(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】SiC単結晶成長装置およびSiC単結晶の成長方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20220520BHJP
C30B 23/06 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/06
(21)【出願番号】P 2018085806
(22)【出願日】2018-04-26
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】金田一 麟平
(72)【発明者】
【氏名】奥野 好成
(72)【発明者】
【氏名】庄内 智博
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-285309(JP,A)
【文献】特開2014-101246(JP,A)
【文献】特開2012-254892(JP,A)
【文献】特開2011-219287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料と対向する位置に種結晶を設置できる種結晶設置部と、
前記種結晶設置部の周囲から原料に向かって延在し、結晶成長をガイドするガイド部材と、
前記ガイド部材の外側を、前記ガイド部材の延在方向に沿って移動できる断熱材と、
前記ガイド部材を原料側の端部で支持する支持体と、を備え、
前記支持体は、前記ガイド部材の外側への原料ガスの侵入を抑制する、SiC単結晶成長装置。
【請求項2】
SiC単結晶の成長方法であって、
前記SiC単結晶の成長方法は、原料と対向する位置に種結晶を設置できる種結晶設置部と、前記種結晶設置部の周囲から原料に向かって延在し、結晶成長をガイドするガイド部材と、前記ガイド部材の外側を、前記ガイド部材の延在方向に沿って移動できる断熱材と、を備える、SiC単結晶成長装置を用いて行い、
前記種結晶設置部に設置した種結晶から単結晶を結晶成長する工程を有し、
前記結晶成長の過程において、前記断熱材の原料側の端面と前記単結晶の表面との位置関係を制御し、
前記結晶成長の過程において、前記断熱材の原料側の端面が前記単結晶の表面から20mm以内に位置する
、SiC単結晶の成長方法。
【請求項3】
SiC単結晶の成長方法であって、
前記SiC単結晶の成長方法は、原料と対向する位置に種結晶を設置できる種結晶設置部と、前記種結晶設置部の周囲から原料に向かって延在し、結晶成長をガイドするガイド部材と、前記ガイド部材の外側を、前記ガイド部材の延在方向に沿って移動できる断熱材と、を備えるSiC単結晶成長装置を用いて行い、
前記種結晶設置部に設置した種結晶から単結晶を結晶成長する工程を有し、
前記結晶成長の過程において、前記断熱材の原料側の端面と前記単結晶の表面との位置関係を制御し、
前記結晶成長の過程において、前記断熱材の原料側の端面が、前記単結晶の表面より前記種結晶設置部側にある
、SiC単結晶の成長方法。
【請求項4】
SiC単結晶の成長方法であって、
前記SiC単結晶の成長方法は、原料と対向する位置に種結晶を設置できる種結晶設置部と、前記種結晶設置部の周囲から原料に向かって延在し、結晶成長をガイドするガイド部材と、前記ガイド部材の外側を、前記ガイド部材の延在方向に沿って移動できる断熱材と、を備えるSiC単結晶成長装置を用いて行い、
前記種結晶設置部に設置した種結晶から単結晶を結晶成長する工程を有し、
前記結晶成長の過程において、前記断熱材の原料側の端面と前記単結晶の表面との位置関係を制御し、
前記断熱材の厚みが0.2mm以上製造されるSiC単結晶の成長量の半分以下である
、SiC単結晶の成長方法。
【請求項5】
前記結晶成長の開始時において、前記断熱材の原料側の端面と前記種結晶の表面との位置関係を制御する、請求項
2~4のいずれか一項に記載のSiC単結晶の成長方法。
【請求項6】
前記SiC単結晶成長装置は、前記ガイド部材を原料側の端部で支持する支持体をさらに備え、
前記支持体は、前記ガイド部材の外側への原料ガスの侵入を抑制する、
請求項2~5のいずれか一項に記載のSiC単結晶の成長方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC単結晶成長装置およびSiC単結晶の成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。そのため炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。このため、近年、上記のような半導体デバイスにSiCエピタキシャルウェハが用いられるようになっている。
【0003】
SiCエピタキシャルウェハは、SiC単結晶基板上に化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)によってSiC半導体デバイスの活性領域となるSiCエピタキシャル膜を成長させることによって製造される。
【0004】
SiC単結晶基板は、SiC単結晶を切り出して作製する。このSiC単結晶は、一般に昇華法によって得ることができる。昇華法は、黒鉛製の坩堝内に配置した台座にSiC単結晶からなる種結晶を配置し、坩堝を加熱することで坩堝内の原料粉末から昇華した昇華ガスを種結晶に供給し、種結晶をより大きなSiC単結晶へ成長させる方法である。
【0005】
近年、市場の要求に伴い、SiCエピタキシャル膜を成長させるSiC単結晶基板の大口径化が求められている。そのためSiC単結晶自体の大口径化、長尺化の要望も高まっている。例えば、特許文献1には、SiC単結晶の口径拡大のために、テーパー状のガイド部材を設けた単結晶の成長装置が記載されている。
【0006】
またSiC単結晶は大口径化、長尺化の要望と共に、高品質化の要望も高まっている。SiC単結晶の結晶成長において、その品質に影響を及ぼす要素は種々存在する。
【0007】
SiC単結晶を結晶成長する際の温度条件やSiC単結晶の形状は、SiC単結晶の品質に影響を及ぼす一因である。
特許文献2には、所定の位置に断熱材を設けることで、SiC単結晶の形状を制御する方法が記載されている。また特許文献3には、断熱材を原料気体から分離された閉鎖空間中に配置することで、炉内の温度分布をより自由に制御できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-60297号公報
【文献】特開2014-12640号公報
【文献】特開2016-117624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1~3に記載の方法では、結晶成長時の炉内の温度条件を十分制御できず、SiC単結晶の形状を自由に制御できなかった。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、結晶成長する単結晶の形状を制御できるSiC単結晶成長装置及びSiC単結晶の成長方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、種結晶から結晶成長する単結晶の表面に対して断熱材の位置を制御することで、単結晶の形状を制御できることを見出した。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0012】
(1)第1の態様にかかるSiC単結晶成長装置は、原料と対向する位置に種結晶を設置できる種結晶設置部と、前記種結晶設置部の周囲から原料に向かって延在し、結晶成長をガイドするガイド部材と、前記ガイド部材の外側を、前記ガイド部材の延在方向に沿って移動できる断熱材と、を備える。
【0013】
(2)上記態様にかかるSiC単結晶成長装置は、前記ガイド部材を原料側の端部で支持する支持体をさらに備え、前記支持体は、前記ガイド部材の外側への原料ガスの侵入を抑制する構成でもよい。
【0014】
(3)第2の態様にかかるSiC単結晶の成長方法は、上記態様にかかるSiC単結晶成長装置を用いたSiC単結晶の成長方法であって、前記種結晶設置部に設置した種結晶から単結晶を結晶成長する工程を有し、前記結晶成長の過程において、前記断熱材の原料側の端面と前記単結晶の表面との位置関係を制御する。
【0015】
(4)上記態様にかかるSiC単結晶の成長方法における前記結晶成長の過程において、前記断熱材の原料側の端面が、前記単結晶の表面から20mm以内に位置するように制御してもよい。
【0016】
(5)上記態様にかかるSiC単結晶の成長方法における前記結晶成長の過程において、前記断熱材の原料側の端面が、前記単結晶の表面より前記種結晶設置部側にあるように制御してもよい。
【0017】
(6)上記態様にかかるSiC単結晶の成長方法において、前記断熱材の厚みが0.2mm以上製造されるSiC単結晶の成長量の半分以下であってもよい。
【0018】
(7)上記態様にかかるSiC単結晶の成長方法における前記結晶成長の開始時において、前記断熱材の原料側の端面と前記種結晶の表面との位置関係を制御してもよい。
【発明の効果】
【0019】
上記態様にかかるSiC単結晶成長装置によれば、結晶成長する単結晶に対して断熱材の位置を相対的に制御できる。そのため、上記態様にかかるSiC単結晶の成長方法によれば、結晶成長する単結晶の形状を制御できる
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係るSiC単結晶成長装置の断面模式図である。
【
図2】本実施形態に係るSiC単結晶成長装置の別の例の断面模式図である。
【
図3】本実施形態に係るSiC単結晶成長装置において断熱材を上下動させる駆動手段の断面模式図である。
【
図4】断熱材の下面と単結晶の表面との位置関係と、単結晶の近傍の等温面との関係を示す。
【
図5】結晶成長中の単結晶の近傍の等温面の形状を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本実施形態にかかるSiC単結晶成長装置およびSiC単結晶成長方法について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0022】
(SiC単結晶成長装置)
図1は、本実施形態にかかるSiC単結晶成長装置の断面模式図である。
図1に示すSiC単結晶成長装置100は、坩堝10と、種結晶設置部11と、ガイド部材20と、断熱材30と、を備える。
図1では、理解を容易にするために、原料G、種結晶S、種結晶S上に結晶成長した単結晶Cを同時に図示している。
以下図示において、種結晶設置部11と原料Gとが対向する方向を上下方向とし、上下方向に対して垂直な方向を左右方向とする。
【0023】
坩堝10は、単結晶Cを結晶成長させる成膜空間Kを囲む。坩堝10は、単結晶Cを昇華法により作製するための坩堝であれば、公知の物を用いることができる。例えば、黒鉛、炭化タンタル等を用いることができる。坩堝10は、成長時に高温となる。そのため、高温に耐えることのできる材料によって形成されている必要がある。例えば、黒鉛は昇華温度が3550℃と極めて高く、成長時の高温にも耐えることができる。
【0024】
種結晶設置部11は、坩堝10内の原料Gと対向する位置に設けられる。種結晶設置部11が原料Gに対して対向した位置にあることで、種結晶S及び単結晶Cへ原料ガスを効率的に供給できる。
【0025】
ガイド部材20は、種結晶設置部11の周囲から原料Gに向かって延在する。すなわち、ガイド部材20は、単結晶Cの結晶成長方向に沿って配設されている。そのため、ガイド部材20は、単結晶Cが種結晶Sから結晶成長する際のガイドとして機能する。
【0026】
ガイド部材20の下端は、支持体21によって支持されている。支持体21は、ガイド部材20の下端と坩堝10との間を塞ぎ、ガイド部材20の外側の領域への原料ガスの侵入を抑制する。当該領域に原料ガスが侵入すると、ガイド部材20と断熱材30との間に多結晶が成長し、断熱材30の自由な移動を阻害する。
【0027】
ガイド部材20と支持体21の接続部は、かしめ構造であることが好ましい。かしめ構造とは、ガイド部材20に物理的な力が加わった際に、ガイド部材20と支持体21の接続部が締まるように設計された構造をいう。例えば接続部がネジ切加工されたネジ構造は、かしめ構造の一例である。ガイド部材20は、結晶成長する単結晶Cと物理的に接触する場合があり、その場合にガイド部材20の脱落を防ぐことができる。
【0028】
図1におけるガイド部材20は、上下方向に鉛直に延在している。ガイド部材20の形状は、当該形状に限られない。
図2は、本実施形態にかかるSiC単結晶成長装置101の別の例の断面模式図である。
図2におけるガイド部材25は、種結晶設置部11から原料Gに向かって拡径する。ガイド部材25が拡径することで、単結晶Cの口径を拡大することができる。
【0029】
また
図1におけるガイド部材20は上端が開口しているが、ガイド部材20の上端を坩堝10の内面と接続して、断熱材30が存在する空間を閉空間としてもよい。
【0030】
ガイド部材20の表面は、炭化タンタルでコーティングされていることが好ましい。ガイド部材20は、原料ガスの流れを制御するため、常に原料ガスに晒されている。ガイド部材20を黒鉛むき出しで使用すると、黒鉛が原料ガスと反応し、劣化損傷することがある。劣化損傷すると、ガイド部材20に穴あきが発生することが生じる。また劣化によって剥離したカーボン粉が単結晶C内に取り込まれ、単結晶Cの品質を劣化させる原因にも繋がる。これに対し、炭化タンタルは、高温に耐えることができると共に、原料ガスと不要な反応を生じることもない。したがって、安定的に高品質なSiC単結晶成長を行うことができる。
【0031】
断熱材30は、ガイド部材20の外側を、ガイド部材20の延在方向に沿って移動する。断熱材30が移動することで、断熱材30の原料G側の端面(以下、下面30aと言う)と単結晶Cの表面Caとの位置関係を制御できる。そのため、単結晶Cの表面Ca近傍における温度分布を自由に制御することができ、結晶成長する単結晶Cの表面形状を自由に制御できる。
【0032】
図3は、断熱材30を上下動させる駆動手段の断面模式図である。駆動手段は、断熱材30を上下方向に移動させることができるものであれば、特に問わない。例えば
図3(a)に示すように、断熱材30の上部から坩堝10の外部へ延在する駆動部材31を設け、駆動部材を上下に押引きすることで断熱材30を移動させてもよい。また例えば
図3(b)に示すように、断熱材30の下部から断熱材を支持し、昇降式の駆動部材32を設けてもよい。さらに例えば
図3(c)に示すように、坩堝10の側面の一部に切込を設け、この切込を介して坩堝10の外部へ延在する駆動部材33を設け、駆動部材を上げ下げすることで断熱材30を移動させてもよい。
【0033】
断熱材30は、2000℃以上の高温で熱伝導率が40W/mk以下である材料により構成されていることが好ましい。2000℃以上の高温で熱伝導率が40W/mk以下の材料としては、常温時の熱伝導率が120W/mk以下の黒鉛部材等が挙げられる。また、断熱材30は2000℃以上の高温において5W/mk以下である材料で構成されることがより好ましい。2000℃以上の高温で熱伝導率が5W/mk以下の材料としては黒鉛、炭素を主成分としたフェルト材があげられる。
【0034】
断熱材30の形状は、ガイド部材20と坩堝10の内面に挟まれた領域の形状にあわせて適宜設計する。
図1に示すように、ガイド部材20と坩堝10の内面との距離が一定の場合は、これらの間を埋めるように断熱材30を配置する。また
図2に示すように、ガイド部材25と坩堝10の内面との距離が変化する場合は、これらの間が最も狭くなる位置に合せて断熱材35の形状を設計する。このように設計することで、断熱材35がガイド部材25と坩堝10の内面と間で詰まり、動かなくなることを避けることができる。
【0035】
断熱材30の厚みは、0.2mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましく、20mm以上がより好ましい。断熱材30の厚みが薄すぎると、十分な断熱効果を発揮できない場合がある。また、断熱材30の厚みは、最終的製造される単結晶長さの半分以下であることが好ましい。ここで単結晶長さとは、結晶成長後の単結晶Cの上下方向の長さ(単結晶Cの成長量)を意味する。単結晶の成長量が100mmの場合、断熱材30の厚みは50mm以下が好ましく、単結晶の成長量が50mmの場合内であれば、断熱材30の厚みは25mm以下が好ましい。断熱材30の厚みが厚すぎると、断熱材30の移動が阻害される。また断熱材30の厚みが当該範囲内であれば、断熱材30を介して単結晶C内の上下方向に温度差を形成できる。そのため、単結晶Cの表面Ca以外の部分で原料ガスが再結晶化することを防ぐことができる。
【0036】
上述のように、本実施形態にかかるSiC単結晶成長装置によれば、結晶成長する単結晶に対して断熱材の位置を相対的に制御できる。断熱材の位置を制御することで、結晶成長時の単結晶Cの表面近傍の温度分布を自由に制御できる。単結晶Cは、等温面に沿って成長するため、単結晶Cの表面近傍の温度分布を制御することは、単結晶Cの形状を制御することに繋がる。
【0037】
(SiC単結晶の成長方法)
本実施形態にかかるSiC単結晶の成長方法は、上述のSiC単結晶成長装置を用いたものである。以下、
図1に示すSiC単結晶成長装置100を用いた場合を例に説明する。
【0038】
本実施形態にかかるSiC単結晶の成長方法は、種結晶設置部11に設置した種結晶Sから単結晶Cを結晶成長する工程を有する。単結晶Cは、原料Gから昇華した原料ガスが種結晶Sの表面で再結晶化することで成長する。原料Gは、外部に設けた加熱手段によって坩堝10を加熱することで昇華する。昇華した原料ガスは、ガイド部材20に沿って種結晶Sに向って供給される。
【0039】
本実施形態にかかるSiC単結晶の成長方法では、種結晶Sから単結晶Cを結晶成長する過程において、断熱材30の下面30aと単結晶Cの表面Caとの位置関係を制御する。これらの位置関係を制御することで、単結晶Cの表面Caの形状を自由に制御できる。
【0040】
図4は、断熱材30の下面30aと単結晶Cの表面Caとの位置関係と、単結晶Cの近傍の等温面との関係を示す。
図4(a)は、単結晶Cの表面Ca(結晶成長面)がフラットになっている場合の例であり、
図4(b)は、単結晶Cの表面Ca(結晶成長面)が凹状になっている場合の例であり、
図4(c)は、単結晶Cの表面Ca(結晶成長面)が凸状になっている場合の例である。
【0041】
図4(a)~(c)に示すように、単結晶Cの表面Caの形状は、単結晶Cの表面Caに対する断熱材30の位置によって変化する。
図4(a)に示すように、単結晶Cの表面Caと断熱材30の下面30aの位置が略同一の場合は、単結晶Cの表面Caはフラットになる。これに対し
図4(b)に示すように、断熱材30の下面30aが単結晶Cの表面Caより原料G側にある場合は、単結晶Cの表面Caは凹状になり、
図4(c)に示すように、単結晶Cの表面Caが断熱材30の下面30aより原料G側にある場合は、単結晶Cの表面Caは凸状になる。
【0042】
単結晶Cの表面Caの形状が、単結晶Cの表面Caに対する断熱材30の位置により変化するのは、成膜空間K内の等温面Tの形状が変化するためである。
図5は、結晶成長中の単結晶Cの近傍の等温面Tの形状を模式的に示した図である。
図5(a)は断熱材30を設けていない場合の図であり、
図5(b)は断熱材30を設けた場合の図である。
【0043】
SiCの単結晶Cは、熱伝導率の低さからそれ自体が断熱効果を有する。一方で、ガイド部材20の熱伝導性は単結晶Cよりは高い。そのため、
図5(a)のように断熱材30を有さない場合の等温面Tは、単結晶Cから広がるように形成される。単結晶Cの結晶成長面は、等温面Tに沿って成長する。そのため、断熱材30を有さない場合、単結晶Cの表面Ca(結晶成長面)の形状は凹状に固定される。
【0044】
これに対し、
図5(b)に示すように断熱材30を設けると、等温面Tの形状が変化する。等温面Tの形状は、断熱材30の単結晶Cに対する位置を制御することで自由に設計できる。等温面Tの形状の設計は、シミュレーション等により事前に確認することで、精度よく行うことができる。このように断熱材30の単結晶Cに対する位置を制御することで、単結晶Cの表面Caの形状を自由に設計できる。
【0045】
また断熱材30の単結晶Cに対する位置を制御すると、ガイド部材20への多結晶の付着を抑制する効果、及び、単結晶C内の面内方向の温度差を小さくできるという効果も奏する。
【0046】
多結晶は、単結晶Cの結晶成長面近傍で温度の低い部分に形成される。例えば
図5(a)に示すように、単結晶Cとガイド部材20との温度差が大きい場合、ガイド部材20に多結晶が成長する。ガイド部材20に成長した多結晶が単結晶Cと接触すると、単結晶Cの結晶性を乱し欠陥の原因となる。これに対し、
図5(b)に示すように、単結晶Cの表面Ca近傍に断熱材30があると、単結晶Cとガイド部材20との温度差を小さくでき、多結晶の成長を抑制できる。
【0047】
また単結晶C内の面内方向の温度差が大きいと、単結晶Cの成長過程で応力が生じる。単結晶C内に生じる応力は、結晶面の歪、ズレ等を生み出す。単結晶C内の歪や格子面のズレは、基底面転位(BPD)等のキラー欠陥の発生原因となりうる。
【0048】
ここまで単結晶Cの表面Caの形状を制御できることについて説明した。単結晶Cの表面Caの形状は、フラット又は原料Gに向かって凸形状であることが好ましい。単結晶Cの表面Caの形状が原料Gに向かって凹形状の場合は、品質が劣るためである。単結晶Cの表面Caの形状をフラット又は凸形状とするためには、単結晶Cの表面Caと断熱材30の下面30aの位置を略同一にする、又は、単結晶Cの表面Caを断熱材30の下面30aより原料G側に設ける。
【0049】
ここで「略同一」とは、単結晶Cの表面Caと断熱材30の下面30aの位置が完全に同一高さにあることを意味せず、等温面Tに大きな影響を及ぼさない範囲での位置ずれを許容することを意味する。具体的には、断熱材30の下面30aが、単結晶Cの表面Caから30mm以内に位置すれば、単結晶Cの表面Caと断熱材30の下面30aとが略同一の位置関係にあると言える。一方で、単結晶Cの表面Caの形状をフラットにするためには、単結晶Cの表面Caと断熱材30の下面30aとの位置関係は完全同一に近い方が好ましく、断熱材30の下面30aは単結晶Cの表面Caから20mm以内の位置にあることが好ましく、10mm以内の位置にあることがより好ましい。
【0050】
また単結晶Cの表面Caは断熱材30の下面30aより原料G側にあることが好ましい。すなわち、断熱材30の下面30aは、単結晶Cの表面Caより種結晶設置部11側に存在することが好ましい。成膜空間K内の温度揺らぎ等の外的な要因が発生した場合でも、単結晶Cの表面Caが凹形状になることを抑制できる。
【0051】
また断熱材30の位置は、結晶成長の開始時から制御することが好ましい。すなわち、結晶成長の開始時において、断熱材30の下面30aと種結晶Sの表面との位置関係を制御することが好ましい。
【0052】
結晶成長の開始直後は、種結晶設置部11が種結晶Sの周囲に存在し、種結晶Sと坩堝10との距離も近い。そのため、成膜空間K内の等温面Tは、これらの部材の温度(熱伝導率)の影響も受ける。つまり断熱材30を用いることによる効果は、種結晶Sから単結晶Cが30mm以上成長した領域で最も発揮される。一方で、結晶成長の開始直後において断熱材30の効果が発揮されないというわけではない。
【0053】
例えば、断熱材30を設けずに、結晶成長直後の単結晶Cの結晶成長面の形状が凹状になった場合、その後の成長過程で単結晶Cの結晶成長面の形状を凸状に戻す必要が生じる。結晶成長面の形状が成長過程で、凹状から凸状に変化すると単結晶C内に応力が蓄積し、欠陥が生じやすくなる。従って、断熱材30の位置は、結晶成長の開始時から制御することが好ましい。断熱材30の種結晶Sに対する位置関係は、結晶成長過程における断熱材30と単結晶Cとの位置関係と同様に設計できる。
【0054】
また、本実施形態にかかる成長装置及び製造方法は成長する単結晶の大きさに依らず適用できるが、結晶成長面の形状の制御が難しくなる直径150mm以上、結晶長50mmの大型の単結晶成長に、より好適に適用できる。
【0055】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
実施例1では、
図1に示すSiC単結晶成長装置100を仮定し、成膜空間K内の温度分布をシミュレーションにより求めた。シミュレーションには、STR-Group Ltd社製の結晶成長解析ソフト「Virtual Reactor」を用いた。当該シミュレーションは、炉内の温度分布のシミュレーションに広く用いられているものであり、実際の実験結果と高い相関を有することが確認されている。
【0057】
シミュレーションは以下の条件で行った。
種結晶Sの厚み:0.5mm
単結晶Cの厚み:50mm
単結晶Cの半径:80mm
断熱材30の厚み:20mm
断熱材30の熱伝導率:0.26W/mk
ガイド部材20の熱伝導率:97.5W/mk
単結晶Cの表面Caと断熱材30の下面30aの位置関係:完全一致
【0058】
図6は、実施例1のシミュレーションの結果を示す。
図6に示すように、単結晶Cの表面Ca近傍において等温面がフラットになっていることが確認できる。単結晶Cは、等温面に沿って成長するため、結晶成長面がフラットな単結晶Cを得ることができる。
【0059】
(実施例2)
実施例2では、単結晶Cの表面Caを断熱材30の下面30aより原料G側にした点のみが、実施例1と異なる。単結晶Cの表面Caは、断熱材30の下面30aに対して原料G側に20mmの位置に設定した。
【0060】
図7は、実施例2のシミュレーションの結果を示す。
図7に示すように、単結晶Cの表面Ca近傍において等温面が原料Gに向かって凸形状になっていることが確認できる。単結晶Cは、等温面に沿って成長するため、結晶成長面が凸形状の単結晶Cを得ることができる。
【0061】
(実施例3)
実施例3では、断熱材30の下面30aを単結晶Cの表面Caより原料G側にした点のみが、実施例1と異なる。断熱材30の下面30aは、単結晶Cの表面Caに対して原料G側に20mmの位置に設定した。
【0062】
図8は、実施例3のシミュレーションの結果を示す。
図8に示すように、単結晶Cの表面Ca近傍において等温面が原料Gに向かって凹形状になっていることが確認できる。単結晶Cは、等温面に沿って成長するため、結晶成長面が凹形状の単結晶Cを得ることができる。
【符号の説明】
【0063】
10…坩堝、11…種結晶設置部、20,25…ガイド部材、21…支持体、30,35…断熱材、30a…下面、100,101…SiC単結晶成長装置、S…種結晶、C…単結晶、Ca…表面