(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】植物性乳酸菌発酵水素水及びその製法
(51)【国際特許分類】
A23L 2/52 20060101AFI20220520BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20220520BHJP
A23L 2/54 20060101ALI20220520BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20220520BHJP
【FI】
A23L2/00 F
A23L2/38 G
A23L2/54
A23L33/135
(21)【出願番号】P 2021133707
(22)【出願日】2021-08-18
【審査請求日】2021-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2020139664
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520318096
【氏名又は名称】小野寺 久子
(74)【代理人】
【識別番号】100089509
【氏名又は名称】小松 清光
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 修三
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-133423(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0078309(KR,A)
【文献】自家製乳酸菌でお漬物,こんぶネット [オンライン],2016年09月28日,[検索日 2021年10月13日], インターネット<URL: https://kombu.or.jp/recipe/2321>
【文献】食品と開発,1993年,Vol. 28, No. 3,pp. 36-39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
玄米由来の自然の植物性乳酸菌と、乳酸及び水素とを含む乳酸菌発酵水素水において、
昆布の溶出成分を含み、
玄米及び昆布の固形原料成分が除去されて液中に存在しない水素水の製品状態にて、
昆布由来の、ヨウ素と、水溶性食物繊維等の水溶性成分とを含むとともに、
乳酸菌数が所定基準数
である10
6
個/mL以上であることを特徴とする植物性乳酸菌発酵水素水。
【請求項2】
請求項1において、乳酸菌を3.5×10
6個/mL、ヨウ素を600μ g /100g含有することを特徴とする植物性乳酸菌発酵水素水。
【請求項3】
玄米を塩と糖類を含む水中へ浸漬し、玄米由来の自然の植物性乳酸菌により乳酸発酵させて、発酵液を乳酸菌、乳酸及び水素を含む乳酸菌発酵水素水にする植物性乳酸菌発酵水素水の製法において、
玄米、塩、糖類及び固形昆布を水中へ浸漬し、
PHが所定の判断値になるまで乳酸発酵させる前発酵をすることにより、発酵液中へヨウ素と水溶性食物繊維を溶出させるとともに、
前発酵終了目標のPH到達時にて、前記昆布等の固形原料を除去して前発酵を終了してから、さらに追加発酵させるための後発酵をする、
ことを特徴とする植物性乳酸菌発酵水素水の製法。
【請求項4】
請求項3において、前発酵をPH3.2で終了させ、
後発酵を酸化還元電位が-100~-200mVのゾーン内で終了させ、
乳酸菌数を、10
6個/ mL 以上含有させた、
ことを特徴とする植物性乳酸菌発酵水素水の製法。
【請求項5】
請求項3において、前記固形昆布は板昆布又は刻み昆布であり、
使用量を、2~20g/L とした
ことを特徴とする植物性乳酸菌発酵水素水の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、植物性乳酸菌発酵水素水及びその製法にかかり、特にヨウ素を含有したものに関する。
なお本願においては、小文字のlを使用したときの紛らわしさを避けるため、容量の単位である、リットルをL、ミリリットルをmLと表記する。また、以下の説明において、植物性乳酸菌発酵水素水を単に水素水と省略して表現することがある。
【背景技術】
【0002】
植物性乳酸菌発酵水素水とは、糖分と塩を加えた水に玄米を浸漬し、糖分を栄養源にして玄米に共生する自然の乳酸菌を増殖させて乳酸発酵すること(以下、この発酵形式を、玄米浸漬発酵という)により、比較的大量の乳酸菌と乳酸及び微量の水素を含むようになった植物性乳酸菌飲料である。
このような水素を含む飲料水は水素水とも称される。また、この水素水が還元側(酸化還元電位がマイナス(-)側)にあるものは、還元水素水と称される。
【0003】
なお、水素を発生させる方式は複数あり、例えば、本願発明のような乳酸発酵により水素を発生する発酵式と、外部より水素ガスを液中へ注入して混合する注入式がある。
このうち、注入式は注入時に水素が最大となり、その後は拡散するだけとなる。これに対して、発酵式は飲用するまで継続して水素を発生することができる。
【0004】
上記の米浸漬発酵による植物性乳酸菌発酵水素水は公知であり、糖分等が添加された水へ玄米を浸漬するだけで、乳酸菌の栄養源として玄米を糖化処理することなく、容易に製造できる。しかも玄米に生息する自然の乳酸菌を利用するので、特別な乳酸菌を購入する等の必要がない。
【0005】
この水素水を飲用すると、液中の水素が体内で抗酸化作用をして健康増進に役立つものとされている。しかも、この水素は発酵式のため飲用されるまで継続して発生し、水素量の減少を抑制できる。
この水素水中の乳酸菌は、過酷な環境下での耐性が強く、飲用すると腸内まで生きて届き易いとされる植物性乳酸菌である。腸内に入ると水素を発生し、この水素が活性酸素を還元し、腸内フローラを改善される。しかも、水中に添加された糖類を栄養源とする乳酸菌は大量に増殖できるので、腸内に届く乳酸菌の量が多くなり、腸内フローラの改善により大きく貢献できる。
【0006】
乳酸菌飲料の製造における従来の製法は、原料となる玄米と糖類及び塩を水に入れ、この玄米を浸漬した状態の液体(以下、発酵液という)を所定温度に維持し、所定日数で玄米に共生する植物性乳酸菌を増殖させながら乳酸発酵させるようになっている。
乳酸発酵により、乳酸と微量の水素が発生する。この水素は還元体であり発酵液中に溶存して酸化還元電位を下げる。したがって、溶存水素の変化は酸化還元電位の変化と相関があり、乳酸発酵の状況を把握する指標になる。
【0007】
また、乳酸発酵が進むと乳酸濃度が増加することにより発酵液のPHが低下するので、PHによっても発酵の状況を把握できる。
例えば、乳酸発酵により産生した乳酸が所望量になるときの酸化還元電位及びPHを発酵完了の判断基準値とすれば、乳酸発酵する発酵液の酸化還元電位及びPHを定期的に測定し、それぞれが判断基準値になったとき、産生された乳酸が所望量になったと判断できる。
【0008】
なお、玄米を原料とする植物性乳酸菌飲料の製法は種々知られており、例えば、特許文献1~3がある。これらはいずれも、玄米等の糖質を糖化処理してから、玄米とは別に用意した乳酸菌を添加して乳酸発酵するものである。本願発明のように、玄米は共生する乳酸菌を利用するのみであり、玄米等の糖化処理を不要とするものではない。
【0009】
なお、特許文献1には、玄米の糖化液等に乳酸菌を作用させて玄米液を作成し、これを主成分として飲料水を作ることが記載されている。
特許文献2には、米を糖化した甘酒、もしくは糖分を添加した米に、特定の乳酸菌を加えて発酵させることが記載されている。
特許文献3には、多糖類、野菜・果物及び海藻とを、乳酸菌と酵母を共棲発酵して発酵エキスを作り、これを主成分とする抗酸化飲料とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
特許文献1:特開昭62-36169号公報
特許文献2:特開2010-142214号公報
特許文献3:特開2013-133423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上記植物性乳酸菌発酵水素水は、抗酸化剤としての水素と腸内フローラを改善する植物性乳酸菌を主成分とする単純なものである。したがって、他の高機能成分、例えば、殺菌作用のあるヨウ素や、腸内フローラの活性化やその他人体に対する有用な働きをする水溶性食物繊維を追加できればより高機能な水素水とすることができる。また、食味をより向上させたり、乳酸発酵の速度を速くできればなお好ましいものになる。
【0012】
なかでもヨウ素は、推奨量が130μg/日、摂取上限が3mg/日とされている、健康維持に必須の成分であり、昆布等の海藻類から容易に摂取できる。
しかし、この成分量を単純に発酵式の水素水へ混入させると、水素水の機能を損なってしまうおそれが強い。なお、ヨウ素の3mgを摂取規準量ということにする。
【0013】
すなわち、ヨウ素には強い殺菌作用があるため、これを水素水へ加えると、液中で発酵増殖する生菌である乳酸菌が滅菌されてしまい、腸内フローラを改善する乳酸菌飲料としては不適切な少ない乳酸菌数になってしまうからである。この種の発酵乳酸菌飲料に必要な乳酸菌数は、一般に、10の7~10乗オーダー程度の個数/mL程度とされていることが多いが、このような菌数を確保して発酵することが難しい。
【0014】
特に、米浸漬発酵では、乳酸菌の栄養源として玄米は関係なく、液中に添加された糖分を栄養源とするので、この発酵中にヨウ素を同時に添加すると、ヨウ素は液中に分散する発酵中の乳酸菌に対して殺菌する機会が多くなり、増殖する乳酸菌数に対するヨウ素の影響が顕著になる。例えば、必要とするヨウ素を乳酸発酵と同時に全量添加すると、良好な乳酸発酵が阻害されることになる。
したがって、乳酸菌と共存できるヨウ素の添加が必要になる。
【0015】
なお、上記特許文献3には、多糖類と、野菜・果物と、海藻とを、乳酸菌と酵母とで共棲発酵する記載がある。しかし、海藻による乳酸菌の滅菌並びにこの滅菌による乳酸菌数の減少抑制については何の記載も示唆もない。
そこで、本願発明は、乳酸菌発酵飲料において、乳酸菌数をあまり減少させず、この種の乳酸菌飲料として要求される程度の菌数(106個/mL以上;所定規準数という)を維持しつつ、ヨウ素を摂取基準量内程度の所定量含有させることを目的とする。また、ヨウ素を簡単な方法で添加することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため本願発明に係る植物性乳酸菌発酵水素水は、玄米由来の植物性乳酸菌と、乳酸及び水素とを含み、さらに昆布の溶出成分を含むとともに、
玄米及び昆布の固形原料成分が除去されて液中に存在しない水素水の製品状態にて、
昆布由来の、ヨウ素と、水溶性食物繊維等の水溶性成分とを含むとともに、
乳酸菌数が所定基準数である10
6
個/mL以上であることを特徴とする。
【0017】
玄米由来の植物性乳酸菌としては、公知のものが種々あるが、本願発明において特に主要なものとして、ラクトバチルスゼアエ(lactobacillus zeae)、ラクトバチルスカセイ(lactobacillus casei)、ラクトバチルスパラカセイ(lactobacillus paracasei)、ラクトバチルスラムノスス(lactobacillus rhamnosus )等がある。
【0018】
昆布由来の水溶性物質とは、昆布のダシをとるときに生じるぬるぬるとした物質であり、多量の水溶性食物繊維と、グルタミンソーダ等のアミノ酸を含むものである。本願発明における昆布由来の水溶性物質は、水溶性食物繊維と少なくともグルタミンソーダを含有することにより判断する。また、本願発明における昆布由来のヨウ素は、これら昆布由来の水溶性物質とヨウ素が共存することにより判断する。
【0019】
また、上記植物性乳酸菌発酵水素水の製法は、玄米を、塩と糖類を含む水中へ浸漬し、玄米由来の自然の植物性乳酸菌により乳酸発酵させて、発酵液を乳酸菌、乳酸及び水素を含む乳酸菌発酵水素水にする植物性乳酸菌発酵水素水の製法において、
玄米、塩、糖類及び固形昆布を水中へ浸漬し、
PHが所定の判断値になるまで乳酸発酵させる前発酵をすることにより、発酵液中へヨウ素と水溶性食物繊維を溶出させるとともに、
前発酵終了目標のPH到達時にて、前記昆布等の固形原料を除去して前発酵を終了してから、さらに追加発酵させるための後発酵をすることを特徴とする。
固形昆布は板昆布又は刻み昆布とすることができる。
【0020】
昆布は、水溶性食物繊維等の水溶性物質があり、この水溶性物質に含まれる旨み成分により、乳酸菌飲料の食味を向上させ、酸っぱい味をまろやかな味にして、食味を改善することができる。
【0021】
さらに、水溶性食物繊維は、水素水の製造における乳酸菌の栄養源になるとともに、消化器管内に入ると、プレバイオティクスとなる。また、他の健康促進に貢献する機能もあるので乳酸菌飲料の高機能化に貢献する。
そのうえ、昆布に含まれるヨウ素が溶出することにより、ヨウ素に富む飲料になる。
【0022】
固形昆布は、発酵液中において、表面の水溶性食物繊維がぬるぬるになって、徐々にかつ長時間にわたって溶け出す。したがって、乳酸菌の増殖及び発酵期間中において、沈殿堆積等することなく、適時にかつ長時間にわたって表面に溶出した水溶性成分に対して乳酸菌の接触を可能とする。
【0023】
なお、固形とは粉状や粒状を除く意味で用いたものである。粉状や粒状は数mm以下の大きさであるが、固形はこれよりも大きい(例えば、少なくとも一部に1cm以上の長い部分を有する)。粉状や粒状の昆布は水中における溶解速度が極めて早いため、短時間で全量が溶けて一度に大量のヨウ素を発生する。この液中に生じた大量のヨウ素により、発酵初期における急速増殖中の乳酸菌を大量に殺菌し、発酵効率を下げ、乳酸菌の増殖を必要数以下に抑制してしまうおそれがある。
【0024】
固形昆布は、板昆布又は刻み昆布(短冊状に刻んだ昆布)とすることができる。板昆布と刻み昆布の相違は、刻み昆布の刻み幅(長方形の短冊形状における短辺側に相当する)が数mm~数cmとなっていることである。
【0025】
固形昆布を板昆布又は刻み昆布を使用することにより、乳酸菌の増殖及び発酵に合わせて、発酵液中にヨウ素、旨み成分(アミノ酸)並びに水溶性食物繊維等の水溶性成分を徐々に溶出させる。このため溶出するヨウ素の量は少量ずつ時間を掛けて溶け出し、ヨウ素の殺菌作用による乳酸菌の減少を抑制しつつ、液中へヨウ素を所定量添加できる。
【0026】
さらに、上記方法により製造された植物性乳酸菌飲料は、効率的に製造でき、かつプレバイオティクスを提供するものとして高機能化できる。
【発明の効果】
【0027】
玄米由来の自然の植物性乳酸菌により乳酸発酵してなる植物性乳酸菌飲料は、昆布の溶出成分を含み、玄米及び昆布の固形原料成分が除去されて液中に存在しない水素水の製品状態にて、昆布由来の、ヨウ素と、水溶性食物繊維等の水溶性成分とを含むとともに、
乳酸菌数が所定基準数である10
6
個/mL以上になっている。
したがって、昆布由来のヨウ素入り水素水を得ることができる。
しかも、この水素水は、成分として、ヨウ素を含有するにもかかわらず、所定規準数以上の乳酸菌を確保できる。
このため、乳酸菌飲料としての必要な乳酸菌数を確保したまま、ヨウ素や水溶性食物繊維により高機能化でき、旨み成分によって食味を良好にできる。
【0028】
また、植物性乳酸菌飲料の製法は、玄米、塩、糖類及び固形昆布を水中へ浸漬し、PHが所定の判断値になるまで乳酸発酵させる前発酵をすることにより、発酵液中へヨウ素と水溶性食物繊維を溶出させるとともに、
前発酵終了目標のPH到達時にて、前記昆布等の固形原料を除去して前発酵を終了してから、さらに追加発酵させるための後発酵をする。
前発酵にて、固形昆布を使用することにより、乳酸菌の増殖及び発酵に合わせて、発酵液中にヨウ素、旨み成分(アミノ酸)並びに水溶性食物繊維等の水溶性成分を徐々に溶出させる。
特に、ヨウ素が少量ずつ時間を掛けて溶け出すため、同時に増殖・発酵している乳酸菌に対する接触を少なくし、乳酸菌数の減少を抑制できる。
また、後発酵では昆布が除去されているためヨウ素の供給が終了されるので、新規供給されるヨウ素の影響を避けて発酵できる。
したがって、所定規準量の乳酸菌数を確保しつつ摂取基準内のヨウ素を添加できる。しかもヨウ素は、乳酸菌に影響の少ない速度で溶出するので、発酵中の添加量を容易にコントロールでき、昆布を一度に添加できることになり、作業を簡単にする。
【0029】
しかも、昆布の水溶性成分による乳酸発酵が促進されるので、発酵に要する時間が短縮され、発酵が効率化する。特に、発酵による水素が多くなるため、酸化還元電位の最低値を下げ、その後の戻りにより酸化還元電位が酸化側へ上昇するまでの期間を長くし、還元状態をより長く維持できる。
【0030】
また、液中に溶出した昆布の水溶性食物繊維をはじめとする水溶成分が、腸内におけるプレバイオティクスとなるとともに、健康増進に貢献して高機能化する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】発酵液中の酸化還元電位の経時的変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、実施の形態を説明する。
水1Lに対して、玄米30~90g、塩2~10g、砂糖20~60gを加え、さらに固形昆布2~20gを加えた発酵液とし、これを温度、20℃~40℃、好ましくは35℃程度に維持し、発酵液を適宜撹拌しつつ5~7日程度発酵する。
この発酵液は、半日もしくは1日毎に、酸化還元電位及びPHを測定して発酵状態を監視する。監視目標とする酸化還元電位の判断基準値を、-100~-200mV、PHの判断基準値を3.2とする。双方が判断基準値になったとき、発酵を完了する。
【0033】
製造完了時に水素水の酸化還元電位が-100~-200mVの目標ゾーン内にあれば、発酵を終了させることが必要な時期であり、還元水素水になっていることを示す。
PH3.2は一般に乳酸発酵の限界を示し、PH3.2程度になると乳酸発酵が停止される。また、高濃度の乳酸によって乳酸菌を滅菌する増殖阻害現象も生じるとされている。
【0034】
玄米は、産地及び銘柄を問わない。なお発芽玄米は発酵効率が良く特に好ましい。発芽玄米にすると、発酵完了までの時間を略半減できる。使用量は
60g/L程度が好ましい。但し、これより多くても、また少なくても構わない。
玄米に由来する植物性乳酸菌は、種々存在するが、耐高温特性のあるラクトバチルスゼアエ(lactobacillus zeae)を含むことが特に望ましい。
【0035】
糖類は、乳酸菌の栄養源となる、ブドウ糖等の単糖類やショ糖(砂糖)等の二糖類が用いられる。ショ糖は、精製された上白糖などを含む砂糖である。砂糖のうち、ミネラル等の有用成分が多い黒糖が特に好ましい。
【0036】
使用量は20~60g/L程度とし、30~40g/L程度が好ましい。
60gより多くすると、発酵完了時にも消費し切れずに甘みが残り、この甘みが消えるまで余計な発酵時間を要することになった。
一方、20g/Lよりも少ないと、発酵が著しく遅延することになった。
【0037】
糖類は多いほど発酵を促進できる。しかし、また、完成された植物性乳酸菌飲料中に高濃度の糖分が残存すると、消費者から健康志向の点で敬遠されることになった。
したがって、糖類を必要以上に多くせずに効率よく発酵させることも望まれており、30g/L程度が最も好ましい。
【0038】
塩は、精製塩でなく、粗塩や岩塩などの天然塩のようなミネラル分の豊富のものが好ましい。使用量は2~10g/L程度が可能である。塩は、主として腐敗防止を目的とするため、雑菌の少ない深層水では使用量を2g程度にすることができ、減塩に貢献できる。
【0039】
水は、塩素殺菌されない自然水(湧水や井戸水等)が好ましく、特にミネラル豊富で雑菌の少ない深層水が好ましい。
【0040】
昆布は、利尻昆布、真昆布、日高昆布、長昆布、羅臼昆布、細目昆布、厚葉昆布、がごめ昆布、ねこあし昆布等いずれの名称のものも可能である。水中にて水溶性成分を溶出させるために乾燥昆布であることが必要である。
【0041】
使用形態は固形であり、板昆布又は刻み昆布のいずれも使用できる。
板昆布又は刻み昆布とすれば、発酵液中において、表面の水溶性食物繊維がぬるぬるになって、徐々にかつ長時間にわたって溶け出すよう、ヨウ素の溶出時間を長引かせるように調節できる。
【0042】
また、昆布は、水に入れるとぬるぬるになって溶け出す水溶性食物繊維等の水溶性物質がある。この水溶性物質にはダシとして重用されるものがあり、その旨み成分(グルタミン酸)が溶出することにより、乳酸菌飲料の食味を向上させ、酸っぱい味をまろやかな味にして、食味を改善することができる。
【0043】
さらに、上記ぬるぬる成分をなす水溶性食物繊維は、主としてアルギン酸とフコダインからなり、乳酸菌の栄養源になるとともに、消化器管内に入ると、プレバイオティクスとなる。そのうえ、血圧やコレステロールの抑制等に役立つ健康増進機能を有する物質としても知られているので、乳酸菌飲料の高機能化に貢献する。
【0044】
したがって、乳酸菌の増殖及び発酵に合わせて、発酵液中に植物性の水溶性食物繊維等の水溶性成分を徐々に溶出させ、沈殿堆積等することなく、適時にかつ長時間にわたって表面に溶出した水溶性成分に対して乳酸菌の接触を可能とし、増殖及び発酵を促進することができる。昆布は乳酸発酵の促進物質である。
【0045】
昆布の使用量は、2~20g/L程度とする。2gより少ないと、あまりダシとしての効果が得られない。また20gより多いと昆布の味が強くなりすぎて食味を損なうことになり、使用に適さない。さらに膨潤軟化した昆布が液中一杯となり、扱いが難しくなることもある。
【0046】
なお、昆布は食味を改善し、多く過ぎても食味を損なうので、その使用量はダシとして通常使用される量を考慮すべきである。この意味では、2~6g程度が妥当な使用量となる。以下の実施例はこの範囲の量(2・4・6g)に限定したものである。
【0047】
昆布には比較的大量のヨウ素が含まれており、昆布を水に浸漬することにより、水溶性食物繊維等とともにヨウ素も溶出する。その結果、水素水は高機能成分のヨウ素に富む飲料となる。ヨウ素は顕著な殺菌作用等を示す、必須ミネラルである。
【0048】
昆布中の含有量は、昆布の種類や産地等により様々であるが、日本食品標準成分表によれば、真昆布は、2mg/g含有されるとなっている。本願発明ではこれに則り、昆布2・4・6gには、それぞれ4・8・12mgのヨウ素が含有されているものとする。
全量が溶出されたと仮定したときの水素水100mL(l回分の量)には、それぞれ、400・800・1200μgのヨウ素が含有されることになる。
【0049】
なお、各種の昆布を使用するに当たり、実際のヨウ素含有量が、上記2mg/gより過大もしくは過小の場合、使用時に上記2mg/gの含有量となるように、使用する昆布の重量を調整する。
【0050】
ヨウ素は生菌である乳酸菌も滅菌する。したがって、ヨウ素を少量ずつ時間を掛けて徐々に溶出させ、乳酸菌の減少を抑制する。この溶出のコントロールは、固形昆布とすることにより実現する。最も溶出速度を下げるには、所定大きさにカットした板昆布を使用する。刻み昆布にすれば、溶出速度が上がる。なお、刻み昆布におけるヨウ素の溶出速度は、刻み方によっても影響され、細かく刻めば早くなる。したがって、刻み方は乳酸発酵の程度に応じて適宜定める。
【0051】
この発酵を
図1及び
図2により説明する。各図は比較例(詳細後述)と各実施例別の酸化還元電位の変化及びPHの変化を一緒に示すグラフである。比較例は本願発明の従来例(昆布を使用しない例)に相当する。実施例1~3に相当するものは昆布量が異なるものである。
図1は発酵液中の酸化還元電位の経時的な変化を示すグラフであり、縦軸に酸化還元電位(mV)、横軸に経過日数をとってある。
図2は発酵液中のPHの経時的な変化を示すグラフであり、縦軸にPH、横軸に経過日数をとってある。
なお、比較例における酸化還元電位の判断基準値を0~-100mVとする。
【0052】
図1に示すように、酸化還元電位は、1日目で最低値まで急降下し、その後、徐々に右肩上がりで上昇する。昆布なしの比較例では5日目に目標ゾーンへ入る。7日目
近傍には判断基準値上限の0mV近傍となり、その
後は+側(酸化側)になる。したがって、7日目には発酵を完了する必要がある。
【0053】
昆布を添加した各実施例はいずれも、7日目になってもまだ比較例の判断基準値ゾーンへ入っていない。ただし、実施例の判断基準値(-100~-200mV)のゾーンへは入っている。すなわち、発酵完了を7日目もしくはそれより前で判断する場合には、判断基準値を比較例よりも低い値(-100~-200mV)に設定する必要がある。これにより発酵完了を酸化還元電位のグラフより判断できることになる。
【0054】
このグラフより判ることは、昆布を添加すると、発酵の1日目に発生する最低値が比較例より大きく下がる現象が発生し、その後も発酵液の酸化還元電位が比較例より下がり、発酵液がより還元側に維持されていることである。
この原因は、昆布の添加により乳酸発酵が促進され、水素がより多く発生したためと考えられる。したがって、昆布を添加すると乳酸発酵が促進されることになる。
【0055】
しかも実施例では、最低値が低いので、ここから比較例のグラフと同様の傾きで酸化還元電位が上昇したとしても、比較例の判断基準値へ達するまでにはより長い日数を要することになる。したがて、還元状態を比較例よりも長い期間維持することが可能になる。
このため、比較例の判断基準値を発酵完了の基準とすれば、より長く発酵をさせることができる。また製品の出荷の基準とすれば、出荷までに余裕を持たせることができる。
【0056】
なお、酸化還元電位が最低値から経時的に上昇する現象は、主として、溶存水素量の拡散による減少と、発酵速度の緩慢化(水素発生量の低下)により生じるものと考えられる。
水素水中の溶存水素は極めて拡散しやすく、時間とともに容器外へ速やかに放散し、溶存水素量を減少させる。
【0057】
また、乳酸発酵は、1日目の爆発的な発酵である第1段階と、その後、ゆっくり発酵する第2段階とからなる。第1段階は急速に発酵して比較的多くの水素を発生するとともに、水素の拡散がほとんど無い。酸化還元電位の最低値はこの段階で生じる。
第2段階は、溶存水素の拡散と、緩慢な発酵による少量の水素の補充とが同時に生じ、酸化還元電位は徐々に大きくなる。
【0058】
この昆布による発酵の促進は、水溶性食物繊維等からなる乳酸菌の栄養源となる水溶性成分の供給によって生じたものと考えられる。
ただし、各実施例間では相違があり、昆布を最小の2g添加した実施例1が最も大きい酸化還元電位を示し、次いで昆布を最大の6g添加した実施例3が実施例1よりも若干低い酸化還元電位を示している。実施例3のグラフは実施例1に対して酸化還元電位の低い側へ若干ずれた状態でほぼ平行している。
【0059】
昆布の添加量が中間の4gである実施例2の酸化還元電位が最も低くなっている。最低値もこの順になっている(実施例1の最低値:-485mV>実施例3の最低値:-486mV>実施例2の最低値:-503mV)。
これは、ヨウ素の殺菌作用によるものと考えられる。すなわち、ヨウ素が最も少ない実施例1が、ヨウ素の影響を最も小さくし乳酸発酵を最も速くしたと考えられる。但し、昆布量が最小であるから、発酵量は少なく、それだけ最低値を含む酸化還元電位が高くなる。
ヨウ素量が最も多い実施例3は、昆布の量が最も多いので最も大きく発酵促進されるべきであるが、ヨウ素量も最大となり、その影響も大きくなるから、促進作用と阻害作用が相殺され、実施例1と同程度でかつ若干酸化還元電位が低い程度になっているものと考えられる。
【0060】
昆布量が中間の実施例2は、これらの中間であり、発酵促進作用と阻害作用が最もバランスしているものと判断される。また、後から
図2について説明するが、実施例2はこれらの内でPHが最も高くなっている。したがって、乳酸の低PHによる乳酸菌の発酵阻害も少なくなる。
なお、最低値が低いと、それだけ酸化還元電位の上昇(戻り)の量も少なくなる。
【0061】
図2に示すように、PHは発酵開始直後より、乳酸の産生増加に応じて低下し、比較例では5日目で判断基準値に近いPH3.3になる。その後はさらに緩やかに低下し、7日目で目標のPH3.2になり、ここでほぼ一定になる。
しかし、比較例では5日目に酸化還元電位が-100mVを越えて目標ゾーンへ入る。
したがって、7日目もしくは5日目で発酵完了と
判断する。ただし、5日目では発酵がまだ完全に終了せず、水素水中には未消費の糖分等が比較的大量に存在し、健康上の配慮等から要求がある低糖質の飲料にできない。
【0062】
一方、昆布を添加する本願発明では、PH3.2への到達が早まる。そこで、発酵を、PH3.2近傍になるまでの前発酵と、それ以降の後発酵に分ける。
前発酵終了時に玄米等の固形原料を分離除去し、液体だけを後発酵で追加発酵し、残存する糖分の消費等により、乳酸菌数の上昇と成分の適正化や食味の向上等を図る。
なお、後発酵においても乳酸はあまり減少しないため、PHは3.2程度に収束して維持される。
【0063】
各実施例のPHは、比較例よりも低くなっている。このグラフから判ることは、昆布を添加するとPHが下がるので、やはり乳酸発酵が促進され、乳酸も多くなっていることである。
特に、昆布を添加しない比較例では、PH3.2になるのが、7日目であるのに対して、昆布を添加した実施例では4.5日目の前後でPH3.2に到達している。これは、PHで判断する場合、発酵の完了を1日以上早く判断することができることを意味し、発酵期間の短縮を可能にすることを示している。また、前発酵終了時に玄米及び昆布等の固形原料を除去するので、この時点でヨウ素の供給は終了し、後発酵は新規供給されるヨウ素の影響を避けて発酵できる。
【0064】
この昆布による発酵の促進は、水溶性食物繊維等からなる乳酸菌の栄養源となる水溶性成分の供給によって生じたものと考えられる。
ただし、各実施例間では相違があり、昆布を最小の2g添加した実施例1が最もPHを低くし、次いで昆布を最大の6g添加した実施例3となり、昆布の添加量が中間の4gである実施例2のPHが最も大きくなっている。
【0065】
これは、ヨウ素の殺菌作用によるものと考えられる。すなわち、ヨウ素が最も少ない実施例1が、ヨウ素の影響を最も小さくし乳酸発酵を最も速くしたと考えられる。
ヨウ素量が最も多い実施例3は、昆布の量が最も多いので最も大きく発酵促進されるべき物と考えられるが、ヨウ素量も最大となり、その影響も大きくなるから、促進作用と阻害作用が相殺され、実施例1と同程度でかつ若干PHが大きくなっているものと考えられる。
【0066】
昆布量が中間の実施例2は、これらの中間であり、ヨウ素による阻害作用の方が若干大きくなった結果、実施例1及び3よりも若干PHを大きくしているものと考えられる。
すなわち、実施例2が昆布量の割に、発酵促進作用とヨウ素による阻害作用とが最もバランスしているものと判断され、この観点からは実施例2が最も有利となる。
【0067】
なお、比較例ではPHのグラフから確実に発酵完了を判断できるのは、判断基準値内となる7日目となる。しかし、7日目では、酸化還元電位が判断基準値ゾーンから出てしまうので、判断時点として遅すぎる。
【0068】
そこで、酸化還元電位が判断基準値ゾーン内となり、PHがほぼ判断基準値内となった5日目から、これら数値の毎測定時に手動で甘みをチェックする。このチェックにおいて甘みをほぼ感じなくなった時点で発酵完了と判断する。
このため、官能チェックで発酵完了の判断が正確になる反面、早めに甘みのチェックを開始して継続しなければならないので、手間がかかることになった。
【0069】
なお、乳酸菌飲料である水素水の味として、一般にPH3.2ではかなり酸っぱく、できれば酸味がほどよいPH3.4程度で発酵完了することが好ましい。一方、判断基準値のPH3.2はほとんどの雑菌が死滅する酸度である。したがってPH3.2を判断基準値とすることは衛生上からも好ましい。
【0070】
このようにして得られた水素水は、玄米由来の自然の植物性乳酸菌により乳酸発酵してなる植物性乳酸菌飲料が得られる。しかも、昆布を添加することにより、人体内における殺菌作用等をなす有用物質であるヨウ素を含有し、抗酸化作用を有する水素と、腸内フローラを改善する乳酸菌と、水溶性食物繊維からなるプレバイオティクスを含む高機能飲料となる。そのうえ、昆布により、発酵を促進し、旨み成分で食味を向上させることができる。
なお、実施例2により得られた水素水は、乳酸菌数が3.5×106 個/mLであった。また、ヨウ素を600μg/100g含有していた。
【0071】
また、乳酸菌の発酵に際して、固形昆布を添加することにより、ヨウ素の溶出を少量ずつ時間を掛けたゆっくりしたものとし、乳酸菌の増殖に対する悪影響を抑制した。このため、十分量のヨウ素を含有するにもかかわらず、乳酸菌数を若干量減らすだけで、水素水として要求される十分量を確保することができた。
【0072】
すなわち、昆布なしの従来法である比較例の場合、乳酸菌数が、3.8×107 個 /mLであったところ、ヨウ素を添加したにもかかわらず、これより1桁少ないだけの上記乳酸菌数を得ることができ、高機能化できた。
しかも、この方法によれば、昆布を発酵促進剤として利用できるので、発酵を促進して、発酵期間を短縮でき、発酵作業を効率化できる。さらに、酸化還元電位の最低値をより低く下げることができるので、酸化還元電位の戻りによって酸化側へ至るまでの期間を長くすることができる。したがって、製品をより長く還元側に維持することができ、製品出荷までの自由度を大きくすることができる。
【0073】
比較例:昆布を添加しないもの
発芽玄米60g、塩3g、黒糖30gを深層水1Lに加えた発酵液とし、これを温度を35℃に維持して発酵する。
発酵開始後は、約半日程度毎に酸化還元電位とPHを定期測定する。
酸化還元電位は、酸化還元電位計として「YK-23RP-ADV」(株式会社佐藤商事、ORPセンサー:「SOTA-ORP」;同社製)を使用する。
【0074】
比較例の発酵
酸化還元電位は1日目で最低値(-368mV)を示し、5日目に
-100mVを越え、その後も上昇を継続する(
図1)。また、PHは
7日目でほぼ目標のPH3.2になり、その後はほぼ一定となる(
図2)。
PHが目標に近くなった5日目より甘みのチェックを開始し、甘みが消えた6.5日目に発酵完了と判断する。
また、乳酸菌数は、MRS寒天平板嫌気培養法により測定する。
【実施例1】
【0075】
比較例に昆布を添加した実施例1~3を作成する。なお、実施例1~3は昆布の量を変化させただけのものである。昆布の量は標準的な昆布ダシの使用量を考慮して、2~6gとした。また、各実施例とも、昆布を除く発酵液の調整、発酵方法、酸化還元電位及びPHの測定は比較例と同じである。
【0076】
実施例1:刻み昆布2gを上記比較例の発酵液に添加する。
刻み昆布は、たて5cm×よこ2cm× 厚さ0.5mm程度の板昆布を、2~3mm幅で短冊状に裁断したものである。
この刻み昆布を液中へ分散投入し、前発酵中は浸漬させたままとし、後発酵前に除去する。
前発酵が終了すると、発酵液中より玄米や昆布等の固体物質を除去し、さらに後発酵として発酵を継続する。酸化還元電位が判断基準値となるか甘みチェックにより発酵完了と判断したとき発酵を終了させる。その後、必要により、乳酸菌数やヨウ素量など、成分について測定する。ヨウ素の測定は、ガスクロマトグラフィーによる。
【実施例2】
【0077】
実施例1にて刻み昆布を4gに変更したものである。
【実施例3】
【0078】
実施例1にて刻み昆布を6gに変更したものである。