(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】電気化学素子用セパレータ及び電気化学素子
(51)【国際特許分類】
H01M 50/446 20210101AFI20220520BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20220520BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20220520BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20220520BHJP
H01M 50/429 20210101ALI20220520BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20220520BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20220520BHJP
H01M 50/417 20210101ALN20220520BHJP
【FI】
H01M50/446
H01G11/52
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/429
H01M50/44
H01M50/489
H01M50/417
(21)【出願番号】P 2018077704
(22)【出願日】2018-04-13
【審査請求日】2021-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】野口 有由香
(72)【発明者】
【氏名】長 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康博
(72)【発明者】
【氏名】田中 政尚
(72)【発明者】
【氏名】田村 直之
(72)【発明者】
【氏名】川崎 貴史
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-232518(JP,A)
【文献】特開2016-126998(JP,A)
【文献】特開2017-117695(JP,A)
【文献】特開2013-251236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01G 11/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材ならびにシリカ粒子とTEMPO酸化セルロースナノファイバーを有する電気化学素子用セパレータであって、前記TEMPO酸化セルロースナノファイバーのTEMPO酸化度は1.1mmol/g以上1.8mmol/g未満であ
って、
前記多孔質基材の空隙全体に、前記シリカ粒子と前記TEMPO酸化セルロースナノファイバーが存在しており、
ガーレ値が10(sec/100mL)より高く55(sec/100mL)以下である、電気化学素子用セパレータ。
【請求項2】
TEMPO酸化度が1.1mmol/gより大きく、1.8mmol/g未満である、請求項1に記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電気化学素子用セパレータを用いた電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子用セパレータ及びそれを用いた電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学素子用セパレータの絶縁性(耐ショート性)や耐熱性を向上させると共に、イオンが透過する空隙の閉塞(ガーレ値は上昇する)による放電特性の低下を防止するため、本出願人は、不織布など多孔質基材へ無機酸化物粒子をバインダ担持することを検討してきた(例えば、特許文献1など)。
しかし、このように調製した電気化学素子用セパレータであっても、無機粒子の存在によって多孔質基材の空隙が閉塞するため、尚もイオン透過性の低下が十分に防止されず、放電特性に優れる電気化学素子用セパレータを提供するのには限界があった。
【0003】
また、内部抵抗や平均孔径が小さい電気化学素子用セパレータとして、以下の従来技術文献が知られている。
特許文献2は、内部抵抗が小さい電気化学素子用セパレータにかかる発明であり、不織布層にセルロースナノファイバー層を設けた電気化学素子用セパレータを開示し、不織布層やセルロースナノファイバー層にシリカ粒子を混合するのが好ましいことを開示している。
特許文献3は、平均孔径がより小さいため電解液の保持力向上やピンホールの発生を防止した電気化学素子用セパレータにかかる発明であり、カルボキシル基量0.6~2.5mmol/g、好ましくは1.5~2.0mmol/gのセルロースナノファイバーを含むスラリーを、プラスチックシャーレ等の支持体に塗工後、乾燥して得られる電気化学素子用セパレータを開示し、スラリーに無機微粒子を混合できることを開示している。
なお、前記カルボキシル基量は、本明細書における2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO)酸化度に相当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-123399号公報
【文献】特開2012-232518号公報
【文献】特開2013-251236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、放電特性の低下を防止できる(すなわち、放電特性に優れた)電気化学素子用セパレータ、及びそれを用いた電気化学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
[1]多孔質基材ならびにシリカ粒子とTEMPO酸化セルロースナノファイバーを有する電気化学素子用セパレータであって、前記TEMPO酸化セルロースナノファイバーのTEMPO酸化度は1.1mmol/g以上1.8mmol/g未満である、電気化学素子用セパレータ、
[2]TEMPO酸化度が1.1mmol/gより大きく、1.8mmol/g未満である、[1]の電気化学素子用セパレータ、
[3][1]又は[2]の電気化学素子用セパレータを用いた電気化学素子
に関する。
【発明の効果】
【0007】
前記[1]の本発明の電気化学素子用セパレータは、無機酸化物粒子としてシリカ粒子を採用し、また、TEMPO酸化度が1.1mmol/g以上1.8mmol/g未満のセルロースナノファイバーを採用することによって、放電特性の低下を防止できる(すなわち、放電特性に優れた)セパレータである。
そして、本発明の電気化学素子用セパレータを用いた電気化学素子は、ハイレート放電など放電特性に優れる。
【0008】
前記[2]の本発明の電気化学素子用セパレータは、TEMPO酸化度が1.1mmol/gより大きく1.8mmol/g未満のセルロースナノファイバーを採用することによって、より絶縁性(耐ショート性)に優れるセパレータであるため、それを用いた電気化学素子はショートが発生し難い。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の電気化学素子用セパレータ(以下、単に「セパレータ」という)は、多孔質基材の空隙にシリカ粒子が充填された構造を有するため、仮に多孔質基材の構成成分(例えば、構成繊維など)に耐熱性がなくても、シリカ粒子の耐熱性によって、高温状態においても収縮又は溶融し難いセパレータとすることができる。
多孔質基材は通気性を有する素材であればよく、その種類は適宜選択できる。例えば、布帛(繊維ウェブや不織布、織物、編物などのシート状の繊維構造体)、通気性を有するフィルムや発泡体などを用いることができる。
【0010】
多孔質基材が布帛である場合、多孔質基材を構成する繊維は特に限定するものではない。例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法、遠心力を用いて紡糸する方法、特開2011-012372号公報などに記載の随伴気流を用いて紡糸する方法、特開2005-264374号公報などに記載の中和紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法など、公知の方法により繊維を得ることができる。
【0011】
なお、多孔質基材は繊維径が5μm以下の極細繊維を含んでいるのが好ましい。このような極細繊維を含んでいることによって、繊維同士の結合によって形成される個々の空隙が小さくなり、絶縁性に優れるセパレータ(通常ガーレ値が高い値を示す傾向にある)を提供できるためである。
【0012】
なお、通常ガーレ値が高い値を示すセパレータは、イオン透過性の低下つまりは放電特性の低下したセパレータであることを意味するものであるが、後述の(比較例1)と(比較例2、実施例1~3、比較例3)とを比較した結果が示すように、セルロースナノファイバーを塗布してなる本発明のセパレータによれば、ガーレ値が高い値を示すものの、イオン透過性の低下を抑えた、放電特性の低下が防止されている、あるいは、放電特性に優れるセパレータを提供できる。
【0013】
また、極細繊維を含んでいることによって、セパレータの比表面積が広くなり、シリカ粒子の保持性及び電解液の保持性が向上する。極細繊維の繊維径が小さい程、個々の空隙を小さくできるため、極細繊維の繊維径が5μm以下であるのが好ましく、3μm以下であるのがより好ましい。なお、繊維径の下限は特に限定するものではないが、極細繊維の分散性の点から0.5μm以上であるのが妥当である。
【0014】
なお、このような極細繊維は繊維径が5μm以下である限り、どのようにして製造されたものであっても良く、特に限定するものではないが、例えば、海島型複合繊維から海成分を除去して製造した島成分繊維、相溶性の悪い二種類以上の樹脂からなる複合繊維に外力を作用させ、剥離させて製造した繊維、メルトブロー法により製造した繊維、叩解機などの外力を作用させて製造した繊維径が5μm以下のフィブリルを有する繊維、フラッシュ紡糸法により製造した繊維、などを挙げることができる。
【0015】
本発明のセパレータを構成する繊維は前述のような極細繊維100%から構成することができるが、繊維径が5μmを超えるレギュラー繊維を含んでいることもできる。このレギュラー繊維は繊維径が5μmを超えること以外、つまり、樹脂成分、樹脂成分数、樹脂成分の配置状態、繊維長等は極細繊維と同様であることができる。なお、多孔質基材は極細繊維を含んでいるのが好ましいため、レギュラー繊維は多孔質基材の構成繊維全体の質量の95%以下を占めているのが好ましく、90%以下を占めているのがより好ましく、85%以下を占めているのが更に好ましい。また、レギュラー繊維の繊維径の上限は20μm以下であるのが好ましい。
【0016】
また、極細繊維やレギュラー繊維など多孔質基材の構成繊維を構成する樹脂成分は特に限定するものではないが、耐電解液性及び耐酸化性のある、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂(特に、全芳香族ポリアミド樹脂)の中から選ばれる1種類以上の樹脂から構成することができる。これらの中でも、ポリオレフィン系樹脂は特に耐電解液性、耐酸化性に優れ、しかも吸湿しないため、特に好適である。
【0017】
なお、繊維は1種類以上の樹脂から構成されているが、融点の異なる2種類以上の樹脂から構成されており、融点の低い樹脂が繊維表面の少なくとも1部を構成していると、その樹脂によって融着することができ、セパレータの形状維持性に優れているため好適である。特には、融点の低い樹脂が両端部を除いて繊維表面全体を占めている芯鞘型であると、融着力に優れているため、特に好ましい。前述のように、繊維はポリオレフィン系樹脂から構成されているのが好ましいため、芯成分がポリプロピレンからなり、鞘成分がポリエチレンからなるのが特に好ましい。なお、繊維の電解液との親和性を高め、内部抵抗を下げ、また、効率的に電池を製造できるように、繊維に対して、プラズマ処理などの親和性付与処理を行なうことができる。
【0018】
更に、繊維の繊維長は特に限定するものではないが、分散性に優れているように、10mm以下であるのが好ましく、5mm以下であるのがより好ましく、3mm以下であるのが更に好ましい。繊維長の下限は特に限定するものではないが、0.1mm以上であるのが好ましい。
【0019】
このような繊維同士は結合していることによって、空隙が形成されている。この繊維同士の結合は特に限定するものではないが、例えば、繊維の融着による結合、結合剤(例えば、ポリビニルアルコールなど)による結合、繊維の絡合による結合を挙げることができる。これらの結合は併用することができる。
【0020】
特に、繊維の融着による結合によって空隙が形成されてなる多孔質基材であると、結合剤の存在による空隙の閉塞(ガーレ値は上昇する)による放電特性の低下を防止でき好ましい。
【0021】
多孔質基材の空隙に充填されるシリカ粒子は、セパレータの絶縁性(耐ショート性)や耐熱性を向上させると共に、イオンが透過する空隙の閉塞(ガーレ値は上昇する)による放電特性の低下を防止できるものであれば良く、特に限定するものではないが、シリカ粒子の粒子径が大き過ぎると、多孔質基材の空隙へシリカ粒子を均一に充填できなくなる恐れがあり、シリカ粒子の粒子径が小さ過ぎると、シリカ粒子が多孔質基材の空隙を過剰に閉塞してセパレータの放電特性の低下を招く恐れがある。
そのため、本発明に係るシリカ粒子の粒径の50%累積値D50は、下限値が0.2μm以上であるのが好ましい。また、本発明に係るシリカ粒子の粒径の50%累積値D50は、上限値が3μm以下であるのが好ましく、2μm以下であるのが好ましく、1μm以下であるのが好ましく、0.5μm以下であるのが好ましい。
【0022】
「粒径の50%累積値D50」は大塚電子(株)製FPRA1000(測定範囲3nm~5000nm)を用いて動的光散乱法で3分間の連続測定を行い、測定データを重量換算して得られ、「粒径の50%累積値D50」は、分散液に含まれている粒子の粒子径を小さいものから順に積算し、十分位数で表したときの五分位数(中央値)の粒子径を意味する。なお、測定は5回行い、その測定して得られたデータを粒子径分布幅が狭い順番に並べ、その中間値(3番目)のデータを、その粒子の測定値とする。また、分散液を温度25℃に調整し、溶媒の屈折率、粘度は25℃の水の値を用いた値である。
【0023】
また、セパレータは無機粒子としてシリカ粒子のみを含有しているものであるのが好ましいが、必要に応じてシリカ粒子以外の無機粒子を含んでいてもよい。このような無機粒子を構成する材料は、粒子径関係なく、耐電解液性及び耐酸化性に優れるものであれば良く、また、本発明にかかるセパレータを製造できるよう適宜選択するものであるが、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化イットリウム、酸化イッテリビウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム等の金属酸化物を挙げることができ、これら無機粒子は、シリカ粒子と共に、単独で、又は2種類以上を併用することができる。なお、シリカ粒子を含む無機粒子に電解液との親和性が付与又は向上する処理を施すと、内部抵抗が低くなり、また、効率的に電池を製造できる。
【0024】
本発明のセパレータは前述のようなシリカ粒子が繊維同士の結合によって形成される空隙に充填された構造を有するが、本発明の効果が得られる限り、その充填状態は限定されない。例えば、シリカ粒子がセパレータの厚さ方向に偏在して(主に一方または両方の主面上に存在している態様、あるいは、主に一方または両方の主面側に存在している態様など)充填されていても良いし、セパレータの厚さ方向全体に均一に充填されていても良い。また、シリカ粒子は繊維の融着によって固定されていても良いし、結合剤によって繊維に固定されていても良いし、或いは静電気力やファンデルワールス力によって繊維に固定されていても良く、その状態は特に限定するものではない。
【0025】
セパレータに含まれているシリカ粒子の質量は、セパレータの絶縁性(耐ショート性)や耐熱性を向上させると共に、イオンが透過する空隙の閉塞(ガーレ値は上昇する)による放電特性の低下を防止できるよう、適宜選択するものであるが、上述の効果が効率良く発揮されるよう1g/m2以上含有されているのが好ましい。また、セパレータに含まれているシリカ粒子の質量が多すぎると、シリカ粒子が多孔質基材の空隙を閉塞してセパレータの放電特性の低下を招く恐れがあることから、上限値は20g/m2以下であるのが好ましく、15g/m2以下であるのが好ましく、10g/m2以下であるのが好ましい。
【0026】
本発明のセパレータは、前記シリカ粒子に加えて、TEMPO酸化セルロースナノファイバーを有する。
本発明で用いるTEMPO酸化セルロースナノファイバーは、既知の方法により製造されるものでよく、例えば2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル(TEMPO)等のN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いてパルプ等のセルロース原料を酸化して得られるTEMPO酸化セルロースを分散液中で高圧ホモジナイザー等による解繊処理を経て得られるものである。TEMPO酸化によりセルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基が酸化変性されてカルボキシル基となったものである。
【0027】
本発明のセパレータでは、TEMPO酸化度が1.1mmol/g以上1.8mmol/g未満、好ましくは、1.1mmol/gより大きく、1.8mmol/g未満であるTEMPO酸化セルロースナノファイバーを使用する。TEMPO酸化度が1.1mmol/g以上1.8mmol/g未満であると、シリカ粒子と併用することにより、放電特性の低下を防止できる(すなわち、放電特性に優れた)セパレータとすることができる。また、TEMPO酸化度が1.1mmol/gより大きく、1.8mmol/g未満であると、前記効果に加えて、より絶縁性(耐ショート性)に優れるセパレータとすることができる。
【0028】
本明細書において「TEMPO酸化度」とは、1gのTEMPO酸化セルロースナノファイバーに含まれるカルボキシル基のモル数を意味する。
TEMPO酸化セルロースナノファイバーのTEMPO酸化度、すなわち、カルボキシル基量の測定は、例えば、乾燥重量を精秤したセルロース試料から0.5~1質量%スラリーを60mL調製し、0.1mol/Lの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行う。測定はpHが約11になるまで続ける。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記の式に従いカルボキシル基量を求めることができる。
TEMPO酸化度(mmol/g)=V(mL)×〔0.05/セルロース質量〕
【0029】
セパレータに含まれているTEMPO酸化セルロースナノファイバーの質量は、放電特性の低下を防止できる(すなわち、放電特性に優れた)セパレータ、及びそれを用いた電気化学素子を提供できるよう、適宜選択するものであるが、上述の効果が効率良く発揮されるようシリカ粒子に対して0.1質量%以上含有されているのが好ましい。また、上限値は10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのが好ましく、1質量%以下であるのが好ましい。
【0030】
本発明のセパレータの厚さは特に限定するものではないが、厚さが5μm未満であると機械的強度が弱く、取り扱い性が悪いためで、5μm以上であるのが好ましい。他方、厚さが50μmを超えると厚すぎてハイレート放電できなくなる傾向があるためで、50μm以下であるのが好ましく、40μm以下であるのがより好ましく、30μm以下であるのが最も好ましい。なお、セパレータの厚さはマイクロメータ(直径:6mm)を用い、13.7N/cm2荷重時の値をいう。
【0031】
このような本発明のセパレータは、例えば、次のような方法によって製造することができる。
まず、セパレータを構成する繊維を用意する。繊維としては、シリカ粒子の担持性に優れるように、極細繊維を用いるのが好ましい。また、繊維同士を結合できるように、融着性の複合繊維(極細繊維であるかどうかを問わない)を準備するのが好ましい。
次いで、繊維を開繊して繊維ウェブを形成する。繊維ウェブの形成方法はエアレイ法などの乾式法により形成することができるし、湿式法により形成することもできる。場合によっては、メルトブロー法などの直接紡糸法により直接繊維ウェブを形成することもできる。
【0032】
続いて、繊維同士を結合させることによって、不織布を形成する。繊維同士の結合方法としては、例えば、繊維の融着性を利用して融着させる方法、結合剤を用いて結合させる方法、流体流により絡合する方法などを挙げることができる。
他方で、シリカ粒子とTEMPO酸化セルロースナノファイバーを用意しておく。
そして、このシリカ粒子とTEMPO酸化セルロースナノファイバーとを適当な分散媒(例えば、純水、アルコールなど)中で混合し、必要に応じて、更に結合剤(例えば、アクリル系樹脂ディスパージョン)を加えて混合し、塗工液を調製する。所望により、前記塗工液は、ふるいを通すことにより粒子径の大きな粒子を除去することができる。前述の形成した不織布に、塗工液を塗布し、加熱装置へ供することで塗工液中の分散媒あるいは溶液を除去して、本発明のセパレータを製造することができる。
なお、加熱装置の種類は適宜選択できるが、例えば、遠赤外線ヒーター装置、フローティングドライヤーを備えた加熱装置、ロールにより加熱または加熱加圧する方法、オーブンドライヤー、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する方法などを用いることができる。また、上述した複数種類の加熱装置へ供することで、塗工液中の分散媒あるいは溶液を除去してもよい。なお、セパレータの形状は使用用途によって、例えば、平板状や巻回状など適宜調整できる。
【0033】
本発明の電気化学素子は前述のような本発明のセパレータを用いているため、ハイレート放電など放電特性に優れる電気化学素子である。本明細書において「電気化学素子」としては、例えば、一次電池(たとえばリチウム電池、マンガン電池、マグネシウム電池など)あるいは二次電池(例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、亜鉛電池など)キャパシタなどを挙げることができ、これらの電気化学素子用のセパレータとして水系、非水系問わずに使用できる。
【0034】
本発明の電気化学素子は前述のセパレータを用いていること以外は従来の電気化学素子と同様の構成であることができる。例えば、電気化学素子がリチウムイオン二次電池である場合、正極として、リチウム含有金属化合物のペーストを集電材に担持させたものを使用でき、負極として、リチウム金属やリチウム合金、及びリチウムを吸蔵、放出可能なカーボン又はグラファイトを含む炭素材料(例えばコークス、天然黒鉛や人造黒鉛などの炭素材料)、複合スズ酸化物を集電材に担持させたものを使用でき、電解液として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒にLiPF6を溶解させた非水電解液を使用することができる。また、リチウムイオン二次電池のセル構造も特に限定するものではなく、例えば、積層型、円筒型、角型、コイン型などであることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0036】
(多孔質基材の調製方法)
芯成分がポリプロピレン(融点:165℃)、鞘部がポリエチレン(融点:135℃)の芯鞘型複合繊維(繊度:0.4dtex、繊維長:6mm)60質量部と、ポリプロピレン単繊維(融点:160℃、繊度:0.01dtex、繊維長:1.7mm)40質量部とを混合し、湿式抄造法により繊維ウェブを調製した。
その後、前記繊維ウェブを温度140℃の熱風で処理した後、80℃のカレンダーロールに供することで加圧加熱処理し、不織布を調製した。
更に、調製した不織布をプラズマ処理へ供することで、親水化処理した不織布を得た(目付:6.2g/m2、厚さ:15μm)。
【0037】
(塗工液の調製方法)
表1及び表2に記載の組成物を混合、攪拌し、その後、開口径が20μmのふるいへ通すことで、粒子径の大きな粒子を除去して塗工液を調製した。
なお、塗工液Aは組成物が均等に分散しておらずゲル状の塗工液であった。一方、塗工液B~塗工液Hはゲル状になることなく組成物が均等に分散してなる塗工液であった。
【0038】
【0039】
【0040】
なお、使用した組成物の詳細は以下の通りである。
・アクリル系樹脂ディスパージョン:Tg:4℃、固形分濃度:45質量%
・アルミナ粒子:粒径の50%累積値D50:790nm
・シリカ粒子:粒径の50%累積値D50:450nm
・各種セルロースナノファイバー
TEMPO酸化度(mmol/g):0、1.1、1.6、1.7、1.8、2.0
【0041】
(参考例1)
グラビアロールを用いて、親水化処理した不織布の一方の主面に塗工液Aを塗布することを試みた。しかし、塗工液Aは組成物が均等に分散しておらずゲル状の塗工液であったため、グラビアロールを用いた塗布を行うことができなかった。
そのため、親水化処理した不織布ならびにアルミナ粒子とTEMPO酸化セルロースナノファイバーを有するセパレータを調製できなかった。
【0042】
(実施例1)
グラビアロールを用いて、親水化処理した不織布の一方の主面に塗工液Dを塗布した。なお、使用した塗工液はゲル状になることなく組成物が均等に分散してなる塗工液であった。そして、加熱装置へ供することで、塗工液中の分散媒を除去してセパレータ(目付:12.6g/m2、厚さ:18μm、塗布液由来の固形分質量:6.4g/m2)を調製した。
【0043】
(実施例2)
塗工液Eを用いたこと以外は実施例1と同様にして、セパレータを調製した。
【0044】
(実施例3)
塗工液Fを用いたこと以外は実施例1と同様にして、セパレータを調製した。
【0045】
(比較例1)
塗工液Bを用いたこと以外は実施例1と同様にして、セパレータを調製した。
【0046】
(比較例2)
塗工液Cを用いたこと以外は実施例1と同様にして、セパレータを調製した。
【0047】
(比較例3)
塗工液Gを用いたこと以外は実施例1と同様にして、セパレータを調製した。
【0048】
(比較例4)
塗工液Hを用いたこと以外は実施例1と同様にして、セパレータを調製した。
【0049】
上述のようにして製造した、実施例および比較例のセパレータを、以下に記載する各測定へ供することでセパレータの諸特性を評価した。
【0050】
(ガーレ値の測定方法)
セパレータから試験片を採取し、「JIS P 8117:2009(紙及び板紙-透気度及び透気抵抗度試験方法(中間領域)-ガーレ法) a)ガーレ試験機法」において規定されている方法へ供することで、ガーレ値(sec/100mL)を算出した。
なお、一般的にこのガーレ値が高いセパレータであるほど、イオンが透過する空隙が閉塞されたことにより、放電特性の低下したセパレータであることを意味する。
【0051】
(引張強度、引張伸度の測定方法)
セパレータから、機械方向(製造時の流れ方向)と長さ方向が一致するようにして、試験片(形状:長方形、長さ:200mm、幅:50mm)を採取した。
そして、採取した試験片を、定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン、初期つかみ間隔:100mm、引張速度:300mm/分)へ供し、試料片が破断するまで引っ張った時の強度から引張強度(N/50mm)を求めた。
また、試料片が破断するまで引っ張った時の、測定された試験片の最大荷重時のつかみ間隔(mm)の長さを以下の数式へ代入することで、試験片の引張伸度(%)を算出した。
a={(b-c)/c}×100
a:引張伸度(%)
b:最大荷重時のつかみ間隔(mm)
c:初期つかみ間隔(100mm)
【0052】
(8C放電容量の測定)
(1)正極の作成
コバルト酸リチウム(LiCoO2)粉末87質量部とアセチレンブラック6質量部、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)7質量部を、N-メチル-ピロリドン(NMP)に溶解させ、ポリフッ化ビニリデン濃度が13質量%の正極剤ペーストを作製した。次いで、このペーストを厚さ20μmのアルミ箔に塗布し、乾燥した後にプレスして、厚さ90μmの正極を作製した。
【0053】
(2)負極の作成
負極活物質として天然黒鉛粉末90質量部とポリフッ化ビニリデン(PVdF)10質量部を、N-メチル-ピロリドン(NMP)に溶解させ、ポリフッ化ビニリデン濃度が13質量%の負極剤ペーストを作製した。このペーストを厚さ15μmの銅箔上に塗布し、乾燥した後にプレスして、厚さ70μmの負極を作製した。
【0054】
(3)非水系電解液の用意
非水系電解液として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒(比率=50質量%:50質量%)に、LiPF6を溶解させた1mol/L溶液(キシダ化学(株)製)を用意した。
【0055】
(4)リチウムイオン二次電池の作製
CR-2032型コインセルに負極(直径:12mm)、セパレータ(直径:16mm)、正極(直径:12mm)の順に積層した後、非水電解液を注液し、スペーサーを介して蓋をした後、コイン電池用かしめ機でパッキングを行い、リチウムイオン二次電池をそれぞれ作製した。なお、正極と負極の質量比率は1:1.1とした。
【0056】
上述のようにして、実施例および比較例に係る各セパレータを用いて、各リチウムイオン二次電池を各々3個ずつ作製した。
作製した各リチウムイオン二次電池のそれぞれの容量をCと表した場合に、0.2Cで表される充電速度で6時間充電した後、15分間放置し、その後、放電速度8Cにおいて電圧が0.8Vになるまで放電した。
この時の、各リチウムイオン二次電池の放電速度8Cにおける放電容量を測定した。この測定を、各3個のリチウムイオン二次電池において行ない、得られた各値の算術平均値を算出し、小数点第二位以下を四捨五入することで放電容量(mAh)を求めた。
なお、この放電容量が高いセパレータであるほど、放電特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供可能なセパレータであることを意味する。
【0057】
(電気抵抗値の測定)
耐電圧/絶縁抵抗試験器(菊水電子工業株式会社製、型番:TOS9200)を用いて、B5サイズのアルミ電極2枚の間にA4サイズのセパレータ試料を挟み、その上から7.5kgのSUS棒を置いて一定荷重をかけた状態で、両アルミ電極間に電圧250Vを印加したときの両アルミ電極間の電気抵抗値を測定した。なお、測定の下限基準値を1MΩとして、1MΩ以下(表3及び表4において「≦1」と記載)で絶縁不良と見なした。
同測定を比較例および実施例から切り出した、各3枚ずつのA4サイズのセパレータ試料の各々に対して行った。(n=3)
なお、この電気抵抗値(絶縁性)が1MΩよりも高いセパレータであるほど、絶縁性(耐ショート性)に優れるリチウムイオン二次電池を提供可能なセパレータであることを意味する。更に、各セパレータ試料における電気抵抗値の平均値が高いセパレータ、および/または、各セパレータ試料における電気抵抗値の結果において1MΩ以下の発生頻度が低いセパレータであるほど、絶縁性(耐ショート性)に優れるリチウムイオン二次電池を提供可能なセパレータであることを意味する。
【0058】
実施例および比較例で調製したセパレータの物性を表3及び表4にまとめた。
【0059】
【0060】
【0061】
(考察)
(参考例1)と(実施例2)を比較した結果、TEMPO酸化処理してなるセルロースナノファイバーとアルミナ粒子が混合してなるスラリーでは分散が上手くなされず、スラリーがゲル状になり、セパレータ自体を製造できなかった。一方、TEMPO酸化処理してなるセルロースナノファイバーとシリカ粒子が混合してなるスラリーではゲル状になることなく組成物が均等に分散しており、セパレータを製造できた。
【0062】
(比較例1)と(比較例2、実施例1~3、比較例3~4)を比較した結果、セルロースナノファイバーを塗布し備えているセパレータはガーレ値が高い値を示すものであった。
【0063】
一般的にガーレ値が高い値を示すセパレータは、イオン透過性の低下つまりは放電特性の低下したセパレータであることを意味するものであるが、(比較例1)と(実施例1~3)を比較した結果、TEMPO酸化度が1.1mmol/g以上1.8mmol/g未満のセルロースナノファイバーを採用することで、比較例と実施例のセパレータのうち理論上最も高い放電特性を有すると考えられるセルロースナノファイバーを含有していない(比較例1)のセパレータ(セルロースナノファイバーによる空隙の閉塞が生じていないと考えられるため)よりも8C放電容量が高い、放電特性に優れるセパレータを提供できた。
一方、上述のTEMPO酸化度を満たさないセルロースナノファイバーを採用した(比較例2~4)のセパレータは、(比較例1)のセパレータ以下の放電特性しか有していないセパレータであった。
【0064】
更に、実施例同士を比較した結果、以下の知見を見出すことができた。
(実施例1)と(実施例2~3)を比較した結果、TEMPO酸化度が1.1mmol/gより高く1.8mmol/g未満のセルロースナノファイバーを採用することで、より絶縁性(耐ショート性)に優れるセパレータを提供できた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のセパレータは、電気化学素子のセパレータとして利用することができる。