(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】ナノファイバー製造装置及びナノファイバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
D01D 5/04 20060101AFI20220523BHJP
D01D 7/00 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
D01D5/04
D01D7/00 Z
(21)【出願番号】P 2018113207
(22)【出願日】2018-06-13
【審査請求日】2021-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】315009600
【氏名又は名称】株式会社エヌツーセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】金 翼水
(72)【発明者】
【氏名】李 鎬翌
(72)【発明者】
【氏名】堀口 拓也
(72)【発明者】
【氏名】大谷 聖
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄満
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 洋平
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-214174(JP,A)
【文献】特表2020-537063(JP,A)
【文献】特開平03-140509(JP,A)
【文献】特開昭62-238806(JP,A)
【文献】特開2007-056388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00 - 13/02
D01F 1/00 - 6/96
D01F 9/00 - 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノファイバーの原料である原料溶液を配置可能な溶液配置部材と、
前記溶液配置部材に前記原料溶液を配置したとき、前記原料溶液と接触した後に前記溶液配置部材から遠ざかる方向へ移動することで前記原料溶液を延伸して前記ナノファイバーを形成可能である、少なくとも1次元的に移動可能な移動部材とを備えることを特徴とするナノファイバー製造装置。
【請求項2】
前記移動部材は、前記原料溶液と接触すべき側の端部が尖っている針状部材であることを特徴とする請求項1に記載のナノファイバー製造装置。
【請求項3】
前記移動部材は、前記原料溶液と接触する部分の太さが5mm以下であることを特徴とする請求項2に記載のナノファイバー製造装置。
【請求項4】
前記移動部材を所定の速度で繰り返し移動させることが可能な移動機構をさらに備えることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のナノファイバー製造装置。
【請求項5】
ナノファイバーの原料である原料溶液を準備し、前記原料溶液と少なくとも1次元的に移動可能な移動部材とを接触させる接触工程と、
前記移動部材を前記原料溶液から遠ざかる方向へ移動させ、前記原料溶液を延伸して前記ナノファイバーを形成するナノファイバー形成工程とを含むことを特徴とするナノファイバーの製造方法。
【請求項6】
前記移動部材として、前記原料溶液と接触すべき側の端部が尖っている針状部材を用いることを特徴とする請求項5に記載のナノファイバーの製造方法。
【請求項7】
前記移動部材として、前記移動部材の前記原料溶液と接触する部分の太さが5mm以下のものを用いることを特徴とする請求項6に記載のナノファイバー
の製造方法。
【請求項8】
前記接触工程と前記ナノファイバー形成工程とを複数回繰り返し、その後前記ナノファ イバーを回収することを特徴とする請求項5~7のいずれかに記載のナノファイバー
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノファイバー製造装置及びナノファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノスケールの極細繊維であるナノファイバーに注目が集まっている。一般的に、ナノファイバーからなる糸や布は、マイクロファイバー(通常の繊維)からなる糸や布と比較して、比表面積が大きい、空隙率が高い、微細なポア(細孔)を有する、薄く形成できる、手触りが滑らかである等の特徴を有する。
このため、ナノファイバーは、透湿防水膜、高性能フィルター、二次電池のセパレーター、電極、スーパーキャパシター、太陽電池、クリーンルーム用ワイパー、防塵服、マスク、人工筋肉等、非常に幅広い分野への応用が期待されており、盛んに研究が行われている。
【0003】
なお、本明細書における「ナノファイバー」とは、繊維径が3000nm以下(好ましくは1000nm以下)、かつ、平均直径が1000nm以下(好ましくは500nm以下)の繊維のことをいう。また、ナノファイバーは、繊維の内部又は外部に繊維本体を構成する物質(ポリマー)以外の物質(例えば、カーボンナノチューブや金属ナノ粒子)を含有していてもよい。
【0004】
従来、ポリマーからなるナノファイバーの製造方法として、溶融紡糸法(メルトブローン法)や電界紡糸法(エレクトロスピニング法)を用いた製造方法や、これらの製造方法に用いる製造装置が知られている(例えば、特許文献1~3参照。)。
溶融紡糸法は、細いノズルから溶融させたポリマーを高温気流とともに吐出させることによりナノファイバーを形成するものである。また、電界紡糸法は、ノズルとコレクターとの間に高電圧を印加した状態でポリマーを溶媒に溶かした原料溶液をノズルから吐出させることによりナノファイバーを形成するものである。
【0005】
従来のナノファイバーの製造方法によれば、ナノスケールの繊維であるナノファイバーを製造することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第6114017号明細書
【文献】米国特許第6673136号明細書
【文献】国際公開第WO2009/034765号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、溶融紡糸法や電界紡糸法を用いたナノファイバーの製造方法では、ナノファイバーは不織布の状態で製造される。ナノファイバーを不織布のまま用いる場合(例えば、フィルターとして用いる場合)には上記のような方法を好適に用いることができる。一方、ナノファイバーに配向性(繊維の向きが一定方向に揃っている性質)を持たせたい場合(例えば、一定方向に対する引張強度が必要な場合やナノファイバーを電気配線として用いる場合)には、従来の製造方法、そして従来の製造方法に用いるナノファイバー製造装置では不便であるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、配向性を有した状態でナノファイバーを製造することが可能なナノファイバーの製造装置を提供することを目的とする。また、配向性を有した状態でナノファイバーを製造することが可能なナノファイバーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]本発明のナノファイバー製造装置は、ナノファイバーの原料である原料溶液を配置可能な溶液配置部材と、前記溶液配置部材に前記原料溶液を配置したとき、前記原料溶液と接触した後に前記溶液配置部材から遠ざかる方向へ移動することで前記原料溶液を延伸して前記ナノファイバーを形成可能である、少なくとも1次元的に移動可能な移動部材とを備えることを特徴とする。
【0010】
[2]本発明のナノファイバー製造装置においては、前記移動部材は、前記原料溶液と接触すべき側の端部が尖っている針状部材であることが好ましい。
【0011】
[3]本発明のナノファイバー製造装置においては、前記移動部材は、前記原料溶液と接触する部分の太さが5mm以下であることが好ましい。
【0012】
[4]本発明のナノファイバー製造装置においては、前記移動部材を所定の速度で繰り返し移動させることが可能な移動機構をさらに備えることが好ましい。
【0013】
[5]本発明のナノファイバーの製造方法は、ナノファイバーの原料である原料溶液を準備し、前記原料溶液と移動部材とを接触させる接触工程と、前記移動部材を前記原料溶液から遠ざかる方向へ移動させ、前記原料溶液を延伸して前記ナノファイバーを形成するナノファイバー形成工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
[6]本発明のナノファイバーの製造方法においては、前記移動部材として、前記原料溶液と接触すべき側の端部が尖っている針状部材を用いることが好ましい。
【0015】
[7]本発明のナノファイバーの製造方法においては、前記移動部材として、前記移動部材の前記原料溶液と接触する部分の太さが5mm以下のものを用いることが好ましい。
【0016】
[8]本発明のナノファイバーの製造方法においては、前記接触工程と前記ナノファイバー形成工程とを複数回繰り返し、その後前記ナノファイバーを回収することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のナノファイバー製造装置は、ナノファイバーの原料である原料溶液を配置可能な溶液配置部材と、少なくとも1次元的に移動可能な移動部材とを備えるため、後述する実施例に示すように、配向性を有した状態でナノファイバーを製造することが可能なナノファイバー製造装置となる。
【0018】
本発明のナノファイバーの製造方法は、ナノファイバーの原料である原料溶液を準備し、原料溶液と移動部材とを接触させる接触工程と、移動部材を原料溶液から遠ざかる方向へ移動させ、原料溶液を延伸してナノファイバーを形成するナノファイバー形成工程とを含むため、後述する実施例に示すように、配向性を有した状態でナノファイバーを製造することが可能なナノファイバーの製造方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係るナノファイバー製造装置1を説明するために示す図である。
【
図2】実施形態に係るナノファイバーの製造方法を説明するために示す図である。
【
図3】実施例に係るナノファイバー製造装置を説明するために示す写真である。
【
図4】製造したナノファイバーを回収する様子を示す写真である。
【
図5】実施例に係るナノファイバー製造装置で製造したナノファイバーの配向性を説明するために示すSEM(走査型電子顕微鏡)画像である。
【
図6】太さ0.12mmの針状部材を用いたときの実施例におけるナノファイバーのSEM画像である。
【
図7】太さ0.5mmの針状部材を用いたときの実施例におけるナノファイバーのSEM画像である。
【
図8】太さ1.02mmの針状部材を用いたときの実施例におけるナノファイバーのSEM画像である。
【
図9】実施形態における原料溶液のポリエチレンオキシドの濃度と製造したナノファイバーの繊維径との関係を針状部材の太さごとに示すグラフである。
【
図10】実施例における原料溶液の延伸速度の影響を説明するために示すSEM画像である。
【
図11】実施例における原料溶液の延伸距離の影響を説明するために示すSEM画像である。
【
図12】実施例におけるナノファイバーのラマンスペクトルを示すグラフである。
【
図13】実施例におけるカーボンナノチューブを含有するナノファイバーの様子を示すTEM(透過型電子顕微鏡)画像である。
【
図14】実施例におけるナノファイバーのひずみ-応力曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るナノファイバー製造装置及びナノファイバーの製造方法について実施形態に基づいて説明する。なお、実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0021】
1.実施形態に係るナノファイバー製造装置1
図1は、実施形態に係るナノファイバー製造装置1を説明するために示す図である。
図1(a)はナノファイバー製造装置1の正面図であり、
図1(b)はナノファイバー製造装置1の上面図(平面図)である。なお、「正面図」「上面図(平面図)」としたのは説明の便宜のためであり、ナノファイバー製造装置1の設置方向等を規定するものではない。
【0022】
実施形態に係るナノファイバー製造装置1は、
図1に示すように、溶液配置部材10と、移動部材20と、接続部材30と、移動機構40と、ガイド部材50と、基台60とを備える。
【0023】
溶液配置部材10は、ナノファイバーの原料である原料溶液を配置可能(保持可能)な部材である。実施形態においては、溶液配置部材10は溶液入れ12を有し、ナノファイバーを製造する際には、原料溶液を当該溶液入れ12に配置する。
原料溶液の配置は、例えば、人間により実施してもよいし、専用の装置又は器具により実施してもよい。原料溶液を配置するタイミングは、人間が都度決定するようにしてもよいし、機械的な機構等により自動で行うようにしてもよい。
【0024】
移動部材20は、溶液配置部材10に原料溶液を配置したとき、原料溶液と接触した後に溶液配置部材10から遠ざかる方向へ移動することで原料溶液を延伸してナノファイバーを形成可能な部材である。移動部材20は、少なくとも1次元的に移動可能である。
実施形態においては、ナノファイバー製造装置1は、直線状に配置された4つの移動部材を備える。
【0025】
移動部材20は、原料溶液と接触すべき側の端部が尖っている針状部材である。
移動部材20は、原料溶液と接触する部分の太さが5mm以下である。なお、上記太さは、2mm以下であることが一層好ましい。
「原料溶液と接触する部分の太さが5mm以下である」とは、「移動部材の原料溶液と接触する部分を移動部材の軸方向に垂直な断面で見たときに、当該断面が直径5mmの円形の範囲内に収まる」と言い換えることもできる。
【0026】
なお、概念上は移動部材20の太さに下限は無いが、実際にナノファイバーを形成する際における移動部材20の強度を考慮すると、上記太さが0.05mm以上であることが好ましいと考えられる。
【0027】
本明細書における「針状部材」とは、少なくとも一方の端部が尖っている棒状の部材のことをいう。針状部材としては、縫い針や鍼治療用の針のような広く市販されている針を用いることもできるし、ナノファイバー製造装置用に設計された専用のものを用いることもできる。
本発明の発明者らは、実施形態に係るナノファイバー製造装置1のように針状部材を用いるナノファイバー製造装置を「ニードルスピニング装置(NS装置)」と呼称している。
【0028】
接続部材30は、移動部材20と移動機構40とを接続する部材である。実施形態においては、移動部材20は接続部材30上に配置されている。
移動機構40は、移動部材20を所定の速度で繰り返し移動させることが可能な機構である。実施形態における移動機構40は、直接的には接続部材30を移動させることで、間接的に移動部材20を移動させる。移動機構40では、移動部材20を移動させるための動力として、例えば、電気モーター、エアシリンダー、弾性部材(ばね等)を用いることができる。
【0029】
ガイド部材50は、接続部材30の移動機構40側とは反対の側に配置されている部材である。ガイド部材50は棒状の部材であり、接続部材30の移動機構40側とは反対の側に、接続部材30の移動に応じたスライド移動が可能なように接続されている。
基台60は、上記した各構成要素を支える部材である。
【0030】
2.実施形態に係るナノファイバーの製造方法
図2は、実施形態に係るナノファイバーの製造方法を説明するために示す図である。
図2(a)~
図2(c)は工程図である。
【0031】
実施形態に係るナノファイバーの製造方法は、接触工程S1と、ナノファイバー形成工程S2とを含む。
実施形態に係るナノファイバーの製造方法は、実施形態に係るナノファイバー製造装置1を用いて実施する製造方法である。
このため、実施形態に係るナノファイバーの製造方法は、移動部材20として、原料溶液S(後述。)と接触すべき側の端部が尖っている針状部材を用いる方法である。
また、実施形態に係るナノファイバーの製造方法は、移動部材20として、移動部材20の原料溶液Sと接触する部分の太さが5mm以下のものを用いる方法である。
本発明の発明者らは、実施形態に係るナノファイバーの製造方法のように針状部材を用いるナノファイバーの製造方法を「ニードルスピニング法(NS法)」と呼称している。
【0032】
接触工程S1は、ナノファイバーの原料である原料溶液Sを準備し(
図2(a)参照。)、原料溶液Sと少なくとも1次元的に移動可能な移動部材20とを接触させる(
図2(b)参照。)工程である。
原料溶液は、ナノファイバーを構成するポリマーに溶媒を加えて溶液としたものである。ポリマーとしては、溶媒に溶解可能である限り種々のポリマーを用いることができる。
原料溶液は、原料溶液から直接延伸してナノファイバーを形成する都合上、ある程度の粘性を有することが好ましい。原料溶液を調製するためのポリマー及び溶媒の量及び種類は、製造するナノファイバーの物性等に応じて適宜決定することができる。
【0033】
また、原料溶液は、製造するナノファイバーの性質を改良したり調整したりするための物質(例えば、ナノスケールの構造を有する炭素系物質、触媒や殺菌剤としての金属粒子等)を含有していてもよい。特に、実施形態に係るナノファイバーの製造方法は、原料溶液から直接延伸することでナノファイバーを形成するため、ナノファイバーに含有させる物質を多量に含有させやすく、また、カーボンナノチューブのような繊維状の物質を含有するナノファイバーを製造するのに特に適する。
さらに、原料溶液は、粘性や表面張力といった原料溶液の性質を調整するための物質(例えば、界面活性剤や増粘剤)を含有していてもよい。
【0034】
実施形態においては、原料溶液Sを溶液配置部材10の溶液入れ12に配置した後、移動部材20を移動機構40により溶液配置部材10に近づけ、原料溶液Sと移動部材20とを接触させる。
【0035】
ナノファイバー形成工程S2は、移動部材20を原料溶液Sから遠ざかる方向へ移動させ、原料溶液Sを延伸してナノファイバーFを形成する工程である(
図2(c)参照。)。
【0036】
上記のようにして形成したナノファイバーFは、例えば、繊維の延伸方向と直交する方向から枠状又は板状の部材を押し当てることにより、配向性を有した状態のまま回収することができる。
【0037】
実施形態に係るナノファイバーの製造方法においては、接触工程S1とナノファイバー形成工程S2とを各1回のみ行ってもよいが、まとまった量のナノファイバーを得るという観点からは、接触工程S1とナノファイバー形成工程S2とをこの順序で複数回繰り返すことが好ましい。
接触工程S1とナノファイバー形成工程S2とを複数回繰り返す場合、製造したナノファイバーFの回収は、ナノファイバー形成工程S2が終了するごとに行ってもよいし、接触工程S1及びナノファイバー形成工程S2を複数回(任意の回数)繰り返した後に行ってもよい。まとまった量のナノファイバーFを得ることが目的である場合には、接触工程S1及びナノファイバー形成工程S2を複数回繰り返した後にナノファイバーFの回収を行うことが好ましい。
【0038】
3.実施形態に係るナノファイバー製造方法及びナノファイバーの製造方法の効果
以下、実施形態に係るナノファイバー製造方法及びナノファイバーの製造方法の効果について説明する。
【0039】
実施形態に係るナノファイバー製造装置1は、ナノファイバーの原料である原料溶液を配置可能な溶液配置部材10と、少なくとも1次元的に移動可能な移動部材20とを備えるため、後述する実施例に示すように、配向性を有した状態でナノファイバーを製造することが可能なナノファイバー製造装置となる。
【0040】
また、実施形態に係るナノファイバー製造装置1によれば、移動部材20により原料溶液を延伸することでナノファイバーを形成可能であるため、高温気流を発生させるための機構や高電圧を印加するための機構を用いることなく、簡易な構成でナノファイバーを製造することが可能となる。
【0041】
また、実施形態に係るナノファイバー製造装置1によれば、移動部材20により原料溶液を直接延伸することでナノファイバーを形成可能であるため、溶融紡糸法や電界紡糸法を実施するためのナノファイバー製造装置と比較して、ナノファイバーに多種多様な物質を多量に含有させることが可能となる。
【0042】
また、実施形態に係るナノファイバー製造装置1によれば、移動部材20は、原料溶液と接触すべき側の端部が尖っている針状部材であるため、尖って細くなっている端部により繊維径が細いナノファイバーを安定して製造することが可能となる。
【0043】
また、実施形態に係るナノファイバー製造装置1によれば、移動部材20の原料溶液と接触する部分の太さが5mm以下であるため、移動部材20(針状部材)を十分に細くして十分に細いナノファイバーを製造することが可能となる。
【0044】
また、実施形態に係るナノファイバー製造装置1によれば、移動部材20を所定の速度で繰り返し移動させることが可能な移動機構40を備えるため、移動部材20を人力で移動させる場合と比較して、均質なナノファイバーを繰り返し製造することが可能となる。
【0045】
実施形態に係るナノファイバーの製造方法は、ナノファイバーFの原料である原料溶液Sを準備し、原料溶液Sと移動部材20とを接触させる接触工程S1と、移動部材20を原料溶液Sから遠ざかる方向へ移動させ、原料溶液Sを延伸してナノファイバーFを形成するナノファイバー形成工程S2とを含むため、後述する実施例に示すように、配向性を有した状態でナノファイバーFを製造することが可能なナノファイバーの製造方法となる。
【0046】
また、実施形態に係るナノファイバーの製造方法によれば、移動部材20により原料溶液を直接延伸することでナノファイバーFを形成するため、高温気流を発生させるための機構や高電圧を印加するための機構を用いることなく、簡易な方法でナノファイバーFを製造することが可能となる。
【0047】
また、実施形態に係るナノファイバーの製造方法によれば、移動部材20により原料溶液を直接延伸することでナノファイバーFを形成するため、溶融紡糸法や電界紡糸法によるナノファイバーの製造方法と比較して、ナノファイバーFに多種多様な物質を多量に含有させることが可能となる。
【0048】
また、実施形態に係るナノファイバーの製造方法によれば、移動部材20として、原料溶液Sと接触すべき側の端部が尖っている針状部材を用いるため、尖って細くなっている端部により繊維径が細いナノファイバーFを安定して製造することが可能となる。
【0049】
また、実施形態に係るナノファイバーの製造方法によれば、移動部材20として、移動部材20の原料溶液Sと接触する部分の太さが5mm以下のものを用いるため、移動部材20(針状部材)を十分に細くして十分に細いナノファイバーFを製造することが可能となる。
【0050】
また、実施形態に係るナノファイバーの製造方法によれば、接触工程S1とナノファイバー形成工程S2とを複数回繰り返し、その後ナノファイバーFを回収する場合には、接触工程S1とナノファイバー形成工程S2とそれぞれ1回ずつ実施する場合と比較して、定量の原料溶液Sから多量のナノファイバーFを得ることが可能となる。
【0051】
[実施例]
実施例においては、本発明のナノファイバー製造装置を実際に作成し、当該ナノファイバー製造装置を用いて本発明のナノファイバーの製造方法を実施した。また、本発明のナノファイバー製造装置を用いて本発明のナノファイバーの製造方法により製造したナノファイバーの構造や物性等を調べた。
【0052】
1.実施例で用いた試薬・装置等
図3は、実施例に係るナノファイバー製造装置を説明するために示す写真である。
図3(a)は実施例で用いた移動部材20a,20b,20c(針状部材、さらにいえば市販の針)を示す写真であり、
図3(b)は実施例で用いた移動部材20b、接続部材30a及び移動機構40aを示す写真である。
図3(b)において移動部材20bが写っているのは単なる例示に過ぎず、実施例においては、移動部材20a,20cについても移動部材20bと同様に接続部材にセットして用いた。
まず、実施例で用いた物質や装置等について説明する。
【0053】
ポリエチレンオキシド(PEO。average Mv:~8,000,000又は15,000。粉末。)は、シグマアルドリッチから購入したものを用いた。
溶媒用の蒸留水は、研究室で蒸留したものを用いた。
界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfonate)は、ナカライテスク株式会社から購入したものを用いた。
単層カーボンナノチューブ(CNTs)としては、(7,6)chirality、≧90% carbon basis(≧99% as carbon nanotubes)、0.83nm average diameterのものを用いた。
【0054】
実施例におけるナノファイバーを製造するため、実施例に係るナノファイバー製造装置を用いた。以下、実施例に係るナノファイバー製造装置の構成要素について説明する。
実施例に係るナノファイバー製造装置における溶液配置部材としては、中央に溶液を配置するための凹部がある樹脂製の部材(バスタブ状形状の部材)を用いた。
【0055】
移動部材としては、市販の針である針状部材を用いた(
図3(a)参照。)。具体的には、移動部材として、直径(太さ)1.02mmのもの(
図3(a)の符号20a参照。)、直径0.5mmのもの(
図3(a)の符号20b参照。)及び直径0.12mmのもの(
図3(a)の符号20c参照。)の3種類を用いた。
直径0.5mmの針状部材及び直径1.02mmの針状部材として、クロバー株式会社の針を用いた。また、直径0.12mmの針状部材として、セイリン株式会社の針を用いた。
接続部材としては、市販の角柱型アクリル棒に移動部材を配置するための穴やガイド部材を通すための穴を形成したものを用いた(
図3(b)の符号30a参照。)。
【0056】
移動機構としては、株式会社ミスミの単軸ロボットであるRS-220-R-C1-N-5-500-Sを用いた(
図3(b)の符号40a参照。)。なお、当該単軸ロボットは、移動対象の移動速度を細かく調節することが可能であり、最大移動速度は1000mm/sec、最大移動距離は500mmである。実施例においては、移動速度はナノファイバーの延伸速度ということになり、移動距離はナノファイバーの延伸距離ということになる。
ガイド部材としては、市販の円柱型ステンレス棒を用いた。
【0057】
比較例におけるナノファイバーを製造するため、電界紡糸法を実施するためのナノファイバー製造装置である、比較例に係るナノファイバー製造装置を用いた。以下、比較例に係るナノファイバー製造装置の構成要素について説明する。
高電圧供給装置(電源装置)としては、松定プレシジョン株式会社のHar-100*12を用いた。紡糸時の印加電圧は12kVとした。
コレクターとしては、アルミ箔で覆った回転型ドラムコレクターを用いた。
シリンジとしては、汎用の5mLプラスチックシリンジを用いた。
シリンジに取り付けたキャピラリーチップの内径は、0.6mmとした。
原料溶液に電荷を与えるため、高電圧供給装置のアノードと接続した銅線を用いた。
チップ-コレクター間の距離は15cmとした。
【0058】
以下、実施例におけるナノファイバー及び比較例におけるナノファイバーに関する観察や実験に用いた装置や器具について説明する。
走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)としては、日本電子株式会社(JEOL)のJSM-6010LAを用いた。
サンプルに導電性を持たせるためのスパッタ装置としては、日本電子株式会社のJFCを用いた。
サンプルの繊維径を算出するために。画像解析ソフトImageJを用いた、繊維径の測定は、複数のナノファイバーが写っているSEM画像からランダムな50点を選び、その平均値を求めた。
【0059】
透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)としては、日本電子株式会社のJEM2100を用いた。
ラマン分光装置(Raman spectrophotometer)としては、カイザー・オプティカル・システムズのHololab 5000を用いた。
引張強度の測定のための引張試験機としては、株式会社レスカの糸一本引張試験機(極細ファイバー力学強度試験機)NFR-1000(FITRON)を用いた。
【0060】
2.実施例に係るナノファイバー製造装置及び比較例に係るナノファイバー製造装置
実施例に係るナノファイバー製造装置としては、基本的に実施形態に係るナノファイバー製造装置1と同様の構成を有し、溶液配置部材、移動部材、接続部材、移動機構、ガイド部材及び基台を組み合わせたものである(
図1参照。)。
【0061】
比較例に係るナノファイバー製造装置としては、上記した高電圧供給装置、コレクター、キャピラリーチップ、シリンジ及び銅線を組み合わせたものを用いた。なお、このようなナノファイバー製造装置(電界紡糸法を実施するためのナノファイバー製造装置)は広く知られているため、図示は省略する。
【0062】
3.実施例に係るナノファイバーの製造方法
実施例に係るナノファイバーの製造方法は、基本的には実施形態に係るナノファイバーの製造方法と同様であり、接触工程とナノファイバー形成工程とを含む。
【0063】
(1)接触工程
実施例に係る接触工程においては、以下の手順で原料溶液を調製した。まず、ナノファイバーを構成するポリマーであるポリエチレンオキシド(分子量:~8,000,000)の粉末を蒸留水に投入し、マグネチックスターラーで2時間以上攪拌を行った。その後、濃度が0.3wt%となるように界面活性剤を投入し、さらに20分以上攪拌を行った。最後に、必要なサンプルについては所定の量のカーボンナノチューブを添加し、1時間以上攪拌を行って原料溶液を調製した。
【0064】
実施例においては、ポリエチレンオキシドの濃度による影響を調べるために、ポリエチレンオキシドの濃度を2wt%,2.5wt%,3wt%とした3種類の原料溶液を用いた。
また、実施例においては、カーボンナノチューブの添加量による影響を調べるために、カーボンナノチューブの濃度を0.5wt%,1.0wt%,1.5wt%とした3種類の原料溶液を用いた。
【0065】
上記のようにして調製した原料溶液を、実施例に係るナノファイバー製造装置の溶液配置部材に原料溶液2mLを配置し、移動部材と接触させた。
【0066】
(2)ナノファイバー形成工程
図4は、製造したナノファイバーを回収する様子を示す写真である。
図4において符号Fで示すのはナノファイバーであり、符号Wで示すのはワイヤーハンガーである。
延伸の速度及び距離は、移動機構に接続したPCで設定を行った。ナノファイバーの形成は、原料溶液2mLにつき5分間、接触工程とナノファイバー形成工程とを繰り返し行った。
その後、製造したナノファイバーを、環状に変形させたワイヤーハンガーを用い、当該ワイヤーハンガーをナノファイバーの延伸方向とは異なる側からナノファイバーに押し付けるようにして回収した(
図4参照。)。回収後、ナノファイバーを室温で24時間乾燥させた。
【0067】
4.比較例に係るナノファイバーの製造方法
比較例に係るナノファイバーの製造方法は、電界紡糸法によるナノファイバーの製造方法であり、一般的なものである。
主に原料溶液(紡糸溶液)の粘度の関係から、電界紡糸法で分子量の大きいポリエチレンオキシドを用いることは困難である。このため、比較例に係るナノファイバーの製造方法においては、実施例に係るナノファイバーの製造方法よりも分子量が小さい、分子量が15,000のポリエチレンオキシドを用いてナノファイバーの製造を行った。原料溶液におけるポリエチレンオキシドの濃度は、事前に最適条件を検討し、5.0wt%とした。原料溶液にカーボンナノチューブを添加する場合には、濃度を0.5wt%とした。
【0068】
ナノファイバーの形成(電界紡糸)は、温度20±3℃、湿度30±5%の環境下で行った。形成したナノファイバーからなる不織布は、残留溶媒を取り除くため、コレクターから剥離させて回収した後に室温で24時間乾燥させた。
【0069】
5.実施例におけるナノファイバーの構造及び物性
以下、実施例におけるナノファイバーの構造及び物性を、比較例におけるナノファイバーとの比較も交えて説明する。
【0070】
図5は、実施例に係るナノファイバー製造装置で製造したナノファイバーの配向性を説明するために示すSEM(走査型電子顕微鏡)画像である。
図5(a)は比較例におけるナノファイバー(電界紡糸法により形成したナノファイバー)のSEM画像であり、
図5(b)は実施例におけるナノファイバーのSEM画像である。なお、
図5(a)の「ES」は電界紡糸法(エレクトロスピニング法)を用いて製造したことを示す文字であり、
図5(b)の「NS」は本発明のナノファイバーの製造方法(ニードルスピニング法)を用いて製造したことを示す文字である。
【0071】
図6は、太さ0.12mmの針状部材を用いたときの実施例におけるナノファイバーのSEM画像である。
図6(a)は原料溶液におけるポリエチレンオキシドの濃度が2.0wt%であるときのナノファイバーのSEM画像であり、
図6(b)は原料溶液におけるポリエチレンオキシドの濃度が2.5wt%であるときのナノファイバーのSEM画像であり、
図6(c)は原料溶液におけるポリエチレンオキシドの濃度が3.0wt%であるときのナノファイバーのSEM画像である。なお、
図6(a)~
図6(c)の各SEM画像の左上に表示している数字は、SEM画像に写っているナノファイバーの原料溶液におけるポリエチレンオキシドの濃度(単位:wt%)である。
図7(a)~
図7(c)及び
図8(a)~
図8(c)の各SEM画像の左上に表示している数字も同様である。
【0072】
図7は、太さ0.5mmの針状部材を用いたときの実施例におけるナノファイバーのSEM画像である。
図7(a)は原料溶液におけるポリエチレンオキシドの濃度が2.0wt%であるときのナノファイバーのSEM画像であり、
図7(b)は原料溶液におけるポリエチレンオキシドの濃度が2.5wt%であるときのナノファイバーのSEM画像であり、
図7(c)は原料溶液におけるポリエチレンオキシドの濃度が3.0wt%であるときのナノファイバーのSEM画像である。
【0073】
図8は、太さ1.02mmの針状部材を用いたときの実施例におけるナノファイバーのSEM画像である。
図8(a)は原料溶液におけるポリエチレンオキシドの濃度が2.0wt%であるときのナノファイバーのSEM画像であり、
図8(b)は原料溶液におけるポリエチレンオキシドの濃度が2.5wt%であるときのナノファイバーのSEM画像であり、
図8(c)は原料溶液におけるポリエチレンオキシドの濃度が3.0wt%であるときのナノファイバーのSEM画像である。
【0074】
図9は、実施形態における原料溶液のポリエチレンオキシドの濃度と製造したナノファイバーの繊維径との関係を針状部材の太さごとに示すグラフである。
図9のグラフの横軸はポリエチレンオキシドの濃度を表し、縦軸は繊維径を表す。
図9のグラフにおいて20aで示すもの(値を表す記号が丸印のもの)は直径1.02mmの移動部材に関する結果であり、20bで示すもの(値を表す記号が四角印のもの)は直径0.5mmの移動部材に関する結果であり、20cで示すもの(値を表す記号が三角印のもの)は直径0.12mmの移動部材に関する結果である。
【0075】
まず、SEMを用いて製造方法の違いによる配向性の違いについて調べた。その結果、比較例におけるナノファイバーには配向性が見られなかった(ナノファイバーの向きがランダムであった)のに対し、実施例におけるナノファイバーには配向性が見られた(ナノファイバーの向きが1方向に揃っていた)。
なお、
図5(a)におけるナノファイバーはポリエチレンオキシドの濃度が5.0wt%、延伸速度が1000mm/sec、延伸距離が500mmであるときのものであり、
図5(b)におけるナノファイバーはポリエチレンオキシドの濃度が2.0wt%であるときのものである。
【0076】
次に、SEMを用いて移動部材の太さの影響及び原料溶液におけるポリエチレンオキシドの濃度の影響について調べた。なお、
図6、
図7及び
図8に示すナノファイバーは、延伸速度を1000mm/secとし、延伸距離を500mmとして製造を行った。
その結果、
図6(a)~
図8(c)及び
図9に示すように、ポリエチレンオキシドの濃度が高くなるにつれ繊維径が大きくなる傾向があることが確認できた。これは、溶媒の量が多いほど、原料溶液を延伸した後,溶媒(蒸留水)の蒸発に伴ってナノファイバーの繊維径が大幅に収縮しやすくなることに起因すると考えられる。
また、移動部材の太さが太いほど繊維径も太くなる傾向があることも確認できた。
【0077】
以降の実験では、特に個別の条件を記載しない場合には、ポリエチレンオキシド濃度2.0wt%、移動部材の太さ0.12mm、延伸速度1000mm/sec、延伸距離500mmの条件で実験を行った。
【0078】
次に、延伸速度及び延伸距離の影響を調べた。
図10は、実施例における原料溶液の延伸速度の影響を説明するために示すSEM画像である。
図10(a)は延伸速度が1000mm/secであるときの実施例におけるナノファイバーのSEM画像であり、
図10(b)は延伸速度が500mm/secであるときの実施例におけるナノファイバーのSEM画像であり、
図10(c)は延伸速度が250mm/secであるときの実施例におけるナノファイバーのSEM画像である。
【0079】
図11は、実施例における原料溶液の延伸距離の影響を説明するために示すSEM画像である。
図11(a)は延伸距離が500mmであるときの実施例におけるナノファイバーのSEM画像であり、
図11(b)は延伸距離が250mmであるときの実施例におけるナノファイバーのSEM画像であり、
図11(c)は延伸距離が100mm/secであるときの実施例におけるナノファイバーのSEM画像である。
【0080】
まず、延伸速度を1000mm/sec、500mm/sec及び250mm/secとしてナノファイバーを製造した。なお、延伸距離は全て500mmとした。
その結果、
図10(a)~
図10(c)に示すように、延伸速度が遅いほどナノファイバーの配向性が低くなり、繊維径が大きくなる傾向があることが確認できた。
【0081】
次に、延伸距離を500mm、250mm及び100mmとしてナノファイバーを製造した。なお、延伸速度は全て1000mm/secとした。
その結果、
図11(a)~
図11(c)に示すように、延伸距離が短くなるほどナノファイバーの配向性が高くなる傾向があるが、ナノファイバー中にビーズ状の構造が発生し、繊維径が太くなる傾向があることが確認できた。
【0082】
次に、カーボンナノチューブを含有するナノファイバーを製造し、ラマン散乱法による分析(分子構造解析)を行った。
図12は、実施例におけるナノファイバーのラマンスペクトルを示すグラフである。
図12のグラフにおいて、符号e1~e3で示すものは実施例におけるナノファイバーに関する結果を表し、符号rで示すものは比較例におけるナノファイバーに関する結果を表す。符号e1で示すものは原料溶液におけるカーボンナノチューブの濃度が0.5wt%である場合の結果を表し、符号e2で示すものは原料溶液におけるカーボンナノチューブの濃度が1.0wt%である場合の結果を表し、符号e3で示すものは原料溶液におけるカーボンナノチューブの濃度が1.5wt%である場合の結果を表す。
実施例においては、1つのサンプルについて3回の測定を行い。その平均値を実験結果とした。
【0083】
その結果、
図12に示すように、1590cm
-1付近に見られるG band、1350cm
-1付近に見られるD bandダングリングボンドを持つ炭素原子に起因するピークが確認できた。また、カーボンナノチューブの含有量が多いほどピークが大きくなることが確認できた。このため、実施例におけるナノファイバーはカーボンナノチューブを含有すること、及び、原料溶液におけるカーボンナノチューブの含有量(濃度)を増やすことで製造するナノファイバーが含有するカーボンナノチューブの量を増やすことができることが確認できた。
【0084】
次に、TEMを用いて繊維内の観察を行った。
図13は、実施例におけるカーボンナノチューブを含有するナノファイバーの様子を示すTEM(透過型電子顕微鏡)画像である。
図13(a)は比較例におけるナノファイバーのTEM画像であり、
図13(b)は原料溶液におけるカーボンナノチューブの濃度が0.5wt%であるときの実施例におけるナノファイバーのTEM画像であり、
図13(c)は原料溶液におけるカーボンナノチューブの濃度が1.0wt%であるときの実施例におけるナノファイバーのTEM画像であり、
図13(d)は原料溶液におけるカーボンナノチューブの濃度が1.5wt%であるときの実施例におけるナノファイバーのTEM画像である。
【0085】
その結果、比較例におけるナノファイバー、つまり、電界紡糸法を実施するためのナノファイバーの製造方法で製造したナノファイバーではカーボンナノチューブが凝集してしまっている(
図13(a)のこぶ状となっている部分を参照。)のに対し、実施例におけるナノファイバーではカーボンナノチューブが分散している様子が確認できた(
図13(b)~
図13(d)のナノファイバー内の濃い黒で表示されている部分を参照。)。
【0086】
次に、引張強度の測定を行った。
図14は、実施例におけるナノファイバーのひずみ-応力曲線を示すグラフである。
図14のグラフの横軸はひずみ(単位:%)を表し、縦軸は応力(単位:MPa)を表す。
図14のグラフにおいて、符号e1~e3で示すものは実施例におけるナノファイバーに関する結果を表し、符号rで示すものは比較例におけるナノファイバーに関する結果を表す。符号e1で示すものは原料溶液におけるカーボンナノチューブの濃度が0.5wt%である場合の結果を表し、符号e2で示すものは原料溶液におけるカーボンナノチューブの濃度が1.0wt%である場合の結果を表し、符号e3で示すものは原料溶液におけるカーボンナノチューブの濃度が1.5wt%である場合の結果を表す。
引張強度の測定においては、引き伸ばしの速度は150μm/secとした。測定は各サンプルにつき5回行い、その平均値を最終的な値とした。
【0087】
その結果、
図14に示すように、比較例におけるナノファイバーの破断強度は11.0865MPaであったのに対して、実施例におけるナノファイバーはカーボンナノチューブの含有率が低い方から21.3485MPa,21.7280MPa,23.0083MPaという結果となり、実施例におけるナノファイバーは比較例におけるナノファイバーと比較して2倍近い強度を持つことが確認できた。これは、原料溶液を延伸することでナノファイバーを形成するため、ポリマー鎖が配列し、結晶度が高くなったことに起因すると考えられる。また、カーボンナノチューブの含有率が高いほど伸び率が低く、破断強度が増加することも確認できた。
【0088】
上記した結果より、本発明に係るナノファイバー製造装置及びナノファイバーの製造方法によれば、様々な条件の下、配向性を有した状態でナノファイバーを製造することが可能であることが確認できた。また、本発明に係るナノファイバー製造装置及びナノファイバーの製造方法は、カーボンナノチューブのような物質を含有しているナノファイバーを製造するのに適するものであることが確認できた。
【0089】
以上、本発明を上記の実施形態及び実施例に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態及び実施例に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の様態において実施することが可能である。
例えば、上記実施形態及び各実験例において記載した構成等は例示又は具体例であり、本発明の効果を損なわない範囲において変更することが可能である。
【0090】
(1)上記実施形態においては、移動部材の数は4つであったが、本発明はこれに限定されるものではない。移動部材の数は3つ以下であってもよいし、5つ以上であってもよい。また、移動部材の配置も直線状に限定されるものではなく、移動部材の数等に応じて適宜決定することができる。
【0091】
(2)上記実施形態においては、ナノファイバー製造装置はガイド部材を備えるが、本発明はこれに限定されるものではない。移動機構だけで移動部材や接続部材を支えられる場合には、ガイド部材は必ずしも必要ではない。
【0092】
(3)上記実施形態においては、ナノファイバー製造装置は移動機構を備えるが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、移動機構の代わりに人力で移動部材を動かすような機構を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0093】
1…ナノファイバー製造装置、10…溶液配置部材、12…溶液入れ、20,20a,20b,20c…移動部材、30,30a…接続部材、40,40a…移動機構、50…ガイド部材、60…基台、F…ナノファイバー、S…原料溶液、W…ワイヤーハンガー