(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】金型の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/38 20060101AFI20220520BHJP
B29C 33/42 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
B29C33/38
B29C33/42
(21)【出願番号】P 2019535160
(86)(22)【出願日】2018-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2018029069
(87)【国際公開番号】W WO2019031387
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-05-28
(32)【優先日】2017-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597073645
【氏名又は名称】ナルックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105393
【氏名又は名称】伏見 直哉
(72)【発明者】
【氏名】山本 和也
(72)【発明者】
【氏名】村山 達哉
(72)【発明者】
【氏名】西尾 幸暢
(72)【発明者】
【氏名】藤村 佳代子
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-188416(JP,A)
【文献】国際公開第2010/087208(WO,A1)
【文献】特開2005-132679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 59/00-59/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなるべースを機械加工によって第1の形状にするステップと、
該ベース上に樹脂層をコーティングするステップと、
該樹脂層を第2の形状にするステップと、
該ベースをドライエッチングによって第3の形状にするステップと、を含み、
該第1の形状が、該ベースの面における第1の方向に沿った溝からなる形状であり、該第2の形状が、該樹脂層の面における該第1の方向と垂直な第2の方向に沿った溝からなる形状であり、該第3の形状が、マイクロレンズアレイに対応する形状である金型の製造方法。
【請求項2】
該樹脂層を第2の形状にするステップが機械加工によって実施される請求項1に記載の金型の製造方法。
【請求項3】
該樹脂層を第2の形状にするステップがリソグラフィ技術によって実施される請求項1に記載の金型の製造方法。
【請求項4】
該ベースをドライエッチングによって第3の形状にするステップステップにおいて、該ベースのエッチングレイトと該樹脂層のエッチングレイトとの比が0.1から0.9の範囲である請求項1から3のいずれかに記載の金型の製造方法。
【請求項5】
金属からなるべースを機械加工によって第1の形状にするステップと、
該ベース上に樹脂層をコーティングするステップと、
該樹脂層を第2の形状にするステップと、
該ベースをドライエッチングによって第3の形状にするステップと、を含み、
該ベース及び該樹脂層のエッチングレイトをそれぞれr1及びr2で表し、該ベースの面上の一方向の座標をx
1で表し、ドライエッチング後の該ベースの面に垂直な方向の座標を、ドライエッチング後の該ベースの面の位置をゼロとしてzで表し、第1の形状に対応する該ベースの目標形状のx
1z断面を
【数1】
で表し、ドライエッチング前の該ベースの面に垂直な方向の座標を、ドライエッチング前の該ベースの面の位置をゼロとしてz
01で表した場合に、該第1の形状のx
1z
01断面を
【数2】
が満たされるように定める金型の製造方法。
【請求項6】
金属からなるべースを機械加工によって第1の形状にするステップと、
該ベース上に樹脂層をコーティングするステップと、
該樹脂層を第2の形状にするステップと、
該ベースをドライエッチングによって第3の形状にするステップと、を含み、
該ベース及び該樹脂層のエッチングレイトをそれぞれr1及びr2で表し、該ベースの
面上の一方向の座標をx
2で表し、ドライエッチング後の該ベースの面に垂直な方向の座標を、ドライエッチング後の該ベースの面の位置をゼロとしてzで表し、第2の形状に対応する該ベースの目標形状のx
2z断面を
【数3】
で表し、ドライエッチング前の該ベースの面に垂直な方向の座標を、ドライエッチング前の該樹脂層の面の位置をゼロとしてz
02で表した場合に、該第2の形状のx
2z
02断面を
【数4】
が満たされるように定める金型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型の製造方法、特に、光学素子の金型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一例として、マイクロレンズアレイの金型の従来の製造方法を説明する。マイクロレンズアレイの金型を機械加工によって製造する場合(たとえば特許文献1)に、製造に必要とされる時間は、ほぼマイクロレンズの数に比例する。たとえば、中間スクリーンに使用されるマイクロレンズアレイであって、名刺サイズの範囲に100マイクロメータのピッチでマイクロレンズを並べたマイクロレンズアレイのマイクロレンズの数は約500,000万個である。このようなマイクロレンズアレイの金型を機械加工によって製造するのは製造に必要とされる時間の観点から現実的ではない。また、機械加工によって製造する場合には、製造に必要とされる時間の問題の他に、工具の摩耗による形状変化の問題も存在する。他方、マイクロレンズアレイの金型をリソグラフィ技術によって製造する場合には、三次元形状を高精度で形成するのが困難であり、レジストのレーザー描画の際にマイクロレンズアレイの稜線、すなわちマイクロレンズの辺をなす線が丸みを帯びてしまうことという問題がある。
【0003】
このように、多数のマイクロレンズを含むマイクロレンズアレイの金型などの複雑な形状の金型を比較的短時間で、かつ十分な形状の精度で製造する金型の製造方法は開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、特に光学素子の複雑な形状の金型を比較的短時間で、かつ十分な形状の精度で製造する金型の製造方法に対するニーズがある。本発明の課題は、特に光学素子の複雑な形状の金型を比較的短時間で、かつ十分な形状の精度で製造する金型の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による金型の製造方法は、金属からなるベースを機械加工によって第1の形状にするステップと、該ベース上に樹脂層をコーティングするステップと、該樹脂層を第2の形状にするステップと、該ベースをドライエッチングによって第3の形状にするステップと、を含む。
【0007】
本発明によれば、第3の形状を第1の形状と第2の形状に分解し、第1の形状を機械加工によって形成するようにしたので、第3の形状が複雑な場合に、第3の形状を直接機械加工によって形成する方法と比較して製造時間を大幅に短縮できる。また、第1の形状を機械加工によって形成するので金型の形状の高い精度が得られる。
【0008】
本発明の第1の実施形態による金型の製造方法においては、該第1の形状が、1または複数の溝からなる形状、該ベースの面における一つの方向に垂直な断面が一定の形状、または該ベースの面に垂直な軸の周りに軸対称の形状である。
【0009】
本実施形態によれば、該第1の形状の機械加工による形成時間が大幅に短縮される。
【0010】
本発明の第2の実施形態による金型の製造方法においては、該第2の形状が、1または複数の溝からなる形状、該ベースの面における一つの方向に垂直な断面が一定の形状、または該ベースの面に垂直な軸の周りに軸対称の形状である。
【0011】
本実施形態によれば、該第2の形状を機械加工によって形成する場合に形成時間が大幅に短縮される。
【0012】
本発明の第3の実施形態による金型の製造方法においては、該樹脂層を第2の形状にするステップが機械加工によって実施される。
【0013】
本発明の第4の実施形態による金型の製造方法においては、該樹脂層を第2の形状にするステップがリソグラフィ技術によって実施される。
【0014】
本発明の第5の実施形態による金型の製造方法においては、該第1の形状が、該ベースの面における第1の方向に沿った溝からなる形状であり、該第2の形状が、該樹脂層の面における該第1の方向と垂直な第2の方向に沿った溝からなる形状であり、該第3の形状が、マイクロレンズアレイに対応する形状である。
【0015】
本実施形態によれば、マイクロレンズの金型を、機械加工のみを使用する場合と比較して大幅に短い時間で、かつ十分な形状の精度で製造することができる。
【0016】
本発明の第6の実施形態による金型の製造方法においては、該ベースをドライエッチングによって第3の形状にするステップにおいて、該ベースのエッチングレイトと該樹脂層のエッチングレイトとの比が0.1から0.9の範囲である。
【0017】
本発明の第7の実施形態による金型の製造方法においては、該ベース及び該樹脂層のエッチングレイトをそれぞれr1及びr2で表し、該ベースの面上の一方向の座標をx
1で表し、ドライエッチング後の該ベースの面に垂直な方向の座標を、ドライエッチング後の該ベースの面の位置をゼロとしてzで表し、第1の形状に対応する該ベースの目標形状のx
1z断面を
【数1】
で表し、ドライエッチング前の該ベースの面に垂直な方向の座標を、ドライエッチング前の該ベースの面の位置をゼロとしてz
01で表した場合に、該第1の形状のx
1z
01断面を
【数2】
が満たされるように定める。
【0018】
本実施形態によれば、該ベース及び該樹脂層のエッチングレイトに応じて、第1の形状を適切に定めることにより、第1の形状に対応する該ベースの目標形状が得られる。
【0019】
本発明の第8の実施形態による金型の製造方法においては、該ベース及び該樹脂層のエッチングレイトをそれぞれr1及びr2で表し、該ベースの
面上の一方向の座標をx
2で表し、ドライエッチング後の該ベースの面に垂直な方向の座標を、ドライエッチング後の該ベースの面の位置をゼロとしてzで表し、第2の形状に対応する該ベースの目標形状のx
2z断面を
【数3】
で表し、ドライエッチング前の該ベースの面に垂直な方向の座標を、ドライエッチング前の該樹脂層の面の位置をゼロとしてz
02で表した場合に、該第2の形状のx
2z
02断面を
【数4】
が満たされるように定める。
【0020】
本実施形態によれば、該ベース及び該樹脂層のエッチングレイトに応じて、第2の形状を適切に定めることにより、第2の形状に対応する該ベースの目標形状が得られる。
【0021】
本発明の第9の実施形態による金型の製造方法においては、該第3の形状が該第1の形状に起因する形状と該第2の形状に起因する形状とを少なくとも部分的に重ね合わせて形成される。
【0022】
本発明の第10の実施形態による金型の製造方法においては、該第3の形状が該第1の形状に起因する形状と該第2の形状に起因する形状とを重ね合わせることなく組み合わせて形成される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の金型の製造方法を示す流れ図である。
【
図2A】本発明の第1の実施形態の金型の製造方法を説明するための図である。
【
図2B】本発明の第1の実施形態の金型の製造方法を説明するための図である。
【
図2C】本発明の第1の実施形態の金型の製造方法を説明するための図である。
【
図2D】本発明の第1の実施形態の金型の製造方法を説明するための図である。
【
図3A】本発明の第2の実施形態の金型の製造方法を説明するための図である。
【
図3B】本発明の第2の実施形態の金型の製造方法を説明するための図である。
【
図3C】本発明の第2の実施形態の金型の製造方法を説明するための図である。
【
図3D】本発明の第2の実施形態の金型の製造方法を説明するための図である。
【
図4】
図1のステップS1020を説明するための流れ図である。
【
図5】
図1のステップS1040を説明するための流れ図である。
【
図6A】表面に溝を形成したベース上に樹脂層をコーティングした部材の溝の方向に垂直な断面を示す図である。
【
図6B】
図6Aに示した部材にドライエッチングを実施して樹脂層を除去した後のベースの溝の方向に垂直な断面を示す図である。
【
図7A】ベース上にコーティングした樹脂層の表面に溝を形成した部材の溝の方向に垂直な断面を示す図である。
【
図7B】
図7Aに示した部材にドライエッチングを実施して樹脂層を除去した後のベースの溝の方向に垂直な断面を示す図である。
【
図8A】ドライエッチング前のベースの第1の形状の断面を示す図である。
【
図8B】
図8Aに示す第1の形状に対応するベースの目標形状の断面を示す図である。
【
図9A】ドライエッチング前の樹脂層の第2の形状の断面を示す図である。
【
図9B】
図9Aに示す第2の形状に対応するベースの目標形状の断面を示す図である。
【
図10A】レンズの周囲に回折格子を備えた光学素子の平面図である。
【
図10B】レンズの周囲に回折格子を備えた光学素子の側面図である。
【
図10C】レンズの周囲に回折格子を備えた光学素子の平面図である。
【
図10D】レンズの周囲に回折格子を備えた光学素子の側面図である。
【
図11】ベース及び樹脂層上の線状の溝の配置を示す図である。
【
図12】
図1のステップS1040が終了した後のベースの形状を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の金型の製造方法を示す流れ図である。
【0025】
図2A乃至
図2Dは、本発明の第1の実施形態の金型の製造方法を説明するための図である。
【0026】
図3A乃至
図3Dは、本発明の第2の実施形態の金型の製造方法を説明するための図である。
図3A乃至
図3Dは、金型の中心軸を含む断面図である。
【0027】
図1のステップS1010において、ドライエッチング前のベースの形状、すなわち第1の形状、及びドライエッチング前の樹脂層の形状、すなわち第2の形状を定める。第1の形状及び第2の形状の定め方は後で説明する。
【0028】
図1のステップS1020において、金属からなるベースを機械加工によって第1の形状にする。
【0029】
図4は、
図1のステップS1020を説明するための流れ図である。
【0030】
図4のステップS2010において、金属からなるベースを準備する。
【0031】
図4のステップS2020において、第1の形状を得るように金属からなるベースを機械加工する。
【0032】
図4のステップS2030において、ベースの形状が所望の第1の形状であるか判断する。ベースの形状が所望の第1の形状であれば処理を終了する。ベースの形状が所望の第1の形状でなければステップS2010に戻る。
【0033】
図2Aは、第1の実施形態の金型の製造方法のステップS1010終了後の、第1の形状に機械加工された金属からなるベースを示す図である。ベース101は、鋼材101B上にニッケル・リン皮膜101Aを付したものである。本実施形態において、第1の形状は、一定方向に配置されたシリンダー形状の複数の溝である。
【0034】
図3Aは、第2の実施形態の金型の製造方法のステップS1010終了後の機械加工された金属からなるベースを示す図である。ベース101は、鋼材101B上にニッケル・リン皮膜101Aを付したものである。第1の形状は、中心軸に関して軸対称な回折格子パターン及びフレネルレンズパターンである。
【0035】
一般的に、第1の形状が、一定方向に配置された複数の溝の形状、ベースの面における一つの方向に垂直な断面が一定である形状、またはベースの面に垂直な軸の周りに軸対称である形状であれば、機械加工の所要時間は大幅に短縮される。
【0036】
図1のステップS1030において、ベース上に樹脂層をコーティングする。
【0037】
図2Bは、第1の実施形態の金型の製造方法のステップS10
30終了後の樹脂層がコーティングされたベースを示す図である。ベース101上に樹脂層103がコーティングされている。
【0038】
図3Bは、第2の実施形態の金型の製造方法のステップS10
30終了後の樹脂層がコーティングされたベースを示す図である。ベース101上に樹脂層103がコーティングされている。
【0039】
図1のステップS1040において、樹脂層を第2の形状にする。
【0040】
図5は、
図1のステップS1040を説明するための流れ図である。
【0041】
図5のステップS3010において、樹脂層を第2の形状にするために機械加工を使用するかリソグラフィ技術を使用するか判断する。樹脂層が感光性でなければ、リソグラフィ技術は使用できない。リソグラフィ技術が使用できる場合には、以下の表1に示す機械加工とリソグラフィ技術の特性、及び第2の形状を考慮して機械加工を使用するかリソグラフィ技術を使用するか判断する。
【表1】
表1において、ピッチ、高さ及びアスペクト比は、格子など周期的な凹凸構造を形成する場合における周期的な凹凸構造のピッチ、高さ及びアスペクト比の範囲を示す。また、コーナーRとは、金型の隅の部分の曲率半径の範囲を示す。機械加工による金型の隅の部分の最小の曲率半径は、リソグラフィ技術によるものよりも大きい。バイナリー形状とは、高さが高低の二値のいずれかである形状を意味する。
【0042】
機械加工を使用すると判断すれば、ステップS3020に進む。リソグラフィ技術を使用すると判断すれば、ステップS3030に進む。
【0043】
ステップS3020において、第2の形状の形成に機械加工を使用する。
【0044】
ステップS3030において、第2の形状の形成にリソグラフィ技術を使用する。
【0045】
図5のステップS3040において、樹脂層の形状が所望の第2の形状であるか判断する。樹脂層の形状が所望の第2の形状であれば処理を終了する。樹脂層の形状が所望の第2の形状でなければステップS3020に戻る。
【0046】
図2Cは、第1の実施形態の金型の製造方法のステップS10
40終了後の、第2の形状に形成された樹脂層を示す図である。本実施形態において、第2の形状は、ベースの溝と直交するように配置されたシリンダー形状の複数の溝である。
【0047】
図3Cは、第2の実施形態の金型の製造方法のステップS10
40終了後の、第2の形状に形成された樹脂層を示す図である。本実施形態において、第2の形状は、拡散構造としてのサインカーブである。
【0048】
図1のステップS1050において、ベースをドライエッチングによって第3の形状にする。
【0049】
ここで、ドライエッチングによるベースの第3の形状への形成を説明する。
【0050】
図6Aは、表面に溝を形成したベース101上に樹脂層103をコーティングした部材の溝の方向に垂直な断面を示す図である。溝の深さをa1で表す。
【0051】
図6Bは、
図6Aに示した部材にドライエッチングを実施して樹脂層103を除去した後のベース101の溝の方向に垂直な断面を示す図である。溝の深さをb1で表す。
【0052】
図6A及び
図6Bの溝の断面は、破線で示すように矩形であるとする。ベース101のエッチングレイトをr1で表し、樹脂層103のエッチングレイトをr2で表す。ここで、r2>r1である。
【0053】
図6Aにおいて、樹脂層103の溝に対応する部分が深さa1の溝の底部までエッチングされたときに、溝の周囲のベース101は深さa1までエッチングされていない。溝の周囲のベース101が深さa1までエッチングされる時間と溝の中の樹脂層103が深さa1の溝の底部までエッチングされる時間との差の時間に、溝の底部の深さはエッチングによってさらにb1だけ深くなる。このようにして、ドライエッチングを実施して樹脂層103を除去した後に、
図6Bに示すようにベースに深さb1の溝が形成される。
【0054】
したがって、
図6Bに示されたベース101の深さb1は以下の式で表せる。
【数5】
また、深さb1と深さa1との比は以下の式で表せる。
【数6】
このように深さb1と深さa1との比はベース101のエッチングレイトr1、及び樹脂層のエッチングレイトr2によって定まる。
【0055】
図7Aは、ベース101上にコーティングした樹脂層103の表面に溝を形成した部材の溝の方向に垂直な断面を示す図である。溝の深さをa2で表す。
【0056】
図7Bは、
図7Aに示した部材にドライエッチングを実施して樹脂層103を除去した後のベース101の溝の方向に垂直な断面を示す図である。溝の深さをb2で表す。
【0057】
図7A及び
図7Bの溝の断面は、破線で示すように矩形であるとする。ベース101のエッチングレイトをr1で表し、樹脂層103のエッチングレイトをr2で表す。ここで、r2>r1である。
【0058】
図7Bにおいて、ベース101の樹脂層103の溝に対応する部分は、樹脂層103の溝の周囲の部分と比較して、溝の周囲の樹脂層103が深さa2までエッチングされる時間にエッチングによってb2だけ深くなる。このようにして、ドライエッチングを実施して樹脂層103を除去した後に、
図7Bに示すようにベースに深さb2の溝が形成される。
【0059】
したがって、
図7Bに示されたベース101の深さb2は以下の式で表せる。
【数7】
また、深さb2と深さa2との比は以下の式で表せる。
【数8】
このように深さb
2と深さa
2との比はベース101のエッチングレイトr1、及び樹脂層のエッチングレイトr2によって定まる。
【0060】
上記の説明において、
図6A及び
図7Aの溝の断面の形状は矩形であるとした。
図6A及び
図7Aの溝の断面の形状は一例として、
図6A及び
図7Aに実線で示すように円弧であってもよい。この場合に、
図6Bに示す溝の断面の形状は、長軸がa1で短軸がb1の楕円となり、
図7Bに示す溝の断面の形状は、長軸がa2で短軸がb2の楕円となる。
【0061】
ここで、ベース101のエッチングレイトr1、及び樹脂層のエッチングレイトr2に対してドライエッチング前のベース101の形状、及びドライエッチング前の樹脂層103の形状を定める方法を説明する。
【0062】
図8Aは、ドライエッチング前のベース101の第1の形状の断面を示す図である。
【0063】
図8Bは、
図8Aに示す第1の形状に対応するベース101の目標形状の断面を示す図である。
【0064】
図8Bに示すように、ベース101の面上の一方向の座標をx
1で表し、ドライエッチング後のベース101の面に垂直な方向の座標を、ドライエッチング後のベース101の面の位置をゼロとしてzで表し、第1の形状に対応するベース101の目標形状のx
1z断面を
【数9】
で表す。
【0065】
図8Aに示すように、上記の一方向の座標をx
1で表し、ドライエッチング前のベース101の面に垂直な方向の座標を、ドライエッチング前のベース101の面の位置をゼロとしてz
01で表した場合に、ドライエッチング前のベース101の形状、すなわち第1の形状のx
1z
01断面を、
【数10】
と定めれば、式(1)から
図8Bに示すベース101の目標形状が得られる。
【0066】
図9Aは、ドライエッチング前の樹脂層103の第2の形状の断面を示す図である。
【0067】
図9Bは、
図9Aに示す第2の形状に対応するベース101の目標形状の断面を示す図である。
【0068】
図9Bに示すように、ベース101の面上の一方向の座標をx
2で表し、ドライエッチング後のベース101の面に垂直な方向の座標を、ドライエッチング後のベース101の面の位置をゼロとしてzで表し、第2の形状に対応するベース101の目標形状のx
2z断面を
【数11】
で表す。
【0069】
図9Aに示すように、上記の一方向の座標をx
2で表し、ドライエッチング前のベース101の面に垂直な方向の座標を、ドライエッチング前の樹脂層103の面の位置をゼロとしてz
02で表した場合に、ドライエッチング前の樹脂層103の形状、すなわち第2の形状のx
2z
02断面を、
【数12】
と定めれば、式(2)から
図9Bに示すベース101の目標形状が得られる。
【0070】
図2Dは、第1の実施形態の金型の製造方法のステップS10
50終了後の、ドライエッチングによって第3の形状に形成された金属からなるベースを示す図である。第1の形状、すなわちベースの複数の溝と、第2の形状、すなわちこれらの溝と直交する樹脂層の複数の溝と、を備えた
図2Cの部材にドライエッチングを実施することにより、マイクロレンズアレイに対応する第3の形状が得られる。ベース101のエッチングレイトr1、及び樹脂層のエッチングレイトr2に対して第1の形状、すなわちドライエッチング前のベース101の溝の形状、及び第2の形状、すなわちドライエッチング前の樹脂層の溝の形状を適切に定め、ドライエッチング後に第1の形状に起因する形状及び第2の形状に起因する形状を重ね合わせることにより所望のマイクロレンズの金型の形状を得ることができる。
【0071】
図3Dは、第2の実施形態の金型の製造方法のステップS10
50終了後の、ドライエッチングによって第3の形状に形成された金属からなるベースを示す図である。第3の形状は、拡散構造を有した回折格子及びフレネルレンズの金型の形状である。ベース101のエッチングレイトr1、及び樹脂層のエッチングレイトr2に対して第1の形状、すなわちドライエッチング前のベース101の形状、及び第2の形状、すなわちドライエッチング前の樹脂層の形状を適切に定め、ドライエッチング後に第1の形状に起因する形状及び第2の形状に起因する形状を重ね合わせることにより所望の拡散構造を有した回折格子及びフレネルレンズの金型の形状を得ることができる。
【0072】
他の実施形態を説明する。
【0073】
図10Aはレンズの周囲に回折格子を備えた光学素子の平面図である。
【0074】
図10Bはレンズの周囲に回折格子を備えた光学素子の側面図である。
【0075】
図10A及び
図10Bにおけるレンズ201Aは、
図1のステップS1010における第1の形状によって形成される。回折格子203Aは、
図1のステップS1040における第2の形状によって形成される。本実施形態においては、第1の形状に起因する形状及び第2の形状に起因する形状は、重ね合わせることなく組み合わされる。回折格子203Aによってレンズ201Aの周囲を遮光することができる。
【0076】
図10Cはレンズの周囲に回折格子を備えた光学素子の平面図である。
【0077】
図10Dはレンズの周囲に回折格子を備えた光学素子の側面図である。
【0078】
図10C及び
図10Dにおけるレンズ201Bは、
図1のステップS1010における第1の形状によって形成される。回折格子203Bは、
図1のステップS1040における第2の形状によって形成される。本実施形態においては、第1の形状に起因する形状及び第2の形状に起因する形状は、重ね合わせることなく組み合わされる。回折格子203Bによってレンズ201Bの周囲に干渉効果によるぼかし機能を与えることができる。
【0079】
本発明によれば、複数の形状を組み合わせるか重ね合わせることにより、所望の形状の金型を比較的短時間、かつ十分な精度で製造することができる。
【0080】
図1及び
図2A-2Dに示す製造方法の実験結果について以下に説明する。
【0081】
【0082】
ベースの材料は、鋼材上のニッケル・リン皮膜である。膜の厚さは100-200マイクロメータである。樹脂層は、ポリメタクリル酸メチル樹脂PMMA(東京応化工業社:OEBR-1000)である。樹脂層の厚さは12マイクロメータである。
【0083】
ベース及び樹脂層上に形成される線状の溝の長手方向に垂直な断面は、半径が50マイクロメータの円弧であり、溝の深さは5マイクロメータである。したがって、溝の幅は約44マイクロメータである。
【0084】
図1のステップS10
50のドライエッチングとしてイオンビームエッチングを使用した。他の実施形態では反応性イオンエッチングでもよい。樹脂層のエッチングレイトを1とすると、ベースのエッチングレイトは0.85である。
【0085】
図11は、ベース及び樹脂層上の線状の溝の配置を示す図である。ベース上の線状の溝G1及び樹脂層上の線状の溝G2は互いに直交するように配置されている。
【0086】
図12は、
図1のステップS1040が終了した後のベースの形状を測定した結果を示す図である。G1に対応する溝の深さb1は、約0.76マイクロメータであり、G1の深さa1は、5マイクロメータであるので、式(1)が満たされることが確認された。また、G2に対応する溝の深さb2は、約4.20マイクロメータであり、G2の深さa2は、5マイクロメータであるので、式(2)が満たされることが確認された。