(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】エポキシ注型樹脂配合物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/50 20060101AFI20220523BHJP
C08G 59/24 20060101ALI20220523BHJP
C08G 59/54 20060101ALI20220523BHJP
H01B 17/56 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
C08G59/50
C08G59/24
C08G59/54
H01B17/56 J
(21)【出願番号】P 2019550186
(86)(22)【出願日】2017-12-08
(86)【国際出願番号】 IB2017057751
(87)【国際公開番号】W WO2018167551
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2020-12-07
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100110803
【氏名又は名称】赤澤 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】ミュース,マティス エー.
(72)【発明者】
【氏名】ペトリー,ミハイル
(72)【発明者】
【氏名】ユング,エイドリアン テー.
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-036540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
H01B 17/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性注型樹脂前駆体であって、
(a)
(a1)少なくとも1つのエポキシ樹脂、を含む、第1の部分(A)と、
(b)
(b1)少なくとも1つの
、フェナルカミンから選択される第1のアミン系エポキシ硬化剤と、
(b2)任意選択的に、少なくとも1つの第2のアミン系エポキシ硬化剤と、
(b3)少なくとも1つの無機充填剤と、
(b4)少なくとも1つのフェノール性脂質と、を含む、第2の部分(B)と、を含み、
部分(A)及び/又は部分(B)は少なくとも1つのトリフェニルメタン染料を含む、硬化性注型樹脂前駆体。
【請求項2】
前記少なくとも1つのエポキシ樹脂が、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂、及びこれらの混合物をベースとしている、請求項1に記載の硬化性注型樹脂前駆体。
【請求項3】
前記少なくとも1つのフェノール性脂質が、アルキルカテコール、アルキルフェノール、アルキルレゾルシノール、及びアナカルド酸から選択される、請求項1又は2に記載の硬化性注型樹脂前駆体。
【請求項4】
前記少なくとも1つの第2のアミン系エポキシ硬化剤が、少なくとも1つのポリエーテルアミドアミンを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の硬化性注型樹脂前駆体。
【請求項5】
前記少なくとも1つの
無機充填剤が、水酸化アルミニウム、シリカ、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、及びグラスバブルズから選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の硬化性注型樹脂前駆体。
【請求項6】
前記少なくとも1つのトリフェニルメタン染料が、4-[[4-(ジエチル-アミノ)フェニル]-(4-ジエチルアザニウミリデンシクロヘキサ-2,5-ジエン-1-イリデン)メチル]-6-ヒドロキシベンゼン-1,3-ジスルホン酸、及びそのカルシウム塩、カリウム塩若しくはナトリウム塩、又はブロモチモールブルー(4,4’-(1,1-ジオキシド-3H-2,1-ベンゾオキサチオール-3,3-ジイル)ビス(2-ブロモ-6-イソプロピル-3-メチルフェノール))から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の硬化性注型樹脂前駆体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の硬化性注型樹脂前駆体であって、
(a)
(a1)部分(A)の総重量に基づいて、60重量%~100重量%
の量の、少なくとも1つのエポキシ樹脂と、
(a2)任意選択的に、部分(A)の総重量に基づいて、5重量%~30重量%
の量の、少なくとも1つのフェノール性脂質と、
(a3)任意選択的に、部分(A)の総重量に基づいて、1重量%~20重量%
の量の、少なくとも1つの反応性希釈剤と、
(a4)任意選択的に、部分(A)の総重量に基づいて、0.01重量%~2重量%
の量の、少なくとも1つのトリフェニルメタン染料と、を含む、第1の部分(A)と、
(b)
(b1)部分(B)の総重量に基づいて、10重量%~45重量%
の量の、少なくとも1つの第1のアミン系エポキシ硬化剤樹脂と、
(b2)任意選択的に、部分(B)の総重量に基づいて、0.5重量%~20重量%
の量の、少なくとも1つの第2のアミン系エポキシ硬化剤と、
(b3)任意選択的に、部分(B)の総重量に基づいて、0.01重量%~2重量%
の量の、少なくとも1つのトリフェニルメタン染料と、
(b4)部分(B)の総重量に基づいて、40重量%~80重量%
の量の、少なくとも1つの無機充填剤と、
(b5)部分(B)の総重量に基づいて、1重量%~30重量%
の量の、少なくとも1つのフェノール性脂質と、を含む、第2の部分(B)と、を含み、
部分(A)及び/又は部分(B)は少なくとも1つのトリフェニルメタン染料を含む、硬化性注型樹脂前駆体。
【請求項8】
部分(A)及び部分(B)の混合後に第1の変色を呈し、硬化時に第2の変色を呈する、請求項1~7のいずれか一項に記載の硬化性注型樹脂前駆体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)及び部分(B)を組み合わせることから得られる、硬化性注型樹脂組成物。
【請求項10】
金属部分を封入する方法であって、
(a)請求項1~8のいずれか一項に記載の硬化性注型樹脂前駆体を準備する工程と、
(b)硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)及び部分(B)を組み合わせて、硬化性注型樹脂組成物を形成する工程と、
(c)少なくとも1つの金属部分を準備する工程と、
(d)任意選択的に、前記少なくとも1つの金属部分の少なくとも一部の周りに注型を提供する工程と、
(e)前記硬化性注型樹脂組成物を、前記少なくとも1つの金属部分の少なくとも一部に適用する工程と、
(f)前記硬化性注型樹脂組成物を硬化させる工程と、を含む、方法。
【請求項11】
ケーブル接合部を絶縁するためのキットであって、
(i)請求項1~8のいずれか一項に記載の硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)を収容する第1の容器、及び請求項1~8のいずれか一項に記載の硬化性注型樹脂前駆体の部分(B)を収容する第2の容器と、
(ii)前記ケーブル接合部が、前記硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)及び部分(B)を混合することから得られる硬化性注型樹脂組成物で覆われ得るように、ケーブル接合部のための空間部、及び前記硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)及び部分(B)を混合するための空間部を提供するように寸法決定された注型チャンバ/成形型と、を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、硬化性二成分エポキシ樹脂前駆体、より具体的にはエポキシ注型樹脂前駆体の分野、及びそれから得られるエポキシ注型樹脂組成物に関する。別の態様では、本開示は、本明細書に記載の二成分樹脂組成物を使用することによって、金属部分を封入する方法、特にケーブル接合部を絶縁する方法に関する。なお更なる態様において、本開示は、そのような二成分エポキシ樹脂前駆体の使用、及びそれから得られるエポキシ注型樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーブル部分をケーブル接合部から共に接合することなどの金属部分の封入は、住宅及び道路の建設作業、電気デバイスの設置、並びに航空機、トラック、船などのベセル(vessel)の製造において、よく知られている電気用ケーブル設置の一環である。
【0003】
通常、ケーブルのそれぞれの末端におけるプラスチック絶縁部分又は層は、少なくとも部分的に除去され、ケーブルの金属部分は、ケーブルを撚り合わせるか、ケーブル導体の端部を互いに溶着するか、又は金属コネクタを使用するかのいずれかによって接合される。次いで、新しい電気絶縁材を適用し、機械的保護及び可撓性、並びに汚れ、特に湿気による汚染に対する保護が得られる。更に、多くの場合には、ケーブル及びそれに対応するケーブル接合部にある程度の可撓性が必要であり、これは新たに形成されたケーブル接合部も、ある程度可撓性のものである必要があることを意味する。
【0004】
自己接着テープを使用することで、場合によっては、いくつかの用途、特に低電圧及び/又は高電流負荷を非常に要求の厳しい環境と組み合わせるための大きな、すなわち、太いケーブルに適した絶縁性が得られるとはいえ、追加の保護が必要とされることが多い。したがって、注型樹脂を使用することは当該技術分野において一般的であり、注型樹脂はケーブル接合部を囲む注型又は成形型に注入され、硬化して、所望の電気絶縁性及び外部の影響に対する機械的保護をもたらす。
【0005】
この点において、ポリウレタン注型樹脂は、低電圧ケーブル接合部などの用途のための、よく知られている種類の二部型硬化材料及び室温硬化材料である。概して、これらの樹脂は低い粘度を呈し、そのため混合及び注入が容易である。成分の反応は概して、発熱がほとんど発生することなく、適切なポットライフ(例えば、室温で15分~45分)で速くなる。更に、硬化された樹脂は、上記の用途に必要な強靱性及び可撓性を呈する。
【0006】
しかしながら、ポリウレタン注型樹脂は、ケーブル接合部における用途に有利な特性を呈するが、樹脂には水による影響を受けやすいという固有の欠点が存在する。概してイソシアネート系化合物である硬膜剤は、水と容易に反応して二酸化炭素ガスを形成し、これにより樹脂が発泡することがある。発泡は、不十分な電気絶縁をもたらすため、これらの用途では許容できない。この欠点に対処するために、電気絶縁用の現在最先端のポリウレタン系は、系の疎水性を高めるように改質され、水の存在下での硬化を可能にしている。しかし、例えば樹脂加圧注入法を使用する場合に特定の状況下で、疎水性であるとみなされる場合でさえ、発泡は依然として問題になることがある。
【0007】
更に、イソシアネートのほとんどは発癌性物質と考えられているので、イソシアネートを使用することで、一部の顧客及び用途に対して、健康上及び安全上の懸念が生じる可能性がある。
【0008】
それとは別に、注型樹脂に望まれる更なる特性は、建設作業におけるケーブル接合部及びスプライスの典型的な設置から生じる。二成分注型樹脂組成物の場合には、その二つの部分を混合し、得られた組成物を、ケーブル接合部を収容する成形型に注入するか又は移す。例えば、地下ケーブルの修理/スプライシングには、以下の工程を伴う場合がある。1)作業者がケーブルの損傷部分に穴を開ける。2)電気技師がケーブル上で実際の作業を行い、(この点まで)樹脂組成物の2つの分けられている部分を混合した後、組成物を(ほとんどの場合透明な)成形型本体に注入する。その重要な機能(電気絶縁及び機械的保護)を保証するために、樹脂が完全に硬化するまで、ケーブルとスプライスを動かすべきではない。ただし、建設現場の温度が変動すると、実際の硬化時間を予測することが難しくなる。3)樹脂が完全に硬化した後、地下作業者は穴をふさいでよく、それによって完全な修理プロセスを完了する。
【0009】
この封入手順の潜在的な危険性は、樹脂混合物2つの部分の混合が不十分なこと、及び/又は樹脂が完全に硬化する前にケーブル及びスプライスがずれることである。これらのいずれもが、対応する電気システムの損傷の結果として、接合部の損傷につながり、最終的には費用と時間のかかる修理につながる可能性がある。
【0010】
したがって、当該技術分野において既知の注型樹脂組成物に関連する技術的優位性を競い合うことなく、ケーブル接合部の電気絶縁及び機械的保護に適した硬化性注型樹脂組成物が依然として強く必要とされている。
【0011】
本開示の注型樹脂及び方法のその他の利点は、以下の記載により明らかとなるであろう。
【発明の概要】
【0012】
本開示は、硬化性注型樹脂前駆体であって、
(a)
(a1)少なくとも1つのエポキシ樹脂、を含む、第1の部分(A)と、
(b)
(b1)少なくとも1つの第1のアミン系エポキシ硬化剤と、
(b2)任意選択的に、少なくとも1つの第2のアミン系エポキシ硬化剤と、
(b3)少なくとも1つの無機充填剤と、
(b4)少なくとも1つのフェノール性脂質と、を含む、第2の部分(B)と、を含み、
部分(A)及び/又は部分(B)は少なくとも1つのトリフェニルメタン染料を含む、硬化性注型樹脂前駆体を提供する。
【0013】
更に、本開示は、本明細書に記載の硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)及び部分(B)を組み合わせることから得られる、硬化性注型樹脂を提供する。
【0014】
本開示は、ケーブル接合部を絶縁する方法であって、
(a)本明細書に記載の硬化性注型樹脂前駆体を準備する工程と、
(b)硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)及び部分(B)を組み合わせて、硬化性注型樹脂組成物を形成する工程と、
(c)少なくとも2つの異なるケーブルの金属部分の接合部を含むケーブル接合部などの少なくとも1つの金属部分を準備する工程と、
(d)任意選択的に、ケーブル接合部などの少なくとも1つの金属部分の少なくとも一部の周りに注型を提供する工程と、
(e)硬化性注型樹脂組成物を、ケーブル接合部などの少なくとも1つの金属部分の少なくとも一部に適用する工程と、
(f)硬化性注型樹脂組成物を硬化させる工程と、を含む、方法を更に提供する。
【0015】
更に、本発明は、ケーブル接合部を絶縁するためのキットであって、
(i)本明細書に記載の硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)を収容する第1の容器、及び本明細書に記載の硬化性注型樹脂前駆体の部分(B)を収容する第2の容器と、
(ii)ケーブル接合部が、硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)及び部分(B)を混合することから得られる硬化性注型樹脂組成物で覆われ得るように、ケーブル接合部のための空間部、及び硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)及び部分(B)を混合するための空間部を提供するように寸法決定された注型チャンバ/成形型と、を含む、キットを提供する。
【0016】
最後に、本開示は、工業用途、特にケーブル接合部の絶縁のための、本明細書に記載の硬化性注型樹脂前駆体及び硬化性注型樹脂組成物の使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示のいずれかの実施形態を詳細に説明するのに先立ち、本開示はその用途において以下の説明に示される構造の詳細及び構成部品の配置に限定されるものではないということが理解されるべきである。本発明は、他の実施形態も可能であり、様々な方法で実践又は実行することが可能である。本明細書で使用するとき、用語「a」、「an」及び「the」は、互換可能なものとして使用され、1つ以上を意味し、「及び/又は」は、一方又は両方の記述された事例が起こる場合があることを示すために使用され、例えば、A及び/又はBは、(A及びB)と(A又はB)とを含む。また、本明細書において、端点による範囲の記載は、その範囲内に包含される全ての数を含む(例えば、1~10は、1.4、1.9、2.33、5.75、9.98などを含む)。また、本明細書において、「少なくとも1つ」の記載は、1以上の全ての数(例えば、少なくとも2、少なくとも4、少なくとも6、少なくとも8、少なくとも10、少なくとも25、少なくとも50、少なくとも100など)を含む。また、本明細書において使用される語法及び専門用語は説明を目的としたものであり、限定するものとみなしてはならないことを理解されたい。限定的であるよう意図される「からなる(consisting)」の使用とは異なり、「含む(including)」、「含有する(containing)」、「含む(comprising)」、又は「有する(having)」、及びそれらのバリエーションの使用は、限定的でないものと意図され、これらの後に列記される項目並びに追加項目を包含することを意図するものである。
【0018】
組成物の成分量は、別途明記しない限り、重量%(又は「%wt.」若しくは「wt.%」)によって示され得る。全ての成分の量は、別段の指定がない限り、100重量%になる。成分の量がモル%によって特定される場合、全成分の量は、別途明記しない限り、100モル%となる。
【0019】
本開示のコンテキストでは、用語「室温」及び「周囲温度」は互換的に使用され、約101kPaの周囲気圧条件において、23℃(±2℃)の温度を指す。
【0020】
別途明示的に記載しない限り、本開示の全ての実施形態及び任意選択的な特徴は、自由に組み合わせることができる。
【0021】
本開示の第1の態様は、硬化性注型樹脂前駆体であって、
(a)
(a1)少なくとも1つのエポキシ樹脂、を含む、第1の部分(A)と、
(b)
(b1)少なくとも1つの第1のアミン系エポキシ硬化剤と、
(b2)任意選択的に、少なくとも1つの第2のアミン系エポキシ硬化剤と、
(b3)少なくとも1つの無機充填剤と、
(b4)少なくとも1つのフェノール性脂質と、を含む、第2の部分(B)と、を含み、
部分(A)及び/又は部分(B)は少なくとも1つのトリフェニルメタン染料を含む、硬化性注型樹脂前駆体である。
【0022】
本開示によるものとしての硬化性前駆体はまた、二成分組成物又は2k-組成物としても知られている。第1の部分(A)が、硬化性注型樹脂前駆体の第2の部分(B)から物理的に分けられていることが理解される。ユーザーの必要に応じて、第1の部分(A)及び第2の部分(B)を、目的とする使用の前に混合し、硬化性注型樹脂組成物を得る。本開示はまた、硬化性注型樹脂前駆体から得られる硬化性注型樹脂組成物、及び硬化性注型樹脂組成物を硬化させることから得られる硬化されたケーブル接合部を包含する。これらの2k-組成物を使用することで、貯蔵寿命の長期化、ユーザーの必要に応じて硬化性組成物を形成できること、及び組成物を容易に硬化できることなどのいくつかの利点がもたらされ、特に現場でケーブル接合部を絶縁する技術分野において、組成物自体がユーザーにとって更なる取り扱い上の利点をもたらす。
【0023】
本開示による硬化性樹脂前駆体は、良好な取り扱い特性(例えば、2つの部分を混合した後の適切な粘度及びポットライフ、硬化反応中の低い発熱)、硬化された注型樹脂における良好な機械的及び電気的(例えば絶縁性)特性などの望ましい特性の少なくとも1つ又は更に組み合わせを呈する。硬化反応中の低い発熱は、ケーブルの絶縁材への熱損傷、並びに組成物を取り扱う作業者への危険性が回避され得るという点で有利である。
【0024】
これは、少なくとも1つのエポキシ樹脂を含む第1の部分(A)と、少なくとも1つの第1のアミン系エポキシ硬化剤、少なくとも1つの第2のアミン系エポキシ硬化剤、少なくとも1つの無機充填剤、及び少なくとも1つのフェノール性脂質を含む第2の部分(B)と、の特定で一意的な組み合わせによるものであることが特に見出された。更に、部分(A)及び/又は部分(B)中にトリフェニルメタン染料が存在することにより、部分(A)及び部分(B)の正しい混合の視覚的表示、及び/又は注型樹脂の硬化のモニタリングが可能となる。これは、ケーブル接合部及びスプライスを絶縁するために、本明細書に記載の硬化性注型樹脂前駆体を使用するときに特に有利である。
【0025】
硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)は、少なくとも1つのエポキシ樹脂を含む。本明細書で用いる好適なエポキシ化合物は、本明細書に鑑みて、当業者により容易に特定されるであろう。
【0026】
本明細書で用いるエポキシ樹脂は、特に限定されない。エポキシ樹脂は、1つ又は複数のエポキシ官能性を有するポリマーである。限定するものではないが、典型的には、このポリマーは、エポキシ官能性を有するモノマー由来の繰り返し単位を含み、エポキシ樹脂はまた、例えば、エポキシ基を含むシリコーン系ポリマー、エポキシ基でコーティング若しくは修飾されている有機ポリマー粒子、又はエポキシ基含有ポリマーでコーティングされている粒子、エポキシ基含有ポリマーに分散されている粒子、若しくはエポキシ基含有ポリマーで修飾されている粒子、も含んでいてもよい。エポキシ官能性によって、樹脂は、架橋反応を受けることが可能になる。エポキシ樹脂は、平均で、少なくとも1、1超、又は少なくとも2のエポキシ官能基を有していてもよい。
【0027】
当業者によく知られている任意のエポキシ樹脂を、本開示のコンテキストで使用することができる。エポキシ樹脂は、芳香族、脂肪族、脂環式、又はこれらの混合物であってもよい。典型的な態様では、本明細書で用いるエポキシ樹脂は、芳香族である。好ましくは、エポキシ樹脂は、グリシジル又はポリグリシジルエーテル型の部分を含む。このような部分は、例えば、ヒドロキシル官能性(例えば、2価若しくは多価フェノール、又はポリオールを含む脂肪族アルコールであるが、これらに限定されない)と、エピクロロヒドリン官能性との反応によって得ることができる。本明細書において、2価フェノールとは、フェノールの芳香環に結合したヒドロキシ基(「芳香族」ヒドロキシ基とも呼ばれる)を少なくとも2つ含むフェノールである。ポリフェノールの場合、少なくとも2つのヒドロキシ基は、芳香環に結合している。これは、水酸基が、ポリフェノールの同じ環に結合していてもよく、各ポリフェノールの異なる環に結合していてもよいことを意味する。したがって、用語「2価フェノール」は、2つの「芳香族」ヒドロキシ基を含むフェノール又はポリフェノールだけではなく、多価フェノール、すなわち、2つを超える「芳香族」ヒドロキシ基を有する化合物も包含する。
【0028】
有用な2価フェノールの例としては、レゾルシノール、カテコール、ハイドロキノン、及びp,p’-ジヒドロキシジベンジル、p,p’-ジヒドロキシフェニルスルホン、p,p’-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシフェニルスルホン、p,p’-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2-ジヒドロキシ-1,1-ジナフチルメタンなどのポリフェノール、並びにジヒドロキシジフェニルメタン、ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン、ジヒドロキシジフェニルエチルメチルメタン、ジヒドロキシジフェニルメチルプロピルメタン、ジヒドロキシジフェニルエチルフェニルメタン、ジヒドロキシジフェニルプロピレンフェニルメタン、ジヒドロキシジフェニルブチルフェニルメタン、ジヒドロキシジフェニルトリルエタン、ジヒドロキシジフェニルトリルメチルメタン、ジヒドロキシジフェニルジシクロヘキシルメタン、及びジヒドロキシジフェニルシクロヘキサンの2,2’、2,3’、2,4’、3,3’、3,4’、及び4,4’異性体が挙げられる。
【0029】
好ましいエポキシ樹脂としては、2価又は多価フェノール(例えばビスフェノールA、ビスフェノールF、及びこれらの組み合わせなどであるが、これらに限定されない)のグリシジルエーテル又はポリグリシジルエーテルを含む又はからなるエポキシ樹脂が挙げられる。これらは、ビスフェノールA及び/又はF由来の繰り返し単位を1つ又は複数含む。このようなエーテル、又はこのような繰り返し単位は、例えば、ビスフェノールA及び/又はFのグリシジルエーテルと、エピクロロヒドリンとの重合によって得ることができる。ビスフェノールAのジグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂は、下記式:[式中、nは繰り返し単位を表す。]によって表すことができる(n=0の場合、この式は、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルを表す。)。
【化1】
【0030】
典型的には、エポキシ樹脂は、いくつかの樹脂のブレンドである。よって、上記式中のnは、ブレンドの平均値を表していてもよく、整数でなくてもよく、例えば0.1~2.5のような値を含み得るが、これらに限定されない。
【0031】
上記の芳香族エポキシ樹脂を使用する代わりに、又はそれに加えて、上記芳香族エポキシ樹脂の完全に又は部分的に水素化されている誘導体(すなわち、対応する脂環式化合物)を使用してもよい。芳香族エポキシ樹脂を使用する代わりに、又はそれに加えて、脂肪族、例えば、非環状エポキシ樹脂、直鎖状又は分枝状エポキシ樹脂を使用してもよい。
【0032】
典型的には、エポキシ樹脂は液体である。エポキシ樹脂は固体エポキシ樹脂を含み得、溶解した形態で使用されるか、又は例えば別の液体樹脂中に分散された形態で使用される。好ましくは、エポキシ樹脂は、周囲条件(23℃、1バール)で液体である。エポキシ樹脂は、可燃性を低くするために、ハロゲン、好ましくは臭素原子を含んでいてもよい。
【0033】
好適でかつ市販されているエポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(Hexion Speciality Chemicals GmbH(Rosbach、Germany)からの商標名EPON 828、EPON 830、EPON 1001又はEPIKOTE 828で、又はDow Chemical Co.からの商標名D.E.R.331又はD.E.R.332で入手可能);ビスフェノールFのジグリシジルエーテル(例えば、大日本インキ化学工業(Dainippon Ink and Chemicals,Inc.)から入手可能なEPICLON 830、又はDow Chemical Co.(Schwalbach/Ts.,Germany)からのD.E.R.354);ビスフェノールAとビスフェノールFとのブレンドのジグリシジルエーテル(例えば、Momentive Specialty Chemicals(Columbus、USA)から入手可能なEPIKOTE 232)が挙げられる。他のビスフェノール系エポキシ樹脂は、商標名EPILOX(Leuna Epilox GmbH(Leuna,Germany))として市販されており、難燃性エポキシ樹脂は、商標名D.E.R.580(Dow Chemical Co.から入手可能な臭素化ビスフェノール型エポキシ樹脂)として市販されている。脂環式エポキシ樹脂は、商標名EPINOX(Hexion Specialty Chemicals GmbH)で市販されている。
【0034】
本開示による注型樹脂組成物に有用なエポキシ化合物は、好ましくは、ビスフェノールA、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールS、脂肪族アミン及び芳香族アミン、例えば、メチレンジアニリン及びアミノフェノール、並びにハロゲン置換ビスフェノール樹脂、ノボラック、脂肪族エポキシ、並びにこれらの組み合わせ及び/又はこれらの間の組み合わせから誘導される。より好ましくは、有機エポキシは、ビスフェノールA及びビスフェノールF、並びにエポキシノボラックのジグリシジルエーテルを含む群から選択される。ビスフェノールA及びビスフェノールF樹脂及びこれらの混合物をベースとするエポキシ樹脂が特に好ましい。
【0035】
本明細書に記載の硬化性注型樹脂におけるエポキシ樹脂を使用することで、低電圧ケーブル接合部における同じ用途のポリウレタン注型樹脂に対して利点がもたらされる。例えば、得られる注型樹脂は通常粘度が低く、それ故に混合し注入するのが容易である。更に、ポリウレタンベースの注型樹脂前駆体混合物とは対照的に、本エポキシ樹脂ベースの注型樹脂前駆体は水による影響を受けにくく、これらの前駆体のユーザーにとって有利ということになる。それとは別に、イソシアネートを使用することでも回避することができ、これは注型樹脂の用途に関しては更に別の利点である。
【0036】
本明細書で用いる好適な例示的エポキシ化合物は、Momentiveから商品名Epikote(登録商標)828で、Dow Chemical Co.から商品名DER 331、DER 332、DER 334及びDER 351で、Resolution Performance Productsから商品名Epon(登録商標)828で、Polysciences,Inc.から商品名Epon(登録商標)825/826/830/834/863/824で、Hexionから商品名Bakelite(登録商標)EPR 164で、Huntsmanから商品名Araldite(登録商標)GY 250/260で、又はLeuna Harzeから商品名EPILOX(登録商標)A 1900で市販されている。
【0037】
本明細書に記載の硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)は、部分(A)の総重量に基づいて、60重量%~100重量%、好ましくは65重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%の量で、少なくとも1つのエポキシ樹脂を含有するのが好ましい。
【0038】
本開示による硬化性注型樹脂前駆体の部分(B)は、アミン系エポキシ硬化剤を含む。
【0039】
本開示において使用するのに適したエポキシ硬化剤は、エポキシ樹脂を架橋(硬化)することができる化合物である。本発明による適した硬化剤は、アミン系のものであり、例えば第1級アミン又は第2級アミンであり得る。部分(B)中に存在するエポキシ硬化剤系は、少なくとも1つの第1のエポキシ硬化剤と共に、好ましくは第1のエポキシ硬化剤とは異なる(すなわち、化学的に異なる)少なくとも1つの第2のエポキシ硬化剤を含む。
【0040】
少なくとも1つの第1のエポキシ硬化剤は、少なくとも1つの第1級アミン官能基及び/又は少なくとも1つの第2級アミン官能基を含む。少なくとも1つの第1のエポキシ硬化剤はカルダノール系化合物、好ましくはフェナルカミンであることが好ましい。フェナルカミンは、カルダノール、ホルムアルデヒド、少なくとも1つのアミンのマンニッヒ反応から得ることができる。少なくとも1つの第1のアミン系エポキシ硬化剤としてのフェナルカミンを使用することで、硬化性注型樹脂前駆体の適用に望ましい少なくとも1つの効果(例えば、硬化性注型樹脂の低温硬化能及び良好なポットライフ、並びに硬化された注型樹脂の良好な耐化学薬品性及び耐湿性、表面耐性及び耐塩水性)が生じ得る。本開示による少なくとも1つの第1のアミン系エポキシ硬化剤として有用なフェナルカミンは、例えば、Cardolite Corporationから商標名NX 5607で入手することができる。
【0041】
本明細書に記載の硬化性注型樹脂前駆体の部分(B)は、部分(B)の総重量に基づいて、10重量%~45重量%、好ましくは12.5重量%~40重量%、より好ましくは15重量%~35重量%の量で、少なくとも1つの第1のアミン系エポキシ硬化剤樹脂を含有する。
【0042】
本開示による硬化性注型樹脂前駆体の部分(B)は、少なくとも1つの第2のアミン系エポキシ硬化剤を更に含むことが好ましい。これは、硬化性注型樹脂の改善された硬化挙動及び/又はそれから得られる硬化された注型樹脂の改善された機械的特性の効果を有し得る。
【0043】
本明細書で用いる少なくとも1つの第2のエポキシ硬化剤は、少なくとも1つのポリエーテルアミンを含み、少なくとも55(アミン当量(AEW)の単位であるg/molとして)のアミン当量重量を有する。このコンテキストでは、本明細書で用いる少なくとも1つの第2のエポキシ硬化剤は、上記のAEWの必要条件に合致していれば、いかなる脂肪族ポリエーテルアミン、脂環式ポリエーテルアミン、直鎖状ポリエーテルアミン、分枝状ポリエーテルアミン、又は芳香族ポリエーテルアミンであってもよい。
【0044】
理論に束縛されるものではないが、少なくとも1つのポリエーテルアミンを含み、少なくとも55(アミン当量の単位であるg/molとして)のアミン当量重量を有する少なくとも1つの第2のエポキシ硬化剤は、エポキシ樹脂と共に硬化した後に優れた耐化学薬品性をももたらすと考えられる。
【0045】
特定の態様では、本明細書で用いる少なくとも1つの第2のエポキシ硬化剤は、
【化2】
[式中、
残基R
1、R
2、及びR
4は、互いに独立して、水素、又は約1個~15個の炭素原子を含む炭化水素(アルキルなど)残基、アルコキシ残基、又はポリオキシアルキル残基を表していてもよく、
R
3は、ポリエーテルアルキル残基、好ましくは約1個~15個の炭素原子を含むポリエーテルアルキル残基を表し、
nは、1~10の任意の整数を表す。]の一般構造を含み得る。
【0046】
好ましい態様では、残基R1、R2、及びR4は、アミンが少なくとも1つ又は2つの第1級アミン基を含むように選択される。
【0047】
特定の態様では、少なくとも1つの第2のエポキシ硬化剤は、1つ又は2つ以上の第1級アミン部分を有するポリエーテルアミンである。ポリエーテルアミンは、1個~12個、又は1個~6個のカテナリーエーテル(酸素)原子を有していてもよい。
【0048】
好ましい態様では、少なくとも1つの第2のエポキシ硬化剤が、ポリプロピレンオキシド又はポリエチレンオキシドから誘導される少なくとも1つのポリエーテルアミンを含む。本明細書で用いるのに適した例示的なポリエーテルアミンは、Huntsman Chemicalsから市販されている商標名(trade designation)JEFFAMINE、又は例えばBASF(Ludwigshafen Germany)から市販されているTTD(4,7,10-トリオキサトリデカン-1,13-ジアミン)である。更なる好ましい態様では、ポリプロピレンオキシド又はポリエチレンオキシドから誘導される少なくとも1つのポリエーテルアミンとエポキシ樹脂との付加物を、少なくとも1つの第2のエポキシ硬化剤として使用する。例えば、付加物がアミン当量1モル当たり少なくとも55グラムのアミン当量重量を有する限り、Epon 828などの市販のエポキシ樹脂とのTTD(過剰)の付加物を有利に使用することができる。TTDと該エポキシ樹脂との付加物は、当業者によく知られている手順によって、例えば、TTDとエポキシ樹脂を混合し、混合物を約100℃などの高温で約1時間保持することにより容易に調製することができる。
【0049】
更なる好ましい実施形態では、少なくとも1つの第2のエポキシ硬化剤はポリアミドアミンを含む。ポリアミドアミンは、分枝状若しくは非分枝状芳香族、又は分枝状若しくは非分枝状脂肪族であり得る。ポリアミドアミンは脂肪族ポリアミドアミンであることが好ましい。
【0050】
したがって、少なくとも1つの第2のエポキシ硬化剤は、式1による少なくとも1つの化合物、エポキシ樹脂とTTDとの少なくとも1つの付加物、及び/又は少なくとも1つのポリアミドアミン、並びにこれらの任意の組み合わせを含み得る。
【0051】
本明細書に記載の硬化性注型樹脂前駆体の部分(B)は、部分(B)の総重量に基づいて、0.5重量%~20重量%、好ましくは1重量%~15重量%、より好ましくは1.5重量%~10重量%の量で、少なくとも1つの第2のアミン系エポキシ硬化剤を含有するのが好ましい。
【0052】
少なくとも1つの第1のエポキシ硬化剤の、少なくとも1つの第2のエポキシ硬化剤に対する比率は、100:1~1:3の範囲、好ましくは50:1~1:2の範囲、より好ましくは25:1~1:0.8の範囲であることが更に好ましい。比率をこの範囲よりも高めると、反応時間は短くなるが、代償として発熱ピークが上昇し、第1及び第2の変色を伴う硬化のモニタリングができなくなる。同様に、比率を1:3より低くすると、本明細書に記載の硬化性注型樹脂の想定される用途にとっては、反応時間が長くなりすぎる。
【0053】
本明細書に記載の硬化性注型樹脂前駆体は、部分(A)及び/又は部分(B)中に少なくとも1つのトリフェニルメタン染料を含有する。トリフェニルメタン染料は、例えばアミン、特に第1級アミンとの接触時に、変色を呈するという効果を有する。本開示のコンテキストにおいて、これらの変色に対する能力は、部分(A)及び部分(B)の混合時に第1の変色が観測され、硬化性注型樹脂組成物の硬化後に第2の変色が観測され得るということに利用される。すなわち、本明細書に記載の硬化性注型樹脂前駆体を使用する作業者は、部分(A)及び部分(B)が正しく混合されたかどうかをモニタリング及び判定することがある。その後、作業者は、硬化をモニタリングし、硬化性注型樹脂の硬化が既に行われているかどうかを判定する状況にあることもある。ケーブル接合部及びスプライスの現場における絶縁に対する、本明細書に記載の硬化性注型樹脂及びその前駆体の適用に関しては、これらの注型樹脂及び前駆体を適用する作業者にとって特に有利である。
【0054】
この点において、本明細書で使用される「変色」という用語は、当技術分野で使用される、すなわち異なる色の形成、元の色の喪失、又は元の色の強化といった共通の意味を有する。更に、トリフェニルメタン染料を使用することは、このような染料により、アミン硬化剤によるエポキシ樹脂のその後の硬化が通常阻害されないという点で、有利である。いかなる種類の理論にも束縛されることを望むものではないが、染料及びアミン系エポキシ硬化剤により、染料自体とは異なる色の不安定な反応生成物を可逆的に形成できると考えられる。当業者が理解するように、本明細書に記載の用途に有用なあらゆる種類のトリフェニルメタン染料を使用することができる。本明細書に記載の指示薬として有用なトリフェニルメタン染料の例は、例えば、「Atlas of Certified Colours for Foods,Drugs and Cosmetics」,S.Zuckerman,Encyclopedia of Chemical Technology,Vol.4,pp.287-313,copyright 1949 by the Interscience Encyclopedia,Inc.に記載されている。カチオン性トリフェニルメタン染料が、本開示の意図に特に適していることが見出されたので、カチオン性トリフェニルメタン染料が好ましい。トリフェニルメタン染料の特に好ましい一例は、4-[[4-(ジエチル-アミノ)フェニル]-(4-ジエチルアザニウミリデンシクロヘキサ-2,5-ジエン-1-イリデン)メチル]-6-ヒドロキシベンゼン-1,3-ジスルホネート、又はそのカルシウム塩、カリウム塩若しくはナトリウム塩、好ましくはカルシウム塩若しくはナトリウム塩、又はブロモチモールブルー(4,4’-(1,1-ジオキシド-3H-2,1-ベンゾオキサチオール-3,3-ジイル)ビス(2-ブロモ-6-イソプロピル-3-メチルフェノール))である。4-[[4-(ジエチル-アミノ)フェニル]-(4-ジエチルアザニウミリデンシクロヘキサ-2,5-ジエン-1-イリデン)メチル]-6-ヒドロキシベンゼン-1,3-ジスルホネートのカルシウム塩は、BASFからの商標名Vibracolor Blue FBL 5で入手可能である。4-[4,4’,-ビス-ジエチルアミノ-α-ヒドロキシ-ベンズヒドリル]-6-ヒドロキシ-ベンゾール-1,3-ジスルホン酸のナトリウム塩は、Sigma Aldrichから商標名Patent Blue Vで入手可能である。
【0055】
少なくとも1つのトリフェニルメタン染料は、硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)及び/又は部分(B)中に、部分(B)の総重量に基づいて、0.01重量%~2重量%、好ましくは0.01重量%~1重量%、より好ましくは0.01重量%~0.2重量%の量で含まれるのが好ましい。本開示の好ましい実施形態では、少なくとも1つのトリフェニルメタン染料は部分(A)中に含まれる。部分(A)中に少なくとも1つのトリフェニルメタン染料を含有することにより、高温で長期間貯蔵した後でも、粘度、ポットライフ及び色強度が一定となるといった利点を有し得る。本開示の別の好ましい実施形態では、少なくとも1つのトリフェニルメタン染料は、部分(B)中に含まれる。
【0056】
本開示による硬化性注型樹脂前駆体の部分(B)は、少なくとも1つの無機充填剤を更に含む。これは、部分(B)及び/若しくは硬化性注型樹脂の粘度を調整し、硬化された樹脂の一定の機械的安定性及び強度をもたらし、並びに/又は樹脂の硬化中に生じる発熱を放散する効果を有する。少なくとも1つの無機充填剤は、無機酸化物、無機水酸化物、無機オキシ水酸化物、及び金属窒化物を含む充填剤材料の群からのものであるのが好ましい。好ましい実施形態は、水酸化アルミニウム、シリカ、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、及びグラスバブルズを含む。シリカは、非晶質シリカ又はヒュームドシリカ、及び更なる有機物質又は無機物質との混合物であり得る。グラスバブルズは、中空グラスバブルズであり得、組成物の密度及び/又は重量を更に減少させ得、様々な用途に有利であり得る。例示的な市販の充填剤としては、SHIELDEX AC5(W.R.Grace(Columbia,MD,USA)から入手可能な合成非晶質シリカ、水酸化カルシウム混合物);CAB-O-SIL TS 720(Cabot GmbH(Hanau,Germany)から入手可能なポリジメチルシロキサンポリマーで処理した疎水性ヒュームドシリカ);AEROSIL VP-R-2935(Degussa(Dusseldorf,Germany)から入手可能な疎水性ヒュームドシリカ);AEROSIL R-202(Evonik Industries(Germany)から入手可能な疎水性ヒュームドシリカ);ガラスビーズ クラスIV(250ミクロン~300ミクロン):Micro-billes de verre 180/300(CVP S.A(France)から入手可能);グラスバブルズK37:非晶質シリカ(3M Deutschland GmbH(Neuss,Germany)から入手可能);MINSIL SF 20(Minco Inc.(510 Midway、Tennessee,USA)から入手可能);非晶質、溶融シリカ;並びにNabaltec GmbH(Schwandorf,Germany)から入手可能なAPYRAL 24 ESF(エポキシシラン官能化(2重量%)アルミニウム三水和物)及びAPYRAL 22(アルミニウム三水和物)が挙げられる。溶融シリカは、例えば、Minco Inc.(Midway,USA)から商標名MINSILとして入手可能である。中空ガラス微小球は、3M Company(St.Paul,MN,USA)から商標名MICROBUBBLESとして入手できる。
【0057】
本明細書に記載の硬化性注型樹脂前駆体の部分(B)は、部分(B)の総重量に基づいて、40重量%~80重量%、好ましくは45重量%~75重量%、より好ましくは50重量%~70重量%の量で、少なくとも1つの無機充填剤を含むのが好ましい。
【0058】
部分(B)は、少なくとも1つのフェノール性脂質も含む。概して、用語「フェノール性脂質」は、長い脂肪族鎖及びフェノール環からなる種類の天然物に使用される。本明細書中で使用される場合、この用語は、長い脂肪族鎖及びフェノール環からなる天然由来又は好ましくは合成由来の化合物の特徴を示す。硬化性注型樹脂及びその前駆体中に少なくとも1つのフェノール性脂質が存在することにより、低温でも樹脂組成物の可撓性が向上し、それから得られる硬化された樹脂の疎水性も高まる効果を有し得る。少なくとも1つのフェノール性脂質は、アルキルカテコール、アルキルフェノール、アルキルレゾルシノール、及びアナカルド酸から選択されるのが好ましい。少なくとも1つのフェノール性脂質が、プロピルフェノール、ブチルフェノール、アミルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ドデシルフェノール及びカルダノール系化合物から選択されるアルキルフェノールであるのがより好ましい。カルダノール系化合物は、例えばCardolite Corporationから商標名NX-2026又はUltra Lite 2023で樹脂改質剤として市販されている。
【0059】
少なくとも1つのフェノール性脂質は、硬化性注型樹脂前駆体の部分(B)中に、部分(B)の総重量に基づいて、1重量%~30重量%、好ましくは2.5重量%~25重量%、より好ましくは3重量%~20重量%の量で含まれることが好ましい。
【0060】
硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)中に、少なくとも1つのフェノール性脂質を更に含めることも好ましい場合がある。この場合、少なくとも1つのフェノール性脂質は、部分(A)の総重量に基づいて、5重量%~30重量%、好ましくは7.5重量%~25重量%、より好ましくは10重量%~20重量%の量で、部分(A)中に含まれるのが好ましい。
【0061】
本開示による硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)が少なくとも1つの反応性希釈剤を含むことが更に好ましい。反応性希釈剤は、エポキシ含有分子である。本明細書で用いるエポキシ系反応性希釈剤は、特に限定されない。当技術分野において公知の任意のエポキシ系反応性希釈剤を、本開示のコンテキストで使用することができる。
【0062】
理論に束縛されることを望むものではないが、エポキシ系反応性希釈剤は、特に硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)及びそれから得られる硬化性注型樹脂のいずれか又は両方の粘度に有益な影響をもたらす。
【0063】
本開示の特定の態様では、本明細書で用いるエポキシ系反応性希釈剤は、飽和又は不飽和の環状骨格を有すると共に、好ましくは、反応性末端部分としてグリシジルエーテルを含む。
【0064】
好ましい態様によれば、本明細書で用いるエポキシ系反応性希釈剤は、レゾルシノールのジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールのジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールのジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、及びこれらの任意の混合物からなる群から選択される。
【0065】
本明細書で用いる市販の反応性希釈剤としては、例えば、「Reactive Diluent 107」(Hexionから入手可能)、及び「Epodil」シリーズ(Air Products and Chemical Inc(Allentown,PA,USA)から入手可能)が挙げられ、「Epodil」シリーズには、特にEPODIL 746、EPODIL 747、EPODIL 748、及びEPODIL 757が含まれる。
【0066】
使用される場合、反応性希釈剤は、硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)中に、部分(A)の総重量に基づいて、1重量%~20重量%、好ましくは3重量%~18重量%の量で含まれるのが好ましい。
【0067】
本明細書に記載の注型樹脂前駆体の部分(A)の部分(B)に対する比率は、好ましくは1:1~1:2、好ましくは1:1.1~1:1.6の範囲である。
【0068】
本開示の更なる対象物は、本明細書に記載の硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)及び部分(B)を組み合わせることから得られる、硬化性注型樹脂組成物である。既に記載したように、硬化性注型樹脂組成物により、良好なポットライフ、水の存在下でも周囲温度で硬化可能であること、許容可能な発熱状態での良好な硬化速度などの望ましい特性を付与することが可能となり、硬化された組成物の特性としては、良好な機械的特性、耐化学薬品性、及び良好な電気絶縁性を挙げることができる。
【0069】
硬化性注型樹脂組成物は、硬化後、DIN EN ISO 527-2に従って、10MPa~60MPaの範囲、好ましくは15MPa~55MPaの範囲、より好ましくは20MPa~50MPaの範囲の引張強度を提供し得る。更に、硬化性注型組成物は、硬化後、DIN EN ISO 527-2に従って、0.1%~20%の範囲、好ましくは0.5%~15%の範囲、より好ましくは1%~10%の範囲の破断点伸び率を提供し得る。硬化された注型樹脂組成物の電気特性に関して、硬化性注型樹脂組成物は、硬化後、室温でIEC 60250に従って、0.5~20の範囲、好ましくは1~15の範囲、より好ましくは2.5~10の範囲の誘電率を提供し得る。硬化性注型組成物は、硬化後、80℃でIEC 60250に従って、1~30の範囲、好ましくは2.5~25の範囲、より好ましくは5~20の範囲の誘電率を提供し得る。硬化性注型組成物は、硬化後、室温でIEC 60250に従って、0.001~0.1の範囲、好ましくは0.01~0.05の範囲の散逸率を提供し得る。更に、硬化性注型組成物は、硬化後、80℃でIEC 60250に従って、0.005~1の範囲、好ましくは0.01~0.75の範囲、より好ましくは0.1~0.5の範囲の散逸率を提供し得る。更に、硬化性注型組成物は、硬化後、室温でVDE 0303-30に従って、1×1013Ωcm~1×1016Ωcmの範囲、好ましくは1×1014Ωcm~9×1015Ωcmの範囲の体積固有抵抗率を提供し得る。硬化性注型組成物は、硬化後、80℃でVDE 0303-30に従って、1×109Ωcm~1×1013Ωcmの範囲、好ましくは5×109Ωcm~9×1012Ωcmの範囲の体積固有抵抗率を提供し得る。上記特性の少なくとも1つ、好ましくは組み合わせ、より好ましくは全てを有する本明細書に記載の硬化性組成物は、ケーブル接合部又はスプライスの現場での絶縁における用途によく適しており、訓練を受けていない作業者でも簡単に適用でき、湿気、物理的衝撃に対する絶縁を提供し、電気絶縁を更に提供する。更に、硬化性注型樹脂は、本明細書に記載の用途に適したポットライフを呈し得る。すなわち、硬化性注型樹脂は、室温でHD631.1,S.2,2007に従って、少なくとも5分、少なくとも10分、又は少なくとも15分のポットライフを呈し得る。硬化性注型樹脂は、80分未満、60分未満、又は40分未満のそれを更に呈し得る。更に、硬化性注型樹脂は、室温でHD631.1,S.2,2007に従って、180℃未満、好ましくは170℃未満、より好ましくは160℃未満の発熱ピークを呈し得る。これは、硬化性注型樹脂を適用する作業者にとって特に有利であり、ケーブル接合部及び注型樹脂を囲む構造物及び機器への損傷を更に回避し得る。
【0070】
本開示は、ケーブル接合部などの金属部分を封入する方法であって、
(a)本明細書に記載の硬化性注型樹脂前駆体を準備する工程と、
(b)硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)及び部分(B)を組み合わせて、硬化性注型樹脂組成物を形成する工程と、
(c)少なくとも1つの金属部分を準備する工程と、
(d)任意選択的に、ケーブル接合部などの少なくとも1つの金属部分の少なくとも一部の周りに注型を提供する工程と、
(e)硬化性注型樹脂組成物を、ケーブル接合部などの少なくとも1つの金属部分に適用する工程と、
(f)硬化性注型樹脂組成物を硬化させる工程と、を含む、方法を更に提供する。
【0071】
ここで、少なくとも1つの金属部分の特に好ましい例として、少なくとも2つの異なるケーブルの金属部分の接合部を含むケーブル接合部を使用する方法を説明する。部分(A)及び部分(B)の組み合わせは、(A)の一部分及び(B)の一部分を容器内に組み合わせ、好ましくは組み合わせた部分を混合することによって行うことができる。混合は、混合物を撹拌すること、例えば、電気スターラー、撹拌棒などで機械的に撹拌することによって達成することができる。混合は、部分(A)及び部分(B)をプラスチック製袋などの透明なプラスチック容器内に満たし、諸部分が完全に混合されるまで、容器、好ましくはプラスチック製袋を圧搾することによって諸部分を混合することで行われるのが好ましい。これは、本明細書に記載の混合物のそれぞれの変色によって観測することができる。したがって、本明細書に記載の硬化性注型樹脂組成物を得た後、ケーブル接合部に適用して硬化させることができる。硬化性注型樹脂組成物が移されるケーブル接合部の周りに成形型又は注型が提供されるのが好ましい。硬化性注型組成物の硬化は、概して、周囲条件、すなわちほとんどの場合、室温で行われる。硬化プロセスは、本明細書に記載のように変色を観察することによってモニタリングすることができることが有利である。すなわち、本明細書に記載の硬化性注型樹脂前駆体を使用する作業者は、硬化性注型樹脂が十分に硬化する時点を観測することができる。これは特に有利であり、そうすることで、作業者がケーブル接合部及び/又はそれに取り付けられたケーブルを更に動かし、任意選択的に注型を取り外し、新たに絶縁されたケーブル接合部を伴う他の又は追加の建設作業を続けることができるからである。金属部分の他の例としては、導電体及び電気機械が挙げられる。
【0072】
本開示による硬化性注型樹脂前駆体は、別々の容器に上記硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)及び部分(B)を含む適用キットを介してユーザーにより望みのとおり、容易に貯蔵、出荷及び適用できる。したがって、本開示は、ケーブル接合部を絶縁するためのキットであって、
(i)本明細書に記載の硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)を収容する第1の容器、及び本明細書に記載の硬化性注型樹脂前駆体の部分(B)を収容する第2の容器と、
(ii)ケーブル接合部が、硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)及び部分(B)を混合することから得られる硬化性注型樹脂組成物で覆われ得るように、ケーブル接合部のための空間部、及び硬化性注型樹脂前駆体の部分(A)及び部分(B)を混合するための空間部を提供するように寸法決定された注型チャンバ/成形型と、を含む、キットを更に提供する。
【0073】
この点に関して、第1の及び第2の容器並びに注型チャンバ/成形型は透明ポリマー材料でできていることが好ましい。当該技術分野において既知であり、当業者によって容易に選択される、本明細書で企図される用途に適した複数のポリマー材料が存在することが理解される。
【0074】
本開示は、金属部分を封入するための、本明細書に記載の硬化性注型樹脂前駆体又は硬化性注型樹脂組成物の使用を更に提供する。硬化性注型樹脂前駆体又は硬化性注型樹脂の本明細書に記載の使用は、ケーブル接合部又はスプライスを絶縁すること、を含むのが好ましい。本開示による前駆体及び注型樹脂の別の好ましい使用は、電気デバイスを封入すること、を含む。電気デバイスの封入は、概して、電気デバイスを電気絶縁することを含む。
【実施例】
【0075】
本開示を更に説明するが、本開示をこれらに限定することを望むものではない。以下の実施例は、特定の実施形態を説明するために提示するが、いかなる方法によっても限定されることを意図するものではない。その前に、材料及びこれらの特性を特徴付けるために用いられるいくつかの試験方法を説明する。全ての部分及びパーセントは、特に指示のない限り、重量に基づく。
【0076】
【0077】
試験方法
1.引張強度
DIN EN ISO 527-2:2012(プラスチック-引張特性の測定-第2部:型成形及び押出成形プラスチックの試験条件)に従って、試験片タイプ1B及び5mm/minの試験速度を用いて、「Zwick Roell 030」引張試験機で、引張強度を測定した。部分A及び部分Bからなる、混合及び脱気した樹脂配合物をそれぞれの試験片の成形型に充填し、室温で24時間、続いて80℃で24時間樹脂を硬化させることによって、試験片を得た。試験片を、試験前にDIN EN ISO 527-1:2012に従って調整した。
【0078】
2.破断点伸び率
DIN EN ISO 527-2:2012(プラスチック-引張特性の測定-第2部:型成形及び押出成形プラスチックの試験条件)に従って、試験片タイプ1B及び5mm/minの試験速度を用いて、「Zwick Roell 030」引張試験機で、破断点伸び率を測定した。部分A及び部分Bからなる、混合及び脱気した樹脂配合物をそれぞれの試験片の成形型に充填し、室温で24時間、続いて80℃で24時間樹脂を硬化させることによって、試験片を得た。試験片を、試験前にDIN EN ISO 527-1:2012に従って調整した。
【0079】
3.ポットライフ
23℃で200mLの試験容量を用いて、HD631.1 S2セクション7.2に記載された試験方法に基づいて、ポットライフを測定した。
【0080】
4.発熱ピーク
23℃で200mLの試験容量及び「Yokogama DC100」データコレクタを用いて、HD631.1 S2セクション7.3に記載された試験方法に基づいて、発熱ピークを測定した。
【0081】
5.誘電率及び散逸率
IEC 60250:1969に従って、50Hz及び500V/mmで、「Haefely Type 2914」試験セル及び「Megohmmeter LDIC M1500P」誘電試験ステーションを使用して、誘電率及び散逸率を測定した。部分A及び部分Bからなる、混合及び脱気した樹脂配合物をそれぞれの試験片の成形型に充填し、室温で24時間、続いて80℃で24時間樹脂を硬化させることによって、厚さ1mmの試験板を得た。試験前に導電性銀塗料を試験板に適用した。
【0082】
6.体積固有抵抗率
VDE 0303-30:1993に従って、50Hz及び500V/mmで、「Haefely Type 2914」試験セル及び「Megohmmeter LDIC M1500P」誘電試験ステーションを使用して、体積固有抵抗率を測定した。部分A及び部分Bからなる、混合及び脱気した樹脂配合物をそれぞれの試験片の成形型に充填し、室温で24時間、続いて80℃で24時間樹脂を硬化させることによって、厚さ1mmの試験板を得た。試験前に導電性銀塗料を試験板に適用した。
【0083】
部分A及び部分Bの調製
2000rpmで撹拌しながら、高速ミキサー(Hauschild EngineeringからのDAC 600.2 VAC-P Speedmixer)を使用して、表1に記載の成分を組み合わせることによって、硬化性接着剤前駆体組成物の部分Aを調製した。第1の工程において、部分Bの液体成分を1分間共に混合した。できあがった混合物を、高速ミキサー中で、2000rpmで少なくとも2分間更に撹拌して、全成分を完全に分散させた。
【表2】
【0084】
部分Aについて概説した同じ手順に従って硬化性接着剤前駆体組成物の部分Bを調製したが、表2に列挙した成分を使用した。各添加後に2000rpmで2分間混合しながら、固体部分を順に添加した。できあがった混合物を、高速ミキサー内で、2000rpmで少なくとも2分間更に撹拌して、全成分を完全に分散させた。
【0085】
上記の部分A及び部分Bを、高速ミキサーを用いて、50ミリバールの減圧下、800rpmで5分間混合した。部分A:部分Bの混合比は、実施例1については1:1.45、実施例2については1:1.16、実施例3については1:1.08、実施例4については1:1.13であった。
【表3】
【0086】
実施例5の部分(A)は、混合前は青色を呈していた。部分(A)及び部分(B)を60秒間均一に混合した後、得られた混合物は均一な緑色を呈した。硬化が進行すると、緑色は暗緑色に変わり、最後に、樹脂の固化後、再び青色となった。実施例5の粘度、ポットライフ、及び色強度は、最高65℃の温度で数週間にわたり貯蔵した後でさえも、一定の水準に維持された。
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】