IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友電気工業株式会社の特許一覧 ▶ 住友電工ウインテック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-絶縁電線 図1
  • 特許-絶縁電線 図2
  • 特許-絶縁電線 図3
  • 特許-絶縁電線 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】絶縁電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20220520BHJP
【FI】
H01B7/02 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019507725
(86)(22)【出願日】2018-03-21
(86)【国際出願番号】 JP2018011234
(87)【国際公開番号】W WO2018174113
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2020-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2017058687
(32)【優先日】2017-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】309019534
【氏名又は名称】住友電工ウインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】太田 槙弥
(72)【発明者】
【氏名】山内 雅晃
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健吾
(72)【発明者】
【氏名】田村 康
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/123122(WO,A1)
【文献】特開2000-297172(JP,A)
【文献】特許第6056041(JP,B1)
【文献】特開平08-077849(JP,A)
【文献】国際公開第2005/019320(WO,A1)
【文献】特開2017-016862(JP,A)
【文献】特開2012-204089(JP,A)
【文献】国際公開第2008/035682(WO,A1)
【文献】特開2008-019379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状の導体と、上記導体の外周面に積層される1又は複数の絶縁層とを備える絶縁電線であって、
上記1又は複数の絶縁層の少なくとも1層が複数の気孔を含有し、
上記気孔中の独立気孔率が80体積%以上であり、
上記気孔の平均径が0.1μm以上10μm以下であり、
上記気孔の平均径に対する平均径の標準偏差の比が0.3以下であり、
上記気孔が扁平球体であり、
全気孔の数に対する短軸が上記導体表面と垂直方向に配向している気孔の数の割合が60%以上である絶縁電線。
【請求項2】
上記絶縁層の気孔率が20体積%以上である請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
上記気孔の周辺部に外殻を備え、上記外殻が、コアシェル構造の中空形成粒子のシェルに由来する請求項1又は請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
上記外殻の主成分がシリコーンである請求項3に記載の絶縁電線。
【請求項5】
上記気孔の短径及び長径を含む断面における長径に対する短径の長さの比の平均が0.2以上0.95以下である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項6】
上記導体と上記絶縁層の間にプライマー層を備える請求項1から請求項のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線に関する。
本出願は、2017年3月24日出願の日本出願第2017-58687号に基づく優先権を主張し、上記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
適用電圧が高い電気機器、例えば高電圧で使用されるモーター等では、電気機器を構成する絶縁電線に高電圧が印加されるため、その絶縁層表面で部分放電(コロナ放電)が発生し易くなる。コロナ放電の発生により、局部的な温度上昇、オゾンの発生、イオンの発生等が引き起こされると、早期に絶縁破壊を生じ、その結果、絶縁電線ひいては電気機器の寿命が短くなる。このため、適用電圧が高い電気機器に使用される絶縁電線には、優れた絶縁性、機械的強度等に加えてコロナ放電開始電圧の向上も求められる。
【0003】
コロナ放電開始電圧を上げる手段としては、絶縁層の低誘電率化が有効である。絶縁層の低誘電率化を実現するために、塗膜構成樹脂と、この塗膜構成樹脂の焼付温度よりも低い温度で分解する熱分解性樹脂とを含む絶縁ワニスにより加熱硬化膜(絶縁層)を形成する絶縁電線が提案されている(特開2012-224714号公報参照)。この絶縁電線では、上記熱分解性樹脂が塗膜構成樹脂の焼付時に熱分解してその部分が気孔となることを利用して加熱硬化膜内に気孔が形成されており、この気孔の形成により絶縁被膜の低誘電率化を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-224714号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明の一態様に係る絶縁電線は、線状の導体と、この導体の外周面に積層される1又は複数の絶縁層とを備える絶縁電線であって、上記1又は複数の絶縁層の少なくとも1層が複数の気孔を含有し、上記気孔中の独立気孔率が80体積%以上である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の実施形態に係る絶縁電線の模式的断面図である。
図2図1の絶縁電線に含まれる気孔及び外殻の模式的断面図である。
図3図1の絶縁電線の形成に用いる絶縁層形成用ワニスに含まれる中空形成粒子の模式的断面図である。
図4】実施例における誘電率の測定方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
上述のような従来の方法により形成される絶縁層において、低誘電率化を促進させるためには、気孔率を上げることが必要となる。しかし、気孔率を上げると、形成される気孔の大きさのばらつきが大きくなる等により、所望の誘電率とすることができず、そのため、コロナ放電開始電圧を上げる等、絶縁性を向上させることは難しい。加えて、絶縁電線を溶剤中に浸漬して使用する場合に必要な耐溶剤性が低下するという不都合がある。
【0008】
本発明は以上のような事情に基づいてなされたものであり、絶縁層の低誘電率化を促進すると共に、絶縁性、機械的強度及び耐溶剤性に優れる絶縁電線を提供することを目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本発明の一態様に係る絶縁電線は、絶縁層の低誘電率化を促進すると共に、絶縁性、機械的強度及び耐溶剤性に優れる。
【0010】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る絶縁電線は、線状の導体と、この導体の外周面に積層される1又は複数の絶縁層とを備える絶縁電線であって、上記1又は複数の絶縁層の少なくとも1層が複数の気孔を含有し、上記気孔中の独立気孔率が80体積%以上である。
【0011】
当該絶縁電線としては、気孔同士の連通が抑制され上記独立気孔率を満たす絶縁層を備えていればよいが、特に、上記気孔が外殻を備え、この外殻がコアシェル構造の中空形成粒子のシェルに由来し、かつ上記気孔中の独立気孔率が上記値以上である絶縁電線が好ましい。上記外殻の存在により、気孔同士の連通が抑制されて形成された独立気孔を高い比率で含む絶縁層がより確実に得られる。このようにして形成された気孔は、大きさ及び形状のばらつきが非常に小さい。このような独立気孔を含む絶縁層を備えることにより、当該絶縁電線は、単一の熱分解性樹脂で形成された気孔を有する従来の絶縁電線よりも、低誘電率化を促進することができ、絶縁破壊電圧を高くすることができ、絶縁性に優れ、かつ機械的強度にも優れる。また、絶縁層が含む気孔が周縁部に外殻を備えていることにより、耐溶剤性を向上させることができる。ここで、「独立気孔率」とは、後述する測定方法により求められる値をいう。なお、ここで、コアシェル構造とは、粒子のコアを形成する材料とコアの周囲を取り囲むシェルの材料が異なる構造をいう。
【0012】
上記絶縁層の気孔率としては、20体積%以上が好ましい。このように、絶縁層の気孔率を上記値以上とすることにより、低誘電率化をより促進することができ、絶縁性をより向上させることができる。ここで、「気孔率」とは、絶縁層の気孔を含む体積に対する気孔の容積の百分率を意味する。
上記気孔の形状は、扁平球体であることが好ましい。また、気孔の短軸が導体表面と垂直方向に配向していると、外力が作用し易い上記垂直方向に形成される気孔同士が当接し難くなるため、独立気孔率を向上させることができる。そのため、短軸が導体表面と垂直方向に配向している気孔の割合が大きいほど好ましい。このような気孔の割合、平均径等については、後述する。ここで、「扁平球体」とは、重心を通る最大対角線長さを長径、重心を通る最小対角線長さを短径(短軸の長さ)としたとき、短径が長径の所定割合以下の球体を意味し、例えば短径及び長径を含む断面における長径に対する短径の比が0.95以下の球体である。
【0013】
上記外殻の主成分がシリコーン(Silicone)であるとよい。このように上記外殻の主成分をシリコーンとすることにより、独立気孔率をより高めることができ、絶縁性及び機械的強度をより向上させることができる。また、耐溶剤性をより向上させることができ、加えて、外殻に弾性を付与すると共に耐熱性を向上させることができる。ここで「シリコーン」とは、ケイ素原子と酸素原子とが結合したシロキサン結合の繰り返し構造を含む高分子を意味する。また、「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、例えば50質量%以上含有される成分である。
【0014】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、図面に示した絶縁電線等を代表例として、本発明の実施形態に係る絶縁電線及び絶縁層形成用ワニスを説明する。
【0015】
[絶縁電線]
図1の当該絶縁電線は、線状の導体1と、この導体1の外周面に積層される1層の絶縁層2とを備える。この絶縁層2は、複数の気孔3を含有する。また、当該絶縁電線は、気孔3の周縁部に外殻4を備える。
【0016】
<導体>
上記導体1は、例えば断面が方形状の角線とされるが、断面が円形状の丸線や、複数の素線を撚り合わせた撚り線であってもよい。
【0017】
導体1の材質としては、導電率が高くかつ機械的強度が大きい金属が好ましい。このような金属としては、例えば銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、銀、軟鉄、鋼、ステンレス鋼等が挙げられる。導体1は、これらの金属を線状に形成した材料や、このような線状の材料にさらに別の金属を被覆した多層構造のもの、例えばニッケル被覆銅線、銀被覆銅線、銅被覆アルミニウム線、銅被覆鋼線等を用いることができる。
【0018】
導体1の平均断面積の下限としては、0.01mmが好ましく、0.1mmがより好ましい。一方、導体1の平均断面積の上限としては、20mmが好ましく、5mmがより好ましい。導体1の平均断面積が上記下限未満であると、導体1に対する絶縁層2の体積が大きくなり、当該絶縁電線を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。逆に、導体1の平均断面積が上記上限を超えると、誘電率を十分に低下させるために絶縁層2を厚く形成しなければならず、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
【0019】
<絶縁層>
上記絶縁層2は、図1に示すように、後述するコアシェル構造の中空形成粒子に由来する複数の気孔3を含有する。
【0020】
絶縁層2は、絶縁性を有する樹脂組成物、この樹脂組成物中に散在する気孔3、及び気孔3の周縁部の外殻4で形成される。この絶縁層2は、後述する絶縁層形成用ワニスの導体1外周面への塗布及び焼付により形成される。
【0021】
絶縁層2の気孔率の下限としては、20体積%が好ましく、25体積%がより好ましい。一方、絶縁層2の気孔率の上限としては、80体積%が好ましく、65体積%がより好ましい。絶縁層2の気孔率が上記下限未満であると、絶縁層2の誘電率が十分に低下せず、コロナ放電開始電圧を十分に向上できないおそれがある。逆に、絶縁層2の気孔率が上記上限を超えると、絶縁層2の機械的強度を維持できないおそれがある。絶縁層2の気孔率(体積%)は、絶縁層2についてその外形から算出される見かけの体積V1に絶縁層2の材質の密度ρ1を乗じて求められる気孔がない場合の質量W1と、絶縁層2の実際の質量W2とから、(W1-W2)×100/W1の式により求めることができる。
【0022】
上記気孔3中の独立気孔率の下限としては、80体積%であり、85体積%が好ましく、90体積%がより好ましい。一方、上記気孔中の独立気孔率の上限としては、例えば100体積%である。上記気孔中の独立気孔率が上記下限未満であると、当該絶縁電線の絶縁性及び耐溶剤性が低下する傾向にある。
【0023】
上記気孔3中の独立気孔率は、絶縁層2の試料の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した際、隣接する気孔との間に絶縁性を有する樹脂組成物を介することにより互いに開口していない気孔(独立気孔)の全気孔に対する体積%である。この独立気孔率(体積%)は、絶縁層の断面のSEM写真において、独立気孔と独立気孔以外の気孔とを区別するように二値化して算出することができる。
【0024】
複数の気孔3は、図2に示すようにそれぞれ外殻4で被覆され、この外殻4は図3に示すコアシェル構造の中空形成粒子5のコア6が除去されて中空となった焼付後のシェル7で構成される。つまり、外殻4はコアシェル構造の中空形成粒子5のシェル7に由来する。また、複数の気孔3の外殻4のうち少なくとも一部は、欠損を有している。上記欠損は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した気孔断面のSEM写真により確認できる。
【0025】
複数の気孔3は、図2に示すように扁平球体である。また、気孔3の短軸が導体1表面と垂直方向に配向していると、外力が作用し易い上記垂直方向に形成される気孔同士が当接し難くなるため、独立気孔率を向上させることができる。そのため、短軸が導体1表面と垂直方向に配向している気孔3の割合が大きいほど好ましい。全気孔3の数に対する短軸が導体1表面と垂直方向に配向している気孔3の数の割合の下限としては、60%が好ましく、80%がより好ましい。短軸が導体1表面と垂直方向に配向している気孔3の割合が上記下限未満であると、形成される気孔同士で当接する気孔が増加し、独立気孔率が低くなるおそれがある。「気孔の短軸が導体表面と垂直方向に配向する」とは、気孔の短軸と導体表面に垂直な方向との角度差が20度以下であることを意味する。
【0026】
気孔3の短径及び長径を含む断面における長径に対する短径の長さの比の平均の下限としては、0.2が好ましく、0.3がより好ましい。一方、上記比の平均の上限としては、0.95が好ましく、0.9がより好ましい。上記比の平均が上記下限未満であると、ワニス焼付時の厚さ方向の収縮量を大きくする必要があるため、絶縁電線2の可撓性が低下するおそれがある。逆に、上記比の平均が上記上限を超えると、気孔率を高くする場合に、外力が作用し易い絶縁層2の厚さ方向に形成される気孔同士が当接し易くなり、独立気孔率が低くなるおそれがある。気孔3の短径及び長径は、絶縁層2の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより求めることができる。なお、上記比は、絶縁層形成用ワニスに含まれる樹脂組成物の焼付時の収縮により中空形成粒子5に加わる圧力を変化させることで調節できる。この中空形成粒子5に加わる圧力は、例えば上記樹脂組成物の主成分となる材料の種類、絶縁層2の厚さ、中空形成粒子5の材料、焼付条件等により変化させることができる。ここで、「気孔の短径及び長径を含む断面における長径に対する短径の長さの比の平均」とは、絶縁層2に含まれる例えば30個の気孔3について、短径及び長径を含む断面における長径に対する短径の長さの比を算出し、平均した値を意味する。
【0027】
気孔3の長径の平均の下限としては、特に限定されないが、0.1μmが好ましく、1μmがより好ましい。一方、上記長径の平均の上限としては、10μmが好ましく、8μmがより好ましい。上記長径の平均が上記下限未満であると、絶縁層2に所望の気孔率が得られないおそれがある。逆に、上記長径の平均が上記上限を超えると、絶縁層2内における気孔3の分布を均一にし難くなり、誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。ここで、「気孔の長径の平均」とは、絶縁層2に含まれる例えば30個の気孔3について、その長径を平均した値を意味する。
【0028】
気孔3における導体1表面と垂直方向の最大長さの平均の下限としては、特に限定されないが、0.1μmが好ましく、1μmがより好ましい。一方、上記垂直方向の最大長さの平均の上限としては、10μmが好ましく、8μmがより好ましい。また、気孔3における導体1表面と平行方向の最大長さの平均の下限としては、特に限定されないが、0.1μmが好ましく、1μmがより好ましい。一方、上記平行方向の最大長さの平均の上限としては、10μmが好ましく、8μmがより好ましい。気孔3における上記垂直方向の最大長さの平均と平行方向の最大長さの平均とが共に上記上限以下であることが好ましい。気孔3の垂直方向及び平行方向の最大長さの平均を上記上限以下とすることで、気孔3中の独立気孔率を向上させることができ、その結果、当該絶縁電線の絶縁性、機械的強度及び耐溶剤性をより向上させることができる。ここで、「気孔における垂直方向の最大長さの平均と平行方向の最大長さの平均」とは、絶縁層2に含まれる例えば30個の気孔3について、導体1表面と垂直方向の最大長さ、及び平行方向の最大長さをそれぞれ平均した値を意味する。
【0029】
気孔3の平均径の下限としては、0.1μmが好ましく、1μmがより好ましい。一方、上記平均径の上限としては、10μmが好ましく、8μmがより好ましい。上記気孔3の平均径が上記下限未満であると、絶縁層2に所望の気孔率が得られないおそれがある。逆に、上記長径の平均が上記上限を超えると、絶縁層2内における気孔3の分布を均一にし難くなり、誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。ここで、「気孔の平均径」とは、絶縁層2に含まれる例えば30個の気孔3について、気孔の容積に相当する真球の直径を算出し、平均した値を意味する。気孔3の容積は、絶縁層2の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより求めることができる。なお、気孔3の平均径は、例えば上記樹脂組成物の主成分となる材料の種類、絶縁層2の厚さ、中空形成粒子のコアとして用いられる熱分解性樹脂粒子の平均粒子径、焼付条件等を変化させることで調整できる。
【0030】
気孔3の平均径は、当該絶縁電線の絶縁性を高める観点からは、その分布は狭い方が好ましい。気孔3の平均径(D)に対する平均径の標準偏差(σ)の比(σ/D)の上限としては、0.3が好ましく、0.1がより好ましい。上記比の下限としては、例えば0.001である。
【0031】
複数の気孔3の周縁部に存在する複数の外殻4は、少なくとも一部が欠損を有する。気孔3及び外殻4は、図3に示すような熱分解性樹脂を主成分とするコア6と、この熱分解性樹脂より熱分解温度が高いシェル7とを有する中空形成粒子5に由来する。つまり、この中空形成粒子5を含むワニスの焼付時にコア6の主成分である熱分解性樹脂が熱分解によりガス化し、シェル7を通過して飛散することにより気孔3及び外殻4が形成される。このとき、シェル7における熱分解性樹脂の通過路が欠損として外殻4に存在する。この欠損の形状は、シェル7の材質や形状によって変化するが、形成される気孔の外殻4による連通防止効果を高める観点から、亀裂、割れ目及び孔が好ましい。
【0032】
なお、絶縁層2は、欠損のない外殻4を含んでいてもよい。コア6の熱分解性樹脂のシェル7外部への流出条件によっては外殻4に欠損が形成されない場合もある。また、絶縁層2は、外殻4に被覆されない気孔3を含んでいてもよい。
【0033】
絶縁層2の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、絶縁層2の平均厚さの上限としては、200μmが好ましく、120μmがより好ましい。絶縁層2の平均厚さが上記下限未満であると、絶縁層2に破れが生じ、導体1の絶縁が不十分となるおそれがある。逆に、絶縁層2の平均厚さが上記上限を超えると、当該絶縁電線を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。
【0034】
当該絶縁電線が、絶縁層2と材質が同一でかつ気孔を含有しない層をさらに備える場合、この気孔を含有しない層の誘電率に対する絶縁層2の誘電率の比の上限としては、95%であり、90%が好ましく、80%がより好ましい。上記誘電率の比が上記上限を超えると、コロナ放電開始電圧を十分に向上できないおそれがある。
【0035】
当該絶縁電線は、このように、絶縁層2に含まれる気孔3が外殻4で囲まれており、かつ気孔3中の独立気孔率が高い。気孔3中の独立気孔率が高いため、当該絶縁電線は、絶縁層2の気孔率を高めた場合でも、絶縁性、機械的強度及び耐溶剤性に優れる。
【0036】
また、当該絶縁電線は、複数の気孔3が扁平球体であるので、形成された気孔同士が当接し難く、気孔3中の独立気孔率をより高くすることができる。
【0037】
[絶縁層形成用ワニス]
<第一実施形態>
当該絶縁層形成用ワニスは、上記絶縁電線の絶縁層2の形成に用いるワニスである。第一の実施形態に係る当該絶縁層形成用ワニスは、マトリックスを形成する樹脂組成物と、この樹脂組成物中に分散するコアシェル構造の中空形成粒子5とを含有し、中空形成粒子5のコア6が熱分解性樹脂を主成分とし、中空形成粒子5のシェル7の主成分の熱分解温度が上記熱分解性樹脂の熱分解温度より高い。
【0038】
(樹脂組成物)
上記樹脂組成物は、主ポリマーと、希釈用溶剤、硬化剤等とを含む組成物である。上記主ポリマーとしては、特に限定されないが、熱硬化性樹脂を使用する場合、例えばポリビニルホルマール前駆体、熱硬化ポリウレタン前駆体、熱硬化アクリル樹脂前駆体、エポキシ樹脂前駆体、フェノキシ樹脂前駆体、熱硬化ポリエステル前駆体、熱硬化ポリエステルイミド前駆体、熱硬化ポリエステルアミドイミド前駆体、熱硬化ポリアミドイミド前駆体、ポリイミド前駆体等が使用できる。また、主ポリマーとして熱可塑性樹脂を使用する場合、例えばポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド等が使用できる。これらの中でも、絶縁層形成用ワニスを塗布し易くできると共に絶縁層2の強度及び耐熱性を向上させ易い点において、ポリイミド及びポリイミド前駆体が好ましい。
【0039】
希釈用溶剤としては、絶縁ワニスに従来より用いられている公知の有機溶剤を用いることができる。具体的には、例えばN-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサエチルリン酸トリアミド、γ-ブチロラクトンなどの極性有機溶媒をはじめ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類;ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;クレゾール、クロルフェノールなどのフェノール類;ピリジンなどの第三級アミン類等が挙げられ、これらの有機溶媒はそれぞれ単独であるいは2種以上を混合して用いられる。
【0040】
また、上記樹脂組成物に、硬化剤を含有させてもよい。硬化剤としては、チタン系硬化剤、イソシアネート系化合物、ブロックイソシアネート、尿素やメラミン化合物、アミノ樹脂、アセチレン誘導体、メチルテトラヒドロ無水フタル酸などの脂環式酸無水物、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物等が例示される。これらの硬化剤は、使用する樹脂組成物が含有する主ポリマーの種類に応じて、適宜選択される。例えば、ポリアミドイミド系の場合、硬化剤として、イミダゾール、トリエチルアミン等が好ましく用いられる。
【0041】
なお、上記チタン系硬化剤としては、テトラプロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラヘキシルチタネート等が例示される。上記イソシアネート系化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p-フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4-トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの炭素数3~12の脂肪族ジイソシアネート;1,4-シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル-4,4’-ジイソシアネート、1,3-ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタンなどの炭素数5~18の脂環式イソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらの変性物等が例示される。上記ブロックイソシアネートとしては、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、ジフェニルメタン-3,3’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-3,4’-ジイソシアネート、ジフェニルエーテル-4,4’-ジイソシアネート、ベンゾフェノン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルスルホン-4,4’-ジイソシアネート、トリレン-2,4-ジイソシアネート、トリレン-2,6-ジイソシアネート、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート等のイソシアネート基に、ジメチルピラゾール等のブロック剤が付加した化合物などが例示される。上記メラミン化合物としては、メチル化メラミン、ブチル化メラミン、メチロール化メラミン、ブチロール化メラミン等が例示される。上記アセチレン誘導体としては、エチニルアニリン、エチニルフタル酸無水物等が例示される。
【0042】
(中空形成粒子)
上記中空形成粒子5は、図3に示すように、熱分解性樹脂を主成分とするコア6と、この熱分解性樹脂より熱分解温度が高いシェル7とを有する。
【0043】
(コア)
コア6の主成分に用いる熱分解性樹脂としては、例えば上記主ポリマーの焼付温度よりも低い温度で熱分解する樹脂粒子が用いられる。上記主ポリマーの焼付温度は、樹脂の種類に応じて適宜設定されるが、通常200℃以上600℃以下程度である。従って、中空形成粒子5のコア6に用いる熱分解性樹脂の熱分解温度の下限としては200℃が好ましく、上限としては400℃が好ましい。ここで、熱分解温度とは、空気雰囲気下で室温から10℃/分で昇温し、質量減少率が50%となるときの温度を意味する。熱分解温度は、例えば熱重量測定-示差熱分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社の「TG/DTA」)を用いて熱重量を測定することにより求めることができる。
【0044】
上記中空形成粒子5のコア6に用いる熱分解性樹脂としては、特に限定されないが、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの片方、両方の末端又は一部をアルキル化、(メタ)アクリレート化又はエポキシ化した化合物;ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチルなどの炭素数1以上6以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの重合体;ウレタンオリゴマー、ウレタンポリマー、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン(メタ)アクリレートなどの変性(メタ)アクリレートの重合物;ポリ(メタ)アクリル酸;これらの架橋物;ポリスチレン、架橋ポリスチレン等が挙げられる。これらの中でも、主ポリマーの焼付温度で熱分解し易く絶縁層2に気孔3を形成させ易い点において、炭素数1以上6以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの重合体が好ましい。このような(メタ)アクリル酸エステルの重合体として、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)が挙げられる。
【0045】
コア6の形状は、球状が好ましい。コア6の形状を球状とするために、例えば球状の熱分解性樹脂粒子をコア6として用いるとよい。球状の熱分解性樹脂粒子を用いる場合、この樹脂粒子の平均粒子径の下限としては、特に制限はないが、0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましく、1μmがさらに好ましい。一方、上記樹脂粒子の平均粒子径の上限としては、15μmが好ましく、10μmがより好ましい。上記樹脂粒子の平均粒子径が上記下限未満であると、この樹脂粒子をコア6とする中空形成粒子5が作製し難くなるおそれがある。逆に、上記樹脂粒子の平均粒子径が上記上限を超えると、この樹脂粒子をコア6とする中空形成粒子5が大きくなり過ぎるため、絶縁層2内における気孔3の分布が均一になり難くなり、誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。ここで、上記樹脂粒子の平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した粒度分布において、最も高い体積の含有割合を示す粒径を意味する。
【0046】
シェル7の主成分として、上記熱分解性樹脂より熱分解温度が高い材料が用いられる。また、シェル7の主成分として、誘電率が低く、耐熱性が高いものが好ましい。シェル7の主成分として用いられるこのような材料としては、例えばポリスチレン、シリコーン、フッ素樹脂、ポリイミド等の樹脂が挙げられる。これらの中でも、シェル7に弾性を付与すると共に絶縁性及び耐熱性を向上させ易い点において、シリコーンが好ましい。ここで、「フッ素樹脂」とは、高分子鎖の繰り返し単位を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも1つが、フッ素原子又はフッ素原子を有する有機基(以下「フッ素原子含有基」ともいう)で置換されたものをいう。フッ素原子含有基は、直鎖状又は分岐状の有機基中の水素原子の少なくとも1つがフッ素原子で置換されたものであり、例えばフルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基、フルオロポリエーテル基等を挙げることができる。なお、絶縁性を損なわない範囲でシェル7に金属が含まれてもよい。
【0047】
なお、シェル7の主成分の樹脂は、上記絶縁層形成用ワニスに含有させる樹脂組成物の主ポリマーと同種のものを用いてもよく、異なるものを用いてもよい。例えばシェル7の主成分の樹脂として、上記樹脂組成物の主ポリマーと同種のものを用いた場合でも、熱分解性樹脂より熱分解温度が高いので、熱分解性樹脂がガス化してもシェル7の主成分の樹脂は熱分解し難いため、気孔3中の独立気孔率を高くすることができる。このような絶縁層形成用ワニスで形成された当該絶縁電線は、電子顕微鏡で観察しても絶縁層2に含まれる気孔3の外殻の存在を確認できない場合がある。一方、シェル7の主成分の樹脂として上記樹脂組成物の主ポリマーと異なるものを用いることにより、シェル7を上記樹脂組成物と一体化され難くできるので、上記樹脂組成物の主ポリマーと同種の樹脂を用いる場合に比べて、気孔3中の独立気孔率は高くなる。
【0048】
シェル7の平均厚さの下限としては、特に制限はないが、例えば0.01μmが好ましく、0.02μmがより好ましい。一方、シェル7の平均厚さの上限としては、0.5μmが好ましく、0.4μmがより好ましい。シェル7の平均厚さが上記下限未満であると、気孔3中の独立気孔率が低くなるおそれがある。逆に、シェル7の平均厚さが上記上限を超えると、気孔3の体積が小さくなり過ぎるため、絶縁層2の気孔率を所定以上に高められないおそれがある。なお、シェル7は、1層で形成されてもよいし、複数の層で形成されてもよい。シェル7が複数の層で形成される場合、複数の層の合計厚さの平均が、上記厚さの範囲内であればよい。ここで、「シェルの平均厚さ」とは、例えば30個の中空形成粒子5について、シェル7の厚さを平均した値を意味する。
【0049】
中空形成粒子5のCV値の上限としては、30%が好ましく、20%がより好ましい。中空形成粒子5のCV値が上記上限を超えると、絶縁層2にサイズが異なる複数の気孔3が含まれるようになるため、誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。なお、中空形成粒子5のCV値の下限としては、特に制限はないが、1%が好ましい。中空形成粒子5のCV値が上記下限未満であると、中空形成粒子5のコストが高くなり過ぎるおそれがある。ここで、「CV値」とは、JIS-Z8825(2013)に規定される変動変数を意味する。
【0050】
なお、上記中空形成粒子5は、図3に示すように、コア6を1個の熱分解性樹脂粒子で形成する構成としてもよいし、コア6を複数の熱分解性樹脂粒子で形成し、シェル7の樹脂がこれらの複数の熱分解性樹脂粒子を被覆する構成としてもよい。
【0051】
また、上記中空形成粒子5の表面は、図3に示すように凹凸がなく滑らかであってもよいし、凹凸が形成されてもよい。
【0052】
また、上記有機溶剤により希釈し、中空形成粒子5を分散させることにより調製した当該絶縁層形成用ワニスの樹脂固形分濃度の下限としては、15質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。一方、当該絶縁層形成用ワニスの樹脂固形分濃度の上限としては、50質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。当該絶縁層形成用ワニスの樹脂固形分濃度が上記下限未満であると、1回のワニスの塗布で形成できる厚さが小さくなるため、所望の厚さの絶縁層2を形成するためのワニス塗布工程の繰り返し回数が多くなり、ワニス塗布工程の時間が長くなるおそれがある。逆に、当該絶縁層形成用ワニスの樹脂固形分濃度が上記上限を超えると、ワニスが増粘することにより、ワニスの保存安定性が悪化するおそれがある。
【0053】
また、当該絶縁層形成用ワニスに、中空形成粒子5に加えて、気孔形成のために熱分解性粒子等の気孔形成剤を混合してもよい。また、気孔形成のために、沸点の異なる希釈溶剤を組合せて上記絶縁層形成用ワニスを調製してもよい。気孔形成剤により形成された気孔や沸点の異なる希釈溶剤の組合せにより形成される気孔は、中空形成粒子5に由来する気孔とは連通し難い。従って、このように外殻4に被覆されない気孔を含む場合でも、外殻4に被覆される気孔の存在により、気孔3中の独立気孔率を高めることができる。
【0054】
<第二実施形態>
第二の実施形態に係る当該絶縁層形成用ワニスは、第一実施形態の絶縁層形成用ワニスと同様、上記絶縁電線の絶縁層の形成に用いるワニスである。第二実施形態の絶縁層形成用ワニスは、マトリックスを形成する樹脂組成物と、この樹脂組成物中に分散する中空粒子とを含有し、上記中空粒子の外殻の主成分が樹脂である。
【0055】
当該絶縁層形成用ワニスの樹脂組成物は、第一実施形態の絶縁層形成用ワニスと同様とすることができる。
【0056】
中空粒子の主成分の樹脂としては、例えばポリスチレン、シリコーン、フッ素樹脂、ポリイミド等が挙げられる。これらの中でも、外殻に弾性を付与すると共に絶縁性及び耐熱性を向上させ易い点において、シリコーンが好ましい。
【0057】
中空粒子の平均内径の下限としては、特に制限はないが、0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましく、1μmがさらに好ましい。一方、中空粒子の平均内径の上限としては、15μmが好ましく、10μmがより好ましい。上記中空粒子の平均内径が上記下限未満であると、所望の気孔率の絶縁層が得られないおそれがある。逆に、中空粒子の平均内径が上記上限を超えると、絶縁層内における気孔の分布が均一になり難くなり、誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。中空粒子の平均内径は、例えば上記樹脂組成物の主成分となる材料の種類、絶縁層2の厚さ、中空形成粒子のコアとして用いられる熱分解性樹脂粒子の平均粒子径、焼付条件等を変化させることで調整できる。ここで、「中空粒子の平均内径」とは、例えば30個の中空粒子について、中空粒子の容積に相当する真球の直径を算出し、平均した値を意味する。
【0058】
中空粒子の外殻の平均厚さの下限としては、特に制限はないが、0.01μmが好ましく、0.02μmがより好ましい。一方、外殻の平均厚さの上限としては、0.5μmが好ましく、0.4μmがより好ましい。外殻の平均厚さが上記下限未満であると、形成される気孔3中の独立気孔率が低くなるおそれがある。逆に、外殻の平均厚さが上記上限を超えると、気孔の体積が小さくなり過ぎるため、絶縁層の気孔率を所定以上に高められないおそれがある。なお、外殻は、1層で形成されてもよいし、複数の層で形成されてもよい。外殻が複数の層で形成される場合、複数の層の合計厚さの平均が、上記厚さの範囲内であればよい。中空粒子の外殻の平均厚さは、例えば上記樹脂組成物の主成分となる材料の種類、絶縁層2の厚さ、中空形成粒子のシェルの平均厚さ、焼付条件等を変化させることで調整することができる。
中空粒子のCV値は、上記第一実施形態の絶縁層形成用ワニスの中空形成粒子と同様とすることができる。
【0059】
なお、当該絶縁層形成用ワニスは、上記第一実施形態の絶縁層形成用ワニスを加熱することにより得られる。つまり、第一実施形態の絶縁層形成用ワニスの加熱により、中空形成粒子のコアの熱分解性樹脂をガス化し除去することで、本実施形態の中空粒子が得られる。すなわち、本実施形態の絶縁層形成用ワニスにおける中空粒子の外殻は、コアシェル構造の中空形成粒子のシェルに由来する。
【0060】
[絶縁電線の製造方法]
次に、当該絶縁電線の製造方法について説明する。当該絶縁電線の製造方法は、上記絶縁層2を形成するための主ポリマーを溶剤で希釈した樹脂組成物に、コアシェル構造の中空形成粒子5を分散させることで絶縁層形成用ワニスを調製する工程(ワニス調製工程)、上記絶縁層形成用ワニスを上記導体1の外周面に塗布する工程(ワニス塗布工程)、及び加熱により上記中空形成粒子5のコア6を除去する工程(加熱工程)を備える。
【0061】
<ワニス調製工程>
上記ワニス調製工程において、まず、絶縁層2を形成する主ポリマーを溶剤で希釈することにより、絶縁層2のマトリックスを形成する樹脂組成物を調製する。次に、この樹脂組成物に中空形成粒子5を分散させて絶縁層形成用ワニスを調製する。なお、樹脂組成物に中空形成粒子5を分散させるのではなく、主ポリマーを溶剤で希釈する際、同時に中空形成粒子5を混合することにより上記絶縁層形成用ワニスを調製してもよい。
【0062】
<ワニス塗布工程>
上記ワニス塗布工程において、上記ワニス調製工程で調製した絶縁層形成用ワニスを導体1の外周面に塗布した後、塗布ダイスにより導体1のワニスの塗布量の調節及び塗布されたワニス面の平滑化を行う。
【0063】
上記塗布ダイスは開口部を有し、絶縁層形成用ワニスを塗布した導体1がこの開口部を通過することで余分なワニスが除去され、ワニスの塗布量が調整される。これにより、当該絶縁電線は、絶縁層2の厚さが均一になり、均一な電気絶縁性が得られる。
【0064】
<加熱工程>
次に、上記加熱工程において、絶縁層形成用ワニスが塗布された導体1を焼付炉に通して絶縁層形成用ワニスを焼付けることで、導体1表面に絶縁層2を形成する。焼付の際、絶縁層形成用ワニスに含まれる中空形成粒子5のコア6の熱分解性樹脂が熱分解によりガス化し、このガス化した熱分解性樹脂がシェル7を通過して飛散する。このように、焼付時の加熱により、中空形成粒子5のコア6が除去される。その結果、絶縁層2中に中空形成粒子5に由来する中空粒子(外殻のみの粒子)が形成され、この中空粒子による気孔3が絶縁層2内に形成される。このように、上記加熱工程は、絶縁層形成用ワニスの焼付工程を兼ねる。
【0065】
導体1表面に積層される絶縁層2が所定の厚さとなるまで、上記ワニス塗布工程及び加熱工程を繰り返すことにより、当該絶縁電線が得られる。
【0066】
このように、当該絶縁層形成用ワニスを用いて形成した絶縁層2には、中空形成粒子5に由来する気孔3が含まれる。この気孔3は外殻4で囲まれているので、絶縁層2の気孔率が高くなるよう気孔を増やしても、独立気孔率を大きいものとすることができる。また、外殻4で囲まれた気孔3を有する絶縁層2は、単一の熱分解性樹脂で形成された気孔を有する絶縁層よりも絶縁破壊電圧を高くでき、絶縁性を優れたものとすることができる。このように、当該絶縁層形成用ワニスにより、絶縁層2の気孔率を高めた場合でも、絶縁性、機械的強度及び耐溶剤性を優れたものとすることができる。
【0067】
なお、上記加熱工程は、ワニス調製工程の前に行ってもよい。この場合、例えば恒温槽などを用いて上記中空形成粒子5を加熱することにより、コア6の熱分解性樹脂を熱分解によりガス化させ、コア6が除去された中空粒子を得る。上記ワニス調製工程では、絶縁層2のマトリックスを形成する上記樹脂組成物に、中空粒子を分散させて絶縁層形成用ワニスを調製する。この絶縁層形成用ワニスの塗布及び焼付後も、上記コア6が除去された中空粒子の中空構造が維持されるので、この絶縁層形成用ワニスの塗布及び焼付により、中空粒子による気孔3を含む絶縁層2を形成できる。ただし、このようにワニス調製工程の前に加熱工程を行う場合、加熱工程とは別に絶縁層形成用ワニスを焼付ける工程をワニス塗布工程の後に行う。
【0068】
このように、ワニス調製工程の前に加熱工程を行う場合、焼付時の加熱により中空形成粒子5のコア6を消失させる場合に比べて、より確実にコア6を消失させ易い。そのため、より確実に絶縁層2に気孔を形成できると共に、熱分解性樹脂の分解ガスによる絶縁層2の発泡を抑制できる。
【0069】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0070】
上記実施形態においては、1層の絶縁層が導体の外周面に積層される絶縁電線について説明したが、複数の絶縁層が導体の外周面に積層される絶縁電線としてもよい。つまり、図1の導体1と気孔3を含む絶縁層2との間に1又は複数の絶縁層が積層されてもよいし、図1の気孔3を含む絶縁層2の外周面に1又は複数の絶縁層が積層されてもよいし、図1の気孔3を含む絶縁層2の外周面及び内周面の両方に1又は複数の絶縁層が積層されてもよい。このように複数の絶縁層が積層される絶縁電線において、少なくとも1の絶縁層に外殻に囲まれる気孔(中空粒子による気孔)が含まれればよい。つまり、2以上の絶縁層に中空粒子による気孔が含まれてもよい。2以上の絶縁層に中空粒子による気孔が含まれる場合、これらのそれぞれの絶縁層が低誘電率化に寄与する。このように複数の絶縁層のうち少なくとも1層が当該絶縁層形成用ワニスで形成される絶縁電線も、本発明の意図する範囲内である。また、このように導体の外周面に複数の絶縁層を積層することにより、絶縁電線の機械的強度を向上できる。なお、これらの複数の絶縁層を形成する樹脂組成物として同種のものを用いてもよく、互いに異なるものを用いてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、絶縁層に含まれる気孔が扁平球体である絶縁電線について説明したが、気孔が扁平球体でなくてもよい。例えば、外殻に囲まれる気孔が扁平ではない多角体や球体であってもよい。気孔がこのような形状であっても、形成される気孔同士が外殻によって連通し難いので、絶縁層における気孔中の独立気孔率を高めることができる。従って、このような形状の気孔であっても、絶縁電線の絶縁性、機械的強度及び耐溶剤性を優れたものとすることができる。
【0072】
また、例えば当該絶縁電線において、導体と絶縁層との間にプライマー(Primer)層等のさらなる層が設けられてもよい。プライマー層は、層間の密着性を高めるために設けられる層であり、例えば公知の樹脂組成物により形成することができる。
【0073】
導体と絶縁層との間にプライマー層を設ける場合、このプライマー層を形成する樹脂組成物は、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエステル及びフェノキシ樹脂の中の一種又は複数種の樹脂を含むとよい。また、プライマー層を形成する樹脂組成物は、密着向上剤等の添加剤を含んでもよい。このような樹脂組成物によって導体と絶縁層との間にプライマー層を形成することで、導体と絶縁層との間の密着性を向上することが可能であり、その結果、当該絶縁電線の可撓性や耐摩耗性、耐傷性、耐加工性などの特性を効果的に高めることができる。
【0074】
また、プライマー層を形成する樹脂組成物は、上記樹脂と共に他の樹脂、例えばエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、メラミン樹脂等を含んでもよい。また、プライマー層を形成する樹脂組成物に含まれる各樹脂として、市販の液状組成物(絶縁ワニス)を使用してもよい。
【0075】
プライマー層の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、2μmがより好ましい。一方、プライマー層の平均厚さの上限としては、30μmが好ましく、20μmがより好ましい。プライマー層の平均厚さが上記下限未満であると、導体との十分な密着性を発揮できないおそれがある。逆に、プライマー層の平均厚さが上記上限を超えると、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
【0076】
また、上記実施形態では、熱分解性樹脂を用いて絶縁層内に気孔を生成させる製造方法について説明したが、熱分解性樹脂の代わりに発泡剤や熱膨張性マイクロカプセルをワニスに混合し、発泡剤や熱膨張性マイクロカプセルにより絶縁層内に気孔を形成させる製造方法としてもよい。例えば上記製造方法において、絶縁層を形成する樹脂を溶剤で希釈したものを熱膨張性マイクロカプセルと混合して絶縁層形成用ワニスを調製し、この絶縁層形成用ワニスの導体の外周面への塗布及び焼付けにより絶縁層を形成してもよい。焼付けの際に、ワニスに含まれる熱膨張性マイクロカプセルが膨張又は発泡することによって絶縁層内に気孔が形成される。
【0077】
熱膨張性マイクロカプセルは、熱膨張剤からなる芯材(内包物)と、芯材を包む外殻とを有する。熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤は、加熱により膨張又は気体を発生するものであればよく、その原理は問わない。熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤としては、例えば低沸点液体、化学発泡剤又はこれらの混合物を使用することができる。
【0078】
低沸点液体としては、例えばブタン、i-ブタン、n-ペンタン、i-ペンタン、ネオペンタン等のアルカンや、トリクロロフルオロメタン等のフレオン類などが好適に用いられる。また、化学発泡剤としては、加熱によりNガスを発生するアゾビスイソブチロニトリル等の熱分解性を有する物質が好適に用いられる。
【0079】
熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤の膨張開始温度、つまり低沸点液体の沸点又は化学発泡剤の熱分解温度としては、後述する熱膨張性マイクロカプセルの外殻の軟化温度以上とされる。より詳しくは、熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤の膨張開始温度の下限としては、60℃が好ましく、70℃がより好ましい。熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤の膨張開始温度の上限としては、200℃が好ましく、150℃がより好ましい。熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤の膨張開始温度が上記下限に満たない場合、絶縁電線の製造時、輸送時又は保管時に熱膨張性マイクロカプセルが意図せず膨張してしまうおそれがある。熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤の膨張開始温度が上記上限を超える場合、熱膨張性マイクロカプセルを膨張させるために必要なエネルギーコストが過大となるおそれがある。
【0080】
熱膨張性マイクロカプセルの外殻は、熱膨張剤の膨張時に破断することなく膨張し、発生したガスを包含するマイクロバルーンを形成できる延伸性を有する材質から形成される。熱膨張性マイクロカプセルの外殻を形成する材質としては、通常は、熱可塑性樹脂等の高分子を主成分とする樹脂組成物が用いられる。
【0081】
熱膨張性マイクロカプセルの外殻の主成分とされる熱可塑性樹脂としては、例えば塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリレート、メタアクリレート、スチレン等の単量体から形成された重合体、あるいは2種以上の単量体から形成された共重合体が好適に用いられる。好ましい熱可塑性樹脂の一例としては、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体が挙げられ、この場合の熱膨張剤の膨張開始温度は、80℃以上150℃以下とされる。
【0082】
また、上記実施形態では、絶縁層に含まれる気孔が熱分解性樹脂の熱分解によって形成される構成について説明したが、例えば気孔を中空フィラーで形成させた構成としてもよい。気孔を中空フィラーで形成させる場合、例えば絶縁層を形成する樹脂組成物と中空フィラーとを混練し、押出し成形により混練物を導体に被覆することで絶縁層に気孔を含む絶縁電線を製造できる。
【0083】
中空フィラーにより気孔を形成する場合、中空フィラーの内部の空洞部分が絶縁層に含まれる気孔となる。中空フィラーとしては、例えばシラスバルーン、ガラスバルーン、セラミックバルーン、有機樹脂バルーン等が挙げられる。絶縁電線に可撓性が要求される場合、これらの中で有機樹脂バルーンが好ましい。また、機械的強度が重視される絶縁電線の場合、入手が容易で破損し難いという点からガラスバルーンが好ましい。
【0084】
また、上記実施形態では、絶縁層に含まれる気孔が熱分解性樹脂の熱分解によって形成される構成について説明したが、例えば相分離法を用いて気孔を形成させた構成としてもよい。相分離法を用いる一例として、絶縁層を形成する樹脂として熱可塑性樹脂を用い、溶剤と均質混合して加熱溶融状態で導体の外周面へ塗布する。そして、水等の非溶解性液体への浸漬又は空気中での冷却により樹脂と溶媒とを相分離させ、溶媒を別の揮発性溶剤で抽出除去することにより絶縁層に気孔が形成される。
【0085】
また、第一実施形態の中空形成粒子に第二実施形態の中空粒子やその他の実施形態で説明した発泡剤や熱膨張性マイクロカプセル、中空フィラーを適宜混合して用いても良い。
【実施例
【0086】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0087】
[絶縁電線の製造]
表1のNo.1に示す絶縁電線を以下のようにして製造した。まず、主ポリマーとしてポリイミドを用い、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを用いて、主ポリマーをこの溶剤で希釈した樹脂組成物を調製した。次に、熱分解性樹脂粒子として平均粒子径3μmのPMMA粒子を用い、上記樹脂組成物に、計算値で絶縁層の気孔率が30体積%となる量を分散させてワニスを調製した。このワニスを用い、竪型塗装設備を使用して、断面が2mm×2mmの平角形状の導体を浸漬した後、導体と相似形状の開口部を有するダイスを、速度6m/分で通過させ、焼付炉中を通過させて、350℃で1分間焼付を行い、絶縁被膜を形成した。このワニスの塗布、ダイス通過、焼付を15回繰り返して、ポリイミド樹脂被膜を絶縁層とする絶縁電線(No.1)を製造した。No.1の絶縁電線における絶縁層の平均厚さは99μmであった。
【0088】
表1のNo.2に示す絶縁電線を以下のようにして製造した。まず、主ポリマーとしてポリイミドを用い、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを用いて、主ポリマーをこの溶剤で希釈した樹脂組成物を調製した。次に、中空形成粒子としてコアがPMMA粒子でシェルがシリコーンの平均粒子径3μmのコアシェル構造の粒子を用い、上記樹脂組成物に、計算値で絶縁層の気孔率が30体積%となる量を分散させてワニスを調製した。このワニスを用い、竪型塗装設備を使用して、断面が2mm×2mmの平角形状の導体を浸漬した後、導体と相似形状の開口部を有するダイスを、速度6m/分で通過させ、焼付炉中を通過させて、350℃で1分間焼付を行い、絶縁被膜を形成した。このワニスの塗布、ダイス通過、焼付を15回繰り返して、ポリイミド樹脂被膜を絶縁層とする絶縁電線(No.2)を製造した。No.2の絶縁電線における絶縁層の平均厚さは100μmであった。
【0089】
表1のNo.3に示す絶縁電線を以下のようにして製造した。まず、主ポリマーとしてポリイミドを用い、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを用いて、主ポリマーをこの溶剤で希釈した樹脂組成物を調製した。次に、熱分解性樹脂粒子として平均粒子径3μmのPMMA粒子を用い、上記樹脂組成物に、計算値で絶縁層の気孔率が50体積%となる量を分散させてワニスを調製した。このワニスを用い、竪型塗装設備を使用して、断面が2mm×2mmの平角形状の導体を浸漬した後、導体と相似形状の開口部を有するダイスを、速度3.5m/分で通過させ、焼付炉中を通過させて、350℃で1分間焼付を行い、絶縁被膜を形成した。このワニスの塗布、ダイス通過、焼付を15回繰り返して、ポリイミド樹脂被膜を絶縁層とする絶縁電線(No.3)を製造した。No.3の絶縁電線における絶縁層の平均厚さは99μmであった。
【0090】
表1のNo.4に示す絶縁電線を以下のようにして製造した。まず、主ポリマーとしてポリイミドを用い、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを用いて、主ポリマーをこの溶剤で希釈した樹脂組成物を調製した。次に、中空形成粒子としてコアがPMMA粒子でシェルがシリコーンの平均粒子径3μmのコアシェル構造の粒子を用い、上記樹脂組成物に、計算値で絶縁層の気孔率が53体積%となる量を分散させてワニスを調製した。このワニスを用い、竪型塗装設備を使用して、断面が2mm×2mmの平角形状の導体を浸漬した後、導体と相似形状の開口部を有するダイスを、速度6m/分で通過させ、焼付炉中を通過させて、350℃で1分間焼付を行い、絶縁被膜を形成した。このワニスの塗布、ダイス通過、焼付を15回繰り返して、ポリイミド樹脂被膜を絶縁層とする絶縁電線(No.4)を製造した。No.4の絶縁電線における絶縁層の平均厚さは101μmであった。
【0091】
表1のNo.5に示す絶縁電線を以下のようにして製造した。まず、主ポリマーとしてポリイミドを用い、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを用いて、主ポリマーをこの溶剤で希釈した樹脂組成物を調製した。次に、中空形成粒子としてコアがPMMA粒子でシェルがシリコーンの平均粒子径3μmのコアシェル構造の粒子を用い、上記樹脂組成物に、計算値で絶縁層の気孔率が30体積%となる量を分散させてワニスを調製した。このワニスを用い、竪型塗装設備を使用して、断面が2mm×2mmの平角形状の導体を浸漬した後、導体と相似形状の開口部を有するダイスを、速度6m/分で通過させ、焼付炉中を通過させて、350℃で1分間焼付を行い、絶縁被膜を形成した。このワニスの塗布、ダイス通過、焼付を12回繰り返して、ポリイミド樹脂被膜を絶縁層とする絶縁電線(No.5)を製造した。No.5の絶縁電線における絶縁層の平均厚さは80μmであった。
【0092】
表1のNo.6に示す絶縁電線を以下のようにして製造した。まず、主ポリマーとしてポリイミドを用い、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを用いて、主ポリマーをこの溶剤で希釈した樹脂組成物を調製した。次に、中空形成粒子としてコアがPMMA粒子でシェルがシリコーンの平均粒子径3μmのコアシェル構造の粒子を用い、上記樹脂組成物に、計算値で絶縁層の気孔率が30体積%となる量を分散させてワニスを調製した。このワニスを用い、竪型塗装設備を使用して、断面が2mm×2mmの平角形状の導体を浸漬した後、導体と相似形状の開口部を有するダイスを、速度6m/分で通過させ、焼付炉中を通過させて、350℃で1分間焼付を行い、絶縁被膜を形成した。このワニスの塗布、ダイス通過、焼付を20回繰り返して、ポリイミド樹脂被膜を絶縁層とする絶縁電線(No.6)を製造した。No.6の絶縁電線における絶縁層の平均厚さは120μmであった。
【0093】
[評価]
上記得られたNo.1~No.6の絶縁電線について、絶縁層の気孔率、気孔中の独立気孔率、絶縁破壊電圧、プレス後皮膜厚減少率、絶縁層の誘電率及び溶剤浸漬試験後の絶縁層の誘電率を、下記方法に従い評価した。評価結果を表1に示す。
【0094】
(絶縁層の気孔率)
得られた絶縁層を導体から筒状に剥離し、この筒状の絶縁層の質量W2を測定した。また、筒状の絶縁層の外形から見かけの体積V1を求め、このV1に絶縁層の材質の密度ρ1を乗じて気孔がない場合の質量W1を算出した。これらW1及びW2の値から、下記式により気孔率を算出した。
気孔率=(W1-W2)×100/W1 (体積%)
【0095】
(気孔中の独立気孔率)
上記筒状に剥離して得た絶縁層の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、隣接する気孔との間に絶縁性を有する樹脂組成物を介することにより互いに開口していないもの(独立気孔)と独立気孔以外の気孔とを区別するように二値化して、気孔中の独立気孔率(体積%)を算出した。
【0096】
(絶縁破壊電圧)
絶縁破壊試験機(FAITH社の「BREAK-DOWN TESTER ”CONTROL UNIT F8150-1”」)を使用して測定した。No.1~No.6の絶縁電線に幅10mmのアルミ箔を巻き、電極の片方を導体に、もう一方の電極をアルミ箔に接続した。電極間に印加する電圧を昇圧速度500V/秒で昇圧して、15mA以上の電流が流れたときの電圧を読み取った。測定数n=5で実施し、その平均値で評価した。
【0097】
(プレス後皮膜厚減少率)
No.1~No.6の絶縁電線を、その長手方向の一部にプレス圧がかかるように、プレス加工機に設置した。所定のプレス圧になるように、プレス圧(MPa)×プレス面積(mm)で求められる荷重(N)をかけ、荷重が安定してから、10秒間プレスした。プレスした箇所の絶縁層の平均厚さT1と、プレスしていない箇所の絶縁層の平均厚さT2とを測定し、T1及びT2の測定値から(T2-T1)×100/T2(%)の式により、プレス後皮膜厚減少率を算出した。プレス後皮膜厚減少率の測定は、プレス圧を、0MPa、100MPa、200MPa、300MPaとしてそれぞれ行った。また、絶縁層の平均厚さT1及びT2は、絶縁電線の断面方向において3点測定し、その平均値を用いた。
【0098】
(絶縁層の誘電率)
No.1~No.6の絶縁電線について、絶縁層2の誘電率εを測定した。図4は、誘電率の測定方法を説明するための模式図である。図4では、絶縁電線に図1と同じ符号を付している。まず、絶縁電線の表面3カ所に銀ペーストPを塗布すると共に、絶縁電線の一端側の絶縁層2を剥離して導体1を露出させた測定用のサンプルを作製した。ここで、絶縁電線の表面3カ所に塗布した銀ペーストPの絶縁電線長手方向の塗布長さは、長手方向に沿って順に10mm、100mm、10mmとした。長さ10mmで塗布した2カ所の銀ペーストPを接地し、これらの2カ所の銀ペーストの間に塗布した長さ100mmの銀ペーストPと上記露出させた導体1との間の静電容量をLCRメータMで測定した。この測定した静電容量及び絶縁層2の平均厚さから絶縁層2の誘電率εを算出した。なお、上記誘電率εの測定は、105℃で1時間加熱した後に測定数n=3で実施し、その平均値を求めた。
【0099】
(溶剤浸漬試験後の誘電率)
絶縁電線は、高電圧が印加されるような使用では高温となるため、このような場合には、絶縁電線を冷却するために、例えば絶縁電線が溶剤中に浸漬して使用されることがある。このように絶縁電線が溶剤中に浸漬されて使用される場合でも、所望の特性が得られることを確認するため、溶剤浸漬試験を行った。具体的には、No.1~No.6の絶縁電線を試験用油IRM903に150℃で72時間浸漬させた後、各電線の誘電率εを測定した。この溶剤浸漬試験は、測定数n=3で実施し、その平均値を求めて、溶剤への浸漬前の誘電率εと比較した。
【0100】
【表1】
【0101】
表1の結果より、絶縁層における気孔中の独立気孔率が80体積%以上であるNo.2、No.4、No.5及びNo.6の絶縁電線は、上記特徴を有さないNo.1及びNo.3の絶縁電線に比べて絶縁破壊電圧が高く、プレス後の皮膜厚減少率が低く抑えられている。また、絶縁層に含まれる気孔の周辺部に外殻を備え、上記外殻が、コアシェル構造の中空形成粒子のシェルに由来するNo.2、No.4、No.5及びNo.6の絶縁電線は、誘電率が溶剤浸漬試験後においても維持されている。この結果から、上記特徴を有するNo.2、No.4、No.5及びNo.6の絶縁電線は、絶縁層の低誘電率化を促進すると共に、絶縁性、機械的強度及び耐溶剤性に優れることが分かる。これは、コアシェル構造の中空形成粒子のコアの熱分解により形成された気孔は、大きさ及び形状のばらつきが非常に小さいことに起因すると考えられる。
【符号の説明】
【0102】
1 導体、 2 絶縁層、 3 気孔、 4 外殻
5 中空形成粒子、 6 コア、 7 シェル
M LCRメータ、 P 銀ペースト
図1
図2
図3
図4