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特許7076260ラテックスインク用フィルムおよびラテックスインク用フィルムの製造方法
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  • 特許-ラテックスインク用フィルムおよびラテックスインク用フィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】ラテックスインク用フィルムおよびラテックスインク用フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/04 20200101AFI20220520BHJP
   C09D 127/06 20060101ALI20220520BHJP
   C09D 131/04 20060101ALI20220520BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20220520BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220520BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20220520BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20220520BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
C08J7/04 H CFD
C09D127/06
C09D131/04
C09D175/04
B32B27/30 101
B32B27/30 Z
B32B27/16 101
C09D163/00
B32B27/36
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018064374
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019172877
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】大久保 拓磨
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-171910(JP,A)
【文献】特開2000-248082(JP,A)
【文献】特表2014-501636(JP,A)
【文献】特開2008-6752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/04
C09D 127/06
C09D 131/04
C09D 175/04
B32B 27/30
B32B 27/16
C09D 163/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラテックスインクを用いて印刷部が形成されるラテックスインク用フィルムであって、
基材と、前記ラテックスインクが付与される印刷用コート層とを備え、
前記印刷用コート層は、塩化ビニル、酢酸ビニルおよび架橋性モノマーを構成モノマーとする高分子材料が架橋剤により架橋された構造を有する材料を含んでいることを特徴とするラテックスインク用フィルム。
【請求項2】
前記架橋性モノマーが水酸基を備えるものであり、
前記架橋剤がイソシアネート系架橋剤である請求項1に記載のラテックスインク用フィルム。
【請求項3】
前記架橋性モノマーがカルボキシル基を備えるものであり、
前記架橋剤がエポキシ系架橋剤である請求項1に記載のラテックスインク用フィルム。
【請求項4】
前記基材が透明性を有するプラスチック材料で構成されている請求項1ないし3のいずれか1項に記載のラテックスインク用フィルム。
【請求項5】
前記基材がポリエチレンテレフタレートを含む材料で構成されている請求項1ないし4のいずれか1項に記載のラテックスインク用フィルム。
【請求項6】
前記印刷用コート層の厚さが、0.1μm以上50μm以下である請求項1ないし5のいずれか1項に記載のラテックスインク用フィルム。
【請求項7】
ラテックスインクを用いて印刷部が形成されるラテックスインク用フィルムを製造する方法であって、
基材上に、塩化ビニル、酢酸ビニルおよび架橋性モノマーを構成モノマーとする高分子材料と、架橋剤と、溶剤とを含む組成物を付与する工程と、
前記溶剤を除去する工程と、
前記高分子材料と前記架橋剤とを反応させ、前記ラテックスインクが付与される部位である印刷用コート層を形成する工程とを有することを特徴とするラテックスインク用フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記組成物中における前記高分子材料100質量部に対する前記架橋剤の含有量が1質量部以上60質量部以下である請求項7に記載のラテックスインク用フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラテックスインク用フィルムおよびラテックスインク用フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
版が不要で、オンデマンド性に優れること等から、インクジェット法による印刷が広く用いられている。
【0003】
また、近年、ラテックスインクを用いた印刷法が、以下のような理由から注目を集めている。すなわち、ラテックスインクは、溶剤系インクで問題となる揮発性有機化合物の排出がない点で注目されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特に、商業施設等のガラスを装飾するフィルムにおいては、揮発性有機化合物を排出しないラテックスインキが用いられるようになり、ラテックスインキの密着性の良いフィルムが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-120719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ラテックスインクによる印刷部の密着性に優れるラテックスインク用フィルムを提供すること、また、ラテックスインクによる印刷部の密着性に優れるラテックスインク用フィルムを効率よく製造することができるラテックスインク用フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記(1)~(8)に記載の本発明により達成される。
(1) ラテックスインクを用いて印刷部が形成されるラテックスインク用フィルムであって、
基材と、前記ラテックスインクが付与される印刷用コート層とを備え、
前記印刷用コート層は、塩化ビニル、酢酸ビニルおよび架橋性モノマーを構成モノマーとする高分子材料が架橋剤により架橋された構造を有する材料を含んでいることを特徴とするラテックスインク用フィルム。
【0008】
(2) 前記架橋性モノマーが水酸基を備えるものであり、
前記架橋剤がイソシアネート系架橋剤である上記(1)に記載のラテックスインク用フィルム。
【0009】
(3) 前記架橋性モノマーがカルボキシル基を備えるものであり、
前記架橋剤がエポキシ系架橋剤である上記(1)に記載のラテックスインク用フィルム。
【0010】
(4) 前記基材が透明性を有するプラスチック材料で構成されている上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のラテックスインク用フィルム。
【0011】
(5) 前記基材がポリエチレンテレフタレートを含む材料で構成されている上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のラテックスインク用フィルム。
【0012】
(6) 前記印刷用コート層の厚さが、0.1μm以上50μm以下である上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のラテックスインク用フィルム。
【0013】
(7) ラテックスインクを用いて印刷部が形成されるラテックスインク用フィルムを製造する方法であって、
基材上に、塩化ビニル、酢酸ビニルおよび架橋性モノマーを構成モノマーとする高分子材料と、架橋剤と、溶剤とを含む組成物を付与する工程と、
前記溶剤を除去する工程と、
前記高分子材料と前記架橋剤とを反応させ、前記ラテックスインクが付与される部位である印刷用コート層を形成する工程とを有することを特徴とするラテックスインク用フィルムの製造方法。
【0014】
(8) 前記組成物中における前記高分子材料100質量部に対する前記架橋剤の含有量が1質量部以上60質量部以下である上記(7)に記載のラテックスインク用フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ラテックスインクによる印刷部の密着性に優れるラテックスインク用フィルムを提供すること、また、ラテックスインクによる印刷部の密着性に優れるラテックスインク用フィルムを効率よく製造することができるラテックスインク用フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のラテックスインク用フィルムの好適な実施形態を示す模式的な縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[ラテックスインク用フィルム]
図1は、本発明のラテックスインク用フィルムの好適な実施形態を示す模式的な縦断面図である。
【0018】
ラテックスインク用フィルム(フィルム)1は、ラテックスインクを用いて印刷部(印刷層)20が形成されるフィルムである。例えば、インクジェット法等の液滴吐出法によって、インクの液滴が吐出されることによって、フィルム1上にラテックスインクが付与される。その後、インクが乾燥されることにより印刷部20が形成される。
【0019】
フィルム1は、基材10と、ラテックスインクが付与される印刷用コート層11とを備えている。そして、印刷用コート層11は、塩化ビニル、酢酸ビニルおよび架橋性モノマーを構成モノマーとする高分子材料が架橋剤により架橋された構造を有する材料を含んでいる。
【0020】
このような構成により、フィルム1は、ラテックスインクによる印刷部20の密着性に優れたものとなる。
【0021】
また、フィルム1全体としての、剛性、可撓性等を好適なものとし、フィルム1の取り扱いのしやすさを優れたものとすることができる。また、基材10として既存のフィルム材料を用いることにより、フィルム1の生産コストの低減、安定生産、生産の容易性等の観点から有利である。また、ラテックスインクが付与されていない状態およびラテックスインクが付与されて印刷部20が形成された状態のいずれにおいても、基材10と印刷用コート層11との密着性を優れたものとすることができる。また、印刷用コート層11の基材10に対する密着性が向上したり、印刷用コート層11の表面にラテックスインクが付与されることにより形成される印刷部20の耐擦過性(耐スクラッチ性)を向上したりすることができる。
【0022】
これに対し、上記のような条件を満足しないと、上記のような優れた効果は得られない。例えば、ラテックスインクが付与される部位(印刷用コート層)が、塩化ビニルを構成モノマーとして含むものの酢酸ビニルを構成モノマーとして含まない高分子材料で構成されたものであると、透明性が低下するとともに、基材への印刷用コート層の形成(例えば、塗布法によるコーティング)が困難となり、基材と印刷用コート層との密着性を十分に優れたものとすることが困難となる。また、ラテックスインクが付与される部位(印刷用コート層)が、酢酸ビニルを構成モノマーとして含むものの塩化ビニルを構成モノマーとして含まない高分子材料で構成されたものであると、インクとの密着性が低下し、特に、印刷用コート層と印刷層との界面での剥離に加えて、基材と印刷用コート層との界面での剥離も生じやすくなる。また、ラテックスインクが付与される部位(印刷用コート層)が塩化ビニルおよび酢酸ビニルを構成モノマーとする高分子材料を含む材料で構成されていたとしても、当該高分子材料が架橋構造を有していない場合には、基材と印刷用コート層との密着性が低下し、印刷用コート層の硬度が低下し、印刷用コート層に外力が付与されたときに印刷用コート層が過度に変形したり凝集破壊が生じたりしやすくなる。
【0023】
なお、ラテックスインクとは、少なくとも樹脂を含む材料で構成された分散質が、液状の分散媒中に分散(乳濁および/または懸濁)した構成のインクであり、分散媒として水を含んでいるものである。また、本明細書においては、ラテックスインクを単に「インク」と称している場合もある。
【0024】
図1では、フィルム1の印刷用コート層11にラテックスインクが付与されて印刷部20が形成された状態を示している。
【0025】
<基材>
基材10は、フィルム1において、印刷用コート層11および該印刷用コート層11上に形成される印刷部20を支持する機能を有している。
【0026】
基材10は、いかなる材料で構成されていてもよいが、プラスチック材料で構成されているのが好ましい。
【0027】
これにより、フィルム1全体としての剛性、可撓性等をより好適なものとし、フィルム1の取り扱いのしやすさを優れたものとすることができる。また、フィルム1の生産コスト、軽量化等の観点からも有利である。
【0028】
特に、基材10は、透明性を有するプラスチック材料で構成されているのが好ましい。
これにより、例えば、フィルム1を、OHP(Overhead Projector)フィルム、印刷面の裏面から印刷画像を鑑賞するラベル、ディスプレイとしての用途、ウィンドウディスプレイの用途等に好適に用いることができる。
【0029】
基材10を構成するプラスチック材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、(メタ)アクリル樹脂、ポリスチレン、酢酸セルロース等が挙げられる。
【0030】
中でも、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル系樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂がより好ましく、ポリエチレンテレフタレートがさらに好ましい。
【0031】
これらの材料は、いずれも、透明性に優れるとともに、市場入手の安定性、コストの低さ、品質の安定性等の観点から有利である。中でも、ポリエステル(特に、ポリエチレンテレフタレート)は、上記のような効果がより顕著に得られるとともに、より好適な剛性、可撓性を有するものである。また、ポリエステル(特に、ポリエチレンテレフタレート)で構成された基材10を有するフィルムは、上記のような優れた効果が得られるものの、従来においては、ラテックスインクによる印刷部の形成に用いる場合、印刷部を形成した後の印刷用コート層と基材との界面での剥離が生じやすくなるという問題が顕著であったが、本発明によれば、基材10がポリエステル(特に、ポリエチレンテレフタレート)で構成された場合であっても、このような問題の発生を効果的に防止することができる。言い換えると、基材10がポリエステル(特に、ポリエチレンテレフタレート)で構成された場合に、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0032】
基材10は、前述した以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。
このような成分としては、例えば、表面調整剤、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤等が挙げられる。
【0033】
基材10中におけるその他の成分の含有率は、10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましく、3質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0034】
基材10の厚さは、特に限定されないが、15μm以上300μm以下であるのが好ましく、30μm以上200μm以下であるのがより好ましい。
【0035】
これにより、フィルム1全体としての剛性、可撓性、耐久性等をより好適なものとし、フィルム1の取り扱いのしやすさを優れたものとすることができる。また、フィルム1の生産コスト、軽量化等の観点からも有利である。
【0036】
<印刷用コート層>
印刷用コート層11は、ラテックスインクが付与される部位であり、付与されたラテックスインクによる印刷部20を定着させる機能を有する層である。
【0037】
印刷用コート層11は、塩化ビニル、酢酸ビニルおよび架橋性モノマーを構成モノマーとする高分子材料が架橋剤により架橋した架橋物を含む材料で構成されている。
【0038】
(高分子材料)
以下、印刷用コート層11を構成する高分子材料(塩化ビニル、酢酸ビニルおよび架橋性モノマーを構成モノマーとする高分子材料)について詳細に説明する。なお、以下の説明では、「塩化ビニル、酢酸ビニルおよび架橋性モノマーを構成モノマーとする高分子材料」を単に「塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体」と称する場合がある。
【0039】
塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体の数平均分子量(Mn)は、5,000以上500,000以下であるのが好ましく、10,000以上100,000以下であるのがより好ましい。
【0040】
数平均分子量が小さすぎると、印刷用コート層11と基材10との密着性が低下する可能性がある。また、数平均分子量が大きすぎると、印刷用コート層11形成用の組成物の粘度が高くなりすぎて、印刷用コート層11の形成が困難になる可能性がある。
【0041】
塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体中における塩化ビニルの含有量は、60質量%以上95質量%以下であるのが好ましく、65質量%以上94質量%以下であるのがより好ましく、70質量%以上93質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0042】
塩化ビニルの含有量が前記下限値未満であると、印刷用コート層11と基材10との密着性が低下する可能性がある。また、形成される印刷部20の耐水性、耐光性、耐摩擦性等を十分に優れたものとすることが困難になる可能性がある。
【0043】
塩化ビニルの含有量が前記上限値を超えると、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体の溶媒(特に、有機溶媒)に対する溶解性が低下して、印刷用コート層11の形成が困難になる可能性がある。
【0044】
塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体中における酢酸ビニルの含有量は、1質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、2質量%以上15質量%以下であるのがより好ましく、3質量%以上10質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0045】
酢酸ビニルの含有量が前記下限値未満であると、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体の溶媒(特に、有機溶媒)に対する溶解性が低下して、印刷用コート層11の形成が困難になる可能性がある。
【0046】
酢酸ビニルの含有量が前記上限値を超えると、印刷用コート層11と基材10との密着性が低下する可能性がある。また、形成される印刷部20の耐水性、耐光性、耐摩擦性等を十分に優れたものとすることが困難になる可能性がある。
【0047】
塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体中における架橋性モノマーの含有量は、1質量%以上30質量%以下であるのが好ましく、2質量%以上20質量%以下であるのがより好ましく、3質量%以上15質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0048】
架橋性モノマーの含有量が前記下限値未満であると、印刷用コート層11中において、十分な密度で架橋構造を形成することが困難となり、前述したような効果が十分に発揮されない可能性がある。
【0049】
架橋性モノマーの含有量が前記上限値を超えると、相対的に、塩化ビニル、酢酸ビニルの含有量が低下し、前述したような効果が十分に発揮されない可能性がある。
【0050】
なお、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体が複数種の架橋性モノマーを含む場合、これらの含有量の和が前述した条件を満足しているのが好ましい。
【0051】
架橋性モノマーが有する架橋性の官能基(架橋剤と反応する官能基)としては、例えば、水酸基やカルボキシル基等が挙げられる。
【0052】
架橋性の官能基として水酸基を有する架橋性モノマー(水酸基含有モノマー)としては、例えば、ビニルアルコール;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレートなど、具体的には、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、特に、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0053】
架橋性の官能基としてカルボキシル基を有する架橋性モノマー(カルボキシル基含有モノマー)としては、例えば、マレイン酸、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0054】
塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体中における塩化ビニルの含有量XVC[質量%]に対する酢酸ビニルの含有率XVA[質量%]の比率(XVA/XVC)は、0.011以上0.33以下であるのが好ましく、0.021以上0.23以下であるのがより好ましく、0.032以上0.14以下であるのがさらに好ましい。
【0055】
塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体中における塩化ビニルの含有量XVC[質量%]に対する架橋性モノマーの含有量XCM[質量%]の比率(XCM/XVC)は、0.011以上0.50以下であるのが好ましく、0.021以上0.31以下であるのがより好ましく、0.032以上0.21以下であるのがさらに好ましい。
【0056】
塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体中における酢酸ビニルの含有量XVA[質量%]に対する架橋性モノマーの含有率XCM[質量%]の比率(XCM/XVA)は、0.050以上30以下であるのが好ましく、0.13以上10以下であるのがより好ましく、0.30以上5.0以下であるのがさらに好ましい。
【0057】
なお、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体は、上記以外の構成成分(モノマー)を含んでいてもよい。
【0058】
このような場合、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体中における塩化ビニル、酢酸ビニル、架橋性モノマー以外の構成成分の含有率は、25質量%以下であるのが好ましく、20質量%以下であるのがより好ましく、15質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0059】
塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体のガラス転移温度(Tg)は、50℃以上100℃以下であるのが好ましい。
【0060】
ガラス転移温度が前記下限値未満であると、フィルム1の印刷用コート層11上に印刷部20が形成されてなる印刷物を保存したときにタックが生じ、ブロッキング等の問題が生じやすい。
【0061】
また、ガラス転移温度が前記上限値を超えると、基材10と印刷用コート層11との密着性が低下する。なお、本明細書で規定するガラス転移温度は、JIS K7121に準拠して測定されるものである。
【0062】
このような塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体としては、例えば、溶液重合法によって合成された塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体であってもよいが、懸濁重合法や乳化重合法によって合成された塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体であるのが好ましい。これらの重合法によって合成される塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体は、従来の溶液重合法によって合成されるもののように多量の有機溶媒を使用しないため、かかる有機溶媒を大気中に揮散させずに排気処理、廃液処理等によって回収する設備等を必要としない等の利点を有している。
【0063】
市販されている塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体としては、水酸基を備えるものとして、例えば、日信化学工業製のSOLBIN(登録商標)A、AL、TA5R、TA3、TAO等、ダウ・ケミカル社製のUCAR(登録商標)VAGH、VAGD、VAGF、VAGC、VROH等、カネカ社製のカネビニール(登録商標)T555、T5HX等が挙げられる。また、カルボキシル基を備えるものとしては、例えば、日信化学工業社製のSOLBIN(登録商標)M5等、ダウ・ケミカル社製のUCAR(登録商標)VMCH、VMCC、VMCA等、カネカ社製のカネビニール(登録商用)T5DA等が挙げられる。
【0064】
印刷用コート層11において、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体は、架橋剤により架橋された構造を有している。
【0065】
高分子材料同士が架橋した架橋構造を有することにより、印刷用コート層11の硬度が高くなるため、印刷用コート層11に外力が付与されたときに印刷用コート層11が過度に変形したり凝集破壊が生じたりすることが抑制される。また、印刷用コート層11を形成するための組成物に含有される架橋剤の一部が、基材10を構成する樹脂材料と反応することにより、基材10と印刷用コート層11との密着性をより効果的に高めることができる。
【0066】
その結果、印刷用コート層11を形成するための組成物が、高分子材料(塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体)および当該高分子材料と架橋可能な架橋剤を含有することにより、印刷用コート層11は、基材10との密着性にさらに優れたものとなる。したがって、印刷用コート層11にラテックスインクが付与された場合に、印刷用コート層11はラテックスインクの収縮により好適に抗することができ、ラテックスインクが付与された印刷用コート層11と基材10との界面での剥離がより効果的に抑制される。
【0067】
(架橋剤)
印刷用コート層11において、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体を架橋する架橋剤は、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体を構成する架橋性モノマーが有する架橋性の官能基と反応することにより、架橋構造を形成している。
【0068】
架橋剤としては、例えば、イソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、金属キレート系化合物、アジリジン系化合物等のポリイミン化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、ジアルデヒド類、メチロールポリマー、金属アルコキシド、金属塩等が挙げられる。これらの中でも、架橋剤は、1分子当たりイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物が好ましい。ポリイソシアネート化合物による架橋は、架橋反応の程度を制御しやすく、かつ架橋反応してなる架橋結合が加水分解や熱分解を生じにくい。
【0069】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート化合物;ジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、シクロペンチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート化合物等が挙げられる。
【0070】
また、架橋剤としては、これらポリイソシアネート化合物の、ビウレット体、イソシアヌレート体や、これらの化合物と、エチレングリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の非芳香族性低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体等の変性体も用いることができる。本明細書において「イソシアネート系化合物」とは、ポリイソシアネート化合物および上記のビウレット体や変性体等ポリイソシアネート化合物に基づく化合物であって、架橋性を有するものの総称である。
【0071】
架橋剤は、複数種のイソシアネート系化合物を含んでいてもよい。
架橋剤は、少なくともヘキサメチレンジイソシアネート系の化合物を含有しているのが好ましい。
【0072】
これにより、ラテックスインクによる印刷部20のフィルム1に対する密着性をより優れたものとすることができる。
【0073】
また、架橋剤は、少なくともヘキサメチレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体を含有しているのが好ましい。
これにより、印刷用コート層11内での凝集破壊をより効果的に防止することができる。
【0074】
特に、基材10がポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系の樹脂材料を含むものであり、かつ、前記架橋剤がイソシアネート系化合物を含む場合には、当該イソシアネート系化合物と基材10を構成する樹脂材料との反応性が高まり、基材10と印刷用コート層11との密着性をさらに高めることができる。
【0075】
架橋剤は、架橋性モノマーが有する架橋性の官能基の種類に応じて異なるが、例えば、架橋性モノマーが水酸基を有するものである場合、イソシアネート系架橋剤を好適に用いるのが好ましく、架橋性モノマーがカルボキシル基を有するものである場合、エポキシ系架橋剤を好適に用いるのが好ましい。
【0076】
エポキシ系架橋剤としては、例えば、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、ジグリシジルアニリン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0077】
印刷用コート層11を形成するための組成物(塗工液)として、高分子材料(塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体)および当該高分子材料と架橋可能な架橋剤を含有する組成物を用いることにより、架橋剤を介して高分子材料同士が架橋した架橋構造を有する印刷用コート層11を好適に形成することができる。
【0078】
(その他の成分)
印刷用コート層11は、前述した以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。
その他の成分としては、例えば、表面調整剤、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤、前述した高分子材料(塩化ビニル、酢酸ビニルおよび架橋性モノマーを構成モノマーとする高分子材料)以外の樹脂材料等が挙げられる。
【0079】
印刷用コート層11中におけるその他の成分の含有率は、10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましく、3質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0080】
印刷用コート層11の厚さは、0.1μm以上50μm以下であるのが好ましく、1μm以上25μm以下であるのがより好ましい。
【0081】
印刷用コート層11の厚さが前記下限値未満であると、基材10や印刷部20との密着性が低下する可能性がある。
【0082】
また、印刷用コート層11の厚さが前記上限値を超えると、生産性が低下したり耐ブロッキング性が低下したりする等の問題を生じる可能性がある。
【0083】
<粘着剤層>
本実施形態のフィルム1は、基材10および印刷用コート層11に加え、基材10の印刷用コート層11に対向する面とは反対の面側に粘着剤層12が設けられている。
これにより、フィルム1を粘着フィルムとして好適に用いることができる。
【0084】
粘着剤層12を構成する粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤等が挙げられる。
【0085】
粘着剤層12の厚さは、5μm以上100μm以下であるのが好ましく、10μm以上50μm以下であるのがより好ましい。
【0086】
これにより、フィルム(粘着フィルム)1を被着体に貼着する際の貼着のしやすさ等のフィルム1の取り扱いのしやすさをより向上させることができる。
【0087】
フィルム1は、被着体への貼着前には、被着体への接触面(粘着剤層12)が図示しない剥離ライナーで被覆されていてもよい。
【0088】
これにより、フィルム1の搬送時および保管時等において、フィルム1(被着体への接触面)を好適に保護することができる。
【0089】
剥離ライナーとしては、特に制限されず、粘着フィルムの分野で通常使用されるものを用いることができる。剥離ライナーとしては、例えば、紙基材またはフィルム基材の表面に剥離層が設けられたもの等が挙げられる。
【0090】
紙基材としては、例えば、上質紙、クラフト紙、グラシン紙等の紙類が挙げられる。また、フィルム基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン等の各種樹脂で構成されたフィルムが挙げられる。紙基材およびフィルム基材には、填料等の充填剤が含有されていてもよい。
【0091】
剥離層の構成材料としては、例えば、シリコーン、長鎖アルキル系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0092】
剥離ライナーの厚さは、特に限定されないが、10μm以上150μm以下であるのが好ましく、20μm以上130μm以下であるのがより好ましく、30μm以上50μm以下であるのがさらに好ましい。
【0093】
フィルム1のヘーズ(JIS K7136:2000に準拠して測定したヘーズ)は、特に限定されないが、10%以下であるのが好ましく、5%以下であるのがより好ましく、3%以下であるのがさらに好ましい。
【0094】
これにより、例えば、フィルム1を、OHP(Overhead Projector)フィルム、印刷面の裏面から印刷画像を鑑賞するラベル、ディスプレイとしての用途、ウィンドウディスプレイの用途等により好適に用いることができる。
【0095】
なお、フィルム1が剥離ライナーを有する場合には、フィルム1のヘーズとしては、当該剥離ライナーを剥離した状態で測定される値を採用するものとする。
【0096】
[フィルムの製造方法]
次に、本発明のフィルムの製造方法について説明する。
【0097】
本発明のフィルムの製造方法は、ラテックスインクを用いて印刷部20が形成されるフィルム1を製造する方法であって、基材10上に、塩化ビニル、酢酸ビニルおよび架橋性モノマーを構成モノマーとする高分子材料(塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体)と、架橋剤と、溶剤とを含む組成物を付与する工程(組成物付与工程)と、溶剤を除去する工程(溶剤除去工程)と、高分子材料と架橋剤とを反応させる工程(架橋工程)とを有する。
【0098】
これにより、ラテックスインクによる印刷部20の密着性に優れるフィルム1を効率よく製造することができる。
【0099】
<組成物付与工程>
まず、基材10上に、塩化ビニル、酢酸ビニルおよび架橋性モノマーを構成モノマーとする高分子材料(塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体)と、架橋剤と、溶剤とを含む組成物を付与する(組成物付与工程)。
【0100】
前記組成物は、印刷用コート層11の主剤となる塩化ビニル、酢酸ビニルおよび架橋性モノマーを構成するモノマーとする高分子材料(塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体)を、架橋剤および溶剤とともに含有し、さらに必要に応じて、他の成分を含有する。
【0101】
特に、組成物が架橋剤を含んでいることにより、印刷用コート層11を、高分子材料同士が架橋した架橋構造を有するものとして好適に形成することができる。その結果、印刷用コート層11の硬度が高くなるため、印刷用コート層11に外力が付与されたときに印刷用コート層11が過度に変形したり凝集破壊が生じたりすることが抑制される。また、組成物に含有される架橋剤の一部が、基材10を構成する樹脂材料と反応することにより、基材10と印刷用コート層11との密着性をより効果的に高めることができる。
【0102】
組成物中における架橋剤の含有量は、高分子材料(塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体)100質量部に対して、1質量部以上60質量部以下であるのが好ましく、3質量部以上40質量部以下であるのがより好ましく、5質量部以上20質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0103】
これにより、印刷用コート層11の硬度を適度に高め、印刷用コート層11に付与されたラテックスインクが硬化した際の印刷用コート層11内での凝集破壊をより効果的に防止することができ、印刷部20が設けられた記録物の耐擦過性や耐折り曲げ性をさらに向上させることができる。
【0104】
これに対し、架橋剤の含有率が低すぎると、前述したような架橋剤を用いることによる効果が十分に発揮されない可能性がある。
【0105】
一方、架橋剤の含有率が高すぎると、経済的観点から不利益が生じる可能性があり、さらに印刷用コート層11が過度に硬くなることで、印刷部20がむしろ剥離しやすくなったり、ラテックスインクが付与された(印刷部20が形成された)印刷用コート層11と基材10との界面での剥離が生じやすくなる可能性がある。また、耐擦過性や耐折り曲げ性が低下する可能性がある。
【0106】
溶剤は、組成物中において、高分子材料等の他の成分を溶解または分散させる機能を有するものである。すなわち、組成物中において、溶媒または分散媒として機能するものである。
【0107】
組成物を構成する溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、メタノール、エタノール等のアルコール系溶剤等が挙げられる。
【0108】
組成物中の高分子材料の濃度(固形分換算)は、10質量%以上50質量%以下であるのが好ましい。
【0109】
組成物は、前述した以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。
その他の成分としては、例えば、表面調整剤、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤、前述した高分子材料(塩化ビニル、酢酸ビニルおよび架橋性モノマーを構成モノマーとする高分子材料)以外の樹脂材料等が挙げられる。
【0110】
上記の組成物を基材10に付与する方法は、特に限定されないが、例えば、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、ナイフコート、ダイコート、バーコート等の各種塗布法等が挙げられる。
【0111】
<溶剤除去工程>
基材10に付与した組成物を加熱することにより、溶剤を除去する。加熱条件としては、例えば、60℃から120℃で、30秒から3分間等が挙げられる。
【0112】
<架橋工程>
架橋条件は、特に限定されず、例えば、通常環境(例えば、23℃、相対湿度50%)に1日以上14日以下放置して架橋させてもよいし、40℃から60℃の環境下に1日から3日放置して架橋させても良い。また、溶剤除去工程と架橋工程を同時進行的に行ってもよい。
【0113】
<粘着剤層形成工程>
基材10の印刷用コート層11が設けられた面とは反対の面側に粘着剤層12を形成する。
【0114】
粘着剤層12は、例えば、基材10の印刷用コート層11が形成された側の面とは反対側の面に、粘着剤層を形成するための組成物(粘着剤層形成用組成物)を塗布することにより設けてもよいし、剥離ライナーの剥離面に粘着剤層形成用組成物を塗布し、これを基材10の印刷用コート層11が形成された側の面と反対側の面に貼り合わせる(転写する)ことにより設けてもよい。
【0115】
粘着剤層12を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、ナイフコート、ダイコート、バーコート等の各種塗布法等が挙げられる。
【0116】
[ラテックスインク]
次に、印刷部20の形成に用いられるラテックスインクについて説明する。
前述したように、ラテックスインクでは、少なくとも樹脂を含む材料で構成された分散質が、液状の分散媒中に分散(乳濁および/または懸濁)している。
【0117】
ラテックスインクは、環境に対する負荷が低い。また、ラテックスインクは、薄い層で濃い色を表現できるという利点がある。また、ラテックスインクを構成するラテックス粒子は、バインダー(樹脂)を含み、一般に、顔料着色剤の記録媒体への密着性を向上させる上で有利である。また、インクジェット法を利用できるため、オンデマンドで印刷することができるという利点がある。
【0118】
ラテックスインクは、水系ラテックスインクであるのが好ましい。水系ラテックスインクは、安全性がより高く、環境に対する負荷がより少ない。
【0119】
(樹脂)
ラテックスインクに含まれる樹脂は、特に限定されないが、例えば、水溶性のビニル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、アルキッド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノキシ系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等、およびこれらの変性樹脂等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。この中でも、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、水溶性ポリウレタン系樹脂、水溶性ポリエステル系樹脂、水溶性アクリル系樹脂が好ましく、アクリル系樹脂がより好ましい。
【0120】
ラテックスインク中における樹脂の含有率は、1質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、2質量%以上10質量%以下であるのがより好ましい。
【0121】
(分散媒)
ラテックスインクは、分散媒として水を含んでいる。
ラテックスインク中における分散媒(水)の含有率は、50質量%以上98質量%以下であるのが好ましく、60質量%以上97質量%以下であるのがより好ましく、70質量%以上96質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0122】
(着色剤)
ラテックスインクは、通常、着色剤を含んでいる。
着色剤としては、各種染料、各種顔料等を用いることができる。
【0123】
ラテックスインク中における着色剤の含有率は、0.1質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、0.2質量%以上10質量%以下であるのがより好ましい。
【0124】
(その他の成分)
ラテックスインクは、前述した以外の成分(その他の成分)を含んでいてもよい。
このような成分としては、例えば、分散剤、防黴剤、防錆剤、pH調整剤、界面活性剤等、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤等が挙げられる。
【0125】
(分散剤)
分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸-アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチン-メタクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体、酢酸ビニル-エチレン共重合体、酢酸ビニル-脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル-マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル-クロトン酸共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸共重合体等のポリマー型分散剤が挙げられる。
【0126】
[印刷部の形成]
印刷部20は、フィルム1の印刷用コート層11の上にラテックスインクを付与することにより形成される。
【0127】
ラテックスインクを付与する方法は、特に限定されず、各種印刷法を用いることができるが、インクジェット法が好ましい。インクジェットの方式としては、例えば、ピエゾ方式、サーマルジェット方式等が挙げられる。
【0128】
ラテックスインクを付与する際、フィルム1を加熱してもよい。
加熱温度は、特に限定されないが、40℃以上70℃以下とすることができる。
【0129】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0130】
例えば、前述した実施形態では、印刷用コート層が、基材の一方の面側のみに設けられている場合について代表的に説明したが、印刷用コート層は、基材の両面側に設けられていてもよい。
【0131】
また、本発明のフィルムは、基材と印刷用コート層との間に、少なくとも1つの中間層を有していてもよい。また、基材と粘着剤層との間に、少なくとも1つの中間層を有していてもよい。また、本発明のフィルムは、粘着剤層を有していなくてもよい。
【0132】
また、前述した実施形態では、基材に対して印刷用コート層を形成した後に、粘着剤層を形成する場合について代表的に説明したが、粘着剤層を形成した後に、印刷用コート層を形成してもよい。
【実施例
【0133】
以下に具体的な実施例をあげて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に温度条件を示していない処理は、室温(23℃)、相対湿度50%において行ったものである。また、各種測定条件についても特に温度条件を示していないものは、室温(23℃)、相対湿度50%における数値である。
【0134】
[1]フィルムの製造
(実施例1)
まず、以下のようにして、印刷用コート層形成用の組成物(印刷用コート層形成用組成物)を調製した。
【0135】
すなわち、高分子材料として塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体(塩化ビニル含有率:83質量%、酢酸ビニル含有率:4質量%、ヒドロキシアルキルアクリレート(架橋性モノマー):13質量%、数平均分子量(Mn):24,000、ガラス転移温度:65℃)および、架橋剤としてのヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート体を、トルエンとメチルエチルケトンとの混合溶剤(質量比1:1)と混合して、印刷用コート層形成用組成物(固形分濃度33.3質量%)を調製した。このとき、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体:100質量部に対する架橋剤の使用量は5質量部とした。
【0136】
次に、印刷用コート層形成用組成物を、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の基材(厚さ50μm)の片面に、マイヤーバーを用いて、乾燥後の膜厚が10μmとなるように塗布した。
【0137】
次に、熱風乾燥装置を用いて、80℃、1分間の条件で加熱することにより、基材に塗布した印刷用コート層形成用組成物に含まれる溶剤を除去し、さらに23℃50%RHの環境下に7日間放置することにより、架橋させた。これにより、厚さ:10μmの印刷用コート層を形成し、フィルムを得た。
【0138】
(実施例2)
塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体:100質量部に対する、架橋剤の添加量を10質量部とした以外は、前記実施例1と同様にして印刷用コート層形成用組成物を調製し、フィルムを製造した。
【0139】
(実施例3)
塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体:100質量部に対する、架橋剤の添加量を20質量部とした以外は、前記実施例1と同様にして印刷用コート層形成用組成物を調製し、フィルムを製造した。
【0140】
(実施例4)
印刷用コート層形成用組成物を基材上に塗布する際に、乾燥後の厚さが1μmとなるようにした以外は、前記実施例1と同様にして印刷用コート層を形成し、フィルムを製造した。
【0141】
(実施例5)
印刷用コート層形成用組成物を基材上に塗布する際に塗工量を調整し、乾燥後の厚さが25μmとなるようにした以外は、前記実施例1と同様にして印刷用コート層を形成し、フィルムを製造した。
【0142】
(比較例1)
印刷用コート層を形成せず、PETからなる基材を(膜厚50μm)を、そのままフィルムとした。
【0143】
(比較例2)
印刷用コート層形成用組成物を調製する際に、高分子材料として塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体の代わりに、ポリ酢酸ビニルを用い、架橋剤を用いなかった以外は、前記実施例1と同様にして印刷用コート層形成用組成物を調製し、フィルムを製造した。
【0144】
(比較例3)
塩化ビニルおよび酢酸ビニルのみを構成モノマーとする高分子材料を含み、かつ、架橋剤を含まない印刷用コート層形成用組成物を用いた以外は、前記実施例1と同様にして印刷用コート層形成用組成物を調製し、フィルムを製造した。
【0145】
前記各実施例および各比較例のフィルムの構成を表1にまとめて示す。なお、フィルムを構成する各部位において、表1中に示す成分以外の成分(その他の成分)の含有率は、いずれも、1質量%以下であった。
【0146】
【表1】
【0147】
[2]評価
[2-1]印刷部密着性試験
前記各実施例および各比較例で得られたフィルムのそれぞれについて、印刷用コート層表面(比較例1については、基材の一方の面)にラテックスインク(HP社製、HP Latex Ink)を用いてインクジェット印刷機(HP社製、HP Latex 560 Printer)でインクジェット法により、所定の試験用パターンを印刷し、印刷部(印刷層)を形成した。
【0148】
[2-1-1]テープ剥離試験
上記のようにして所定のパターンの印刷部が形成されたフィルムを、23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した。その後、印刷部が形成されたフィルムの印刷部が形成された側の面に、JIS K5600-5-6:1999(ISO 2409:1992)のクロスカット法に準じて、カット間隔1mm、カット数11個×11個として100個のマス目を作製し、印刷部とフィルムとの密着性を評価した。クロスカット部にニチバン社製セロテープ(登録商標)を貼付し、テープ引きはがし後に残存するマス目の数をxとして、残存率をx/100を求め、以下の基準に従い評価した。
【0149】
A:x/100の値が90/100以上である。
B:x/100の値が70/100以上90/100未満である。
C:x/100の値が50/100以上70/100未満である。
D:x/100の値が10/100以上50/100未満である。
E:x/100の値が10/100未満である。
【0150】
[2-1-2]スクラッチ試験
上記のようにして所定のパターンの印刷部が形成されたフィルムを、23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した。フィルムの印刷部を爪で擦り、塗膜の取れ具合を観察し、以下の基準に従い評価した。
【0151】
A:塗膜に全く傷がつかない。
B:塗膜にほとんど傷がつかない。
C:塗膜にわずかに傷が残る。
D:塗膜にはっきりと傷が残る。
【0152】
これらの結果を、表2にまとめて示す。
【0153】
【表2】
【0154】
表2から明らかなように、本発明では優れた結果が得られた。すなわち、本発明では、印刷部と基材との密着性を高め、基材と印刷用コート層との間での界面剥離も効果的に抑制されていた。
これに対し、各比較例では、満足のいく結果が得られなかった。
【0155】
また、前記各実施例のフィルムの印刷用コート層が設けられた面とは反対側の面に、アクリル系粘着剤をナイフコーターにて塗工した後、100℃で3分間乾燥させ15μmの粘着剤層を形成し、該粘着剤層に厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート製剥離ライナーのシリコーン塗布面を貼り合わせ、図1に示す構成のフィルム(粘着フィルム)を得た。
【0156】
当該粘着フィルムから、剥離ライナーを剥離した状態でのヘーズ(JIS K7136:2000に準拠して測定したヘーズ)を測定したところ、2.0%以下であった。また、当該粘着フィルムをガラス板に貼着したところ、好適に貼着することができた。
【符号の説明】
【0157】
1…ラテックスインク用フィルム(フィルム)
10…基材
11…印刷用コート層
12…粘着剤層
20…印刷部(印刷層)
図1