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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】硬化時発熱材料の断熱試験用装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/20 20060101AFI20220523BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
G01N25/20 J
G01N3/00 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017205206
(22)【出願日】2017-10-24
(65)【公開番号】P2019078614
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】517372988
【氏名又は名称】溝渕 利明
(73)【特許権者】
【識別番号】000217686
【氏名又は名称】電源開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝渕 利明
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-294141(JP,A)
【文献】特開2014-163770(JP,A)
【文献】特開平10-045453(JP,A)
【文献】特開平08-152386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/20
G01N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化時に発熱する材料の断熱温度特性、及び断熱状態を再現した上で前記材料の力学特性を把握するための断熱試験用装置であって、
内部に収容空間を形成しつつ該収容空間を外部から隔離する断熱本体部と、
前記収容空間内に設けられ、硬化時発熱材料の熱特性試験用の試験体を収容する熱特性試験体収容部と、
前記収容空間内に設けられ、硬化時熱発熱材料の力学特性試験用の試験体を収容する力学特性試験体収容部とを備えるとともに、
前記熱特性試験体収容部は、熱特性用の試験体を養生する熱特性用試験体養生部と、前記熱特性用試験体養生部と前記断熱本体部の間に設けられた熱特性用試験体側断熱部とを備え、
前記力学特性試験体収容部は、力学特性用の試験体を養生する力学特性用試験体養生部と、前記力学特性用試験体養生部と前記断熱本体部の間に設けられた力学特性用試験体側断熱部とを備え
前記熱特性試験体収容部と前記力学特性試験体収容部を前後方向に進退させるスライド機構を備え、
前記熱特性試験体収容部と前記力学特性試験体収容部がそれぞれ個別に前方に引出し可能に構成され、
且つ、前記熱特性用試験体側断熱部と前記熱特性試験用の試験体の間、及び前記力学特性用試験体側断熱部と前記力学特性試験用の試験体の間にそれぞれ、前記試験体を所定の形状に保つ成形性能と、断熱性能と、前記試験体を脱離させる剥離性能とを有する断熱脱離層が設けられており、
前記熱特性試験用の試験体、及び前記力学特性試験用の試験体を、前記収容空間内に同時に収容し、断熱状態で養生する、硬化時発熱材料の断熱試験用装置。
【請求項2】
前記熱特性試験体収容部の前方に配された前記断熱本体部と、前記力学特性試験体収容部の前方に配された前記断熱本体部とがそれぞれ個別に取り外し可能に分割形成されている、請求項に記載の硬化時発熱材料の断熱試験用装置。
【請求項3】
前記熱特性用試験体養生部には、温度計測手段及びひずみ計測手段の少なくとも一方が設けられている、請求項1又は2に記載の硬化時発熱材料の断熱試験用装置。
【請求項4】
前記断熱本体部及び前記断熱部が15倍発泡の発泡スチロールである、請求項1乃至のいずれか一項に記載の硬化時発熱材料の断熱試験用装置。
【請求項5】
前記力学特性試験体収容部が前記熱特性試験体収容部を間に対称配置されている、請求項1乃至のいずれか一項に記載の硬化時発熱材料の断熱試験用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートや樹脂などの硬化時に発熱する材料の温度上昇特性、及びこれに応じた力学特性などを評価するための硬化時発熱材料の断熱試験用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ダムや橋脚などのマスコンクリート構造物は、中心部での水和熱の発散が遅れ、各部位で温度差に起因した温度ひずみが生じやすく、これに伴い温度ひび割れが発生するおそれがある。
【0003】
このような初期のひび割れはコンクリート構造物の耐久性に大きく影響するため、施工時に温度ひび割れを制御することが重要であり、公益社団法人土木学会では、コンクリート標準示方書[施工編]で施工段階におけるひび割れ照査を温度応力解析によって行うことを規定している。
【0004】
一方、ひび割れ照査のうち温度解析には、断熱温度上昇量を設定することが必要であり、コンクリート(セメント系材料/硬化時発熱材料)を断熱状態で長期間維持して断熱温度上昇量を測定するための各種断熱試験用の装置が提案、実用化されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-241520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の断熱試験用装置においては、マスコンクリートの温度環境を再現するために大きなコンクリート試験体を用いる必要があり、装置自体が大型で、施工現場での取扱性が悪いという問題があった。
【0007】
また、コンクリート打設後の温度変化だけでなく、強度変化などの力学特性を把握することも品質管理として重要であるが、コンクリート打設後の断熱状態(温度変化)を再現した上で力学特性を把握する手法がなく、このような手法の開発が強く望まれていた。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、取扱性に優れ、且つ断熱温度特性だけでなく、断熱状態を再現した上での力学特性の試験を行い、その評価を可能にする硬化時発熱材料の断熱試験用装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0010】
本発明の断熱試験用装置は、内部に収容空間を形成しつつ該収容空間を外部から隔離する断熱本体部と、前記収容空間内に設けられ、硬化時発熱材料の熱特性試験用の試験体を収容する熱特性試験体収容部と、前記収容空間内に設けられ、硬化時熱発熱材料の力学特性試験用の試験体を収容する力学特性試験体収容部とを備えるとともに、前記熱特性試験体収容部は、熱特性用の試験体を養生する熱特性用試験体養生部と、前記熱特性用試験体養生部と前記断熱本体部の間に設けられた熱特性用試験体側断熱部とを備え、前記力学特性試験体収容部は、力学特性用の試験体を養生する力学特性用試験体養生部と、前記力学特性用試験体養生部と前記断熱本体部の間に設けられた力学特性用試験体側断熱部とを備え、且つ、前記熱特性用試験体側断熱部と前記熱特性試験用の試験体の間、及び前記力学特性用試験体側断熱部と前記力学特性試験用の試験体の間にそれぞれ、前記試験体を所定の形状に保つ成形性能と、断熱性能と、前記試験体を脱離させる剥離性能とを有する断熱脱離層が設けられていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の断熱試験用装置においては、前記熱特性試験体収容部と前記力学特性試験体収容部を前後方向に進退させるスライド機構を備え、前記熱特性試験体収容部と前記力学特性試験体収容部がそれぞれ個別に前方に引出し可能に構成されていることが望ましい。
【0012】
さらに、本発明の断熱試験用装置においては、前記熱特性試験体収容部の前方に配された前記断熱本体部と、前記力学特性試験体収容部の前方に配された前記断熱本体部とがそれぞれ個別に取り外し可能に分割形成されていることがより望ましい。
【0013】
また、本発明の断熱試験用装置においては、前記断熱本体部及び前記断熱部が15倍発泡の発泡スチロールであることが望ましい。
【0014】
さらに、本発明の断熱試験用装置においては、前記力学特性試験体収容部が前記熱特性試験体収容部を間に対称配置されていることがより望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の断熱試験用装置においては、取扱性に優れ、精度よく断熱温度特性を把握することが可能になるとともに、断熱温度特性だけでなく、断熱状態を再現した上での力学特性を精度よく把握することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る断熱試験用装置を示す平面図(一部断面図)である。
図2図1のX1-X1線矢視図である。
図3図1のX2-X2線矢視図である。
図4】本発明の一実施形態に係る断熱試験用装置の熱特性試験体収容部及び力学特性試験体収容部を示す正面図である。
図5図4のX3-X3矢視図である。
図6図4のX4-X4線矢視図である。
図7図4のX5-X5線矢視図であり、本発明の一実施形態に係る断熱試験用装置のスライド機構を示す平面図である。
図8】一般の断熱試験用装置の内部の温度履歴を示す図である。
図9】本発明の一実施形態に係る断熱試験用装置で測定した温度履歴にフィッティングするように熱特性値を補正するための方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1から図9を参照し、本発明の一実施形態に係る断熱試験用装置について説明する。ここで、本実施形態では、本発明に係る硬化時発熱材料がコンクリートであるものとして説明を行うが、本発明に係る断熱試験用装置は、コンクリート以外のセメント系材料や樹脂など、硬化時に発熱を伴うあらゆる材料の断熱温度特性(熱特性)及び断熱力学特性を評価する際に適用可能である。
【0018】
本実施形態の断熱試験用装置Aは、図1から図7に示すように、装置内部(中心部)に略直方体状の収容空間Hを形成しつつ該収容空間Hを外部から隔離するように断熱試験用装置Aの外殻を形成する略直方体箱状の断熱本体部1と、収容空間H内に設けられ、熱特性用の試験体を収容する熱特性試験体収容部2と、収容空間H内に設けられ、力学特性用の試験体を収容する力学特性試験体収容部3とを備えて構成されている。
【0019】
断熱本体部1は、略平板状の上蓋部4及び下蓋部5と、幅方向の両側部側の上蓋部4及び下蓋部5の間に配設される略平板状の右側側面蓋部6及び左側側面蓋部7と、奥行方向の前後部側の上蓋部4及び下蓋部5の間に配設される略平板状の前面蓋部8及び背面蓋部9とを備えて略直方体箱状に形成されている。
【0020】
これら蓋部4~9は、例えば、発泡スチロールが主な構成要素とされ、それぞれ所定の厚さを備えることにより、外部に対する収容空間Hを所望の断熱状態で確保できるように構成されている。本実施形態では、15倍発泡の発泡スチロールを用いることによって所望の断熱性能を確保できるようにしている。なお、発泡倍率が数倍から数十倍の発泡スチロールを用いて試験を行った結果、15倍発泡の発泡スチロールが本装置Aに適していることが確認された。
【0021】
収容空間G内には、熱特性試験体収容部2を中心として力学特性試験体収容部3が対称位置に配設けられている。
【0022】
具体的に、本実施形態の断熱試験用装置Aでは、収容空間Hひいては断熱試験用装置Aの中心部に略直方体状の熱特性試験体収容部2が配設され、熱特性試験体収容部2を間にして幅方向の左右両側の対称位置にそれぞれ略直方体状の力学特性試験体収容部3が配設されている。
【0023】
熱特性試験体収容部2は、その中央にφ300mm×h6000mmの円柱状の熱特性用試験体養生部10を備え、熱特性用試験体養生部10の周囲に、蓋部4~9と同様、発泡スチロールが主な構成要素の断熱部(熱特性用試験体側断熱部)11を設けて所望の断熱性能を確保できるように構成されている。
【0024】
また、熱特性用試験体養生部10と断熱部11の間、すなわち、熱特性用試験体養生部10を形成する断熱部11の内周面には、熱特性用試験体養生部10に打設したコンクリートをφ300mm×h6000mmの所定の円柱状に保つ成形性能と、試験時に試験体の熱の断熱部11への伝達を抑止する断熱性能と、試験後に熱特性試験体収容部2からの試験体の脱離を容易にする剥離性能とを備えた断熱脱離層12が設けられている。
【0025】
熱特性用試験体養生部10には、熱特性用試験体養生部10内の熱特性用試験体の所望の位置の温度を計測するための温度計測手段(不図示)と、熱特性用試験体のひずみを計測するためのひずみ計測手段(不図示)とが設けられている。なお、温度計測手段とひずみ計測手段が個別に設けられていても、一体に構成されていてもよい。
【0026】
左右の力学特性試験体収容部3はそれぞれ、φ100mm×h200mmの円柱状の複数の試験体をそれぞれ個別に収容する複数の力学特性用試験体養生部15を備え、各力学特性用試験体養生部15の周囲に、蓋部4~9や熱特性用試験体養生部10と同様、発泡スチロールが主な構成要素の断熱部(力学特性用試験体側断熱部)11を設けて所望の断熱性能を確保できるように構成されている。
【0027】
また、本実施形態では、各力学特性試験体収容部3が12本の力学特性用の試験体をそれぞれ個別に収容する12個の力学特性用試験体養生部15を備えている。さらに、本実施形態では、前後方向に所定の間隔をあけて配された上段の3本の力学特性用の試験体と下段の3本の力学用の試験体を1つの方形箱状のユニット(養生ボックス)16で収容し、このユニット16を左右二列で配設して各力学特性試験体収容部3が構成されている。なお、各力学特性試験体収容部3の2つのユニット16はそれぞれ、例えば、材齢3日、材齢7日、材齢14日、材齢28日にそれぞれ力学試験を行うための3本の試験体、計12本の試験体をまとめて収容できるように構成されている。
【0028】
さらに、熱特性試験体収容部2と力学特性試験体収容部3の間には、両収容部2、3に収容した試験体のひずみ等に伴う応力や、装置の移動時、力学特性用の試験体の取り出し時等に作用する外力を吸収し、各収容部2、3に養生した試験体に外力が作用することを防止するための緩衝層17が設けられている。
【0029】
ここで、本実施形態の断熱本体部1の上蓋部4及び前面蓋部8はそれぞれ着脱可能(取り外し可能)とされている。
【0030】
上蓋部4を取り外すことによって熱特性用試験体養生部10と左右の力学特性用試験体養生部15を上方に開放できる。また、前面蓋部8は、熱特性試験体収容部2と、力学特性試験体収容部3の各ユニット16と前後に重なる対応部分がそれぞれ個別に取り外し可能に分割形成され、収容空間H内の熱特性試験体収容部2と、力学特性試験体収容部3の各ユニット16をそれぞれ個別に前方に開放できるように構成されている。
【0031】
図7(及び図1から図6)に示すように、熱特性試験体収容部2と、力学特性試験体収容部3の各ユニット16とをそれぞれ、収容空間Hに対して引出し/収容するためのスライド機構18が設けられている。
【0032】
スライド機構18は、熱特性試験体収容部2、力学特性試験体収容部3の各ユニット16と下蓋部5との間や、熱特性試験体収容部2と力学特性試験体収容部3のユニット16の間などに介設されるガイド板やガイドレールなどのガイド手段19と、ガイド手段19に一体に設けられたポリテトラフルオロエチレン製のテープ(テフロンテープ/テフロン:登録商標)などの滑動手段20とを備えて構成されている。
【0033】
また、本実施形態では、滑動手段20(及びガイド手段19)が前後方向に延び、左右の幅方向に所定の間隔をあけて複数設けられ、これら滑動手段20及びガイド手段19に支持/案内されて、熱特性試験体収容部2と力学特性試験体収容部3の各ユニット16とが、それぞれ個別に前後方向に進退可能(スライド移動可能/装置内部から引出し可能)に具備されている。
【0034】
図1から図7に示すように、熱特性試験体収容部2と力学特性試験体収容部3の各ユニット16の前面には、熱特性試験体収容部2、力学特性試験体収容部3の各ユニット16をそれぞれ、前後方向に進退させる際に使用する取っ手21が取り付けられている。
【0035】
上記構成からなる本実施形態の断熱試験用装置Aにおいては、断熱部1の上蓋部4が取り外し可能であるため、上蓋部4を取り外し、熱特性試験体収容部2の熱特性用試験体養生部10に、試験対象のコンクリートを打設し、熱特性用試験体を成形、セットすることができる。これにより、φ300mm×h6000mmで大重量の熱特性用試験体を外部から熱特性試験体収容部2に搬送する必要がなく、容易に熱特性用の試験体をセットすることができる。
【0036】
断熱本体部1の分割形成された前面蓋部8がそれぞれ取り外し可能で、且つ、熱特性試験体収容部2と力学特性試験体収容部3の各ユニット16がそれぞれスライド機構18によって引出可能であるため、前面蓋部8を取り外して熱特性試験体収容部2や力学特性試験体収容部3の各ユニット16を引き出すことができる。また、必要に応じて取り外すこともできる。これにより、試験対象のコンクリートを容易に打設して試験体を成形することができる。
【0037】
さらに、コンクリートを打設した後の各ユニット16をスライド機構18でスライドさせて収容空間Hに戻すことができる。これにより、容易に力学特性用試験体をセットすることが可能になる。
【0038】
熱特性用試験体と力学特性用試験体をセットし、前面蓋部8と上蓋部4を取り付けることにより、収容空間H内の熱特性用試験体と力学特性用試験体を断熱状態で養生することができる。これにより、経時的(経日的)に、熱特性用試験体の温度やひずみを温度計測手段やひずみ計測手段で計測することにより、断熱温度上昇量を得ることができ、ひび割れ照査の温度解析の断熱温度上昇量を精度よく設定することが可能になる。
【0039】
また、本実施形態の断熱試験用装置Aにおいては、例えば、図1及び図2に示すように、装置全体の大きさが幅1520mm×奥行900mm×高さ900mm、熱特性試験体収容部2の大きさが幅465mm×奥行465mm×高さ585mmであり、この小さなサイズの装置Aによって、3000mm×3000mm×3000mmの大きさのコンクリートの断熱状態、温度履歴を再現できる。
【0040】
これにより、本実施形態の断熱試験用装置Aによれば、非常にコンパクトで現場での取扱性に優れた装置でありながら、精度よく(信頼性が高い)断熱温度上昇量を求めることが可能になる。
【0041】
一方、本実施形態の断熱試験用装置Aにおいては、断熱温度上昇の試験を行うとともに、例えば、材齢3日、材齢7日、材齢14日、材齢28日の所定の材齢に達した段階で力学特性試験体収容部3から力学試験用の試験体を取り出し、圧縮強度試験などの力学試験を実施できる。
【0042】
よって、本実施形態の断熱試験用装置Aにおいては、これらの力学試験用の試験体が断熱本体部1や断熱部11、さらに断熱脱離層12によってセメントの水和熱の放熱を抑えた断熱状態で養生されるため、温度履歴に応じた力学特性を把握し、評価することが可能になる。
【0043】
また、前面蓋部8が分割形成され、力学特性試験体収容部3の各ユニット16と前後に重なる対応部分の前面蓋部8をそれぞれ個別に取り外しできるため、材齢ごとに試験に供する3本の試験体を収容したユニット16を取り出す部分だけ、前面蓋部8を外し、スライド機構18によってユニット16を前方に引き出して3本の試験体を取り出すことができる。
【0044】
このように分割形成した前面蓋部8の対称部分を外し、ユニット16をスライド移動させ、試験に供する試験体を取り出すことができることにより、試験体の取出しに伴う収容空間H内の温度変化(放熱)を防止でき、すなわち、他の試験体の断熱状態を損なうことがなく、好適に試験体を断熱状態で養生することが可能になる。
【0045】
また、3本の試験体を取り出した後に、スライド機構18で収容空間H内にユニット16を戻し、前面蓋部8を元に戻して取り付けることで、他の試験体の断熱状態を継続して保持できる。
【0046】
これにより、本実施形態の断熱試験用装置Aにおいては、収容空間H内の温度を確実に保ちつつ、温度履歴に応じた力学特性を把握し、評価することが可能になる。
【0047】
したがって、本実施形態の断熱試験用装置Aによれば、精度よく、信頼性の高い断熱温度特性、断熱力学特性の試験を実施できる。また、取扱性に優れた装置を実現、提供することが可能になる。
【0048】
さらに、本実施形態の断熱試験用装置Aにおいては、力学特性試験体収容部3と熱特性試験体収容部2の間に緩衝層17が設けられていることにより、両収容部2、3に収容した試験体のひずみ等に伴う応力や、装置Aの移動時、力学特性用の試験体の取り出し時等に作用する外力を緩衝層17で吸収できる。これにより、さらに精度よく熱特性、力学特性を把握することが可能になる。
【0049】
ここで、従来の断熱試験用装置は勿論、本発明に係る断熱試験用装置Aであっても、放熱によって完全な断熱状態を保持することは難しく、簡易物性試験時の装置内部(断熱容器中央部)の温度履歴が図8に示すようになる。
【0050】
このため、本実施形態の断熱試験用装置Aで測定した温度履歴にフィッティングするように熱特性値(断熱温度上昇式、熱伝導率、比熱、表面熱伝達率)を補正する必要がある。
【0051】
この補正を行うにあたり、まず、熱特性値のコンクリート及び断熱材の熱伝導率と比熱に関しては使用材料などでほとんど変化しないこと、表面熱伝達率も特殊な養生などを施さない限り外気温が変化に大きな影響を受けないことが確認されており、ほぼ一定とみなすことができる。
【0052】
このため、本実施形態では、使用材料、配調合によって変化する断熱温度上昇式に着目することとし、この断熱温度上昇式を温度履歴にフィッティングさせて最適化する。
この最適化方法を以下に示す。
【0053】
コンクリートの断熱温度上昇式(時間依存性を考慮した水和発熱モデル)は、対象とするコンクリートが周囲から全く放熱されない状態に置かれた場合、自己発熱による最高温度量まで上昇し、その際の上昇速度を近似的に与えたものであり、一般に、下記の式(1)で表したものが知られている。なお、Qは終局断熱温度上昇量(℃)、γ,βは上昇速度に関する無次元定数、tは材齢(日)である。
【0054】
【数1】
【0055】
式(1)から、断熱温度上昇量は材齢tによって決まり、対象位置でのコンクリート温度には関係しないことが分かる。但し、終局断熱温度上昇量及び上昇速度に関する定数は打込み温度、単位セメント量及びセメントの種別によって変化する。
【0056】
したがって、断熱温度上昇式を最適化するためには、単位セメント量、セメントの種別及び時間変化に対し、終局断熱温度上昇量、上昇速度に関する定数γ及びβの3つの変数を定める必要がある。また、これら3つの変数は、相互作用があることからそれを考慮して最適化する必要がある。
【0057】
これを踏まえ、本実施形態では、上記の3つの変数を同定するために粒子群最適化手法(PSO:Particle Swarm Optimization)を用いる。
【0058】
PSOは、多次元空間を多数の粒子が移動し、目的関数の最適値解取得のための探索アルゴリズムである。PSOの特徴は、従来の他の最適化手法に比べて素早く解を求めることができ、目的関数の微分情報を必要とせず連続系の問題に適用可能であり、さらに、複数のパラメータを取り扱える点などが挙げられる。
【0059】
そして、PSOは下記の式(2)、式(3)で最適化することができる。
ν 及びν t+1は粒子iのステップk及びk+1における速度ベクトル、wは慣性係数、c及びcは認知的(各粒子の経験に重みを置いた場合)及び社会的(群の経験に重みを置いた場合)パラメータ、r及びrは0~1の間での一様乱数、χ 及びχ t+1は粒子iのステップk及びk+1における位置ベクトル、gbestはステップkにおいて目的関数が最良となる位置情報、pbestは粒子iがステップkにおいて最良となる位置情報、△tは時間増分である。
【0060】
【数2】
【0061】
【数3】
【0062】
PSOでは、各粒子に対し、過去(前ステップまで)に移動してきた軌跡の中で最良位置(pbest:Personal best position)での評価値との比較を行い、現在の評価値が過去の評価値によりも良い位置にいる場合には、現在の評価値をpbestとする。また、pbestが更新された場合には、粒子群全体におけるこれまでの最良位置(gbest:Global best position)での評価値との比較を行い、現在の評価値がこれまでの評価値よりも良い位置であれば、現在の評価値をgbestとする。
【0063】
具体的に、PSOによる検討手順を図9に示す。
【0064】
図9に示すように、まず、Step1でn次元(本実施形態では終局断熱温度上昇量、上昇速度に関する定数γ及びβの3つの変数であることから3次元)の解空間内において粒子の初期位置及び初期速度を任意に設定する。
【0065】
例えば、使用セメント及び単位セメント量、打込み温度から、公益社団法人日本コンクリート工学会による「マスコンクリートひび割れ制御指針(2016)」に示されている断熱温度上昇式の算定式を用いるなどして粒子の初期位置及び初期速度を設定する。
【0066】
Step2で、例えば、式(4)に示すように対象位置での温度計測値(時間ステップ数n)と解析値の残差平方和を最小(閾値を設け、それよりも小さくなった場合)、もしくは設定している最大計算ステップ数に達した場合に終了とする(各変数の算定)。
【0067】
【数4】
【0068】
Step3で、各粒子でStep4~Step8を繰り返し、変数の最適化を行う。
【0069】
Step4で、温度計測結果と比較するための温度解析(設定した終局断熱温度上昇量、上昇速度に関する定数γ及びβを用いる)を実施する。前述したように、その他の熱特性値は定数として扱う。
【0070】
Step5で、各粒子の最良位置pbestの更新と保存を行う。
【0071】
Step6で、粒子群の最良位置gbestの更新と保存を行う。
【0072】
Step7で、現ステップkでの最良位置を基に、次ステップでの各粒子の速度ベクトルについて、前記の式(2)を用いて算定する。但し、各粒子の速度には予め制限値vmaxを設定しておき、式(2)で求められた速度がvmaxを超えた場合には次ステップでの速度ベクトルとしてvmaxを用いることとする。
【0073】
Step8で、前記の式(3)を用いて各粒子の位置を算定する。
【0074】
温度解析自体は、例えば、JCMAC3やASTEA-MACS等の市販の温度解析ソフトを用いて行えばよい。
【0075】
このとき、同一断熱容器、同一断熱材を用いることから、事前にメッシュレイアウトを設定しておけば、モデル作成などの手間が省ける。また、上述したように対象とする断熱温度上昇式の3つの変数以外も同一材料、同一条件であれば、事前に固定値(定数)として設定しておくことにより、入力の手間を省くことができる。
【0076】
よって、Step4で実施する温度解析は、初期値として評価対象とする位置での温度計測値、外気温、公益社団法人日本コンクリート工学会による「マスコンクリートひび割れ制御指針(2016)」などに示されている断熱温度上昇式の算定式から算定した終局断熱温度上昇量、上昇速度に関する定数γ及びβのみとなる。
【0077】
そして、本実施形態においては、例えば、Visual Basicのような簡単なプログラムを用い、入力画面にセメントの種別、単位セメント量、打込み温度、計測結果をCSVで貼り付けられるような参照ファイル入力窓を作成し、そこに入力さえすればプログラム内部でPSOによる最適化と温度解析へのリンケージを自動で実施できるようにしておく。また、閾値の設定及び最大計算数はデフォルトを用意しておき、ユーザによってカスタマイズできるようにしておく。
【0078】
出力として、最適化された終局断熱温度上昇量、上昇速度に関する定数γ及びβの値と計測値と最適化した時の温度履歴の比較した図、及び断熱温度上昇の履歴の図が示されるようにする。
【0079】
以上、本発明に係る断熱試験用装置の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0080】
例えば、本実施形態では、硬化時発熱材料がコンクリート(セメント系材料)であるものとして説明を行ったが、前述の通り、本発明に係る硬化時発熱材料はモルタルやセメントペースト、樹脂など、経時的に硬化が進行し、硬化時に発熱現象が生じるあらゆる材料の熱特性、力学特性の簡易試験に本発明に係る断熱試験用装置を用いることが可能である。
【0081】
また、本実施形態では、熱特性試験体収容部2を挟んで左右の対称位置に力学特性試験体収容部3が設けられているものとしたが、必ずしも熱特性試験体収容部2と力学特性試験体収容部3の相対位置を本実施形態のように限定しなくてもよい。例えば、平面視で、熱特性用試験体養生部10を中心とし、複数の力学特性用試験体養生部15を周方向に等間隔で配置するなどしてもよい。
【0082】
さらに、本実施形態では、力学特性試験体収容部3に24個の力学特性用試験体養生部15が設けられているものとしたが、力学特性用試験体養生部15の数を限定する必要はない。また、力学特性試験体収容部3における力学特性用試験体養生部15の配置も限定する必要はない。
【符号の説明】
【0083】
1 断熱本体部
2 熱特性試験体収容部
3 力学特性試験体収容部
4 上蓋部
5 下蓋部
6 右側側面蓋部
7 左側側面蓋部
8 前面蓋部
9 背面蓋部
10 熱特性用試験体養生部
11 断熱部(熱特性用試験体側断熱部、力学特性用試験体側断熱部)
12 断熱脱離層
15 力学特性用試験体養生部
16 ユニット(養生ボックス)
17 緩衝層
18 スライド機構
19 ガイド手段
20 滑動手段
21 取っ手
A 断熱試験用装置
H 収容空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9