(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】調心装置
(51)【国際特許分類】
B25J 17/02 20060101AFI20220520BHJP
【FI】
B25J17/02 H
(21)【出願番号】P 2018194187
(22)【出願日】2018-10-15
【審査請求日】2021-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000145611
【氏名又は名称】株式会社コガネイ
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮下 武志
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/063456(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/066284(WO,A1)
【文献】特開2003-211310(JP,A)
【文献】特開平04-129625(JP,A)
【文献】特開平11-042586(JP,A)
【文献】特開昭55-031557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
B23P 19/02
B23B 31/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に移動自在のロックピストンが組み込まれるシリンダ孔を備え、搬送装置に取り付けられる支持台と、
前記支持台に固定される締結ホルダの前面に可動方向に移動自在に突き当てられ、把持部材が取り付けられる取付プレートと、
前記締結ホルダに前記可動方向に移動自在に係合する摺動部を備え、前記取付プレートに固定される可動リングと、
前記締結ホルダと前記取付プレートとの間に配置され、前記ロックピストンにより駆動されて前記締結ホルダの基準軸に前記取付プレートの基準軸を一致させてロックする第1の保持力を有する第1の保持機構と、
前記締結ホルダと前記可動リングとの間に設けられ、前記可動方向に前記取付プレートが移動自在な状態を許容し、前記取付プレートに加えられる第1方向の力を相殺する第2の保持力を有する第2の保持機構と、を有し、
前記第2の保持機構は、流体圧作動機構によりオン・オフされる、調心装置。
【請求項2】
請求項1記載の調心装置において、
前記第1の保持機構をオンさせ、前記締結ホルダの基準軸に前記取付プレートの基準軸を一致させる前記第1の保持力を加える保持モードと、
前記第1の保持機構をオフ状態として、前記第2の保持機構をオンさせ、前記第1方向の力を相殺する前記第2の保持力を加える仮保持モードとを有し、
前記第2の保持力は、前記第1の保持力よりも小さく、
前記取付プレートは、前記仮保持モードのときは、前記第2の保持力よりも大きい力により、可動方向に移動自在である、調心装置。
【請求項3】
請求項2記載の調心装置において、
前記第1の保持機構と前記第2の保持機構とをオフ状態として、前記取付プレートを可動方向に移動自在とする非保持モードをさらに有する、調心装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の調心装置において、
前記第2の保持機構の前記第2の保持力は、前記第1方向の力に応じて可変設定される、調心装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の調心装置において、
前記第2の保持機構は、前記可動リングの内側に固定される支持リングと、可動方向に移動自在に前記支持リングに装着される少なくとも3つの調整ピストンと、前記支持リングと前記可動リングとの間に形成され、それぞれの前記調整ピストンの加圧側端面に連通する給排通路と、前記給排通路に連通する給排ポートと、を有する、調心装置。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の調心装置において、
前記第2の保持機構は、前記締結ホルダと前記可動リングとの間に可動方向に膨張収縮自在に配置される可撓性チューブと、前記可撓性チューブに連通する給排ポートと、を有する、調心装置。
【請求項7】
請求項5または6記載の調心装置において、
前記給排ポートを前記可動リングまたは前記支持台に設けた、調心装置。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載の調心装置において、
前記給排ポートと空気圧源とを接続する配管に、前記給排ポートに供給される空気の圧力を調整する圧力制御弁を設けた、調心装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の調心装置において、
前記第1の保持機構は、それぞれテーパ面が設けられ
前記ロックピストンの移動方向に移動自在に前記締結ホルダに設けられる複数の第1の保持部と、前記ロックピストンに設けられ前記第1の保持部に突き当てられるフランジを備えたピストンロッドと、前記テーパ面にボールを介して対向するテーパ面がそれぞれ設けられ
前記取付プレートに取り付けられる第2の保持部と、を有する調心装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被搬送物の位置決め誤差を吸収する調心装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワーク等の被搬送物を第1の位置から第2の位置に搬送するために、ロボットアーム等の搬送装置が使用される。搬送装置には、被搬送物を把持するためのエアチャック等の把持部材が装着される。例えば、第1の位置に配置されたワークは、エアチャックにより把持されてロボットアームにより第2の位置まで搬送される。ロボットアームによりエアチャックをそれぞれの位置に移動させたときには、エアチャックとそれぞれの位置との相対的な位置ずれ、つまり位置決め誤差が発生することがある。これらの位置決め誤差を吸収するために、搬送装置であるロボットアームには、例えば、特許文献1に記載されるような調心装置を介して、把持部材であるエアチャックが装着される。この調心装置は、コンプライアンスユニットやコンプライアンスモジュールとも言われる。
【0003】
調心装置は、搬送装置に取り付けられる支持部材つまり支持台と、把持部材が取り付けられる取付プレートとを有している。取付プレートに取り付けられる把持部材は、支持台の中心軸に同軸となってロックされた状態つまり保持モードと、支持台の中心軸に対して径方向に移動自在つまり可動方向に移動自在な非保持モードとのいずれかに設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、第1の位置に垂直に保持されたピンをエアチャックにより把持しようとするとき、エアチャックに対してピンが少しずれる場合がある。このとき、調心装置が非保持モードであれば、エアチャックは支持台の中心軸に対して径方向に移動できるので、位置ずれが吸収される。つまり、エアチャックの中心軸とピンの中心軸とが合うので、エアチャックはピンを把持できる。また、エアチャックにより把持されたピンを第2の位置である、垂直方向に配置された挿入孔に挿入する際に、挿入孔に対してエアチャックが少しずれる場合がある。このとき、調心装置が非保持モードであれば、エアチャックは支持台の中心軸に対して径方向、つまり可動方向に移動できるので、位置ずれが吸収される。つまり、エアチャックの中心軸と挿入孔の中心軸とが合うので、エアチャックはピンを挿入孔に挿入できる。このように、エアチャック等の把持部材が取り付けられる取付プレートが支持台に対して径方向、つまり可動方向に移動することにより、ワークの位置決め誤差を吸収することができる。
【0006】
調心装置は、種々の搬送装置に装着されて、種々のワークや治具等の被搬送物の搬送に使用されるので、位置決め誤差を吸収するための取付プレートの調心移動量は、位置決め誤差が最大となる場合を基準として一定値に設定される。
【0007】
調心装置が非保持モードの時には、取付プレートは可動方向に移動自在である。このため、調心装置の姿勢や、取付プレートの自重や、エアチャックの荷重などの条件により、予期せず第1方向の力(取付プレートの支持台に対する位置ずれのずれ力)が発生する場合がある。
【0008】
例えば、中心軸が水平に保持されたピン等のワークを、エアチャックにより把持して搬送する場合や、水平の挿入孔にピンを挿入する場合がある。このような場合においては、ロボットアームが駆動して、エアチャックが取付けられた取付プレートの中心軸が水平方向に位置すると、調心装置の支持台の中心軸も水平方向に位置する。そうすると、取付プレートの自重や、エアチャックの荷重などにより、第1方向の力が発生し、取付プレートは下方に向けてずれる。そのずれ量は、調心装置の最大の移動量である。このように、取付プレートは、可動方向に移動する。
【0009】
この状態で、ピンをエアチャックにより把持しようとしても、エアチャックの中心軸が支持台の中心軸から大きくずれているために、ピンを把持することができない場合がある。同様に、エアチャックにより把持されたピンを、水平の挿入孔に挿入する場合にも、ピンの中心軸が支持台の中心軸から大きくずれてしまい、支持台と挿入孔との中心軸が一致していたとしても、ピンを挿入できなくなることがある。仮に、把持または挿入できるとしても、ロボットアームに高い位置決め精度が要求される。
【0010】
このため、従来の調心装置は、エアチャック等の把持部材の中心軸などの基準軸を水平状態にして被搬送物を把持したり、挿入孔に挿入したりする場合のように、支持台の基準軸に対して第1方向の力が加わる場合には適用することができず、調心装置の姿勢が限定され、調心装置の用途が限られている。
【0011】
本発明の目的は、取付プレートが、可動方向に移動自在な状態を許容しつつ、取付プレートに加わる第1方向の力を相殺する機構を設けることにより、種々の搬送装置に適用することができる調心装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の調心装置は、軸方向に移動自在のロックピストンが組み込まれるシリンダ孔を備え、搬送装置に取り付けられる支持台と、前記支持台に固定される締結ホルダの前面に可動方向に移動自在に突き当てられ、把持部材が取り付けられる取付プレートと、前記締結ホルダに前記可動方向に移動自在に係合する摺動部を備え、前記取付プレートに固定される可動リングと、前記締結ホルダと前記取付プレートとの間に配置され、前記ロックピストンにより駆動されて前記締結ホルダの基準軸に前記取付プレートの基準軸を一致させてロックする第1の保持力を有する第1の保持機構と、前記締結ホルダと前記可動リングとの間に設けられ、前記可動方向に前記取付プレートが移動自在な状態を許容し、前記取付プレートに加えられる第1方向の力を相殺する第2の保持力を有する第2の保持機構と、を有し、前記第2の保持機構は、流体圧作動機構によりオン・オフされる。
【発明の効果】
【0013】
調心装置の中心軸が水平方向等の姿勢に設定されて、第1方向の力が取付プレートに加わる場合には、第1方向の力を相殺し、調心機能を使用することができる。これにより、取付プレートに第1方向の力が加わる場合においても、調心装置の姿勢に制約されないので、種々の搬送装置に調心装置を適用することができ、調心装置の用途を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施の形態である調心装置の外観を示す斜視図である。
【
図4】
図1~
図3に示した調心装置における後端部側の部材の分解斜視図である。
【
図5】
図1~
図3に示した調心装置における先端部側の部材の分解斜視図である。
【
図6】(A)は調心装置が水平に保持され、先端部側の取付プレートが自重で下方にずれ移動した状態を示す縦断面図であり、(B)は(A)におけるB-B線断面図である。
【
図7】(A)は第2の保持機構を作動させた状態を示す縦断面図であり、(B)は(A)におけるC-C線断面図である。
【
図8】(A)、(B)はそれぞれ第2の保持機構を作動させた状態のもとで取付プレートを移動した状態を示す横断面図である。
【
図9】(A)は第1の保持機構と第2の保持機構とを作動させた状態を示す縦断面図であり、(B)は(A)におけるD-D線断面図である。
【
図10】(A)~(D)はロボットアームによりエアチャックを移動させてワークであるピンを把持する工程を示す図である。
【
図11】(A)、(B)はエアチャックによりワークであるピンを挿入孔に挿入する工程を示す図である。
【
図12】(A)は他の実施の形態である調心装置を示す縦断面図であり、(B)は(A)におけるE-E線断面図である。
【
図13】
図12に示した調心装置の取付プレートが自重でずれ移動した状態を示す縦断面図であり、(B)は(A)におけるF-F線断面図である。
【
図14】(A)はさらに他の実施の形態である調心装置を示す縦断面図であり、(B)は(A)におけるG-G線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。それぞれの実施の形態においては、共通する機能を有する部材には同一の符号が付されている。調心装置10aは、
図1および
図2に示されるように、支持台11と取付プレート12とを有している。支持台11はロボットアーム等の搬送装置に取り付けられ、取付プレート12にはエアチャック等の把持部材が取り付けられる。
【0016】
支持台11は基部ブロック13を有し、
図1および
図4に示されるように、基部ブロック13は四辺形部13aと、これと一体となったリング部13bとを備えている。支持台11を図示しない搬送装置に取り付けるための取付孔14が基部ブロック13に複数設けられている。一方、取付プレート12に図示しない把持部材を取り付けるための取付孔15が取付プレート12に複数設けられている。調心装置10aは、支持台11を後側部とし、取付プレート12を前側部とする。
【0017】
図2に示されるように、底付きのシリンダ孔16が基部ブロック13に設けられ、ロックピストン17がシリンダ孔16に軸方向に往復動自在に組み込まれている。ロックピストン17とシリンダ孔16の間をシールするためのシール部材18が、ロックピストン17に設けられた環状溝19に装着される。円形の支持ディスク21が4本のねじ部材22により基部ブロック13の前面に取り付けられる。ねじ部材22は、基部ブロック13に形成された取付孔23を貫通し、支持ディスク21に形成されたねじ孔24にねじ結合される。
図2に示されるように、支持台11は基部ブロック13と支持ディスク21とにより組み立てられる。
【0018】
図2に示されるように、ピストンロッド25がロックピストン17の前面に取り付けられ、ピストンロッド25は支持ディスク21に形成された貫通孔26を貫通し、支持ディスク21の前方に突出する。底付きのシリンダ孔16とロックピストン17とにより圧力室27が形成され、圧力室27に連通する給排ポート28が基部ブロック13に形成されている。
図1に示されるように、空気圧源Aと給排ポート28とを接続する配管29に方向制御弁30が設けられており、方向制御弁30をオンさせて圧縮空気を給排ポート28から圧力室27に圧縮空気を供給すると、ロックピストン17によりピストンロッド25は突出する方向に駆動される。
【0019】
基部ブロック13と支持ディスク21とを備えた支持台11の前面に、締結ホルダ31が複数のねじ部材32により固定される。締結ホルダ31はリング部31aとこれと一体となった端板部31bとを備えている。リング部31aの外周面は、複数の円弧面31cと複数の平坦面31dからなる。円弧面31cの中心軸は同軸でありその半径は等しい。ねじ部材32は、支持ディスク21に形成された取付孔33を貫通し、リング部31aに形成されたねじ孔34にねじ結合される。このように、締結ホルダ31はねじ部材32により支持ディスク21に固定される。
【0020】
可動リング35が取付プレート12の背面に、複数のねじ部材36により取り付けられる。ねじ部材36は、取付プレート12に形成された取付孔37を貫通し、可動リング35に形成されたねじ孔38にねじ結合される。これにより、可動リング35は取付プレート12に固定される。可動リング35はその内周面から径方向内方に突出するリング状の摺動部41を備えており、摺動部41は可動リング35の背面部に一体である。摺動部41は、締結ホルダ31の背面側に設けられた案内面42に係合しており、可動方向に移動自在である。可動方向は、ピストンロッド25の中心軸O1に対して直角方向、つまり支持台11の径方向である。
【0021】
図5に示されるように、3つの取付孔43が締結ホルダ31の端板部31bに形成され、取付孔43は端板部31bを貫通している。第1の保持部44がそれぞれの取付孔43に装着され、保持部44は中心軸O1と平行な方向、つまりロックピストン17の移動方向に移動自在に締結ホルダ31に設けられている。
図2に示されるように、テーパ面45が保持部44に形成されており、テーパ面45は中心部から前面に向けて漸次内径が大きくなるように、前方に向けて広がっている。
【0022】
図2に示されるように、底付きの取付孔46が取付プレート12の背面に形成されている。取付孔46は取付孔43に対向して3つ形成されており、第2の保持部47がそれぞれの取付孔46に固定されている。テーパ面48が保持部47に形成されており、テーパ面48は中心部から保持部47に向けて漸次内径が大きくなるように、後方に向けて広がっている。鋼製のボール49が保持部44と保持部47との間に配置される。
【0023】
図4に示されるように、フランジ51がピストンロッド25の先端に設けられ、保持部44の背面がフランジ51に突き当てられる。フランジ51はほぼ三角形であり、3つの頂点の部分にそれぞれの保持部44が突き当てられる。給排ポート28から圧力室27に圧縮空気を供給すると、
図2に示されるように、ピストンロッド25は前進駆動されてボール49は保持部44と保持部47との間で締め付けられて、両方のテーパ面45、48の中心部が一致するように位置決めされる。ロックピストン17が前進駆動されたときに、ロックピストン17と支持ディスク21との間の空気は、息付き孔52を介して外部に排出される。
【0024】
ピストンロッド25の中心軸O1を締結ホルダ31の基準軸とし、取付プレート12の中心軸O2を取付プレート12の基準軸とする。
図2に示されるように、両方のテーパ面45、48の中心部が一致した状態においては、両方の基準軸が調心されて一致するとともに、取付プレート12は支持台11にロックされる。このように、締結ホルダ31と取付プレート12との間に配置された保持部44、47は、両方の基準軸を一致させる第1の保持機構53を構成している。第1の保持機構53が作動(オン)している状態を保持モードとする。保持モードでは、第1の保持機構53による第1の保持力で、両方の基準軸を一致させ、ロックさせる。
【0025】
圧縮コイルばね54がピストンロッド25に形成された収容孔55に組み込まれる。圧縮コイルばね54の一端は収容孔55の底面に当接し、他端は端板部31bの背面に当接し、ピストンロッド25およびロックピストン17には、後退する方向のばね力が加えられている。したがって、圧力室27内の圧縮空気を排出すると、ばね力によりピストンロッド25は後退移動し、取付プレート12のロックは解除される。この状態のもとで、支持台11に対して径方向の外力が取付プレート12に加えられると、取付プレート12は可動方向に移動することができる。ピストンロッド25が後退限位置となっても、対向し合う保持部44、47の間の間隔よりも、ボール49の直径は大きい。これにより、ボール49が保持部44、47の間から外れることはない。
【0026】
第1方向の力、つまり、取付プレート12の基準軸を締結ホルダ31の基準軸からずらす方向の力を相殺する第2の保持機構61が、締結ホルダ31と可動リング35の間に配置される。
図3および
図5に示されるように、第2の保持機構61は支持リング62を有し、支持リング62は可動リング35の内側に固定される。支持リング62の円周方向に等間隔を隔てて4つの調整ピストン63が支持リング62に装着されている。それぞれの調整ピストン63は支持リング62を径方向に貫通して設けられたガイド孔64に移動自在に装着されている。ガイド孔64に接触するシール部材65が調整ピストン63に設けられている。
【0027】
図2に示されるように、シール部材66、67が支持リング62の軸方向の両端部に装着され、それぞれのシール部材66、67は支持リング62の外周面に形成された収容溝に組み込まれている。
図3に示されるように、環状の給排通路71が両方のシール部材66、67の間に形成され、給排通路71はそれぞれの調整ピストン63の外方側の端面つまり加圧側端面63aに連通する。
【0028】
給排通路71に連通する給排ポート72が可動リング35に設けられており、給排ポート72は外部の空気圧源に連通される。給排ポート72は、
図1に示されるように、配管29aにより空気圧源Aに接続されており、配管29aには圧力制御弁68と方向制御弁69とが設けられている。方向制御弁69をオンさせて給排ポート72から圧縮空気を給排通路71に圧縮空気を供給すると、それぞれの調整ピストン63の加圧側端面63aに圧力が加えられ、4つの調整ピストン63は支持リング62の径方向内方に突出する。これにより、調整ピストン63の内方側の端面つまり当接側端面63bが締結ホルダ31の平坦面31dに当接する。このとき、締結ホルダ31の平坦面31dと、調整ピストン63の当接側端面63bが略平行であるとともに、調整ピストン63の突出方向に対して平坦面31dは垂直である。このように、第2の保持機構61は、流体圧作動機構である調整ピストン63を有している。
【0029】
第1方向の力が、取付プレート12に加わっていない状態のもとでは、全ての調整ピストン63の当接側端面63bが締結ホルダ31の平坦面31dに当接すると、支持リング62の内周面と締結ホルダ31の外周面との間の隙間は、締結ホルダ31の外周面全体でほぼ均一となる。これにより、可動リング35および取付プレート12の中心軸O2は、ピストンロッド25の中心軸O1に一致して調心された状態となる。第1の保持機構53が作動しておらず、第2の保持機構61が作動(オン)している状態を仮保持モードとする。この仮保持モードでは、第1方向の力が、第2の保持力により相殺される。そして、第2の保持力により、中心軸O1と中心軸O2は調心される。調整ピストン63の数は、4つの限られず、少なくとも3つ設けられていれば、調心できる。各調整ピストン63の各加圧側端面63aの受圧面積の総和は、ロックピストン17の受圧面積よりも小さい。すなわち、第2の保持力は第1の保持力よりも小さい。
【0030】
可動リング35が支持リング62を介して締結ホルダ31のリング部31aの外周面に当接した状態においては、取付プレート12の移動量は最大値となる。
図6は、取付プレート12の移動量が最大値となった状態を示す。
【0031】
図6は調心装置10aの中心軸が水平、つまり中心軸O1、中心軸O2がそれぞれ水平に保持され、取付プレート12が自重により支持台11の径方向にずれ落ちた状態を示している。
図6に示されるように、支持リング62が締結ホルダ31の外周面に当接した状態においては、支持台11の中心軸O1と、取付プレート12の中心軸O2とのずれ量、つまり取付プレート12の移動量Eは最大値となる。
【0032】
図7は、調心装置10aの中心軸が水平、つまり中心軸O1、中心軸O2がそれぞれ水平に保持された状態のもとで、給排ポート72から給排通路71に圧縮空気を供給することにより、4つの調整ピストン63の当接側端面63bが平坦面31dに当接した状態を示す。この状態のもとでは、それぞれの加圧側端面63aに加わる圧縮空気の圧力により、取付プレート12の中心軸O2が支持台11の中心軸O1に一致する方向に取付プレート12に圧力が加えられる。これにより、取付プレート12の自重により支持台11の中心軸O1よりも下方に移動量Eだけずれていた取付プレート12は、自重に抗して中心軸O2が中心軸O1に一致した状態となる。取付プレート12に把持部材が取り付けられていても、給排通路71に加えられる圧縮空気の圧力により、中心軸O2を中心軸O1に一致させることができる。
【0033】
第2の保持機構61が駆動される仮保持モードの状態では、取付プレート12がロックされていないので、第2の保持力よりも大きな力、つまり、把持部材を含めた取付プレート12等の荷重や自重よりも大きな力を加えると、可動方向に移動させることができる。そして、力が取り除かれると、第2の保持力により中心軸O1と中心軸O2とが一致する位置に向けて、取付プレート12が調心される。
【0034】
取付プレート12には調心装置10aの使用形態により、種々の荷重の把持部材が取り付けられる。調心装置10aが水平状態や傾斜した姿勢で使用されることにより、取付プレート12に加わる第1方向の力は把持部材の荷重によって変化する。把持部材の荷重等に応じて、圧縮空気の圧力を圧力制御弁68により変化させることによって、同一の調心装置10aに、荷重が相違する種々の把持部材のいずれでも取り付けることができる。つまり、第2の保持機構61の第2の保持力は、取付プレート12に加えられる第1方向の力を相殺する程度に任意に可変設定される。
【0035】
このように、第2の保持機構61により取付プレート12は支持台11に対して両方の中心軸が一致するように予備的に調心される。予備的な調心力により、調心装置10aが水平等に保持された状態のもとでは、取付プレート12に加わる第1方向の力は相殺される。しかも、この状態のもとでは、第1の保持機構53を作動させなければ、取付プレート12に外力を加えることにより、取付プレート12を可動方向に移動させることができる。
【0036】
図8は第2の保持機構61を作動させた状態、すなわち仮保持モードのもとで取付プレート12を移動した状態を示す横断面図である。
図8(A)は取付プレート12を図において右方向に移動した状態を示し、
図8(B)は取付プレート12を上方に移動した状態を示す。このように、第1の保持機構53を作動させなければ、取付プレート12に外力を加えることにより、取付プレート12を移動させることができる。したがって、この状態においては、位置決め誤差を吸収することができる。
【0037】
図9は第1の保持機構53と第2の保持機構61とを作動させた状態、すなわち保持モードを示す。第1の保持機構53を作動させることにより、取付プレート12の中心軸O2は支持台11の中心軸O1に一致し、取付プレート12は調心されてロックされる。この状態のもとで、給排ポート72から圧縮空気を外部に排出することにより、第2の保持機構61の作動を停止させても、第1の保持機構53により両方の中心軸は調心された状態を保持する。第1の保持機構53が作動している状態では、取付プレート12に外力が加わっても、取付プレート12はロックされているので移動しない。すなわち、調心装置10aは、位置決め誤差を吸収することはできない。
【0038】
なお、支持台11の中心軸O1と、取付プレート12の中心軸O2をそれぞれ基準軸としているが、第1の保持機構53が作動したときに、支持台11に対して取付プレート12が位置決めされる位置を基準として、それぞれの基準軸を設定すれば、基準軸はそれぞれの中心軸に限られない。
【0039】
次に、上述した調心装置10aを用いてワークを把持部材により把持し、搬送装置によりワークを位置決めする場合について、
図10および
図11により説明する。
【0040】
図10および
図11においては、調心装置10aの支持台11には搬送装置としてのロボットアームRが取り付けられ、取付プレート12には把持部材としてのエアチャックHが取り付けられた場合が示されている。ワーク収容部Wに垂直方向を向いて収容されているピンPをエアチャックHにより把持するために、
図10(A)に示されるように、ロボットアームRによりエアチャックHはピンPの位置に搬送される。このときには、調心装置10aの取付プレート12の中心軸O2は、支持台11の中心軸O1と同軸状態に設定されている。ただし、給排ポート28と給排ポート72には圧縮空気が供給されておらず、第1の保持機構53と第2の保持機構61は作動していない。第1の保持機構53と第2の保持機構61がそれぞれ駆動していないオフ状態を、非保持モードとする。この非保持モードのもとで、エアチャックHは、ロボットアームRにより、支持台11の中心軸O1がワーク収容部Wの基準位置Osと同軸となるように搬送される。
【0041】
ピンPの中心軸Opが、
図10(A)に示されるように、基準位置Osに対してずれていたとする。このとき、ピンPの中心軸Opは、支持台11の中心軸O1と取付プレート12の中心軸O2に対して誤差が発生している状態である。この状態で、エアチャックHをピンPに接近させる。このとき、第1の保持機構53は作動していないので、
図10(B)に示されるように、調心装置10aの調心機能により取付プレート12が可動方向に移動する。また第2の保持機構61も作動していないので、取付プレート12を可動方向に移動させる力は、第2の保持力よりも小さな力でよい。こうして、支持台11の中心軸O1とピンPの中心軸Opとの誤差を吸収してエアチャックHによりピンPを把持することができる。
【0042】
ロボットアームRによりエアチャックHを上昇させると、ピンPはエアチャックHにより把持されてワーク収容部Wから取り出される。ピンPを取り出した後に、
図10(C)に示されるように、給排ポート28に圧縮空気を供給すると、第1の保持機構53が駆動される。これにより、取付プレート12の中心軸O2が支持台11の中心軸O1に一致するように取付プレート12とエアチャックHが調心されるとともに、エアチャックHは調心装置10aを介してロボットアームRに締結される。
図10(D)に示されるように、給排ポート72に圧縮空気を供給すると、第2の保持機構61が駆動される。
【0043】
次に、
図11(B)に示されるように、エアチャックHにより把持されたピンPを水平の挿入孔Jに挿入するために、
図11(A)に示されるように、エアチャックHはロボットアームRにより水平方向に姿勢が変更される。このときには、第1の保持機構53と第2の保持機構61は、駆動された状態のままに保持される。
【0044】
次いで、挿入孔JにピンPを対向させた状態として、ロボットアームRによりピンPを挿入孔Jに挿入する。このときには、第2の保持機構61は作動された状態のままに設定することによって、取付プレート12に加わる第1方向の力が相殺され、取付プレート12の中心軸O2は支持台11の中心軸O1に対して同軸状態に調心される。
【0045】
さらに、このときには、給排ポート28には圧縮空気を供給することなく、第1の保持機構53の作動は解除される。このように、第1の保持機構53を解除しても、第2の保持機構61が作動しているので、両方の中心軸O1、O2は同軸状態に保持される。この状態のもとで、ピンPの中心軸と挿入孔Jの中心軸とが一致していない場合でも、調心装置10aが誤差を吸収し、エアチャックによりピンPを挿入孔Jに挿入することができる。
【0046】
このように、第2の保持機構61により第1方向の力が相殺されるので、調心装置10aの基準軸を水平方向に位置させて使用することも可能である。さらに、第2の保持機構61を作動させた状態のもとでも、第1の保持機構53を解除することにより、位置決め誤差を吸収することができる。
【0047】
図12と
図13は他の実施の形態である調心装置10bを示しており、上述した調心装置10aにおける部材と共通性を有する部材には同一の符号が付されている。この調心装置10bにおいては、第2の保持機構61を作動させるための給排ポート72が支持台11の基部ブロック13に形成されている。支持リング62と可動リング35との間に形成される給排通路71を給排ポート72に連通させるための連通通路73が支持台11と可動リング35に形成されている。基部ブロック13と支持ディスク21との間には、シール部材74が配置され、支持ディスク21と可動リング35との間にはシール部材75が配置されている。これにより、連通通路73からの空気漏れが防止されている。
【0048】
図12は、取付プレート12の中心軸O1が支持台11の中心軸O2と同軸となった状態を示し、
図13は取付プレート12が自重でずれた状態を示す。この調心装置10bにおいては、給排ポート72の位置が調心装置10aと相違しているが、他の構造は調心装置10aと同一である。
【0049】
図14はさらに他の実施の形態である調心装置10cを示しており、上述した調心装置10a、10bにおける部材と共通性を有する部材には同一の符号が付されている。
【0050】
この調心装置10cにおいては、第2の保持機構61は、上述した場合と相違し、調心方向に膨張収縮自在の可撓性チューブ76により形成されている。可撓性チューブ76はゴム等の弾性変形自在の部材により成形されている。可撓性チューブ76には接続口77が設けられ、接続口77は給排ポート72に接続されている。可撓性チューブ76に外部から供給される圧縮空気の圧力を調整することにより、取付プレート12が支持台11の径方向に移動する際の荷重を設定することができる。調心装置10cにおける第2の保持機構61は、可撓性チューブ76からなる流体圧作動機構により構成されている。
【0051】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0052】
10a~10c 調心装置
11 支持台
12 取付プレート
13 基部ブロック
16 シリンダ孔
17 ロックピストン
21 支持ディスク
25 ピストンロッド
27 圧力室
28 給排ポート
31 締結ホルダ
35 可動リング
41 摺動部
42 案内面
43 取付孔
44 保持部
45 テーパ面
46 取付孔
47 保持部
48 テーパ面
49 ボール
51 フランジ
53 第1の保持機構
61 第2の保持機構
62 支持リング
63 調整ピストン
63a 加圧側端面
63b 当接側端面
64 ガイド孔
71 給排通路
72 給排ポート
73 連通通路
76 可撓性チューブ
77 接続口