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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】ジルコニウム含有アルコール液
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20220520BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20220520BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220520BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D7/20
C09D7/63
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020561149
(86)(22)【出願日】2019-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2019033346
(87)【国際公開番号】W WO2020129306
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2020-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2018239634
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000208662
【氏名又は名称】第一稀元素化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 理大
(72)【発明者】
【氏名】柳下 定寛
(72)【発明者】
【氏名】森下 正典
(72)【発明者】
【氏名】境 哲男
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-235005(JP,A)
【文献】特開2006-316342(JP,A)
【文献】国際公開第2010/064659(WO,A1)
【文献】特開昭63-293178(JP,A)
【文献】国際公開第2014/024651(WO,A1)
【文献】特開2016-003347(JP,A)
【文献】特開2002-053792(JP,A)
【文献】国際公開第2017/217282(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシ酢酸ジルコニウムと、炭素数1~3のカルボン酸又は炭素数1~3のカルボン酸塩と、水と、アルコール系溶媒とを含み、
前記炭素数1~3のカルボン酸は、蟻酸、酢酸、又は、プロピオン酸であり、
前記炭素数1~3のカルボン酸塩は、蟻酸塩、酢酸塩、又は、プロピオン酸塩であり、
ジルコニウム含有アルコール液全体に対する前記アルコール系溶媒の含有量が、50質量%以上95質量%以下であり、
40℃の温度条件下で50時間加熱した後の波長380nmの光に対する透過率が、90%以上100%以下であることを特徴とするジルコニウム含有アルコール液。
【請求項2】
ジルコニウム含有アルコール液全体に対するジルコニウムの含有量が、0.5質量%以上10質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のジルコニウム含有アルコール液。
【請求項3】
ジルコニウムに対するカルボン酸イオンのモル比率([カルボン酸イオン]/[ジルコニウム])が、1.5以上10.0以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のジルコニウム含有アルコール液。
【請求項4】
前記カルボン酸塩の対カチオンが、第1属元素のカチオンであることを特徴とする請求項1~のいずれか1に記載のジルコニウム含有アルコール液。
【請求項5】
前記アルコール系溶媒の沸点が、60℃以上100℃以下の範囲内であることを特徴とする請求項1~のいずれか1に記載のジルコニウム含有アルコール液。
【請求項6】
前記アルコール系溶媒が、メタノールであることを特徴とする請求項1~のいずれか1に記載のジルコニウム含有アルコール液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニウム含有アルコール液に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ジルコニウムは、優れた化学安定性、耐久性を有していることから、種々のものを対象とした表面被覆材料として使用されている。従来、酸化ジルコニウムによるコーティング膜の形成方法としては、コーティング膜を得るために調整されたジルコニウムを含むコーティング液を被覆対象の表面に塗布し、乾燥、熱処理等の工程を経て形成する方法が知られている。
【0003】
このようなコーティング液として、特許文献1には、Zr-O-Zr結合を主鎖とし、側鎖にOCOR基(ここで、Rは炭素数1~4までの直鎖または分岐のあるアルキル基を示す)を有する重合体から成る、酸化ジルコニウム前駆体ゲル状物をカルボン酸及び有機溶媒に溶解したステンレス鋼の高温酸化防止用セラミックスコーティング液が開示されている(特に、請求項1参照)。また、特許文献1には、酸化ジルコニウム系前駆体ポリマーゲル固形物は、未反応アルコキシ基がほとんどないために、大気中の湿分に対して、長期にわたりきわめて安定である、と記載されている(特に、段落[0006]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平06-101067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のコーティング液は、無色透明ではない。この点、本発明者は、鋭意検討した結果、特許文献1のコーティング液は、未反応アルコキシ基を含んでいるため、たとえその量が少量であったとしても、無色透明とはなり得ないことを突き止めた。本発明者の検証によれば、特許文献1のコーティング液は、黄色味を帯びた透明色である。
【0006】
ここで、本発明者は、コーティング液が無色透明であればコーティング液の塗布後においても、被覆対象の本来の色味をなるべくそのままとすることができ、意匠性がより向上するのではないかと考えるに至った。また、コーティング液を流通させる場合に、無色透明である方が好まれるのではないかと考えるに至った。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、被覆対象の本来の色味をなるべくそのままとすることができ、意匠性をより向上させることが可能なジルコニウム含有アルコール液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ジルコニウム含有アルコール液について鋭意検討を行った。その結果、下記構成を採用することにより、被覆対象の本来の色味をなるべくそのままとすることができ、意匠性をより向上させることが可能なジルコニウム含有アルコール液を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係るジルコニウム含有アルコール液は、
オキシ酢酸ジルコニウムと、炭素数1~3のカルボン酸又は炭素数1~3のカルボン酸塩と、水と、アルコール系溶媒とを含み、
40℃の温度条件下で50時間加熱した後の波長380nmの光に対する透過率が、90%以上100%以下であることを特徴とする。
【0010】
前記構成によれば、オキシ酢酸ジルコニウムと、炭素数1~3のカルボン酸又は炭素数1~3のカルボン酸塩と、水と、アルコール系溶媒とを含むため、ジルコニウムを含む溶液の状態とすることができる。
また、40℃の温度条件下で50時間加熱した後の波長380nmの光に対する透過率が、90%以上100%以下であるため、長期保存した後においても、無色透明であるといえる。「40℃の温度条件下で50時間加熱」としたのは、長期保存の加速試験を意図している。また、暑い日(室温40℃前後)に2日間程度放置された状況を想定したものでもある。
また、前記構成によれば、炭素数1~3のカルボン酸又は炭素数1~3のカルボン酸塩を含むため、保存時にゲル化することを抑制することができる。この点につき、本発明者は、以下のように推察している。
オキシ酢酸ジルコニウムとアルコール溶媒と水とを含む溶液は、保存中においても徐々にオキシ酢酸ジルコニウムの加水分解が起こり、水酸化ジルコニウムが生成するために、ゲル化してしまうと考えられる。そこで、炭素数1~3のカルボン酸又は炭素数1~3のカルボン酸塩を添加する。これにより、オキシ酢酸ジルコニウムとアルコールとの反応を経た加水分解がなるべく進行しないようにすることができる。
このように、前記構成によれば、長期保存性に優れ、且つ、長期保存した後においても、無色透明である。従って、当該ジルコニウム含有アルコール液を用いれば、被覆対象の本来の色味をなるべくそのままとすることができ、被覆対象の意匠性をより向上させることができる。
【0011】
前記構成においては、ジルコニウム含有アルコール液全体に対するジルコニウムの含有量が、0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0012】
前記構成においては、ジルコニウムの含有量を0.5質量%以上としても、前記透過率を90%以上100%以下とすることができる。従って、ジルコニウムの含有量を0.5質量%以上とすれば、ジルコニウム濃度が高濃度であり、且つ、透明度の高いジルコニウム含有アルコール液を提供可能となる。また、ジルコニウムの含有量を10質量%以下とすれば、相対的にアルコール溶液の含有比率を高くすることができ、被覆対象に塗布した後の乾燥性により優れる。
【0013】
前記構成においては、ジルコニウムに対するカルボン酸イオンのモル比率([カルボン酸イオン]/[ジルコニウム])が、1.5以上10.0以下であることが好ましい。
【0014】
前記モル比率([カルボン酸イオン]/[ジルコニウム])が1.5以上であると、ある程度の量のカルボン酸イオンが含まれることになるため、より長期保存性に優れる。また、前記モル比率([カルボン酸イオン]/[ジルコニウム])が10以下であると、カルボン酸塩の量が過剰とはならないため、カルボン酸塩に由来するコーティング膜の荒れを抑制することができる。
【0015】
前記構成においては、ジルコニウム含有アルコール液全体に対するアルコール溶媒の含有量が、50質量%以上95質量%以下であることが好ましい。
【0016】
アルコール溶媒の含有量が50質量%以上であり、アルコール溶媒の含有量が多いと、被覆対象に塗布した後の乾燥性に優れ、良好な塗膜を得やすい。また、アルコール溶媒の含有量が95質量%以下であると、ジルコニウムの含有量を高めることができる。特に、前記ジルコニウム含有アルコール液には、前記カルボン酸又は前記カルボン酸塩が含まれるため、アルコール溶媒を多く含んでもオキシ酢酸ジルコニウムとアルコールとの反応による加水分解があまり進行しない。従って、アルコール溶媒を50質量%以上と多く含んでも、長期保存性が維持できる。
【0017】
前記構成においては、前記カルボン酸又は前記カルボン酸塩の対カチオンが、第1属元素のカチオンであることが好ましい。
【0018】
前記カルボン酸又は前記カルボン酸塩の対カチオンが水素イオン(H)であれば、コーティング膜の荒れをより抑制することができる。また、前記カルボン酸又は前記カルボン酸塩の対カチオンが水素イオン以外の第1属元素のカチオンであれば、ジルコニウムと当該第1属元素との複合酸化物で構成されるコーティング膜とすることができる。
【0019】
前記構成においては、前記アルコール系溶媒の沸点が、60℃以上100℃以下の範囲内であることが好ましい。
【0020】
前記アルコール系溶媒の沸点が100℃以下であると、被覆対象に塗布した後の乾燥性により優れ、より良好な塗膜を得やすい。また、前記アルコール系溶媒の沸点が60℃以上であると、室温での取り扱いが容易である。
【0021】
前記構成においては、前記アルコール系溶媒が、メタノールであることが好ましい。
【0022】
前記アルコール系溶媒がメタノールであると、被覆対象に塗布した後の乾燥性がさらに優れ、さらに良好な塗膜を得やすい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、被覆対象の本来の色味をなるべくそのままとすることができ、意匠性をより向上させることが可能なジルコニウム含有アルコール液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例1、及び、比較例2のジルコニウム含有アルコール液の波長200nm~600nmの範囲における吸収スペクトルである。
図2】実施例1~3、及び、比較例2~6のジルコニウム含有アルコール液に含まれるジルコニウムの質量%と、波長380nmにおける光透過率との関係を示すグラフである。
図3】実施例1のジルコニウム含有アルコール液を用いて形成したコーティング膜のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。
【0026】
<ジルコニウム含有アルコール液>
本実施形態に係るジルコニウム含有アルコール液は、オキシ酢酸ジルコニウムと、炭素数1~3のカルボン酸又は炭素数1~3のカルボン酸塩と、水と、アルコール系溶媒とを含む。オキシ酢酸ジルコニウムと、炭素数1~3のカルボン酸又は炭素数1~3のカルボン酸塩と、水と、アルコール系溶媒とを含むことにより、ジルコニウムを含む溶液の状態とすることができる。従って、被覆対象に塗布することが可能となる。前記被覆対象は、特に限定されないが、例えば、電子基板、樹脂シート、各種電極材料、セラミックス材料、金属基板等が挙げられる。
【0027】
前記ジルコニウム含有アルコール液は、40℃の温度条件下で50時間加熱した後の波長380nmの光に対する透過率(以下、「保存後光透過率」ともいう)が、90%以上100%以下である。前記保存後光透過率は、好ましくは、95%以上であり、より好ましくは、98%以上である。前記保存後光透過率が、90%以上100%以下であるため、長期保存した後においても、無色透明であるといえる。
【0028】
前記ジルコニウム含有アルコール液は、波長380nmの光に対する透過率(以下、「初期光透過率」ともいう)が、95%以上100%以下であることが好ましい。前記初期光透過率は、好ましくは、97%以上であり、より好ましくは、98%以上である。前記初期光透過率は、前記ジルコニウム含有アルコール液を製造した後、30分以内に測定した値であり、製造後、測定までは室温(25℃)で保管したものを用いる。前記初期光透過率が、90%以上100%以下であると、製造後のジルコニウム含有アルコール液は、より確実に無色透明であるといえる。つまり、前記ジルコニウム含有アルコール液は、前記保存後光透過率が、90%以上100%以下であり、保存後であっても無色透明であり、当然に保存前おいても無色透明であるが、前記初期光透過率が95%以上であれば、保存前の状態においてより確実に無色透明である点で好ましい。
【0029】
前記オキシ酢酸ジルコニウムは、市販品を用いることができる。前記市販品としては、例えば、第一稀元素化学工業株式会社製のジルコゾールZA-20や、ZA-30が挙げられる。また、前記オキシ酢酸ジルコニウムは、酢酸水溶液に溶解性ジルコニウム化合物(アルコキシドは含まない)を加え、加熱し、溶解させることで得ることができる。
【0030】
前記ジルコニウム含有アルコール液全体に対するジルコニウムの含有量は、0.5質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上8質量%以下がより好ましく、3質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。前記ジルコニウム含有アルコール液は、ジルコニウムの含有量を0.5質量%以上としても、前記保存後光透過率を90%以上100%以下とすることができる。従って、ジルコニウムの含有量を0.5質量%以上とすれば、ジルコニウム濃度が高濃度であり、且つ、透明度の高いジルコニウム含有アルコール液を提供可能となる。また、ジルコニウムの含有量を10質量%以下とすれば、相対的にアルコール溶液の含有比率を高くすることができ、被覆対象に塗布した後の乾燥性により優れる。
【0031】
前記炭素数1~3のカルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸が挙げられる。また、前記炭素数1~3のカルボン酸塩としては、蟻酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩が挙げられる。なかでも、安全性、燃焼生成物の観点から酢酸、酢酸塩が好ましい。前記ジルコニウム含有アルコール液は、炭素数1~3のカルボン酸又は炭素数1~3のカルボン酸塩を含むため、保存時にゲル化することを抑制することができる。なお、前記炭素数1~3のカルボン酸塩は、オキシ酢酸ジルコニウムではない。
【0032】
前記カルボン酸又は前記カルボン酸塩の対カチオンは、第1属元素のカチオンであることが好ましい。第1属元素としては、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムが挙げられる。前記カルボン酸又は前記カルボン酸塩の対カチオンが水素イオン(H)であれば、コーティング膜の荒れをより抑制することができる。つまり、前記カルボン酸又は前記カルボン酸塩の対カチオンが水素イオン(H)であれば、炭酸塩等が生成されないため、塗膜を加熱してコーティング膜とする際に、炭酸塩等に起因するコーティング膜の荒れを抑制することができる。なお、前記カルボン酸塩の対カチオンが水素イオン(H)である場合、コーティング膜の組成は、ジルコニア(二酸化ジルコニウム(ZrO))となる。
また、前記カルボン酸又は前記カルボン酸塩の対カチオンが水素イオン以外の第1属元素のカチオンであれば、ジルコニウムと当該第1属元素との複合酸化物で構成されるコーティング膜とすることができる。
【0033】
ジルコニウムに対するカルボン酸イオンのモル比率([カルボン酸イオン]/[ジルコニウム])は、1.5以上10.0以下であることが好ましく、1.8以上6.0以下であることがより好ましく、2.0以上4.0以下であることがさらに好ましい。前記モル比率([カルボン酸イオン]/[ジルコニウム])が1.5以上であると、ある程度の量のカルボン酸イオンが含まれることになるため、より長期保存性に優れる。また、前記モル比率([カルボン酸イオン]/[ジルコニウム])が10以下であると、カルボン酸塩の量が過剰とはならないため、カルボン酸塩に由来するコーティング膜の荒れを抑制することができる。
【0034】
前記アルコール溶媒としては、特に限定されないが、室温(25℃)で液状であることが好ましい。前記アルコール溶媒は、沸点が60℃以上100℃以下の範囲内であることが好ましく、60℃以上90℃以下の範囲内であることがより好ましい。前記沸点が100℃以下であると、被覆対象に塗布した後の乾燥性により優れ、より良好な塗膜を得やすい。また、前記アルコール系溶媒の沸点が60℃以上であると、室温での取り扱いが容易である。
【0035】
前記アルコール溶媒の具体的としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等が挙げられる。なかでも、メタノールが好ましい。前記アルコール系溶媒がメタノールであると、被覆対象に塗布した後の乾燥性がさらに優れ、さらに良好な塗膜を得やすい。
【0036】
前記ジルコニウム含有アルコール液全体に対する前記アルコール溶媒の含有量は、50質量%以上95質量%以下であることが好ましく、55質量%以上85質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上70質量%以下であることがさらに好ましい。前記アルコール溶媒の含有量が50質量%以上であり、アルコール溶媒の含有量が多いと、被覆対象に塗布した後の乾燥性に優れ、良好な塗膜を得やすい。また、前記アルコール溶媒の含有量が95質量%以下であると、ジルコニウムの含有量を高めることができる。特に、前記ジルコニウム含有アルコール液には、前記カルボン酸又は前記カルボン酸塩が含まれるため、アルコール溶媒を多く含んでもオキシ酢酸ジルコニウムとアルコールとの反応を経た加水分解があまり進行しない。従って、アルコール溶媒を50質量%以上と多く含んでも、長期保存性が維持できる。
【0037】
<ジルコニウム含有アルコール液の製造方法>
以下、ジルコニウム含有アルコール液の製造方法の一例について説明する。ただし、本発明のジルコニウム含有アルコール液の製造方法は、以下の例示に限定されない。
本実施形態に係るジルコニウム含有アルコール液は、オキシ酢酸ジルコニウムと、炭素数1~3のカルボン酸又は炭素数1~3のカルボン酸塩と、水と、アルコール系溶媒とを混合することにより得ることができる。
【0038】
前記オキシ酢酸ジルコニウムは、粉末状のものを使用してもよく、水溶液の形態のもの(オキシ酢酸ジルコニウム水溶液)を使用してもよい。なお、オキシ酢酸ジルコニウム水溶液を用いる場合、すでに水が含まれていることから、別途に水を添加しなくてもよい。また、前記オキシ酢酸ジルコニウムには、その原料由来のアニオンが含まれていてもよい。前記原料由来のアニオンとしては、硝酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、塩化物イオン等が挙げられる。
【0039】
オキシ酢酸ジルコニウム、炭素数1~3のカルボン酸又は炭素数1~3のカルボン酸塩、水、アルコール系溶媒の混合の順番は、特に限定されない。ただし、オキシ酢酸ジルコニウムとアルコール系溶媒とを混合すると、加水分解が始まるため、オキシ酢酸ジルコニウムとアルコール系溶媒とを混合する前に、オキシ酢酸ジルコニウムかアルコール系溶媒かのいずれかに先に炭素数1~3のカルボン酸又は炭素数1~3のカルボン酸塩を混合しておくことが好ましい。以上の観点からは、混合の順番は、オキシ酢酸ジルコニウムと水とをまず混合し、次に、炭素数1~3のカルボン酸又は炭素数1~3のカルボン酸塩を混合し、最後にアルコール溶媒を混合することが好ましい。
【実施例
【0040】
以下に、本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている材料や配合量などは、特に限定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
なお、ジルコニウム化合物は通常、混入不可避の成分としてハフニウム成分を含有している。上記オキシ酢酸ジルコニウム水溶液、粉末状オキシ酢酸ジルコニウム、及び下記実施例1~17で得られたジルコニウム含有アルコール液にはハフニウムがジルコニウムに対するモル比(Hfのモル数/Zrのモル数)として0.03の割合で含まれている。従って、下記実施例1~17では、特に断りのない限り、Zr濃度はジルコニウムとハフニウムの濃度の和として表記している。また、組成比中のZrはジルコニウムとハフニウムの和を意味している(これには、上記の(Hf/Zr)中のZrも該当する)。
【0041】
<ジルコニウム含有アルコール液の調製>
(実施例1)
オキシ酢酸ジルコニウム水溶液(第一稀元素化学工業株式会社製、ジルコゾールZA-20、オキシ酢酸ジルコニウム水溶液全体に対するジルコニウムの質量:16.24質量%(ZrをZrO換算した際の質量は、20重量%))68.40gに、酢酸6.82gを添加し、30分間攪拌した。その後、メタノールを74.75g添加し、攪拌した。以上により、実施例1に係るジルコニウム含有アルコール液を得た。なお、調製は、室温下(25℃)にて行った。実施例1に係るジルコニウム含有アルコール液は、無色透明であった。
【0042】
表1に、得られたジルコニウム含有アルコール液に含まれるジルコニウムの質量%とモル%、カルボン酸イオンの質量%とモル%、アルコールの質量%、水の質量%を示した。質量%は、ジルコニウム含有アルコール液全体を100%とした値である。また、モル%は、ジルコニウム含有アルコール液全体を100%とした値である。
【0043】
さらに、表1には、ジルコニウム酸化物(実施例9~実施例12はLiZrO、実施例17はNaZrO、ZrO等、その他の実施例、比較例はZrO)に対するカルボン酸イオンの質量比率([カルボン酸イオン]/[ジルコニウム酸化物])、及び、ジルコニウムに対するカルボン酸イオンのモル比率([カルボン酸イオン]/[ジルコニウム])を示した。
【0044】
(実施例2~8)
得られるジルコニウムの質量%、カルボン酸イオンの質量%、アルコールの質量%、水の質量%が表1となるように各材料の添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~8に係るジルコニウム含有アルコール液を得た。実施例2~8に係るジルコニウム含有アルコール液は、無色透明であった。
【0045】
(実施例9~12)
酢酸の代わりに酢酸リチウムを用いたこと、及び、得られるジルコニウムの質量%、カルボン酸イオンの質量%、アルコールの質量%、水の質量%が表1となるように各材料の添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例9~12に係るジルコニウム含有アルコール液を得た。実施例9~12に係るジルコニウム含有アルコール液は、無色透明であった。
【0046】
(実施例13)
メタノールの代わりにエタノールを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例13に係るジルコニウム含有アルコール液を得た。実施例13に係るジルコニウム含有アルコール液は、無色透明であった。
【0047】
(実施例14)
メタノールの代わりに1-プロパノールを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例14に係るジルコニウム含有アルコール液を得た。実施例14に係るジルコニウム含有アルコール液は、無色透明であった。
【0048】
(実施例15)
メタノールの代わりに2-プロパノールを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例15に係るジルコニウム含有アルコール液を得た。実施例15に係るジルコニウム含有アルコール液は、無色透明であった。
【0049】
(実施例16)
酢酸の代わりにプロピオン酸を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例16に係るジルコニウム含有アルコール液を得た。実施例16に係るジルコニウム含有アルコール液は、無色透明であった。
【0050】
(実施例17)
酢酸の代わりに酢酸ナトリウムを用いたことと以外は、実施例1と同様にして、実施例17に係るジルコニウム含有アルコール液を得た。実施例17に係るジルコニウム含有アルコール液は、無色透明であった。
【0051】
(比較例1)
酢酸を添加しなかったこと、及び、得られるジルコニウムの質量%、カルボン酸イオンの質量%、アルコールの質量%、水の質量%が表1となるように各材料の添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係るジルコニウム含有アルコール液を得た。比較例1に係るジルコニウム含有アルコール液は、無色透明であった。
【0052】
(比較例2)
50mLビーカーに酢酸1.83g(0.030モル)を量りとり、そこに純水0.41g(0.023モル)加えて5分間攪拌した。その後、ジルコニウムn-プロポキシド10g(0.023モル)加えた。なお、ジルコニウムn-プロポキシド10g中のジルコニウムの含有量は2.09gである。以上の操作により、12.24gの前躯体ゲル状物を得た。
【0053】
得られた前躯体ゲル状物に、n-ブチルアルコール12.24g(0.17モル)と酢酸1.22g(0.02モル)とをこの順で加えたが溶解しなかったので、さらに、水1.44gと酢酸1gとをこの順で加えて溶解させ、比較例2に係るジルコニウム含有アルコール液を得た。比較例2に係るジルコニウム含有アルコール液は、黄色味を帯びていた。
【0054】
(比較例3~6)
ジルコニウムの質量%、カルボン酸イオンの質量%、アルコールの質量%、水の質量%が表1の通りとなるように、比較例2のジルコニウム含有アルコール液に水を加えて、比較例3~6に係るジルコニウム含有アルコール液を得た。比較例3~6に係るジルコニウム含有アルコール液は、黄色味を帯びていた。
【0055】
【表1】
【0056】
<初期光透過率測定>
実施例、比較例のジルコニウム含有アルコール液について、初期光透過率を測定した。具体的には、分光ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製、製品名:SH7000)を用い、波長380nmにおける光の透過率を得た。結果を表1に示す。比較例2~5は、波長380nmにおける光の透過率が、実施例と比較して低かった。これは、側鎖にプロポキシ基を有する前駆体ゲル状物を経由してジルコニウム含有アルコール液を作製しているために、原料であるジルコニウムn-プロポキシドが残存しているからであると考えられる。
一方、実施例1~3においては、波長380nmにおける光の透過率は、比較例2~5と比較して高かった。
なお、実施例4~17については、初期光透過率を測定していないが、後述する保存後光透過率測定においても保存後光透過率が90%以上であることから、初期光透過率は、比較例2~5と比較して高いことは明らかである。
【0057】
<比較例2のジルコニウム含有アルコール液にジルコニウムn-プロポキシドが残存していることの検証>
カルボン酸イオンの含有量が同等である実施例10と比較例2のジルコニウム含有アルコール液について、光吸収スペクトルを測定した。具体的には、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製、製品名:V-750iRM)を用い、波長200nm~600nmの範囲における光吸収スペクトルを得た。結果を図1に示す。
図1は、実施例1、比較例2のジルコニウム含有アルコール液、及び、ジルコニウムn-プロポキシド(ZrO換算で:7wt%)の波長200nm~600nmの範囲における吸収スペクトルである。図1から分かるように、比較例2、及び、ジルコニウムn-プロポキシドにおいては、波長280~350nmにかけてブロードな吸収が確認された。一方、実施例1においては、このような吸収は認められなかった。
実施例1と比較例2とにおいて、ジルコニウム含有アルコール液に含まれる水、及び、アルコール溶媒は、波長280~350nmの範囲に吸収はない。そうすると、実施例1と比較例2との原料の対比において、波長280~350nmに吸収が見られる可能性のある原料としては、ジルコニウムn-プロポキシドしか考えられない。つまり、比較例2におけるこの吸収は、原料であるジルコニウムn-プロポキシドに由来すると考えられる。
以上より、ジルコニウムn-プロポキシドの残存により比較例2のジルコニウム含有アルコール液は、黄色味を帯びていると考察した。
【0058】
<ジルコニウムの含有量と波長380nmにおける光透過率の関係>
図2は、実施例1~3、及び、比較例2~6のジルコニウム含有アルコール液に含まれるジルコニウムの質量%と、波長380nmにおける光透過率との関係を示すグラフである。なお、波長380nmにおける光透過率は、上記初期光透過率測定にて得た値である。図2に示すように、実施例1~3においては、ジルコニウム含有アルコール液に含まれるジルコニウムの量(質量%)に関わらず、光透過率は、100%に近く、ほぼ一定である。一方、比較例2~5は、ジルコニウムの量(質量%)が増えるにつれて、光透過率は、リニアに減少する。これは、原料のジルコニウムn-プロポキシドの量が増えることによるものと考えられる。
【0059】
<保存後光透過率測定>
実施例、比較例のジルコニウム含有アルコール液をフタ付きのビンに入れ、40℃の温度条件下で50時間加熱した。その後、室温(25℃)に戻し、光透過率を測定した。測定装置、測定条件は、上記初期光透過率測定と同様とした。その際の波長380nmにおける光の透過率を表1に示す。なお、比較例2~4では、経時に伴い溶液が水とブタノールとで色の異なる2相に分相し、比較例5~6では沈殿が析出したため、保存後光透過率を測定することができなかった。
実施例においては、40℃の温度条件下で50時間加熱した後も、高い透過率を示した。なお、見た目においても、実施例のジルコニウム含有アルコール液は、無色透明であった。
【0060】
<保存性評価>
実施例1~17、比較例1のジルコニウム含有アルコール液をフタ付きのビンに入れ、45℃の温度条件下で20時間加熱した。目視観察により、加熱前と比較して液の流動性に大きな変化がなかった場合を○、ゲル化してビンを傾けても取り出せない程度に流動性が大きく低下した場合を×として評価した。なお、比較例2~6は評価を行っていない。結果を表1に示す。
比較例1においては、カルボン酸又はカルボン酸塩を添加していないため、オキシ酢酸ジルコニウムの加水分解が速やかに進行して水酸化ジルコニウムが生成し、これにより、ゲル化してしまったと考えられる。
【0061】
<コーティング膜評価>
実施例1のジルコニウム含有アルコール液を、被覆対象としてのガラス板に塗布(塗布条件:スピンコーティング,使用機器:ミカサ株式会社製Opticoat MS-B100,回転数:2000rpm,回転時間:1分間)し、100℃での加熱乾燥により塗膜を得た。その後、前記塗膜を300℃で1時間加熱して、コーティング膜を得た。図3は、実施例1のジルコニウム含有アルコール液を用いて形成したコーティング膜のSEM(Scanning Electron Microscope)画像である。図3上部のコントラスの暗い部位は被覆対象であるガラス基板が露出した部位であり、図3下部のコントラストの明るい部位はコーティング膜が被覆された部位である。図3に示すように、実施例1のジルコニウム含有アルコール液を用いれば、良好なコーティング膜が得られることが確認できた。なお、図示していないが、他の実施例においても概ね図3と同様のSEM画像が得られ、良好なコーティング膜が得られることが確認できた。
図1
図2
図3