(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】超音速機の機体形状の設計方法、超音速機の生産方法
(51)【国際特許分類】
B64C 30/00 20060101AFI20220520BHJP
B64C 23/04 20060101ALI20220520BHJP
B64F 5/00 20170101ALI20220520BHJP
【FI】
B64C30/00
B64C23/04
B64F5/00
(21)【出願番号】P 2020510433
(86)(22)【出願日】2019-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2019006509
(87)【国際公開番号】W WO2019187828
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2018064900
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】湯原 達規
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0116108(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0116107(US,A1)
【文献】特許第5057374(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2015/0108269(US,A1)
【文献】LI, Wu and RALLABHANDI, Sriram,Inverse Design of Low-Boom Supersonic Concepts Using Reversed Equivalent-Area Targets,Journal of Aircraft,Vol. 51, No. 1,2014年,p. 29-36,ISSN: 0021-8669, DOI: 10.2514/1.C031551
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 30/00
B64C 23/04
B64F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音速機の機体の形状を設計する方法であって、
前記機体の初期形状及び前記機体の目標等価断面積を設定し、
前記超音速機が巡航速度で飛行したと仮定したときの前記機体の初期形状に対する近傍場圧力波形を推定し、
前記推定した機体の初期形状に対する近傍場圧力波形から等価断面積を評価し、
前記巡航速度に応じたマッハ平面を設定し、前記等価断面積が前記目標等価断面積に近づくように、前記機体の初期形状と前記マッハ平面とが交差する初期曲線に対応する設計曲線を前記マッハ平面上に設定する
超音速機の機体形状の設計方法であって、
前記設計曲線をマッハ平面上に設定するステップでは、前記マッハ平面上で前記初期曲線及び前記設計曲線により囲まれた領域の面積を、前記領域に対応する位置での前記目標等価断面積と前記等価断面積との差分に前記巡航速度に応じた巡航マッハ数を乗算した値と一致させることで、前記設計曲線を前記マッハ平面上に設定する
超音速機の機体形状の設計方法。
【請求項2】
請求項1に記載の超音速機の機体形状の設計方法であって、
前記設計曲線をマッハ平面上に設定するステップでは、前記マッハ平面の前記設計曲線の中間点を制御点とし、前記制御点の位置を設計変数と設定し、前記面積を前記乗算した値と一致させるように、前記制御点を最適化する
超音速機の機体形状の設計方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の超音速機の機体形状の設計方法であって、
前記機体の初期形状及び前記機体の目標等価断面積を設定するステップでは、前記目標等価断面積を初期形状の等価断面積に基づき設定する
超音速機の機体形状の設計方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の超音速機の機体形状の設計方法であって、
前記設計曲線をマッハ平面上に設定するステップの後に、
前記超音速機が巡航速度で飛行したと仮定したときの前記機体の前記設計曲線に応じた形状に対する近傍場圧力波形を推定し、
前記推定した機体の前記設計曲線に応じた形状に対する近傍場圧力波形から等価断面積を評価し、
前記巡航速度に応じたマッハ平面を設定し、前記等価断面積が前記目標等価断面積に近づくように、前記機体の前記設計曲線に応じた形状と前記マッハ平面とが交差する曲線に対応する設計曲線を前記マッハ平面上に再設定する
超音速機の機体形状の設計方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちいずれか一項に記載の超音速機の機体形状の設計方法であって、
前記近傍場圧力波形を推定するステップでは、風洞試験又は数値計算により前記近傍場圧力波形を推定する
超音速機の機体形状の設計方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のうちいずれか一項に記載の超音速機の機体形状の設計方法であって、
前記等価断面積を評価するステップでは、下記式に基づき前記等価断面積を評価する
超音速機の機体形状の設計方法。
ここで、
Ae(x):近傍場x点での等価断面積
r:機体から近傍場までの距離
M:巡航マッハ数
γ:空気の比熱比
Δp/p:近傍場圧力
x
0:近傍場圧力開始点
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の超音速機の機体形状の設計方法であって、
前記機体のうち胴体の形状を設計するものである
超音速機の機体形状の設計方法。
【請求項8】
超音速機の機体の形状を設計する方法であって、
前記機体の初期形状及び前記機体の目標等価断面積を設定し、
前記超音速機が巡航速度で飛行したと仮定したときの前記機体の初期形状に対する近傍場圧力波形を推定し、
前記推定した機体の初期形状に対する近傍場圧力波形から等価断面積を評価し、
前記等価断面積と前記目標等価断面積との比較により、前記等価断面積と前記目標等価断面積とが大きく相違する機軸の区間に応じた設計範囲を設定し、
前記設計範囲において、前記巡航速度に応じたマッハ平面を設定し、前記等価断面積が前記目標等価断面積に近づくように、前記機体の初期形状と前記マッハ平面とが交差する初期曲線に対応する設計曲線を前記マッハ平面上に設定する
超音速機の機体形状の設計方法。
【請求項9】
請求項1乃至8に記載の超音速機の機体形状の設計方法を用いて超音速機を設計し、
設計結果に基づく機体形状の超音速機を製作する
超音速機の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソニックブームを低減する超音速機の機体形状の設計方法、超音速機の生産方法及び超音速機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に超音速機は環境適合性の要件を満たすために、超音速飛行時に地上の人や動物あるいは建物といった構造物に及ぼす音響現象であるソニックブームを抑制することが求められる。ソニックブームの低減法は長年に亘って研究されており、最も有力な方法は機体形状を工夫することにより衝撃波の発生パターンを変化させ、地上でのソニックブーム強度を低減しようとするものである。通常超音速機の機体各部から発生する衝撃波は、大気中を伝播してゆく過程で圧力変動の大きな波はより速く大気中を伝播するという現象を伴い機首と機尾の2つの強い衝撃波に統合され、地上において2度の大きな圧力上昇を伴うN型の圧力波として観測される。超音速機によって発生伝播される衝撃波は円錐形態で伝播し地上に到達する。
【0003】
ソニックブームによる騒音問題で陸地上空での超音速飛行は制限されるため超音速旅客機実用化の課題となっている。従来のソニックブーム低減法は機体形状を設計して衝撃波の統合を抑えることにより通常のN型でない低ソニックブーム圧力波形を形成するものである。ジョージ シーバス ダーデンは近傍場理論に基づき後端波も含めたブーム最小化を提案し、低ソニックブーム圧力波形を形成する、航空機の体積等価断面積と揚力分布から求められる揚力等価断面積の和に着目する理論を示した(非特許文献1、2)。
【0004】
これ以降、単に"等価断面積"と言う場合、それは体積等価断面積と揚力等価断面積の和を指す。ここで航空機の等価断面積とは、航空機の巡航マッハ数で決定されるマッハ平面で切断した断面積の機体軸方向への投影面積の分布のことである。なお、幾何学的関係により、前記断面積は前記投影面積に巡航マッハ数を乗算した値と一致する。
【0005】
一般に体積等価断面積と揚力等価断面積は航空機の形状と揚力分布から算出されるが、リーらは近傍場波形から等価断面積を算出する手法を考案し、従来のソニックブーム低減法の適用を容易にした(非特許文献3)。
【0006】
ジョージ シーバス ダーデンは低ソニックブーム圧力波形を形成する等価断面積とそれを実現する超音速機を提案したが、飛行安定性に課題があった。そこで、牧野は飛行安定性と低ソニックブームを両立する等価断面積と超音速機を提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Seebass, R., and George, A., "Sonic-Boom Minimization," Journal of the Acoustical Society of America, Vol. 51, No. 2, 1972, pp. 686-694.
【文献】Darden, C., "Sonic Boom Minimization With Nose-Bluntness Relaxation," NASA TP-1348, 1979.
【文献】Li, W., and Rallabhandi, S., "Inverse Design of Low-Boom Supersonic Concepts Using Reversed Equivalent-Area Targets," Journal of Aircraft, Vol. 51, No. 1, 2014, pp. 29-36.
【文献】湯原達規,上野篤史,牧野好和,後端低ブーム化を目的とした等価断面積の曲率分布, 日本航空宇宙学会,第55回飛行機シンポジウム,3A09,島根県民会館,2017.
【文献】Barger, R.L., Fuselage Design for a Specified Mach-Sliced Area Distribution, NASA-TP-2975, 1990
【文献】Wintzer, M. et al., Under-Track CFD-Based Shape Optimization for a Low-Boom Demonstrator Concept, AIAA 2015-2260, 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記のとおり、低ソニックブーム圧力波形を形成する等価断面積を実現するためには、機体形状を設計し、その設計形状の等価断面積を目標等価断面積に一致させるプロセスを踏む。このプロセスは下記最適化問題(1)として定式化される。
ここで
i:機軸方向の離散点
Ae(i):機軸方向の位置i点での等価断面積
Ae
Target(i):機軸方向の位置i点での目標等価断面積
そのプロセスにおいて、設計時間と設計確度が課題となる。設計時間に関して、設計形状の等価断面積を目標等価断面積に一致させるプロセスの繰返し回数を減らすことが課題である。設計確度に関して、設計形状の等価断面積と目標等価断面積の一致に加えて、それらの一階微分の一致ないし整合が課題であると、本発明者らの検討結果から示唆される(非特許文献4)。
【0010】
バーガーは低ソニックブーム圧力波形を形成する等価断面積を実現するための超音速機の胴体設計手法を提案した(非特許文献5)。その胴体設計手法においては、機軸に垂直な平面上で定義された各二次元断面をつなぐことで三次元形状を形成し、設計形状の等価断面積が目標等価断面積に一致するまで各二次元断面の設計を繰返す手法である。しかしながら、前記のとおり、設計時間と設計確度が課題であった。
【0011】
ウィンツァーらはバーガーと同様の手法で胴体だけでなく主翼・尾翼・ナセルを各二次元断面で定義し、ソニックブーム低減法を適用し、設計時間と設計確度の課題を示唆する結果を示した(非特許文献6)。
【0012】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、等価断面積に基づくソニックブーム低減法の、超音速機の設計形状の等価断面積を目標等価断面積に一致させるプロセスにおいて、設計確度の向上と設計時間の短縮化を実現することができる超音速機の機体形状の設計方法、超音速機の生産方法及び超音速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、バーガーやウィンツァーの示した技術の課題の背景には、三次元形状を構成する各二次元断面(設計曲線)が"マッハ平面に対して平行でない平面"上で定義されているためであるとの知見を得た。つまり、機軸の所定の位置での機軸に垂直な平面上で定義された二次元断面の断面積を変化させたときに、体積等価断面積は機軸の所定の位置の前後のある程度の区間で変化してしまう。例えば、機軸方向の位置i点での設計曲線を変化させたときに、それに対応して変化する等価断面積はAe(i)だけでなく,..Ae(i-2),Ae(i-1),Ae(i),Ae(i+1),Ae(i+2)...など広範囲に影響が伝わる。
【0014】
本発明者は、かかる事情に鑑み、本発明を創案するに至った。
【0015】
本発明の一形態に係る超音速機の機体形状の設計方法は、機体の初期形状及び前記機体の目標等価断面積を設定し、超音速機が巡航速度で飛行したと仮定したときの前記機体の初期形状に対する近傍場圧力波形を推定し、前記推定した機体の初期形状に対する近傍場圧力波形から等価断面積を評価し、前記巡航速度に応じたマッハ平面を設定し、前記等価断面積が前記目標等価断面積に近づくように、前記機体の初期形状と前記マッハ平面とが交差する初期曲線に対応する設計曲線を前記マッハ平面上に設定する。そして、この設計曲線に基づき機体の形状を設計する。
【0016】
本発明では、設計曲線を等価断面積が定義されるマッハ平面上に設定するために、設計曲線に対する等価断面積の変化は一対一となる。例えば、機軸方向の位置i点での設計曲線を変化させたときに、それに対応して変化する等価断面積はAe(i)だけである。よって、等価断面積に基づくソニックブーム低減法の、超音速機の設計形状の等価断面積を目標等価断面積に一致させるプロセスは下記最適化問題(2)として定式化される。
つまり、最適化問題(1)が複数の小さな最適化問題に分割される。その結果、それぞれの最適化問題は簡単となり、設計確度の向上と設計時間の短縮化を実現することができる。
【0017】
前記設計曲線をマッハ平面上に設定するステップでは、前記マッハ平面上で前記初期曲線及び前記設計曲線により囲まれた領域の面積を、前記領域に対応する位置での前記目標等価断面積と前記等価断面積との差分に前記巡航速度に応じた巡航マッハ数を乗算した値と一致させることで、前記設計曲線を前記マッハ平面上に設定してもよい。
前記設計曲線をマッハ平面上に設定するステップでは、前記マッハ平面の前記設計曲線の中間点を制御点とし、前記制御点の位置を設計変数と設定し、前記面積を前記乗算した値と一致させるように、前記制御点を最適化してもよい。
【0018】
前記機体の初期形状及び前記機体の目標等価断面積を設定するステップでは、前記目標等価断面積を初期形状の等価断面積に基づき設定してもよい。
【0019】
前記設計曲線をマッハ平面上に設定するステップの後に、前記超音速機が巡航速度で飛行したと仮定したときの前記機体の前記設計曲線に応じた形状に対する近傍場圧力波形を推定し、前記推定した機体の前記設計曲線に応じた形状に対する近傍場圧力波形から等価断面積を評価し、前記巡航速度に応じたマッハ平面を設定し、前記等価断面積が前記目標等価断面積に近づくように、前記機体の前記設計曲線に応じた形状と前記マッハ平面とが交差する曲線に対応する設計曲線を前記マッハ平面上に再設定してもよい。
【0020】
これにより、揚力等価断面積の変化が無視できない領域の場合にもソニックブームを低減化することができる。
【0021】
前記近傍場圧力波形を推定するステップでは、風洞試験又は数値計算により前記近傍場圧力波形を推定してもよい。
【0022】
前記等価断面積を評価するステップでは、下記式に基づき前記等価断面積を評価してもよい。
ここで、
Ae(x):機軸方向の位置x点での等価断面積
r:機体から近傍場までの距離
M:巡航マッハ数
γ:空気の比熱比
Δp/p:近傍場圧力
x
0:近傍場圧力開始点
本発明の一形態に係る超音速機の生産方法は、上記に記載の超音速機の機体形状の設計方法を用いて超音速機を設計し、設計結果に基づく機体形状の超音速機を製作する。
【0023】
本発明の一形態に係る超音速機は、超音速機の機体の少なくとも一部の形状について、機体の初期形状及び前記機体の目標等価断面積を設定し、前記超音速機が巡航速度で飛行したと仮定したときの前記機体の初期形状に対する近傍場圧力波形を推定し、前記推定した機体の初期形状に対する近傍場圧力波形から等価断面積を評価し、前記部分について、前記巡航速度に応じたマッハ平面を設定し、前記等価断面積が前記目標等価断面積に近づくように、前記機体の初期形状と前記マッハ平面とが交差する初期曲線に対応する設計曲線を前記マッハ平面上に設定した機体の形状を有する。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、等価断面積に基づくソニックブーム低減法の、超音速機の設計形状の等価断面積を目標等価断面積に一致させるプロセスにおいて、設計確度の向上と設計時間の短縮化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る超音速機の形状を示す平面図である。
【
図4】ソニックブームが発生する状況を説明するための図である。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係る超音速機の機体形状の設計方法を示すフローチャートである。
【
図7】等価断面積の定義を説明するための図である。
【
図8】第1の実施形態に係る超音速機の初期形状を示す図である。
【
図9】第1の実施形態に係る目標等価断面積を示すグラフである。
【
図10】第1の実施形態に係る初期形状の近傍場波形を示すグラフである。
【
図11】第1の実施形態に係る近傍場波形から得られた等価断面積を示すグラフである。
【
図12】
図6の目標等価断面積に基づく形状設計を詳細に示すフローチャートである。
【
図13】第1の実施形態に係る目標等価断面積と近傍場波形から得られた等価断面積とを示すグラフである。
【
図14】第1の実施形態に係る設計範囲の設定の説明図である。
【
図15】第1の実施形態に係る設計範囲の設定の説明図(底面図)である。
【
図16】第1の実施形態に係る設計範囲の設定の説明図(下から見た斜視図)である。
【
図17】第1の実施形態に係る設計平面の設定の説明図(側面図)である。
【
図18】第1の実施形態に係る設計平面の設定の説明図(底面図)である。
【
図19】第1の実施形態に係る設計変数の設定の説明図である。
【
図20】第1の実施形態に係る設計変数の最適化の説明図である。
【
図21】第1の実施形態に係る初期形状を斜め下からみた俯瞰図である。
【
図22】第1の実施形態に係る設計形状を斜め下からみた俯瞰図である。
【
図23】第1の実施形態に係る初期形状と設計形状の近似場波形を示すグラフである。
【
図24】第1の実施形態に係る初期形状と設計形状の地上波形を示すグラフである。
【
図25】機軸に垂直な平面上の二次元断面と体積等価断面積との関係を示す図である。
【
図26】第2の実施形態に係る初期形状の斜め下からみた俯瞰図である。
【
図27】第2の実施形態に係る設計形状の斜め下からみた俯瞰図である。
【
図28】第2の実施形態に係る目標等価断面積と近傍場波形から得られた等価断面積とを示すグラフである。
【
図29】第2の実施形態に係る初期形状と設計形状の近似場波形を示すグラフである。
【
図30】第2の実施形態に係る初期形状と設計形状の地上波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0027】
図1は本発明の一実施形態に係る超音速機の外観を示す平面図、
図2はその側面図、
図3はその正面図である。
ようにこの実施形態に係る超音速機は、機体10の胴体11に一対の主翼12R、12L、一対のエンジンナセル13R、13Lと、一対の水平尾翼14R、14Lが設けられている。一対の水平尾翼14R、14L上には、それぞれフィン15R、15Lが設けられている。
【0028】
このような超音速機では、
図4に示すように、機体10の各部から衝撃波SWが発生する(ステップ401)。大気中を伝播してゆく過程で圧力変動の大きな波はより速く大気中を伝播するという現象を伴い(ステップ402)機首と機尾の2つの強い衝撃波SWに統合され(ステップ403)、地上において2度の大きな圧力上昇を伴うN型の圧力波として観測される(ステップ404)。超音速機によって発生伝播される衝撃波SWは
図5にも示すように円錐形態CONEで伝播し地上に到達する。円錐形態CONEをときにマッハコーンと呼ぶ。地上では到達した衝撃波SWはソニックブームとして観測される。
本発明は、機体10の形状を工夫することによりソニックブームを低減するものである。
【0029】
図6は本発明の一実施形態に係る超音速機の機体形状の設計方法を示すフローチャートであり、以下のフローチャートに沿って第1の実施形態を説明する。
【0030】
<初期形状と目標等価断面積の設定(ステップ601)>
本実施形態において、単に"等価断面積"と言う場合、それは体積等価断面積と揚力等価断面積の和を指す。ここで、超音速機の等価断面積とは、
図7に示すように、機体10を超音速機の巡航マッハ数で決定されるマッハ平面P
Mで切断した断面積S
Mの機体軸方向への投影面積S
Pの分布のことである。マッハ平面P
Mとは、法線ベクトルを機体軸に対して角度μ=sin-1(1/M)傾けた平面である。なお、幾何学的関係により、前記断面積S
Mは前記投影面積S
Pに巡航マッハ数Mを乗算した値と一致する。
【0031】
ステップ601では、初期形状と目標等価断面積を設定する。
図8はこの実施形態における超音速機の初期形状を示す図である。この図は機体10を斜め下から俯瞰した図である。斜線で示される領域は後に説明するが形状を最適化する領域である。
図9は目標等価断面積を示すグラフである。この実施形態においては、目標等価断面積は初期形状の等価断面積をもとにしてソニックブームが低減できるように経験的に定めた。なお、ソニックブーム低減化の等価断面積については、特許文献1や非特許文献2に代表例が例示されている。これら文献の記載は本明細書の開示に含まれるものである。
【0032】
<近傍場波形の評価(ステップ602)>
ステップ602では、近傍場の圧力波形を評価する。
超音速機が巡航速度で飛行したと仮定したときの機体10の初期形状に対する近傍場の圧力波形を推定する。
ここで、超音速機が巡航速度とは、例えばMach1.6である。
近傍場とは、機体10の直下で機体10に近い位置であり、例えば機体10の長さを1としたとき、機体10より0.3だけ下にある位置である。
初期形状に対する近傍場の圧力波形は、典型的には、風洞模型試験や数値計算モデルによって取得できる。
図10に数値計算モデルによって取得された初期形状に対する近傍場の圧力波形を示す。
【0033】
<逆算等価断面積評価(ステップ603)>
ステップ603では、
図10に示した初期形状に対する近傍場の圧力波形から機体10の等価断面積を評価する。
本実施形態では、下記の式を使って等価断面積を評価した。
【0034】
ここで、
Ae(x):近傍場x点での等価断面積
r:機体から近傍場までの距離
M:巡航マッハ数
γ:空気の比熱比
Δp/p:近傍場圧力
x
0:近傍場圧力開始点
【0035】
近傍場波形から等価断面積を算出する手法は、非特許文献3に記載されている。この文献の記載は本明細書の開示に含まれるものである。
図11に初期形状に対する近傍場波形から得られた等価断面積を示す。
【0036】
<目標等価断面積に基づく形状設計(ステップ604、605)>
ステップ604では、当該超音速機の巡航速度(Mach1.6)に応じたマッハ平面を設定し、
図11に示した等価断面積が
図9に示した目標等価断面積に近づくように、機体10の初期形状とマッハ平面とが交差する初期曲線に対応する設計曲線をマッハ平面上に設定する。この実施形態においては、
図12に示すように、4つのステップを踏む。
【0037】
以下、これらのステップを順番に説明する
・設計範囲の設定(ステップ1201)
図13は初期形状の等価断面積と
図9に示した目標等価断面積とを比較したグラフである。同図より、等価断面積と目標等価断面積とは大きく相違がみられる区間が存在することが分かる。この相違する区間において、等価断面積が目標等価断面積に精度よく近づけるように当該区間の形状を設計する点、及びその設計を簡単な処理で行える点が本実施形態のポイントである。
【0038】
まず、
図13に示すように、等価断面積と目標等価断面積とが大きく相違する機軸の区間に応じて設計範囲を設定する。具体的には、機軸の区間Iの始点と終点とをそれぞれ通るマッハ平面によって切断し(
図14(a))、そのマッハ平面が機体10の下面に当たるラインのよって挟まれる領域を設計範囲R
1として設定する(
図14(b))。
図14に示した設計範囲R
1には、胴体、主翼、ナセル、尾翼などが含まれるが、典型的な例としては
図15及び
図16に示すように、胴体の後部下面に設計範囲を絞る(R
2)。
【0039】
・設計平面の設定(ステップ1202)
図17及び
図18に示すように、初期形状の胴体後部下面と交差する複数のマッハ平面、例えば8つのマッハ平面P
M(設計平面)を設定し、これらのマッハ平面P
M上で曲線を設計する。
図18に示すr
1はマッハ平面P
Mと初期形状の胴体後部下面とが交差する曲線を示している。
すなわち、従来はマッハ平面と平行でない平面を設計平面としていた(非特許文献5及び6)のに対して、本実施形態ではマッハ平面を設計平面としている点が異なる。
【0040】
・設計変数の設定(ステップ1203)
図19に示すように、8つの各マッハ平面P
M上の設計曲線r
2の中間点を制御点P
cとし、各制御点P
cの位置を設計変数と設定する。
【0041】
・設計変数の最適化(ステップ1204)
図20に示すように、初期形状の曲線r
1と設計形状の曲線r
2で囲まれる領域R
3の面積(図中斜線)を最適化する。すなわち、領域R
3の面積を、その設計平面に対応する位置での等価断面積の差分と巡航マッハ数との乗算値に一致させる。このことを下記の式に示す。
【0042】
R
3=ΔA×Mach
ここで、ΔA:目標等価断面積と初期形状の等価断面積との差分
Mach:巡航マッハ数
図21に胴体後部下面の初期形状を示し、
図22にその設計形状を示す。
【0043】
<地上波形の評価(ステップ606)>
ステップ606において、地上波形を評価する。
図23にこの実施形態における初期形状と設計形状の近似場波形を示す。また、
図24にその初期形状と設計形状の地上波形を示すグラフである。
この実施形態では、
図24に示すように、地上波形の後端ブームに相当する波形部分が最適化され、ソニックブーム騒音レベルが改善したことが分かる。また、この例では、揚力等価断面積の変化が無視できる領域なので、繰返しなしで(一回の設計)で設計できた。揚力等価断面積の変化が無視できない領域の場合には、精度が得られるまでステップ604を繰り返えせばよい。
【0044】
<作用・効果>
先行技術の実施形態では、
図25に示すように、機軸に垂直な平面上で定義された二次元断面の断面積を変化させたときに、体積等価断面積は 区間t1<x<t2 で変化してしまう。つまり、二次元断面の変化を"入力"、体積等価断面積の変化を"出力"と考えたときに、入出力の関係が一対一ではない複雑な系である。
本実施形態では、マッハ平面上で定義された二次元断面の断面積を変化させたときに、体積等価断面積は同一位置x=tのみで変化する。つまり、入出力の関係が一対一の単純な系となる。一対一対応のために、一階微分までを考慮したより緻密な設計が可能となり設計確度が向上する。単純な系であるために、設計形状の等価断面積を目標等価断面積に一致させるプロセスの繰返し回数が減り、設計時間が短縮される。特に、揚力等価断面積の変化が無視できる場合には、プロセスの繰返しなしで等価断面積を目標等価断面積に一致させることができる。
【0045】
すなわち、本実施形態では、マッハ平面を設計平面としている、二次元断面の変化に対して体積等価断面積の変化は、一対一で対応する単純な系であるために、従来技術と比べて、より緻密な設計が可能となり、より短期間で設計が終わる。
【0046】
<第2の実施形態>
図26は第2の実施形態に係る初期形状の機体を斜め下からみた俯瞰図である。
図27はその設計形状の機体を斜め下からみた俯瞰図である。
この実施形態では、
図28に示すように、機体10の中部下面の局所的な区間I'について
図6のフローチャートに従った設計手法により設計形状を得た。
この実施形態では、
図29及び
図30に示すように、近傍場波形中間付近291及び地上波形中間付近301の局所的な圧力上昇がなくなり、ソニックブーム騒音レベルが改善した。そして、等価断面積の一階微分までの制御を要する緻密な設計ができた。
【0047】
<その他>
本発明は上記の実施形態には限定されずその技術思想の範囲内で様々な変形や応用による実施が可能である。その実施の範囲も本発明の技術的範囲に属する。
例えば、上記の実施形態では、胴体の一部について本発明による設計形状を得ていたが、これに限らず、胴体全体であってもよく、あるいは主翼のみ、あるいは胴体と主翼など、機体のあらゆる個所に本発明を適用することができる。
【0048】
また、本発明の設計方法に基づく超音速機の機体の形状はソニックブーム低減の効果が著しく、その点において従来の形状とは異なるものであり、区別できるものである。すなわち、機体の初期形状及び前記機体の目標等価断面積を設定し、前記超音速機が巡航速度で飛行したと仮定したときの前記機体の初期形状に対する近傍場圧力波形を推定し、前記推定した機体の初期形状に対する近傍場圧力波形から等価断面積を評価し、前記部分について、前記巡航速度に応じたマッハ平面を設定し、前記等価断面積が前記目標等価断面積に近づくように、前記機体の初期形状と前記マッハ平面とが交差する初期曲線に対応する設計曲線を前記マッハ平面上に設定した機体の形状は、従来にない新規な形状であり、簡単な設計工程で形状が得られ、かつ、ソニックブーム低減化ができるという効果を奏するものである。
【符号の説明】
【0049】
10 :機体
PM :マッハ平面
Pc :制御点
SM :断面積
r2 :設計曲線