(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】移動体の動作制御装置、移動体の動作制御方法及び移動体の動作制御プログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 5/04 20060101AFI20220520BHJP
G08G 5/00 20060101ALI20220520BHJP
B64C 37/02 20060101ALI20220520BHJP
B64C 13/20 20060101ALI20220520BHJP
G05D 1/00 20060101ALI20220520BHJP
G05D 1/10 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
G08G5/04 A
G08G5/00 A
B64C37/02
B64C13/20 Z
G05D1/00 Z
G05D1/10
(21)【出願番号】P 2017232244
(22)【出願日】2017-12-04
【審査請求日】2020-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】板橋 由布
(72)【発明者】
【氏名】高橋 伸英
(72)【発明者】
【氏名】山根 章弘
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/193578(WO,A1)
【文献】特開2017-171061(JP,A)
【文献】特開2019-016306(JP,A)
【文献】特表2017-519279(JP,A)
【文献】特開2015-001377(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0165970(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0286859(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 5/00 ~ 5/06
B64C 37/02
B64C 13/20
G05D 1/00 ~ 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに近接した複数の領域内で個別に所定の任務を行う複数の移動体の動作を制御する移動体の動作制御装置であって、
前記複数の移動体の各々の外囲状況に関する外囲情報を取得する情報取得手段と、
前記情報取得手段により取得された前記外囲情報に基づいて、前記複数の移動体が任務を維持できるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により、任務の維持が困難な移動体が存在すると判定された場合、前記複数の領域のうち移動体が移動可能な部分を、前記複数の移動体のうち任務続行可能なものに対応させて分割しなおした領域分割パターンを複数設定する設定手段と、
前記情報取得手段により取得された前記外囲情報に基づいて、前記設定手段に設定された複数の領域分割パターンの各々について、任務阻害度合いに関する評価値を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された複数の領域分割パターンの評価値に基づいて、当該複数の領域分割パターンのうち最も任務阻害度合いの低いものを選択する選択手段と、
を備えることを特徴とする移動体の動作制御装置。
【請求項2】
前記設定手段は、
前記複数の領域のうちの一の領域が任務
の続行が困難な領域部分を含む場合に、当該一の領域から当該任務
の続行が困難な領域部分を除いた任務可能部分を、所定の拡大ピッチで所定方向に複数回拡大させ、
当該複数の拡大部分を前記任務可能部分に順次加えた領域を複数の新たな前記一の領域候補とし、
当該複数の新たな前記一の領域候補を個別に含む複数の領域の組を前記複数の領域分割パターンとして設定することを特徴とする請求項1に記載の移動体の動作制御装置。
【請求項3】
前記設定手段は、
前記一の領域が任務
の続行が困難な領域部分を含む場合に、当該一の領域から当該任務
の続行が困難な領域部分を除いた任務可能部分において移動体が任務を続行できるか否かを判定し、
前記任務可能部分において移動体が任務を続行できないと判定した場合に、前記複数の領域分割パターンを設定することを特徴とする請求項2に記載の移動体の動作制御装置。
【請求項4】
前記移動体が所定の監視対象を監視するものであり、
前記設定手段は、前記監視対象を中心とする所定の方位角を前記拡大ピッチとして、前記任務可能部分を複数拡大させることを特徴とする請求項2又は3に記載の移動体の動作制御装置。
【請求項5】
前記設定手段は、
前記複数の領域のうち前記一の領域を除く他の領域が、新たな前記一の領域候補と干渉する場合には、当該干渉を回避するように当該他の領域の範囲を変更し、新たな前記一の領域候補に対応する新たな他の領域候補を設定することを特徴とする請求項2~4のいずれか一項に記載の移動体の動作制御装置。
【請求項6】
少なくとも前記複数の領域を含む地図情報を予め記憶している記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された前記地図情報を複数のセルに分割するセル分割手段と、
を備え、
前記算出手段は、
前記情報取得手段により取得された前記外囲情報に基づいて、前記地図情報の複数のセルそれぞれにおける任務阻害度合いに関する評価値を算出し、
各領域における所定の移動パターン上のセルの評価値の合算値が閾値以下かつ最小の複数のセルを無人機の移動経路とするととともに、当該評価値の合算値を当該領域の評価値として算出し、
各領域分割パターンに含まれる全ての領域の評価値を合算したものを、当該領域分割パターンの評価値として算出することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の移動体の動作制御装置。
【請求項7】
前記移動体が無人航空機であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の移動体の動作制御装置。
【請求項8】
互いに近接した複数の領域内で個別に所定の任務を行う複数の移動体の動作を制御する移動体の動作制御方法であって、
動作制御装置が、
前記複数の移動体の各々の外囲状況に関する外囲情報を取得する情報取得工程と、
前記情報取得工程で取得された前記外囲情報に基づいて、前記複数の移動体が任務を維持できるか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程により、任務の維持が困難な移動体が存在すると判定された場合、前記複数の領域のうち移動体が移動可能な部分を、前記複数の移動体のうち任務続行可能なものに対応させて分割しなおした領域分割パターンを複数設定する設定工程と、
前記情報取得工程で取得された前記外囲情報に基づいて、前記設定工程で設定された複数の領域分割パターンの各々について、任務阻害度合いに関する評価値を算出する算出工程と、
前記算出工程で算出された複数の領域分割パターンの評価値に基づいて、当該複数の領域分割パターンのうち最も任務阻害度合いの低いものを選択する選択工程と、
を実行することを特徴とする移動体の動作制御方法。
【請求項9】
互いに近接した複数の領域内で個別に所定の任務を行う複数の移動体の動作を制御する移動体の動作制御プログラムであって、
動作制御装置を、
前記複数の移動体の各々の外囲状況に関する外囲情報を取得する情報取得手段と、
前記情報取得手段により取得された前記外囲情報に基づいて、前記複数の移動体が任務を維持できるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により、任務の維持が困難な移動体が存在すると判定された場合、前記複数の領域のうち移動体が移動可能な部分を、前記複数の移動体のうち任務続行可能なものに対応させて分割しなおした領域分割パターンを複数設定する設定手段と、
前記情報取得手段により取得された前記外囲情報に基づいて、前記設定手段に設定された複数の領域分割パターンの各々について、任務阻害度合いに関する評価値を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された複数の領域分割パターンの評価値に基づいて、当該複数の領域分割パターンのうち最も任務阻害度合いの低いものを選択する選択手段、
として機能させることを特徴とする移動体の動作制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任務阻害要因を回避しつつ個別の領域内で任務を行う複数の無人機などの移動体の動作制御に有用な技術である。
【背景技術】
【0002】
無人機(無人航空機)の用途として、複数機で長時間に亘る監視飛行をさせる場合がある。このような監視飛行では、無人機が各機個別の監視空域内において定点飛行することになるが、長時間に亘る任務であると、例えば風況の変化や他機の接近などの様々な環境変化によって任務が阻害されるおそれが高くなる。
【0003】
この点、例えば特許文献1、2に記載の技術では、無人機等の航空機において緊急事態が検知された場合に、飛行ルートが自動的に決定されたり、当該緊急事態に関連付けられている目標に従って軌道が生成されたりする。そのため、緊急事態に際しても機体を安全に着陸させたりすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-143193号公報
【文献】特開2014-181034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載の技術は、緊急事態が発生した場合に着陸ルートなどの安全な航路が設定されるものであり、各機の状況変化に対応させて監視空域の分配範囲を変更させ、任務を好適に続行させることはできない。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、個別の領域で所定の任務を行う複数の移動体において、様々な任務阻害要因により任務維持が困難になった場合であっても、複数の移動体への領域分配を好適に変更して任務を続行させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、互いに近接した複数の領域内で個別に所定の任務を行う複数の移動体の動作を制御する移動体の動作制御装置であって、
前記複数の移動体の各々の外囲状況に関する外囲情報を取得する情報取得手段と、
前記情報取得手段により取得された前記外囲情報に基づいて、前記複数の移動体が任務を維持できるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により、任務の維持が困難な移動体が存在すると判定された場合、前記複数の領域のうち移動体が移動可能な部分を、前記複数の移動体のうち任務続行可能なものに対応させて分割しなおした領域分割パターンを複数設定する設定手段と、
前記情報取得手段により取得された前記外囲情報に基づいて、前記設定手段に設定された複数の領域分割パターンの各々について、任務阻害度合いに関する評価値を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された複数の領域分割パターンの評価値に基づいて、当該複数の領域分割パターンのうち最も任務阻害度合いの低いものを選択する選択手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の移動体の動作制御装置において、
前記設定手段は、
前記複数の領域のうちの一の領域が任務の続行が困難な領域部分を含む場合に、当該一の領域から当該任務の続行が困難な領域部分を除いた任務可能部分を、所定の拡大ピッチで所定方向に複数回拡大させ、
当該複数の拡大部分を前記任務可能部分に順次加えた領域を複数の新たな前記一の領域候補とし、
当該複数の新たな前記一の領域候補を個別に含む複数の領域の組を前記複数の領域分割パターンとして設定することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の移動体の動作制御装置において、
前記設定手段は、
前記一の領域が任務の続行が困難な領域部分を含む場合に、当該一の領域から当該任務の続行が困難な領域部分を除いた任務可能部分において移動体が任務を続行できるか否かを判定し、
前記任務可能部分において移動体が任務を続行できないと判定した場合に、前記複数の領域分割パターンを設定することを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の移動体の動作制御装置において、
前記移動体が所定の監視対象を監視するものであり、
前記設定手段は、前記監視対象を中心とする所定の方位角を前記拡大ピッチとして、前記任務可能部分を複数拡大させることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項2~4のいずれか一項に記載の移動体の動作制御装置において、
前記設定手段は、
前記複数の領域のうち前記一の領域を除く他の領域が、新たな前記一の領域候補と干渉する場合には、当該干渉を回避するように当該他の領域の範囲を変更し、新たな前記一の領域候補に対応する新たな他の領域候補を設定することを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1~5のいずれか一項に記載の移動体の動作制御装置において、
少なくとも前記複数の領域を含む地図情報を予め記憶している記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された前記地図情報を複数のセルに分割するセル分割手段と、
を備え、
前記算出手段は、
前記情報取得手段により取得された前記外囲情報に基づいて、前記地図情報の複数のセルそれぞれにおける任務阻害度合いに関する評価値を算出し、
各領域における所定の移動パターン上のセルの評価値の合算値が閾値以下かつ最小の複数のセルを無人機の移動経路とするととともに、当該評価値の合算値を当該領域の評価値として算出し、
各領域分割パターンに含まれる全ての領域の評価値を合算したものを、当該領域分割パターンの評価値として算出することを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1~6のいずれか一項に記載の移動体の動作制御装置において、
前記移動体が無人航空機であることを特徴とする。
【0014】
請求項8及び請求項9に記載の発明は、請求項1に記載の移動体の動作制御装置と同様の特徴を具備する移動体の動作制御方法及び移動体の動作制御プログラムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、各移動体(例えば無人航空機)の外囲状況に関する外囲情報が取得され、これに基づいて現状の任務維持が困難な移動体が存在すると判定された場合に、複数の領域のうち移動体が移動可能な部分を、任務続行可能な移動体に対応させて分割しなおした領域分割パターンが複数設定される。そして、外囲情報に基づいて複数の領域分割パターンの各々についての任務阻害度合いに関する評価値が算出され、算出された評価値に基づいて、複数の領域分割パターンのうち最も任務阻害度合いの低いものが選択される。
これにより、任務維持の困難な移動体が存在する場合に、複数の領域を任務可能なように分割しなおした領域分割パターンが、外囲情報として取得された様々な任務阻害要因に関する情報に基づいてその任務阻害度合いを評価される。そして、最も任務阻害度合いの低い安全な領域分割パターンが選択される。
したがって、個別の領域で所定の任務を行う複数の移動体において、様々な任務阻害要因により任務維持が困難になった場合であっても、複数の移動体への領域分配を好適に変更して任務を続行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】無人機の動作制御システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図3】飛行制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図4】飛行制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】実施形態の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
[動作制御システムの構成]
まず、本実施形態における無人機の動作制御システム(以下、単に「動作制御システム」という。)10の構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、動作制御システム10の概略構成を示すブロック図である。
【0019】
図1に示すように、動作制御システム10は、複数の無人機(無人航空機)1と、これら複数の無人機1の飛行を制御する地上局2とを備えて構成されている。この動作制御システム10は、本実施形態においては、複数の無人機1によって所定の監視対象Tを長時間に亘って監視する任務を行うためのものである(
図2(a)参照)。
【0020】
各無人機1は、機体センサー11と、通信部13と、飛行制御部14とを備えて構成されている。
このうち、機体センサー11は、無人機1の飛行状態を検出したり、機体の外囲状況に関する情報(以下、「外囲情報」という)を取得したりするための各種のセンサーであり、レーダー,映像センサー(カメラ),ジャイロセンサー,速度センサー,GPS(Global Positioning System)、TCAS(Traffic alert and Collision Avoidance System:空中衝突防止装置)等を含んで構成されている。これらの機体センサー11は、飛行制御部14からの制御指令に基づいて各種情報を取得し、その信号を飛行制御部14へ出力する。
【0021】
通信部13は、他の無人機1や地上局2等との間で通信を行い、互いに各種信号を送受信可能であるほか、通信ネットワークに接続して各種情報を入手可能なものである。また、通信部13は、識別子、現在位置、高度、対気速度等の各種情報を含んだADS-B(Automatic Dependent Surveillance-Broadcast:放送型自動従属監視)信号を送受信するようになっている。
【0022】
飛行制御部14は、無人機1の各部を中央制御する。具体的に、飛行制御部14は、地上局2からの指令等に基づいて、エンジンや舵面駆動用のアクチュエータ等からなる飛行機構15を駆動制御して無人機1の飛行を制御したりする。
【0023】
一方、地上局2は、通信部22と、制御装置23と、記憶部26とを備えている。
通信部22は、各無人機1の通信部13との間で通信を行い、互いに各種信号を送受信可能であるほか、通信ネットワークに接続して各種情報を入手可能なものである。
制御装置23は、動作制御システム10を中央制御する。具体的に、制御装置23は、オペレータの操作入力等に基づいて、各種の指令信号を各無人機1に送信したりする。
【0024】
記憶部26は、各種機能を実現するためのプログラムやデータを記憶するとともに、作業領域としても機能するメモリである。本実施形態においては、記憶部26は、飛行制御プログラム260を記憶している。
飛行制御プログラム260は、後述の飛行制御処理(
図2参照)を制御装置23に実行させるためのプログラムである。
【0025】
また、記憶部26には、後述の飛行制御処理に必要な情報として、地図データ261と、評価関数262とが記憶されている。
地図データ261は、山や河川などの地形情報に加え、道路や鉄道,建造物などの土地の利用状態に関する情報も含めた総合的な地理情報を有する三次元のものであり、記憶部26には、少なくとも監視任務を行う複数の監視空域WAを含む所定範囲のものが記憶されている。
【0026】
評価関数262は、後述するように、任務阻害度合いに関する評価値を算出するためのものであり、本実施形態においては、風況、他機、制限空域の3つの任務阻害要因それぞれに関するものが記憶部26に記憶されている。
【0027】
[動作制御システムの動作]
続いて、飛行制御処理を実行する際の動作制御システム10の動作について説明する。
図2及び
図5~
図7は、飛行制御処理を説明するための図であり、
図3及び
図4は、飛行制御処理の流れを示すフローチャートである。
【0028】
飛行制御処理は、各無人機1が監視任務を維持できるか評価し、必要に応じて各機の監視空域WAを変更したりする処理であり、本実施形態においては飛行中に随時実行される。この飛行制御処理は、地上局2のオペレータ等により当該飛行制御処理の実行指示が入力されたときに、制御装置23が記憶部26から飛行制御プログラム260を読み出して展開することで実行される。
【0029】
本実施形態では、
図2(a)に示すように、2機の無人機1(1a、1b)が各々の監視空域WA(第1監視空域WAa、第2監視空域WAb)内を飛行しつつ、近接した2箇所の監視対象T(Ta、Tb)を個別に監視している場合において、
図2(b)に示すように、一方の無人機1aの第1監視空域WAa内の一部空域が飛行困難になった場合について説明する。各無人機1は、監視空域WA内において、例えば8の字状の飛行パターンで旋回飛行しながら各々の監視対象Tを監視している。
各監視空域WAは、各々に対応した監視対象Tを中心とする略環状扇形状に設定されている。また、第1監視空域WAaと第2監視空域WAbとは、2機の無人機1が衝突することのないよう(又は衝突回避の処理を予め不要にできるよう)、互いに重複せずに、近接(又は隣接)した領域に範囲設定されている。
【0030】
図3に示すように、飛行制御処理が実行されると、まず地上局2の制御装置23が、各無人機1の外囲情報を取得する(ステップS1)。
このステップS1では、制御装置23は、任務を阻害し得る任務阻害要因に関する外囲情報として、各無人機1の位置情報や他機の位置情報等を当該無人機1の機体センサー11や通信部22により取得するとともに、天候・気象情報等を通信部22により取得する。
本実施形態においては、制御装置23は、気象台等から得られる数値気象予報やSIGMET(significant meteorological information:悪天情報)から風況(風速及び風向)情報を取得し、ADS-B信号から他機の情報を取得し、NOTAM(航空官署等から得られる航空関係の各種情報)等から制限空域の情報を取得する。このうち、風況情報及び他機の情報については、それぞれ所定時間間隔かつ所定時間後までの予測情報が得られる。
【0031】
本実施形態における3つの主たる任務阻害要因(風況、他機、制限空域)は、以下の理由から回避を検討する必要がある。
風況は、無人機1が監視任務を継続できる姿勢(つまり、監視対象Tを映像センサーの視野角内に収められる姿勢)を保とうとした場合に、その飛行位置の保持を妨げる可能性がある。
他機は、無人機1が衝突回避機動を実施した場合に、監視任務を継続できる姿勢の維持を妨げる可能性がある。
制限空域は、無人機1が進入した場合に、障害物との衝突回避のための姿勢変更を無人機1に強いたり、障害物による視野制限を生じさせたりする可能性がある。
【0032】
次に、制御装置23は、ステップS1で取得した外囲情報等に基づいて、各無人機1が現状の監視任務計画を維持できるか否かを判定する(ステップS2)。任務維持を阻害する要因には、上述の3つの任務阻害要因のほか、例えば機体故障による監視空域又は監視機数の変更や、任務計画自体の変更等が含まれる。また、このステップでの判定には、将来の予測を含む。
そして、無人機1が全機とも現状の任務計画を維持できると判定した場合(ステップS2;Yes)、制御装置23は、後述のステップS9へ処理を移行する。
【0033】
一方、ステップS2において、任務維持の困難な無人機1が存在すると判定した場合(ステップS2;No)、制御装置23は、当該無人機1がその監視空域WAの範囲を変更することなく監視任務を続行可能な新たな監視ポイントを探索する(ステップS3)。
本実施形態では、上述のとおり、2機の無人機1のうち一方の無人機1aの第1監視空域WAaの一部が風況等により飛行困難となっている。そこで、このステップでは、第1監視空域WAaのうち、飛行困難となった一部を除く飛行可能部分FA(
図2(b)参照)内において、無人機1aが監視ポイント(本実施形態では、点ではなく、例えば8の字状等の飛行パターンの監視経路)を変更するだけで監視任務を続行可能であるかが確認される。
【0034】
この新たな監視ポイントの探索では、例えば特許第6196699号に記載の評価手法を用いることができる。
具体的には、
図4に示すように、まず制御装置23は、三次元の地図データ261を記憶部26から読み出して、当該地図データ261を格子状(例えば、各辺が経線,緯線及び鉛直線に沿った立方格子状)の複数のセルに分割する(ステップS31)。分割する地図範囲は、少なくとも第1監視空域WAaのうちの飛行可能部分FAを含んだものであればよい。
【0035】
次に、制御装置23は、ステップS1で取得した外囲情報に基づいて、任務阻害度合いに関する評価値を地図データ261上の各セルについて算出する(ステップS32)。
ここで、「任務阻害度合いに関する評価値」とは、監視任務のしやすさを定量化したものであって、監視任務が阻害される可能性の大きさを示しており、値が高いほど任務が阻害されやすいことを意味する。
本実施形態においては、風況、他機、制限空域の3つの任務阻害要因それぞれについて、記憶部26に記憶された評価関数262を用い、現在から所定の将来時刻までの各時刻での評価値が算出される。
また、3つの任務阻害要因には、制限空域、風況、他機の順に高い回避優先度が設定されており、この回避優先度に基づいて、相互に対比可能な評価値がそれぞれに割り当てられる。但し、制限空域については、その設定理由によっては、低い回避優先度が設定される場合もある。
【0036】
風況に関する評価値は、その風況(風速及び風向)下において、無人機1が飛行位置を保持するために採る飛行パターンの調整方法(旋回半径、交差角、傾斜角の調整)に基づいて設定される。具体的には、例えば
図5(a)に示すように、無人機1回りのエリアに応じた評価値が設定される。
他機に関する評価値は、他機から離隔しているほど低い値となるように設定される。具体的には、例えば
図5(b)に示すように、TCASやADS-B信号での検知範囲に応じた評価値が設定される。
制限空域に関する評価値は、制限空域内では境界から離隔しているほど低い値となるように設定され、制限空域外では所定の任意値に設定される。具体的には、例えば
図5(c)に示すように、ADIZ(Air Defense Identification Zone:防空識別圏)に対し、その境界近傍の圏内では当該境界からの距離に応じた評価値が設定され、当該境界から一定程度離隔したエリアでは一定の評価値が設定される。
【0037】
次に、制御装置23は、ステップS32で算出された評価値を地図データ261上に表わした評価マップM(
図6参照)を作成する(ステップS33)。
具体的に、制御装置23は、各セルにおける3つの任務阻害要因それぞれに関する評価値を足し合わせて当該セルに割り当てることにより、評価マップMを作成する。制御装置23は、この作業を各時刻での評価値に対して実行することにより、現在から所定の将来時刻までの各時刻における評価マップMが作成される。
なお、3つの阻害要因に関する評価値は、上述したように、予め設定された回避優先度に基づいて相互に対比可能な値となっているため、これらを単純に足し合わせるだけで、回避優先度に基づいて適切に統合された評価値が得られる。但し、この評価値の合算は、適宜重み付けしてもよい。
【0038】
このステップS33では、例えば
図6に示すような評価マップMが作成される。この図では、色が濃い(黒に近い)ほど評価値が高いものとして、評価値の高低を色(白黒)の濃淡で示している。
この図に示すように、評価マップMでは、風況の影響を受ける空域AWや、制限空域AR(図中の監視対象T回りの二重の楕円線の内外周両側の領域)及び他機POの存在が、評価値に反映されていることが分かる。
【0039】
次に、制御装置23は、ステップS33で作成した評価マップMに基づいて、評価値が所定の閾値よりも低いセルが、監視空域WAの飛行可能部分FA内に存在するか否かを判定する(ステップS34)。つまり、このステップS34では、監視任務の続行を可能とする新たな監視ポイントが、監視空域WAの飛行可能部分FA内に存在するか否かが判定される。なお、解として探索されるセルは、少なくとも任務維持が困難となる時点以降で存在していればよい。また、無人機1が監視を行う監視ポイントは、本実施形態では所定の飛行パターンでの監視経路であるため、セルの分割状態にも依るが、解として探索されるのは監視ポイントのみを含む1つのセルではなく、監視経路全体を含む複数のセルの集合である。
閾値は、3つの任務阻害要因それぞれについて設定されている。風況についての閾値は、飛行パターンの調整では飛行位置の保持が困難な風速及び風向に対応するものとなっている。他機についての閾値は、ADS-B信号での検知可否境界に対応するものとなっている。制限空域についての閾値は、任意に設定されている。
評価値と比較する閾値は、これら3つの任務阻害要因についての閾値を、適宜重み付けするなどして合算されたものとなっている。なお、以下の説明では、単に「閾値」と記載した場合、特に断りのない限り、この合算された閾値を意味するものとする。
【0040】
ステップS34において、閾値よりも評価値の低いセルが監視空域WAの飛行可能部分FA内に存在しないと判定した場合(ステップS34;No)、制御装置23は、新たな監視ポイントとなりうる好適な解が得られない(つまり、飛行可能部分FA内では無人機1が任務を続行できない)として、ステップS3での新たな監視ポイントの探索を終了する。
【0041】
一方、ステップS34において、閾値よりも評価値の低いセルが監視空域WAの飛行可能部分FA内に存在すると判定した場合(ステップS34;Yes)、制御装置23は、評価値が閾値以下であって且つ最小となるセル内の地点を、新たな監視ポイントとして最適な解とし(ステップS35)、ステップS3での新たな監視ポイントの探索を終了する。
【0042】
ステップS3における新たな監視ポイントの探索が終了したら、
図3に示すように、制御装置23は、当該ステップS3において解が得られたか否かを判定する(ステップS4)。
そして、解が得られたと判定した場合(ステップS4;Yes)、制御装置23は、解として得られた新たな監視ポイント(監視経路)で監視任務を続行するよう任務計画を変更した後に(ステップS5)、後述のステップS9へ処理を移行する。
【0043】
一方、ステップS4において、ステップS3では解が得られなかったと判定した場合(ステップS4;No)、制御装置23は、複数の無人機1に対する現状の空域分配を変更した空域分割パターンPを複数設定する(ステップS6)。空域分割パターンPとは、複数の監視空域WAのうち無人機1が飛行可能な部分を、複数の無人機1のうち任務続行可能なものに対応させて分割しなおしたものである。
【0044】
具体的に、ステップS6では、
図7(a)に示すように、まず、第1監視空域WAaのうちの飛行可能部分FAが、監視対象Taを中心とする所定の方位角を拡大ピッチとして、設定するパターン数(本実施形態では、例えば2つ)だけ拡大される。拡大する方向は、無人機1が飛行可能ないずれか一方の側(本実施形態では、飛行困難な一部とは反対側)である。これらの拡大エリアを飛行可能部分FAに順次加えた空域範囲が、新たな第1監視空域WAaの候補(第1監視空域候補WACa)として設定される。
本実施形態では、所定の方位角1ピッチ分の拡大エリアに飛行可能部分FAを加えた第1監視空域候補WACa1と、これに当該方位角1ピッチ分の拡大エリアをさらに加えた第1監視空域候補WACa2との2つが設定される。
なお、複数の監視空域WAが一体的である場合には、飛行可能部分FAの有無に依らず、監視空域WA全体を任務続行可能な無人機1で等分(例えば等面積や等方位角など)に分割したりその分割比率を変化させたりして、複数の空域分割パターンPを設定してもよい。
【0045】
そして、第1監視空域候補WACaが第2監視空域WAbに干渉する場合には、
図7(b)に示すように、その干渉を回避するように第2監視空域WAbの範囲が変更される。本実施形態では、2つの第1監視空域候補WACaの各々と重複しないように、第2監視空域WAbの方位角範囲が第1監視空域候補WACa側から減じられ、2つの第1監視空域候補WACaに対応した2つの第2監視空域候補WACb(WACb1、WACb2)が設定される。
こうして、第1監視空域候補WACa1及び第2監視空域候補WACb1からなる第1空域分割パターンP1と、第1監視空域候補WACa2及び第2監視空域候補WACb2からなる第2空域分割パターンP2とが設定される。
なお、飛行可能部分FAを拡大させるときの方位角や設定パターン数(比較ケース数)は、システムのスペック等に応じて(例えば、無人機1の飛行制御部14及び/又は地上局2の制御装置23の演算能力等に応じて演算時間が過度に掛からないように)、適宜設定される。
【0046】
次に、制御装置23は、ステップS6で設定した複数の空域分割パターンPの各々について、任務阻害度合いに関する評価値(すなわち、監視任務のしやすさを定量化した数値)を算出する(ステップS7)。
このステップでは、制御装置23は、各空域分割パターンPの各監視空域に対し、上述したステップS32と同様の評価値を算出する。具体的には、監視空域のうち評価値が閾値以下かつ最小のセルを監視ポイント(本実施形態では、所定の飛行パターン上のセルの評価値の合算値が閾値以下かつ最小の複数のセルを監視経路)とし、この監視ポイントの評価値(監視経路上の合算評価値)を当該監視空域の評価値とする。そして、この評価値を空域分割パターンPの全ての監視空域について合算したものを当該空域分割パターンPの評価値とする。この算出を全ての空域分割パターンPについて行う。
本実施形態では、第1監視空域候補WACa1及び第2監視空域候補WACb1の各評価値の合計値が第1空域分割パターンP1の評価値とされ、第1監視空域候補WACa2及び第2監視空域候補WACb2の各評価値の合計値が第2空域分割パターンP2の評価値とされる。
【0047】
次に、制御装置23は、ステップS7で算出した複数の空域分割パターンPの評価値に基づいて、最も監視しやすい1つの空域分割パターンPを選択し、この空域分割パターンPで監視が行われるように任務計画を変更する(ステップS8)。
本実施形態では、最も評価値の低い(すなわち最も監視しやすい)例えば第1空域分割パターンP1が選択され、これに任務計画が変更される。つまり、
図8に示すように、第1監視空域候補WACa1及び第2監視空域候補WACb1が、新たな第1監視空域WAa及び第2監視空域WAbとして設定され、これらの監視空域WA内で2機の無人機1a,1bが個別に監視任務を続行するように任務計画が更新される。
【0048】
次に、制御装置23は、飛行制御処理を終了させるか否かを判定し(ステップS9)、終了させないと判定した場合(ステップS9;No)、上述のステップS1へ処理を移行する。
一方、例えばオペレータからの終了指示や所定の任務時間の経過により飛行制御処理を終了させると判定した場合には(ステップS9;Yes)、制御装置23は、飛行制御処理を終了させる。
【0049】
こうして、上述のステップS1~S9が随時実行されることにより、最新の外囲情報に基づいて監視空域WAの分配範囲が随時更新され、任務継続性の高い任務遂行が可能となる。
【0050】
[効果]
以上のように、本実施形態によれば、各無人機1の外囲状況に関する外囲情報が取得され、これに基づいて現状の任務維持が困難な無人機1が存在すると判定された場合に、複数の監視空域WAのうち無人機1が飛行可能な部分を、任務続行可能な無人機1に対応させて分割しなおした空域分割パターンPが複数設定される。そして、外囲情報に基づいて複数の空域分割パターンPの各々についての任務阻害度合いに関する評価値が算出され、算出された評価値に基づいて、複数の空域分割パターンPのうち最も任務阻害度合いの低いものが選択される。
これにより、任務維持の困難な無人機1が存在する場合に、複数の監視空域WAを任務可能なように分割しなおした空域分割パターンPが、外囲情報として取得された様々な任務阻害要因に関する情報に基づいてその任務阻害度合いを評価される。そして、最も任務阻害度合いの低い安全な空域分割パターンPが選択される。
したがって、個別の監視空域WAで所定の任務を行う複数の無人機1において、様々な任務阻害要因により任務維持が困難になった場合であっても、複数の無人機1への監視空域分配を好適に変更して任務を続行させることができる。
【0051】
[変形例]
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0052】
例えば、上記実施形態では、2機の無人機1が各々の監視空域WA内を飛行しつつ2箇所の監視対象Tを個別に監視している場合について説明した。しかし、本発明を適用可能な任務状況やその阻害要因の発生状況は、これに限定されない。
例えば
図9(a)に示すように、一体的な複数の監視空域WAのなかで3機以上の無人機1によって監視対象Tを監視しているときに、
図9(b)に示すように、このうちのいずれかが機体異常により任務続行不可能となり、残りの機体に複数の監視空域WA全体を分配しなおす場合などにも、本発明は適用可能である。
【0053】
また、上記実施形態では監視空域WAが略環状扇形状であることとしたが、この監視空域WAの形状は特に限定されない。複数の監視空域WAが相互に干渉し得る互いに近接した範囲のものであればよい。
さらに、飛行困難な一部を含む監視空域WAを拡大させる場合の拡大態様も、特に限定されない。ただし、飛行困難となった一部とは反対側(遠い側)に向けて拡大させることが好ましい。
【0054】
また、上記実施形態では、複数の無人機1がそれぞれの監視空域WAで滞空しつつ監視対象Tを長時間に亘って監視する任務を行うものとした。しかし、本発明に係る移動体の動作制御装置は、滞空すなわち長時間飛行だけではなく短時間飛行に適用してもよいし、監視だけではなく攻撃や通信中継など、複数の移動体がそれぞれ個別の領域内で行う様々な任務に適用してもよい。
なお、任務領域を複数機に分配しておく状況としては、上記実施形態のように、複数の機体が互いに近接して衝突してしまう可能性を無くすために、各機が移動できる領域を明示的に分割しておくことが考えられる。またそのほか、例えば1箇所を2機で監視してステレオ測距を行うような状況において、2機を適切に離隔させて測距の誤差を抑えられるように、各機が移動できる領域を明示的に分割しておくことも考えられる。
【0055】
また、制御装置23が地上局2に設けられている例について説明したが、本発明に係る移動体の動作制御装置は、無人機1に搭載されていてもよいし、地上のものと機上のものとで連携して制御を行うように構成されていてもよい。
さらに、複数の無人機1のうちのいずれか(例えばリーダー機)が当該複数の無人機1の動作制御を行うこととしてもよいし、各無人機1が個別に自機の動作制御を行うこととしてもよい。
【0056】
また、本発明は、無人航空機への適用に限定されず、有人の航空機や車両、船舶など、様々な移動体の動作制御に適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 動作制御システム
1(1a、1b) 無人機
11 機体センサー
13 通信部
2 地上局
23 制御装置
26 記憶部
260 飛行制御プログラム
261 地図データ
262 評価関数
T(Ta、Tb) 監視対象
WA 監視空域
WAa 第1監視空域
WAb 第2監視空域
FA 飛行可能部分
WACa 第1監視空域候補
WACb 第2監視空域候補
P 空域分割パターン
P1 第1空域分割パターン
P2 第2空域分割パターン