(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-18
(45)【発行日】2022-05-26
(54)【発明の名称】レーザ加工装置用のビーム形成及び偏向光学系、並びに、レーザビームによる被加工物の加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/064 20140101AFI20220519BHJP
G02B 27/09 20060101ALI20220519BHJP
【FI】
B23K26/064 G
B23K26/064 N
G02B27/09
(21)【出願番号】P 2021554730
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(86)【国際出願番号】 EP2020056284
(87)【国際公開番号】W WO2020182780
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-09-27
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504380611
【氏名又は名称】フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】FRONIUS INTERNATIONAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】ロイター,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ビンダー,マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】ピヒラー,シュテファン
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第3720454(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0332508(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102008022724(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0255563(US,A1)
【文献】特開2001-121281(JP,A)
【文献】特開平4-9293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/064
G02B 27/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コリメートされたレーザビーム(L)を用いて被加工物(W)を加工するための装置(10)であって、
レーザ発生装置(12)と、
コリメートレンズ(14)と集束レンズ(15)との間に配置されたビーム形成及び偏向光学系(1)であって
、コリメートされたレーザビーム(L)の方向(z)に前後に配置され、それぞれくさび角(α
1)を有する光学くさび(5,6)によって形成される少なくとも2つの光学素子(2,3)を備え
るビーム形成及び偏向光学系(1)と、
を備え、
少なくとも1つの光学素子(2)が光軸(c)を中心として当該光学素子(2)を回転させるための駆動部(4)に接続されて、1つの光学くさび(5)が少なくとも1つの他の光学くさび(6)に対して相対的に回転可能であり、前後に配置されている光学くさび(5,6)が、それぞれ前記レーザビーム(L)の一部のみをカバーする、
レーザ加工装置(10)。
【請求項2】
全ての光学くさび(5,6)は、定量的に等しいくさび角(|α
1|)を有する、請求項1に記載の
レーザ加工装置(10)。
【請求項3】
各光学くさび(5,6)は、レーザビーム(L)の25%から50%をカバーする、請求項1又は2に記載の
レーザ加工装置(10)。
【請求項4】
前記光学くさび(5,6)は、円のセクターの形状又は円のセグメントの形状に形成されている、請求項1~3のいずれか1つに記載の
レーザ加工装置(10)。
【請求項5】
各光学くさび(5,6)は、中空シャフト(7,8)内に配置されている、請求項1~4の1つに記載の
レーザ加工装置(10)。
【請求項6】
前記光学くさび(5,6)のくさび角(α
1)は、少なくとも1ミリラドであり、好ましくは3ミリラドから15ミリラドの間である、請求項1~5のいずれか1つに記載の
レーザ加工装置(10)。
【請求項7】
前記光学くさび(5,6)又は中空シャフト(7,8)の位置をそれぞれ決定するために、少なくとも1つの実測値センサ(16)が設けられている、請求項1~6のいずれか1つに記載の
レーザ加工装置(10)。
【請求項8】
前記光学くさび(5,6)は、石英ガラス、ホウケイ酸クラウンガラス、セレン化亜鉛、又は硫化亜鉛で作成されている、請求項1~7のいずれか1つに記載の
レーザ加工装置(10)。
【請求項9】
全ての光学くさび(5,6)又は中空シャフト(7,8)がそれぞれ、前記光軸(c)を中心として各光学くさび(5,6)を独立して回転させるために、別々の駆動部(4)に接続されている、請求項1~8のいずれか1つに記載の
レーザ加工装置(10)。
【請求項10】
全ての光学くさび(5,6)又は中空シャフト(7,8)をそれぞれ共回転させるための駆動部(9)が設けられている、請求項1~9のいずれか1つに記載の
レーザ加工装置(10)。
【請求項11】
前記少なくとも1つの駆動部(4,9)は、モータ制御部(11)に接続されている、請求項1~10のいずれか1つに記載の
レーザ加工装置(10)。
【請求項12】
コリメートされたレーザビーム(L)を用いて被加工物(W)を加工する方法であって、
前記コリメートされたレーザビーム(L)が、それぞれくさび角(α
1)を有する少なくとも2つの光学くさび(5,6)の形態で前記レーザビーム(L)のビーム方向(z)において前後に配置された少なくとも2つの光学素子(2,3)を備えるビーム形成及び偏向光学系(1)と、集束レンズ(15)とを通り、
少なくとも1つの光学くさび(5)が、前記ビーム形成及び偏向光学系(1)の少なくとも1つの他の光学くさび(6)に対して光軸(c)を中心として回転し、
前記レーザビーム(L)が、前後に配置された光学くさび(5,6)によって部分的にのみカバーされる、方法。
【請求項13】
前記レーザビーム(L)は、定量的に等しいくさび角(|α
1|)を有する少なくとも2つの光学くさび(5,6)を通る、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記光学くさび(5,6)は、100~10000U/分、好ましくは500~7000U/分の回転速度で回転される、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも2つの光学くさび(5、6)の位置及び回転は、少なくとも1つの実測値センサ(16)を用いて検知される、請求項12~14の1つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置用のビーム形成及び偏向光学系であって、コリメートされたレーザビームの方向に前後に配置され、それぞれくさび角を有する光学くさびによって形成された少なくとも2つの光学素子を備え、少なくとも1つの光学素子が光軸を中心として光学素子を回転させるための駆動部に接続されて、1つの光学くさびが少なくとも1つの他の光学くさびに対して相対的に回転することができる、レーザ加工装置用のビーム形成及び偏向光学系に関する。
【0002】
本発明は、更に、コリメートされたレーザビームを用いて被加工物を加工する方法であって、コリメートされたレーザビームが、レーザビームのビーム方向に前後に配置された、それぞれくさび角を有する少なくとも2つの光学くさびの形態の少なくとも2つの光学素子を備えるビーム形成及び偏向光学系と、集束レンズとを通り、少なくとも1つの光学くさびが、ビーム形成及び偏向光学系の少なくとも1つの他の光学くさびに対して光軸を中心として回転する方法に関する。
【0003】
本発明は、レーザビームを用いて被加工物を加工(特にレーザ溶接又はレーザスポット溶接及びはんだ付け)するための方法及び装置、並びに、例えばレーザハイブリッド溶接法で使用されるような、電気アークと組み合わせた1以上のレーザビームを用いて被加工物を加工するための方法及び装置にも言及している。
【背景技術】
【0004】
レーザビームを用いて、被加工物が溶接、切断等され、素子がはんだ付けによって被加工物に接続されるか、或いは、被加工物の表面がレーザによって導入される熱によって加工される。被加工物のアプリケーション及び状態によって、被加工物の表面に照射されるレーザビームのスポットの直径や形状が異なる。レーザビームの形成は、通常、レーザビームに影響を与えるために、レーザ発生装置及びコリメートレンズの下流側に配置された、対応する光学素子によって行われる。この種のビーム形成及び偏向光学系を介して、様々な作業に適したレーザビームの異なるスポット形状を被加工物の表面上に生成することができる。
【0005】
また、レーザビームのパワー密度の分布は、被加工物の加工中に変更されることが要求されることがあり、そのために、移動可能に配置された光学素子を備える光学手段が使用される。
【0006】
例えば、欧州特許第2780131号明細書には、溶接プロセスを改善するために光学素子を回転させ、それに応じてレーザビームを偏向させる、レーザ溶接の方法が記載されている。
【0007】
欧州特許第3250958号明細書には、レーザビームを用いて被加工物を加工する装置及び方法が記載されている。当該装置及び方法では、レーザビームを形成及び偏向するために、少なくとも1つの板状の光学素子が配置され、その一方の表面には、異なる傾斜を有するセクターのファセットを備える円形パターンが設けられている。これにより、焦点面におけるレーザ焦点は、複数のスポットに分解され、これらのスポットは、ビーム経路の光軸の周りにリング状に配置されることになる。
【0008】
米国特許第9,285,593明細書には、特定の強度分布を有する円形又は正方形のスポット形状を達成するためのレーザビームを形成する方法が記載されている。この目的のために、比較的洗練された表面輪郭を有する全面光学素子が、レーザビームのビーム経路に挿入される。
【0009】
スキャンシステム用の光学機器は、米国特許第5,526,167号明細書及び米国特許第3,720,454号明細書で知られており、それぞれ、レーザビームを偏向させたり、焦点を変えたりすることができる。異なる技術分野ではあるが、レーザビームのスポット形状やパワー密度の変更はできない。
【0010】
既知の方法及び装置の欠点は、被加工物の加工中にスポット形状を変更する柔軟性がないこと、及び/又は、ビーム形成及び偏向光学系の複雑で精巧な構造であることにあり、これは、レーザ加工装置のコンパクトな設計を提供しない。
【発明の概要】
【0011】
従って、本発明の目的は、レーザ加工装置の上述のビーム形成及び偏向光学系、並びにレーザビームを用いて被加工物を加工するための上述の方法を創作することにあり、様々なアプリケーションのために、簡単で且つ適応力があるビーム形状を達成することにある。また、ビーム形状の変更は、レーザ加工プロセス中に可能な限り迅速に行うことができるようにする。更に、ビーム形成及び偏向光学系は、可能な限り省スペースな方法で構築され、これにより、小さな干渉輪郭を有するビーム形成が可能となる。既知の装置及び方法の欠点は、防止されるか、又は少なくとも低減される。
【0012】
本発明に係る目的は、レーザ加工装置の上述のビーム形成及び偏向光学系において、前後に配置された光学くさびが、それぞれレーザビームの一部のみをカバーすることによって解決される。本発明は、互いに回転可能な少なくとも2つの光学くさびによって、特に簡単な構造を提供する。光学くさび又は光学プリズムはそれぞれ、適切な材料、具体的にはガラスで構成され、また、いわゆる回折ビーム形成装置又は回折光学素子(DEO)によって形成することができる。回折光学素子は、ガラスやプラスチックで作成された構造体であり、レーザビームの位相分布を変化させるものである。これにより、レーザビームを複数のスポットに分割したり、被加工物の表面のスポット形状を変化させたりすることが、特に簡単且つ迅速に達成することができる。簡単な構造のため、特に省スペースの実現が可能であり、小さい干渉輪郭及び加工ヘッドのスリムな構造を提供することができる。また、少なくとも2つの光学くさびを互いに回転させたり、全ての光学くさびを共回転させたりすることによって、加工プロセス中にビーム形成及びビーム偏向を変更することができ、所望の加工に対するレーザビームの最適な適応を行うことができる。例えば、ギャップブリッジ力を変更するためのスポット形状の変更は、溶接プロセス中にプロセスを中断することなく行うことができる。
【0013】
全ての光学くさびのくさび角が定量的に等しい場合、必要に応じて、ビーム形成及び偏向光学系を中立位置に配置してもよい。この中立位置において光学くさびが互いに対応する位置にある場合、レーザビームの偏向をキャンセルすることができ、その結果、レーザビームは、変化のない態様で被加工物に衝突する。
【0014】
各光学くさびは、有利には、レーザビームの25%から50%をカバーする。このような範囲の値は、光学くさびの数や、加工される被加工物の表面上の所望のスポット数に応じて、適切である。
【0015】
光学くさびは、円のセクターの形状、又は、円のセグメントの形状に形成されることが好ましい。上面視において光学くさびを円のセクター形状又は円のセグメント形状に形成することによって、光学くさびを互いに回転させたり、全ての光学くさびを共回転させたりしても外側の輪郭が変化しないため、ビーム形成及び偏向光学系の配置が特に省スペース化される。従って、干渉輪郭が小さい省スペースのデザインがもたらされる。
【0016】
各光学くさびが、中空シャフトに配置されている場合、それぞれの中空シャフトの回転によって、光学くさびの比較的簡単な回転を実現することができる。また、光学くさびは、中空シャフト内で汚染から保護されることができる。高速回転時の静粛性を確保するために、中空シャフトはバランスをとられてもよい。
【0017】
中空シャフトは、25mmから90mmの直径を有することが好ましい。ビーム形成及び偏向光学系、及び、レーザ加工装置全体又は加工ヘッドの、特に省スペースでスリムなデザインを実現することができ、その結果、移動性を向上させることができる。特にロボットアプリケーションの場合、このことは非常に重要である。ビーム形成及び偏向光学系の中空シャフト及び隣接する構成部材を、例えば散乱レーザ放射及び/又は再帰反射加工放射の吸収による過熱から保護するために、中空シャフトの内面には、任意に反射性コーティング、特に金コーティングが施されてもよい。
【0018】
光学くさびのくさび角は、少なくとも1ミリラド(0.057°)であり、好ましくは3ミリラド(0.17°)から15ミリラド(0.859°)の間である。経験上、この種のくさび角は、加工される被加工物の表面上において、対応するスポットサイズ及びスポット形状を達成するのに好都合である。
【0019】
本発明の更なる特徴によれば、光学くさび又は中空シャフトの位置をそれぞれ決定するために、少なくとも1つの実測値センサが設けられている。この種の回転センサ又は回転角センサによって、それぞれ、被加工物に対する光学くさびの相互の位置又は全ての光学くさびの位置の最適な検知及び制御を行うことができる。実測値センサは、様々な実施形態で且つ全体的に小さなサイズで利用可能であり、ビーム形成及び偏向光学系の寸法が大幅に拡大されることはない。例えば、実測値センサは、エンコーダ(光学式、誘導式)又はレゾルバによって形成されてもよい。
【0020】
光学くさびは、石英ガラス、ホウケイ酸クラウンガラス、セレン化亜鉛、又は硫化亜鉛で作成されてもよい。これらの材料は、特にレーザビームの偏向や形成に適しており、更に比較的耐熱性もある。
【0021】
全ての光学くさび又は中空シャフトは、それぞれ、光軸を中心として各光学くさびを独立して回転させるために、別々の駆動部に接続されてもよい。これにより、様々なビーム形状を実現するための高い柔軟性が達成される。
【0022】
更に、全ての光学くさび又は中空シャフトをそれぞれ共回転させるための駆動部が設けられてもよい。異なるスポット形状の形成に加えて、スポットがそれぞれゼロ点又は光軸を中心として回転するという、光軸を中心とした配列全体の回転によって、加工される被加工物の表面のより良好なカバーを達成することができる。これにより、いわゆる動的なビーム形成が生成される。
【0023】
少なくとも1つの駆動部は、モータ制御部に接続されることにより、所望のビーム形状を迅速且つ容易に調整することができる。使用される駆動モータの機能として、モータ制御部は、例えば、マイクロコントローラ又はマイクロプロセッサによって形成されてもよい。
【0024】
本発明に係る目的は、コリメートされたレーザビームを用いて被加工物を加工するための上述の方法によっても解決される。この方法において、レーザビームは、前後に配置された光学くさびによって部分的にのみカバーされる。本発明に係る方法は、簡単なデザインで迅速且つ適応力があるビーム形成を提供する。更なる利点に関しては、ビーム形成及び偏向光学系に関する上記の説明を参照する。
【0025】
レーザビームが定量的に等しいくさび角を有する少なくとも2つの光学くさびを通るとき、光学くさびの対応する位置においては、ビーム形成及び偏向がキャンセルされ、レーザビームは、変化のない態様で、加工される被加工物の表面に衝突することができる。
【0026】
光学くさびは、100~10000U/分、好ましくは500~7000U/分の回転速度で回転される。この種の速度値は、達成すべきスポット形状の迅速な変更を可能にし、ほとんどの機械加工プロセスには十分である。
【0027】
少なくとも2つの光学くさびの位置及び回転は、少なくとも1つの実測値センサを用いて検知されてもよい。既に述べたように、対応するロータリーエンコーダを用いて全ての光学くさびの位置及び回転を検知することによって、ビーム形成及び偏向光学系の最適な制御を達成することができる。
【0028】
少なくとも2つの光学くさびを同じ方向に同じ速度で回転させると、少なくとも2つの光学くさびの割り当てによって形成されるスポット形状が、それぞれゼロ点又は光軸を中心として回転し得る。このことは、動的なビーム形成に対応しており、それによって、加工される被加工物の表面上のレーザビームによってカバーされる領域を拡大することができる。
【0029】
少なくとも2つの光学くさびが同じ速度で反対方向に回転すると、被加工物の加工中にスポット形状の周期的な変化が達成される。これにより、レーザビームのパワー密度が被加工物の平面内で前後に移動する振り子効果が得られ、特定のアプリケーションに有利に働くことができる。
【0030】
更に、少なくとも1つの光学くさびは、振り子運動によって特定の角度範囲で前後に回転されてもよい。これにより、各スポット形状を特定の角度範囲で前後に旋回させることができ、被加工物上で加工される領域のより大きなカバーを達成することができる。特定の角度範囲は、例えば、45°から-45°の間であってもよい。
【0031】
本発明の更なる特徴によれば、レーザビームは、加工される被加工物に対するレーザ加工装置の加工ヘッドの位置及び移動の関数としても形成され、各位置及び移動に対して最適な加工結果を得ることができる。例えば、垂直方向の加工、水平方向の加工、俯瞰的な加工などに応じて、レーザビームのスポット形状を変えることが有効である。更に、ビーム形成は、加工ヘッドの速度の関数としてデザインされてもよい。加工ヘッドの位置及び移動は、対応するセンサによって検知されてもよい。また、加工ヘッドの位置及び移動は、自動化されたレーザ加工装置のケースにおいては、ロボットの移動データから導出されてもよい。加工ヘッドの位置及び移動は、光学くさびのために、それぞれ、ビーム形成及び偏向光学系、又はそのモータ制御部に供給されてもよい。
【0032】
少なくとも1つのレーザビームと少なくとも1つの電気アークとを組み合わせた前述のレーザハイブリッド溶接装置の場合、少なくとも1つのレーザビームのスポット形状の変化は、溶接パラメータ(溶接電流、溶接電圧、溶接ワイヤの供給速度、溶接電流の極性など)又は溶接プロセスのフェーズ(短絡フェーズ、パルスフェーズ、電気アークフェーズなど)の関数として、いくつかのアプリケーションに利点をもたらすことができる。
【0033】
レーザハイブリッド装置の場合、電気アークに対するレーザビームの位置も、レーザビームの形成に重要な意味を持つことがある。例えば、電気アークに対して下流側のレーザビーム以外のレーザビームのスポット形状は、電気アークに対して上流側のレーザビームとって有利になり得る。
【図面の簡単な説明】
【0034】
本発明を添付の図面に基づいてより詳細に説明する。
【
図1】従来技術に係るレーザビームを用いて被加工物を加工する装置のブロック図である。
【
図2】本発明に係るビーム形成及び偏向光学系の一実施形態の代替案を示す切断側面図である。
【
図3】
図2に係るビーム形成及び偏向光学系の上面図である。
【
図4A】被加工物上のレーザビームの様々な形状を達成するために、ビーム形成及び偏向光学系の2つの半円形の光学くさびにおける互いに対する様々な位置を示す図である。
【
図4B】被加工物上のレーザビームの様々な形状を達成するために、ビーム形成及び偏向光学系の2つの半円形の光学くさびにおける互いに対する様々な位置を示す図である。
【
図4C】被加工物上のレーザビームの様々な形状を達成するために、ビーム形成及び偏向光学系の2つの半円形の光学くさびにおける互いに対する様々な位置を示す図である。
【
図4D】被加工物上のレーザビームの様々な形状を達成するために、ビーム形成及び偏向光学系の2つの半円形の光学くさびにおける互いに対する様々な位置を示す図である。
【
図5】光学くさびを移動させる駆動部を備えるビーム形成及び偏向光学系の一実施形態を示す部分切断図である。
【
図6】2つの光学くさびの間の様々な角度位置での様々なビーム形状(静的スポット)を示す図である。
【
図7A】付加的な回転に応じた様々なスポット形状を示す図である。
【
図7B】
図7Aに係るスポット形状の対応するパワー密度を示す図である。
【
図8】光学くさびの共同振り子運動に応じたスポット形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、従来技術に係るレーザビームLを用いて被加工物Wを加工する装置10のブロック図である。加工装置10は、レーザ発生装置12と、光ファイバ13とを備え、これらを介してレーザビームLが、対応する加工ヘッドに伝送される。レーザビームLは、例えば、コリメートレンズ14を用いてコリメートされ、集束レンズ15を介して加工対象の被加工物Wの表面に集束される。レーザビームLは、コリメートレンズ14と集束レンズ15との間に配置されたビーム形成及び偏向光学系1を介して、加工対象の被加工物Wの表面上のスポット形状Sを変更できるように影響を受け得る。この目的のために、少なくとも2つの光学素子2,3が、ビーム形成及び偏向光学系1のレーザビームLのビーム経路内で前後に配置されている。これらの光学素子2,3は、機械加工される被加工物Wの表面上のスポット形状Sが変化するように、コリメートされたレーザビームLに適宜影響を与える。他の光学素子3に対する光学素子2の向きを変更することによって、レーザビームLのスポット形状Sの変更も、被加工物Wの加工中に行うことができる。この目的のために、光学素子2は、対応する駆動部4に接続される。レーザハイブリッド溶接装置の場合、レーザビームLは、少なくとも1つの電気アーク(図示せず)と組み合わされる。
【0036】
図2は、本発明に係るビーム形成及び偏向光学系1の実施形態の代替案を示す切断側面図である。ビーム形成及び偏向光学系1の少なくとも2つの光学素子2,3は、それぞれくさび角α1,α2を有する光学くさび5,6によって形成されている。光学くさび5,6又はこの種のプリズムは、それぞれ、くさび角α1,α2に応じて、コリメートされたレーザビームLを偏向させ、加工される被加工物Wの表面へのレーザビームLの衝突点及びスポット形状Sが変化する。それぞれの場合において2つの光学くさび5,6がレーザビームLの一部をカバーするだけであるという事実により、被加工物Wの表面へのレーザビームの衝突点の数を変更することができる。図示された例示的な実施形態において、2つの光学くさび5,6は、それぞれレーザビームLの本質的に50%をカバーしている。レーザビームLの方向zから見て、ビーム形成及び偏向光学系1の下流側には、集束レンズ15が配置されており、この集束レンズを介して、偏向されたレーザビームLが、加工される被加工物Wの表面に適宜集束される。少なくとも1つの光学くさび5,6を光軸cを中心として回転させることにより、被加工物Wの表面におけるスポット形状Sの変化を実現することができる。光軸cを中心としたビーム形成及び偏向光学系1全体の回転により、光軸cを中心としたスポット形状Sの動的なビーム形成又は回転をそれぞれ実現することができる。くさび角α2を有する第2の光学くさび6が、
図2に係る光学くさび6に対して鏡面反転して配置されてもよい。それにより、他のビーム形状及びスポット形状Sを生成することができる。例えば、光学くさび5,6のくさび角α1,α2が定量的に等しい場合には、2つの光学くさび5,6が反対向きの場合に、光学くさび5,6によってコリメートされたレーザビームLの偏向がキャンセルされ得る。それにより、コリメートされたレーザビームLは、ビーム形成及び偏向光学系1によって大きな影響を受けず、被加工物Wの表面には、ビーム形成及び偏向光学系1が無い場合のスポット形状Sに相当するスポット形状Sが生じることになる。すなわち、定量的に等しいくさび角α1=α2を有する光学くさび5,6が対向配置された場合には、レーザビームLのビーム形成及び偏向を中立位置に切り替えることができる。
【0037】
図3は、
図2に係るビーム形成及び偏向光学系の上面図である。当該上面図において、光学くさび5,6は、好ましくは、円のセクター(sector)の形状又は円のセグメント(segment)の形状に形成され、10mm~40mmの範囲の半径Rを有し、それによって、ビーム形成及び偏向光学系1のサイズを小さく保つことができ、レーザ加工装置10の加工ヘッドの全体的なサイズを小さくすることができる。
【0038】
図4A~
図4Dには、被加工物W上のレーザビームLの様々な形状を達成するための、ビーム形成及び偏向光学系1の2つの半円形の光学くさび5,6における互いに対する様々な位置が示されている。図示された例示的な実施形態において、2つの光学くさび5,6は、対向し且つ等しい角度α
1=-α
2を有する。
図4Aに係る2つの光学くさび5,6が互いに対して角度Δβ=180°に位置する場合、レーザビームLは、光学くさび5及び光学くさび6によって同じ方向に偏向され、それによって、光軸cの中心又はゼロ点Nからそれぞれ適宜偏向されたスポット形状Sが被加工物W上に生じる。
図4Bに図示されている2つの光学くさび5,6の間に角度Δβ=135°を設けて光学くさび5,6を互いに配置した場合には、光学くさび5,6のくさび角α
1,α
2に応じて光軸cの周囲の様々な点で、レーザビームLの4つの衝突点を有するスポット形状Sが被加工物Wの表面に生じる。その偏向効果は、重複領域で適宜加算される。光学くさび5,6の間が角度Δβ=90°である
図4Cに係る配置の場合には、それに応じて図示されるスポット形状Sが被加工物W上に生じる。
図4Dに係る光学くさび5,6の位置(角度Δβ=0°)の場合には、くさび角α
1=-α
2である光学くさび5,6の効果が補償され、それによって、光軸cの中心又はゼロ点Nにそれぞれ配置され且つビーム形成及び偏向光学系1が無いレーザビームLのスポット形状Sに対応するスポット形状Sが、被加工物W上に生じる。
【0039】
このようにして、2つの光学くさび5,6における互いの向きを変えたり、光学くさび5,6の間の角度Δβを変えたりすることによって、スポット形状Sの変化を被加工物Wの表面上で達成することができる。光学くさびの数を、例えば3つ以上の光学くさびに増やすことによって、スポット形状Sのスポットの数を増やし、達成可能なスポット形状Sのバリエーションを更に変化させることができる。
【0040】
図5は、部分的に切断された形態の光学くさび5,6を移動させるための駆動部を備えるビーム形成及び偏向光学系1の一実施形態を示す図である。ビーム形成及び偏向光学系1の光学くさび5,6は、それぞれ、対応する駆動部9を介して光軸cを中心として回転可能な中空シャフト7,8内に配置されている。駆動部9は、例えば、中空シャフトモータやトルクモータなどによって形成されてもよい。光学くさび5,6又は中空シャフト7,8を回転させるための駆動部9に加えて、光軸cを中心としたビーム形成及び偏向光学系1全体を回転させるための更なる駆動部9を設けてもよい(図示せず)。光学くさび5,6又は中空シャフト7,8のそれぞれの位置は、対応する実測値センサ16を介して検知してもよい。対応するモータ制御部11は、操作ユニット17の設定に応じて、対応する駆動部9を制御する。或いは、対応するモータ制御部11は、他の仕様に基づいて、例えば、被加工物Wに対するレーザ加工装置10の加工ヘッドの位置及び移動に基づいて、又は、レーザハイブリッドアプリケーションの場合のパラメータ、例えば、溶接パラメータ(溶接電流、溶接電圧、溶接ワイヤの供給速度、溶接電流の極性、プロセスフェーズなど)に基づいて、対応する駆動部9を制御する。目下のタイプのビーム形成及び偏向光学系1は、全体のサイズが比較的小さく、コンパクトな実施形態であることが特徴である。例えば、25mmから90mmの範囲内の中空シャフト7,8の直径d
Hが達成され、それによって小さな干渉輪郭が生じる。ビーム形成及び偏向光学系1のハウジング内には、冷却流体(図示せず)を導くための冷却ダクトが任意に配置されてもよい。
【0041】
図6では、光学くさび5,6の間の様々な角度Δβで、様々なスポット形状Sが再現されている。ここでは、対向し且つ等しいくさび角α1=-α2を有する2つの光学くさび5,6の例を用いて、様々なスポット形状Sが図示されている。2つの光学くさび5,6の互いに対する角度位置Δβは、30°ステップで変化する。その結果として生じる加工される被加工物Wの表面上のスポット形状Sが図示されている。様々なスポット形状Sによって、入熱や溶接プール、冷却速度を様々な加工タスクに応じて最適化することができる。例えば、より広いスポット形状S(角度Δβ=150°である左から6番目の画像)によって、より高いギャップブリッジ力を達成することができる。角度位置Δβ=180°の場合、スポット形状Sは、ゼロ点N又は光軸cの周りにそれぞれオフセットされているが、変化がない結果となる。
【0042】
図7Aは、光学くさび5,6をそれぞれゼロ点N又は光軸cを中心として同一方向に同一速度で付加的に回転させたときの、様々なスポット形状Sを示す図である。光学くさび5,6の間の角度Δβは、維持されている。これにより、リング状のスポット形状S(角度Δβ=180°である
図7Aに係る右端の画像)を達成することができる。また、連続的に変化する角度位置Δβを有する回転運動も同様に実現することができる。
【0043】
図7Bには、レーザビームLのパワー密度P
Lが、
図7Aに係る異なる角度位置Δβにおける半径方向位置x
rの関数として示されている。スポット形状Sの対応する回転によって、加工される被加工物Wの表面上に異なるエネルギ入力を達成することができる。被加工物Wに対するレーザビームLの様々な位置や移動において、特定のスポット形状Sは、位置や移動の関数として選択され得るという点で有利である。組み合わされたレーザハイブリッドアプリケーションにおいて、レーザビームのスポット形状Sは、電気アークのパラメータやプロセスフェーズのパラメータの関数としても選択されてもよい。
【0044】
最後に、
図8は、光学くさび5,6を特定の角度範囲で、共同振り子運動させた場合のスポット形状Sを示す図である。図示された例示的な実施形態において、光学くさび5,6の互いに対する一定の角度位置Δβ=135°が想定されている。光学くさび5,6は、特定の角度範囲Δ
X=90°で、共同で前後に移動される。このような振り子運動によって、光軸cを中心として特定の角度範囲Δ
Xを通過することができ、被加工物Wの表面又は内部にそれぞれ対応する熱分布を達成することができる。また、角度位置Δβが連続的に変化する振り子運動も同様に実現することができる。
【0045】
本発明は、小さな干渉輪郭を有するレーザビームLを簡単且つ適応力があるように形成することを特徴とする。