(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】ワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置
(51)【国際特許分類】
E02B 7/20 20060101AFI20220523BHJP
E02B 7/36 20060101ALN20220523BHJP
【FI】
E02B7/20 109
E02B7/36
(21)【出願番号】P 2021065274
(22)【出願日】2021-04-07
(62)【分割の表示】P 2016252950の分割
【原出願日】2016-12-27
【審査請求日】2021-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】504024597
【氏名又は名称】独立行政法人水資源機構
(73)【特許権者】
【識別番号】500408854
【氏名又は名称】株式会社ユーテック
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】藤野 好文
(72)【発明者】
【氏名】原口 和巳
(72)【発明者】
【氏名】上▲西▼ 幸雄
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-050019(JP,A)
【文献】特開2016-108919(JP,A)
【文献】特開2014-047471(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0026660(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/20
E02B 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降動作により水門又は陸閘を開閉する扉体を動力で上昇させる一方、前記扉体を自重で降下させるワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置であって、
前記扉体を懸下するワイヤロープと、
前記ワイヤロープを巻回する回転可能なワイヤドラムと、
前記ワイヤドラムの回転シャフトと
歯車対を介して力学的に係合し
、又は前記回転シャフトに同軸状に連結されて該回転シャフトを回転駆動し又は該回転シャフトによって回転駆動される出力シャフトと、入力シャフトと、前記入力シャフトの回転を減速して前記出力シャフトに伝達し、又は前記出力シャフトの回転を増速して前記入力シャフトに伝達する歯車機構とを有する減速機と、
前記入力シャフトと
歯車対を介して力学的に係合し、
又は前記入力シャフトに同軸状に連結されて該入力シャフトを回転駆動し又は該入力シャフトによって回転駆動される油圧モータ回転軸を有する油圧モータと、
前記油圧モータに接続された作動油給排通路を介して、前記油圧モータに対して作動油を給排する作動油給排装置と、
前記作動油給排通路に任意に接続して前記油圧モータに対して作動油を給排することが可能な緊急油圧装置とを備え
、
前記入力シャフトと歯車対を介して力学的に係合し又は前記入力シャフトに同軸状に連結されて該入力シャフトを回転駆動する歯車機構以外の部材は、前記油圧モータ回転軸のみであることを特徴とするゲート開閉装置。
【請求項2】
前記作動油給排通路は、前記油圧モータの一方の作動油給排ポートに接続された第1作動油通路と、前記油圧モータの他方の作動油給排ポートに接続された第2作動油通路とを有し、
前記第1作動油通路に、該第1作動油通路を開閉する第1開閉弁と、前記第1開閉弁より油圧モータ側で該第1作動油通路と連通する第1外部接続ポートとが介設され、
前記第2作動油通路に、該第2作動油通路を開閉する第2開閉弁と、前記第2開閉弁より油圧モータ側で該第2作動油通路と連通する第2外部接続ポートとが介設され、
前記緊急油圧装置は、
一方の端部に前記第1外部接続ポートに接続することが可能なポート接続具が取り付けられ、他方の端部に作動油容器に導入することが可能な作動油給排口が設けられた第1油路と、
一方の端部に前記第2外部接続ポートに接続することが可能なポート接続具が取り付けられ、他方の端部に作動油容器に導入することが可能な作動油給排口が設けられた第2油路と、
前記第1油路又は前記第2油路に介設され、単独で動作する動力源によって駆動される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプよりポート接続具側で前記第1油路及び前記第2油路にわたって介設され、前記第1油路及び前記第2油路における作動油給排経路を切り換える油路切換装置とを有することを特徴とする、請求項
1に記載のゲート開閉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降動作により水門又は陸閘を開閉する扉体を動力で上昇させる一方、該扉体を自重で降下させるワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、河川等の水路には、適宜に水路を閉止して、水を貯留したり、水位を高めて分岐水路等に水を流したり、水路内の水の流量を調整したりするために、該水路を閉止又は開通させる水門(ウオーターゲート)が設けられる。また、防潮堤や河川の堤防などの途切れ部には、通常時には通行等のために開かれ、津波や増水の際には閉じられる陸閘(フラッドウオールゲート)が設けられる。そして、このような水門又は陸閘としては、扉体を動力で上昇させて水路又は途切れ部を開通させる一方、自重で降下させて水路又は途切れ部を閉止するようにした自重降下式のゲート開閉装置が広く用いられている。このような自重降下式のゲート開閉装置は、地震や台風などの災害時において動力源が機能を喪失したときでも扉体を自重で降下させて水門又は陸閘を閉じることができるので、洪水や津波による被害を防止又は軽減するのに有利である。
【0003】
そして、自重降下式のゲート開閉装置は、一般に、扉体を懸下するワイヤロープと、ワイヤロープを巻回する回転可能なワイヤドラムとを有し、電動機や減速機などを備えたドラム駆動機構によりワイヤドラムを回転させワイヤロープを巻回して扉体を吊り上げ、ゲートを開くようにしている(ワイヤロープウインチ式)。また、ゲートを閉じるときには、電動機とワイヤドラムとの力学的係合を解除し、扉体を自重で降下させ、ワイヤロープの巻回を解いてゲートを閉じるようにしている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-50019号公報
【文献】特開2014-47471号公報
【文献】特開2015-71922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば特許文献1~3に開示された従来のワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置においては、ドラム駆動機構が、電動機、複数のブレーキ装置、差動歯車機構、減速装置等を備えた非常に大掛かりなものであり、またその構造が複雑であるので、その建設費や運転費が高くなるといった問題がある。なお、後記のように、常用の電動機に加えて予備電動機ないしは予備エンジンを設置する場合は、その構造が一層複雑なものとなり、建設費や運転費が一層高くなる。
【0006】
また、従来のワイヤロープウインチ式のゲートでは、通常、電動機や制御盤などは商用電源から供給される電力で動作するので、地震や台風などの災害時において、商用電源が機能しないとき(電源喪失)、あるいは電動機や制御盤が破損又は破壊されたとき(以下、このような状況を「緊急時」という。)には、ゲートの開閉が困難であるといった問題がある。そこで、ワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置では、緊急時におけるゲートの開閉を可能にする設備を設けるのが望ましい。
【0007】
例えば、国土交通省に係る「ダム・堰施設技術基準(案)」や「ゲート用開閉装置(機械式)設計要領(案)」によれば、水門設備(ゲート)は、「開閉用予備動力設備」として、操作の安全性や確実性を考慮して予備電動機を設置するとともに、機側に専用の予備発電設備を設けるのが望ましい、との指針が示されている。さらに、フォールトトレラント、すなわち構成要素の一部が故障又は停止しても予備の系統に切り替えるなどして機能を保ち、正常に可動させ続けることを可能にする手段として、ゲート開閉装置には主動力のほかに設備の重要度に応じた適切な予備動力源を設け、故障時でも最低限の開閉機能を確保するといった動力源の二重化が推奨されている。
【0008】
なお、一般に、ワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置には手動ハンドルが付設されるが、緊急時に手動ハンドルでゲートを迅速に開閉することは極めて困難である。また、既設の電動機の予備動力源として、切替装置に「可搬式シャフト開閉機」を接続するといった対応も考えられるが、一般に用いられている可搬式シャフト開閉機では、ゲート開閉速度が約0.01m/minと非常に遅く、またフレキシブルシャフトの異常発熱によりその操作を適宜に停止・冷却させる必要があり、予備動力源としては実用性に欠けるといった問題がある。また、可搬式シャフト開閉機に代わる開閉機構を用いるとしても、切替装置の内部歯車は手動操作を前提として開発されたものであるので、内部歯車の強度の観点から、ゲート開閉速度の高速化は困難である。このため、より実用的な予備動力源が必要とされている。
【0009】
そこで、商用電源のバックアップとして、予備発電機を設けるといった対応も考えられる。しかしながら、このような対応は、設備費が非常に高くつき、また電動機や制御盤が破損し又は破壊されたときには用をなさないといった問題がある。
【0010】
また、ワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置の一般的な予備動力方式として、予備電動機を設置し、あるいは予備エンジンを設置するなどといった、予備動力源を常設する方法も考えられる。このような予備動力源の常設は、故障時の社会的影響度が非常に高い設備におけるバックアップとして、迅速性に優れたものであるものの、いずれも多額の設備投資と維持管理費用が必要であり、またかなり大きな設置スペースを必要とするといった問題がある。なお、予備電動機を設置する方法は、切替操作が不要で、操作方法が常用電動機と同様に容易であるといった利点があるものの、制御盤が破損し又は破壊されたときには用をなさないといった問題がある。また、予備エンジンを設置する方法は、電源喪失時や制御盤の故障時でも運転が可能であるといった利点があるものの、始動不良が生じやすいため定期的な試運転が必要であるといった問題がある。
【0011】
本発明は、前記従来の問題を解決するためになされたものであって、緊急時において迅速にゲートを開閉することを可能する、構造が簡素かつコンパクトであり、設置及び維持に要する費用が少ないワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するためになされた本発明の第1の態様に係るワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置は、昇降動作により水門又は陸閘を開閉する扉体を動力で上昇させる一方、該扉体を自重(重力)で降下させるように構成されている。そして、このゲート開閉装置は、ワイヤロープと、回転可能なワイヤドラムと、減速機と、電動機と、油圧モータと、油圧回路と、緊急油圧装置とを備えている。
【0013】
ここで、ワイヤロープは扉体を懸下する(吊り下げる)。ワイヤドラムはワイヤロープを巻回する(巻きつける)。減速機は、ワイヤドラムの回転シャフトと力学的に係合し(又は連結され)該回転シャフトを回転駆動し又は該回転シャフトによって回転駆動(逆回転駆動)される出力シャフトと、入力シャフトと、入力シャフトの回転を減速して出力シャフトに伝達し、又は出力シャフトの回転を増速して入力シャフトに伝達する歯車機構(噛合歯車機構)とを有する。電動機は、入力シャフトと力学的に係合し(又は連結され)、該入力シャフトを回転駆動し又は該入力シャフトによって回転駆動される電動機回転軸を有する。油圧モータは、入力シャフト、又は入力シャフト及び出力シャフト以外の歯車機構の歯車回転軸(中間シャフト)と力学的に係合し、入力シャフトもしくは歯車回転軸(中間シャフト)を回転駆動し、又は入力シャフトもしくは歯車回転軸(中間シャフト)によって回転駆動(逆回転駆動)される油圧モータ回転軸を有する。油圧回路は、油圧モータと作動油貯槽との間で作動油を循環させる。緊急油圧装置は、油圧回路に任意に(又は適宜に)接続して油圧モータに対して作動油を給排することが可能である。
【0014】
本発明の第2の態様に係るワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置は、ワイヤロープと、回転可能なワイヤドラムと、減速機と、電動機と、油圧モータと、油圧回路と、緊急油圧装置とを備えている。このゲート開閉装置において、油圧モータは、電動機回転軸と力学的に係合する(又は連結される)とともに、電動機回転軸を介して又は電動機回転軸を介することなく、入力シャフトを回転駆動し又は入力シャフトによって回転駆動(逆回転駆動)される油圧モータ回転軸を有する。このゲート開閉装置のその他の構成は、本発明の第1の態様に係るゲート開閉装置と同様である。
【0015】
本発明の第2の態様に係るワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置において、油圧モータ回転軸は、電動機回転軸が入力シャフトと力学的に係合する側と反対側で電動機回転軸と力学的に係合するものであってもよい。また、油圧モータ回転軸は、電動機回転軸が入力シャフトと力学的に係合する側で電動機回転軸と係合するものであってもよく、この場合は入力シャフトと電動機回転軸と油圧モータ回転軸との間に、電動機回転軸と油圧モータ回転軸とを差動させる動力切換装置を配設してもよい。
【0016】
本発明の第1~第2の態様に係るゲート開閉装置において、油圧回路は、油圧モータの一方の作動油給排ポートと作動油貯槽とを接続する第1作動油通路と、油圧モータの他方の作動油給排ポートと作動油貯槽とを接続する第2作動油通路とを有しているのが好ましい。この場合、第1作動油通路に、該第1作動油通路を開閉する第1開閉弁と、第1開閉弁より油圧モータ側で該第1作動油通路と連通する第1外部接続ポートとが介設される一方、第2作動油通路に、該第2作動油通路を開閉する第2開閉弁と、第2開閉弁より油圧モータ側で該第2作動油通路と連通する第2外部接続ポートとが介設されているのが好ましい。また、緊急油圧装置は、一方の端部に第1外部接続ポート(及び/又は第2外部接続ポート)に接続することが可能なポート接続具が取り付けられ、他方の端部に作動油容器(例えば、作動油貯槽)に導入することが可能な作動油給排口が設けられた第1油路と、一方の端部に第2外部接続ポート(及び/又は第1外部接続ポート)に接続することが可能なポート接続具が取り付けられ、他方の端部に作動油容器(例えば、作動油貯槽)に導入することが可能な作動油給排口が設けられた第2油路と、第1油路又は第2油路に介設され、単独で動作する動力源によって駆動される油圧ポンプと、油圧ポンプよりポート接続具側で第1油路及び第2油路にわたって(またがって)介設され、第1油路及び第2油路における作動油給排経路を切り換える油路切換装置(例えば、油路切換弁)とを備えているのが好ましい。
【0017】
本発明の第3の態様に係るワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置は、ワイヤロープと、ワイヤドラムと、減速機と、油圧モータと、作動油給排装置と、緊急油圧装置とを備えている。このゲート開閉装置において、油圧モータは、入力シャフトと歯車対を介して力学的に係合し、又は前記入力シャフトに同軸状に連結されて該入力シャフトを回転駆動し又は該入力シャフトによって回転駆動(逆回転駆動)される油圧モータ回転軸を有する。作動油給排装置は、油圧モータに接続された2つの作動油給排通路を介して、油圧モータに対して作動油を給排する。緊急油圧装置は、作動油給排通路に任意に(又は適宜に)接続して油圧モータに対して作動油を給排することが可能である。なお、このゲート開閉装置は、電動機を備えていない。このゲート開閉装置のその他の構成は、本発明の第1の態様に係るゲート開閉装置と同様である。
【0018】
本発明の第3の態様に係るゲート開閉装置において、作動油給排通路は、油圧モータの一方の作動油給排ポートに接続された第1作動油通路と、油圧モータの他方の作動油給排ポートに接続された第2作動油通路とを有しているのが好ましい。この場合、第1作動油通路に、該第1作動油通路を開閉する第1開閉弁と、第1開閉弁より油圧モータ側で該第1作動油通路と連通する第1外部接続ポートとが介設される一方、第2作動油通路に、該第2作動油通路を開閉する第2開閉弁と、第2開閉弁より油圧モータ側で該第2作動油通路と連通する第2外部接続ポートとが介設されているのが好ましい。また、緊急油圧装置は、一方の端部に第1外部接続ポート(及び/又は第2外部接続ポート)に接続することが可能なポート接続具が取り付けられ、他方の端部に作動油容器(例えば、作動油貯槽)に導入することが可能な作動油給排口が設けられた第1油路と、一方の端部に第2外部接続ポート(及び/又は第1外部接続ポート)に接続することが可能なポート接続具が取り付けられ、他方の端部に作動油容器(例えば、作動油貯槽)に導入することが可能な作動油給排口が設けられた第2油路と、第1油路又は第2油路に介設され、単独で動作する動力源(例えば、ディーゼルエンジン)によって駆動される油圧ポンプと、油圧ポンプよりポート接続具側で第1油路及び第2油路にわたって(またがって)介設され、第1油路及び第2油路における作動油給排経路を切り換える油路切換装置とを備えているのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1~第3の態様に係るゲート開閉装置は、複数のブレーキや差動歯車機構などといった大掛かりで複雑な動力伝達機構を必要とせず、また従来のような大掛かりな予備電動機ないしは予備エンジンを設置する必要がないので、該ゲート開閉装置ないしはこれを備えた自重降下式のゲートの構造をコンパクト化することができ、かつ簡素化することができる。また、地震や台風などの災害時において商用電源等の動力源が機能を喪失したときでも、緊急油圧装置により扉体を昇降させてゲート(水門又は陸閘)を開閉することができるので、洪水や津波による災害を防止又は軽減することができる。この場合、緊急油圧装置は、他の予備動力源に比べて、非常に簡素かつコンパクトであり、また低コストであるので、予備動力源として極めて有利なものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1(a)は本発明の実施形態1に係るワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置の模式的な一部断面側面図であり、
図1(b)は
図1(a)に示すゲート開閉装置を構成する減速機の拡大された一部断面側面図である。
【
図2】
図2は、
図1(a)に示すゲート開閉装置の作動油供給装置の構成を示す油圧回路図である。
【
図3】
図3は、
図1(a)に示すゲート開閉装置で用いられる緊急油圧装置の模式的な側面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態1の変形例に係るワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置の一部断面平面図である。
【
図5】
図5(a)は本発明の実施形態2に係るワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置の模式的な一部断面側面図であり、
図5(b)は
図5(a)に示すゲート開閉装置を構成する減速機の拡大された一部断面側面図である。
【
図6】
図6は、
図5(a)に示すゲート開閉装置の作動油供給装置の構成を示す油圧回路図である。
【
図7】
図7(a)は本発明の実施形態3に係るワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置の模式的な一部断面側面図であり、
図7(b)は
図7(a)に示すゲート開閉装置を構成する減速機の拡大された一部断面側面図である。
【
図8】
図8は、
図7(a)に示すゲート開閉装置の作動油供給装置の構成を示す油圧回路図である。
【
図9】
図9(a)~(d)は本発明の実施態様2に係るゲート開閉装置における電動機と油圧モータの係合形態のいくつかの具体例を示す模式図である。
【
図10】
図10(a)~(d)は、入力シャフトと電動機回転軸と油圧モータ回転軸との間に、電動機回転軸と油圧モータ回転軸とを差動させる動力切換装置を配設した本発明の実施態様2に係るゲート開閉装置の具体例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明のいくつかの実施形態を具体的に説明する。
(実施形態1)
以下、
図1~
図3を参照しつつ、本発明の実施形態1に係る、自重降下式の水門に用いられるワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置S1を説明する。なお、実施形態1に係るゲート開閉装置S1は、自重降下式の陸閘にも応用することができる。
図1(a)及び
図1(b)に示すように、河川や農業用水路などの水路(図示せず)に設置された水門1は、昇降動作により水門を開閉する扉体2を動力で上昇させる一方、該扉体2を自重で降下させるようになっている。すなわち、水門1は、扉体2の昇降動作によって開閉される。扉体2はワイヤロープ3によって懸下され、このワイヤロープ3はワイヤドラム4に巻回されている。ワイヤドラム4は、その中心部に位置する回転シャフト5に同軸状に取り付けられ、回転シャフト5と一体回転する。回転シャフト5は、回転シャフト支持部6によって回転可能に支持されている。
【0022】
回転シャフト5及びワイヤドラム4が、後で説明する電動機25又は油圧モータ29により回転駆動されて所定の回転方向(例えば、回転シャフト支持部側からみて時計回り方向)に回転すると、ワイヤロープ3がワイヤドラム4に巻き取られ、扉体2は上昇する。また、扉体2が自重(重力)で下降すると、ワイヤロープ3によってワイヤドラム4が前記所定の回転方向と反対方向に回転させられ、ワイヤロープ3の巻回が解かれる。回転シャフト5は、その中心軸の伸びる方向に関してワイヤドラム4と反対側で、連結具7(カップリング)によってヘリカル減速機8(以下「減速機8」という。)の出力シャフト9に同軸状に連結されている。ここで、回転シャフト5と出力シャフト9とを、連結具7で連結するのではなく、歯車対等を介して力学的に係合させ、動力を伝達させるようにしてもよい。なお、ゲート開閉装置S1にヘリカル減速機以外の減速機を用いることができるのはもちろんである。
【0023】
減速機8は、出力シャフト9に加えて、入力シャフト11と、入力シャフト11と出力シャフト9の間に配置された第1~第3中間シャフト12~14とを備えている。詳しくは図示していないが、出力シャフト9、入力シャフト11及び第1~第3中間シャフト12~14は、減速機8のハウジング10に固定された軸受によって回転可能に支持されている。そして、入力シャフト11には、第1歯車15が同軸状に取り付けられている。第1中間シャフト12には、第2歯車16と第3歯車17とが同軸状に取り付けられている。第2中間シャフト13には、第4歯車18と第5歯車19とが同軸状に取り付けられている。第3中間シャフト14には、第6歯車20と第7歯車21とが同軸状に取り付けられている。出力シャフト9には、第8歯車22が同軸状に取り付けられている。第1~第8歯車15~22には、ヘリカルギヤが用いられている。なお、ヘリカルギヤ以外の歯車を用いてもよいのはもちろんである。
【0024】
ここで、第1歯車15と第2歯車16は1より大きい所定の歯車比(例えば、5.1)で噛み合い、第3歯車17と第4歯車18は1より大きい所定の歯車比(例えば、3.6)で噛み合い、第5歯車19と第6歯車20は1より大きい所定の歯車比(例えば、4.0)で噛み合い、第7歯車21と第8歯車22は1より大きい所定の歯車比(例えば、4.3)で噛み合っている。つまり、減速機8は、入力シャフト11から出力シャフト9へ、約315の変速比でトルクを増大させ、第1中間シャフト12から出力シャフト9へは、約62の変速比でトルクを増大させる。なお、扉体2の自重による降下時において、出力シャフト9から入力シャフト11又は第1中間シャフト12にトルクが伝達される場合(逆駆動される場合)の変速比は、入力シャフト11又は第1中間シャフト12から出力シャフト9へトルクが伝達される場合の変速比の逆数となる(増速される)。
【0025】
ゲート開閉装置S1は、電源が正常に機能する通常時において扉体2を上昇させるときに、入力シャフト11を回転駆動する電動機25を備えている。電動機25の回転子に固定された電動機回転軸(図示せず)は連結具ないしはカップリング(図示せず)を介して入力シャフト11に同軸状に連結されている。電動機25へは、電源(図示せず)から、導線26及び制御盤27を介して商用電力が供給されるようになっている。なお、入力シャフト11と電動機回転軸とを、連結具ないしはカップリングで連結するのではなく、歯車対等を介して力学的に係合させ、動力を伝達させるようにしてもよい。
【0026】
さらに、ゲート開閉装置S1は油圧モータ29を備えている。油圧モータ29の出力軸である油圧モータ回転軸31は、カップリング32を介して第1中間シャフト12に同軸状に連結されている。なお、第1中間シャフト12と油圧モータ回転軸31とを、カップリング32で連結するのではなく、歯車対等を介して力学的に係合させ、動力を伝達させるようにしてもよい。そして、油圧モータ29と、作動油を貯留する作動油貯槽34との間に、第1作動油通路35及び第2作動油通路36を有し油圧モータ29に対して作動油を給排する油圧回路C1が設けられている。作動油貯槽34は、比較的小容量(例えば、0.2~0.5m3)のタンクであり、油圧モータ29より高い位置(例えば、1~10m、あるいは5~20m高い位置)に配置されている。
【0027】
ワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置S1では、緊急時にワイヤドラム4を回転させるための回転力が必要であるので、ワイヤドラム4を回転駆動するアクチュエータとして、開閉揚程、開閉速度、コスト、レイアウト性の観点から、一般にコンパクトかつ簡素な構造である油圧モータ29を用いている。油圧モータ29は、機械式のゲート開閉装置における電動機と減速機とを組み合わせた機能を有しており、一般産業用として十分な生産管理がなされ、品質及び信頼性が高く、使用実績も多い機械である。
【0028】
前記のとおり、ゲート開閉装置S1では、電動機25が入力シャフト11に連結される一方、油圧モータ29が第1中間シャフト12に連結され、電動機25と油圧モータ29との間には、とくには動力源の切替装置ないしは作動歯車機構は設けられていない。一般的には、この種のゲート開閉装置において2つの動力源を設ける場合、一方の動力源と他方の動力源の間に、切替装置や差動歯車機構が設置されるが、この場合はゲート開閉機構の部品点数が増え、構造が複雑化し、その設置に多額の費用を要することとなる(例えば、300~500万円)。そこで、本発明に係るゲート開閉装置S1では、緊急操作のための使用を主たる目的としていることから、切替装置や差動歯車機構は設けず、機器レイアウトのコンパクト化や、部品点数の削減による故障発生率の低減を図り、さらにコスト縮減を図り、水門を管理する多数の機関や施設への展開ないしは応用を促進するようにしている。
【0029】
なお、緊急油圧装置Rは、後で説明するように、可搬式として様々なゲート開閉装置に対応することができる。一方、油圧モータ29は可搬式とせず、減速機8に固定する常設式としている。これは、およそ次の理由による。すなわち、油圧モータ29の出力を既存のゲート開閉装置に入力するには、強力なトルクと一定の回転が必要であり、精密な据付管理(水平度、軸芯高さ)が必要とされる。したがって、油圧モータ29を可搬式とした場合、熟練した操作員による据付管理が必要となる。さらに、開閉トルクと回転数(必要油量)は各ゲート開閉装置に固有の設計条件となるため、種々のゲート開閉装置で共通に用いることが可能な油圧モータを作成するのは困難である。そこで、油圧モータ29は、総合的な見地から常設式としている。なお、油圧モータ29は非常に安価であるので、各ゲート開閉装置に油圧モータ29を常設しても、さほどコストはかからず、実質的には設置の支障とはならない。
【0030】
ゲート開閉装置S1では、油圧モータ回転軸31を、カップリング32を介して第1中間シャフト12に連結しているので、既存の減速機8を利用する場合は、該減速機8ないしは第1中間シャフト12を、油圧モータ回転軸31と連結することが可能なように改造又は作成する必要がある。この場合、減速機8全体を工場に持ち込むことなく、ハウジング10の上蓋を開き、第1中間シャフト12とこれに取り付けられた第2、第3歯車16、17を取り外して工場へ持ち込み、第2、第3歯車16、17は再利用し、第1中間シャフト12のみを新調又は加工すればよい。したがって、油圧モータ回転軸31を第1中間シャフト12に連結するこの方式は、納期及びコストの点から非常に有利である。
【0031】
ゲート開閉装置S1では、油圧モータ回転軸31を、カップリング32を介して第1中間シャフト12に連結しているが、油圧モータ回転軸31を入力シャフト中心軸が伸びる方向に関して電動機25と反対側の端部で、カップリングを介して入力シャフト11に同軸状に連結してもよい。また、油圧モータ回転軸31を、カップリングを介して第1中間シャフト12以外の中間シャフト(例えば、第3中間シャフト13)に同軸状に連結してもよい。このように、実施形態1に係るゲート開閉装置S1では、油圧モータ29から減速機8への回転力(トルク)の入力を、減速機8の構造(例えば、段数)に応じて自由に設定することができる。
【0032】
図2は、油圧モータ29に対して作動油を給排する油圧回路C1の油圧回路図である。なお、
図2は、便宜上、油圧回路C1に緊急油圧装置Rが接続された状態を示しているが、通常時には、油圧回路C1に緊急油圧装置Rは接続されない。
図2に示すように、油圧回路C1を構成する第1作動油通路35の一方の端部は油圧モータ29の第1作動油給排ポート40に接続され、他方の端部は作動油貯槽34に接続され、作動油貯槽34内に貯留された作動油に浸漬されている。また、第2作動油通路36の一方の端部は油圧モータ29の第2作動油給排ポート41に接続され、他方の端部は作動油貯槽34に接続され、作動油貯槽34内に貯留された作動油に浸漬されている。
【0033】
油圧回路C1には、第1作動油通路35と第2作動油通路36とを接続する第1バイパス通路42が設けられ、この第1バイパス通路42に第1作動油通路35内ないしは第2作動油通路36内の作動油の圧力を調整するリリーフ弁43が介設されている。さらに、第1バイパス通路42より油圧モータ側に、第1作動油通路35と第2作動油通路36とを接続する第2バイパス通路44が設けられ、この第2バイパス通路44に、第1作動油通路35内又は第2作動油通路36内の作動油の流量を調整する流量調整弁45が介設されている。
【0034】
第1バイパス通路42より作動油貯槽側において、第1作動油通路35には一連型の多目的ストップバルブである第1多機能弁46が設けられる一方、第2作動油通路36には一連型の多目的ストップバルブである第2多機能弁47が設けられている。ここで、第1、第2多機能弁46、47を、前記とは異なる位置、例えば油圧モータ29に近い位置で第1、第2作動油通路35、36に設けてもよい。なお、第1多機能弁46及び第2多機能弁47は、例えば災害時等において停電等により電動機25が機能しないときに、油圧回路C1に緊急油圧装置Rを接続するために用いられるが、その用途はこのような緊急油圧装置Rの接続に限られる訳ではなく、例えば油圧計の接続や作動油の漏れの点検などといった種々の操作に用いることができる。
【0035】
第1多機能弁46は、手動式の開閉弁46aと、第1外部接続ポート46bと、第2外部接続ポート46cとを備えている。開閉弁46aは、第1バイパス通路42より作動油貯槽側において第1作動油通路35に介設され、手動操作で第1作動油通路35を開閉することができる。また、第1外部接続ポート46bは、開閉弁46aより作動油貯槽側で第1作動油通路35と連通し、第2外部接続ポート46cは、開閉弁46aより油圧モータ側で第1作動油通路35と連通している。第2多機能弁47は、第1多機能弁46と同様の構造を有するものであり、開閉弁47aと第1外部接続ポート47bと第2外部接続ポート47cとを備えている。なお、第1、第2多機能弁46、47の各外部接続ポート46b、46c、47b、47cは同一構造である。
【0036】
緊急油圧装置Rは、第1油路50及び第2油路51と、外部から定常的にエネルギ(例えば、商用電力)を供給されることなく単独で動作する原動機52(例えば、ディーゼルエンジン)によって駆動される油圧ポンプ53と、第1油路50と第2油路51とにわたって(またがって)設けられた手動式の油路切換弁54とを備えている。そして、第1油路50の一方の端部には、第1多機能弁46の第2外部接続ポート46cの接続具に接続することができる、逆止弁を備えた接続具50aが取り付けられる一方、第2油路51の一方の端部には、第2多機能弁47の第2外部接続ポート47cの接続具に接続することができる、逆止弁を備えた接続具51aが取り付けられている。また、第1、第2油路50、51の他方の端部には、それぞれ作動油給排口50b、51b(開口部)が設けられている(
図3参照)。なお、第1、第2油路50、51の各接続具50a、51aは、第1、第2多機能弁46、47のいずれの外部接続ポート46b、46c、47b、47cにも接続することができるものである。
【0037】
油路切換弁54は、第1、第2油路50、51内の作動油の流れを順方向又は逆方向に切り換える。具体的には、油路切換弁54は手動操作され、油圧ポンプ53から吐出された高圧の作動油を第1油路50(油路切換弁54に対して油圧ポンプ53と反対側の部分)を介して外部に供給する第1の状態と、第2油路51(油路切換弁54に対して油圧ポンプ53と反対側の部分)を介して外部に供給する第2の状態と、作動油を外部には供給しない第3の状態のいずれかにセットすることができる。
【0038】
図3に示すように、緊急油圧装置Rは可搬式のものであり、移動用の車輪55が取り付けられたフレーム56内に配設された、軽量かつコンパクトな構造のものである。したがって、緊急油圧装置Rは、適当な場所に保管しておけば、地震等による災害時ないしは緊急時には、迅速かつ容易に移動させて油圧回路C1に接続し、扉体2で水門1を支障なく開閉することができる。この緊急油圧装置Rは、容易に移動させることができるので、複数のゲート開閉装置で共用することができる。
【0039】
なお、緊急油圧装置R(特許出願中:特願2013-092670)は、本願出願人(独立行政法人水資源機構及び株式会社ユーテック)が共同で開発したものであり、油圧シリンダ方式のゲート・バルブの予備動力として電源喪失時(商用電源喪失時、予備発電機故障時)、制御盤(機側操作盤)故障時あるいは油圧ユニット故障時のいずれの場合においても、現地に持ち込み、油圧ユニットの露出配管部にある多機能弁に接続するだけで、ゲート開閉装置を動作させることができるものである。
【0040】
前記のとおり、緊急油圧装置Rは複数のゲート開閉装置S1で共用することができるので、ゲート開閉装置S1毎に装備する必要はない。したがって、非常に経済的である。一般に、ゲート開閉装置の予備動力源は、ゲート開閉装置の故障によって生じる社会的影響度を考慮する必要がある。そこで、すべての設備に予備動力源を常設するのではなく、故障時の緊急操作に対し社会的影響度から、一定の許容度がある施設には複数の設備に共用が可能な可搬式の予備動力源を持ち込む方法を採用したほうが、設備費及び維持管理費の点で有利となる。
【0041】
一般に、ワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置に用いられている可搬式の予備動力源はシャフト開閉機が主流であるが、シャフト開閉機には前記のとおりの問題がある。これに対して、緊急油圧装置Rは実用的で安価な予備動力源である。一般に、施設管理者の立場からは、可搬式の予備動力を複数台保有することは、維持管理上、手間やコストの面から不利となる。しかしながら、緊急油圧装置Rを用いる場合は、例えば油圧シリンダ方式のゲート開閉装置ですでに保有している緊急油圧装置を利用して、ワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置S1を開閉することができる。
【0042】
以下、本発明の実施形態1に係るゲート開閉装置S1の操作手順の一例を説明する。
(1) 通常時に水門を開く場合
電源が正常に機能する通常時に水門1を開く場合は、制御盤27を操作して電動機25に電力を供給し、これを回転させる。このとき、電動機回転軸の回転は減速機8によって減速され、ワイヤドラム4に伝達される。その結果、ワイヤドラム4は所定の回転方向に回転し、ワイヤロープ3を巻き取って扉体2を上昇させる。これにより、水門1が開かれる。扉体2が所定の位置まで上昇したときに、電動機25への電力の供給を停止するとともにワイヤドラム4をロックする。これにより、扉体2はその位置に固定・保持される。
【0043】
このとき、油圧モータ回転軸31が第1中間シャフト12によって回転駆動される。その結果、油圧モータ29はポンプとして機能し、油圧モータ内の油室と作動油貯槽34との間で第1、第2作動油通路35、36を介して作動油が循環する。すなわち、作動油は空回り状態となり、これにより固着や油切れによる発錆等のトラブルが防止され、緊急操作時の信頼を向上させることができる。この場合、第1中間シャフト12及び油圧モータ回転軸31の回転速度は比較的小さいので、作動油の循環量は比較的少なく、作動油の流れはさほど第1中間シャフト12の回転抵抗とはならない。したがって、電動機25ないし減速機8は、油圧モータ29によってほとんど制動されることはない。
【0044】
(2) 通常時に水門を閉じる場合
通常時に水門1を閉じる場合は、電動機25への電力を停止した状態で、ワイヤドラム4のロックを解除する。これにより、扉体2は重力(自重)により、上昇時に比べて高速で下降し、これに伴ってワイヤロープ3のワイヤドラム4に巻回されていない部分が下方に移動する。その結果、ワイヤロープ3によってワイヤドラム4が、水門1を開く場合とは逆の方向に回転させられる。このワイヤドラム4ないしは回転シャフト5の回転は、減速機8の出力シャフト9に伝達され、減速機8の歯車機構により増速されて、第1中間シャフト12さらには入力シャフト11に伝達される。
【0045】
このとき、油圧モータ回転軸31が第1中間シャフト12によって回転駆動される。なお、電動機回転軸も回転駆動され空回りする。その結果、油圧モータ29はポンプとして機能し、油圧モータ29内の油室と作動油貯槽34との間で第1、第2作動油通路35、36を介して作動油が循環する。かくして、扉体2は適切な速度で下降し、水路の底に激突することなく水門1を閉じる。
【0046】
(3) 緊急時に水門を開く場合
地震、台風等の災害により電源、制御盤27あるいは電動機25が正常に機能しない緊急時に水門1を開く場合は、第1、第2多機能弁46、47の開閉弁46a、47aを手動操作で閉じた上で、第1油路50の接続具50aを第1多機能弁46の第2外部接続ポート46cに接続するとともに、第2油路51の接続具51aを第2多機能弁47の第2外部接続ポート47cに接続する。そして、第1、第2油路50、51の他方の端部の作動油給排口50b、51bを作動油貯槽34内の作動油中に導入(浸漬)する。なお、作動油給排口50b、51bを、作動油貯槽34以外の作動油容器に貯留された作動油に導入(浸漬)してもよい。
【0047】
次に、原動機52を始動し、原動機52の駆動力で油圧ポンプ53を作動させる。この後、油路切換弁54を、第1油路50を介して外部に作動油を供給する第1の状態にセットする。これにより、作動油貯槽34内の作動油は、油圧ポンプ53によって、第1油路50と、第1多機能弁46の第2外部接続ポート46cと、第1作動油通路35と、第1作動油給排ポート40とを経由して、油圧モータ29の油室に高圧状態で供給される。その結果、油圧モータ回転軸31が回転させられる。油圧モータ回転軸31を回転させて圧力が低下した作動油は、第2作動油給排ポート41と、第2作動油通路36と、第2多機能弁47の第2外部接続ポート47cと、第2油路51とを経由して、作動油貯槽34内に還流する。
【0048】
かくして、油圧モータ回転軸31の回転は減速機8によって減速され、ワイヤドラム4に伝達される。その結果、ワイヤドラム4は所定の回転方向に回転し、ワイヤロープ3を巻き取って扉体2を上昇させる。これにより、水門1が開かれる。扉体2が所定の位置まで上昇したときに、油路切換弁54を、作動油を外部には供給しない第3の状態にセットするとともに、ワイヤドラム4をロックする。これにより、扉体2はその位置に固定・保持される。
【0049】
(4) 緊急時に水門を閉じる場合
緊急時に水門1を閉じる場合の操作は、前記の通常時に水門1を閉じる場合の操作と実質的に同一であり、扉体2は適切な速度で下降し、水路の底に激突することなく水門1を閉じる。
【0050】
本発明の実施態様1に係るゲート開閉装置S1によれば、従来のこの種のゲート開閉装置のように複数のブレーキや差動歯車を設ける必要がないので、該ゲート開閉装置S1ないしはこれを備えた自重降下式の水門1の構造をコンパクト化することができ、かつ簡素化することができる。また、地震や台風などの災害時において電源等の動力源が機能を喪失したときでも、緊急油圧装置Rにより扉体2を昇降させて水門1を開閉することができるので、洪水や津波による災害を防止又は軽減することができる。
【0051】
(実施形態1の変形例)
以下、
図4を参照しつつ、本発明(実施態様1)を既設のワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置(例えば、福岡県女男石頭首工土砂吐ゲート)に応用した実施形態1の変形例に係るゲート開閉装置S1’を説明する。
図4に示すように、この変形例に係るゲート開閉装置S1’は、基本的には
図1に示すゲート開閉装置S1と同様のものであるが、以下の点で相違する。まず、電動機25(電動機回転軸)は、
図1に示すゲート開閉装置S1のように電動機回転軸が連結具を介して入力シャフト11に直接連結されるのではなく、複数の連結具からなる屈曲したリンク機構60と、油圧押上ブレーキ装置61(ミューリフタブレーキ)とを介して、減速機8の入力シャフト11に連結されている。また、減速機8の出力シャフト9は、減速歯車対62(例えば、歯車比5.5の歯車対)を介してワイヤドラム4の回転シャフトに連結されている。このような
図1に示すゲート開閉装置S1との相違は、ゲート開閉装置S1’が既設のワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置に本発明を応用したことにより生じたものである。
【0052】
さらに、
図4に示すゲート開閉装置S1’では、第1作動油通路35に、第1多機能弁ではなく2つの開閉弁とこれらの開閉弁間で該第1作動油通路35と連通する外部接続ポートとを有する第1外部接続機構63が設けられる一方、第2作動油通路36に、第2多機能弁ではなく2つの開閉弁とこれらの開閉弁間で該第2作動油通路36と連通する外部接続ポートとを有する第2外部接続機構64が設けられている。
図4に示す例では、緊急油圧装置Rは、既設の作動油タンク65内の作動油を用いることができる。なお、緊急油圧装置Rが作動油貯槽34内の作動油を用いてもよいのはもちろんである。
【0053】
このゲート開閉装置S1’において、緊急油圧装置Rの使用は、およそ次のような操作手順で行われる。
(1)ゲート開閉装置S1’の油圧モータ29の近傍に緊急油圧装置Rを搬入して配置する。
(2)第1、第2油路50、51の端部の作動油給排口50b、51bを、既設の作動油タンク65内又は作動油貯槽34内の作動油に導入(浸漬)する。
(3)第1、第2作動油通路35、36の作動油貯槽側の各開閉弁を閉じる一方、油圧モータ側の各開閉弁を開いた上で、第1油路50の接続具50aを第1外部接続機構63の外部接続ポートに接続し、第2油路51の接続具51aを第2外部接続機構64の外部接続ポートに接続する。
(4)電動機25のブレーキ及び油圧押上式ブレーキ装置61を手動で開放する。
(5)緊急油圧装置Rの原動機52を始動する(
図2、
図3参照)。
(6)緊急油圧装置Rの油路切換弁54のレバーを操作して、油圧ポンプ53から油圧モータ29に作動油を供給し、水門1を開閉する(
図2、
図3参照)。
【0054】
なお、既設のワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置に本発明の実施態様1を応用したこのゲート開閉装置S1’では、操作上、ワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置に特有の故障である「ワイヤロープ弛み」と「ワイヤロープ過負荷」とに注意する必要がある。ゲート開閉装置S1’の電源及び制御盤(機側操作盤)が正常に機能している場合、ワイヤロープ端末装置に内蔵された検出装置により警報が発報されるが、電源喪失時や制御盤の故障時にはこのような発報がないため、若干の操作員を必要とする。例えば、緊急油圧装置Rの操作に1名、ゲート開度の確認に1名、ワイヤロープ端末装置及び扉体・ワイヤロープの左右岸の確認に2名の合計4名の操作員を配置するのが好ましい。
【0055】
かくして、ゲート開閉装置S1’によれば、大規模災害時に想定される電源喪失時、あるいは予備発電機や制御盤(機側操作盤)や常用電動機などの機器の故障時に、確実に水門1を開閉することができ、水門1が本来の持つべき機能を維持することができる。このように、本発明の実施態様1は、既設のワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置にも容易に応用することができ、多数の機関や施設のワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置に導入されているゲート用のヘリカル減速機に、安価で構造が簡単なアクチュエータである油圧モータ29を設置することができるので、多数の施設への展開が可能である。
【0056】
(実施形態2)
以下、
図5~
図6を参照しつつ、本発明の実施形態2に係るワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置S2を説明する。しかしながら、実施形態2に係るゲート開閉装置S2の基本構成は、
図1~
図2に示す実施形態1に係るゲート開閉装置S1と共通であるので、説明の重複を避けるため、以下では主として
図1~
図2に示す実施形態1に係るゲート開閉装置S1との相違点を説明する。
図5~
図6に示すゲート開閉装置S2の構成要素において、
図1~
図2に示すゲート開閉装置S1の構成要素と共通するものについては、同一の参照番号を付している。なお、実施形態2に係るゲート開閉装置S2は、自重降下式の陸閘にも応用することができる。
【0057】
図5~
図6に示すように、実施形態2に係るゲート開閉装置S2では、油圧モータ29は、電動機25の後側、すなわち電動機回転軸70の中心軸が伸びる方向に関して減速機8と反対側(
図5(a)中の位置関係では右側)に配置され、油圧モータ回転軸31は第1中間シャフト12には連結されていない。油圧モータ回転軸31は、電動機回転軸70の中心軸が伸びる方向に関して入力シャフト11と反対側で、カップリング32を介して、電動機回転軸70に同軸に連結されている。したがって、電動機回転軸70と油圧モータ回転軸31は一体的に回転する。ゲート開閉装置S2のその他の構成は、
図1~
図2に示すゲート開閉装置S1と同様である。ゲート開閉装置S2の油圧回路C2は、実施形態1に係るゲート開閉装置S1の油圧回路C1実質的には同一である。なお、
図6は、油圧回路C2に緊急油圧装置Rが接続された状態を示しているが、通常時には、油圧回路C2に緊急油圧装置Rは接続されない。
【0058】
実施形態2に係るゲート開閉装置S2は、電動機25のみを特殊品にするだけでよい、といった利点があるが、一般に水門用の電動機は特殊品である場合が多く、このような特殊品のさらなる特殊品は、その製作に要する時間が多少長くなるとともに、多少コストが上昇する可能性がある。
【0059】
図5に示すゲート開閉装置S2では、電動機回転軸70と油圧モータ回転軸31は、カップリング32を介して同軸状に連結されている。しかしながら、電動機回転軸70と油圧モータ回転軸31の間の動力伝達機構はこのようなものに限られる訳ではなく、電動機回転軸70と油圧モータ回転軸31とを力学的に係合させて両者間で動力を伝達することができるものであれば、どのようなものでもよい。
【0060】
図9(a)~(d)に、電動機回転軸70と油圧モータ回転軸31とを力学的に係合させる動力伝達機構のいくつかの具体例を示す。
図9(a)に示す動力伝達機構は、
図5に示すゲート開閉装置S2の場合と同様のものであり、電動機回転軸70と油圧モータ回転軸31は、カップリング32を介して同軸状に連結されている。
図9(b)に示す動力伝達機構では、電動機回転軸70と油圧モータ回転軸31は互いに平行に配置され、スプロケット機構72(又は歯車機構)により互いに力学的に係合している。
図9(c)に示す動力伝達機構では、電動機25の電動機回転軸70は屈曲したリンク機構73を介して減速機8の入力シャフト11に連結される一方、電動機回転軸70と油圧モータ回転軸31は互いに平行に配置され、スプロケット機構74(又は歯車機構)により互いに力学的に係合している。なお、
図9(a)~(c)に示す動力伝達機構では、油圧モータ回転軸31は、電動機回転軸70が入力シャフト11と力学的に係合する側と反対側で電動機回転軸70と力学的に係合している。
【0061】
図9(d)に示す動力伝達機構では、電動機回転軸70と油圧モータ回転軸31は互いに平行に配置され、両者はそれぞれ歯車機構75により入力シャフト11と力学的に係合している。なお、
図9(d)に示す動力伝達機構では、油圧モータ回転軸31は、電動機回転軸70が入力シャフト11と力学的に係合する側で電動機回転軸70と係合している。
【0062】
電動機回転軸70が入力シャフト11と力学的に係合する側で、油圧モータ回転軸31が電動機回転軸70と力学的に係合する場合は、例えば
図10(a)~(d)に示すように、入力シャフト11と電動機回転軸70と油圧モータ回転軸31との間に、電動機回転軸70と油圧モータ回転軸31とを差動させる動力切換装置76a、76bを配設してもよい。
【0063】
図10(a)~(b)に示す動力伝達機構では、動力切換装置76aは、差動歯車機構77とスプロケット式動力伝達機構78と歯車式動力伝達機構79とを備えている。ここで、電動機25ないしは電動機回転軸70が固定又は係止されたときには、油圧モータ回転軸31と入力シャフト11との間で動力が伝達される。逆に、油圧モータ29ないしは油圧モータ回転軸31が固定又は係止されたときには、電動機回転軸70と入力シャフト11との間で動力が伝達される。
【0064】
また、
図10(c)~(d)に示す動力伝達機構では、動力切換装置76bは遊星歯車機構80を備えている。ここで、電動機25ないしは電動機回転軸70が固定又は係止されたときには、油圧モータ回転軸31と入力シャフト11との間で動力が伝達される。逆に、油圧モータ29ないしは油圧モータ回転軸31が固定又は係止されたときには、電動機回転軸70と入力シャフト11との間で動力が伝達される。なお、
図10(a)~(b)に示す動力切換装置76a、76bは単なる例示であり、これらとは構造が異なる他の動力切換装置を用いてもよいのはもちろんである。
【0065】
以下、
図5~
図6に示す実施形態2に係るゲート開閉装置S2の操作手順の一例を説明する。
(1) 通常時に水門を開く場合
通常時に水門1を開く場合は、基本的には実施形態1に係るゲート開閉装置S1の場合と同様の操作で、扉体2が上昇させられ、水門1が開かれる。ただし、油圧モータ回転軸31は電動機回転軸70によって回転駆動される。その結果、油圧モータ29はポンプとして機能し、油圧モータ29内の油室と作動油貯槽34との間で第1、第2作動油通路35、36を介して作動油が循環する。この場合、油圧モータ回転軸31の回転速度は比較的小さいので、作動油の流量は比較的少なく、作動油の流れはさほど入力シャフト11(電動機回転軸70)の回転抵抗とはならない。
【0066】
(2) 通常時に水門を閉じる場合
通常時に水門1を閉じる場合は、基本的には実施形態1に係るゲート開閉装置S1の場合と同様の操作で、扉体2が下降させられ、水門1が閉じられる。ただし、油圧モータ回転軸31は電動機回転軸70を介して回転駆動される。その結果、油圧モータ29はポンプとして機能し、油圧モータ内の油室と作動油貯槽34との間で第1、第2作動油通路35、36を介して作動油が循環する。かくして、扉体2は適切な速度で下降し、水路の底に激突することなく水門1を閉じる。
【0067】
(3) 緊急時に水門を開き又は閉じる場合
緊急時に水門1を開く場合は、基本的には実施形態1に係るゲート開閉装置S1の場合と同様の操作で、扉体2が上昇させられ、水門1が開かれる。また、緊急時に、水門1を閉じる場合の操作は、前記の通常時に水門1を閉じる場合の操作と同様であり、扉体2は適切な速度で下降し、水路の底に激突することなく水門1を閉じる。
【0068】
かくして、本発明の実施形態2に係るゲート開閉装置S2によれば、実施形態1に係るゲート開閉装置S1の場合と同様に、複数のブレーキや差動歯車機構を必要としないので、該ゲート開閉装置S2ないしはこれを備えた自重降下式の水門1の構造をコンパクト化することができ、かつ簡素化することができる。また、地震や台風などの災害時において電源等の動力源が機能を喪失したときでも、緊急油圧装置Rにより扉体2を昇降させて水門1を開閉することができるので、洪水や津波による災害を防止又は軽減することができる。
【0069】
(実施形態3)
以下、
図7~
図8を参照しつつ、本発明の実施形態3に係るワイヤロープウインチ式のゲート開閉装置S3を説明する。しかしながら、実施形態3に係るゲート開閉装置S3の基本構成は、
図1~
図2に示す実施形態1に係るゲート開閉装置S1と共通であるので、説明の重複を避けるため、以下では主として
図1~
図2に示す実施形態1に係るゲート開閉装置S1との相違点を説明する。
図7~
図8に示すゲート開閉装置S3の構成要素において、
図1~
図2に示すゲート開閉装置S1の構成要素と共通するものについては、同一の参照番号を付している。なお、実施形態3に係るゲート開閉装置S3は、自重降下式の陸閘にも応用することができる。
【0070】
図7に示すように、実施形態3に係るゲート開閉装置S3では、減速機8の入力シャフト11を駆動する電動機は設けられず、減速機8の入力シャフト11は、作動油供給装置C3によって作動油が給排される油圧モータ29によって回転駆動される。詳しくは図示していないが、油圧モータ回転軸31は、カップリング(図示せず)を介して入力シャフト11に同軸状に連結されている。なお、入力シャフト11と油圧モータ回転軸31の間の動力伝達機構はこのようなものに限られる訳ではなく、入力シャフト11と油圧モータ回転軸31とを力学的に係合させて両者間で動力を伝達することができるものであれば、どのようなものでもよい。
【0071】
ゲート開閉装置S3の作動油供給装置C3は、基本的には通常時に油圧モータ29を動作させるためのものであるので、実施形態1に係るゲート開閉装置S1の油圧回路C1とは構成がかなり異なる。しかし、緊急油圧装置Rは、実施形態1に係るゲート開閉装置S1の場合と同様である。以下、ゲート開閉装置S3の作動油供給装置C3の構成及び機能を具体的に説明する。
【0072】
図8に示すように、作動油供給装置C3には、それぞれ一方の端部が油圧モータ29の第1、第2作動油給排ポート40、41に接続された第1、第2作動油通路81、82と、第1、第2作動油通路81、82の他方の端部に接続された油路切換弁83と、それぞれ一方の端部が油路切換弁83に接続された第3、第4作動油通路84、85と、作動油を貯留する作動油タンク86と、モータ87によって駆動される油圧ポンプ88とが設けられている。なお、
図8は、作動油供給装置C3に緊急油圧装置Rが接続された状態を示しているが、通常時には、作動油供給装置C3に緊急油圧装置Rは接続されない。
【0073】
ここで、油圧ポンプ88は第3作動油通路84に介設され、作動油タンク86内の作動油を吸入した上で、加圧して吐出し、第3作動油通路84を介して油路切換弁83に供給する。また、油圧ポンプ88より油路切換弁側の第3作動油通路84と(油圧ポンプ88より下流側の部分)と第4作動油通路85とを接続するバイパス作動油通路89が設けられ、このバイパス作動油通路89に、第3作動油通路84内の油圧を調整するリリーフ弁90が介設されている。また、第1作動油通路81と第2作動油通路82の間には、リリーフ弁及び複数の逆止弁を備えた、第1作動油通路81内の油圧を調整する油圧調整装置91が設けられている。
【0074】
さらに、油圧モータ29の近傍において第1作動油通路81に手動式の第1、第2開閉弁92、93が介設され、第1開閉弁92と第2開閉弁93の間に、第1作動油通路81と連通する第1外部接続ポート94が設けられている。また、油圧モータ29の近傍において第2作動油通路82に手動式の第3、第4開閉弁95、96が介設され、第3開閉弁95と第4開閉弁96の間に、第2作動油通路82と連通する第2外部接続ポート97が設けられている。
【0075】
油路切換弁83は、油圧モータ29への作動油の給排経路を切り換える。詳しくは図示していないが、油路切換弁83は制御盤27(
図7参照)によって制御されるソレノイド弁であり、油圧ポンプ88から吐出された作動油を、第1作動油通路81を介して油圧モータ29の第1作動油給排ポート40に供給する第1の状態と、第2作動油通路82を介して油圧モータ29の第2作動油給排ポート41に供給する第2の状態と、油圧モータ29には作動油を供給しない第3の状態のいずれかにセットすることができる。
【0076】
かくして、油圧モータ29においては、第1作動油通路81を介して第1作動油給排ポート40に作動油が供給される一方、油室モータ内の作動油が第2作動油給排ポート41から第2作動油通路82を介して排出されたときには、油圧モータ回転軸31(
図7参照)は所定の方向(扉体2を上昇させる方向)に回転させられる。このとき、減速機8の入力シャフト11は、油圧モータ29によって回転駆動され、後で説明するように扉体2が上昇する。なお、第2作動油通路82を介して第2作動油給排ポート41に作動油が供給される一方、油室モータ内の作動油が第1作動油給排ポート40から第1作動油通路81を介して排出されたときには、油圧モータ回転軸(図示せず)は前記所定の方向とは逆方向に回転させられる。
【0077】
以下、本発明の実施形態3に係るゲート開閉装置S3の操作手順の一例を説明する。
(1) 通常時に水門を開く場合
作動油供給装置C3が正常に機能する通常時に水門1を開く場合は、制御盤27を操作してモータ87に電力を供給し、これを回転させて油圧ポンプ88を動作させる。そして、油路切換弁83を第1の状態にセットし、第1作動油通路81を介して油圧モータ29の第1作動油給排ポート40に作動油を供給する。これにより、油圧モータ回転軸(図示せず)が前記所定の方向に回転し、減速機8の入力シャフト11が扉体2を上昇させる方向に回転させられる。入力シャフト11の回転は減速機8によって減速され、ワイヤドラム4に伝達される。その結果、ワイヤドラム4は所定の回転方向に回転し、ワイヤロープ3を巻き取って扉体2を上昇させる。これにより、水門1が開かれる。扉体2が所定の位置まで上昇したときに、油圧モータ29を停止させるとともにワイヤドラム4をロックする。これにより、扉体2はその位置に固定・保持される。
【0078】
(2) 通常時に水門を閉じる場合
通常時に水門1を閉じる場合は、油路切換弁83を第3の状態にセットし、第1作動油通路81の油路切換弁側の端部と第2作動油通路82の油路切換弁側の端部とを、油路切換弁83を介して連通させる。この後、ワイヤドラム4のロックを解除する。これにより、扉体2は重力(自重)により比較的高速で下降し、これに伴ってワイヤロープ3のワイヤドラム4には巻回されていない部分が下方に移動する。その結果、ワイヤロープ3によってワイヤドラム4が、水門1を開く場合とは逆の方向に回転させられる。このワイヤドラム4ないしは回転シャフト5の回転は、減速機8の出力シャフト9に伝達され、減速機8の歯車機構により増速されて、入力シャフト11に伝達される。
【0079】
このとき、油圧モータ回転軸31(
図7参照)が入力シャフト11によって回転駆動される。その結果、油圧モータ29はポンプとして機能し、油圧モータ29内の油室と油路切換弁83との間で第1、第2作動油通路81、82を介して作動油が循環する。かくして、扉体2は適切な速度で下降し、水路の底に激突することなく水門1を閉じる。
【0080】
(3) 緊急時に水門を開く場合
地震、台風等の災害により作動油供給装置C3が正常に機能しない緊急時に水門1を開く場合は、第2、第4開閉弁93、96を手動操作で閉じ、第1、第3開閉弁92、95を開いたままにしておく。そして、第1油路50の接続具50aを第1外部接続ポート94に接続するとともに、第2油路51の接続具51aを第2外部接続ポート97に接続する。この後、第1、第2油路50、51の他方の端部の作動油給排口50b、51bを作動油タンク86内の作動油中に導入(浸漬)する。
【0081】
次に、原動機52を始動し、原動機52の駆動力で油圧ポンプ53を作動させる。この後、油路切換弁54を、第1油路50を介して外部に作動油を供給する第1の状態にセットする。これにより、作動油タンク86内の作動油は、油圧ポンプ53によって、第1油路50と、第1外部接続ポート94と、第1作動油通路81と、第1作動油給排ポート40とを経由して、油圧モータ29の油室に高圧状態で供給される。その結果、油圧モータ回転軸(図示せず)が回転させられる。油圧モータ回転軸(図示せず)を回転させて圧力が低下した作動油は、第2作動油給排ポート41と、第2作動油通路82と、第2外部接続ポート97と、第2油路51とを経由して、作動油タンク86内に還流する。
【0082】
かくして、油圧モータ回転軸31(
図7参照)の回転は減速機8によって減速され、ワイヤドラム4に伝達される。その結果、ワイヤドラム4は所定の回転方向に回転し、ワイヤロープ3を巻き取って扉体2を上昇させる。これにより、水門1が開かれる。扉体2が所定の位置まで上昇したときに、油路切換弁54を、作動油を外部には供給しない第3の状態にセットするとともに、ワイヤドラム4をロックする。これにより、扉体2はその位置に固定・保持される。
【0083】
(4) 緊急時に水門を閉じる場合
緊急時に水門1を閉じる場合の動作は、前記の通常時に水門1を閉じる場合の操作と同様であり、扉体2は適切な速度で下降し、水路の底に激突することなく水門1を閉じる。
【0084】
本発明の実施形態3に係るゲート開閉装置S3によれば、従来のこの種のゲート開閉装置のように複数のブレーキや差動歯車を必要としないので、該ゲート開閉装置S3ないしはこれを備えた自重降下式の水門1の構造をコンパクト化することができ、かつ簡素化することができる。また、地震や台風などの災害時において電源等の動力源が機能を喪失したときでも、緊急油圧装置Rにより扉体2を昇降させて水門1を開閉することができるので、洪水や津波による災害を防止又は軽減することができる。
【符号の説明】
【0085】
S1~S3 ゲート開閉装置、S1’ ゲート開閉装置、C1~C3 油圧回路、R 緊急油圧装置、1 水門、2 扉体、3 ワイヤロープ、4 ワイヤドラム、5 回転シャフト、6 ドラム支持部、7 連結具、8 減速機、9 出力シャフト、10 ハウジング、11 入力シャフト、12 第1中間シャフト、13 第2中間シャフト、14 第3中間シャフト、15 第1歯車、16 第2歯車、17 第3歯車、18 第4歯車、19 第5歯車、20 第6歯車、21 第7歯車、22 第8歯車、25 電動機、26 導線、27 制御盤、29 油圧モータ、31 油圧モータ回転軸、32 カップリング、34 作動油貯槽、35 第1作動油通路、36 第2作動油通路、40 第1作動油給排ポート、41 第2作動油給排ポート、42 第1バイパス通路、43 リリーフ弁、44 第2バイパス通路、45 流量調整弁、46 第1多機能弁、47 第2多機能弁、50 第1油路、51 第2油路、52 原動機、53 油圧ポンプ、54 作動油切換弁、55 車輪、56 フレーム、60 リンク機構、61 油圧押上ブレーキ装置、62 減速歯車対、63 第1外部接続機構、64 第2外部接続機構、65 作動油タンク、70 電動機回転軸、72 スプロケット機構、73 リンク機構、74 スプロケット機構、75 歯車機構、76a 動力切換装置、76b 動力切換装置、77 差動歯車機構、78 スプロケット式動力伝達機構、79 歯車式動力伝達機構、80 遊星歯車機構、81 第1作動油通路、82 第2作動油通路、83 油路切換弁、84 第3作動油通路、85 第4作動油通路、86 作動油タンク、87 モータ、88 油圧ポンプ、89 バイパス作動油通路、91 油圧調整装置、92 第1開閉弁、93 第2開閉弁、94 第1外部接続ポート、95 第3開閉弁、96 第4開閉弁、97 第2外部接続ポート。