(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】活性型変異酵素の製造方法および新規活性型変異酵素、並びに可溶性化変異タンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/00 20060101AFI20220520BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220520BHJP
C07K 14/52 20060101ALI20220520BHJP
C07K 14/55 20060101ALI20220520BHJP
C07K 14/565 20060101ALI20220520BHJP
C07K 14/57 20060101ALI20220520BHJP
C07K 14/61 20060101ALI20220520BHJP
C12N 9/02 20060101ALI20220520BHJP
C12N 9/88 20060101ALI20220520BHJP
C12N 9/06 20060101ALI20220520BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20220520BHJP
C12N 15/60 20060101ALN20220520BHJP
C12N 15/23 20060101ALN20220520BHJP
C12N 15/18 20060101ALN20220520BHJP
C12N 15/26 20060101ALN20220520BHJP
C12N 15/10 20060101ALN20220520BHJP
C12N 15/52 20060101ALN20220520BHJP
C12N 15/22 20060101ALN20220520BHJP
【FI】
C12N9/00
C12P21/02 F
C12P21/02 H
C12P21/02 C
C07K14/52
C07K14/55
C07K14/565
C07K14/57
C07K14/61
C12N9/02
C12N9/88
C12N9/06 Z
C12N15/53 ZNA
C12N15/60
C12N15/23
C12N15/18
C12N15/26
C12N15/10 200Z
C12N15/52 Z
C12N15/22
(21)【出願番号】P 2020136884
(22)【出願日】2020-08-14
(62)【分割の表示】P 2017523718の分割
【原出願日】2016-06-10
【審査請求日】2020-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2015117808
(32)【優先日】2015-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業・総括実施型研究(ERATO)浅野酵素活性分子プロジェクト 産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの)
(73)【特許権者】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】浅野 泰久
(72)【発明者】
【氏名】松井 大亮
(72)【発明者】
【氏名】奥 祐子
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-534084(JP,A)
【文献】特表2010-532324(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0126322(US,A1)
【文献】国際公開第2006/061906(WO,A1)
【文献】Nat. Biotechnol.,2002年,Vol. 20, No.9,pp. 927-932
【文献】Asano Y., et al.,Functional expression of a plant hydroxynitrile lyase in Escherichia coli by directed evolution: cre,Protein Eng. Des. Sel.,2011年,vol.24, no.8,p.607-616
【文献】Database Uniprot [online], Accessin No. P40807, <http://www.uniprot.org/uniprot/P40807.txt?version=4
【文献】Database Uniprot [online], Accessin No. Q9VCN3, <http://www.uniprot.org/uniprot/Q9VCN3.txt?version=
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 9/00- 9/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq/UniProt
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)天然型では酵素活性を示すタンパク質であるが、当該タンパク質の遺伝子を異種発現系で発現させると前記酵素活性を示さない、または微弱な酵素活性しか示さないタンパク質(以下、不活性型酵素と呼ぶ)を特定する工程、
但し、前記異種発現系は、大腸菌発現系、酵母発現系、ブレビバチルス(Brevibacillus)発現系、コリネバクテリウム(Corynebacterium)発現系、アスペルギルス(Aspergillus)発現系、昆虫細胞発現系、放線菌発現系、植物細胞発現系、動物細胞発現系、又は無細胞タンパク質合成系である、
(2b)前記(1)の工程で特定された不活性型酵素のアミノ酸配列中の少なくとも一部のアミノ酸について、配列同一性における保存性を求め、かつ保存性が相対的に低いアミノ酸を特定する工程、
(3b)前記保存性が相対的に低いアミノ酸の少なくとも1つを、当該アミノ酸より保存性が高いアミノ酸で置換したアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を調製する工程、
(4b)前記(3b)の工程で調製した塩基配列を有する遺伝子を、
前記工程(1)に記載のタンパク質が酵素活性を示さなかった異種発現系で発現させてタンパク質を得、得られたタンパク質から天然型で得られる活性と同種の酵素活性を有するタンパク質(以下、活性型変異酵素と呼ぶ)を選択する工程、
を含む活性型変異酵素の製造方法。
【請求項2】
(1)天然型では可溶性のタンパク質であるが、当該タンパク質の遺伝子を異種発現系で発現させると発現系内で不溶性になるタンパク質(以下、不溶性型タンパク質と呼ぶ)を特定する工程、
但し、前記異種発現系は、大腸菌発現系、酵母発現系、ブレビバチルス(Brevibacillus)発現系、コリネバクテリウム(Corynebacterium)発現系、アスペルギルス(Aspergillus)発現系、昆虫細胞発現系、放線菌発現系、植物細胞発現系、動物細胞発現系、又は無細胞タンパク質合成系である、
(2b)前記(1)の工程で特定された不溶性型タンパク質のアミノ酸配列中の少なくとも一部のアミノ酸について、配列同一性における保存性を求め、かつ保存性が相対的に低いアミノ酸を特定する工程、
(3b)前記保存性が相対的に低いアミノ酸の少なくとも1つを、当該アミノ酸より保存性が高いアミノ酸で置換したアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を調製する工程、
(4b)前記(3b)の工程で調製した塩基配列を有する遺伝子を、
前記工程(1)に記載のタンパク質が不溶性になった異種発現系で発現させてタンパク質を得、得られたタンパク質から可溶性化変異タンパク質を選択する工程、
を含む可溶性化変異タンパク質の製造方法。
【請求項3】
可溶性化変異タンパク質であることを、異種発現後の抽出液中における可溶性タンパク質量で判断する請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
異種発現後の抽出液中における当該可溶性タンパク質量が、天然型のタンパク質の異種発現後の抽出液中の当該可溶性タンパク質量に比べて大きい変異タンパク質を、可溶性化変異タンパク質であると定義する、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記(2b)の工程で配列同一性における保存性を求めるアミノ酸配列は、前記(1)の工程で特定された不活性型酵素又は不溶性型タンパク質のαへリックス構造部分のアミノ酸配列から選択する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
置換後のアミノ酸は、配列同一性における保存性が最も高い3つのアミノ酸のいずれか1つとする、請求項1、2又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記工程(3b)におけるアミノ酸の置換は、複数のアミノ酸に対して行い、前記工程(4b)において、複数のアミノ酸を置換したタンパク質から、活性型変異酵素又は可溶性化変異タンパク質を選択する、請求項1、2、5~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記異種発現系は、大腸菌発現
系である、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記活性型変異酵素は、前記不活性型酵素に比べて、酵素活性値が2倍以上、無限大の範囲である、請求項1
、5~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
不溶性型タンパク質は、酵素、サイトカイン、ヘモグロビン、ミオグロビンから成る群から選ばれる1種のタンパク質である、請求項
2~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
不溶性型タンパク質は、IFN-γ、IL-2、IFNβ、およびヒト成長ホルモンから成る群から選ばれる1種のタンパク質である、請求項
2~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
配列番号5に示すアミノ酸配列において、
80番目のイソロイシンがリシンに置換され、及び/又は
177番目のアラニンがアスパラギン酸に置換されたアミノ酸配列を有する、活性型変異ルシフェラーゼ。
【請求項13】
配列番号7に示すアミノ酸配列において、
117番目のリシンがロイシンに置換され、及び/又は
176番目のロイシンがグルタミン酸に置換されたアミノ酸配列を有する、活性型変異オルニチン脱炭酸酵素。
【請求項14】
配列番号9に示すアミノ酸配列において、
174番目のバリンがアスパラギン酸に置換され、
257番目のリシンがチロシンに置換され、及び/又は
261番目のロイシンがグルタミン酸に置換されたアミノ酸配列を有する、活性型変異グルタミン酸脱水素酵素。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか1項に記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子を大腸菌発現系で発現させてタンパク質を得ることを含む、活性型変異酵素の製造方法。
【請求項16】
活性型変異酵素が、活性型変異ルシフェラーゼ、活性型変異オルニチン脱炭酸酵素、または活性型変異グルタミン酸脱水素酵素である請求項15に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性型変異酵素の製造方法および新規な活性型変異酵素、並びに可溶性化変異タンパク質の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、異種発現系で不活性型酵素として発現する酵素に変異を導入することにより活性型変異酵素を得る方法であって、有効な変異導入位置及び変異後のアミノ酸を選定する手法を含む方法、およびこの方法により得られた新規な活性型変異酵素に関する。さらに本発明は、異種発現系で不溶性型タンパク質として発現するタンパク質に変異を導入することにより可溶性化変異タンパク質を得る方法であって、有効な変異導入位置及び変異後のアミノ酸を選定する手法を含むにも関する。
関連出願の相互参照
本出願は、2015年6月10日出願の日本特願2015-117808号の優先権を主張し、その全記載は、ここに特に開示として援用される。
【背景技術】
【0002】
異種発現系で酵素タンパク質遺伝子を発現させた場合、タンパク質は活性型酵素として発現しないことが多く、この点が異種宿主による酵素タンパク質の大量発現における最大の問題となっている。この問題を解決するために、様々な試みがなされてきた。例えば、大腸菌を宿主として活性型酵素として発現させる手法として、菌体培養条件の検討(特許文献1)、共発現した分子シャペロンにより正しい立体構造を形成させるシャペロンとの共発現させる方法(特許文献2)、シグナルペプチドや溶解度を向上させるタグと融合して発現させる方法(特許文献3、特許文献4)、あるいは封入体を形成したタンパク質を変性剤などで解きほぐした後、正しい高次構造に巻き戻すリフォールディング方法(特許文献5、特許文献6、特許文献7)などが挙げられる。また、大腸菌を用いないで、酵母や昆虫、動物の培養細胞(非特許文献1、非特許文献2)で野生型と同じアミノ酸配列の酵素遺伝子を発現させる方法や、遺伝子の転写から翻訳までのすべてを試験管内で行う無細胞翻訳系(特許文献8)なども解決法として開発されてきた。
【0003】
しかし、シャペロン遺伝子との共発現で封入体が解消されないタンパク質も多く存在し、また他の方法では、操作が煩雑な点や高価な点などの問題点があり、現在でも最も安価で簡便な方法で酵素遺伝子を活性型酵素として発現させる新しい技術が求められている。
【0004】
現在までに、大腸菌を用いて異種酵素を活性型変異酵素として発現させた例として、植物由来ヒドロキシニトリルリアーゼ遺伝子に、ランダムに変異を導入し可溶性発現させた報告がある(特許文献9)。また、目的タンパク質の遺伝子配列をランダムに変異した後、レポータータンパク質を付加して活性型変異酵素として発現する配列を選別する手法も報告されている(非特許文献3)。しかし、タンパク質を活性型変異酵素として発現させ得る遺伝子の変異部位及び変異アミノ酸を特定し得る方法に関する報告は未だない。
【0005】
また、酵素を含む種々のタンパク質の遺伝子を異種発現系で発現させた場合、溶解性タンパク質として発現しないことがあり、この点が、種々のタンパク質の異種宿主による大量発現における大きな問題となっている。この問題を解決するために、分子シャペロンタンパク質との共発現(非特許文献4)、マルトース結合タンパク質などとの融合タンパク質としての発現(非特許文献5)などの方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本特開2012-44888号公報
【文献】日本特開平11-9274号公報
【文献】日本特開2012-116816号公報
【文献】日本特開2012-179062号公報
【文献】日本特開平11-335392号公報
【文献】日本特開2011-46686号公報
【文献】日本特表2001-503614号公報
【文献】日本特開2004-105070号公報
【文献】WO2006/041226
【非特許文献】
【0007】
【文献】Meth. In Molecular Biol.,Protocols 103(1998)
【文献】J.Biol.Chem.,264,pp.8222-8229(1989)
【文献】Microb. Cell Fact.,4,pp.1-8(2005)
【文献】Appl. Environ. Micorobiol., 64, pp. 1694-1699(1998)
【文献】Protein science, 8, pp.1669-1674(1999)
【文献】J.Mol.Biol.,157,pp.105-132(1982)
【文献】Sci. Rep., 5 doi:10.1038/srep08193 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、異種発現系で不活性型酵素として発現されるタンパク質を活性型変異酵素として発現する手法として、シャペロン遺伝子との共発現あるいは酵母や動物細胞を用いるなどの方法が開発されてきた。しかし、これらの方法はいずれも操作が煩雑な点や高価な点などの問題点があり、また、これらの方法を応用して可溶化した酵素種は限定的であり、産業利用するための酵素に広く用いることは困難であった。また、一部の酵素では、変異を導入することにより活性型変異酵素として発現することが報告されているが、広範囲の酵素を活性型変異酵素として発現させるために有効な遺伝子の変異部位及び変異アミノ酸を効率的に見出す方法は知られていなかった。異種発現系で不溶性タンパク質として発現するタンパク質においても、不活性型酵素と同様に、可溶性タンパク質として発現させるために有効な遺伝子の変異部位及び変異アミノ酸を効率的に見出す方法は知られていなかった。
【0009】
そこで、本発明は、異種発現系で活性型酵素として発現されない、または活性型酵素が発現しても微量である酵素を活性型変異酵素として発現させる方法であって、有効な変異導入位置及び変異後のアミノ酸を選定する手法を含む方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、その手法により得られた新規な活性型変異酵素を提供することも目的とする。
【0010】
さらに、本発明は、異種発現系で可溶性タンパク質として発現されない、または可溶性タンパク質が発現しても微量であるタンパク質を可溶性化変異タンパク質として発現させる方法であって、有効な変異導入位置及び変異後のアミノ酸を選定する手法を含む方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために、酵素の遺伝子の変異部位と異種発現系における活性型の変異酵素遺伝子の発現との関係について検討し、(1)酵素タンパク質のαヘリックス構造部分の親水性領域に存在する疎水性アミノ酸をある種の親水性アミノ酸に置換する、または同部分の疎水性領域に存在する親水性アミノ酸をある種の疎水性アミノ酸に置換することにより、活性型の変異酵素として発現させることができ、及び/又は(2)保存性が相対的に低いアミノ酸の少なくとも1つを、当該アミノ酸より保存性が高いアミノ酸で置換したアミノ酸配列とすることで、活性型の変異酵素として発現させることができ、かつ(3)これらの方法が異種発現系では不活性型である様々な野生型酵素に対して適用できる汎用性のある活性型変異酵素の調製方法であることを見出して本発明を完成させた。
【0012】
本発明者らは、大腸菌などの異種発現系では活性型酵素として発現されない、または活性型酵素が発現しても微量である微生物や植物、動物由来の酵素の遺伝子に変異を導入した後、電気泳動法によるタンパク質の発現の確認と目的とする酵素の活性測定を組み合わせて調べることにより、活性を示すタンパク質における変異箇所が「疎水性領域に存在する親水性アミノ酸、または親水性領域に存在する疎水性アミノ酸」であることを見出した。そして、これらの変異箇所を二次構造予測プログラムで詳しく解析し、これらの変異箇所が「酵素タンパク質のαへリックス部分」に存在する場合があることを明らかにした。さらに、活性型変異酵素としての発現には「酵素タンパク質に存在するαへリックス内の疎水性領域に存在する親水性アミノ酸、または親水性領域に存在する疎水性アミノ酸が変異される」共通性があることを明らかにした。加えて、二次構造予測で得られたαへリックス部分を、エドモンソン・ホイール・プロット法を用いて親水性領域と疎水性領域に二分してさらに詳細に分析し、疎水性領域に存在する親水性アミノ酸が疎水性アミノ酸に、または親水性領域に存在する疎水性アミノ酸を親水性アミノ酸に置換することにより活性を示す変異酵素が得られる場合があることを見出し、アミノ酸(遺伝子)の変異部位と活性型の変異酵素の発現に一定の関係があることを見出した。
【0013】
上記方法は、目的タンパク質のアミノ酸配列だけに注目して活性型の変異酵素遺伝子を発現させる方法であるが、これとは別に、目的タンパク質について類似のアミノ酸配列が明らかな場合には、これら類似のアミノ酸配列における配列同一性における保存性に注目し、保存性の低いアミノ酸をより保存性の高いアミノ酸に置換することで、得られる変異タンパク質が活性型である確率が高く、効率的に活性型変異酵素を調製することができることを見出した。
【0014】
さらに上記方法は、類似のアミノ酸配列における配列同一性における保存性を利用する方法であるが、この方法は、酵素タンパク質のαへリックス部分に存在する変異候補のアミノ酸について、さらに適用することで、より効率的に活性型変異酵素を調製することができることも明らかにした。
【0015】
さらに上記方法は、活性型変異酵素の調製のみならず、異種発現系で天然型では不溶性タンパク質として発現するタンパク質を、可溶性化変異タンパク質とすることにも適用できることを明らかにした。
【0016】
本発明は、以下の通りである。
[1]
天然型では酵素活性を示すタンパク質であるが、当該タンパク質の遺伝子を異種発現系で発現させると前記酵素活性を示さない、または微弱な酵素活性しか示さないタンパク質(以下、不活性型酵素と呼ぶ)のアミノ酸配列の内、αへリックス構造部分の親水性領域に存在する疎水性アミノ酸の少なくとも1つを置換し(但し、置換するアミノ酸は、当該アミノ酸よりも親水度の高い若しくは疎水度の低いアミノ酸に置換する)、および/または前記αへリックス構造部分の疎水性領域に存在する親水性アミノ酸の少なくとも1つを置換(但し、置換するアミノ酸は、疎水度の高い若しくは親水度の低いアミノ酸に置換する)したアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を、異種発現系で発現させて、天然型で得られる活性と同種の酵素活性を有するタンパク質(以下、活性型変異酵素と呼ぶ)を選択することを含む活性型変異酵素の製造方法。
[2]
(1)天然型では酵素活性を示すタンパク質であるが、当該タンパク質の遺伝子を異種発現系で発現させると前記酵素活性を示さない、または微弱な酵素活性しか示さないタンパク質(以下、不活性型酵素と呼ぶ)を特定する工程、
(2a)前記(1)の工程で特定された不活性型酵素のαへリックス構造部分を特定し、特定されたαへリックス構造部分の親水性領域および/または疎水性領域を特定し、親水性領域に存在する疎水性アミノ酸および/または疎水性領域に存在する親水性アミノ酸を特定する工程、
(3a)前記不活性型酵素のアミノ酸配列の内、前記αへリックス構造部分の親水性領域に存在する疎水性アミノ酸の少なくとも1つを置換し(但し、置換するアミノ酸は、当該アミノ酸よりも親水度の高い若しくは疎水度の低いアミノ酸に置換する)、および/または前記αへリックス構造部分の疎水性領域に存在する親水性アミノ酸の少なくとも1つを置換(但し、置換するアミノ酸は、疎水度の高い若しくは親水度の低いアミノ酸に置換する)したアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を調製する工程、
(4a)前記(3a)の工程で調製した塩基配列を有する遺伝子を、異種発現系で発現させてタンパク質を得、得られたタンパク質から天然型で得られる活性と同種の酵素活性を有するタンパク質(以下、活性型変異酵素と呼ぶ)を選択する工程、
を含む[1]に記載の製造方法。
[3]
天然型では可溶性のタンパク質であるが、当該タンパク質の遺伝子を異種発現系で発現させると発現系内で不溶性になるタンパク質(以下、不溶性型タンパク質と呼ぶ)のアミノ酸配列の内、αへリックス構造部分の親水性領域に存在する疎水性アミノ酸の少なくとも1つを置換し(但し、置換するアミノ酸は、当該アミノ酸よりも親水度の高い若しくは疎水度の低いアミノ酸に置換する)、および/または前記αへリックス構造部分の疎水性領域に存在する親水性アミノ酸の少なくとも1つを置換(但し、置換するアミノ酸は、疎水度の高い若しくは親水度の低いアミノ酸に置換する)したアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を、異種発現系で発現させて、可溶性化したタンパク質(以下、可溶性化変異タンパク質と呼ぶ)を選択することを含む可溶性化変異タンパク質の製造方法。
[4]
(1)天然型では可溶性のタンパク質であるが、当該タンパク質の遺伝子を異種発現系で発現させると発現系内で不溶性になるタンパク質(以下、不溶性型タンパク質と呼ぶ)を特定する工程、
(2a)前記(1)の工程で特定された不溶性型タンパク質のαへリックス構造部分を特定し、特定されたαへリックス構造部分の親水性領域および/または疎水性領域を特定し、親水性領域に存在する疎水性アミノ酸および/または疎水性領域に存在する親水性アミノ酸を特定する工程、
(3a)前記不溶性型タンパク質のアミノ酸配列の内、前記αへリックス構造部分の親水性領域に存在する疎水性アミノ酸の少なくとも1つを置換し(但し、置換するアミノ酸は、当該アミノ酸よりも親水度の高い若しくは疎水度の低いアミノ酸に置換する)、および/または前記αへリックス構造部分の疎水性領域に存在する親水性アミノ酸の少なくとも1つを置換(但し、置換するアミノ酸は、疎水度の高い若しくは親水度の低いアミノ酸に置換する)したアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を調製する工程、
(4a)前記(3a)の工程で調製した塩基配列を有する遺伝子を、異種発現系で発現させてタンパク質を得、得られたタンパク質から可溶性化したタンパク質(以下、可溶性化変異タンパク質と呼ぶ)を選択する工程、
を含む[3]に記載の製造方法。
[5]
可溶性化変異タンパク質であることを、異種発現後の抽出液中における可溶性タンパク質量で判断する[3]又は[4]に記載の製造方法。
[6]
異種発現後の抽出液中における可溶性タンパク質量が、天然型のタンパク質の異種発現後の抽出液中の可溶性タンパク質量に比べて大きい変異タンパク質を、可溶性化変異タンパク質であると定義する、[5]に記載の製造方法。
[7]
前記工程(2a)における、親水性領域および/または疎水性領域の特定は、二次構造予測法を用いてαへリックス構造部分のヘリカルホイールを作図し、ヘリカルホイール上のアミノ酸を1位、5位、2位、6位、3位、7位、4位の順に整列させて一列を形成し、この操作を繰り返して一列当たりアミノ酸7個からなるアミノ酸配列を少なくとも2列形成する(但し、2列目は、アミノ酸の数が5以上であれば良い)、
少なくとも2列整列させたアミノ酸配列領域において、各行のアミノ酸のハイドロパシーインデックスの合計が、0以上の行を疎水性行、0未満の行を親水性行と定義し、
疎水性行の3個又は4個の連続した束を疎水性領域と定義し、親水性行の4個又は3個の連続した束を親水性領域と定義する(但し、疎水性領域における4個の疎水性行の内側のいずれか1つの行のハイドロパシーインデックスの合計は0未満でも良く、親水性領域における4個の親水性行の内側のいずれか1つの行のハイドロパシーインデックスの合計は0以上でも良い)ことで行う、
[2]又は[4]に記載の製造方法。
[8]
前記工程(2a)における、親水性領域に存在するアミノ酸の内、ハイドロパシーインデックスが0以上のアミノ酸を疎水性アミノ酸と特定し、疎水性領域に存在するアミノ酸の内、ハイドロパシーインデックスが0未満のアミノ酸を親水性アミノ酸と特定する、[2]、[4]又は[7]に記載の製造方法。
[9]
前記工程(3a)における、親水性領域に存在する疎水性アミノ酸は、置換対象のアミノ酸に比べて、ハイドロパシーインデックスの値が小さいアミノ酸に置換され、
疎水性領域に存在する親水性アミノ酸は、置換対象のアミノ酸に比べて、ハイドロパシーインデックスの値が大きいアミノ酸に置換される、[2]、[4]、[7]~[8]のいずれか1項に記載の製造方法。
[10]
前記工程(3a)における、親水性領域に存在する疎水性アミノ酸は、置換対象のアミノ酸に比べて、ハイドロパシーインデックスの値が小さく、かつハイドロパシーインデックスの値が0未満のアミノ酸に置換され、
疎水性領域に存在する親水性アミノ酸は、置換対象のアミノ酸に比べて、ハイドロパシーインデックスの値が大きく、かつハイドロパシーインデックスの値が0以上のアミノ酸に置換される、
[2]、[4]又は[7]に記載の製造方法。
[11]
前記工程(3a)におけるアミノ酸の置換は、置換対象のアミノ酸に比べて、配列同一性における保存性の高いアミノ酸に置換する、[2]、[4]、[7]~[10]のいずれか1項に記載の製造方法。
[12]
前記工程(3a)におけるアミノ酸の置換は、複数のアミノ酸のいずれかに対して行い、前記工程(4a)において、いずれかのアミノ酸を置換した複数のタンパク質から活性型変異酵素又は可溶性化変異タンパク質を選択する、[2]、[4]、[7]~[11]のいずれか1項に記載の製造方法。
[13]
天然型では酵素活性を示すタンパク質であるが、当該タンパク質の遺伝子を異種発現系で発現させると前記酵素活性を示さない、または微弱な酵素活性しか示さないタンパク質(以下、不活性型酵素と呼ぶ)のアミノ酸配列中の保存性が相対的に低いアミノ酸の少なくとも1つを、当該アミノ酸より保存性が高いアミノ酸で置換したアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を、異種発現系で発現させて、天然型で得られる活性と同種の酵素活性を有するタンパク質(以下、活性型変異酵素と呼ぶ)を得ること、
を含む活性型変異酵素の製造方法。
[14]
(1)天然型では酵素活性を示すタンパク質であるが、当該タンパク質の遺伝子を異種発現系で発現させると前記酵素活性を示さない、または微弱な酵素活性しか示さないタンパク質(以下、不活性型酵素と呼ぶ)を特定する工程、
(2b)前記(1)の工程で特定された不活性型酵素のアミノ酸配列中の少なくとも一部のアミノ酸について、配列同一性における保存性を求め、かつ保存性が相対的に低いアミノ酸を特定する工程、
(3b)前記保存性が相対的に低いアミノ酸の少なくとも1つを、当該アミノ酸より保存性が高いアミノ酸で置換したアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を調製する工程、
(4b)前記(3b)の工程で調製した塩基配列を有する遺伝子を、異種発現系で発現させてタンパク質を得、得られたタンパク質から天然型で得られる活性と同種の酵素活性を有するタンパク質(以下、活性型変異酵素と呼ぶ)を選択する工程、
を含む[13]に記載の製造方法。
[15]
天然型では可溶性のタンパク質であるが、当該タンパク質の遺伝子を異種発現系で発現させると発現系内で不溶性になるタンパク質(以下、不溶性型タンパク質と呼ぶ)のアミノ酸配列中の保存性が相対的に低いアミノ酸の少なくとも1つを、当該アミノ酸より保存性が高いアミノ酸で置換したアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を、異種発現系で発現させて、可溶性化したタンパク質(以下、可溶性化変異タンパク質と呼ぶ)を得ること、を含む可溶性化変異タンパク質の製造方法。
[16]
(1)天然型では可溶性のタンパク質であるが、当該タンパク質の遺伝子を異種発現系で発現させると発現系内で不溶性になるタンパク質(以下、不溶性型タンパク質と呼ぶ)を特定する工程、
(2b)前記(1)の工程で特定された不溶性型タンパク質のアミノ酸配列中の少なくとも一部のアミノ酸について、配列同一性における保存性を求め、かつ保存性が相対的に低いアミノ酸を特定する工程、
(3b)前記保存性が相対的に低いアミノ酸の少なくとも1つを、当該アミノ酸より保存性が高いアミノ酸で置換したアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を調製する工程、
(4b)前記(3b)の工程で調製した塩基配列を有する遺伝子を、異種発現系で発現させてタンパク質を得、得られたタンパク質から可溶性化変異タンパク質を選択する工程、
を含む[15]に記載の製造方法。
[17]
可溶性化変異タンパク質であることを、異種発現後の抽出液中における可溶性タンパク質量で判断する[15]又は[16]に記載の製造方法。
[18]
異種発現後の抽出液中における当該可溶性タンパク質量が、天然型のタンパク質の異種発現後の抽出液中の当該可溶性タンパク質量に比べて大きい変異タンパク質を、可溶性化変異タンパク質であると定義する、[17]に記載の製造方法。
[19]
前記(2b)の工程で配列同一性における保存性を求めるアミノ酸配列は、前記(1)の工程で特定された不活性型酵素又は不溶性型タンパク質のαへリックス構造部分のアミノ酸配列から選択する、[14]又は[16]に記載の製造方法。
[20]
置換後のアミノ酸は、配列同一性における保存性が最も高い3つのアミノ酸のいずれか1つとする、[14]、[16]又は[19]に記載の製造方法。
[21]
前記工程(3b)におけるアミノ酸の置換は、複数のアミノ酸に対して行い、前記工程(4b)において、複数のアミノ酸を置換したタンパク質から、活性型変異酵素又は可溶性化変異タンパク質を選択する、[14]、[16]、[19]~[20]のいずれか1項に記載の製造方法。
[22]
前記異種発現系は、大腸菌発現系、酵母発現系、ブレビバチルス(Brevibacillus)発現系、コリネバクテリウム(Corynebacterium)発現系、アスペルギルス(Aspergillus)発現系、昆虫細胞発現系、放線菌発現系、植物細胞発現系、動物細胞発現系、又は無細胞タンパク質合成系である、[1]~[21]のいずれか1項に記載の製造方法。
[23]
前記活性型変異酵素は、前記不活性型酵素に比べて、酵素活性値が2倍以上、無限大の範囲である、[1]~[22]のいずれか1項に記載の製造方法。
[24]
配列番号2に示すアミノ酸配列において、
444番目のバリンがスレオニン、セリン、チロシン、ヒスチジン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギン、リシン又はアルギニンに置換され、及び/又は
455番目のバリンがグルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギン、リシン又はアルギニンに置換されたアミノ酸配列を有する、活性型変異マンデロニトリル酸化酵素。
[25]
配列番号3に示すアミノ酸配列において、
261番目のバリンがスレオニン、セリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アスパラギン、リシン又はアルギニンに置換され、及び/又は
430番目のアルギニンがバリン、ロイシン又はアラニンに置換され、
435番目のロイシンがヒスチジン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギン、又はリシンに置換されたアミノ酸配列を有する、活性型変異アルギニン脱炭酸酵素。
[26]
配列番号7に示すアミノ酸配列において、
117番目のリシンがロイシンに置換され、及び/又は
176番目のロイシンがグルタミン酸に置換されたアミノ酸配列を有する、活性型変異オルニチン脱炭酸酵素。
[27]
配列番号5に示すアミノ酸配列において、
80番目のイソロイシンがリシンに置換され、及び/又は
177番目のアラニンがアスパラギン酸に置換されたアミノ酸配列を有する、活性型変異ルシフェラーゼ。
[28]
配列番号9に示すアミノ酸配列において、
174番目のバリンがアスパラギン酸に置換され、
257番目のリシンがチロシンに置換され、及び/又は
261番目のロイシンがグルタミン酸に置換されたアミノ酸配列を有する、活性型変異グルタミン酸脱水素酵素。
[29]
[24]~[28]のいずれか1項に記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子を大腸菌発現系で発現させてタンパク質を得ることを含む、活性型変異酵素の製造方法。
[30]
活性型変異酵素が、活性型変異マンデロニトリル酸化酵素、活性型変異アルギニン脱炭酸酵素、活性型変異オルニチン脱炭酸酵素、活性型変異ルシフェラーゼ、または活性型変異グルタミン酸脱水素酵素である[29]に記載の製造方法。
[31]
不溶性型タンパク質は、酵素、サイトカイン、ヘモグロビン、ミオグロビンから成る群から選ばれる1種のタンパク質である、[3]~[22]のいずれか1項に記載の製造方法。
[32]
不溶性型タンパク質は、IFN-γ、IL-2、IFNβ、およびヒト成長ホルモンから成る群から選ばれる1種のタンパク質である、[3]~[22]のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、異種発現系では不活性型酵素である種々の酵素において、酵素タンパク質のαヘリックス構造部分の親水性領域に存在する疎水性アミノ酸をより親水性のアミノ酸に置換した変異タンパク質、または同部分の疎水性領域に存在する親水性アミノ酸をより疎水性のアミノ酸に置換した変異タンパク質を異種発現系で活性型変異酵素として発現し得る。
【0018】
さらに本発明によれば、類似のアミノ酸配列における配列同一性における保存性に注目し、保存性の低いアミノ酸をより保存性の高いアミノ酸に置換した変異タンパク質を異種発現系で活性型変異酵素として発現し得る。
【0019】
本発明によれば、異種発現系では不溶性型である種々のタンパク質において、タンパク質のαヘリックス構造部分の親水性領域に存在する疎水性アミノ酸をより親水性のアミノ酸に置換した変異タンパク質、または同部分の疎水性領域に存在する親水性アミノ酸をより疎水性のアミノ酸に置換した変異タンパク質を異種発現系で可溶性化変異タンパク質として発現し得る。
【0020】
さらに本発明によれば、類似のアミノ酸配列における配列同一性における保存性に注目し、保存性の低いアミノ酸をより保存性の高いアミノ酸に置換した変異タンパク質を異種発現系で可溶性化変異タンパク質として発現し得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、マンデロニトリル酸化酵素の二次構造予測図(A)及び変異箇所第455番目のバリンが含まれるαへリックス(RVDIDTMVRGVHVALNFG)のヘリカルホイール図(B)と親水性および疎水性領域、変異箇所第455番目のバリンを示している。
【
図2】
図2は、ヘリカルホイール投影図(左図)、アミノ酸配列のアミノ酸1から1をヘリカルホイール投影図上で時計回りに配列を並べたときの配列(A)、7残基ごとに改行したへリックス上のアミノ酸配列とその親水性・疎水性領域(B)を示している。ヘリカルホイールは3.6残基の周期性と考えられており、8残基目が1残基と近い位置に戻り、それ以降の残基は似た軌跡を描く。白抜き丸は親水性アミノ酸を示し、黒丸は疎水性アミノ酸を示す。左図で明らかなように、親水性アミノ酸2、5、6、12、13、16を含む領域を親水性領域、疎水性アミノ酸1、3、4、7、8、10、14、15、17、18を含む領域を疎水性領域とし、親水性領域内の疎水性アミノ酸9や疎水性領域内の親水性アミノ酸11が変異導入対象と考えられる。
【
図3】
図3は、活性型変異酵素を発現させる可能性のある残基の特定方法(本発明の第一の態様の製造方法及び第二の態様の製造方法)に関する説明図。
【
図4】
図4は、マンデロニトリル酸化酵素の第455番目のバリンを他のアミノ酸19種類に置換した酵素の酸化酵素活性(U/ml)とそれぞれのアミノ酸の配列保存率(%)を示している。酸化酵素活性を棒グラフで、アミノ酸配列保存率を白丸で示している。A:アラニン、C:システイン、D:アスパラギン酸、E:グルタミン酸、F:フェニルアラニン、G:グリシン、H:ヒスチジン、I:イソロイシン、K:リシン、L:ロイシン、M:メチオニン、N:アスパラギン、P:プロリン、Q:グルタミン、R:アルギニン、S:セリン、T:スレオニン、V:バリン、W:トリプトファン、Y:チロシンを示している。
【
図5】
図5は、マンデロニトリル酸化酵素の第444番目のバリンを他のアミノ酸19種類に置換した酵素の酸化酵素活性(U/ml)とそれぞれのアミノ酸の配列保存率(%)を示している。酸化酵素活性を棒グラフで、アミノ酸配列保存率を白丸で示している。A:アラニン、C:システイン、D:アスパラギン酸、E:グルタミン酸、F:フェニルアラニン、G:グリシン、H:ヒスチジン、I:イソロイシン、K:リシン、L:ロイシン、M:メチオニン、N:アスパラギン、P:プロリン、Q:グルタミン、R:アルギニン、S:セリン、T:スレオニン、V:バリン、W:トリプトファン、Y:チロシンを示している。
【
図6-1】
図6Aは、マンデロニトリル酸化酵素のR443からG460を用いて、
図2の作図方法(二次構造予測法)で描いたヘリカルホイール図を示している。
図6Bには、
図6Aのヘリカルホイールを線状表示したヘリカルホイールである。
【
図6-2】
図6Cには、線状表示したヘリカルホイールにおいて、さらに各アミノ酸のハイドロパシーインデックス及び各行の合計を示す。
【
図7-1】
図7Aは、アルギニン脱炭酸酵素の二次構造予測図、
図7Bは、N末端から第8番目、第13番目のαへリックスのヘリカルホイール図と親水性および疎水性領域、変異箇所を示している。
【
図7-2】
図7Cには、線状表示したヘリカルホイールにおいて、さらに各アミノ酸のハイドロパシーインデックス及び各行の合計を示す。
【
図8】
図8は、アルギニン脱炭酸酵素の第261番目のバリンを他のアミノ酸19種類に置換した酵素の酸化酵素活性(U/ml)とそれぞれのアミノ酸の配列保存率(%)を示している。酸化酵素活性を棒グラフで、アミノ酸配列保存率を白丸で示している。A:アラニン、C:システイン、D:アスパラギン酸、E:グルタミン酸、F:フェニルアラニン、G:グリシン、H:ヒスチジン、I:イソロイシン、K:リシン、L:ロイシン、M:メチオニン、N:アスパラギン、P:プロリン、Q:グルタミン、R:アルギニン、S:セリン、T:スレオニン、V:バリン、W:トリプトファン、Y:チロシンを示している。
【
図9】
図9は、アルギニン脱炭酸酵素の第430番目のアルギニンを他のアミノ酸19種類に置換した酵素の酸化酵素活性(U/ml)とそれぞれのアミノ酸の配列保存率(%)を示している。酸化酵素活性を棒グラフで、アミノ酸配列保存率を白丸で示している。A:アラニン、C:システイン、D:アスパラギン酸、E:グルタミン酸、F:フェニルアラニン、G:グリシン、H:ヒスチジン、I:イソロイシン、K:リシン、L:ロイシン、M:メチオニン、N:アスパラギン、P:プロリン、Q:グルタミン、R:アルギニン、S:セリン、T:スレオニン、V:バリン、W:トリプトファン、Y:チロシンを示している。
【
図10】
図10は、アルギニン脱炭酸酵素の第435番目のロイシンを他のアミノ酸19種類に置換した酵素の酸化酵素活性(U/ml)とそれぞれのアミノ酸の配列保存率(%)を示している。酸化酵素活性を棒グラフで、アミノ酸配列保存率を白丸で示している。A:アラニン、C:システイン、D:アスパラギン酸、E:グルタミン酸、F:フェニルアラニン、G:グリシン、H:ヒスチジン、I:イソロイシン、K:リシン、L:ロイシン、M:メチオニン、N:アスパラギン、P:プロリン、Q:グルタミン、R:アルギニン、S:セリン、T:スレオニン、V:バリン、W:トリプトファン、Y:チロシンを示している。
【
図11】
図11は、ルシフェラーゼのアミノ酸配列を用いて推定した二次構造(A)とαへリックス(1)のヘリカルホイール図(B上)と親水性および疎水性領域、変異箇所(B下)を示している。
【
図12】
図12は、ルシフェラーゼの野生型酵素と第80番目のイソロイシンをリシンに置換した変異型酵素および、第177番目のアラニンをアスパラギン酸に置換した変異型酵素の粗酵素液のルシフェラーゼ反応の発光値を示している。
【
図13】
図13は、ルシフェラーゼの第80番目のイソロイシンをリシンに置換した変異型酵素および、第177番目のアラニンをアスパラギン酸に置換した変異型酵素ニッケルアフィニティークロマトグラフィーによる精酵素のSDS-PAGE泳動図を示している。
【
図14】
図14は、オルニチン脱炭酸酵素の二次構造予測図を示している。
【
図15】
図15は、グルタミン脱水素酵素の二次構造予測図を示している。
【
図16】
図16は、マンデロニトリル酸化酵素の発現量の試験結果を示す。Soluble ChMOXが上清(可溶性画分)、Soluble + Insoluble ChMOXが全体の発現量(上清(可溶性画分)+ペレット(不溶性画分))
【
図17】
図17は、hGH ELISAを用いたhGH変異型タンパク質の可溶性発現量の試験結果を示す。
【
図19】
図19は、hGHのアミノ酸配列(配列番号11)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<活性型変異酵素の製造方法(第一の態様の製造方法)>
本発明の活性型変異酵素の製造方法(第一の態様の製造方法)は、
天然型では酵素活性を示すタンパク質であるが、当該タンパク質の遺伝子を異種発現系で発現させると前記酵素活性を示さない、または微弱な酵素活性しか示さないタンパク質(不活性型酵素と呼ぶ)のアミノ酸配列の内、αへリックス構造部分の親水性領域に存在する疎水性アミノ酸の少なくとも1つを置換し(但し、置換するアミノ酸は、当該アミノ酸よりも親水度の高い若しくは疎水度の低いアミノ酸に置換する)、および/または前記αへリックス構造部分の疎水性領域に存在する親水性アミノ酸の少なくとも1つを置換(但し、置換するアミノ酸は、疎水度の高い若しくは親水度の低いアミノ酸に置換する)したアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を、異種発現系で発現させて、天然型で得られる活性と同種の酵素活性を有するタンパク質(活性型変異酵素と呼ぶ)を選択することを含む活性型変異酵素の製造方法である。
【0023】
上記活性型変異酵素の製造方法は具体的には、以下の工程を含む。
(1)天然型では酵素活性を示すタンパク質であるが、当該タンパク質の遺伝子を異種発現系で発現させると前記酵素活性を示さない、または微弱な酵素活性しか示さないタンパク質(不活性型酵素)を特定する工程、
(2a)前記(1)の工程で特定された不活性型酵素のαへリックス構造部分を特定し、特定されたαへリックス構造部分の親水性領域および/または疎水性領域を特定し、親水性領域に存在する疎水性アミノ酸および/または疎水性領域に存在する親水性アミノ酸を特定する工程、
(3a)前記不活性型酵素のアミノ酸配列の内、前記αへリックス構造部分の親水性領域に存在する疎水性アミノ酸の少なくとも1つを置換し(但し、置換するアミノ酸は、当該アミノ酸よりも親水度の高い若しくは疎水度の低いアミノ酸に置換する)、および/または前記αへリックス構造部分の疎水性領域に存在する親水性アミノ酸の少なくとも1つを置換(但し、置換するアミノ酸は、疎水度の高い若しくは親水度の低いアミノ酸に置換する)したアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を調製する工程、
(4a)前記(3a)の工程で調製した塩基配列を有する遺伝子を、異種発現系で発現させてタンパク質を得、得られたタンパク質から天然型で得られる活性と同種の酵素活性を有するタンパク質(活性型変異酵素)を選択する工程。
【0024】
工程(1)
工程(1)では、天然型では酵素活性を示すタンパク質であるが、当該タンパク質の遺伝子を異種発現系で発現させると前記酵素活性を示さない、または微弱な酵素活性しか示さないタンパク質を特定する。このようなタンパク質を不活性型酵素と呼ぶ。ある種の異種発現系で発現させると活性を示すが、別の異種発現系では不活性である酵素も、本発明においては不活性型酵素に含める。不活性型酵素となる酵素の起源や酵素の種類には特に制限はない。
【0025】
本発明における対象となる、天然型では酵素活性を示すタンパク質(以下、目的タンパク質と称することがある)は、特に制限はないが、例えば、微生物由来のタンパク質、動物由来のタンパク質、及び植物由来のタンパク質等を挙げることができる。また、不活性型酵素の種類には限定はなく、例えば不活性型酵素としては、酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、異性化酵素、リアーゼ、リガーゼ等が挙げられる。
【0026】
異種発現系とは、目的タンパク質を生成するタンパク質生産体が、生物体である場合、目的タンパク質を生成する生物体とは異なる宿主を用いる発現系であるか、または無細胞タンパク質合成系であり、異なる宿主を用いる発現系及び無細胞タンパク質合成系の種類には特に制限はない。また、目的タンパク質を生成するタンパク質生産体が、無細胞タンパク質合成系である場合には、異種発現系とは、全ての宿主を用いる発現系が異種発現系であるか、または目的タンパク質を生成する無細胞タンパク質合成系とは異なる種類の無細胞タンパク質合成系である。宿主を用いる発現系としては、遺伝子工学において汎用されているものを制限なく挙げることができ、例えば、大腸菌発現系、酵母発現系、ブレビバチルス(Brevibacillus)発現系、コリネバクテリウム(Corynebacterium)発現系、アスペルギルス(Aspergillus)発現系、昆虫細胞発現系、放線菌発現系、植物細胞発現系、及び動物細胞発現系を挙げることができる。また、無細胞タンパク質合成系としては、例えば、ヒト培養細胞、ウサギ網状赤血球、昆虫培養細胞、小麦胚芽、高度高熱性細菌Thermus thermophilusや超好熱性アーキアThermococcus kodakarensis、大腸菌の抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系や再構成無細胞タンパク質合成系PURE system等を挙げることができる。
【0027】
異種発現系における不活性型酵素の特定は、天然型においては酵素活性を示すタンパク質をコードする遺伝子を異種発現系に導入し、異種発現系においてタンパク質を発現させ、得られたタンパク質が、天然型において発現される酵素活性を有するか否か、有する場合どの程度か、で行う。異種発現系における発現は、各異種発現系について常法により行うことができる。詳細は後述する。
【0028】
異種発現系で発現させたタンパク質が活性を示さない、とは、対象とする酵素の活性測定系において、検出限界以下の結果を示す場合である。また、微弱な活性しか示さないとは、対象とする酵素の活性測定系において、天然型において当該タンパク質が示す酵素活性の10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下である場合である。
【0029】
工程(2a)
工程(2a)は、(1)の工程で特定された不活性型酵素のαへリックス構造部分を特定し(ステップ1)、特定されたαへリックス構造部分の親水性領域および/または疎水性領域を特定し(ステップ2)、親水性領域に存在する疎水性アミノ酸および/または疎水性領域に存在する親水性アミノ酸を特定する(ステップ3)工程である。工程(2a)は3つのステップを含む。
【0030】
ステップ1においては、(1)の工程で特定された不活性型酵素のαへリックス構造部分を、例えば、二次構造予測法を用いて特定する。(1)の工程で特定された不活性型酵素のαへリックス構造部分の二次構造予測法を用いる特定は、例えば、遺伝情報処理ソフトウェアGENETYXなどの遺伝子解析ソフトやPSIPRED(http://bioinf.cs.ucl.ac.uk/psipred/)などの二次構造予測プログラムを用いて、二次構造を推定することで実施できる(
図1A)。
図1Aにおいては、アミノ酸S15~N22、L49~F50、G52~Q53、S91~V100、F107~A112、P125~K129、V159~E170、S264~L270、P276~L279、D324~D332、N389~Y395、R443~G460、K463~K467、D488~H497、N551~W569がαへリックス領域である。
【0031】
αへリックスの骨格となるアミノ酸のすべてのアミノ基は4残基離れたカルボキシル基と水素結合を形成している。αへリックス領域を構成するアミノ酸の数には、制限はないが、下記ステップ2において疎水性領域と親水性領域を見出すという観点からは、7残基以上が好ましく、12残基以上がより好ましい。
【0032】
ステップ2は、特定されたαへリックス構造部分の親水性領域および/または疎水性領域を特定するステップである。親水性領域および/または疎水性領域の特定は、αへリックス構造部分のヘリカルホイールを作図して行うことができる。ヘリカルホイールは、pepwheel(http://emboss.bioinformatics.nl/cgi-bin/emboss/pepwheel)などを用いて作成することができる(
図1B)。
図1Bのように描かれたヘリカルホイールは、αへリックスに含まれるアミノ酸の種類と位置を示している。但し、本発明では、ヘリカルホイールは、
図2Aに示すように、7残基で一周を形成する形式で作図し、さらに、
図2Aに示すヘリカルホイールからへリックス内に属するアミノ酸を1→5→2→6→3→7→4の順に並べ、8残基目を改行し先ほどの1と見立てて同様の順で描いた線状表示のヘリカルホイール(
図2B)を用いて、αへリックス構造部分の親水性領域および/または疎水性領域を特定することが好ましい。
【0033】
より具体的には、親水性領域および/または疎水性領域の特定の好ましい態様は以下の通りである。
(a)二次構造予測法を用いてαへリックス構造部分のヘリカルホイールを作図し、ヘリカルホイール上のアミノ酸を1位、5位、2位、6位、3位、7位、4位の順に整列させて一列を形成し、この操作を繰り返して一列当たりアミノ酸7個からなるアミノ酸配列を少なくとも2列形成する。但し、2列目は、アミノ酸の数が5以上であれば良い。即ち、2列目は、アミノ酸の数が少なくとも5個であれば、親水性領域および/または疎水性領域の特定は可能である(線状表示のヘリカルホイール作図)。
(b)少なくとも2列整列させたアミノ酸配列領域において、各行のアミノ酸のハイドロパシーインデックスの合計が、0以上の行を疎水性行、0未満の行を親水性行と定義する。
(c)疎水性行の3個又は4個の連続した束を疎水性領域と定義し、親水性行の4個又は3個の連続した束を親水性領域と定義する。疎水性領域を、疎水性行が3個の連続した束と定義する場合、親水性領域は、親水性行は4個の連続した束と定義する。疎水性領域を、疎水性行が4個の連続した束と定義する場合、親水性領域は、親水性行は3個の連続した束と定義する。但し、疎水性領域における4個の疎水性行の内側のいずれか1つの行のハイドロパシーインデックスの合計は0未満でも良く、親水性領域における4個の親水性行の内側のいずれか1つの行のハイドロパシーインデックスの合計は0以上でも良い。
【0034】
尚、(c)における「疎水性領域における4個の疎水性行の内側のいずれか1つの行」とは、親水性領域と直接接しない2つの行のいずれか1つを意味し、「親水性領域における4個の親水性行の内側のいずれか1つの行」とは、疎水性領域と直接接しない2つの行のいずれか1つを意味する。
【0035】
ハイドロパシーインデックス(非特許文献6)は、アミノ酸の親水性及び疎水性を示す指標である。本発明では、ハイドロパシーインデックス0未満のアミノ酸を親水性アミノ酸とし、ハイドロパシーインデックスが0以上のアミノ酸のアミノ酸を疎水性アミノ酸とする。
【0036】
【0037】
この方法での親水性領域および/または疎水性領域の特定を、以下に実施例のタンパク質を例により詳細に説明する。
【0038】
実施例1のヤンバルトサカヤスデ由来マンデロニトリル酸化酵素の例を
図6A~Cに基づいて説明する。
図6Aは、(a)の二次構造予測法を用いて作図したαへリックス構造部分のヘリカルホイールである。
図6Bには、
図6Aのヘリカルホイールを線状表示したヘリカルホイールである。各丸印はアミノ酸を示し、白抜き丸は、親水性アミノ酸を示し、黒丸は、疎水性アミノ酸を示し、各アミノ酸の位置番号をそれぞれ表示する。
図6Cには、線状表示したヘリカルホイールにおいて、さらに各アミノ酸のハイドロパシーインデックスを示す。例えば、右上に示されたアミノ酸R(アルギニン)のハイドロパシーインデックスは-4.5である。さらに、図の左側には、各行のアミノ酸のハイドロパシーインデックスの合計が示され、上から順に、(ア)3.5、(イ)-6.7、(ウ)-3.8、(エ)3.5、(オ)-1.1、(カ)3.7、(キ)8.3である。(b)では、少なくとも2列整列させたアミノ酸配列領域(本例では3列整列)において、各行のアミノ酸のハイドロパシーインデックスの合計が、0以上の行を疎水性行、0未満の行を親水性行と定義する、としているので、(ア)3.5の行は疎水性行、(イ)-6.7の行は親水性行、(ウ)-3.8の行は親水性行、(エ)3.5の行は疎水性行、(オ)-1.1の行は親水性行、(カ)3.7の行は疎水性行、(キ)8.3の行は疎水性行である。(c)では、疎水性行の3個又は4個の連続した束を疎水性領域と定義し、親水性行の4個又は3個の連続した束を親水性領域と定義し、さらに疎水性領域を、疎水性行が3個の連続した束と定義する場合、親水性領域は、親水性行は4個の連続した束と定義し、さらに疎水性領域を、疎水性行が4個の連続した束と定義する場合、親水性領域は、親水性行は3個の連続した束と定義するとしている。この規定に基づくと、(イ)、(ウ)、(エ)、(オ)の4個の行の連続した束を疎水性領域とし、(カ)、(キ)及び(ア)の3個の行の連続した束を親水性領域とし得る。但し、親水性領域中の(エ)3.5の行は疎水性行であるが、この行は4個の親水性行の内側の行(即ち、疎水性領域と直接接しない行)であることから、この例外は、但し書きに規定する、親水性領域における4個の親水性行の内側のいずれか1つの行のハイドロパシーインデックスの合計は0以上でも良いに相当する。
【0039】
このようにして、この例では、(イ)、(ウ)、(エ)、(オ)の4個の行の連続した束を疎水性領域とし、(カ)、(キ)及び(ア)の3個の行の連続した束を親水性領域とし得る。
【0040】
ステップ3は、親水性領域に存在する疎水性アミノ酸および/または疎水性領域に存在する親水性アミノ酸を特定するステップである。親水性領域に存在する疎水性アミノ酸の特定、および疎水性領域に存在する親水性アミノ酸の特定は、ハイドロパシーインデックスを用いて行う。本発明では、親水性領域に存在するアミノ酸の内、ハイドロパシーインデックスが0以上のアミノ酸を疎水性アミノ酸と特定し、疎水性領域に存在するアミノ酸の内、ハイドロパシーインデックスが0未満のアミノ酸を親水性アミノ酸と特定する。
【0041】
親水性アミノ酸は、スレオニン(T)、セリン(S)、チロシン(Y)、ヒスチジン(H)、グルタミン酸(E)、グルタミン(Q)、アスパラギン酸(D)、アスパラギン(N)、リシン(K)、アルギニン(R)およびグリシン(G)であり、疎水性アミノ酸は、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)、およびアラニン(A)である(表1参照)。但し、トリプトファン(W)とプロリン(P)は、ハイドロパシーインデックスでは0未満であるから親水性アミノ酸に分類される。しかし、側鎖の性質上、疎水性アミノ酸に分類される。このため、トリプトファンとプロリンは、親水性および疎水性の何れのアミノ酸領域にも属さないものとし、前述の各行のアミノ酸のハイドロパシーインデックスの合計算出する際には、トリプトファンとプロリンのハイドロパシーインデックスはいずれも0(ゼロ)とする。但し、トリプトファン(W)とプロリン(P)は、工程(3a)におけるアミノ酸の置換においては、親水性アミノ酸として置換語のアミノ酸の例に含めることはできる。
【0042】
例えば、前述の
図6Cに示す例では、親水性領域に存在する疎水性アミノ酸は、2個のV(バリン)、G(グリシン)およびF(フェニルアラニン)であり、また疎水性領域に存在する親水性アミノ酸は、R(アルギニン)である。
【0043】
工程(3a)
不活性型酵素のアミノ酸配列の内、αへリックス構造部分の親水性領域に存在する疎水性アミノ酸の少なくとも1つを置換したアミノ酸配列をコードする核酸配列を有する遺伝子を調製する。この場合、置換するアミノ酸は、当該アミノ酸よりも親水度の高い若しくは疎水度の低いアミノ酸に置換する。あるいは、不活性型酵素のアミノ酸配列の内、αへリックス構造部分の疎水性領域に存在する親水性アミノ酸の少なくとも1つを置換したアミノ酸配列をコードする核酸配列を有する遺伝子を調製する。この場合、置換するアミノ酸は、疎水度の高い若しくは親水度の低いアミノ酸に置換する。親水度の高低、疎水度の高低は、前述のハイドロパシーインデックスを用いて決定することができる。アミノ酸配列の明らかな遺伝子の調製は常法により実施でき、変異導入技術を用いて対象となるアミノ酸残基の変異導入も、常法により実施することができる。本発明では、例えば、QuikChange(登録商標)Lightning Site-Directed Mutagenesis Kit(アジレント・テクノロジー社製)などを用いて、特定した残基に変異を導入することができる。
【0044】
親水性領域に存在する疎水性アミノ酸の置換は、ハイドロパシーインデックスを用いる場合、置換対象のアミノ酸に比べて、ハイドロパシーインデックスの値が小さいアミノ酸に置換される。置換対象のアミノ酸に比べてハイドロパシーインデックスの値が小さいアミノ酸であっても依然として疎水性アミノ酸である場合もあり得る。さらに、親水性領域に存在する疎水性アミノ酸の置換は、置換対象のアミノ酸に比べてハイドロパシーインデックスの値が小さく、かつハイドロパシーインデックスの値が0未満の親水性アミノ酸に置換されることもできる。通常、親水性領域に存在する疎水性アミノ酸の置換が、置換対象のアミノ酸に比べてハイドロパシーインデックスの値が小さく、かつハイドロパシーインデックスの値が0未満の親水性アミノ酸に置換されることで、より確実に活性型変異酵素を得ることができる傾向がある。
【0045】
同様に、疎水性領域に存在する親水性アミノ酸の置換は、置換対象のアミノ酸に比べて、ハイドロパシーインデックスの値が大きいアミノ酸に置換される。さらに、疎水性領域に存在する親水性アミノ酸の置換は、置換対象のアミノ酸に比べてハイドロパシーインデックスの値が大きく、かつハイドロパシーインデックスの値が0以上のアミノ酸に置換されることもできる。通常、疎水性領域に存在する親水性アミノ酸の置換が、置換対象のアミノ酸に比べてハイドロパシーインデックスの値が大きく、かつハイドロパシーインデックスの値が0以上のアミノ酸に置換されることで、より確実に活性型変異酵素を得ることができる傾向がある。
【0046】
例えば、前述の
図6Cに示す例では、親水性領域に存在する疎水性アミノ酸は、2個のV(バリン)、G(グリシン)およびF(フェニルアラニン)であり、また疎水性領域に存在する親水性アミノ酸は、R(アルギニン)である。実施例では、2個のV(バリン)(444及び455)をVより親水性の高い、あるいは疎水性の低いアミノ酸に置換した。その結果が
図4(V455)及び
図5(V444)に記載されており、
図4(V455)においては、約半数の変異タンパク質に酵素活性が見られ、
図5(V444)においては、ほとんどの変異タンパク質に酵素活性が見られ、活性型変異酵素が得られたことが分かる。
【0047】
工程(4a)
(3a)の工程で調製した核酸配列を有する遺伝子を、前記異種発現系または前記とは異なる異種発現系で発現させて変異導入タンパク質を得る。異種発現系での変異導入タンパク質の発現は、常法により行うことができる。
(3a)及び(4a)の工程については以下に詳細に説明する。
【0048】
(プロモーター)
本発明の方法では、先ず目的タンパク質のアミノ酸配列の所定の位置に所定の変異を導入したタンパク質をコードする遺伝子を保持する大腸菌などの異種発現宿主を準備する。例えば、目的タンパク質に変異を導入したタンパク質(変異導入目的タンパク質)をコードする遺伝子を保持する大腸菌などの異種発現宿主は、変異導入目的タンパク質をコードする遺伝子を誘導型プロモーターの制御下に配置したベクターを用意し、当該ベクターを大腸菌に導入して、調製することができる。このような誘導型プロモーターとしては、特に限定されず、公知のものを使用することができる。例えば、イソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトシド(IPTG)の存在下で転写活性を示す誘導型プロモーターを使用することができる。このようなプロモーターの例としては、Trpプロモーター、Lacプロモーター、Trcプロモーター、Tacプロモーター、T7プロモーター等を挙げることができる。また、IPTG以外の誘導物質の存在下で転写活性を示す他のプロモーターや、培地成分及び温度(例えば、低温)等の培養条件に応じて転写活性を示す他のプロモーターも、誘導型プロモーターとして使用することができる。
【0049】
(ベクター)
ベクターとしては、大腸菌などの異種発現宿主内で複製可能なものであれば特に限定されず、プラスミドベクター、ファージベクター等のいずれであっても良い。具体的なベクターとしては、pCDFシリーズ、pRSFシリーズ、pETシリーズ等を例示列挙することができる。例えば、発現ベクターがpET(T7プロモーターを有する)系の場合には大腸菌BL21(DE3)およびJM109(DE3)を使用することができる。上述したベクターを大腸菌に導入する手法としては、一般的に形質転換法として知られる各種の手法を適用することができる。具体的な手法としては、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法等を適用することができる。なお、形質転換は、一過性であっても安定的なものであってもよい。
【0050】
また、大腸菌としてプラスミドpLysSを保持する大腸菌(BL21(DE3)pLysS:Invitrogen社製)を使用してもよい。プラスミドpLysSは、T7リボザイムを低レベルで発現する。T7リボザイムは、T7RNAポリメラーゼを阻害するので、IPTGによる発現誘導前における変異導入目的タンパク質の発現を抑制することができる。さらに、大腸菌などの異種発現宿主において、変異導入目的タンパク質の正しいフォールディング(折り畳み)を支援するために、シャペロン等を共発現させてもよい。
【0051】
(培養条件)
大腸菌の場合、変異導入目的タンパク質配列をコードする遺伝子を保持する大腸菌の培養は、バッチ培養及び連続培養等のいずれであってもよい。また、静置培養又は振盪培養のいずれであってもよいが、振盪培養が好ましい。培地は、LB培地(Yeast extract 5.0g/L、NaCl 10.0g/L、Tryptone 10.0g/L)などを使用することが出来る。培養方法としては、例えば、37℃で菌体濁度0.5付近まで培養し、IPTGを添加後、温度16~37℃で16~24時間培養するなどが挙げられるが、組換え大腸菌の生育が可能であれば特に限定されるものではない。大腸菌以外の異種発現宿主の場合は、それぞれの宿主で用いられている公知の培養方法を用いることが出来る。
【0052】
(タンパク質の抽出)
本培養後、異種発現宿主を破砕し、変異導入目的タンパク質を含む粗酵素液を調製することができる。従来の方法では、組換えDNAの手法により異種遺伝子を細菌などで大量に発現させた場合に、生成したタンパク質が不溶性物質として細胞内に蓄積する構造体である封入体を形成する。本発明では、大腸菌などの宿主を集菌し、超音波破砕機などで細胞を破壊し、遠心分離で上清と封入体を含む沈殿に分離して得られる上清(可溶性画分)を粗酵素液として用いる。本方法で得られる変異導入目的タンパク質が、通常は可溶性であるため、この粗タンパク質懸濁液には所定の活性や機能を有する変異導入目的タンパク質が含まれる。従って、得られた粗タンパク質懸濁液を変異導入目的タンパク質含有液としてそのまま利用することができる。また、得られた粗タンパク質懸濁液から変異導入目的タンパク質を単離精製して使用することもできる。この場合、変異導入タンパク質の単離精製には一般的な生化学的方法(例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等)を単独で又は適宜組み合わせて用いることができる。単離精製された変異導入目的タンパク質は、例えば所定のpHの緩衝液等に懸濁された状態などで利用することができる。
【0053】
異種発現系で発現させた変異導入タンパク質の中から、天然型において得られる活性と同種の酵素活性を有するタンパク質(活性型変異酵素)を選択する。活性型変異酵素の選択は、以下のように実施できる。各タンパク質が天然型において有する酵素活性を測定できる系において酵素活性を測定することで実施できる。酵素活性の測定系は、各酵素について知られている方法を適宜利用できる。
【0054】
例えば、マンデロニトリル酸化酵素の場合は、基質であるマンデロニトリルと共に、4-アミノアンチピリンとTOOS、ペルオキシダーゼを反応させる比色法でマンデロニトリル酸化酵素の酵素活性を測定することができる。また、アルギニンやオルニチン脱炭酸酵素の場合は、基質であるアルギニンもしくはオルニチンと共に、その酸化反応の生成物に作用するアミン酸化酵素と、4-アミノアンチピリンとTOOS、ペルオキシダーゼを反応させる比色法で酵素活性を測定することができる。ルシフェラーゼの場合は、基質となるセレンテラジンと反応させ、生成する発光を測定することで酵素活性を測定することができる。グルタミン酸脱水素酵素は、基質となるグルタミン酸と共に、NAD+を添加し、生成されるNADHの増加量を吸光度340nmの変化量で酵素活性を測定することが。
【0055】
酵素活性の測定結果に基づいて活性型変異酵素が得られたか、また、活性型変異酵素が得られる変異を知ることができる。活性型変異酵素は、例えば、不活性型酵素に比べて、酵素活性値が2倍以上、無限大の範囲であることができる。不活性型酵素が、全く活性を示さない場合(測定結果が検出限界未満の場合)には、酵素活性値の増加率は無限大であり、不活性型酵素が、微弱な活性を示す場合には、微弱な活性に比べて酵素活性値が2倍以上、好ましくは10倍以上である。
【0056】
<活性型変異酵素の製造方法(第二の態様の製造方法)>
本発明の活性型変異酵素の製造方法(第二の態様の製造方法)は、以下の工程を含む。
(1)天然型では酵素活性を示すタンパク質であるが、当該タンパク質の遺伝子を異種発現系で発現させると前記酵素活性を示さない、または微弱な酵素活性しか示さないタンパク質(以下、不活性型酵素と呼ぶ)を特定する工程、
(2b)前記(1)の工程で特定された不活性型酵素のアミノ酸配列中の少なくとも一部のアミノ酸について、配列同一性における保存性を求め、かつ保存性が相対的に低いアミノ酸を特定する工程、
(3b)前記保存性が相対的に低いアミノ酸の少なくとも1つを、当該アミノ酸より保存性が高いアミノ酸で置換したアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を調製する工程、
(4b)前記(3b)の工程で調製した塩基配列を有する遺伝子を、異種発現系で発現させてタンパク質を得、得られたタンパク質から天然型で得られる活性と同種の酵素活性を有するタンパク質(以下、活性型変異酵素と呼ぶ)を選択する工程。
【0057】
上記工程(1)は、本発明の活性型変異酵素の製造方法(第一の態様の製造方法)における工程(1)と同一であり、前述の第一の態様の製造方法における説明を参照できる。
【0058】
工程(2b)
工程(2b)は、(1)の工程で特定された不活性型酵素のアミノ酸配列中の少なくとも一部のアミノ酸について、配列同一性における保存性を求め、かつ保存性が相対的に低いアミノ酸を特定する工程である。
【0059】
本工程では、(1)の工程で特定された不活性型酵素とアミノ酸配列の同一性の高い他のタンパク質を用いて、例えば、BLAST(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PROGRAM=blastp&PAGE_TYPE=BlastSearch&LINK_LOC=blasthome)で同一性を検索し、INTMSAlign(非特許文献7)を用いて、各々の配列保存性を算出する。不活性型酵素とアミノ酸配列の同一性の高い他のタンパク質は、例えば、以下のように選択する。上記BLASTサイトの「Sequence」欄に不活性型酵素の配列を挿入し、下部の「Algorithm parameters」内の「General Parameters」の「Max target sequences」の数値を5000に、「Expect threshold」の数値を1.0E-3に変更し、BLASTを開始することで同一性の高い他のタンパク質を選択することができる。得られた同一性の高いタンパク質配列を全てFASTA形式でダウンロードし、INTMSAlignに挿入することで配列保存性を算出することができる。
【0060】
配列保存性の算出対象配列は、不活性型酵素の全アミノ酸配列であっても、一部のアミノ酸配列であっても良い。一部のアミノ酸配列の場合、配列保存性の算出対象配列は、酵素タンパク質の、例えば、αヘリックス配列であることもできるが、αヘリックス配列に限定される意図ではない。αヘリックス配列以外に、例えば、β構造、ループ等であることもできる。但し、これらの配列に限定される意図でもない。
【0061】
工程(3b)
工程(3b)は、工程(2b)で特定された、保存性が相対的に低いアミノ酸の少なくとも1つを、当該アミノ酸より保存性が高いアミノ酸で置換したアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を調製する工程である。工程(3b)は、置換対象のアミノ酸の選定を工程(2b)の方法で行うこと以外、変異アミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子の調製は、発明の活性型変異酵素の第一の態様の製造方法における工程(3a)の記載を参照して実施することができる。
【0062】
工程(4b)
工程(4b)は、(3b)の工程で調製した塩基配列を有する遺伝子を、異種発現系で発現させてタンパク質を得、得られたタンパク質から天然型で得られる活性と同種の酵素活性を有するタンパク質(活性型変異酵素)を選択する工程である。工程(4b)は、本発明の活性型変異酵素の第一の態様の製造方法における工程(4a)の記載を参照して実施することができる。
【0063】
後述する実施例3(メトリディア パシフィカ(Metridia pacifica)由来ルシフェラーゼの活性型変異酵素としての発現)及び実施例4(キイロショウジョウバエ由来アミノ酸分解酵素のαへリックスとアミノ酸残基の保存性に着目した活性型変異酵素としての発現)は、第二の態様の製造方法の実施例である。
【0064】
実施例3においては、L76~A89(表4参照)及びS176~I201(表5参照)の2つのアミノ酸配列領域における各アミノ酸の保存性を算出し、I80及びA177が保存性の低いアミノ酸であることが分かり、さらにI80については保存性の高いAにアミノ酸を置換した変異導入目的タンパク質を調製し、A177については保存性の高いDにアミノ酸を置換した変異導入目的タンパク質を調製した。その結果、天然型では不活性型酵素であったものが、活性を示す活性型変異酵素が得られた(
図12参照)。
【0065】
実施例4においては、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)由来オルニチン脱炭酸酵素(DmODC)のS111~E118及びA171~S180(表6参照)の2つのアミノ酸配列領域における各アミノ酸の保存性を算出し、K117及びL176が保存性の低いアミノ酸であることが分かり、さらにK117については保存性の高いLにアミノ酸を置換した変異導入目的タンパク質を調製し、L176については保存性の高いEにアミノ酸を置換した変異導入目的タンパク質を調製した。その結果、天然型では不活性型酵素であったものが、活性を示す活性型変異酵素が得られた。同様にグルタミン酸脱水素酵素(DmGluDH)のV174~L189及びG252~F262(表7参照)の2つのアミノ酸配列領域における各アミノ酸の保存性を算出し、V174、K257及びL261が保存性の低いアミノ酸であることが分かり、さらにV174については保存性の高いDにアミノ酸を置換した変異導入目的タンパク質を調製し、K257については保存性の高いYにアミノ酸を置換した変異導入目的タンパク質を調製し、L261については保存性の高いEにアミノ酸を置換した変異導入目的タンパク質を調製した。その結果、天然型では不活性型酵素であったものが、それぞれ活性を示す活性型変異酵素が得られた。
【0066】
<本発明の活性型変異酵素の製造方法の第一の態様の製造方法と第二の態様の製造方法の組合せ>
酵素を構成するタンパク質は、立体構造内部で、向かい合う残基が親水性アミノ酸の場合、へリックス上のアミノ酸も親水性アミノ酸である、基質ポケット内の酵素反応に影響する残基で親水性のアミノ酸の可能性があり、アミノ酸残基でも配列保存性が高い場合は、特にそれらの可能性が考えられる。対照的に配列保存性が低い場合、その酵素においてのみ存在している可能性が考えられ、それらを除外することでタンパク質の酵素活性を高めることが出来るのではないかと推察される。この点を利用するのが本発明の第二の態様の製造方法であり、配列保存性の低いアミノ酸を抽出し、配列保存性の高いアミノ酸と置換することで、酵素活性を高める。これにより、活性型変異酵素をえるためのより合理的な変異導入が可能であると考えられる。
【0067】
これらの関係の概念図を
図3に示す。タンパク質を構成するアミノ酸(全体の円)の内、αヘリックス配列を構成するアミノ酸の円(左側)と配列保存性の低いアミノ酸の円(右側)がある。αヘリックス配列を構成するアミノ酸の円(左側)の中に、本発明の第一の態様の製造方法において特定する親水性領域中の疎水性アミノ酸または疎水性領域中の親水性アミノ酸の円(左側の円)がある。本発明の第二の態様の製造方法において特定する配列保存性の低いアミノ酸の円(右側)は、αヘリックス配列を構成するアミノ酸の円(左側)及び親水性領域中の疎水性アミノ酸または疎水性領域中の親水性アミノ酸の円(左側の円)と重複する場合もある。タンパク質によっては重複しない場合もあり得る。
【0068】
前記重複がある場合には、工程(1)で特定された不活性型酵素について、本発明の活性型変異酵素の第一の態様の製造方法の工程(2a)で、親水性領域に存在する疎水性アミノ酸および/または疎水性領域に存在する親水性アミノ酸を特定するとともに、本発明の活性型変異酵素の第二の態様の製造方法の工程(2b)で、保存性が相対的に低いアミノ酸を特定し、両方の情報を元に、工程(3a)及び(4a)(工程(3b)及び(4b))を実施することで、異種発現系で発現させてタンパク質を得、得られたタンパク質から天然型で得られる活性と同種の酵素活性を有するタンパク質(活性型変異酵素)を選択することもできる。実施例2(シロイヌナズナ由来アルギニン脱炭酸酵素の活性型変異酵素としての発現)においては、本発明の活性型変異酵素の製造方法の第一の態様の製造方法と第二の態様の製造方法を組合せて実施している。
【0069】
<活性型変異酵素>
本発明は上記本発明の方法により選択された、新規な活性型変異酵素を包含する。
【0070】
本発明の活性型変異マンデロニトリル酸化酵素は、配列番号2に示すアミノ酸配列において、
444番目のバリンがスレオニン、セリン、チロシン、ヒスチジン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギン、リシン又はアルギニンに置換され、及び/又は
455番目のバリンがグルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギン、リシン又はアルギニンに置換されたアミノ酸配列を有する。本発明の活性型変異マンデロニトリル酸化酵素は、天然型の酵素活性と同等またはそれ以上の活性を有するものを含む。
【0071】
具体的には、455番目のバリンを他のアミノ酸に置換した本発明の活性型変異マンデロニトリル酸化酵素は、
図4に示すように、天然型の酵素活性は実質的にゼロであるのに対して、それぞれマンデロニトリル酸化酵素活性を示す。444番目のバリンを他のアミノ酸に置換した本発明の活性型変異マンデロニトリル酸化酵素も、
図5に示すように、天然型の酵素活性は実質的にゼロであるのに対して、それぞれマンデロニトリル酸化酵素活性を示す。
【0072】
本発明の活性型変異アルギニン脱炭酸酵素は、配列番号3に示すアミノ酸配列において、
261番目のバリンがスレオニン、セリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アスパラギン、リシン又はアルギニンに置換され、及び/又は
430番目のアルギニンがバリン、ロイシン又はアラニンに置換され、
435番目のロイシンがヒスチジン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギン、又はリシンに置換されたアミノ酸配列を有する。本発明の活性型変異アルギニン脱炭酸酵素は、活性型変異酵素であり、天然型の酵素活性と同等またはそれ以上の活性を有するものを含む。
【0073】
261番目のバリンを他のアミノ酸に置換した本発明の活性型変異アルギニン脱炭酸酵素は、
図8に示すように、天然型の酵素活性は実質的にゼロであるのに対して、それぞれアルギニン脱炭酸酵素活性を示す。
430番目のアルギニンを他のアミノ酸に置換した本発明の活性型変異アルギニン脱炭酸酵素は、
図9に示すように、天然型の酵素活性は実質的にゼロであるのに対して、それぞれアルギニン脱炭酸酵素活性を示す。
435番目のロイシンを他のアミノ酸に置換した本発明の活性型変異アルギニン脱炭酸酵素は、
図10に示すように、天然型の酵素活性は実質的にゼロであるのに対して、それぞれアルギニン脱炭酸酵素活性を示す。
【0074】
本発明の活性型変異オルニチン脱炭酸酵素は、配列番号7に示すアミノ酸配列において、
117番目のリシンがロイシンに置換され、及び/又は
176番目のロイシンがグルタミン酸に置換されたアミノ酸配列を有する。本発明の活性型変異オルニチン脱炭酸酵素は、活性型変異酵素であり、天然型の酵素活性と同等またはそれ以上の活性を有するものを含む。
【0075】
具体的には、天然型の酵素活性は確認できなかったが、オルニチン脱炭酸酵素(DmODC)の第117番目のリシンをロイシン、第176番目のロイシンをグルタミン酸に置換した、本発明の活性型変異オルニチン脱炭酸酵素の活性は、それぞれ0.45U/mLおよび0.04U/mLであった。
【0076】
本発明の活性型変異ルシフェラーゼは、配列番号5に示すアミノ酸配列において、
80番目のイソロイシンがリシンに置換され、及び/又は
177番目のアラニンがアスパラギン酸に置換されたアミノ酸配列を有する。本発明の活性型変異ルシフェラーゼは、活性型変異酵素であり、天然型の酵素活性と同等またはそれ以上の活性を有するものを含む。
【0077】
具体的には、80番目のイソロイシンがリシンに置換した本発明の活性型変異ルシフェラーゼ及び177番目のアラニンがアスパラギン酸に置換した本発明の活性型変異ルシフェラーゼ(MpLUC)は、
図12に示すように、天然型の酵素活性は実質的にゼロであるのに対して、それぞれルシフェラーゼ酵素活性を示す。
【0078】
本発明の活性型変異グルタミン酸脱水素酵素は、配列番号9に示すアミノ酸配列において、
174番目のバリンがアスパラギン酸に置換され、
257番目のリシンがチロシンに置換され、及び/又は
261番目のロイシンがグルタミン酸に置換されたアミノ酸配列を有する。本発明の活性型変異グルタミン酸脱水素酵素は、活性型変異酵素であり、天然型の酵素活性と同等またはそれ以上の活性を有するものを含む。
【0079】
具体的には、グルタミン酸脱水素酵素(DmGluDH)の第174番目のバリンをアスパラギン酸、および第257番目のロイシンをチロシン、第261番目のロイシンをグルタミン酸に置換した、本発明の活性型変異グルタミン酸脱水素酵素の活性は、それぞれ0.14U/mL、0.91U/mL、0.05U/mLであった。
【0080】
本発明は、上記本発明の活性型変異酵素のアミノ酸配列をコードする遺伝子を大腸菌発現系で発現させてタンパク質を得ることを含む、活性型変異酵素の製造方法を包含する。
【0081】
活性型変異酵素は、例えば、活性型変異マンデロニトリル酸化酵素、活性型変異アルギニン脱炭酸酵素、活性型変異オルニチン脱炭酸酵素、活性型変異ルシフェラーゼ、または活性型変異グルタミン酸脱水素酵素である。
【0082】
<可溶性化変異タンパク質の製造方法(第三の態様の製造方法)>
本発明の可溶性化変異タンパク質の製造方法(第三の態様の製造方法)は、
天然型では可溶性のタンパク質であるが、当該タンパク質の遺伝子を異種発現系で発現させると発現系内で不溶性になるタンパク質(不溶性型タンパク質)のアミノ酸配列の内、αへリックス構造部分の親水性領域に存在する疎水性アミノ酸の少なくとも1つを置換し(但し、置換するアミノ酸は、当該アミノ酸よりも親水度の高い若しくは疎水度の低いアミノ酸に置換する)、および/または前記αへリックス構造部分の疎水性領域に存在する親水性アミノ酸の少なくとも1つを置換(但し、置換するアミノ酸は、疎水度の高い若しくは親水度の低いアミノ酸に置換する)したアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を、異種発現系で発現させて、可溶性化したタンパク質(可溶性化変異タンパク質)を選択することを含む可溶性化変異タンパク質の製造方法である。
【0083】
本発明の可溶性化変異タンパク質の製造方法(第三の態様の製造方法)は、具体的には、以下の工程を含む。
(1)天然型では可溶性のタンパク質であるが、当該タンパク質の遺伝子を異種発現系で発現させると発現系内で不溶性になるタンパク質(不溶性型タンパク質)を特定する工程、
(2a)前記(1)の工程で特定された不溶性型タンパク質のαへリックス構造部分を特定し、特定されたαへリックス構造部分の親水性領域および/または疎水性領域を特定し、親水性領域に存在する疎水性アミノ酸および/または疎水性領域に存在する親水性アミノ酸を特定する工程、
(3a)前記不溶性型タンパク質のアミノ酸配列の内、前記αへリックス構造部分の親水性領域に存在する疎水性アミノ酸の少なくとも1つを置換し(但し、置換するアミノ酸は、当該アミノ酸よりも親水度の高い若しくは疎水度の低いアミノ酸に置換する)、および/または前記αへリックス構造部分の疎水性領域に存在する親水性アミノ酸の少なくとも1つを置換(但し、置換するアミノ酸は、疎水度の高い若しくは親水度の低いアミノ酸に置換する)したアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を調製する工程、
(4a)前記(3a)の工程で調製した塩基配列を有する遺伝子を、異種発現系で発現させてタンパク質を得、得られたタンパク質から可溶性化したタンパク質(可溶性化変異タンパク質)を選択する工程。
【0084】
本発明の可溶性化変異タンパク質の製造方法(第三の態様の製造方法)は、本発明の活性型変異酵素の製造方法(第一の態様の製造方法)における、不活性型酵素を不溶性型タンパク質と読み替え、活性型変異酵素を可溶性化変異タンパク質と読み替えることで実施できる。
【0085】
<可溶性化変異タンパク質の製造方法(第四の態様の製造方法)>
本発明の可溶性化変異タンパク質の製造方法(第四の態様の製造方法)は、天然型では可溶性のタンパク質であるが、当該タンパク質の遺伝子を異種発現系で発現させると発現系内で不溶性になるタンパク質(不溶性型タンパク質)のアミノ酸配列中の保存性が相対的に低いアミノ酸の少なくとも1つを、当該アミノ酸より保存性が高いアミノ酸で置換したアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を、異種発現系で発現させて、可溶性化したタンパク質(可溶性化変異タンパク質)を得ること、を含む可溶性化変異タンパク質の製造方法である。
【0086】
本発明の可溶性化変異タンパク質の製造方法(第四の態様の製造方法)は、具体的には、以下の工程を含む。
(1)天然型では可溶性のタンパク質であるが、当該タンパク質の遺伝子を異種発現系で発現させると発現系内で不溶性になるタンパク質(不溶性型タンパク質)を特定する工程、
(2b)前記(1)の工程で特定された不溶性型タンパク質のアミノ酸配列中の少なくとも一部のアミノ酸について、配列同一性における保存性を求め、かつ保存性が相対的に低いアミノ酸を特定する工程、
(3b)前記保存性が相対的に低いアミノ酸の少なくとも1つを、当該アミノ酸より保存性が高いアミノ酸で置換したアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を調製する工程、
(4b)前記(3b)の工程で調製した塩基配列を有する遺伝子を、異種発現系で発現させてタンパク質を得、得られたタンパク質から可溶性化変異タンパク質を選択する工程。
【0087】
本発明の可溶性化変異タンパク質の製造方法(第四の態様の製造方法)は、本発明の活性型変異酵素の製造方法(第二の態様の製造方法)における、不活性型酵素を不溶性型タンパク質と読み替え、活性型変異酵素を可溶性化変異タンパク質と読み替えることで実施できる。
【0088】
さらに、本発明の活性型変異酵素の製造方法の第一の態様の製造方法と第二の態様の製造方法の組合せと同様に、本発明の可溶性化変異タンパク質の製造方法(第三の態様の製造方法)と本発明の可溶性化変異タンパク質の製造方法(第四の態様の製造方法)の組合せも可能である。
【0089】
本発明の可溶性化変異タンパク質の製造方法(第三及び第四の態様の製造方法)において、可溶性化変異タンパク質であることは、例えば、異種発現後の抽出液中における可溶性タンパク質量で判断することができる。さらに、異種発現後の抽出液中における当該可溶性タンパク質量が、天然型のタンパク質の異種発現後の抽出液中の当該可溶性タンパク質量に比べて大きい変異タンパク質を、可溶性化変異タンパク質であると定義することもできる。尚、当該可溶性タンパク質量とは、抽出液中に存在する当該可溶性タンパク質以外を除いた、当該可溶性タンパク質の量を意味する。異種発現後の抽出液は、溶液としては、界面活性剤を含有しない緩衝水溶液を用いることができ、かつ抽出は、異種発現に用いた宿主(菌体)を前記緩衝水溶液の存在下で、物理的又は機械的に破壊する(例えば、超音波破砕、擂潰、フレンチプレスなど)ことで行うことができる。抽出液中には、可溶性化変異タンパク質に加えて、不溶性タンパク質も含有することがあり、この場合には、抽出液を遠心分離して上澄み液中のタンパク質を可溶性化変異タンパク質とすることができる。上澄み液中のタンパク質を可溶性化変異タンパク質の定量は、公知のタンパク質の定量方法を用いることができ、例えば、電気泳動法、ELISA法、ウェスタンブロッティング法などの方法を用いることができる。
【0090】
本発明における不溶性型タンパク質は、天然型では可溶性のタンパク質であるが、当該タンパク質の遺伝子を異種発現系で発現させると発現系内で不溶性になるタンパク質である。異種発現系の例は、本発明の活性型変異酵素の製造方法(第一の態様の製造方法)の説明を参照できる。そのような不溶性型タンパク質の例としては、例えば、酵素、サイトカイン、ヘモグロビン、ミオグロビンから成る群から選ばれる1種のタンパク質を挙げることができる。サイトカイン、ヘモグロビン、及びミオグロビンの全てが、本発明における不溶性型タンパク質ではないが、一部に本発明における不溶性型タンパク質がある。本発明における不溶性型タンパク質は、より具体的には、IFN-γ、IL-2、IFNβ、およびヒト成長ホルモンから成る群から選ばれる1種のタンパク質を挙げることができる。いくつかのタンパク質が本発明における不溶性型タンパク質であることは以下の文献を参照できる。
ヒト成長ホルモン(Fibroblast growth factor 15): PLoS ONE,6,e20307(2011), interleukin-6(IL-6):J. Vet. Med. Sci., 66, pp.1053-1057, (2004)
【0091】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【実施例1】
【0092】
ヤンバルトサカヤスデ由来マンデロニトリル酸化酵素(ChMOX)の活性型変異酵素としての発現
(1)マンデロニトリル酸化酵素遺伝子への変異の導入
ヤンバルトサカヤスデ(Chamberlinius hualienensis)由来のマンデロニトリル酸化酵素遺伝子(配列番号1)を大腸菌発現ベクターpET22bに導入し、「pET22b-ChMOX」を調製した。pColdI-ChMOXの水溶液5μLを、ヒートショック法により、大腸菌XL-1 Red(アジレント・テクノロジー社製)に導入して形質転換した。100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地で48時間培養し、生育したコロニーを100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)にコンラージ棒を用いて懸濁し、菌体を回収した。プラスミドベクターを抽出し、変異型酵素ライブラリーとした。
【0093】
(2)変異型マンデロニトリル酸化酵素ライブラリーからの活性型変異酵素発現プラスミドベクターの選別
上記(1)で得られた変異型酵素ライブラリーを、各々大腸菌BL21(DE3)に上記(1)と同じ条件のヒートショック法により導入し、形質転換した。100μg/mLのアンピシリンを含むLB寒天培地に生育したコロニーを、各ウェルに100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地300μLずつ分注した96穴ディープウェルで37℃培養し、菌体濁度0.5付近で0.5μg/mLのIPTGを添加し、30℃で6時間培養した。遠心分離(2000×g、15分、4℃)で集菌後、50μLの菌体溶解試薬バグバスター(Novagen社製)を添加し、約15分程度室温で振盪した。次に150μLの10mMカリウムリン酸緩衝液(pH7.0)を添加し、遠心分離(2000×g、15分、4℃)で得られた上清を粗酵素液とした。マンデロニトリル酸化酵素活性は特許文献10を参考にし、粗酵素液の活性を測定した。そして、活性を示した変異型酵素の配列を、DNAシーケンサーを用いてDNA配列を解読した。その結果、第455番目のバリンがアラニンに置換されていた。
【0094】
(3)マンデロニトリル酸化酵素の455番目のアミノ酸の飽和変異
第455番目のバリンにおいて、他19種類のアミノ酸に置換した変異型マンデロニトリル酸化酵素発現プラスミドを構築した。そして各々を上記(1)と同じ条件で培養し、マンデロニトリル酸化酵素活性を測定した。その結果、
図4のように、バリンよりもハイドロパシーインデックスが低い、すなわち親水度が高いアミノ酸に置換した方の活性が高く、特に親水性アミノ酸(E、Q、D、N、K、R)の方が高いマンデロニトリル酸化酵素活性を示した。
【0095】
(4)二次構造予測とヘリカルホイールを用いた解析
マンデロニトリル酸化酵素のアミノ酸配列(配列番号2)を用いて、二次構造予測プログラムPSIPRED(http://bioinf.cs.ucl.ac.uk/psipred/)を用いて推定した結果、変異箇所の第455番目のバリンは、αへリックス構造のアミノ酸配列(RVDIDTMVRGVHVALNFG)中に存在することが明らかになった(
図1A)。また、pepwheel(http://emboss.bioinformatics.nl/cgi-bin/emboss/pepwheel)でヘリカルホイールを描いた結果、
図1Bのように第455番目のバリンは、親水性領域に存在する疎水性アミノ酸であった。従って、第455番目のバリンのアラニンへの置換は、αへリックス内への変異の導入であり、更に親水性領域に存在するハイドロパシーインデックスの低い=親水度の高いアミノ酸への変異であることが明らかとなった。
【0096】
(5)第444番目のバリンへの飽和変異導入
第455番目のバリンと同じαへリックス内にあるV444、G452、F459もまた、「親水性領域に存在する疎水性アミノ酸」であることから、他の19種類のアミノ酸に置換されるようにQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(アジレント・テクノロジー社製)を用いて、V444、G452、F459に変異を導入した。得られた変異導入プラスミドを各々大腸菌JM109(DE3)に形質転換し、アンピシリン入りLBプレートに植菌し、37℃で16時間培養した。得られたコロニーが有するプラスミドのシーケンスを解読し、V444、G452、F459において他19種類のアミノ酸に置換した変異型マンデロニトリル酸化酵素発現プラスミドを構築した。そして各々を上記(1)と同じ条件で培養し、マンデロニトリル酸化酵素活性を測定した。V444において、ハイドロパシーインデックスの低い=親水度の高いアミノ酸への変異が、活性型酵素としての発現に関係していることが明らかとなった。G452やF459においては、他の19種類のアミノ酸置換で活性を示さなかった。
図2の作図方法で、再度ヘリカルホイールを描き直した
図6に示す結果から、
図6Cのようにこの二残基は、親水性と疎水性領域の境界に存在していることが明らかとなり、
図2の作図方法が、この領域の二分に適していると考えられた。
【0097】
(6)V444、G452、V455、F459の配列保存性
BLAST(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PROGRAM=blastp&PAGE_TYPE=BlastSearch&LINK_LOC=blasthome)を用いて、相同性を検索し、前記αヘリックス配列の配列保存性をINTMSAlign(非特許文献7)で算出した。配列保存性の算出は以下の条件で行った。BLASTサイトの「Sequence」欄に不活性型酵素の配列を挿入し、下部の「Algorithm parameters」内の「General Parameters」の「Max target sequences」の数値を5000に、「Expect threshold」の数値を1.0E-3に変更し、BLASTを開始することで同一性の高い他のタンパク質を選択する。得られた同一性の高いタンパク質配列を全てFASTA形式でダウンロードし、INTMSAlignに挿入することで配列保存性を算出した。
【0098】
V444、G452、V455、F459の保存性を確認した結果を表2に示す。V444やV455は、比較的、疎水性のアミノ酸のみならず、親水性のアミノ酸が多く保存されていたが、G452やF459においては、ハイドロパシーインデックスが同程度のアミノ酸が保存されていることが明らかとなった。
【0099】
これらのことから、親水性領域における疎水性アミノ酸において、特に親水性アミノ酸が保存されている場合に、それらを親水性アミノ酸に置換することによる活性型変異酵素として発現が容易になることが示唆された。
【0100】
【実施例2】
【0101】
シロイヌナズナ由来アルギニン脱炭酸酵素(AtADC)の活性型変異酵素としての発現
(1)二次構造予測プログラムによるαへリックスの推定とヘリカルホイールの作図
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のアルギニン脱炭酸酵素のアミノ酸配列(配列番号3)を上記と同じように二次構造予測プログラムPSIPREDを用いて解析した結果、本酵素は20個のαへリックスを有すると推定された(
図7A)。そこで、全てのαへリックスの配列を用いて、上記と同じようにヘリカルホイールを描いた結果、N末端から第8番目(TVQILRVVRKLSQ)と13番目(RESCLLYVDQLKQRCVE)のαへリックスに含まれる第261番目のバリン、第264番目のロイシン、および第430番目のアルギニン、第435番目のロイシン、第441番目のリシンが、
図7B、Cに示すように「親水性領域に存在する疎水性アミノ酸」または「疎水性領域に存在する親水性アミノ酸」であることが明らかとなった。
【0102】
(2)アルギニン脱炭酸酵素のV261、L264、R430、L435、K441への変異導入
シロイヌナズナ由来のアルギニン脱炭酸酵素遺伝子(配列番号4)をpET11aに導入し、「pET11a-AtArgDC」を調製した。上記(1)の各々の残基に他のアミノ酸に置換されるように、QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(アジレント・テクノロジー社製)を用いて変異を導入した。得られた変異導入プラスミドを各々大腸菌JM109(DE3)に形質転換し、アンピシリン入りLBプレートに植菌し、37℃で16時間培養した。得られたコロニーが有するプラスミドのシーケンスを解読し、V261、L264、R430、L435、K441において他19種類のアミノ酸に置換した変異型アルギニン脱炭酸酵素発現プラスミドを構築した。そして各々を上記と同じ条件で培養し、アルギニン脱炭酸酵素活性を測定した。V261(
図8)やL435(
図9)において、ハイドロパシーインデックスの低い=親水度の高いアミノ酸への変異が、R430(
図10)において、ハイドロパシーインデックスの高い=疎水度の高いアミノ酸への変異が、活性型変異酵素としての発現に関係していることが明らかとなった。また、それらを重複した変異導入により、活性の増加が見られたことから、変異導入の蓄積による活性型変異酵素の生産量の増加が見られた。しかし、L264、K441においては、他の19種類のアミノ酸置換で活性を示さなかった。
【0103】
(3)V261、L264、R430、L435、K441の配列保存性
BLASTを用いて相同性を検索し、前記αヘリックス配列の配列保存性をINTMSAlign(非特許文献7)で算出した。配列保存性の算出は以下の条件で行った。BLASTサイトの「Sequence」欄に不活性型酵素の配列を挿入し、下部の「Algorithm parameters」内の「General Parameters」の「Max target sequences」の数値を5000に、「Expect threshold」の数値を1.0E-3に変更し、BLASTを開始することで同一性の高い他のタンパク質を選択する。得られた同一性の高いタンパク質配列を全てFASTA形式でダウンロードし、INTMSAlignに挿入することで配列保存性を算出した。
【0104】
V261、L264、R430、L435、K441の保存性を確認した結果を表3に示す。V261、L435は、比較的、疎水性のアミノ酸のみならず、親水性のアミノ酸が多く保存されており、R430は、比較的、親水性のアミノ酸のみならず、疎水性のアミノ酸が多く保存されていた。しかし、L264、K441においては、ハイドロパシーインデックスが同程度のアミノ酸が保存されていることが明らかとなった。
【0105】
これらのことから、親水性領域における疎水性アミノ酸や、疎水性領域における親水性アミノ酸において、特にその領域と同様の性質を有するアミノ酸が保存されている場合に、それらを置換することにより、活性型変異酵素として発現が容易になることが示唆された。
【0106】
【実施例3】
【0107】
メトリディア パシフィカ(Metridia pacifica)由来ルシフェラーゼ(MpLUC)の活性型変異酵素としての発現
(1)二次構造予測プログラムによるαへリックスの推定
海洋性プランクトン メトリディア パシフィカ(Metridia pacifica)由来のルシフェラーゼ(MpLUC)1-1のアミノ酸配列(配列番号5)を上記と同じプログラムから二次構造を予測した結果(
図11)、
図11Aに示すようにMpLUC1-1は6個のαへリックス構造を有しており、(1)で示すαヘリックス配列は、ヘリカルホイールの作成から親水性領域と疎水性領域に分離することができた(
図11B)。しかし、(2)のαヘリックス配列は、ヘリカルホイールの作成から親水性領域と疎水性領域に分離することができなかった。また、(1)及び(2)のαヘリックス配列について、BLASTを用いて相同性を検索し、前記αヘリックス配列の配列保存性をINTMSAlign(非特許文献7)で算出した。配列保存性の算出は以下の条件で行った。BLASTサイトの「Sequence」欄に不活性型酵素の配列を挿入し、下部の「Algorithm parameters」内の「General Parameters」の「Max target sequences」の数値を5000に、「Expect threshold」の数値を1.0E-3に変更し、BLASTを開始することで同一性の高い他のタンパク質を選択する。得られた同一性の高いタンパク質配列を全てFASTA形式でダウンロードし、INTMSAlignに挿入することで配列保存性を算出した。
【0108】
その結果、保存率の低いアミノ酸として、第80番目のイソロイシンと第177番目のアラニンを見出し、前者がリシン、後者はアスパラギン酸が高い比率で保存されていることが明らかとなった。
【0109】
【0110】
【0111】
(2)「αへリックス構造の親水性領域に存在する疎水性アミノ酸、または同部分の疎水性領域に存在する親水性アミノ酸」の保存性の高い残基への置換
上記の各々のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されるように、上記実施例2(2)と同様の方法で変異を導入した。得られた変異導入プラスミドを各々大腸菌JM109(DE3)に形質転換し、アンピシリン入りLBプレートに植菌し、37℃で16時間培養した。得られたコロニーをIPTG入りLB液体培地5mLで培養し、濁度がおおよそ0.5付近で0.5μg/mL IPTGを添加し、16℃で12時間培養した。遠心分離(10000×g、2分、4℃)で集菌後、20mMカリウムリン酸緩衝液(pH7.0)250μLで再懸濁し、超音波破砕・遠心分離により粗酵素液を調製した。得られた粗酵素液にセレンテラジンを添加し、ルミノメーターを用いて発光度を検出した結果、変異を導入した酵素群において、
図12のように発光を確認した。また、I80K変異型酵素にA177Dの変異を導入することにより、発光度の増加を確認した。そして、His GraviTrap(GEヘルスケア・ジャパン社製)を用いて、変異導入した酵素を、
図13のように単一に精製し、活性型変異酵素であることを確認した。以上の結果から、αへリックス上の親水性領域に存在する疎水性アミノ酸、または同部分の疎水性領域に存在する親水性アミノ酸を、保存性の高いアミノ酸に置換することにより活性型変異酵素として発現できることを明らかにした。
【実施例4】
【0112】
キイロショウジョウバエ由来アミノ酸分解酵素のαへリックスとアミノ酸残基の保存性に着目した活性型変異酵素としての発現
【0113】
(1)二次構造予測プログラムによるαへリックスの推定とヘリカルホイールの作図と保存性アミノ酸残基の検索
キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)由来オルニチン脱炭酸酵素(DmODC)のアミノ酸配列(配列番号7)およびグルタミン酸脱水素酵素(DmGluDH)のアミノ酸配列(配列番号9)の二次構造を予測し、αヘリックス配列を特定した(
図14、15)。さらに、αヘリックス配列における配列保存性に着目して分析した結果、表6、7に示すように、DmODCにおいては第117番目のリシンがロイシン、第176番目のロイシンがグルタミン酸で保存されている確率が高く、またDmGluDHにおいては第174番目のバリンがアスパラギン酸、第257番目のリシンがチロシン、第261番目のロイシンがグルタミン酸で保存されている確率が高いことが明らかとなった。
【0114】
【0115】
【0116】
(2)本発明の方法を用いて選別された残基への変異導入と活性測定
各々の残基に他のアミノ酸に置換されるように、実施例2(2)と同様の方法で変異導入した後、得られたコロニーを培養し、粗酵素液を調製した。その結果、変異前の酵素は可溶性タンパク質として発現されないために、酵素活性は確認できなかったが、DmODCの第117番目のリシンをロイシン、第176番目のロイシンをグルタミン酸に置換した変異型酵素ではオルニチン脱炭酸酵素活性は、それぞれ0.45U/mLおよび0.04U/mLであった。また、DmGluDHの第174番目のバリンをアスパラギン酸、および第257番目のロイシンをチロシン、第261番目のロイシンをグルタミン酸に置換した変異型酵素のグルタミン酸脱水素酵素活性は、それぞれ0.14U/mL、0.91U/mL、0.05U/mLであった。以上の結果から、実施例3と同じように、他の酵素においても、αへリックス上の親水性領域に存在する疎水性アミノ酸、または同部分の疎水性領域に存在する親水性アミノ酸を保存性の高い、アミノ酸に置換することにより活性型変異酵素として発現できることが明らかとなった。
【実施例5】
【0117】
実施例1の(1)~(3)を繰返し、野生型酵素(WT)と変異型酵素(V455D、V455Q)の大腸菌における不溶性タンパク質発現量及び可溶性タンパク質発現量を検討した。粗酵素液を遠心分離して、上清を可溶性画分(可溶性タンパク質)とし、ペレット(沈澱)を不溶性画分(不溶性タンパク質)とした。
【0118】
ヤンバルトサカヤスデ(Chamberlinius hualienensis)由来のマンデロニトリル酸化酵素の野生型酵素(WT)と変異型酵素(V455D、V455Q)の大腸菌における発現量を検討するため、抗体を用いたウェスタンブロッティングによる定量を行った。各々同条件で誘導し、粗酵素液(緩衝液:10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0))を調製した後に、上清(可溶性画分)、上清(可溶性画分)+ペレット(不溶性画分)をSDS-PAGEで泳動し、PVDF膜に転写した。タンパク質に付加したヒスチジンタグに対する抗体anti-His tag mAb HRP DirectT (MBL Co., Ltd., Nagoya, Japan)を用いて、各々の画分における酵素量を定量した。結果として、全体の発現量は同程度ではあるが、変異型酵素(V455D、V455Q)では、可溶性画分の発現量が、野生型酵素(WT)とは異なることを明らかにした(
図16)。
【実施例6】
【0119】
ヒト成長ホルモンの可溶性タンパク質としての発現
ヒト成長ホルモン(hGH)は大腸菌で不溶性発現することが知られている。立体構造が開示されており(PDB ID:3HHR)、7個のαへリックス構造を有している。そこで、該タンパク質を大腸菌で可溶性に発現するために、そのαへリックス配列の配列保存性をINTMSAlign(非特許文献7)で算出した。配列保存性の算出は以下の条件で行った。BLASTサイトの「Sequence」欄に野生型タンパク質の配列を挿入し、下部の「Algorithm parameters」内の「General Parameters」の「Max target sequences」の数値を5000に、「Expect threshold」の数値を1.0E-3に変更し、BLASTを開始することで同一性の高い他のタンパク質を選択する。得られた同一性の高いタンパク質配列を全てFASTA形式でダウンロードし、INTMSAlignに挿入することで配列保存性を算出した。
【0120】
その結果、保存率の低いアミノ酸として、第46番目のロイシン、第55番目のフェニルアラニン、第82番目のロイシン、第88番目のロイシン、第95番目のアルギニン、第97番目のバリン、第114番目のイソロイシンを見出し、各々リシン、ヒスチジン、アルギニン、グルタミン酸、セリン、グルタミン酸、リシンが高い比率で保存されていることが明らかとなった。
【0121】
【0122】
「αへリックス構造の親水性領域に存在する疎水性アミノ酸、または同部分の疎水性領域に存在する親水性アミノ酸」の保存性の高い残基への置換
上記の各々のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されるように、実施例2(2)と同様の方法で変異を導入した。得られた変異導入プラスミドを各々大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、アンピシリン入りLBプレートに植菌し、37℃で16時間培養した。得られたコロニーをIPTG入りLB液体培地5mLで培養し、濁度がおおよそ0.5付近で0.5μg/mL IPTGを添加し、16℃で12時間培養した。遠心分離(10000×g、2分、4℃)で集菌後、20mMカリウムリン酸緩衝液(pH7.0)250μLで再懸濁し、超音波破砕・遠心分離により粗抽出液を調製した。得られた粗抽出液を、hGH ELISAを用いて発現量を分析した結果、変異を導入したタンパク質群において、
図17のように発現を確認した。そして、His GraviTrap(GEヘルスケア・ジャパン社製)を用いて、変異導入したタンパク質を、
図18のように単一に精製し、可溶性タンパク質であることを確認した。以上の結果から、αへリックス上の親水性領域に存在する疎水性アミノ酸、または同部分の疎水性領域に存在する親水性アミノ酸を、保存性の高いアミノ酸に置換することにより蛋白質の可溶性発現量を増加するができることを明らかにした。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明は、酵素タンパク質の調製に関する分野に有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0124】
配列番号1:ヤンバルトサカヤスデ(Chamberlinius hualienensis)由来のマンデロニトリル酸化酵素の遺伝子
配列番号2:ヤンバルトサカヤスデ(Chamberlinius hualienensis)由来のマンデロニトリル酸化酵素のアミノ酸配列
配列番号3:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のアルギニン脱炭酸酵素のアミノ酸配列
配列番号4:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のアルギニン脱炭酸酵素の遺伝子
配列番号5:メトリディア パシフィカ(Metridia pacifica)由来のルシフェラーゼ(MpLUC)1-1のアミノ酸配列
配列番号6:メトリディア パシフィカ(Metridia pacifica)由来のルシフェラーゼ(MpLUC)1-1の遺伝子
配列番号7:キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)由来オルニチン脱炭酸酵素(DmODC)のアミノ酸配列
配列番号8:キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)由来オルニチン脱炭酸酵素(DmODC)の遺伝子
配列番号9:キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)由来グルタミン酸脱水素酵素(DmGluDH)のアミノ酸配列
配列番号10:キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)由来グルタミン酸脱水素酵素(DmGluDH)の遺伝子
配列番号11:hGHのアミノ酸配列
【配列表】