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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】中枢神経腫瘍の処置
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/713 20060101AFI20220520BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220520BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220520BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220520BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220520BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
A61K31/713 ZNA
A61K9/14
A61K48/00
A61K47/36
A61P25/00
A61P35/00
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018526678
(86)(22)【出願日】2016-11-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2016078547
(87)【国際公開番号】W WO2017089392
(87)【国際公開日】2017-06-01
【審査請求日】2019-11-19
(31)【優先権主張番号】1520600.6
(32)【優先日】2015-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】599098493
【氏名又は名称】カトリーケ・ユニフェルシテイト・ルーヴァン
【氏名又は名称原語表記】Katholieke Universiteit Leuven
(73)【特許権者】
【識別番号】510041278
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ リブル ドゥ ブリュッセル
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デ・ブレーシューベル,ステバン
(72)【発明者】
【氏名】ファン・ボエンゼル,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】アミーギ,カリム
(72)【発明者】
【氏名】ウォートズ,ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】ロジエール,レミ
【審査官】中村 浩
(56)【参考文献】
【文献】International Journal of Pharmaceutics,2015年01月30日,Vol.481, No.1-2,p.154-161
【文献】Drug Delivery System, Methods in Molecular Biology,2014, Vol.1141,p.233-247
【文献】Journal of Controlled Release,227(2016),p.71-81
【文献】Journal of Controlled Release,115(2006), 2,p.216-225
【文献】Cancers,2013年,Vol.5,pp.1020-1048,doi:10.3390/cancers5031020
【文献】Biomaterials,2001年,Vol.22,pp.2075-2080
【文献】Biomaterials,2007年,Vol.28,pp.1280-1288,doi:10.1016/j.biomaterials.2006.11.004
【文献】Journal of Controlled Release,2012年,Vol.158,pp.261-268,doi:10.1016/j.jconrel.2011.11.012
【文献】International Journal of Pharmaceutics,2012年,Vol.422,pp.445-453,doi:10.1016/j.ijpharm.2011.10.041
【文献】Journal of Controlled Release,2005年,Vol.106,pp.391-406,doi:10.1016/j.jconrel.2005.05.004
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
siRNAおよび架橋されたキトサンを含むキトサンナノ粒子であって、前記siRNAは前記キトサンナノ粒子に封入され、前記ナノ粒子中の前記キトサン分子が30~60kDaの間のMrを有し、前記ナノ粒子の流体力学的径(z-平均)が100~200nmの間である、キトサンナノ粒子。
【請求項2】
前記ナノ粒子中の前記キトサン分子が45~55kDaの間のMrを有する、請求項1に記載のキトサンナノ粒子。
【請求項3】
前記粒子の多分散性指数が0.15~0.40の間である、請求項1または2に記載のキトサンナノ粒子。
【請求項4】
前記キトサンナノ粒子が鼻腔内送達のために配合されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のキトサンナノ粒子。
【請求項5】
前記siRNAは脳内の遺伝子を標的とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のキトサンナノ粒子。
【請求項6】
前記遺伝子がガレクチン1であり、前記siRNAがガレクチン1を標的とする抗ガレクチン1(抗Gal1) siRNAである、請求項5に記載のキトサンナノ粒子。
【請求項7】
前記抗Gal1 siRNAが核酸配列5’GCUGCCAGAUGGAUACGAA3’(配列番号1)と少なくとも80%の配列同一性を有する核酸配列を含む、請求項6に記載のキトサンナノ粒子。
【請求項8】
前記キトサンナノ粒子が脳疾患の処置のためのものである、請求項1~7のいずれか1項に記載のキトサンナノ粒子。
【請求項9】
前記脳疾患が中枢神経腫瘍である、請求項8に記載のキトサンナノ粒子。
【請求項10】
前記中枢神経腫瘍が多形性膠芽細胞腫である、請求項9に記載のキトサンナノ粒子。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のキトサンナノ粒子と、鼻腔内送達に適した賦形剤とを含む、経鼻送達のための医薬組成物。
【請求項12】
前記siRNAは脳内の遺伝子を標的とするものであり、前記遺伝子がガレクチン1であり、前記siRNAがガレクチン1を標的とする抗ガレクチン1(抗Gal1) siRNAである、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか1項に記載のキトサンナノ粒子の調製のための方法であって、
1)30~60kDaの間の分子量を有するキトサンポリマーを酢酸溶液に溶かすステップと、
2)siRNAを、キトサンポリマーを架橋するのに適した負荷電の化合物の溶液に溶かすステップと、
3)前記siRNAおよび架橋するための前記化合物を含む前記溶液を、撹拌または混合しながらステップ1)のキトサンポリマーの溶液に加えて、前記siRNAを含む懸濁キトサンナノ粒子の形成を得るステップと、
4)濾過、遠心分離、または前記懸濁ナノ粒子を単離するための他の適切な技法を使用して前記キトサンナノ粒子を収集するステップと
を含む、方法。
【請求項14】
前記siRNAが抗Gal1 siRNAである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記siRNAが核酸配列5’GCUGCCAGAUGGAUACGAA3’(配列番号1)と少なくとも80%の配列同一性を有する核酸配列を含む抗Gal1 siRNAである、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
1mgのキトサンあたり30~60μgの間のsiRNAを加える、請求項13~15のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、腫瘍の進行に関与するガレクチン-1の遺伝子サイレンシングのためのsiRNAをカプセル封入しているナノ粒子に関する。本発明はさらに、そのようなナノ粒子の鼻腔内送達による、多形性膠芽細胞腫(GBM)などの神経脳腫瘍の処置に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
ガレクチン-1(Gal-1)は、多形性膠芽細胞腫(GBM)中で過剰発現される、天然に存在するガラクトース結合レクチンである。このレクチンは腫瘍の進行に関連しており、腫瘍微小環境における強力な免疫抑制因子である。
【0003】
GBM中のGal-1を阻害するために、限られた全身作用で、中枢神経系腫瘍に到達する有効な治療が必要とされている。
【0004】
神経膠腫は最も一般的な種類の内因性脳腫瘍であり、年間100,000人あたり5~10人が冒される。膠芽細胞腫(GBM)は星細胞起源の最も頻繁な神経膠腫であり、世界保健機関によってグレード4腫瘍として分類されている[Louis,D.N.ら(2007)、Acta neuropathol.114、97~109(非特許文献1)]。現在の処置様式ではGBM患者を救うことができない。最適な治療レジメンは、最大限の外科的切除、続いて化学療法および放射線療法からなる。この多様式の処置は14.6カ月の全生存中央値をもたらす[Stupp,R.ら(2009)、The lancet oncology 10、459~466(非特許文献2)]。この予後不良により、過去何年にもわたって多くの新規処置が探索されてきた。しかし、臨床的有効性に達したものは非常にわずかである。
【0005】
GBM患者の生存をさらに改善させるための新規手法としての、免疫療法の潜在性が調査されている。免疫療法は、GBMに対する患者自身の免疫系を利用する。再発した悪性神経膠腫患者では、相当数であるがそれでも控えめな人数の長期生存者が報告されており、再手術および樹状細胞ワクチン接種の後に24カ月を超えて生存している[De Vleeschouwer S.(2008)、Clin.Cancer Res.14、3098~3104(非特許文献3);De Vleeschouwer,S.(2012)、Cancer Immunol Immunother.61、2105~2112(非特許文献4)]。新たに診断されたGBM患者では、組み込まれた手術後の放射化学免疫療法手法の場合に18.3カ月の生存期間中央値が報告されており、長期分析データによると患者の42%を超える二年生存率が報告されている。この臨床的実現可能性にもかかわらず、多くの患者の最終的な転帰は免疫療法で変化しないままである。GBM腫瘍は、免疫標的化療法を逃れる性質を有する、非常に強力な免疫回避腫瘍であるという総意が生じている[Weathers S.P.およびGilbert M.R.(2015)、J.Neuro oncol.123、331~337(非特許文献5);Grauer,O.M.ら(2009)、Brain Pathol 19、674~693(非特許文献6)]。
【0006】
現在、この免疫回避腫瘍微小環境を生じる媒介物質が集中的に調査されている。ガレクチン-1(Gal-1)が、GBM中で優先的に上方制御される、天然に存在する強力な免疫抑制分子として同定されている[Le Mercier M.ら(2010)、Brain Pathol 20、17~27(非特許文献7);Toussaint,L.G. 3rdら(2012)、Molecular cancer 11、32(非特許文献8)]。
【0007】
ガレクチン-1は、活性CD8+T細胞においてアポトーシスを誘導することができ、T細胞シグナル伝達を拮抗することができ、炎症誘発性サイトカイン分泌をブロッキングすることができる[Rubinstein,N.ら(2004)、Cancer cell 5、241~251(非特許文献9);Garin,M.I.ら(2007)、Blood 109、2058~2065(非特許文献10)]。GL261ネズミ膠芽細胞腫モデルにおいて、Gal-1の枯渇がDCに基づく免疫療法の有効性を増加させることができることが、以前に実証されている[Verschuere,T.ら(2014)、Int J Cancer.134、873~884(非特許文献11)]。これらのデータから、Gal-1は強力な免疫調節因子である(GBM中で)とみなされている。Gal-1は、GBMの進行の免疫抑制に関与しているだけでなく、いくつかの他の主要な特長もこのレクチンに起因すると考えられている[Camby,I.ら(2006)、Glycobiology 161、37R~157R(非特許文献12)]。Gal-1の上方制御は、GBM細胞の運動性の増加と相関づけられている。アクチン骨格の再編成を介して、Gal-1はGBM細胞に遊走性の表現型を導入することができる。さらに、Gal-1は腫瘍微小環境において血管形成を促進することが証明されている。GBM細胞だけでなく、腫瘍に関連する内皮細胞もGal-1を過剰発現する場合がある。血管内皮成長因子の成熟のモジュレーターとして機能するGal-1は、血管成長を促進することができる。さらに、Gal-1は、GBMにおいて最も一般的に使用されている化学療法剤であるテモゾマイドに対するGBM細胞の化学耐性における媒介物質として見出されている。Gal-1は、テモゾマイド処置下で細胞生存を促進するように小胞体のストレスを調節することができる[Le Mercier,M.ら(2008)、J.Neuropathol.Ex Neurol 67、456~469(非特許文献13);Le Mercier,M.ら(2008)、Toxicol appl.pharm.229、172~183(非特許文献14);Croci,D.O.ら(2014)、Cell 156、744~758(非特許文献15)]。要約すると、Gal-1は多くのGBM促進現象のインターフェースにおける重要な媒介物質であり、したがって標的の理想的な候補である。
【0008】
Gal-1を標的とするために多くの戦略が使用されている。特に、Davanat(登録商標)、OTX-008(Anginex)などの小分子は、様々ながんにおいて有効性が証明されている[Astorgues-Xerri,L.ら(2014)、Eur J Cancer 50、2463~2477(非特許文献16)]。小分子以外では、抗体もGal-1に立ち向かうために設計されている。Gal-1を抑制する際には、Gal-1の細胞内および細胞外画分の両方の標的化と、抑制の特異性という2つの大きな壁にぶつかる。一部のガレクチンは腫瘍退行特性を有し得るため、他のガレクチンとの干渉は依然として議論の余地がある。これらの要件を満たすために、RNA干渉に基づく分子の設計は非常に魅力的な手法である。短い二本鎖の低分子干渉RNA分子(siRNA)をRNA誘導サイレンシング複合体(RISC複合体)内に積載し、Gal-1をコードするmRNAを選択的に破壊することができる[Schutze N.(2004)、Mol.cell endocrinol.213,115~119(非特許文献17)]。いくつかの論文が、GBM細胞においてGal-1を標的とするsiRNAの有効性を既に実証している[Le Mercierら、2008、どちらも上記に引用]。siRNAの有効性が問題となることはほとんどないが、腫瘍部位で臨界濃度に達することは大きな懸念点である。この文献中で言及されている最も魅力的な方法は、脳室内注射を介してGBM腫瘍に到達することであり、浸透圧ミニポンプを用いてsiRNA分子を注入する[Thakker,D.R.ら(2004)、Proc Natl Acad Sci USA 101、17270~17275(非特許文献18)]。臨床設定では、対流を強化させた送達系を、脳腫瘍の状況における脳内注射に使用する[Debinski,W.およびTatter,S.B.(2009)、Exp.Rev.Neurother.9、1519~1527(非特許文献19)]。有望な臨床成績をもっても、この侵襲性技法には合併症が伴う。感染症、出血、創傷治癒の問題、および信頼できない分布容積がしばしば観察される。特に、長期にわたって慢性的に投与する必要がある薬物では、CEDは魅力的でないと考えられる。
【0009】
近年、鼻腔内経路が非侵襲性の代替投与方法を表し得ることの、ますます増えていく一連の証拠が集められている[Illum,L.(2000)、Eur.J.Pharm.Sci.11、1~18(非特許文献20);Mistry,A.ら(2009)、Int J Pharm.379、146~157(非特許文献21)]。鼻腔内輸送は、鼻腔から中枢神経系に向かう直接経路として記載されている。この経路に沿った分子の輸送は、鼻腔の嗅覚器および呼吸器の粘膜上皮を通る、細胞外および経細胞の輸送を含む。嗅糸(filia olfactoria)に沿って嗅球に向かう血管周囲および神経周囲の輸送ならびに三叉神経に沿って脳幹に向かう輸送が最も重要であると考えられるLochhead J.J.およびThorne,R.G.(2012)、Adv.Drug Deliv.Rev.64、614~628(非特許文献22)。そこから、CNS内への迅速な拡大が起こる場合がある。鼻から脳への直接輸送は、自己送達によるより良好な患者コンプライアンス、(多すぎる)全身吸収を回避すること、および血液脳関門(BBB)を避けることなどの多くの利点を有する[Groothuis,D.R.(2000)、Neuro Oncol.2、45~59(非特許文献23)]。この関門は、高い親油性または受容体標的化なしでは越えることができず、たとえば、トランスフェリンおよび排出ポンプの高い発現は通過を回避する。鼻腔内経路の活用が成功すると、GBMおよび他の脳疾患を処置するための多くの治療分子にとって絶好の機会が開ける[Kim,I.D.ら(2012)、Mol.Ther.20、829~839(非特許文献24);Hashizume,R.ら(2008)、Neuro-oncol.10、112~120(非特許文献25)]。文献的概説は、鼻から脳への輸送をさらに強化するための医薬的側面を記載しており[van Woensel,M.ら(2013)、Cancers 5、1020~1048(非特許文献26)]、輸送を改善させ、活性薬物を保護し、それによってCNS中での活性化合物の全体的な生体利用度を増加させる、医薬配合物の設計がコメントされている。この点において、ナノ粒子状の配合物は興味深い新しい多用途のプラットフォームを提供できる可能性がある。鼻から脳への輸送の改善のために、キトサンナノ粒子が迅速に関心を集めている。キトサンは、グリコシド結合を介して連結された、β-(1-4)結合のD-グルコサミンおよびN-アセチル-D-グルコサミン分子である[Bernkop-Schnurch,A.およびDunnhaupt、(2012)、Eur.J.Pharm.Biopharm.81、463~469(非特許文献27)]。生分解性であり、生体適合性であり、緩和な免疫原性であり、わずかな毒性があるポリマーとして、キトサンはヒトにおける将来の医薬的使用に必要な理想的な特徴を提示する。さらに、この賦形剤は粘膜接着および浸透強化特性を有しており、鼻から脳への輸送をさらに強化するための理想的な候補であると考えられる。キトサンは、上皮細胞の間に密着帯を一過的に開けることによって浸透を促進する[Bonferoni,M.C.ら(2009)、Expert Opin.Drug Deliv.6、923~939(非特許文献28);Davis,S.S.およびIllum,L.(2003)、Clin.Pharmacokinet.42、1107~1128(非特許文献29);Soane,R.J.ら(2001)、Int.J.Pharm.217、183~191(非特許文献30)]。キトサンナノ粒子の生成プロセスは広く記載されている。イオン性ゲル化が、製造の容易さおよび有害な試薬の回避が理由で最も有名な方法の1つである。また、キトサンは、そのトランスフェクションの潜在性、特にエンドソーム逃避が理由でサイトゾル中のsiRNA送達についても広く調査されている[Katas,H.およびAlpar,H.O.ら(2006)、J.Control.Release 15、216~225(非特許文献31)]。
【0010】
Danhierら(2015)、Int.J.Pharm.481、154~161(非特許文献32)は、5kDaのMrを有するキトサンから作製した、抗ガレクチン-1および抗EGFR siRNAを積載した脂質-キトサン粒子を開示している。
【0011】
US7964575(特許文献1)は、がんを処置するための抗ガレクチン-1標的化siRNAの使用を開示しており、経鼻吸入を介した送達を記述しており、送達のための粒子に関するさらなる記述はない。
【0012】
Le Mercierら(2008)、J.Neuropathol.Exp.Neurol.67、456~469は、浸透圧ミニポンプを介した脳への抗ガレクチン-1 siRNAの投与を開示している。
【0013】
Le Mercierら(2008)、Toxicol.Appl.Pharmacol.229、172~183は、ガレクチンsiRNAをヒト腫瘍細胞中にトランスフェクションし、続いてこれをマウスに移植することを開示している。
【0014】
Van Woensel(2013)、Cancers 5、1020~1048(非特許文献33)は、鼻腔内送達のための配合物を総説しており、医薬活性化合物を有するキトサンナノ粒子を記述している。
【0015】
US20130337067(特許文献2)は、脳への鼻腔内送達のための小さなMr(7~10kDa)を有するナノ粒子および腹腔内送達のためのより大きなMr(50~190kDa)を有するナノ粒子を開示している。
【0016】
US20110033547(特許文献3)は様々な種類のキトサン粒子を開示しており、具体的な施用経路の指導はない。
【0017】
Malhotra(2013)、J.Pharmacol.2013、論文812387(非特許文献34)は、鼻腔内送達のための、10kDaのキトサンを有するキトサン粒子を開示している。
【0018】
Malhotra、2013は、同様に、20kDaのMrを有するキトサンから作製した5~10nmのキトサン粒子を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】US7964575
【文献】US20130337067
【非特許文献】
【0020】
【文献】Louis,D.N.ら(2007)、Acta neuropathol.114、97~109
【文献】Stupp,R.ら(2009)、The lancet oncology 10、459~466
【文献】De Vleeschouwer S.(2008)、Clin.Cancer Res.14、3098~3104
【文献】De Vleeschouwer,S.(2012)、Cancer Immunol Immunother.61、2105~2112
【文献】Weathers S.P.およびGilbert M.R.(2015)、J.Neuro oncol.123、331~337
【文献】Grauer,O.M.ら(2009)、Brain Pathol 19、674~693
【文献】Le Mercier M.ら(2010)、Brain Pathol 20、17~27
【文献】Toussaint,L.G. 3rdら(2012)、Molecular cancer 11、32
【文献】Rubinstein,N.ら(2004)、Cancer cell 5、241~251
【文献】Garin,M.I.ら(2007)、Blood 109、2058~2065
【文献】Verschuere,T.ら(2014)、Int J Cancer.134、873~884
【文献】Camby,I.ら(2006)、Glycobiology 161、37R~157R
【文献】Le Mercier,M.ら(2008)、J.Neuropathol.Ex Neurol 67、456~469
【文献】Le Mercier,M.ら(2008)、Toxicol appl.pharm.229、172~183
【文献】Croci,D.O.ら(2014)、Cell 156、744~758
【文献】Astorgues-Xerri,L.ら(2014)、Eur J Cancer 50、2463~2477
【文献】Schutze N.(2004)、Mol.cell endocrinol.213,115~119
【文献】Thakker,D.R.ら(2004)、Proc Natl Acad Sci USA 101、17270~17275
【文献】Debinski,W.およびTatter,S.B.(2009)、Exp.Rev.Neurother.9、1519~1527
【文献】Illum,L.(2000)、Eur.J.Pharm.Sci.11、1~18
【文献】Mistry,A.ら(2009)、Int J Pharm.379、146~157
【文献】Lochhead J.J.およびThorne,R.G.(2012)、Adv.Drug Deliv.Rev.64、614~628
【文献】Groothuis,D.R.(2000)、Neuro Oncol.2、45~59
【文献】Kim,I.D.ら(2012)、Mol.Ther.20、829~839
【文献】Hashizume,R.ら(2008)、Neuro-oncol.10、112~120
【文献】van Woensel,M.ら(2013)、Cancers 5、1020~1048
【文献】Bernkop-Schnurch,A.およびDunnhaupt、(2012)、Eur.J.Pharm.Biopharm.81、463~469
【文献】Bonferoni,M.C.ら(2009)、Expert Opin.Drug Deliv.6、923~939
【文献】Davis,S.S.およびIllum,L.(2003)、Clin.Pharmacokinet.42、1107~1128
【文献】Soane,R.J.ら(2001)、Int.J.Pharm.217、183~191
【文献】Katas,H.およびAlpar,H.O.ら(2006)、J.Control.Release 15、216~225
【文献】Danhierら(2015)、Int.J.Pharm.481、154~161
【文献】Van Woensel(2013)、Cancers 5、1020~1048
【文献】Malhotra(2013)、J.Pharmacol.2013、論文812387
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
発明の概要
本発明は、腫瘍の進行に関与するガレクチン-1の遺伝子サイレンシングのためのRNAi技術を使用するためのsiRNAをカプセル封入しているナノ粒子を含有する新しい配合物に関する。より詳細には、本発明は、抗ガレクチン1 siRNA分子をカプセル封入しているキトサンナノ粒子に関し、前記ナノ粒子は、鼻腔内投与の後に前記siRNA分子を脳へ送達するのに適している。本発明によるナノ粒子は、特に脳腫瘍の処置、より詳細には中枢神経腫瘍、特に多形性膠芽細胞腫(GBM)を処置するのに適する。
【0022】
本発明の一態様は、多形性膠芽細胞腫などの中枢神経腫瘍の処置において使用するための、ガレクチン1を標的とするsiRNA(抗Gal1 siRNA)を含むキトサンナノ粒子に関し、ナノ粒子は鼻腔内送達を介して投与し、ナノ粒子中のキトサン分子は、30~200kDaの間、30~100kDaの間、30~60kDaの間、45~55kDaの間のMrを有する。
【0023】
典型的には、分子はトリポリリン酸ナトリウムを介して架橋されている。
一般に、抗Gal1 siRNAは、核酸配列5’GCUGCCAGAUGGAUACGAA3’(配列番号1)と少なくとも80%の配列同一性を有する核酸配列を含む。
【0024】
典型的な実施形態では、粒子の流体力学的径(z-平均)は100~200nmの間である。
【0025】
典型的な実施形態では、粒子の多分散性指数は0.15~0.40である。
典型的な実施形態では、キトサン分子の少なくとも一部が、1つもしくは複数のポリ-エチレングリコール単位、または1つもしくは複数のガラクトース単位を保有している。
【0026】
ナノ粒子は、スクロースまたはトレハロースなどの凍結乾燥保護剤をさらに含むことができる。
【0027】
本発明の別の態様は、患者における中枢神経腫瘍の処置のための方法であって、患者に、鼻腔内送達を介して、ガレクチン1を標的とするsiRNA化合物(抗Gal1 siRNA)を含むキトサンナノ粒子を有効(affective)量で投与するステップを含み、ナノ粒子中のキトサン分子が30~200kDaの間のMrを有する、方法に関する。
【0028】
第2の医薬的使用クレームについて上述した実施形態が、これらの処置方法に同様に適用可能である。
【0029】
本発明の別の態様は、ガレクチン1を標的とするsiRNA化合物(抗Gal1 siRNA)を含むキトサンナノ粒子と、鼻腔内送達に適した賦形剤とを含み、ナノ粒子中のキトサン分子が30~200kDaの間のMrを有する、経鼻送達のための医薬組成物に関する。
【0030】
第2の医薬的使用クレームについて上述した実施形態が、これらの医薬組成物に同様に適用可能である。
【0031】
本発明の別の態様は、上記医薬組成物を含む鼻腔内送達系に関する。
本発明の別の態様は、キトサンナノ粒子の調製のための方法に関する。これらの方法は、
1)30~200kDaの間の分子量を有するキトサンポリマーを酢酸溶液に溶かすステップと、
2)抗Gal1 siRNAを、キトサンポリマーを架橋するのに適した負荷電の化合物の溶液に溶かすステップと、
3)抗Gal1 siRNAおよび架橋するための化合物を含む溶液を、合わせた溶液を撹拌または混合しながらステップ1)のキトサンポリマーの溶液に加えて、抗Gal1 siRNAを含む懸濁キトサンナノ粒子の形成を得るステップと、
4)濾過、遠心分離、または懸濁ナノ粒子を単離するための他の適切な技法を使用してキトサンナノ粒子を収集するステップと
を含む。
【0032】
本明細書中において、抗Gal1 siRNAは、典型的には、核酸配列5’GCUGCCAGAUGGAUACGAA3’(配列番号1)と少なくとも80%の配列同一性を有する核酸配列を含む。
【0033】
キトサンポリマーは30~60kDaの間または45~55kDaの間の分子量を有する。
【0034】
典型的には、キトサンポリマーの脱アセチル化の度合は少なくとも70%である。
一般に、1mgのキトサンあたり30~60μgの間の抗Gal1 siRNAを加える。
【0035】
架橋化合物は、典型的にはトリポリリン酸ナトリウムである。
典型的には、キトサン対トリポリリン酸ナトリウムの重量比は2.5~3.0の間である。
【0036】
具体的な実施形態では、ステップ4)で収集したキトサンナノ粒子を凍結乾燥保護剤と合わせ、続いて凍結乾燥させる。凍結乾燥保護剤の例はスクロースまたはトレハロースである。
【0037】
本研究では、本発明者らは、最大限に濃縮されたキトサンナノ粒子が、どのようにsiRNA分子を鼻腔内投与の数時間以内に中枢神経系内に送達することができるかを初めて報告する。これらのナノ粒子は、Gal-1を標的とするsiRNAを高い百分率でカプセル封入することができ、これらを分解から保護する。さらに、抗Gal-1 siRNAの送達の成功は、ネズミおよびヒトGBM細胞のどちらにおいてもGal-1の発現の減少をもたらす。本発明は、鼻腔内経路が、GBMの処置においてGal-1標的化siRNA療法を送達するための有効な輸送経路であることを示す。
【0038】
本発明の目的は、Gal-1標的化に特異的なsiRNAをカプセル封入し、保護するキトサンナノ粒子を、鼻腔内投与の後に脳へと提供することである。本発明者らは、ネズミおよびヒトのGBM細胞系統におけるそのトランスフェクションの潜在性を検査した。さらに、本発明者らは、配合物が上皮層上の密着帯を開くことの評価を行った。また、本発明者らは、鼻腔内点滴注入後の中枢神経系における、フルオロフォアをタグ付けしたsiRNA-配合物の迅速な発生も調査し、嗅球および後脳に優先的な分布があり、これは嗅覚経路および三叉神経経路を介した部分的輸送を示唆している。
【課題を解決するための手段】
【0039】
本発明は以下を開示する。
1.中枢神経腫瘍、特に、多形性膠芽細胞腫の処置における使用のための、ガレクチン1を標的とするsiRNA化合物(抗Gal1 siRNA)を含むキトサンナノ粒子。
2.前記抗Gal1 siRNAが、核酸配列5’GCUGCCAGAUGGAUACGAA3’[配列番号1]と少なくとも70%の配列同一性を有する核酸配列を含む、記述1に記載のキトサンナノ粒子。好ましくは、前記抗Gal1 siRNAは、核酸配列5’GCUGCCAGAUGGAUACGAA3’[配列番号1]と少なくとも80%、たとえば、少なくとも85%、90%、または95%の配列同一性を有する核酸配列を有する。
3.前記粒子の流体力学的径(z-平均)が100~300nmの間、好ましくは100~200nmの間で変動する、記述1または2に記載のキトサンナノ粒子。
4.前記粒子の多分散性指数が0.15~0.40の間で変動する、記述1から3に記載のキトサンナノ粒子。
5.キトサン分子の少なくとも一部が1つまたは複数のポリ-エチレングリコール単位を保有している、記述1から4に記載のキトサンナノ粒子。
6.キトサン分子の少なくとも一部が1つまたは複数のガラクトース単位を保有している、記述1から4に記載のキトサンナノ粒子。
7.凍結乾燥保護剤をさらに含む、記述1から6に記載のキトサンナノ粒子を含む医薬調製物。
8.前記凍結乾燥保護剤がスクロースであり、キトサンナノ粒子対スクロースの比が、典型的には1/2~1/16の間または1/4~1/12の間で変動し、たとえば約1/8である、記述7に記載の医薬調製物。
9.前記凍結乾燥保護剤がトレハロースであり、キトサンナノ粒子対スクロースの比が、典型的には1/8~1/28の間または1/10~1/20の間で変動し、たとえば約1/14である、記述7に記載の医薬調製物。
10.その経鼻投与に適した賦形剤を含む、記述8または9に記載の医薬調製物。
11.記述1から6のうちのいずれかに記載のキトサンナノ粒子を含む鼻腔内送達系。
12.記述1から6に記載のキトサンナノ粒子の調製のための方法であって、
i.30~200kDaの間の分子量を有するキトサンポリマーを酢酸溶液に溶かすステップと、
ii.抗Gal1 siRNAを、キトサンポリマーを架橋するのに適した負荷電の化合物の溶液に溶かすステップと、
iii.抗Gal1 siRNAおよびキトサン架橋化合物を含む溶液を、前記合わせた溶液を撹拌または混合しながらステップ(i)のキトサン溶液に加えて、懸濁抗Gal1 siRNA含有キトサンナノ粒子の形成を得るステップと、
iv.濾過、遠心分離、または懸濁ナノ粒子を単離するための他の適切な技法を使用して、前記抗Gal1 siRNA含有キトサンナノ粒子を収集するステップと
を含む、方法。
13.前記キトサンポリマーが30~60kDaの間の分子量を有する、記述12に記載の方法。
14.前記キトサンポリマーの脱アセチル化の度合が少なくとも70%である、記述12または13に記載の方法。
15.1mgのキトサンあたり30~60μgの間の抗Gal1 siRNAを加える、記述12から14に記載の方法。
16.前記キトサン架橋化合物がトリポリリン酸ナトリウムである、記述12から15に記載の方法。
17.キトサン対トリポリリン酸ナトリウムの重量比が2.5~3.0の間である、記述16に記載の方法。
18.ステップ(iv)で収集したキトサンナノ粒子を凍結乾燥保護剤と合わせ、続いて凍結乾燥させる、記述12から17に記載の方法。
19.前記凍結乾燥保護剤がスクロースである、記述18に記載の方法。
20.前記凍結乾燥保護剤がトレハロースである、記述18に記載の方法。
【0040】
経鼻送達において使用するためのナノ粒子は、一方ではsiRNAを分解から遮蔽するために十分大きいべきであり、他方では、鼻腔から脳へと容易に輸送され、その薬物積載を十分に素早く粒子から放出するために十分小さいべきである。小さなナノ粒子を低いMrのキトサンで使用する、経鼻薬物送達のためのナノ粒子に関する現在の見解に反して、本発明の実施例は、より大きなキトサンMrの粒子もやはり効率的であることを例示しており、これは、粒子が標的部位に到達し、RNAse分解に耐えられ、siRNAが十分に素早く放出されることを示している。
【0041】
その結果、本発明において開示する粒子は、脳中の他の標的遺伝子に対するsiRNAにも同様に使用することができる。さらに、実施例において記載する腫瘍マウスモデルは、キトサンナノ粒子の物理的パラメータをさらに最適化するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1A】20kDaまたは50kDaのキトサンを使用して調製した抗Gal-1を積載したナノ粒子の存在下で培養した細胞におけるGal-1発現を示す図である。(A)それぞれ、20kDaおよび50kDaのキトサンを用いて生成したGal-1 siRNAを積載したナノ粒子を使用したトランスフェクションの4日後および7日後の、GL261細胞の細胞溶解液におけるGal-1のウエスタンブロット分析の写真である。
図1B】20kDaまたは50kDaのキトサンを使用して調製した抗Gal-1を積載したナノ粒子の存在下で培養した細胞におけるGal-1発現を示す図である。(B)この実験を3回繰り返し、ImageJ分析によって定量した。
図2】50kDaのMWを有するキトサン分子を含むキトサンナノ粒子における、積載能力およびRNaseからの保護を示す図である。siRNAは非常に高い百分率まで取り込まれ、遊離siRNAの遊走は目視確認されなかった。さらに、siRNAは、様々な共インキュベーション時間(3時間、2時間、1時間、および0.5時間)の間、RNaseから保護されていた。遊離siRNAは迅速に分解された。CS NP:キトサンナノ粒子、SDS:ドデシル硫酸ナトリウム。
図3A】キトサンナノ粒子とGBM細胞の相互作用を示す図である。ネズミ(A、B、およびC)またはヒトの膠芽細胞腫細胞系統(D、E、F)の分析。ナノ粒子とインキュベーションした2時間後の、GL261(A)細胞およびヒト初代GBM培養物(D)の免疫蛍光写真を示し(グレースケールで表す)、背景はそれぞれ明視野またはDAPIである。これらの写真は、細胞上への配合物の迅速な付着を示している。
図3B】キトサンナノ粒子とGBM細胞の相互作用を示す図である。ネズミ(A、B、およびC)またはヒトの膠芽細胞腫細胞系統(D、E、F)の分析。(B)GL261で処置した細胞に対する相対的Gal-1/GAPDH mRNA分析により、Gal-1の有意な低下が明らかとなっている(黒バー:siRNAあり、白バー:siRNAなし、平均およびSDとして表す、二元anova)。
図3C】キトサンナノ粒子とGBM細胞の相互作用を示す図である。ネズミ(A、B、およびC)またはヒトの膠芽細胞腫細胞系統(D、E、F)の分析。(C)処置したGL261細胞のトランスフェクション後4日目および7日目でのウエスタンブロットにより、Gal-1の低下がタンパク質レベルで確認される。
図3D】キトサンナノ粒子とGBM細胞の相互作用を示す図である。ネズミ(A、B、およびC)またはヒトの膠芽細胞腫細胞系統(D、E、F)の分析。ナノ粒子とインキュベーションした2時間後の、GL261(A)細胞およびヒト初代GBM培養物(D)の免疫蛍光写真を示し(グレースケールで表す)、背景はそれぞれ明視野またはDAPIである。これらの写真は、細胞上への配合物の迅速な付着を示している。
図3E】キトサンナノ粒子とGBM細胞の相互作用を示す図である。ネズミ(A、B、およびC)またはヒトの膠芽細胞腫細胞系統(D、E、F)の分析。(E)トランスフェクション後4日目および7日目での6つの独立した初代ヒトGBM培養物の定量により、Gal-1の有意な低下が示される(n=6、対応のあるt-検定、片側)。
図3F】キトサンナノ粒子とGBM細胞の相互作用を示す図である。ネズミ(A、B、およびC)またはヒトの膠芽細胞腫細胞系統(D、E、F)の分析。(F)トランスフェクション後4日目および7日目でのヒト初代GBMのブロットのうちの1つの例である。*p<0.05および**p<0.01。
図4】GL261細胞における遊走分析の引っかき創傷アッセイを示す図である。引っかきを導入した48時間後の引っかき面積の定量により、Gal-1が低下したGL261細胞は、引っかき内への遊走が弱いことが示される(n=12、平均+SEMとして表す、ボンフェローニ多重比較検定を用いた一元anova、時間=0からの%として計算)*p<0.05。
図5A】キトサンナノ粒子と上皮細胞の相互作用を示す図である。(A)Calu-3単層の免疫蛍光写真のグレースケールでの表示であり、核:グレースケールでの表示内のグレーの点として同定可能(元の色:青色)、チューブリン:グレースケールでは目視確認できない(元の色:黄色)、ナノ粒子:グレースケールでの表示内の明るい点/領域として同定可能(元の色:緑色)であり、インキュベーションの2時間後に迅速な付着を示している。
図5B】キトサンナノ粒子と上皮細胞の相互作用を示す図である。(B)キトサンナノ粒子とのインキュベーションの2時間後でのTEER測定を示し、耐性の有意な一過性の減少を示しており、時間=0でのベースラインTEERについて補正されている。(n=9、平均+SDとして表す、ダン多重比較検定を用いた一元ANOVA)。
図5C】キトサンナノ粒子と上皮細胞の相互作用を示す図である。(C)Calu-3単層を通るFD4の通過を示し、経時的な%流動の増加として表し、キトサンナノ粒子の施用後にFD4の通過の増加を示唆している(n=6、平均+SEMとして表す)。
図5D】キトサンナノ粒子と上皮細胞の相互作用を示す図である。(D)ZO-1の局在化のための免疫蛍光写真を示し、インキュベーションの2時間後に密着帯の一過性の撹乱を示唆している(画像は、ZO1染色に対応する緑色チャネルのグレースケールを表す)。**p<0.01。
図6A】腫瘍微小環境における分布/局所指向性の蛍光顕微鏡観察を示す図である。(A)フルオレセインで標識したsiRNAを積載したナノ粒子の最後の投与の4時間後での、処置したマウスのBFP-GL261腫瘍の腫瘍中心の共焦点写真を示す。個々の色チャネルを上部に示す。この写真は、一部の血管に関連している、全身循環による分布を示唆している。
図6B】腫瘍微小環境における分布/局所指向性の蛍光顕微鏡観察を示す図である。(B)フルオレセインで標識したsiRNAを積載したナノ粒子の最後の投与の4時間後での、処置したマウスのBFP-GL261腫瘍の腫瘍境界の共焦点写真を示す。個々の色チャネルを上部に示す。この写真は、腫瘍環境における局所的濃縮を示唆している。
図7A】Gal-1の特異的ノックダウンを示す図である。(A)抗Gal-1療法で処置した、または未処置のマウスのウエスタンブロットを示す。ブロットを、Gal-1および追加の腫瘍関連タンパク質としてGal-3について行った。
図7B】Gal-1の特異的ノックダウンを示す図である。(B)ImageJ強度計算によるウエスタンブロットの定量を示す。この分析により、処置したマウスにおけるGal-1およびより低い程度でGal-3の特異的ノックダウンが明らかとなっている。(対応のない片側t-検定、n=10/群、**p<0.01、***p<0.001、2つの独立した実験に属するブロットを示す)。
図8】Gal-1の相対的ノックダウンを示す図である。(A)抗Gal-1療法で処置した、または未処置のマウスのRT-qPCR分析。この分析により、処置したマウスにおけるGal-1のノックダウンの示唆が明らかとなっている。(対応のない片側t検定、n=10/群、p=0.14)
図9】GL261腫瘍接種後の生存分析を示す図である。マウスに0.5×10個のGL261ネズミ腫瘍細胞を頭蓋内注射した。続いて、マウスを未処置のままにした、または腫瘍接種後5日目、8日目、12日目、および15日目に、抗Gal-1 siRNAを積載したキトサンナノ粒子で処置した。Gal-1の低下は、処置したマウスの生存を有意に増加させた(n=15/群、ログランク検定、**p<0.01)。
図10】免疫蛍光によるGal-1のノックダウンの確認を示す図である。(A)4匹の抗Gal-1 siRNAマウス対5匹の未処置のコントロールマウスの定量を示す。(マン-ホイットニー検定、*p<0.05)、(B)それぞれ処置したマウスおよび未処置のマウスの腫瘍領域の代表的な免疫蛍光の例示のグレースケール写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
定義
本発明の状況内において、「キトサン」は、グリコシド結合を介して連結された、β-(1-4)結合のD-グルコサミンおよびN-アセチル-D-グルコサミン分子である。本発明の状況において、キトサンはイオン性ゲル化によって調製する。前記ナノ粒子の調製において出発物質として使用するキトサン分子は、30~200kDaの間、または30~100kDaの間、たとえば30~60kDaの間、または45~55Kdaの間(たとえば50kDa)の分子量を有する。
【0044】
本発明の状況内において、「キトサンナノ粒子」とは、たとえばリポリリン酸ナトリウム(TPP)などの適切な架橋分子を使用したイオン性ゲル化によって調製したナノ粒子をいう。キトサンナノ粒子を使用して抗Gal1 siRNA分子をカプセル封入する。siRNA分子のカプセル封入は、たとえば、ナノ粒子形成前のsiRNAおよびTPPのプレインキュベーションによって得ることができる。本発明によるナノ粒子は、典型的には100~300nmの間または100~200nmの間の流体力学的径を有する。さらに、ナノ粒子のサイズ分布の測度である多分散指数は、典型的には0.15~0.40の間、より好ましくは0.2~0.30の間で変動する。
【0045】
キトサン粒子は「未修飾の」粒子であり得、またはたとえばPEGもしくはガラクトースでさらに修飾することができる。
【0046】
本発明の状況内において、「抗Gal1 siRNA」とは、ガレクチン-1の翻訳をサイレンシングするsiRNA構築物をいう(2014年5月16日に最後に修正されたuniprot登録事項P09382を参照。)抗Gal1 siRNA構築物は、核酸配列5’GCUGCCAGAUGGAUACGAA3’[配列番号1]と少なくとも70%、85%、90%、95%、配列同一性を有する核酸配列を有する(たとえば、ヌクレオチド配列中に3、2、または1個の相違)。
【0047】
本発明の実施例中に例示するように、1つの遺伝子に対して1つのsiRNAが使用されている。ガレクチン-1に対して異なるsiRNAを使用できることが予想され、さらに、中枢神経腫瘍に関与する別の遺伝子に対する1つまたは複数のsiRNAを使用することができる。
【0048】
本発明の状況内において、用語「中枢神経腫瘍」とは、Acta Neuropathologica、2007年8月、114(2)、97~109に記載されているようにWHOによって分類された腫瘍のうちの任意のものをいう。本発明は特に、星細胞腫瘍などの神経上皮組織の腫瘍、より詳細には多形性膠芽細胞腫などの膠芽細胞腫瘍に関する。
【0049】
「多分散指数」、すなわち[D]は、分子質量[DM]または重合度合[DX]のどちらかをいうことができる。これは、方程式DM=Mw/Mn(式中、Mwは重量平均モル質量であり、Mnは数平均モル質量である)を使用して計算することができる。また、これは重合度合によっても計算することができ、ここで、DX=Xw/Xn(式中、Xwは重量平均重合度合であり、Xnは数平均重合度合である)。
【0050】
粒子のサイズ分布はそのような粒子の流体力学的径によって記載され、ここで、記述「x nm~y nmの間」とは、集団内で粒子の少なくとも60、75、80、90、または95%がその範囲内の流体力学的径を有することを示す。
【0051】
本発明の状況における「処置」とは、患者の健康の改善の指標となる任意のパラメータに関する。本発明の状況において、これは、処置後の生存率、腫瘍組織の大きさまたは質量の部分的または全体的な低下、患者の愁訴(発作、嘔気、嘔吐、頭痛、記憶喪失、半身麻痺、進行性記憶欠損、性格の変化、または神経学的欠損等)の減少などのパラメータに関する。
【0052】
「鼻腔内送達のための賦形剤」は、たとえばUS2013/0337067に記載されており、医薬的に許容される希釈剤、保存料、可溶化剤、乳化剤、アジュバント、および/または担体が含まれる。そのような組成物は、液体または凍結乾燥もしくは他の様式で乾燥させた配合物であり、様々な緩衝液内容物(たとえば、トリス-HCl、酢酸塩、リン酸塩)、pHおよびイオン強度の希釈剤、表面への吸収を防止するためのアルブミンまたはゼラチンなどの添加剤、ならびに界面活性剤(たとえば、Tween20(商標)、Tween80(商標)、Pluronic F68(商標)、胆汁酸塩)が含まれる。医薬組成物は、医薬的に許容される可溶化剤(たとえば、グリセロール、ポリエチレングリコール)、抗酸化剤(たとえば、アスコルビン酸、メタ亜硫酸水素ナトリウム)、保存料(たとえば、チメロサール、ベンジルアルコール、パラベン)、増量剤物質、または等張性改質剤(たとえば、ラクトース、マンニトール)を含むことができる。
【0053】
「鼻腔内送達」とは、鼻腔から脳への、嗅覚器および呼吸器の粘膜上皮を通る、細胞外および経細胞の輸送をいう。この生理的プロセスは、上記に引用したVan Woenselら(2013)に詳述されている。鼻腔内送達のための装置は市販されており、Vianase(Kurve Technologies、米国)、DirectHaler(デンマーク)、またはOptiMist(ノルウェー)の商品名の下で知られている。
【0054】
siRNA(低分子干渉RNA)とは、標的遺伝子のmRNAと結合する、遺伝子ノックダウンのための短いRNA分子をいう。これらは典型的には20~24個の間のヌクレオチドであり、一本鎖分子として投与することができるが、体内で一本鎖分子へと処理されるより長い二本鎖分子(たとえばヘアピンRNA)としても投与することができる。
【実施例
【0055】
材料および方法
20℃で1%の酢酸中1%で10mPasの粘度と測定された、50kDaの明確に定義された分子量のキトサン(Heppe Medical chitosan、ドイツ)を入手した。脱アセチル化の度合は85.2%に達した。トリポリリン酸ナトリウム(TPP)、スクロース、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、およびFITC-デキストラン(FD4)をSigma-Aldrichから購入した(238503、S 9378、71727、46944、米国St.Louis)。抗Gal-1(ヒト:5’GCUGCCAGAUGGAUACGAAdTdT3’[配列番号2]、マウス:5’ACCUGUGCCUACACUUCAAdTdT3’[配列番号3]、およびスクランブルsiRNA(5’GGAAAUCCCCCAACAGUGAdTdT3’[配列番号4]をGE Dharmaconから購入し、必要な場合はフルオレセインまたは5’-色素547で標識した(custom design、米国Lafayette)。
【0056】
メチルコラントレンで誘導したネズミC57BL/6Jの同系のGL261神経膠腫細胞はエルランゲン大学(University of Erlangen)、ドイツ)のユーポグル(Eyupoglu)博士から提供を受け、Maes,W.ら(2013)、Clin.&Dev.l Immunol.、2013、記事ID952469に記載のように培養した。
【0057】
一部の実験では、青色蛍光タンパク質(BFP)を発現するGL261細胞を使用した。レンチウイルスのトランスダクションによってBFP産生を挿入した。
【0058】
初代膠芽細胞腫培養物を、インフォームドコンセントの後に患者からの切除検体から得た。手短に述べると、コラゲナーゼDおよびDNaseと共に37℃で30分間インキュベーションすることによって、腫瘍検体を解離させた。続いて、単核細胞をFicoll勾配で単離し(Lymphoprep、AxisShield、ノルウェー)、細胞を20%のFCS条件下でRPMI培地に播種した。Calu-3細胞系統をアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)、ATCC HTB-55から購入し、Vllasaliu,D.ら(2010)、Int.J.Pharm.400、183~193に記載のものと同じ条件下で培養した。
【0059】
8~10週齢の雌のC57BL/6JマウスをHarlan(オランダHorst)から購入した。マウスを慣用の無菌条件下で維持した。すべての実験は、国際指針に従うルーヴェンカトリック大学(KU Leuven)の生命倫理委員会によって認可されていた。
【0060】
ナノ粒子の調製。ナノ粒子をイオン性ゲル化によって得た。キトサンポリマーを0.1Mの酢酸バッファ(pH4.5)に溶かすことによって正に帯電させた。キトサンポリマーを相互接続させるための架橋剤としてTPPを選択した。TPPおよびsiRNAのリン酸基がどちらも負電荷であるため、キトサンナノ粒子が自発的に形成された[KatasおよびAlpar、上記に引用]。一定の撹拌下でTPP(1mg/ml)をキトサン(0.7mg/ml)に加え、キトサン対TPPの重量比は2.625/1であった。ナノ粒子形成前のsiRNAおよびTPPのプレインキュベーションによってsiRNA分子のカプセル封入が達成され、1mlのナノ粒子あたりのsiRNAの総量は24μgであった。ナノ粒子を30分間、室温で撹拌した。続いて、40000×g、20分間の超遠心分離によって粒子を収集した。ペレットを0.075Mの酢酸バッファ(pH4.5)に溶かし、上清を2回、再度遠心分離した。3つのペレットをプールし、スクロースを凍結乾燥保護剤として用いて、ナノ粒子/凍結乾燥保護剤の重量比を1/8で凍結乾燥させた。
【0061】
ナノ粒子の特徴づけ:大きさ、電荷、および安定性。ナノサイズの配合物の流体力学的径(Z-平均)、多分散指数(PDI)、およびゼータ電位は、Zetasizer nano ZS(Malvern Instruments、英国)を使用して、動的レーザー散乱およびレーザードップラー電気泳動によって測定した。測定は、0.075Mの酢酸バッファ(pH4.5)での1:10希釈の後に、37℃、3連で行った。ナノ粒子の安定性は、4℃のデシケーター中での保存によって評価した。
【0062】
ナノ粒子の特徴づけ:siRNAカプセル封入効率。siRNAカプセル封入の百分率はSYBRグリーンアッセイを使用して決定した[Pardridge,W.M.(2007)、Drug Discov Today 12、54~61]。この選択的色素は、siRNA分子のヘリックス内に結合された場合にのみ蛍光を発することができる。粒子を調製し、30分間撹拌した。続いて、粒子をSYBRグリーンと共に30分間インキュベートした。遊離siRNAを使用して検量線を調製し、黒色96ウェルプレート(Nunc)中、480nm(励起)および520nm(発光)で、蛍光プレートリーダーによって検出した。陽性のコントロールとして、イオン性複合体形成を破壊するために0.1%のSDSを加えた。並行して、蛍光性の未結合のsiRNAを測定することによって、遠心分離後の上清中の遊離siRNAの百分率も評価した。
【0063】
ナノ粒子の特徴づけ:siRNA分解に対する保護。リボヌクレアーゼ(RNase)によるsiRNA分解の保護をゲル遅延アッセイによって評価した。手短に述べると、キトサンナノ粒子を0.07%の組換えRNaseA(12019-021、Life Technologies)と共に37℃でインキュベートした。次に、粒子を、トリス/ホウ酸/EDTAバッファ(10×Ultrapure TBE、Life Technologies)を用いて調製した4%のアガロースゲルに載せた。可視化をより良好にするため、粒子をゲルに載せる前に0.1%のSDSによって解離させた。また、等量の遊離siRNAもRNaseAと共にインキュベートし、ゲルに載せた。55Vを2時間かけることによってsiRNAの遊走を強制した。ゲルを臭化エチジウムで30分間染色することによって可視化が達成された。
【0064】
神経膠腫細胞との相互作用。ネズミGL261神経膠腫細胞およびヒト初代培養膠芽細胞腫の細胞をどちらもガラス製カバーガラス上で成長させた。次に、フルオレセインをタグ付けしたsiRNAを積載させた粒子を、細胞と共にインキュベートした。定期的な時間間隔でガラス製カバーガラスを洗浄し、4%のパラホルムアルデヒドで10分間固定した。ヒト初代培養の場合は、その核を4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール二塩酸塩(DAPI、sigma)で染色した追加の免疫蛍光染色を行った。
【0065】
トランスフェクションアッセイ。GL261細胞およびヒト初代膠芽細胞腫の細胞を、完全コンフルエンスの最大60%の密度まで培養した。キトサンナノ粒子を、無血清培養条件下で、終夜、20nMの最終siRNA濃度まで加えた。細胞をPBSで広範囲に洗浄し、血清条件培地に戻した。この細胞集団から、膠芽細胞腫の細胞を播種して、通し時間でトランスフェクションの効率を評価した。
【0066】
トランフェクションアッセイ:mRNA。処置した細胞をトランスフェクション後の様々な日数で収集し、RNAを単離し(Miniprep、Qiagen)、分光光度計(Nanodrop、Thermo scientific)によって品質管理した。続いて、逆ポリメラーゼ反応(Superscript II、Invitrogen)によってcDNA鋳型を作製し、これらの試料でリアルタイム定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)を行った。以下のプライマー対を使用して、ガレクチン-1およびハウスキーピング遺伝子としてのGAPDHを検出した(表1)。未処置の細胞中のGal-1/GAPDHの比を100%のベースラインとして使用した。
【0067】
【表1】
【0068】
トランスフェクションアッセイ:タンパク質。処置した細胞をトランスフェクション後の様々な日数で収集し、タンパク質を単離した(組織タンパク質抽出試薬(Tissue Protein Extraction Reagent)、Life Technologies)。タンパク質濃度を比色アッセイ(BCAキット、Life Technologies)によって決定した。等量の全タンパク質をドデシル硫酸ナトリウム/ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、二フッ化ポリビニリデン膜に移した。膜を一次抗体であるウサギ抗ガレクチン-1(1:1000、Peprotech、カナダQuebec)と共に終夜インキュベートした。タンパク質積載コントロールとして、すべてのブロットをウサギ抗β-アクチン(1:5000、Abcam)で染色した。使用した二次抗体はペルオキシダーゼとコンジュゲートさせたヤギ抗ウサギIgG(1:5000、Dako)であった。可視化は化学発光(western lightening、Perkin Elmer)によって行った。バンドの定量はImageJソフトウェアを用いて行った。
【0069】
トランスフェクションアッセイ:遊走アッセイ。トランスフェクションの4日後、GL261細胞を6ウェルプレート内に播いた。細胞を終夜付着させ、単層へと成長させた。200μlのピペットチップを用いて、プレートのコーティングに影響を与えずにスクラッチを導入した。3枚の独立した写真をこのスクラッチから撮影し、実験を4連で行った。写真はスクラッチを導入した12時間後、23時間後、および48時間後に撮影した。表面積をソフトウェア(ImageJ)によって計算し、ベースライン表面積と比較した%として計算した。
【0070】
上皮関門の完全性。Calu-3細胞を250,000個の細胞/インサートで播種し、12ウェルのtranswellインサート(0.4μmの半透明ポリエステル、Greiner)上で単層へと成長させた。14日後に、安定した経上皮電気抵抗(TEER)を示した単層が形成された。密な単層、および配合物の単層上への接着を確認するために、免疫蛍光染色を行った。固定後、細胞を、トリス/NaCl/Tweenバッファ(TNT)中、triton-X100を用いて透過処理し、およびウサギ抗チューブリン(1/100、ab15246、Abcam)一次抗体を加えた。細胞を徹底的に洗浄し、ロバ抗ウサギIgG-alexa fluor555を加えた(1/200、A31572、Life Technologies)。その後、核染色のためにDAPIを加えた。密着帯を評価する場合、本発明者らは抗ZO-1抗体を一次抗体として使用した(1/100、33-910、Life technologies)。TEER測定値は、一対の箸状電極が設定されているEVOM電圧抵抗計(volthommeter)(World Precision Instruments)を使用して得た。キトサンナノ粒子が上皮関門の完全性を一過的に撹乱させる能力を評価するために、キトサンナノ粒子をCalu-3細胞の単層上でインキュベートした。ベースラインTEER測定値を100%として表した。さらに、高分子透過性を、上皮関門の完全性を評価するための代替パラメータとして測定した。FD4を、細胞と細胞の間の空間を移動する可能性が最も高い親水性モデル薬物として使用した。
【0071】
in vivo投与および評価。in vivo分布研究のために、投与期間の間マウスを3%のイソフルランで麻酔した。それぞれのマウスに、8回の3μlの液滴を、それぞれの液滴の間を3分間の時間間隔で投与した。投与は連続した3日間の間に1回または3回のどちらかで行い、最後の投与の4時間後、Nembutalの腹腔内注射によってマウスを屠殺し、冷PBSで灌流し、続いて4%のホルムアルデヒドで灌流した。鼻粘膜および脳を注意深く単離し、4%のホルムアルデヒドでさらに12時間固定した。鼻粘膜は、メスによる切片作製および5μmの古典的なパラフィン-ミクロトーム切片作製のために調製した。脳検体は、4%のアガロースに包埋することによって、200μmのビブラトーム切片のために調製した。切片は、染色および可視化まで0.01%のアジ化ナトリウムを含有するPBS中で保存した。すべての検体は、バックグラウンド構造として核のためにDAPIを用いて染色した。血管を可視化するために、本発明者らは2つの染色技法を使用した。in vivo血管染色のためには、本発明者らは50μgのイソレクチン-488を屠殺の2時間前に静脈内注射した(I21411、Life Technologies)。ビブラトーム切片の血管を染色するためには、本発明者らはブロッキング試薬(FP1012、Perkin Elmer)を含有するTNTでブロッキングし、Triton-X100で透過処理し、ウサギ抗GLUT-1一次抗体(1/100、07-1401、Merck Millipore)と共に終夜インキュベートした。TNTで広範囲に洗浄した後、ロバ抗ウサギIgG-alexa fluor555を終夜加え(1/200、A31572、Life Technologies)、切片を乗せた(Dako封入剤)。スライドの可視化は共焦点顕微鏡観察(SP8、Leica)で行った。画像はImageJソフトウェアによって処理した。
【0072】
腫瘍接種および鼻腔内投与。以前に記載のように、マウスにGL261-WTまたはGL261-BFP腫瘍細胞を頭蓋内注射した[Vllasaliu,D.(2010)、Int.J.Pharm.400、183~193]。手短に述べると、定位フレーム(Kopf Instruments、カリフォルニア州Tujunga)を使用することによって、0.5×10個の腫瘍細胞を十字縫合から2mm外側および2mm後方に、硬膜の3mm下の深さで注射した。定位接種は無菌条件下で行った。頭蓋内腫瘍が3週間以内に発生し、マウスを体重および神経学的欠損のスケールスコア付けについて週に3回モニタリングした。鼻腔内投与を2.5%のイソフルランの麻酔下で行った。1匹の動物の1日の1回用量は前述の24μlの最大に濃縮されたキトサンナノ粒子からなっており、8滴の3μlの液滴を3分間の時間間隔で与えた。すべての動物実験は、実験動物福祉に関するルーヴェンカトリック大学の倫理委員会の許可を伴って行った。
【0073】
免疫蛍光分析。分布実験の最初の一組には、本発明者らはAlexaFluor488(I21411、Life Technologies)とコンジュゲートさせたイソレクチンを、動物を屠殺する2時間前に注射し、これは血管、より具体的には腫瘍関連血管の染色をもたらす。色素-547で標識した抗Gal-1 siRNAを屠殺の4時間後または8時間後に鼻腔内投与した。腫瘍接種の14日後に、マウスを致死的Nembutal注射によって屠殺し、PBS(Lonza、ベルギー)で灌流し、続いて心臓灌流によって4%のパラホルムアルデヒドを灌流した。脳を取り出し(prelevate)、4%のパラホルムアルデヒドと共にさらに終夜インキュベーションして固定した。脳を広範囲に洗浄し、4%の寒天溶液中で固定した。続いて、200μmのビブラトーム切片を調製し、DAPI(Sigma、ベルギー)を用いて核染色を20分間行った。切片を乗せ、蛍光封入剤(Dako、ベルギー)で閉じた。
【0074】
配合物がGL261腫瘍細胞に入ることができるかどうかを識別するために、本発明者らは並行して分布実験も行った。これらの実験では、0.5×10個のBFP陽性腫瘍細胞を接種し、腫瘍を14日間進行させた。フルオレセインを積載した抗Gal-1 siRNAナノ粒子を連続した3日間、1回の用量で投与し、最後の投与の4時間後に屠殺し、続いて上述のものと同じ処理を行った。血管構造の染色を、TNBバッファ(0.1Mのトリス、pH7.4、150mMのNaCl、0.5%のブロッキング試薬、Perkin Elmer、Boston)中、2時間、RTでブロッキングした。組織を、TNBで希釈したウサギ抗マウス-GLUT-1(Millipore)と共に終夜、4℃でインキュベートし、TNT(0.1Mのトリス、pH7.4、NaCl、150mM、0.2%のTriton X-100)で洗浄し、TNBで希釈した抗ウサギ二次抗体AlexaFluor-647(Life Technologies)と共に終夜、4℃でインキュベートした。
【0075】
Gal-1ノックダウンの評価。マウスは、4回の鼻腔内投与による抗Gal-1 siRNAを積載したナノ粒子を、腫瘍接種の5日後、8日後、12日後、および15日後に受けた。20日目に、またはマウスが大規模な腫瘍負荷の臨床的徴候を発生した場合はそれより早くに、マウスを屠殺し、PBSで灌流した。未処置のマウスでは、これは多くの場合20日目より前であった一方で、抗Gal-1 siRNAで処置したマウスでは、これは20日目であった。脳を取り出し、2mlの組織タンパク質抽出バッファ(78510、Thermo Scientific)中でホモジナイズした。細片を取り除き、上清を比色タンパク質分析(BCAキット、Pierce、Life Technologies)およびウエスタンブロット分析に使用した。Gal-1では、本発明者らはウサギ抗Gal-1(1/1000、Peprotech)を使用し、Gal-3ではウサギ抗Gal-3(1/1000、Abcam)を使用した。タンパク質積載コントロールとして、すべてのブロットをウサギ抗β-アクチン(1/5000、Abcam)で染色した。二次ペルオキシダーゼとコンジュゲートさせた抗ウサギIgGヤギ(1/5000、Dako)を使用し、可視化は化学発光(western lightening、Perkin Elmer)によって行った。定量はImageJソフトウェアを用いて行った。mRNA分析には、腫瘍の小片を収集し(<30mg)、ホモジナイズした。続いて、RNAを単離し、前述のようにRT-qPCRのために調製した。並行して、本発明者らは免疫蛍光染色によってGal-1のノックダウンも評価した。手短に述べると、Glut1について上述した染色プロトコルによって、200μmのビブラトーム(vibratom)切片をGal-1について染色した(AF1163、R&D)。蛍光強度の定量をImageJによって測定し、それぞれの群の1つの代表的なものを示す(図10)。
【0076】
生存分析。30匹のマウスにGL261-WT細胞を接種し、2つの群へとランダムに分けた。1つ目の群は未処置のままにしたが、イソフルラン麻酔を受けさせ、2つ目の群は4回の用量の抗Gal-1 siRNAを積載したキトサンナノ粒子を腫瘍接種後5、8、12、および15日目に受けさせた。長期生存は、コントロールマウスの生存期間中央値の3倍として定義される。
【0077】
統計学。すべてのデータをGraphpad Prism5.0(カリフォルニア州San Diego)で分析した。2つの群を比較するために、スチューデントt検定を行った。抗Gal-1 siRNAと比較する場合は、片側分析を行った。生存分析はログランク検定を用いて比較した。
【0078】
実施例1 粒子の特徴づけ
最適な配合物を選択するために、最も重要ないくつかのパラメータについて徹底的な評価プロセスを準備した。最初の選択基準はナノ粒子の大きさであった。したがって、本発明者らは、キトサンポリマーの分子量、キトサンの濃度、および撹拌速度の、ナノ粒子の流体力学的サイズ(Z-平均)に対する影響を評価した(表2)。より低い分子量、より速い撹拌速度、およびより低いキトサン濃度が最も小さい粒子をもたらし、平均サイズは147nm、多分散性指数は0.27であった(表3)。キトサンのさらなる希釈(<0.7mg/ml)は粒子の形成をもたらさなかった(データ示さず)。ゼータ電位はこれらのパラメータによって影響を受けず、+32mVであると決定された。さらなる研究のために、50kDaのキトサンを用いて製造し、1300RPMで撹拌し、0.7mg/mlで溶かした、最も小さいナノ粒子を選択した。生成後、粒子を超遠心分離によって収集し、粒子の大きさおよびゼータ電位の変更なしに凍結乾燥させた(表2)。さらに、これらの粒子の保存は、4℃のデシケーター中で少なくとも8週間の間、安定性を示した(データ示さず)。
【0079】
キトサン鎖の分子量、粒子調製の撹拌速度、およびキトサンの濃度は、調製したナノ粒子に対して顕著な効果を有していた。ナノ粒子はスクロースを用いた凍結乾燥の後に影響されなかった。
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
この表は、zeta sizerおよびSYBRグリーン分析によって測定した最終ナノ粒子調製物を記載している。ナノ粒子はsiRNAを大量にカプセル封入し、界面活性剤と接触した際に即時に放出する。
【0083】
結論:本実施例中に示す研究により、siRNA分子をカプセル封入することができるキトサンナノ粒子をイオン性ゲル化によって作製する実現可能性が確認される。粒子は、粒子の調製中にsiRNAの分解を防止する緩和な条件下で生成する。より詳細には、本発明者らは、ポリマーの長さ、撹拌速度、およびキトサンの溶解などの臨界パラメータを変化させた際に粒子がどのような挙動を示すかを記載した(表2)。したがって、本発明者らは、ナノ粒子を高い度合まで濃縮させる、最適化されたプロトコルを記載した。ナノ粒子の濃度は鼻から脳への輸送を活用するために最も重要である。本発明者らは様々な濃度の様々な凍結乾燥保護剤を試験し、ナノ粒子の溶解度および保護に基づいて、スクロースを最適な凍結乾燥保護剤として選択した。
【0084】
抗Gal-1を積載したナノ粒子を調製するために使用したキトサン分子の分子量の関連性をさらに評価するために、培養GL261細胞をトランスフェクトすることの有効性を、20kDaまたは50kDaのポリマーのどちらかを用いて調製した20nMのsiRNAを含有するキトサンナノ粒子について調査した。GL261細胞をそれぞれの抗Gal1 siRNAキトサンナノ粒子でトランスフェクトした後4日目および7日目に、細胞を収集し、溶解した。続いて、細胞中のGal-1発現を、それぞれの細胞溶解液のウエスタンブロット分析によって評価した。図1に示すように、4日目では、50kDaのキトサンを用いて調製したキトサンナノ粒子のみがGL261細胞中でGal-1発現の抑制をもたらした一方で、7日目では、Gal-1発現は、50kDaおよび20kDaのキトサンナノ粒子で処置した細胞でそれぞれ同様の度合まで抑制されていた。全体的に、Gal-1発現に対する50kDaのナノ粒子のより即時型の効果は、50kDaのキトサンの使用は、20kDaのキトサンを使用するよりも高いトランスフェクション効率を有する抗Gal-1 siRNAを積載したナノ粒子の生成を可能とすることを示唆している。これらの実験により、膠芽細胞腫を処置するためのそのようなナノ粒子の鼻腔内投与のin vivo研究において使用する、抗Gal-1 siRNAを積載したナノ粒子を調製するための50kDaのキトサンの具体的な選択がさらに確認された(以下の実施例を参照)。
【0085】
実施例2 siRNAのカプセル封入および分解からの保護
キトサンナノ粒子のsiRNA担体能力を、SYBRグリーンアッセイを使用することによって評価した。siRNAの損失を回避するために、最大積載能力である24μg/mlのsiRNAをさらなる研究のために選択した。本発明者らは、この条件下でsiRNAの81%がナノ粒子中にカプセル封入されたことを観察した。カプセル封入効率の急な損失によって示されるように、配合されたsiRNAは、0.1%のSDSと共にインキュベーションした際に即時に放出された(表3)。さらに、本発明者らは、超遠心分離濃縮プロセスによる高いカプセル封入効率も確認した。本発明者らは、3回の遠心分離サイクルの後、蛍光siRNAの85%がペレット内にあることを測定した(データ示さず)。
【0086】
さらに、分解からのsiRNAの保護を分解アッセイで評価した(図2)。siRNAを積載したナノ粒子をRNaseと共に37℃でいくつかの期間の間インキュベートした場合に、siRNAの分解は観察されなかった。より良好な可視化のために、粒子をゲル上に載せる直前にSDSを加えることによって、粒子が即座に破壊された。対照的に、遊離siRNAは迅速に分解され、観察できなかった。これらの結果により、siRNAの非常に高い百分率が粒子内にカプセル封入されること、およびこれらの粒子が分解からの優れた保護を提供することが確認される。
【0087】
結論:キトサンナノ粒子内に取り込まれたsiRNAはしっかりと複合体形成しており、RNaseとのインキュベーション後に分解を示さなかった。
【0088】
実施例3 腫瘍細胞上でのナノ粒子の挙動
ネズミGBM細胞系統であるGL261およびヒト初代GBM培養物の両方において、配合物の付着を試験した。どちらの場合でも、無血清培地中での同時インキュベーションの2時間後に、腫瘍細胞への迅速な付着が観察された(図3A+D)。GL261腫瘍細胞上への粒子の付着がGal-1の抑制も誘導したかどうかを評価するために、mRNAおよびタンパク質分析を行った(図3B+C)。GL261細胞では、強力かつ特異的なGal-1 mRNA分解がトランスフェクション後に迅速に観察された。1週間後、Gal-1 mRNAは回復していた。タンパク質レベルでは、トランスフェクション後4日目に開始されて少なくとも7日目まで、強力な減少が観察された。並行して、初代培養物のGal-1分解を分析した(図3E+F)。6つの独立した初代GBM培養物において、強力な減少はトランスフェクション後の4日目から7日目まで顕著であった。
【0089】
Gal-1抑制の生物学的意義をさらに調査するために、スクラッチ創傷アッセイによって細胞運動性の評価を行った。スクラッチを導入した48時間後、このアッセイにより、Gal-1が低下していた場合にGL261細胞の有意により低い運動性プロファイルが明らかとなった(図4)。スクラッチを導入した23時間後は同様のパターンを示したが、相違は未だ有意ではなかった(データ示さず)。Gal-1が抑制されたGL261腫瘍細胞は、スクラッチによって引き起こされた表面積を再度定植させるためにより長い時間が必要であった。
【0090】
結論:本実施例は、キトサン粒子をGBM細胞に施用する場合の、細胞への迅速な付着を示す(図3)。粒子がGBM細胞によっても取り込まれるかどうかを評価するために、本発明者らは、ネズミ細胞系統ではmRNAおよびタンパク質レベルで、6つの個々の腫瘍細胞系統ではタンパク質レベルで、Gal-1を検査した。すべての場合において、本発明者らは、Gal-1の阻害を観察した。これは、粒子の単回投与後に数日間持続したが、GBM細胞は迅速に分裂する細胞である。コントロールとして、本発明者らは、siRNAの特異性をガレクチン-3ウエスタンブロットによって調べ、本発明者らは、ここではGal-3の減少を観察しなかった。キトサンポリマーからのsiRNA放出の機構は、プロトンスポンジ効果に依存している可能性が最も高く、キトサンポリマーの第一級アミンによってHを捕捉することによってリソソーム損傷を生じる[Nel,A.E.ら(2009)、Nature materials 8、543~557]。さらに、本発明者らは、Gal-1が低下した場合の、GBM細胞の遊走に対する効果を確認することができた(図4)[Camby I.ら(2002)、J.Neuropathol.Exp.Neurol.61、585~596]。
【0091】
実施例4 配合物媒介性の上皮の調節
キトサンに基づく配合物による密着帯の調節を、Calu-3単層を用いて評価した。まず、本発明者らは、Calu-3単層の頂端側のキトサンナノ粒子の分散分布を可視化した(図5A)。0.06%のキトサンナノ粒子の濃度で、投与の2時間後に、単層にわたって抵抗の有意な減少が観察された。この抵抗の減少は一過性であり、最も遅くて粒子のインキュベーションの24時間後までには回復した(データ示さず)。この抵抗の減少は、小さな親水性プローブ、たとえばFD4について単層の透過性がより高くなる傾向をもたらした(図5B+C)。文献の報告に一致して、この単層にキトサンを投与した後に密着帯の内部移行が観察された(図5D)。本発明者らは、単層をZO-1タンパク質について染色することによってモニタリングして、インタクトな単層の撹乱を観察した。
【0092】
鼻腔内投与、およびCNSに到達する目的のために、上皮層を一過的に撹乱させることが必要である。生理的条件下では、粘膜層は密着帯を介して密に相互接続している。本発明者らは、キトサン配合物を0.06%で施用した場合にCalu-3細胞系統の単層において抵抗の顕著な降下を観察した(図5)。配合物を取り除いた際、抵抗は穏やかに回復し、最大でも24時間後に抵抗はベースラインまで戻った。また、本発明者らは、培地条件において一貫した抵抗の降下が存在することにも注目し、これは、抵抗測定を行うために必要な温度、湿度、およびCO、O含有量の変化に起因していると考えられる。抵抗の降下が関門を横切る分子の通過の増加にもつながるかどうかを評価するために、本発明者らは、単層をナノ粒子およびFD4と共にインキュベートした。本発明者らは、FD4の通過がより高い傾向にあることを観察した。しかし、興味深いことに、0.03%の濃度は抵抗の効果をもたらさなかった。本発明者らは、キトサンナノ粒子内に取り込まれた蛍光siRNAの通過の評価を試みた。本発明者らはキトサン粒子がポリエステルに対して高い親和性を示すことを観察し、粒子はインサート孔径(0.4μm)よりも小さかったが、細胞をインサート上に播種しなかった場合でも非常に低い通過を観察することができた(データ示さず)。本発明者らは、免疫蛍光染色によって密着帯の開口を検出できるかどうかを検査した。本発明者らは、0.03%および0.06%の条件のどちらにおいても、キトサン粒子を施用した場合に2時間後にZO-1分子の消失を観察し、これは、FD4の通過の増加を説明している可能性がある。これらの結果は、キトサン刺激した際の密着帯の内部移行を示唆している。
【0093】
実施例5 中枢神経系への輸送
最初の入口の関門として、鼻粘膜を、コントロールの未処置のマウスならびに色素-547で標識したsiRNAを含むキトサンナノ粒子を鼻腔内投与した4時間後および8時間後のそれぞれに屠殺したマウスの鼻粘膜のプレパラートにおける、赤色色素-547で標識したsiRNAの外見の共焦点顕微鏡観察によって評価した。コントロールの未処置のマウスでは、赤色シグナルは観察できなかった。処置したマウスでは、本発明者らは投与の4時間後および8時間後に鼻粘膜内に赤色ナノ粒子を観察することができた。上皮層を通る通過をさらに詳細に描写するために、本発明者らは、赤色色素-547で標識したsiRNAを積載したキトサンナノ粒子をマウスに連続した3日間鼻腔内投与し、最後の投与の4時間後のものを屠殺して、古典的なパラフィン切片へと処理した。色素-547で標識したsiRNAの強い存在が鼻粘膜上で検出された。特に粘液層上で強い濃度が存在しているが、円柱上皮を越えて固有層内への上の輸送も見られる。鼻粘膜を横切る輸送は、中枢神経系に到達するための根本要件である可能性が非常に高い。CNSに向かう輸送をさらに評価するために、中枢神経系に向かう十分に記載されている侵入点である嗅球および後脳を、siRNAの存在について評価した。前記輸送における嗅球の役割はコントロールの未処置のマウスならびに色素-547で標識したsiRNAを含むキトサンナノ粒子を鼻腔内投与した4時間後および8時間後のそれぞれに屠殺したマウスの嗅球のプレパラートにおける、赤色色素-547で標識したsiRNAの外見の共焦点顕微鏡観察を使用して評価した。嗅球の徹底的な評価により、コントロールの未処置のマウスにおいて蛍光が存在しないことが示されている。しかし、処置したマウスでは、本発明者らは、投与の4時間後に嗅球の先端に蛍光シグナルを観察している。本発明者らは、8時間の投与で、色素-547で標識したsiRNAのより拡散された分布を観察している。嗅球での侵入に関する長期的効果を評価するために、本発明者らは、3日間にわたって3回の投与を受け、最後の投与の4時間後に屠殺したマウスもモニタリングした。ここで、本発明者らは、嗅球の球状層における強い分布、および外網状層へのより拡散された分布を観察している。さらに、本発明者らは、抗FITC-FITCとコンジュゲートさせた抗体を用いた、フルオレセインで標識したsiRNAの増幅を含む、同様の共焦点顕微鏡観察技法によって、嗅球および後脳への輸送も評価した。この技法を使用した場合、フルオレセイン-siRNAを積載したナノ粒子をマウスに投与した4時間後および24時間後のどちらの嗅球においても、フルオレセイン-siRNAが観察できた。しかし、siRNAは、嗅球側だけでなく、フルオレセイン-siRNAを積載したナノ粒子をマウスに投与した4時間後および24時間後のどちらの後脳においても存在していた。どちらの部位も前述の経路を示唆している。また、三叉神経も検査したが、蛍光siRNAの明白な存在は観察できなかった(データ示さず)。
【0094】
in vivo評価において、本発明者らは鼻粘膜を横切る輸送の妥当性を確認した。本発明者らは鼻粘膜において4時間後に既に配合物の迅速な拡大を観察した一方で、コントロールの未処置のマウスでは、フルオロフォアは観察されなかった。輸送様式の識別は困難である。しかし、一部の写真は血管に沿った輸送を示唆しており、CNS内への血管周囲の輸送が確認されている。また、血管構造の周りの密な蓄積も迅速な全身への分布の源であり得る。また、8時間後に、本発明者らは、鼻粘膜上に依然として蛍光が存在していることも観察している。粘膜に対する長期的効果を観察するために、本発明者らは、色素-547で標識したsiRNAを積載したキトサンナノ粒子を連続した3日間鼻腔内投与した後、最後の投与の4時間後にマウスを屠殺した、分布実験を行った。これらの切片をパラフィン包埋によって処理し、固有層中に大きなシグナルが明らかとなった。また、粘液層は色素-547で標識したsiRNAについて陽性に染まり、円柱上皮細胞を通る通過も観察できた。予備分布実験では、本発明者らは、6時間後に血漿および肝臓中でフルオロフォアをタグ付けしたsiRNAの増加を観察した(データ示さず)。嗅球が主な侵入経路であるため、CNS内への分布を評価するために、本発明者らはまず嗅球に注目した。嗅球をその全範囲まで解剖した場合に、DAPI核染色によって、本発明者らは、著名な円形の組織によって特徴づけられた球状層を明白に識別することができた。本発明者らは、単回投与の4時間後および8時間後に強力かつ漸増的な色素-547 siRNAのシグナルを観察した。さらに、3回の1日1回の投与の後、このシグナルは嗅球の全領域にわたってより豊富となっていた。これらの観察は、嗅覚経路を介した鼻腔から中枢神経系への直接輸送の重要性および実現可能性を明白に強調している。次に、本発明者らは、三叉神経を介したCNSへの代替経路として、後脳におけるsiRNAの存在を見出すことにも関心があった。本シグナルをさらに増幅するために、本発明者らは、フルオレセインで標識したsiRNAを、FITCとカップリングさせた抗フルオレセイン抗体で染色した。これらの実験では、血管は、イソレクチン染色によっては検出されず、GLUT-1染色によって検出された。本発明者らは、これらの実験において嗅覚領域における存在を確認したが、単回投与の4時間および24時間後に、後脳におけるsiRNAの明白なシグナルも見出した。上述の観察を例示するカラー写真はVan Woenselら、(2016)、J.Contr.Rel.227、71~81で利用可能である。
【0095】
実施例6 腫瘍微小環境内での分布
本発明者らが以前に実証したように、キトサンナノ粒子を用いた抗Gal-1 siRNA配合物は中枢神経系に効率的に到達することができる。中枢神経系腫瘍に到達することができるかどうかの疑問に取り組むために、本発明者らは、マウスにGL261-WT細胞を接種し、腫瘍を14日間、固体塊が存在するまで成長させた。コントロールの未処置のマウスならびに色素-547で標識したsiRNAを含むキトサンナノ粒子を鼻腔内投与した4時間後および8時間後のそれぞれに屠殺したマウスの腫瘍環境における、赤色色素-547で標識したsiRNAの外見の共焦点顕微鏡観察を使用した。腫瘍関連血管のイソレクチン染色によって、本発明者らは切片上の腫瘍領域を明白に定義することができた。血管は明らかに拡張しており、組織構造を欠いているように見え、これは、血流および酸素供給が損なわれていることを示唆している。未処置のコントロールマウスでは、siRNA関連フルオロフォアを検出することはできなかった。実験群では、本発明者らは、赤色に対応する色素-547を積載した抗Gal-1 siRNAをマウスに鼻腔内注射した。単回投与後、本発明者らは既に腫瘍微小環境内に豊富なシグナルがあることに気づいた。4時間後、このシグナルはより粒子状であり、8時間後にはより拡散していた。この観察は、鼻腔内経路を介して腫瘍微小環境に到達する実現可能性を明らかに実証している。血管およびマクロファージ以外に神経膠腫中でGal-1を産生する主要な細胞集団である、抗Gal-1 siRNAも腫瘍細胞に到達できるかという疑問が残った。したがって、本発明者らは、共焦点顕微鏡観察下で検出することができるGL261-BFP陽性腫瘍細胞を注射した(図6)。腫瘍中心(図6A)および腫瘍境界(図6B)のどちらにおいても、本発明者らは、フルオレセイン-siRNAを積載したナノ粒子の鼻腔内投与の4時間後に抗Gal-1フルオレセイン-siRNAシグナルを見出すことができた。さらに、本発明者らは、灌流したにもかかわらず血管に関連する強力なシグナルを観察することができ、これは内皮細胞における存在を示唆している。
【0096】
全体的に、これらの結果は、キトサンナノ粒子状送達形態を使用して、抗Gal1 siRNAが鼻腔内投与の後に腫瘍細胞に到達することを明らかに示している。上述の観察を例示するカラー写真はVan Woenselら(2016)、J.Control.release 227、71~81で利用可能である。
【0097】
実施例7 Gal-1の腫瘍内低下
上記では、本発明者らは腫瘍微小環境における抗Gal-1 siRNAの存在を観察した。RNA干渉分子の機能性をさらに調査するために、本発明者らはGal-1の量を決定する必要があった。以前のin vitro結果では、本発明者らはトランスフェクションの4~7日後にGal-1の強力な減少を観察した。この生物学的Gal-1代謝回転は、抗Gal-1 siRNAの腫瘍内注射後にも観察された(データ示さず)。したがって、本発明者らは、腫瘍接種後15日目まで抗Gal-1 siRNAを積載したナノ粒子を投与し、その後、腫瘍接種後20日目にマウスを屠殺した。2つの独立した実験で、本発明者らは、コントロールの未処置のマウスと比較して、処置したマウスにおいてGal-1の強力な減少を観察した。さらに、本発明者らは、Gal-1だけでなく、やはり腫瘍促進特性を示すガレクチン-3(Gal-3)も低下していたことに気づいた。Gal-1の減少はGal-3の減少よりもかなり大きかったが、有意ではなかった(p=0.09)。また、本発明者らは、腫瘍接種後20日目の腫瘍の小片(<30mg)でRT-qPCRも行った。これにより、処置した動物においてGal-1の少ないが有意ではない減少が明らかとなった。本発明者らの以前のin vitroの発見に基づいて、投与の5日後では、mRNAはタンパク質レベルよりも低下の程度が低いと予想された(図7および8)。
【0098】
本発明者らは、処置したマウスにおいてGal-1の強力かつ有意な減少を観察し、これは特異的ノックダウンを示唆している。驚くべきことに、かつin vitroの発見とは対照的に(実施例3を参照)、in vivoでは、本発明者らはGal-3の有意な減少を見出さなかった。これは、Gal-1とGal-3との間の生物学的相互作用を示唆している。
【0099】
さらに、本発明者らは、免疫蛍光染色によってGal-1の減少を確認した(図10)。
【0100】
実施例8 処置したマウスの生存の増加
マウスにGL261-WTを接種し、2つの群へとランダムに分けた。本発明者らは、鼻腔内抗Gal-1 siRNA配合物で処置したマウスの長期生存を観察した。生存期間中央値は、コントロールでは19日間から処置したマウスでは23日間へとシフトしていた。疾患進行の初期ではわずかな延命効果しか観察されなかったが、後に曲線の差が大きくなる。また、本発明者らは、マウスの処置群で長期生存者を観察したが、対照的に、未処置のマウスはすべて死亡した(図9)。さらに、本発明者らは空の粒子(siRNAを含有しない)が腫瘍保有マウスの生存に効果をもたなかったことに注目し、これは、腫瘍の進行の停止または遅延におけるGal-1の重要性を強調している。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
【配列表】
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