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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞活性化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/015 20060101AFI20220523BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20220523BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220523BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220523BHJP
   A61K 36/23 20060101ALN20220523BHJP
【FI】
A61K31/015
A61K35/28
A61P43/00 105
A61P43/00 121
A61P25/00
A61K36/23
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018534417
(86)(22)【出願日】2017-08-17
(86)【国際出願番号】 JP2017029483
(87)【国際公開番号】W WO2018034314
(87)【国際公開日】2018-02-22
【審査請求日】2020-08-13
(31)【優先権主張番号】P 2016160268
(32)【優先日】2016-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307014555
【氏名又は名称】北海道公立大学法人 札幌医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】本望 修
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-500018(JP,A)
【文献】国際公開第2009/034708(WO,A1)
【文献】特表2016-522265(JP,A)
【文献】米国特許第08747915(US,B1)
【文献】特表2016-517696(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0135748(US,A1)
【文献】WIDOWATI, W. et al,Effect of β-carotene on cell proliferation and differentiation of adipose-derived stem cells into e,BioTechnology: An Indian Journal,2014年,Vol.9,No.10,p.407-412,TABLE1
【文献】ALAM,M.A.et al,Tahlab (Spirulina) and few other medicinal plants having anti-oxidant & immunomodulatory properties,International Journal of Pharmaceutical Sciences and Research,2013年,Vol. 4, No. 11,p.4158-4164,ABSTRACT、第4159頁左欄第3パラグラフ、第4160頁左欄第4パラグラフ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 35/00-35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
βカロテンを有効成分とする、間葉系幹細胞活性化剤であって、対象に経口摂取されて当該対象の骨髄間葉系幹細胞を活性化させ、加齢に伴って低下した間葉系幹細胞の細胞数又は増殖能を改善させる、間葉系幹細胞活性化剤。
【請求項2】
CD24陰性の間葉系幹細胞を含む組織修復・再生用医薬と併用することを特徴とする、請求項1に記載の間葉系幹細胞活性化剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2016-160268号(2016年8月18日出願)の明細書に記載された内容を包含する。
[技術分野]
本発明は、間葉系幹細胞活性化剤及び幹細胞年齢改善剤としてのβカロテンの利用、ならびに、前記間葉系幹細胞活性化剤又は幹細胞年齢改善剤と間葉系幹細胞を併用することによる組織修復・再生医療に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell:MSC)には脳(実質及び血管)の保護作用があることが知られている。脳梗塞後のMSC投与は、梗塞体積を減らし、行動機能を改善することが、実験的梗塞モデルを用いて確認されている(非特許文献1~3、特許文献1)。また、MSCの静脈投与による脳梗塞患者の治療も多数実施され、運動機能や損傷部位の改善が報告されている(非特許文献4、特許文献2)。
【0003】
脊髄損傷患者についても、MSCの静脈投与により、機能回復、及び軸索再生の促進、損傷部位の低減が認められている。MSCの効果は、これまで急性期の脊髄損傷患者においては多数報告されているが、慢性期の患者に対する研究は限られており、その効果は十分確認されていない。
【0004】
MSCの治療メカニズムについては、多数の作用機序が推測されており、これらは神経栄養因子による神経栄養・保護作用、血管新生作用(脳血流の回復)、神経再生の3つに分類される。神経栄養・保護作用は、神経栄養因子であるBDNF(Brain Derived Neurotrophic Factor)やGDNF(Glial Derived Neurotrophic Factor)等の液性因子を介して発揮されることが予測される。血管新生作用には、2つのメカニズムが考えられ、一つは病巣部に集積したMSCが血管新生因子等を分泌し血管新生を誘導することであり、もう一つは投与されたMSC自身が血管内皮に分化して新たな血管を形成することである。神経再生作用も、2つのメカニズムが考えられ、一つは病巣部に集積したMSCが内因性の神経形成を促進することであり、もう一つは投与されたMSC自身が神経細胞・グリア細胞へと分化することである。しかしながら、上記の作用機序はいずれも観察された現象からの推測にすぎず、MSCの静脈投与によって脳梗塞や脊髄損傷が治療されるメカニズムは実証されていない。
【0005】
間葉系幹細胞のプロファイルは加齢とともに変化する。脂肪由来の幹細胞について、セレンやβカロテンなどの抗酸化剤及びサイトカインを含む培地で培養することによりテロメラーゼ活性が向上することが報告されている(特許文献3)。βカロテンはカロテノイドの一種で、強い抗酸化作用を有し、体内では必要に応じてビタミンAに変換される。そのため、βカロテンには、粘膜や皮膚、免疫機能、視力を正常に維持する機能があることが知られているが、間葉系幹細胞に対する作用やそのメカニズムについては解明されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2002/000849号
【文献】WO2009/034708号
【文献】特表2015-500018号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Iihoshi S. et al., Brain Res. 2004;1007:1-9.
【文献】Nomura T. et al., Neuroscience. 2005;136:161-169.
【文献】Honma T. et al., Exp. Neurol. 2006;199:56-66.
【文献】Honmou O. et al., Brain. 2011;134:1790-1807.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、間葉系幹細胞(MSC)のプロファイル及び治療効果に対する生理活性物質の作用を解明し、その結果に基づき、脳神経の発達・加齢変化・損傷治癒について、幹細胞の恒常性という観点から、難治性神経疾患に対する新たな治療方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、骨髄内の間葉系幹細胞は、加齢により細胞数が減少し増殖能も低下するが、βカロテン投与により間葉系幹細胞が活性化され、骨髄内の間葉系幹細胞の数が増え、高い増殖能を示すようになることを確認した。また、亜急性期の脳梗塞モデルにおいて、βカロテンを投与することで、運動機能の改善や可塑性の亢進がみられることを確認した。
【0010】
本発明は上記の知見に基づいて完成されたものであり、以下の(1)~(11)に関する。
(1)βカロテンを有効成分とする、間葉系幹細胞活性化剤;
(2)間葉系幹細胞が骨髄又は血液に由来する間葉系幹細胞である、上記(1)に記載の間葉系幹細胞活性化剤;
(3)骨髄又は血液が、間葉系幹細胞の投与を受ける対象の骨髄又は血液である、上記(2)に記載の間葉系幹細胞活性化剤;
(4)間葉系幹細胞がCD24陰性である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の間葉系幹細胞活性化剤;
(5)βカロテンを有効成分とする、間葉系幹細胞の幹細胞年齢改善剤;
(6)間葉系幹細胞が骨髄又は血液に由来する間葉系幹細胞である、上記(5)に記載の幹細胞年齢改善剤;
(7)骨髄又は血液が、間葉系幹細胞の投与を受ける対象の骨髄又は血液である、上記(6)に記載の幹細胞年齢改善剤;
(8)間葉系幹細胞がCD24陰性である、上記(5)~(7)のいずれかに記載の間葉系幹細胞年齢改善剤;
(9)CD24陰性の間葉系幹細胞を含む組織修復・再生用医薬と併用することを特徴とする、上記(1)~(4)のいずれかに記載の間葉系幹細胞活性化剤又は上記(5)~(8)のいずれかに記載の幹細胞年齢改善剤;
(10)上記(1)~(4)のいずれかに記載の間葉系幹細胞活性化剤又は上記(5)~(8)のいずれかに記載の幹細胞年齢改善剤と併用される、CD24陰性の間葉系幹細胞を含む組織修復・再生用医薬;
(11)上記(1)~(4)のいずれかに記載の間葉系幹細胞活性化剤又は上記(5)~(8)のいずれかに記載の幹細胞年齢改善剤と、CD24陰性の間葉系幹細胞を含む細胞製剤とを組み合わせてなる、組織修復・再生用医薬。なお、上記「組織修復・再生用医薬」としては、脳梗塞、脊髄損傷、神経変性疾患、又は認知症の治療、高次機能の改善、寿命延長のための医薬が挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、βカロテンの投与(摂取)により間葉系幹細胞(MSC)を活性化させ、幹細胞年齢を若返らせることができることが確認された。これにより、MSCによる脳梗塞、脊髄損傷、認知症などの難治性神経疾患の新たな治療戦略の確立や、若返り可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、人参ジュースを24~62週齢にかけて経口摂取させた人参ジュース投与群(グラフ右)と、8週齢時(グラフ左)及び62週齢時(グラフ中央)の対照群の骨髄間葉系幹細胞の増殖能を比較したグラフである。グラフ縦軸は細胞数、横軸は継代日数(継代数(P)、継代日数(Day))。グラフ左からP0Day9(初代培養9日目)、P1Day9(第1継代、3日目)、P2Day4(第2継代、4日目)、P3Day5(第3継代、日目)、P4Day6(第4継代、6日目)。
図2図2は、βカロテンを33~43週齢にかけて腹腔内投与したβカロテン投与群(グラフ右)と、同じ43週齢の対照群(グラフ左)の骨髄間葉系幹細胞の増殖能を比較したグラフである。グラフ縦軸は細胞数、横軸は継代日数(継代数(P)、継代日数(Day))。左からP0Day9(初代培養9日目)、P1Day9(第1継代、3日目)、P2Day4(第2継代、4日目)、P3Day5(第3継代、5日目)、P4Day6(第4継代、6日目)。
図3図3は、人参ジュースを33~43週齢にかけて経口摂取させた人参ジュース投与群(グラフ右)と、同じ43週齢の対照群(グラフ左)の骨髄間葉系幹細胞の増殖能を比較したグラフである。グラフ縦軸は細胞数、横軸は継代日数(継代数(P)、継代日数(Day))。グラフ左からP0Day9(初代培養9日目)、P1Day9(第1継代、3日目)、P2Day4(第2継代、4日目)、P3Day5(第3継代、5日目)、P4Day6(第4継代、6日目)。
図4図4は、実施例2の実験プロトコルの概要を示す。
図5図5は、脳梗塞(亜急性期)モデルラットにおける、βカロテン投与群と対照群の運動機能の改善を比較したグラフである。グラフ縦軸はラットが走行できる最大速度(m/分)、横軸はラットの週齢。
図6図6は、脳梗塞(慢性期)モデルラットにおける、MSC群とDMEM群(対照群)の運動機能の改善を比較したグラフである。グラフ縦軸はラットが走行できる最大速度(m/分)、横軸はラットの週齢。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[間葉系幹細胞活性化剤]
本発明にかかる「間葉系幹細胞活性化剤」とは、加齢や病気に伴って低下した間葉系幹細胞(MSC)の細胞数や増殖能や細胞機能を、復活させる効果を有する組成物を意味する。
【0014】
本発明の「間葉系幹細胞活性化剤」は、βカロテンを有効成分とし、MSCを活性化し、その幹細胞年齢を若返らせる効果を有する。本発明の「間葉系幹細胞活性化剤」は、MSCと併用することで、その組織修復・再生能を向上させ、脳梗塞、脊髄損傷、認知症等の治療効果を高めることができる。
【0015】
[幹細胞年齢改善剤]
本発明にかかる「幹細胞年齢改善剤」とは、幹細胞年齢を若返らせる組成物であって、加齢や病気に伴って低下した間葉系幹細胞(MSC)の細胞数や増殖能や細胞機能を、復活させる効果を有する組成物を意味する。
幹細胞は、加齢とともにその数や増殖能や分化能、及びそれに伴う組織修復・再生等の幹細胞機能の低下が知られている。MSCは骨髄から末梢血に出て、全身の新陳代謝を支持し、血管や表皮を含む各臓器の維持に貢献する。MSCの数や機能が衰えると、加齢が進んだり、病気になったりする(stem cell failure)。同じ年齢でも、運動機能や健康状態は異なり、寿命も各人で異なる。このような加齢の個人差は、MSCの活性化度に依存していると考えられ、個々の生体の加齢(年齢)の本体はMSC活性の低下にあると考えられる。本発明にかかる「幹細胞年齢」とは、このような実年齢とは異なる細胞年齢、換言すれば、生体や細胞の若さを示す指標である。
【0016】
[間葉系幹細胞]
本発明にかかる「間葉系幹細胞」とは、間葉系組織の間質細胞の中に微量に存在する多分化能および自己複製能を有する幹細胞であり、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞などの結合組織細胞に分化するだけでなく、神経細胞や心筋細胞への分化能を有することが知られている。
【0017】
間葉系幹細胞は、骨髄、末梢血、臍帯血、胎児胚、胎盤、脂肪、脳など全身に存在するが、本発明においてはヒト骨髄又は血液由来の間葉系幹細胞(骨髄間葉系幹細胞)、とくにヒト骨髄間葉系幹細胞が好ましい。骨髄間葉系幹細胞は、1)顕著な効果が期待できる、2)副作用の危険性が低い、3)充分なドナー細胞の供給が期待できる、4)非侵襲的な治療であり自家移植が可能である、5)感染症のリスクが低い、6)免疫拒絶反応の心配がない、7)倫理的問題がない、8)社会的に受け入れられやすい、9)一般的な医療として広く定着しやすいなどの利点がある。さらに、骨髄移植療法は、既に臨床の現場で用いられている治療であり、安全性も確認されている。また、骨髄由来の幹細胞は遊走性が高く、局所への移植ばかりか、静脈内投与によっても目的の損傷組織へ到達し、治療効果が期待できる。
【0018】
細胞は、ES細胞や誘導多能性幹細胞(iPS細胞等)から分化誘導した細胞であっても、株化された細胞であっても、生体から単離・増殖させた細胞であってもよい。細胞は、他家細胞由来でも自家細胞由来であってもよいが、自家細胞由来(患者自身の細胞に由来する)間葉系幹細胞が好ましい。
【0019】
後述するように、間葉系幹細胞が医薬として、本発明に係る間葉系幹細胞活性化剤又は幹細胞年齢改善剤(βカロテン)と併用される場合、間葉系幹細胞は分化マーカーであるCD24陰性であり、未分化状態を維持した細胞であることが好ましい。CD24陰性の間葉系幹細胞は、増殖率および生体内導入後の生存率が高いという特徴を有し、間葉系幹細胞活性化剤又は幹細胞年齢改善剤(βカロテン)と併用することによって、より高いMSCによる脳梗塞、脊髄損傷、認知症などの難治性神経疾患の新たな治療戦略の確立及び治療効果の改善が期待できる。発明者らは、こうした未分化な間葉系幹細胞の取得方法も開発しており、その詳細はWO2009/002503号に記載されている。
【0020】
本発明に係る間葉系幹細胞活性化剤あるいは幹細胞年齢改善剤と併用される場合、CD24のほか、間葉系幹細胞は、CD73、CD90、CD105、及びCD200から選ばれる少なくとも1以上が陽性、及び/又はCD19、CD34、CD45、CD74、CD79α、及びHLA-DRから選ばれる少なくとも1以上が陰性であることで特徴づけられる。好ましくは、本発明で使用される間葉系幹細胞は、CD73、CD90、CD105、及びCD200の2以上が陽性であり、CD19、CD34、CD45、CD74、CD79α、及びHLA-DRの4以上が陰性であることで特徴づけられる。より好ましくは本発明で使用される間葉系幹細胞は、CD73、CD90、CD105、及びCD200が陽性であり、CD19、CD34、CD45、CD74、CD79α、及びHLA-DRが陰性であることで特徴づけられる。
【0021】
発明者らが開発した前記方法では、骨髄液等から抗凝固剤(ヘパリン等)と実質的に接触しない条件で分離した細胞を、ヒト血清(好ましくは、自家血清)を含み、かつ、抗凝固剤(ヘパリン等)を含まないかあるいは極めて低濃度で含む培地を用いて増殖させる。
【0022】
培地における細胞の密度は、細胞の性質および分化の方向性に影響を与える。間葉系幹細胞の場合、培地中の細胞密度が8,500個/cm2を超えると、細胞の性質が変化してしまうため、最大でも8,500個/cm2以下で継代培養させることが好ましく、より好ましくは、5,500個/cm2以上になった時点で継代培養させる。
【0023】
発明者らが開発した前記方法ではヒト血清含有培地を使用するため、血清ドナーの負担を考慮して、培地交換はなるべく少ない回数であることが望ましく、例えば、少なくとも週1回、より好ましくは週1~2回の培地交換を行う。
【0024】
培養は、細胞の総数が108個以上になるまで継代培養を繰り返し行う。必要とされる細胞数は、使用目的に応じて変化し得るが、例えば、脳梗塞の治療のための移植に必要とされる間葉系幹細胞の数は、107個以上と考えられている。発明者らが開発した方法によれば、12日間程度で107個の間葉系幹細胞を得ることができる。
【0025】
増殖した間葉系幹細胞は、必要に応じて、使用されるまで凍結保存などの手法で(例えば、-152℃のディープフリーザーにて)保存してもよい。凍結保存には、血清(好ましくはヒト血清、より好ましくは自家血清)、デキストラン、DMSOを含む培地(RPMI等の哺乳動物細胞用の培地)を凍結保存液として使用する。例えば、通常の濾過滅菌したRPMI20.5mLと、患者から採取した自己血清20.5mL、デキストラン5mL、DMSO 5mLを含む凍結保存液に細胞を懸濁して-150℃で凍結保存することができる。例えば、DMSOとしては、ニプロ株式会社製のクライオザーブ、デキストランは大塚製薬製の低分子デキストランL注を使用できるが、これらに限定されない。
【0026】
[間葉系幹細胞を含む組織修復・再生用医薬]
本発明にかかる「間葉系幹細胞を含む組織修復・再生用医薬」は、前述した「間葉系幹細胞(MSC)」を含む細胞製剤であって、損傷部位もしくは加齢による老化した部位(とくに脳や脊髄等の神経系組織)を修復・再生させる(WO2009/034708号)。さらに、発明者らは、MSCの投与は、シナプス形成や可塑性を向上させることも見出している(特願2016-091286、特願2016-091300)。
【0027】
シナプス形成とは、神経細胞から伸びた軸索が、神経結合を成立させる標的細胞や軸策付近まで適切に伸長し、標的に到達して、軸索末端と標的細胞や軸策との間にシナプスを形成させる過程であり、正しい神経回路形成の重要なプロセスである。本発明に係るMSCは、患部に到達すると、神経細胞や軸策に分化し、シナプスを形成することで、神経回路を再建する効果を有する。
【0028】
脳の可塑性とは、神経細胞や脳回路が環境や必要に応じて最適の処理システムを作り上げる現象を言う。本発明に係るMSCは、損傷を受けていない部位が、損傷部位の機能を代償するように、通常範囲を超えて機能する「脳の可塑性」を促進する機能も有する。
【0029】
さらに、発明者らは、「間葉系幹細胞(MSC)」の投与は、投与された対象の寿命を延長させる効果を有することも見出している。
【0030】
本発明にかかる「間葉系幹細胞を含む組織修復・再生用医薬」に含まれる間葉系幹細胞の細胞数は多い程好ましいが、対象への投与時期や、培養に要する時間を勘案すると、効果を示す最小量であることが実用的である。したがって、好ましい態様において、間葉系幹細胞の細胞数は、107個以上、好ましくは5×107個以上、より好ましくは108個以上、さらに好ましくは5×108個以上含まれる。
【0031】
本発明にかかる「間葉系幹細胞を含む組織修復・再生用医薬」は、好ましくは非経口投与製剤、より好ましくは非経口全身投与製剤、特に静脈内投与製剤である。非経口投与に適した剤形としては、溶液性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、用時調製型注射剤等の注射剤や移植片などが挙げられる。非経口投与用製剤は、水性または非水性の等張性無菌溶液または懸濁液の形態であり、例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、培地(とくに、RPMI等の哺乳動物細胞の培養に用いられる培地)、PBSなどの生理緩衝液、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、賦形剤、ビヒクル、防腐剤、結合剤等を適宜組み合わせて、適切な単位投与形態に製剤化される。
【0032】
注射用の水溶液としては、例えば、生理食塩水、培地、PBSなどの生理緩衝液、ブドウ糖やその他の補助剤を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム等が挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールや非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80、HCO-50等と併用してもよい。
【0033】
[間葉系幹細胞活性化剤又は幹細胞年齢改善剤と間葉系幹細胞を含む組織修復・再生用医薬との併用]
本発明の「間葉系幹細胞活性化剤」又は「幹細胞年齢改善剤」(βカロテン)は、MSCを活性化させ、幹細胞年齢を若返らせることで、MSCの治療効果を高めることができる。具体的に言えば、本発明の間葉系幹細胞活性化剤又は幹細胞年齢改善剤を、「間葉系幹細胞を含む組織修復・再生用医薬」と併用することで、MSC投与による治療効果を改善することが期待できる。以下に、その効果を具体的に記載する。
【0034】
(1)脳梗塞の治療
脳梗塞は、脳動脈の閉塞または狭窄のために脳虚血を来たし、脳組織が壊死またはこれに近い状態になる病態を言う。間葉系幹細胞には脳(実質及び血管)の保護作用があり、急性期や亜急性期の脳梗塞においては、MSCの投与は、梗塞体積を減らし、行動機能を改善するが、本発明の間葉系幹細胞活性化剤又は幹細胞年齢改善剤の投与は、その効果をより高めることが期待できる。
【0035】
壊死した細胞や損傷を受けた神経線維は慢性期になると元には戻らない。そのため、慢性期の脳梗塞においては、再発の防止とともに、壊死した細胞の周辺に存在する、死滅していない細胞や、機能停止している細胞を回復させ、病状を軽減することが治療の中心と考えられてきた。しかし、MSCの投与は、神経回路の再建と正常組織による代償を促進させることで、慢性期の脳梗塞においても、運動機能や脳機能の回復が可能になる。本発明の間葉系幹細胞活性化剤又は幹細胞年齢改善剤の投与は、その効果をより高めることが期待できる。
【0036】
(2)脊髄損傷の治療
脊髄を含む中枢神経系は末梢神経と異なり、一度損傷すると修復・再生されることはない。とくに、瘢痕化の進んだ慢性期脊髄損傷に対する治療は難しく、ES細胞を用いた臨床試験も試みられたが成功に至っていない。しかし、間葉系幹細胞の投与は、神経回路の再建と正常組織による代償を促進させることで、亜急性期のみならず、慢性期の脳梗塞においても、運動機能や神経機能の回復が可能になる。本発明の間葉系幹細胞活性化剤又は幹細胞年齢改善剤の投与は、その効果をより高めることが期待できる。
【0037】
(3)神経変性疾患の治療
本発明のMSCは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、進行性核上性麻痺(PSP)、ハンチントン病、多系統萎縮症(MSA)、黒質線状体変性症(SND)、シャイ・ドレーガー症候群、オリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)、脊髄小脳変性症(SCD)等の神経変性疾患にも有用である。本発明の間葉系幹細胞活性化剤又は幹細胞年齢改善剤の投与は、その治療効果をより高めることが期待できる。
【0038】
(4)認知症の治療
発明者らは、脳卒中易発性高血圧自然発症ラットにおいて、MSCの静脈投与により認知機能が改善され、血管性認知症が間葉系幹細胞により治療できることを実証している。アルツハイマー型認知症と血管性認知症は病態が似ており、アルツハイマー型認知症においても、MSCによる認知機能の改善が期待できる。本発明の間葉系幹細胞活性化剤又は幹細胞年齢改善剤の投与は、認知症に対するMSCの治療効果をより高めることが期待できる。
【0039】
(5)精神疾患の治療
上記した疾患のほか、本発明のMSCは、統合失調症、躁うつ病、人格障害、気分障害、心理発達障害、ストレス関連障害、自閉症、学習障害、行動・情緒障害、精神遅滞、睡眠障害、摂食障害、同一性障害、解離性障害、適応障害、アルコール性障害、依存症、等の精神疾患にも有用である。本発明の間葉系幹細胞活性化剤又は幹細胞年齢改善剤の投与は、その治療効果をより高めることが期待できる。
【0040】
(6)高次機能
本発明のMSCは、運動機能や単純な認知機能の改善に加えて、注意障害、記憶障害、失語症、失念、失行、遂行機能、情緒障害等の高次機能を改善することもできるが、本発明の間葉系幹細胞活性化剤又は幹細胞年齢改善剤の投与は、その効果をより高めることが期待できる。
【0041】
(7)寿命延長
本発明のMSCは、健常人においては、若返り、体力増強、寿命延長の効果を有し、認知症ならびに脳梗塞及び脊髄損傷などの難治性神経疾患患者においては、神経機能や運動機能の改善と合わせて、治療後の寿命延長効果を有する。本発明の間葉系幹細胞活性化剤又は幹細胞年齢改善剤の投与は、その効果をより高めることが期待できる。
【0042】
本発明の間葉系幹細胞活性化剤又は幹細胞年齢改善剤の投与量は、特に限定されず、投与(摂取)方法、対象の年齢、健康状態に応じて適宜決定される。
【0043】
本発明の間葉系幹細胞活性化剤又は幹細胞年齢改善剤の投与経路は特に限定されないが、経口投与(摂取)が簡便で好ましい。
【0044】
本発明の間葉系幹細胞活性化剤又は幹細胞年齢改善剤はβカロテンを含む限り、その形態・形状は特に限定されず、人参ジュースのような飲食品であっても、サプリメントであってもよい。また、本発明の間葉系幹細胞活性化剤は、薬理学的に許容し得る担体とともに、液剤、錠剤、カプセル剤などの形態に製剤化されていてもよい。
【0045】
[リハビリテーション]
本発明の間葉系幹細胞活性化剤又は幹細胞年齢改善剤の投与とMSCの併用による治療は、さらにリハビリテーションと併用することにより、格段にその効果が向上することが期待できる。脳梗塞や脊髄損傷患者において、リハビリテーションが可塑性を向上させることは公知であるが、本発明の間葉系幹細胞活性化剤又は幹細胞年齢改善剤(βカロテン)投与とMSC投与に、リハビリテーションを併用することにより、可塑性促進機能はさらに相乗的に向上する。実施方法は特に限定されず、ロボットによるリハビリテーションや、BMI(brain machine interface)による訓練でもよい。
【実施例
【0046】
以下、実施例により本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1.βカロテンの間葉系幹細胞に対する効果
1.材料・方法
(1)人参ジュース(経口摂取)の効果
SDラット(雌)を無作為に人参ジュース投与群(n=5)と対照群(8週及び62週各々 n=5)に分けた。人参ジュース投与群は、千葉県産100%人参ジュース(伊橋産業株式会社(イキイキにんじん館すこやか)製)を約100ml/匹/日、MF餌(オリエンタル酵母株式会社製)は自由給餌として、24週から62週まで投与し、62週齢時に骨髄(大腿骨2本,脛骨2本分)を採取した。対照群は、自由給餌(餌:MF)・自由給水で飼育し、8週齢及び62週齢時に骨髄(大腿骨2本,脛骨2本分)を採取した。
【0048】
採取した骨髄は、既報にしたがい、ダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)で25mlに希釈し、加熱不活化した10% FBS、2mM l-グルタミン、100U/ml ペニシリン、0.1mg/ml ストレプトマイシンを添加し、5%CO2雰囲気下37℃で3日間インキュベートした(Kim S. et al., Brain Res. 2006;1123:27-33. Ukai R. et al.,J. Neurotrauma. 2007;24:508-520.)。上記方法で細胞を4回継代して培養し、各継代時に細胞数をカウントした。
【0049】
同様の実験を33週から43週までの人参ジュース投与についても行い、投与の有無を比較した(人参ジュース投与群(n=5)と対照群(n=8))。
評価は、採取した骨髄の継代毎培養細胞数(5匹の平均細胞数)を第4継代(Passage=P4)まで追って比較することで実施した。
【0050】
(2)βカロテン(腹腔内投与)の効果
SDラット(雌)を、無作為にβカロテン投与群(n=5)と対照群(n=8)に分けた。βカロテン投与群は、33週から43週まで水溶性βカロテン(協和発酵バイオ株式会社製)を約0.1μg/0.5ml/日腹腔内投与し、AIN76A餌(Hokudo社製)は約30g/日で摂餌、自由給水で飼育し、骨髄(大腿骨2本,脛骨2本分)を採取した。対照群は、自由給餌(餌:MF)・自由給水で飼育し、8週齢及び62週齢時に骨髄(大腿骨2本,脛骨2本分)を採取した。採取した骨髄細胞を(1)と同様の方法で4回継代して培養し、継代時に細胞数をカウントした。
評価は、採取した骨髄の継代毎培養細胞数(5匹又は8匹の平均細胞数)をP4まで追って比較することで実施した。
【0051】
2.結果
(1)人参ジュース(24-62週 経口投与:図1
対照群のデータからわかるよう、8週齢時(グラフ左)に比べて62週齢時(グラフ中央)では、老齢化により細胞数の減少が認められるが、24週齢から62週齢にかけて人参ジュースを経口摂取させた群(グラフ右)では、62週齢時の対照群(グラフ中央)に比べて著しい細胞数の増加が観察され、若年のラット(8週齢の対照群)に近い増殖能を有することが確認された。
(2)βカロテン(33-43週 腹腔内投与:図2
図2に示されるとおり、33週齢から43週齢にかけてβカロテンを腹腔内投与した群では、同じ43週齢の対照群に比較して、著しい細胞数の増加(増殖能)が観察された。このことは、人参ジュースの効果がβカロテンによるものであったことを示す。
(3)人参ジュース(33-43週 経口投与:図3
図3に示されるとおり、33週齢から43週齢にかけて人参ジュースを経口摂取させた群では、同じ43週齢の対照群に比較して、著しい細胞数の増加(増殖能)が観察された。
【0052】
3.考察
本実施例の結果から、βカロテンには、有意なMSC活性化効果、幹細胞年齢の若返り効果があることが確認された。すなわち、βカロテンを摂取することにより、MSCの組織維持・修復・再生効果が向上し、若返りや、病気(脳梗塞、脊髄損傷、認知症など)の治療効果を向上させることが期待できる。
【0053】
実施例2.脳梗塞(亜急性期)モデルラットにおけるβカロテン投与の効果
1.材料・方法
(1)脳梗塞(亜急性期)モデルラット
脳梗塞モデルとして、ラット中大脳動脈閉塞(MCAO)モデルを使用した。既報にしたがい、9週齢の雌性SDラット(200-250g)をケタミン(75mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)で麻酔し、20.0-22.0mmの塞栓糸(MONOSOF)を外頸動脈から挿入して、中大脳動脈永久閉塞を行った(Honma T. et al., Exp. Neurol. 2006;199:56-66. Sasaki M. et al., Methods Mol. Biol. 2009;549:187-195.)。11週齢時にDWI-MRIを撮影して初期梗塞体積を評価した。初期梗塞体積が基準(200mm3)に満たない動物は実験から除外し、ラットを無作為にβカロテン投与群(n=2)と対照群(n=2)に分けた。
【0054】
(2)リハビリテーション
βカロテン投与群は、生理食塩水0.5mlとβカロテン(協和発酵バイオ株式会社製)0.1mgを連日腹腔内投与した。対照群は、生理食塩水0.5mlを連日腹腔内投与した。すべてのラットに毎日シクロスポリンA(10mg/kg)を腹腔内投与した。リハビリテーションとして、12週から毎日トレッドミル上を毎日20分間走らせた(トレッドミル 角度0度、速度8~12m/分)。
【0055】
(3)運動機能
運動負荷試験により運動評価を行った。毎週トレッドミル(角度20度)にて強制走行をさせ、最大走行速度(m/分)を測定した。図4に本実施例のプロトコルを示す。
【0056】
2.結果
図5に示すとおり、βカロテン投与群では運動機能の改善を認めたが、対照群では運動機能に変化は認められなかった。これはβカロテン投与により、損傷組織の再生と可塑性が亢進したためと考えられる。
【0057】
参考例1.脳梗塞(慢性期)モデルラットにおけるMSC投与の効果
1.材料・方法
(1)ラット骨髄由来間葉系幹細胞の調製
実験は札幌医科大学の動物実験管理規定にしたがって実施した。既報に従い、成熟SDラットの大腿骨から得た骨髄をダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)で25mlに希釈し、加熱不活化した10% FBS、2mM l-グルタミン、100U/ml ペニシリン、0.1mg/ml ストレプトマイシンを添加し、5%CO2雰囲気下37℃で3日間インキュベートした(Kim S. et al., Brain Res. 2006;1123:27-33. Ukai R. et al.,J. Neurotrauma. 2007;24:508-520.)。コンフルエントになるまで培養し、接着細胞をトリプシン-EDTAで剥離し、1×104cells/mlの密度で3回継代培養して間葉系幹細胞(MSC)を得た。
【0058】
(2)脳梗塞(慢性期)モデルラット
9週齢の雌性SDラット(200-250g)をケタミン(75mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)で麻酔し、20.0-22.0mmの塞栓糸(MONOSOF)を外頸動脈から挿入して、中大脳動脈永久閉塞(MCAO)を行った。初期梗塞体積が基準(200mm3)に満たない動物は実験から除外し、以下のとおりラットを無作為にMSC群(n=8)とDMEM群(n=8)に分け、MCAO後8週が経過した慢性期に移植を行った。
MSC群:MCAOの8週後のSDラットのMSC、P2 1.0×106個を1ml中に含むDMEMを大腿静脈より投与した。
DMEM群:1mlのDMEMを大腿静脈より投与した。
【0059】
(3)リハビリテーション
投与翌日より、リハビリテーション(トレッドミル 角度0度、速度8~12m/分、20分)を行い、シクロスポリン投与(10mg/kg)を移植1週間は連日、その後は隔日投与を行った。全例において、移植翌日から毎日リハビリテーション(トレッドミル 角度0度、速度8~12m/分、20分)を行った。
【0060】
(4)運動機能
運動負荷試験により運動評価を行った。毎週トレッドミル(角度20度)にて強制走行をさせ、最大走行速度(m/分)を測定した。
【0061】
2.結果
図6に示すとおり、MSC群では運動機能の改善を認めたが、DMEM群では変化は認められなかった。このことから、脳梗塞慢性期にMSCを投与すると運動機能の改善が見られることが確認された。これはMSC投与により、損傷組織の再生と可塑性が亢進したためと考えられる。
【0062】
3.考察
本参考例の結果と実施例1及び2の結果から、βカロテン投与(摂取)することで、損傷組織の再生と可塑性の亢進が向上することが示唆される。また、MSC投与にβカロテン投与(摂取)を併用することで、MSCによる損傷組織の再生と可塑性の亢進がより向上することが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、MSCによる脳梗塞、脊髄損傷、認知症などの難治性神経疾患の新たな治療戦略の確立及び治療効果の改善に有用である。
【0064】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6