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特許7076742昇温脱離分析法における液体窒素を用いた冷却機構付低温式昇温炉
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  • 特許-昇温脱離分析法における液体窒素を用いた冷却機構付低温式昇温炉 図1
  • 特許-昇温脱離分析法における液体窒素を用いた冷却機構付低温式昇温炉 図2
  • 特許-昇温脱離分析法における液体窒素を用いた冷却機構付低温式昇温炉 図3
  • 特許-昇温脱離分析法における液体窒素を用いた冷却機構付低温式昇温炉 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】昇温脱離分析法における液体窒素を用いた冷却機構付低温式昇温炉
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/00 20060101AFI20220523BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
G01N25/00 M
G01N17/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019086307
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020180952
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】508116975
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・サイエンス・ラボ
(73)【特許権者】
【識別番号】519157783
【氏名又は名称】広田 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100081282
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 俊輔
(74)【代理人】
【識別番号】100085084
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高英
(74)【代理人】
【識別番号】100117190
【弁理士】
【氏名又は名称】前野 房枝
(72)【発明者】
【氏名】長沢 尚三
(72)【発明者】
【氏名】亀井 聡
(72)【発明者】
【氏名】野中 裕介
(72)【発明者】
【氏名】広田 武司
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-257921(JP,A)
【文献】特開平10-073546(JP,A)
【文献】特開平05-322867(JP,A)
【文献】特開2008-014807(JP,A)
【文献】特開2005-083887(JP,A)
【文献】特開2010-086307(JP,A)
【文献】高井 健一,”水素存在状態と水素脆性”,材料と環境,2011年,Vol.60,No.5,230~235頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00
G01N 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析試料が内部に設置される分析チャンバ内を-100℃から1000℃の所定温度範囲に亘って昇温する昇温脱離分析法における液体窒素を用いた冷却機構付低温式昇温炉であって、
液体窒素を冷却源として前記分析チャンバ内を少なくとも常温から前記所定温度範囲の下限温度まで冷却する冷却機構であって、前記分析試料が設置される前記分析チャンバの直管部分の外周全体を囲む環状の冷却流路と、当該冷却流路に前記冷却源を供給して前記分析チャンバ内を常温から-30℃まで10分以内の速度をもって前記分析試料からの水素放出を抑制しながら-100℃まで冷却させる冷却源供給手段とを備えている冷却機構と、
前記分析チャンバ内を前記所定温度範囲の下限から上限に亘って等速で昇温させる加熱手段であって、前記冷却流路の外周全体を囲むように配置されているとともに、前記冷却流路を通して前記分析チャンバ内に熱量を付与して加熱するように形成されている加熱手段とを有している
ことを特徴とする昇温脱離分析法における液体窒素を用いた冷却機構付低温式昇温炉。
【請求項2】
前記冷却流路および加熱手段は、前記分析チャンバの前記分析試料が設置される位置の直管部分に沿って長尺状に形成されており、前記分析チャンバ内に所定長の均熱領域を形成して加熱するように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の昇温脱離分析法における液体窒素を用いた冷却機構付低温式昇温炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は昇温脱離分析法における液体窒素を用いた冷却機構付低温式昇温炉にかかり、分析試料が内部に設置される分析チャンバ内を零度以下の温度から常温以上の所定温度範囲に亘って昇温するのに好適な昇温脱離分析法における液体窒素を用いた冷却機構付低温式昇温炉に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水素脆性に関わる水素分析方法の1つとして昇温脱離分析法(TDA)が利用されている。
【0003】
この昇温脱離分析法は、鋼材に侵入し遅れ破壊の原因となる水素を、室温から最大1000℃(拡散性水素測定の場合は300℃程度で十分)まで、一定速度で昇温炉を昇温し、温度プロファイル(温度に対する水素放出量)を検証し、鋼材中の水素の存在状態(トラップサイト等)を推測することを可能とする(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-032223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような前記従来方式においては、室温から昇温を開始しているので、室温付近で放出が始まっている拡散性水素については、室温若しくは室温以下における水素放出挙動を検証することができないという不都合があった。
【0006】
そこで、室温以下の水素の挙動を検証するためには炉温度を冷却し、例えば-100℃程度からの低温部の昇温制御ができる方式が必要とされている。
【0007】
しかしながら、炉温度を冷却する場合にも分析試料からの水素放出が予測されるので、その水素放出を抑制しながら炉の冷却を進める必要性がある。
【0008】
また、大きな分析試料についても適正に検証できる装置が望まれていた。
【0009】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、分析試料が内部に設置される分析チャンバ内を零度以下の温度から常温以上の所定温度範囲に亘って昇温することができ、分析試料からの水素放出を抑制しながら所定温度範囲の下限まで冷却することができ、大きな分析試料についても対応することのできる昇温脱離分析法における液体窒素を用いた冷却機構付低温式昇温炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、本発明の第1の態様の昇温脱離分析法における液体窒素を用いた冷却機構付低温式昇温炉は、分析試料が内部に設置される分析チャンバ内を-100℃から1000℃の所定温度範囲に亘って昇温する昇温脱離分析法における液体窒素を用いた冷却機構付低温式昇温炉であって、液体窒素を冷却源として前記分析チャンバ内を少なくとも常温から前記所定温度範囲の下限温度まで冷却する冷却機構であって、前記分析試料が設置される前記分析チャンバの直管部分の外周全体を囲む環状の冷却流路と、当該冷却流路に前記冷却源を供給して前記分析チャンバ内を常温から-30℃まで10分以内の速度をもって前記分析試料からの水素放出を抑制しながら-100℃まで冷却させる冷却源供給手段とを備えている冷却機構と、前記分析チャンバ内を前記所定温度範囲の下限から上限に亘って等速で昇温させる加熱手段であって、前記冷却流路の外周全体を囲むように配置されているとともに、前記冷却流路を通して前記分析チャンバ内に熱量を付与して加熱するように形成されている加熱手段とを有していることを特徴とする。
【0011】
このように本発明は構成されているので、冷却機構において、冷却源供給手段によって冷却源の液体窒素を冷却流路に供給して、分析チャンバ内を常温から所定温度範囲の下限の-100℃まで常温から-30℃まで10分以内の速度をもって分析試料からの水素放出を抑制しながら冷却することができる。更に、冷却流路の外周全体を囲むように配置されている加熱手段によって、冷却機構の冷却流路を通して分析チャンバ内に熱源を供給して分析チャンバ内を所定温度範囲の下限の-100℃から上限の1000℃まで等速で昇温させることができる。
【0016】
また、本発明の第の態様の昇温脱離分析法における液体窒素を用いた冷却機構付低温式昇温炉は、第の態様において、前記冷却流路および加熱手段は、前記分析チャンバの前記分析試料が設置される位置の直管部分に沿って長尺状に形成されており、前記分析チャンバ内に所定長の均熱領域を形成して加熱するように形成されていることを特徴とする。
【0017】
このように本発明は構成されているので、前記分析チャンバ内を所定長の均熱領域を形成して加熱することができ、当該均熱領域に収まる大きな分析試料についても適正に加熱して、水素放出の分析に供することができる。
【発明の効果】
【0018】
このように本発明は分析試料が内部に設置される分析チャンバ内を零度以下の温度から常温以上の所定温度範囲に亘って昇温することができ、分析試料からの水素放出を抑制しながら所定温度範囲の下限まで冷却することができ、大きな分析試料についても対応することのできる昇温脱離分析法における液体窒素を用いた冷却機構付低温式昇温炉を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の1実施形態の全体構成を示すブロック図
図2】本実施形態に基づく昇温特性を示す線図
図3】本実施形態に基づく放出水素量の特性を示す線図
図4】本実施形態に基づく分析チャンバ内の温度分布を示す線図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図1図4について詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の昇温脱離分析法における液体窒素を用いた冷却機構付低温式昇温炉(以下、「低温式昇温炉」という)の1実施形態の全体構成を示している。
【0022】
本実施形態の低温式昇温炉1は、分析試料Sが内部に設置される分析チャンバ2に沿って設けられている。分析チャンバ2は長尺な円筒状の石英管によって形成されており、内部の図示しない試料設置台上に分析試料Sが挿入して設置されるように形成されている。分析チャンバ2の図1の左側開口よりパージアルゴンが供給され、右側開口より図示しない分析手段に向けて分析試料Sより放出された水素等の被検出成分が送出される。
【0023】
本実施例の低温式昇温炉1は、分析試料Sが内部に設置される分析チャンバ2内を零度以下の温度から常温以上の所定温度範囲に亘って昇温して昇温脱離分析法を実行する低温式昇温炉であり、液体窒素を冷却源として分析チャンバ2内を少なくとも常温から前記所定温度範囲の下限温度まで所定冷却速度(所定冷却速度とは、冷却目的に応じた冷却速度を意味し、早期の冷却を目的とする急速急冷や、一定速度の冷却を含み、予め冷却目的に応じて適正な冷却速度を設定しておくとよい。)で冷却する冷却機構3と、前記所定温度範囲の下限から上限に亘って等速で昇温させる加熱手段4とを有している。本実施形態の所定温度範囲は-100℃から1000℃としている。
【0024】
一方の冷却機構3は、分析試料Sが設置される分析チャンバ2の直管部分の外周を同心円状に囲む長尺な環状の冷却流路3aと、当該冷却流路3aに液体窒素からなる冷却源を供給して分析チャンバ2内を冷却させる冷却源供給手段3bとを備えている。
【0025】
他方の加熱手段4は、冷却流路3aの外側に同心円状に配置されている長尺な公知のヒータからなる加熱源をもって形成されており、冷却流路3aを通して真空チャンバ2内に熱量を付与して加熱するように形成されている。
【0026】
更に説明すると、分析チャンバ2の分析試料Sが設置される位置の直管部分に沿って所定長の長尺筒状の昇温炉筐体1aが設置されている。この昇温炉筐体1aには、それぞれ所定長の冷却流路3aおよび加熱手段4が適宜な仕切をもって同心円上に配置されている。
【0027】
冷却源供給手段3bにおいては、例えばデュワー瓶からなる液体窒素容器5内の液体窒素を冷却源として備えている。本実施形態においては、液体窒素を液体状ではなく冷気窒素ガス状として冷却流路3aに供給するための冷媒供給路6が液体窒素容器5の上部開口と冷却流路3aとの間に設けられている。冷媒供給路6には必要箇所に断熱カバー6aが付されている。液体窒素容器5内には放熱フィンを付けたカートリッジヒータ7が設置されており、温度調節器8からの指示によってカートリッジヒータ7を加熱することによって液体窒素を気化させ、気化による自圧によって冷気窒素ガスを冷却流路3aに供給するように形成されている。冷媒供給路6の途中には、冷気窒素ガスの供給状態を適正に制御するための窒素制御ユニット9が設けられている。具体的には冷媒供給路6の途中に供給遮断を可能とするストップ弁10が設置されており、そのストップ弁10の上流側の位置に必要に応じて冷気窒素ガスを系外に放出可能とする安全弁11および逃がし弁12が設置されている。
【0028】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0029】
<低温式昇温炉の冷却>
分析試料Sを分析チャンバ2の試料設置台上に設置した状態で分析チャンバ2内にパージアルゴンを供給して微加圧状態にする。
【0030】
その後、冷却機構3の冷却供給手段3bの温度調節器8によってカートリッジヒータ7を加熱させて液体窒素容器5内の液体窒素を定量的に所定速度で気化させる。液体窒素の気化によって発生した冷気窒素ガスは自圧によって冷媒供給路6を通ると共に、窒素制御ユニット9をもって適正速度に調整されて冷却流路3aに供給される。冷却流路3a内を流通する冷気窒素ガスは、分析チャンバ2内および分析試料Sを常温(室温)から-100℃まで急速に冷却させて分析試料Sからの温度降下時における水素放出を抑制する。本実施形態においては、液体窒素を冷却源としているために急速冷却が可能である。特に、低温領域の拡散性水素では室温から-30℃まで10分以内で冷却することが望まれているが、本実施形態によれば、常温(室温)から-100℃まで急速冷却することによって低温領域の拡散性水素の放出を確実に防止することができる。
【0031】
<低温式昇温炉の昇温>
分析チャンバ2内および分析試料Sが-100℃に冷却された後に、加熱手段4のヒータを稼働させて熱量を発生させて、冷却流路3aを通して分析チャンバ2に向けて熱量を供給する。この熱量の供給量は冷却流路3a内の冷気窒素ガスの存在を考慮してバランスを取りながら分析チャンバ2および分析試料Sが等速に昇温する量に制御される。
【0032】
これにより例えば図2に示すように、分析チャンバ2および分析試料Sは100℃/時の昇温速度をもって、例えば-100℃~200℃の間を等速昇温される。この-100℃からの昇温は、一般的な室温からの昇温と変わらない直線性を可能としている。その場合における分析試料Sからの放出水素量は、例えば図3に示すように、50℃をピークとする正規分布となり、適正な水素放出の検出が可能となる。この昇温条件は昇温目的に応じて変更するとよい。
【0033】
また、本実施形態においては、冷却流路3aおよび加熱手段4が、分析チャンバ2の分析試料Sが設置される位置の直管部分に沿って所定長に亘って長尺状に形成されているので、分析チャンバ2内に所定長の均熱領域を形成して加熱することができる。具体的には、分析チャンバ2の長さ200mmに亘って-100℃、0℃、100℃、200℃、400℃、800℃についての長手方向の温度分布を計測すると、図4に示すように、設定値±5℃の範囲内の均熱領域が少なくとも50mmに亘って形成されている。これにより本実施形態によれば、当該均熱領域に収まる大きな分析試料Sについても適正に加熱して、水素放出の分析に供することができる。更に、-100℃の低温領域から最大1000℃の高温領域に亘って等速昇温ができるので、拡散性水素/非拡散性水素のすべてに対応できる広範囲な温度領域での測定が可能である。
【0034】
本実施形態においては、温度調節器8および窒素制御ユニット9をもって適正量の冷気窒素ガスを供給するものであるから、冷却源の液体窒素消費量も比較的少量に抑えることができ、1回の測定に要する液体窒素量は例えば、2.5~3L(2.5~3kg)であり、更に、液体窒素が減少した場合に、液体窒素容器7内で空焚きしないよう、また冷気窒素ガスの圧力が上昇しすぎた場合はバイパス流路より排気することができるので安全性が高い。
【0035】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 低温式昇温炉
2 分析チャンバ
3 冷却機
3a 冷却流路
3b 冷却源供給手段
4 加熱手段
5 液体窒素容器
8 温度調節器
9 窒素制御ユニット
図1
図2
図3
図4