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  • 特許-バイポーラ鋏型ナイフ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】バイポーラ鋏型ナイフ
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/14 20060101AFI20220520BHJP
【FI】
A61B18/14
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018027700
(22)【出願日】2018-02-20
(65)【公開番号】P2019141286
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】504136993
【氏名又は名称】独立行政法人国立病院機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑井 寿雄
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-204974(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0265933(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0025528(US,A1)
【文献】米国特許第6083223(US,A)
【文献】国際公開第2014/196641(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0289957(US,A1)
【文献】米国特許第6273887(US,B1)
【文献】国際公開第2011/121827(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
嘴状に開閉することで組織を把持して切除する一対の刃部を備えてなり、第1刃部には高周波電源の一方の極に接続されたバイポーラ電極が配設され、第2刃部には高周波電源の他方の極に接続されたバイポーラ電極が配設されたバイポーラ鋏型ナイフであって、
第1刃部は、断面が等脚台形の四角柱である第1絶縁体と、該等脚台形の平行な2辺のうち短い辺を有する平面である短辺側平面に備えられた断面が等脚台形の四角柱である第1電極と、を有し、前記第1絶縁体の第1斜面と前記第1電極の第1斜面とは同一平面上にあり、且つ、前記第1絶縁体の第1斜面に対向する第2斜面と前記第1電極の第1斜面に対向する第2斜面とは同一平面上にあり、
第2刃部は、断面が二等辺三角形の凹溝部を有する柱体である第2絶縁体と、前記凹溝部の底部に備えられた断面が二等辺三角形の三角柱である第2電極と、を有し、前記凹溝部の第1斜面と前記第2電極の第1斜面とは同一平面上にあり、且つ、前記凹溝部の第1斜面に対向する第2斜面と前記第2電極の第1斜面に対向する第2斜面とは同一平面上にあり、
一対の刃部が開状態の場合は、前記第1刃部と前記第2刃部とは離間しており、一方、一対の刃部が閉状態の場合は、前記第1絶縁体の少なくとも一部が前記凹溝部に嵌め込まれると共に、前記第1電極が前記第2電極と離間した状態で前記凹溝部に嵌め込まれる、ことを特徴とするバイポーラ鋏型ナイフ。
【請求項2】
前記高周波電源の周波数は200kHz~3MHzであり、前記第1電極と前記第2電極との間の電圧は500V~800Vである、ことを特徴とする請求項1に記載のバイポーラ鋏型ナイフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電流を利用して体内の組織を例えば内視鏡下で切開するバイポーラ型の鋏型ナイフに関する。
【背景技術】
【0002】
早期消化管癌に対する内視鏡治療はその適用範囲が拡大され、例えば早期大腸癌治療等において内視鏡的粘膜切除術(ESD)は大きなウェイトを占めるようになってきた。
【0003】
ESDにおいては、電極が一個のいわゆるモノポーラ型の高周波ナイフが普通であり、もう一つの電極となる対極板が患者の体表面に接触配置される。例えば非特許文献1にはモノポーラ型の針型ナイフが記載されている。
【0004】
しかし、モノポーラ型ナイフでは、電極と対極板との間の患者の身体を導電体として高周波電流が流れるため、高周波電流がナイフ周囲の切除したい組織以外にも通電し、出血・穿孔等の合併症が生じる可能性がある。中でも穿孔は緊急手術が必要となる重篤な合併症である。特に大腸ESDは、針型ナイフでは内視鏡を動かすことで切除をしていくため、高度なスキルが必要となり穿孔発生のリスクも高くなっていた。
【0005】
そこでモノポーラ型の鋏型ナイフが提案されている。非特許文献2には、大腸腫瘍に対するESDを施行する際に、モノポーラ型の鋏型ナイフを使用した旨が記載されている。また特許文献1には、切開部分とその周囲の組織に対する焼灼の程度を安定させるモノポーラ型の鋏型ナイフが記載されている。このような鋏型ナイフは生検操作と同じ簡単な内視鏡操作で使用でき、組織をつかんでから引っ張って通電するため、筋層損傷なく穿孔の可能性を低減できる。しかし、依然として穿孔の可能性は残っており更なる安全性の高いナイフの開発の必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-272393号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】噴門部のESD,幽門輪のESD、松田充、日本消化器内視鏡学会雑誌、Vol.53(12),Dec.2011
【文献】SBナイフを併用した大腸ESD牽引法(3ch法)の試み、Progress of Digestive Endoscopy Vol.79 No.2(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、モノポーラ型の鋏型ナイフを用いたESDでも穿孔症例を経験することがあり、ESDの更なる安全性向上のため穿孔の発生をより防止できる新規な鋏型ナイフが求められる。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、更に穿孔の可能性を低減させる鋏型ナイフを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる鋏型ナイフは、バイポーラ型の鋏型ナイフである。具体的には、嘴状に開閉することで組織を把持して切除する一対の刃部を備えてなり、第1刃部には高周波電源の一方の極に接続されたバイポーラ電極が配設され、第2刃部には高周波電源の他方の極に接続されたバイポーラ電極が配設されたバイポーラ鋏型ナイフであって、第1刃部は、断面が等脚台形の四角柱である第1絶縁体と、該等脚台形の平行な2辺のうち短い辺を有する平面である短辺側平面に備えられた断面が等脚台形の四角柱である第1電極とを有し、前記第1絶縁体の第1斜面と前記第1電極の第1斜面とは同一平面上にあり、且つ、前記第1絶縁体の第1斜面に対向する第2斜面と前記第1電極の第1斜面に対向する第2斜面とは同一平面上にあり、第2刃部は、断面が二等辺三角形の凹溝部を有する柱体である第2絶縁体と、前記凹溝部の底部に備えられた断面が二等辺三角形の三角柱である第2電極とを有し、前記凹溝部の第1斜面と前記第2電極の第1斜面とは同一平面上にあり、且つ、前記凹溝部の第1斜面に対向する第2斜面と前記第2電極の第1斜面に対向する第2斜面とは同一平面上にあり、一対の刃部が開状態の場合は、前記第1刃部と前記第2刃部とは離間しており、一方、一対の刃部が閉状態の場合は、前記第1絶縁体の少なくとも一部が前記凹溝部に嵌め込まれると共に、前記第1電極が前記第2電極と離間した状態で前記凹溝部に嵌め込まれる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、穿孔の可能性をより抑制できるESD等に使用される鋏型ナイフが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ESDに使用される本実施形態にかかるバイポーラ鋏型ナイフを説明する図である。
図2】本実施形態にかかるバイポーラ鋏型ナイフを側面方向から説明する図である。
図3】本実施形態にかかるバイポーラ鋏型ナイフの外観を説明する図である。
図4】本実施形態にかかるバイポーラ鋏型ナイフの使用態様を説明する図であり、そのうち(A)は開状態であり、(B)閉状態である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0014】
図1は、例えばESDに使用されるバイポーラ鋏型ナイフ900であり、可撓性シース800は内視鏡の止血鉗子挿通チャンネルに挿脱される。可撓性シース800は例えば四フッ化エチレン樹脂チューブの電気絶縁性のチューブによって形成され、直径が例えば2~3mmで長さが例えば1~2mである。
【0015】
可撓性シース800の先端には、電気絶縁性の硬質プラスチックからなる支持本体810が連結固着されており、支持本体810には一定の幅のスリット820が長手方向に形成されている。
【0016】
図2に示されるように、本実施形態にかかるバイポーラ鋏型ナイフ900は、嘴状に開閉することで組織を把持して切除する一対の刃部である第1刃部110と第2刃部120とを備える。
【0017】
図3に示されるように、第1刃部110は、断面が等脚台形の四角柱である第1絶縁体112と、該等脚台形の平行な2辺のうち短い辺を有する平面である短辺側平面に備えられた断面が等脚台形の四角柱である第1電極111とを有する。第1電極111は高周波電源の一方の極に接続されたバイポーラ電極である。第1絶縁体112の第1斜面と第1電極111の第1斜面とは同一平面上にあり、且つ、第1絶縁体112の第1斜面に対向する第2斜面と第1電極111の第1斜面に対向する第2斜面とは同一平面上にある。
【0018】
第2刃部120は、断面が二等辺三角形の凹溝部123を有する柱体である第2絶縁体122と、凹溝部123の底部に備えられた断面が二等辺三角形の三角柱である第2電極121と、を有する。第2電極121は高周波電源の他方の極に接続されたバイポーラ電極である。凹溝部123の第1斜面と第2電極121の第1斜面とは同一平面上にあり、且つ、凹溝部123の第1斜面に対向する第2斜面と第2電極121の第1斜面に対向する第2斜面とは同一平面上にある。
【0019】
高周波電源の周波数は、特に限定されるものではないが例えば200kHz~3MHzであり、また例えば800kHz~1MHzである。第1電極111と第2電極121との間の電圧は、特に限定されるものではないが例えば500V~800Vであり、また例えば600V~700Vである。
【0020】
支持本体810の先端近傍には、一対の軸孔830が、スリット820の向きに対して直交する向きに、支持本体810の中心軸線を挟んでその両側に離れた位置に平行に形成されて、各軸孔830にステンレス製の支軸840が挿通されている。
【0021】
第1刃部110及び第2刃部120は、嘴状に開閉自在に二つの支軸840によって互いに独立して支持本体810に支持されている。
【0022】
図2にもどり、回転支持孔190は、支軸840が回転自在に嵌合するように第1刃部110及び第2刃部120に形成された孔である。第1刃部110及び第2刃部120の後方部分は、回転支持孔190より後方に駆動腕部180が一体に延出形成されており、その突出端近傍に形成された通孔170に、二本の導電線700の先端が通されて連結されている。導電線700のうち一方は第1電極111に接続されており、他方は第2電極121に接続されている。
【0023】
支持本体810の先端部には、第1刃部110と第2刃部120との間に位置するスペーサ600が配置されている。スペーサ600は支持本体810と一体に一部品で形成される。スペーサ600には2本の支軸840が個別に通される軸孔830が平行にスリット820に対して垂直の向きに貫通形成されている。
【0024】
次に本実施形態にかかるバイポーラ鋏型ナイフの使用態様について説明する。
【0025】
図4(A)に示されるように、第1刃部110と第2刃部120とが開状態の場合は、第1刃部110と第2刃部120とは離間している。一方、図4(B)に示されるように、一対の刃部が閉状態の場合は、第1絶縁体112の少なくとも一部は凹溝部123に嵌め込まれると共に、第1電極111が第2電極121と離間した状態で凹溝部123に嵌め込まれる。
【0026】
このように本実施形態にかかるバイポーラ鋏型ナイフによれば、一対の刃部の間に高周波電流を流す際に周囲を焼灼する虞を低減させることが可能であり、更に、一対の刃部が閉状態の場合、第1絶縁体112の少なくとも一部が凹溝部123に嵌め込まれてそれ以上閉じることができなくなるので、第1電極111と第2電極121との離間状態を安定的に保つことができ、電極同士の短絡を的確に防止することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
内視鏡的粘膜切除術に利用できる。
【符号の説明】
【0028】
110:第1刃部
111:第1電極
112:第1絶縁体
120:第2刃部
121:第2電極
122:第2絶縁体
123:凹溝部
170:通孔
180:駆動腕部
190:回転支持孔
600:スペーサ
700:導電線
800:可能性シース
810:支持本体
820:スリット
830:軸孔
840:支軸
900:バイポーラ鋏型ナイフ
図1
図2
図3
図4