(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】超音波治療装置
(51)【国際特許分類】
A61N 7/00 20060101AFI20220520BHJP
【FI】
A61N7/00
(21)【出願番号】P 2019544982
(86)(22)【出願日】2018-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2018034447
(87)【国際公開番号】W WO2019065362
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2017189819
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500557048
【氏名又は名称】学校法人日本医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】517182918
【氏名又は名称】ピクシーダストテクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230116816
【氏名又は名称】成川 弘樹
(74)【代理人】
【識別番号】100146123
【氏名又は名称】木本 大介
(72)【発明者】
【氏名】小川 令
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀典
(72)【発明者】
【氏名】坂井 敦
(72)【発明者】
【氏名】若林 奈緒
(72)【発明者】
【氏名】高田 弘弥
(72)【発明者】
【氏名】星 貴之
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-521053(JP,A)
【文献】特表2004-538039(JP,A)
【文献】特開2005-304918(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02606837(EP,A1)
【文献】特開平05-309099(JP,A)
【文献】特開2000-237199(JP,A)
【文献】特表2015-505256(JP,A)
【文献】米国特許第06428477(US,B1)
【文献】国際公開第2006/123414(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 7/00
A61B 18/00
A61M 35/00
A61M 11/00
医中誌Web
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の超音波トランスデューサを備え、
体表面の創傷の位置を特定する手段を備え、
前記特定された創傷の位置に基づいて、前記複数の超音波トランスデューサによって放射される超音波の焦点を決定する手段を備え、
集束した超音波によって生じる音響放射圧の振動周波数を決定する手段を備え、
前記決定された焦点で超音波が集束し、かつ前記音響放射圧が非接触かつ周期的な圧刺激を当該焦点に付加するように、少なくとも前記振動周波数に基づいて、前記複数の超音波トランスデューサを個別のタイミングで駆動させる駆動信号を生成する駆動回路を備える、超音波治療装置。
【請求項2】
前記振動周波数を決定する手段は、治療対象に関する治療対象情報に基づいて、前記振動周波数を決定する、請求項1に記載の超音波治療装置。
【請求項3】
各超音波トランスデューサから放射される超音波の放射時間、振幅、及び、変調方式の少なくとも1つを含む超音波パラメータを決定する手段を備え、
前記駆動回路は、前記決定された超音波パラメータに応じた駆動信号を生成する、請求項1又は請求項2に記載の超音波治療装置。
【請求項4】
前記超音波パラメータを決定する手段は、治療対象に関する治療対象情報に基づいて、前記超音波パラメータを決定する、請求項3に記載の超音波治療装置。
【請求項5】
前記治療対象情報は、前記治療対象の生体情報、前記治療対象の属性、及び、前記創傷の属性の少なくとも1つである、
請求項2又は請求項4に記載の超音波治療装置。
【請求項6】
前記生体情報は、治療対象の血圧、及び、心拍数の少なくとも1つを含む、請求項5に記載の超音波治療装置。
【請求項7】
前記創傷の属性は、創傷の面積
を含む、請求項5又は請求項6に記載の超音波治療装置。
【請求項8】
前記決定する手段は、前記創傷の形状に基づいて、前記焦点の位置、及び、数を決定する、請求項1~請求項7の何れかに記載の超音波治療装置。
【請求項9】
前記振動周波数は、1Hz以上100Hz以下である、請求項1~請求項8の何れかに記載の超音波治療装置。
【請求項10】
前記振動周波数は、1Hz以上10Hz以下である、請求項9に記載の超音波治療装置。
【請求項11】
前記振動周波数は、約10Hzである、請求項1~請求項10の何れかに記載の超音波治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
動物の体表面から物理刺激を加えると、創傷に対する治療効果があることが知られている。これは、物理刺激により、細胞外基質を介して創傷周辺の血管内皮細胞内部で生じるメカニカルストレス(例えば、ずり応力、又は、圧力)が血管新生又は創閉鎖を促進させるためである。
特に、超音波は、線維芽細胞、血管内皮細胞、又は、白血球を活性化させるので、創傷に対する治療効果が高いことが知られている。
【0003】
例えば、特表2007-521053号公報には、医薬が塗布された患部に対して超音波を当てることにより、物理刺激を患部に加える技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超音波による物理刺激を用いた治療では、治療時の感染リスクが問題になる。治療時に感染が起こると、治癒までの時間が長期化するだけでなく、創傷が悪化することもある。
特表2007-521053号公報では、医薬を患部に塗布又は噴霧するため、医薬を塗布する時に感染リスクが生じる。
【0005】
本発明の目的は、超音波を用いた治療における感染リスクを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
複数の超音波トランスデューサを備え、
患部の位置を特定する手段を備え、
前記特定された患部の位置に基づいて、前記複数の超音波トランスデューサによって放射される超音波の焦点を決定する手段を備え、
前記決定された焦点で超音波が集束するように、前記複数の超音波トランスデューサを個別のタイミングで駆動させる駆動信号を生成する駆動回路を備える、
超音波治療装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、超音波を用いた治療における感染リスクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態の超音波治療装置の構成を示す概略図である。
【
図2】
図1のコントローラの機能を示すブロック図である。
【
図3】
図1の超音波放射部の構成を示す概略図である。
【
図4】
図3の超音波トランスデューサの駆動タイミングの決定方法の説明図である。
【
図5】
図3のフェーズドアレイの動作例1の概略図である。
【
図6】
図3のフェーズドアレイの動作例2の概略図である。
【
図8】本実施形態の超音波治療装置の処理のフローチャートである。
【
図9】本実施形態の超音波治療装置を用いた治療を開始するための準備工程の説明図である。
【
図22】実施例6の比較例の実験結果を示す図である。
【
図25】実施例8の比較例の実験結果を示す図である。
【
図27】変形例1のパラメータ判定テーブルのデータ構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0010】
(1)超音波治療装置の構成
本実施形態の超音波治療装置の構成を説明する。
図1は、本実施形態の超音波治療装置の構成を示す概略図である。
【0011】
図1の超音波治療装置1は、治療対象OBJに向かって超音波USWを放射することにより、治療対象OBJの患部APを治療するように構成される。治療対象OBJは、ヒト、ヒトを除く動物(例えば、哺乳類、魚類、鳥類、両生類、若しくは、爬虫類)、又は、植物である。
【0012】
超音波治療装置1は、コントローラ10と、超音波放射部20と、を備える。
コントローラ10は、超音波放射部20に接続される。コントローラ10の一面には、操作部16と、表示部17と、が配置される。
【0013】
(1-1)コントローラの構成
本実施形態のコントローラの構成を説明する。
図2は、
図1のコントローラの機能を示すブロック図である。
【0014】
図2に示すように、コントローラ10は、記憶装置11と、プロセッサ12と、入出力インタフェース13と、駆動回路15と、操作部16と、表示部17と、を備える。
【0015】
記憶装置11は、プログラム及びデータを記憶するように構成される。記憶装置11は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び、ストレージ(例えば、フラッシュメモリ又はハードディスク)の組合せである。
【0016】
プログラムは、例えば、以下のプログラムを含む。
・OS(Operating System)のプログラム
・超音波放射部20を制御するためのドライバアプリケーションのプログラム
【0017】
データは、例えば、以下のデータを含む。
・情報処理において参照されるデータベース
・情報処理を実行することによって得られるデータ(つまり、情報処理の実行結果)
【0018】
プロセッサ12は、記憶装置11に記憶されたプログラムを起動することによって、コントローラ10の機能を実現するように構成される。プロセッサ12は、コンピュータの一例である。
【0019】
入出力インタフェース13は、操作部16から、超音波治療装置1のユーザ(例えば、超音波治療装置1を用いる医師、又は、患者)の指示を取得し、かつ、表示部17に情報を出力するように構成される。
入力デバイスは、例えば、キーボード、ポインティング
デバイス、タッチパネル、又は、それらの組合せである。
【0020】
駆動回路15は、プロセッサ12の制御に従い、超音波放射部20を駆動するための駆動信号を生成するように構成される。
【0021】
操作部16は、コントローラ10に対するユーザの指示を受け付けるように構成される。
【0022】
表示部17は、コントローラ10によって生成された画像を表示するように構成される。表示部17は、液晶ディスプレイである。
【0023】
(1-2)超音波放射部の構成
本実施形態の超音波放射部の構成を説明する。
図3は、
図1の超音波放射部の構成を示す概略図である。
【0024】
図2に示すように、超音波放射部20は、複数の超音波トランスデューサ21と、カメラ22と、を有する。
【0025】
カメラ22は、画像を撮像し、且つ、撮像した画像の画像データを生成するように構成される。
【0026】
図3に示すように、複数の超音波トランスデューサ21は、フェーズドアレイFAを構成する。複数の超音波トランスデューサ21は、XZ平面(以下「アレイ面」という)に配置される。
【0027】
各超音波トランスデューサ21は、駆動回路15によって生成された駆動信号に従い、個別に、振動する。これにより、各超音波トランスデューサ21から超音波が発生する。複数の超音波トランスデューサ21から放射された超音波は、空間上を伝播し、空間上の焦点で集束する。
【0028】
コントローラ10は、複数の超音波トランスデューサ21cの駆動タイミングを個別に制御することにより、各超音波トランスデューサ21cから放射される超音波に位相差を与える。焦点の位置及び数は、この位相差に依存する。つまり、コントローラ10は、位相差を制御することにより、焦点の位置及び数を変化させることができる。
【0029】
本実施形態の超音波の位相差の形成方法について説明する。
図4は、
図3の超音波トランスデューサの駆動タイミングの決定方法の説明図である。
【0030】
記憶装置11には、フェーズドアレイFAの基準点(例えば、中心)に対する超音波トランスデューサ21c(n)のフェーズドアレイFA上の相対位置を示す超音波トランスデューサ21c(n)の座標(x(n),y(n),z(n))が記憶されている。nは、超音波トランスデューサ21cのを示す識別子(正の整数)である。
【0031】
プロセッサ12は、
図4に示すように、基準点に対する焦点FPの相対位置を示す焦点座標(xfp,yfp,zfp)を決定する。
プロセッサ12は、記憶装置11に記憶された超音波トランスデューサ21c(n)の座標(x(n),y(n),z(n))と、焦点座標(xfp,yfp,zfp)と、に基づいて、超音波トランスデューサ21c(n)と焦点FPとの距離r(n)を計算する。
【0032】
プロセッサ12は、n+1番目に駆動する超音波トランスデューサ21c(n+1)の駆動タイミングと、n番目に駆動する超音波トランスデューサ21c(n)との駆動タイミングとの時間差(以下「駆動時間差」という)ΔT(n+1)を、式1を用いて、計算する。
ΔT(n+1)=-r(n+1)/c …(式1)
・c:音速
【0033】
上述のとおり、プロセッサ12は、焦点座標(xfp,yfp,zfp)と、記憶装置11に記憶された座標(x(n+1),y(n+1),z(n+1))と、を用いて、各超音波トランスデューサ21c(n+1)の駆動時間差ΔT(n+1)を計算する。プロセッサ12は、この駆動時間差ΔT(n+1)に従い、各超音波トランスデューサ21c(n+1)に駆動信号を供給する。
各超音波トランスデューサ21cは、この駆動信号に応じて駆動する。各超音波トランスデューサ21cから放射された超音波は、駆動時間差ΔT(n+1)に応じた位相差を有するので、焦点FPで集束する。
【0034】
(1-2-1)フェーズドアレイの動作例1(単焦点)
本実施形態のフェーズドアレイの動作例1を説明する。
図5は、
図3のフェーズドアレイの動作例1の概略図である。
【0035】
図5に示すように、動作例1では、超音波トランスデューサ21a~21iの振動が、両端部から中央に向かう順に時間的に遅延する。
フェーズドアレイFAからは、振動の時間遅延に応じた位相差を有する超音波USW1が放射される。超音波USW1は、フェーズドアレイFAから焦点距離d1だけ離れた焦点FP1で集束する。
【0036】
(1-2-2)フェーズドアレイの動作例2(複焦点)
本実施形態のフェーズドアレイの動作例2を説明する。
図6は、
図3のフェーズドアレイの動作例2の概略図である。
【0037】
図6に示すように、動作例2では、超音波トランスデューサ21a~21iが、2つのグループG1及びG2に分かれる。グループG1は、超音波トランスデューサ21a~21eから構成される。グループG2は、超音波トランスデューサ21f~21iから構成される。
【0038】
グループG1(超音波トランスデューサ21a~21e)に振動は、両端部から中央に向かう順に時間的に遅延する。
フェーズドアレイFAからは、振動の時間遅延に応じた位相差を有する超音波USW2aが放射される。超音波USW2aは、フェーズドアレイFAから焦点距離d2aだけ離れた焦点FP2aで集束する。
【0039】
グループG2(超音波トランスデューサ21f~21i)は、両端部から中央に向かう順に、時間的に遅延する。
フェーズドアレイFAからは、振動の時間遅延に応じた位相差を有する超音波USW2bが放射される。超音波USW2bは、フェーズドアレイFAから焦点距離d2bだけ離れた焦点FP2bで集束する。
【0040】
なお、フェーズドアレイFAは、3個以上の焦点を形成することも可能である。
【0041】
(2)本実施形態の概要
本実施形態の概要を説明する。
図7は、本実施形態の概要を示す概略図である。
【0042】
図7に示すように、コントローラ10は、患部APの位置を特定すると、患部APの位置に基づいて焦点FPを決定する。コントローラ10は、焦点FPで集束する超音波を放射させるように、超音波放射部20を駆動するための駆動信号DRVを生成する。
【0043】
複数の超音波トランスデューサ21は、コントローラ10によって生成された駆動信号DRVに従って個別に駆動することにより、位相差を有する複数の超音波USWを放射する。
【0044】
複数の超音波USWは、焦点FPで集束する。集束した超音波USWは、焦点FPに音響放射圧ARPを発生させる。焦点FPは、患部APの位置に基づいて決定されるので、音響放射圧ARPは、患部APに直接伝わる。音響放射圧ARPが患部APに伝わると、細胞変形が生じる。この細胞変形により、血管形成に関わる遺伝子発現が上昇する。この遺伝子発現の上昇により、患部APの血管新生が加速する。その結果、患部APの回復が促進する。
【0045】
このように、本実施形態では、コントローラ10が、患部APの位置に基づいて決定された焦点FPに超音波USWを集束させることにより、焦点FPに発生する音響放射圧ARPが患部APに直接伝播する。音響放射圧ARPは、媒体(例えば、噴霧薬剤、医薬、又は、カップリングジェル)を介さずに、患部APに直接伝わる。従って、患部APに超音波放射部20を接触させる必要はなく、且つ、患部APに医薬を塗布する必要もない。これにより、超音波を用いた治療における感染リスクを低減することができる。
【0046】
(3)超音波治療装置の処理フロー
本実施形態の超音波治療装置の処理フローを説明する。
図8は、本実施形態の超音波治療装置の処理のフローチャートである。
図9は、本実施形態の超音波治療装置を用いた治療を開始するための準備工程の説明図である。
図10は、
図8のステップS101の説明図である。
【0047】
図9に示すように、ユーザ(例えば、医師)が、治療対象OBJを、超音波トランスデューサ21の放射方向について超音波トランスデューサ21に対向する位置に配置し、且つ、超音波治療装置1に対する所定の操作(例えば、表示部17に表示されたボタンオブジェクト17aのタッチ操作)を行うと、超音波治療装置1は、
図8の処理を開始する。
【0048】
図8に示すように、コントローラ10は、患部APの形状の特定(S100)を実行する。
具体的には、カメラ22が、患部APの画像を撮像し、且つ、撮像した画像の画像データを生成する。
プロセッサ12は、入出力インタフェース13を介して、カメラ22によって生成された画像データを取得する。
プロセッサ12は、取得した画像データに対して画像解析(例えば、特徴量解析)を実行することにより、患部APの形状を特定する。
【0049】
ステップS100の後、コントローラ10は、患部APの位置の特定(S101)を実行する。
【0050】
ステップS101の第1例を説明する。
図10Aに示すように、表示部17には、画像IMG1~IMG2が表示される。画像IMG1は、ステップS100においてカメラ22によって撮像された治療対象OBJの画像である。IMG2は、ターゲットマーカの画像である。
ユーザは、ターゲットマーカの位置と患部APの位置を合わせるために、表示部17に表示された画像IMG1~IMG2を見ながら操作部16を操作する。
プロセッサ12は、入出力インタフェース13を介して、画像IMG2の位置に応じた座標情報を取得する。
プロセッサ12は、取得した座標情報に基づいて、三次元空間におけるフェーズドアレイFAに対する患部APの相対的位置を特定する。
【0051】
ステップS101の第2例を説明する。
プロセッサ12は、ステップS100において取得した画像データに対して画像解析(例えば、特徴量解析)を実行することにより、三次元空間におけるフェーズドアレイFAに対する患部APの相対的位置を特定する。
【0052】
ステップS101の後、コントローラ10は、焦点の決定(S102)を実行する。
具体的には、プロセッサ12は、ステップS100で特定した患部APの形状に基づいて、焦点FPの数及び配置を決定する。一例として、患部APが点形状である場合、1つの焦点FPを決定する。別の例として、患部APが面形状である場合、患部APの輪郭に囲まれた領域に含まれる位置に複数の焦点FPを決定する。
プロセッサ12は、ステップS101で特定した相対的位置に基づいて、フェーズドアレイFAの中心から焦点FPまでの距離を決定する。
プロセッサ12は、ステップS101で特定した相対的位置に基づいて、フェーズドアレイFAの法線に対する焦点FPの角度を決定する。
この距離及び角度により、フェーズドアレイFAの中心を原点とする焦点FPの三次元座標が決まる。
【0053】
ステップS102の後、コントローラ10は、位相差の計算(S103)を実行する。
具体的には、プロセッサ12は、ステップS102で決定した焦点FPの数、配置、距離、及び、角度に基づいて、複数の超音波トランスデューサ21によって放射される超音波を焦点FPで集束させるための位相差を計算する。
【0054】
ステップS103の後、コントローラ10は、超音波パラメータの決定(S104)を実行する。
具体的には、ユーザが操作部16を操作することにより、超音波パラメータに関するユーザ指示をコントローラ10に与えると、プロセッサ12は、ユーザ指示に基づいて、超音波パラメータを決定する。
超音波パラメータは、以下のパラメータを含む。
・超音波の放射時間
・超音波の振幅
・超音波の変調方式(AM(Amplitude Modulation)又はFM(Frequency Modulation))
【0055】
ステップS104の後、コントローラ10は、音響放射圧の振動周波数の決定(S105)を実行する。
具体的には、ユーザが操作部16を操作することにより、音響放射圧の振動周波数に関するユーザ指示をコントローラ10に与えると、プロセッサ12は、ユーザ指示に基づいて、振動周波数を決定する。振動周波数は、例えば、0~100Hzの間の値である。
【0056】
ステップS105の後、コントローラ10は、駆動信号の生成(S106)を実行する。
具体的には、プロセッサ12は、ステップS103で計算した位相差に基づいて、複数の超音波トランスデューサ21のそれぞれの駆動タイミングを個別に決定する。
プロセッサ12は、ステップS104で決定した超音波パラメータと、ステップS105で決定した振動周波数と、に基づいて、駆動信号を生成する。駆動信号は、例えば、パルス波形又は正弦波形を有する。駆動信号の信号波形が矩形波である場合、パルス幅は、ステップS104で決定された放射時間に基づいて決まる。パルス振幅は、ステップS104で決定された振幅に基づいて決まる。パルス周波数は、ステップS105で決定された振動周波数に基づいて決まる。駆動信号の信号波形が正弦波形である場合、波長は、ステップS104で決定された放射時間に基づいて決まる。振幅は、ステップS104で決定された振幅に基づいて決まる。周波数は、ステップS105で決定された振動周波数に基づいて決まる。
駆動回路15は、各超音波トランスデューサ21の駆動タイミングに合わせて、駆動信号を各超音波トランスデューサ21に出力する。
【0057】
ステップS106の後、超音波放射部20は、超音波の放射(S107)を実行する。
具体的には、各超音波トランスデューサ21は、ステップS106で出力された駆動信号に従って、超音波USWを放射する。駆動信号が各超音波トランスデューサ21に出力されるタイミングは、S103で計算された位相差に基づく駆動タイミングによって決まる。従って、複数の超音波トランスデューサ21から放射される超音波USWは、S103で計算された位相差を有する。
【0058】
各超音波トランスデューサ21から放射された超音波USWは、患部APの位置に基づいて決定された焦点FPで集束する。焦点FPで集束した超音波USWは、焦点FPに音響放射圧ARP(
図7)を発生させる。この音響放射圧ARPは、患部APに直接伝わる。音響放射圧ARPが患部APに伝わると、血管形成に関わる遺伝子発現が上昇する。この遺伝子発現の上昇により、患部APの血管新生が加速する。その結果、患部APの回復が促進する。
【0059】
(4)実施例
本実施形態の実施例を説明する。
【0060】
(4-1)実施例1(超音波の音響放射圧による創閉鎖促進)
本実施形態の実施例1を説明する。実施例1は、超音波の音響放射圧ARPによる創閉鎖促進に関する例である。
【0061】
正常マウスを対象として、次の手順で正常創傷モデルを作成した。まずイソフルランを用いた吸入麻酔下に、動物用電気カミソリと脱毛クリームで除毛を行った。続いて顕微鏡観察下に背部正中対称に直径約6.5mmの皮膚全層欠損創APを皮筋膜上に2ヵ所作成した(
図11)。体動に伴う創の伸展・変形を予防する目的で創周囲にドーナツ型の抗縮用シリコーンリングを装着し、創部の乾燥を防ぐ目的で水蒸気透過性透明フィルム(創傷被覆材フィルム7μm厚さ)を被覆した。創部への照射位置IPを確認し(
図12)、片側の創APへ、音響放射圧ARPによる非接触・周期的圧刺激(10Hz, 90.6Pa, 1時間/日, 3日連続)を負荷した影響を評価した。創閉鎖評価は、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて、創縁から非上皮部位の面積を算出し、統計処理を適用した。その結果、照射側の創APでは、7日後の閉鎖率が97%に達するのに対し、非照射側の創APでは、7日後の閉鎖率は79%にとどまった。つまり、照射側の創APでは、非照射側の創APに比べて、有位に創閉鎖が早まることを確認した(
図13)。
【0062】
(4-2)実施例2(超音波の音響放射圧によるコラーゲン産生の増加)
本実施形態の実施例2を説明する。実施例2は、超音波の音響放射圧ARPによるコラーゲン産生の増加の例である。
【0063】
創傷治癒の過程では、コラーゲン増生による肉芽形成が重要であることが知られている。そこで被験マウスを用いて膠原線維(コラーゲン)の産生の様子を観察することは、創傷治癒の指標となる。
実施例1と同様に、2カ所に創APを作成した被験マウスの片側の創APへ音響放射圧ARPによる非接触・周期的圧刺激(10Hz, 90.6Pa, 1時間/日, 3日連続)を負荷した。負荷の開始から5日後、及び、7日後にそれぞれ創部組織片を採取した。採取した組織片で凍結切片を作製し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。コラーゲン産生の定量化として、コラーゲンを特異的に染色するマッソン・トリクローム染色を施行し、コラーゲン線維が緑~薄い青に染色されるのを確認した(
図14)。染色像から、デバイス照射側では肉芽全層でコラーゲン線維が密に認められた。さらにコラーゲン染色の各画素の輝度が切片像全体に占める割合を画像編集ソフト(Photoshop(登録商標))で解析した。5日後の染色像の画素数平均値を比較すると、照射側では2598であったのに対して、非照射側では1073であった。非照射側に比べて、照射側では、2.4倍コラーゲン産生が増加していた(
図15)。また、7日後の染色像の画素数平均値を比較したところ、照射側では3305であったのに対して、非照射側では2043であった。非照射側に比べて、照射側では、1.6倍コラーゲン産生が増加していた(
図15)。これは、超音波の音響放射圧ARPにより、創傷部に線維芽細胞が遊走して集まり、膠原線維(コラーゲン)が産生されたものと考えられる。
【0064】
(4-3)実施例3(超音波の音響放射圧による血管新生促進)
本実施形態の実施例3を説明する。実施例3は、超音波の音響放射圧ARPによる血管新生促進の例である。
【0065】
創傷治癒の過程では、創部へ栄養と酸素を供給するための毛細血管の新生が起こるため、血管新生の状態を評価することが創傷治癒の指標となる。そこで被験マウスを用いて新生血管の評価を行った。
実施例1と同様に、2カ所に創APを作成した被験マウスの片側の創APへ音響放射圧ARPによる非接触・周期的圧刺激(10Hz, 90.6Pa, 1時間/日, 3日連続)を負荷した。負荷の開始から14日後にそれぞれ創部組織片を採取した。採取した創部組織片を、OCTコンパウンドを用いて封埋後、凍結切片を作製し、4%パラホルムアルデヒドで固定し血管内皮細胞を抗CD31抗体で免疫染色を施した。免疫染色像から、デバイス照射側では創部表層部位でCD31陽性血管が創部全層にわたり認められた(
図16)。免疫染色によって得られたCD31陽性細胞の各画素の輝度を画像編集ソフト(Photoshop(登録商標))で解析した。免疫染色像の画素数平均値を比較すると、照射側では307.50あったのに対して、非照射側では186.57であった。非照射側に比べて、照射側では1.6倍血管新生が増加していた(
図17)。これは、超音波の音響放射圧ARPにより、創傷部に線維芽細胞が遊走して集まり、膠原線維(コラーゲン)が産生され、続いて血管新生が促されたものと考えられる。
【0066】
(4-4)実施例4(超音波の音響放射圧の最適振動数)
本実施形態の実施例4を説明する。実施例4は、超音波の音響放射圧の最適振動数の例である。
【0067】
創傷治癒に最適の音響放射圧ARPの振動数を判定するために以下の実験を行った。
実施例1と同様に、2カ所に創APを作成した被験マウスの片側の創APへ、振動数の異なる4パターンの音響放射圧ARP(0Hz、1Hz、10Hz、及び、100Hzの4種類)による非接触・周期的圧刺激(90.6Pa, 1時間/日, 3日連続)を負荷した。負荷の開始から3日後、5日後、10日後にそれぞれ創部組織片を採取し、採取した創部組織片で凍結切片を作製し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。ヘマトキシリン・エオシン(H-E)染色・マッソンクローム染色を施し、その染色像から肉眼で、創の収縮の度合い、浸潤の程度から見積もられる炎症細胞の消失、及び、肉芽のコラーゲン組織の厚みを、照射側と非照射側とで比較した(表1)。創傷治癒過程における最適振動数を判定した結果、100Hz < 0Hz < 1Hz ≦ 10Hzの適性傾向が観察された。
【表1】
【0068】
(4-5)実施例5(超音波の音響放射圧による血管内皮細胞の微小変形)
本実施形態の実施例5を説明する。実施例5は、超音波の音響放射圧ARPによる血管内皮細胞の微小変形の例である。
【0069】
超音波の音響放射圧ARPにより、血管内皮細胞に物理的に与える影響を調べるために以下の実験を行った。
生細胞の細胞膜を透過して肉眼では見えにくい細胞形態を可視染色できる蛍光染色色素のcalcein AMを、I型コラーゲンゲル上に3~6時間培養したヒト微小血管内皮細胞(以下「HMEC-1細胞」という)にロード(1時間)した。次いでHMEC-1細胞の頂上面(アピカル位)から、圧刺激(90.6Pa)を負荷しつつ、共焦点レーザ走査型顕微鏡(LSM 510/710)を用いてリアルタイムイメージング法により蛍光断層観察した。これにより超音波の音響放射圧ARPによる細胞変形量を視覚的に解析できた。細胞は、音響放射圧ARPが負荷された頂上面から圧縮されて、25±5%扁平化された(
図18)。
【0070】
(4-6)実施例6(超音波の音響放射圧による血管内皮細胞の高頻度Ca2+オシレーション)
本実施形態の実施例6を説明する。実施例6は、超音波の音響放射圧ARPによる血管内皮細胞の高頻度Ca2+オシレーションの例である。
【0071】
超音波の音響放射圧ARPにより生じる細胞内カルシウムイオン(Ca
2+)濃度の変動を調べるために以下の実験を行った。
HMEC-1細胞の血管様ネットワーク形成を短時間で作成するため、HMEC-1細胞をマトリゲル上に播種した。3~6時間経過後、Ca
2+動態の蛍光指示薬としてFluo-8 AMをロード(1時間)し、細胞の頂上面に、音響放射圧ARPによる周期的圧刺激(10Hz, 90.6Pa)を負荷した(
図19)。これをリアルタイムイメージング法により観察した。
負荷の直後から高頻度(最大7回/分)で細胞内でCa
2+オシレーションを生じた。Ca
2+オシレーションとは、Ca
2+の濃度が短時間に上昇と下降を繰り返す振動現象である。一方、周期的圧刺激を止めると、細胞内Ca
2+オシレーションは、周期的圧刺激を負荷する前と同等の水準に減衰した(
図20)。
血管様ネットワーク形成の過程の比較対象として、コラーゲンゲル上にHMEC-1細胞を培養した増殖過程の条件下で、細胞内Ca
2+動態をリアルタイムイメージング法により観察した(
図21)。その結果、周期的圧刺激によってCa
2+の濃度変化が生じたものの、
図20のように短時間に上昇と下降を繰り返すのではなく、一度上昇した後で、持続的に減衰することを確認した(
図22)。
【0072】
(4-7)実施例7(超音波の音響放射圧による血管形成に関わる遺伝子発現変化)
本実施形態の実施例7を説明する。実施例7は、超音波の音響放射圧ARPによる血管形成に関わる遺伝子発現変化の例である。
【0073】
細胞変形や高頻度Ca
2+オシレーションを引き起こす超音波の音響放射圧が、HMEC-1細胞の遺伝子発現をどのように変化させるか解析した。
実施例6と同様に、血管様ネットワーク形成を短時間で作成できるマトリゲル上にHMEC-1細胞を播種した。細胞の頂上面(アピカル位)から周期的圧刺激(10Hz/90.6Pa/1時間)を負荷して、細胞内で高頻度Ca
2+オシレーションが起きている状態を惹起した後、24時間インキュベータ内で培養した。照射側の細胞と、非照射側の細胞から、それぞれ、標準的なプロトコルを用いてRNAを抽出した。マイクロアレイ(Agilent Technologies)を用いた遺伝子発現の網羅的解析を行った結果、29000以上の遺伝子発現情報を得た。これらの中から、非照射群に対する照射群の遺伝子発現変動倍率(FC>1.5)、及び、p-value (p<0.05)がともに高い遺伝子を絞り込んだところ、血管形成に関わる遺伝子Hey1, Hey2, Nrarp,EphB4, ephrinB2の発現が増加していた(表2)。特に血管形成において重要な役割を果たしていると考えられるNotchシグナルの下流転写調節因子Hey1及びHey2は、それぞれ、4.6倍及び 3.5倍へ増加した。血管形成において血管密度を調節するNrarp,動脈内皮細胞、並びに、静脈内皮細胞が発現する膜タンパク質ephrinB2及びEphB4も、それぞれ増加した。
【表2】
【0074】
(4-8)実施例8(細胞頂上面からの圧刺激による血管内皮細胞の血管様ネットワーク形成促進)
本実施形態の実施例8を説明する。実施例8は、細胞頂上面からの圧刺激による血管内皮細胞の血管様ネットワーク形成促進の例である。
図23は、実施例8の説明図である。
図24は、実施例8の実験結果を示す図である。
図25は、実施例8の比較例の実験結果を示す図である。
【0075】
実施例1~7から得られた結果より、適度な周期的圧刺激が直接細胞の微小変形を引き起こし、それが血管内皮細胞の増殖と分化を調節する引き金となって血管様ネットワーク形成が開始され、その過程で高頻度Ca
2+オシレーションが生じ、血管内皮機能を活性化して血管新生を促していると考えられた。そこで、より生体環境に近いI型コラーゲンゲル上で培養したHMEC-1細胞の挙動に着目した。
この条件下で培養したHMEC-1細胞は、敷石状に増殖し平面構造を示すが(
図23)。細胞頂上面(アピカル位)から持続的圧刺激(90.6Pa)を負荷すると、血管様ネットワーク構造が24時間で形成された(
図24)。また、細胞内Ca
2+濃度変化に寄与すると考えられる細胞外液を低Ca
2+濃度(0.07mM)溶液に置換して培養したところ、
図25に示すように、血管様構造は形成されず、細胞増殖を呈した。
【0076】
(4-9)実施例9(超音波の音響放射圧による定常的な圧刺激)
本実施形態の実施例9を説明する。実施例9は、超音波の音響放射圧ARPによる定常的な圧刺激の例である。
【0077】
実施例1と同様に、2カ所に創APを作成した被験マウスの片側の創APへ定常的な非接触圧刺激(0Hz, 90.6Pa, 1時間/日, 3日連続)を負荷した。負荷の開始から7日目(負荷後4日目)に、肉眼で創閉鎖・上皮化を観察したところ、非照射のコントロールより早く治癒しているのがわかった。
【0078】
(5)変形例
変形例を説明する。
【0079】
(5-1)変形例1
変形例1を説明する。変形例1は、振動周波数及び超音波パラメータの少なくとも1つを治療対象に応じて決定する例である。
【0080】
(5-1-1)変形例1の概要
変形例1の概要を説明する。
図26は、変形例1の概要を示す概略図である。
【0081】
図26に示すように、変形例1のコントローラ10は、治療対象に関する治療対象情報に基づいて振動周波数及び超音波パラメータを決定する点、並びに、決定した振動周波数及び超音波パラメータに基づいて駆動信号DRVを生成する点において、本実施形態(
図7)とは異なる。
【0082】
複数の超音波USWは、振動周波数及び超音波パラメータに応じた波形を有する。焦点FPで発生する音響放射圧ARPの振動周波数及び圧力強度は、振動周波数及び超音波パラメータに依存するので、治療対象情報に応じた音響放射圧ARPが、患部APに直接伝わる。
【0083】
(5-1-2)データベース
変形例1のデータベースを説明する。
図27は、変形例1のパラメータ判定テーブルのデータ構造を示す図である。
【0084】
図27に示すように、パラメータ判定テーブルには、治療対象に応じて振動周波数及び超音波パラメータを決定するための情報が格納される。
パラメータ判定テーブルは、「独立変数」フィールドと、「従属変数」フィールドと、を含む。
【0085】
「独立変数」フィールドには、振動周波数及び超音波パラメータを決定するための独立変数が格納される。「独立変数」フィールドは、「治療対象属性」フィールドと、「生体情報」フィールドと、「患部属性」フィールドと、を含む。
【0086】
「治療対象属性」フィールドには、治療対象の属性(例えば、生物種)に関する治療対象属性情報が格納される。
【0087】
「生体情報」フィールドには、治療対象の生体に関する生体情報が格納される。「生体情報」フィールドは、「血圧」フィールドと、「心拍数」フィールドと、を含む。
「血圧」フィールドには、治療対象の血圧に関する情報が格納される。
「心拍数」フィールドには、治療対象の心拍数に関する情報が格納される。
【0088】
「患部属性」フィールドには、患部APの属性に関する患部属性情報が格納される。「患部属性」フィールドは、「面積」フィールドと、「種類」フィールドと、を含む。
【0089】
「面積」フィールドには、患部APの面積に関する情報が格納される。
【0090】
「種類」フィールドには、患部APの種類(例えば、創傷、火傷、又は、裂傷)に関する情報が格納される。
【0091】
「従属変数」フィールドには、「独立変数」フィールドの変数に従属する従属変数が格納される。「従属変数」フィールドは、「振動周波数」フィールドと、「超音波パラメータ」フィールドと、を含む。
【0092】
「振動周波数」フィールドには、振動周波数に関する情報が格納される。
【0093】
「超音波パラメータ」フィールドには、超音波パラメータに関する情報が格納される。「超音波パラメータ」フィールドは、「放射時間」フィールドと、「振幅」フィールドと、「変調方式」フィールドと、を含む。
【0094】
「放射時間」フィールドには、超音波の放射時間に関する情報が格納される。
【0095】
「振幅」フィールドには、超音波の振幅に関する情報が格納される。
【0096】
「変調方式」フィールドには、超音波の変調方式に関する情報が格納される。
【0097】
(5-1-3)超音波治療装置の処理フロー
変形例1の超音波治療装置の処理フローを説明する。
【0098】
変形例1の超音波治療装置の処理フローの第1例を説明する。
ユーザが操作部16を操作することにより、全ての独立変数(例えば、治療対象属性、治療対象の血圧及び心拍数、並びに、患部APの面積及び種類)をコントローラ10に与えると、プロセッサ12は、ステップS104(
図8)において、パラメータ判定テーブル(
図27)を参照して、ユーザによって与えられた独立変数に従属する従属変数を、超音波パラメータとして決定する。
【0099】
変形例1の超音波治療装置の処理フローの第2例を説明する。
ユーザが操作部16を操作することにより、一部の独立変数(例えば、治療対象属性)をコントローラ10に与えると、プロセッサ12は、治療対象に装着された計測装置(不図示)から、治療対象の血圧及び心拍数に関する情報を取得する。
プロセッサ12は、ステップS100において、取得した画像データに対して画像解析(例えば、特徴量解析)を実行することにより、患部APの形状に加えて、患部APの面積及び種類を特定する。
プロセッサ12は、ステップS104(
図8)において、パラメータ判定テーブル(
図27)を参照して、これらの独立変数(ユーザによって与えられた治療対象属性、計測装置から取得した血圧及び心拍数、並びに、画像解析によって得られた患部APの面積及び種類)に従属する従属変数を、超音波パラメータとして決定する。
【0100】
変形例1によれば、コントローラ10が、治療対象情報に基づいて決定された振動周波数及び超音波パラメータに応じた超音波USWを集束させる。これにより、治療対象にとって最適な音響放射圧ARPを患部APに伝えることができる。
【0101】
(5-2)変形例2
変形例2を説明する。変形例2は、振動周波数及び超音波パラメータの少なくとも1つを動的に変更する例である。
【0102】
変形例2のコントローラ10は、治療の間、ステップS101~S103の処理を繰り返し実行する。従って、患部APの位置が動くと、ステップS103において計算される位相差が変化する。その結果、ステップS106において出力される駆動信号が患部APの位置の動きに応じて変化する。
【0103】
変形例2によれば、患部APの位置に応じて駆動信号が変化する。これにより、治療における患部APの位置の制約を取り除くことができる。
変形例2は、患部APを固定できない(例えば、患部APが深刻な傷である、又は、治療対象が小動物である)場合に、特に有用である。
【0104】
(6)本実施形態の小括
以下、本実施形態について小括する。
【0105】
本実施形態の第1態様は、
複数の超音波トランスデューサ21を備え、
患部APの位置を特定する手段(例えば、ステップS101を実行するプロセッサ12)を備え、
特定された患部APの位置に基づいて、複数の超音波トランスデューサによって放射される超音波の焦点を決定する手段(例えば、ステップS102を実行するプロセッサ12)を備え、
決定された焦点で超音波が集束するように、複数の超音波トランスデューサ21を個別のタイミングで駆動させる駆動信号DRVを生成する駆動回路15を備える、
超音波治療装置1である。
【0106】
第1態様によれば、患部APの位置に基づいて決定された焦点FPに超音波USWが集束するので、焦点FPに発生する音響放射圧ARPが患部APに直接伝播する。音響放射圧ARPは、媒体(例えば、空気又は医薬)を介さずに、患部APに直接伝わる。従って、患部APに超音波放射部20を接触させる必要はなく、且つ、患部APに医薬を塗布する必要もない。これにより、超音波を用いた治療における感染リスクを低減することができる。
【0107】
本実施形態の第2態様では、
駆動回路15は、周波数を有する駆動信号DRVを生成する。
【0108】
第2態様によれば、音響放射圧ARPが振動数を有する(つまり、焦点FPで振動が発生する)ので、患部APの回復をより促進することができる。
【0109】
本実施形態の第3態様では、
周波数を決定する手段は、治療対象に関する治療対象情報に基づいて、周波数を決定し、
駆動回路15は、決定された周波数を有する駆動信号DRVを生成する。
【0110】
第3態様によれば、治療対象情報に基づいて決定された振動周波数に応じた超音波USWが集束するので、治療対象に応じた音響放射圧ARPが患部APに直接伝播する。従って、治療対象にとって最適な音響放射圧ARPを患部APに伝えることができる。
【0111】
本実施形態の第4態様では、
各超音波トランスデューサ21から放射される超音波の放射時間、振幅、及び、変調方式の少なくとも1つを含む超音波パラメータを決定する手段(例えば、ステップS104を実行するプロセッサ12)を備え、
駆動回路15は、決定された超音波パラメータに応じた駆動信号DRVを生成する。
【0112】
第4態様によれば、超音波の放射時間、振幅、及び、変調方式の少なくとも1つが可変である。これにより、患部APの回復をより促進することができる。
【0113】
本実施形態の第5態様では、超音波パラメータを決定する手段は、治療対象に関する治療対象情報に基づいて、超音波パラメータを決定する。
【0114】
第5態様によれば、治療対象情報に基づいて決定された超音波パラメータに応じた超音波USWが集束するので、治療対象に応じた音響放射圧ARPが患部APに直接伝播する。従って、治療対象にとって最適な音響放射圧ARPを患部APに伝えることができる。
【0115】
本実施形態の第6態様では、治療対象情報は、治療対象の生体情報、治療対象の属性、及び、患部APの属性の少なくとも1つである。
【0116】
第6態様によれば、治療対象の生体情報、治療対象の属性、及び、患部APの属性の少なくとも1つに応じた音響放射圧ARPを患部APに直接伝播させることができる。
【0117】
本実施形態の第7態様では、生体情報は、治療対象の血圧、及び、心拍数の少なくとも1つを含む。
【0118】
第7態様によれば、治療対象の血圧、及び、心拍数の少なくとも1つに応じた音響放射圧ARPを患部APに直接伝播させることができる。
【0119】
本実施形態の第8態様では、患部APの属性は、患部APの面積、及び、種類の少なくとも1つを含む。
【0120】
第8態様によれば、患部APの面積、及び、種類の少なくとも1つに応じた音響放射圧ARPを患部APに直接伝播させることができる。
【0121】
本実施形態の第9態様では、決定する手段は、患部APの形状に基づいて、焦点の位置、及び、数を決定する。
【0122】
第9態様によれば、患部APの形状に応じた音響放射圧ARPを患部APに直接伝播させることができる。
【0123】
本実施形態の第10態様では、特定する手段は、ユーザの指示に基づいて、患部APの位置を特定する。
【0124】
第10態様によれば、ユーザが任意に設定した焦点FPに音響放射圧ARPを発生させることができる。
【0125】
本実施形態の第11態様では、特定する手段は、画像を解析することにより、患部APの位置を特定する。
【0126】
第11態様によれば、超音波治療装置1が認識した焦点FPに音響放射圧ARPを発生させることができる。
【0127】
(7)その他の変形例
その他の変形例について説明する。
【0128】
超音波治療装置1は、例えば、以下のデバイスに応用される。
・創傷治療デバイス
・感染治療デバイス
・美容ケアデバイス
・抗加齢ケアデバイス
・皮膚ケアデバイス
・頭髪ケアデバイス
・動物用治療デバイス
・動物用ケアデバイス
例えば、超音波治療装置1を美容ケアデバイスに応用する場合、超音波を肌に放射することにより、美容効果のある膠原線維(コラーゲン)を産出することができる。
例えば、超音波治療装置1を頭髪ケアデバイスに応用する場合、超音波を頭部に放射することにより、頭髪の成長(つまり、育毛)を促進させることができる。
例えば、超音波治療装置1を動物用治療デバイスに応用する場合、超音波を動物の患部に放射することにより、本実施形態と同様に、感染リスクを低減することができる。
【0129】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の範囲は上記の実施形態に限定されない。また、上記の実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更が可能である。また、上記の実施形態及び変形例は、組合せ可能である。
【符号の説明】
【0130】
1 :超音波治療装置
10 :コントローラ
11 :記憶装置
12 :プロセッサ
13 :入出力インタフェース
15 :駆動回路
16 :操作部
17 :表示部
20 :超音波放射部
21 :超音波トランスデューサ
22 :カメラ