(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】有機EL表示パネルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H05B 33/10 20060101AFI20220520BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20220520BHJP
H01L 27/32 20060101ALI20220520BHJP
H05B 33/12 20060101ALI20220520BHJP
H05B 33/22 20060101ALI20220520BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20220520BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
H05B33/10
H05B33/14 A
H01L27/32
H05B33/12 B
H05B33/22 Z
G09F9/30 365
G09F9/00 338
G09F9/30 349Z
(21)【出願番号】P 2018141161
(22)【出願日】2018-07-27
【審査請求日】2019-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】514188173
【氏名又は名称】株式会社JOLED
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 敏生
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-067343(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047144(WO,A1)
【文献】特開2006-105524(JP,A)
【文献】特開2018-078094(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0317318(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/10
H01L 51/50
H01L 27/32
H05B 33/12
H05B 33/22
G09F 9/30
G09F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機EL表示パネルの製造方法であって、
基板を準備する工程と、
前記基板上に行列状に複数の画素電極を形成する工程と、
前記基板上の少なくとも行方向における前記画素電極と前記画素電極の間に列方向に延伸して行方向に複数の列バンクを並設する工程と、
行方向に隣接する前記列バンク間の間隙からなる列状塗布領域それぞれに、列方向に連続して有機発光材料を含むインクを塗布する工程と、
平面視において、少なくとも前記基板の前記インクが塗布された領域を覆う整流板を、前記基板の上面から第1の距離だけ離間させた状態とし、当該状態にて前記基板を含む雰囲気の圧力を第1の圧力まで減圧する工程と、
前記雰囲気の圧力が前記第1の圧力に達した後、前記整流板を前記基板の上面から前記第1の距離よりも大きい第2の距離だけ離間させた状態とし、当該状態にて前記雰囲気の圧力を前記第1の圧力より低い第2の圧力以下の圧力まで減圧する工程と、
前記基板を加熱することにより、前記列状塗布領域内に、列方向に連続して延伸する発光層を形成する工程と、
前記整流板を除去した状態で前記発光層上方に対向電極を形成する工程とを含
み、
前記第1の圧力は、1×10
4
Pa以上5×10
4
Pa以下であり、
前記第1の距離は、2mm以上10mm以下である
有機EL表示パネルの製造方法。
【請求項2】
前記第2の圧力は、1×10
-1Paであり、
前記第2の距離は、30mm以上70mm以下である
請求項
1に記載の有機EL表示パネルの製造方法。
【請求項3】
前記基板の前記複数の列バンクを含む範囲の幅に対する前記第1の距離の比率は、5/2000以上5/100以下である
請求項
1又は2に記載の有機EL表示パネルの製造方法。
【請求項4】
前記第1の圧力に到達する時間は、前記雰囲気の圧力の減圧を開始した後、1秒以上300秒以下の時間である
請求項1から3の何れか1項に記載の有機EL表示パネルの製造方法。
【請求項5】
前記雰囲気の圧力を前記第1の圧力まで減圧する工程では、前記基板に塗布されたインクのレベリングを促進し、
前記雰囲気の圧力を前記第2の圧力まで減圧する工程では、インクに残存する溶媒の蒸発を促進する
請求項1から
4の何れか1項に記載の有機EL表示パネルの製造方法。
【請求項6】
前記整流板は少なくとも前記基板上の前記複数の列バンクと対向する位置に配される
請求項1から
5の何れか1項に記載の有機EL表示パネルの製造方法。
【請求項7】
前記整流板は、前記基板の上方において前記基板を覆い、昇降手段により前記基板に対する相対的な高さを変更される
請求項1から
6の何れか1項に記載の有機EL表示パネルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機材料の電界発光現象を利用した有機EL(Electro Luminescence)素子を用いた有機EL表示パネルの製造方法、及びそれに用いるインク乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルテレビ等の表示装置に用いられる表示パネルとして、基板上に有機EL素子をマトリックス状に複数配列した有機EL表示パネルが実用化されている。この有機EL表示パネルは、各有機EL素子が自発光を行うので視認性が高い。
近年、デバイスの大型化が進み、効率の良い機能膜の成膜方法として、機能性材料を含むインクをインクジェット法等に基づいて塗布するウエットプロセスが提案されている。ウエットプロセスは機能膜を塗り分ける際の位置精度が基板サイズに依存せず、デバイスの大型化への技術的障壁が比較的低いメリットがある。代表的なインクジェット法のウエットプロセスでは、塗布装置の作業テーブル上に塗布対象基板を載置する。基板表面に対してインクヘッドを一方向に走査し、インクジェットヘッドの複数のノズルから基板表面の所定領域にインクを滴下する。その後はインクの溶媒を蒸発乾燥させて機能膜を成膜する。
【0003】
ところで、このような基板上にインクを充填し乾燥する方法で機能層を形成するウエットプロセスに於いては、インクの溶媒を蒸発乾燥させるプロセスにおいて、成膜エリアの中央部分と周縁部分では、周縁部分の方が中央部分よりも溶媒蒸気圧が低くなることにより溶媒の蒸発速度が大きい。その結果、基板中央部分に形成される画素の機能層と基板端部に形成される画素の機能層とは膜厚が互いに異なる傾向がある。このように、基板中央部分の画素と基板周縁部分の画素とで機能層の膜厚が異なると、各機能層の特性も互いに異なるため、有機EL表示パネルとして面内輝度ムラの原因となっていた。
【0004】
これに対して、例えば、特許文献1では、基板上のライン状のバンクの延在方向における両端のみ開口を有している整流板にて基板を覆いインクを乾燥させる機能膜形成方法が開示されている。また、特許文献2では、貫通孔を有する整流板を用いて、インクの溶媒を基板の上側に排出する乾燥方法が開示されている。また、特許文献3では、処理容器内の圧力が大気圧から500Paまでは、基板を第1の高さ位置に保持し、処理容器内の圧力が3Pa以下では、基板を第1の高さ位置より低い第2の高さ位置に下降させる乾燥処置方法が開示されており、特許文献3には、有機材料膜を乾燥処理する際に、処理容器内に混入した水分の影響を低減できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-267428号公報
【文献】特開2007-90200号公報
【文献】特開2017-67343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、パネルの高精細化に伴って、従来の製造方法では、隣接する2つの長尺状のバンク間の間隙から構成される列状塗布領域に有機発光材料を含むインクを塗布して発光層を形成する構成では、インク溶媒の蒸気圧分布から基板上の列状塗布領域内において機能層の膜厚が不均一になり輝度ムラの要因となるという課題があった。長尺状の列状塗布領域にインクを塗布して発光層を形成する構成では、主に列方向に連続してインクが塗布されることに起因して、列端部における膜厚変動の影響が表示領域を含む基板内方におよび易いということに基づく。
【0007】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであって、基板上の列状塗布領域内で発光層の膜厚の均一化を図ることにより面内の輝度ムラを改善する有機EL表示パネルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る有機EL表示パネルの製造方法は、有機EL表示パネルの製造方法であって、基板を準備する工程と、前記基板上に行列状に複数の画素電極を形成する工程と、前記基板上の少なくとも行方向における前記画素電極と前記画素電極の間に列方向に延伸して行方向に複数の列バンクを並設する工程と、行方向に隣接する前記列バンク間の間隙それぞれに、列方向に連続して有機発光材料を含むインクを塗布する工程と、平面視において、少なくとも前記基板の前記インクが塗布された領域を覆う整流板を、前記基板の上面から第1の距離だけ離間させた状態とし、当該状態にて前記基板を含む雰囲気の圧力を第1の圧力まで減圧する工程と、前記雰囲気の圧力が前記第1の圧力に達した後、前記整流板を前記基板の上面から前記第1の距離よりも大きい第2の距離だけ離間させた状態とし、当該状態にて前記雰囲気の圧力を前記第1の圧力より低い第2の圧力以下の圧力まで減圧する工程と、前記基板を加熱することにより発光層を形成する工程と、前記整流板を除去した状態で前記有機機能層上方に対向電極を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様に係る有機EL表示パネルの製造方法では、基板上の列状塗布領域内で発光層の膜厚の均一化を図ることにより、有機EL表示パネル面内での輝度ムラを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係る有機EL表示パネル10の製造方法で製造した有機EL表示パネル10の模式平面図である。
【
図3】
図2におけるにおけるY1-Y1で切断した模式断面図である。
【
図4】
図2におけるにおけるX1-X1で切断した模式断面図である。
【
図5】実施の形態に係る有機EL表示パネル10の製造方法に用いるインク乾燥装置900の模式断面図である。
【
図6】インク乾燥装置900における整流板400と基板100xとの位置関係を示す模式図であって、(a)は斜視図、(b)は整流板400を透視して示した基板100xの平面図である。
【
図7】(a)(b)は、インク乾燥装置900における昇降手段800の動作を示す模式断面図である。
【
図8】表示パネル10の製造工程を示す工程図である。
【
図9】(a)~(d)は、有機EL表示パネル10の製造における各工程での状態を示す
図3におけるにおけるY1-Y1と同じ位置で切断した模式断面図である。
【
図10】有機EL表示パネル10の製造方法において、基板に対して発光層形成用のインクを塗布する工程を示す図であって、バンク122Xと122Yとで規定される格子状の領域に塗布する場合の図である。
【
図11】有機EL表示パネル10の製造方法において、インク乾燥工程の詳細を示す工程図である。
【
図12】インク乾燥工程におけるチャンバ内圧力の時間変化を示す図である。
【
図13】(a)~(d)は、有機EL表示パネル10の製造におけるCF基板131製造の各工程での状態を示す模式断面図である。
【
図14】(a)~(b)は、有機EL表示パネル10の製造におけるCF基板131と背面パネルとの貼り合わせ工程での状態を示す
図2におけるにおけるY1-Y1と同じ位置で切断した模式断面図である。
【
図15】有機EL表示パネル10の実施例、比較例1から3における、膜厚の測定位置を示す模式平面図である。
【
図16】有機EL表示パネル10の実施例及び比較例1、2における膜厚の測定結果である。
【
図17】(a)は、比較例1に係る表示領域の中央部分と表示領域の周縁部分との蒸気圧分布を示す模式図、(b)は、比較例1に係る蒸気圧分布の影響による表示領域の中央部分と表示領域の周縁部分との間の成膜形状の違いを示す模式図である。
【
図18】(a)は、比較例1における列バンク端部付近の模式平面図、(b)は(a)におけるY2-Y2で切った模式側断面図、(c)はインク吐出直後における膜形状を示す模式図、(d)は、時間経過に伴う膜厚の変化を示す模式側断面図である。
【
図19】比較例1に係る表示領域の中央部分と表示領域の周縁部分との間の成膜形状の違いを示す模式図である。
【
図20】(a)は、比較例2における塗布直後における膜形状を示す模式図、(b)はレベリングされた後における塗布直後における膜形状を示す模式図である。
【
図21】(a)は、比較例2に係る表示領域の中央部分と表示領域の周縁部分との蒸気圧分布と基板と整流板との間の空間における蒸気の流れを示す模式図、(b)は、比較例2に係る表示領域の中央部分と表示領域の周縁部分との間の成膜形状の違いを示すに模式図である。
【
図22】(a)は、実施例における塗布直後における膜形状を示す模式図、(b)はレベリングされた後における塗布直後における膜形状を示す模式図、(c)は、列端部における膜厚の変化を示す模式側断面図である。
【
図23】(a)は、実施例に係る表示領域の中央部分と表示領域の周縁部分との蒸気圧分布と基板と整流板との間の空間における蒸気の流れを示す模式図、(b)は、実施例に係る表示領域の中央部分と表示領域の周縁部分との間の成膜形状の違いを示すに模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪本発明を実施するための形態の概要≫
本実施の形態に係る有機EL表示パネルの製造方法は、有機EL表示パネルの製造方法であって、基板を準備する工程と、前記基板上に行列状に複数の画素電極を形成する工程と、前記基板上の少なくとも行方向における前記画素電極と前記画素電極の間に列方向に延伸して行方向に複数の列バンクを並設する工程と、行方向に隣接する前記列バンク間の間隙それぞれに、列方向に連続して有機発光材料を含むインクを塗布する工程と、平面視において、少なくとも前記基板の前記インクが塗布された領域を覆う整流板を、前記基板の上面から第1の距離だけ離間させた状態とし、当該状態にて前記基板を含む雰囲気の圧力を第1の圧力まで減圧する工程と、前記雰囲気の圧力が前記第1の圧力に達した後、前記整流板を前記基板の上面から前記第1の距離よりも大きい第2の距離だけ離間させた状態とし、当該状態にて前記雰囲気の圧力を前記第1の圧力より低い第2の圧力以下の圧力まで減圧する工程と、前記基板を加熱することにより発光層を形成する工程と、前記整流板を除去した状態で前記有機機能層上方に対向電極を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0012】
係る構成により、インク乾燥工程において、隣接する2つの長尺状のバンク522Y間の間隙522zからなる列状塗布領域に有機発光材料を含むインクを連続して塗布して発光層123を形成する製造方法では、主に列方向に連続してインクが塗布されることに起因して生じる膜厚変動の要因が抑制され、列状塗布領域に形成される発光層の膜形状は成膜エリアの周縁部分と中央部分において膜厚が等価な形状になる。これより、基板上の列状塗布領域内で発光層の膜厚の均一化が図れ、有機EL表示パネル面内での輝度ムラを改善することができる。
【0013】
また、別の態様では、上記何れかの構成において、前記第1の圧力は、1×104Pa以上5×104Pa以下であり、前記第1の距離は、2mm以上10mm以下である構成であってもよい。また、別の態様では、上記何れかの構成において、前記基板の前記複数の列バンクを含む範囲の幅に対する前記第1の距離の比率は、5/2000以上5/100以下である構成であってもよい。
【0014】
係る構成により、基板中央部と周辺部とのインク溶媒の蒸気濃度分布に伴う溶媒蒸発速度のアンバランス、列状塗布領域内のインクの表面張力のアンバランス、列状塗布領域内のインク吐出力後の吐出量バラツキのレベリング不足といった問題を改善できる。
また、別の態様では、上記何れかの構成において、前記第2の圧力は、1×10-1Paであり、前記第2の距離は、30mm以上70mm以下である構成であってもよい。
【0015】
係る構成により、基板と整流板との間の空間内の蒸気流の乱れ、蒸発速度の低下に伴う膜の断面形状の変化といった膜厚変動の要因が抑制される。
また、別の態様では、上記何れかの構成において、前記第1の圧力に到達する時間は、前記雰囲気の圧力の減圧を開始した後、1秒以上300秒以下の時間である構成であってもよい。また、別の態様では、上記何れかの構成において、前記雰囲気の圧力を前記第1の圧力まで減圧する工程では、前記基板に塗布されたインクのレベリングを促進し、前記雰囲気の圧力を前記第2の圧力まで減圧する工程では、インクに残存する溶媒の蒸発を促進する構成であってもよい。また、別の態様では、上記何れかの構成において、前記対向させて配置する工程では、前記整流板は少なくとも前記基板上の前記複数の列バンクと対向する位置に配される構成であってもよい。また、別の態様では、上記何れかの構成において、前記整流板は、前記基板の上方において前記基板を覆い、昇降手段により前記基板に対する相対的な高さを変更される構成であってもよい。
【0016】
係る構成により、基板上の列状塗布領域に形成される発光層の膜形状は成膜エリアの周縁部分と中央部分において膜厚が等価な形状とし、列状塗布領域内で発光層の膜厚の均一化が図れる有機EL表示パネルの製造方法を実現できる。
≪実施の形態≫
<表示パネル10の全体構成>
[概要]
本実施の形態に係る表示パネル10について、図面を用いて説明する。なお、図面は模式図であって、その縮尺は実際とは異なる場合がある。
【0017】
図1は、表示パネル10の模式平面図である。
表示パネル10は、有機化合物の電界発光現象を利用した有機EL表示パネルであり、薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)が形成された基板100x(TFT基板)に、各々が画素を構成する複数の有機EL表示素子100が行列状に配され、上面より光を発するトップエミッション型の構成を有する。ここで、本明細書では、
図1におけるX方向、Y方向、Z方向を、それぞれ表示パネル10における、行方向、Y方向、厚み方向とする。
【0018】
図1に示すように、表示パネル10は、基板100x上をマトリックス状に区画してRGB各色の発光単位を規制する列バンク522Yと行バンク122Xとが配された区画領域10a(X、Y方向にそれぞれ10Xa、10Ya、区別を要しない場合は10aとする)と、区画領域10aの周囲に非区画領域10b(X、Y方向にそれぞれ10Xb、10Yb、区別を要しない場合は10bとする)とから構成されている。区画領域10aの列方向の外周縁は列バンク522Yの列方向の列端部522Yeに相当する。非区画領域10bには、区画領域10aを取り囲む矩形状の封止部材300が形成されている。さらに、区画領域10aは、基板中心を含む表示素子配列領域10eと、表示素子配列領域10eの周囲に非発光領域10neとから構成されている。表示素子配列領域10eは、列バンク522Yと行バンク122Xにより規制される各区画に有機EL表示素子100が形成されている領域であり、非発光領域10neでは、各区画に有機EL表示素子100が形成されていない領域である。また、X、Y方向における非発光領域10neの長さは、隣接する列バンク522Yと隣接する行バンク122Xとに囲まれたサブ画素100se領域のX、Y方向の長さに対し、それぞれ、2倍以上10倍以下であることが好ましい。本実施の形態では、X、Y方向とも4倍とした。
【0019】
<表示素子配列領域10eの構成>
図2は、
図1におけるX0部の拡大平面図である。
表示パネル10の表示素子配列領域10eには、有機EL表示素子100に対応する単位画素100eが行列状に配されている。各単位画素100eには、有機化合物により光を発する領域である、赤色に発光する100aR、緑色に発光する100aG、青色に発光する100aB(以後、100aR、100aG、100aBを区別しない場合は、「100a」と略称する)の3種類の自己発光領域100aが形成されている。すなわち、
図2に示すように行方向に並んだ自己発光領域100aR、100aG、100aBのそれぞれに対応する3つのサブ画素100seが1組となりカラー表示における単位画素100eを構成している。
【0020】
また、
図2に示すように、表示パネル10には、複数の画素電極119が基板100x上に行及び列方向にそれぞれ所定の距離だけ離れた状態で行列状に配されている。画素電極119は、平面視において矩形形状である。行列状に配された画素電極119は、行方向に順に並んだ3つの自己発光領域100aR、G、Bに対応する。
表示パネル10では、バンク122の形状は、いわゆるライン状の絶縁層形式を採用し、行方向に隣接する2つの画素電極119の行方向外縁及び外縁間に位置する基板100x上の領域上方には、各条が列方向(
図2のY方向)に延伸する列バンク522Yが複数行方向に並設されている。
【0021】
一方、列方向に隣接する2つの画素電極119の列方向外縁及び外縁間に位置する基板100x上の領域上方には、各条が行方向(
図2のX方向)に延伸する行バンク122Xが複数列方向に並設されている。行バンク122Xが形成される領域は、画素電極119上方の発光層123において有機電界発光が生じないために非自己発光領域100bとなる。そのため、自己発光領域100aの列方向における外縁は、行バンク122Xの列方向外縁により規定される。
【0022】
隣り合う列バンク522Y間を間隙522zと定義したとき、間隙522zには、自己発光領域100aRに対応する赤色間隙522zR、自己発光領域100aGに対応する緑色間隙522zG、自己発光領域100aBに対応する青色間隙522zB(以後、間隙522zR、間隙522zG、間隙522zBを区別しない場合は、「間隙522z」とする)が存在し、表示パネル10は、列バンク522Yと間隙522zとが交互に多数並んだ構成を採る。
【0023】
また、
図2に示すように、表示パネル10では、複数の自己発光領域100aと非自己発光領域100bとが、間隙522zに沿って列方向に交互に並んで配されている。非自己発光領域100bには、画素電極119とTFTのソースとを接続する接続凹部119c(コンタクトホール)があり、画素電極119に対して電気接続するための画素電極119上のコンタクト領域119b(コンタクトウインドウ)が設けられている。
【0024】
また、1つのサブ画素100seにおいて、列方向に設けられた列バンク522Yと行方向に設けられた行バンク122Xとは直交し、自己発光領域100aは列方向において行バンク122Xと行バンク122Xの間に位置している。
<表示パネル10の各部構成>
表示パネル10における有機EL表示素子100の構成を
図3及び
図4の模式断面図を用いて説明する。
図3は、
図3におけるY1-Y1で切断した模式断面図である。
図4は、
図1におけるX1-X1で切断した模式断面図である。
【0025】
本実施の形態に係る表示パネル10は、Z軸方向下方に薄膜トランジスタが形成された基板100x(TFT基板)が構成され、その上に有機EL素子部が構成されている。
[基板100x(TFT基板)]
基板100xは表示パネル10の支持部材であり、基材(不図示)と、基材上に形成された薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)層(不図示)と、基材上及びTFT層上に形成された層間絶縁層(不図示)とを有する。
【0026】
基材は、表示パネル10の支持部材であり、平板状である。基材の材料としては、電気絶縁性を有する材料、例えば、ガラス材料、樹脂材料、半導体材料、絶縁層をコーティングした金属材料などを用いることができる。例えば、ガラス基板、石英基板、シリコン基板、硫化モリブデン、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、マグネシウム、鉄、ニッケル、金、銀などの金属基板、ガリウム砒素基などの半導体基板、プラスチック基板等を採用することができる。
【0027】
TFT層は、基材上面に形成された複数のTFT及び配線からなる。TFTは、表示パネル10の外部回路からの駆動信号に応じ、自身に対応する画素電極119と外部電源とを電気的に接続するものであり、電極、半導体層、絶縁層などの多層構造からなる。配線は、TFT、画素電極119、外部電源、外部回路などを電気的に接続している。
基板100xの上面に位置する層間絶縁層は、TFT層によって凹凸が存在する基板100xの上面の少なくともサブ画素100seを平坦化するものである。また、層間絶縁層は、配線及びTFTの間を埋め、配線及びTFTの間を電気的に絶縁している。
【0028】
TFT上部の絶縁層は、例えば、酸化シリコン(SiO2)、窒化シリコン(SiN)
や酸窒化シリコン(SiON)、酸化シリコン(SiO)や酸窒化シリコン(SiON)を用いることもできる。TFTの接続電極層としては、例えば、モリブデン(Mo)と銅(Cu)と銅マンガン(CuMn)との積層体を採用することができる。基板100xの上面に位置する層間絶縁層は、例えば、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、シロキサン系樹脂、ノボラック型フェノール系樹脂などの有機化合物を用い形成されており、層厚は、例えば、2000nm~8000nmの範囲とすることができる。
【0029】
[画素電極119]
基板100xの上面に位置する層間絶縁層上には、サブ画素100se単位で画素電極119が設けられている。画素電極119は、発光層123へキャリアを供給するためのものであり、例えば陽極として機能した場合は、発光層123へホールを供給する。画素電極119の形状は、矩形形状をした平板状であり、画素電極119は行方向に間隔δXをあけて、間隙522zのそれぞれにおいて列方向に間隔δYをあけて基板100x上に配されている。また、基板100xの上面に開設されたコンタクトホールを通して、画素電極119の一部を基板100x方向に凹入された画素電極119の接続凹部119cとTFTのソースとが接続される。
【0030】
画素電極119は、金属材料から構成されている。トップエミッション型の場合には、層厚を最適に設定して光共振器構造を採用することにより出射される光の色度を調整し輝度を高めているため、画素電極119の表面部が高い反射性を有することが必要である。画素電極119は、金属層、合金層、透明導電膜の中から選択される複数の膜を積層させた構造であってもよい。金属層としては、例えば、銀(Ag)またはアルミニウム
(Al)を含む金属材料から構成することができる。合金層としては、例えば、APC(銀、パラジウム、銅の合金)、ARA(銀、ルビジウム、金の合金)、MoCr(モリブデンとクロムの合金)、NiCr(ニッケルとクロムの合金)等を用いることができる。透明導電層の構成材料としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)や酸化インジウム亜鉛(IZO)などを用いることができる。
【0031】
[ホール注入層120、ホール輸送層121]
画素電極119上には、ホール注入層120、ホール輸送層121が順に積層され、ホール輸送層121はホール注入層120に接触している。ホール注入層120、ホール輸送層121は、画素電極119から注入されたホールを発光層123へ輸送する機能を有する。
【0032】
ホール注入層120は、例えば、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、イリジウム(Ir)などの酸化物、あるいは、PEDOT(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物)などの導電性ポリマー材料からなる層である。
ホール輸送層121は、例えば、ポリフルオレンやその誘導体、あるいはポリアリールアミンやその誘導体などの高分子化合物などを用いることができる。
【0033】
[バンク122]
画素電極119、ホール注入層120及びホール輸送層121の端縁を被覆するように絶縁物からなるバンク122が形成されている。バンク122は、列方向に延伸して行方向に複数並設されている列バンク522Yと、行方向に延伸して列方向に複数並設されている行バンク122Xとがあり、
図2に示すように、列バンク522Yはバンク122Xと直交する行方向に沿った状態で設けられており、列バンク522Yと行バンク122Xとで格子状をなしている(以後、行バンク122X、列バンク522Yを区別しない場合は「バンク122」とする)。また、列バンク522Yはバンク122Xの上面122Xbよりも高い位置に上面522Ybを有する。
【0034】
行バンク122Xの形状は、行方向に延伸する線状であり、列方向に平行に切った断面は上方を先細りとする順テーパー台形状である。行バンク122Xは、各列バンク522Yを貫通するようにして、列方向と直交する行方向に沿った状態で設けられており、各々が列バンク522Yの上面522Ybよりも低い位置に上122Xbを有する。そのため、行バンク122Xと列バンク522Yとにより、自己発光領域100aに対応する開口が形成されている。
【0035】
行バンク122Xは、発光層123の材料となる有機化合物を含んだインクの列方向への流動を制御するためのものである。そのため、行バンク122Xはインクに対する親液性が所定の値以上であることが必要である。係る構成により、発光層123の材料となる有機化合物を含んだインクの列方向への流動性を高めサブ画素間のインク塗布量の変動を抑制する。行バンク122Xにより画素電極119は露出することはなく、行バンク122Xが存在する領域では発光せず輝度には寄与しない。
【0036】
バンク122Xの厚みの上限膜厚は、2000nmより厚い場合はインクの濡れ広がりが悪く、1200nm以下の場合には、インクの濡れ広がりが更に良化する。また、下限膜厚は、下限膜厚は、100nm以上あれば、画素電極119端部がバンク122で被覆され画素電極119と対向電極125がショートする事なく一定の歩留りで製造可能となる。200nm以上あれば、膜厚バラつきにともなう上記のショート不良が軽減され安定的に製造可能となる。バンク122に接続溝部を設ける場合における、溝部の底における膜厚も同様である。
【0037】
したがって、行バンク122Xの厚み、例えば、100nm以上2000nm以下、より好ましくは200nm以上1200nm以下であることが好ましい。本実施の形態では、約1000nmとした。
列バンク522Yは、発光層123の材料となる有機化合物を含んだインクの列方向への流動を堰き止めて形成される発光層123の行方向外縁を規定するものである。列バンク522Yの形状は、行方向に延伸する線状であり、列方向に平行に切った断面は上方を縮幅する台形形状である。
【0038】
列バンク522Yは、行方向における各サブ画素100seの発光領域100aの外縁を規定する。そのため、列バンク522Yはインクに対する撥液性が所定の値以上であることが必要である。
列バンク522Yの厚み、例えば、100nm以上5000nm以下、より好ましくは200nm以上3000nm以下であることが好ましい。本実施の形態では、約2000nmとした。
【0039】
バンク122は、画素電極119の外縁と、対向電極125との間における厚み方向(Z方向)の電流リークを防止するために、バンク122は、体積抵抗率が1×106 Ωcm以上の絶縁性を備えていることが必要である。そのために、バンク122は、は後述するように所定の絶縁材料からなる構成を採る。
バンク122は、樹脂等の有機材料を用い形成されており絶縁性を有する。バンク122の形成に用いる有機材料の例としては、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等があげられる。バンク122は、有機溶剤耐性を有することが好ましい。より好ましくは、アクリル系樹脂を用いることが望ましい。屈折率が低くリフレクターとして好適であるからである。
【0040】
または、バンク122は、無機材料を用いる場合には、屈折率の観点から、例えば、酸化シリコン(SiO)を用いることが好ましい。あるいは、例えば、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)などの無機材料を用い形成される。
上述のとおり、バンク122Xは、約1000nmの層である。ただし、層厚は、これに限定されるものではなく、例えば、100nm~2000nmの範囲とすることができる。また、列バンク522Yは、約2000nmの層である。ただし、層厚は、これに限定されるものではなく、例えば、100nm~5000nmの範囲とすることができる。
【0041】
さらに、バンク122は、製造工程中において、エッチング処理、ベーク処理など施されることがあるので、それらの処理に対して過度に変形、変質などをしないような耐性の高い材料で形成されることが好ましい。
また、表面に撥水性をもたせるために、表面をフッ素処理することもできる。また、列バンク522Yの形成にフッ素を含有した材料を用いてもよい。また、列バンク522Yの表面に撥水性を低くするために、列バンク522Yに紫外線照射を行う、低温でベーク処理を行ってもよい。
【0042】
[発光層123]
表示パネル10は、列バンク522Yと間隙522zとが交互に多数並んだ構成を有する。列バンク522Yにより規定された間隙522zには、発光層123が列方向に延伸して形成されている。自己発光領域100aRに対応する赤色間隙522zR、自己発光領域100aGに対応する緑色間隙522zG、自己発光領域100aBに対応する青色間隙522zBには、それぞれ各色に発光する発光層123が形成されている。
【0043】
発光層123は、有機化合物からなる層であり、内部でホールと電子が再結合すること
で光を発する機能を有する。
発光層123は、画素電極119からキャリアが供給される部分のみが発光するので、層間に絶縁物である行バンク122Xが存在する範囲では、有機化合物の電界発光現象が生じない。そのため、発光層123は、行バンク122Xがない部分のみが発光して、この部分が自己発光領域100aとなり、自己発光領域100aの列方向における外縁は、行バンク122Xの列方向外縁により規定される。
【0044】
発光層123のうち行バンク122Xの側面及び上面122Xb上方にある部分119bは発光せず、この部分は非自己発光領域100bとなる。発光層123は、自己発光領域100aにおいてはホール輸送層121の上面に位置し、非自己発光領域100bにおいては行バンク122Xの上面及び側面上に位置する。
なお、
図8に示すように、発光層123は、自己発光領域100aだけでなく、隣接する非自己発光領域100bまで連続して延伸されている。このようにすると、発光層123の形成時に、自己発光領域100aに塗布されたインクが、非自己発光領域100bに塗布されたインクを通じて列方向に流動でき、列方向の画素間でその膜厚を平準化することができる。但し、非自己発光領域100bでは、行バンク122Xによって、インクの流動が程良く抑制される。よって、列方向に大きな膜厚むらが発生しにくく画素毎の輝度むらが改善される。
【0045】
発光層123の形成に用いる材料は、湿式印刷法を用い製膜できる発光性の有機材料を用いることが必要である。
具体的には、例えば、特許公開公報(日本国・特開平5-163488号公報)に記載のオキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、アンスラセン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8-ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2-ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体などの蛍光物質で形成されることが好ましい。
【0046】
[電子輸送層124]
バンク122上及びバンク122により規定された開口内には、発光層123の上に電子輸送層124が形成されている。また、本例では、発光層123から露出する各列バンク522Yの上面522Yb上にも配されていている。電子輸送層124は、対向電極125から注入された電子を発光層123へ輸送する機能を有する。電子輸送層124は、例えば、オキサジアゾール誘導体(OXD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、フェナンスロリン誘導体(BCP、Bphen)などを用い形成されている。
【0047】
[対向電極125]
電子輸送層124を被覆するように、対向電極125が積層形成されている。対向電極125については、表示パネル10全体に連続した状態で形成され、ピクセル単位あるいは数ピクセル単位でバスバー配線に接続されていてもよい(図示を省略)。対向電極125は、画素電極119と対になって発光層123を挟むことで通電経路を作り、発光層123へキャリアを供給するものであり、例えば陰極として機能した場合は、発光
層123へ電子を供給する。対向電極125は、電子輸送層124の表面に沿って形成され、各発光層123に共通の電極となっている。対向電極125は、光透過性を有する導電材料が用いられる。例えば、酸化インジウムスズ(ITO)若しくは酸化インジウム亜鉛(IZO)などを用い形成される。また、銀(Ag)又はアルミニウム(Al)などを薄膜化した電極を用いてもよい。
【0048】
[封止層126]
対向電極125を被覆するように、封止層126が積層形成されている。封止層126は、発光層123が水分や空気などに触れて劣化することを抑制するためのものである。封止層126は、対向電極125の上面を覆うように表示パネル10全面に渡って設けられている。封止層126は、例えば、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)などの透光性材料を用い形成される。また、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)などの材料を用い形成された層の上に、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などの樹脂材料からなる封止樹脂層を設けてもよい。
【0049】
[接合層127]
封止層126のZ軸方向上方には、上部基板130のZ軸方向下側の主面にカラーフィルタ層128が形成されたCF基板131が配されており、接合層127により接合されている。接合層127は、基板100xから封止層126までの各層からなる背面パネルとCF基板131とを貼り合わせるとともに、各層が水分や空気に晒されることを防止する機能を有する。接合層127の材料は、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの透光性材料樹脂材料を採用することができる。
【0050】
[上部基板130]
接合層127の上に、上部基板130にカラーフィルタ層128が形成されたCF基板131が設置・接合されている。上部基板130には、表示パネル10がトップエミッション型であるため、例えば、カバーガラス、透明樹脂フィルムなどの光透過性材料が用いられる。また、上部基板130により、表示パネル10、剛性向上、水分や空気などの侵入防止などを図ることができる。透光性材料としては、例えば、ガラス基板、石英基板、プラスチック基板等を採用することができる。
【0051】
[カラーフィルタ層128]
上部基板130には画素の各色自己発光領域100aに対応する位置にカラーフィルタ層128が形成されている。カラーフィルタ層128は、R、G、Bに対応する波長の可視光を透過させるために設けられる透明層であり、各色画素から出射された光を透過させて、その色度を矯正する機能を有する。例えば、本例では、赤色間隙522zR内の自己発光領域100aR、緑色間隙522zG内の自己発光領域100aG、青色間隙522zB内の自己発光領域100aBの上方に、赤色、緑色、青色のフィルタ層128R、G、Bが各々形成されている。カラーフィルタ層128は、具体的には、例えば、複数の開口部を画素単位に行列状に形成されたカラーフィルタ形成用のカバーガラスからなる上部基板130に対し、カラーフィルタ材料および溶媒を含有したインクを塗布する工程により形成される。
【0052】
<インク乾燥装置>
[全体構成]
次に、表示パネル10の製造方法に用いるインク乾燥装置の構成について説明する。
図5は、実施の形態に係る有機EL表示パネル10の製造方法に用いるインク乾燥装置900の模式断面図である。
【0053】
インク乾燥装置900は、後述するインク乾燥工程において、基板100x上の列バンク522Y間の間隙522z内に充填された有機発光材料を含むインクを減圧下で乾燥させベーク処理することによって、発光層123を形成するための製造装置である。
図5に示すように、インク乾燥装置900は、列バンク522Y間の間隙522z内に有機発光材料を含むインクが塗布された基板100xを収容するチャンバ500と、チャンバ500内において基板100xが載置される支持台700を備える。さらに、基板100x上の列バンク522Yから所定距離だけ離間した状態で基板100xに対し対向配置される整流板400と、整流板400を列バンク522Yから所定距離だけ離間させて基板100xに対向させるとともに、整流板400又は/及び基板100xを昇降させて前記基板に対する整流板400の相対的な高さを変更するする昇降手段800とを備える。また、チャンバ500に接続されチャンバ500から気体を吸引してチャンバ500外へ排気する真空ポンプ600、支持台700上の基板100xを加熱するヒータ(不図示)とを備える。ヒータは、支持台700に設置されたホットプレート、チャンバ500内を加熱するオーブンを用いることができる。
【0054】
支持台700は、耐熱性に優れた金属、又はセラミックの板からなる。支持台700は、搬送手段(不図示)により、チャンバ500の内と外との間を双方向に移動可能に構成されている。
整流板400は、耐溶剤性を有するステンレス、アルミ、銅、鉄等の金属、又はセラミックの板からなる。
【0055】
図6は、インク乾燥装置900における整流板400と基板100xとの位置関係を示す模式図であって、(a)は斜視図、(b)は整流板400を透視して示した基板100xの平面図である。
図6に示すように、整流板400は、X方向、Y方向ともに、基板100x上の少なくとも区画領域10aよりも大きい。また、基板100xに対し対向して配置された状態において、整流板400が被覆する領域400aAreaに、基板100x上の少なくとも区画領域10aは含まれる。例えば、
図6(b)に示すように、領域400aAreaに基板100xが含まれていている構成としてもよい。
【0056】
整流板400は、昇降手段800により支持台700の上方をZ方向に双方向に移動可能に構成されている。昇降手段800は、間隙調整手段801(例えば、ボールねじ等)、駆動手段802(例えばモータ等)、制御手段803から構成される。間隙調整手段801は、整流板400を保持することにより支持台700と整流板400との間隙を所定距離に規制するとともに、制御手段803からの電気信号に基づき駆動手段802により作動して、整流板400を上下に移動させる。
【0057】
図7(a)(b)は、インク乾燥装置900における昇降手段800の動作を示す模式断面図である。基板100xに対し対向して配置された状態において、
図7(a)に示す整流板400と基板100xとを近接させた状態では、整流板400と基板100x上面との間の第1の距離Y1は、2mm以上10mm以下であることが好ましい。また、
図7(b)に示す整流板400と基板100xとを離した状態では、整流板400と基板100x上面との間の第1の距離Y2は、30mm以上70mm以下であることが好ましい。
【0058】
チャンバ500内における真空ポンプ600への排気路への開口500aは支持台700の下方に位置することが好ましい。
図5に示すように、支持台700と整流板400とを包むように気流を形成することができ、RGB各色の発光単位を規制する列バンク522Yと行バンク122Xとが配された区画領域10a内において整流板400側方に溶媒の蒸気Air1を放出することができる。
【0059】
インク乾燥装置900を用いた後述するインク乾燥工程では、形成される発光層123の膜形状も同様に、成膜エリアの周縁部分と中央部分において膜厚が等価な形状になる。すなわち、基板中央部と周辺部とのインク溶媒の蒸気濃度分布に伴う溶媒蒸発速度のアンバランスに起因する膜厚変動を抑制するとともに、後述するように、基板上の列状塗布領域内に有機発光材料を含むインクを塗布して製造する際に、列状塗布領域内でインク表面張力のアンバランスの起因するインク対流の影響、インク吐出力後の吐出量バラツキのレベリング不足、基板と整流板との間の空間内の蒸気流の乱れ、蒸発速度の低下に伴う膜の断面形状の変化といった膜厚変動の要因を緩和することができる。
【0060】
その結果、係るインク乾燥工程を含む表示パネル10の製造方法では、非表示パネル10の成膜エリアの周縁部分と中央部分において発光層123の膜厚の不均一性に起因して生じる輝度ムラを改善することができる。
<表示パネル10の製造方法>
次に、表示パネル10の製造方法について説明する。
図8は、表示パネル10の製造工程を示す工程図である。
図9(a)~(d)、
図14(a)(b)は、有機EL表示パネル10の製造における各工程での状態を示す
図3におけるにおけるY1-Y1と同じ位置で切断した模式断面図である。
【0061】
[画素電極119の形成]
先ず、
図8、
図9(a)に示すように、層間絶縁層までが形成されたTFT基板100x0を準備する。層間絶縁層にコンタクト孔を開設し、画素電極119を形成する(ステップS10)。
画素電極119の形成は、スパッタリング法あるいは真空蒸着法などを用い金属膜を形成した後、フォトリソグラフィー法およびエッチング法を用いパターニングすることでなされる。なお、画素電極119は、TFTの電極と電気的に接続された状態となる。
【0062】
[ホール注入層120、ホール輸送層121の形成]
次に、
図9(b)に示すように、画素電極119上に対して、ホール注入層120、ホール輸送層121を形成する(ステップS20、30)。ホール注入層120、ホール輸送層121は、スパッタリング法を用い酸化金属(例えば、酸化タングステン)からなる膜を形成、あるいは、スパッタリング法を用い金属(例えば、タングステン)からなる膜を堆積し、焼成によって酸化して形成される。その後、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い各画素単位にパターニングしてもよい。
【0063】
[バンク122の形成]
図9(b)に示すように、ホール輸送層121の縁部を覆うようにバンク122を形成する。バンク122の形成では、先ず行バンク122Xを形成し(ステップS40)、その後、各画素を規定する間隙522zを形成するように列バンク522Yを形成し(ステップS50)、間隙522z内の行バンク122Xと行バンク122Xとの間にホール輸送層121の表面が露出するように設けられる。
【0064】
バンク122の形成は、先ず、ホール輸送層121上に、バンク122の構成材料(例えば、感光性樹脂材料)からなる膜を積層形成する。そして、樹脂膜をパターニングして行バンク122X、列バンク522Yを順に形成する。行バンク122X、列バンク522Yのパターニングは、樹脂膜の上方にフォトマスクを利用し露光を行い、現像工程、焼成工程(約230℃、約60分)をすることによりなされる。
【0065】
バンク122Xの形成工程では、先ず、スピンコート法などを用い、有機系の感光性樹脂材料、例えば、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等からなる感光性樹脂膜を形成した後、乾燥し、溶媒をある程度揮発させてから、所定の開口部が施されたフォトマスクを重ね、その上から紫外線照射を行い感光性樹脂等からなるフォトレジストを露光し、そのフォトレジストにフォトマスクが有するパターンを転写する。次に、感光性樹脂を現像によってバンク122Xをパターニングした絶縁層を形成する。一般にはポジ型と呼ばれるフォトレジストが使用される。ポジ型は露光された部分が現像によって除去される。露光されないマスクパターンの部分は、現像されずバンク122が約500nm程度の厚みで残存する。
【0066】
列バンク522Yの形成は、先ず、スピンコート法などを用い、列バンク522Yの構成材料(例えば、感光性樹脂材料)からなる膜を積層形成する。そして、樹脂膜をパターニングして間隙522zを開設して列バンク522Yを形成する。間隙522zの形成は、樹脂膜の上方にマスクを配して露光し、その後で現像することによりなされる。列バンク522Yは、列方向に延設され、行方向に間隙522zを介して並設される。
【0067】
また、列バンク522Yは、発光層123の材料となる有機化合物を含んだインクの列方向への流動を堰き止めて、形成される発光層123の行方向外縁を規定するため、列バンク522Yはインクに対する撥液性が所定の値以上であることが必要である。他方、行バンク122Xは、発光層123のインクの列方向への流動を制御するために、行バンク122Xはインクに対する親液性が所定の値以上であることが必要である。
【0068】
列バンク522Yの表面に撥水性をもたせるために、列バンク522Yの表面をCF4プラズマ処理することもできる。また、列バンク522Yの形成にフッ素を含有した材料、もしくはフッ素を含有した材料を混合した組成物を用いてもよい。
[発光層123の形成]
図9(c)に示すように、列バンク522Yで規定された各間隙522z内に、ホール輸送層121側から順に、発光層123を積層形成する(ステップS60)。
【0069】
発光層123の形成は、インクジェット法を用い、有機発光材料を含むインクを列バンク522Yにより規定される間隙522z内に塗布(ステップS61)した後、焼成によりインクを乾燥する(ステップS62)ことによりなされる。本明細書では、基板100zの列方向に延伸した長尺状の間隙522zを列状塗布領域と定義する。
具体的には、この工程では、副画素形成領域となる間隙522zに、インクジェット法によりR、G、Bいずれかの有機発光層の材料を含むインク123RI、123GI、123BIをそれぞれ充填し、充填したインクを減圧下で乾燥させ、ベーク処理することによって、発光層123R、123G、123Bを形成する(
図9(c))。
【0070】
(インク塗布方法(ステップS60)について)
発光層123のインクの塗布では、先ず、液滴吐出装置を用いて発光層123の形成するための溶液の塗布を行う。基板100xに対して赤色発光層、緑色発光層、青色発光層の何れかを形成するためのインクの塗布が終わると、次に、その基板に別の色のインクを塗布し、次にその基板に3色目のインクを塗布する工程が繰り返し行われ、3色のインクを順次塗布する。これにより、基板100x上には、赤色発光層、緑色発光層、青色発光層が、図の紙面横方向に繰り返して並んで形成される。
【0071】
次に、インクジェット法を用いて、発光層123のインクを間隙522z内に塗布する方法の詳細について説明する。
図10は、基板に対して発光層形成用のインクを塗布する工程を示す図であって、列バンク522Y間の間隙522zに一様に塗布する場合の模式図である。
発光層123の形成時には、発光層123を形成するための溶液であるインクを用いて、赤色副画素用の間隙522zR内に発光層123R、緑色副画素用の間隙522zG内に発光層123G、及び青色副画素用の間隙522zB内に発光層123Bを、複数のラインバンク間の各領域に形成する。発光層123Rと、発光層123G又は発光層123Bとは厚みが異なる。具体的には、間隙522zR内に塗布するインクの量を、間隙522zB及び間隙522zG内に塗布するインクの量よりも多くすることにより、発光層123Rの厚みを、発光層123B及び発光層123Gの厚みよりも大きく形成することができる。
【0072】
説明を簡略にするため、ここでは、ノズルから吐出するインクの量を第1の条件に設定して基板上の複数の第1色目の間隙にインクを塗布し、次に、ノズルから吐出するインクの量を第2の条件に設定してその基板上の複数の第2色目の間隙にインクを塗布し、次にノズルから吐出するインクの量を第3の条件に設定してその基板上の複数の第3色目の間隙にインクを塗布する方法で、3色全部の間隙にインクを順次塗布する。基板100xに対して第1色目の間隙へのインクの塗布が終わると、次に、その基板の第2色目の間隙にインクを塗布し、さらに、その基板の第3色目の間隙にインクを塗布する工程が繰り返し行われ、3色の間隙用のインクを順次塗布する。
【0073】
上記において、複数の基板に対して第1色目の間隙へのインクの塗布が終わると、次に、その複数の基板に第2色目の間隙にインクを塗布し、次にその複数の基板の第3色目の間隙にインクを塗布する工程を繰り返し行って、3色の間隙用のインクを順次塗布してもよい。
他方、ノズルから吐出するインクの量を第1の条件に設定して1枚の基板上の第1色目の間隙にインクを塗布した後、インクの量を第2の条件に変更して隣接する第2色目の間隙にインクを塗布し、さらに、インクの量を第3の条件に変更して隣接する第3色目の間隙にインクを塗布し、インクの量を第1の条件に戻して隣接する第1色目の間隙にインクを塗布し、この動作を繰り返して1枚の基板上の3色の間隙全部にインクを連続して塗布してもよい。
【0074】
(列バンク522Y間の間隙522zに一様に塗布する方法)
次に、1色の間隙中にインク(例えば、赤色間隙用のインク)を塗布する方法について説明する。
発光層123は、発光領域100aだけでなく、隣接する非自己発光領域100bまで連続して延伸されている。このようにすると、発光層123の形成時に、発光領域100aに塗布されたインクが、非自己発光領域100bに塗布されたインクを通じて列方向に流動でき、列方向の画素間でその膜厚を平準化することができる。但し、非自己発光領域100bでは、行バンク122Xによって、インクの流動が程良く抑制される。よって、列方向に大きな膜厚むらが発生しにくく画素毎の輝度むらや寿命低下が改善される。
【0075】
本塗布方法では、
図10に示すように、基板100xは、列バンク522YがY方向に沿った状態で液滴吐出装置の作業テーブル上に載置され、Y方向に沿って複数の吐出口624d1がライン状に配置されたインクジェットヘッド622をX方向に走査しながら、各吐出口624d1から列バンク522Y同士の間隙522z内に設定された着弾目標を狙ってインクを着弾させることによって行う。
【0076】
なお、同一の塗布量にて発光層123のインクを塗布する領域は、x方向に隣接して並
ぶ3つの領域の中の1つである。
発光層123の形成方法はこれに限定されず、インクジェット法やグラビア印刷法以外の方法、例えばディスペンサー法、ノズルコート法、スピンコート法、凹版印刷、凸版印刷等の公知の方法によりインクを滴下・塗布しても良い。
【0077】
(インク乾燥方法(ステップS62)について)
塗布したインクを焼成により乾燥するインク乾燥工程について説明する。
図11は、有機EL表示パネル10の製造方法において、インク乾燥工程の詳細を示す工程図である。
ステップS620では、列バンク522Y間の間隙522z内に有機発光材料を含むインクが塗布された基板100xを支持台700に載置し、支持台700を搬送手段(不図示)により、チャンバ500の内に移動させて、基板100xをチャンバ500内に収容する。
【0078】
ステップS621では、チャンバ500内において、整流板400を昇降手段800により上方から下方に移動させ、支持台700と整流板400との間隙を調整し、整流板400と基板100x上面との距離を、2mm以上10mm以下である第1の距離Y1に規制する。あるいは、第1の距離Y1の基板100xの複数の列バンク522Yを含む範囲の幅に対する比率は、5/2000以上5/100以下としてもよい。このとき、整流板400の昇降は、制御手段803からの電気信号に基づき駆動手段802により支持台700の外周近傍に複数設けられた間隙調整手段801を作動させて行う。
【0079】
図12は、インク乾燥工程におけるチャンバ内圧力の時間変化を示す図である。
図12に示すように、本実施の形態では、チャンバ500内の圧力を、約100kPaから約1分で約10Paまで1/10000に減圧し、2分から3分の間の時間で1Pa以下まで1/100000に減圧し、その後、T
2以後の時間において0.1Pa以下の圧力まで減圧する。
【0080】
次に、ステップS622において、整流板400と基板100x上面との距離を第1の距離Y1に規制した状態において、真空ポンプ600を駆動して
図12に示される減圧プロファイルに従って減圧し、時間Tiniにおいて、チャンバ500内の圧力を大気圧から1×10
4Pa以上5×10
4Pa以下、より好ましくは2×10
4Pa以上3×10
4Pa以下である第1の圧力P1まで減圧する。時間Tiniは、チャンバ500内の圧力の減圧を開始した後、例えば、1秒以上300秒以下の時間である。
【0081】
この状態では、基板100xと整流板400との間の空間において、基板100x上の区画領域10aから蒸発したインクの溶媒の蒸気が、基板100xの平面方向に移動することが抑制される。すなわち、区画領域10aから蒸発したインクの溶媒の蒸気(
図5におけるAir1)は、基板100xと整流板400との間の高さY1の空間に押し込められた状態となり空間内の蒸気圧は増加する。そのため、基板100xと整流板400による流路抵抗は増加し、溶媒の蒸気Air2は基板100xと整流板400との間の空間内に留まり、整流板400側方からは微量の蒸気が放出される(
図5におけるFl1)。その結果、チャンバ500内の圧力を第1の圧力まで減圧する工程では、整流板400と基板100x上の列バンク522Yとの間隙内雰囲気中のインク溶媒の蒸気Air1の蒸気濃度を高い状態に保持して、基板100x上に溶剤蒸気の飽和域をつくりあげ、基板100x上の区画領域10aからインクの溶媒の蒸発を抑制される。そして、所定時間Tiniの間に基板100xの間隙522z内のインクの列方向への移動が許容されるので、間隙522z内のインクは列方向に移動して膜厚バラツキが所定時間内にレべリングが促進される。
【0082】
次に、ステップS623では、チャンバ500内の圧力が第1の圧力P1に達した後、整流板400を基板100x上面から第1の距離よりも大きい第2の距離だけ離間させた状態とする。第2の距離は、例えば、30mm以上70mm以下とすることが好ましい。
そして、ステップS624では、整流板400を基板100x上面から第1の距離よりも大きい第2の距離だけ離間させた状態にてチャンバ500内の圧力を第1の圧力より低い第2の圧力P2以下の圧力まで減圧する。
【0083】
この状態では、支持台700と整流板400が位置するチャンバ500内から外への気流Fl2が発生する(
図5におけるFl2)。このとき、基板100xと整流板400との間の高さY2の空間において、基板100x上の区画領域10aから蒸発したインクの溶媒の蒸気が、基板100xの平面方向に移動することが促進される。すなわち、区画領域10aから蒸発したインクの溶媒の蒸気(
図5におけるAir2)は、基板100xと整流板400との間の高さY2の空間内に解放され空間内の蒸気圧は減少する。そのため、基板100xと整流板400による流路抵抗は減少するので、気流Fl2に吸引されて、基板100xに塗布されたインクから蒸発した溶媒の蒸気Air2は基板100xと整流板400との間の空間から整流板400側方に放出され、気流Fl2によりチャンバ500外へ放出される。その結果、チャンバ500内の圧力を第2の圧力まで減圧する工程では、インクに残存する溶媒の蒸発が促進される。
【0084】
図12に示す減圧過程では、主に開始から、2分から3分までの時間において、
図5に示すように、支持台700と整流板400が位置するチャンバ500内から外への気流が発生する。同様に基板100xに塗布されたインクから蒸発した溶媒蒸気も、主に開始から、2分から3分までの時間の時間帯において、基板100xと整流板400との間隙からチャンバ500外へ放出される。
【0085】
次に、チャンバ500内の圧力が第2の圧力P2以下の圧力に達した後、第2の圧力P2以下の圧力を維持し充填したインクに含まれる溶媒を蒸発してインクを乾燥させる。その後、基板100xにベーク処理を施すことによって、発光層123を形成する(ステップS625)。ベーク処理は、所定条件の焼成工程(加熱温度約150℃、加熱時間約60分の条件で真空焼成する工程)により行う。
【0086】
焼成工程が終了すると、チャンバ500内に気体を導入し(ステップS626)、整流板400を昇降手段(不図示)により上方に移動して基板100xから退避させて、支持台700を駆動手段(不図示)により、チャンバ500の外に移動させて、発光層123
が形成された基板100xをチャンバ500外に搬出し(ステップS627)、インク乾燥工程を終了する。
【0087】
[電子輸送層124、対向電極125および封止層126の形成]
図9(d)に示すように、間隙522z内、及び列バンク522Y上にベタ膜として真空蒸着法などを用い電子輸送層124を形成する(ステップS70)。間隙522z内、及び列バンク522Y上にベタ膜として電子輸送層124を被覆するように、対向電極125および封止層126を順に積層形成する(ステップS80、S90)。対向電極125および封止層126は、CVD法、スパッタリング法などを用い形成できる。
【0088】
[CF基板131の形成]
次に、CF基板131を形成する(ステップS100)。
図13(a)~(d)は、有機EL表示パネル10の製造におけるCF基板131製造の各工程での状態を示す模式断面図である。
CF基板131の形成では、先ず、透明な上部基板130を準備する(
図13(a))。次に、上部基板130表面に、紫外線硬化樹脂成分を主成分とするカラーフィルタ層128(例えば、G)の材料を溶媒に分散させ、ペースト128Xを塗布し(
図13(b))、溶媒を一定除去した後、所定のパターンマスクPM2を載置し、紫外線照射を行う(
図13(c))。その後はキュアを行い、パターンマスクPM2及び未硬化のペースト128Xを除去して現像すると、カラーフィルタ層128(G)が形成される(
図13(d))。この
図13(b)、(d)の工程を各色のカラーフィルタ材料について同様に繰り返すことで、カラーフィルタ層128(R)、128(B)を形成する。なお、ペースト127Xを用いる代わりに市販されているカラーフィルタ製品を利用してもよい。
【0089】
[CF基板131と背面パネルとの貼り合わせ]
次に、CF基板131と背面パネルとの貼り合わせる(ステップS110)。
工程では、先ず、基板100xから封止層126までの各層からなる背面パネルに、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの紫外線硬化型樹脂を主成分とする接合層127の材料を塗布する(
図14(a))。
【0090】
続いて、塗布した材料に紫外線照射を行い、背面パネルとCF基板131との相対的位置関係を合せた状態で両基板を貼り合わせる。このとき、両者の間にガスが入らないように注意する。その後、両基板を焼成して封止工程を完了すると、表示パネル10が完成する(
図14(b))。
<表示パネル10の製造方法による効果について>
以下、表示パネル10の製造方法から得られる効果について説明する。
【0091】
[膜厚測定結果]
発明者は、表示パネル10における発光層123の膜厚の分布を測定した。
図15は、表示パネル10の実施例、比較例1、2における膜厚の測定位置を示す模式平面図である。本試験では、表示パネルにおける区画領域10aのX方向中心線上における基板100x上の発光層123の膜厚の分布を、列バンク522Yの列方向列端部522Yeから列端部522Yeまで測定した。
【0092】
(1)供試サンプル
次に、実施例、比較例1から3の仕様について説明する。
実施例は、インク乾燥工程において、実施例に係るインク乾燥装置900を用いる製造方法により製造した表示パネル10の膜厚測定結果である。実施例では、第1の圧力は3×104Pa、第1の距離は5mm、第2の距離は50mm、第2の圧力は1×10-1Paとした。
【0093】
比較例1は、インク乾燥工程において、整流板400と基板100x上面との距離を50mmに固定した比較例1に係るインク乾燥装置を用いて製造した表示パネルの膜厚測定結果である。
比較例2は、インク乾燥工程において、整流板400と基板100x上面との距離を5mmに固定した比較例1に係るインク乾燥装置を用いて製造した表示パネルの膜厚測定結果である。
【0094】
なお、比較例1、2において、整流板400と基板100x上面との距離を除く他の条件は実施例に係る条件と同じである。
(2)測定結果
図16は、表示パネル10の実施例及び比較例1、2における膜厚の測定結果である。
比較例1では、列バンク522Yの上端部(0mm位置)(
図16におけるPl1)にて、上端部から約20mmの位置と比較して膜厚が最大10nm減少した。
【0095】
また、下端部(270mm位置)(
図16におけるPl2)にて、下端部から約20mmの位置と比較して膜厚が最大13nm減少した。
比較例2では、比較例1のような、列バンク522Yの上端部(0mm位置)、下端部(270mm位置)における膜厚の降下は観測されなかった。
しかしながら、列バンク522Yの上端部から約10mmの位置(
図16におけるWav1)にて、上端部から約30mmの位置と比較して膜厚が最大15nm減少した凹部が観測された。
【0096】
また、下端部から約10mmの位置(
図16におけるWav2)にて、下端部から約30mmの位置と比較して膜厚が最大13nm減少した凹部が観測された。
また、上端部から約30mmの位置よりも内方(
図16におけるWav3)では、約65mm周期で最大4nm程度の振幅の凹凸(波打ち)が観測された。
これに対し、表示パネル10の実施例では、列バンク522Yの上端部(0mm位置)及び下端部(270mm位置)における膜厚の変動は4nm以内という結果になった。
【0097】
以上の結果より、表示パネル10の実施例では、整流板400と基板100x上面との距離を5mm、50mmに固定したインク乾燥装置を用いた比較例1、2に対して隣接する列バンク522Y間の間隙522YZに沿った列状塗布領域内で機能層の膜厚の均一性が向上することが確認された。
[膜厚測定結果について]
以下、表示パネル10の実施例及び比較例1、2から得られた発光層123の膜厚測定結果について考察する。
【0098】
(比較例1)
(1)基板中央部と周辺部とのインク溶媒の蒸気濃度分布による膜厚変動
発明者は、基板上にインクを充填し乾燥する方法で機能層を形成するウエットプロセスに於いて、基板上の表示領域の中央部分と表示領域の周縁部分での乾燥速度差による成膜形状にばらつきについて検討を行った。
【0099】
図17(a)は、比較例1に係る表示領域の中央部分と表示領域の周縁部分との蒸気圧分布を示す模式図、(b)は、比較例1に係る蒸気圧分布の影響による表示領域の中央部分と表示領域の周縁部分との間の成膜形状の違いを示す説明図である。
図17(a)において、100xは基板、522Yは基板100xに配設される列バンク、隣接する列バンク522Y間の間隙522zを規定する。122Xは間隙522zに列バンク522Yに垂直に配設される行バンクであって、123は発光層を形成するために間隙522zに充填されたインクである。
【0100】
上述のとおり、比較例1では、表示領域の中央部分A1のサブ画素では、区画領域10aの外周付近に位置する表示領域の周縁部分B1及びC1のサブ画素に比べ、発光層123は側壁近傍が薄膜化し画素中央が厚膜化するという結果になった。
その理由は以下のとおりである。すなわち、
図17(a)に示すように、インク乾燥工程において整流板400と基板100x上面との距離を50mmに固定した比較例1では、区画領域10aの外周付近に位置する表示領域の周縁部分B1又はC1のサブ画素では、表示領域の中央部分A1のサブ画素に比べ、インクの溶媒の蒸気濃度が相対的に低く乾燥が速い。そのため、
図17(b)に示すように、蒸気圧分布の影響により、乾燥の遅い中央部分A1では、溶媒が蒸発する過程で、発光層123インクを構成する固形成分が沈降し間隙522zの底部に移動する量が多く、底部の膜厚t2が基準膜厚t0に比べて増加する。他方、乾燥の早い周縁部分B1又はC1では、蒸気圧分布の影響により、溶媒が蒸発する過程で、発光層123インクを構成する固形成分が沈降して間隙522zの底部に移動する量は少なく、底部の膜厚t1は基準膜厚t0に比べて薄くなる。
【0101】
このように、比較例1では、蒸気圧分布の影響により、行列方向における基板中央部と周辺部とのインク溶媒の蒸気濃度分布に伴う溶媒蒸発速度のアンバランスに起因する膜厚変動が発生する。
(2)間隙522z(列状塗布領域)内の基板中央部と周辺部とのインク表面張力のアンバランスによる膜厚変動
長尺状の列状塗布領域にインクを塗布して発光層123を形成する構成では、主に列方向に連続してインクが塗布されることに起因して、間隙522z(列状塗布領域)内のインク表面張力のアンバランスによる膜厚変動が発生する。
【0102】
図18(a)は、比較例1における列バンク522Yの列端部522Ye付近の基板100Xの模式平面図であり、(b)は(a)におけるY2-Y2で切った模式側断面図であり、(d)は、時間経過に伴う膜厚の変化を示すY2-Y2で切った模式側断面図である。
図18(a)(b)に示すように、基板100Xには、列バンク522Y及び行バンク122Xが配設されている。
【0103】
図18(d)に示すように、整流板400と基板100x上面との距離を50mmに固定した比較例1では、基板100x上に塗布された発光層123Yのインクは、列バンク522Yの列端部522Yeから溶媒の乾燥は始まる。
その理由は、上述のとおり、ウエットプロセスに於いては、インクの溶媒を蒸発乾燥させるプロセスにおいて、成膜エリアの中央部分と周縁部分とでは、周縁部分の方が中央部分よりも溶媒蒸気圧が低くなることにより溶媒の乾燥速度が大きいためである。ここで、成膜エリアとは、ウエットプロセスによりインクを塗布するエリアであり、
図1に示した区画領域10aと同じ領域である。そのため、乾燥により溶媒の蒸発が進み、単位面積あたりの残存溶媒量が少ない列端部522Ye付近のインクよりも、溶媒の蒸発が遅く単位面積あたりの残存溶媒量が多い列端部522Yeより内方のインクの表面張力が不均一となる。その結果、列端部522Ye付近のインクは列端部522Yeより内方のインクからの表面張力によって内方に引っ張られ内方に向けたインク対流が生じ、その結果、列端部522Ye付近のインクは列端部522Yeより内方へ移動し、列端部522Yeより内方におけるインク膜厚は増加する。
【0104】
具体的には、
図18(d)の上段から下段に向けて段階的に示すように、時間経過に伴い列端部522Yeから内方に向けて徐々に溶媒の乾燥が進行し、これに伴い、列端部522Yeから内方に向けたインクの移動により列端部522Yeから内方に向けてインク膜厚も徐々に増加する。最終的には、成膜エリアの中央部分においてインク膜厚が最大となり、形成される発光層123Yの膜形状も同様に成膜エリアの列方向の中央部分において膜厚が最大となる形状になる。
【0105】
図19は、比較例1における表示領域の中央部分と表示領域の周縁部分との間の成膜形状の違いを示す模式図である。
図19に示すように、中央部分A1では、発光層123インクを構成するインクの固形成分が周縁部分B1及びC1から流入することにより底部の膜厚t4は膜厚t2に比べてさらに増加する。他方、周縁部分B1及びC1では、発光層123インクを構成する固形成分が中央部分A1に流出することにより底部の膜厚t3は膜厚t1に比べてさらに減少する。
【0106】
このように、比較例1では、列方向における基板中央部と周辺部とのインク表面張力のアンバランスに起因する膜厚変動が発生する。
(3)吐出口毎のインク吐出量バラツキに起因するインク塗布直後の局所的な膜厚変動
長尺状の列状塗布領域にインクを塗布して発光層123を形成する構成では、吐出口624d1毎のインク吐出量のバラツキや不吐出等に起因した膜厚バラツキが生じ、この膜厚バラツキはインク塗布直後においてより顕著である。
【0107】
図18(c)はインク吐出直後における膜形状を示す模式図である。インクジェット方式では、
図10に示すように、基板100xは、列バンク522YがY方向に沿った状態で液滴吐出装置の作業テーブル上に載置され、Y方向に沿って複数の吐出口624d1がライン状に配置されたインクジェットヘッド622をX方向に走査しながら、各吐出口624d1から列バンク522Y同士の間隙522z内に設定された着弾目標を狙ってインクを着弾させることによって行う。一般に、ライン状に配置された複数の吐出口624d1には、吐出口624d1ごとにインク吐出量のバラツキがあり、また、吐出口624d1の中には事前に行った吐出品質検査により一部の吐出口624d1からのインク吐出を停止する場合もある。そのため、間隙522zに沿って、吐出口624d1毎のインク吐出量のバラツキや不吐出等に起因した膜厚バラツキが生じ、この膜厚バラツキはインク塗布直後においてより一層顕著である。この吐出量バラツキに起因する膜厚バラツキは、時間の経過に伴い間隙522z内のインクが列方向に移動してレべリングされることにより膜厚バラツキは減少する。
【0108】
比較例1では、整流板400と基板100x上面との距離を50mmに固定されているので、間隙522z内のインクが列方向に移動して膜厚バラツキが十分にレべリングされる前に、インクに含まれる溶媒の蒸発が進んだ結果、間隙522z内列方向へのインクの移動が制限され吐出直後の吐出量バラツキに起因する膜厚バラツキが固定化される。
(比較例2)
(1)比較例1において生じた膜厚変動の改善
比較例2では、比較例1のような、列バンク522Yの上端部(0mm位置)、下端部(270mm位置)における膜厚の降下は観測されなかった。
【0109】
図20(a)は、比較例2における塗布直後における膜形状を示す模式図、(b)はレベリングされた後における塗布直後における膜形状を示す模式図である。
図20(a)に示すように、比較例2においても、インク吐出直後においては、列状塗布領域を構成する間隙522z内において、インクの吐出量バラツキに起因する膜厚バラツキが生じる。しかしながら、比較例2では、整流板400と基板100x上面との距離を5mmに固定されているので、整流板400と基板100xとの間の空間内の蒸気圧が増加してインクの溶媒の蒸気の蒸発が抑制される。その結果、
図20(b)に示すように、基板100xの間隙522z内のインクの列方向への移動が促進されるので、間隙522z内のインクは列方向に移動して膜厚バラツキが期間Tini内に十分にレべリングされる。
【0110】
図21(a)は、比較例2に係る表示領域の中央部分と表示領域の周縁部分との蒸気圧分布と基板と整流板との間の空間における蒸気の流れを示す模式図であり、(b)は、比較例2に係る表示領域の中央部分と表示領域の周縁部分との間の成膜形状の違いを示す模式図である。
図21(b)に示すように、周縁部分B2及びC2では、基準膜厚t0からの変化はない。比較例2では、上述のとおり、整流板400と基板100x上面との距離が5mmに固定されているので、整流板400と基板100xとの間の空間内の蒸気圧が増加してインクの溶媒の蒸気の蒸発が抑制され、基板中央部と周辺部とのインク溶媒の蒸気濃度分布に伴う溶媒蒸発速度のアンバランスに起因する膜厚変動は抑制される。また、列端部522Yeから溶媒の乾燥は始まることが抑制される結果、列方向における基板中央部と周辺部とのインク表面張力のアンバランスに起因して発光層123インクを構成する固形成分が中央部分A1に流出することが抑制される。その結果、周縁部分B2及びC2では、底部の膜厚は基準膜厚t0となる。
【0111】
(2)整流板400と基板100xとの間の空間内の気流の乱れに伴う膜厚変動
比較例2では、上述のとおり、上端部から約30mmの位置よりも内方(
図16におけるWav3)において、約65mm周期で最大4nm程度の振幅の凹凸(波打ち)が観測された。行方向の断面観察では、比較例2では、
図21(b)に示すように、中央部分A2では、基準膜厚t0よりも大きい膜厚t6と基準膜厚t0よりも小さい膜厚t7との間の膜厚変動が生じる。
【0112】
比較例2では、整流板400と基板100x上面との距離を5mmに固定されているので、基板100xと整流板400との間の空間において、基板100x上の区画領域10aから蒸発したインクの溶媒の蒸気FZ0が、基板100xの平面方向に移動することが抑制される。すなわち、区画領域10aから蒸発したインクの溶媒の蒸気FZ0は、基板100xと整流板400との間の高さY1の空間に押し込められた状態となり空間内の蒸気圧は増加する。そのため、基板100xと整流板400による流路抵抗は増加し、蒸気は基板100xと整流板400との間の空間内に留まり、空間内の蒸気流Fv1、Fv2は乱れ、気流は乱流のような状態となり、整流板400側方からは微量の蒸気Fl1が放出される。比較例2における凹凸(波打ち)状の膜厚変動は、基板100xと整流板400との間の空間内の蒸気流Fv1、Fv2の乱れに起因する。
【0113】
(3)空間内の気流と膜の断面形状の変化に伴う膜厚変動
比較例2では、上述のとおり、列バンク522Yの上端部から約10mmの位置Wav1にて、上端部から約30mmの位置と比較して膜厚が最大15nm減少した凹部が観測された。また、下端部から約10mmの位置Wav2にて、下端部から約30mmの位置と比較して膜厚が最大13nm減少した凹部が観測された。
【0114】
行方向の断面観察では、
図21(b)に示すように、周縁部分D2及びE2では、バンク522Yの側壁上のインク123wlの膜厚が厚くなり間隙522z底部における膜厚t5は、比較例1における周縁部分の膜厚t3よりもさらに小さい膜厚となる。
この膜厚変動についても、中央部分A2における膜厚変動と同様に、基板100xと整流板400との間の空間内の蒸気流Fv1、Fv2は乱れが影響している。加えて、比較例2では、整流板400と基板100xとの間の空間内の蒸気圧が増加してインクの溶媒の蒸気の蒸発が抑制されたことに伴い、蒸発速度の低下に伴いインクの溶質成分がより多くバンク522Yの側壁上に残ると考えられる。
【0115】
(実施の形態に係る表示パネル10の製造方法の実施例)
(1)比較例1において生じた膜厚変動の改善
図22(a)は、実施例における塗布直後における膜形状を示す模式図、(b)はレベリングされた後における塗布直後における膜形状を示す模式図である。
図22(a)に示すように、実施例においても、インク吐出直後においては、列状塗布領域を構成する間隙522z内において、の吐出量バラツキに起因する膜厚バラツキが生じる。しかしながら、実施例では、減圧開始からチャンバ500内の圧力が第1の圧力P1まで減圧されるTiniまでの時間は、整流板400と基板100x上面との距離を5mmに固定されているので、整流板400と基板100xとの間の空間内の蒸気圧が増加してインクの溶媒の蒸気の蒸発が抑制される。その結果、
図22(b)に示すように、基板100xの間隙522z内のインクの列方向への移動が促進されるので、実施例においても、間隙522z内のインクは列方向に移動して膜厚バラツキが期間Tini内に十分にレべリングされる。
【0116】
図22(c)は、列端部522Yeにおける膜厚の変化を示す模式側断面図である。実施例では、上記したように、Tiniまでの時間はインクの溶媒の蒸気の蒸発が抑制されるので、基板中央部と周辺部とのインク溶媒の蒸気濃度分布に伴う溶媒蒸発速度のアンバランスに起因する膜厚変動は抑制される。また、列端部522Yeから溶媒の乾燥は始まることが抑制される結果、チャンバ500内の圧力が第2の圧力P2に減圧されるT
2以降の時間においても、
図22(c)に示すように、列方向における基板中央部と周辺部とのインク表面張力のアンバランスに起因する膜厚変動も抑制される。
【0117】
図23(b)は、実施例に係る表示領域の中央部分と表示領域の周縁部分との間の成膜形状の違いを示すに模式図である。行方向の断面観察では、
図23(b)に示すように、実施例では周縁部分B3及びC3では、基準膜厚t0となる。
(2)比較例2において生じた膜厚変動の改善
図23(a)は、実施例に係る表示領域の中央部分と表示領域の周縁部分との蒸気圧分布と基板と整流板との間の空間における蒸気の流れを示す模式図である。
【0118】
実施例では、
図23(b)に示すように、行方向の断面観察では、中央部分A3では、間隙522z底部における膜厚は基準膜厚t0となる。
実施例では、整流板400と基板100x上面との距離を第1の距離Y1に規制した状態で、時間Tiniにおいて、チャンバ500内の圧力を大気圧から第1の圧力P1まで減圧し、その後、整流板400を基板100x上面から第2の距離Y2だけ離間させた状態とする。そのため、基板100xと整流板400との間の空間において、基板100x上の区画領域10aから蒸発したインクの溶媒の蒸気FZ0は、基板100xの平面方向に移動することが促進される。すなわち、区画領域10aから蒸発したインクの溶媒の蒸気Air2は、基板100xと整流板400との間の高さY2の空間内に解放され、空間内の蒸気圧は減少し、基板100xと整流板400による流路抵抗は減少するので、蒸気Air2は基板100xと整流板400との間の空間を抵抗なく移動し、整流板400側方に放出される(Fl2)。したがって、実施例では、比較例2のように空間内の蒸気流Fv1、Fv2は、気流が乱れた乱流のような状態となることはなく、比較例2において生じた凹凸(波打ち)状の膜厚変動は解消される。
【0119】
また、実施例では、
図21(b)に示すように、行方向の断面観察では、周縁部分D3及びE3では、間隙522z底部における膜厚は基準膜厚t0となる。
実施例では、整流板400を基板100x上面から第2の距離Y2だけ離間させた状態で、チャンバ500内の圧力を第1の圧力から減圧することにより、インクに残存する溶媒の蒸発が促進され、比較例2においてインクの溶媒の蒸気の蒸発が抑制されたことに伴いインクの溶質成分がより多くバンク522Yの側壁上に残るといった現象は生じない。そのため、比較例2においてみられた周縁部分D2及びE2における膜の凹部、すなわち、バンク522Yの側壁上のインク123wlの膜厚が厚くなり間隙522z底部における膜厚は、比較例1よりもさらに薄くとなるという現象は生じない。
【0120】
以上のとおり、実施例では、比較例1、2に比べて、基板中央部と周辺部とのインク溶媒の蒸気濃度分布に伴う溶媒蒸発速度のアンバランス、インクの表面張力のアンバランス、インク吐出力後の吐出量バラツキのレベリング不足、基板と整流板との間の空間内の蒸気流の乱れ、蒸発速度の低下に伴う膜の断面形状の変化といった膜厚変動の要因が抑制され、実施例では比較例1、2に比べて膜厚の変動量が低減される。
【0121】
<まとめ>
発明者の検討では、隣接する2つの長尺状のバンク522Y間の間隙522zからなる列状塗布領域に有機発光材料を含むインクを連続して塗布して発光層123を形成するラインバンク方式の表示パネルでは、主に列方向に連続してインクが塗布されることに起因して、画素毎に島状に発光層が分離されているピクセルバンク方式による表示パネルに比べて、列端部522Yeにおける膜厚変動の影響が区画領域10aを含む基板100xの内方におよび易いという特性がある。そして、長尺状の列状塗布領域にインクを連続して塗布して発光層123を形成する表示パネルの構成では、従来のインク乾燥方法を用いた場合には、インク溶媒の蒸気圧分布から基板上の列状塗布領域内において機能層の膜厚が不均一になり輝度ムラの要因となる。
【0122】
これに対し、実施の形態1に係る表示パネル10の製造方法では、基板100x上に列方向に延伸して行方向に複数の列バンク522Yを並設する工程と、行方向に隣接する列バンク間の間隙522zに、列方向に連続して有機発光材料を含むインクを塗布する工程と、基板のインクが塗布された領域を覆う整流板を400を基板の上面から第1の距離Y1離間させた状態とし、当該状態にて基板を含む雰囲気の圧力を第1の圧力P1まで減圧する工程と、雰囲気の圧力が第1の圧力に達した後、整流板を基板の上面から第1の距離よりも大きい第2の距離Y2離間させた状態とし、当該状態にて雰囲気の圧力を第1の圧力より低い第2の圧力P2以下の圧力まで減圧する工程と、基板を加熱することにより発光層123を形成する工程と、整流板を除去した状態で有機機能層上方に対向電極125を形成する工程とを含むという構成を採る。
【0123】
係る表示パネル10の製造方法により、インク乾燥工程において、基板中央部と周辺部分とのインク溶媒の蒸気濃度分布に伴う溶媒蒸発速度のアンバランス、列状塗布領域内のインクの表面張力のアンバランス、列状塗布領域内のインク吐出力後の吐出量バラツキのレベリング不足、基板と整流板との間の空間内の蒸気流の乱れ、蒸発速度の低下に伴う膜の断面形状の変化といった膜厚変動の要因が抑制され、列状塗布領域に形成される発光層123の膜形状は成膜エリアの周縁部分と中央部分において膜厚が等価な形状になる。これより、基板上の列状塗布領域内で発光層の膜厚の均一化が図れ、有機EL表示パネル面内での輝度ムラを改善することができる。
【0124】
≪変形例≫
実施の形態では、本実施の形態に係る表示パネル10の製造方法を説明したが、本発明は、その本質的な特徴的構成要素を除き、以上の実施の形態に何ら限定を受けるものではない。例えば、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。以下では、そのような形態の一例として、表示パネル10の変形例を説明する。
(1)実施の形態では、表示パネル10の量産工程において1枚の基板から表示パネル10を同時に形成する枚数について、枚数を特定した説明は行わなかった。しかしながら、表示パネル10の量産工程において1枚の基板から複数の表示パネル10を同時に形成する多面取りを行う場合にも、各表示パネル10に対するそれぞれの区画領域10aが1つの成膜エリアとなることは言うまでもない。多面取りの場合でも隣接する成膜エリア(区画領域10a)が所定の距離以上離間している場合には、各成膜エリアにおいて周縁部分の方が中央部分よりも溶媒蒸気圧が低くなるからである。
(2)上記実施の形態では、例えば、
図1に示すように、表示パネル10は、基板100
x上をマトリックス状に区画してRGB各色の発光単位を規制する列バンク522Yと行バンク122Xとが配された区画領域10aと、区画領域10aの周囲に非区画領域10b(X、Y方向にそれぞれ10Xb、10Yb、区別を要しない場合は10bとする)とから構成される例を示した。しかしながら、列バンク522Yと行バンク122Xとが配された区画領域10aの周囲又は周囲の一部に、格子状の絶縁層により区画された周辺区画領域を設ける構成としてもよい。周辺区画領域では、格子状の絶縁層により区画された部分にも区画領域10aと同様に、赤色発光層、緑色発光層、青色発光層を形成するためのインクが塗布される。さらに周辺区画領域の周囲に非区画領域10bを設けてもよい。(3)上記実施の形態では、
図1に示すように、表示パネル10では、基板100x上の区画領域10aの外縁から所定の区画数だけ、各区画に有機EL表示素子100が形成されていない非発光領域10neが形成された構成とした。しかしながら、列バンク522Yの列端部522Yeまで、基板100x上の各区画に画素電極119を配設して表示素子配列領域10eとしてもよい。基板上の成膜エリアを有効に活用することができ表示素子配列領域10eを拡大することができコスト削減に資する。
(4)表示パネル10では、各色サブ画素100seである間隙522zの上方に、透光
性材料からなる上部基板130を備え、カラーフィルタ層128が形成されている構成とした。しかしながら、例示した表示パネル10において、透光性材料からなる上部基板130を設けずに、間隙522zの上方にはカラーフィルタ層128を設けない構成としてもよい。これにより、外光の照り返し抑制と発光効率を向上に加え、製造コストを低減することができる。
(5)表示パネル10では、発光層123は、行バンク上を列方向に連続して延伸している構成としている。しかしながら、上記構成において、発光層123は、行バンク上において画素ごとに断続している構成としてもよい。係る構成によっても、インクの溶媒の蒸気濃度の分布に起因する輝度ムラを改善することができる。
(6)表示パネル10では、行方向に隣接する列バンク522Y間の間隙522zに配されたサブ画素100seの発光層123が発する光の色は互いに異なる構成とし、列方向
に隣接する行バンク122X間の間隙に配されたサブ画素100seの発光層123が発
する光の色は同じである構成とした。しかしながら、上記構成において、行方向に隣接するサブ画素100seの発光層123が発する光の色は同じであり、列方向に隣接するサ
サブ画素100seの発光層123が発する光の色が互いに異なる構成としてもよい。また
、行列方向の両方において隣接するサブ画素100seの発光層123が発する光の色が
互いに異なる構成としてもよい。係る構成によっても、インクの溶媒の蒸気濃度の分布に起因する輝度ムラを改善することができる。
【0125】
(7)その他
実施の形態に係る表示パネル10では、画素100eには、赤色画素、緑色画素、青色
画素の3種類があったが、本発明はこれに限られない。例えば、発光層が1種類であってもよいし、発光層が赤、緑、青、黄色に発光する4種類であってもよい。
また、上記実施の形態では、画素100eが、マトリクス状に並んだ構成であったが、
本発明はこれに限られない。例えば、画素領域の間隔を1ピッチとするとき、隣り合う間隙同士で画素領域が列方向に半ピッチずれている構成に対しても効果を有する。高精細化が進む表示パネルにおいて、多少の列方向のずれは視認上判別が難しく、ある程度の幅を持った直線上(あるいは千鳥状)に膜厚むらが並んでも、視認上は帯状となる。したがって、このような場合も輝度むらが上記千鳥状に並ぶことを抑制することで、表示パネルの表示品質を向上できる。
【0126】
また、表示パネル10では、すべての間隙522zに画素電極119が配されていたが、本発明はこの構成に限られない。例えば、バスバーなどを形成するために、画素電極119が形成されない間隙522zが存在してもよい。
また、上記実施の形態では、画素電極119と対向電極125の間に、ホール注入
層120、ホール輸送層121、発光層123及び電子輸送層124が存在する構成であったが、本発明はこれに限られない。例えば、ホール注入層120、ホール輸送層121及び電子輸送層124を用いずに、画素電極119と対向電極125との間に発光層123のみが存在する構成としてもよい。また、例えば、ホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層、電子注入層などを備える構成や、これらの複数又は全部を同時に備える構成であってもよい。また、これらの層はすべて有機化合物からなる必要はなく、無機物などで構成されていてもよい。
【0127】
また、上記実施の形態では、発光層123の形成方法としては、印刷法、スピンコート法、インクジェット法などの湿式成膜プロセスを用いる構成であったが、本発明はこれに限られない。例えば、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、イオンプレーティング法、気相成長法等の乾式成膜プロセスを用いることもできる。さらに、各構成部位の材料には、公知の材料を適宜採用することができる。
【0128】
上記の形態では、EL素子部の下部にアノードである画素電極119が配され、TFTのソースに画素電極119を接続する構成を採用したが、EL素子部の下部に対向電極、上部にアノードが配された構成を採用することもできる。この場合には、TFTにおけるドレインに対して、下部に配されたカソードを接続することになる。
さらに、上記実施の形態では、トップエミッション型のEL表示パネルを一例としたが、本発明はこれに限定を受けるものではない。例えば、ボトムエミッション型の表示パネルなどに適用することもできる。その場合には、各構成について、適宜の変更が可能である。
【0129】
≪補足≫
以上で説明した実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、工程、工程の順序などは一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない工程については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。
【0130】
また、上記の工程が実行される順序は、本発明を具体的に説明するために例示するためのものであり、上記以外の順序であってもよい。また、上記工程の一部が、他の工程と同時(並列)に実行されてもよい。
また、発明の理解の容易のため、上記各実施の形態で挙げた各図の構成要素の縮尺は実際のものと異なる場合がある。また本発明は上記各実施の形態の記載によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0131】
また、各実施の形態及びその変形例の機能のうち少なくとも一部を組み合わせてもよい。
さらに、本実施の形態に対して当業者が思いつく範囲内の変更を施した各種変形例も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明に係る有機EL表示パネルの製造法、及びそれに用いるインク乾燥装置は、テレビジョンセット、パーソナルコンピュータ、携帯電話などの装置、表示パネルを有する様々な電子機器における表示パネル等の製造に広く利用することができる。また、インク塗布工程を用いて機能層を形成する工程を含む電子デバイスの製造等に広く活用することができる。
【符号の説明】
【0133】
10 有機EL表示パネル
100 有機EL素子
100e 単位画素
100se サブ画素
100a 自己発光領域
100b 非自己発光領域
100x 基板(TFT基板)
119 画素電極
119b コンタクト領域(コンタクトウインドウ)
119c 接続凹部
120 ホール注入層
121 ホール輸送層
122 絶縁層
122X 行バンク
522Y 列バンク
123 発光層
124 電子輸送層
125 対向電極
126 封止層
127 接合層
128 カラーフィルタ層
130 上部基板
131 CF基板
400 整流板
500 チャンバ
500a 開口
600 真空ポンプ
700 支持台
800 昇降手段
801 間隙調整手段
802 駆動手段
803 制御手段
900 インク乾燥装置