IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 水ing株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-排水処理方法 図1
  • 特許-排水処理方法 図2
  • 特許-排水処理方法 図3
  • 特許-排水処理方法 図4
  • 特許-排水処理方法 図5
  • 特許-排水処理方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】排水処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/30 20060101AFI20220520BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20220520BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20220520BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20220520BHJP
   G16Y 10/10 20200101ALI20220520BHJP
   G16Y 40/30 20200101ALI20220520BHJP
【FI】
B01D21/30 A
B01D21/01 B
B01D21/01 D
C02F1/52 K
G06N20/00
G16Y10/10
G16Y40/30
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018198991
(22)【出願日】2018-10-23
(65)【公開番号】P2020065964
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(72)【発明者】
【氏名】古賀 大輔
(72)【発明者】
【氏名】林 益啓
(72)【発明者】
【氏名】森田 智之
(72)【発明者】
【氏名】吉田 伸二
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-083504(JP,A)
【文献】特開平07-160661(JP,A)
【文献】特開平10-091208(JP,A)
【文献】特開平03-015902(JP,A)
【文献】特開平06-304546(JP,A)
【文献】特開2003-324610(JP,A)
【文献】特開2020-025943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00-21/34
C02F 1/52- 1/56
G16Z 99/00
G06N 20/00
G16Y 10/10
G16Y 40/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機凝集剤を排水に添加して凝集フロックを形成し、その後、有機凝集剤を前記排水に添加して前記凝集フロックを成長させ
前記無機凝集剤を前記排水に添加することによって形成された前記凝集フロックの第1画像データを第1画像取得装置で生成し、
前記有機凝集剤を前記排水に添加することによって成長した前記凝集フロックの第2画像データを第2画像取得装置で生成し
少なくとも前記凝集フロックの前記第1画像データおよび前記第2画像データを、機械学習アルゴリズムにより構築された凝集剤判定モデルに入力し、
凝集剤添加率の過不足を示す判定結果を前記凝集剤判定モデルから出力する、排水処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の排水処理方法であって、
前記無機凝集剤が添加される前の前記排水の画像データを画像取得装置により生成する工程をさらに含み、
前記凝集フロックの前記第1画像データおよび前記第2画像データに加えて、前記排水の画像データを前記凝集剤判定モデルに入力する、排水処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の排水処理方法であって、
前記凝集フロックを沈澱させることによって前記凝集フロックを前記排水から分離して処理水を生成し、
前記処理水の画像データを画像取得装置により生成する工程をさらに含み、
前記凝集フロックの前記第1画像データおよび前記第2画像データに加えて、前記処理水の画像データを前記凝集剤判定モデルに入力する、排水処理方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の排水処理方法であって、
前記凝集フロックを浮上させ、浮上した前記凝集フロックを前記排水から除去することで処理水を生成し、
前記排水から除去された前記凝集フロックからなる汚泥の画像データ、および前記処理水の画像データのうち少なくとも一方を画像取得装置により生成する工程をさらに含み、
前記凝集フロックの前記第1画像データおよび前記第2画像データに加えて、前記汚泥の画像データおよび前記処理水の画像データの一方または両方を前記凝集剤判定モデルに入力する、排水処理方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の排水処理方法であって、
前記凝集フロックを前記排水から分離して処理水を生成し、
前記処理水の画像データを画像取得装置により生成し、
前記処理水の画像データを、機械学習アルゴリズムにより構築された水質判定モデルに入力し、
前記処理水の水質の予測値を前記水質判定モデルから出力する工程をさらに含む、排水処理方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の排水処理方法であって、
前記凝集フロックを前記排水から分離して処理水を生成する工程をさらに含み、
前記凝集フロックの前記第1画像データおよび前記第2画像データに加えて、前記凝集フロックを形成する工程と、前記凝集フロックを前記排水から分離する工程との間の時間差を前記凝集剤判定モデルに入力する、排水処理方法。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の排水処理方法であって、
前記凝集フロックの前記第1画像データおよび前記第2画像データに加えて、排水処理に関連する情報データを前記凝集剤判定モデルに入力する、排水処理方法。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の排水処理方法であって、
前記判定結果は凝集剤添加率の制御に用いられる、排水処理方法。
【請求項9】
請求項に記載の排水処理方法であって、
前記凝集フロックの状態とは無関係の、前記凝集剤添加率の基準値を基準値算定式により決定し、
前記基準値の補正値を、前記凝集剤添加率の過不足を示す前記判定結果に基づいて決定し、
前記基準値と前記補正値とから、前記凝集剤添加率を補正する工程をさらに含む、排水処理方法。
【請求項10】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の排水処理方法であって、
前記凝集フロックの前記第1画像データおよび前記第2画像データと、実際の凝集剤添加率の過不足を表す数値との組み合わせからなるデータセットを用いて、前記凝集剤判定モデルを更新する工程をさらに含む、排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械学習アルゴリズムを用いたモデルと、凝集フロックの画像から、凝集剤の添加率の過不足を判定する排水処理方法および排水処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータ計算能力の飛躍的向上や通信インフラ環境の整備、解析アルゴリズムの進化によって、第3次の人工知能ブームとなっている。通信インフラ環境の整備によって、大量のデータを容易に取得することが可能となり、これまでの人工知能ブームとは異なって、実社会での活用期待が高まっている。
【0003】
機械学習/人工知能は、様々な分野への適用が期待されており、水処理分野でも、その活用方法の模索がなされている。機械学習/人工知能の水処理分野での活用方法の一つに、未知の環境、例えば、時間的に将来における目的変数の予測が挙げられる。未知の環境における目的変数の予測方法の一つに、解析的なアプローチがある。これは物理現象を理論的に解析し、それを方程式化するものである。一方で、機械学習/人工知能による未知の環境における目的変数の予測は、入力と出力間の自然法則に則った理論的な関係の解析を行わないままに、入力と出力間の相関関係を統計的に分析し、関係式の例として回帰式を作成するものである。
【0004】
水処理分野では、起きている現象を理論的に解析することが難しい場合もあり、理論的な背景を解明しないままに、入力から出力を予測することができる機械学習/人工知能は、有効に活用できる局面が多くあることが予想される。
【0005】
人工知能ブーム自体は前記の通り、今回で3度目のブームを迎えている。1980年代後半に起きた第二次人工知能ブームの主役アルゴリズムは、ニューラルネットワークだった。第一次人工知能ブームの際には、入力層と出力層のみで構成されていたパーセプトロンに隠れ層を追加することと、「誤差逆伝播法」と呼ばれる学習方法の確立によって、第二次の人工知能ブームとなった。結局、第二次人工知能ブームは廃れることとなるが、課題によっては満足な予測精度を得られなかったことが要因の一つだったと言われている。今回の第三次の人工知能ブームは、ニューラルネットワークの隠れ層を多層化したディープラーニング(深層学習)が主役であり、学習アルゴリズムの進歩などによって、適用する課題によっては高い精度を発揮できるようになったことがブームの一因である。本明細書では、入力層と、二層以上の隠れ層と、出力層で構成されるニューラルネットワークを用いた機械学習をディープラーニングと称する。また、人工知能は、機械学習よりも広い概念であり、人工知能を作成するための手段の一つとして機械学習がある。
【0006】
さて、水処理分野、特に排水処理に話を戻すと、排水処理においては、原水中のSS(懸濁物質)などの懸濁成分、およびCOD(化学的酸素要求量)、色度などの溶解性成分を効率的に除去するために、アルミニウムや鉄といった多価カチオンを含む凝集剤を用いて、懸濁成分や溶解性成分を集塊させた後に高分子凝集剤を用いてフロックを粗大化させる凝集処理を行うことが多くある。この凝集フロックは、凝集槽の後段に設けられた沈殿槽で沈澱されるか、あるいは、気泡を用いた浮上分離により処理水と分離される。
【0007】
この時、凝集フロックの状態が各処理の処理性能に大きな影響を与える。例えば、沈澱処理においては、凝集フロックの大きさと密度が凝集フロックの沈降速度に影響を与える。また、浮上処理においても、凝集フロックの大きさと密度が浮上速度に影響を与える。その結果、沈澱あるいは浮上槽を経た処理水の水質が大きく影響されることになる。従って、凝集フロックの状態を監視することは、排水処理においては極めて重要である。
【0008】
また、排水処理における凝集処理プロセスでは、前段に生物処理を行っている場合は、生物処理の運転状態により、活性汚泥フロックや生物膜片が凝集処理プロセスの原水に混入する割合が変動したり、工場排水の場合は、工場の操業の都合で、原水の色度などが変動したりするケースがある。原水の変動は凝集処理プロセスに大きな影響を与えるため、その変動を捉えることは処理を安定化させる上で重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平3-175339号公報
【文献】特開2015-192960号公報
【文献】特開2017-72404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この凝集フロックの状態を、処理水の水質のみでリアルタイムに判断することは困難である。すなわち、凝集剤を添加してから凝集フロックが形成され、沈澱または浮上分離を経て最終的に処理水が得られ、処理水の水質を測定するまで、凝集操作が適切であったか、つまり凝集フロック形成が良好であったかを判定することは困難である。
【0011】
時に原水性状は、工場の操業による排水性状の変動や、前段に好気処理がある場合には、好気処理プロセスでの運転状態により変動する。このような状況では、前述のように処理水の水質の確認を行ってから、凝集剤の添加率の見直しを実施しても、凝集槽~処理水を得るまでに通常数十分~数時間を要するため、時間的に間に合わない。
【0012】
そこで、実際に原水の変動に対しては、原水水質に基づき、過去の知見などからベテランの運転員が凝集剤添加率を決定し、凝集槽のフロックの状態を目視で確認しながら、さらに決定した添加率で適性であったか否かを見極めて、必要があれば再度凝集剤添加率の見直しを行っている。あるいは、実際に原水を採取し、ビーカーに等量ずつ分取し、数種類の凝集剤添加率を設定して凝集試験、所謂ジャーテストを行い、現状の原水に対する適切な凝集剤添加率を決めている。
【0013】
しかし、前者の場合は運転員の経験と技量に依るところが大きく、技術継承の課題を抱える水処理業界において、賢明な方法とは言い難い。また、後者の場合は、運転員によるムラは少なくなるが、手間がかかり、かつ、ジャーテストの結果が出るまでに15分程度はかかる。何れも、人手がかかり処理の無人化などの効率向上が難しい。
【0014】
そこで、原水、凝集フロックの状態、処理水をリアルタイムに把握し、凝集処理をより適切に行うための技術が求められている。
特許文献1には、水面下でフロックを撮像し、画像処理を行って、各フロックの粒径を数値化し、粒径分布を求めるフロック監視装置に関する記述がある。また、同装置を用いて運転制御を行うことに関する記述がある。
【0015】
特許文献2には、フロック形成槽内、あるいは、混和槽およびフロック形成槽内でフロック粒径測定装置により、フロック形成過程における複数個所でフロック粒径を測定し、得られたフロック粒径の差または比から、フロック形成異常を検知する水処理システムに関する記述がある。
【0016】
いずれの場合も、凝集フロックの粒径を基に、凝集状態の判断を行なっているが、現実には凝集フロックの良否はフロック粒径のみで判断することは難しい。例えば、凝集剤の最適添加率が120mg/Lと判断される原水に対して、凝集剤添加率を80,100,120,140,160,180mg/Lとし、それぞれのフロック粒径を測定した場合、凝集剤添加率が120mg/Lを超えると凝集剤過多となり、フロックの成長が見られなくなる。そうすると、凝集剤添加率120mg/Lのときのフロック粒径と凝集剤添加率180mg/Lのときのフロック粒径がほぼ同じとなることがある。
【0017】
さらに、時には、凝集剤過多の場合に、荷電中和が起こらず、フロック形成不良が起こり、フロック粒径が小さくなる場合もある。その場合、最適添加率が120mg/Lであるときに、100mg/Lと140mg/Lの凝集フロックの粒径がほぼ同じとなることがある。このような場合に、フロック粒径を基準とした制御を行なうと、凝集剤の添加率の見直しを誤る可能性がある。
【0018】
特許文献3には、SS濃度が高い被処理水における凝集処理において、凝集槽内で凝集状態を散乱光によりモニタリングする装置と方法について記述がある。この文献では、凝集フロックから得られる散乱光の波高値と、波高値が設定された閾値を超えた散乱光の出現数から、凝集剤の過不足を判定するとしているが、実質の判定結果は、凝集フロックの粒径にのみ依ると考えられる。その点においては、特許文献2、特許文献3と同様に、前述の課題が存在する。
【0019】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ディープラーニング等の機械学習アルゴリズムにより、凝集フロックの状態を、粒径を含む多様な要素を含めて学習し、ベテランの運転員と同等、あるいは同等以上の凝集フロック判定が可能なモデルを構築することで、排水処理における凝集剤添加率の過不足の判定を、排水処理中でリアルタイムに行うことが可能な排水処理方法を提供することにある。また、本発明の目的は、そのような排水処理方法を実行できる排水処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
一態様では、凝集剤を排水に添加して凝集フロックを形成し、前記凝集フロックの画像データを画像取得装置により生成し、少なくとも前記凝集フロックの画像データを、機械学習アルゴリズムにより構築された凝集剤判定モデルに入力し、凝集剤添加率の過不足を示す判定結果を前記凝集剤判定モデルから出力する、排水処理方法が提供される。
【0021】
本明細書において、排水処理とは、下水や産業排水を対象とした水処理を指し、中でも水に対してポリ塩化アルミニウム(PACl)、硫酸ばんど、塩化第二鉄、ポリ鉄、ポリシリカ鉄(PSI)、有機凝結剤、ポリマーなどの無機凝集剤および有機凝集剤を添加する凝集操作、および凝集フロックを沈澱あるいは浮上分離し、汚泥として系外に排出する操作を伴う水処理を特に対象としている。
【0022】
機械学習アルゴリズムとしては、ディープラーニング法(深層学習法)が好適である。ディープラーニング法は、隠れ層が多層化されたニューラルネットワークをベースとする学習法である。本明細書では、入力層と、二層以上の隠れ層と、出力層で構成されるニューラルネットワークを用いた機械学習をディープラーニングと称する。ディープラーニング法を用いることで、これまで人の目と経験を基に良否を判定していた凝集フロックの状態を、凝集フロックの画像データに基づいてコンピュータにより判定が可能となる。
【0023】
例えば、凝集剤添加率100mg/Lのときのフロック粒径と凝集剤添加率140mg/Lのときのフロック粒径がほぼ同じとなることがある。しかしながら、実際の100mg/Lと140mg/Lのときのフロックの状態を比較すると、フロックの密度、所謂締まり具合や、色合い、形状などに細かな差がある。機械学習/ディープラーニングによれば、画像データとその画像データに対応する正解データの組み合わせを大量に繰り返しコンピュータに学習させることで、時に人間以上の精度で画像の判別を行うことが可能となる。
【0024】
凝集フロックの画像データは、機械学習アルゴリズムによって構築された凝集剤判定モデルに入力され、凝集剤添加率が適切か否か、すなわち、排水処理が適切に行われているか否かを凝集フロックの状態からリアルタイムに判定する。機械学習アルゴリズムは、凝集フロックの粒径を含む多様な要素を学習する。したがって、機械学習アルゴリズムによって構築された凝集剤判定モデル(すなわち学習済みモデル)は、従来の粒径を基にした凝集判定技術よりも、更に精度の高い凝集剤添加率の過不足判定が可能である。
【0025】
凝集剤判定モデルの構築において、学習データの説明変数を凝集フロックの画像データ、学習データの目的変数を凝集剤添加率の過不足を表す数値、例えば、1:少ない、2:やや少ない、3:最適、4:やや多い、5:多いという5段階評価として与えることができる。ただし、本発明は、5段階評価に限らず、例えば3段階評価、または10段階評価であってもよい。
【0026】
実際の凝集剤添加率が上記5段階評価のうちのどれに該当するかは、凝集処理の後段の沈澱処理での処理水の濁度や色度、ベテラン運転員の凝集フロックの見た目による判定、さらに後段の砂ろ過水や膜ろ過水の水質、砂ろ過や膜ろ過等のろ過抵抗上昇速度、等から判定することが可能である。実際の凝集剤添加率の過不足を表す数値(上記例では1~5)と、対応する凝集フロックの画像データとの組み合わせからなるデータセットは、凝集剤判定モデルの構築および更新に使用される。実際の凝集剤添加率の過不足を表す数値は正解データであり、ディープラーニングなどの機械学習に使用される。
【0027】
図1は、凝集剤添加率の過不足を判定する凝集剤判定モデルの一実施形態を示す模式図である。凝集剤判定モデルは、入力層301と、複数の隠れ層(中間層ともいう)302と、出力層303を有したニューラルネットワークである。図1に示す凝集剤判定モデルは、4つの隠れ層302を有しているが、凝集剤判定モデルの構成は図1に示す実施形態に限られない。凝集剤判定モデルの入力層301には凝集フロックの画像データが入力される。より具体的には、凝集フロックの画像データを構成する各ピクセルの数値が入力層301に入力される。一例では、凝集フロックの画像データがグレースケール画像データである場合は、各ピクセルのグレーレベル(通常は0~255内の数値)が凝集剤判定モデルの入力層301の各ノード(ニューロン)に入力される。凝集フロックの画像データがカラー画像データである場合は、各ピクセルの赤色、緑色、青色を表す数値が凝集剤判定モデルの入力層301の対応するノード(ニューロン)に入力される。
【0028】
図1に示す例では、凝集剤判定モデルの出力層303は、凝集剤添加率の過不足の判定結果を表す数値を出力する。例えば、凝集剤添加率の過不足が、1:少ない、2:やや少ない、3:最適、4:やや多い、5:多いという5段階評価で表される場合では、凝集剤判定モデルの出力層303は、1から5までのいずれかの数値を出力する。ただし、図1に示す凝集剤判定モデルの構成は一例であって、本発明は、図1に示す例に限定されない。
【0029】
上記のように構築された凝集剤判定モデルに、現在の凝集フロックの画像データを入力すると、コンピュータは、ニューラルネットワークを構成する多層パーセプトロンのアルゴリズムに従って演算を実行し、出力層303は、凝集剤添加率の過不足の判定結果を表す数値を出力する。運転員は判定結果に基づいて、排水処理システムの運転の最適化を目指すことが可能となる。
【0030】
一態様では、前記排水処理方法は、前記凝集剤が添加される前の前記排水の画像データを画像取得装置により生成する工程をさらに含み、前記凝集フロックの画像データに加えて、前記排水の画像データを前記凝集剤判定モデルに入力する。
【0031】
排水処理においては、工場の操業内容により排水種別が変動する。例えば、工場が製品Aを生産している場合の排水Aと、製品Bを生産している場合の排水Bでは色度やCOD(化学的酸素要求量)といった水質が異なる。更には、製品A、製品B以外の複数の製品がある場合や、その製品の製造割合が変動する場合もある。このため、排水処理プロセスにおいては、工場の操業状態を勘案して、凝集剤添加率を調整する必要がある。
【0032】
加えて、凝集処理の前段に活性汚泥法や生物膜法などの生物処理がある場合には、生物処理の運転状態により、活性汚泥フロックや生物膜の排水への混入状況や、凝集処理工程へ流入する排水の色度やCODが変動することとなる。このため、生物処理の運転状態に合わせて凝集剤添加率を調整する必要がある。
【0033】
これら、排水性状の変動を自動で捉えることができれば、凝集処理プロセス操作にとって有益な情報となる。排水性状の情報を得るためには、COD計やSS計、色度計などの設置が選択肢となるが、水質やコストの観点で設置が難しい場合もある。そこで、排水状態を画像情報として得ることで、排水の色や活性汚泥フロックの状態などの外観情報が得られる。
【0034】
一実施形態では、凝集剤が添加される前の排水の画像データと、凝集フロックの画像と、実際の凝集剤添加率の過不足を表す数値(すなわち正解データ)を含む学習データを用いて、機械学習アルゴリズムで凝集剤判定モデルを構築する。ディープラーニングなどの機械学習は、凝集剤が添加される前の排水の画像データと、適切な凝集フロックが形成できる凝集剤添加率との関係性を見出すことができる。機械学習アルゴリズムによって構築された凝集剤判定モデルは、排水の性状の変動に対して凝集剤添加率の過不足を正確に判定することができる。
【0035】
一態様では、前記凝集剤を排水に添加して凝集フロックを形成する工程は、無機凝集剤を排水に添加して凝集フロックを形成し、その後、有機凝集剤を前記排水に添加して前記凝集フロックを成長させる工程であり、前記凝集フロックの画像データを生成する工程は、前記無機凝集剤を前記排水に添加することによって形成された前記凝集フロックの第1画像データを第1画像取得装置で生成し、前記有機凝集剤を前記排水に添加することによって成長した前記凝集フロックの第2画像データを第2画像取得装置で生成する工程であり、前記第1画像データおよび前記第2画像データを前記凝集剤判定モデルに入力する。
【0036】
排水処理の凝集プロセスでは、1段目の撹拌槽には無機凝集剤を排水に添加して凝集フロックを生成させ、2段目の撹拌槽において高分子凝集剤などの有機凝集剤を排水に添加して、前記凝集フロックを集合させて粗大化させる場合もある。一実施形態では、1段目の撹拌槽での凝集フロックの第1画像データと、2段目の撹拌槽での凝集フロックの第2画像データと、実際の凝集剤添加率の過不足を表す数値(すなわち正解データ)を含む学習データを用いて、機械学習アルゴリズムにより凝集剤判定モデルを構築する。
【0037】
一態様では、前記排水処理方法は、前記凝集フロックを沈澱させることによって前記凝集フロックを前記排水から分離して処理水を生成し、前記処理水の画像データを画像取得装置により生成する工程をさらに含み、前記凝集フロックの画像データに加えて、前記処理水の画像データを前記凝集剤判定モデルに入力する。
【0038】
凝集沈澱処理によって生成された処理水(すなわち、沈澱槽内の上澄水)の画像データは、得られた処理水の色味、懸濁状況などの処理水の外観情報を含む。凝集フロックの画像データに加えて、処理水の画像データを含む学習データを用いることで、より精度の高い凝集剤判定モデルを機械学習アルゴリズムによって構築することができる。また、このような学習データを用いて構築された凝集剤判定モデルは、より精度の高い判定結果を出力することができる。
【0039】
一態様では、前記排水処理方法は、前記凝集フロックを浮上させ、浮上した前記凝集フロックを前記排水から除去することで処理水を生成し、前記排水から除去された前記凝集フロックからなる汚泥の画像データ、および前記処理水の画像データのうち少なくとも一方を画像取得装置により生成する工程をさらに含み、前記凝集フロックの画像データに加えて、前記汚泥の画像データおよび前記処理水の画像データの一方または両方を前記凝集剤判定モデルに入力する。
【0040】
凝集浮上分離法によって生成された処理水(すなわち、凝集フロックが除去された水)の画像データは、得られた処理水の色味、懸濁状況などの処理水の外観情報を含む。凝集フロックの画像データに加えて、処理水の画像データを含む学習データを用いることで、より精度の高い凝集剤判定モデルを機械学習アルゴリズムによって構築することができる。また、このような学習データを用いて構築された凝集剤判定モデルは、より精度の高い判定結果を出力することができる。
【0041】
一態様では、前記排水処理方法は、前記凝集フロックを前記排水から分離して処理水を生成し、前記処理水の画像データを画像取得装置により生成し、前記処理水の画像データを、機械学習アルゴリズムにより構築された水質判定モデルに入力し、前記処理水の水質の予測値を前記水質判定モデルから出力する工程をさらに含む。
【0042】
水質判定モデルの構築においては、学習データの説明変数に処理水の画像データが使用され、学習データの目的変数には処理水の水質の実際の測定値が使用される。処理水の水質の測定値の例としては、処理水の濁度、および処理水のCOD(化学的酸素要求量)が挙げられる。このような学習データを用いて構築された水質判定モデルは、凝集処理によって得られる処理水の水質の予測値を出力することができる。
【0043】
水質判定モデルから出力された水質の予測値が所定のしきい値を超えたときに、警報を発してもよい。例えば、水質の予測値として処理水の濁度の予測値が1を超える場合、または、水質の予測値として処理水のCODが10mg/Lを超える場合は、警報を発してもよい。このようなしきい値を設定しておくことで、省人化された設備においても、より安全、安心な運転が行なえる。
【0044】
一態様では、前記排水処理方法は、前記凝集フロックを前記排水から分離して処理水を生成する工程をさらに含み、前記凝集フロックの画像データに加えて、前記凝集フロックを形成する工程と、前記凝集フロックを前記排水から分離する工程との時間差を前記凝集剤判定モデルに入力する。
【0045】
排水処理プロセスは、数分から数時間の時間を要する。例えば凝集剤を添加して凝集フロックを形成してから、沈澱処理が完了するまでには数時間の時間遅れが生じる。従って、凝集フロック生成工程と凝集フロック分離工程とには時間差がある。凝集剤添加率を変更してから、沈澱処理の結果に変化が現れるまでのタイムラグは、水理学的シミュレーションモデルでも計算することは可能ではあるが、現実と整合を取る為には高精度なモデルと高い計算機能力を必要とする。このため、水理学的シミュレーションモデルを多くの現場に適用するにはコスト面での課題がある。
【0046】
本発明では、凝集剤判定モデルを構築する際に、凝集フロック生成工程と凝集フロック分離工程との間の時間差を示す説明変数、例えば、ある基準時刻からの経過時間を学習データに加えることで、現実に起きるパラメータの変更操作とその変更によって生じる処理結果の変化との時間的関係性を内包した凝集剤判定モデルを構築することが可能となる。このような時間的関係性を含んだ凝集剤判定モデルは、時間遅れを伴う、排水の水質の変動や、攪拌機の回転速度の変更操作といった運転パラメータの変更に対しても、精度の高い凝集剤添加率の過不足の判定結果を出力することができる。
【0047】
一態様では、前記凝集フロックの画像データに加えて、排水処理に関連する情報データを前記凝集剤判定モデルに入力する。
【0048】
情報データは、排水の濁度、排水の色度、排水のCOD、排水のpH、排水のSS濃度、排水のアンモニア濃度、排水の全窒素濃度、排水の全りん濃度、排水のアルカリ度、排水の温度、排水の処理流量、排水処理装置に具備する撹拌機の回転速度、沈殿槽の汚泥引抜量や頻度などの水質や運転に関する数値で表されるデータを含む。凝集フロックの画像データに加えて、排水処理に関連する情報データを含む学習データを用いることで、より精度の高い凝集剤判定モデルを機械学習アルゴリズムによって構築することができる。また、このような学習データを用いて構築された凝集剤判定モデルは、より精度の高い判定結果を出力することができる。
【0049】
一態様では、前記判定結果は凝集剤添加率の制御に用いられる。
凝集剤添加率の過不足の判定結果から、排水処理システムの運転を自動的に最適化することが可能となる。例えば、判定結果を所定の周期で、例えば1分毎に出力する。ある時刻Tにおいて、判定結果が1:「少ない」であれば、現在の凝集剤添加率を0.5分間で+50%だけ増加させ、2:「やや少ない」であれば、現在の凝集剤添加率を0.5分間で+25%だけ増加させ、3:「最適」であれば、現在の凝集剤添加率を不変とし、4:「やや多い」であれば、現在の凝集剤添加率を0.5分間で-25%だけ低下させ、5:「多い」であれば、現在の凝集剤添加率を0.5分間で-50%だけ低下させる。続いて、時刻T+1において再度判定結果を出力し、凝集剤添加率を同様に調整する。このステップを最適の判定結果が出力されるまで繰り返し行う。
【0050】
上記例では、凝集剤添加率の過不足の判定結果を表す数値は、1から5のいずれかであるが、本発明は上記例に限定されない。一実施形態では、凝集剤添加率の過不足の判定結果を表す数値は、+50%(「少ない」に対応)、+25%(「やや少ない」に対応)、0%(「最適」に対応)、-25%(「やや多い」に対応)、-50%(「多い」に対応)のいずれかであってもよい。
【0051】
ここで、時刻0、つまり排水処理システムにおける既往の制御から上記モデルに基づく制御に切り替えるとき、あるいは排水処理システムの運転を新たに開始するときは、制御を開始する時刻における凝集剤添加率は、その排水処理システムの過去の知見、熟練者の判断、ジャーテストなどの回分試験、などから決定される値とすればよい。ここで決定された凝集剤添加率により、排水処理システムの制御は開始される。その後は、凝集剤が添加されてから、画像取得装置で撮影するポイントまでの水の流達時間を考慮した上で、上記モデルを用いた凝集剤添加率の最適化のための制御を開始すると良い。
【0052】
一態様では、前記排水処理方法は、前記凝集フロックの状態とは無関係の、前記凝集剤添加率の基準値を基準値算定式により決定し、前記基準値の補正値を、前記凝集剤添加率の過不足を示す前記判定結果に基づいて決定し、前記基準値と前記補正値とから、前記凝集剤添加率を補正する工程をさらに含む。
【0053】
排水処理システムに流入する排水の水質が短時間で急激に変化した場合、制御に遅れが生じ、処理水の水質悪化を招く場合がある。そこで、コンピュータは、凝集剤添加率の基準値を凝集フロックの状態とは無関係に決定するための基準値算定式を有しており、この基準値算定式を用いて凝集剤添加率の基準値を決定する。さらに、コンピュータは、前記基準値の補正値を、凝集剤添加率の過不足を示す判定結果から決定する。
【0054】
基準値算定式は、例えば、排水水質計にて常時監視している排水水質(濁度、色度、pH、CODなど)の値から、凝集剤添加率の基準値(D)を決定するための式である。この基準値算定式は、例えば、排水処理システムにおける過去の運用実績のデータセット、つまり排水水質の値と、対応する凝集剤添加率から、統計学的な解析手法により、排水水質の値から、対応する凝集剤添加率を算出する回帰式とすることが可能である。このように得られた凝集剤添加率の基準値に基づいて凝集剤は添加され、凝集フロックが形成される。
【0055】
この凝集フロックを前述の方法で撮像し、凝集フロックの画像データを前述の凝集剤判定モデルに入力することより、凝集剤添加率の過不足を判定する。ここで、Dを凝集剤添加率の基準値(mg/L)、dを凝集剤添加率の過不足の判定結果を表す正または負のパーセンテージ(%)で表される補正値とすると、補正された凝集剤添加率(D,mg/L)は、次の補正式(1)で表される。
D=D×(1+d/100) (1)
【0056】
補正値dは、凝集剤添加率の過不足の判定結果を表す、+50%(「少ない」場合)、+25%(「やや少ない」場合)、0%(「最適」の場合)、-25%(「やや多い」場合)、-50%(「多い」場合)のうちのいずれかである。例えば、D=20mg/L,d=-25%の場合、補正された凝集剤添加率Dは15mg/Lとなる。以上に示す実施形態により、凝集フロックの画像データに基づいた凝集剤添加率の制御を、より迅速に行うことが可能である。
【0057】
一態様では、前記排水処理方法は、前記凝集フロックの画像データと、実際の凝集剤添加率の過不足を表す数値との組み合わせからなるデータセットを用いて、前記凝集剤判定モデルを更新する工程をさらに含む。
【0058】
機械学習アルゴリズムによって構築された上記凝集剤判定モデルは、その凝集剤判定モデルを用いた運転を実施している排水処理システムにおいて、新たに得られるデータを基に継続的に更新される。これによって、最初に凝集剤判定モデルを構築した際から、排水処理システムにおける排水の性状が大きく変化した場合や、あるいは運転方法を変更した場合であっても、実情に合わせて更新されていくモデルは、適切な判定結果を継続的に出力することが可能となる。
【0059】
一態様では、凝集剤を排水に添加して凝集フロックを形成する凝集フロック形成槽と、前記凝集フロックの画像データを生成する画像取得装置と、機械学習アルゴリズムにより構築された凝集剤判定モデルを有するコンピュータを備え、前記コンピュータは、前記凝集剤判定モデルが格納された記憶装置と、少なくとも前記画像データを前記凝集剤判定モデルに入力し、凝集剤添加率の過不足を示す判定結果を前記凝集剤判定モデルから出力するための演算を実行する処理装置を備えている、排水処理システムが提供される。
【0060】
一態様では、入力層と、複数の隠れ層と、出力層とを有するニューラルネットワークからなるモデルの前記入力層に、少なくとも凝集フロックの画像データを入力するステップと、前記ニューラルネットワークを構成する多層パーセプトロンのアルゴリズムに従って演算を実行することによって、前記出力層から、凝集剤添加率の過不足を表す数値を出力するステップをコンピュータに実行させるプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体が提供される。
【発明の効果】
【0061】
本発明に係る排水処理方法によれば、機械学習アルゴリズムにより構築された凝集剤判定モデルと、小型カメラなどの画像取得装置によって得られた凝集フロックの画像データから、凝集剤添加率の過不足を、自動的に高精度でリアルタイムに判定することができ、より最適な排水処理システムの運転が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】凝集剤添加率の過不足を判定する凝集剤判定モデルの一実施形態を示す模式図である。
図2】排水処理システムの一実施形態を示す図である。
図3】排水処理システムの他の実施形態を示す図である。
図4】排水処理システムのさらに他の実施形態を示す図である。
図5】排水処理システムのさらに他の実施形態を示す図である。
図6】演算システムの少なくとも一部を構成するコンピュータの一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
図2は排水処理システムの一実施形態を示す図である。この排水処理システムでは、ろ過法を用いている排水処理システムにおいて学習済みモデルを用いて、凝集剤添加率の過不足(凝集フロックの状態)を判定し、凝集剤添加率の制御を行う。「課題を解決するための手段」に記載したモデルの構築、モデルの構成などを含む全ての説明は、以下に説明する排水処理システムの各実施形態に適用される。
【0064】
排水処理システムは、撹拌槽としての急速撹拌槽1および緩速撹拌槽2と、排水に凝集剤を添加する凝集剤添加ポンプ5を備えている。急速撹拌槽1および緩速撹拌槽2は、凝集剤を排水に添加して凝集フロックを形成する凝集フロック形成槽として機能する。凝集剤添加ポンプ5は、急速撹拌槽1に接続されており、凝集剤を急速撹拌槽1内の排水に添加するように配置されている。排水処理システムは、凝集剤を緩速撹拌槽2内の排水に添加する凝集剤添加ポンプ10をさらに備えている。凝集剤添加ポンプ5によって急速撹拌槽1に添加される凝集剤は、無機凝集剤であり、凝集剤添加ポンプ10によって緩速撹拌槽2に添加される凝集剤は、有機凝集剤である。一実施形態では、緩速撹拌槽2および凝集剤添加ポンプ10は設けられないこともある。
【0065】
排水導入ライン3は、急速撹拌槽1に接続されており、処理される排水は排水導入ライン3を通じて急速撹拌槽1に供給される。緩速撹拌槽2は急速撹拌槽1に連結されている。急速撹拌槽1は、凝集剤が添加された排水を撹拌し、排水中の懸濁物質を凝集させて凝集フロックを形成する撹拌槽である。緩速撹拌槽2は、凝集フロックを含む排水を撹拌し、凝集フロックを粗大化させる撹拌槽である。
【0066】
排水処理システムは、凝集フロックを排水から分離させる分離槽としての沈澱槽7をさらに備えている。沈澱槽7は緩速撹拌槽2に連結されている。緩速撹拌槽2で成長した凝集フロックを含む排水は、沈澱槽7に送られる。凝集フロックは沈澱槽7内で沈澱され、これにより凝集フロックが排水から分離される。沈澱した凝集フロックは、汚泥として沈澱槽7の底部から排出される。沈澱槽7内の上澄水は処理水であり、この処理水は沈澱槽7の樋7aから排出される。
【0067】
排水処理システムは、急速撹拌槽1で形成された凝集フロックの画像データを生成する画像取得装置12と、少なくとも前記画像データを、機械学習アルゴリズムによって構築された凝集剤判定モデルに入力し、凝集剤添加率の過不足を示す判定結果を凝集剤判定モデルから出力する演算システム100をさらに備えている。演算システム100は、凝集剤判定モデルを構築および更新するためのプログラム、および上記凝集剤判定モデルが格納された記憶装置110と、プログラムに従って演算を実行する処理装置120(GPUまたはCPUなど)を備えている。処理装置120は、少なくとも凝集フロックの画像データを凝集剤判定モデルに入力し、凝集剤添加率の過不足を示す判定結果を凝集剤判定モデルから出力するための演算を実行する。
【0068】
演算システム100は、少なくとも1台のコンピュータから構成されている。前記少なくとも1台のコンピュータは、1台のサーバまたは複数台のサーバであってもよい。少なくとも凝集フロックの画像データに基づいて凝集剤添加率の過不足(すなわち、凝集フロックの状態の良否)を判定する上記凝集剤判定モデルは、演算システム100の記憶装置110内に格納されている。さらに、上述した基準値算定式も、演算システム100の記憶装置110内に格納されている。
【0069】
演算システム100は、画像取得装置12に通信線で接続されたエッジサーバであってもよいし、インターネットなどのネットワークによって画像取得装置12に接続されたクラウドサーバであってもよいし、あるいは画像取得装置12に接続されたネットワーク内に設置されたフォグコンピューティングデバイス(ゲートウェイ、フォグサーバ、ルーターなど)であってもよい。演算システム100は、インターネットなどのネットワークにより接続された複数のサーバであってもよい。例えば、演算システム100は、エッジサーバとクラウドサーバとの組み合わせであってもよい。
【0070】
本実施形態においては、凝集剤添加後の急速撹拌槽1内の凝集フロックを画像取得装置12にて撮影する。画像取得装置12は、凝集フロックの画像データを生成し、この画像データを演算システム100に送る。演算システム100は、画像データを画像取得装置12から取得し、記憶装置110に記憶する。画像取得装置12は急速撹拌槽1の上部(水面より上)に設置されている。LEDライトなどの照明器で急速撹拌槽1内の凝集フロックを照らし、画像取得装置12が凝集フロックを明瞭に撮像できるようにする。なお、画像取得装置12の設置位置は凝集フロックが明瞭に撮像できるのであれば、急速撹拌槽1の内部(水面下)、または急速撹拌槽1と緩速撹拌槽2を繋ぐ配管内などでも構わない。
【0071】
画像取得装置12は、静止画像または連続画像を生成することができるイメージセンサ(例えばCCDイメージセンサまたはCMOSイメージセンサ)を備えたデジタルカメラである。デジタルカメラの仕様としては、常に焦点距離を一定とさせるため、マニュアルフォーカス機能を備えたものが望ましく、画素数は500万画素以上、望ましくは1,000万画素以上のものが好適である。
【0072】
本実施形態では、撮像の対象とする凝集フロックは、急速撹拌槽1内の凝集フロックである。これは、制御遅れを短くすることができ、凝集剤添加率の制御の観点から好ましいからである。排水変動が乏しい処理水場などであれば、緩速撹拌槽2内の粗大化した凝集フロックを撮像の対象としてもよい。
【0073】
凝集剤添加ポンプ5は、演算システム100に電気的に接続されている。演算システム100は、凝集剤判定モデルから出力された凝集剤添加率の過不足の判定結果に基づいて、凝集剤添加ポンプ5に指令を発して凝集剤の添加率を調整する。具体的には、現在の凝集剤添加率が低いことを判定結果が示している場合は、演算システム100は凝集剤添加ポンプ5に指令を発して凝集剤添加率を増加させる。現在の凝集剤添加率が高いことを判定結果が示している場合は、演算システム100は凝集剤添加ポンプ5に指令を発して凝集剤添加率を低下させる。このように、演算システム100は、凝集剤判定モデルから出力された判定結果に基づいて凝集剤添加ポンプ5の動作を制御することにより、凝集剤の添加率を最適化することができる。凝集剤判定モデルを用いた凝集剤添加率の最適化の開始時点における、凝集剤の添加率は、排水処理システムの過去の運転に基づく知見やジャーテスト結果から決定される。
【0074】
一実施形態では、排水処理に関連する情報データを取得するための濁度センサ21、pHセンサ22、COD測定器23が排水導入ライン3に接続されてもよい。濁度センサ21、pHセンサ22、COD測定器23は演算システム100に電気的に接続されており、排水の濁度、pH、CODの測定値は演算システム100に入力される。さらに、情報データとして、排水の色度、排水の処理流量、急速撹拌槽1および/または緩速撹拌槽2の攪拌回転速度、沈殿槽7の汚泥引抜量や頻度、凝集剤添加率のうちの少なくとも1つが演算システム100に入力されてもよい。凝集フロックの画像データに加えて、上記情報データを含む学習データを用いることで、より精度の高い凝集剤判定モデルを機械学習アルゴリズムによって構築することができる。
【0075】
一実施形態では、上述した情報データは、凝集フロックの画像データとともに、学習済みの凝集剤判定モデルに入力され、凝集剤判定モデルは、凝集剤添加率の過不足の判定結果を出力する。凝集フロック撮影時に画像取得装置12に流達している排水の水質と、その時点での排水導入ライン3での排水の水質は異なる可能性があるため、取得した凝集フロックの画像データに対応する排水水質は、排水導入ライン3から画像取得装置12までの流達時間を考慮した値を採用することが望ましい。
【0076】
前記凝集剤判定モデルの構築は、ディープラーニング法などを用いて、凝集剤判定モデルを用いた運用前に図2に示す排水処理システムにて各種データを取得し行う。ここで、機械学習アルゴリズムを用いた凝集剤判定モデルにおいては、基本的に経験したことのない入力データに対する予測精度は低くなるため、凝集剤判定モデルの構築におけるデータは、季節変動による排水水質の変化を含んだものが望ましい。従って、好ましくは1年以上に亘って取得されたデータを用いて凝集剤判定モデルを構築することが望ましい。但し、排水水質が安定している場合はデータ取得期間を短縮することも可能である。また、類似した排水を処理する同様の排水処理システムにおいてすでに凝集剤判定モデルが構築されている場合、その凝集剤判定モデルを流用することも可能である。
【0077】
凝集剤判定モデルから出力される凝集フロック情報は、凝集フロックの状態の良否、すなわち凝集剤添加率の過不足に関するものである。本情報を参考に、排水処理システムの運転員が凝集剤添加率の見直しを行ってもよいが、図2の通り、本情報を凝集剤の制御に組み込めば、連続的に凝集剤添加率の最適化を図ることが可能である。このようにして、本排水処理システムは、継続的に安定運転が可能となる。
【0078】
しかしながら、排水処理システムの運転が長期化すると、排水水質が変化したり、運転フローの一部が変更したりして、凝集剤判定モデルは適切な判定結果を出力できなくなることがある。そこで、凝集剤判定モデルの更新を適宜行う必要がある。凝集剤添加率の過不足の判定結果が正しかったか否かは、沈澱槽7の出口部での処理水(上澄水)の濁度や色度に基づいて判断することができる。凝集処理が適切に行われなかった場合、凝集フロックの沈降性が悪くなったり、凝集せずに処理水に残存した懸濁物質が多くなったりして、処理水の濁度は高くなる。
【0079】
そこで、本実施形態では、凝集剤判定モデルの運用中、処理水濁度の値を、濁度センサ30で継続的に取得し、流達時間を考慮した上で、説明変数と目的変数を含む学習データに補足情報として加える。この補足情報と、凝集剤判定モデルの出力結果を比較し、凝集剤判定モデルの精度を定期的に検証する。凝集剤判定モデルの精度が運用当初よりも下がった場合においては、前記学習データの目的変数に、正解データを、補足情報を基に与え直し、ディープラーニング法などにより、凝集剤判定モデルの更新を行う。
【0080】
演算システム100が、排水処理システムのエッジ(現場)においているエッジサーバと、ネットワーク(例えばインターネット)によってエッジサーバに連結されたクラウドサーバとを備えている場合には、凝集剤判定モデルの更新作業はクラウドサーバで行い、その後、更新された凝集剤判定モデルをエッジサーバに送信し、エッジサーバ内に格納することが望ましい。
【0081】
図3は排水処理システムの他の実施形態を示す図である。特に説明しない本実施形態の構成は、図2に示す実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。本実施形態は、上述の実施形態と同様に、ろ過法を用いている処理システムにおいて学習済みのモデルを用いて、凝集剤添加率の過不足を判定し、凝集剤添加率の制御を行う方法の一例である。
【0082】
排水処理システムは、急速撹拌槽1に導入される前の排水の画像データを生成する画像取得装置32と、緩速撹拌槽2で形成された凝集フロックの画像データを生成する画像取得装置33と、沈澱槽7で凝集フロックが除去された処理水(上澄水)の画像データを生成する画像取得装置34をさらに備えている。画像取得装置32は排水導入ライン3を向いて設置され、画像取得装置33は緩速撹拌槽2を向いて設置され、画像取得装置34は沈澱槽7の出口を向いて設置されている。
【0083】
画像取得装置32は、排水導入ライン3を流れる排水、すなわち凝集剤が添加される前の排水の画像データを生成し、この画像データを演算システム100に送る。画像取得装置33は、緩速撹拌槽2内で成長した凝集フロックの画像データを生成し、この画像データを演算システム100に送る。画像取得装置34は、沈澱槽7での沈降処理によって凝集フロックが除去された処理水の画像データを生成し、この画像データを演算システム100に送る。演算システム100は、これらの画像データを記憶装置110に記憶する。
【0084】
演算システム100は、凝集剤が添加される前の排水の画像データと、急速撹拌槽1内の凝集フロックの画像データと、緩速撹拌槽2内の凝集フロックの画像データと、処理水の画像データと、実際の凝集剤添加率の過不足を表す数値(すなわち正解データ)を含む学習データを用いて、機械学習アルゴリズムにより凝集剤判定モデルを構築する。
【0085】
排水処理システムの運転中は、演算システム100は、凝集剤が添加される前の排水の画像データ、急速撹拌槽1内の凝集フロックの画像データ、緩速撹拌槽2内の凝集フロックの画像データ、および処理水の画像データを、構築された凝集剤判定モデルに入力し、凝集剤判定モデルは、凝集剤添加率の過不足を示す判定結果を出力する。一実施形態では、凝集剤が添加される前の排水の画像データ、および処理水の画像データのうちのいずれか一方、または両方を省略してもよい。
【0086】
凝集剤添加ポンプ5,10は、演算システム100に電気的に接続されている。演算システム100は、凝集剤判定モデルから出力された凝集剤添加率の過不足の判定結果に基づいて、凝集剤添加ポンプ5,10に指令を発して凝集剤の添加率を調整する。
【0087】
図4は排水処理システムの他の実施形態を示す図である。特に説明しない本実施形態の構成は、図3に示す実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。本実施形態は、上述の実施形態と同様に、ろ過法を用いている処理システムにおいて学習済みのモデルを用いて、凝集剤添加率の過不足を判定し、凝集剤添加率の制御を行う方法の一例である。
【0088】
本実施形態の排水処理システムは、凝集フロックを排水から分離させる分離槽として、沈澱槽7に代えて、浮上槽40を備えている。浮上槽40は、緩速撹拌槽2に連結されている。浮上槽40には、加圧された空気を含む加圧水を供給する加圧水供給ライン41が接続されている。加圧水は、加圧水供給ライン41を通じて浮上槽40内に注入される。加圧水に含まれる空気は、浮上槽40に保持されている排水中に微小な気泡を形成する。気泡は、凝集フロックに付着し、凝集フロックを浮上させる。浮上した凝集フロックは、スカムスキマ44によって掻き寄せられ、汚泥として樋45に集められ、さらに樋45を通って浮上槽40から排出される。凝集フロックが除去された処理水は、処理水排出ライン47を通じて浮上槽40から排出される。
【0089】
排水処理システムは、排水から除去された凝集フロックからなる汚泥の画像データを生成する画像取得装置48と、浮上槽40から排出された処理水の画像データを生成する画像取得装置49をさらに備えている。画像取得装置48は、凝集フロックを回収する樋45を向いて配置されており、画像取得装置49は処理水排出ライン47を向いて設置されている。
【0090】
画像取得装置48は、排水から除去された凝集フロックからなる汚泥の画像データを生成し、この画像データを演算システム100に送る。画像取得装置49は、処理水排出ライン47を流れる処理水、すなわち浮上槽40での浮上分離処理によって凝集フロックが除去された処理水の画像データを生成し、この画像データを演算システム100に送る。演算システム100は、これらの画像データを記憶装置110に記憶する。
【0091】
演算システム100は、凝集剤が添加される前の排水の画像データと、急速撹拌槽1内の凝集フロックの画像データと、緩速撹拌槽2内の凝集フロックの画像データと、汚泥の画像データと、処理水の画像データと、実際の凝集剤添加率の過不足を表す数値(すなわち正解データ)を含む学習データを用いて、機械学習アルゴリズムにより凝集剤判定モデルを構築する。
【0092】
排水処理システムの運転中は、演算システム100は、凝集剤が添加される前の排水の画像データ、急速撹拌槽1内の凝集フロックの画像データ、緩速撹拌槽2内の凝集フロックの画像データ、汚泥の画像データ、および処理水の画像データを、構築された凝集剤判定モデルに入力し、凝集剤判定モデルは、凝集剤添加率の過不足を示す判定結果を出力する。一実施形態では、汚泥の画像データ、および処理水の画像データのうちのいずれか一方、または両方を省略してもよい。
【0093】
演算システム100は、凝集剤判定モデルから出力された凝集剤添加率の過不足の判定結果に基づいて、凝集剤添加ポンプ5,10に指令を発して凝集剤の添加率を調整する。
【0094】
図5は排水処理システムの他の実施形態を示す図である。特に説明しない本実施形態の構成は、図1に示す実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。本実施形態の排水処理システムは、生物反応槽51と、沈澱槽52を備えている。生物反応槽51は、凝集剤を排水に添加して凝集フロックを形成する凝集フロック形成槽として機能する。沈澱槽52は、凝集フロックを排水から分離させる分離槽として機能する。生物反応槽51と沈澱槽52は連絡流路55で連結されている。
【0095】
生物反応槽51は、標準活性汚泥法、生物膜法、生物学的窒素除去法、生物学的リン除去法などに従った生物処理を排水に対して実施するための処理槽である。処理される排水は、排水導入ライン3を通じて生物反応槽51に流入し、その後、連絡流路55を通じて沈澱槽52に流入する。生物反応槽51は、越流部51Aを有しており、生物処理が実施された排水は越流部51Aを通過した後に沈澱槽52に移送される。沈澱槽52も越流部52Aを有している。凝集フロックが除去された処理水(上澄水)は、越流部52Aを通じて沈澱槽52から排出される。
【0096】
排水処理システムは、生物反応槽51内の排水に凝集剤を添加する凝集剤添加ポンプ57と、生物反応槽51内で形成された凝集フロックの画像データを生成する画像取得装置58と、沈澱槽52内の処理水(上澄水)の画像データを生成する画像取得装置59を備えている。凝集剤添加ポンプ57、画像取得装置58、および画像取得装置59は、演算システム100に電気的に接続されている。
【0097】
凝集剤添加ポンプ57は、凝集剤を生物反応槽51の越流部51Aに添加するように配置されている。凝集剤には無機凝集剤が使用される。画像取得装置58は、連絡流路55を向いて配置されており、連絡流路55を流れる排水中の凝集フロックの画像データを生成する。画像取得装置59は、沈澱槽52の越流部52Aの上方に設置されており、沈澱槽52での沈降処理によって凝集フロックが除去された処理水(上澄水)の画像データを生成する。画像取得装置58および画像取得装置59は、凝集フロックの画像データおよび処理水の画像データを演算システム100に送る。演算システム100は、これらの画像データを記憶装置110に記憶する。
【0098】
演算システム100は、凝集フロックの画像データと、処理水の画像データと、実際の凝集剤添加率の過不足を表す数値(すなわち正解データ)を含む学習データを用いて、機械学習アルゴリズムにより凝集剤判定モデルを構築する。排水処理システムの運転中は、演算システム100は、凝集フロックの画像データおよび処理水の画像データを、構築された凝集剤判定モデルに入力し、凝集剤判定モデルは、凝集剤添加率の過不足を示す判定結果を出力する。
【0099】
演算システム100は、凝集剤判定モデルから出力された凝集剤添加率の過不足の判定結果に基づいて、凝集剤添加ポンプ57に指令を発して凝集剤の添加率を調整する。
【0100】
演算システム100は、上述した凝集剤判定モデルに加えて、処理水の水質の予測値を出力する水質判定モデルをさらに備えている。水質判定モデルは、凝集剤判定モデルと同様に、入力層と、複数の隠れ層(中間層ともいう)と、出力層を有したニューラルネットワークである。水質判定モデルは、演算システム100の記憶装置110内に格納されている。水質判定モデルの構築においては、学習データの説明変数に処理水の画像データが使用され、学習データの目的変数には処理水の水質の実際の測定値が使用される。処理水の水質の測定値の例としては、処理水の濁度、および処理水のCOD(化学的酸素要求量)が挙げられる。このような学習データを用いて構築された水質判定モデルは、凝集処理によって得られる処理水の水質の予測値を出力することができる。
【0101】
排水処理システムの運転中は、演算システム100は、画像取得装置59によって生成された処理水の画像データを、構築された水質判定モデルに入力し、水質判定モデルは、処理水の水質の予測値を出力する。演算システム100は、水質判定モデルから出力された水質の予測値が所定のしきい値を超えたときに、警報を発してもよい。例えば、水質の予測値として処理水の濁度の予測値が1を超える場合、または、水質の予測値として処理水のCODが10mg/Lを超える場合は、演算システム100は警報を発してもよい。このようなしきい値を設定しておくことで、省人化された設備においても、より安全、安心な運転が行なえる。
【0102】
図6は、演算システム100の少なくとも一部を構成するコンピュータの一実施形態を示す模式図である。コンピュータは、プログラムやデータなどが格納される記憶装置110と、記憶装置110に格納されているプログラムに従って演算を行うCPU(中央処理装置)またはGPU(グラフィックプロセッシングユニット)などの処理装置120と、データ、プログラム、および各種情報を記憶装置110に入力するための入力装置130と、処理結果や処理されたデータを出力するための出力装置140と、インターネットなどのネットワークに接続するための通信装置150を備えている。
【0103】
記憶装置110は、処理装置120がアクセス可能な主記憶装置111と、データおよびプログラムを格納する補助記憶装置112を備えている。主記憶装置111は、例えばランダムアクセスメモリ(RAM)であり、補助記憶装置112は、ハードディスクドライブ(HDD)またはソリッドステートドライブ(SSD)などのストレージ装置である。
【0104】
入力装置130は、キーボード、マウスを備えており、さらに、記録媒体からデータを読み込むための記録媒体読み込み装置132と、記録媒体が接続される記録媒体ポート134を備えている。記録媒体は、非一時的な有形物であるコンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、光ディスク(例えば、CD-ROM、DVD-ROM)や、半導体メモリー(例えば、USBフラッシュドライブ、メモリーカード)である。記録媒体読み込み装置132の例としては、CD-ROMドライブ、DVD-ROMドライブなどの光学ドライブや、カードリーダーが挙げられる。記録媒体ポート134の例としては、USBポートが挙げられる。記録媒体に記憶されているプログラムおよび/またはデータは、入力装置130を介してコンピュータに導入され、記憶装置110の補助記憶装置112に格納される。出力装置140は、ディスプレイ装置141、印刷装置142を備えている。
【0105】
機械学習アルゴリズムにより構築された学習済みモデルは記憶装置110に格納されている。この学習済みモデルは、図1に示すように、入力層301と、複数の隠れ層(中間層ともいう)302と、出力層303を有したニューラルネットワークである。コンピュータは、記憶装置110に電気的に格納されたプログラムに従って動作する。一実施形態では、コンピュータは、凝集フロックの画像データを画像取得装置12から取得するステップと、少なくとも画像データを、機械学習アルゴリズムにより構築された凝集剤判定モデルに入力するステップと、ニューラルネットワークを構成する多層パーセプトロンのアルゴリズムに従って演算を実行することによって、出力層303から、凝集剤の過不足の判断結果を表す数値を出力するステップを実行する。さらに、コンピュータは、上記凝集剤判定モデルを構築するステップ、および上記凝集剤判定モデルを更新するステップを実行する。これらステップをコンピュータに実行させるためのプログラムは、非一時的な有形物であるコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録され、記録媒体を介してコンピュータに提供される。または、プログラムおよび上記凝集剤判定モデルは、インターネットなどの通信ネットワークを介して通信装置150からコンピュータに入力されてもよい。
【0106】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0107】
1 急速撹拌槽
2 緩速撹拌槽
3 排水導入ライン
5 凝集剤添加ポンプ
7 沈澱槽
10 凝集剤添加ポンプ
12 画像取得装置
21 濁度センサ
22 pHセンサ
23 COD測定器
30 濁度センサ
32 画像取得装置
33 画像取得装置
34 画像取得装置
40 浮上槽
41 加圧水供給ライン
44 スカムスキマ
45 樋
47 処理水排出ライン
48 画像取得装置
49 画像取得装置
51 生物反応槽
51A 越流部
52 沈澱槽
52A 越流部
55 連絡流路
57 凝集剤添加ポンプ
58 画像取得装置
59 画像取得装置
100 演算システム
110 記憶装置
111 主記憶装置
112 補助記憶装置
120 処理装置
130 入力装置
132 記録媒体読み込み装置
134 記録媒体ポート
140 出力装置
141 ディスプレイ装置
142 印刷装置
150 通信装置
301 入力層
302 隠れ層
303 出力層
図1
図2
図3
図4
図5
図6