(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】無人航空機
(51)【国際特許分類】
B64C 39/02 20060101AFI20220523BHJP
【FI】
B64C39/02
(21)【出願番号】P 2022507890
(86)(22)【出願日】2021-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2021029899
【審査請求日】2022-02-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年3月3日 デモンストレーションによる公開 〔刊行物等〕 令和3年3月23日 デモンストレーションによる公開 〔刊行物等〕 令和3年5月16日 説明による公開 〔刊行物等〕 令和3年5月18日 説明による公開 〔刊行物等〕 令和3年5月31日 「https://us06web.zoom.us/j/87260271860」における公開 〔刊行物等〕 令和3年6月1日 「https://www.youtube.com/watch?v=ldU58stz7LE」における公開 〔刊行物等〕 令和3年6月2日 「https://ssl4.eir-parts.net/doc/2325/tdnet/1983205/00.pdf」における公開 〔刊行物等〕 令和3年6月2日 「https://www.acsl.co.jp/news-release/press-release/1871/」における公開 〔刊行物等〕 令和3年7月14日 展示会における公開 〔刊行物等〕 令和3年7月15日 刊行物における公開 〔刊行物等〕 令和3年7月20日 講演会における公開 〔刊行物等〕 令和3年8月12日 「https://ssl4.eir-parts.net/doc/6232/tdnet/2015133/00.pdf」における公開 〔刊行物等〕 令和3年8月12日 「https://ssl4.eir-parts.net/doc/6232/tdnet/2015129/00.pdf」における公開
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515100042
【氏名又は名称】株式会社ACSL
(73)【特許権者】
【識別番号】501054551
【氏名又は名称】株式会社NJS
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100196221
【氏名又は名称】上潟口 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】久我 創紀
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】竹内 パトリック 権
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-164166(JP,A)
【文献】特開2018-165131(JP,A)
【文献】特開2018-30430(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0286128(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 39/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から受信する操作信号に基づいて飛行する無人航空機であって、
機体であって、該機体の周囲の対象物に関する情報を取得する情報取得装置と、空気を下方に吹き出して揚力を発生させる回転翼と、前記回転翼の周囲に配置され該回転翼を保護する保護部材と、を有し、幅方向における該機体の寸法が前後方向における該機体の寸法よりも小さい、前記機体を備え、
前記回転翼の回転軸は、鉛直方向から所定角度だけ傾斜し、これにより前記回転翼が前方への推力を発生させるように配置され、
前記機体の下端縁は、前記前後方向において前記機体の中央に位置する中央下端縁と、該中央下端縁よりも前記機体の前方に位置する前方下端縁と、を有し、
前記保護部材の下端縁が、前記前方下端縁を有し、
前記前方下端縁は、前記中央下端縁よりも上方に位置し、
前記前後方向において、前記前方下端縁の後端は、前記回転翼の後端よりも後方に位置している、無人航空機。
【請求項2】
前記前方下端縁は、前記中央下端縁側から前方且つ上方に直線的に延びるように形成されている、請求項1に記載の無人航空機。
【請求項3】
前記保護部材は、前記回転翼の前記幅方向における側方を開放する開口が形成されている、請求項1又は2に記載の無人航空機。
【請求項4】
前記回転翼は、前記前後方向において、前記前方下端縁と対応する位置に配置されている、請求項3に記載の無人航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部から受信する操作信号に基づいて飛行する無人航空機に関する。
【背景技術】
【0002】
下水管内を調査する方法として、調査員が下水管内を移動しながら目視する方法や、カメラを搭載した車両を下水管内で走行させながら撮影を行う方法が知られている。このような調査方法は、下水管内で発生する有毒ガスにより調査員に危険が及んだり、下水管内の水位が上昇して車両の制御が困難になったりするおそれがある。
【0003】
そこで、特許文献1では、無人航空機を用いる調査方法が提案されている。この無人航空機の機体は、下水管が延びる方向に沿って容易に移動できるように、その幅方向における寸法が前後方向における寸法よりも小さくなるように構成され、複数の回転翼が設けられている。回転翼は、下方及び後方に空気を吹き出すことにより、揚力及び推力を発生させる。調査員がこのような無人航空機を遠隔操作して下水管内を撮影することにより、調査員の安全を確保しつつ、下水管内の水位の影響を軽減しながら調査を行うことが可能になる。
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の無人航空機は、主に揚力を発生させる回転翼と、主に前方への推力を発生させる回転翼とを別個に備えており、大型化し易い。このため、この無人航空機は、内径が小さい下水管内での飛行が困難になるおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明者らは、揚力と推力とを同時に発生させる回転翼の採用を検討した。具体的には、本発明者らは、回転翼の回転軸が鉛直方向から所定角度だけ傾斜し、回転翼が空気を下方且つ後方に吹き出す構成を検討した。この構成によれば、特許文献1記載の無人航空機のように別個の回転翼を備えることなく揚力と推力とを得られるため、構成のコンパクト化を図ることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、下方且つ後方に空気を吹き出す回転翼を採用した場合、無人航空機が離陸する際に気流が不安定となり、機体が不意に大きく前傾することがある。このため、機体の前方の下端が下水管の底面と干渉し、無人航空機が安定的に離陸できなくなるという課題が生じた。
【0008】
尚、本明細書で「離陸」とは、所定の面(例えば、下水管の底面など)において静止している無人航空機が浮上することを称する。また、「前傾」とは、無人航空機の姿勢が、水平面上で静止している場合の無人航空機の姿勢よりも、前方に傾斜することを称する。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、安定的に離陸することが可能な無人航空機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するために、本発明は、外部から受信する操作信号に基づいて飛行する無人航空機であって、機体であって、機体の周囲の対象物に関する情報を取得する情報取得装置と、空気を下方に吹き出して揚力を発生させる回転翼と、回転翼の周囲に配置され回転翼を保護する保護部材と、を有し、幅方向における機体の寸法が前後方向における機体の寸法よりも小さい、機体を備え、回転翼の回転軸は、鉛直方向から所定角度だけ傾斜し、これにより回転翼が前方への推力を発生させるように配置され、機体の下端縁は、前後方向において機体の中央に位置する中央下端縁と、中央下端縁よりも機体の前方に位置する前方下端縁と、を有し、保護部材の下端縁が、前方下端縁を有し、前方下端縁は、中央下端縁よりも上方に位置し、前後方向において、前方下端縁の後端は、回転翼の後端よりも後方に位置している。
【0011】
上記無人航空機において、前方下端縁は、中央下端縁側から前方且つ上方に直線的に延びるように形成されていてもよい。
【0012】
上記無人航空機において、保護部材は、回転翼の幅方向における側方を開放する開口が形成されてもよい。
【0013】
上記無人航空機において、回転翼は、前後方向において、前方下端縁と対応する位置に配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安定的に離陸することが可能な無人航空機を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る無人航空機を示す斜視図である。
【
図7】離陸する際の
図1の無人航空機を示す説明図である。
【
図8】離陸する際の
図1の無人航空機を示す説明図である。
【
図9】離陸する際の
図1の無人航空機を示す説明図である。
【
図10】離陸する際の
図1の無人航空機を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<無人航空機の構成>
図1~
図6を参照しながら、実施形態に係る無人航空機1(以下「航空機1」という。)の構成について説明する。本明細書では、互いに直交する幅方向と前後方向が水平方向と一致するように配置された航空機1において、航空機1の前方を向いた場合の左方を「左」と称し、航空機1の前方を向いた場合の右方を「右」と称する。つまり、左右方向は、航空機1の幅方向と一致する。また、鉛直方向上方を「上」と称し、鉛直方向下方を「下」と称する。
【0017】
図1は、航空機1を上方から示す斜視図であり、
図2は、航空機1を下方から示す斜視図である。
図3は、航空機1を左方から示す側面図である。
図4は、航空機1を示す正面図であり、
図5は、航空機1を示す平面図である。
図6は、後述する本体2と保護部材8とを互いに分離して上方から示す斜視図である。
【0018】
航空機1は、不図示の下水管内に関する情報を取得するために用いられる。下水管が延びる方向に沿って容易に移動できるように、航空機1の機体11は縦長形状を有している。具体的には、
図2に示す機体11の下端縁11aの幅方向における寸法Wは、下端縁11aの前後方向における寸法Lよりも小さい。下端縁11aは、後述する中央下端縁91a、前方下端縁85f、及び後方下端縁85rを有している。
【0019】
機体11は、本体2と、保護部材8と、を有している。
図6に示すように、本体2は、ケーシング3と、モータ41~44と、回転翼51~54と、を有している。さらに、
図3に示すように、本体2は、情報取得装置6を有している。
【0020】
図6に示すように、ケーシング3は、ケーシング本体31と、蓋部材32と、を有している。ケーシング本体31及び蓋部材32は、軽量且つ高剛性の材料(例えば、炭素繊維強化プラスチック)により形成されている。ケーシング本体31の内部には、不図示の収容空間が形成されている。当該収容空間は上部に開口を有している。ケーシング本体31の外側面には、アーム33~36が設けられている。詳細には、ケーシング本体31の前面からアーム33,34が前方に延出し、ケーシング本体31の後面からアーム35,36が後方に延出している。アーム33,34は、左右方向において互いに離間し、互いに略平行に延びている。また、アーム35,36も、左右方向において互いに離間し、互いに略平行に延びている。
【0021】
ケーシング本体31の収容空間には、蓄電池、制御装置、無線通信装置等の電装部品が収容されている。蓋部材32は、収容空間の開口を閉止し、ケーシング本体31の周縁との間に水密を形成することにより、収容空間への水の侵入を防止する。
【0022】
モータ41~44は、電力の供給を受けて出力軸を回転させるアクチュエータである。モータ41~44は、その出力軸が下方に向くように、アーム33~36の下面に取り付けられている。アーム33~36内には不図示の信号線が挿通しており、モータ41~44は、この信号線により、ケーシング本体31の収容空間に収容されている制御装置と電気的に接続されている。
【0023】
回転翼51~54は、
図2に示す回転軸51a~54aの周囲に複数のブレードを有し、モータ41~44の出力軸にそれぞれ固定されている。
図3に示すように、回転軸51a~54aは、鉛直方向に延びる直線Nから後方に角度θ1だけ傾斜するように配置されている。角度θ1は、約10°である。また、
図4に示すように、回転軸51a~54aは、直線Nから機体11の外方に角度θ2だけ傾斜するように配置されている。
【0024】
情報取得装置6は、機体11の周囲の対象物に関する情報を取得するために設けられている。
図3に示すように、情報取得装置6は、前方カメラ61と、後方カメラ63と、中央カメラ65と、を有している。前方カメラ61と後方カメラ63は、それぞれ、ケーシング本体31の蓋部材32の前端と後端とに設けられている。また、中央カメラ65は、前方カメラ61と後方カメラ63との間の位置で、蓋部材32に対して固定されている。前方カメラ61、後方カメラ63及び中央カメラ65は、ケーシング本体31の収容空間に収容されている制御装置と電気的に接続されている。中央カメラ65として、例えば赤外線カメラを用いてもよい。または、中央カメラ65に代えて、例えばLiDARなどの計測装置を用いてもよい。
【0025】
保護部材8は、比重が水よりも小さく、衝撃吸収性能が高い材料(例えば、発泡ポリプロピレン)により形成されている。保護部材8は、前後方向及び幅方向おいて略対称となるように形成されている。
図6に示すように、保護部材8は、中央に本体配置部81を有し、さらに、本体配置部81から前方に離間した位置に前部カバー82を有し、本体配置部81から後方に離間した位置に後部カバー83を有している。
【0026】
図2に示すように、本体配置部81の底面81aには、複数のクッション91が固定されている。クッション91は、保護部材8を形成している材料よりも硬質のゴム材料により、前後方向に沿って直線的に延びる棒形状に形成されている。
図3に示すように、この底面81aに固定されたクッション91の下端縁が、機体11の中央に位置する中央下端縁91aに相当する。また、前部カバー82及び後部カバー83の外側面には、照明92,93が固定されている。照明92,93は、テープ形状のLEDである。さらに、後部カバー83には、不図示のワイヤ(例えば、ピアノ線)が接続されるワイヤ接続部89が設けられている。
【0027】
図6に示すように、本体配置部81と、前部カバー82及び後部カバー83とは、上部バー84及び下部バー85により連結されている。上部バー84と下部バー85とは、互いに鉛直方向に離間している。これにより、上部バー84と下部バー85との間(つまり、保護部材8の側面)には、開口881~884が形成されている。上述した前方下端縁85f及び後方下端縁85rは、下部バー85の下端縁に相当する。
【0028】
図3に示すように、前方下端縁85fは、中央下端縁91a側から前方且つ上方に直線的に延びるように形成されている。また、後方下端縁85rは、中央下端縁91a側から後方且つ上方に直線的に延びるように形成されている。詳細には、前方下端縁85f及び後方下端縁85rは、中央下端縁91aに対して角度θ3だけ上方に傾斜し、中央下端縁91aよりも上方に位置する。角度θ3は、約8°である。前方下端縁85f及び後方下端縁85rは、その全体が中央下端縁91aよりも上方に位置している必要はなく、例えば、前方下端縁85fの後端85fa及び後方下端縁85rの前端85raが、中央下端縁91aと等しい高さに位置していてもよい。
【0029】
前方下端縁85fは、機体11の下端縁11a全体において十分大きい範囲を占めるように形成されている。具体的には、前後方向において、前方下端縁85fの後端85faは、回転翼51,52の後端51b,52bよりも後方に位置している。換言すると、前方下端縁85fの後端85faは、回転翼51,52の後端51b,52bよりも寸法Lfaだけ後方に離間している。また、前後方向における前方下端縁85fの寸法Lfは、L/4よりも大きい。上述したように、Lは、前後方向における航空機1の機体11の下端縁11a全体の寸法である。回転翼51,52の後端は回転翼51,52の回転に伴って変化するが、ここでの「後端51b,52b」とは、最も後方に位置するときの回転翼51,52の後端を称する。
【0030】
また、前後方向において、後方下端縁85rの前端85raは、回転翼53,54の前端53b,54bよりも前方に位置している。換言すると、後方下端縁85rの前端85raは、回転翼53,54の前端53b,54bよりも寸法Lrbだけ前方に離間している。回転翼53,54の前端は回転翼53,54の回転に伴って変化するが、ここでの「前端53b,54b」とは、最も前方に位置するときの回転翼53,54の前端を称する。
【0031】
図6に示すように、保護部材8の本体配置部81の上端には複数の固定穴8aが形成されており、この固定穴8aには不図示の締結具が配置される。保護部材8は、この締結具により、本体2に着脱自在に取り付けられる。保護部材8が本体2に取り付けられると、本体2は本体配置部81に配置され、
図1及び
図2に示すように、本体2の底面及び左右側面が本体配置部81により覆われる。また、回転翼51~54の周囲に保護部材8が配置される。
【0032】
また、本体配置部81、前部カバー82、後部カバー83、上部バー84、及び下部バー85により囲まれる空間は、保護部材8が本体2に取り付けられると、
図1に示すように、前方空間80fと後方空間80rとに分割される。前方空間80fは、上部開口86f及び下部開口87fを有し、後方空間80rは、上部開口86r及び下部開口87rを有している。回転翼51,52は、前方空間80fに配置され、回転翼53,54は、後方空間80rに配置される。開口881は、前方空間80fの右方に位置し、開口882は、前方空間80fの左方に位置する。また、開口883は、後方空間80rの右方に位置し、開口884は、後方空間80rの左方に位置する。
【0033】
さらに、保護部材8が本体2に取り付けられると、
図3に示すように、側面視で、回転翼52,54が、それぞれ開口882,884と重合する位置に配置される。換言すると、開口882,884が、それぞれ回転翼52,54の左方を開放するように配置される。図示しないが、同様に、回転翼51,53も、側面視で、それぞれ開口881,883と重合する位置に配置され、その右方が開口882,884により開放される。
【0034】
さらに、回転翼52,54は、前後方向において前方下端縁85fと対応する位置に配置される。換言すると、
図3に示すように、回転翼52,54は、前方下端縁85fの寸法Lfの範囲内に配置されている。
【0035】
<無人航空機を用いた下水管内の撮影>
次に、航空機1を用いた下水管内の撮影について説明する。不図示のリモートコントローラは、調査員の操作を受け付けると、その操作に対応する操作信号を外部に送信する。航空機1では、無線通信装置がこの操作信号を受信し、制御装置が操作信号に基づいてモータ41~44に制御信号を送信する。
【0036】
モータ41~44は、制御信号に応じた回転数で出力軸を回転させる。これにより、回転軸51a~54aを中心として回転翼51~54が回転する。回転翼51,52は、上部開口86fから前方空間80f内に空気を吸引するとともに、下部開口87fから吹き出す。回転翼53,54は、上部開口86rから後方空間80r内に空気を吸引するとともに、下部開口87rから吹き出す。
【0037】
上述したように、回転翼51~54の回転軸51a~54aは、鉛直方向に延びる直線Nから後方に角度θ1だけ傾斜する(
図3参照)とともに、直線Nから機体11の外方に角度θ2だけ傾斜している(
図4参照)。このため、回転翼51~54は、
図3の矢印A31,A32及び
図4の矢印A41,A42に示すように、下方、後方、且つ外方に向けて空気を吹き出す。
【0038】
この結果、回転翼51~54には、上方、前方、且つ内方(つまり、回転翼51~54が空気を吹き出す方向とは反対方向)への力が作用する。この力が、機体11を浮上させる揚力、及び、機体11を前方に推進させる推力となり、航空機1を飛行させる。したがって、航空機1は、主に揚力を発生させる回転翼と、主に推力を発生させる回転翼とを別個に備える必要が無く、構成のコンパクト化を図ることが可能になる。航空機1は、飛行しながら、下水管が延びる方向に沿って移動する。保護部材8のワイヤ接続部89には不図示のワイヤの一端が接続されており、航空機1の移動に伴ってワイヤが供給される。
【0039】
航空機1の飛行中、照明92,93が発光して機体11の周囲の下水管を照らすとともに、前方カメラ61、後方カメラ63、及び中央カメラ65が撮影する。前方カメラ61及び後方カメラ63が撮影した下水管の映像は、リアルタイムで信号に変換され、無線通信装置により調査員に向けて送信される。調査員は、当該信号に基づいてディスプレイに表示された映像を確認しながら、リモートコントローラを操作する。
【0040】
また、航空機1の飛行中、保護部材8は、回転翼51~54を下水管との干渉から保護する。さらに、保護部材8は、比重が水よりも小さい材料により形成されているため、航空機1が着水した場合でも、浮力を発生させて航空機1の水没を防止する。
【0041】
飛行を終えた航空機1は、回転翼51~54の回転を停止させ、下水管内で着水、又は、下水管の底面に着地する。調査員は、ワイヤを引き寄せることにより、航空機1を調査員側に移動させ、航空機1を回収する。
【0042】
<離陸する際の無人航空機の挙動>
次に、
図7~
図10を参照しながら、離陸する際の航空機1の挙動について説明する。
図7~
図10は、離陸する際の航空機1を示す説明図である。説明の理解を容易にするため、保護部材8のみ、
図5に示すVII-VII線における断面が示されている。
図7は、航空機1が下水管の底面B上で静止している様子を示している。
図8は、離陸する際に航空機1が前傾した様子を示し、
図9は、航空機1がさらに大きく前傾した様子を示している。
図10は、
図8の機体11の前端11bの近傍を拡大して示している。
【0043】
図7では、航空機1は、中央下端縁91aにおいて下水管の底面B上に載置されている。上述したように、中央下端縁91aは、保護部材8の底面81aに固定されているクッション91の下端縁である(
図2参照)。クッション91が底面Bと当接することにより、保護部材8の底面81aと底面Bとの干渉が抑制され、保護部材8の摩耗が抑制される。
【0044】
離陸のためにモータ41~44の出力軸が回転を開始すると、矢印A71,A72で示すように、回転翼51~54から下方、後方、且つ外方に向けて空気が吹き出される。この空気の大部分は、保護部材8の下部開口87f,87rを介して底面Bに吹き付けられる。
【0045】
このとき、下水管の底面Bの湾曲形状による気流の変化などが原因で、機体11の前端11b寄りに配置された回転翼51,52が発生させる揚力が、機体11の後端11c寄りに配置された回転翼53,54が発生させる揚力と比べて小さくなることがある。この場合、
図8に示すように、機体11が前傾する(つまり、航空機1の姿勢が、水平面上で静止している場合の航空機1の姿勢よりも、前方に傾斜する)ことがある。
【0046】
上述したように、幅方向が水平方向と一致するように配置された航空機1において、保護部材8の前方下端縁85fは、中央下端縁91aに対して傾斜し、中央下端縁91aよりも上方に位置している(
図3参照)。したがって、
図8に示すように機体11が前傾した場合でも、前方下端縁85fと底面Bとの間の隙間Cが維持される。この結果、前方下端縁85fと底面Bとの干渉が防止される。
【0047】
ここで、機体11が前傾すると、回転翼51,52が吹き出す空気の後方への指向性が高まり、
図10に矢印A101で示すように、保護部材8の底面81aと下水管の底面Bとの間を空気が流れる。この結果として、底面81aにおける空気の圧力が、本体2の上面2aにおける空気の圧力よりも低くなると、機体11を底面B側に押さえつけようとする力F10が作用する。この力F10は、航空機1の安定的な離陸を妨げるおそれがある。
【0048】
しかしながら、回転翼51,52が吹き出す空気の一部は、矢印A102で示すように、開口881を介して保護部材8の外部に排出される。図示しないが、同様に、開口882も、回転翼51,52が吹き出す空気の一部を保護部材8の外部に排出する。
【0049】
また、回転翼51,52が吹き出す空気の他の一部が、前方下端縁85fと底面Bとの間の隙間Cから保護部材8の外部に排出される。具体的には、矢印A103に示すように、隙間Cから保護部材8の左方及び右方に空気が排出されるとともに、矢印A104で示すように、隙間Cからから保護部材8の前方に空気が排出される。
【0050】
これにより、矢印A101で示すように流れる空気の流量の増加が軽減される。この結果、底面81aにおける空気の圧力と、本体2の上面2aにおける空気の圧力との差も軽減される。
【0051】
機体11がさらに不意に前傾した場合、
図9に示すように、保護部材8の前方下端縁85fが下水管の底面Bと当接する。上述したように、前方下端縁85fは、中央下端縁91a側から前方且つ上方に直線的に延びるように形成されている。このため、前方下端縁85fは、その略全体にわたって底面Bと当接し、底面Bからの力F9を受ける。これにより、機体11のさらなる前傾が抑制される。
【0052】
<作用効果>
次に、航空機1に基づく作用効果について説明する。
【0053】
このように構成された航空機1は、回転軸51a~54aが鉛直方向から所定角度だけ傾斜した回転翼51~54により、揚力と前方への推力とを同時に発生させる。航空機1が、機体11の中央下端縁91aにおいて下水管の底面Bと当接している状態から離陸する際、機体11は前傾し易い。しかしながら、機体11の下端縁11aのうち前方下端縁85fは中央下端縁91aよりも上方に位置しているため、機体11が前傾した場合でも、前方下端縁85fと底面Bとの干渉を抑制することができる。
【0054】
また、前後方向において、前方下端縁85fの後端85faは、回転翼51,52の後端51b,52bよりも後方に位置している。この構成によれば、航空機1が離陸する際、回転翼51,52が吹き出す空気の一部を、前方下端縁85fと底面Bとの間の隙間Cから保護部材8の外部に効率よく排出することができる。これにより、保護部材8により回転翼51,52を保護しつつ、保護部材8の底面81aと下水管の底面Bとの間を流れる空気の流量の増加を軽減することができる。そして、底面81aにおける空気の圧力と、本体2の上面2aにおける空気の圧力との差を軽減し、この圧力差に基づく力F10を軽減することができる。この結果、前方下端縁85fと底面Bとの干渉をさらに抑制し、航空機1を安定的に離陸させることが可能になる。
【0055】
前方下端縁85fは、中央下端縁91aから前方且つ上方に直線的に延びるように形成されている。
【0056】
このように構成された航空機1は、離陸する際に機体11が不意に大きく前傾した場合に、直線的に延びる前方下端縁85fの広範囲において底面Bと当接し、さらなる機体11の前傾を抑制することができる。この結果、航空機1をさらに安定的に離陸させることが可能になる。
【0057】
保護部材8は、回転翼51,52の幅方向における側面を開放する開口881,882が形成されている。
【0058】
このように構成された航空機1は、航空機1が離陸する際に機体11が前傾した場合に、回転翼51,52が吹き出す空気の一部を、開口881,882を介して保護部材8の外部に排出する。この結果、機体11の下方を流れる空気の流量の増加と、それに伴う機体11の上方と下方における空気の圧力差とを軽減することが可能になる。そして、機体11を底面B側に押さえつけようとする力F10を軽減し、機体11の前方下端縁85fと底面Bとの干渉をさらに抑制し、航空機1をさらに安定的に離陸させることが可能になる。
【0059】
回転翼51,52は、前後方向において、前方下端縁85fと対応する位置に配置されている。
【0060】
このように構成された航空機1は、航空機1が離陸する際に機体11が前傾した場合に、回転翼51,52が吹き出す空気の一部を、底面Bと前方下端縁85fとの間に形成される隙間Cを介して、保護部材8の外部に排出する。この結果、機体11の下方を流れる空気の流量の増加を軽減し、それに伴う機体11の上方と下方における空気の圧力差とを軽減することが可能になる。そして、機体11を底面B側に押さえつけようとする力F10を軽減し、機体11の前方下端縁85fと底面Bとの干渉をさらに抑制し、航空機1をさらに安定的に離陸させることが可能になる。
【0061】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく、適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、上水管内、下水管内、排水管内、トンネル内、ダクト内、パイプシャフト内、ガス管内等において利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 無人航空機(航空機)
11 機体
11a 下端縁
51~54 回転翼
51a~54a 回転軸
51b,52b 後端
6 情報取得装置
8 保護部材
85f 前方下端縁
85fa 後端
881~884 開口
91a 中央下端縁
【要約】
安定的に離陸することが可能な無人航空機を提供する。
無人航空機1の機体11は、情報取得装置6と、回転翼51~54と、回転翼51~54の周囲に配置された保護部材8と、を有している。回転翼51~54の回転軸は、鉛直方向から角度θ1だけ傾斜し、これにより回転翼51~54が前方への推力を発生させるように配置されている。機体11の下端縁11aは、中央下端縁91aと、前方下端縁85fと、を有しており、保護部材8の下端縁が前方下端縁85fを有している。前方下端縁85fは、中央下端縁91aよりも上方に位置し、前後方向において、前方下端縁85fの後端85faは、回転翼51,52の後端51b,52bよりも後方に位置している。