(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】省エネルギーアミン系添加剤の合成法及び添加剤燃料の調整法
(51)【国際特許分類】
C10L 1/222 20060101AFI20220523BHJP
【FI】
C10L1/222
(21)【出願番号】P 2021003502
(22)【出願日】2021-01-13
【審査請求日】2021-01-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508314537
【氏名又は名称】梅村 一之
(73)【特許権者】
【識別番号】508313817
【氏名又は名称】望月 秀樹
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】梅村 一之
(72)【発明者】
【氏名】望月 秀樹
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-023686(JP,A)
【文献】特開2017-226811(JP,A)
【文献】特開2010-095683(JP,A)
【文献】特開2004-339519(JP,A)
【文献】特開2014-148578(JP,A)
【文献】特開2004-123947(JP,A)
【文献】特開2010-265334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00-32
B01F 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料油に添加して添加剤燃料または調整燃料油を生成するために用いる添加剤を製造する方法であって、
脂肪酸にアルコールまたはその混合物を溶解させて、中間生成物を生成する工程と、
前記中間生成物に第一級アミンを作用させて添加剤を生成する工程と
を含
み、前記脂肪酸が、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、α-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、オレイン酸、エルカ酸、及びドデカン酸からなる群から選択される1または複数の脂肪酸であり、
前記アルコールまたはその混合物が、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンからなる群から選択される1または複数のアルコールであり、
前記第一級アミンがメチルアミン、エチルアミン、またはプロピルアミンである、方法。
【請求項2】
前記脂肪酸、前記アルコール、前記アミンの混合比が、約1:約1.0~約2.5:約0.001~約0.7(mol濃度)である、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記燃料油が、ガソリン、灯油、軽油、A重油、B重油、C重油、原油、植物油、動物油、廃油、または製紙排水黒液を含む、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
前記添加剤を生成する工程が室温~約55℃の温度で行われる、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記添加剤を生成する工程が約40~約55℃の温度で行われる、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法によって製造された添加剤。
【請求項7】
加水により添加剤燃料になり得る調整燃料油を製造する方法であって、
請求項
6に記載の添加剤を燃料油に加えて、調整燃料油を生成する工程
を含む、方法。
【請求項8】
前記添加剤と前記燃料油の混合比が、約0.015~約0.5:約1(容積)である、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
請求項
7または8に記載の方法によって製造された調整燃料油。
【請求項10】
添加剤燃料を製造する方法であって、
請求項
9に記載の調整燃料油に水を加えて、添加剤燃料を生成する工程
を含む、方法。
【請求項11】
前記水と前記調整燃料油の混合比が、約0.1~約1:約1(容積)である、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
請求項
10または11に記載の方法によって製造された添加剤燃料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、省エネルギー添加剤燃料を製造するための添加剤の合成方法に関する。より詳しくは、本発明は、燃焼効率が向上し省エネルギーとなる添加剤燃料を製造することができる添加剤を提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な石油需要の拡大に伴い、排出ガスによる大気汚染や地球温暖化など、地球環境への懸念から、環境負荷軽減策や排出ガス規制制度の導入が進められている。こうした中で、燃料油の燃焼効率の向上や、油分が分離せずに安定した燃料油を提供することが望まれている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
そこで、本発明者らは、油水の均一な分散を実現して燃焼効率を向上させると共に、その油水の均一な分散を長期に安定させられる添加剤と、その添加によって得られる調整燃料油、及び添加剤燃料(加水燃料)、並びにそれらを製造する方法を提供する。
【0004】
したがって、本開示は以下を提供する。
(項目1)
燃料油に添加して添加剤燃料または調整燃料油を生成するために用いる添加剤を製造する方法であって、
脂肪酸にアルコールまたはその混合物を溶解させて、中間生成物を生成する工程と、
前記中間生成物にアミンを作用させて添加剤を生成する工程と
を含む、方法。
(項目2)
前記脂肪酸が、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、α-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、オレイン酸、エルカ酸、及びドデカン酸からなる群から選択される1または複数の脂肪酸である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記アルコールまたはその混合物が、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンからなる群から選択される1または複数のアルコールである、項目1または2に記載の方法。
(項目4)
前記アミンが第一級アミンである、項目1~3のいずれか一項に記載の方法。
(項目5)
前記アミンがメチルアミン、エチルアミン、またはプロピルアミンである、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
(項目6)
前記脂肪酸、前記アルコール、前記アミンの混合比が、約1:約1.0~約2.5:約0.001~約0.7(mol濃度)である、項目1~5のいずれか一項に記載の方法。
(項目7)
前記燃料油が、ガソリン、灯油、軽油、A重油、B重油、C重油、原油、植物油、動物油、廃油、または製紙排水黒液を含む、項目1~6のいずれか一項に記載の方法。
(項目8)
前記添加剤を生成する工程が室温~約55℃の温度で行われる、項目1~7のいずれか一項に記載の方法。
(項目9)
前記添加剤を生成する工程が約40~約55℃の温度で行われる、項目1~8のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
項目1~9のいずれか一項に記載の方法によって製造された添加剤。
(項目11)
加水により添加剤燃料になり得る調整燃料油を製造する方法であって、
項目10に記載の添加剤を燃料油に加えて、調整燃料油を生成する工程
を含む、方法。
(項目12)
前記添加剤と前記燃料油の混合比が、約0.015~約0.5:約1(容積)である、項目11に記載の方法。
(項目13)
項目11または12に記載の方法によって製造された調整燃料油。
(項目14)
添加剤燃料を製造する方法であって、
項目13に記載の調整燃料油に水を加えて、添加剤燃料を生成する工程
を含む、方法。
(項目15)
前記水と前記調整燃料油の混合比が、約0.1~約1:約1(容積)である、項目14に記載の方法。
(項目16)
項目14または15に記載の方法によって製造された添加剤燃料。
【0005】
本開示において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。なお、本開示のさらなる実施形態及び利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【0006】
なお、上記した以外の本開示の特徴及び顕著な作用・効果は、以下の発明の実施形態の項及び図面を参照することで、当業者にとって明確となる。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、燃焼効率のよい添加剤燃料(加水燃料)やそのような添加剤燃料(加水燃料)を生成するための調整燃料油に加える添加剤を提供することができる。本発明の添加剤により、油水の均一な分散が実現して燃焼効率が向上した添加剤燃料(加水燃料)を製造することができ、またその油水の均一な分散が長期に安定するので、加水前の調整燃料油としても運搬や保管もでき利便性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語及び科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0009】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義及び/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0010】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。
【0011】
本明細書において、「添加剤燃料」とは、液体燃料の連続相中に水の微粒子を分散させたものであり、調整燃料油に水を加えることで得られる。本明細書において「添加剤燃料」は「加水燃料」と言い換えることもできる。添加剤燃料(加水燃料)は一般に、W/O型エマルションの形態をとる。添加剤燃料(加水燃料)を空気中に噴霧して着火すると、W/O型エマルションの表面側の油分が燃焼するとともに、燃焼熱の影響で内部側の水分が急激に沸騰及び気化し、W/O型エマルションは体積膨張する。これにより、水分を取り囲んでいた油分が微細化されながら周囲に飛散し、油分と空気との接触面積が増大する。その結果、油分の燃焼が促進され、添加剤燃料(加水燃料)全体として高い燃焼効率が達成される。また、添加剤燃料(加水燃料)は、水分を含有する分だけ添加剤燃料(加水燃料)全体に占める油分含有量が少なくなるため、同体積の通常燃料を燃焼させた場合と同等の熱量が得られれば、限りある石油資源を節約できるという点においても有効である。
【0012】
本明細書において、「調整燃料油」とは、燃料油に添加剤を加えて得られる燃料である。
【0013】
本明細書において、「燃料油」とは、調整燃料油や添加剤燃料(加水燃料)の原料となる燃料であり、例えば、ガソリン、灯油、軽油、A重油、B重油、C重油、原油、植物油、動物油、廃油、または製紙排水黒液などの一般燃料が含まれる。
【0014】
本明細書において、「脂肪酸」とは、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸のいずれであってもよく、例えば、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、α-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、オレイン酸、エルカ酸、マレイン酸、フマール酸、ドデカン酸、またはそれらのエステルを含む。また高級脂肪酸とは、例えば炭素原子数10~25のものをいう。
【0015】
本明細書において、「アルコール」とは、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンまたはそれらの混合物を含む。また比較的分子量の大きなアルコールとしては、ペンタノール、ヘキサノール、ペンタノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノールなどが含まれる。
【0016】
本明細書において、「アミン」とは、アンモニアの水素原子を炭化水素基または芳香族原子団で置換した化合物をいい、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンのいずれであってもよい。例えば、アミンとしてはメチルアミン、エチルアミン、またはプロピルアミンが含まる。
【0017】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。したがって、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができる。
【0018】
一つの局面において、本発明は、燃料油に添加して添加剤燃料または調整燃料油を生成するために用いる添加剤を製造する方法であって、脂肪酸にアルコールまたはその混合物を溶解させて、中間生成物を生成する工程と、前記中間生成物にアミンを作用させて添加剤を生成する工程とを含む、方法を提供する。また他の局面において、本発明は、以上のような方法によって製造された添加剤を提供する。
【0019】
本発明者らは、特定の添加剤を燃料油に加えることで、添加剤燃料(加水燃料)における油水の均一な分散とその長期安定化が達成される知見をすでに得ている。本発明者らは、さらに研究を進め、従来法よりも活性が高く、合成時間も短縮させることができる知見を得て、本発明に至った。本発明は、従来法と比較して、高活性の添加剤であり、かつ操作性が改善し、また合成時間も短縮された方法を提供する。
【0020】
一実施形態において、本発明の添加剤は、脂肪酸、好ましくは高級脂肪酸にアルコールを加えて中間生成物を生成し、その中間生成物にアミンを作用させて得ることができる。一実施形態において、アルコールは2種以上の混合物を用いることもできる。
【0021】
一実施形態において、脂肪酸の代わりに比較的分子量の大きなアルコールを用いることもできる。比較的分子量の大きなアルコールは、分子量が少なくとも約88以上のアルコールであり、例えば比較的分子量の大きなアルコールは、大きなアルキル基を有するものであり、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノールなどを挙げることができる。他の実施形態において、イソ化合物など、側鎖を有するアルコールであってもよい。
【0022】
また、脂肪酸または比較的分子量の大きなアルコールに加えるアルコールとしては、比較的分子量の小さなアルコールを用いることができる。比較的分子量の小さなアルコールは、分子量が約182未満のアルコールであり、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンまたはその混合物などを用いることができる。
【0023】
一実施形態において、脂肪酸としては、好ましくは高級脂肪酸を用いることができ、例えば酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、α-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、オレイン酸、エルカ酸、マレイン酸、フマール酸、ドデカン酸などの1~多価の脂肪酸であって、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコールに溶融し得るものを用いることができる。他の実施形態において、脂肪酸は、脂肪酸のみでなく、脂肪酸エステルとの混合物としてもよい。
【0024】
本発明の一実施形態において、脂肪酸とアルコールから得られた中間生成物に、アミンを作用させ、よく攪拌し一定の条件に整えることで本発明の添加剤を得ることができる。
【0025】
一実施形態において、中間生成物に加えるアミンとしては第一級アミンが好ましく、中でもメチルアミン、エチルアミン、またはプロピルアミンを好ましく使用することができる。添加剤の生成時における反応温度は、使用するアミンの種類によって適宜変更することができるが、例えば室温で行うことができ、本明細書において室温は約20℃~約40℃をいう。他の実施形態において、添加剤の生成時における反応温度は、例えば約20℃以上、約23℃以上、約25℃以上、約27℃以上、約30℃以上、約35℃以上、約40℃以上、約45℃以上、約50℃以上などでもよく、好ましくは約25~約60℃であり、さらに好ましくは約40~約55℃の加温温度である。また攪拌の条件は、空気の混入が少ない範囲での攪拌が好ましい。生成時には、発熱を起こすため反応が均一となるように十分に攪拌することが好ましい。
【0026】
原料の混合にはさまざまな組み合わせがあるため最適な比率は原料によって異なるが、大まかな比率としては、例えば、脂肪酸または比較的分子量の大きなアルコール:比較的分子量の小さなアルコールまたはその混合物:アミン=約1:約1.0~約2.5:約0.001~約0.7(mol濃度)、より好ましくは、脂肪酸または比較的分子量の大きなアルコール:比較的分子量の小さなアルコールまたはその混合物:アミン=約1:約1.1~約2.2:約0.003~約0.2(mol濃度)である。
【0027】
添加剤の原料となる脂肪酸などの種類は、添加対象の燃料油の種類によって適宜対応させて調整することで、添加剤燃料(加水燃料)を得る際の加水量も最適化することができる。
【0028】
従来法では、脂肪酸にアルコールを加えて中間生成物を生成し、その中間生成物にアンモニアガスまたはアンモニア水を作用させて添加剤を合成していた。アンモニアガス(NH3)を用いる方法では、適量のアンモニア量を超えて添加してしまうと、添加剤活性が一気に低下してしまうため、アンモニアガスの添加量のコントロールに細心の注意が必要であった。またアンモニア水(NH4OH)用いる場合にも、アンモニア水自体に溶解しているアンモニア量のコントロールが困難であるため、操作性が高いとは言えない。本発明の一実施形態において、メチルアミンを用いて添加剤を合成する場合には、添加するアミンの量(MeNH2量(MeNH2/MeOH))をmmol単位でコントロールすることができる。したがって、アミンを用いる場合には、従来のアンモニアガス(NH3)やアンモニア水(NH4OH)を用いる方法よりも操作性を大幅に向上させることができる。
【0029】
また従来のアンモニアガスを用いて添加剤を合成する場合、アンモニアガスを過剰に加えると、添加剤がゲル化するため、量の調整が困難である。またアンモニア水を用いる場合には、水が既に存在するためにゲル化してしまう。この点、本発明の方法において、アンモニアガスやアンモニア水に代えて、アミンを用いることにより、量の調整を容易に行うことができ、操作性を向上させることができる。
【0030】
またアンモニアガス(NH3)やアンモニア水(NH4OH)を用いて製造した従来の添加剤合成の場合には、その合成に1バッチあたり4~6時間を要する。本発明の一実施形態において、メチルアミンを用いて添加剤を合成する場合には、1バッチあたり1~2時間程度で合成することができ、合成時間を1/2~1/3に短縮することができる。
【0031】
本発明の一実施形態において、本発明の添加剤は、従来のアンモニアガスまたはアンモニア水を用いて得られる添加剤と比べて、所定の活性基準で、約1.5~約2倍程度の高い活性を得ることができる。活性基準としては、例えば、一定温度における一定量の燃料(灯油や軽油など)に対する加水量(g)/添加剤(g)で算出することができる。例えば、軽油1.0gに添加剤(0.5g)を加え、この混合物にH2Oを滴下し、クラウド(白濁)化せずに完全均一し得るH2O量から活性基準を算出することができる。例えば、添加剤(0.5g)に対して、滴下したH2Oが0.5gであれば、その添加剤の活性は1.0と算出でき、または同量の添加剤に対して、滴下したH2Oが1.0gであれば、その添加剤の活性は2.0として算出でき、この数値を添加剤の活性基準として比較することができる。
【0032】
本発明は、上記のとおり、脂肪酸、好ましくは高級脂肪酸にアルコールを加えて中間生成物を生成し、その中間生成物にアミンを添加することにより、従来のアンモニア水やアンモニアガスを用いる場合と比較して、添加剤を燃料油に加えて得られる添加剤燃料(加水燃料)において、油水が分離することなく均一な混合状態で透明なものとすることができる。また従来法で得られた添加剤と比べて、高い活性の添加剤を得ることができる。このような、従来技術と比較して優れた安定性や活性は、界面活性能を有する脂肪酸誘導体の生成率の効率化(高収率化)によってもたらされている。また従来のアンモニア水やアンモニアガスの代替として用いたアミン自体が、炭素鎖部位とアミノ基部位とを有することかから、添加剤全体としての界面活性能の向上に効果的に作用していると考えられる。したがって、本発明の添加剤について、物としての構造または特性により直接特定することは不可能または非実際的である。
【0033】
一つの局面において、本発明は、加水により添加剤燃料になり得る調整燃料油を製造する方法であって、上記のような添加剤を燃料油に加えて、調整燃料油を生成する工程を含む、方法を提供する。また他の局面において、本発明は、このような方法によって製造された調整燃料油を提供する。
【0034】
一実施形態において、調整燃料油を製造する際の添加剤の必要量は、燃料油の種類や、脂肪酸に加えるアルコールの種類、及びアミンの種類や添加量によって異なるが、大まかな比率としては、例えば、添加剤:燃料油=約0.001~約0.5:約1(容積)、好ましくは約0.015~約0.5:約1(容積)、より好ましくは、添加剤:燃料油=約0.03~約0.3:約1(容積)である。
【0035】
一実施形態において、燃料油としては、ガソリン、灯油、軽油、A重油、B重油、C重油、原油、植物油、動物油、廃油、製紙工場廃油(黒液)等の可燃油一般を用いることができる。
【0036】
一つの局面において、本発明は、添加剤燃料を製造する方法であって、上記のような調整燃料油に水を加えて、添加剤燃料を生成する工程を含む、方法を提供する。他の局面において、このような方法によって製造された添加剤燃料を提供する。
【0037】
一実施形態において、添加剤燃料(加水燃料)を製造する際の水や調整燃料油の必要量は、調整燃料油の製造の際に用いた燃料油の種類(ガソリン、軽油系、重油系など)、燃焼施設(エンジン、ボイラーなど)、脂肪酸に加えるアルコールの種類、及びアミンの種類や添加量によって異なるが、大まかな比率としては、水と調整燃料油の混合比を、約0.1~約1:約1(容積)とすることができ、好ましくは約0.2~約0.6:約1(容積)とすることができる。ディーゼルエンジンに使用する場合、軽油8L(容積80%)に添加剤1L(容積10%)を加え、そこにH2Oを1L(容積10%)~2L加えることができる。
【0038】
添加剤燃料(加水燃料)を製造する際の攪拌時に空気が混入すると、爆発混合気を発する危険性があるため、添加剤燃料(加水燃料)の製造の際には水と調整燃料油との混合は空気の混入の皆無な攪拌が好ましい。また混合する水の比率によって、生成燃料が液化したりゲル化したりすることがあり、水の比率が高すぎると、燃焼温度や燃焼カロリーの低下を生じる。例えば、ガスタービン用の燃料とする場合には、加水はボイラー用給水とすることが好ましい。添加剤の原料の混合比が十分適切でなかった場合や、添加剤の反応が十分に促進しなかった場合、反応温度によっては、加水後に白い沈殿物が生じることがあるが、燃焼には支障がない。
【0039】
本発明では、上記のとおり、本発明の添加剤を燃料油に加えて調整燃料油を生成し、またそのようにして得た調整燃料油に水を加えて添加剤燃料(加水燃料)を生成することができる。本発明の添加剤は、他の方法によって得られる添加剤とは、その組成によっては区別することができない。したがって、本発明の調整燃料油や添加剤燃料(加水燃料)について、物としての構造または特性により直接特定することは不可能または非実際的である。
【0040】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0041】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明及び以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0042】
(実施例1:アミン系添加剤の製造)
本実施例では、添加剤燃料(加水燃料)や調整燃料油に加えるための添加剤を製造した。オレイン酸、メタノール、エチレングリコール(またはグリセリン)、及びメチルアミンを用いて、アミン系添加剤を合成した。
【0043】
まず、オレイン酸500g(1.77mol)にメタノール100gを加えて攪拌し、均一とした。これにグリセリン90g(0.98mpl)(またはエチレングリコール60g)を加え、さらに攪拌して均一とした。この混合物に、攪拌しながら130ml(1.27mol)のメチルアミン(40%(w/w) in MeOH)を滴下し、アミン系添加剤を合成した。
【0044】
以下の比較例1及び2のように、メチルアミンの代わりにアンモニアガス(NH3)やアンモニア水(NH4OH)を用いて製造した従来の添加剤合成の場合には、その合成に1バッチあたり4~6時間を要していたが、メチルアミンを用いて添加剤を合成した場合には、1バッチあたり1~2時間程度で合成することができ、合成時間を1/2~1/3に短縮することができた。
【0045】
また従来のアンモニアガス(NH3)を用いる方法では、適量のアンモニア量を超えて添加してしまうと、添加剤活性が一気に低下してしまうため、アンモニアガスの添加量のコントロールに細心の注意が必要であった。またアンモニア水(NH4OH)用いる場合にも、アンモニア水自体に溶解しているアンモニア量のコントロールが困難であるため、操作性が高いとは言えない。この点、本実施例において、メチルアミンを用いて添加剤を合成する場合には、添加するアミンの量(MeNH2量(MeNH2/MeOH))をmmol単位でコントロールすることができる。アミンを用いる場合には、従来のアンモニアガス(NH3)やアンモニア水(NH4OH)を用いる方法よりも操作性を大幅に向上させることができた。
【0046】
(比較例1:アンモニアガス系添加剤の製造)
オレイン酸、メタノール、エチレングリコール(またはグリセリン)、及びアンモニアガス(NH3)を用いて、アンモニアガス系添加剤を合成した。
【0047】
まず、オレイン酸(MW=282.46)600g(2.12mol)を1Lビーカーに計り取り、メタノール101g(3.16mol)を加えて攪拌し、均一とした。これにエチレングリコール73g(1.18mol)を加え、さらに攪拌して均一とした。この混合物に、攪拌しながらアンモニアガスを120ml/min.の流量で1~2時間バブリングし、アンモニアガス系添加剤を合成した。
【0048】
(比較例2:アンモニア水系添加剤の製造)
オレイン酸、メタノール、エチレングリコール(またはグリセリン)、及びアンモニア水(NH4OH)を用いて、アンモニア水系添加剤を合成した。
【0049】
オレイン酸(MW=282.46)1000g(3.54mol)を2Lビーカーに計り取り、メタノール170g(5.31)を加えて攪拌し、均一とした。これにエチレングリコール110g(1.77mol)を加え、さらに攪拌し均一とした。この混合物に攪拌しながら28%アンモニア水150gを滴下ロートから1.0g/min.で滴下し、アンモニア水系添加剤を合成した。
【0050】
(実施例2:添加剤燃料の製造)
得られた添加剤を、ガソリン、灯油、軽油、A重油、B重油、C重油、原油、植物油、動物油、廃油、製紙工場廃油(黒液)等の燃料油に混合させて攪拌することで、添加剤入りの調整燃料油を生成でき、この調整燃料油に加水することで添加剤燃料(加水燃料)とすることができる。
【0051】
軽油8リットル(容積80%)に添加剤1リットル(容積10%)を混合攪拌することで、添加剤入りの調整燃料油を製造した。この混合液に水1リットル(容積10%)を混合攪拌することで、添加剤燃料(加水燃料)を製造した。
【0052】
本発明のアミン系添加剤を用いて得られた添加剤燃料(加水燃料)は、白濁や2層分離や、粒状の分離もなく、透明度が高く、油水が均一な混合状態が保たれた。また、この均一状態は、長期間安定して維持された。
【0053】
(実施例3:活性比較)
本実施例では、アミン系添加剤、アンモニアガス系添加剤、アンモニア水系添加剤のそれぞれについて、一定温度における一定量の燃料に対する加水量(g)/添加剤(g)で算出した活性基準を用いてその活性を比較した。この活性基準は、例えば、軽油1.0gに添加剤(0.5g)を加え、この混合物にH2Oを滴下し、クラウド(白濁)化せずに完全均一し得るH2O量から活性基準を算出することができる。その結果、アンモニアガス(NH3)やアンモニア水(NH4OH)を用いる従来の添加剤の場合には、その活性が2.0程度であったところ、メチルアミンを用いた添加剤の場合には、その活性が3.2程度となり、1.5倍程度の高い活性を得ることができた。
【0054】
(実施例4:各種アミンの検討)
本実施例では、メチルアミン以外のアミンを用いて添加剤を合成し、その添加剤を用いて添加剤燃料(加水燃料)を生成した結果を比較した。以下の表に示すとおり、ジメチルアミンを用いた場合には、添加剤の活性の向上は見られなかった。またエチルアミン、プロピルアミンを用いた場合には、メチルアミンを用いた添加剤と同様の活性を得ることができた。また40~55℃の加温状況で添加剤合成を行うと、エチルアミンやプロピルアミンを用いた場合でも1~2時間で高活性の添加剤の合成を得られることがわかり、エチルアミンの場合には0.5時間程度で高活性の添加剤の合成を得られることがわかった。
【表1】
【0055】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
添加剤燃料(加水燃料)は、環境問題が問題となっている昨今ではその需要が増えている。本発明によれば、活性の高い添加剤を得ることができ、少量の添加剤によって、温暖化ガス(CO2)や酸性ガス(SOx)などの排出ガスの抑制と、粒子状物質(PM)などの燃焼粉塵を減少させた高性能・省エネルギー添加剤燃料を得ることができる。
【0057】
本発明の添加剤によって得られる添加剤燃料(加水燃料)は、さまざまな燃料、例えば、温風ボイラー、温水ボイラー、蒸気ボイラーなどの各種ボイラーや、大小発電施設の発電機器、農林魚業機械、自動車、船舶などのディーゼルエンジンの燃料として実用的であり、環境対策や燃料不足対策など、産業上利用価値が高い。
【要約】
【課題】 燃焼効率のよい添加剤燃料やそのような添加剤燃料を生成するための調整燃料油に加える添加剤を提供すること。
【解決手段】 燃料油に添加して添加剤燃料または調整燃料油を生成するために用いる添加剤を製造する方法であって、脂肪酸にアルコールまたはその混合物を溶解させて、中間生成物を生成する工程と、前記中間生成物にアミンを作用させて添加剤を生成する工程とを含む、方法。
【選択図】 なし