(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】ヨウ素化合物含有水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/469 20060101AFI20220523BHJP
【FI】
C02F1/469
(21)【出願番号】P 2019207431
(22)【出願日】2019-11-15
【審査請求日】2021-03-16
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390005681
【氏名又は名称】伊勢化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502017364
【氏名又は名称】株式会社 環境浄化研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】須郷 高信
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 晃一
(72)【発明者】
【氏名】藤原 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】早川 里奈
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴弘
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-023847(JP,A)
【文献】特開2018-094525(JP,A)
【文献】特開平11-239792(JP,A)
【文献】特開2001-314864(JP,A)
【文献】特開2011-131143(JP,A)
【文献】特開2002-187707(JP,A)
【文献】特開2020-082078(JP,A)
【文献】特開2005-058896(JP,A)
【文献】新野 靖、他3名,日本海水学会誌,第50巻、第1号,日本,1996年,23-25頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 7/00-7/24
C02F 1/00-1/78
B01D 61/00-61/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱塩室、及び当該脱塩室と陰イオン交換膜により仕切られた濃縮室を備える電気透析槽において、ヨウ素を有する無機陰イオン及びフッ素を有する無機陰イオンを含有し、脱塩室内に収容されている原液に電気透析を行って、前記ヨウ素を有する無機陰イオンを前記フッ素を有する無機陰イオンから分離することにより濃縮室において得られたヨウ素化合物含有水溶液を回収する工程を備え、
前記原液が、フッ化水素酸のpKa以上のpHを有
し、
前記工程が、前記濃縮室から排出されるヨウ素化合物含有水溶液におけるフッ素を有する無機陰イオンの濃度を監視し、ヨウ素化合物含有水溶液におけるフッ素を有する無機陰イオンの濃度が予め定めた所定の下限値を超えた時から、ヨウ素化合物含有水溶液を、前記所定の下限値を超える以前に得られたヨウ素化合物含有水溶液と別に分取することにより行われる、ヨウ素化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記フッ素を有する無機陰イオンが、フッ化物イオンを含む、請求項1に記載のヨウ素化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記ヨウ素を有する無機陰イオンが、ヨウ化物イオンを含む、請求項1又は2に記載のヨウ素化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記電気透析の間、前記原液のpHがフッ化水素のpKa以上に維持されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のヨウ素化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項5】
前記原液のpHが4.5以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のヨウ素化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項6】
前記原液におけるフッ素を有する無機陰イオンの濃度が、0.20mM以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載のヨウ素化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項7】
前記原液におけるヨウ素を有する無機陰イオンの濃度が、0.05mM以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載のヨウ素化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項8】
前記ヨウ素化合物含有水溶液を、フッ素化合物を選択的に吸着する樹脂と接触させる精製工程を更に備える、請求項1~7のいずれか一項に記載のヨウ素化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項9】
前記脱塩室が、電気透析を行うための原液を収容し、前記脱塩室に原液を移送するための原液槽に接続されており、
前記ヨウ素化合物含有水溶液を前記原液槽に返送して電気透析を行うための原液と混合し、再度前記脱塩室に導入して電気透析を行う工程を更に備える、請求項8に記載のヨウ素化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項10】
前記電気透析槽に、前記電気透析槽とは別の第2の電気透析槽が接続されており、
前記ヨウ素化合物含有水溶液を前記濃縮室から前記第2の電気透析槽に移送し、電気透析を行う工程を更に備える、請求項8又は9に記載のヨウ素化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項11】
別に分取した前記ヨウ素化合物含有水溶液を、強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させて精製する工程を更に備える、
請求項8~10のいずれか一項に記載のヨウ素化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項12】
前記陰イオン交換膜が、強塩基性陰イオン交換膜である、請求項1~
11のいずれか一項に記載のヨウ素化合物含有水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素化合物含有水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業廃液、海水等、無機イオンを複数種含む水溶液から特定の無機イオンを分離する技術として電気透析法が知られている。このような技術は、排水の処理、及びヨウ素等の希少な元素を回収する手段として重要である。
【0003】
排水等の中にはフッ化物イオン等の形態でフッ素を含むものがあり、フッ素と他の陰イオンとを分離することが望まれる場合もある。例えば、特許文献1には、フッ素を含む原料液にフッ素とともに錯体を形成する陽イオンを添加し、原料液のpHを、添加した陽イオンの沈殿が生じないpHに維持した上で、当該原料液に電気透析を行って、陰イオンを分離する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、電気透析中にpHが極めて低く維持されているため腐食性のフッ化水素(HF)が生じ、特にフッ化物イオンが高濃度である場合、装置等の寿命を縮める虞があると共に、作業者にも危険が及ぶ懸念がある。さらに、特許文献1の方法は、フッ化物イオン以外の陰イオンと添加した陽イオンとが錯形成又は沈殿を生じる場合もあるため、適用できる原液の組成に制限がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ヨウ素を有する無機陰イオン及びフッ素を有する無機陰イオンを含有する原液から、安全且つ精度よくヨウ素を有する無機陰イオンを分離して、ヨウ素化合物含有水溶液を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のヨウ素化合物含有水溶液の製造方法は、脱塩室、及び当該脱塩室と陰イオン交換膜により仕切られた濃縮室を備える電気透析槽において、ヨウ素を有する無機陰イオン及びフッ素を有する無機陰イオンを含有し、脱塩室内に収容されている原液に電気透析を行う工程を備え、上記原液が、フッ化水素酸のpKa以上のpHを有する。
【0008】
上記フッ素を有する無機陰イオンが、フッ化物イオンを含むと好ましい。
【0009】
上記ヨウ素を有する無機陰イオンが、ヨウ化物イオンを含むと好ましい。
【0010】
電気透析の間、原液のpHがフッ化水素酸のpKa以上に維持されていると好ましい。
【0011】
上記原液のpHが4.5以上であると好ましい。
【0012】
原液におけるフッ素を有する無機陰イオンの濃度が、0.2mM以上であると好ましい。
【0013】
原液におけるヨウ素を有する無機陰イオンの濃度が、0.05mM以上であると好ましい。
【0014】
上記製造方法は、電気透析により、原液からヨウ素を有する無機陰イオンが濃縮室側に移動することにより濃縮室において得られたヨウ素化合物含有水溶液を、フッ素化合物を選択的に吸着する樹脂と接触させる精製工程を更に備えると好ましい。
【0015】
脱塩室が、電気透析を行うための原液を収容し、脱塩室に原液を移送するための原液槽に接続されていてよく、この場合、上記製造方法は、ヨウ素化合物含有水溶液を原液槽に返送して電気透析を行うための原液と混合し、再度脱塩室に導入して電気透析を行う工程を更に備えると好ましい。
【0016】
電気透析槽に、電気透析槽とは別の第2の電気透析槽が接続されていてよく、この場合、上記製造方法は、ヨウ素化合物含有水溶液を前記濃縮室から前記第2の電気透析槽に移送し、電気透析を行う工程を更に備えると好ましい。
【0017】
上記製造方法は、濃縮室から排出されるヨウ素化合物含有水溶液におけるフッ素を有する無機陰イオンの濃度を監視し、ヨウ素化合物含有水溶液におけるフッ素を有する無機陰イオンの濃度が予め定めた所定の下限値を超えた時から、ヨウ素化合物含有水溶液を、所定の下限値を超える以前に得られたヨウ素化合物含有水溶液と別に分取すると好ましい。
【0018】
上記製造方法は、別に分取した上記ヨウ素化合物含有水溶液を、強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させて精製する工程を更に備えると好ましい。
【0019】
陰イオン交換膜が、強塩基性陰イオン交換膜であると好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、より簡便かつ安全に、ヨウ素を有する無機陰イオン及びフッ素を有する無機陰イオンを含有する原液から、安全且つ精度よくヨウ素を有する無機陰イオンを分離して、ヨウ素化合物含有水溶液を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る電気透析装置の構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、実施例1について、通電時間に対する、濃縮室側における各ハロゲン化物イオンの物質量(単位:mol)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施形態のヨウ素化合物含有水溶液の製造方法は、脱塩室、及び当該脱塩室と陰イオン交換膜により仕切られた濃縮室を備える電気透析槽において、ヨウ素を有する無機陰イオン及びフッ素を有する無機陰イオンを含有し、脱塩室内に収容されている原液に電気透析を行う工程を備え、上記原液が、フッ化水素酸のpKa以上のpHを有する。ここで、フッ化水素酸のpKaは、室温(25℃)における、水溶液中でのフッ化水素のpKaである。なお、原液におけるフッ素を有する無機陰イオン及びヨウ素を有する無機陰イオンの含有量は、これらが完全に電離して原液中に存在しているものと仮定した含有量である。そのため、例えば、弱酸の遊離により原液中にフッ素を有する無機陰イオン又はヨウ素を有する無機陰イオンの一部が共役酸(フッ化水素など)の状態で存在していたとしても、それらの共役酸もフッ素を有する無機陰イオン又はヨウ素を有する無機陰イオンに含まれるものとして計算する。
【0023】
本実施形態のヨウ素化合物含有水溶液の製造方法では、原液に含まれる複数の無機陰イオンに対する電気透析を利用した陰イオン交換膜によるクロマト分離の原理を利用している。ここで、電気透析を利用しない、陰イオン交換樹脂カラム等に原液を通液する通常のクロマト分離では、選択性の小さいイオンが初期に流出し、選択性の大きなイオンが最後に流出する。一方で、本実施形態の無機化合物含有水溶液の製造方法では、選択性の大きいイオンが先に濃縮室側に流出し、選択性の小さなイオンが後に流出するという通常のクロマト分離とは逆の順序で無機陰イオンが陰イオン交換膜を通過する傾向にある。また、この傾向は膜との親和性、分子半径、濃縮槽側の液条件で変化し逆転することもある。
本発明者が検討したところ、フッ化物イオン等のフッ素を有する無機陰イオンは、陰イオン交換膜に対する選択性は非常に小さいため、濃縮室側への移動が他の無機陰イオンよりも遅れるため、他の無機陰イオンとの分離が可能であることが分かった。
【0024】
また、原液がフッ化物イオンを含む場合、原液のpHが低いとフッ化物イオンの多くは、腐食性のフッ化水素として存在する。原液がフッ化物イオン以外のフッ素を有する無機陰イオンを含む場合であっても、原液中で遊離のフッ化物イオンを生じる傾向がある。原液中でフッ化物イオンがフッ化水素として存在すると、フッ化水素の腐食性から装置等を腐食し、作業者にとっても危険を伴う。また、分子状のフッ化水素は、拡散により陰イオン交換膜を通過できてしまうため、濃縮室側に流出しやすく、分離精度の低下を招く。
本実施形態の製造方法では、原液のpHがフッ化水素酸のpKa以上であるため、原液に含まれる遊離のフッ素の多くをフッ化物イオンの状態に保って電気透析を行うため、安全且つ精度よく分離を行うことができる。更に、遊離のフッ素の多くをフッ化物イオンの状態に保つことができるため、原液中のフッ素を有する無機陰イオンの濃度が高くても安全且つ精度よくヨウ素を有する無機陰イオンとの分離を行うことができる。
【0025】
フッ素を有する無機陰イオンとしては、例えば、フッ化物イオン(F-);フッ素酸イオン(FO3
-)、次亜フッ素酸イオン(FO-)等のフッ素のオキソ酸イオンなどが挙げられる。
【0026】
原液におけるフッ素を有する無機陰イオンの濃度は特に制限はないが、0.10mM(M=mol/L)以上であってよく、0.20mM以上(又は0.20mMより大きい)であってよく、0.25mM以上であってよく、1.0mM以上であってよく、2.0mM以上であってよく、5.0mM以上であってよく、10.0mM以上であってよく、100.0mM以上であってよく、500.0mM以上であってよく、1.0M以上であってもよい。原液におけるフッ素を有する無機陰イオンの濃度は、当該原液における飽和濃度以下(つまり、原液がフッ素を有する無機陰イオンを有する塩について過飽和状態となっていない)であってよく、2.0M以下であってよい。
【0027】
フッ素を有する無機陰イオンは、フッ化物イオンであることが好ましい。原液におけるフッ化物イオンの濃度は特に制限はないが、0.1mM(M=mol/L)以上であってよく、0.20mM以上(又は0.20mMより大きい)であってよく、0.25mM以上であってよく、2.0mM以上であってよく、5.0mM以上であってよく、10.0mM以上であってよく、100.0mM以上であってよく、500.0mM以上であってよく、1.0M以上であってもよい。原液におけるフッ化物イオンの濃度は、当該原液における飽和濃度以下(つまり、原液がフッ化物イオンを有する塩について過飽和状態となっていない)であってよく、2.0M以下であってよい。
【0028】
フッ素を有する無機陰イオンは、フッ素を有する無機陰イオンを含む塩を溶解することによって原液に含有させたものであってよい。フッ素を有する無機陰イオンを含む塩としては、水に溶解するものであれば特に問題はないが、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等であってよい。
【0029】
ヨウ素を有する無機陰イオンとしては、ヨウ化物イオン(I-);ヨウ素酸イオン(IO3
-)、次亜ヨウ素酸イオン(IO-)等のヨウ素のオキソ酸イオン;I2Cl-、I3
-、ICl2
-、I2Br-、IBr2
-等のヨウ素を有するポリハロゲン化物イオンなどが挙げられる。なお、ポリハロゲン化物イオンは、フッ素を含まないものである。なお、ヨウ素を有する無機陰イオンは、例えば、原液中でヨウ素分子を還元剤により還元することにより生成したものであってもよい。
【0030】
原液におけるヨウ素を有する無機陰イオンの濃度としては、特に制限はないが、0.05mM以上であってよく、0.05M以上であってよく、0.1M以上であってよく、0.3M以上であってよく、1M以上であってよい。原液におけるヨウ素を有する無機陰イオンの濃度は、当該原液における飽和濃度以下であってよく、2.0M以下であってよい。
【0031】
ヨウ素を有する無機陰イオンは、ヨウ素を有する無機陰イオンを含む塩を溶解することによって原液に含有させたものであってよい。ヨウ素を有する無機陰イオンを含む塩としては、水に溶解するものであれば特に問題はないが、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等であってよい。
なお、原液に還元剤を添加することによりヨウ素を有する無機陰イオンにおけるヨウ素の酸化数を変更して、原液におけるヨウ素を有する無機陰イオンのイオン状態を変更してもよい。例えば、還元剤を添加することにより、三ヨウ化物イオン(I3
-)、ヨウ素のオキソ酸イオン等を含む原液に還元剤を添加して、これらのイオンのイオン状態を変更することも可能である。このように、ヨウ素を有するイオンのイオン状態を変更することにより、ヨウ素を有する無機陰イオンの移動速度を変更することができる。また、原液がヨウ素を有するイオン及びイオン状態のフッ素以外の他の無機陰イオンを含む場合にも、ヨウ素を有するイオンの移動速度を調整することにより、他の無機イオンとの移動速度差を調節し、分離精度を高めることができる。還元剤は、電気透析を開始する前及び電気透析中のいずれの時期に添加してもよいが、電気透析を開始する前に添加することが好ましい。
【0032】
原液は、フッ素を有する無機陰イオン及びヨウ素を有する無機陰イオン以外の他の陰イオンを含んでいてもよい。他の陰イオンとしては、塩素を有する陰イオン、臭素を有する陰イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、テトラチオン酸イオン、その他硫黄のオキソ酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、硫化物イオン、硫化水素イオン、シアン化物イオン等の無機陰イオンが挙げられる。
【0033】
原液のpHは、フッ化水素酸のpKa(3.17)以上である。フッ素を有する陰イオンの濃縮室側への移動をより効率よく抑制し、分離効率を高める観点から、原液のpHは、4以上であると好ましく、4.5以上であるとより好ましく、8以上であると更に好ましく、10以上であると特に好ましい。原液のpHは、酸(例えば、塩酸、硫酸等の鉱酸の水溶液など)又はアルカリ性の水溶液(水酸化ナトリウム等の水酸化物などの水溶液)を添加することにより所望のpHに調整することができる。
【0034】
フッ素を有する陰イオン及びヨウ素を有する陰イオンとしては、金属元素を含む錯イオンであってもよいが、金属元素を含まないもの(つまり金属錯イオン以外のイオン)であってもよい。
【0035】
原液におけるフッ素を有する無機陰イオンのモル濃度(Fs)に対するヨウ素を有する無機陰イオン(Is)のモル濃度の比(Is/Fs)は、特に制限はなく、0.1~1000であってよく、0.5~1000であってよく、1~800であってよい。
【0036】
原液は、非イオン性の水溶性有機物を含んでいてよい。原液中の有機物をあらかじめ燃焼し、分解した液を電気透析に使用してよい。
【0037】
原液としては、工場の排水、浸出水等であってよい。工場の廃液としては、撥水撥油剤の製造工程で生じるもの等、反応処理後の廃液であってよい。工場の排水、浸出水等のpHがフッ化水素酸のpKa以上であれば、そのまま原液として使用してもよく、フッ化水素酸のpKa以上の範囲に調整してから使用してもよい。
【0038】
図1は、本実施形態の電気透析装置1の一例を示す図である。なお、本実施形態の電気透析装置1としては特に制限されず、公知の電気透析装置を使用することができる。以下、
図1とともに、本実施形態の製造方法について説明する。
【0039】
電気透析装置1は、原液を収容する原液槽2を備える。必要に応じ、原液槽2には、pH調整槽12が接続されていてもよい。pH調整槽12には、アルカリ性の水溶液又は酸性水溶液が収容されており、原液槽2の水溶液を原液に添加することにより、原液槽のpHを調整することができる。アルカリ性の水溶液としては、特に制限されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの水溶液が挙げられる。酸性の水溶液としては、特に制限されないが、塩酸、硫酸などの鉱酸の水溶液が挙げられる。pH調整に原液を添加しても良い。
【0040】
なお、原液には、前処理によってあらかじめヨウ素を有する無機陰イオン、及びヨウ素を有する無機陰イオン以外の成分(不純物等)を減らしてから電気透析を行ってもよい。ヨウ素を含む有機物やフッ素を含む有機物を、あらかじめ無機ヨウ素化合物や無機フッ素化合物に変換してから電気透析を行っても良い。
【0041】
電気透析装置1は、陽極8を有する電極室(陽極室)と、陰極9を有する電極室(陰極室)と、陽極室と陽イオン交換膜6で仕切られた濃縮室11と、陰極室と陽イオン交換膜6で仕切られた脱塩室10とを備える電気透析槽20を有する。脱塩室10と濃縮室11とは、陰イオン交換膜7で仕切られている。陰極室及び陽極室には極性液が収容されている。極性液としては、特に限定されないが、硫酸水素ナトリウム水溶液、硫酸カリウム水溶液等が挙げられる。
【0042】
陰イオン交換膜としては、特に制限はなく、強塩基性陰イオン交換膜等が使用できる。陰イオン交換膜としては、強塩基性陰イオン交換膜が好ましい。強塩基性陰イオン交換膜は、イオン交換基として第四級アンモニウム基を有するものであってよい。また、陰イオン交換膜としては、一価イオン選択透過陰イオン交換膜、全透過性の陰イオン交換膜、高強度耐アルカリ陰イオン交換膜を使用してもよく、一価イオン選択透過陰イオン交換膜であると好ましい。より具体的には、スチレン-ジビニルベンゼンを基本骨格とした基材膜(スチレン-ジビニルベンゼン系基材膜)に強塩基性陰イオン交換基である四級アンモニウム基を導入した陰イオン交換膜が使用できる。陰イオン交換膜の市販品としては、AGCエンジニアリング株式会社製のセレミオン(登録商標)AMV、セレミオン(登録商標)AMT、一価陰イオン選択膜であるセレミオン(登録商標)ASV等が使用できる。また、株式会社アストム製のネオセプタ(登録商標)ASE(全透過性の陰イオン交換膜)、一価陰イオン選択膜ACS、ネオセプタ(登録商標)AXP-D等も使用できる。
【0043】
陽イオン交換膜としては、特に制限はなく、強酸性陽イオン交換膜、高強度耐アルカリ陽イオン交換膜等を使用できる。また、陽イオン交換膜は、一価イオン選択透過陽イオン交換膜であってもよい。より具体的には、スチレン-ジビニルベンゼンを基本骨格とした基材膜(スチレン-ジビニルベンゼン系基材膜)に強酸性陽イオン交換基であるスルホン酸基を導入した陽イオン交換膜が使用できる。陽イオン交換膜の市販品としては、AGCエンジニアリング株式会社製のセレミオン(登録商標)CMV、セレミオン(登録商標)CMB等が使用できる。また、株式会社アストム製のネオセプタ(登録商標)CSE、ネオセプタ(登録商標)CMB等も使用できる。
【0044】
原液槽2に収容される原液は、配管を通じて脱塩室10に移送される。これにより、脱塩室10には、フッ化水素酸のpKa以上のpHを有する原液を含有する原液が収容される。なお、脱塩室10に連続的に原液を供給しながら、連続的に脱塩液を排出する連続運転を行ってもよい。連続運転する際には適宜濃縮液を抜き出して、電解液を供給してもよい。脱塩室に収容又は流通される水溶液を脱塩液と呼ぶ。
【0045】
電気透析前には、濃縮室11には、電解液が収容されている。電解液としては特に制限はないが、例えば、塩化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムの水溶液等が挙げられる。
【0046】
電気透析の運転条件としては特に制限されないが、予め原液中のヨウ素を有する無機陰イオン、及びフッ素を有する無機陰イオンの濃度を測り、濃縮室側への移動に要する電気量を算出しておけば、各成分を分画分取するための運転条件の参考にすることができる。共存イオンの種類や濃度、ヨウ素回収装置側の受け入れ条件などを勘案しながら、予め予備実験等により、濃縮室側に移動するイオンの濃度の経時変化を分析し、電気透析装置の運転条件を決定することがさらに好ましい。
【0047】
電気透析を行っている間、ヨウ素を有する無機陰イオンとフッ素を有する無機陰イオンとの分離能を高める観点から、脱塩液のpHは、フッ化水素酸のpKa以上に維持されていると好ましく、4以上に維持されているとより好ましく、4.5以上に維持されているとさらに好ましく、8以上であると更に好ましく、10以上であると特に好ましい。なお、原液のpHは、脱塩室10に導入された際にフッ化水素酸のpKa未満であっても、初期運転によりフッ化水素酸のpKa以上に調整してもよい。
【0048】
濃縮室11には、ヨウ素を有する無機陰イオンが流出して第1の濃縮液が生成する。当該第1の濃縮液をヨウ素化合物含有水溶液として回収してもよい。第1の濃縮液には、フッ素を有する無機陰イオンが含まれないことが好ましいが、微量に含まれていてもよい。例えば、濃縮室側のフッ素を含む無機陰イオンの濃度は、5.0mM以下であると好ましく、2.0mM以下であるとより好ましく、1.0mM以下であると更に好ましく、1.0mM以下であると更に好ましく、0.5mM以下であると非常に好ましく、0.1mM以下であると更に非常に好ましい。
第1の濃縮液は、濃縮室11から移送され、第1の濃縮液槽3に収容される。第1の濃縮液は、第1の濃縮液槽3から濃縮室11に返送されて更に電気透析を行って、ヨウ素を有する無機陰イオンの濃度を高めてもよい。
【0049】
電気透析を長時間行うと、脱塩室のヨウ素を有する無機陰イオンの濃度が低下し、フッ素を有する無機陰イオンも陰イオン交換膜のイオン交換基に吸着しやすくなり、濃縮室11のヨウ素化合物含有水溶液におけるフッ素を有する無機陰イオンの濃度が高まる。そのため、濃縮室11のヨウ素化合物含有水溶液におけるフッ素を有する無機陰イオンの濃度を監視し、濃縮室11のヨウ素化合物含有水溶液におけるフッ素を有する無機陰イオンの濃度が予め定めた所定の下限値(第1の下限値)を超えたところから、濃縮室11のヨウ素化合物含有水溶液を第2の濃縮液として、第1の濃縮液とは別に第2の濃縮液槽4に分取してもよい。所定の下限値としては、例えば、濃縮液のフッ素元素の濃度として1g/Lとすることができる。濃縮室11のヨウ素化合物含有水溶液におけるフッ素を有する無機陰イオンの濃度を監視する方法としては、例えば、一定時間(例えば、一時間)ごとに濃縮室11のヨウ素化合物含有水溶液におけるフッ素を有する無機陰イオンの濃度を測定する方法が挙げられる。第2の濃縮液は、原液槽2に返送して、原液槽2に含まれる原液と混合して、再度脱塩室10に移送して電気透析を行ってよい。
【0050】
また、更に脱塩が進行すると、濃縮室11のヨウ素化合物含有水溶液におけるフッ素を有する無機陰イオンの濃度が更に高まる。そのため、濃縮室11のヨウ素化合物含有水溶液におけるフッ素を有する無機陰イオンの濃度を監視し、濃縮室11のヨウ素化合物含有水溶液におけるフッ素を有する無機陰イオンの濃度が、予め定めた第1の下限値よりも大きい所定の下限値(第2の下限値)を超えたところから、濃縮室11のヨウ素化合物含有水溶液を第3の濃縮液として、第1及び第2の濃縮液とは別に第3の濃縮液槽5に分取する。なお、第2濃縮液槽に加えて第3濃縮液槽を設けるかどうかは、原液の組成や回収用途に受け入れ可能な純度かどうかなどを考慮し、予め予備実験等により決めることができる。
【0051】
脱塩液は、電気透析後に原液槽2に返送してよい。脱塩液は、電気透析前の原液と混合して脱塩室10に移送し、再度電気透析を行ってよく、電気透析前の原液と混合は、原液槽2内で行ってもよい。電気透析を繰り返した脱塩液(フッ素化合物含有水溶液)は、ヨウ素を有する無機陰イオンの濃度が十分に下がっており、上述のとおり、フッ素を有する無機陰イオンを、陰イオン交換膜を透過させて濃縮液側に流出させることができる。これによりフッ素化合物含有水溶液の精製が行える。濃縮液として得られたヨウ素化合物含有水溶液は複数回電気透析を行ってもよい。複数回電気透析を行うことによって、よりフッ素の元素濃度が低いヨウ素化合物含有水溶液を得ることができる。なお、フッ素化合物としては、フッ素を有する無機陰イオンの共役酸(フッ化水素等)、フッ素を有する無機陰イオンと原液又は極性液に含まれるカチオンとの塩であってよい。
【0052】
本実施形態の製造方法は、得られたヨウ素化合物含有水溶液にフッ素化合物を選択的に吸着する樹脂(フッ素吸着剤)と接触させる精製工程を更に備えていてよい。これにより、ヨウ素化合物含有水溶液に原液に含まれるフッ素を有する無機陰イオンに由来する微量のフッ素化合物が含まれている場合であっても、そのようなフッ素化合物を除去することができる。フッ素吸着剤としては、水酸化セリウム、水酸化ジルコニウム等を担持した樹脂(つまり、水酸化セリウム、水酸化ジルコニウム等に由来する官能基を有する樹脂)であってよい。また、フッ素吸着材の形状は、特に制限はなく、膜状、繊維状、粉末(ペレット)状等であってよい。フッ素吸着材は、成型加工が容易であり、吸着塔方式以外の吸着方式が可能であることから、繊維であることが好ましい。精製工程は、上記第1~第3の濃縮液のいずれに行ってもよい。フッ素吸着剤としては、市販品であってよく、市販品としては、株式会社日本海水製のREAD-F、READ-F(HG)、READ-F(PG))等が挙げられる。
本実施形態の製造方法では、第1の濃縮液に再度電気透析を行って第1の濃縮液に含まれるフッ素の濃度を更に低減してもよい(第2の分離工程)。具体的には、第1の濃縮液を濃縮室11に返送して再度電気透析を行ってもよく、原液槽2に返送して、再度脱塩室10に移送して再度電気透析を行ってもよい。あるいは、濃縮室11からヨウ素化合物含有水溶液を別の電気透析槽(第2の電気透析槽)の脱塩室、又は別途用意した第2の原液室を経由して第2の電気透析槽に移送し、当該別の電気透析槽において電気透析を行ってもよい。
【0053】
濃縮液であるヨウ素化合物含有水溶液に含まれるヨウ素化合物としては、特に限定されないが、ヨウ素を含む塩であってよく、ヨウ化物塩及びヨウ素酸塩の少なくとも一方であってよい。ヨウ素を含む塩に含まれるヨウ素を有する無機陰イオンとしては、原液に含まれるものと同じものであり、ヨウ素を含む塩に含まれるカチオンとしては、極性液又は濃縮室11の電解液として使用した電解質に含まれる陽イオンであってよい。
【0054】
また、ヨウ素化合物は、ヨウ化水素酸であってよい。本実施形態の製造方法でヨウ化水素酸を製造する場合、バイポーラ膜を使用してよい。例えば、電気透析室において、陰イオン交換膜の陽極側及び陰極側にそれぞれバイポーラ膜を配置することができる。この場合、陽極側のバイポーラ膜と陰イオン交換膜に挟まれた領域を濃縮室とし、陰極側のバイポーラ膜と陰イオン交換膜に挟まれた領域を脱塩室とした電気透析装置を用いて電気透析を行うと、濃縮液では水素イオンが発生してヨウ化水素が生成する。脱塩室側には水酸化物イオンが放出されるため、陰イオン交換膜を通じて水酸化物イオンが濃縮液に移動しても濃縮室のpHを低く、脱塩室のpHを高く維持できる傾向にある。
【0055】
なお、
図1では、一つの陰イオン交換膜を二つの陽イオン交換膜を使用しているが、陽極側から二つ以上の陽イオン交換膜と、二つ以上の陰イオン交換膜とを交互に配置して脱塩室及び濃縮室を複数設けた構成としてもよい。また、3つ以上の液と室を設けて、置換電気透析を行ってもよい。
【0056】
また、濃縮液におけるフッ素を有する無機陰イオンのモル濃度(FR)に対するヨウ素を有する無機陰イオン(IR)のモル濃度の比(IR/FR)と、上述のIs/Fsとの比((IR/FR)/(Is/Fs)、以下、分離度とも呼ぶ。)を測定することにより、フッ素を有する無機陰イオンとヨウ素を有する無機陰イオンとの分離の指標とすることもできる。分離度は、ヨウ素化合物含有水溶液を回収する際に、例えば、10以上であると好ましく、50以上であるとより好ましく、100以上であると更に好ましい。電気透析の初期段階では、ヨウ素を有する無機陰イオンの濃縮室側への流出量がわずかであり、分子状のフッ化水素等のフッ素を含む分子状化合物の濃縮室側への流出もあるため、分離度は低くなるが、時間の経過と共にヨウ素を有する無機陰イオンの濃縮室側への流出量が増大する。その後脱塩液におけるヨウ素を有する無機陰イオンの濃度が低下すると、フッ素を有する無機陰イオンの濃縮室側への流出量が増大し、濃縮室側の分離度は低下する。そのため、例えば、予め予備運転で時間ごとの分離度を求めておき、分離度が極大となる時間を求め、所定時間を経過したところで、濃縮液を回収することができる。
【0057】
なお、電気透析後に脱塩室に残る脱塩液をフッ素化合物含有水溶液として回収してもよい。脱塩室に残るフッ素化合物含有水溶液には、更に電気透析を行って、フッ素を有する無機陰イオンを濃縮室側に移動することにより、非イオン性の有機化合物等と分離することにより精製して濃縮液として回収してもよい。
【0058】
得られた濃縮液中のヨウ素化合物の濃度とフッ素化合物の濃度によっては、得られたヨウ素化合物含有水溶液中に含まれるフッ素化合物を強塩基性陰イオン交換樹脂で吸着してもよい。このように強塩基性陰イオン交換樹脂を用いるかどうかの判断は、濃縮室から排出されるヨウ素化合物含有水溶液の濃度を監視して判断してもよく、ヨウ素化合物含有水溶液におけるフッ素化合物の濃度が予め定めた所定の下限値を超えた時から、ヨウ素化合物含有水溶液を、それ以前に回収したヨウ素化合物含有水溶液と別に分取して、分取したヨウ素化合物含有水溶液だけに強塩基性陰イオン交換樹脂を接触させてもよい。
強塩基性陰イオン交換樹脂は市販されているものを使用できる。ヨウ素化合物含有水溶液がフッ素化合物を含有する場合、水溶液中に含まれるフッ素化合物を強塩基性陰イオン交換樹脂で吸着することで、ヨウ素化合物の純度を高めたヨウ素化合物含有水溶液を精製してもよい。このように濃縮液中のヨウ素化合物の濃度とフッ素化合物の濃度に応じて、適宜、吸着材を用いることによって、ヨウ素化合物の回収率を上げると同時にホウ素化合物の回収率を上げることができる。
フッ素吸着剤や強塩基性陰イオン交換樹脂など精製に使用した吸着材は、所定の吸着容量に達すれば、再生する必要がある。再生する場合は、再生剤としてアルカリを使用できる。再生条件は、実験室等における予備実験で確認できる。例えば、フッ素吸着剤は濃度2%NaOH水溶液で再生を行うが、アルカリ廃液に含まれるフッ素及びヨウ素の濃度を勘案しながら、例えば原液槽に返送するなど再生廃液の回収先を決定することができる。
なお、ヨウ素化合物含有水溶液にフッ素を含む無機陰イオンと不溶性又は難溶性の塩をする陽イオンを添加することによりヨウ素化合物含有水溶液を精製してもよい。フッ素化合物含有水溶液にヨウ素を含む無機陰イオンと不溶性又は難溶性の塩をする陽イオンを添加することによりフッ素化合物含有水溶液を精製してもよい。
【0059】
以上、ヨウ素を有する無機陰イオン及びフッ素を有する無機陰イオンを含有する原液について説明したが、本実施形態の方法は、ヨウ素を有する無機陰イオン以外の無機陰イオン及びフッ素を有する無機陰イオンを含有する原液にも拡張することができる。実際に本発明者が検討したところ、電気透析による、濃縮室側への陰イオン交換膜を隔てた無機陰イオンの移動速度は、以下の順になることが分かっている(左側にあるイオンほど移動速度が大きい)。
I3
->I->NO3
->S2O3
2->Br->Cl->SO4
2->HPO4
2->OH->F-
【0060】
すなわち、本実施形態の方法は、脱塩室、及び当該脱塩室と陰イオン交換膜により仕切られた濃縮室を備える電気透析槽において、フッ素を有する無機陰イオン及びフッ素を有する無機陰イオン以外の無機陰イオン(A)を含有し、脱塩室内に収容されている原液に電気透析を行って無機陰イオン(A)を含有する無機化合物含有水溶液を得る工程を備え、原液が、フッ化水素酸のpKa以上のpHを有し、原液におけるフッ素を有する無機陰イオンの濃度が0.1mM以上であってよい。この場合、電気透析装置1としては、上述のものと同じものを使用でき、同様の方法により実行できる。原液におけるフッ素を有する無機陰イオンの濃度は、0.25mM以上であってよく、1.0mM以上であってよく、2.0mM以上であってよく、5.0mM以上であってよく、10.0mM以上であってよく、100.0mM以上であってよく、500.0mM以上であってよく、1.0M以上であってもよい。
【0061】
無機陰イオン(A)としては、塩素を有する無機陰イオン、臭素を有する無機陰イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、テトラチオン酸イオン、その他硫黄のオキソ酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、硫化物イオン、硫化水素イオン、シアン化物イオン等が挙げられ、塩素を有する無機陰イオン、臭素を有する無機陰イオンが好ましい。
【0062】
塩素を有する無機陰イオンとしては、塩化物イオン(Cl-);塩素酸イオン(ClO3
-)、次亜塩素酸イオン(ClO-)等の塩素のオキソ酸イオン等が挙げられる。臭素を有する無機陰イオンとしては、臭化物イオン(Br-);臭素酸イオン(BrO3
-)、次亜臭素酸イオン(BrO-)等の塩素のオキソ酸イオン等が挙げられる。また、I2Cl-、I3
-、ICl2
-、I2Br-、IBr2
-などのフッ素を含まないポリハロゲン化物イオンであってもよい。なお、ポリハロゲン化物イオンは、フッ素を含まないものである。原液が塩素を有する無機陰イオン、又は臭素を有する無機陰イオンを含む場合、本実施形態の方法により、塩素化合物含有水溶液、又は臭素化合物含有水溶液が得られる。
【0063】
なお、原液における無機陰イオン(A)の含有量は、無機陰イオン(A)が完全に電離して原液中に存在しているものと仮定した含有量である。そのため、例えば、弱酸の遊離により原液中に無機陰イオン(A)の一部が共役酸の状態で存在していたとしても、当該共役酸も無機陰イオン(A)に含まれるものとして計算する。
【0064】
また、本実施形態の無機化合物含有水溶液の製造方法は、脱塩室、及び当該脱塩室と陰イオン交換膜により仕切られた濃縮室を備える電気透析槽において、フッ化物イオン及び無機陰イオン(B)を含有し、脱塩室内に収容されている原液に電気透析を行って無機陰イオン(B)を含有する無機化合物含有水溶液を得る工程を備え、原液が、フッ化水素酸のpKa以上のpHを有し、原液におけるフッ化物イオンの濃度がmM以上であってよい。この場合、電気透析装置1としては、上述のものと同じものを使用でき、同様の方法により実行できる。無機陰イオン(B)としては、上記ヨウ素を有する無機陰イオン、及び上記無機陰イオン(A)が挙げられ、無機陰イオン(B)が、ヨウ素を有する無機陰イオンであることが好ましく、ヨウ化物イオンであることが好ましい。原液におけるフッ化物イオンの濃度は、0.10mM以上であってよく、0.20mM以上であってよく、0.25mM以上であってよく、1.0mM以上であってよく、2.0mM以上であってよく、5.0mM以上であってよく、10.0mM以上であってよく、100.0mM以上であってよく、500.0mM以上であってよく、1.0M以上であってもよい。
【0065】
本実施形態の方法は、ヨウ素を有する無機陰イオンと無機陰イオン(A)のイオンを含有する原液に対しても同様に適用できる。すなわち、本発明の他の実施形態は、脱塩室、及び当該脱塩室と陰イオン交換膜により仕切られた濃縮室を備える電気透析槽において、ヨウ素を有する無機陰イオンと、少なくとも一種の上記無機陰イオン(A)(塩素を有する無機陰イオン、臭素を有する無機陰イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、テトラチオン酸イオン、その他硫黄のオキソ酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、硫化物イオン、硫化水素イオン、シアン化物イオン等)とを含み、脱塩室内に収容されている原液に電気透析を行い、ヨウ素化合物含有水溶液を製造する方法であってもよい。ヨウ素を有する無機陰イオンとしては上述のものが挙げられる。
原液が以下の条件(i)を満たす、無機化合物含有水溶液の製造方法であってよい。
(i)原液のpHがフッ化水素酸のpKa以上のpHである。
【実施例】
【0066】
<実施例1>
電気透析装置として、アストム株式会社製のマイクロアシライザーEX3Bを使用した。一対の陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜を1ユニットとし、10ユニットの2室法電気透析装置とした。陽イオン交換膜としては、アストム株式会社製の強酸性陽イオン交換膜(アストム株式会社製、商品名:ネオセプタCSE)を用い、陰イオン交換膜としては、一価陰イオン選択膜(商品名:ネオセプタAXP-D)を用いた。有効膜面積は、550cm2であった。
【0067】
表1に示す組成及びpHの原液を用意した。なお、表1において、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、塩化物イオン及びフッ化物イオンは、いずれもカリウム塩を水に溶解させることにより原液に含ませた。pH調整は、水酸化カリウム水溶液により行った。
上記電気透析装置を用いて、原液に電気透析を行った。電気透析の開始から150分経過時点での濃縮液におけるヨウ化物イオン及びフッ化物イオンの濃度をイオンクロマトグラフィー(Thermo Scientific DionexTM イオンクロマトグラフィー(IC))により測定し、分離度を算出した。結果を表2に示す。なお、分離度は、原液におけるヨウ化物イオンとフッ化物イオンのモル濃度比(I/F)に対する、濃縮液におけるヨウ化物イオンとフッ化物イオンのモル濃度比(I/F)の比である。
【0068】
<実施例2>
原液として表1に示す組成及びpHのものを用い、イオン交換膜の1ユニットとしてバイポーラ膜(アストム株式会社製、商品名:ネオセプタBPX-4)及び高強度陰イオン交換膜(アストム株式会社製、商品名:ネオセプタASE)を使用したこと以外は、実施例1と同様に電気透析を行った。電気透析の開始から150分経過時点での分離度を表2に示す。
【0069】
<実施例3>
原液として表1に示す組成及びpHのものを用いたこと以外は、実施例1と同様に電気透析を行った。電気透析の開始から150分の時点での分離度を表2に示す。
【0070】
<比較例1>
原液として表1に示す組成及びpHのものを用いたこと以外は、実施例1と同様に電気透析を行った。電気透析の開始から150分の時点での分離度を表2に示す。
【0071】
【0072】
【0073】
図2は、実施例1について、濃縮液における各ハロゲン化物イオンの物質量及び通電時間との関係を表すグラフである。ここで、各ハロゲン化物イオンの物質量は、イオンクロマトグラフィーで濃縮液における各ハロゲン化物イオンのモル濃度を時刻毎に測定した後、各時刻における測定値にその時刻の濃縮液の体積を乗じた値である。
図2に示すように、ヨウ化物イオンについては、電気透析開始から時間の経過と共にほぼ直線的に濃縮室側でのモル濃度が増加し、150分経過したあたりから原液におけるヨウ化物イオンの濃度の低下に伴い、徐々に濃縮室側への流出量が減り、200分経過したあたりで濃縮室側のヨウ化物イオン濃度がほぼ一定となる。
一方、フッ化物イオンについては、電気透析開始から150分経過したあたりまで、濃縮室側への流出量が非常に少ない。その後、ヨウ化物イオンの流出量の低下に伴い、濃縮室側へのフッ化物イオンの流出量が徐々に増加し、200分を経過したあたりから急激に濃縮室側への流出量が増加する。
このように、ヨウ化物イオン及びフッ化物イオンの濃縮室側への流出のタイミングが大きくずれるため、ヨウ化物イオンとフッ化物イオンとの分離を精度良く行うことができる。
【0074】
比較例1では、電気透析開始直後から濃縮室側へのフッ化物イオンの流出量が大きく、実施例1~3と比較して、分離度が小さかった。
【符号の説明】
【0075】
1…電気透析装置、2…原液槽、3…第1の濃縮液槽、4…第2の濃縮液槽、5…第3の濃縮液槽、6…陽イオン交換膜、7…陰イオン交換膜、8…陽極、9…陰極、10…脱塩室、11…濃縮室、12…pH調整槽、20…電気透析槽。