
図1(A)~
図1(C)は、本発明の一実施の形態に係るロータリダンパ1の正面図、側面図、および背面図である。また、
図2(A)は、
図1(A)に示すロータリダンパ1のA-A断面図であり、
図2(B)は、
図1(B)に示すロータリダンパ1のB-B断面図である。また、
図3(A)および
図3(B)は、
図2(A)に示すロータリダンパ1のA部拡大図およびB部拡大図であり、
図4(A)は、
図2(A)に示すロータリダンパ1のC部拡大図であり、
図4(B)は、
図2(B)に示すロータリダンパ1のD部拡大図である。
【0019】
本実施の形態に係るロータリダンパ1は、自動車、鉄道車両、航空機、船舶等で用いられるリクライニング機能付きの座席シート等、双方向に回転する回転体の回転運動を制動することが必要とされる装置に利用される。図示するように、本実施の形態に係るロータリダンパ1は、オイル、シリコーン等の粘性流体(不図示)を保持する流体保持室を構成するケース2および蓋6と、流体保持室に対して相対的に回転可能に流体保持室に収容されたロータ3と、を備えている。
【0020】
図5(A)は、ケース2の正面図であり、
図5(B)は、
図5(A)に示すケース2のC-C断面図であり、
図5(C)は、ケース2の背面図である。
【0021】
図示するように、ケース2内には、一端が開口した円筒室(底付き円筒状の空間)21が形成されており、この円筒室21の底部22には、流体保持室の開口部として機能するロータ3挿入用の貫通孔23が形成されている。ロータ3は、後述するロータ本体31の下端部33a(
図6参照)がこの貫通孔23に挿入されることにより、ロータ3の回転軸30が円筒室21の中心線20と一致するように、円筒室21内に収容される(
図2(A)および
図4(A)参照)。また、円筒室21の貫通孔23の内周面220には、ロータ本体31の下端部33aに装着された後述の第一シールリング8a(
図4(A)参照)の軸方向外方への移動を規制する段差221が形成されている。
【0022】
また、円筒室21の内周面24には、径方向内方に突出し、先端面26がロータ3の後述するロータ本体31の外周面34(
図6参照)と近接して、円筒室21を仕切る一対の仕切り部25が、円筒室21の中心線20に沿って、この中心線20に対して軸対称に形成されている。一対の仕切り部25には、それぞれ、後述の第一シール材4が装着される(
図2(B)および
図4(B)参照)。また、円筒室21の内周面24の開口側28には、蓋6の後述する雄ネジ部62(
図9参照)と螺合する雌ネジ部27が形成されている。
【0023】
図6(A)および
図6(B)は、ロータ3の正面図および側面図であり、
図6(C)は、
図6(A)に示すロータ3のD-D断面図である。
【0024】
図示するように、ロータ3は、円筒状のロータ本体31と、ロータ本体31の回転軸30に対して軸対称に形成された一対のベーン(回転翼)32と、を備えている。
【0025】
ベーン32は、ロータ33の回転軸30に沿って形成され、ロータ本体31の外周面34から径方向外方へ突出し、先端面35がケース2の円筒室21の内周面24と近接して、円筒室21を仕切る。ベーン32は、ケース2の円筒室21の仕切り部25とともに、ベーン32によって仕切られた流体保持室内の一方の領域を圧縮し、かつ他方の領域を伸張する容量変更手段を構成する。
【0026】
ベーン32には、ロータ3の回転方向に沿ってベーン32の両側面37a、37b間を貫く流路36が形成されている。また、ベーン32には、後述の第二シール材5が装着される(
図2(B)および
図4(B)参照)。
【0027】
ロータ本体31は、外部からの回転力により流体保持室に対して相対的に回転する抵抗力発生部材として機能する。ロータ本体31は、下端部33aがケース2の円筒室21の底部22に形成された貫通孔23に回転可能に挿入され(
図2(A)および
図4(A)参照)、上端部33bが蓋6の後述する貫通孔60(
図9参照)に回転可能に挿入される(
図2(A)、
図3(A)および
図3(B)参照)。
【0028】
ロータ本体31には、外部からの回転力をロータ3に伝達する六角シャフト(不図示)を挿入するための挿入穴38が、回転軸30を中心にして形成されている。ロータ本体31の下端部33aには、後述の第一シールリング8aが回転可能に装着される(
図4(A)参照)。そして、ロータ本体31の下端部33aの外周面34には、装着された第一シールリング8aの軸方向内方への移動を規制する段差340aが形成されている。一方、ロータ本体31の上端部33bには、後述の第二シールリング8bが回転可能に装着される(
図3(A)および
図3(B)参照)。そして、ロータ本体31の上端部33bの外周面34には、装着された第二シールリング8bの軸方向内方への移動を規制する段差340bが形成されている。
【0029】
図7(A)および
図7(B)は、第一シール材4の正面図および背面図であり、
図7(C)は、
図7(A)に示す第一シール材4のE-E断面図である。
【0030】
図示するように、第一シール材4は、ケース2の円筒室21に形成された仕切り部25に装着可能なコの字形状を有しており、一端に側壁部41を備えている。第一シール材4は、底部40が仕切り部25の先端面26とロータ3のロータ本体31の外周面34との間に介在することにより、これらの隙間を塞ぐとともに(
図4(B)参照)、側壁部41が仕切り部25の上面29と後述する蓋6の下面63との間に介在することにより、これらの隙間を塞ぐ(
図3(A)参照)。
【0031】
なお、第一シール材4は、相対的に回転するケース2およびロータ3間に配置されるため、その素材には、ポリアミド等の摺動性に優れた樹脂を用いることが好ましい。
【0032】
図8(A)および
図8(B)は、第二シール材5の正面図および側面図であり、
図8(C)は、
図8(A)に示す第二シール材5のF-F断面図である。
【0033】
図示するように、第二シール材5は、ロータ3のベーン32に装着可能なコの字形状を有しており、ベーン32の回転方向の幅t1(
図6(A)参照)より長い幅t2を有する底部50と、底部50の一方の端部51に一体的に形成され、ベーン32に形成された流路36の径方向の幅t3(
図6(B)参照)より長い幅t4を有する第一脚部53と、底部50の他方の端部52に一体的に形成され、ベーン32に形成された流路36の径方向の幅t3より短い幅t5を有する第二脚部54と、を有する。
【0034】
ベーン32に装着された第二シール材5は、底部50がベーン32の先端面35とケース2の円筒室21の内周面24との間に介在することにより、これらの隙間を塞ぐ(
図4(B)参照)。また、
図2(B)に示すように、ロータ3がケース2の円筒室21に対して相対的に第一回転方向R1に回転すると、第二シール材5の第一脚部53がベーン32の一方の側面37aと当接して、ベーン32に形成された流路36を塞ぐ。一方、ロータ3がケース2の円筒室21に対して相対的に第一回転方向R1の逆回転方向である第二回転方向R2に回転すると、第二シール材5の第一脚部53がベーン32の一方の側面37aから離れ、第二脚部54がベーン32の他方の側面37bに当接して、ベーン32に形成された流路36を開放する(
図4(B)参照)。
【0035】
なお、第二シール材5は、相対的に回転するケース2およびロータ3間に配置されるため、その素材には、ポリアミド等の摺動性に優れた樹脂を用いることが好ましい。
【0036】
図9(A)~
図9(C)は、蓋6の正面図、側面図、および背面図であり、
図9(D)は、
図9(A)に示す蓋6のG-G断面図である。
【0037】
図示するように、蓋6には、ケース2の円筒室21の底部22に形成された貫通孔23と対向する位置に、流体保持室の開口部として機能するロータ3挿入用の貫通孔60が形成されている。この貫通孔60には、ロータ3のロータ本体31の上端部33bが挿入される。また、貫通孔60の内周面64には、ロータ本体31の上端部33bに装着された後述の第二シールリング8b(
図3(A)参照)の軸方向外方への移動を規制する段差65が形成されている。また、蓋6の下面63は、ロータ3のベーン32の上面39との間に、円筒室21に充填された粘性流体の流路として機能する隙間gを形成する(
図3(B)参照)。
【0038】
また、蓋6の外周面61には、円筒室21の内周面24の開口側28に形成された雌ネジ部27と螺合する雄ネジ部62が形成されており、さらに、その下面63側に、Oリング7を装着するための溝66が周方向に形成されている。Oリング7は、溝66に装着され、蓋6の外周面61と円筒室21の内周面24との間に介在して、蓋6の雄ネジ部62と円筒室21の雌ネジ部27との螺合部分から粘性流体が外部に漏れるのを防止する(
図3(A)および
図3(B)参照)。
【0039】
図10(A)は、第一、第二シールリング8a、8bの正面図であり、
図10(B)は、
図10(A)に示す第一、第二シールリング8a、8bのH-H断面図であり、
図10(C)は、
図10(A)に示す第一、第二シールリング8a、8bのE部拡大図であり、
図10(D)は、
図10(B)に示す第一、第二シールリング8a、8bのF部拡大図である。
【0040】
図示するように、第一シールリング8aおよび第二シールリング8bは、ニトリルブタジエンゴム(NBR)等の弾性体で形成された円環状部材であり、第一シールリング8aにおいては、ロータ3のロータ本体31の下端部33aの外径d4より小さな内径d1と、ケース2の円筒室21の貫通孔23の内径(段差221の外径)d3より大きな外径d2と、を有し、第二シールリング8bにおいては、ロータ3のロータ本体31の上端部33bの外径d5より小さな内径d1と、蓋6の貫通孔60の内径(段差65の外径)d6より大きな外径d2と、を有する。また、第一シールリング8aおよび第二シールリング8bは、断面矩形状の内周側円環部81と、断面矩形状の外周側円環部82と、連結部83と、を有する。
【0041】
内周側円環部81は、ケース2の円筒室21の中心線20と一致する中心線80の方向に平坦な幅t6の内周面84を有する。内周面84が中心線80の方向に平坦な幅t6を有することにより、第一シールリング8aおよび第二シールリング8bが径方向に弾性変形した場合における内周面84と相手面との接触面積の変化を抑制することができる。なお、内周面84は、第一シールリング8aにおいてはロータ3のロータ本体31の下端部33aの外周面34に圧接し、第二シールリング8bにおいてはロータ3のロータ本体31の上端部33bの外周面34に圧接する。また、内周面84には、グリース溝86が円周方向に形成されており、グリースがこのグリース溝86に充填される。
【0042】
外周側円環部82は、ケース2の円筒室21の中心線20と一致する中心線80の方向に平坦な幅t7の外周面85を有する。外周面85が中心線80の方向に平坦な幅t7を有することにより、第一シールリング8aおよび第二シールリング8bが径方向に弾性変形した場合における外周面85と相手面との接触面積の変化を抑制することができる。なお、外周面85は、第一シールリング8aにおいてはケース2の円筒室21の貫通孔23の内周面220に圧接し、第二シールリング8bにおいては蓋6の貫通孔60の内周面64に圧接する。
【0043】
ここで、内周側円環部81の内周面84の幅t6は、外周側円環部82の外周面85の幅t7より狭い。このため、内周側円環部81の内周面84の摩擦係数が外周側円環部82の外周面85の摩擦係数より小さくなる。したがって、ロータ3がケース2の円筒室21に対して相対的に回転した場合、摩擦係数の低い内周側円環部81の内周面84において、この内周面84が圧接するロータ3のロータ本体31の下端部33aあるいは上端部33bの外周面34との摺動が発生し、摩擦係数の高い外周側円環部82の外周面85においては、この外周面85が圧接するケース2の円筒室21の貫通孔23の内周面220あるいは蓋6の貫通孔60の内周面64と摺動せずに密着状態となる。
【0044】
連結部83は、内周側円環部81および外周側円環部82間に配されて、両者を連結する。また、連結部83は、中心線80の方向において、内周側円環部81および外周側円環部82よりも狭い幅t8を有している。このため、第一シールリング8aおよび第二シールリング8bに応力が加わった場合に、連結部83が弾性変形してこの応力を吸収することにより、内周側円環部81および外周側円環部82の弾性変形が抑制される。
【0045】
上記構成のロータリダンパ1において、ロータ3がケース2の円筒室21に対して相対的に第一回転方向R1に回転移動すると(
図2(B)参照)、第二シール材5の第一脚部53がベーン32の一方の側面37aと当接して、ベーン32に形成された流路36を塞ぐ。このとき、ケース2の円筒室21の仕切り部25に装着された第一シール材4により、仕切り部25の先端面26とロータ3のロータ本体31の外周面34との隙間、および蓋6の下面63と仕切り部25の上面29との隙間が塞がれ、かつ、ロータ3のベーン32に装着された第二シール材5により、ベーン32の先端面35とケース2の円筒室21の内周面24との隙間が塞がれている(
図3(A)および
図4(B)参照)。したがって、円筒室21内に充填された粘性流体の移動が、蓋6の下面63とロータ3のベーン32の上面38との隙間gを介してのみに制限され(
図3(B)参照)、ベーン32とベーン32に対して第一回転方向R1側に位置する仕切り部25とにより区切られた領域21a(
図2(B)参照)内の粘性流体に対する圧力が高まる。このため、強い制動トルクが発生する。
【0046】
一方、ロータ3がケース2の円筒室21に対して相対的に第二回転方向R2に回転移動すると(
図2(B)参照)、第二シール材5の第一脚部53がベーン32の一方の側面37aから離れて、ベーン32に形成された流路36を開放する。したがって、円筒室21内に充填された粘性流体の移動が、蓋6の下面63とロータ3のベーン32の上面38との隙間gに加えて、ベーン32に形成された流路36を介して行われるため、ベーン32とベーン32に対して第二回転方向R2側に位置する仕切り部25とにより区切られた領域21b(
図2(B)参照)内の粘性流体に対する圧力は、ロータ3がケース2の円筒室21に対して相対的に第一回転方向R1に回転した場合に比べて高くならない。このため、ロータ3がケース2の円筒室21に対して相対的に第一回転方向R1に回転した場合よりも弱い制動トルクが発生する。
【0047】
以上、本発明の一実施の形態を説明した。
【0048】
本実施の形態では、ケース2の円筒室21の貫通孔23とロータ3のロータ本体31の下端部33aとの間に、円筒室21の中心線20の方向に平坦な幅t7を有し、貫通孔23の内周面220に圧接する外周面85と、円筒室21の中心線20の方向に平坦な幅t6を有し、ロータ本体31の下端部33aの外周面34に圧接する内周面84と、を備える弾性体の第一シールリング8aを配置するとともに、蓋6の貫通孔60とロータ本体31の上端部33bとの間に、円筒室21の中心線20の方向に平坦な幅t7を有し、貫通孔60の内周面64に圧接する外周面85と、円筒室21の中心線20の方向に平坦な幅t6を有し、ロータ本体31の上端部33bの外周面34に圧接する内周面84と、を備える弾性体の第二シールリング8bを配置している。
【0049】
このため、第一、第二シールリング8a、8bの代わりに断面円形状のOリングを用いた場合に比べて、ロータ3が軸ずれを起こして、第一、第二シールリング8a、8bが径方向に弾性変形した場合における、第一シールリング8aとロータ本体31の下端部33aとの接触面積、第一シールリング8aと円筒室21の貫通孔23との接触面積、第二シールリング8bとロータ本体31の上端部33bとの接触面積、および第二シールリング8bと蓋6の貫通孔60との接触面積の変化を抑制することができる。これにより、円筒室21の貫通孔23とロータ本体31の下端部33aとの間、および、蓋6の貫通孔60とロータ本体31の上端部33bとの間のシール性が安定して、円筒室21内に充填された粘性流体がこれらの隙間から漏れる可能性を低減することができる。
【0050】
また、本実施の形態によれば、第一、第二シールリング8a、8bの内周面84の幅t6を外周面85の幅t7より狭くしている。このため、内周面84の摩擦係数が外周面85の摩擦係数より小さくなり、ロータ3がケース2の円筒室21に対して相対的に回転した場合、摩擦係数の低い内周面84において相手面(第一シールリング8aではロータ本体31の下端部33aの外周面34が該当し、第二シールリング8bではロータ本体31の上端部33bの外周面34が該当する)との摺動が発生し、摩擦係数の高い外周面85は相手面(第一シールリング8aでは円筒室21の貫通孔23の内周面220が該当し、第二シールリング8bでは蓋6の貫通孔60の内周面64が該当する)と摺動せずに密着状態となる。したがって、周長の短い内周面84においてのみ、相手面との摺動が発生するため、第一シールリング8aおよび第二シールリング8bの摩耗量を減らして、寿命を延ばすことができる。
【0051】
また、本実施の形態によれば、第一、第二シールリング8a、8bの内周面84にグリース溝86を円周方向に形成して、このグリース溝86にグリースを充填している。このため、第一、第二シールリング8a、8bとロータ3との摩擦抵抗を小さくして、ロータ3をより滑らかに摺動させることができる。
【0052】
また、本実施の形態において、第一、第二シールリング8a、8bは、内周面84を含む断面矩形状の内周側円環部81と、外周面85を含む断面矩形状の外周側円環部82と、内周側円環部81と外周側円環部82とを連結する連結部83と、を備えており、連結部83は、円筒室21の中心線20の方向において、内周側円環部81および外周側円環部82より狭い幅t8を有している。このため、第一、第二シールリング8a、8bに応力が加わった場合に、連結部83が弾性変形してこの応力を吸収することにより、内周側円環部81および外周側円環部82の弾性変形が抑制され、第一シールリング8aとロータ本体31の下端部33aとの接触面積、第一シールリング8aと円筒室21の貫通孔23との接触面積、第二シールリング8bとロータ本体31の上端部33bとの接触面積、および、第二シールリング8bと蓋6の貫通孔60との接触面積の変化をさらに抑制することができる。したがって、円筒室21の貫通孔23とロータ本体31の下端部33aとの間、および、蓋6の貫通孔60とロータ本体31の上端部33bとの間のシール性がさらに安定して、円筒室21内に充填された粘性流体がこれらの隙間から漏れる可能性をより低減することができる。
【0053】
また、本実施の形態では、ケース2の円筒室21の貫通孔23の内周面220に、ロータ3のロータ本体31の下端部33aに装着された第一シールリング8aの軸方向外方への移動を規制する段差221を形成するとともに、ロータ本体31の下端部33aの外周面34に、装着された第一シールリング8aの軸方向内方への移動を規制する段差340aを形成している。これにより、ロータ本体31の下端部33aに装着された第一シールリング8aの軸方向への移動が規制され、第一シールリング8aによるシール性をより向上させることができる。
【0054】
同様に、本実施の形態では、蓋6の貫通孔60の内周面64に、ロータ3のロータ本体31の上端部33bに装着された第二シールリング8bの軸方向外方への移動を規制する段差65を形成するとともに、ロータ本体31の上端部33bの外周面34に、装着された第二シールリング8bの軸方向内方への移動を規制する段差340bを形成している。これにより、ロータ本体31の上端部33bに装着された第二シールリング8bの軸方向への移動が規制され、第二シールリング8bによるシール性をより向上させることができる。
【0055】
また、本実施の形態によれば、第一、第二シール材4、5にポリアミド等の摺動性に優れた樹脂を用いることにより、第一、第二シール材4、5がロータ3のロータ本体31の外周面34を摺動可能に支持する滑り軸受として機能するため、外部からの回転力をロータ3に伝達する六角シャフトの偏心等によるガタつきを吸収して、六角シャフトを滑らかに回転させることができる。
【0056】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0057】
例えば、上記の実施の形態では、第一、第二シールリング8a、8bとして、内周面84を含む断面矩形状の内周側円環部81と、外周面85を含む断面矩形状の外周側円環部82と、内周側円環部81と外周側円環部82とを連結する連結部83と、を有するものを用いているが、本発明はこれに限定されない。第一、第二シールリング8a、8bは、円筒室21の中心線20の方向に幅t6を有する内周面84と、円筒室21の中心線20の方向に幅t7を有する外周面85と、を備えているものであればよい。例えば、内周面84および外周面85を備えた断面矩形状の円環部材であってもよい。
【0058】
また、上記の実施の形態では、第一、第二シールリング8a、8bの内周面84の幅t6を外周面85の幅t7より狭くして、内周面84において相手面との摺動を生じさせている。しかし、本発明はこれに限定されない。例えば、第一、第二シールリング8a、8bの外周面85の幅t7を内周面84の幅t6より狭くして、外周面85において相手面との摺動を生じさせてもよい。あるいは、第一、第二シールリング8a、8bの内周面84の幅t6と外周面85の幅t7とを同じにして、内周面84および外周面85の両方において相手面との摺動を生じさせてもよい。
【0059】
また、上記の実施の形態では、第一、第二シールリング8a、8bの内周面84にグリース溝86を円周方向に形成して、このグリース溝86にグリースを充填している。しかし、本発明はこれに限定されない。相手面と摺動する、第一、第二シールリング8a、8bの内周面84および外周面85の少なくとも一方に、グリース溝を円周方向に形成して、このグリース溝にグリースを充填すればよい。
【0060】
また、上記の実施の形態では、第一、第二シールリング8a、8bの内周面84および外周面85を、円筒室21の中心線20の方向において平坦な面としているが、本発明はこれに限定されない。第一、第二シールリング8a、8bの内周面84および外周面85は、円筒室21の中心線20の方向に幅を有するものであればよい。
【0061】
図11(A)は、第一、第二シールリング8a、8bの変形例8’a、8’bの正面図であり、
図11(B)は、
図11(A)に示す変形例8’a、8’bのI-I断面図であり、
図11(C)は、
図11(B)に示す変形例8’a、8’bのG部拡大図である。
【0062】
この変形例8’a、8’bは、第一、第二シールリング8a、8bと同様、ニトリルブタジエンゴム等の弾性体で形成された円環状部材であり、第一シールリング8aの変形例8’aにおいては、ロータ3のロータ本体31の下端部33aの外径d4より小さな内径d1と、ケース2の円筒室21の貫通孔23の内径(段差221の外径)d3より大きな外径d2と、を有し、第二シールリング8bの変形例8’bにおいては、ロータ3のロータ本体31の上端部33bの外径d5より小さな内径d1と、蓋6の貫通孔60の内径(段差65の外径)d6より大きな外径d2と、を有する。また、この変形例8’a、8’bは、中心線80の方向に幅t6を有する内周面84’と、中心線80の方向に幅t7を有する外周面85’と、を有する。ここでは、内周面84’の幅t6および外周面85’の幅t7を同じにしているが、両者を異ならせてもよい。
【0063】
内周面84’は、ケース2の円筒室21の中心線20と一致する中心線80の方向において、変形例8’a、8’bの径方向の幅t9の半分よりも長い半径r1を有する円弧状の面であり、第一シールリング8aの変形例8’aにおいてはロータ3のロータ本体31の下端部33aの外周面34に圧接し、第二シールリング8bの変形例8’bにおいてはロータ3のロータ本体31の上端部33bの外周面34に圧接する。同様に、外周面85’は、中心線80の方向において、変形例8’a、8’bの径方向の幅t9の半分よりも長い半径r2を有する円弧状の面であり、第一シールリング8aの変形例8’aにおいてはケース2の円筒室21の貫通孔23の内周面220に圧接し、第二シールリング8bの変形例8’bにおいては蓋6の貫通孔60の内周面64に圧接する。
【0064】
このような構成にした場合でも、内周面84’および外周面85’の曲率を変形例8’a、8’bと代替可能なOリングに比べて小さくすることができる。したがって、変形例8’a、8’bが径方向に弾性変形した場合における内周面84’および外周面85’のそれぞれと相手面との接触面積の変化を抑制することができ、シール性を向上させることができる。
【0065】
また、上記の実施の形態では、円筒室21に一対の仕切り部25を設けるとともに、ロータ3に一対のベーン32を設けた場合を例にとり説明した。しかし、本発明はこれに限定されない。円筒室21に形成された仕切り部25およびロータ3に形成されたベーン32が同数であれば、1または3以上形成されていてもよい。
【0066】
また、上記の実施の形態では、ベーン32に装着された第二シール材5に、ベーン32に形成された流路36を開閉する逆止弁の機能を持たせているが、本発明はこれに限定されない。ロータ3が円筒室21に対して相対的に第一回転方向R1に回転すると、ベーン32に形成された流路36を塞ぎ、ロータ3が円筒室21に対して相対的に第二回転方向R2に回転すると、ベーン32に形成された流路36を開放する逆止弁を、第二シール材5とは別個に設けてもよい。
【0067】
また、上記の実施の形態では、ベーン32に、ロータ3の回転方向に沿ってベーン32の両側面37a、37bを貫く流路36を形成しているが、本発明はこれに限定されない。ベーン32に代えて、あるいはベーン32とともに、仕切り部25に、ロータ3の回転方向に沿って仕切り部25の両側面を貫く流路を形成してもよい。この場合、ロータ3が円筒室21に対して相対的に第一回転方向R1に回転すると、仕切り部25に形成された流路を塞ぎ、ロータ3が円筒室21に対して相対的に第二回転方向R2に回転すると、仕切り部25に形成された流路を開放する逆止弁を設けてもよい。
【0068】
なお、仕切り部25に流路を形成する場合、第一シール材4を第二シール材5と同様の形状、すなわち、仕切り部25の内周縁の周方向幅より長い幅を有する底部と、底部の一方の端部に一体的に形成され、仕切り部25に形成された流路の径方向の幅より長い幅を有する第一脚部と、底部の他方の端部に一体的に形成され、仕切り部25に形成された流路の径方向の幅より短い幅を有する第二脚部と、を有する形状としてもよい。そして、ロータ3が円筒室21に対して相対的に第一回転方向R1に回転すると、第一シール材4の第一脚部が仕切り部25の一方の側面と当接して、仕切り部25に形成された流路を塞ぎ、ロータ3が円筒室21に対して相対的に第二回転方向R2に回転すると、第一シール材4の第一脚部が仕切り部25の一方の側面から離れ、第二脚部が仕切り部25の他方の側面に当接して、仕切り部25に形成された流路を開放する逆止弁としての機能を、第一シール材4に持たせてもよい。
【0069】
また、ベーン32に流路36を形成しない場合、第二シール材5は、ベーン32の先端面35と円筒室21の内周面24との隙間を塞ぐことができるものであれば、どのような形状でもよい。
【0070】
また、上記の実施の形態では、円筒室21の内周面24の開口側28に雌ネジ部27を形成するとともに、蓋6の外周面61にこの雌ネジ部27と螺合する雄ネジ部62を形成することにより、蓋6をケース2に取り付けている。しかし、本発明はこれに限定されない。例えば、蓋6をケース2にボルトで取り付けてもよいし、リベットで取り付けてもよい。あるいは、溶接、接着剤等により取り付けても構わない。
【0071】
また、上記の実施の形態では、外部からロータ3に回転力を加えることにより、ロータ3をケース2の円筒室21に対して相対的に回転させている。しかし、本発明はこれに限定されない。外部からケース2に回転力を加えることにより、ロータ3をケース2の円筒室21に対して相対的に回転させてもよい。
【0072】
また、上記の実施の形態では、ロータ3が円筒室21に対して相対的に第一回転方向R1に回転した場合に、ロータ3が円筒室21に対して相対的に第二回転方向R2に回転した場合よりも強い制動トルクを発生させる、いわゆる一方向性のロータリダンパを例にとり説明した。しかし、本発明はこれに限定されない。本発明は、第一回転方向R1および第二回転方向R2の両方向において、ベーン32あるいは仕切り部25に形成された流路を流れる粘性流体の移動抵抗(流路を介した粘性流体の移動の困難性)に応じた制動トルクを発生させる、いわゆる双方向性のロータリダンパにも適用可能である。この場合、第二シール材5に逆止弁の機能は不要である。第二シール部材5は、ベーン32の先端面35と円筒室21の内周面24との隙間を塞ぐことができるものであればよい。
【0073】
また、上記の実施の形態では、粘性流体の移動を制限することにより、外部から加えられた回転力に対して制動トルクを発生させるロータリダンパ1を例にとり説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。本発明は、粘性流体の移動を制限することにより、外力に対して制動力を発生させるダンパに広く適用可能である。
【0074】
図12(A)は、本発明の他の実施の形態に係る直動式ダンパ9の側面図であり、
図12(B)は、
図12(A)に示す直動式ダンパ9のJ-J断面図である。
【0075】
本実施の形態に係る直動式ダンパ9は、高さ調整機能付きの椅子、可動棚等、移動体の直線運動を制動することが必要とされる装置に利用される。図示するように、直動式ダンパ9は、オイル、シリコーン等の粘性流体(不図示)を保持する流体保持室を構成するケース920および蓋960と、流体保持室に対して中心線902の方向に相対的に直線移動可能に流体保持室に収容されたシャフト930と、を備えている。
【0076】
ケース920内には、一端が開口した円筒室(底付き円筒状の空間)921が形成されており、この円筒室921の底部922には、シャフト930挿入用の挿入穴923が形成されている。シャフト930は、後述するシャフト本体931の一方の端部933aがこの挿入穴923に挿入されることにより、シャフト930の中心線903が円筒室921の中心線902と一致するように、円筒室921内に収容される。
【0077】
挿入穴923の内周面929には、第一シールリング980aを装着するための装着部927が円環溝状に形成されている。また、挿入穴923の底部925には、エア抜き用の貫通孔926が形成されている。また、円筒室921の内周面924の開口側928には、螺合、接着、溶接、ネジ留め、ビス留め等により、蓋960が取り付けられる。
【0078】
シャフト930は、円柱状のシャフト本体931と、シャフト本体931の中央付近に形成されたフランジ932と、を備えている。
【0079】
フランジ932は、シャフト本体931の中央付近において、シャフト本体931の外周面934から径方向外方へ張り出し、外周面935がケース920の円筒室921の内周面924と近接して、円筒室921を仕切る。フランジ932は、シャフト930の中心線903方向の直線運動に伴い、フランジ932によって仕切られた流体保持室内の一方の領域を圧縮し、かつ他方の領域を伸張する容量変更手段を構成する。また、フランジ932には、シャフト930の中心線903方向に沿ってフランジ932の両側面937a、937b間を貫く流路936が形成されている。流路936には、シャフト930が円筒室921の中心線902に沿って第一移動方向L1に移動すると、流路936を閉門し、第一移動方向L1の反対方向である第二移動方向L2に移動すると、流路936を開門する逆止弁970が取り付けられている。また、フランジ932の外周面935は、ケース920の円筒室921の内周面924との間に、円筒室921に充填された粘性流体の流路として機能する隙間g’を形成する。
【0080】
シャフト本体931は、シャフト930の中心線903方向の外力により流体保持室に対して相対的に円筒室921の中心線902の方向に移動する抵抗力発生部材として機能する。シャフト本体931は、一方の端部933a側が、ケース920の円筒室921の底部922に形成された挿入穴923に、円筒室921の中心線902の方向へ移動可能に挿入され、他方の端部933b側が、蓋960の貫通孔961に、円筒室921の中心線902の方向へ移動可能に挿入される。
【0081】
シャフト931の一方の端部933aには、第一シールリング980aがシャフト本体931に対して摺動可能に装着される。また、シャフト本体931の他方の端部933bには、第二シールリング980bがシャフト本体931に対して摺動可能に装着される。
【0082】
蓋960には、ケース920の円筒室921の底部922に形成された挿入穴923と対向する位置に、流体保持室の開口部として機能するシャフト930挿入用の貫通孔961が形成されている。この貫通孔961には、シャフト930のシャフト本体931の他方の端部933bが挿入される。また、貫通孔961の内周面964には、第二シールリング980bを装着するための装着部962が円環溝状に形成されている。
【0083】
第一、第二シールリング980a、980bは、ニトリルブタジエンゴム等の弾性体で形成された円環状部材である。第一シールリング980aは、円筒室921の中心線902の方向に幅を有し、シャフト本体931の外周面934と摺動可能に圧接する内周面と、円筒室921の中心線902の方向に幅を有し、ケース920の挿入穴923の内周面929に形成された装着部927の溝底と圧接する外周面と、を有する。また、第二シールリング980bは、円筒室921の中心線902の方向に幅を有し、シャフト本体931の外周面934と摺動可能に圧接する内周面と、円筒室921の中心線902の方向に幅を有し、蓋960の貫通孔961の内周面964に形成された装着部962の溝底と圧接する外周面と、を有する。ここで、第一、第二シールリング980a、980bには、例えば、
図10に示す第一、第二シールリング8a、8b、あるいは
図11に示す第一、第二シールリング8a、8bの変形例8’a、8’b等を用いることができる。
【0084】
上記構成の直動式ダンパ9において、シャフト930あるいはケース920に加えられた外力により、シャフト930がケース920の円筒室921に対して相対的に第一移動方向L1に直線移動すると、逆止弁970が流路936を塞ぐ。したがって、円筒室921内に充填された粘性流体の移動が、シャフト930のフランジ932の外周面935と円筒室921の内周面924との隙間g’を介してのみに制限され、フランジ932に対して第一移動方向L1側の領域921a内の粘性流体に対する圧力が高まる。このため、強い制動トルクが発生する。
【0085】
一方、シャフト930あるいはケース920に加えられた外力により、シャフト930がケース920の円筒室921に対して相対的に第二移動方向L2に直線移動すると、逆止弁970が流路936を開放する。したがって、円筒室921内に充填された粘性流体の移動が、フランジ932の外周面935と円筒室921の内周面924との隙間g’に加えて、フランジ932に形成された流路936を介して行われるため、フランジ932に対して第二移動方向L2側の領域921b内の粘性流体に対する圧力は、シャフト930がケース920の円筒室921に対して相対的に第一移動方向L1に移動した場合に比べて高くならない。このため、シャフト930がケース920の円筒室921に対して相対的に第一移動方向L1に移動した場合よりも弱い制動トルクが発生する。
【0086】
上記構成の直動式ダンパ9においても、
図1に示すロータリダンパ1と同様の効果を奏する。すなわち、直動式ダンパ9では、ケース920の円筒室921の挿入穴923とシャフト930のシャフト本体931の一方の端部933aとの間に、円筒室921の中心線902の方向に平坦な幅を有し、シャフト本体931の外周面934と摺動可能に圧接する内周面と、円筒室921の中心線902の方向に幅を有し、ケース920の挿入穴923の内周面929に形成された装着部927の溝底と圧接する外周面と、を有する第一シールリング980aを配置するとともに、蓋960の貫通孔961とシャフト本体931の他方の端部933bとの間に、円筒室921の中心線902の方向に幅を有し、シャフト本体931の外周面934と摺動可能に圧接する内周面と、円筒室921の中心線902の方向に幅を有し、蓋960の貫通孔961の内周面964に形成された装着部962の溝底と圧接する外周面と、を有する第二シールリング980bを配置している。
【0087】
このため、第一、第二シールリング980a、980bの代わりに断面円形状のOリングを用いた場合に比べ、シャフト930が軸ずれを起こして、第一、第二シールリング980a、980bが径方向に弾性変形した場合における、第一シールリング980aとシャフト本体931の一方の端部933aとの接触面積、第一シールリング980aと円筒室921の挿入穴923に形成された装着部927の溝底との接触面積、第二シールリング980bとシャフト本体931の他方の端部933bとの接触面積、および、第二シールリング980bと蓋960の貫通孔961に形成された装着部962の溝底との接触面積の変化を抑制することができる。これにより、円筒室921の挿入穴923とシャフト本体931の一方の端部933aとの間、および、蓋960の貫通孔961とシャフト本体931の他方の端部933bとの間のシール性が安定して、円筒室921内に充填された粘性流体がこれらの隙間から漏れる可能性を低減することができる。
【符号の説明】
【0088】
1:ロータリダンパ、 2、920:ケース、 3:ロータ、 4:第一シール材、 5:第二シール材、 6、960:蓋、 7:Oリング、 8a、980a:第一シールリング、 8b、980b:第二シールリング、 9:直動式ダンパ、 21、921:円筒室、 22:円筒室21の底部、 23:円筒室21の貫通孔、 24:円筒室21の内周面、 25:仕切り部、 26:仕切り部25の先端面、 27:雌ネジ部、 28:円筒室21の開口側、 29:仕切り部25の上面、 31:ロータ本体、 32:ベーン、 33a:ロータ本体31の下端部、 33b:ロータ本体31の上端部、 34:ロータ本体31の外周面、 35:ベーン32の先端面、 36、936:流路、 37a、37b:ベーン32の側面、 38:ロータ本体31の挿入穴、 39:ベーン32の上面、 40:第一シール材4の底部、 41:第一シール材4の側壁部、 50:第二シール材5の底部、 51、52:第二シール材5の底部50の端部、 53:第二シール材5の第一脚部、 54:第二シール材5の第二脚部、 60:蓋6の貫通孔、 61:蓋6の外周面、 62:雄ネジ部、 63:蓋6の下面、64:貫通孔60の内周面、 65:内周面64の段差、 66:蓋6の溝、 81:内周側円環部、 82:外周側円環部、 83:連結部、 84:内周側円環部81の内周面、 85:外周側円環部82の外周面、 86:グリース溝、 220:貫通孔23の内周面、 221:内周面220の段差、 340a:下端部33aの外周面34の段差、 340b:上端部33bの外周面34の段差、 922:円筒室921の底部、 923:挿入穴、 924:円筒室921の内周面、 925:挿入穴923の底部、 926:エア抜き用の貫通孔、 927:第一シールリング980aの装着部、 928:円筒室921の開口側、 929:挿入穴923の内周面、 930:シャフト、 931:シャフト本体、 932:フランジ、 933a、933b:シャフト本体931の端部、 934:シャフト本体931の外周面、 935:フランジ932の外周面、 937a、937b:フランジ932の側面、 961:蓋960の貫通孔、 962:第二シールリング980bの装着部、 964:貫通孔961の内周面、 970:逆止弁