(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】客船の客室構造
(51)【国際特許分類】
B63B 29/02 20060101AFI20220520BHJP
B63B 29/00 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
B63B29/02 Z
B63B29/00 A
(21)【出願番号】P 2017210098
(22)【出願日】2017-10-31
【審査請求日】2020-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】515092002
【氏名又は名称】idealogicdesign株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109472
【氏名又は名称】森本 直之
(72)【発明者】
【氏名】笠井 統太
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-302094(JP,A)
【文献】特開2002-362475(JP,A)
【文献】実開平03-088897(JP,U)
【文献】特開2002-166881(JP,A)
【文献】特開昭61-211192(JP,A)
【文献】特表2011-500422(JP,A)
【文献】米国特許第05915321(US,A)
【文献】旅とのりもの,船の旅/隠岐汽船・隠岐観光,2013年10月
【文献】旅のしおり,伊勢湾フェリー「伊勢丸」乗船記,日本,2007年11月
【文献】にっぽん全国たのしい船旅2016-2017,ぞくぞく就航する最新鋭のフェリー&貨物船,日本,2016年08月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 29/02
B63B 29/04
B63B 29/00
B63B 34/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窓側に沿って配置され、床面が第1の高さに設定されたフラットな第1客室エリアと、
上記窓に対して船内側に配置され、床面が第2の高さに設定されたフラットな第2客室エリアと、
上記第1客室エリアと第2客室エリアの間に配置された通路とを備え、
上記第2客室エリアの上記第2の高さは、上記第1客室エリアの上記第1の高さより高く設定されており、
上記第1客室エリアと上記通路は、おなじ上記第1の高さに設定されてフラットであり、その境界に仕切り部材が設けられ、
上記第2客室エリアと上記通路
の境界には仕切り部材が設けられておらず、その境界が段違いになっており、
上記第2客室エリアの船内側の周囲は、廊下とロビーで囲まれており、
上記ロビーおよび上記廊下の床面高さが、上記通路の床面高さより一段低く、上記ロビーおよび上記廊下と上記通路のあいだが段違いであり、
上記第1客室エリアと上記第2客室エリアおよび上記通路は、土足禁止としうる敷物が敷かれている
ことを特徴とする客船の客室構造。
【請求項2】
上記第1客室エリアは、床面が上記第1の高さに設定された複数の第1の単位エリアに分割され、
上記第2客室エリアは、床面が上記第2の高さに設定された複数の第2の単位エリアに分割され、
上記第1の単位エリアと上記第2の単位エリアが千鳥状に配置されている
請求項1記載の客船の客室構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、客船の客室構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
客船は一般に、船体を構成する上部構造物内に、客席が配置された客室を有している。よくある客船では、上記客席は、教室のように、前に向けた横並びの列が、前後に複数列配置されたものが多い。最前列や左右の窓際の客席であれば、窓からの展望が望める。ところが、それ以外の客席は、料金はおなじであるにもかかわらず展望を楽しめず、不公平である。
【0003】
このような不公平感を解消する客船に関する先行技術文献として、本出願人は下記の特許文献1を把握している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
上記特許文献1は、客船に関するものであり、つぎの記載がある。
[実用新案請求の範囲]
複数個のロワーハルをアッパーハルで連結して船体を構成し、前期アッパーハルは円盤状であって、その側面全周に観光窓を設けるとともに内部床面を中心に向かって立上る傾斜床とし、かつ該傾斜床に円周方向に平列される客席を中心方向に複数列配置するように構成したことを特徴とする客船。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の客船は、アッパーハルが円盤状で、側面全周に観光窓が設けられ、内部の床面が中心に向かって立上る傾斜床であり、この傾斜床に客席を円周方向に平列し、さらに中心方向に複数列配置している。
しかしながら、このような構造では、たとえば車椅子の利用者はスムーズに客室内を移動できないし、高齢者が移動するにも難儀するのは明らかである。つまり、特許文献1は、健常者のことしか念頭にない設計であり、バリアフリーに対する意識はないに等しい。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、つぎの目的をもってなされたものである。
窓からの展望に対する不公平感を緩和し、しかもバリアフリーに適した、客船の客室構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の客船の客室構造は、上記目的を達成するため、つぎの構成を採用した。
窓側に沿って配置され、床面が第1の高さに設定されたフラットな第1客室エリアと、
上記窓に対して船内側に配置され、床面が第2の高さに設定されたフラットな第2客室エリアと、
上記第1客室エリアと第2客室エリアの間に配置された通路とを備え、
上記第2客室エリアの上記第2の高さは、上記第1客室エリアの上記第1の高さより高く設定されており、
上記第1客室エリアと上記通路は、おなじ上記第1の高さに設定されてフラットであり、その境界に仕切り部材が設けられ、
上記第2客室エリアと上記通路の境界には仕切り部材が設けられておらず、その境界が段違いになっており、
上記第2客室エリアの船内側の周囲は、廊下とロビーで囲まれており、
上記ロビーおよび上記廊下の床面高さが、上記通路の床面高さより一段低く、上記ロビーおよび上記廊下と上記通路のあいだが段違いであり、
上記第1客室エリアと上記第2客室エリアおよび上記通路は、土足禁止としうる敷物が敷かれている。
【0009】
請求項2記載の客船の客室構造は、上記目的を達成するため、請求項1記載の構成に加え、つぎの構成を採用した。
上記第1客室エリアは、床面が上記第1の高さに設定された複数の第1の単位エリアに分割され、
上記第2客室エリアは、床面が上記第2の高さに設定された複数の第2の単位エリアに分割され、
上記第1の単位エリアと上記第2の単位エリアが千鳥状に配置されている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の客船の客室構造は、上記第2客室エリアの上記第2の高さは、上記第1客室エリアの上記第1の高さより高く設定されているため、船内側の第2客室エリアからも窓からの展望を楽しめ、窓側の第1客室エリアか船内側の第2客室エリアのあいだで、窓からの展望に対する不公平感は緩和される。また、船客は、第1客室エリアと第2客室エリアの間にある通路をとおり、窓側の第1客室エリアか船内側の第2客室エリアのどちらにでも入ることができる。車椅子の利用者や高齢者等のバリアフリー対象者であっても、第1客室エリアと第2客室エリアの双方を不便なく利用できる。しかも、第1客室エリアと第2客室エリアはそれぞれフラットであるため、バリアフリーに適している。
また、上記第1客室エリアと上記通路は、おなじ上記第1の高さに設定されてフラットであり、その境界に仕切り部材が設けられ、上記第2客室エリアと上記通路の境界には仕切り部材が設けられておらず、その境界が段違いになっている。このため、第1客室エリアよりも窓から遠い第2客室エリアの利用客にとって、窓側に遮る物がなく、開放感を得られる。
また、上記第1客室エリアと上記第2客室エリアおよび上記通路を土足禁止としうるため、船客は靴を脱いでくつろいで過ごせる。また、寝転ぶ姿勢がとりやすく、健常者にとってはくつろげるし、身体に病気や不自由がある利用者にとっては、無理に苦しい姿勢を強いられず、楽な姿勢で利用できる。また、上記第2客室エリアの船内側の周囲は、廊下とロビーで囲まれており、上記ロビーおよび上記廊下の床面高さが、上記通路の床面高さより一段低く、上記ロビーおよび上記廊下と上記通路のあいだが段違いである。このため、通路とその先の第1客室エリアおよび第2客室エリアが土足禁止であることが明確にわかる。土足禁止のエリアを誤って土足で利用して汚染するような事態になりにくい。
【0012】
請求項2記載の客船の客室構造は、上記第1客室エリアが複数の第1の単位エリアに分割され、上記第2客室エリアが複数の第2の単位エリアに分割されているため、グループ同士の利用者にとって、ほかのグループと居住空間が分離され、快適性が高い。また、複数の第1の単位エリアはいずれも上記第2の高さに設定され、複数の第2の単位エリアはいずれも上記第2の高さに設定されているため、第1客室エリアと第2客室エリアのあいだの不公平感の緩和は妨げられないし、第1の単位エリア同士の移動や第2の単位エリア同士の移動にも支障が少なく、バリアフリーにも適する。
また、上記第1の単位エリアと上記第2の単位エリアが千鳥状に配置されている。これにより、第1の単位エリアの利用客と第2の単位エリアの利用客との直接対面を避けることができ、各利用客の快適性が増す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態による客船の客室構造を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の客船の客室構造の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
〔第1実施形態〕
図1は本発明の第1実施形態による客船の客室構造を説明する平面図である。
図2は上記第1実施形態の縦断面図である。
【0017】
本実施形態の客船の客室構造は、たとえば船体における上部構造部内に設けることができる。
【0018】
〔平面構造〕
この客室構造は、第1客室エリア11と第2客室エリア12と通路13とを備えている。
【0019】
上記第1客室エリア11は、窓21側に沿って配置されている。上記第2客室エリア12は、上記窓21に対して船内側に配置されている。上記通路13は、上記第1客室エリア11と第2客室エリア12の間に配置されている。
【0020】
図示した例では、複数(図では3つ)の窓21に沿うように、長方形の上記第1客室エリア11が配置されている。上記第1客室エリア11よりも船内側に、上記第1客室エリア11に沿うように、上記通路13が配置されている。上記通路13よりも船内側に、上記通路13に沿うように、長方形の上記第2客室エリア12が配置されている。つまり、窓21側に第1客室エリア11、通路13をはさんで、船内奥側に第2客室エリア12が配置されている。
【0021】
上記第2客室エリア12の長手方向の寸法は、通路13の寸法よりも短い。上記第2客室エリア12の船内側の周囲は、廊下32とロビー31で囲まれている。上記第2客室エリア12の長手方向の一端側において、通路13と廊下32がつながっている。同様に、上記第2客室エリア12の長手方向の他端側において、通路13とロビー31がつながっている。
【0022】
上記第2客室エリア12と廊下32のあいだにはパーテーション33が配置されて目隠しされている。上記第2客室エリア12とロビー31のあいだには靴入れ34が配置されている。上記第1客室エリア11,上記第2客室エリア12,上記通路13は、土足禁止のエリアに設定されている。
【0023】
上記第1客室エリア11と上記第2客室エリア12には、土足禁止としうる敷物15が敷かれている。上記敷物15は、この例ではマットが用いられている。上記敷物15としては、マットに限らず、カーペットや畳を使用することもできる。
また、上記通路13には、土足禁止としうる敷物15Aが敷かれている。上記敷物15Aは、この例ではカーペットが用いられている。上記敷物15Aとしては、カーペットに限らず、マットや畳を使用することもできる。
【0024】
上記第1客室エリア11は、複数(この例では2つ)の区画手段22により、複数(この例では3つ)の第1の単位エリア11Aに分割されている。また、上記第1客室エリア11と通路13の境界には、仕切り部材24が設けられている。上記仕切り部材24には、各第1の単位エリア11Aに対応して、各第1の単位エリア11Aと通路13のあいだを相互に通行可能とするための開放部23が設けられている。
【0025】
上記第2客室エリア12は、区画手段22(この例では1つ)により、複数(この例では2つ)の第2の単位エリア12Aに分割されている。また、上記第2客室エリア12と通路13の境界には仕切り部材24が設けられておらず、上記境界は、後述するように段違いになっている。
【0026】
このように本実施形態では、窓21側に複数の第1の単位エリア11Aが配置され、通路13をはさんで、船内奥側に複数の第2の単位エリア12Aが配置されている。
【0027】
この例では、複数(この例では3つ)の窓21それぞれに対応して1つずつ、第1の単位エリア11Aが設けられている。また、上記各第1の単位エリア11Aと、各第2の単位エリア12Aは、並んだ方向において交互に、つまり千鳥状になるよう配置されている。
【0028】
〔床面高さ〕
上記第1客室エリア11は、全体の床面が第1の高さに設定されてフラットになっている。したがって、上記各第1の単位エリア11Aは、いずれも上記第1の高さに設定されている。
上記第2客室エリア12は、全体の床面が第2の高さに設定されてフラットになっている。したがって、上記各第2の単位エリア12Aは、いずれも上記第2の高さに設定されている。
上記通路13は、床面が上記第1客室エリア11とおなじ上記第1の高さに設定されてフラットになっている。
【0029】
上記第2客室エリア12の上記第2の高さは、上記第1客室エリア11の上記第1の高さより高く設定されている。上記第1の高さと第2の高さの差は、たとえば10~20センチ程度に設定することができる。このようにすることにより、第1客室エリア11よりも窓21から遠い第2客室エリア12の利用客は、窓21側の第1客室エリア11の利用客の頭越しに、窓21からの展望を楽しめる。
【0030】
また、上記各第1の単位エリア11Aと、各第2の単位エリア12Aを千鳥状に配置したことにより、第1の単位エリア11Aの利用客と第2の単位エリア12Aの利用客との直接対面を避けることができ、各利用客の快適性が増す。
【0031】
また、上記第2客室エリア12と通路13の境界には仕切り部材24が設けられておらず、上記境界が段違いになっているため、第1客室エリア11よりも窓21から遠い第2客室エリア12の利用客にとって、窓21側に遮る物がなく、開放感を得られる。
【0032】
この例では、ロビー31および廊下32の床面高さが、通路13の床面高さより一段低く、ロビー31および廊下32と通路13のあいだが段違いになっている。そして、ロビー31と通路13の段違い部分の近くに靴入れ34が配置されている。このようにすることにより、通路13とその先の第1客室エリア11および第2客室エリア12が土足禁止であることが明確にわかる。土足禁止のエリアを誤って土足で利用して汚染するような事態になりにくい。
【0033】
ロビー31および廊下32と通路13のあいだの段違い部には、移動式のスロープ35を取り付けることにより、車椅子の利用者等のバリアフリー対象者でも問題なく行き来できる。
【0034】
〔第1実施形態の効果〕
上記第1実施形態は、上記構成により、下記の作用効果を奏する。
【0035】
上記第1実施形態の客船の客室構造は、上記第2客室エリア12の上記第2の高さは、上記第1客室エリア11の上記第1の高さより高く設定されているため、船内側の第2客室エリア12からも窓21からの展望を楽しめ、窓21側の第1客室エリア11か船内側の第2客室エリア12のあいだで、窓21からの展望に対する不公平感は緩和される。また、船客は、第1客室エリア11と第2客室エリア12の間にある通路13をとおり、窓側の第1客室エリア11か船内側の第2客室エリア12のどちらにでも入ることができる。車椅子の利用者や高齢者等のバリアフリー対象者であっても、第1客室エリア11と第2客室エリア12の双方を不便なく利用できる。しかも、第1客室エリア11と第2客室エリア12はそれぞれフラットであるため、バリアフリーに適している。
【0036】
上記第1実施形態の客船の客室構造は、上記第1客室エリア11が複数の第1の単位エリア11Aに分割され、上記第2客室エリア12が複数の第2の単位エリア12Aに分割されているため、グループ同士の利用者にとって、ほかのグループと居住空間が分離され、快適性が高い。また、複数の第1の単位エリア11Aはいずれも上記第2の高さに設定され、複数の第2の単位エリア12Aはいずれも上記第2の高さに設定されているため、第1客室エリア11と第2客室エリア12のあいだの不公平感の緩和は妨げられないし、第1の単位エリア11A同士の移動や第2の単位エリア12A同士の移動にも支障が少なく、バリアフリーにも適する。
【0037】
上記第1実施形態の客船の客室構造は、上記第1客室エリア11と上記第2客室エリア12を土足禁止としうるため、船客は靴を脱いでくつろいで過ごせる。また、寝転ぶ姿勢がとりやすく、健常者にとってはくつろげるし、身体に病気や不自由がある利用者にとっては、無理に苦しい姿勢を強いられず、楽な姿勢で利用できる。
【0038】
〔その他の変形例〕
以上は本発明の特に好ましい実施形態について説明したが、本発明は示した実施形態に限定する趣旨ではなく、各種の態様に変形して実施することができ、本発明は各種の変形例を包含する趣旨である。
【0039】
たとえば、上記実施形態において、ロビー31および廊下の床面高さと第1客室エリア11および通路13の床面高さを同じにすることもできる。このようにすることで、よりバリアフリーに適したものになる。
【0040】
また、上記実施形態において、第1客室エリア11より通路13の床面高さを低くすることもできる。このようにすることで、第1客室エリア11および第2客室エリア12と通路13の境界がわかりやすくなる。
【符号の説明】
【0041】
11:第1客室エリア
11A:第1の単位エリア
12:第2客室エリア
12A:第2の単位エリア
13:通路
15:敷物
15A:敷物
21:窓
22:区画手段
23:開放部
24:仕切り部材
31:ロビー
32:廊下
33:パーテーション
34:靴入れ
35:スロープ