(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】新規有機ゲルマニウム化合物及びこれを含む鎮痛剤
(51)【国際特許分類】
C07F 7/30 20060101AFI20220520BHJP
A61K 31/28 20060101ALI20220520BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220520BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
C07F7/30 B CSP
A61K31/28
A61P43/00 111
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2017242584
(22)【出願日】2017-12-19
【審査請求日】2020-12-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年6月23日に、日本化学会北海道支部2017年夏季研究発表会(旭川大会)講演要旨集、第39頁、演題番号B15にて、新規有機ゲルマニウム化合物の合成とそのADA酵素反応への影響検討について公開した。 平成29年7月22日に、日本化学会北海道支部2017年夏季研究発表会(旭川大会)にて、新規有機ゲルマニウム化合物の合成とそのADA酵素反応への影響検討について公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】504193837
【氏名又は名称】国立大学法人室蘭工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】391001860
【氏名又は名称】株式会社浅井ゲルマニウム研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】特許業務法人IPアシスト特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 博人
(72)【発明者】
【氏名】中村 宜司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 克行
(72)【発明者】
【氏名】島田 康弘
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-001191(JP,A)
【文献】特開昭59-078197(JP,A)
【文献】特開昭62-228014(JP,A)
【文献】特開昭60-001192(JP,A)
【文献】Nakamura, T. et al.,Organogermanium compound, Ge-132, forms complexes with adrenaline, ATP and other physiological cis-diol compounds,Future Medicinal Chemistry,2015年,7(10),pp. 1233-1246
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F7/30
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】
の化合物であって、式中、
R
1及びR
2は、それらが結合している2個の炭素原子と共に、4~10員の単環式若しくは多環式の飽和環、4~10員の単環式若しくは多環式の部分飽和
環、又は5~10員の単環式若しくは多環式の窒素、酸素及び硫黄から選択される1~4個の原子を含有する
飽和若しくは部分不飽和のヘテロ環を形成し、
これらの環は、置換されていないか、又はハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、オキソ、C
1-4アルキル、C
1-4ハロアルキル、C
2-4アルケニル、C
2-4ハロアルケニル、C
3-4アルキニル、C
3-4ハロアルキニル、C
1-4アルコキシ、C
1-4ハロアルコキシ、C
1-4アルキルチオ、C
1-4アルキルスルフィニル及びC
1-4アルキルスルホニルよりなる群からの1若しくは複数の残基により置換されており、
R
3は、水素、ハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、C
1-4アルキル、C
1-4ハロアルキル、C
2-4アルケニル、C
2-4ハロアルケニル、C
3-4アルキニル、C
3-4ハロアルキニル、C
1-4アルコキシ、C
1-4ハロアルコキシ、C
1-4アルキルチオ、C
1-4アルキルスルフィニル又はC
1-4アルキルスルホニルである、前記化合物若しくはその塩若しくは
そのC
1-4
アルキルエステル又はこれらの重合体。
【請求項2】
R
1及びR
2が、それらが結合している2個の炭素原子と共に、4~7員の単環式飽和環又は6~10員の多環式飽和環を形成し、前記飽和環は置換されておらず、R
3が、水素又はC
1-4アルキルである、請求項1に記載の化合物若しくはその塩若しくは
そのC
1-4
アルキルエステル又はこれらの重合体。
【請求項3】
R
1及びR
2が、
【化2】
のいずれかであり、R
3が水素である、請求項1又は2に記載の化合物若しくはその塩若しくは
そのC
1-4
アルキルエステル又はこれらの重合体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物若しくはその塩若しくは
そのC
1-4
アルキルエステル又はこれらの重合体を有効成分として含有する、鎮痛剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規有機ゲルマニウム化合物及び有効成分として該化合物を含有する鎮痛剤に関する。
【背景技術】
【0002】
Ge-132(ポリ-トランス-〔(2-カルボキシエチル)ゲルマセスキオキサン]、レパゲルマニウム、アサイゲルマニウムとも呼ばれる)は、免疫賦活作用、抗腫瘍作用、鎮痛作用といった様々な生理作用を持つ水溶性の有機ゲルマニウム化合物である。Ge-132は、水中では加水分解し、単量体である3-(トリヒドロキシゲルミル)プロパン酸(THGP)を生じる。
【0003】
Ge-132が多彩な生理作用を発揮する作用機序の1つとして、THGPとシス-ジオール含有化合物との相互作用が挙げられる。THGPは、シス-ジオール含有化合物との脱水縮合によりラクトン型のTHGP-シス-ジオール錯体を形成し、当該シス-ジオール含有化合物の生理的機能を制御するものと考えられている(非特許文献1等)。例えば、THGPはアデノシンやATPと錯体を形成することでこれらとP1あるいはP2受容体との結合を阻害し、疼痛を抑制することが報告されている(非特許文献2)。
【0004】
上記の錯体形成を介したシス-ジオール含有化合物の生理的機能の制御は、新たな創薬標的として注目されており、シス-ジオール含有化合物との錯体形成能がより優れた新たな化合物が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Nakamura et al., Future. Med. Chem., 2015, 7 (10), 1233-1246.
【文献】Shimada et al., Biol. Trace Elem. Res., "The Organogermanium Compound Ge-132 Interacts with Nucleic Acid Components and Inhibits the Catalysis of Adenosine Substrate by Adenosine Deaminase", [online], Springer, 2017年4月20日, [2017年12月11日検索], インターネット<https://doi.org/10.1007/s12011-017-1020-4>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、錯体形成を介してシス-ジオール含有化合物の生理的機能を制御することができる、新たな化合物、特に有機ゲルマニウム化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、THGPとシス-ジオール含有化合物との錯体形成機構に関する研究を進めた結果、錯体形成にはTHGPのラクトン構造が重要であって、ラクトン構造を取りやすいTHGP誘導体はシス-ジオール含有化合物との錯体形成能が高く、シス-ジオール含有化合物の生理的機能をより強力に制御することができることを見いだし、下記の各発明を完成させた。
【0008】
(1) 一般式(I)
【化1】
の化合物であって、式中、
R
1及びR
2は、それらが結合している2個の炭素原子と共に、4~10員の単環式若しくは多環式の飽和環、4~10員の単環式若しくは多環式の部分飽和環、6~10員の単環式若しくは多環式の芳香環、又は5~10員の単環式若しくは多環式の窒素、酸素及び硫黄から選択される1~4個の原子を含有するヘテロ環を形成し、
これらの環は、置換されていないか、又はハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、オキソ、C
1-4アルキル、C
1-4ハロアルキル、C
2-4アルケニル、C
2-4ハロアルケニル、C
3-4アルキニル、C
3-4ハロアルキニル、C
1-4アルコキシ、C
1-4ハロアルコキシ、C
1-4アルキルチオ、C
1-4アルキルスルフィニル及びC
1-4アルキルスルホニルよりなる群からの1若しくは複数の残基により置換されており、
R
3は、水素、ハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、C
1-4アルキル、C
1-4ハロアルキル、C
2-4アルケニル、C
2-4ハロアルケニル、C
3-4アルキニル、C
3-4ハロアルキニル、C
1-4アルコキシ、C
1-4ハロアルコキシ、C
1-4アルキルチオ、C
1-4アルキルスルフィニル又はC
1-4アルキルスルホニルである、前記化合物若しくはその塩若しくはエステル又はこれらの重合体。
(2) R
1及びR
2が、それらが結合している2個の炭素原子と共に、4~7員の単環式飽和環又は6~10員の多環式飽和環を形成し、前記飽和環は置換されておらず、R
3が、水素又はC
1-4アルキルである、(1)に記載の化合物若しくはその塩若しくはエステル又はこれらの重合体。
(3) R
1及びR
2が、
【化2】
のいずれかであり、R
3が水素である、(1)又は(2)に記載の化合物若しくはその塩若しくはエステル又はこれらの重合体。
(4) (1)から(3)のいずれか一項に記載の化合物若しくはその塩若しくはエステル又はこれらの重合体を有効成分として含有する、鎮痛剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、シス-ジオール含有化合物との錯体形成能が高く、アデノシン等のシス-ジオール含有化合物の生理的機能をより強力に制御することができる化合物及びこれを含む医薬組成物、食品組成物又は化粧品組成物を提供することができる。かかる化合物及び組成物は、疼痛の処置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】THGP誘導体のアデノシンデアミナーゼ(ADA)阻害活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第一の態様は、一般式(I)
【化3】
の化合物であって、式中、
R
1及びR
2は、それらが結合している2個の炭素原子と共に、4~10員の単環式若しくは多環式の飽和環、4~10員の単環式若しくは多環式の部分飽和環、6~10員の単環式若しくは多環式の芳香環、又は5~10員の単環式若しくは多環式の窒素、酸素及び硫黄よりなる群から選択される1~4個の原子を含有するヘテロ環を形成し、
これらの環は、置換されていないか、又はハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、オキソ、C
1-4アルキル、C
1-4ハロアルキル、C
2-4アルケニル、C
2-4ハロアルケニル、C
3-4アルキニル、C
3-4ハロアルキニル、C
1-4アルコキシ、C
1-4ハロアルコキシ、C
1-4アルキルチオ、C
1-4アルキルスルフィニル及びC
1-4アルキルスルホニルよりなる群からの1若しくは複数の残基により置換されており、
R
3は、水素、ハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、C
1-4アルキル、C
1-4ハロアルキル、C
2-4アルケニル、C
2-4ハロアルケニル、C
3-4アルキニル、C
3-4ハロアルキニル、C
1-4アルコキシ、C
1-4ハロアルコキシ、C
1-4アルキルチオ、C
1-4アルキルスルフィニル又はC
1-4アルキルスルホニルである、前記化合物若しくはその塩若しくはエステル又はこれらの重合体に関する。
【0012】
一般式(I)の化合物において、R1及びR2は、それらが結合している2個の炭素原子と共に、4~10員の単環式若しくは多環式の飽和環、4~10員の単環式若しくは多環式の部分飽和環、6~10員の単環式若しくは多環式の芳香環、又は5~10員の単環式若しくは多環式の窒素、酸素及び硫黄から選択される1~4個の原子を含有するヘテロ環を形成する。
【0013】
4~10員の単環式又は多環式の飽和環は、環構成原子として4~10個の炭素原子を有する、1又は複数の環構造を持つ飽和炭素環であって、例として、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、ビシクロオクチル、スピロオクチル等が挙げられる。
【0014】
4~10員の単環式又は多環式の部分飽和環は、環構成原子として4~10個の炭素原子を有する、1又は複数の環構造を持つ部分飽和炭素環であって、例として、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、シクロオクテニル、ビシクロオクテニル等が挙げられる。
【0015】
6~10員の単環式又は多環式の芳香環は、環構成原子として6~10個の炭素原子を有する、1又は複数の環構造を持つ芳香環であって、例として、フェニル、ナフチル、インジル等が挙げられる。
【0016】
5~10員の単環式又は多環式の窒素、酸素及び硫黄よりなる群から選択される1~4個の原子を含有するヘテロ環は、環構成原子として6~10個の原子を有する、1又は複数の環構造を持つ飽和環、部分飽和環又は芳香環であって、環構成原子のうち1~4個は窒素、酸素及び硫黄よりなる群から独立して選択されるヘテロ原子であり、その他の環構成原子は炭素原子である環である。例として、フラニル、チオフェニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラニル、ピリジニル、ピリミジニル、ピラジニル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニル、インドリル、キノリル、イソキノリル等が挙げられる。
【0017】
R1及びR2により形成される環は、以下の1又は複数の置換基により置換されていてもよい:フッ素、塩素若しくは臭素等のハロゲン;ニトロ;ヒドロキシ;シアノ;オキソ;直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭素数1~4個のアルキルであるC1-4アルキル;1若しくは複数のハロゲンで置換された直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭素数1~4個のアルキルであるC1-4ハロアルキル;直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭素数2~4個のアルケニルであるC2-4アルケニル;1若しくは複数のハロゲンで置換された直鎖、分岐鎖若しくは環状の炭素数2~4個のアルケニルであるC2-4ハロアルケニル;直鎖若しくは分岐鎖の炭素数3~4個のアルキニルであるC3-4アルキニル;1若しくは複数のハロゲンで置換された直鎖若しくは分岐鎖の炭素数3~4個のアルキニルであるC3-4ハロアルキニル;-O-C1-4アルキルで表されるC1-4アルコキシ;-O-C1-4ハロアルキルで表されるC1-4ハロアルコキシ;-S-C1-4アルキルで表されるC1-4アルキルチオ;-SO-C1-4アルキルで表されるC1-4アルキルスルフィニル;又は-SO2-C1-4アルキルで表されるC1-4アルキルスルホニル。
【0018】
一般式(I)の化合物において、R3は、水素、ハロゲン、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、C1-4アルキル、C1-4ハロアルキル、C2-4アルケニル、C2-4ハロアルケニル、C3-4アルキニル、C3-4ハロアルキニル、C1-4アルコキシ、C1-4ハロアルコキシ、C1-4アルキルチオ、C1-4アルキルスルフィニル又はC1-4アルキルスルホニルである。それぞれの基の詳細は、R1及びR2により形成される環の置換基の説明において記載されているとおりである。
【0019】
好ましい一般式(I)の化合物は、R1及びR2が、それらが結合している2個の炭素原子と共に、4~7員の単環式飽和環又は6~10員の多環式飽和環を形成し、前記飽和環は置換されておらず、R3が、水素又はC1-4アルキルである、前記化合物である。
【0020】
より好ましい一般式(I)の化合物は、R
1及びR
2が、
【化4】
のいずれかであり、R
3が水素である、前記化合物である。
【0021】
本発明の第一の態様は、一般式(I)の化合物の薬学的に許容される塩又はエステルを包含する。かかる塩としては、慣用的な塩基との塩、例えば、アルカリ金属塩(例としてナトリウム塩及びカリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例としてカルシウム塩及びマグネシウム塩)、アンモニウム塩、又は有機アミン(例としてエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、DIPEA、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、コリン(2-ヒドロキシ-N,N,N-トリメチルエタンアミニウム)、プロカイン、ジシクロヘキシルアミン、ジベンジルアミン、N-メチルモルフォリン、N-メチルピペリジン、アルギニン、リジン及び1,2-エチレンジアミン)が挙げられる。
【0022】
一般式(I)の化合物の薬学的に許容されるエステルは、一般式(I)のカルボン酸のインビボで加水分解可能なエステルである。かかるエステルとしては、例えばメチル、エチル、tert-ブチルエステル等のC1-4アルキルエステルが好ましい。
【0023】
一般式(I)の化合物は、下に示すように、一般式(II)のアクリル酸誘導体(式中、R
1~R
3は、一般式(I)の化合物の説明において記載されているとおりである)とトリクロロゲルマンとのハイドロゲルミレーション、及びその後の加水分解により合成することができる。
【化5】
【0024】
ハイドロゲルミレーション及び加水分解は、当業者に公知の一般的な反応条件で行えばよい。例えば、ハイドロゲルミレーションは濃塩酸、ジエチルエーテル又はクロロホルム等を溶媒として用いて25~40℃程度の温度で行うことができ、加水分解は水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液中で行うことができる。
【0025】
本発明の第一の態様は、一般式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルの重合体を包含する。一般式(I)の化合物の重合体は、一般式(III)
【化6】
で表すことができる。重合体は、THGPからのGe-132の製造と同様に、水溶液に溶解した状態の一般式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルを乾燥させて、分子間で脱水縮合を生じさせることにより得ることができる。重合体は、全ての構成単位が同一であっても異なってもよい。前者の重合体は一種類の、後者の重合体は複数種類の一般式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩若しくはエステルを溶解した水溶液を乾燥させることにより得ることができる。
【0026】
一般式(I)の化合物は、下に示すようにシス-ジオール基を含有する化合物と脱水縮合して、ラクトン型のシス-ジオール錯体を可逆的に形成することができる。
【化7】
【0027】
一般式(I)の化合物は、親化合物であるTHGPよりもラクトン構造を取りやすく、シス-ジオール含有化合物との錯体形成能が高い。シス-ジオール含有化合物は、一般式(I)の化合物と錯体を形成することでトラップされた形になり、他分子との相互作用が抑制される。例えば一般式(I)の化合物を生体内でアデノシン又はATPと共存させて錯体を形成させることにより、疼痛シグナル伝達による疼痛発生等を阻害又は抑制することができる。
【0028】
したがって、一般式(I)の化合物若しくはその塩若しくはエステル又はこれらの重合体は、疼痛の予防及び/又は治療のための鎮痛剤として用いることができる。一般式(I)の化合物若しくはその塩若しくはエステル又はこれらの重合体は、そのまま鎮痛剤として利用してもよく、さらに、薬学的に許容される緩衝剤、安定剤、保存剤、賦形剤その他の成分及び/又は他の有効成分を含む医薬組成物、食品組成物若しくは化粧品組成物の形態で利用してもよい。かかる組成物は、本発明のさらなる態様である。薬学的に許容される成分は当業者において周知であり、当業者が通常の実施能力の範囲内で、例えば第十七改正日本薬局方その他の規格書に記載された成分から製剤の形態に応じて適宜選択して使用することができる。
【0029】
本発明において鎮痛剤を含有する医薬組成物の形態は任意であるが、経口剤(錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、液剤、シロップ剤等)及び外用剤(軟膏剤、貼付剤など)を好ましい例として挙げることができる。
【0030】
本発明における鎮痛剤又はこれを含む組成物の投与方法は特に限定されず、剤形に応じて適宜決定される。好ましい実施形態の一つにおいて、鎮痛剤又はこれを含む組成物は、経口的又は経皮的に生体に投与される。
【0031】
本発明における鎮痛剤又はこれを含む組成物の投与量は、用法、対象の年齢、疾患の種類及び部位その他の条件などに応じて適宜選択されるが、通常成人に対して体重1kgあたり10μg~2000μg、好ましくは50μg~1000μg、より好ましくは100μg~500μgであり、これを1日に1回若しくは複数回に分けて、又は間歇的に投与することができる。
【0032】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
実施例1.THGP誘導体の合成
(1) 2-Trichlorogermyl cyclohexanecarboxylic acid(化合物3g)及び2-Trihydroxygermyl cyclohexanecarboxylic acid(化合物16g)の合成
【化8】
30 ml ナス型フラスコに 1-シクロへキセン-1-カルボン酸(1.13 g, 9 mmol)を秤量し、容器内を減圧乾燥した。その容器に conc. HCl(3.5 ml)を添加した後、氷冷下で conc. HCl に溶解したトリクロロゲルマン(0.93 ml, 10 mmol)をゆっくり滴下し、室温で12 時間撹拌した。反応後、析出する固体を吸引ろ過し、残渣を conc. HCl で 3 回洗浄することにより、白色結晶として化合物 3g(1.15 g, 42%)を得た。
得られた 3g(306 mg, 1 mmol)を水(5 ml)に溶解し pH 7.0 付近になるよう水酸化ナトリウム水溶液(40wt%)を用いて中和することにより、目的の化合物16g を得た。
【0034】
(2)2-Trichlorogermyl cyclopentanecarboxylic acid(化合物3h)及び2-Trihydroxygermyl cyclopentanecarboxylic acid(化合物16h)の合成
【化9】
30 ml ナス型フラスコに 1-シクロへプタン-1-カルボン酸(1.01 g, 9 mmol)を秤量し、容器内を減圧乾燥した。その容器に conc. HCl(3.5 ml)を添加した後、氷冷下で conc. HCl に溶解したトリクロロゲルマン(0.93 ml, 10 mmol)をゆっくり滴下し、室温で12 時間撹拌した。反応後、析出する固体を吸引ろ過し、残渣を conc. HCl で 3 回洗浄することにより、白色結晶として化合物3h(2.05 g, 78%)を得た。
得られた 3h(292 mg, 1 mmol)を水(5 ml)に溶解し pH 7.0 付近になるよう水酸化ナトリウム水溶液(40wt%)を用いて中和することにより、目的の化合物16h を得た。
【0035】
(3)3-Trichlorogermyl bicycle[2.2.2]octane-2-carboxylic acid(化合物3j)及び3-Trihydrogermyl bicycle[2.2.2]octane-2-carboxylic acid(化合物16j)の合成
【化10】
10 ml ナス型フラスコにシクロへキサジエン(160 mg, 2.0 mmol)とプロピオン酸(70 mg, 1.0 mmol)を秤量し、容器内を Ar ガスで満たした。その容器にジクロロメタン 1ml と触媒として ortho-bromophenylboronic acid(40 mg, 0.2 mmol)を加え、25℃ で 48時間撹拌した。得られた反応物はカラムクロマトグラフィー(SiO
2)を用いて分離精製した。得られたジエン化合物(600 mg)を酢酸エチル(5ml)に溶かし、5% パラジウム炭素(12 mg)触媒存在下で還元した。
上記で得られた bicycle[2.2.2]oct-2-ene-2-carboxylic acid(2.98 g, 9 mmol)を30 ml ナス型フラスコに秤量し、容器内を減圧乾燥した。その容器に conc. HCl(3.5 ml)を添加した後、氷冷下で conc. HCl に溶解したトリクロロゲルマン(0.93 ml, 10 mmol)をゆっくり滴下し、室温で12 時間撹拌した。反応後、析出する固体を吸引ろ過し、残渣を conc. HCl で 3 回洗浄することにより、白色結晶として化合物3j(655 mg, 22%)を得た。
得られた化合物3j(292 mg, 1 mmol)を水(5 ml)に溶解し pH 7.0 付近になるよう水酸化ナトリウム水溶液(40wt%)を用いて中和することにより、目的の化合物16j を得た。
【0036】
実施例2.THGP誘導体のシス-ジオール錯体形成能の評価
実施例1で調製した化合物3g、3h及び3jを各 1mmol づつバイアル管に秤量し、D2O(3 ml)に溶解した。その溶液に NaOD をpH 7 付近になるように滴下した後、D2O を全体の溶液量が 5 ml になるまで加え、重水素交換された化合物16g、16h 及び 16j を得た。
上記で得た溶液の濃度(0.2 mol/L)と同じ濃度のシス-ジオール化合物1,4-anhydroerythritol(0.2 mol/L)を反応させ、化合物16g、16h又は16jと1,4-anhydroerythritolとの錯体を形成させた。反応液の1H-NMR スペクトル解析を行い、1, 4-anhydroerythritolの水酸基に隣接したプロトンに由来するシグナルの面積を用いて、以下の式により錯体形成能を算出した。
錯体形成能(%)=錯体における当該シグナルの面積/(錯体における当該シグナルの面積+1,4-anhydroerythritolにおける当該シグナルの面積)×100
【0037】
結果を表1に示す。化合物16g、16h及び16jはいずれもTHGPより高いシス-ジオール錯体形成能を有していることが確認された。
【表1】
【0038】
実施例3.THGP誘導体のアデノシンデアミナーゼ(ADA)阻害活性の評価
以下のリン酸 buffer 溶液(pH7.5)を調製した:アデノシン(50μM)、THGP又はその誘導体(化合物16g又は16 h)(50 mM)及びADA(0.1 U/ml)。次に、アデノシン溶液(280μL)、THGP又はその誘導体の溶液(280μL)及びADA 溶液(40μL)をプラスチックセルに入れ、混合後、紫外分光光度計を用いて265 nm における吸光度を測定し(測定時間60 秒、温度25℃)、アデノシン濃度の時間変化からADA反応速度を算出した。Tukey-Kramer法を用いて、群間の多重比較検定を行った。
【0039】
結果を
図1に示す。THGP、化合物16g及び16hはいずれもADA酵素反応速度を対照と比べて有意に低下させた。特に化合物16gは反応速度をTHGP添加時と比べて約2/3に低下させ、また化合物16hは反応速度をTHGP添加時と比べて約1/2に低下させたことから、化合物16g及び16hはTHGPよりも強いADA酵素活性阻害能を有することが確認された。