(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-19
(45)【発行日】2022-05-27
(54)【発明の名称】多層体および成形品
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20220520BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20220520BHJP
C08L 33/00 20060101ALI20220520BHJP
C08L 25/08 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
B32B27/36 102
C08L69/00
C08L33/00
C08L25/08
(21)【出願番号】P 2022508488
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2021044413
【審査請求日】2022-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2020210047
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】山口 円
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 香里
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-047740(JP,A)
【文献】特開2015-104910(JP,A)
【文献】特開2009-196153(JP,A)
【文献】特開2011-093258(JP,A)
【文献】植村 幸生,硬質プラスチックのシャルピー衝撃試験に関する研究(第7報、シャルピー衝撃値に及ぼす試験片厚さの影響),日本機械学会論文集(A編),47巻414号(昭56-2),日本,1981年02月,pp221-228,https://www.jstage.jst.go.jp/article/kikaia1979/47/414/47_414_221/_article/-char/ja/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物(x)から形成された層(X)と、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物(y)から形成された層(Y)とを有し、
前記樹脂組成物(x)は、示差走査熱量測定により測定した初期ガラス転移温度(Tig)が120℃以上であり、
前記樹脂組成物(x)を3mm厚さのISO試験片に成形したときのノッチ無しシャルピー衝撃強さが12.0kJ/m
2以上であり、前記ノッチ無しシャルピー衝撃強さは、JIS K 7111-1において、ISO試験片の厚さを4mmから3mmに変更し、他は同様に行って測定した値であり、
前記樹脂組成物(y)は、示差走査熱量測定により測定した初期ガラス転移温度(Tig)が125℃以下である、
多層体。
【請求項2】
前記層(X)の鉛筆硬度がH以上である、請求項1に記載の多層体。
【請求項3】
前記樹脂組成物(x)がアクリル樹脂(a)とスチレン樹脂(b)を含み、前記アクリル樹脂(a)とスチレン樹脂(b)の含有量の合計100質量部を基準として、アクリル樹脂(a)の含有量は25~65質量部であり、スチレン樹脂(b)の含有量は35~75質量部である、請求項1または2に記載の多層体。
【請求項4】
前記スチレン樹脂(b)が芳香族ビニル化合物単位を68~84質量%と、環状酸無水物単位を16~32質量%含む(ただし、芳香族ビニル化合物単位と環状酸無水物単位の合計が100質量%を超えることはない)、請求項
3に記載の多層体。
【請求項5】
前記スチレン樹脂(b)における芳香族ビニル化合物単位がスチレンを含む、請求項4に記載の多層体。
【請求項6】
前記スチレン樹脂(b)における環状酸無水物単位が無水マレイン酸を含む、請求項4または5に記載の多層体。
【請求項7】
前記樹脂組成物(x)が、さらに、酸化防止剤および/または離型剤を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項8】
さらに、ハードコート層を含み、前記ハードコート層は、前記層(Y)、前記層(X)、前記ハードコート層の順に積層している、請求項1~7のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項9】
{層(X)の厚み/[層(X)と層(Y)の合計厚み]}<1/5を満たす、請求項1~8のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項10】
さらに、前記多層体の片面または両面に、耐指紋処理、反射防止処理、防眩処理、耐候性処理、帯電防止処理、防汚染処理およびアンチブロッキング処理のいずれか1つ以上が施されている、請求項1~9のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項11】
前記多層体の総厚みが10~10,000μmである、請求項1~10のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の多層体から形成された成形品であって、曲率半径が50mmR以下の部位を有する、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層体および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性に優れることに加え、ガラスと比較して加工性、耐衝撃性に優れ、また、他のプラスチック材料に比べて有毒ガスの心配もないため、様々な分野で広く用いられており、真空成形や圧空成形などの熱成形用材料としても使用されている。
【0003】
一方、ポリカーボネート樹脂は、一般的に表面硬度が低いため、ポリカーボネート樹脂からなる成形品の表面に傷が入り易い傾向にある。そこで、ポリカーボネート樹脂をフィルム状にした場合、表面にアクリル樹脂を含む層やハードコート層(保護層)を形成し、製品表面に傷が入らないようにすることが検討されている。
例えば、特許文献1には、芳香族ポリカーボネート(A1)と他の樹脂(A2)とのポリマーアロイからなるポリカーボネート系樹脂組成物(A)を主成分とする基材層の片面に、アクリル系樹脂(B)を主成分とする被覆層を備えた積層シートであって、該ポリカーボネート系樹脂組成物(A)と該アクリル系樹脂(B)とのガラス転移温度の差の絶対値が30℃以内であることを特徴とする成形用樹脂シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物から形成された層と、他の樹脂組成物から形成された層との多層体とし、所望の形状に加熱成形する場合、クラックが発生したり、熱曲げ後に多層体が元の形に戻る現象(スプリングバック)が発生してしまったりする場合があることが分かった。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、加熱成形しても、クラックの発生が抑制でき、かつ、スプリングバックの発生が抑制できる多層体および成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本発明者が検討した結果、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物から形成された層のガラス転移温度を低めにし、かつ、他の樹脂組成物から形成された層の耐衝撃性を高くし、かつ、ガラス転移温度を高めとすることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>樹脂組成物(x)から形成された層(X)と、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物(y)から形成された層(Y)とを有し、前記樹脂組成物(x)は、示差走査熱量測定により測定した初期ガラス転移温度(Tig)が120℃以上であり、前記樹脂組成物(x)を3mm厚さのISO試験片に成形したときのノッチ無しシャルピー衝撃強さが12.0kJ/m2以上であり、前記ノッチ無しシャルピー衝撃強さは、JIS K 7111-1において、ISO試験片の厚さを4mmから3mmに変更し、他は同様に行って測定した値であり、前記樹脂組成物(y)は、示差走査熱量測定により測定した初期ガラス転移温度(Tig)が125℃以下である、多層体。
<2>前記層(X)の鉛筆硬度がH以上である、<1>に記載の多層体。
<3>前記樹脂組成物(x)がアクリル樹脂(a)とスチレン樹脂(b)を含み、前記アクリル樹脂(a)とスチレン樹脂(b)の含有量の合計100質量部を基準として、アクリル樹脂(a)の含有量は25~65質量部であり、スチレン樹脂(b)の含有量は35~75質量部である、<1>または<2>に記載の多層体。
<4>前記スチレン樹脂(b)が芳香族ビニル化合物単位を68~84質量%と、環状酸無水物単位を16~32質量%含む(ただし、芳香族ビニル化合物単位と環状酸無水物単位の合計が100質量%を超えることはない)、<1>~<3>のいずれか1つに記載の多層体。
<5>前記スチレン樹脂(b)における芳香族ビニル化合物単位がスチレンを含む、<4>に記載の多層体。
<6>前記スチレン樹脂(b)における環状酸無水物単位が無水マレイン酸を含む、<4>または<5>に記載の多層体。
<7>前記樹脂組成物(x)が、さらに、酸化防止剤および/または離型剤を含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の多層体。
<8>さらに、ハードコート層を含み、前記ハードコート層は、前記層(Y)、前記層(X)、前記ハードコート層の順に積層している、<1>~<7>のいずれか1つに記載の多層体。
<9>{層(X)の厚み/[層(X)と層(Y)の合計厚み]}<1/5を満たす、<1>~<8>のいずれか1つに記載の多層体。
<10>さらに、前記多層体の片面または両面に、耐指紋処理、反射防止処理、防眩処理、耐候性処理、帯電防止処理、防汚染処理およびアンチブロッキング処理のいずれか1つ以上が施されている、<1>~<9>のいずれか1つに記載の多層体。
<11>前記多層体の総厚みが10~10,000μmである、<1>~<10>のいずれか1つに記載の多層体。
<12><1>~<11>のいずれか1つに記載の多層体から形成された成形品であって、曲率半径が50mmR以下の部位を有する、成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、加熱成形しても、クラックの発生が抑制でき、かつ、スプリングバックの発生が抑制できる多層体および成形品を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、反射防止フィルムの一例の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有さない基(原子団)と共に置換基を有する基(原子団)をも包含する。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。本明細書では、置換および無置換を記していない表記は、無置換の方が好ましい。
本明細書において、「(メタ)アクリル化合物」は、アクリル化合物およびメタクリル化合物の双方、または、いずれかを表し、メタクリル化合物が好ましい。また、アクリル樹脂は、アクリレートの(共)重合体に加え、メタクリレートの(共)重合体も含む。
本明細書における層(X)、層(Y)および多層体は、それぞれ、フィルムまたはシートの形状をしているものを含む趣旨である。「フィルム」および「シート」とは、それぞれ、長さと幅に対して、厚さが薄く、概ね、平らな成形品をいう。
なお、本明細書における「質量部」とは成分の相対量を示し、「質量%」とは成分の絶対量を示す。
本明細書で示す規格が年度によって、測定方法等が異なる場合、特に述べない限り、出願時点における規格に基づくものとする。
【0010】
本実施形態の多層体は、樹脂組成物(x)から形成された層(X)と、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物(y)から形成された層(Y)とを有し、前記樹脂組成物(x)は、示差走査熱量測定により測定した初期ガラス転移温度(Tig)が120℃以上であり、前記樹脂組成物(x)を3mm厚さのISO試験片に成形したときのノッチ無しシャルピー衝撃強さが12.0kJ/m2以上であり、前記ノッチ無しシャルピー衝撃強さは、JIS K 7111-1において、ISO試験片の厚さを4mmから3mmに変更し、他は同様に行って測定した値であり、前記樹脂組成物(y)は、示差走査熱量測定により測定した初期ガラス転移温度(Tig)が125℃以下であることを特徴とする。このような構成とすることにより、クラックの発生が抑制でき、かつ、スプリングバックの発生が抑制できる多層体が得られる。
樹脂組成物(x)から形成された層(X)と、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物(y)から形成された層(Y)とを有する多層体を熱成形する場合、層(X)または層(X)と隣接する層(Y)以外のその他の層にクラックが発生してしまう場合がある。本実施形態では、層(X)の初期ガラス転移温度(Tig)を120℃以上として、熱曲げ成形時に層(X)の熱変形を抑制することで、クラックの発生を抑制できたと推測される。しかしながら、層(X)の初期ガラス転移温度(Tig)が高いだけでは、適切な熱曲げ成形はできず、層(X)または層(X)と隣接する層(Y)以外のその他の層にクラックが発生してしまう場合があることが分かった。これは、層(X)が、例えば、スチレン樹脂層である場合などは、層(X)がもろくなってしまうことが原因の1つと推測された。本実施形態では、層(X)に耐衝撃性が高いものを用いることにより、クラックの発生を抑制できたと推測される。また、本発明者が検討を行ったところ、ポリカーボネート樹脂を含む層(Y)の初期ガラス転移温度(Tig)を125℃以下とすることにより、驚くべきことにスプリングバックを抑制できることを見出した。以上に基づき、クラックの発生とスプリングバックの抑制が可能な多層体を提供するに至ったと推測される。
【0011】
<層(X)>
層(X)は、樹脂組成物(x)から形成された層であり、樹脂組成物(x)は、示差走査熱量測定により測定した初期ガラス転移温度(Tig)が120℃以上であり、樹脂組成物(x)を3mm厚さのISO試験片に成形したときのノッチ無しシャルピー衝撃強さが12.0kJ/m2以上である。初期ガラス転移温度(Tig)を120℃以上とすることにより、熱成形時の熱成形温度を、例えば、120℃程度とすることもでき、さらに、熱成形時に層(X)の熱変形を抑制することで、クラックの発生を抑制できる。また、シャルピー衝撃強さを12.0kJ/m2以上とすることにより、層(X)のもろさを改善し、適切な曲げ成形を可能にしたものである。
【0012】
樹脂組成物(x)は、示差走査熱量測定による初期ガラス転移温度(Tig)が120℃以上であり、121℃以上であることが好ましい。前記下限値以上とすることにより、クラックの発生を効果的に抑制することができる。さらに、湿熱試験、高温試験などの耐環境試験の耐久性がより向上する傾向にある。前記初期ガラス転移温度(Tig)の上限値は、特に定めるものではないが、135℃未満が好ましく、130℃以下、さらには、126℃以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ時におけるスプリングバックの抑制効果がより向上する傾向にある。
樹脂組成物(x)は、示差走査熱量測定による中間ガラス転移温度(Tmg)が123℃以上であることが好ましく、124℃以上であることがより好ましく、125℃以上であることがさらに好ましく、126℃以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、クラックの発生を効果的に抑制することができる。さらに、湿熱試験、高温試験などの耐環境試験の耐久性がより向上する傾向にある。前記中間ガラス転移温度(Tmg)の上限値は、特に定めるものではないが、139℃以下が実際的であり、134℃以下、さらには130℃以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ時におけるスプリングバックの抑制効果がより向上する傾向にある。
本実施形態において、層(x)におけるTmgとTigの差(Tmg-Tig)は、1~6℃であることが好ましく、3~6℃であることがより好ましく、4~5℃であることがさらに好ましい。このような範囲とすることにより、熱曲げ成形の再現性がより向上する傾向にある。
ガラス転移温度(Tig、Tmg)は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0013】
本実施形態においては、樹脂組成物(x)を3mm厚さのISO試験片に成形したときのノッチ無しシャルピー衝撃強さが12.0kJ/m2以上である。ここで、前記ノッチ無しシャルピー衝撃強さは、JIS K 7111-1において、ISO試験片の厚さを4mmから3mmに変更し、他は同様に行って測定した値であり、詳細は後述する実施例の記載に従う。
前記樹脂組成物(x)のノッチ無しシャルピー衝撃強さは、12.5kJ/m2以上であることが好ましく、13.0kJ/m2以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、熱成形時のクラックの発生の抑制効果がより向上する傾向にある。また、前記樹脂組成物(x)のノッチ無しシャルピー衝撃強さは、30.0kJ/m2以下であることが好ましく、20.0kJ/m2以下であることがより好ましい。
【0014】
樹脂組成物(x)は、透明性に優れていることが好ましい。具体的には、樹脂組成物(x)を1mmの厚さに成形したときの全光線透過率が85.0%以上であることが好ましく、88.0%以上であることがより好ましく、89.0%以上であることがさらに好ましい。上限値は、100%が理想であるが、99.9%以下が実際的である。
樹脂組成物(x)は、また、樹脂組成物(x)を1mmの厚さに成形したときのヘイズが5.0%以下であることが好ましく、2.0%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましく、0.4%以下であることが一層好ましく、0.2%以下であることがより一層好ましい。下限値は、0%が理想であるが、0.01%以上が実際的である。
全光線透過率およびヘイズは後述する実施例の記載に従って測定される。
【0015】
樹脂組成物(x)、すなわち、層(X)は、鉛筆硬度が高い(硬い)ことが好ましい。具体的には、樹脂組成物(x)を1mmの厚さに成形し、JIS K5600-5-4:1999に準拠し、鉛筆硬度試験機を用いて、750g荷重にて測定した鉛筆硬度が、F以上であることが好ましく、H以上であることがより好ましい。層(X)の鉛筆硬度をF以上とすることにより、多層体全体の硬度を高めることができ、耐擦傷性を向上させることができる。上限は特に定めるものではないが、3H以下が実際的である。
鉛筆硬度は後述する実施例の記載に従って測定される。
【0016】
また、層(X)は単層であってもよいが、多層であってもよい。
層(X)の厚みは、特に制限はないが、下限値が、例えば、1μm以上であり、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましく、80μm以上であることが一層好ましく、100μm以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、成形がより容易となるとともに、硬度が向上する傾向にある。また、層(X)の厚さの上限に特に制限は無いが、5,000μm以下であることが好ましく、2,000μm以下であることがより好ましく、1,000μm以下であることがさらに好ましく、500μm以下であることが一層好ましく、300μm以下であることがより一層好ましい。特に、詳細を後述する通り、層(X)と層(Y)の厚さの合計に対し、層(X)が薄い方が好ましい。このような構成とすることにより、多層体を加熱成形しても、クラックの発生が効果的に抑制され、かつ、スプリングバックの発生が効果的に抑制される。
【0017】
次に、樹脂組成物(x)の組成について説明する。
樹脂組成物(x)は所望の初期ガラス転移温度(Tig)およびノッチ無しシャルピー衝撃強さを満たす限り特に定めるものではない。初期ガラス転移温度(Tig)を高くするには、樹脂の原料モノマーを調整することが例示される。また、樹脂の分子量を高くすることも挙げられる。樹脂のガラス転移温度は一般的に原料モノマーと分子量によって決まり、当業者が適宜選択できる。シャルピー衝撃強さを高くする方法としては、ポリメチルメタクリレートなど公知の耐衝撃性が高い樹脂を配合する、分子量が高い樹脂を採用する、ゴムなどの耐衝撃改質剤を配合することなどが例示される。
【0018】
樹脂組成物(x)に含まれる樹脂の種類は特に定めるものではないが、熱可塑性樹脂が好ましく、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂、および、ポリフェニレンエーテルなどの芳香族ポリエーテル樹脂から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含むことがより好ましく、アクリル樹脂および/またはスチレン樹脂がさらに好ましい。樹脂組成物(x)は、通常、その90質量%以上(好ましくは95質量%以上)が上記熱可塑性樹脂から構成されることが好ましい。
【0019】
樹脂組成物(x)は、アクリル樹脂(a)とスチレン樹脂(b)を含む態様がさらに好ましい。アクリル樹脂(a)とスチレン樹脂(b)を併用することにより、鉛筆硬度と耐熱性および耐衝撃性がより効果的に向上する傾向にある。すなわち、アクリル樹脂(a)を配合することにより、鉛筆硬度が向上し、スチレン樹脂(b)を配合することにより、層(Y)との屈折率差を小さくでき、虹ムラ等に由来する外観不良を効果的に抑制できる。
樹脂組成物(x)が、アクリル樹脂(a)とスチレン樹脂(b)を含む場合、そのブレンド比は、アクリル樹脂(a)とスチレン樹脂(b)の含有量の合計100質量部を基準として、アクリル樹脂(a)の含有量は25~65質量部であり、スチレン樹脂(b)の含有量は35~75質量部である態様であり、さらに好ましくは、アクリル樹脂(a)の含有量は30~60質量部であり、スチレン樹脂(b)の含有量は40~70質量部である態様である。また、アクリル樹脂(a)とスチレン樹脂(b)の含有量の合計100質量部を基準として、アクリル樹脂(a)の含有量を25質量部以上とすることにより、鉛筆硬度および耐衝撃性がより効果的に向上する傾向にある。また、アクリル樹脂(a)とスチレン樹脂(b)の含有量の合計100質量部を基準として、アクリル樹脂(a)の含有量を65質量部以下とすることにより、耐熱性の低下の抑制効果がより向上する傾向にある。
樹脂組成物(x)が、アクリル樹脂(a)とスチレン樹脂(b)を含む場合、アクリル樹脂(a)およびスチレン樹脂(b)は、それぞれ、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
また、樹脂組成物(x)が、アクリル樹脂(a)とスチレン樹脂(b)を含む場合、アクリル樹脂(a)とスチレン樹脂(b)の合計が、樹脂組成物(x)の85質量%以上を占めることが好ましく、90質量%以上を占めることがより好ましく、95質量%以上を占めることがさらに好ましく、99質量%以上を占めていてもよい。
【0020】
次に、アクリル樹脂(a)について説明する。
アクリル樹脂(a)は、(メタ)アクリル化合物単位を含むことが好ましく、その割合は、末端基を除く全構成単位中、50質量%超であることが好ましく、76質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが一層好ましく、95質量%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、鉛筆硬度および耐衝撃性がより向上する傾向にある。ここで、(メタ)アクリル化合物単位とは、樹脂中の(メタ)アクリル化合物から構成される構成単位をいう(後述する、「芳香族ビニル化合物単位」等についても同様である。)。前記アクリル樹脂(a)中の(メタ)アクリル化合物単位の割合の上限値は、末端基を除く全構成単位中、100質量%である。
アクリル樹脂(a)は、(メタ)アクリル化合物単位を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0021】
(メタ)アクリル化合物としては、(メタ)アクリル基を含む限り特に定めるものではないが、式(a1)で表される化合物が好ましい。
【化1】
(式(a1)中、Ra
1は、水素原子またはメチル基であり、Ra
2は、脂肪族基である。)
上記式(a1)において、Ra
1は、水素原子またはメチル基であり、メチル基が好ましい。Ra
2は、脂肪族基であり、直鎖または分岐の脂肪族基であることが好ましく、直鎖の脂肪族基であることがより好ましい。脂肪族基は、アルキル基(シクロアルキル基を含む)、アルキニル基(シクロアルキニル基を含む)、アルケニル基(シクロアルケニル基を含む)等が例示され、アルキル基が好ましく、直鎖または分岐のアルキル基がより好ましく、直鎖のアルキル基がさらに好ましい。Ra
2である脂肪族基の炭素原子数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましく、1~3であることがさらに好ましく、1または2であることが一層好ましく、1であることがより一層好ましい。
式(a1)で表される(メタ)アクリル化合物は、アルキル(メタ)アクリレート(好ましくはアルキルメタクリレート)であることが好ましく、メチル(メタ)アクリレート(好ましくはメチルメタクリレート)であることがより好ましい。メチルメタクリレートを用いることにより、得られる層(X)の耐衝撃強さが向上する傾向にある。
【0022】
アクリル樹脂(a)は、(メタ)アクリル化合物単位以外のモノマー単位を含んでいてもよい。他のモノマーとしては、環状酸無水物単位、N置換マレイミド単位、芳香族ビニル化合物単位、脂肪族ビニル化合物単位が例示され、環状酸無水物単位、および/または、N置換マレイミド単位が好ましい。
前記他のモノマー単位の割合は、末端基を除く全構成単位の5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。また、ラクトン環単位を形成するようなモノマーも好ましく用いられる。
アクリル樹脂(a)は、他のモノマー単位を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0023】
前記アクリル樹脂(a)の初期ガラス転移温度(Tig)は、99℃以上であることが好ましく、102℃以上であることがより好ましく、105℃以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、熱曲げ時のクラック発生の抑制効果がより向上する傾向にある。また、前記アクリル樹脂(a)の初期ガラス転移温度(Tig)は、117℃以下であることが好ましく、114℃以下であることがより好ましく、112℃以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ時におけるスプリングバックの抑制効果がより向上する傾向にある。
樹脂組成物(x)がアクリル樹脂(a)を2種以上含む場合、アクリル樹脂(a)の初期ガラス転移温度(Tig)とは、混合物のTigとする。また、ガラス転移温度の測定方法は後述する実施例に記載の方法に従う(以下、重量平均分子量、鉛筆硬度、ならびに、スチレン樹脂(b)の、重量平均分子量、鉛筆硬度についても同じ)。
【0024】
前記アクリル樹脂(a)の重量平均分子量は、50,000以上であることが好ましく、60,000以上であることがより好ましく、70,000以上であることがさらに好ましく、80,000以上であることが一層好ましく、90,000以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる層(X)の耐衝撃強さをより向上させることができる。前記アクリル樹脂(a)の重量平均分子量は、300,000以下であることが好ましく、250,000以下であることがより好ましく、200,000以下であることがさらに好ましく、170,000以下であることが一層好ましく、150,000以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の溶融粘度を効果的に低くでき、多層体の成形が容易となる。
【0025】
前記アクリル樹脂(a)の鉛筆硬度は、H以上であることが好ましく、2H以上であることがより好ましく、3H以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、耐擦傷性がより向上する傾向にある。また、前記アクリル樹脂(a)の鉛筆硬度は、4H以下であることが好ましく、3H以下であることがより好ましい。
【0026】
次に、スチレン樹脂(b)について説明する。
スチレン樹脂(b)とは、芳香族ビニル化合物単位として、スチレン単位、α-メチルスチレン単位、o-メチルスチレン単位、p-メチルスチレン単位等のスチレン系モノマー単位の少なくとも1種を含む樹脂であり、スチレン単位を含むことが好ましい。スチレン樹脂(b)中の芳香族ビニル化合物単位(好ましくはスチレン系モノマー単位)の割合は、末端基を除く全構成単位中、50質量%超であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましく、65質量%以上であることが一層好ましく、70質量%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、屈折率向上により、ポリカーボネート樹脂層と積層した際の干渉縞の抑制効果がより向上する傾向にある。前記スチレン樹脂(b)中の芳香族ビニル化合物単位の割合の上限値は、末端基を除く全構成単位中、100質量%である。
スチレン樹脂(b)は、芳香族ビニル化合物単位(さらには、スチレン系モノマー単位)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0027】
スチレン樹脂(b)は、芳香族ビニル化合物単位以外のモノマー単位、および、スチレン系モノマー単位以外の芳香族ビニル化合物単位を含んでいてもよい。他のモノマーとしては、芳香族ビニル化合物以外のモノマーであって、芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物が例示される。
他のモノマー単位としては、具体的には、環状酸無水物単位、N置換マレイミド単位、(メタ)アクリル化合物単位、シアン化アルケニル単位が例示され、環状酸無水物単位が好ましい。
【0028】
環状酸無水物単位は、無水マレイン酸単位、グルタル酸無水物単位が例示され、無水マレイン酸単位が好ましい。環状酸無水物単位、特に、マレイン酸単位を含むことにより、アクリル樹脂との相溶性および耐熱性がより向上する傾向にある。
【0029】
スチレン樹脂(b)は、芳香族ビニル化合物単位を68~84質量%と、環状酸無水物単位を16~32質量%含む(ただし、芳香族ビニル化合物単位と環状酸無水物単位の合計が100質量%を超えることはない)ことが好ましい。前記芳香族ビニル化合物単位が68質量%以上であることにより、アクリル樹脂との相溶性が向上し、樹脂全体の透明性がより向上する傾向にある。また、前記芳香族ビニル化合物単位が84質量%以下であることにより、層(X)の濁りを効果的に抑制することができ、また熱曲げ成形時のクラックの発生を抑制することができる。スチレン樹脂(b)は、芳香族ビニル化合物単位を70~83質量%と、環状酸無水物単位を17~30質量%含むことが好ましく、芳香族ビニル化合物単位を75~83質量%と、環状酸無水物単位を17~25質量%含むことがより好ましく、芳香族ビニル化合物単位を78~83質量%と、環状酸無水物単位を17~22質量%含むことが好ましい。
【0030】
スチレン樹脂(b)において、芳香族ビニル化合物単位と環状酸無水物単位の合計が、スチレン樹脂(b)の末端を除く全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、99質量%以上を占めることがさらに好ましい。
スチレン樹脂(b)は、芳香族ビニル化合物単位および環状酸無水物単位について、それぞれ、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0031】
次に、芳香族ビニル化合物について説明する。
芳香族ビニル化合物は、ビニル基と芳香環基を有する化合物であり、(メタ)アクリレートと共重合可能な化合物を広く採用できる。芳香族ビニル化合物は、CH2=CH-L1-Ar1で表される化合物であることが好ましい。ここで、L1は単結合または2価の連結基であり、単結合または式量100~500の2価の連結基であることが好ましく、単結合または式量100~300の2価の連結基であることがより好ましく、単結合であることがさらに好ましい。L1が2価の連結基の場合、脂肪族炭化水素基または、脂肪族炭化水素基と-O-との組み合わせからなる基であることが好ましい。ここで、式量とは、芳香族ビニル化合物のL1に相当する部分の1モル当たりの質量(g)を意味する。以下、他の「式量」についても同様に考える。Ar1は芳香環基であり、置換または無置換の、ベンゼン環基またはナフタレン環(好ましくはベンゼン環)であることが好ましく、無置換のベンゼン環基であることがさらに好ましい。
【0032】
より具体的には、芳香族ビニル化合物は式(b1)で表される芳香族ビニル化合物を含むことが好ましい。
式(b1)
【化2】
(式(b1)中、Ra
3は、置換基であり、naは、0~6の整数である。)
【0033】
式(b1)中、Ra3は、置換基であり、ハロゲン原子(好ましくは、塩素原子、フッ素原子または臭素原子)、水酸基、アルキル基(好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基)、アリール基(好ましくはフェニル基)、アルケニル基(好ましくは炭素原子数2~5のアルケニル基)、アルコキシ基(好ましくは炭素原子数1~5のアルコキシ基)、アリールオキシ基(好ましくはフェノキシ基)が例示される。naが2以上のとき、複数のRa3は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
naは、5以下の整数であることが好ましく、4以下の整数であることがより好ましく、3以下の整数であることがさらに好ましく、2以下の整数であることが一層好ましく、1以下の整数であることがより一層好ましく、0であることがさらに一層好ましい。
【0034】
(b1)芳香族ビニル化合物は、分子量104~600の化合物であることが好ましく、分子量104~400の化合物であることがより好ましい。
(b1)芳香族ビニル化合物は、具体的には、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、フルオロスチレン、トリブロモスチレン等のスチレン系モノマー(スチレン誘導体)が挙げられ、特にスチレンが好ましい。
【0035】
次に、環状酸無水物について説明する。
環状酸無水物単位は、無水マレイン酸単位、グルタル酸無水物が例示され、無水マレイン酸単位が好ましい。環状酸無水物単位、特に、マレイン酸単位を含むことにより、得られるスチレン樹脂(b)のガラス転移温度を高くできる。
【0036】
スチレン樹脂(b)は、上記以外の他のモノマー単位を含んでいてもよい。他のモノマーとしては、具体的には、N置換マレイミド単位、(メタ)アクリル化合物単位が例示される。
【0037】
前記スチレン樹脂(b)の初期ガラス転移温度(Tig)は、115℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、125℃以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、熱曲げ時のクラック抑制効果がより向上する傾向にある。また、前記スチレン樹脂(b)の初期ガラス転移温度(Tig)は、180℃以下であることが好ましく、170℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ時におけるスプリングバックの抑制効果がより向上する傾向にある。
【0038】
前記スチレン樹脂(b)の重量平均分子量は、20,000以上であることが好ましく、50,000以上であることがより好ましく、80,000以上であることがさらに好ましく、90,000以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる層(X)の耐衝撃強さをより向上させることができる。また、前記スチレン樹脂(b)の重量平均分子量は、200,000以下であることが好ましく、150,000以下であることがより好ましく、120,000以下であることがさらに一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の溶融粘度を効果的に低くすることができる。
【0039】
前記スチレン樹脂(b)の鉛筆硬度は、B以上であることが好ましく、HB以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、耐擦傷性がより向上する傾向にある。また、前記スチレン樹脂(b)の鉛筆硬度は、F以下であることが好ましく、HB以下であることがより好ましい。
【0040】
また、樹脂組成物(x)は、酸化防止剤を含有することが好ましい。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられる。中でも本実施形態においては、リン系酸化防止剤およびフェノール系酸化防止剤(より好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤)が好ましい。リン系酸化防止剤は、成形品の色相に優れることから特に好ましい。
【0041】
リン系酸化防止剤は、ホスファイト系酸化防止剤が好ましく、以下の式(1)または(2)で表されるホスファイト化合物が好ましい。
【化3】
(式(1)中、R
11およびR
12はそれぞれ独立に、炭素原子数1~30のアルキル基または炭素原子数6~30のアリール基を表す。)
【化4】
(式(2)中、R
13~R
17は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数6~20のアリール基または炭素原子数1~20のアルキル基を表す。)
【0042】
上記式(1)中、R11、R12で表されるアルキル基は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の直鎖または分岐のアルキル基であることが好ましい。R11、R12がアリール基である場合、以下の式(1-a)、(1-b)、または(1-c)のいずれかで表されるアリール基が好ましい。式中の*は結合位置を表す。
【0043】
【化5】
(式(1-a)中、R
Aは、それぞれ独立に、炭素原子数1~10のアルキル基を表す。式(1-b)中、R
Bは、それぞれ独立に、炭素原子数1~10のアルキル基を表す。)
【0044】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、特開2018-090677号公報の段落0063、特開2018-188496号公報の段落0076の記載を参照でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0045】
酸化防止剤は、上記の他、特開2017-031313号公報の段落0057~0061の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0046】
酸化防止剤の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、0.008質量部以上であることがより好ましい。また、酸化防止剤の含有量の上限値としては、樹脂組成物100質量部に対して、0.5質量部以下が好ましく、0.3質量部以下がより好ましく、0.2質量部以下がさらに好ましく、0.15質量部以下であることが一層好ましく、0.10質量部以下であることがさらに一層好ましく、0.08質量部以下であることが特に一層好ましい。
【0047】
酸化防止剤の含有量を上記下限値以上とすることにより、色相、耐熱変色性がより良好な成形品を得ることができる。また、酸化防止剤の含有量を上記上限値以下とすることにより、耐熱変色性を悪化させることなく、湿熱安定性が良好な成形品を得ることができる。
酸化防止剤は、1種のみ用いても、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合は合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0048】
また、樹脂組成物(x)は、離型剤を含むことが好ましい。
離型剤の種類は特に定めるものではないが、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、数平均分子量100~5,000のポリエーテル、ポリシロキサン系シリコーンオイル等が挙げられる。
【0049】
離型剤の詳細は、国際公開第2015/190162号の段落0035~0039の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0050】
離型剤の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、0.005質量部以上であることがより好ましく、0.01質量部以上であることがさらに好ましい。上限値としては、0.5質量部以下であることが好ましく、0.3質量部以下であることがより好ましく、0.2質量部以下であることがさらに好ましい。
離型剤は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0051】
樹脂組成物(x)は、上記成分の他、上記以外の熱可塑性樹脂、紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、衝撃改良剤、摺動改良剤、色相改良剤、酸トラップ剤等を含んでいてもよい。これらの成分は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記成分の含有量は、含有する場合、合計で樹脂組成物の0.1~5質量%であることが好ましい。
【0052】
<層(Y)>
層(Y)は、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物(y)から形成された層であり、示差走査熱量測定により測定した初期ガラス転移温度(Tig)が125℃以下であり、124℃以下であることが好ましい。ポリカーボネート樹脂を用いることにより、シート全体の耐衝撃性や剛性がより効果的に担保される。また、初期ガラス転移温度を125℃以下とすることにより、120℃程度で熱曲げ成形したときに、スプリングバックの抑制効果が発揮される。
樹脂組成物(y)は、示差走査熱量測定により測定した初期ガラス転移温度(Tig)の下限は、100℃以上であることが好ましく、105℃以上であることがより好ましく、110℃以上であることがさらに好ましく、115℃以上であることが一層好ましく、120℃以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、高温試験、湿熱試験などの環境試験の耐久性向上効果がより向上する傾向にある。
【0053】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂としては、芳香族ポリカーボネート樹脂であってもよいし、脂肪族ポリカーボネート樹脂であってもよいが、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることにより、湿熱試験や高温試験などの環境試験に強く、分子量低下等による樹脂劣化が生じにくくなる。
本実施形態では、芳香族ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノール型ポリカーボネート樹脂であることが好ましく、ビスフェノールA型および/またはビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂であることがより好ましく、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂であることがさらに好ましい。
【0054】
ビスフェノールA型およびビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂は、また、ビスフェノールAまたはビスフェノールC、およびその誘導体由来のカーボネート構成単位以外の他の構成単位を有していてもよい。このような他の構成単位を構成するジヒドロキシ化合物としては、例えば、特開2018-154819号公報の段落0014に記載の芳香族ジヒドロキシ化合物を挙げることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
本実施形態におけるビスフェノール型ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールAまたはビスフェノールC、およびその誘導体由来のカーボネート構成単位が、末端構造を除く全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、97質量%以上を占めることがさらに好ましい。
【0055】
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
【0056】
ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は、特に、定めるものではないが、10,000以上であることが好ましく、20,000以上であることがより好ましく、30,000以上であることがさらに好ましく、40,000以上であることが一層好ましく、50,000以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、多層体の耐衝撃性や成形時のフローマークの抑制がより向上する傾向にある。また、ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は、200,000以下であることが好ましく、150,000以下であることがより好ましく、100,000以下であることがさらに好ましく、80,000以下であることが一層好ましく、60,000以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、多層体の成形性が向上する傾向にある。
【0057】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂は、ガラス転移温度が低めであることが好ましい。このようなポリカーボネート樹脂を用いることにより、樹脂組成物(y)のガラス転移温度を低くすることができる。
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂の初期ガラス転移温度(Tig)は、145℃以下であることが好ましく、140℃以下であることがより好ましく、135℃以下であることがさらに好ましく、130℃以下であることが一層好ましく、125℃以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、多層体の熱曲げ成形性がより向上する傾向にある。また、本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂の初期ガラス転移温度(Tig)は、121℃以上であることが好ましく、122℃以上であることがより好ましく、123℃以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、湿熱試験、高温試験などの耐環境試験の耐久性がより向上する傾向にある。
【0058】
樹脂組成物(y)は、式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい。式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることにより、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度を低くすることができる。
【化6】
(式(1)中、R
1は、炭素原子数8~36のアルキル基、または、炭素原子数8~30のアルケニル基を表す。R
2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または、炭素原子数6~12のアリール基を表す。nは0~4の整数を表す。*は、他の部位との結合部位である。)
【0059】
R1は、炭素原子数8~36のアルキル基、または、炭素原子数8~30のアルケニル基を表し、炭素原子数10以上のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、12以上のアルキル基またはアルケニル基であることがより好ましく、さらに14以上のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましい。これにより樹脂のガラス転移温度を低くし、多層体の熱曲げ性が向上する傾向にある。また、R1は、炭素原子数22以下のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、18以下のアルキル基またはアルケニル基であることがより好ましい。R1は、アルキル基であることが好ましい。アルキル基およびアルケニル基は、直鎖または分岐のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、直鎖のアルキル基またはアルケニル基であることがより好ましい。
本実施形態では、R1は、特に、ヘキサデシル基であることが好ましい。
また、R1-O-C(=O)-は、メタ位、パラ位、オルト位のいずれに位置していてもよいが、メタ位またはパラ位に位置していることが好ましく、パラ位に位置していることがより好ましい。
【0060】
R2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または、炭素原子数6~12のアリール基を表し、フッ素原子、塩素原子、メチル基、エチル基、または、フェニル基であることが好ましく、フッ素原子、塩素原子またはメチル基であることがより好ましい。
nは0~4の整数を表し、0~2の整数であることが好ましく、0または1であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。
【0061】
式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
式(1)で表される末端構造は、パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル等の末端封止剤を用いることによって、ポリカーボネート樹脂に付加することができる。これらの詳細は、特開2019-002023号公報の段落0022~0030の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0062】
樹脂組成物(y)のガラス転移温度を低くする方法としては、式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂やビスフェノールC型のポリカーボネート樹脂などのガラス転移温度が低いポリカーボネート樹脂を用いることの他、他の熱可塑性樹脂や添加剤を添加することによっても、低くすることができる。例えば、数平均分子量が6000以下のポリエーテルを配合すること、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートを配合すること、リン酸エステル化合物を配合することなどが例示される。本実施形態では、式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂および/またはビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂を用いることが好ましく、式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることがより好ましい。式(1)で表される末端構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂および/またはビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂を用いることにより、添加剤を加える場合と比較して、ポリカーボネート樹脂層が脆くなりにくく、また、シート時の耐衝撃性が高くなる傾向にある。さらに、湿熱試験後に白化しにくくすることができる。
【0063】
層(Y)におけるポリカーボネート樹脂の割合は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
層(Y)は、ポリカーボネート樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0064】
樹脂組成物(y)は、上記成分の他、ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、衝撃改良剤、摺動改良剤、色相改良剤、酸トラップ剤等を含んでいてもよい。これらの成分は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記成分の含有量は、含有する場合、合計で樹脂組成物(y)の0.1~5質量%であることが好ましい。
【0065】
また、層(Y)は単層であってもよいが、多層であってもよい。
層(Y)の厚みは、特に制限はないが、例えば、1μm以上であり、30μm以上であることが好ましく、35μm以上であることがより好ましく、40μm以上であることがさらに好ましく、50μm以上であることが一層好ましく、100μm以上であることがより一層好ましく、300μm以上であることがさらに一層好ましく、500μm以上であることが特に一層好ましく、700μm以上であってもよい。また、層(Y)の厚みは、10,000μm以下であることが好ましく、5,000μm以下であることがより好ましく、3,000μm以下であってもよく、2,500μm以下であってもよい。
【0066】
<多層体の層構成>
本実施形態の多層体は、上記層(X)および層(Y)を含む。この時、層(X)と層(Y)の厚みの関係性は、{層(X)の厚み/[層(X)と層(Y)の合計厚み]}<1/5を満たすことが好ましい。この関係を満たすことで、層(X)が多層体全体として薄いものとなるため、多層体を加熱成形しても、クラックの発生が効果的に抑制され、かつ、スプリングバックの発生が効果的に抑制される。より具体的には、スプリングバックを抑制するには、多層体を折り曲げた際に、多層体全体に残っている曲げに対する残留応力を緩和することがより効果的である。かかる観点から、層(Y)だけでなく、層(X)についても残留応力を緩和することがより好ましい。層(X)と層(Y)が上記関係を満たすようにすることにより、層(X)に由来する残留応力が緩和されやすくなり、スプリングバックをより効果的に抑制することができる。本実施形態においては、{層(X)の厚み/[層(X)と層(Y)の合計厚み]}<1/6がより好ましく、{層(X)の厚み/[層(X)と層(Y)の合計厚み]}<1/8がさらに好ましい。また、1/35<{層(X)の厚み/[層(X)と層(Y)の合計厚み]}であることが好ましく、1/25<{層(X)の厚み/[層(X)と層(Y)の合計厚み]}であることがより好ましい。特に、本実施形態では、層(X)と層(Y)が上述した所定の厚みの好ましい範囲を、また、多層体が後述する厚みの好ましい範囲を満たしつつ、上記関係を満たすことがより好ましい。このような構成とすることにより、本発明の効果がより効果的に達成される。
また、層(X)にアクリル樹脂を用いることにより、表面硬度に優れた多層体が得られる。
【0067】
特に、本実施形態では、層(X)の初期ガラス転移温度(Tig)と層(Y)の初期ガラス転移温度(Tig)と熱曲げ成形温度(℃)が以下の関係を満たすことが好ましい。
層(X)のTig≧熱曲げ成形温度(℃)>[層(Y)の初期ガラス転移温度(Tig)-15℃]
より好ましくは
層(X)のTig>熱曲げ成形温度(℃)>[層(Y)の初期ガラス転移温度(Tig)-15℃]
さらに好ましくは、
層(X)のTig>熱曲げ成形温度(℃)>[層(Y)の初期ガラス転移温度(Tig)-10℃]
とすることにより、スプリングバックの抑制とクラックの発生抑制がより向上する傾向にある。
【0068】
本実施形態の多層体は、さらに、ハードコート層を含むことが好ましい。前記ハードコート層は、前記層(Y)、前記層(X)、前記ハードコート層の順に積層していることが好ましい。また、ハードコート層は、層(Y)側にも設けられていてもよい。なお、前記層(Y)と前記層(X)の間、および、前記層(X)と前記ハードコート層の間には、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で、他の層を有していてもよい。
【0069】
次に、ハードコート層の詳細について説明する。本実施形態の多層体に含まれていてもよいハードコート層は、ポリカーボネート樹脂層よりも、表面硬度が高い層である。このようなハードコート層を含むことにより、多層体ないし成形品の表面硬度を高めることができる。
ハードコート層の厚さは、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、2μm以上であることがさらに好ましく、4μm以上であることが一層好ましく、5μm以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、ハードコート層による多層体全体の鉛筆硬度がより向上する傾向にある。ハードコート層の厚さの上限は、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、12μm以下であることがさらに好ましく、10μm以下であることが一層好ましく、8μm以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ時の加工性がより向上する傾向にある。
【0070】
ハードコート層は、熱硬化または活性エネルギー線による硬化が可能なハードコート材料を塗布後、硬化させて得られるものが好ましい。
活性エネルギー線を用いて硬化させる塗料の一例としては、1官能あるいは多官能(好ましくは2~10官能)の(メタ)アクリレートモノマーあるいはオリゴマーなどの単独あるいは複数からなる樹脂組成物が挙げられ、好ましくは、1官能あるいは多官能(好ましくは2~10官能)ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含む樹脂組成物等が挙げられる。これらの樹脂組成物には、硬化触媒として光重合開始剤が加えられることが好ましい。
また、熱硬化型樹脂塗料としてはポリオルガノシロキサン系、架橋型アクリル系などのものが挙げられる。この様な樹脂組成物は、アクリル樹脂またはポリカーボネート樹脂フィルムまたはシート用ハードコート剤として市販されているものもあり、塗装ラインとの適正を加味し、適宜選択すればよい。
ハードコート層としては、特開2013-020130号公報の段落0045~0055の記載、特開2018-103518号公報の段落0073~0076の記載、特開2017-213771号公報の段落0062~0082の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0071】
さらに、本実施形態の多層体は、前記ハードコート層上であって、前記層(Y)とは反対側の面に、低屈折率層を有することも好ましい。すなわち、上記多層体は、反射防止フィルムとして用いることができる。
図1は、反射防止フィルムの一例を示す模式図であって、1は層(Y)を、2は層(X)を、3はハードコート層を、4は反射防止層を示している。
図1では、層(Y)1、層(X)2、ハードコート層3および反射防止層4が、前記順に積層しているが、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で、他の層を有していてもよい。多層体が他の層を有している場合の態様としては、前記多層体の片面または両面に、耐指紋処理、反射防止処理、防眩処理、耐候性処理、帯電防止処理、防汚染処理およびアンチブロッキング処理のいずれか1つ以上が施されていることが好ましい。このときの多層体の最表面の一例として、ハードコート層が挙げられる。また、アンチブロッキング処理とは、フィルム同士が密着しても容易に剥離できるようにする処理をいい、アンチブロッキング剤を添加すること、多層体の表面に凹凸を設けることなどが例示される。
さらに、本実施形態の多層体には、上記の他、他の層を有していてもよい。具体的には、接着層、粘着層、防汚層等が例示される。
【0072】
本実施形態の多層体の総厚みは、特に制限はないが、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることがさらに好ましい。層厚みが厚いほうが、多層体としての剛性が向上する傾向がある。また、多層体の総厚みは、10,000μm以下であることが好ましく、5,000μm以下であることがより好ましく、2,000μm以下であってもよい。このような層厚みにすることで、多層体成形時において、ロール間で多層シートを圧着させ、樹脂を冷却する際に、多層体内部まで樹脂が冷却されるため、多層体の成形性を向上させることができる。
【0073】
<多層体の製造方法>
本実施形態の多層体は、樹脂組成物(x)を押出するメイン押出機と、樹脂組成物(y)を押出するサブ押出機とを用い、各々用いる樹脂の条件にて樹脂を溶融し押し出しダイに導き、ダイ内部で積層しシート状に成形する、もしくはシート状に成形した後に積層することで多層体を形成することができる。
【0074】
<成形品および成形品の製造方法>
次に、本実施形態の多層体を用いた成形品および成形品の製造方法について説明する。
本実施形態の成形品は、本実施形態の多層体から形成された成形品である。
本実施形態の多層体は、また、熱曲げ耐性に優れているため、屈曲部を有する用途にも適している。例えば、曲率半径が50mmR以下(好ましくは曲率半径が40~50mmR)の部位を有する成形品にも好ましく用いられる。
本実施形態の成形品は、好ましくは、本実施形態の多層体を100℃以上130℃未満で熱曲成形することにより得られる。本実施形態の多層体は、熱曲げ耐性に優れているため、曲率半径が50mmR以下の部位を有する成形品としたときに、特に有益である。特に、熱成形温度を低めとできるため、多層体の各層(層(X)、層(Y)等)の熱成形後の緩和が起こりやすく、熱成形をより容易にできる。本実施形態では、前記熱曲げ温度は、スプリングバックやクラックの発生の観点から115℃以上であることが好ましく、118℃以上であることがより好ましく、また、125℃以下であることが好ましく、123℃以下であることがより好ましく、121℃以下であることがさらに好ましい。
【0075】
<用途>
本実施形態の多層体および成形品は、光学部品や意匠製品、反射防止成形品などに好適に用いることができる。
本実施形態の多層体および成形品は、表示装置、電気電子機器、OA機器、携帯情報末端、機械部品、家電製品、車輌部品、各種容器、照明機器等の部品等に好適に用いられる。これらの中でも、特に、各種ディスプレイ、電気電子機器、OA機器、携帯情報末端および家電製品の筐体、照明機器および車輌部品(特に、車輌内装部品)、スマートフォンやタッチパネル等の表層フィルム、光学材料、光学ディスクに好適に用いられる。特に、本実施形態の成形品は、タッチパネルのセンサー用フィルムや各種ディスプレイの反射防止成形品として好ましく用いられる。
【実施例】
【0076】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0077】
1.原料
・樹脂組成物(x)に用いられる原料
アクリル樹脂(a)
(a1)アルケマ社製、ALTUGLAS(登録商標)V020、メタクリル酸メチル:アクリル酸メチル=97質量%:3質量%、Tig:109℃、重量平均分子量:127,000、鉛筆硬度:3H
【0078】
(a2)下記合成例で得られた樹脂
<<合成例>>
モノマー成分として、精製したメタクリル酸メチル(三菱ガス化学社製)74.3質量部、および、精製したスチレン(和光純薬工業社製)25.7質量部、ならびに重合開始剤としてt-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス575)0.00045質量部からなるモノマー組成物を、ヘリカルリボン翼付き10L完全混合槽に1kg/hで連続的に供給し、平均滞留時間2.5時間、重合温度150℃で連続重合を行った。重合槽の液面が一定となるよう底部から連続的に抜き出し、脱溶剤装置に導入してペレット状の共重合体を得た。得られた共重合体のメタクリル酸メチル由来の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合は73モル%であった。この共重合体をイソ酪酸メチル(関東化学社製)に溶解し、10質量%イソ酪酸メチル溶液を調製した。1000mLオートクレーブ装置に、この共重合体の10質量%イソ酪酸メチル溶液を500質量部、水素化触媒として10質量%Pd/C(NEケムキャット社製)1質量部を仕込み、水素圧9MPa、200℃で15時間保持して、共重合体のスチレン部位の芳香族二重結合を水素化した。スチレン部位の水素化反応率は99%であった。また、得られたビニル共重合体(a2)において、メタクリル酸メチル由来の構成単位の割合は73質量%であった。
得られた樹脂は、Tig:118℃、重量平均分子量:140,500、鉛筆硬度:3Hであった。
【0079】
(b)スチレン樹脂
(b1)Fine-blend Polymer社製、SAM-020、スチレン:無水マレイン酸=83質量%:17質量%、Tig:129℃、重量平均分子量:107,200、鉛筆硬度:HB
(b2)Polyscope社製、XIRANSO23110、スチレン:無水マレイン酸=77質量%:23質量%、Tig:145℃、重量平均分子量:74,300、鉛筆硬度:HB
(b3)Polyscope社製、XIRANSO26080、スチレン:無水マレイン酸=74質量%:26質量%、Tig:150℃、重量平均分子量:47,600、鉛筆硬度:HB
(b4)Polyscope社製、XIBOND140、スチレン:無水マレイン酸=85質量%:15質量%、Tig:129℃、重量平均分子量:134,000、鉛筆硬度:HB
【0080】
(C)酸化防止剤:アデカスタブPEP-36、下記化合物、tBuは、t-ブチル基を示す。
【化7】
【0081】
(D)離型剤:グリセリンモノステアレート、理研ビタミン株式会社製、リケマールS-100A
【0082】
樹脂組成物(y)に用いられる原料
(y1)Tigが125℃以下のポリカーボネート樹脂組成物
T-1380:パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステルを末端封止剤に用いたビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、三菱ガス化学株式会社製、重量平均分子量:55,000、Tig:124℃
【0083】
(y2)Tigが125℃以上のポリカーボネート樹脂組成物
E-2000F:パラターシャルブチルフェノールを末端封止剤に用いたビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、重量平均分子量:53,000、Tig:149℃
【0084】
<ガラス転移温度の測定>
各種樹脂および樹脂組成物のガラス転移温度は、下記の示差走査熱量測定(DSC測定)条件のとおりに、昇温、降温を2サイクル行い、2サイクル目の昇温時のガラス転移温度を測定した。
低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、変曲点の接線の交点を開始ガラス転移温度(Tig)とし、高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、変曲点の接線の交点を終了ガラス転移温度とし、開始ガラス転移温度と終了ガラス転移温度の中間地点を中間ガラス転移温度(Tmg)とした。測定開始温度:30℃、昇温速度:10℃/分、到達温度:250℃、降温速度:20℃/分とした。単位は、℃で示した。
測定装置は、示差走査熱量計(DSC、日立ハイテクサイエンス社製、「DSC7020」)を使用した。
【0085】
<重量平均分子量の測定方法>
各種樹脂および樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定した。
具体的には、ゲル浸透クロマトグラフィー装置には、LC-20AD system(島津製作所社製)を用い、カラムとして、LF-804(Shodex社製)を接続して用いた。カラム温度は40℃とした。検出器はRID-10A(島津製作所社製)のRI検出器を用いた。溶離液として、クロロホルムを用い、検量線は、東ソー社製の標準ポリスチレンを使用して作成した。
上記ゲル浸透クロマトグラフィー装置、カラム、検出器が入手困難な場合、同等の性能を有する他の装置等を用いて測定する。
【0086】
2.実施例1、2、比較例1~14
<樹脂組成物(ペレット)の製造>
上記に記載した各成分を、表1~4に記載の添加量(表1~4の各成分は質量部表記である)となるように計量した。その後、タンブラーにて15分間混合した後、スクリュー径32mmのベント付二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30α」)により、シリンダー温度260℃で溶融混練し、ストランドカットによりペレットを得た。
【0087】
<1mm厚の平板状成形体(層(X))の製造>
得られた樹脂組成物(x)のペレット(樹脂組成物)をベント付二軸射出成形機(Sodick社製「PE-100」、二軸スクリュー径29mmの噛合型同方向回転式、プランジャー直径28mm)により、シリンダー温度260℃で溶融混練し、金型温度80℃の条件にて平板状成形体(100×100×1mm)(層(X))を成形した。
【0088】
<全光線透過率およびヘイズの測定>
ヘイズメーターを用いて、D65光源10°視野の条件にて、上記で得られた平板状成形体の全光線透過率(単位:%)およびヘイズ(単位:%)を測定した。
ヘイズメーターは、村上色彩技術研究所社製「HM-150」を用いた。
【0089】
<鉛筆硬度>
上記で作製した平板状成形体(層(X))について、JIS K5600-5-4:1999に準拠し、鉛筆硬度試験機を用いて、750g荷重にて測定した鉛筆硬度を求めた。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。
【0090】
<シャルピー衝撃強さの測定>
シャルピー衝撃強さは、JIS K 7111-1において、ISO試験片の厚さを4mmから3mmに変更し、他は同様に行って測定した。
具体的には、得られた樹脂組成物(ペレット)をベント付二軸射出成形機(Sodick社製「PE-100」、二軸スクリュー径29mmの噛合型同方向回転式、プランジャー直径28mm)により、シリンダー温度260℃で溶融混練し、金型温度70℃の条件にて長さ80mm×幅10mm×厚さ3mmの成形体(試験片)を作製した。その後、厚み以外はJIS K7111-1に準拠し、ノッチ無しのシャルピー衝撃試験を行い、シャルピー衝撃強さを測定した。単位は、kJ/m2で示した。
【0091】
<多層体の製造>
軸径32mmの単軸押出機と、軸径65mmの単軸押出機と、全押出機に連結されたフィードブロックと、フィードブロックに連結された650mm幅のTダイとを有する多層押出機に各押出機と連結したマルチマニホールドダイとを有する多層押出装置を用いて多層体を成形した。軸径32mmの単軸押出機に、表1~4に示す実施例または比較例の樹脂組成物(x)を導入し、シリンダー温度250℃、吐出量を3.6kg/hの条件で押し出した。また、軸径65mmの単軸押出機に上記樹脂組成物(y)を連続的に導入し、シリンダー温度280℃、吐出量を32.4kg/hで押し出した。全押出機に連結されたフィードブロックは2種2層の分配ピンを備え、温度270℃にして、押し出して、積層した。その先に連結された温度270℃のTダイでシート状に押し出し、上流側から温度130℃、140℃、180℃とした3本の鏡面仕上げロールで鏡面を転写しながら冷却し、各多層体を得た。得られた多層体の中央部の全体厚みは1000μm、アクリル樹脂層(層(X))の厚みは100μmであった。
【0092】
<ハードコートの塗工>
6官能ウレタンアクリレートオリゴマー(製品名:U6HA、新中村化学工業株式会社製)60質量部、PEG200#ジアクリレート(製品名:4EG-A、共栄社化学株式会社製)35質量部、および含フッ素基・親水性基・親油性基・UV反応性基含有オリゴマー(製品名:RS-90、DIC株式会社製)5質量部の合計100質量部に対して、光重合開始剤(製品名:I-184〔化合物名:1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルケトン〕BASF株式会社製)を1質量%加えた塗料を、上記で作製した多層体のアクリル樹脂層(x)の表面にバーコーターにて塗布し、メタルハライドランプ(20mW/cm2)を5秒間当ててハードコートを硬化させた。ハードコート層の膜厚は6μmであった。
【0093】
<熱プレス成形加工性(クラック))>
上記で得られた多層体について、曲率半径が50mmRとなる凸型(オス型)と凹型(メス型)の金型を作製した。ハードコート層を塗装した多層体は成形前に90℃で1分間予備加熱し、ハードコート層を塗装した多層体側の表面が凸になるように、金型に置き、金型温度120℃で3分間プレスを行い、自然冷却することにより、熱プレス成形体を作製した。
上記熱プレス成形体の曲げ部分のクラックを目視で評価した。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。
A:熱プレス成形体の曲げ部分にクラックが確認されなかった。
B:熱プレス成形体の曲げ部分にクラックが確認された。
【0094】
<スプリングバック>
上記熱プレス成形体を50mmRの円筒に沿わせて、下記の基準でスプリングバックの合否判定を行い、Aを合格とした。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。
A:円筒に沿う。(スプリングバック無し)
B:円筒に沿わない。(スプリングバック有り)
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【符号の説明】
【0099】
1 層(Y)(ポリカーボネート樹脂層)
2 層(X)(アクリル樹脂層)
3 ハードコート層
4 反射防止層
【要約】
加熱成形しても、クラックの発生が抑制でき、かつ、スプリングバックの発生が抑制できる多層体および成形品の提供。樹脂組成物(x)から形成された層(X)と、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物(y)から形成された層(Y)とを有し、樹脂組成物(x)は、示差走査熱量測定により測定した初期ガラス転移温度(Tig)が120℃以上であり、樹脂組成物(x)を3mm厚さのISO試験片に成形したときのノッチ無しシャルピー衝撃強さが12.0kJ/m2以上であり、ノッチ無しシャルピー衝撃強さは、JIS K 7111-1において、ISO試験片の厚さを4mmから3mmに変更し、他は同様に行って測定した値であり、樹脂組成物(y)は、示差走査熱量測定により測定した初期ガラス転移温度(Tig)が125℃以下である、多層体。