(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】アデノイド肥大判定装置、アデノイド肥大判定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20220523BHJP
G10L 25/66 20130101ALI20220523BHJP
G10L 25/15 20130101ALI20220523BHJP
【FI】
A61B10/00 J
G10L25/66
G10L25/15
(21)【出願番号】P 2018036434
(22)【出願日】2018-03-01
【審査請求日】2020-12-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日:平成29年9月11日にて、発行所:一般社団法人日本音響学会による、刊行物:日本音響学会2017年秋季研究発表会講演論文集、講演要旨・講演論文CD-ROMにおいて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日:平成29年9月25日にて、集会名:日本音響学会2017年秋季研究発表会において公開
(73)【特許権者】
【識別番号】510108951
【氏名又は名称】公立大学法人広島市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】518071637
【氏名又は名称】葛西 一貴
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【氏名又は名称】末次 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【氏名又は名称】末富 孝典
(72)【発明者】
【氏名】石光 俊介
(72)【発明者】
【氏名】中山 仁史
(72)【発明者】
【氏名】椛島 康平
(72)【発明者】
【氏名】葛西 一貴
(72)【発明者】
【氏名】堀畑 聡
(72)【発明者】
【氏名】小松 昌平
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-182778(JP,A)
【文献】特開2014-014543(JP,A)
【文献】特開平03-023870(JP,A)
【文献】特開2016-061970(JP,A)
【文献】特開平04-005699(JP,A)
【文献】特開2008-145940(JP,A)
【文献】特開2007-068847(JP,A)
【文献】国際公開第2017/060828(WO,A1)
【文献】椛島 康平 Kohei KABASHIMA,音声入力による咽頭扁桃肥大罹患検出システムに対する性能評価,日本音響学会 2018年 春季研究発表会講演論文集CD-ROM [CD-ROM],2018年02月27日,p.325-326
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
G10L 25/66
G10L 25/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の発話に係る音声データの周波数スペクトルの包絡線における
第1アンチフォルマント周波数を検出するアンチフォルマント周波数検出部と、
前記第1アンチフォルマント周波数が閾値を超えた場合に、前記被検者のアデノイドが肥大していると判定する判定部と、
を備えるアデノイド肥大判定装置。
【請求項2】
前記アンチフォルマント周波数検出部は、
前記音声データの周波数スペクトルの包絡線における第1フォルマント周波数を検出し、
前記第1アンチフォルマント周波数を前記第1フォルマント周波数で正規化し、
前記判定部は、
正規化された周波数に基づいて、前記被検者のアデノイドが肥大しているか否かを判定する、
請求項
1に記載のアデノイド肥大判定装置。
【請求項3】
前記アンチフォルマント周波数検出部で前記第1アンチフォルマント周波数が検出される度に、検出された前記第1アンチフォルマント周波数を前記被検者毎に対応付けて記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記被検者における前記第1アンチフォルマント周波数の時系列変化に関する情報を出力する出力部と、
を備える、
請求項
1又は
2に記載のアデノイド肥大判定装置。
【請求項4】
前記アンチフォルマント周波数検出部は、
ケプストラム分析又は線形予測符号化分析を行って、前記
第1アンチフォルマント周波数を検出する、
請求項1から
3のいずれか一項に記載のアデノイド肥大判定装置。
【請求項5】
アデノイド肥大判定装置によって実行されるアデノイド肥大判定方法であって、
被検者の発話に係る音声データの周波数スペクトルの包絡線における
第1アンチフォルマント周波数を検出するアンチフォルマント周波数検出ステップと、
前記第1アンチフォルマント周波数が閾値を超えた場合に、前記被検者のアデノイドが肥大していると判定する判定ステップと、
を含むアデノイド肥大判定方法。
【請求項6】
コンピュータを
被検者の発話に係る音声データの周波数スペクトルの包絡線における
第1アンチフォルマント周波数を検出するアンチフォルマント周波数検出部、
前記第1アンチフォルマント周波数が閾値を超えた場合に、前記被検者のアデノイドが肥大していると判定する判定部、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アデノイド肥大判定装置、アデノイド肥大判定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
幼少期には、獲得免疫の向上に伴い、咽頭扁桃(アデノイド)と呼ばれるリンパ組織が肥大化する咽頭扁桃肥大(アデノイド増殖症)が発症することがある。一般的には4歳から6歳の間にアデノイドの肥大化のピークをむかえ、その後は成人と同程度まで縮小する。しかしながら、縮小時期を過ぎてもアデノイドの肥大が持続する場合があり、アデノイド肥大は、鼻づまり、閉鼻声、いびき、口呼吸又は睡眠障害(睡眠時無呼吸等)など、多くの症状を併発し、身体に様々な悪影響を及ぼすおそれがあることが知られている。
【0003】
従来のアデノイドの肥大化の検出又は判定には、X線撮影や鼻腔通気度測定法などが用いられる(例えば非特許文献1、2参照)。これらの方法によれば、アデノイド肥大化の高精度な測定が可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】藤岡睦久,”小児のアデノイドに関するX線学的研究”,日医大誌,第47巻,第2号,1980年
【文献】内藤健晴,宮崎総一郎,野中聡,鼻腔通気度測定法(Rhinomanometry)ガイドライン”,日鼻誌40(4):327~331,2001年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記非特許文献1、2に開示された測定方法では、アデノイドの肥大化の高精度な測定が可能になる一方で、放射性被曝など身体的又は精神的苦痛を伴うという不都合がある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、身体的又は精神的苦痛を伴わずに、アデノイド肥大の有無を判定することができるアデノイド肥大判定装置、アデノイド肥大判定方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係るアデノイド肥大判定装置は、
被検者の発話に係る音声データの周波数スペクトルの包絡線における第1アンチフォルマント周波数を検出するアンチフォルマント周波数検出部と、
前記第1アンチフォルマント周波数が閾値を超えた場合に、前記被検者のアデノイドが肥大していると判定する判定部と、
を備える。
【0009】
また、前記アンチフォルマント周波数検出部は、
前記音声データの周波数スペクトルの包絡線における第1フォルマント周波数を検出し、
前記第1アンチフォルマント周波数を前記第1フォルマント周波数で正規化し、
前記判定部は、
正規化された周波数に基づいて、前記被検者のアデノイドが肥大しているか否かを判定する、
こととしてもよい。
【0010】
前記アンチフォルマント周波数検出部で前記第1アンチフォルマント周波数が検出される度に、検出された前記第1アンチフォルマント周波数を前記被検者毎に対応付けて記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記被検者における前記第1アンチフォルマント周波数の時系列変化に関する情報を出力する出力部と、
を備える、
こととしてもよい。
【0011】
前記アンチフォルマント周波数検出部は、
ケプストラム分析又は線形予測符号化分析を行って、前記第1アンチフォルマント周波数を検出する、
こととしてもよい。
【0012】
本発明の第2の観点に係るアデノイド肥大判定方法は、
アデノイド肥大判定装置によって実行されるアデノイド肥大判定方法であって、
被検者の発話に係る音声データの周波数スペクトルの包絡線における第1アンチフォルマント周波数を検出するアンチフォルマント周波数検出ステップと、
前記第1アンチフォルマント周波数が閾値を超えた場合に、前記被検者のアデノイドが肥大していると判定する判定ステップと、
を含む。
【0013】
本発明の第3の観点に係るプログラムは、
コンピュータを
被検者の発話に係る音声データの周波数スペクトルの包絡線における第1アンチフォルマント周波数を検出するアンチフォルマント周波数検出部、
前記第1アンチフォルマント周波数が閾値を超えた場合に、前記被検者のアデノイドが肥大していると判定する判定部、
として機能させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アデノイドの肥大に応じて高くなる、被検者の発話に係る音声データの周波数スペクトルの包絡線におけるアンチフォルマント周波数に基づいて、アデノイドの肥大を判定する。このようにすれば、非侵襲に安心で安全な判定が可能となるので、身体的又は精神的苦痛を伴わずに、アデノイド肥大の有無を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態1に係るアデノイド肥大判定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2(A)及び
図2(B)は、被検者の音声データの周波数スペクトルの波形の一例を示す図である。
【
図3】複数の被検者各々の第1アンチフォルマント周波数と、アデノイド肥大の有無との関係を示すグラフである。
【
図4】アデノイド肥大判定装置のハードウエア構成を示すブロック図である。
【
図5】アデノイド肥大判定装置の演算処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施の形態3に係るアデノイド肥大判定装置の構成を示すブロック図である。
【
図7】第1アンチフォルマント周波数の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。全図において、同一又は相当する構成要素には、同一の符号が付されている。
【0017】
実施の形態1.
まず、本発明の実施の形態1について説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態に係る判定システム100は、アデノイド肥大判定装置1と、マイク2と、アンプ部3と、アナログ/デジタル(A/D)変換部4と、を備える。アデノイド肥大判定装置1は、アンチフォルマント周波数検出部10と、判定部11と、出力部12と、を備える。
【0019】
マイク(マイクロフォン)2は、被検者Pの発話に係る音声信号を入力する。被検者Pは、例えば「んー」というような撥音を含む言葉を発音する。その音声が、マイク2に音声信号として入力される。
【0020】
アンプ部3は、マイク2に入力された音声信号を増幅する。A/D変換部4は、増幅されたアナログの音声信号をデジタルの音声データに変換する。これにより、音声データは、例えば、24ビット、16KHzのデジタルデータとして取得される。変換された音声データは、アデノイド肥大判定装置1に入力される。
【0021】
アンチフォルマント周波数検出部10は、被検者Pの発話に係る音声データに対して周波数解析(ケプストラム分析)を行って、その音声データの周波数スペクトルの包絡線における第1アンチフォルマント周波数を検出する。
【0022】
ここで、フォルマント周波数とは、
図2(A)及び
図2(B)に示すように、音声データの周波数スペクトルの波形に現れる複数の山(ピーク)の部分に相当する周波数である。フォルマント周波数は、被検者Pの気道の共鳴特性を表す。これに対し、アンチフォルマント周波数とは、音声の周波数スペクトルの波形に現れる複数の谷の部分に相当する周波数であり、フォルマントとフォルマントとの間に現れる部分の周波数である。アンチフォルマントは、被検者Pの気道の反共鳴特性を表す。第1アンチフォルマント周波数F1は、アンチフォルマント周波数のうち、最も低い周波数である。
【0023】
被検者Pの口腔から放射される音声は、声帯振動の音源情報と調音器官の伝達特性で表現される。音声は調音器官の口腔系と鼻腔系とを経て、口唇及び鼻孔から放射される。
【0024】
声道の伝達特性は、一般的には、ピーク周波数、すなわちフォルマントにより決定される。しかしながら、アデノイドが肥大化し、鼻腔と上咽頭との間で狭窄が生じると、鼻音化母音や鼻子音では、アデノイドの形やアデノイドと他の器官との結合の度合いに応じて、鼻腔系の音響的変化や鼻腔の閉塞や開放などにともなうアンチフォルマント(反共鳴特性)が変化する。すなわち、アデノイドの肥大化に伴う気道の閉塞により、アンチフォルマント周波数が変化することから、本実施の形態に係るアデノイド肥大判定装置1では、第1アンチフォルマント周波数F1を求めることにより、アデノイドの肥大の有無の判定を行う。
【0025】
判定部11は、アンチフォルマント周波数検出部10で検出された第1アンチフォルマント周波数F1と閾値とを比較することにより、被検者Pにおいてアデノイドの肥大の有無を判定する。閾値は任意に設定することができる。
【0026】
図2(A)には、アデノイドが肥大していない被検者Pの発話に係る音声データの周波数スペクトルの波形が示され、
図2(B)には、アデノイドが肥大している被検者Pの発話に係る音声データの周波数スペクトルの波形が示されている。
図2(A)及び
図2(B)を比較するとわかるように、アデノイドが肥大していない被検者Pについては、第1アンチフォルマント周波数F1は、300Hzと低くなっている。その一方で、アデノイドが肥大している被検者Pについては、第1アンチフォルマント周波数F1は、750Hz程度と高くなっている。そこで、閾値を、300Hzと750Hzとの間に設定すれば、第1アンチフォルマント周波数F1が、閾値より高いか低いかによって、その被検者Pのアデノイドが肥大しているか否かを判定することができる。
【0027】
図3には、複数の被検者P各々の第1アンチフォルマント周波数F1とアデノイドの肥大化の有無を示すグラフが示されている。
図3に示すように、全体として、アデノイドが肥大化している被検者Pは、波長換算で、第1アンチフォルマント周波数F1が高くなっている(波長が低くなっている)。このグラフからすれば、アデノイドの肥大化を判定する閾値としては、波長換算で100mm前後となる周波数を選択すれば、アデノイド肥大を高い確率で判定することが可能となる。なお、声道長は個人差があるため、フォルマント周波数からその長さを推定し、アンチフォルマント位置はその長さに対する比率で選択することも可能である。
【0028】
図4に示すように、アデノイド肥大判定装置1は、制御部31、主記憶部32、外部記憶部33、操作部34、表示部35及び入出力インターフェイス部36をハードウエア構成として備えている。主記憶部32、外部記憶部33、操作部34、表示部35及び入出力インターフェイス部36はいずれも内部バス30を介して制御部31に接続されている。
【0029】
制御部31は、CPU(Central Processing Unit)等から構成されている。このCPUが、外部記憶部33に記憶されているプログラム39に従ってフーリエ変換、対数変換、逆フーリエ変換、又は閾値判定などの各種演算処理を実行することにより、
図1に示すアデノイド肥大判定装置1の各構成要素が実現される。なお、
図1に示すアデノイド肥大判定装置1の各構成要素の実現には、フーリエ変換、対数変換に代えて、LPC(linear Prediction Coding)メルケプストラム演算を行って、その係数を用いることも可能である。
【0030】
主記憶部32は、RAM(Random-Access Memory)等から構成されている。主記憶部32には、外部記憶部33に記憶されているプログラム39がロードされる。この他、主記憶部32は、制御部31の作業領域(データの一時記憶領域)として用いられる。
【0031】
外部記憶部33は、フラッシュメモリ、ハードディスク、DVD-RAM(Digital Versatile Disc Random-Access Memory)、DVD-RW(Digital Versatile Disc ReWritable)等の不揮発性メモリから構成される。外部記憶部33には、制御部31に実行させるためのプログラム39があらかじめ記憶されている。また、外部記憶部33は、制御部31の指示に従って、このプログラム39の実行の際に用いられるデータを制御部31に供給し、制御部31から供給されたデータを記憶する。
【0032】
上述のアンチフォルマント周波数検出部10及び判定部11は、制御部31に対応している。
【0033】
操作部34は、キーボード及びマウスなどのポインティングデバイス等と、キーボードおよびポインティングデバイス等を内部バス30に接続するインターフェイス装置から構成されている。操作部34を介して、操作者が操作した内容に関する情報が制御部31に入力される。
【0034】
表示部35は、CRT(Cathode Ray Tube)またはLCD(Liquid Crystal Display)などから構成され、操作者が操作情報を入力する場合は、操作用の画面が表示される。表示部35には、例えば、アデノイドの肥大の判定結果等が表示される。この表示部35が、出力部12に対応する。
【0035】
入出力インターフェイス部36は、外部機器から入力される信号を入力するインターフェイスである。この入出力インターフェイス部36を介して、A/D変換部4でデジタル変換された音声データがアデノイド肥大判定装置1に入力される。
【0036】
なお、この他、通信ネットワークを介して通信可能な通信インターフェイスを有していてもよい。このような通信インターフェイスを介して受信した音声データも判定対象とすることができる。
【0037】
図5には、アデノイド肥大判定装置1の処理の流れが示されている。
図5に示すように、まず、アンチフォルマント周波数検出部10が、被検者Pの発話に係る音声データに対して周波数解析を行って、音声データの周波数スペクトルの包絡線における第1アンチフォルマント周波数を検出する(ステップS1;アンチフォルマント周波数検出ステップ)。
【0038】
具体的には、アンチフォルマント周波数検出部10は、入力した音声データから切り出した時間波形データに対して離散フーリエ変換を行い、その周波数成分を求める(ステップS10)。続いて、アンチフォルマント周波数検出部10は、ステップS1で求めた周波数成分を対数変換する(ステップS11)。さらに、アンチフォルマント周波数検出部10は、対数変換された周波数成分に対して逆離散フーリエ変換を行う(ステップS12)。これにより、例えば、
図2(A)及び
図2(B)に示すような周波数スペクトルの包絡線の波形データが得られる。続いて、アンチフォルマント周波数検出部10は、周波数スペクトルの包絡線の波形データから、第1アンチフォルマント周波数F1を探索する(ステップS13)。なお、アンチフォルマント周波数検出部10は、フーリエ変換、対数変換に代えて、LPCメルケプストラム演算を行って、その係数を用いることも可能である。
【0039】
次に、判定部11は、アンチフォルマント周波数検出部10で検出された第1アンチフォルマント周波数F1に基づいて、被検者Pのアデノイドの肥大を判定する(ステップS2;判定ステップ)。具体的には、判定部11は、検出された第1アンチフォルマント周波数F1が閾値を超える場合には、アデノイドが肥大しているおそれがあると判定し、第1アンチフォルマント周波数F1が閾値以下である場合には、アデノイドは肥大していないと判定する。
【0040】
次に、出力部12は、判定部11の判定結果を出力する(ステップS3;出力ステップ)。具体的には、表示部35は、判定部11における判定結果、すなわち被検者Pのアデノイドが肥大化しているか否かを、表示する。
【0041】
以上詳細に説明したように、本実施の形態によれば、アデノイド肥大に応じて高くなる、被検者Pの発話に係る音声データの周波数スペクトルの包絡線における第1アンチフォルマント周波数F1に基づいて、アデノイド肥大を判定する。このようにすれば、非侵襲に安心で安全な判定が可能となるので、身体的又は精神的苦痛を伴わずに、アデノイド肥大を判定することができる。アデノイド肥大と第1アンチフォルマント周波数F1との相関性は、本発明者が発見した事実であり、従来技術から容易に想到できる特徴ではない。
【0042】
実施の形態2.
次に、本発明の実施の形態2について説明する。
【0043】
本実施の形態に係る判定システムの構成は、
図1に示す上記実施の形態1に係る判定システムの構成と同じである。上記実施の形態1では、被検者Pの発話に係る音声データの周波数スペクトルの包絡線における第1アンチフォルマント周波数F1を直接閾値と比較することにより、アデノイドの肥大化の有無を判定した。本実施の形態に係るアデノイド肥大判定装置1は、第1アンチフォルマント周波数F1を、第1フォルマント周波数F1’(
図2(A)及び
図2(B)参照)を用いて正規化し、正規化された第1アンチフォルマント周波数NF1に基づいて、アデノイド肥大の有無を判定する。
【0044】
具体的には、アンチフォルマント周波数検出部10は、被検者Pの発話に係る音声データに対して周波数解析を行って、音声データの周波数スペクトルの包絡線における第1フォルマント周波数F1’を検出し、第1アンチフォルマント周波数F1を第1フォルマント周波数F1’で正規化する。
【0045】
第1アンチフォルマント周波数F1及び第1フォルマント周波数F1’は、気道の形状の個人差などによって変化するが、以下の式(1)に示すように、第1アンチフォルマント周波数F1を第1フォルマント周波数F1’で正規化することにより、気道の形状の個人差の影響を低減した状態で、アデノイド肥大の有無を判定することができる。
NF1=F1/F1’…(1)
【0046】
判定部11は、正規化された第1アンチフォルマント周波数NF1に基づいて、被検者Pにおけるアデノイド肥大の有無を判定する。具体的には、正規化された第1アンチフォルマント周波数NF1を閾値と比較して、閾値を超えた場合には、アデノイドが肥大していると判定する。
【0047】
出力部12は、上記実施の形態1と同様に、判定部11の判定結果を出力する。
【0048】
以上述べたように、本実施の形態によれば、第1フォルマント周波数F1’で正規化された第1アンチフォルマント周波数NF1に基づいて、被検者Pのアデノイド肥大の有無を判定する。これにより、できる限りアデノイド以外の気道の形状の個人差を排除した状態で、アデノイド肥大の有無を判定することができるので、判定精度を向上することができる。
【0049】
実施の形態3.
次に、本発明の実施の形態3について説明する。
【0050】
上記各実施の形態では、ある時点における被検者Pのアデノイド肥大の有無を判定した。本実施の形態では、ある被検者Pのアデノイドの経時変化を測定する。
【0051】
図6に示すように、本実施の形態に係るアデノイド肥大判定装置1は、記憶部13を備える。記憶部13は、アンチフォルマント周波数検出部10で第1アンチフォルマント周波数F1が検出される度に、検出された第1アンチフォルマント周波数F1を被検者P毎に対応付けて記憶する。出力部12は、記憶部13に記憶された被検者Pにおける第1アンチフォルマント周波数F1の時系列変化に関する情報を出力する。
【0052】
具体的には、アンチフォルマント周波数検出部10は、被検者Pの発話に係る音声データに対してケプストラム解析を行って、第1アンチフォルマント周波数F1を検出する。判定部11は、検出された第1アンチフォルマント周波数F1に基づいて、被検者Pにおいてアデノイドが肥大しているか否かを判定する。第1アンチフォルマント周波数F1及びアデノイド肥大の判定結果は、記憶部13に記憶される。
【0053】
上述の第1アンチフォルマント周波数F1及びアデノイド肥大の判定は、長期間にわたって複数回実施され、その都度、第1アンチフォルマント周波数F1及びアデノイド肥大の判定結果が記憶部13に記憶される。出力部12は、必要に応じて、記憶部13に記憶された第1アンチフォルマント周波数F1及びアデノイド肥大化の判定結果の履歴、すなわち時系列変化を出力する。出力された第1アンチフォルマント周波数F1及びアデノイド肥大の判定結果の時系列変化(例えば、
図7参照)を見れば、その被検者Pのアデノイドが、どのように変化しているか、例えば縮小しているか否かを判定することができる。
【0054】
以上述べたように、本実施の形態によれば、被検者Pの第1アンチフォルマント周波数F1の時系列変化に基づいて、その被検者Pのアデノイド肥大の時系列変化を求めることができる。このようにすれば、例えば、被検者Pが成長するにつれて、アデノイドが収縮したことなどを確認することができる。
【0055】
なお、本実施の形態に係るアデノイド肥大判定装置1においても、第1フォルマント周波数F1’で正規化された第1アンチフォルマント周波数NF1に基づいて被検者Pにおいてアデノイドが肥大しているか否かを判定するようにしてもよい。
【0056】
実施の形態4.
次に、本発明の実施の形態4について説明する。
【0057】
本実施の形態に係る判定システムの構成は、
図1に示す上記実施の形態1に係る判定システムの構成と同じである。上記各実施の形態に係るアデノイド肥大判定装置1では、ケプストラム解析により、第1アンチフォルマント周波数F1を検出した。本実施の形態では、線形予測符号化(LPC;linear Prediction Coding)分析により、第1アンチフォルマント周波数F1を検出する。
【0058】
具体的には、アンチフォルマント周波数検出部10は、線形予測符号化分析を行って、第1アンチフォルマント周波数F1を検出する。線形予測符号化分析は、自己回帰モデルに基づくパラメトリック法であり、声道における共鳴特性、反共鳴特性をモデリングする方法である。
【0059】
線形予測符号化分析では、音声波形の各時点のサンプル値x(n)が過去のp個のサンプル値の線形1次結合で近似される点に着目した分析を行う。すなわち、x(n)は、次の差分方程式(式(2))にしたがって生成されると仮定する。
x(n)+α1x(n-1)+…+αpx(n-p)=ε(n)…(2)
ここで、αiは、線形予測係数である。また、ε(n)は、平均値0、分散σ2の無相関な確率変数であり、線形予測残差と呼ぶ。
【0060】
線形予測符号化分析では、このε(n)の2乗和、すなわち2乗残差和ηを最小にするような線形予測係数αi(i=1~p)を求める。具体的には、サンプリング区間[n0,n1]における2乗残差和ηに対する線形予測係数αi(i=1~p)の偏微分をそれぞれ0とするp個の連立1次方程式を解けばよい。
【0061】
アンチフォルマント周波数検出部10は、求めた線形予測係数αi(i=1~p)に基づいて、被検者Pの発話に係る音声データの周波数スペクトルの包絡線を生成し、包絡線における第1アンチフォルマント周波数F1を求める。
【0062】
上述のように、本実施の形態によれば、離散フーリエ変換や対数変換などの複雑な演算を行うことなく、比較的演算量の少ない線形予測分析の演算処理により、第1アンチフォルマント周波数F1を求めることが可能となる。
【0063】
なお、本実施の形態に係るアデノイド肥大判定装置1においても、第1フォルマント周波数F1’で正規化された第1アンチフォルマント周波数NF1に基づいて、被検者Pにおいてアデノイドが肥大しているか否かを判定するようにしてもよい。
【0064】
また、本実施の形態に係るアデノイド肥大判定装置1においても、被検者Pの第1アンチフォルマント周波数F1の時系列変化に基づいて、その被検者Pのアデノイド肥大の時系列変化を求めるようにしてもよい。
【0065】
また、上記各実施の形態では、第1アンチフォルマント周波数F1に基づいて、被検者Pのアデノイド肥大を検出したが、本発明はこれには限られない。第2アンチフォルマント周波数F2、第3アンチフォルマント周波数F3又は他のアンチフォルマント周波数に基づいて、被検者Pのアデノイド肥大の有無を判定するようにしてもよい。
【0066】
例えば、第1アンチフォルマント周波数F1以外の第2アンチフォルマント周波数F2,第3アンチフォルマント周波数F3、…(
図2(A)及び
図2(B)参照)と閾値との比較、複数のアンチフォルマント周波数を組み合わせた値と閾値との比較などにより、被検者Pのアデノイド肥大の有無を判定するようにしてもよい。
【0067】
また、上記各実施の形態では、アデノイド肥大判定装置1は、携帯端末又はパーソナルコンピュータなどの一般的なコンピュータを用いて実現してもよいし、専用の装置として実現してもよい。
【0068】
その他、アデノイド肥大判定装置1のハードウエア構成やソフトウエア構成は一例であり、任意に変更および修正が可能である。
【0069】
制御部31、主記憶部32、外部記憶部33、操作部34、表示部35及び入出力インターフェイス部36、内部バス30などから構成されるアデノイド肥大判定装置1の処理を行う中心となる部分は、上述のように、専用のシステムによらず、通常のコンピュータシステムを用いて実現可能である。例えば、前記の動作を実行するためのコンピュータプログラムを、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(フレキシブルディスク、CD-ROM、DVD-ROM等)に格納して配布し、当該コンピュータプログラムをコンピュータにインストールすることにより、前記の処理を実行するアデノイド肥大判定装置1を構成してもよい。また、インターネット等の通信ネットワーク上のサーバ装置が有する記憶装置に当該コンピュータプログラムを格納しておき、通常のコンピュータシステムがダウンロード等することでアデノイド肥大判定装置1を構成してもよい。
【0070】
コンピュータの機能を、OS(オペレーティングシステム)とアプリケーションプログラムの分担、またはOSとアプリケーションプログラムとの協働により実現する場合などには、アプリケーションプログラム部分のみを記録媒体や記憶装置に格納してもよい。
【0071】
搬送波にコンピュータプログラムを重畳し、通信ネットワークを介して配信することも可能である。たとえば、通信ネットワーク上の掲示板(BBS, Bulletin Board System)にコンピュータプログラムを掲示し、ネットワークを介してコンピュータプログラムを配信してもよい。そして、このコンピュータプログラムを起動し、OSの制御下で、他のアプリケーションプログラムと同様に実行することにより、前記の処理を実行できるように構成してもよい。
【0072】
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、アデノイド肥大化の判定に適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 アデノイド肥大判定装置、2 マイク、3 アンプ部、4 アナログ/デジタル(A/D)変換部、10 アンチフォルマント周波数検出部、11 判定部、12 出力部、13 記憶部、30 内部バス、31 制御部、32 主記憶部、33 外部記憶部、34 操作部、35 表示部、36 入出力インターフェイス部、39 プログラム、100 判定システム、P 被検者