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特許7076067非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20220520BHJP
【FI】
H01M10/0567
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2016088523
(22)【出願日】2016-04-26
(65)【公開番号】P2017199516
(43)【公開日】2017-11-02
【審査請求日】2019-01-09
【審判番号】
【審判請求日】2020-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕江
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀美
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】渡部 朋也
【審判官】佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-251313(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105406121(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0071973(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極及び非水電解質を備える非水電解質二次電池であって、
上記非水電解質が、非水溶媒に電解質塩が溶解する二次電池用非水電解質であって、下記式(1)又は式(2)で表されるホウ素化合物を含有する非水電解質二次電池(但し、下記(A)~()に該当する場合を除く。)。
(A)上記非水電解質が下記式(I)で表されるカルボジイミドと上記ホウ素化合物である下記式(a)又は(b)で表される化合物とを含む場合
(B)上記正極の活物質がLiCoOであり、上記非水電解質がエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒にLiPFが溶解され且つ上記ホウ素化合物である下記式(a)又は(b)で表される化合物を含む場合
(C)上記非水電解質が上記ホウ素化合物である下記式(d)で表される化合物を含む場合
【化1】
(式(1)中、Rは、炭素数1~20のn価の炭化水素基である。R~Rは、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基である。nは、2~4の整数である。)
【化2】
(式(2)中、Rは、炭素数2~20の1価の炭化水素基である。R~R10は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基である。)
【化3】
(式(I)中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1~20の有機基である。)
【化4】
(式(d)中、Rは、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基又はn-ブチル基である。)
【請求項2】
上記Rが第二級又は第三級のアルキル基である請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
上記ホウ素化合物が上記式(1)で表され、nが2である請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
上記ホウ素化合物が上記式(2)で表され、Rが第二級又は第三級のアルキル基である請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
正極、負極及び非水電解質を備える非水電解質二次電池の製造方法であって、
上記非水電解質として、非水溶媒に電解質塩が溶解する二次電池用非水電解質であって、下記式(1)又は式(2)で表されるホウ素化合物を含有する二次電池用非水電解質を用いることを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法(但し、下記(A)~()に該当する場合を除く。)。
(A)上記非水電解質が下記式(I)で表されるカルボジイミドと上記ホウ素化合物である下記式(a)又は(b)で表される化合物とを含む場合
(B)上記正極の活物質がLiCoOであり、上記非水電解質がエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒にLiPFが溶解され且つ上記ホウ素化合物である下記式(a)又は(b)で表される化合物を含む場合
(C)上記非水電解質が上記ホウ素化合物である下記式(d)で表される化合物を含む場合
【化5】
(式(1)中、Rは、炭素数1~20のn価の炭化水素基である。R~Rは、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基である。nは、2~4の整数である。)
【化6】
(式(2)中、Rは、炭素数2~20の1価の炭化水素基である。R~R10は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基である。)
【化7】
(式(I)中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1~20の有機基である。)
【化8】
(式(d)中、Rは、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基又はn-ブチル基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用非水電解質、非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などに多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。
【0003】
非水電解質二次電池の非水電解質には、性能向上などを目的として各種添加剤が添加されている。具体的には、各種ホウ素化合物が添加された二次電池用非水電解質が提案されている(特許文献1~6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-156281号公報
【文献】特開2013-98057号公報
【文献】特開2012-160446号公報
【文献】特開2010-212153号公報
【文献】特開2010-251313号公報
【文献】特開2008-4557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非水電解質二次電池には、今後さらなる高性能化が期待されており、例えば充放電サイクルにおける容量維持率の低下を抑えることなどが求められている。一方、非水電解質に添加する添加剤によっては、二次電池の内部抵抗の上昇を招くという不都合を有するものもある。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、充放電サイクルにおける容量維持率を高めることができる二次電池用非水電解質、この非水電解質を備える非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係る二次電池用非水電解質は、非水溶媒に電解質塩が溶解する二次電池用非水電解質であって、下記式(1)又は式(2)で表されるホウ素化合物を含有することを特徴とする。
【化1】
(式(1)中、Rは、炭素数1~20のn価の炭化水素基である。R~Rは、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基である。nは、2~4の整数である。)
【化2】
(式(2)中、Rは、炭素数2~20の1価の炭化水素基である。R~R10は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基である。)
【0008】
本発明の他の一態様に係る非水電解質二次電池は、正極、負極及び非水電解質を備える非水電解質二次電池であって、上記非水電解質として、上記二次電池用非水電解質が用いられていることを特徴とする。
【0009】
本発明の他の一態様に係る非水電解質二次電池の製造方法は、正極、負極及び非水電解質を備える非水電解質二次電池の製造方法であって、上記非水電解質として、上記二次電池用非水電解質を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、充放電サイクルにおける容量維持率を高めることができる二次電池用非水電解質、この非水電解質を備える非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池を示す外観斜視図
図2】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る二次電池用非水電解質、非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池の製造方法について詳説する。
【0013】
<二次電池用非水電解質>
本発明の一実施形態に係る二次電池用非水電解質(以下、単に「非水電解質」ということもある。)は、非水溶媒に電解質塩が溶解する二次電池用非水電解質であって、下記式(1)又は式(2)で表されるホウ素化合物を含有する。上記ホウ素化合物は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0014】
<ホウ素化合物>
【化3】
【0015】
式(1)中、Rは、炭素数1~20のn価の炭化水素基である。R~Rは、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基である。nは、2~4の整数である。
【0016】
【化4】
【0017】
式(2)中、Rは、炭素数2~20の1価の炭化水素基である。R~R10は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基である。
【0018】
当該二次電池用非水電解質は、このようなホウ素化合物を含有することによって、充放電サイクルにおける容量維持率を高めることができる。さらに、当該二次電池用非水電解質は、非水電解質二次電池の内部抵抗の増大を抑えることができる。この理由は定かでは無いが、以下の理由が推察される。当該非水電解質中のホウ素化合物は、初回充電時に非水電解質を構成する成分の中で最初に電極表面で電気化学的に分解して被膜を形成し、これが非水電解質を構成するその他の成分(非水溶媒等)の分解を抑制すると考えられる。ここで、上記式(1)で表されるホウ素化合物においては、Rで表される炭化水素基がホウ素原子に結合しており、式(2)で表されるホウ素化合物においては、Rで表される炭化水素基が酸素原子を介してホウ素原子に結合している。炭化水素基は電子供与性基であり、この炭化水素基の存在がホウ素化合物の電気化学的な分解に基づく被膜の効果的な形成を促進させる方向に機能しているものと考えられる。これは、Rで表される炭化水素基が、電子供与性が特に高いフェニレン基であるものが特に高い容量維持率を有しているという実施例の結果からも裏付けられる。この結果、充放電サイクルにおける容量維持率を高めることができるものと推察される。また、非水電解質を構成する非水溶媒等が電極表面で分解することによって、電極と非水電解質との間の界面抵抗が増大し、電池の非水電解質二次電池の内部抵抗が増大する原因となる。ここで、当該非水電解質中に添加されたホウ素化合物が初回充電時に非水電解質を構成する成分の中で最初に電極表面で電気化学的に分解して被膜が形成されることにより、非水電解質を構成する非水溶媒等の分解と界面抵抗の増大が抑えられ、非水電解質二次電池の内部抵抗の増大が抑えられるものと推測される。
【0019】
なお、当該二次電池用非水電解質は、充電時の正極電位が比較的貴となる充電条件及び正極活物質が採用される非水電解質二次電池に適用した場合に、特に効果的に充放電サイクルにおける容量維持率を高めることができる。また、上記の場合、当該二次電池用非水電解質は、特に効果的に内部抵抗の増大を抑制できる。ここで、充電時の正極電位が比較的貴となる充電条件とは、非水電解質二次電池の充電終止電圧における正極の到達電位が例えば4.4V(vs.Li/Li)以上となる充電条件である。例えば、グラファイトを負極活物質とする非水電解質二次電池では、電池設計にもよるが、充電終止電圧が4.35Vのとき、正極の到達電位は4.4~4.5V(vs.Li/Li)となる。
【0020】
(式(1)で表されるホウ素化合物)
上記Rで表される炭素数1~20のn価の炭化水素基としては、脂肪族鎖状炭化水素基、脂肪族環状炭化水素基(脂環式炭化水素基)及び芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0021】
具体的には、n=2の場合、
メタンジイル基、エタンジイル基、プロパンジイル基、ブタンジイル基等のアルカンジイル基、
エテンジイル基、プロペンジイル基、ブテンジイル基等のアルケンジイル基、
エチンジイル基、プロピンジイル基、ブチンジイル基等のアルキンジイル基などの2価の脂肪族鎖状炭化水素基;
シクロヘキサンジイル基等のシクロアルカンジイル基、
シクロヘキセンジイル基等のシクロアルケンジイル基などの2価の脂環式炭化水素基;及び
ベンゼンジイル基、ナフタレンジイル基、ビフェニレン基等の2価の芳香族炭化水素基
を挙げることができる。
【0022】
n=3の場合、
メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基等のアルカントリイル基、
エテントリイル基、プロペントリイル基、ブテントリイル基等のアルケントリイル基、
プロピントリイル基、ブチントリイル基等のアルキントリイル基などの3価の脂肪族炭化水素基;
シクロヘキサントリイル基等のシクロアルカントリイル基、
シクロヘキセントリイル基等のシクロアルケントリイル基などの3価の脂環式炭化水素基;及び
ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基等の3価の芳香族炭化水素基
を挙げることができる。
【0023】
n=4の場合、
メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基等のアルカンテトライル基、
エテンテトライル基、プロペンテトライル基、ブテンテトライル基等のアルケンテトライル基、
プロピンテトライル基、ブチンテトライル基等のアルキンテトライル基などの4価の脂肪族炭化水素基;
シクロヘキサンテトライル基等のシクロアルカンテトライル基、
シクロヘキセンテトライル基等のシクロアルケンテトライル基などの4価の脂環式炭化水素基;及び
ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基等の4価の芳香族炭化水素基
を挙げることができる。
【0024】
としては、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が好ましく、芳香族炭化水素基がより好ましく、ベンゼンからn個の水素原子を除いてなる基がさらに好ましい。Rがこのような基である場合、容量維持率に係る効果をより高めることができる。これは、このような基は、電子供与性が高く、ホウ素化合物の分解をより促進させることができるためと推察される。
【0025】
で表される炭化水素基の炭素数の上限としては、10が好ましく、6がより好ましい。
【0026】
nは、2が好ましい。nが2のホウ素化合物は、合成や入手が比較的容易であり、非水電解質の生産性を高め、生産コストを抑えることなどができる。
【0027】
nが2の場合の好ましいRとしては、アルカンジイル基(2価の飽和脂肪族炭化水素基)及び2価の芳香族炭化水素基が挙げられ、2価の芳香族炭化水素基がより好ましい。アルカンジイル基の中では、炭素数1~3のアルカンジイル基がより好ましく、メタンジイル基(-CH-)がさらに好ましい。2価の芳香族炭化水素基の中では、ベンゼンジイル基がより好ましく、ベンゼン-1,4-ジイル基がさらに好ましい。
【0028】
~Rでそれぞれ表される炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基が挙げられる。これらの中でも、メチル基が好ましい。R~Rは、それぞれ同一でも異なっていても良いが、同一であることが好ましい。このような化合物は、合成や入手が比較的容易であり、非水電解質の生産性を高め、生産コストを抑えることなどができる。また、同様の理由などから、上記式(1)で表されるホウ素化合物は、点対称構造であることが好ましい。
【0029】
上記式(1)で表されるホウ素化合物としては、下記式(1-1)~(1-10)で表される化合物を挙げることができる。
【0030】
【化5】
【0031】
(式(2)で表されるホウ素化合物)
上記Rで表される炭素数2~20の1価の炭化水素基としては、
エチル基、プロピル基、ブチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、
エテニル基、プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基、
エチニル基、プロピニル基、ブチニル基等のアルキニル基などの1価の脂肪族鎖状炭化水素基;
シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、
シクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基などの1価の脂環式炭化水素基;及び
フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ベンジル等の1価の芳香族炭化水素基
を挙げることができる。
【0032】
これらの中でも、脂肪族炭化水素基が好ましく、アルキル基がより好ましく、炭素数2~10のアルキル基がさらに好ましく、炭素数3~6のアルキル基がよりさらに好ましく、プロピル基が特に好ましい。Rで表される基がアルキル基である場合、容量維持率に係る効果をより高めることができる。
【0033】
また、アルキル基の中では、第二級又は第三級のアルキル基が好ましい。このようなアルキル基としては、iso-プロピル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基等を挙げることができる。Rで表される基が第二級又は第三級のアルキル基である場合、容量維持率に係る効果をより高めることができる。これは、このような基は、電子供与性が高く、ホウ素化合物の分解をより促進させることができることによると推察される。
【0034】
で表される1価の炭化水素基の炭素数の下限としては、3が好ましい。一方この上限は、10であってよく、6であってもよい。
【0035】
~R10でそれぞれ表される炭素数1~4のアルキル基は、R等で表される基と同様である。R~R10としては、メチル基が好ましい。R~R10は、それぞれ同一でも異なっていても良いが、同一であることが好ましい。このような化合物は、合成や入手が比較的容易であり、非水電解質の生産性を高め、生産コストを抑えることなどができる。
【0036】
上記式(2)で表されるホウ素化合物としては、下記式(2-1)~(2-8)で表される化合物を挙げることができる。
【0037】
【化6】
【0038】
当該非水電解質における上記ホウ素化合物の含有量の下限としては、特に限定されないが、0.1質量%が好ましく、0.2質量%がより好ましく、0.5質量%がさらに好ましい。上記ホウ素化合物の含有量を上記下限以上とすることにより、充放電サイクルにおける容量維持率をより高めることができる。なお、この含有量の上限としては、特に限定されないが、例えば5質量%であり、2質量%であってもよい。
【0039】
<非水溶媒>
上記非水溶媒としては、一般的な二次電池用非水電解質の非水溶媒として通常用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。上記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを少なくとも用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、特に限定されないが、例えば5:95以上50:50以下とすることが好ましい。
【0040】
上記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもECが好ましい。
【0041】
上記鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもEMCが好ましい。
【0042】
<電解質塩>
上記電解質塩としては、一般的な二次電池用非水電解質の電解質塩として通常用いられる公知の電解質塩を用いることができる。上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。
【0043】
上記リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPFがより好ましい。
【0044】
当該非水電解質における上記電解質塩の含有量の下限としては、0.1Mが好ましく、0.3Mがより好ましく、0.5Mがさらに好ましく、0.7Mが特に好ましい。一方、この上限としては、特に限定されないが、2.5Mが好ましく、2Mがより好ましく、1.5Mがさらに好ましい。
【0045】
当該非水電解質は、本発明の効果を阻害しない限り、上記ホウ素化合物、上記非水溶媒、及び上記電解質塩以外の他の成分を含有していてもよい。上記他の成分としては、一般的な二次電池用非水電解質に含有される各種添加剤を挙げることができる。また、上記ホウ素化合物以外のホウ素化合物が併用されていてもよい。但し、これらの他の成分の含有量としては、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましいこともある。
【0046】
当該非水電解質は、上記非水溶媒に上記電解質塩及び上記ホウ素化合物を添加し、溶解させることにより得ることができる。
【0047】
<非水電解質二次電池>
本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池は、正極、負極及び非水電解質を備える。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体はケースに収納され、このケース内に上記非水電解質が充填される。当該非水電解質二次電池においては、非水電解質として、上述した二次電池用非水電解質が用いられている。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。また、上記ケースとしては、非水電解質二次電池のケースとして通常用いられる公知のアルミニウムケース等を用いることができる。
【0048】
当該非水電解質二次電池によれば、上記ホウ素化合物を含有する非水電解質を用いることで、充放電サイクルにおける容量維持率を高めることができる。なお、当該非水電解質二次電池の充電終止電圧は、例えば4.2V以上とすることができ、4.35V以上とすることもできる。一方、この充電終止電圧の上限は、例えば5.0Vであり、4.5Vであってもよい。
【0049】
<正極>
上記正極は、正極基材、及びこの正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層を有する。
【0050】
上記正極基材は、導電性を有する。基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0051】
中間層は、正極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。なお、「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が10Ω・cm超であることを意味する。
【0052】
正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合材から形成される。また、正極活物質層を形成する正極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0053】
上記正極活物質としては、例えばLiMO(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(層状のα―NaFeO型結晶構造を有するLiCoO,LiNiO,LiMnO,LiNiαCo(1-α),LiNiαMnβCo(1-α-β)等、スピネル型結晶構造を有するLiMn,LiNiαMn(2-α)等)、LiMe(XO(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO,LiMnPO,LiNiPO,LiCoPO,Li(PO,LiMnSiO,LiCoPOF等)が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極活物質層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0054】
上記導電剤としては、電池性能に悪影響を与えない導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、金属、導電性セラミックスなどが挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。
【0055】
上記バインダー(結着剤)としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子などが挙げられる。
【0056】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0057】
上記フィラーとしては、電池性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素などが挙げられる。
【0058】
<負極>
上記負極は、負極基材、及びこの負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層を有する。上記中間層は正極の中間層と同様の構成とすることができる。
【0059】
上記負極基材は、正極基材と同様の構成とすることができるが、材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0060】
負極活物質層は、負極活物質を含むいわゆる負極合材から形成される。また、負極活物質層を形成する負極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極活物質層と同様のものを用いることができる。
【0061】
負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が用いられる。具体的な負極活物質としては、例えばSi、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;ポリリン酸化合物;黒鉛(グラファイト)、非晶質炭素(易黒鉛化性炭素または難黒鉛化性炭素)等の炭素材料などが挙げられる。
【0062】
さらに、負極合材(負極活物質層)は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0063】
<セパレータ>
上記セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも多孔質樹脂フィルムが好ましい。多孔質樹脂フィルムの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましい。また、これらの樹脂とアラミドやポリイミド等の樹脂とを複合した多孔質樹脂フィルムを用いてもよい。
【0064】
<非水電解質二次電池の製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法は、正極、負極及び非水電解質を備える非水電解質二次電池の製造方法であって、上記非水電解質として、当該二次電池用非水電解質を用いることを特徴とする。当該製造方法は、例えば、正極及び負極(電極体)をケースに収容する工程、及び上記ケースに上記非水電解質を注入する工程を備える。
【0065】
上記注入は、公知の方法により行うことができる。注入後、注入口を封止することにより非水電解質二次電池を得ることができる。当該製造方法によって得られる非水電解質二次電池を構成する各要素についての詳細は上述したとおりである。当該非水電解質二次電池の製造方法によれば、上記ホウ素化合物を含有する非水電解質を用いることで、充放電サイクルにおける容量維持率を高めることができる非水電解質二次電池を製造することができる。
【0066】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、上記正極又は負極において、中間層を設けなくてもよい。また、例えば、非水電解質としてポリマー固体電解質を用いる場合、本発明の非水電解質二次電池の製造方法において、上述した注入工程を備えなくてもよい。
【0067】
図1に、本発明に係る非水電解質二次電池の一実施形態である矩形状の非水電解質二次電池1の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。図1に示す非水電解質二次電池1は、電極体2が電池容器3に収納されている。電極体2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0068】
ここで、電極体に保持されている非水電解質は、非水溶媒と該非水溶媒に溶解した電解質塩とを含むものであるが、本発明においては、さらに、特定のホウ素化合物を含む点に特徴を有する。
【0069】
本発明に係る非水電解質二次電池の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解質二次電池を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図2に示す。図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質二次電池1を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例
【0070】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
以下に実施例及び比較例で用いたホウ素化合物を示す。
・2-イソプロポキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン
(下記式(A)で表される化合物A)
・ビス[(ピナコラト)ボリル]メタン
(下記式(B)で表される化合物B)
・1,4-ベンゼンジボロン酸ビス(ピナコール)
(下記式(C)で表される化合物C)
・2-エチル-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン
(下記式(a)で表される化合物a)
【0072】
【化7】
【0073】
[実施例1]
(非水電解質の作製)
ECとEMCとを30:70の体積比で混合した溶媒にLiPFを1.0Mの濃度で溶解させた。これに、さらにホウ素化合物としての2-イソプロポキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン(上記化合物A)を1.0質量%となるように添加し、実施例1の非水電解質を得た。
【0074】
(非水電解質二次電池の作製)
α―NaFeO型結晶構造を有するLiNi1/3Co1/3Mn1/3を正極活物質とする正極板を作製した。また、グラファイトを負極活物質とする負極板を作製した。次いで、ポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータを介して、上記正極板と上記負極板とを積層し、扁平形状に巻回することにより電極体を作製した。この電極体をアルミニウム製の角形電槽缶に収納し、正極端子及び負極端子を取り付けた。この容器(角形電槽缶)内部に上記非水電解質を注入した後、封口し、非水電解質二次電池(リチウムイオン電池)を得た。
【0075】
[実施例2~3、比較例1~2]
用いたホウ素化合物の種類を表1に記載のものにした、又は添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして実施例2~3及び比較例1~2の非水電解質、並びに非水電解質二次電池を得た。
【0076】
[評価]
(初期容量確認試験)
得られた各非水電解質二次電池について、25℃において充電電流0.2CmA、充電終止電圧4.35V、トータル充電時間8時間で定電流定電圧充電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。その後、放電電流0.2CmA、放電終止電圧2.75Vとして定電流放電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。この充放電を2サイクル実施し、初期容量を確認した。
【0077】
(内部抵抗の測定)
次いで、再び上記容量確認試験と同じ条件で充電した後、インピーダンスメーターを用いて交流(AC)1kHzを印加することにより「内部抵抗(mΩ)」を測定した。比較例1の非水電解質二次電池の「内部抵抗(mΩ)」に対する各非水電解質二次電池の「内部抵抗(mΩ)」の百分率を「内部抵抗(%)」として求めた。この結果を表1に示す。
【0078】
(充放電サイクル試験)
次いで、再び、上記容量確認試験と同じ条件で放電した後、45℃の恒温槽内において充電電流1.0CmA、充電終止電圧4.35V、トータル充電時間3時間で定電流電圧充電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。その後、放電電流1.0CmA、放電終止電圧2.75Vで定電流放電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。この充放電を100サイクル実施した。この充放電サイクル試験における1サイクル目の放電容量に対する100サイクル後の放電容量の比を「容量維持率(%)」として求めた。この結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
上記表1に示されるように、上記式(1)又は式(2)で表されるホウ素化合物を添加した非水電解質を備える実施例1~3の非水電解質二次電池は、ホウ素化合物を添加していない比較例1や上記式(1)又は式(2)で表される以外のホウ素化合物を添加した比較例2に対して、充放電サイクルにおいて高い容量維持率を有していることがわかる。また、上記式(1)又は式(2)で表されるホウ素化合物を添加した非水電解質を備える実施例1~3の非水電解質二次電池は、ホウ素化合物を添加していない比較例1に対して内部抵抗も同等、あるいは低減していることがわかる。一方、比較例2の非水電解質二次電池は、比較例1に対して内部抵抗が増大していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される非水電解質二次電池、及びこれに備わる二次電池用非水電解質などに適用できる。
【符号の説明】
【0082】
1 非水電解質二次電池
2 電極体
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2