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  • 特許-原子炉出力制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】原子炉出力制御装置
(51)【国際特許分類】
   G21C 9/033 20060101AFI20220520BHJP
   G21C 7/22 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
G21C9/033 GDB
G21C7/22
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019051087
(22)【出願日】2019-03-19
(65)【公開番号】P2020153752
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 康平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝一
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-148990(JP,A)
【文献】特開昭57-033390(JP,A)
【文献】特開平05-119189(JP,A)
【文献】特開2005-201834(JP,A)
【文献】特開2007-101332(JP,A)
【文献】特開2007-232541(JP,A)
【文献】特開2016-200487(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0170599(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 9/033
G21C 7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸騰水型原子炉における原子炉出力制御装置であって、
前記沸騰水型原子炉は、原子炉圧力容器と、ホウ酸水貯蔵タンクと、前記原子炉圧力容器に前記ホウ酸水貯蔵タンク内のホウ酸水を注入するホウ酸水注入ノズルと、前記ホウ酸水注入ノズルを介して前記ホウ酸水を前記原子炉圧力容器に送るホウ酸水注入ポンプと、前記原子炉圧力容器内の冷却材を循環させる再循環ポンプと、を備え、
前記原子炉出力制御装置は、
前記再循環ポンプが停止していること、前記原子炉内の冷却材水位が予め設定した値を下回ること、前記ホウ酸水が前記原子炉圧力容器内に注入されたことを条件として、前記再循環ポンプを起動させ
前記沸騰水型原子炉の出力が予め設定した値を下回った場合、あるいは前記ホウ酸水貯蔵タンクに貯蔵された前記ホウ酸水が全て前記原子炉圧力容器内へ注入されるのに要する時間が経過した後に、前記再循環ポンプを停止させ
ことを特徴とする原子炉出力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の原子炉出力制御装置において、
前記原子炉出力制御装置は、前記ホウ酸水注入ポンプが起動した場合に前記ホウ酸水が前記原子炉圧力容器内に注入されたと判定する
ことを特徴とする原子炉出力制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の原子炉出力制御装置において、
前記原子炉出力制御装置は、前記ホウ酸水注入ノズルにおける前記ホウ酸水の流量が予め設定した値を上回った場合に前記ホウ酸水が前記原子炉圧力容器内に注入されたと判定する
ことを特徴とする原子炉出力制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の原子炉出力制御装置において、
前記原子炉出力制御装置は、前記ホウ酸水貯蔵タンクに貯蔵された前記ホウ酸水の水位が予め設定した値を下回った場合に前記ホウ酸水が前記原子炉圧力容器内に注入されたと判定する
ことを特徴とする原子炉出力制御装置。
【請求項5】
請求項2に記載の原子炉出力制御装置において、
前記原子炉出力制御装置は、前記ホウ酸水注入ポンプが起動してから所定時間経過した後に前記ホウ酸水が前記原子炉圧力容器内に注入されたと判定する
ことを特徴とする原子炉出力制御装置。
【請求項6】
請求項2に記載の原子炉出力制御装置において、
前記原子炉出力制御装置は、前記ホウ酸水注入ポンプが試験中である場合には前記再循環ポンプを起動させない
ことを特徴とする原子炉出力制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の原子炉出力制御装置において、
前記原子炉出力制御装置は、前記再循環ポンプのトリップ信号が入力された場合は、前記再循環ポンプが停止したと判定する
ことを特徴とする原子炉出力制御装置。
【請求項8】
請求項1に記載の原子炉出力制御装置において、
前記原子炉出力制御装置は、前記原子炉圧力容器内の前記冷却材の流量が予め設定した値を下回る場合に、前記再循環ポンプが停止したと判定する
ことを特徴とする原子炉出力制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載の原子炉出力制御装置において、
前記ホウ酸水注入ノズルは、前記原子炉圧力容器の下方側から前記ホウ酸水を注入するように前記原子炉圧力容器に対して取り付けられている
ことを特徴とする原子炉出力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所における原子炉の出力を制御する装置に関し、特に、沸騰水型原子炉におけるホウ酸水注入系起動時の炉心流量上昇制御を行うための原子炉出力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉圧力容器に注水されるホウ酸水による負の反応度の印加を効果的に行い得る沸騰水型原子炉の一例として、特許文献1では、炉心上方であってシュラウドの内側に配される炉心スプレイ・スパージャ、炉心スプレイ・スパージャに接続され冷却材を供給する低圧炉心スプレイ系および低圧注水系並びに高圧炉心スプレイ系、シュラウドの外側に冷却材を供給する原子炉隔離時冷却系、およびホウ酸水を原子炉圧力容器内に注入するホウ酸水注入ノズルを備え、制御装置は、ホウ酸水を注入する場合、シュラウドの外側の冷却材流量がシュラウドの内側の冷却材流量以上となるよう制御する、沸騰水型原子炉が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-200487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原子力発電所が備える原子炉は、大きく分けて沸騰水型と加圧水型との2種類に分けられる。
【0005】
このうち、沸騰水型原子炉では、極めて稀ではあるが、何らかの要因によりスクラムしなければならない事象が発生したにも係らず制御棒が全挿入されない原子炉停止機能喪失事象が発生した場合を想定して、ホウ酸水注入系(SLC:Standby Liquid Control System)による代替反応度制御機能を備えている。
【0006】
このSLCによる機能により五ホウ酸ナトリウム水溶液(以下、ホウ酸水と称す)が原子炉内へ注入される。このホウ酸水が炉心部へ到達すると、ボロンによる中性子吸収により中性子が減少し、原子炉に装荷されている燃料の核分裂反応が抑制(負の反応度が印加)される。これにより、原子炉停止機能喪失事象が発生した場合において原子炉を未臨界状態に移行させることができる。
【0007】
このような原子炉圧力容器内へ注入されるホウ酸水に含まれるボロンの混合を効果的に行い得る沸騰水型原子炉として、特許文献1に記載の技術が提案されている。
【0008】
上述のように、沸騰水型原子炉において原子炉停止機能喪失事象が発生した場合、ホウ酸水注入系により炉心内へホウ酸水を注入することが知られている。
【0009】
ここで、特にホウ酸水を炉心下部から注入する方式の沸騰水型原子炉においては、ホウ酸水の方が冷却材よりも密度が大きいこと、およびホウ酸水の方が冷却材よりも温度が低いことから、ホウ酸水は炉心に到達せずに原子炉圧力容器下部へ降下しやすい、との課題がある。
【0010】
このとき、再循環ポンプが停止し、かつ原子炉水位が低下するような自然循環状態となる等、炉心流量が非常に低くなる場合には、ホウ酸水の炉心への流入をより増加させるようにすることが望ましい。
【0011】
本発明は、原子炉圧力容器に注入するホウ酸水に含まれるボロンを炉心へ流入させ、より混合を促進し得る原子炉出力制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、沸騰水型原子炉における原子炉出力制御装置であって、前記沸騰水型原子炉は、原子炉圧力容器と、ホウ酸水貯蔵タンクと、前記原子炉圧力容器に前記ホウ酸水貯蔵タンク内のホウ酸水を注入するホウ酸水注入ノズルと、前記ホウ酸水注入ノズルを介して前記ホウ酸水を前記原子炉圧力容器に送るホウ酸水注入ポンプと、前記原子炉圧力容器内の冷却材を循環させる再循環ポンプと、を備え、前記原子炉出力制御装置は、前記再循環ポンプが停止していること、前記原子炉内の冷却材水位が予め設定した値を下回ること、前記ホウ酸水が前記原子炉圧力容器内に注入されたことを条件として、前記再循環ポンプを起動させ、前記沸騰水型原子炉の出力が予め設定した値を下回った場合、あるいは前記ホウ酸水貯蔵タンクに貯蔵された前記ホウ酸水が全て前記原子炉圧力容器内へ注入されるのに要する時間が経過した後に、前記再循環ポンプを停止させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、原子炉圧力容器に注入するホウ酸水に含まれるボロンを炉心へ流入させ、より混合を促進し得る原子炉出力制御装置を提供することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施例に係る原子炉出力制御装置の全体概略構成図および回路図である。
図2】実施例1の原子炉出力制御装置の動作および沸騰水型原子炉内の状態を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例について、冷却材再循環系配管と再循環ポンプにより冷却材を循環させる沸騰水型原子炉(BWR)において、原子炉停止機能喪失事象が発生した場合に、再循環ポンプの停止等により低炉心流量状態へ移行した状態を例に説明する。
【0016】
最初に、本発明の一実施例に係る沸騰水型原子炉の出力制御装置に関わる各装置やその回路配置関係の概略構成について図1を用いて説明する。図1に、本発明の一実施例に係る実施例の沸騰水型原子炉の全体概略構成図および回路図を示す。
【0017】
図1に示すように、沸騰水型原子炉は、原子炉格納容器30内に原子炉圧力容器1が収容されており、その原子炉圧力容器1内に、炉心8、炉心8を取り囲むシュラウド7、シュラウド7の周囲に配置されたジェットポンプ6、シュラウド7の上蓋の上に配される気水分離器(図示省略)、および気水分離器の上方に配される蒸気乾燥器(図示省略)が収容されている。
【0018】
炉心8には、複数の燃料集合体(図示省略)が装荷されており、各燃料集合体は、下端部が炉心支持板によって支持され、上端部が上部格子板によって保持されている。ここで、燃料集合体は、核燃料物質として例えばウラン燃料のペレットを、ステンレス製の被覆管内にその軸方向に複数充填された燃料棒を有する。複数の燃料棒を横断面四角形状のチャンネルボックス内に正方格子状に配列して燃料集合体が形成されている。
【0019】
図1に示すように、原子炉格納容器30内の下部には、下方より原子炉圧力容器1内の炉心8に装荷される複数の燃料集合体間に挿入される制御棒(図示省略)が配されている。図1では、図示の都合上、これら複数の制御棒を炉心8内に、又は炉心8より挿抜するための制御棒駆動機構および制御棒案内管を省略している。
【0020】
制御棒は、横断面略十字状の形状をなし、炉心8に装荷される4体の燃料集合体、すなわち相互に隣接する4体の燃料集合体の所定の間隔(水ギャップ)を介して挿入される。横断面略十字状の制御棒に、チャンネルボックスの2つの側面が対向するよう配される4体の燃料集合体と、1体の制御棒で単位セルを構成する。
【0021】
上記単位セルのうち、コントロールセルとして機能する単位セルに配される制御棒は、沸騰水型原子炉の出力調整のため、炉心8に挿抜される。また、コントロールセル以外に配される複数の制御棒は、稀ではあるが、何らかの要因により沸騰水型原子炉を緊急停止する際に炉心8へ挿入される(スクラム)。
【0022】
気水分離器は炉心8の上端部に位置する上部格子板(図示省略)よりも上方に配されている。
【0023】
また、原子炉圧力容器1には、炉心8の核分裂反応により発生する気液二相の蒸気を、気水分離器および蒸気乾燥器を介してタービン建屋に設置されるタービン(図示省略)へと乾燥後の蒸気を導入する主蒸気配管(図示省略)が設けられている。また、タービンの駆動に供された蒸気は、復水器(図示省略)を介して液相である冷却材に凝縮された後、再び原子炉圧力容器1内に給水系配管(図示省略)を介して導入される。
【0024】
ジェットポンプ6は、原子炉圧力容器1内で炉心8の冷却に必要な冷却材の再循環流を得るためのポンプである。
【0025】
また、原子炉格納容器30は、内部にドライウェルおよび、水等の冷却材が充填されたサプレッションプール31が内部に形成された圧力抑制室(図示省略)を有している。原子炉格納容器30内のドライウェルと圧力抑制室内のサプレッションプール31とは、ベント通路を介して連通されている。
【0026】
更に、原子炉格納容器30内には、給水系配管を介して原子炉圧力容器1内のシュラウド7の外側に導入される水等の冷却材を、一旦、原子炉圧力容器1外へ通流させ、再度原子炉圧力容器1内のシュラウド7の内側へ循環させるための再循環ポンプ3および冷却材再循環系配管2が設けられている。
【0027】
再循環ポンプ3は、極めて稀ではあるが、万が一、制御棒挿入失敗(スクラム失敗事象:ATWS事象)が生じた場合に、自動的にトリップ(再循環ポンプ3が緊急停止される)される。
【0028】
冷却材再循環系配管2は、再循環ポンプ3と原子炉圧力容器1とを接続する配管であり、再循環ポンプ3の上流側に入口弁4が、下流側に出口弁5が設けられている。
【0029】
更に、原子炉圧力容器1には、冷却材の水位を計測する冷却材水位計1Aや、冷却材の流量を計測する冷却材流量計1Bが設けられている。
【0030】
この図1では、冷却材再循環系配管2は実線で、信号線は点線矢印で、制御信号は破線で示している。
【0031】
更に、極めて稀ではあるが、万が一、制御棒挿入失敗が生じた場合に原子炉圧力容器1内にホウ酸水を注入するために、ホウ酸水注入系(SLC)として、原子炉圧力容器1の底部近傍に配されるホウ酸水注入ノズル11、ホウ酸水を貯留するホウ酸水貯蔵タンク9、およびホウ酸水貯蔵タンク9よりホウ酸水注入ノズル11を介して原子炉圧力容器1内にホウ酸水を注入するためのホウ酸水注入ポンプ10を備えている。
【0032】
このうちホウ酸水注入ノズル11は、原子炉圧力容器1の下方側からホウ酸水を注入するように原子炉圧力容器1に対して取り付けられている。
【0033】
ホウ酸水貯蔵タンク9には内部に貯蔵されているホウ酸水の水位を計測するためのホウ酸水水位計9Aが、ホウ酸水注入ノズル11には、その内側を流れるホウ酸水の流量を計測するための流量計11Aがそれぞれ設けられている。
【0034】
次に、本実施例の沸騰水型原子炉における原子炉出力制御装置について説明する。
【0035】
本実施例における原子炉出力制御装置は、図1に示すような、再循環ポンプ3の起動・停止および/又はポンプの吐出圧を制御する制御装置18により構成される。
【0036】
制御装置18は、例えば、CPU等のプロセッサ、各種プログラムを格納するROM、演算途中のデータ或いは演算結果を格納するRAM、又は、HDD等の記憶装置(各々図示省略)から構成される。上記各種プログラムには、再循環ポンプ3の起動・停止の指令を送信するためのプログラム、或いは、記憶装置に予め格納されている再循環ポンプ3の運転パターンを読み出し、そのポンプの吐出圧を求めるプログラム等が含まれる。
【0037】
制御装置18は、原子炉格納容器30が設置される原子炉建屋の所望の位置或いは、原子炉建屋外の所望の位置に設置される。原子炉建屋外に設置される場合には、制御装置18に無線通信機能を設けると共に、再循環ポンプ3に少なくとも無線受信機能を備える構成とすれば良い。
【0038】
本実施例の制御装置18では、ANDゲート17Aにおいて、再循環ポンプ3が停止していること、原子炉内の冷却材水位が予め設定した値を下回ること、ホウ酸水が原子炉圧力容器1内に注入されたことを条件として、再循環ポンプ3を起動させる再循環ポンプ起動信号17を再循環ポンプ3に対して出力する。
【0039】
以下、各条件を判定するための構成について図1を用いて説明する。
【0040】
制御装置18では、再循環ポンプ3から出力された再循環ポンプトリップ信号15の入力を受けるANDゲート17Aが設けられており、この再循環ポンプトリップ信号15が入力された場合は、再循環ポンプ3が停止したと判定する。
【0041】
若しくは、制御装置18では、冷却材流量計1Bから冷却材の流量の計測結果の入力を受け、原子炉圧力容器1内の冷却材の流量が予め設定した値を下回る場合に、再循環ポンプ3が停止したと判定し、再循環ポンプトリップ信号15をANDゲート17Aに対して出力することが可能である。
【0042】
また、制御装置18は、原子炉内の冷却材水位が予め設定した値が下回ったか否かを判定する比較器16Aを備えている。比較器16Aでは、冷却材水位計1Aで計測された冷却材の水位を原子炉水位設定値と比較し、冷却材水位が予め設定した値が下回ったと判定されたときは、原子炉水位低下信号16をANDゲート17Aに対して出力する。
【0043】
制御装置18は、更に、ホウ酸水が原子炉圧力容器1内に注入されたことを判定するための構成として、ホウ酸水注入ポンプ起動信号出力器19、運転モード選択スイッチ12、ANDゲート20、遅延タイマー13、を有している。
【0044】
ホウ酸水注入ポンプ起動信号出力器19は、ホウ酸水注入ポンプ10が起動したか否かを判定し、起動していると判定されたときは起動信号をANDゲート20に対して出力する。
【0045】
または、ホウ酸水注入ポンプ起動信号出力器19は、流量計11Aによって計測されたホウ酸水注入ノズル11を流れるホウ酸水の流量が予め設定した値を上回った場合にホウ酸水が原子炉圧力容器1内に注入されたとして、起動信号をANDゲート20に対して出力するものとしてもよい。
【0046】
若しくは、ホウ酸水注入ポンプ起動信号出力器19は、ホウ酸水水位計9Aによって計測されたホウ酸水貯蔵タンク9に貯蔵されているホウ酸水の水位が予め設定した値を下回った場合にホウ酸水が原子炉圧力容器1内に注入されたと判定し、起動信号をANDゲート20に対して出力するものとすることができる。
【0047】
運転モード選択スイッチ12は、ホウ酸水注入ポンプ10が試験中である場合には再循環ポンプ3が起動されないようにするための回路であり、例えば、通常モードの場合はANDゲート20に対して試験モードではない旨の信号を出力し、試験モードの場合は試験モード信号を出力する。
【0048】
ANDゲート20は、ホウ酸水注入ポンプ起動信号出力器19から起動信号が入力され、かつ運転モード選択スイッチ12から現在が試験モードではない旨の信号の入力を受けた場合にホウ酸水が原子炉圧力容器1内に注入されたと判定し、ホウ酸水原子炉到達信号14をANDゲート17Aに対して出力する。
【0049】
遅延タイマー13は、ANDゲート20から出力されたホウ酸水原子炉到達信号14をANDゲート17Aに対して一時的に遅延させて出力するための部分であり、これにより、ホウ酸水注入ポンプ10が起動してから所定時間経過した後にホウ酸水が原子炉圧力容器1内に注入されたと判定するものとなっている。
【0050】
更に、制御装置18では、上述の判定により再循環ポンプ3が起動した後に原子炉の出力が予め設定した値を下回った場合は、再循環ポンプ3を停止させる。
【0051】
または、制御装置18では、ホウ酸水貯蔵タンク9に貯蔵されたホウ酸水が全て原子炉圧力容器1内へ注入されるのに要する時間が経過したと判定された場合には、再循環ポンプ3を停止させることができる。
【0052】
次に、本実施例に係る実施例1の原子炉出力制御装置の動作について図2を参照して説明する。図2は、本実施例の沸騰水型原子炉の炉心冷却系の動作フロー図である。
【0053】
極めて稀ではあるが、何らかの要因により、スクラム失敗事象が発生すると、原子炉圧力容器1内の圧力上昇、又は原子炉圧力容器1内の冷却材の水位が低下する。そこで、再循環ポンプ3をトリップさせる。これにより炉心8内を通流する冷却材(中性子減速材としても機能する)の流量は減少するものの、原子炉圧力容器1内のシュラウド7内外の水頭差および炉心8からの蒸気発生による上方への二相流流動によって冷却材が循環する自然循環状態となる(ステップS101)。
【0054】
その後、炉心流量が自然循環状態へ移行したことを制御装置18で判断するために、処理が3つに分かれる。
【0055】
まず、一つ目は、再循環ポンプ3が確実に停止しているか否かを確認するために、制御装置18のANDゲート17Aは、再循環ポンプトリップ信号15が入力されているか否か判定を行う(ステップS102)。再循環ポンプトリップ信号15が入力されていないと判定されたときはそのまま処理を戻し、再循環ポンプトリップ信号15の入力を待つ。これに対し、再循環ポンプトリップ信号15が入力されたと判定されたときは処理をステップS106に進める。
【0056】
なお、本ステップS102では、再循環ポンプトリップ信号15を用いる判定の代替として、再循環ポンプ3の速度が予め設定した値を下回っているか否か、炉心流量の測定値が予め設定した値を下回っているか否かの判定を行ってもよい。
【0057】
また、自然循環状態の炉心流量は原子炉水位が低下すると減少するため、二つ目は、制御装置18の比較器16Aは、原子炉水位が設定値を下回っているか否かを判定する(ステップS103)。原子炉水位が設定値を下回っていないと判定されたときはそのまま処理を戻し、原子炉水位が低下したか否かを判定し続ける。これに対して原子炉水位が設定値を下回っていると判定されたときは、原子炉水位低下信号16をANDゲート17Aに対して出力し、処理をステップS106に進める。
【0058】
更には、以上の状態において、運転員の手動操作等により、ホウ酸水注入ポンプ10が起動し(ステップS104)、ホウ酸水貯蔵タンク9のホウ酸水が、ホウ酸水注入ノズル11を通って原子炉圧力容器1に注入される。
【0059】
次いで、制御装置18のANDゲート20および遅延タイマー13は、ホウ酸水が原子炉圧力容器に到達したか否かを判定する(ステップS105)。
【0060】
ここで、ホウ酸水注入ポンプ10の起動直後に再循環ポンプ3を起動すると、ホウ酸水が原子炉圧力容器1に注入される前に炉心流量が上昇するため、原子炉出力の変動が大きくなる可能性がある。そのため、ホウ酸水注入ポンプ10が起動してから、ホウ酸水が原子炉圧力容器1に到達するまでに要する時間等を考慮した遅延タイマー13を制御装置18に設置して、出力変動を抑制することが望ましい。
【0061】
そこで、遅延タイマー13を利用して、ホウ酸水注入ポンプ10起動後、遅延タイマー13に設定された時間が経過したか否かを判定する。所定時間経過したと判定されたときは、遅延タイマー13はホウ酸水原子炉到達信号14をANDゲート17Aに対して出力する。これに対し、所定時間経過していないと判定されたときは処理を戻し、所定時間の経過を待つ。
【0062】
このとき、ホウ酸水原子炉到達信号14の発信条件は、ホウ酸水注入ノズル11の流量の測定値が予め設定した値を上回ること、もしくはホウ酸水貯蔵タンク9の水位が予め設定した値を下回ることでも可能である。
【0063】
ホウ酸水原子炉到達信号14、再循環ポンプトリップ信号15、原子炉水位低下信号16が全て入力されたときは、制御装置18のANDゲート17Aは、再循環ポンプ3に対して再循環ポンプ起動信号17を発信し、再循環ポンプ3の起動を図る(ステップS106)。
【0064】
その後、ステップS106における制御装置18の起動指示により再循環ポンプ3が起動する(ステップS107)。これにより炉心8の冷却材の流量が増加する(ステップS108)。なお、図2では、制御装置18が、2台の再循環ポンプ3のうちホウ酸水注入ノズル11に近い側に位置する再循環ポンプ3に起動を指示する例を示しているが、反対側の再循環ポンプ3のみを起動する、もしくは2台の再循環ポンプ3を起動させても良い。
【0065】
ステップS107の再循環ポンプ3の起動により炉心流量が上昇し、炉心8下部から上部への循環力が上昇して、原子炉圧力容器1内に注入されたホウ酸水に含まれるボロンの炉心8内への混合が促進される(ステップS109)。
【0066】
ボロンの混合が促進することにより、炉心8内の中性子がボロンに吸収され易くなるため核分裂反応は抑制され、やがて未臨界状態に移行する(ステップS110)。
【0067】
その後、制御装置18は、未臨界状態に移行したことによって原子炉の出力が設定値以下となったか否かを判定する(ステップS111)。出力が設定値以下となっていないときは、ステップS111に処理を戻し、更に出力が低下するまで待機する。これに対し、出力が設定値以下となったと判定されたときは処理をステップS112に進め、再循環ポンプ3の停止信号を再循環ポンプ3に対して出力する(ステップS112)。
【0068】
このステップS112では、原子炉の出力が設定値以下となったか否かを判定することの替わりに、ホウ酸水貯蔵タンク9に貯蔵されたホウ酸水が全て原子炉圧力容器1内へ注入されるのに要する時間が経過した場合に、再循環ポンプ3を停止させるものとすることができる。
【0069】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0070】
上述した本実施例の沸騰水型原子炉は、原子炉圧力容器1と、ホウ酸水貯蔵タンク9と、原子炉圧力容器1にホウ酸水貯蔵タンク9内のホウ酸水を注入するホウ酸水注入ノズル11と、ホウ酸水注入ノズル11を介してホウ酸水を原子炉圧力容器1に送るホウ酸水注入ポンプ10と、原子炉圧力容器1内の冷却材を循環させる再循環ポンプ3と、を備えている。また、制御装置18は、再循環ポンプ3が停止していること、原子炉内の冷却材水位が予め設定した値を下回ること、ホウ酸水が原子炉圧力容器1内に注入されたことを条件として、再循環ポンプ3を起動させる。
【0071】
このような構成によって、原子炉圧力容器1に注水されるホウ酸水に含まれるボロンの混合を効果的に行い得る制御装置18を提供することが可能となる。例えば、原子炉圧力容器1に注水されるホウ酸水に含まれるボロンの混合が促進され、炉心部において中性子がより多くボロンに吸収されやすくなることで、負の反応度の印加を効果的に行い、短時間で効率的に未臨界状態へ移行させることが可能となる。
【0072】
また、制御装置18は、ホウ酸水注入ポンプ10が起動した場合にホウ酸水が原子炉圧力容器1内に注入されたと判定する、あるいはホウ酸水注入ノズル11におけるホウ酸水の流量が予め設定した値を上回った場合にホウ酸水が原子炉圧力容器1内に注入されたと判定する、若しくはホウ酸水貯蔵タンク9に貯蔵されたホウ酸水の水位が予め設定した値を下回った場合にホウ酸水が原子炉圧力容器1内に注入されたと判定することにより、ホウ酸水注入ポンプ10の起動を直接的、あるいは間接的に確実に検出することができる。
【0073】
更に、制御装置18は、ホウ酸水注入ポンプ10が起動してから所定時間経過した後にホウ酸水が原子炉圧力容器1内に注入されたと判定することで、ホウ酸水が原子炉圧力容器1内に注入される前に再循環ポンプ3を起動してしまうことを効果的に抑制し、原子炉出力の変動をより確実に抑制することができる。
【0074】
また、制御装置18は、ホウ酸水注入ポンプ10が試験中である場合には再循環ポンプ3を起動させないことにより、不適切なタイミングで再循環ポンプ3が起動してしまうことを確実に防止することができる。
【0075】
更に、制御装置18は、再循環ポンプ3のトリップ信号が入力された場合は、再循環ポンプ3が停止したと判定する、あるいは原子炉圧力容器1内の冷却材の流量が予め設定した値を下回る場合に、再循環ポンプ3が停止したと判定することで、再循環ポンプ3の停止を直接的、あるいは間接的に確実に検出することができる。
【0076】
また、制御装置18は、沸騰水型原子炉の出力が予め設定した値を下回った場合は、再循環ポンプ3を停止させる、もしくはホウ酸水貯蔵タンク9に貯蔵されたホウ酸水が全て原子炉圧力容器1内へ注入されるのに要する時間が経過した後に、再循環ポンプ3を停止させることで、必要以上に再循環ポンプ3が駆動し続けることを抑制することができる。
【0077】
また、ホウ酸水注入ノズル11が、原子炉圧力容器1の下方側からホウ酸水を注入するように原子炉圧力容器1に対して取り付けられている場合、炉心8下部にボロンが沈殿しやすいことから、本発明の制御装置18によりこのような体系においてもボロンの混合を効果的に行うことができる。
【0078】
<その他>
なお、本発明は上記の実施例に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
【符号の説明】
【0079】
1…原子炉圧力容器
1A…冷却材水位計
1B…冷却材流量計
2…冷却材再循環系配管
3…再循環ポンプ
4…入口弁
5…出口弁
6…ジェットポンプ
7…シュラウド
8…炉心
9…ホウ酸水貯蔵タンク
9A…ホウ酸水水位計
10…ホウ酸水注入ポンプ
11…ホウ酸水注入ノズル
11A…流量計
12…運転モード選択スイッチ
13…遅延タイマー
14…ホウ酸水原子炉到達信号
15…再循環ポンプトリップ信号
16…原子炉水位低下信号
16A…比較器
17…再循環ポンプ起動信号
17A…ANDゲート
18…制御装置
19…ホウ酸水注入ポンプ起動信号出力器
20…ANDゲート
30…原子炉格納容器
31…サプレッションプール
図1
図2