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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】環状抗微生物性擬ペプチド及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/64 20060101AFI20220520BHJP
   C07K 7/54 20060101ALI20220520BHJP
   A61L 15/32 20060101ALI20220520BHJP
   A61L 15/44 20060101ALI20220520BHJP
   A61L 17/00 20060101ALI20220520BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20220520BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220520BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20220520BHJP
【FI】
C07K7/64
C07K7/54
A61L15/32 100
A61L15/44 100
A61L17/00 100
A61L27/22
A01P3/00
C12N1/20 Z ZNA
【請求項の数】 5
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020092261
(22)【出願日】2020-05-27
(62)【分割の表示】P 2017522966の分割
【原出願日】2015-10-30
(65)【公開番号】P2020158513
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2020-06-15
(31)【優先権主張番号】14191238.6
(32)【優先日】2014-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】512277622
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・レンヌ・アン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィア・ソレキ
(72)【発明者】
【氏名】アモール・モスバー
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル・ボディー-フロック
(72)【発明者】
【氏名】ブリス・フェルデン
【審査官】玉井 真人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/050590(WO,A1)
【文献】Biochemistry, 2004, Vol.43, pp.9140-9150
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/00-7/64
C12N 1/00-1/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の表面を、配列番号9、配列番号10、又は、配列番号13に記載のアミノ酸配列を有する、有効量の少なくとも1つの環状抗微生物ペプチド又はその組成物と接触させる工程を含む、物体の表面の微生物汚染を防止又は排除する方法。
【請求項2】
微生物汚染がグラム陰性細菌又はグラム陽性細菌によって引き起こされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
グラム陰性細菌が、ボルデテラ属、サルモネラ属、エンテロバクター属、クレブシエラ属、赤痢菌属、エルシニア属、大腸菌、ビブリオ属、シュードモナス属、ナイセリア属、ヘモフィルス属、又はアグロバクテリウム属の細菌からなる群から選択される細菌である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
グラム陽性細菌が、ブドウ球菌属、ミクロコッカス属、乳酸球菌属、乳酸桿菌属、クロストリジウム属、バチルス属、ストレプトコッカス属、エンテロコッカス属、又はリステリア属の細菌である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
物体が、縫合糸、移植片、コンタクトレンズ、カテーテル、シリンジ、及び手袋から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、参照としてその全体が本明細書に組み込まれる2014年10月31日に出願された欧州特許出願EP14191238号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
抗微生物ペプチドは、生きた生物が生存及び拡散のために、様々な対抗相手に対して自身を防御するために産生される、広く分布している古来の対抗手段を表す。植物及び動物の抗微生物ペプチドは、その先天性免疫防御の一部である。また、抗微生物ペプチドは、細菌を含めた様々な微生物によっても産生され、バクテリオシンと呼ばれる(Hassanら、J. Appl. Microbiol.、2012、113:723~736頁)。抗微生物ペプチドは、環境中の競合細菌に対して、又は感染症にかかっている間、産生者に利点をもたらす。浸潤又は競合する微生物に打ち勝つために、抗微生物ペプチドは、原核生物と真核生物との膜の基本的な相違を標的とする(Zasloff、Nature、2002、415:389~395頁)。細菌膜の露出した表面には負荷電のリン脂質が存在している一方で、植物の外葉及び動物の膜は中性脂肪からなる。真核及び原核の抗微生物ペプチドは、以下のような共通の特徴を共有する:抗微生物ペプチドは、小さく(20~50個のアミノ酸)、陽イオン性であるか、両親媒性であるか、又は疎水性であり、それと負荷電を有する細菌膜との相互作用を促進し、その細菌膜上で孔を形成して細胞溶質の漏出を引き起こすか又は膜の完全性を乱して細胞死を始動させることができる(Meloら、Nat. Rev. Microbiol.、2009、7:245~250頁)。
【0003】
また、様々な細菌は、存続細胞の形成、ストレス耐性、ウイルス感染に対する保護、又は生物膜の形成を含めた環境刺激に応答して、毒素-抗毒素のモジュールから毒性ペプチドを産生する能力も有する(Ghafourianら、Curr. Issues Mol. Biol.、2013、16:9~14頁)。I型毒素-抗毒素の対は、その合成が成長中にアンチセンスRNAによって抑制される疎水性毒性ペプチドをコードしており、これらは細菌中に広く分布している(Fozoら、Nucleic Acids Res.、2010、38:3743~3759頁、Pinel-Marieら、Cell Rep.、2014、7:424~435頁)。主要なヒトの病原体である黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)によって発現される機能的1型毒素-抗毒素の対が同定されている(Sayedら、Nat. Struct. Mol. Biol.、2011、19:105~112頁)。RNA対は向かい合った鎖上に存在し、一方のRNAは30残基のPepA1毒性ペプチドをコードしており、他方の収束アンチセンスRNAは、その合成を防止することによって毒素の産生を阻害する。PepA1の構造はNMR分光分析によって解析されており、恐らくは孔を形成して膜の完全性を変更する、長く、曲がった、断続されたヘリックスである。in vivoでは、PepA1は、細菌膜に局在し、黄色ブドウ球菌の死を始動させ、また、同様の濃度でヒト赤血球を溶解させる(Sayedら、J. Biol. Chem.、2012、287:43454~43463頁)。特に診療所で使用されている様々な薬物に耐性を有する病原体の警戒すべき出現が原因で、抗感染剤としての改変抗微生物ペプチドを開発するために現在相当な努力がなされている(Wilmes及びSahl、Int. J. Med. Microbiol.、2014、304:93~99頁)。天然の抗微生物ペプチドは迅速且つ局所的に作用し、数々のプロテアーゼによるその分解性のために、治療剤として使用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO 2013/050590号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Hassanら、J. Appl. Microbiol.、2012、113:723~736頁
【文献】Zasloff、Nature、2002、415:389~395頁
【文献】Meloら、Nat. Rev. Microbiol.、2009、7:245~250頁
【文献】Ghafourianら、Curr. Issues Mol. Biol.、2013、16:9~14頁
【文献】Fozoら、Nucleic Acids Res.、2010、38:3743~3759頁
【文献】Pinel-Marieら、Cell Rep.、2014、7:424~435頁
【文献】Sayedら、Nat. Struct. Mol. Biol.、2011、19:105~112頁
【文献】Sayedら、J. Biol. Chem.、2012、287:43454~43463頁
【文献】Wilmes及びSahl、Int. J. Med. Microbiol.、2014、304:93~99頁
【文献】「Remington's Pharmaceutical Sciences」、E.W. Martin、第18版、1990、Mack Publishing Co.:ペンシルバニア州Easton
【文献】Dayhoffら、「Atlas of Protein Sequence and Structure」、1978、Nat. Biomed. Res. Foundation、ワシントンDC、補遺3、22:354~352頁
【文献】R.B. Merrifield、J. Am. Chem. Soc. 1963、85:2149~2154頁
【文献】「Solid Phase Peptide Synthesis」、Methods in Enzymology、G.B. Fields(編)、1997、Academic Press:カリフォルニア州San Diego
【文献】「The Proteins」、第II巻、第3版、H. Neurathら(編)、1976、Academic Press:ニューヨーク州New York、105~237頁
【文献】Lambertら、J. Chem. Soc、Perkin Trans. 1、2001、471~484頁
【文献】「Medical Microbiology」、第3版、1991、Churchill Livingstone、ニューヨーク州
【文献】Soleckietら、「Converting a Staphylococcus aureus Toxin into Effective Cyclic Pseudopeptide Antibiotics」、Chemistry and Biologyに出版予定
【文献】Laurencinら、J Med Chem.、2012、55(24):10885~10895頁
【文献】Junkesら、Eur. Biophys. J.、2011、40:515~528頁
【文献】Hartmannら、Antimicrob. Agents Chemother.、2010、54:3132~3142頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願人は以前に、抗微生物特性を有する、黄色ブドウ球菌から単離したSprA1にコードされるバクテリオシンに由来するペプチドを報告している(WO 2013/050590号)。しかし、これらのペプチドは、細胞溶解特性を有するという不利点を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、血清等のヒト体液中で強力な抗微生物特性及び非常に大きな安定性を示すが、ヒト細胞に対する毒性を欠く環状ペプチドを提供する。
【0008】
したがって、一態様では、本発明は、配列番号1~14からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する環状抗微生物ペプチド、又はその抗微生物性変異体を提供する。
【0009】
別の態様では、本発明は、治療剤として、特に抗微生物剤として使用するための、本明細書に記載の環状ペプチドに関する。
【0010】
別の態様では、本発明は、有効量の少なくとも1つの本明細書に記載の環状抗微生物ペプチドと、薬学的に許容される担体又は賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0011】
関連する態様では、本発明は、医薬品、特に抗微生物剤として使用することを意図する医薬品を製造するための、本明細書に記載の環状抗微生物ペプチドの使用に関する。
【0012】
また、本発明は、包帯、硬膏剤、縫合糸、接着剤、創傷被覆材、移植片、コンタクトレンズ、洗浄液、保存液、洗浄製品、パーソナルケア製品、及び化粧品からなる群から選択される、少なくとも1つの本明細書に記載の環状抗微生物ペプチド又はその医薬組成物を含む製品も提供する。
【0013】
更に別の態様では、本発明は、有効量の少なくとも1つの本明細書に記載の環状抗微生物ペプチド又はその医薬組成物を対象に投与する工程を含む、対象において微生物感染症を防止又は処置する方法を提供する。
【0014】
特定の実施形態では、微生物感染症はグラム陰性細菌又はグラム陽性細菌によって引き起こされる。具体的には、グラム陰性細菌は、ボルデテラ属(Bordetella)、サルモネラ属(Salmonella)、エンテロバクター属(Enterobacter)、クレブシエラ属(Klebsiella)、赤痢菌属(Shigella)、エルシニア属(Yersinia)、大腸菌(Escherichia coli)、ビブリオ属(Vibrio)、シュードモナス属(Pseudomonas)、ナイセリア属(Neisseria)、ヘモフィルス属(Haemophilus)、又はアグロバクテリウム属(Agrobacterium)の細菌であり得る。グラム陽性細菌は、ブドウ球菌属(Staphylococcus)、ミクロコッカス属(Micrococcus)、乳酸球菌属(Lactococcus)、乳酸桿菌属(Lactobacillus)、クロストリジウム属(Clostridium)、バチルス属(Bacillus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、又はリステリア属(Listeria)の細菌であり得る。
【0015】
本発明による治療方法は、ヒト又は他の哺乳動物に適用し得る。特定の好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0016】
更に別の態様では、本発明は、物体の表面を、有効量の少なくとも1つの本明細書に記載の環状抗微生物ペプチド又はその組成物と接触させる工程を含む、物体の表面の微生物汚染を防止又は排除する方法を提供する。
【0017】
特定の実施形態では、物体の表面の微生物汚染はグラム陰性細菌又はグラム陽性細菌によって引き起こされる。グラム陰性細菌は、サルモネラ属の細菌、赤痢菌属の細菌、及び大腸菌属(Escherichia)の細菌からなる群から選択される細菌であり得る。グラム陽性細菌はブドウ球菌属の細菌であり得る。
【0018】
特定の実施形態では、除染方法を適用する物体は、縫合糸、移植片、コンタクトレンズ、カテーテル、シリンジ、及び手袋から選択される。
【0019】
関連する態様では、本発明は、少なくとも1つの本明細書に記載の環状抗微生物ペプチドを含む洗浄液又は洗浄製品に関する。洗浄製品は洗浄パッド又は洗浄ワイプであり得る。
【0020】
これら及び本発明の他の目的、利点、及び特徴は、以下の発明を実施するための形態を読んだ当業者に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ヒト血清中での抗菌ペプチドの分解動力学を示す図である。ペプチドのそれぞれの量及び半減期は、ヒト血清中での0~10時間のインキュベーションからHPLC分析によって決定した。挿入図:試験したペプチドが何であるか(記号及び色コード)並びにその半減期を示す。PepA1一次ペプチドの半減期は800分(Pep6)までと相当に増強された。
図2】ネイティブ及びリードペプチドがどちらも大腸菌外膜及び内膜を透過処理することを示す図である。PepA1及びPep11による大腸菌膜外膜(A)及び内膜(B)の透過アッセイの同時測定を示す。(A)ペリプラズムβ-ラクタマーゼによって始動されたニトロセフィン分解生成物の検出を示す。(B)細胞質β-ガラクトシダーゼによって産生されたONPG分解生成物の検出を示す。PepA1(三角)及びPep11(星)の濃度は、105cfu/mLに対して6μM(点線)及び12μM(破線)であった。四角の実線は8μMでのポリミキシンBの活性を表す。黒丸の実線は未処理の細胞を表す。3つの独立した実験の平均値を提示する。
図3】走査電子顕微鏡観察によって明らかとなった、PepA1及びPep11による細菌及びヒトの細胞の外被の損傷を示す図である。黄色ブドウ球菌(A~C)、大腸菌(D~F)及びヒト赤血球(G~I)の顕微鏡写真を示す。黄色ブドウ球菌又は大腸菌の細胞をMH中で成長させ、指数増殖期(OD600mm:0.5 108cfu/mL)で停止させ、2時間、室温で保った。また、懸濁液が3~4%のRBCであるPBS中のヒト赤血球も2時間、室温で保った。黄色ブドウ球菌又は大腸菌の細胞を、MIC未満のPepA1(105cfu/mLに対して6μM)又はPep11(それぞれ105cfu/mLに対して黄色ブドウ球菌では6μM、大腸菌では2μM)のいずれかに曝露させた。ヒト赤血球を50μMのPepA1及び160μMのPep11に曝露させた(どちらのペプチドでも0.2mg/mLに相当)。MIC未満のPep11は、細胞融合並びに黄色ブドウ球菌及び大腸菌の細胞の表面上に水疱の存在を誘導した(青色の矢印)。2つの細菌において、黄色ブドウ球菌に対するナイシンで観察されたように、PepA1は細胞質の内容物の放出を誘導することが見出された(示さず)。
図4】ヒト赤血球に対する溶解活性が低下したPepA1誘導体を示す図である。提示したデータ値は3つの異なるヒト血液試料からの3つ組の平均値であり、平均の標準偏差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義
本明細書全体にわたって、以下の段落中で定義するいくつかの用語が用いられている。
【0023】
本明細書で使用する用語「対象」とは、ヒト又は別の哺乳動物(たとえば、霊長類、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ラクダ等)をいう。本発明の多くの実施形態では、対象は人間である。そのような実施形態では、対象は多くの場合「個体」又は「患者」という。用語「個体」及び「患者」は、特定の年齢を示すものではない。
【0024】
本明細書において、用語「処置」とは、(1)疾患若しくは状態の発症を遅延させる若しくは防止すること、(2)疾患若しくは状態の症状の進行、増悪、若しくは悪化を遅くする若しくは止めること、(3)疾患若しくは状態の症状の寛解をもたらすこと、又は(4)疾患若しくは状態を治癒することを目的とした方法又はプロセスを特徴づけるために使用する。処置は、疾患又は状態の発症の前に、予防的又は防止的措置のために投与し得る。その代わりに又はそれに加えて、処置は、治療的措置のために疾患又は状態を開始した後に投与し得る。
【0025】
本明細書において「医薬組成物」とは、有効量の少なくとも1つの本発明による環状抗微生物ペプチドと、少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は賦形剤を含むと定義される。
【0026】
本明細書で使用する用語「有効量」とは、その意図する目的、たとえば、細胞、組織、系、又は対象における所望の生物学的又は医学的応答を満たすために十分である、任意の量の化合物(たとえば環状抗微生物ペプチド)、薬剤、抗体、又は組成物をいう。
【0027】
用語「薬学的に許容される担体又は賦形剤」とは、活性成分の生物活性の有効性を妨げず、また、それを投与する濃度において宿主に過剰な毒性がない、担体媒体をいう。この用語には、溶媒、分散体、媒体、コーティング、抗細菌剤及び抗真菌剤、等張化剤、並びに吸着遅延剤等が含まれる。薬学的活性物質のためのそのような媒体及び薬剤の使用は当業界において周知である(たとえば、参照としてその全体が本明細書に組み込まれる「Remington's Pharmaceutical Sciences」、E.W. Martin、第18版、1990、Mack Publishing Co.:ペンシルバニア州Eastonを参照されたい)。特定の実施形態では、薬学的に許容される担体又は賦形剤は獣医学的に許容される担体又は賦形剤である。
【0028】
用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、及び「ペプチド」とは本明細書で交換可能に使用されており、その中性(無電荷)形態又は塩のいずれかとして、及び未修飾又はたとえばグリコシル化、側鎖酸化、若しくはリン酸化によって修飾されているもののいずれかの、様々な長さのアミノ酸配列をいう。特定の実施形態では、アミノ酸配列は完全長のネイティブタンパク質である。他の実施形態では、アミノ酸配列は完全長タンパク質のより小さな断片である。更に他の実施形態では、アミノ酸配列は、アミノ酸側鎖に追加の置換基、たとえばグリコシル単位、脂質、又はリン酸基等の無機イオンが付加されることによって、及びスルフヒドリル基の酸化等の鎖の化学的変換に関連する修飾によって修飾される。したがって、用語「タンパク質」(又はその等価の用語)には、その特異的特性を顕著に変化させない修飾に供される、完全長のネイティブタンパク質のアミノ酸配列又はその断片が含まれる。具体的には、用語「タンパク質」には、タンパク質アイソフォーム、すなわち、同じ遺伝子によってコードされているが、そのpI若しくはMW又は両方が異なる類似体が包含される。そのようなアイソフォームは、そのアミノ酸配列が異なる場合がある(たとえば、対立遺伝子変異、選択的スプライシング、若しくは限定タンパク質分解の結果として)、或いは、特異的翻訳後修飾(たとえば、グリコシル化、アシル化、リン酸化)から生じ得る。
【0029】
用語「類似体」及び「変異体」とは、本明細書で交換可能に使用される。タンパク質又はタンパク質部分に言及して使用する場合、これらの用語は、タンパク質又はタンパク質部分のそれと類似又は同一である機能を保有するが、タンパク質若しくはタンパク質部分のアミノ酸配列と類似若しくは同一であるアミノ酸配列、又はタンパク質若しくはタンパク質部分のそれと類似若しくは同一である構造を必ずしも含む必要がないポリペプチドをいう。好ましくは、本発明のコンテキストにおいて、タンパク質類似体は、タンパク質又はタンパク質部分のアミノ酸配列と少なくとも30%、より好ましくは、少なくとも35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は99%同一であるアミノ酸配列を有する。
【0030】
本明細書で使用する用語「相同的」(又は「相同性」)とは、用語「同一性」と同義であり、2つのポリペプチド分子間又は2つの核酸分子間の配列類似度をいう。比較した両方の配列中のある位置が同じ塩基又は同じアミノ酸残基によって占有されている場合、それぞれの分子はその位置で相同的である。2つの配列間の相同性のパーセンテージは、2つの配列によって共有される一致する又は相同的な位置の数を比較した位置の数で割り、100を掛けたものに相当する。一般に、2つの配列をアラインメントして最大の相同性が与えられた際に比較を行う。相同的なアミノ酸配列は同一又は類似のアミノ酸配列を共有する。類似の残基とは、参照配列中の対応するアミノ酸残基の保存的置換、又は「許可された点突然変異」である。参照配列中の残基の「保存的置換」とは、対応する参照残基と物理的又は機能的に類似である、たとえば、同様の大きさ、形状、電荷、共有結合又は水素結合を形成する能力を含めた化学特性等を有する置換である。特に好ましい保存的置換は、Dayhoffら(「Atlas of Protein Sequence and Structure」、1978、Nat. Biomed. Res. Foundation、ワシントンDC、補遺3、22:354~352頁)によって記載されている「許容された点突然変異」について定義された基準を満たすものである。
【0031】
数値に言及して本明細書で使用する用語「およそ」及び「約」には、一般に、別段に記述しない限り、又は内容からそうでないと明白でない限り(たとえば、そのような数値が可能な値の100%を超えるような場合)、その数値のいずれかの方向で(数値よりも大きい又は小さい)10%の範囲内にある数値が含まれる。
【0032】
特定の好ましい実施形態の詳細な説明
上述のように、本発明は、様々な応用において使用することができる環状抗微生物ペプチドを提供する。強力な抗微生物特性に加えて、本発明の環状抗微生物ペプチドは、ヒト血清中において非常に大きな安定性を示し、ヒト細胞に対する毒性を欠く、具体的にはヒト細胞に対する細胞溶解活性を欠く。
【0033】
I- 環状抗微生物ペプチド
本発明はいくつかの環状抗微生物ペプチドを提供する。本明細書で使用する用語「環状ペプチド」とは、アミノ末端及びカルボキシ末端が共有結合で連結されており、それによって環が生じているポリペプチド鎖をいう。ペプチドが環状であることを示すために、ペプチド配列を角括弧で挟んで示す。
【0034】
本明細書で使用する用語「抗微生物ペプチド」とは、微生物、具体的にはヒトの健康を含めた哺乳動物の健康に有害な微生物の成長若しくは機能を防止、阻害、若しくは低下させる、又は微生物を死滅させるペプチドをいう。抗微生物活性は、当業界において公知の任意の慣用方法によって決定することができる。本発明の特定の好ましい実施形態では、抗微生物ペプチドは抗細菌活性を有する。本明細書で使用する用語「抗細菌活性」とは、細菌を死滅させる能力(殺菌活性)、又は細菌の成長若しくは機能を防止、阻害、若しくは低下させる能力(静菌活性)をいう。
【0035】
より詳細には、本発明による環状抗微生物ペプチドはSprA1抗微生物ペプチドに由来する。より詳細には、用語「SprA1抗微生物ペプチド」とは、グラム陽性細菌である黄色ブドウ球菌によって産生され、黄色ブドウ球菌のゲノムの病原性島中に位置する小さな調節RNAによってコードされている抗微生物ペプチドをいう。また、用語「SprA1抗微生物ペプチド」には、SprA1によってコードされている抗微生物ペプチドから誘導することができる任意の抗微生物ペプチドも包含される。
【0036】
具体的には、本発明は、以下の配列のうちの1つを有する環状抗微生物ペプチドを提供する:
(FFWLSRRTK)(配列番号1、実施例中でPep6と呼ぶ)、
(FFWSRRTK)(配列番号2、実施例中でPep7と呼ぶ)、
(FFWRRTK)(配列番号3、実施例中でPep8と呼ぶ)、
(FFWLRR-ΨHyt-K)(配列番号4、実施例中でPep10)と呼ぶ、
(FFWRR-ΨHyt-K)(配列番号5、実施例中でPep11と呼ぶ)、
(Ψ1Nal-FWRR-ΨHyt-K)(配列番号6、実施例中でPep12と呼ぶ)、
(FF-Ψ1Nal-WRR-ΨHyt-K)(配列番号7、実施例中でPep13と呼ぶ)、
(Ψ2Nal-F-Ψ2Nal-RR-ΨHyt-K)(配列番号8、実施例中でPep14と呼ぶ)、
(FF-Ψ2Nal-RR-ΨHyt-K)(配列番号9、実施例中でPep15と呼ぶ)、
(Ψ2Nal-F-Ψ2Nal-RR-ΨV-K)(配列番号10、実施例中でPep16と呼ぶ)、
(Ψ1Nal-F-Ψ1Nal-RR-ΨGlyco-K)(配列番号11、実施例中でPep17と呼ぶ)、
(FFWRRVK)(配列番号12、実施例中でPep18と呼ぶ)、
(Ψ1Nal-F-Ψ1Nal-RRVK)(配列番号13、実施例中でPep19と呼ぶ)、
(ΨF-F-Ψ1Nal-RR-ΨHyt-K)(配列番号14、実施例中でPep20と呼ぶ)、
式中
ΨHytはアザ-β3-ヒドロキシルスレオニンであり、
ΨVはアザ-β3-バリンであり、
ΨFはアザ-β3-フェニルアラニンであり、
Ψ1Nalはアザ-β3-1-ナフチルアラニンであり、
Ψ2Nalはアザ-β3-2-ナフチルアラニンであり、
ΨGlycoは以下の化学構造(I)を有するグリコール-アミノ酸である。
【0037】
【化1】
【0038】
環状抗微生物ペプチドの調製
本発明による環状抗微生物ペプチドは、当業界において公知の様々な適切な方法のうちの任意のものを使用して、たとえば化学合成等によって調製し得る。
【0039】
たとえば、本発明の環状抗微生物ペプチドは、標準の化学方法を使用して調製し得る。最初にR.B. Merrifield (J. Am. Chem. Soc. 1963、85:2149~2154頁)によって記載された固相ペプチド合成は、既知の配列のペプチド及びペプチド性分子を合成するための素早い且つ容易な手法である。そのような固体技法の編集は、たとえば、「Solid Phase Peptide Synthesis」(Methods in Enzymology、G.B. Fields(編)、1997、Academic Press:カリフォルニア州San Diego、参照としてその全体が本明細書に組み込まれる)中に見つけ得る。これらの合成手順のほとんどは、1つ又は複数のアミノ酸残基又は適切な保護されたアミノ酸残基を成長中のペプチド鎖に順次付加することを含む。たとえば、最初のアミノ酸のカルボキシ基を不安定な結合を介して固体支持体に付着させ、自己縮合を回避するためにそのアミノ基が事前に化学保護されている2番目のアミノ酸と反応させる。カップリング後、アミノ酸基を脱保護し、その後のアミノ酸を用いてこのプロセスを繰り返す。所望のペプチドが構築された後、これを固体支持体から切断して外し、沈殿させ、生じる遊離ペプチドを所望に応じて分析及び/又は精製し得る。また、たとえば「The Proteins」(第II巻、第3版、H. Neurathら(編)、1976、Academic Press:ニューヨーク州New York、105~237頁)に記載されている溶液方法も、本発明の環状抗微生物ペプチドを合成するために使用し得る。環化方法も当業界において公知である(たとえばLambertら、J. Chem. Soc、Perkin Trans. 1、2001、471~484頁を参照されたい)。
【0040】
粗く合成された抗微生物ペプチドは、逆相クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、ゲル濾過、ゲル電気泳動、及びイオン交換クロマトグラフィー等の任意の適切な調製技法を使用して精製し得る。
【0041】
II- 環状抗微生物ペプチドの使用
その生物活性が理由で、本発明の環状抗微生物ペプチドは、治療的応用を含めた様々な応用において使用し得る。実際、開示されたペプチドは、グラム陽性細菌及びグラム陰性細菌に対して抗微生物活性を示すことが見出されている。グラム陽性細菌及びグラム陰性細菌に属する微生物の詳細な説明は、たとえば「Medical Microbiology」、第3版、1991、Churchill Livingstone、ニューヨーク州中に見つけることができる)。
【0042】
本発明の環状抗微生物ペプチドをそれに対して使用し得るグラム陽性細菌の例には、これらに限定されないが、ブドウ球菌属、ミクロコッカス属、乳酸球菌属、乳酸桿菌属、クロストリジウム属、バチルス属、ストレプトコッカス属、エンテロコッカス属、又はリステリア属に属する細菌が含まれる。具体的には、本発明の環状抗微生物ペプチドは、ヒト又は他の哺乳動物に対して潜在的に病原性であるグラム陽性細菌に対して使用し得る。そのようなグラム陽性細菌には、これらに限定されないが、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、スタフィロコッカス・サプロフィチカス(Staphylococcus saprophyticus)、スタフィロコッカス・ヒカス(Staphylococcus hyicus)、スタフィロコッカス・インターメディウス(Staphylococcus intermedius)、破傷風菌(Clostridium tetani)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、セレウス菌(Bacillus cereus)、炭疽菌(Bacillus anthracis)、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・アガラクチア(Streptococcus agalactiae)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、フェカリス菌(Enterococcus faecalis)、フェシウム菌(Enterococcus faecium)、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、及びリステリア・イバノビイ(Listeria ivanovii)が含まれる。
【0043】
本発明の環状抗微生物ペプチドをそれに対して使用し得るグラム陰性細菌の例には、これらに限定されないが、ボルデテラ属、サルモネラ属、エンテロバクター属、クレブシエラ属、赤痢菌属、エルシニア属、大腸菌、ビブリオ属、シュードモナス属、ナイセリア属、ヘモフィルス属、又はアグロバクテリウム属に属する細菌が含まれる。具体的には、本発明の環状抗微生物ペプチドは、ヒト又は他の哺乳動物に対して潜在的に病原性であるグラム陰性細菌に対して使用し得る。そのようなグラム陰性細菌には、これらに限定されないが、百日咳菌(Bordetella pertussis)、パラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)、気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)、シゲラ・ボイディ(Shigella boydii)、志賀赤痢菌(Shigella dysenteriae)、シゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)、ソンネ菌(Shigella sonnei)、エンテロバクター・エアロゲネス(Enterobacter aerogenes)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、エンテロバクター・サカザキ(Enterobacter sakazakii)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、ペスト菌(Yersinia pestis)、エンテロコリチカ菌(Yersina enterocolitica)、偽結核菌(Yersina pseudotuberculosis)、サルモネラ菌(Salmonella enterica)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、腸炎ビブリオ菌(Vibrio parahaemolyticus)、ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)、ビブリオ・フルビアリス(Vibrio fluvialis)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、ヘモフィルス・エジプチウス(Haemophilus aegypticus)、及び軟性下疳菌(Haemophilus ducreyi)が含まれる。
【0044】
したがって、本発明の抗微生物ペプチドは、感染力を改変するため、微生物を死滅させるため、又は微生物の成長若しくは機能を阻害するための殺菌剤及び/若しくは静菌剤として有用であり、したがってそのような微生物によって引き起こされた感染症又は汚染の処置に有用である。
【0045】
1- 治療的応用
A.適応症
本発明は、ヒト及びとりわけウマ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ラクダ等の他の哺乳動物の両方に関し、人の医学及び獣医学的な治療において適用可能である。
【0046】
したがって、本発明による環状抗微生物ペプチドは、グラム陽性細菌又はグラム陰性細菌によって引き起こされる又はそれが原因の任意の疾患又は状態の処置に使用し得る。細菌感染症には、これらに限定されないが、尿路感染症、皮膚感染症、腸管感染症、肺感染症、眼感染症、耳炎、副鼻腔炎、咽頭炎、骨関節感染症、性器感染症、歯性感染症、口腔感染症、敗血症、院内感染、細菌性髄膜炎、胃腸炎、胃炎、下痢、潰瘍、心内膜炎、性行為感染症、破傷風、ジフテリア、らい病、コレラ、リステリア症、結核、サルモネラ症、赤痢等が含まれる。細菌病は伝染性であり、血液中毒、腎不全、及び毒素ショック症候群等の多くの重篤又は生命にかかわる合併症をもたらす場合がある。
【0047】
本発明の処置方法は、本発明の環状抗微生物ペプチド又はその医薬組成物を使用して達成し得る。これらの方法は、一般に、有効量の少なくとも1つの環状抗微生物ペプチド又はその医薬組成物を、それを必要としている対象に投与することを含む。投与は、当業者に知られている方法のうちの任意のものを使用して行い得る。具体的には、環状抗微生物ペプチド又はその組成物は、これらに限定されないが、エアロゾル、非経口、経口、又は局所の経路を含めた様々な経路のうちの任意のものによって投与し得る。
【0048】
一般に、本発明の環状抗微生物ペプチド又はその組成物は、有効量、すなわちその意図する目的を満たすために十分な量で投与する。投与する環状抗微生物ペプチド又はその医薬組成物の正確な量は、処置する対象年齢、性別、体重、及び全体的な健康状態、所望の生物学的又は医学的応答等に応じて、対象毎に異なる。特定の実施形態では、有効量とは細菌感染症を防止するものである。他の実施形態では、効率的な量とは、微生物を死滅させる及び/又は細菌の成長若しくは機能を阻害することによって細菌感染症を処置するものである。ほとんどの実施形態では、有効量の環状抗微生物ペプチド又はその医薬組成物とは、そのためにそれを投与した障害の処置、たとえば、障害の症状の進行、増悪、若しくは悪化を遅くする若しくは止めること及び/又は障害の症状の寛解及び/又は障害の治癒をもたらすものである。本発明による処置の効果は、処置する疾患を診断するために当業界において公知のアッセイのうちの任意のものを使用してモニタリングし得る。
【0049】
特定の実施形態では、本発明の環状抗微生物ペプチド又はその組成物は、本発明の処置方法に従って単独で投与する。他の実施形態では、本発明の環状抗微生物ペプチド又はその組成物は、少なくとも1つの追加の治療剤又は治療手順と組み合わせて投与する。環状抗微生物ペプチド又は組成物は、追加の治療剤若しくは治療手順を投与する前、治療剤若しくは手順と同時に、及び/又は追加の治療剤若しくは手順を投与した後に投与し得る。
【0050】
本発明の環状抗微生物ペプチド又はその組成物と組み合わせて投与し得る治療剤は、環状抗微生物ペプチドをそのために投与する感染症の処置において有益な効果を有することが知られている化合物、処置する感染症に関連する状態又は症状に対して活性であることが知られている化合物、並びに環状抗微生物ペプチドの利用能及び/又は活性を増加させる化合物を含めた、多種多様の生物活性化合物の中から選択し得る。そのような生物活性化合物の例には、これらに限定されないが、抗炎症剤、免疫調節剤、鎮痛剤、抗微生物剤、抗菌剤、抗生物質、抗酸化剤、消毒剤等が含まれる。
【0051】
本発明の環状抗微生物ペプチド又はその組成物の投与と組み合わせて行い得る治療手順には、これらに限定されないが、手術、カテーテル挿入、及び他の侵襲性治療手順が含まれる。実際、本発明の環状抗微生物ペプチドは、尿カテーテルの使用又は中心静脈カテーテルの使用に関連する細菌感染症を防止するために使用し得る。また、硬膏剤、接着剤、縫合糸、又は創傷被覆材中の本発明の環状抗微生物ペプチドは、手術後の感染症の防止にも使用し得る。
【0052】
B.投与
所望の用量の、本発明の環状抗微生物ペプチド(任意選択で1つ又は複数の適切な薬学的に許容される担体又は賦形剤と配合した後)は、それを必要としている対象に、任意の適切な経路によって投与することができる。錠剤、カプセル、注射用溶液、リポソーム内へのカプセル封入、微粒子、マイクロカプセル等の様々な送達系が知られており、本発明の環状抗微生物ペプチドを投与するために使用することができる。投与方法には、これらに限定されないが、真皮、皮内、筋肉内、腹腔内、病巣内、静脈内、皮下、鼻腔内、肺、硬膜外、眼球、及び経口の経路が含まれる。本発明の環状抗微生物ペプチド又はその組成物は、任意の好都合又は他の適切な経路によって、たとえば、輸液又はボーラス注射によって、上皮又は粘膜皮膚の内層を介した吸着によって(たとえば、経口、粘膜、直腸、及び腸管粘膜等)投与し得る。投与は全身性又は局所的であることができる。非経口投与は、カテーテル挿入によって等、患者の所定の組織に向け得る。当業者には理解されるように、本発明の環状抗微生物ペプチドを追加の治療剤と共に投与する実施形態では、環状抗微生物ペプチド及び治療剤は、同じ経路によって(たとえば経口)又は異なる経路によって(たとえば経口及び静脈内)投与し得る。
【0053】
上述のように、本発明の環状抗微生物ペプチド(任意選択で1つ又は複数の適切な薬学的に許容される担体又は賦形剤と配合した後)は、代替として、コーティング、包帯、硬膏剤、縫合糸、カテーテル、針、接着剤、創傷被覆材、又は移植片中に取り込ませて投与し得る。
【0054】
C.用量
本発明の環状抗微生物ペプチド(又はその組成物)の投与は、送達される量が意図する目的に有効であるような用量で行う。投与経路、配合、及び投与する用量は、所望の治療効果、処置する疾患の重篤度、患者の年齢、性別、体重、及び全体的な健康状態、使用する環状抗微生物ペプチドの効力、生体利用度、及びin vivo半減期、併用治療の使用(又は使用しないこと)、並びに他の臨床学的因子に依存する。これらの因子は、治療の過程で担当医が容易に決定することができる。その代わりに又はそれに加えて、投与する用量は、動物モデルを使用した研究から決定することができる。これら又は他の方法に基づいて最大の有効性を達成するために用量を調節することは当業界において周知であり、訓練を受けた医師の能力範囲内にある。本発明の環状抗微生物ペプチドを使用した研究が行われるにつれて、適切な用量レベル及び処置期間に関してさらなる情報が明らかとなる。
【0055】
本発明による処置は単一用量又は複数用量からなり得る。したがって、本発明の環状抗微生物ペプチド又はその組成物の投与は、一定期間の間一定であるか、又は周期的且つ特定の間隔、たとえば、1時間に1回、1日1回、週に1回(又は何らかの他の日数間隔)、月に1回、年に1回(たとえば持続放出形態)であり得る。或いは、送達は、所定の期間内に複数回、たとえば、週に2回以上、月に2回以上等で起こり得る。送達は、一定期間の間の連続的な送達、たとえば静脈内送達であり得る。
【0056】
2- 洗浄、消毒、除染の応用
また、本発明の環状抗微生物ペプチドは、無生物の(生きていない)物体上に細菌汚染が存在しないことが所望される、任意の応用においても使用し得る。そのような無生物の物体の例には、これらに限定されないが、医療装置(たとえば、機器、器具、移植片、コンタクトレンズ、白衣、医療衣、手袋等)、病院内の手術室、研究室、産業施設、公共の場、又は民間住宅における表面(たとえば、床、家具等)が含まれる。
【0057】
したがって、本発明は、本発明の環状抗微生物ペプチドの消毒剤としての使用を提供する。また、本発明は、物体の表面を有効量の本発明の環状抗微生物ペプチドと接触させる工程を含む、物体の表面を洗浄若しくは消毒する方法、又は物体の表面の細菌汚染を防止する方法も提供する。
【0058】
環状抗微生物ペプチドを洗浄液又は製品中に含ませ得る。したがって、本発明は、少なくとも1つの本明細書に記載の環状抗微生物ペプチドを含む、洗浄液又は洗浄製品を提供する。洗浄製品は洗浄パッド又は洗浄ワイプであり得る。
【0059】
無生物の物体の他の例には、パーソナルケア製品(たとえば、石鹸、シャンプー、歯磨き粉、脱臭剤、日焼け止め、タンポン、オムツ等)、及び化粧品を含めた、人体に接触する製品が含まれる。環状抗微生物ペプチドを製品中に含ませ得るか、又は製品を環状抗微生物ペプチドに浸す、それをスプレーする、又はコーティングし得る。
【0060】
III- 製品及び医薬組成物
上述のように、治療的応用において、本発明の環状抗微生物ペプチドは、それ自体で又は医薬組成物として投与し得る。したがって、本発明は、有効量の少なくとも1つの環状抗微生物ペプチドと少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。一部の実施形態では、組成物は1つ又は複数の追加の生物活性剤を更に含む。
【0061】
環状抗微生物ペプチド及びその医薬組成物は、任意の量で、且つ所望の予防的及び/又は治療効果を達成するために有効な任意の投与経路を使用して投与し得る。最適な医薬配合物は、投与経路及び所望の用量に応じて変動する場合がある。そのような配合物は、投与した活性成分の物理的状態、安定性、in vivo放出速度、及びin vivoクリアランス速度に影響を与え得る。
【0062】
本発明の医薬組成物は、投与の容易性及び用量の均一性のために、単位剤形で配合し得る。本明細書で使用する表現「単位剤形」とは、処置する患者のための、物理的に分離された単位の環状抗微生物ペプチドをいう。しかし、組成物の合計1日用量は、担当医によって正しい医学的判断の範囲内で決定されることが理解されよう。
【0063】
A.配合物
注射用調製物、たとえば、無菌的注射用水性又は油性懸濁液は、既知の技術に従って、適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁剤を使用して配合し得る。また、無菌的注射用調製物は、無毒性の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒中の無菌的注射用溶液、懸濁液又は乳濁液、たとえば2,3-ブタンジオール中の溶液であってもよい。用い得る許容されるビヒクル及び溶媒の中には、水、リンゲル液、U.S.P.、及び等張塩化ナトリウム溶液がある。更に、無菌的な不揮発性油が溶液又は懸濁媒として慣習的に用いられている。この目的のために、合成モノ又はジグリセリドを含めた任意の無刺激の不揮発性油を用いることができる。また、オレイン酸等の脂肪酸も注射用配合物の調製に使用し得る。無菌的液体担体は、非経口投与のための無菌的な液体形態の組成物において有用である。
【0064】
注射用配合物は、たとえば、細菌保持フィルターを通した濾過によって、又は、使用前に滅菌水若しくは他の無菌的注射用媒体中に溶解若しくは分散させることができる、無菌的固形組成物の形態の滅菌剤を取り込ませることによって滅菌することができる。無菌的な溶液又は懸濁液である液体医薬組成物は、たとえば、静脈内、筋肉内、腹腔内、又は皮下注射によって投与することができる。注射は、単一プッシュによるもの、又は緩やかな輸液によるものであり得る。必要又は所望される場合は、注射部位での痛みを和らげるための局所麻酔剤を組成物に含め得る。
【0065】
活性成分の効果を引き延ばすためには、多くの場合、皮下又は筋肉内注射からの成分の吸収を遅くすることが望ましい。非経口投与した活性成分の吸収の遅延は、成分を油状ビヒクル中に溶解又は懸濁させることによって達成し得る。注射用デポー形態は、ポリ乳酸-ポリグリコリド等の生分解性ポリマー中にマイクロカプセル封入された活性成分のマトリックスを形成することによって作製する。活性成分対ポリマーの比及び用いる特定のポリマーの性質に応じて、成分の放出速度を制御することができる。他の生分解性ポリマーの例には、ポリ(オルトエステル類)及びポリ(酸無水物類)が含まれる。また、デポー注射用配合物は、活性成分を体組織と適合性のあるリポソーム又はマイクロエマルジョン中に封入することによっても調製することができる。
【0066】
経口投与のための液体剤形には、これらに限定されないが、薬学的に許容される乳濁液、マイクロエマルジョン、液剤、懸濁液、シロップ、エリキシル、及び加圧組成物が含まれる。環状抗微生物ペプチドに加えて、液体剤形は、たとえば、水又は他の溶媒、可溶化剤、及び乳化剤、たとえば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(具体的には、綿実油、ラッカセイ油、トウモロコシ油、胚芽オイル、オリーブオイル、ヒマシ油、及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール類、並びにソルビタンの脂肪酸エステル及びその混合物等の、当業界において一般的に使用されている不活性の希釈剤を含有し得る。不活性の希釈剤の他に、経口組成物には、湿潤剤、懸濁剤、保存料、甘味料、香味料、及び香料、増粘剤、着色剤、粘度調整剤、安定化剤、又は浸透圧調整剤等のアジュバントも含めることができる。経口投与のための適切な液体担体の例には、水(潜在的に上述の添加剤、たとえばセルロース誘導体類を含有する、たとえばカルボキシメチルセルロースナトリウム溶液)、アルコール類(一価アルコール及びグリコール類等の多価アルコールが含まれる)、それらの誘導体、並びに油(たとえば、分留ヤシ油及びラッカセイ油)が含まれる。加圧組成物には、液体担体はハロゲン化炭化水素又は他の薬学的に許容される噴霧剤であることができる。
【0067】
経口投与のための固形剤形には、たとえば、カプセル、錠剤、丸薬、粉末、及び顆粒が含まれる。そのような固形剤形では、本発明の環状抗微生物ペプチドを、クエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウム等の少なくとも1つの不活性な薬学的に許容される賦形剤又は担体、及び以下のうちの1つ又は複数と混合し得る:(a)デンプン類、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、及びケイ酸等の充填剤又は増量剤、(b)たとえば、カルボキシメチルセルロース、アルギネート類、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、及びアカシア等の結合剤、(c)グリセロール等の湿潤剤、(d)寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモ又はタピオカデンプン、アルギン酸、特定のシリケート類、及び炭酸ナトリウム等の崩壊剤、(e)パラフィン等の溶液遅延剤、第四級アンモニウム化合物類等の吸収加速剤、(g)たとえば、セチルアルコール及びモノステアリン酸グリセロール等の湿潤剤、(h)カオリン及びベントナイトクレイ等の吸収剤、並びに(i)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固形ポリエチレングリコール類、ラウリル硫酸ナトリウム、及びその混合物等の潤滑剤。固形配合物に適した他の賦形剤には、非イオン性及び陰イオンの表面修飾剤等の表面修飾剤が含まれる。表面修飾剤の代表的な例には、これらに限定されないが、ポロキサマー188、塩化ベンザルコニウム、ステアリン酸カルシウム、セトステアリルアルコール、セトマクロゴール乳化ろう、ソルビタンエステル類、コロイド状二酸化ケイ素、ホスフェート類、ドデシル硫酸ナトリウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、及びトリエタノールアミンが含まれる。カプセル、錠剤、及び丸薬の場合は、剤形は緩衝剤を含んでいてもよい。
【0068】
また、同様の種類の固形組成物は、ラクトース又は乳糖等の賦形剤及び高分子量ポリエチレングリコール類等を使用して、軟及び硬ゼラチンカプセルにおける充填剤としても用い得る。錠剤、糖衣錠、カプセル、丸薬、及び顆粒の固形剤形は、腸溶コーティング、放出制御コーティング、及び薬学的配合物分野で周知の他のコーティング等のコーティング及びシェルを用いて調製することができる。これらは、任意選択で乳白剤を含有していてもよく、また、活性成分のみを放出する、又は好ましくは腸管の特定の部分において、任意選択で遅延された様式で放出するような組成であることができる。使用することができる包埋用組成物の例には、ポリマー物質及びワックスが含まれる。
【0069】
特定の実施形態では、本発明の組成物を、処置を必要としている領域に局所的に投与することが望ましい場合がある。これは、たとえば、これらに限定されないが、手術中の局所輸液、局所的施用、注射、カテーテル、坐薬、或いは皮膚パッチ若しくはステント又は他の移植片によって達成し得る。
【0070】
局所投与には、組成物は、好ましくは、水、グリセロール、アルコール、プロピレングリコール、脂肪アルコール類、トリグリセリド類、脂肪酸エステル類、又は鉱物油等の担体等を含めることができる、ゲル、軟膏、ローション、又はクリームとして配合される。他の局所用担体には、液体石油、パルミチン酸イソプロピル、ポリエチレングリコール、エタノール(95%)、水中のポリオキシエチレンモノラウレート(5%)、又は水中のラウリル硫酸ナトリウム(5%)が含まれる。抗酸化剤、湿潤剤、粘度安定化剤、及び同様の薬剤等の他の材料を必要に応じて加え得る。
【0071】
更に、特定の事例では、本発明の組成物は、皮膚上、皮膚内、又は皮下に設置される経皮装置内に配置され得ることが予想される。そのような装置には、受動的又は能動的な放出機構のどちらかによって活性成分を放出するパッチ、移植片、及び注射剤が含まれる。経皮投与には、身体の表面並びに上皮及び粘膜組織を含めた身体の道管の内層にわたる、すべての投与が含まれる。そのような投与は、ローション、クリーム、フォーム、パッチ、懸濁液、液剤、並びに坐薬(直腸及び経膣)中の本組成物を使用して実施し得る。
【0072】
経皮投与は、活性成分(すなわち環状抗微生物ペプチド)と皮膚に無毒性である担体とを含有し、成分を送達して皮膚を介した血流内への全身性吸収を可能にする、経皮パッチの使用によって達成し得る。担体は、クリーム及び軟膏、ペースト、ゲル、及び密封装置等の、任意の数の形態をとり得る。クリーム及び軟膏は、水中油又は油中水のいずれかの種類の、粘稠な液体又は半固体の乳濁液であり得る。活性成分を含有する、石油中に分散された吸収性粉末又は親水性石油からなるペーストが適切であり得る。担体を含む若しくは含まない活性成分を含有するリザーバーを覆った半透膜、又は活性成分を含有するマトリックス等、活性成分を血流内に放出するための様々な密封装置を使用し得る。
【0073】
坐薬配合物は、坐薬の融点を変更するためにワックスを添加した又は添加しないカカオ脂、及びグリセリンを含めた、従来の材料から作製し得る。また、様々な分子量のポリエチレングリコール類等の水溶性の座薬基剤も使用し得る。
【0074】
様々な配合物を生成するための材料及び方法が当業界において公知であり、対象発明を実施するために適応させ得る。抗体を送達するための適切な配合物は、たとえば「Remington's Pharmaceutical Sciences」、E.W. Martin、第18版、1990、Mack Publishing Co.:ペンシルバニア州Easton中に見つけることができる。
【0075】
B.追加の生物活性剤
特定の実施形態では、本発明の環状抗微生物ペプチドは本発明の医薬組成物中の唯一の活性成分である。他の実施形態では、医薬組成物は1つ又は複数の生物活性剤を更に含む。適切な生物活性剤の例には、これらに限定されないが、抗炎症剤、免疫調節剤、鎮痛剤、抗微生物剤、抗菌剤、抗生物質、抗酸化剤、消毒剤、及びその組合せが含まれる。
【0076】
そのような医薬組成物では、環状抗微生物ペプチド及び少なくとも1つの追加の治療剤は、環状抗微生物ペプチド及び治療剤の同時、別々、又は順次の投与のために1つ又は複数の調製物中で合わせ得る。より詳細には、本発明の組成物は、環状抗微生物ペプチド及び治療剤を一緒に又は互いに独立して投与することができるように配合し得る。たとえば、環状抗微生物ペプチド及び治療剤は、単一の組成物中に配合することができる。或いは、これらを維持し(たとえば異なる組成物及び/又は容器中で)、別々に投与し得る。
【0077】
C.本発明の環状抗微生物ペプチドを含む製品
また、本発明は、上記で定義した本発明の環状抗微生物ペプチド又はその医薬組成物を含む製品にも関する。製品は、包帯、硬膏剤、縫合糸、接着剤、創傷被覆材、移植片、コンタクトレンズ、洗浄液、保存液(たとえば、コンタクトレンズ又は医療装置用)、洗浄製品(たとえば洗浄パッド又はワイプ)、パーソナルケア製品(たとえば、石鹸、シャンプー、歯磨き粉、日焼け止め、タンポン、オムツ等)、並びに化粧品から選択され得る。
【0078】
本発明の環状抗微生物ペプチドを含む製品は、任意の適切な方法によって調製し得る。一般に、調製方法は物体の性質に依存する。たとえば、本発明の環状抗微生物ペプチド又はその医薬組成物は、混合によって製品に添加し得るか、又は、製品を環状抗微生物ペプチドの溶液内に浸す、製品を環状抗微生物ペプチドでコーティングする、若しくは製品に環状抗微生物ペプチドの溶液をスプレーすることによって、製品に取り込ませる若しくは施用し得る。
【0079】
D.薬学的パック又はキット
別の態様では、本発明は、本発明の医薬組成物の1つ又は複数の成分を含有する1つ又は複数の容器(たとえば、バイアル、アンプル、試験管、フラスコ、又はボトル)を含んでおり、本発明の環状抗微生物ペプチドの投与を可能にする、薬学的パック又はキットを提供する。
【0080】
薬学的パック又はキットの異なる成分は、固形(たとえば凍結乾燥)又は液体の形態で供給し得る。一般に、それぞれの成分は、そのそれぞれの容器中に適切に分取されているか、濃縮形態で提供される。本発明によるパック又はキットには、凍結乾燥成分を再構成するための媒体が含まれ得る。キットの個々の容器は、好ましくは、販売用に厳重管理下で維持されている。
【0081】
特定の実施形態では、パック又はキットには1つ又は複数の追加の治療剤が含まれる。容器には、任意選択で、薬学的又は生物学的製品の製造、使用又は販売を管理する行政機関によって規定された様式の注意書き又は添付文書を関連づけることができ、その注意書きは、ヒト投与のための製造、使用又は販売に関する行政機関による承認を反映している。添付文書の注意書きは、本明細書に開示した処置方法に従った、医薬組成物の使用説明書を含有し得る。
【0082】
識別子として、たとえば、バーコード、高周波、IDタグ等がキット中又はキット上に存在し得る。識別子は、たとえば、品質管理、在庫管理、ワークステーション間の移動の追跡等の目的でキットを一意的に同定するために使用することができる。
【実施例
【0083】
以下の実施例は、本発明を作製及び実施するための一部の好ましい態様を記載する。しかし、例は例示目的のみであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではないことを理解されたい。更に、実施例中の説明が過去形で提示されていない限りは、本文は、明細書の残りの部分と同様、実験を実際に行った又はデータを実際に取得したことを示唆することを意図しない。
【0084】
以下に提示する結果の一部は、論文中に記載されている(Soleckietら「Converting a Staphylococcus aureus Toxin into Effective Cyclic Pseudopeptide Antibiotics」、出版のため2014年10月にChemistry and Biology誌に提出する)。この科学論文の内容全体は、参照としてその全体が本明細書に組み込まれる。
【0085】
材料及び方法
化学薬品。Fmoc保護されたアミノ酸はNovabiochem社及びIris Biotech社(ドイツ、Marktredwitz)からのものであった。H-RinkアミドChemMatrix樹脂はSigma-Aldrich社から、TBTUはIris Biotech社からのものであった。ペプチド合成及びHPLC用の溶媒はCarlo Erba-SdS社(スペイン、Sabadell)からのものであった。TFAはFluorochem Ltd社(英国、Derbyshire)からのものであった。すべての他の化学薬品は、Sigma-Aldrich社から、入手可能な最高品質のものを購入した。Pep C-terはProteogenix社からのものであった。
【0086】
自動固相合成。直鎖ペプチド及び擬ペプチドの合成はNα-Fmoc-アミノ酸類、Nβ-Fmoc-アザ-β3-アミノ酸類(Laurencinら、J Med Chem.、2012、55(24):10885~10895頁)、及びRinkアミド樹脂(100~200メッシュ、0.79mmol/g)を使用して達成したが、ネイティブペプチドPepA1ではH-RinkアミドChem Matrix樹脂を使用した(0.5mmol/g)。ペプチドは100μmolスケールで合成した。ペプチドは、Liberty-12チャネル合成機(CEM μWaves社)上で実行した自動Fmoc合成プロトコルによって、樹脂上に構築した。手短に述べると、Fmoc基を、ピペリジン/DMF(20%)を用いて、短いサイクル(40W、75℃、60秒間)、次いで長いサイクル(40W、75℃、180秒間)を使用して除去した。DMF洗浄の後、カップリングを、Fmoc-アミノ酸の0.2M溶液を用いて、0.5MのTBTU及び2MのDIPEAの存在下、30W、68℃で5分間実施した。Fmoc-Arg(Pbf)は、0W、25℃で25分間の長いサイクル、次いで30W、68℃で5分間の短い1サイクルからなる追加のカップリング工程を必要とした。Fmoc-His(Trt)では、ラセミ化を回避するために脱保護を50℃で行い、やはりラセミ化を回避するため、0W、50℃で2分間の初期工程、次いで30W、50℃で4分間の別の工程からなる特異的カップリングサイクルを使用した。合成が完了した後、N-脱遮断したペプチド樹脂の側鎖を脱保護し、TFA/H2O/TIS(95:2.5:2.5、3時間)を使用して、穏やかな周回振盪を用いて樹脂から切断した。混合物を濾過した後、冷ジエチルエーテルを添加することによってペプチドを沈殿させ、4℃で遠心分離し(3000g、10分間)、上清を廃棄した。
【0087】
ペプチドをXTerra C18カラム(4.6×100mm、3.5μm)上のRP-HPLCによって、600 PDA及びEmpowerソフトウェアを備えたWaters社の2696システムにおいて分析した。溶媒A及びBはH2O及びMeCN中のそれぞれ0.1%及び0.08%(v/v)のTFAであった。40分間にわたるBからAへの直線的5~60%勾配及び10分間にわたるBからAへの60~95%を1mL/分の流速で溶出に使用し、UV検出を215nmで行った。調製用RP-HPLCは、XTerra C18カラム(19×300mm、10μm、Waters社)上で、Waters社の600システムにおいて行った。溶媒A及びBは、それぞれH2O中に0.1%のTFA(v/v)及びMeCN中に0.08%のTFA(v/v)であった。40分間にわたるBからAへの直線的5~60%の勾配及び10分間にわたるBからAへの60~95%を10mL/分の流速で溶出に使用し、UV検出は215nmであった。PepA1及びPep N-terの疎水性が原因で、同条件下でアセトニトリルの代わりにメタノールを使用した。合成ペプチドの均一性及び同一性は、分析用C18逆相HPLCによって評価した。ペプチドは、MALDI-TOF(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間)Daltonics smicroflex LT(Bruker社)上での質量分析によって、同一性について十分に確認した。
【0088】
H-MLIFVHIIAPVISGCAIAFFSYWLSRRNTK-NH2(PepA1-配列番号15):精製後の収率4%、白色粉末、RP-HPLC Rt:40.6分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値3452.80[M+H+]、計算値:3452.88[M+H+]。
【0089】
H-MLIFVHIIAPVISGCAIA-NH2(Pep N-ter-配列番号16):精製後の収率%、白色粉末、RP-HPLC Rt:30.5分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1867.32[M+H+]、計算値:1867.06[M+H+]。
【0090】
H-FFSYWLSRRNTK-NH2(Pep1-配列番号17):精製後の収率45%、白色粉末、RP-HPLC Rt:26.8分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1603.74[M+H+]、計算値:1603.85[M+H+]。
【0091】
H-FFSYWLSRRTK-NH2(Pep2-配列番号18):精製後の収率32%、白色粉末、RP-HPLC Rt:30.5分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1489.98[M+H+]、計算値:1489.81[M+H+]。
【0092】
H-FFSWLSRRTK-NH2(Pep3-配列番号19):精製後の収率41%、白色粉末、RP-HPLC Rt:21.6分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1326.74[M+H+]、計算値:1326.74[M+H+]。
【0093】
H-FFWLSRRTK-NH2(Pep4-配列番号20):精製後の収率31%、白色粉末、RP-HPLC Rt:24.8分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1239.70[M+H+]、計算値:1239.71[M+H+]。
【0094】
H-FFWLSRTK-NH2(Pep5-配列番号21):精製後の収率58%、白色粉末、RP-HPLC Rt:30.5 20.8分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1089.60[M+H+]、計算値:1089.61[M+H+]。
【0095】
H-FFWLRRΨHytK-NH2(Pep9-配列番号22):精製後の収率28%、白色粉末、RP-HPLC Rt:18分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1197.79[M+H+]、計算値:1197.70[M+H+]。
【0096】
環状ペプチドでは、塩化2-クロロトリチル(CTC)樹脂を使用した。典型的には、塩化2-クロロトリチル樹脂(100~200メッシュ、1.2mmol/g、1g)を乾燥ジクロロメタン(DCM)(10mL)中で10分間膨潤させた。最初の単量体は、乾燥DCM(10mL)及びDIPEA(4当量)中のNα-Fmoc-アミノ酸(1.2当量)の溶液を、穏やかな周回振盪を用いて4時間、室温、窒素下で加えることによって、樹脂上に付着させた。ローディング樹脂を、ジメチルホルムアミド(DMF)(5×10mL)、乾燥DCM(3×10mL)、その後、DCM/MeOH/DIPEAの混合物(17/2/1)(2×10mL)、最後にDMF(3×10mL)で洗浄した。ローディング工程の収率は、ジベンゾフルベン-ピペリジン付加物の吸収(λmax=301nm)に基づいて決定した。環状ペプチドを、既に記載したものと同じプロトコルを用いて合成した。合成の終わりに、樹脂をDCMで洗浄し、乾燥させ、その後、DCM中の3%のTFAの溶液(30mL)を用いて20分間、室温で処理した。その後、樹脂スラリーを濾過した。切断溶液をN-メチルモルホリンの溶液で中和し、生じた溶液をDCM(170mL)で希釈した。直鎖ペプチドを、DCM中のEDC、HOBt(4当量)、及びDIEA(4当量)の溶液にゆっくりと加えた(10-4Mの最終濃度まで)。生じた混合物を2日間攪拌した。粗混合物を真空下で部分的に濃縮した(100mL)。生じた溶液を0.5MのHCl、水、及び飽和塩化ナトリウムで洗浄した。有機相を硫酸ナトリウム下で乾燥させ、その後、濃縮した。10mLのTFA/H2O/TISの溶液を用いた側鎖の脱保護(95:2.5:2.5、3時間)、ペプチドの精製及び特徴づけを、既に記載したものと同じように行った。
【0097】
(FFWLSRRTK)(Pep6-配列番号1):精製後の収率3%、白色粉末、RP-HPLC Rt:33.0分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1229.69[M+H+]、計算値:1229.69[M+H+]。
【0098】
(FFWSRRTK)(Pep7-配列番号2):精製後の収率12%、白色粉末、RP-HPLC Rt:26.8分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1110.92[M+H+]、計算値:1110.92[M+H+]。
【0099】
(FFWRRTK)(Pep8-配列番号3):精製後の収率8%、白色粉末、RP-HPLC Rt:26.8分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1110.92[M+H+]、計算値:1110.92[M+H+]。
【0100】
(FFWLRRΨHytK)(Pep10-配列番号4):精製後の収率6%、白色粉末、RP-HPLC Rt:29.2分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1180.67[M+H+]、計算値:1180.67[M+H+]。
【0101】
(FFWRRΨHytK)(Pep11-配列番号5):精製後の収率16%、白色粉末、RP-HPLC Rt:26.8分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1067.35[M+H+]、計算値:1067.59[M+H+]。
【0102】
(Ψ1Nal-FWRR-ΨHyt-K)(Pep12-配列番号6):精製後の収率22%、白色粉末、RP-HPLC Rt:22.1分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1155.62[M+Na+]、計算値:1132.62[M+H+]。
【0103】
(FF-Ψ1Nal-WRR-ΨHyt-K)(Pep13-配列番号7):精製後の収率25%、白色粉末、RP-HPLC Rt:21.9分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1093.60[M+H+]、計算値:1093.61[M+H+]。
【0104】
(Ψ2Nal-F-Ψ2Nal-RR-ΨHyt-K)(Pep14-配列番号8):精製後の収率18%、白色粉末、RP-HPLC Rt:26.2分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1156.46[M+Na+]、計算値:1143.62[M+H+]。
【0105】
(FFΨ2-Nal-RR-ΨHyt-K)(Pep15-配列番号9):精製後の収率17%、白色粉末、RP-HPLC Rt:26.2分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1093.52[M+H+]、計算値:1093.61[M+H+]。
【0106】
(Ψ2Nal-F-Ψ2Nal-RR-ΨV-K)(Pep16-配列番号10):精製後の収率21%、白色粉末、RP-HPLC Rt:27.2分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1226.69[M+H+]、計算値:1226.64[M+H+]。
【0107】
(Ψ1Nal-F-Ψ1Nal-RR-ΨGlyco-K)(Pep17-配列番号11):精製後の収率7%、白色粉末、RP-HPLC Rt:22.8分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1234.79[M+Na++K+]、計算値:1173.67[M+H+]。
【0108】
(FFWRRVK)(Pep18-配列番号12):精製後の収率11%、白色粉末、RP-HPLC Rt:23.3分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1020.62[M+H+]、計算値:1020.60[M+H+]。
【0109】
(Ψ1Nal-F-Ψ1Nal-RRVK)(Pep19-配列番号13):精製後の収率17%、白色粉末、RP-HPLC Rt:26.5分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1111.83[M+H+]、計算値:1111.63[M+H+]。
【0110】
(ΨF-F-Ψ1Nal-RR-ΨHyt-K)(Pep20-配列番号14):精製後の収率27%、白色粉末、RP-HPLC Rt:23.6分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1108.81[M+H+]、計算値:1108.62[M+H+]。
【0111】
H-Ψ2Nal-F-Ψ2Nal-RR-ΨV-K-NH2(Pep21-配列番号23):精製後の収率38%、白色粉末、RP-HPLC Rt:25.6分、MALDI-TOF MS質量:m/z実測値1015.65[M+H+]、計算値:1015.61[M+H+]。
【0112】
ヒト血清中におけるペプチドの安定性。ナイシン、メリチン及び合成ペプチドの安定性を、記載されているようにin vitroで試験した(Laurencinら、J Med Chem.、2012、55(24):10885~10895頁)。典型的には、1.5mLのエッペンドルフチューブ内の1.35mLの25%ヒト血清を37±1℃で15分間プレインキュベートした後、150μLのペプチド又は擬ペプチドのストック溶液(水中に10-2M)を加えて、最終ペプチド濃度を10-4mmol/mLとした。最初の時間を記録し、既知の時間間隔で、100μLの反応溶液を取り出し、200μLの95%のEtOHを加えることによって反応停止させ、ペプチドがヒト血清のタンパク質に吸着することの影響を排除するためにpH=2に調節した。濁った反応試料を15分間冷却し(4℃)、その後、14000rpmで4分間遠心(エッペンドルフ遠心分離)して沈殿した血清タンパク質をペレット化した。遠心分離後、上清を収集し、蒸発させ、100μLのH2Oで希釈し、その後、水-0.08%のTFA(A)/アセトニトリル-1%のTFA(B)の直線勾配(45分間で5~95%のB、1mL/分、25℃、214nm及び280nm)を使用したC18 XTerra(4.6mm×250mm、5μm)カラム上でのRP-HPLCによって分析した。メリチン、ナイシン、及び合成ペプチドでは、HPLCピーク面積を使用して、インキュベーション中の様々な時点で残存する未変化の化合物のパーセンテージを計算した。
【0113】
抗細菌アッセイ。合成したペプチドの抗細菌活性を、標準の微量希釈アッセイを使用して測定した。2つの細菌種、すなわち黄色ブドウ球菌株Newman及び大腸菌株K12 XL-Blueを試験した。細菌株をミュラー-ヒントンブロス中で継代培養した。この培地中では、どちらの株も同じ効率、同じ物理的状態で成長したことが確認された。細菌を0.5の光学密度(600nm)まで成長させ、MHブロスで103倍希釈した。ウェル内の細胞密度は105cfu/mLであった。100μLのこの懸濁液を、マイクロタイタープレートのウェル内で100μLのペプチドの2倍段階希釈と混合した。精製したペプチドを、まずマイクロタイタープレート内において適切な溶媒で2mg/mLの最終濃度まで溶解し、MHブロス中で1から0.004mg/mLの希釈液を作製した。成長を阻害した精製したペプチドの最小濃度と定義されるMICを、BioTekプレートリーダー中で20時間、37℃でインキュベーションした後に決定した。また、参照のために、ナイシン(乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)由来のナイシン、Sigma-Aldrich社)も細菌株に対して試験した。大腸菌に対する試験では、EDTAをナイシンに最終濃度20mMで加えた。最小殺菌濃度を決定するために、MIC付近のウェル中の細菌懸濁液をBHI寒天上に蒔き、24時間、37℃でインキュベートした。コロニーが観察されなかったペプチド濃度をMBCとして定義した。適切な比較のために、質量濃度で得られた結果をモル濃度に変換した。試験は3つ組で行った。
【0114】
ヒト赤血球に対する溶解活性。ヒト血液をRennes(フランス)のEFS(「Etablissement Francais du Sang」)から収集した。赤血球(RBC)をPBS緩衝液中に最終濃度3%に戻した。100μLのこの懸濁液を、v底を有するマイクロタイタープレート内で100μLの精製したペプチドの2倍段階希釈、PBS緩衝液中に1から0.004mg/mLと混合した。これらのプレートを2時間、37℃でインキュベートした。遠心分離後、上清の吸光度を414nmで測定した。3つのウェルは、RBCを水中の1%のTriton X-100と混合した陽性対照であり、これらのウェルでは、RBC全体が溶血しており、ヘモグロビンの放出は100%であるとみなされた。3つのウェルは、RBCをPBS緩衝液と混合した陰性対照であり、これらのウェルでは、溶血はヌルであるとみなされた。それぞれの試験ウェルにおける溶血のパーセンテージは、対照と比較することによって計算した。それぞれのペプチドについて、3人の異なるドナー由来の血液を試験した。
【0115】
透過処理アッセイ。大腸菌の外膜及び内膜の透過性は、ラクトース透過酵素欠損である大腸菌株ML-35pを使用して決定した。ニトロセフィン、β-ラクタムは細胞外膜によって排除されるが、もしこれがAMPの作用のおかげでこの障壁を通過することができれば、これはその後、ペリプラズム内に局在するβ-ラクタマーゼによって切断される。ONPGはlac透過酵素を透過し、細胞質β-ガラクトシダーゼによって切断されるが、ML-35p大腸菌株では、透過処理が達成されない限りONPGは排除される。透過処理アッセイは、MHブロス中に100μLの細菌を用いて、A600nm 0.1~0.2(107cfu/mL、分解生成物を検出するために必要な密度)で実施した。105cfu/mLに対して6μM及び12μMの濃度の試験分子(それぞれMIC未満及び超MIC)を加えた後、ニトロセフィン(20μg/mLの最終濃度)の切断を500nmでの吸光測定によってモニタリングした。ONPGを100μg/mlの最終濃度で加え、基質の切断を420nmでの吸光測定によってモニタリングした。107cfu/mLに対して8μMのポリミキシンBを陽性対照として使用した。MHブロス+基質中の細菌懸濁液を陰性対照として使用した(未処理の細胞)。
【0116】
走査電子顕微鏡観察(SEM)。細菌株を、SEM分析に必要な細菌密度である108cfu/mLに相当するMHブロス中で0.5の光学密度(600nm)まで培養した。赤血球を溶血アッセイで使用したものと同じPBS緩衝液中に最終濃度3%に戻し、これはSEM分析に十分な密度である。ペプチドPepA1及びPep11を添加した後、試料を2時間、室温で静置した後、SEMの準備のために遠心分離した。ナイシンを用いて黄色ブドウ球菌に対して予備アッセイ行い、105cfu/mLに対して様々な濃度、すなわち3、6、10、30、及び100μMを試験した。6μMというわずかにMIC未満の濃度のみが、膜に対する効果の適切な画像の取得を可能にした。3μMの濃度では、効果は観察されたが稀であり、濃度の増加に伴って破裂した細胞の増加が観察された。したがって、本発明者らは、2つの細菌種を、両細菌種に対してPepA1ではわずかにMIC未満の濃度、すなわち6μM、Pep11では黄色ブドウ球菌及び大腸菌に対してそれぞれ6μM及び2μMに曝露することを選択した。RBCに関して、本発明者らは、Pep11ではMICにおいて溶血が起こらなかったことを知っており、したがって、細菌に対して使用した濃度はRBCに対する膜の効果を観察するために適応したものではなかった。また、本発明者らは、PepA1では50%の溶血、Pep11では10%が予想された、0.2mg/mLという同じ濃度を使用した両ペプチドの比較も望んだ。これは、PepA1及びPep11においてそれぞれ50μM及び160μMに相当する。SEM検査用の調製物は、細胞懸濁液の遠心分離(5分間で1000~3000g)後に得られた。試料は、0.1Mのカコジル酸緩衝液、pH7.2中の2.5%のグルタルアルデヒドを用いて、RBC又は細菌についてそれぞれ4時間又は20時間固定し、すすぎ、その後、2時間、同じ緩衝液中に1%のOsO4を用いて後固定し、均等に洗浄した。試料を2%の寒天に注意深く包埋し、その後、段階的な一連の漸増濃度のエタノール(50、70、90、及び100%v/v)中で脱水した。SEM観察には、Leica EM CPD 300を用いた準備で臨界点の乾燥に達した後に試料が得られた。試料をLeica EM ACE 200において金パラジウムで30秒間金属被覆した(表面上に数ナノメートル)。試料の観察は、SEM JEOL JSM 6301Fを使用して、7kV、15mmの作業距離で行った。
【0117】
結果
その発現が細菌細胞質内へ刺激された際、PepA1ペプチドは黄色ブドウ球菌膜内に蓄積され、これらの膜を破壊する(Sayedら、J. Biol. Chem.、2012、287:43454~43463頁)。興味深いことに、本発明者は、合成したPepA1がグラム陽性細菌(黄色ブドウ球菌)及びグラム陰性細菌(大腸菌)に対して抗細菌活性を示し、これらの2つの細菌に対して8μMの最小阻害濃度(MIC、Table 1(表1))及び16μMの最小殺菌濃度(MBC)を有することを見出した。しかし、ヒト赤血球に対する溶血活性も検出され、これはMICでの20%の溶血に相当することが見出された。
【0118】
PepA1のN末端(Pep N-ter)及びC末端(Pep C-ter)ドメインを化学合成し、その抗細菌活性を試験した。Pep N-terは、620μMの濃度まで2つの細菌種に対して検出可能な活性を示さないことが見出されたが、20%の溶血がその濃度で検出された(Table 1(表1))。しかし、Pep C-terは低い抗細菌活性を示すことが見出され(ナイシン及びPepA1のそれよりも15倍高いMIC)、約20%の溶血がMIC(150μM)で検出された。N末端での3つのアミノ酸(AIA)の欠失は12量体ペプチドであるPep1をもたらし、これはPep C-terよりも類似したMIC値を有することが見出された。興味深いことに、残基AIAの欠失はPep1の溶血活性を相当低下させた(1mg/mLという試験した最高濃度で約7%、約155μMのMICで約620μM及び0.5%の溶血)。しかし、黄色ブドウ球菌及び大腸菌に対するPep1 MICは、食品保存料として使用される34個のアミノ酸残基を有する参照抗菌ペプチドであるナイシンのそれよりも約16倍と高く保たれていた。
【0119】
様々な化学修飾(アミノ酸欠失、環化、修飾された非天然アミノ酸の導入等)をPep1に行い、抗細菌特性及びヒト赤血球に対する毒性を評価した(Table 1(表1)及びTable 2(表2)を参照されたい)。
【0120】
Pep2は、Pep1に類似の溶血性及び抗微生物活性を提示することが見出された。ペプチドPep1~Pep4は同様の活性を有する。Pep5の抗細菌有効性は低いことが見出され、黄色ブドウ球菌及び大腸菌に対するMICはPep4よりも2倍高かった。したがって、Pep4は、抗細菌活性を保持するが溶血性の副作用がない最小限の配列として保持された。顕著なことに、Pep5と比較して、黄色ブドウ球菌及び大腸菌細菌に対するPep6(環化後のPep4に相当する)のMICは10倍低下しており、残念ながらヒト赤血球に対して相当な溶血を伴っていた。Pep7はPep6と比較して1残基短く、その溶血活性をわずかに低下させる一方でその抗細菌活性を2倍増加させるロイシン疎水性残基を欠く。Pep7と比較して、Pep8は短く、セリン残基を欠いている。Pep8は、Pep7よりも溶血性が約10倍低く、抗菌性が約3倍高いことが見出された。Pep8環状ヘプタペプチドは、すべて天然の未修飾のアミノ酸を含有する最も活性のあるペプチドであることが見出された。環状Pep6は直鎖Pep4よりも4倍高い活性を有しており(Pep4とPep6とは同一配列である)、この環化に関連する増加した抗微生物活性は環状Pep10対直鎖Pep9でも検出された(Pep9とPep10は同一配列である)。
【0121】
【表1】
【0122】
セリンなしのPep4の配列から誘導された直鎖擬ペプチドである、スレオニンに置き換わってアザ-β3ホモヒドロキシスレオニンを含有するPep9を合成し、試験した。Pep4と比較して、Pep9ハイブリッド擬ペプチドは黄色ブドウ球菌に対して2倍低いMICを有するが、大腸菌に対しては同様の活性を有する。Pep9はヒト赤血球の検出可能な溶解を始動させなかった。Pep10(環化後のPep9に相当する)は、Pep9と比較して黄色ブドウ球菌及び大腸菌細菌に対してそれぞれ4倍及び7倍低いMICを有する一方で、ヒト赤血球に対してわずかに溶血性を保つことが見出された。Pep10と比較して、Pep11(ロイシン残基を欠く)は、本発明の2つのモデル細菌に対して溶血性が約6倍低く、約4倍高い抗細菌活性を有することが見出され、これは内部陽性対照として使用したナイシンのそれに匹敵する活性である。更に、ヘプタペプチドPep11は、MICをわずかに超える濃度(大腸菌及び黄色ブドウ球菌でそれぞれ8及び16μM)で殺菌性であり、治療指数は10を超えており、これはPep11が非常に有望な抗生物質候補であることを示唆している。
【0123】
ヒト血清中における環状擬ペプチドの増加した安定性。様々なペプチドをヒト血清と共に10時間までインキュベートし、その安定性を分析し、その半減期をRP-HPLCによって決定した(図1)。内部対照として、メリチン及びナイシンペプチドの半減期を決定したが、これらはどちらも非常に短い(それぞれ3.5±0.5分及び4.5±0.5分)。PepA1、Pep2、及びPep4直鎖ペプチドは、ヒト血清中で非常に不安定であり、2~3分間のインキュベーションで半分が分解されたことが見出された(図1)。直鎖Pep4と比較して、その環状形態(Pep6)は非常に顕著な約320倍の安定化効果を有する。顕著なことに、この一連のうちの最も活性のあるペプチドである環状Pep11は、PepA1親ペプチドよりもヒト血清中で約240倍高い安定性を有しており(図1)、新規抗細菌剤としてのその潜在性を暗示している。
【0124】
ペプチド誘導性の細菌死滅の機構。元(PepA1)及び操作したリードペプチド(Pep11)の、大腸菌の外膜及び内膜を透過する能力を、記載されているように色素原レポーターを介してモニタリングした(Junkesら、Eur. Biophys. J.、2011、40:515~528頁)。元の30残基の直鎖PepA1及びPep11環状ペプチドはどちらも大腸菌細胞の外膜及び内膜を透過し、その活性は匹敵する(図2)。グラム陽性黄色ブドウ球菌では、PepA1は細菌膜に局在し、細胞死を始動させる(Sayedら、Biol. Chem.、2012、287:43454~43463頁)。これらのデータは、PepA1もグラム陰性細菌のそれぞれの膜を透過する能力を有することを示している。陽性対照として使用したポリミキシンBと比較して、膜透過に対するPepA1及びPep11の作用の効率は低い。外膜に関して、レポーターの検出は、ポリミキシンBでは30秒後、PepA1及びPep11では2~3分後にのみ起こる。内膜では、レポーターは、ポリミキシンBでは20分後、PepA1及びPep11では35~40分後に検出された(図2)。直鎖PepA1及び環状Pep11は、構造的には異なるが、大腸菌の膜に対して同様の効率を有しており、これはMICの結果と相関している。細菌膜を透過するPepA1及びPep11の能力がそれらの殺菌効果を維持しており、これは、これらがどちらも内膜を不安定化させ、漏出性にするためである。
【0125】
ネイティブ及びリードペプチドに始動される細菌及びヒトの細胞の構造的変化。ペプチドの機能及び膜に対する作用に関する詳細な機構的な見識を得るために、走査電子顕微鏡観察(SEM)を行った。その機能の機構的な見識を提供するために、SEMを使用して、環状抗微生物ペプチドリーダー(Pep11)によって大腸菌、黄色ブドウ球菌、及びヒト赤血球に誘導された構造的変化を検査した。また、対照として、これらの細胞に対するPepA1の作用の分析も行った。未処理の黄色ブドウ球菌、大腸菌、及びヒト赤血球のSEM顕微鏡写真はそれぞれ約0.5、2、及び6μmの長さであり、滑らか且つ無傷の表面を示した(図3、対照)。MIC未満のPepA1とインキュベーションした後、細菌細胞を損傷させ、その細胞内容物が外部に放出された多くの破裂した細胞が存在していた(図3、PepA1)。細菌毒素について予想されていたように、同じ結果がヒト赤血球で観察され、低ペプチド濃度でヘモグロビン流出が顕著であった(図4)。興味深いことに、大腸菌及び黄色ブドウ球菌細胞をMIC未満のPep11とインキュベーションした後、様々な形状の複数の水疱が細胞表面上に検出された(図3、Pep11)。SEM画像は、Pep11は細菌外被を損傷させ、細胞融合、隆起気泡、小胞様体を誘導し、その細胞内容物は微量にしか放出されないことを明らかにしている。NMRによって解析されたPepA1の原子構造は(Sayedら、J. Biol. Chem.、2012、287:43454~43463頁)、これが生体膜内で孔の形成を始動することを示唆している。驚くことに、Pep11は、大腸菌及び黄色ブドウ球菌の表面において複数の水疱及び気泡の形成を誘導する環状デカペプチドグラミシジンSと同様の様式で細菌細胞を損傷させる(Hartmannら、Antimicrob. Agents Chemother.、2010、54:3132~3142頁)。
【0126】
SEMによって独立して証明されるように、Pep11はヒト赤血球に対してPepA1よりも溶血性が約12倍低く(Table 1(表1))、PepA1は赤血球を爆破する一方で、Pep11はそうではない(図3)。上昇した環状Pep11の濃度は、非常にわずかなヒト赤血球の膜において散発性の隆起の形成を始動し(図3)、上昇したペプチド濃度でのみヘモグロビンが軽微に放出される(図4)。
【0127】
以下のTable 2(表2)中に提示する結果は、開始濃度が1mg/mLの代わりに500μM/mLであった以外はTable 1(表1)の事例で記載したように、3つ組で得た。黄色ブドウ球菌Newman及び大腸菌に対して最も活性であった4つのペプチド(Pep15、16、18、及び19)、並びにペプチドPep21(グラム陰性及びグラム陽性の株に対して強力な特異的活性を示すことが見出された)を、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)株、N315株及びVISA(バンコマイシン中間体耐性黄色ブドウ球菌)株、Mu50株に対して試験した。溶血は、MRSA及びVISAに対して最も活性のあるペプチド(Pep15、16、及び19)並びにPep21についてのみ行った。H50は、500μMの濃度で達成されていなかった。H50が既知でない場合は、ITを正確に計算することができず、最小限の値のみを計算することができる(たとえば、Pep15:500(試験した最大濃度)/2(CMI)=250最小限を参照されたい)。
【0128】
【表2】
【0129】
Table 2(表2)によって示されるように、すべてのペプチドは、ナイシンのそれと同様である、様々な黄色ブドウ球菌株に対する活性を有する。使用した条件下では、すべてのペプチドがVISA株に対してバンコマイシンよりも効率が低かった。しかし、これらはすべて、MRSA及びVISA株に対してメチシリンよりも効率が高かった。
【0130】
結論
効率的な抗細菌活性を有するペプチドは、一般的にはヒト細胞も破砕し、ヒト及び細菌のペプチダーゼによる加速された分解を受けやすく、それにより、その臨床的使用が制限される。本研究では、ヒト細胞を標的とする強力な細菌毒素を、ヒト赤血球に対する毒性を欠く有効な抗細菌剤へと変換した。開始毒素中では見つからない最適化されたFFWRR配列パターンを有する環状擬ペプチドは、細菌膜の変更及び透過をもたらし、ヒト血清中における安定性は数時間までに実質的にアップグレードされている。
【0131】
多剤耐性細菌は医学において厳しいジレンマを表し、元来の抗微生物戦略に懸念を引き起こしている。新しい抗細菌薬物の発見及び最適化は困難であることが有名であり、長年の間行き詰っていた。過去25年間にわたって、抗細菌の発見に対するチャレンジが新規薬物クラスのアウトプットを極めて低いレベルに留めていた。短い抗微生物ペプチドは、現在利用されている抗生物質に対する細菌耐性の重大且つ加速する問題に打ち勝つための有望な候補である。本研究では、本発明者らは、操作した細菌毒素の、開発するに値する抗菌剤としての利用の基礎を築き、したがって、広範囲の病原体を標的化するためのパラダイムを提供した。これらの毒素から推論された強力な抗菌ペプチドは、細菌膜と相互作用しそれを透過し、且つヒト体液中において安定である。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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