(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】地層の判別方法
(51)【国際特許分類】
E02D 1/00 20060101AFI20220520BHJP
【FI】
E02D1/00
(21)【出願番号】P 2018130709
(22)【出願日】2018-07-10
【審査請求日】2021-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(73)【特許権者】
【識別番号】501133247
【氏名又は名称】構造工事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】森 利弘
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 正美
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 毅
(72)【発明者】
【氏名】牧田 安樹
(72)【発明者】
【氏名】新井 庸夫
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-200355(JP,A)
【文献】特開2007-277940(JP,A)
【文献】特開2002-133391(JP,A)
【文献】特開平09-242459(JP,A)
【文献】特開平08-210075(JP,A)
【文献】特開2019-167751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
削孔機を用いて水を供給しながら地盤の削孔を行うこと、
削孔の間に孔底における前記水の圧力の値を
0.2~1.0秒の範囲内の任意の値の測定間隔をおいて測定すること、
前記水の圧力の複数の測定値の振幅が比較的大きくかつ最低値及び最高値がほぼ同一であり、このために前記複数の測定値が全体的に一様に推移するときは前記孔底を含む地層が
砂礫・砂質系であると判定し、また、
前記水の圧力の複数の測定値の振幅が比較的小さく、このために前記水の圧力の複数の測定値が全体的に折れ線状を呈して上昇するときは前記孔底を含む地層がシルト・粘土質系であると判定することを含む、地層の判別方法。
【請求項2】
前記水の圧力の値の測定時に前記孔底の深度を測定することを含む、請求項1に記載の地層の判別方法。
【請求項3】
さらに、地面から最深の孔底まで順次に所定深さごとの前記水の圧力の複数の測定値の複数の平均を求めること、
前記複数の平均が比較的小さくかつ比較的小さい変化を伴って推移するとき前記地層は砂礫・砂質系であるとし、また、前記複数の平均が比較的大きくかつ比較的大きい変化を伴って推移するとき前記地層はシルト・粘土質系であるとすることを含む、請求項1
又は2に記載の地層の判別方法。
【請求項4】
前記所定深さは5cmである、請求項
3に記載の地層の判別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤を構成する地層の判別方法、特に、地層が砂礫・砂質系であるか、あるいはシルト・粘土質系であるかを判別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地層の判別のために、削孔機を使用して、所定の深度ごとの削孔データである送水圧、ビットの回転トルク、ビット荷重、単位深度当たりのビット回転機構におけるギヤの歯数、削孔速度、削孔深度等を求めることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、削孔機を使用して行う地層の判別をより簡便にすることに資する地層判別方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は地層の判別方法に係り、削孔機を用いて水を供給しながら地盤の削孔を行うこと、削孔の間に孔底における前記水の圧力の値を0.2~1.0秒の範囲内の任意の値の測定間隔をおいて測定すること、前記水の圧力の複数の測定値の振幅が比較的大きくかつ最低値及び最高値がほぼ同一であり、このために前記複数の測定値が全体的に一様に推移するときは前記孔底を含む地層が砂礫・砂質系であると判定し、また、前記水の圧力の複数の測定値の振幅が比較的小さく、このために前記水の圧力の複数の測定値が全体的に折れ線状を呈して上昇するときは前記孔底を含む地層がシルト・粘土質系であると判定することを含む。
【0006】
本発明によれば、水を供給して行う地盤の削孔中における孔底の前記水の圧力値の測定により、前記孔底を含む地層が砂礫・砂質系であるか又はシルト・粘土質系であるかを判定することができ、これにより地層の判別をより簡便に行うことができる。
【0007】
さらに、前記水の圧力の値の測定時に前記孔底の深度を測定することにより、判別された地層が存する深度を知ることができる。
【0008】
さらに、地面から最深の孔底まで順次に所定深さごとの前記水の圧力の複数の測定値の平均を求めること、前記複数の平均が比較的小さくかつ比較的小さい変化を伴って推移するとき前記地層は砂礫・砂質系であるとし、また、前記複数の平均が比較的大きくかつ比較的大きい変化を伴って推移するとき前記地層はシルト・粘土質系であるとすることができる。前記所定深さは、例えば5cmとする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】削孔速度が比較的早い場合における孔底の水圧及び深度の測定値を示すグラフである。
【
図2】削孔速度が比較的遅い場合における孔底の水圧及び深度の測定値を示すグラフである。
【
図3】削孔速度が比較的早い場合における孔底の水圧の測定値の所定深度ごとの平均を示すグラフである。
【
図4】削孔速度が比較的遅い場合における孔底の水圧の測定値の所定深度ごとの平均を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、地盤を構成する地層が砂礫・砂質系であるか、又は、シルト・粘土質系であるかを判別するための判別方法を提供する。
【0011】
この判別方法の実施のために、削孔機(図示せず)を用いて水を供給しながら地盤の削孔を行う。
【0012】
前記削孔機として、例えばグラウンドアンカー工法を実施するために用いられているロータリーパーカッション式削孔機を使用することができる。前記ロータリーパーカッション式削孔機は、先端部にビットを有するケーシングと、前記ケーシングの先端に送水管を介して又は介することなしに直接に水を送り、あるいは、前記ケーシングと前記送水管とからなる二重管の先端に水を送る送水ポンプとを備える。前記ケーシングの口径は任意に選択することができる。
【0013】
前記地盤の削孔は、鉛直下方又は斜め下方に向けられた前記ケーシングに回転力及び推進力を与え、先端のビットで地盤を掘り下げることにより行う。前記地盤の掘り下げ速度(削孔速度)は、任意に定めることができる。地盤の掘り下げの間、前記送水ポンプを作動させ、掘り下げ中の孔の底(孔底)に向けて水を供給する。送水圧及び送水量は任意に定めることができる。掘削された土砂は、供給された水と共に前記孔底から前記ケーシングの周囲を上昇し、地上に送られる。
【0014】
削孔の間、前記孔底における前記水の圧力(水圧)の値を所定の時間的間隔をおいて測定する。前記水圧の測定のために、前記送水管又は前記ケーシングに圧力センサが組み込まれている。また、前記水圧の測定時に前記孔底の深度を併せて測定する。前記孔底の深度は、前記地盤中への前記ケーシングの掘り下げ距離(削孔距離)を検出することにより行う。
【0015】
図1及び
図2は、互いに異なる2つの地盤について、それぞれ、早い削孔速度及びこれよりも遅い削孔速度で連続的に掘り下げまた連続的に水を供給し、所定の地点から深度1,500mmの深さまでの削孔を行なったときの前記孔底における前記水圧の測定値及び前記孔底の深度の測定値を示す。前記孔底の水圧及び深度の測定間隔は例えば0.2秒である。前記測定間隔は、0.2~1.0秒の範囲内で任意の値とすることができる。図上、縦軸及び横軸にそれぞれ水圧(MPa)及び深度(mm)を示す。
【0016】
図1を参照すると、2つのグラフ10、12が示されている。これらのグラフ10、12は、前記削孔距離が1,500mmに達するまでの間に、0.2秒ごとに測定された複数の孔底の深度における水圧の測定値を表す。
【0017】
グラフ10は縦軸方向へ伸びまた横軸方向へ列をなす複数の線分からなる。これらの線分の前記縦軸方向における値には振幅が見られるが、最低値及び最高値はほぼ同一(約0.2MPa及び約1.0MPa)である。このことから、前記水の圧力の複数の測定値は全体的に一様に推移するということが言える。これは、前記地盤の掘り下げに伴って掘削土砂が前記ケーシングの先端部に詰まり、このために前記水圧が一旦上昇し(約1.0MPa)、その直後に前記掘削土砂を水が通り抜け、このために前記水圧が急速に低下した(約0.2MPa)ことによると考えられる。
【0018】
このことから、グラフ10は、比較的水を通しやすい性質を有する砂礫・砂質系の地層に係るものであると判定される。なお、グラフ10においては、3つの局所的ピーク値(約3.0MPa)を取る線分14、16、18が存する。また、前記縦線相互間の間隔が均等ではなく、一の深度においては狭くまた他の深度においては広い。これらの現象は、前記地層を構成する主要成分とは異なる非透水性の他の地層成分、夾雑物等の影響を受けて生じたものであると考えられ、軽微なノイズとして処理することができる。
【0019】
他方、グラフ12は全体的に折れ線状を呈して上昇している。グラフ10と異なり、振幅は非常に小さい。これは、前記地盤の掘り下げに伴って掘削土砂が前記ケーシングの先端部内に一時的に詰まるが、水は前記掘削土砂を直ぐにではなく、時間の経過とともに前記土砂を通り抜けるためであると考えられる。このことから、グラフ12は、比較的水を通しにくい性質を有するシルト・粘土質系の地層を示していると判定される。
【0020】
次に
図2を参照すると、
図2には、
図1の2つのグラフ10及びグラフ12にそれぞれ対応する2つのグラフ20及びグラフ22が示されている。
図1に示す両グラフ10、12について述べたところはそれぞれ
図2に示す両グラフ20、22についても同様に当てはまり、両グラフ20、22はそれぞれ砂礫・砂質系の地層及びシルト・粘土質系の地層を示していると判定される。
【0021】
図2においては、グラフ20における前記水圧の最低値及び最高値がそれぞれ0.4MPa及び2.0MPaである。また、局所的ピーク値(約6.0MPa)を取る2つの線分24、26が見られた。さらに、グラフ22は、約3.0~4.7MPa間を折れ曲がって伸びている。これらの圧力の測定値の
図1のグラフ10、12におけるものとの相違は、前記削孔速度の低下に基づいて生じたものと考えられる。
【0022】
前記異なる2つの地盤における地層がそれぞれ前記砂礫・砂質系及びシルト・粘土質系からなるものであるとの判定が妥当であることは、前記2つの地盤についてそれぞれボーリング調査によるサンプリングを行うことによって確認された。
【0023】
前記水圧の測定により行った前記地層の判定が妥当であることは、前記水圧の測定値についての次に述べる処理を行うことによっても確認することができる(
図3及び
図4参照)。前記処理は、地面から最深の孔底(前記した例において1,500mm)まで順次に所定深さ、例えば5cmごとに前記水圧の複数の測定値の平均を求めること、すなわち前記地層の5cmの厚さの各層部分について、前記水圧の複数の測定値の平均を求めることにより行う。
【0024】
図3に示すところでは、前記削孔速度が速い場合及び遅い場合における5cmの深度ごとの前記水圧の複数の測定値の複数の平均が、それぞれ、○及び●で表され、これらの推移がそれぞれ折れ線28、30で表されている。ここにおいて、前記複数の平均はいずれも比較的低い0~1.0MPaの間にあり、かつ、前記推移の変化の程度は比較的小さい。これは、前記各層部分が水を通しやすい性質を有する砂礫・砂質系のものからなり、したがって、複数の層部分からなる前記地層もまた砂礫・砂質系であることを示している。
【0025】
また、
図4に示すところでは、前記削孔速度が速い場合及び遅い場合における5cmの深度ごとの前記水圧の複数の測定値の複数の平均が、それぞれ、□及び■で表され、これらの推移がそれぞれ折れ線32、34で表されている。ここにおいて、前記複数の平均はそれぞれ比較的高い0.2~2.0メガパスカルの間及び2.8~4.8MPa間にあり、かつ、比較的大きい変化と上昇とを伴って推移している。これは、前記各層部分が水を通しにくい性質を有するシルト・粘土質系のものからなり、したがって、複数の層部分からなる前記地層もまたシルト・粘土質系であることを示唆している。
【符号の説明】
【0026】
10、12 グラフ
14,16、18 局所的ピーク値を取る線分
20、22 グラフ
24,26 局所的ピーク値を取る線分
28、30 折れ線
32、34 折れ線