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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】靴
(51)【国際特許分類】
   A43B 11/00 20060101AFI20220523BHJP
   A43B 23/02 20060101ALI20220523BHJP
   A43B 23/26 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
A43B11/00
A43B23/02 105A
A43B23/26
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020207820
(22)【出願日】2020-12-15
【審査請求日】2020-12-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500497009
【氏名又は名称】株式会社モードナカムラ
(74)【代理人】
【識別番号】100085291
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥巣 実
(74)【代理人】
【識別番号】100117798
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 慎一
(74)【代理人】
【識別番号】100166899
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥巣 慶太
(74)【代理人】
【識別番号】100221006
【弁理士】
【氏名又は名称】金澤 一磨
(72)【発明者】
【氏名】中村 正
(72)【発明者】
【氏名】中村 和成
【審査官】渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-028107(JP,A)
【文献】実開昭60-160701(JP,U)
【文献】特開2007-090040(JP,A)
【文献】特開2013-048852(JP,A)
【文献】実開昭60-193108(JP,U)
【文献】実公昭48-025860(JP,Y1)
【文献】実開平07-021336(JP,U)
【文献】特開2006-212429(JP,A)
【文献】実公昭36-020046(JP,Y1)
【文献】実公昭43-023164(JP,Y1)
【文献】実開平06-086525(JP,U)
【文献】実開昭48-097143(JP,U)
【文献】実開昭48-057247(JP,U)
【文献】米国特許第03952430(US,A)
【文献】登録実用新案第3002596(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 1/00-23/30
A43C 1/00-19/00
A43D 1/00-999/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アッパーと、踵部分にカウンターとを備え、
前記カウンターは、硬質の材料から形成され、
前記アッパーは、履き口の前方に臨む切り欠き部と、前記切り欠き部に、足の甲部に対応する位置に掛け渡して設けられる、左右方向に延びる帯状のゴムバンドと、前記ゴムバンドが左右方向に伸縮可能なように覆う覆いと、を有し、
前記ゴムバンドは、左右両端部が前記アッパーに縫着される一方、上縁及び下縁は縫着されておらず、
前記覆いは、
前記ゴムバンドの上縁付近で、前記ゴムバンドを包むように折り曲げられていて、
一端が前記履き口に入り込み、前記アッパーの前側部分の裏側に縫着され、
前記履き口から外側にでて、前記ゴムバンドの上縁付近で折り曲げられ、
他端が前記アッパーの前記前側部分の表側に縫着されていて、
前記一端と他端のみが前記アッパーに縫着されており、
前記覆いの一端又は他端が、前記前側部分の後縁から前方1cm以上5cm以内の位置に縫着されていることを特徴とする、靴。
【請求項2】
前記アッパーは、
前記ゴムバンドの両端に縫着される一対の片部を有し、
前記片部の下縁が開放されている、
請求項1記載の靴。
【請求項3】
前記片部は、アッパーと一体に形成されている、
請求項2記載の靴。
【請求項4】
前記アッパーは、前側部分と後側部分とを備え、
前記一対の片部が、前記後側部分の一部であり、該一対の片部の端部がそれぞれ該後側部分の左右側縁を構成し、該一対の片部の下縁は該後側部分の前縁の一部を構成する、
請求項2又は3記載の靴。
【請求項5】
前記後側部分の前縁と前記前側部分の後縁とは、該後側部分における前記一対の片部の下縁及び該前側部分における該一対の片部の下縁に対応する前縁を除く部分で縫着され、
前記前側部分の後縁と、前記後側部分の前記左右側縁とで、前記切り欠き部を形成する、
請求項4記載の靴。
【請求項6】
前記覆いはシート状で、その幅は前記ゴムバンドの長さよりも大きい、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の靴。
【請求項7】
前記切り欠き部は、3.5cm~4.5cmの幅である、
請求項に記載の靴。
【請求項8】
前記一対の片部を含む前記アッパーの表皮の内側に裏皮が設けられ、
前記片部の裏皮と表皮との間に、前記ゴムバンドの端部が挟まれて縫着されている、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の靴。
【請求項9】
前記カウンターは、ホットメルトによるカウンターよりも硬度が高い材料からなる、
請求項1乃至のいずれか1項記載の靴。
【請求項10】
前記アッパーの踵部分の上縁に、クッション材が設けられている、
請求項1乃至のいずれか1項記載の靴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱ぎ履きがしやすく、歩行中も脱げにくい靴に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、機能性のある靴は多数存在している。例えば、一般的な婦人靴や紳士靴でもその踵の内側に、天然皮革や合成皮革等のシート部材(すべり部材)が使用されていて、脱ぎ履きが比較的しやすくなっている。ただ、踵部が滑って脱げることを防止するために、靴の踵部分内側に、クッション材が設けられた靴が提案されている(例えば特許文献1,2参照)。
【0003】
また、さらに脱ぎ履きを追求した靴として、幼児用やリハビリ用のシューズなど、面ファスナーやゴムを利用した靴が存在する。特許文献3に記載の靴は、履き口部の一部が切り欠かれていて、爪先側方向に向かって形成されている足挿入用開口部が形成されている。
【0004】
そして、この足挿入用開口部を覆うように、ベルト部を有する舌状当接部が設けられていて、このベルト部は中央に伸縮素材、両側に面ファスナーで構成されており、舌状当接部により足挿入用開口部を覆った後、ベルト部の面ファスナーでアッパーに固定することで、履くことができる。一方、脱ぐ時や履く時は、面ファスナーを外して、舌状当接部を前側に大きく開くことで、履き口が大きくなり脱ぎ履きがしやすい靴である。
【0005】
また、その他、学校の上履きのように履き口が広く形成され、甲部にゴムが渡された靴も存在する。このような靴は、ゴムが伸縮するため、簡単に脱ぎ履きができるように設計されているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-41590号公報
【文献】特開2013-48852号公報
【文献】特開2007-90040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、脱ぎ履きしやすいように構成された靴は従来より数多く存在する。しかしながら、特許文献1,2に記載の靴は、クッション材が靴の踵部内側に局所的に設けられているので、足の踵部の側面にクッション材が局所的に当ることになり、靴が履きづらく、脱ぎづらい。また、踵の内側面にクッション材が部分的に突出するため、靴のデザイン性が損なわれる。
【0008】
また、特許文献3に記載の靴や上履きのような靴は、一見脱ぎ履きしやすいように見えるが、履き時には着用者が座るなどしてゴムや舌状当接部を外すなどしなければうまく履くことができない。さらには、甲部に設けられたゴムが、履いているうちに伸びてくるため、ゴムが伸びてしまうと歩行時に靴が脱げたりするおそれがある。
【0009】
上記の先行技術に鑑み、本願の発明者らは、脱ぎ履きがしやすく、歩行時にも脱げづらい靴を提案すべく鋭意研究のすえ、本願の発明に至ったものである。また、脱ぎ履きしやすいこととして、可能な限り立ったまま脱ぎ履きが可能な靴を目指した。
【0010】
発明者らは、上記の靴の開発に立ち、次のことが重要であることを突き止めた。
・履き口に伸縮性をもたせるなどして大きく開かせること(脱ぎ履き容易)
・一方、履いた後は甲を保持すること(歩行安定)
・履き口の伸縮性が伸びてバカにならないこと(歩行安定)
・踵をしっかり安定させること(脱ぎ履き容易及び歩行安定)
【0011】
一方、発明者らは以下の点が障害となる要素であることを勘案した。
・ゴムなどの素材は一定以上の伸縮をさせるとバカになりやすいこと
・天然皮革、合成皮革問わず革も伸びやすいこと。
【0012】
そして、発明者らは、上記の要素を踏まえ、靴のデザイン性にも考慮したうえ、脱ぎ履きがしやすく、歩行時も脱げづらく安定した本願発明の靴を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成すべく、本発明の一の態様にかかる靴は、アッパーと、踵部分にカウンターとを備え、前記カウンターは、硬質の材料から形成され、前記アッパーは、履き口の前方に臨む切り欠き部と、前記切り欠き部に、足の甲部に対応する位置に掛け渡して設けられる、左右方向に延びる帯状のゴムバンドと、前記ゴムバンドが左右方向に伸縮可能なように覆う覆いとを有し、前記ゴムバンドは、左右両端部が前記アッパーに縫着される一方、上縁及び下縁は縫着されておらず、前記覆いは、前記ゴムバンドの上縁付近で、前記ゴムバンドを包むように折り曲げられていて、一端が前記履き口に入り込み、前記アッパーの前側部分の裏側に縫着され、前記履き口から外側にでて、前記ゴムバンドの上縁付近で折り曲げられ、他端が前記アッパーの前記前側部分の表側に縫着されていて、前記一端と他端のみが前記アッパーに縫着されており、前記覆いの一端又は他端が、前記前側部分の後縁から前方1cm以上5cm以内の位置に縫着されていることを特徴とする。
【0014】
このようにすれば、足の踵部をしっかりと支える硬質のカウンターと、足の甲部を弾性的に押さえるゴムバンドとの併用により、簡単に履けて、歩行中は脱げにくく、脱ぎやすい。また、ゴムバンドを覆う覆いの存在により、ゴムバンドが露出せずデザイン性も損なわれない。また、覆いの存在によって、ゴムバンド及びアッパーの伸びが制約されるので、ゴムバンドが伸びきることなく歩行も継続して安定する。ここで、ゴムバンドが左右方向に伸縮可能なように覆うとは、ゴムバンドの伸縮が完全に機能しない形では覆わないことをいう。
【0015】
また、この靴は、前記アッパーが前記ゴムバンドの両端に縫着される一対の片部を有し、前記片部の下縁が開放されている。ここで、前記片部の下縁が開放されているとは、片部の下側の縁がアッパーに縫着されていないことをいう。
【0016】
このようにすれば、単にアッパーの両側を渡すようにゴムバンドを長く構成する場合よりも、片部を介してゴムバンドが設けられているので、ゴムバンドを従来の上履きよりも短く構成でき、伸びを制約することができる。また、片部の動きはゴム素材よりも制約されるので、ゴムなどの伸びを制約させることができ、また履いた時の安定性も向上する。
【0017】
また、この靴は、前記片部がアッパーと一体に形成されている。このようにすれば、片部の動きをより制約することができ、履いた時の安定性がより向上する。
【0018】
また、この靴は、前記アッパーが前側部分と後側部分とを備え、前記一対の片部が前記後側部分の一部であり、該一対の片部の端部がそれぞれ該後側部分の左右側縁を構成し、該一対の片部の下縁は該後側部分の前縁の一部を構成する。このようにすれば、アッパーが前側部分と後側部分に分けられていることにより、この靴の製造がしやすい。
【0019】
また、この靴は、前記後側部分の前縁と前記前側部分の後縁とが、該後側部分における前記一対の片部の下縁及び該前側部分における該一対の片部の下縁に対応する前縁を除く部分で縫着され、前記前側部分の後縁と、前記後側部分の前記左右側縁とで、前記切り欠き部を形成する。このようにすれば、片部を除く部分でしっかりとアッパーの前側部分と後側部分が縫着されることで靴の強度を確保することができる。
【0020】
また、この靴は、前記覆いが、前記ゴムバンドの上縁付近で、前記ゴムバンドを包むように折り曲げられている。また、前記覆いはシート状で、その幅は前記ゴムバンドの長さよりも大きい。このようにすれば、ゴムバンドによって見栄えを損ねることがなく、ゴムバンドの弾性も損なわれることがない。
【0021】
また、この靴は、前記切り欠き部が3.5cm~4.5cmの幅である。切り欠き部の幅が3.5cm~4.5cmとは、言い換えればそこに設けられるゴムバンドの長さに対応する。このようにすれば、ゴムバンドが長い場合に比べてゴムが伸びきらないこと、また人の甲を上側から押圧するのに必要な弾性力も確保できる。
【0022】
また、この靴は、前記覆いが、一端が前記履き口に入り込み、前記アッパーの前記前側部分の裏側に縫着され、前記履き口から外側にでて、前記ゴムバンドの上縁付近で折り曲げられ、他端が前記アッパーの前記前側部分の表側に縫着されている。このようにすれば、覆いをデザイン性を損ねることなく取り付けることができ、また覆いの縫着によって、ゴムバンド及び革の伸縮を制約することができる。
【0023】
また、この靴は、前記覆いの一端又は他端が、前記前側部分の前記後縁から前方1cm以上5cm以内の位置に縫着されている。このようにすれば、より確実にゴムバンド及び革の伸縮を制約することができるので、ゴムの伸びきりを防止できる。なお、1cm未満とすると、ゴムバンドの弾性が効かなくなる一方、5cmを越えるとゴムバンドの伸びきりを効果的に抑えることが難しい。したがって、この範囲は重要な要素である。
【0024】
また、この靴は、前記一対の片部を含む前記アッパーの表皮の内側に裏皮が設けられ、前記片部の裏皮と表皮との間に、前記ゴムバンドの端部が挟まれて縫着されている。ゴムバンドの伸縮機能を損ねることなく、ゴムバンドを隠すことができ、また縫製部分も隠すことができるので、見栄えが損なわれない。
【0025】
また、この靴は、前記覆いが、前記ゴムバンドに左右方向に複数のパーツに分断して縫着され、前記ゴムバンドが伸びていない状態で該ゴムバンドを覆うように構成されている。この態様は、前述した覆いとは別の態様であり、ゴムバンドに直接覆いを左右方向に分断して取り付ける。そして、ゴムバンドが伸びていない状態においてはゴムバンドが覆われるように構成され、脱ぎ履き時などにおいて、ゴムバンドが伸びると分断されたパーツの間から伸びたゴムが一時的に見える状態となる。
【0026】
また、この靴は、さらに、前記ゴムバンドの裏側を覆う第2の覆いを備え、前記第2の覆いは、幅が前記ゴムバンドの長さよりも大きく、一端が前記後側部分にゆとりをもって縫着され、他端が前記前側部分の後縁から前方1cm以上5cm以内の位置に縫着されている。このようにすれば、この第2の覆いによって、ゴムバンドの伸びを抑制するためのものであり、上記の複数のパーツに分断された覆いと組み合わせて用いることで、ゴムバンドを隠し、かつ、ゴムバンドの伸びきりを抑制することができる。
【0027】
また、この靴は、前記カウンターが、ホットメルトによるカウンターよりも硬度が高い材料からなる。このようにすれば、カウンターが従来用いられるものよりも硬度が高いことで、踵部分が靴を履く際に型崩れすることなく、簡単に履いたり脱いだりすることができる。また、歩行時の安定性も向上する。なお、発明者らがこれに到達したのは単なる設計変更などの素材の改変などでなく、上述の脱ぎ履きや歩行安定性の追求の末にようやく到達したものであり、これを達成する上で重要な要素である。
【0028】
また、この靴は、前記アッパーの踵部分の上縁に、クッション材が設けられている。このようにすれば、履く時に、踵の縁部が鋭角であると足が痛いところ、踵部の上縁がクッションの役割をして履きやすくなる。また、履いた後は脱げ防止の役割も一定程度果たすものである。
【発明の効果】
【0029】
以上のように構成された本発明は、デザイン性が損なわれることなく、脱ぎ履きがしやすく、歩行時も脱げづらく安定した靴となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施形態である靴を示す斜視図である。
図2】前記靴の後側部分の内側を示す斜視図である。
図3】前記靴の前側部分を示す斜視図である。
図4】前記靴のアッパーを、覆いを除いた状態で示す斜視図である。
図5】前記靴の前側部分の内側を示す斜視図である。
図6】本発明の一実施の形態である靴の変形例を示す斜視図である。
図7】本発明の一実施の形態である靴の変形例を示す斜視図である。
図8】本発明の一実施の形態である靴の変形例を示す斜視図である。
図9】本発明の別の実施形態である靴を示す斜視図である(ゴムバンドが閉じた状態)。
図10】本発明の別の実施形態である靴を示す斜視図である(ゴムバンドが伸びた状態)。
図11】本発明の更に別の実施形態である靴を示す斜視図である(ゴムバンドが閉じた状態)。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施の形態である靴を示す斜視図、図2は靴の後側部分の内側を示す斜視図、図3は靴の前側部分を示す斜視図、図4は靴のアッパーの覆いを除いた状態で示す斜視図である。
【0032】
図1図4に示すように、本発明に係る靴の実施の形態1である婦人靴1は、アッパー2の踵部分に、足の踵部分に対応する形状に成形されたヒールカウンター3(芯材)が設けられている。ヒールカウンター3には、一般にヒールカウンターに用いられるホットメルトのカウンター材料よりも硬度が高い硬質の材料が用いられている。
【0033】
また、本実施形態に用いるヒールカウンター3(厚さ:4.4mm 密度:0.81g/cm3)は、温度20℃、湿度65%の条件下で行った材質試験によれば、伸長率(JIS:K6550)が6~44%で横伸びがあり、中心に力を当て40°の角度で曲げた圧力である曲げ剛性(オルゼン型(40°))が、2300~5500kgf/cm2で、硬度が高い硬質の材料といえる。
【0034】
アッパー2は、表皮4と裏皮5との上縁部が互いに内部に折り込まれる状態で結合されている。踵部分においては、裏皮5に代えて、内面シート6がアッパー2の踵部分の中央を中心に左右対称に設けられている。なお、内面シート6は、裏皮5の上から貼り付けられていてもよい。また、踵部分では、内面シート6が履き口付近から下方に向かって延びるように設けられ、その左右両側部分が前方に向けて延びている。また、内面シート6の下縁部分は、中底の下側に折り込まれている。
【0035】
このアッパー2は、前側部分2Aと後側部分2Bとが結合されて構成されている。後側部分2Bは、右側部分2Baと左側部分2Bbとが後側において縫製により結合されてなり、その左右の端部付近に一対の片部2Bcが延在している(図4参照)。そして、前側部分2Aの後縁に、この後縁と後側部分2Bの左右側縁(片部2Bcの側縁)とで、後述する切り欠き部7を形成するように後側部分2Bが結合されている。
【0036】
また、図4に示すように、アッパー2の、履き口の前側部分に臨む部分に切り欠き部7が形成され、切り欠き部7に、足の甲部に対応する位置に設けられた左右方向に延びる帯状のゴムバンド10が掛け渡されている。また、このゴムバンド10を覆うように、矩形シート状の覆い9が取り付けられている。覆い9は、その両端が、切り欠き部7の下側で、アッパー2の前側部分2Aと後側部分2Bにそれぞれ縫製により固定されている。
【0037】
よって、靴1を履いた状態では、足の甲部が覆い9に接触し、この覆い9を挟んでゴムバンド10の弾性力によって足の甲部が、靴1が脱げないように押圧される。このゴムバンド10が設けられている部分は、靴紐と同様に、足部の土踏まずから甲までを包み込んで足部のバネを支える部分で、ゴムバンド10によって、アッパー2が足の甲部を包み込む強さが調整されるようになっている。
【0038】
覆い9の幅は、ゴムバンド10の長さよりも大きく、覆い9によって、ゴムバンド10が隠され、外観を損ねない。ゴムバンド10は、3.5cm~4.5cmの長さで、ゴムバンド10の上縁部分は、覆い9の上縁部分に接触又は隣接している。
【0039】
具体的には、この覆い9は、一定幅を有する帯状で、ゴムバンド10の表面側を覆う表側部分9aと、裏面側を覆う裏側部分9bと、それらの部分9a,9bが連接する連接部分9cとを有し、それらによってゴムバンド10を覆っている。
【0040】
また、覆い9は、ゴムバンド10の表面側を覆う表側部分9aと、裏面側を覆う裏側部分9bとが切り欠き部7より下方まで延びており、それぞれの下縁部分が縫製によりアッパー2を挟んで固定されることで、アッパー2に取り付けられている。また、覆い9は、ゴムバンド10の裏面側を覆う裏側部分9bの端部が前側部分2Aの裏側に縫着され、これに続く連接部分9cがゴムバンド10の上縁付近で折り曲げられ、表面側を覆う表側部分9aの端部前側部分2Aの表側に縫着されている。
【0041】
また、覆い9の表側部分9aの端部並びに裏側部分9bの端部が、前側部分2Aに縫着されている位置は、前側部分2Aの後縁から1cm~5cmの間の位置、本実施形態においては一例として後縁から焼く3cmの位置で縫着されている。
【0042】
この構成により、覆い9は、ゴムバンド10が左右方向に伸縮可能なるように、長手方向の端縁部が切り欠き部7の下側で、アッパー2の前側部分2Aに縫着されていて、かつ、上記の縫着位置によってゴムバンド10の伸びが抑制されることとなる。これにより、ゴムバンド10の伸びきりを抑制することでゴムバンド10がバカになることを防止し、また靴を履いた時に靴が脱げづらく歩行が安定することとなる。
【0043】
また、アッパー2の表皮4の内側に、切り欠き部7より後方に延びる裏皮5が設けられ、表皮4と裏皮5との間にゴムバンド10の端部が挟まれて、ゴムバンド10が縫製によってアッパー2に固定されている。
【0044】
そして、アッパー2の内側に、クッション性を有する内装材11が設けられ、この内装材11によって、覆い9の裏面側の縫製部分が被覆され(図5参照)、内装材11によって、靴を履いたときの違和感が緩和される。
【0045】
ヒールカウンター3は、硬質で、足の踵部に対応する形状に、足の踵部の丸みと同じ形に成形されているので、靴を履くときに足の踵によって押されても、靴の踵部分が型崩れすることがなく履きやすい。そして、ゴムバンド10を伸ばすように、足の甲部をアッパー2内の全部空間に押し込むように履いた場合も、ヒールカウンター3がしっかりと安定しているため、立った状態のままでも靴を履くことができる。
【0046】
また、婦人靴1を履いた状態で、足の踵が、靴の踵部分(ヒールカウンター3)にフィットし、ゴムバンド10が伸縮性を有するので(すなわち、履いた時に伸びたゴムバンド10が履いた状態で縮む方向に力がかかるので)、足の甲部が弾性的に押さえられる。
【0047】
これにより、ヒールカウンター3とゴムバンド10とによって、靴との一体感が維持される。よって、歩いていても靴1は脱げず、靴1が体の一部となって、履き手に違和感を感じさせない。それに加えて、ゴムバンド10をシート状の覆い9が覆っているので、歩行中に、足の踵部の上下動を規制し、この点からも靴が脱げにくくなる。
【0048】
よって、婦人靴1を履いている状態では、踵部分が足の踵部にフィットし、覆い9及びゴムバンド10が足の甲部にフィットして、足と靴の一体感が生じ、靴が脱げづらく安定した歩行が可能となる。
【0049】
また、婦人靴1を脱ぐ場合には、ヒールカウンター3が形状を維持し、変形しづらく、ゴムバンド10が伸縮するので、スムーズに婦人靴1を脱ぐことができる。なお、ゴムバンド10は、覆い9に覆われているので、通常の婦人靴と変わりない外観である。
【0050】
そして、ゴムバンド10を取り付ける切り欠き部7を、アッパー2の前側部分2Aと後側部分2Bとを結合する際に、その結合部分に形成するようにしているので、アッパー2自体の一部を切除して切り欠き部7を形成する場合に比べて、アッパー2の強度を低下させるおそれがない。
【0051】
また、後側部分2Bの左右両端部(一対の片部2Cの端部)に、ゴムバンド10を予め掛け渡して、環状に形成しておくことにより、前側部分2Aに後側部分2Bを接合することで、ゴムバンド10を有するアッパー2とすることができるので、製造工程を複雑にすることなく、製造することができる。
【0052】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。例えば、上記した実施形態では覆い9が網目状に形成されているが、これにかえて、表面がフラットな覆いとしてもよく、また覆い9の長さも短いものや長いものとしてもよい(図6,7,8参照)。
【0053】
また、図9に示すように、1枚のシート状の覆い9でゴムバンド10を覆う構成とせず、図9に示すように、複数のパーツによる覆い19で、ゴムバンド10を覆う構成としてもよい。この複数のパーツによる覆い19は、ゴムバンド10を上から覆う形で、ゴムバンド10に直接縫着されている。
【0054】
この各覆い19は、靴を履いていない状態において、隙間なく整列してゴムバンド10を覆ってゴムバンド10が隠れた状態となっている。一方、着用者が靴を履く時や脱ぐ時に、ゴムバンド10が伸びると、分断された各覆い19が離れてゴムバンド10が露出する構成となっている。そして、靴を履ききった状態では、ゴムバンド10の伸びが戻り、またゴムバンド10が覆い19により隠れた状態となる。
【0055】
また、この構成において、アッパー2の裏側で、ゴムバンド10を裏側から覆うシート状の覆い20が縫着されている。この覆い20は、略矩形のシート状であり、上端が後側部分2Bの右側部分2Baと左側部分2Bbの履口付近で、左右方向に少しのゆとりをもって縫着されている。また、覆い20の下端は、前側部分2Aの後縁から1cm~5cmの位置に縫着されている。なお、この覆い20は、矩形に限られず、台形状やその他の形状でもよい(図11参照)。
【0056】
以上の構成により、覆い19は、ゴムバンド10が左右方向に伸縮可能ながら、ゴムバンド10を隠し、デザイン性が損なわれない。これに加えて、裏側に取り付けられた覆い20により、ゴムバンド10の伸びが抑制される。また、覆い20の上端が左右方向にゆとりをもって縫着されているため、ゴムバンド10の伸びが完全には抑制されることもない。これらの構成により、ゴムバンド10の伸びきりを抑制することでゴムバンド10がバカになることを防止し、また靴を履いた時に靴が脱げづらく歩行も安定することとなる。
【符号の説明】
【0057】
1 婦人靴
2 アッパー
2A 前側部分
2B 後側部分
2Ba 右側部分
2Bb 左側部分
2Bc 片部
3 ヒールカウンター
4 表皮
5 裏皮
6 内面シート
7 切り欠き部
9 覆い
9a,9b,9c 部分
10 ゴムバンド
11 内装材
19 覆い
20 覆い
【要約】
【課題】デザイン性を損なうことなく、脱ぎ履きがしやすく歩行中も脱げにくい靴を提供する。
【解決手段】踵部分に硬いヒールカウンター3が設けられている婦人靴1である。履き口の前側部分に臨むアッパー2に切り欠き部7が形成され、この切り欠き部7に、左右方向に延びる帯状のゴムバンド10が掛け渡されている。ゴムバンド10は、足の甲部に対応し、表裏面側がシート状の覆い9によって覆われている。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11